(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-05
(45)【発行日】2022-10-14
(54)【発明の名称】ヒドロキシド交換膜およびヒドロキシド交換アイオノマーとしての使用のためのポリ(アリールピペリジニウム)ポリマー
(51)【国際特許分類】
C08G 10/00 20060101AFI20221006BHJP
H01M 8/1018 20160101ALI20221006BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20221006BHJP
H01M 8/106 20160101ALI20221006BHJP
H01M 8/1062 20160101ALI20221006BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20221006BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
C08G10/00
H01M8/1018
H01M8/10 101
H01M8/106
H01M8/1062
H01M4/86 B
H01B1/06 A
(21)【出願番号】P 2018550323
(86)(22)【出願日】2017-03-28
(86)【国際出願番号】 US2017024615
(87)【国際公開番号】W WO2017172824
(87)【国際公開日】2017-10-05
【審査請求日】2020-03-26
(32)【優先日】2016-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512226882
【氏名又は名称】ユニバーシティー オブ デラウェア
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,ユシャン
(72)【発明者】
【氏名】シュウ,ビンジュン
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ジュンファ
(72)【発明者】
【氏名】チャオ,ユン
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104829814(CN,A)
【文献】特開2012-049111(JP,A)
【文献】特開2012-033367(JP,A)
【文献】国際公開第2010/055889(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 4/00-16/06
H01M 4/86-4/98、8/00-8/0297、
8/08-8/2495
H01B 1/00-1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)式:
【化1】
を有するピペリドンモノマー、または式:
【化2】
を有する3-オキソ-6-アゾニアスピロ[5.5]ウンデカン塩モノマー;
(ii)式:
【化3】
を有する芳香族モノマー;および
(iii)任意選択で、式:
【化4】
を有するトリフルオロアセトフェノンモノマー;
を含む重合混合物の反応生成物を含むポリマーであって、式中、
R
1は、アルキル、アルケニルまたはアルキニルであり、任意選択で前記アルキル、アルケニルまたはアルキニルはフルオライドで置換されていてもよく;
R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9、R
10、R
11、R
12、R
13、R
14、R
15、およびR
16は、それぞれ独立的に、水素、アルキル、アルケニルまたはアルキニルであり、任意選択で前記アルキル、アルケニルまたはアルキニルはフルオライドで置換されていてもよく;
nは0、1、2または3であり;
X
-はアニオンであり;
以下の特徴を有する、ポリマー。
前記重合混合物が(i)式(2)を有する前記3-オキソ-6-アゾニアスピロ[5.5]ウンデカン塩モノマーを含む場合、前記重合混合物はさらに(iii)前記トリフルオロアセトフェノンモノマーを含む。
【請求項2】
前記重合混合物が前記トリフルオロアセトフェンモノマーを含む、請求項1に記載のポリマー。
【請求項3】
アルキル化剤と、前記ピペリドンモノマーを含む重合混合物の反応生成物を含む請求項1または2に記載のポリマーと、の反応生成物を含む、ポリマー。
【請求項4】
塩基と、請求項3のポリマーまたは前記3-オキソ-6-アゾニアスピロ[5.5]ウンデカン塩を含む重合混合物の反応生成物を含む請求項1または2に記載のポリマーのいずれかと、の反応生成物を含む、ポリマー。
【請求項5】
前記ピペリドンモノマーがN-メチル-4-ピペリドンを含み;前記3-オキソ-6-アゾニアスピロ[5.5]ウンデカン塩モノマーが3-オキソ-6-アゾニアスピロ[5.5]ウンデカンヨーダイドを含み;前記2,2,2-トリフルオロアセトフェノンモノマーが2,2,2-トリフルオロアセトフェノンを含み;前記芳香族モノマーがビフェニル、パラ-テルフェニル、パラ-クアテルフェニルまたはベンゼンを含む、または
R
1がアルキルであり;R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9、R
10、R
11、R
12、R
13、R
14、R
15、およびR
16が、それぞれ独立的に、水素、あるいは任意選択でフルオライドで置換されていてもよいアルキルである、または、
R
1がメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチルまたはヘキシルであり;R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9、R
10、R
11、R
12、R
13、R
14、R
15、およびR
16が、それぞれ独立的に、水素、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチルまたはヘキシルであるか、あるいは任意選択でフルオライドで置換されていてもよいメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチルまたはヘキシルである、
請求項1~4のいずれか一項のポリマー。
【請求項6】
前記塩基がヒドロキシド含有塩基を含む、請求項4または5に記載のポリマー。
【請求項7】
前記ヒドロキシド含有塩基が水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムを含む、請求項6のポリマー。
【請求項8】
式1Aまたは2A、3A、および4A、の構造単位を含むアニオン交換ポリマーであって、前記ポリマーを形成するための重合反応で使用されるモノマーの量から計算された前記ポリマー中の式1Aまたは2Aおよび式4Aの構造単位のモル分率の合計が式3Aのモル分率と等しく、前記重合反応で使用されるモノマーの量から計算された式3Aの構造単位に対する式1Aまたは2Aの構造単位のモル比が0.01~1であり、式1A、2A、3Aおよび4Aの構造単位が、構造:
【化5】
を有し、式中、
R
10は、それぞれ独立的に、アルキル、アルケニルまたはアルキニルであり、任意選択で前記アルキル、アルケニルまたはアルキニルはフルオライドで置換されていてもよく;
R
20、R
30、R
40、R
50、R
60、R
70、R
80、R
90、R
100、R
120、R
130、R
150、およびR
160は、それぞれ独立的に、水素、アルキル、アルケニルまたはアルキニルであり、任意選択で前記アルキル、アルケニルまたはアルキニルはフルオライドで置換されていてもよく;
nは0、1、2または3であり;
X
-はアニオンである
、アニオン交換ポリマー。
【請求項9】
前記X
-がハロゲンイオン、BF
4
-、またはPF
6
-であることを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載のポリマー。
【請求項10】
95℃の純水に浸された場合に前記ポリマーの乾燥重量に基づいて60%以下の水取り込みを有するか、または少なくとも100mS/cmという95℃の純水中でのヒドロキシド伝導度を有する、ヒドロキシド交換ポリマーであるか;または
前記ポリマーが、ヒドロキシド交換膜燃料電池のヒドロキシド交換膜として使用され、且つ前記燃料電池のカソードとアノードの触媒層中にヒドロキシド交換アイオノマーとして20%で充填され、前記燃料電池が、50% Pt/C触媒および0.4mg Pt/cm
2の触媒充填を有し、試験条件が、0.6L/分の水素と酸素の流速、0.1MPa
gの背圧、ならびにそれぞれ95℃および98℃のアノード加湿器およびカソード加湿器である場合に、少なくとも350mW/cm
2というピーク電力密度を有するか、あるいは
前記ポリマーが、ヒドロキシド交換膜燃料電池のヒドロキシド交換膜として使用され、且つ前記燃料電池のカソードとアノードの触媒層中にヒドロキシド交換アイオノマーとして20%で充填され、前記燃料電池が、50% Pt/C触媒および0.4mg Pt/cm
2の触媒充填を有し、試験条件が、400mA/cm
2の定電流密度、0.2L/分の水素と酸素の流速、0.05MPa
gの背圧、ならびにそれぞれ95℃および98℃のアノード加湿器およびカソード加湿器である場合に、5.5時間の稼働で電圧低下が20%以下であり、5.5時間の稼働で抵抗増加が20%以下である、
請求項1、2、8および9のいずれか一項に記載のポリマー。
【請求項11】
前記ピペリドンモノマーと、任意選択で前記2,2,2-トリフルオロアセトフェノンモノマーと、前記芳香族モノマーを有機溶媒中で溶解させ、かつ重合触媒の存在下で-78℃~0℃の温度範囲で維持して反応させ、ピペリジン官能化中間体ポリマーを形成すること;
有機溶媒の存在下で前記ピペリジン官能化中間体ポリマーをアルキル化してピペリジニウム官能化中間体ポリマーを形成すること;および
前記ピペリジニウム官能化中間体ポリマーを塩基と反応させて前記ポリマーを形成すること、を含む、
請求項4~7または9のいずれか一項に記載のポリマーを作製する方法。
【請求項12】
前記ピペリドンモノマーと、任意選択で前記2,2,2-トリフルオロアセトフェノンモノマーと、前記芳香族モノマーを有機溶媒中で溶解させ、かつ重合触媒の存在下で-78℃~0℃の温度範囲で維持して反応させ、ピペリジン官能化中間体ポリマーを形成すること;
有機溶媒の存在下で前記ピペリジン官能化中間体ポリマーをアルキル化剤と反応させてピペリジニウム官能化中間体ポリマーを形成すること;
溶媒に前記ピペリジニウム官能化中間体ポリマーを溶解させてポリマー溶液を形成すること;
前記ポリマー溶液を流延してポリマー膜を形成すること;および
前記ポリマー膜のアニオンをヒドロキシドイオンと交換して前記ヒドロキシド交換ポリマー膜を形成すること、
を含む、請求項6のポリマーを含むヒドロキシド交換ポリマー膜を作製する方法。
【請求項13】
燃料電池、電気分解装置、電気透析装置、太陽光を利用した水素発生装置、フローバッテリー、脱塩装置、センサー、水脱塩装置、浄水器、廃水処理システム、またはイオン交換器、における使用に好適であるように任意選択で構成およびサイズ決めされたアニオン交換膜であって、請求項4~10のいずれか一項のポリマーを含む、アニオン交換膜。
【請求項14】
燃料電池、電気分解装置、電気透析装置、太陽光を利用した水素発生装置、フローバッテリー、脱塩装置、センサー、水脱塩装置、浄水器、廃水処理システム、またはイオン交換器、における使用に好適であるように任意選択で構成およびサイズ決めされた強化電解質膜であって、請求項4~10のいずれか一項のポリマーで含浸された多孔性基材を含む、強化電解質膜。
【請求項15】
請求項4~10のいずれか一項のポリマー、請求項13の前記アニオン交換膜または請求項14の前記強化電解質膜を備える、燃料電池、電気分解装置、電気透析装置、太陽光を利用した水素発生装置、フローバッテリー、脱塩装置、センサー、水脱塩装置、浄水器、廃水処理システム、またはイオン交換器。
【請求項16】
前記多孔性基材が、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンまたはポリ(エーテル)ケトンを含む膜を含み、前記膜が、任意選択で寸法安定性のある膜であってもよく;
前記多孔性基材が、ポリマーフィブリルの多孔質微細構造を有するか;
前記多孔性基材の内部容積が、前記ポリマーでの含浸によって閉塞されているか;
前記多孔性基材が、フィブリルによって相互接続された節の微細構造を含むか;または
前記多孔性基材が、1ミクロン~30ミクロンの厚さを有する、
請求項14に記載の膜。
【請求項17】
前記膜が、前記基材を前記ポリマーで複数回含浸することによって調製されるか;あるいは
前記膜が、
前記多孔性基材を液体中で湿らせて湿った基材を形成すること、
前記ポリマーを溶媒に溶解させて均一な溶液を形成すること、
前記湿った基材上に前記溶液を適用して強化膜を形成すること、および
前記膜を乾燥させること、
によって調製する;
請求項14に記載の膜の製法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府のライセンスの権利
本発明は、米国エネルギー省のエネルギー効率・再生可能エネルギー部によって付与された助成金DE-EE0006964による政府の支援によって部分的になされた。政府は、本発明に一定の権利を有する。
【0002】
発明の分野
本発明は一般に、アニオン交換膜燃料電池(AEMFC)における使用のためのアニオン交換膜(AEM)およびアニオン交換アイオノマー(AEI)を形成することが可能であるアニオン交換ポリマーに関する。より具体的には、ヒドロキシド交換膜燃料電池(HEMFC)における使用のためのヒドロキシド交換膜(HEM)およびヒドロキシド交換アイオノマー(HEI)を形成することが可能であるヒドロキシド交換ポリマーが提供される。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
プロトン交換膜燃料電池(PEMFC)は、クリーンかつ効率的な電源であると考えられている。Steele et al., Nature 2001, 414, 345。しかし、触媒のコストの高さおよび不十分な耐久性が、PEMFCの大規模商業化に対する主な障壁である。Borup et al., N.Chem Rev 2007, 107, 3904。ポリマー電解質を「酸性」条件から「塩基性」条件に切り替えることによって、HEMFCは非貴金属触媒で機能することができ、触媒の耐久性が高くなると期待される。金属バイポーラプレートなど、より安価な他の燃料電池の構成要素も可能である。Varcoe, et al., Fuel Cells 2005, 5, 187;Gu et al., Angew Chem Int Edit 2009, 48, 6499;Gu et al., Chem Commun 2013, 49, 131。しかし、現在利用可能なHEMおよびHEIは、低いアルカリ安定性/化学的安定性、低いヒドロキシド伝導度、高い水取り込み、および(特に湿潤・乾燥サイクルの後の)乾燥条件下での低い機械的完全性を示す。
【0004】
現在のHEM/HEIの最大の課題は、(例えば、求核性のヒドロキシドイオンの存在下における)80℃以上(理想的には95℃以上)の所望の動作温度での高い化学的安定性を達成することである。Varcoe et al., Energ Environ Sci 2014, 7, 3135。最も一般的に遭遇するカチオン性官能基(例えば、ベンジルトリメチルアンモニウムおよびアルキル鎖アンモニウム)は、直接的求核置換およびホフマン脱離によるヒドロキシドイオン求核試薬の存在下でのいくつかの分解プロセスを経る可能性がある。さらに、HEM/HEI用途のための大半の基本ポリマー(例えば、ポリスルホンおよびポリ(フェニレンオキシド))のポリマー骨格は必然的に、その骨格に沿ってエーテル結合を含み、これが、高pH条件下でHEM/HEIを潜在的に不安定にする。Lee et al., Acs Macro Lett 2015, 4, 453;Lee et al., Acs Macro Lett 2015, 4, 814。求核性の強いヒドロキシドイオンは、これらの弱い結合を攻撃し、ポリマー骨格を分解する。従って、HEM/HEIの化学的安定性を向上させるために、代替となるカチオン性基、有機テザーおよびポリマー骨格が必要である。
【0005】
現在のHEM/HEIに関するもう一つの懸念は、それらのヒドロキシド伝導度である。ナフィオンと比較して、HEMは、同様の条件下で本質的に低いイオン伝導度を有するが、これは、OH-の移動度がH+の移動度よりも低いためである。Hibbs et al., Chem Mater 2008, 20, 2566。HEM/HEIが、より大きなヒドロキシド伝導度を達成するためには、より大きなイオン交換容量(IEC)が必要である。しかし、高いIECは通常、高い水取り込み(すなわち、高い膨潤比)を有する膜をもたらし、(特に、繰り返される湿潤・乾燥サイクルの後に)膜の形状安定性と機械的強度を低下させる。この湿潤時の高度に膨潤した状態が、乾燥時のHEMの低下した柔軟性と脆性の主な理由である。高いヒドロキシド伝導度と低い水取り込みとの間のトレードオフの除外は、高性能のHEM/HEIの設計において大きな妨げとなっている。Pan et al., Energ Environ Sci 2013, 6, 2912。許容されるヒドロキシド伝導度を維持しながら水取り込みを低下させるために、化学的架橋、物理的強化、側鎖重合、およびブロックコポリマー構造が試みられているが、これらの技術は、困難な課題(例えば、機械的柔軟性の低下、アルカリ安定性の低下、および/またはコストの増加)をもたらす。Gu et al., Chem Commun 2011, 47, 2856;Park et al., Electrochem Solid St 2012, 15, B27;Wang et al., Chemsuschem 2015, 8, 4229;Ran et al., Sci Rep-Uk 2014, 4;Tanaka et al., J Am Chem Soc 2011, 133, 10646。さらに、ほぼ全ての側鎖HEMまたはブロックコポリマーHEMは、利用可能な合成法が限られているために、柔軟な脂肪族ポリマー鎖に基づいている。結果として、それらの膜は依然として、高いIECおよび高温において形状安定性(低い膨潤比)をもたらすことができない。Wang et al., Chemsuschem 2015, 8, 4229;Ran et al., Sci Rep-Uk 2014, 4;Marino et al., Chemsuschem 2015, 8, 513;Li et al, M.Macromolecules 2015, 48, 6523。
【0006】
HEMを使用する上でのさらなる障害は、周囲の乾燥状態における機械的柔軟性および強度の達成である。大半のHEMは、低い機械的強度を示し、(特に、完全に膨潤した後の)完全に乾燥した状態では非常に脆い。HEMの商業的利用に必要とされる程に大きなサイズの薄い膜を得ること、およびそれを取り扱うことは困難である。良好な機械的性質がなければ、アイオノマーは、高温(80℃以上など)で、燃料電池の電極において適切な三相構造を形成および維持できない。Li et al., J Am Chem Soc 2013, 135, 10124。
【0007】
HEIの別の非常に望ましい特徴は、HEIを電極の触媒層に容易に組み込むことができるが水またはアルコールによってHEIが溶け出さないように、ポリマーが、低沸点アルコールと水との混合物に可溶性であるが純粋なアルコールまたは水には不溶性であるということである。
【発明の概要】
【0008】
(i)式:
【化1】
を有するピペリドンモノマー、または式:
【化2】
を有する3-オキソ-6-アゾニアスピロ[5.5]ウンデカン塩モノマー;
(ii)式:
【化3】
を有する芳香族モノマー;および
(iii)任意選択で、式:
【化4】
を有するトリフルオロアセトフェノンモノマー;
を含む重合混合物の反応生成物を含むポリマーであって、式中、
R
1は、アルキル、アルケニルまたはアルキニルであり、任意選択でアルキル、アルケニルまたはアルキニルはフルオライドで置換されていてもよく;
R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9、R
10、R
11、R
12、R
13、R
14、R
15、およびR
16は、それぞれ独立的に、水素、アルキル、アルケニルまたはアルキニルであり、任意選択でアルキル、アルケニルまたはアルキニルはフルオライドで置換されていてもよく;
nは0、1、2または3であり;
X
-はアニオンである、
ポリマーが提供される。
【0009】
アルキル化剤と、ピペリドンモノマーを含む重合混合物の反応生成物を含む上述されるようなポリマーと、の反応生成物を含む別のポリマーが提供される。
【0010】
塩基と、上述されるようなポリマーまたは3-オキソ-6-アゾニアスピロ[5.5]ウンデカン塩を含む重合混合物の反応生成物を含むポリマーのいずれかと、の反応生成物を含むさらに別のポリマーが提供される。
【0011】
式1Aまたは2A、3A、および任意選択で4A、の構造単位を含むアニオン交換ポリマーであって、ポリマーを形成するための重合反応で使用されるモノマーの量から計算されたポリマー中の式1Aまたは2Aおよび式4Aの構造単位のモル分率の合計が式3Aのモル分率と等しく、重合反応で使用されるモノマーの量から計算された式3Aの構造単位に対する式1Aまたは2Aの構造単位のモル比が0.01~1であり、式1A、2A、3Aおよび4Aの構造単位が、構造:
【化5】
を有し、式中、
R
10は、それぞれ独立的に、アルキル、アルケニルまたはアルキニルであり、任意選択でアルキル、アルケニルまたはアルキニルはフルオライドで置換されていてもよく;
R
20、R
30、R
40、R
50、R
60、R
70、R
80、R
90、R
100、R
120、R
130、R
150、およびR
160は、それぞれ独立的に、水素、アルキル、アルケニルまたはアルキニルであり、任意選択でアルキル、アルケニルまたはアルキニルはフルオライドで置換されていてもよく;
nは0、1、2または3であり;
X
-はアニオンである、
アニオン交換ポリマーも提供される。
【0012】
エーテル結合を含まないポリ(アリールピペリジニウム)骨格を含むヒドロキシド交換ポリマーであって、95℃の純水に浸された場合にポリマーの乾燥重量に基づいて60%以下の水取り込みを有するか、または少なくとも100mS/cmという95℃の純水中でのヒドロキシド伝導度を有する、ヒドロキシド交換ポリマーが提供される。
【0013】
エーテル結合を含まないポリ(アリールピペリジニウム)骨格を含む別のヒドロキシド交換ポリマーであって、
ポリマーが、HEMFCのHEMおよびHEIとして使用され、且つ燃料電池のカソードとアノードの触媒層中にヒドロキシド交換アイオノマーとして20%で充填され、燃料電池が、50% Pt/C触媒および0.4mg Pt/cm2の触媒充填を有し、試験条件が、0.6L/分の水素と酸素の流速、0.1MPagの背圧、ならびにそれぞれ95℃および98℃のアノード加湿器およびカソード加湿器である場合に、少なくとも350mW/cm2というピーク電力密度を有するか、あるいは
ポリマーが、HEMFCのHEM/HEIとして使用され、且つ燃料電池のカソードとアノードの触媒層中にヒドロキシド交換アイオノマーとして20%で充填され、燃料電池が、50% Pt/C触媒および0.4mg Pt/cm2の触媒充填を有し、試験条件が、400mA/cm2の定電流密度、0.2L/分の水素と酸素の流速、0.05MPagの背圧、ならびにそれぞれ95℃および98℃のアノード加湿器およびカソード加湿器である場合に、5.5時間の稼働で電圧低下が20%以下であり、5.5時間の稼働で抵抗増加が20%以下である、
ヒドロキシド交換ポリマーが提供される。
【0014】
上述されるようなポリマーを作製する方法が提供され、この方法は、有機溶媒および重合触媒の存在下でピペリドンモノマーと、任意選択で2,2,2-トリフルオロアセトフェノンモノマーと、芳香族モノマーと、を反応させてピペリジン官能化中間体ポリマーを形成すること;有機溶媒の存在下でピペリジン官能化中間体ポリマーをアルキル化してピペリジニウム官能化中間体ポリマーを形成すること;およびピペリジニウム官能化中間体ポリマーを塩基と反応させてポリマーを形成すること、を含む。
【0015】
上述されるようなヒドロキシド交換ポリマーを含むヒドロキシド交換ポリマー膜を作製する方法も提供され、この方法は、有機溶媒および重合触媒の存在下でピペリドンモノマーと、任意選択で2,2,2-トリフルオロアセトフェノンモノマーと、芳香族モノマーと、を反応させてピペリジン官能化中間体ポリマーを形成すること;有機溶媒の存在下でピペリジン官能化中間体ポリマーをアルキル化剤と反応させてピペリジニウム官能化中間体ポリマーを形成すること;溶媒にピペリジニウム官能化中間体ポリマーを溶解させてポリマー溶液を形成すること;ポリマー溶液を流延してポリマー膜を形成すること;およびポリマー膜のアニオンをヒドロキシドイオンと交換してヒドロキシド交換ポリマー膜を形成すること、を含む。
【0016】
燃料電池における使用に好適であるように構成およびサイズ決めされているアニオン交換膜であって、上述されるようなポリマーを含む、アニオン交換膜が提供される。
【0017】
上述されるようなポリマーを含む、アニオン交換膜燃料電池が提供される。
【0018】
他の目的および特徴は、部分的に明らかであり、部分的に以下で指摘される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、例示的なヒドロキシド交換膜燃料電池を図示する。
【
図2】
図2は、ピペリジン官能化ポリマーの
1H NMRスペクトルを示す。
【
図3】
図3は、ピペリジニウム官能化ポリマー(PAP-1-60)の
1H NMRスペクトルを示す。
【
図4】
図4は、100℃の1M KOH溶液中での安定性試験の前(a)および後(b)のピペリジニウム官能化ポリマーPAP-1-60の
1H NMRスペクトルを示す。
【
図5】
図5は、温度の関数としての、ピペリジニウム官能化ポリマーPAP-1-50、PAP-1-60およびPAP-1-70についての、ならびにPSFQNについての、ヒドロキシド伝導度のグラフである。
【
図6】
図6は、温度の関数としての、ピペリジニウム官能化ポリマーPAP-1-50、PAP-1-60およびPAP-1-70についての、ならびにPSFQNについての、水取り込みのグラフである。
【
図7】
図7は、ピペリジニウム官能化ポリマーPAP-1-60およびPAP-1-70についての、伸長の関数としての引張応力を示すグラフである。
【
図8】
図8は、95℃におけるHEMFCの分極(電流密度の関数としての電圧)と電力密度(電流密度の関数としての電力密度)の曲線を図示する。材料:PAP-1-60膜、20%のPAP-1-70というアイオノマー充填、0.4mg Pt/cm
2 TKK 50% Pt/Cという触媒充填。試験条件:それぞれ95℃および98℃のアノード加湿器およびカソード加湿器、0.6L/分のH
2とO
2の流速、および0.1MPa
gの背圧。
【
図9】
図9は、95℃におけるHEMFCについての、時間の関数としての電圧および時間の関数としての抵抗(寿命試験)を示す。材料:PAP-1-60膜、20%のPAP-1-70というアイオノマー充填、0.4mg Pt/cm
2 TKK 50% Pt/Cという触媒充填。試験条件:400mA/cm
2の定電流密度、それぞれ95℃および98℃のアノード加湿器およびカソード加湿器、0.2L/分のH
2とO
2の流速、および0.05MPa
gの背圧。
【
図10】
図10は、PAP-2-75の作製において使用されるピペリジン官能化ポリマーの
1H NMRスペクトルを示す。
【
図11】
図11は、ピペリジニウム官能化ポリマーPAP-2-75の
1H NMRスペクトルを示す。
【
図12】
図12は、ピペリジニウム官能化ポリマーPAP-2-75、PAP-2-80およびPAP-2-85についての、温度の関数としてのヒドロキシド伝導度を示す。
【
図13】
図13は、ピペリジニウム官能化ポリマーPAP-2-75、PAP-2-80およびPAP-2-85についての、温度の関数としての水取り込みを示す。
【0020】
対応する参照符号は、全ての図面にわたって、対応する部分を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
好ましい実施形態の説明
【0022】
改善された化学的安定性、伝導度、水取り込み、機械的性質、およびHEM/HEIの性能に関連する他の特性を同時に提供する、固有のヒドロキシド伝導チャネルを有するポリ(アリールピペリジニウム)ポリマーから形成されたHEM/HEIが見出された。ポリ(アリールピペリジニウム)ポリマーは、エーテル結合を含まない強固な芳香族ポリマー骨格に導入されたアルカリ安定性のカチオンであるピペリジニウムを有する。これらのポリマーから形成されたHEM/HEIは、従来のHEM/HEIと比較して、優れた化学的安定性、ヒドロキシド伝導度、水取り込みの低下、選択された溶媒における良好な溶解性、および周囲の乾燥状態における機械的性質の改善を示す。本発明のHEMFCは、比較的高い温度において性能と耐久性の向上を示す。
【0023】
(i)ピペリドンモノマーまたは3-オキソ-6-アゾニアスピロ[5.5]ウンデカン塩モノマーのいずれか、(ii)芳香族モノマー、および(iii)任意選択で、トリフルオロアセトフェノンモノマー、を含む重合混合物の反応生成物を含むポリマーが提供される。このポリマーは、本明細書では、ピペリジン官能化ポリマーと呼称される。
【0024】
ピペリドンモノマーは、式:
【化6】
を有し、式中、R
1は、アルキル、アルケニルまたはアルキニルであり、任意選択でアルキル、アルケニルまたはアルキニルはフルオライドで置換されていてもよい。好ましくは、R
1は、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチルまたはヘキシルなどのアルキルである。好ましくは、ピペリドンモノマーは、N-メチル-4-ピペリドンを含む。
【0025】
3-オキソ-6-アゾニアスピロ[5.5]ウンデカン塩モノマーは、式:
【化7】
を有し、式中、X
-はアニオンである。好ましくは、X
-は、クロライド、フルオライド、ブロマイドもしくはヨーダイドなどのハライド、BF
4
-またはPF
6
-である。好ましくは、3-オキソ-6-アゾニアスピロ[5.5]ウンデカン塩モノマーは、3-オキソ-6-アゾニアスピロ[5.5]ウンデカンヨーダイドを含む。
【0026】
芳香族モノマーは、式:
【化8】
を有し、式中、R
7、R
8、R
9、R
10、R
11、R
12、R
13、R
14、R
15、およびR
16は、それぞれ独立的に、水素、アルキル、アルケニルまたはアルキニルであり、任意選択でアルキル、アルケニルまたはアルキニルはフルオライドで置換されていてもよく;nは0、1、2または3である。好ましくは、R
7、R
8、R
9、R
10、R
11、R
12、R
13、R
14、R
15、およびR
16は、それぞれ独立的に、水素、あるいは任意選択でフルオライドで置換されていてもよいアルキル(メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチルもしくはヘキシル、またはフルオライドで置換されたメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチルもしくはヘキシルなど)である。好ましくは、芳香族モノマーは、ビフェニル、パラ-テルフェニル、パラ-クアテルフェニルまたはベンゼンを含む。
【0027】
トリフルオロアセトフェノンモノマーは、式:
【化9】
を有し、式中、R
2、R
3、R
4、R
5、およびR
6は、それぞれ独立的に、水素、アルキル、アルケニルまたはアルキニルであり、任意選択でアルキル、アルケニルまたはアルキニルはフルオライドで置換されていてもよい。好ましくは、R
2、R
3、R
4、R
5、およびR
6は、それぞれ独立的に、水素、あるいは任意選択でフルオライドで置換されていてもよいアルキル(メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチルもしくはヘキシル、または任意選択でフルオライドで置換されていてもよいメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチルもしくはヘキシルなど)である。好ましくは、2,2,2-トリフルオロアセトフェノンモノマーは、2,2,2-トリフルオロアセトフェノンを含む。
【0028】
アルキル化剤と、ピペリドンモノマーを含む重合混合物の反応生成物を含むポリマーと、の反応生成物を含むポリマーも提供される。このポリマーは、本明細書では、ピペリジニウム官能化ポリマーと呼称される。
【0029】
塩基と、ピペリジニウム官能化ポリマーとの、または3-オキソ-6-アゾニアスピロ[5.5]ウンデカン塩を含む重合混合物の反応生成物を含むピペリジン官能化ポリマーとの、反応生成物を含む別のポリマーが提供される。このポリマーは、本明細書では、ポリ(アリールピペリジニウム)ポリマーと呼称される。
【0030】
好ましくは、塩基は、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムなどのヒドロキシド含有塩基を含む。
【0031】
ポリ(アリールピペリジニウム)ポリマーはまた、式1Aまたは2A、3A、および任意選択で4A、の構造単位を含むアニオン交換ポリマーであってもよく、ここで、ポリマーを形成するための重合反応で使用されるモノマーの量から計算されたポリマー中の式1Aまたは2Aおよび式4Aの構造単位のモル分率の合計は式3Aのモル分率と等しく、重合反応で使用されるモノマーの量から計算された式3Aの構造単位に対する式1Aまたは2Aの構造単位のモル比は0.01~1である。式1A、2A、3Aおよび4Aの構造単位は、構造:
【化10】
を有し、式中、R
10は、それぞれ独立的に、アルキル、アルケニルまたはアルキニルであり、任意選択でアルキル、アルケニルまたはアルキニルはフルオライドで置換されていてもよく;R
20、R
30、R
40、R
50、R
60、R
70、R
80、R
90、R
100、R
120、R
130、R
150、およびR
160は、それぞれ独立的に、水素、アルキル、アルケニルまたはアルキニルであり、任意選択でアルキル、アルケニルまたはアルキニルはフルオライドで置換されていてもよく;nは0、1、2または3であり;X
-は、ヒドロキシドなどのアニオンである。
【0032】
ポリ(アリールピペリジニウム)ポリマーは、エーテル結合を含まないポリ(アリールピペリジニウム)骨格を含むヒドロキシド交換ポリマーであって、95℃の純水に浸された場合にポリマーの乾燥重量に基づいて60%以下の水取り込みを有するか、または少なくとも100mS/cmという95℃の純水中でのヒドロキシド伝導度を有する、ヒドロキシド交換ポリマーであってよい。また、このポリマーは、100℃の1M水酸化カリウムに2000時間浸された場合に(その1H NMRスペクトル上のピーク位置に変化がないことによって証明されるように)分解に対して安定であってよい;100℃において純水およびイソプロパノールに不溶であってよいが、100℃において水とイソプロパノールの50/50(重量)混合物に可溶である;ならびに、少なくとも100MPaの引張強度および少なくとも7%の破断点伸びを有する。
【0033】
ポリ(アリールピペリジニウム)ポリマーは、エーテル結合を含まないポリ(アリールピペリジニウム)骨格を含むヒドロキシド交換ポリマーであって、
ポリマーが、ヒドロキシド交換膜燃料電池のヒドロキシド交換膜として使用され、且つ燃料電池のカソードとアノードの触媒層中にヒドロキシド交換アイオノマーとして20%で充填され、燃料電池が、50% Pt/C触媒および0.4mg Pt/cm2の触媒充填を有し、試験条件が、0.6L/分の水素と酸素の流速、0.1MPagの背圧、ならびにそれぞれ95℃および98℃のアノード加湿器およびカソード加湿器である場合に、少なくとも350mW/cm2というピーク電力密度を有するか、あるいは
ポリマーが、ヒドロキシド交換膜燃料電池のヒドロキシド交換膜として使用され、且つ燃料電池のカソードとアノードの触媒層中にヒドロキシド交換アイオノマーとして20%で充填され、燃料電池が、50% Pt/C触媒および0.4mg Pt/cm2の触媒充填を有し、試験条件が、400mA/cm2の定電流密度、0.2L/分の水素と酸素の流速、0.05MPagの背圧、ならびにそれぞれ95℃および98℃のアノード加湿器およびカソード加湿器である場合に、5.5時間の稼働で電圧低下が20%以下であり、5.5時間の稼働で抵抗増加が20%以下である、
ヒドロキシド交換ポリマーであってよい。
【0034】
好ましくは、エーテル結合を含まないポリ(アリールピペリジニウム)骨格のアリールの連結は、p-フェニルを含み、ピペリジニウムの連結は、ヒドロキシドアニオンを含む。
【0035】
ポリ(アリールピペリジニウム)骨格のアリールの連結は、例えば、ビフェニル、パラ-テルフェニル、パラ-クアテルフェニルまたはベンゼンのモノマーに由来してよい。
【0036】
ポリ(アリールピペリジニウム)骨格のピペリジニウムの連結は、N,N-ジメチル-4-ピペリジニウムまたは3-オキソ-6-アゾニアスピロ[5.5]ウンデカン塩のモノマーに由来する。
【0037】
ポリ(アリールピペリジニウム)ポリマー骨格は、2,2,2-トリフルオロアセトフェノンモノマーに由来する2,2,2-トリフルオロエチルベンゼンの連結をさらに含んでよい。
【0038】
ピペリジン官能化ポリマーは、有機溶媒および重合触媒の存在下でピペリドンモノマーと、任意選択で2,2,2-トリフルオロアセトフェノンモノマーと、芳香族モノマーと、を反応させることを含む方法によって調製できる。
【0039】
ピペリジニウム官能化ポリマーは、有機溶媒の存在下でピペリジン官能化ポリマーをアルキル化することを含む方法によって調製できる。
【0040】
ポリ(アリールピペリジニウム)ポリマーは、有機溶媒および重合触媒の存在下でピペリドンモノマーと、任意選択で2,2,2-トリフルオロアセトフェノンモノマーと、芳香族モノマーと、を反応させてピペリジン官能化中間体ポリマーを形成すること;有機溶媒の存在下でピペリジン官能化中間体ポリマーをアルキル化してピペリジニウム官能化中間体ポリマーを形成すること;およびピペリジニウム官能化中間体ポリマーを塩基と反応させてポリ(アリールピペリジニウム)ポリマーを形成すること;を含む方法によって調製できる。
【0041】
例えば、ピペリドンモノマー(N-メチル-4-ピペリドンなど)と、任意選択で2,2,2-トリフルオロアセトフェノンモノマー(2,2,2-トリフルオロアセトフェノンなど)と、芳香族モノマー(ベンゼン、ビフェニル、p-テルフェニルまたはp-クアテルフェニルなど)と、を攪拌容器に入れて有機溶媒に溶解させてよい。次いで、溶媒中の重合触媒を-78~60℃で最大60分かけて滴下してよい。その後、この温度で約1~約120時間、反応を継続させる。得られた溶液をエタノールの水溶液にゆっくりと注ぐ。得られた固体を濾過し、水で洗浄し、室温で約1~48時間、1MのK2CO3に浸す。最後に、生成物を濾過し、水で洗浄し、真空下で完全に乾燥させてピペリジン官能化中間体ポリマーを形成させる。
【0042】
次に、ピペリジン官能化ポリマーを攪拌容器中の有機溶媒に溶解させる。アルキル化剤を迅速に添加する。この溶液を0~100℃で約1~48時間にわたって撹拌する。得られた溶液をエーテル中に滴下する。得られた固体を濾過し、エーテルで洗浄し、完全に乾燥させてピペリジニウム官能化ポリマーを形成させる。
【0043】
次いで、ピペリジニウム官能化ポリマーを約20~100℃で約12~48時間、(例えば、ヒドロキシド交換のために1MのKOH中で)アニオン交換に供した後、残留KOHを除去するためにDI水で洗浄して無酸素雰囲気下でDI水中に約12~48時間浸す。
【0044】
ポリ(アリールピペリジニウム)ポリマーをヒドロキシド交換膜にすることができる。そのようなヒドロキシド交換ポリマー膜は、有機溶媒および重合触媒の存在下でピペリドンモノマーと、任意選択で2,2,2-トリフルオロアセトフェノンモノマーと、芳香族モノマーと、を反応させてピペリジン官能化中間体ポリマーを形成すること;有機溶媒の存在下でピペリジン官能化中間体ポリマーをアルキル化剤と反応させてピペリジニウム官能化中間体ポリマーを形成すること;溶媒にピペリジニウム官能化中間体ポリマーを溶解させてポリマー溶液を形成すること;ポリマー溶液を流延してポリマー膜を形成すること;およびポリマー膜のアニオンをヒドロキシドイオンと交換してヒドロキシド交換ポリマー膜を形成すること;を含む方法によって調製できる。
【0045】
ポリ(アリールピペリジニウム)ポリマーを、以下で説明されるような強化ヒドロキシド交換膜にすることができる。そのような強化ヒドロキシド交換膜は、多孔性基材を液体中で湿らせて湿った基材を形成すること;ポリ(アリールピペリジニウム)ポリマーを溶媒に溶解させて均一な溶液を形成すること;湿った基材上に溶液を適用して強化膜を形成すること;強化膜を乾燥させること;および強化膜のアニオンをヒドロキシドイオンと交換して強化ヒドロキシド交換ポリマー膜を形成すること;を含む方法によって調製できる。任意の公知の膜形成技術(流延、噴霧またはドクターナイフなど)によって溶液を湿った基材に適用できる。
【0046】
得られた強化膜は、必要に応じて、強化膜を再度湿らすことならびに溶解工程、流延工程および乾燥工程を繰り返すことによってポリ(アリールピペリジニウム)ポリマーに複数回、含浸させることができる。
【0047】
ピペリジン官能化中間体ポリマーの形成において使用される重合触媒は、トリフルオロメタンスルホン酸、ペンタフルオロエタンスルホン酸、ヘプタフルオロ-1-プロパンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、ペルフルオロプロピオン酸、ヘプタフルオロ酪酸、またはそれらの組み合わせを含んでよい。
【0048】
ピペリジニウム官能化中間体ポリマーの形成において使用されるアルキル化剤は、ヨウ化メチル、ヨードエタン、1-ヨードプロパン、1-ヨードブタン、1-ヨードペンタン、1-ヨードヘキサン、またはそれらの組み合わせなど、ハロゲン化アルキルを含んでよい。
【0049】
上記の方法において使用される有機溶媒の各々は、極性非プロトン性溶媒(例えば、ジメチルスルホキシド、1-メチル-2-ピロリジノンまたはジメチルホルムアミド)または他の好適な溶媒(塩化メチレン、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、クロロホルム、1,1,2,2-テトラクロロエタンまたはそれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない)から独立的に選択されてよい。
【0050】
多孔性基材を湿らすために使用される液体は、低級アルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール)などの低沸点溶媒および/または水であってよい。好ましくは、液体は無水エタノールである。
【0051】
ヒドロキシド交換膜などのアニオン交換膜も提供される。この膜は、燃料電池における使用に好適であるように構成およびサイズ決めされており、本明細書で説明されるようなポリ(アリールピペリジニウム)ポリマーのいずれかを含む。
【0052】
燃料電池における数多くの湿潤・乾燥サイクル(相対湿度サイクル)を通じた安定性のためのアニオン交換膜の機械的堅牢性を高めるために、強化ヒドロキシド交換膜などの強化電解質膜も提供される。この膜は、燃料電池における使用に好適であるように構成およびサイズ決めされており、本明細書で説明されるようなポリ(アリールピペリジニウム)ポリマーのいずれかで含浸された多孔性基材を含む。米国特許第RE37,656号および同第RE37,701号(これらは、強化膜の合成および材料についてのそれらの説明が参照により本明細書に組み込まれる)に開示されるものなど、強化膜を調製するための方法は、当業者には周知である。
【0053】
多孔性基材は、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ(エーテルケトン)または当技術分野で公知である他の多孔性ポリマー(燃料電池のための強化膜を調製するのに使用するための、Ginerの寸法安定性のある膜など)を含む膜を含んでよい。そのような多孔性基材は、例えばW.L.Gore&Associatesから、市販されている。
【0054】
多孔性基材は、ポリマーフィブリルの多孔質微細構造を有してよい。ポリテトラフルオロエチレンを含むそのような基材は、市販されている。多孔性基材は、フィブリルによって相互接続された節の微細構造を含んでよい。
【0055】
多孔性基材の内部容積は、ポリ(アリールピペリジニウム)ポリマーでの含浸によって実質的に閉塞されてよい。
【0056】
多孔性基材は、約1ミクロン~約10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95または100ミクロンの厚さを有してよい。好ましくは、多孔性基材は、約5ミクロン~約30ミクロンまたは約7ミクロン~約20ミクロンの厚さを有する。
【0057】
本明細書で説明されるようなポリ(アリールピペリジニウム)ポリマーのいずれかを含むアニオン交換膜燃料電池も提供される。
【0058】
ポリ(アリールピペリジニウム)ポリマーは、
図1に示されるような典型的な燃料電池10などのHEMFCにおいて使用できる。
図1は、電解質膜16によって分離された(左側に図示される)アノード部分12と(右側に図示される)カソード部分14を有する典型的な燃料電池10を図示する。電解質膜16は、本明細書で説明されるようなポリ(アリールピペリジニウム)ポリマーのいずれかを含む任意の膜であってよく、強化膜であってよい。支持部材は図示されていない。アノード部分は、燃料を酸化するアノード半反応を行い、電子を外部回路に放出するとともに酸化生成物を生成する。カソード部分は、酸化剤を還元するカソード半反応を行い、外部回路からの電子を消費する。ガス拡散層(GDL)18および20は、燃料22および酸化剤24をそれぞれの触媒層26および28の全体にわたって均一に供給するように働く。電荷の中性は、陽イオンについてはアノードからカソードへの、および陰イオンについてはカソードからアノードへの、イオンの流れによって維持される。電解質膜は通常、膜の構造的完全性を維持しつつも可能な限り薄くなるように選択されるため、図示される寸法は代表的なものではない。
【0059】
図示されるヒドロキシド交換膜燃料電池(HEMFC)の場合、アノード半反応は、燃料およびOH-イオンを消費し、廃水(ならびに、炭素含有燃料の場合には二酸化炭素)を生成する。カソード半反応は、酸素を消費し、OH-イオンを生成し、これが、電解質膜を通ってカソードからアノードへと流れる。燃料は、アノード触媒の酸化能力によってのみ制限され、典型的には水素ガス、メタノール、エタノール、エチレングリコールおよびグリセロールを包含する。好ましくは、燃料は、H2またはメタノールである。触媒は通常、白金(Pt)、金(Ag)、または1種以上の遷移金属(例えば、Ni)である。PEMFCの場合、アノード半反応は、燃料を消費し、H+イオンと電子を生成する。カソード半反応は、酸素、H+イオンおよび電子を消費し、廃水を生成し、H+イオン(プロトン)は、電解質膜を通ってアノードからカソードへと流れる。
【0060】
従って、ポリ(アリールピペリジニウム)ポリマーから作製された電解質膜がどのように燃料電池の性能を著しく改善するかを理解できる。第一に、より高い燃料電池効率は、低い内部抵抗を必要とし、従って、より高いイオン伝導度(低下したイオン抵抗性)を有する電解質膜が好ましい。第二に、より大きな電力は、より大きな燃料電池電流を必要とし、従って、より高いイオン-通電容量を有する電解質膜が好ましい。また、実用的な電解質膜は、化学分解に耐え、燃料電池の環境において機械的に安定であり、さらには、容易に製造されるべきである。
【0061】
ポリ(アリールピペリジニウム)ポリマーの主な用途は、アニオン交換膜、ヒドロキシド交換膜、アニオン交換膜燃料電池およびヒドロキシド交換膜燃料電池における使用などでのエネルギー変換のためのものであるが、アニオン/ヒドロキシド交換アイオノマーおよびアニオン/ヒドロキシド交換膜は、燃料電池(例えば、水素/アルコール/アンモニア燃料電池);電解槽(例えば、水/二酸化炭素/アンモニア電解槽);電気透析装置;イオン交換体;太陽光水素発生装置(solar hydrogen generator);脱塩装置(desalinator)(例えば、海水/汽水の脱塩);水の鉱質除去;超純水の生産;廃水処理;食品分野、薬物分野、化学分野およびバイオテクノロジー分野における電解質溶液の濃縮;電気分解(例えば、塩素アルカリ生産およびH2/O2生産);エネルギー貯蔵(例えば、スーパーキャパシタ、金属空気電池及びレドックスフロー電池);センサー(例えば、pH/RHセンサー);およびアニオン伝導性アイオノマーが有利である他の用途;における使用など、多くの他の目的のために使用できる。
【0062】
本発明を詳細に説明してきたが、添付の特許請求の範囲において画定される発明の範囲から逸脱することなく改変および変形が可能であるということは明らかであろう。
【実施例】
【0063】
以下の非限定的な実施例は、本発明をさらに説明するために提供される。
【0064】
実施例1
ポリ(アリールピペリジニウム)は、N-メチル-4-ピペリドン、2,2,2-トリフルオロアセトフェノンおよびビフェニルから調製した(PAP-1-xと呼称され、ここでxは、2,2,2-トリフルオロアセトフェノンに対するN-メチル-4-ピペリドンのモル比であり、1~100である)。PAP-1-xは、3つの主要なステップによって調製した:(1)ピペリジン官能化ポリマーの合成;(2)ピペリジニウム官能化ポリマーの合成;および(3)膜の流延とヒドロキシドイオン交換。反応スキームを以下に示す。
【0065】
【0066】
(1)ピペリジン官能化ポリマーの合成。オーバーヘッドメカニカルスターラーを備えた100mLの三つ口フラスコに対して、N-メチル-4-ピペリドン(0.6790g、6mmol)、2,2,2-トリフルオロアセトフェノン(0.6965g、4mmol)およびビフェニル(1.5421g、10mmol)を塩化メチレン(10mL)に溶解させた。次いで、トリフルオロ酢酸(TFA)(0.5mL)およびトリフルオロメタンスルホン酸(TFSA)(10mL)を0℃で30分かけて滴下した。その後、この温度で36時間、反応を継続させた。得られた粘稠な褐色溶液をエタノールの水溶液にゆっくりと注いだ。白色繊維状固体を濾過し、水で洗浄し、室温で12時間、1MのK
2CO
3に浸した。最後に、白色繊維状生成物を濾過し、水で洗浄し、60℃にて真空下で完全に乾燥させた。ポリマーの収率は、ほぼ100%であった。
1H NMR(CDCl
3,δ,ppm):7.57-7.48(H
1およびH
1’)、7.34-7.19(H
2、H
2’、H
6、H
7およびH
8)、2.51(H
3およびH
4)、および2.22(H
5)(
図2を参照のこと)。
【0067】
(2)ピペリジニウム官能化ポリマー(PAP-1-60)の合成。マグネティックバーを備えた50mLの一口フラスコに対して、ピペリジン官能化ポリマー(1.0g)を1-メチル-2-ピロリジノン(20mL)に溶解させた。ヨウ化メチル(1mL)を迅速に添加した。この溶液を室温で12時間にわたって撹拌した。得られた粘稠な黄色溶液をエーテル中に滴下した。黄色固体を濾過し、エーテルで洗浄し、60℃にて真空下で完全に乾燥させた。ポリマーPAP-1-60の収率は、ほぼ100%であった。
1H NMR(DMSO-d6,δ,ppm):7.77-7.35(H
1、H
1’、H
2およびH
2’)、7.18-7.11(H
6、H
7およびH
8)、3.35(H
4)、3.15(H
5)、および2.85(H
3)(
図3を参照のこと)。
【0068】
(3)PAP-1-60膜流延およびヒドロキシド交換。PAP-1-60ポリマー(1.0g)をNMP(20mL)に溶解させ、80℃で8時間、透明なガラス板上で流延することによって膜を調製した。この膜(ヨウ化物形態である)を脱イオン(DI)水と接触させてガラス板から剥がした。60℃にて24時間、1MのKOH中でイオン交換した後、残留KOHを除去するためにDI水で洗浄してアルゴン下でDI水中に48時間浸すことによって、水酸化物形態の膜を得た。
【0069】
他のPAP-1-x膜は、種々の2,2,2-トリフルオロアセトフェノンに対するN-メチル-4-ピペリドンのモル比を用いることによって調製した。
【0070】
(4)アルカリ安定性。膜を100℃の1M KOH水溶液中に浸すことによって、PAP-1-xポリマーのアルカリ安定性を評価した。2000時間にわたるアルカリ試験の前後のPAP-1-60の
1H NMRスペクトルを
図4に示す。化学シフトの変化は観察されなかった。この結果により、エーテル結合を有さない強固なアリールポリマー骨格構造中に埋め込まれたアルカリ安定性の高いピペリジニウムカチオンは、高温においてさえ、アルカリ条件下における顕著な化学的安定性を与えることができるということが確認された。
【0071】
(5)水取り込みおよびヒドロキシド伝導度。HEM/HEIのための理想的な材料は、低い水取り込みと共に良好なイオン伝導度を有するべきである。全ての膜は、
図5に示されるように純水中で非常に高い伝導度を示した。例えば、20℃において、PAP-1-60のヒドロキシド伝導度(61mS/cm)は、36mS/cmというIEC値を有するPSFQN(基準HEM)よりも遥かに大きい。PSFQNは、ベンジルトリメチルアンモニウムポリスルホンに由来し、式:
【化12】
を有する。温度の上昇も、膜のサンプルのヒドロキシド伝導度を向上させた。95℃において、PAP-1-50、PAP-1-60およびPAP-1-70は、それぞれ102、151および183mS/cmというヒドロキシド伝導度を有した。
図6に示されるように、20℃においてPSFQN(180%)と比較した場合、PAP-1-x膜は、遥かに低い水取り込み値(16%~35%)を有した。驚くべきことに、PAP-1-x膜は、強固な芳香族骨格の存在のおかげで、95℃でも非常に低い水取り込み(20%~60%)を依然として維持した。
【0072】
(6)溶解性および機械的性質。PAP-1-xポリマーは、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリジノン、ジメチルスルホキシド、およびイソプロパノール/水(重量比1/1)において優れた溶解性を示したが、純水およびイソプロパノールには溶解しなかった。PAP-1-xは、100℃においてさえ、純水およびイソプロパノールに不溶であったが、これにより、水溶性に起因する減少を伴うことなく触媒層中のアイオノマーとしてPAP-1-xを使用できるということが示唆された。従って、PAP-1-xポリマーの溶媒処理性(solvent processability)は、それらのHEMとしての使用だけでなくHEIとしての使用も可能にした。PAP-1-xの引張強度および破断点伸びは、それぞれ100~150MPaおよび7~9%であったが、これらは、HEMFCにおいて膜電極アセンブリ(MEA)を構築するための要件を満たす(
図7を参照のこと)。
【0073】
(7)ヒドロキシド交換膜燃料電池(HEMFC)の性能。PAP-1-x膜は、優れた化学的安定性、ヒドロキシド伝導度、低い水取り込み、良好な溶解性および機械的性質を有することが示されたが、これらの材料の最も実用的な評価は、触媒層中のHEIとしての、およびHEMとしての、HEMFC単電池におけるそれらの性能である。膜電極アセンブリ(MEA)は、ロボット噴霧器(Sono-Tek ExactaCoat)を用いてPAP-1-60膜の両面に5cm
2の電極を堆積させることによって作製した。電極インクは、250mgの触媒(Tanaka Kikinzoku KogyoまたはTKK、高表面積C上の50%Pt)および所望の量のアイオノマー(PAP-1-x;水とイソプロパノールの混合物にPAP-1-xポリマーを溶解させることによって調製)を10gの水と10gのイソプロパノールに添加した後に1時間超音波処理することによって調製した。触媒充填は、0.4mg Pt/cm
2であった。サンドイッチは、MEAの両側にゴム製ガスケット、GDL(SGL25CC)、およびグラファイト流動場(ElectroChem)を付加することによって完成させた。性能は、背圧モジュール(Scribner 850e)を備えた燃料電池試験システムで特性評価した。通常、100mA/cm
2で30分間、そして200mA/cm
2でさらに30分間、電池を活性化した。活性化の後、走査電流によって性能を記録した。
図8は、膜としてのPAP-1-60とアイオノマーとしてのPAP-1-70を有するH
2/O
2HEMFCの95℃における分極曲線を示す。開回路電圧(OCV)は、約1.1Vという理論値に近かったが、これにより、PAP-1-70アイオノマーはPtの触媒機能に大きく影響せず、PAP-1-60膜は燃料を非常に良好に分離するということが示された。
図8および
図9に示されるように、このHEMFCは、95℃において、非常に高いピーク電力密度(356mW/cm
2)および高い安定性を示した。
【0074】
実施例2
ポリ(アリールピペリジニウム)の別の例は、N-メチル-4-ピペリドン、2,2,2-トリフルオロアセトフェノンおよびp-テルフェニルに基づく(PAP-2-x;xは、2,2,2-トリフルオロアセトフェノンに対するN-メチル-4-ピペリドンのモル比である;x=1~100)。このポリマーを調製するための反応スキームは以下の通りである。
【0075】
【0076】
(1)ピペリジン官能化ポリマーの合成。オーバーヘッドメカニカルスターラーを備えた100mLの三つ口フラスコに対して、N-メチル-4-ピペリドン(0.8487g、7.5mmol)、2,2,2-トリフルオロアセトフェノン(0.4353g、2.5mmol)およびビフェニル(1.5421g、10mmol)を塩化メチレン(10mL)に溶解させた。次いで、TFA(0.5mL)およびTFSA(10mL)を0℃で30分かけて滴下した。その後、この温度で36時間、反応を継続させた。得られた粘稠な褐色溶液をエタノールにゆっくりと注いだ。白色繊維状固体を濾過し、水で洗浄し、室温で12時間、1MのK
2CO
3に浸した。最後に、白色繊維状生成物を濾過し、水で洗浄し、60℃にて真空下で完全に乾燥させた。ポリマーの収率は、ほぼ100%であった。
1H NMR(CDCl
3,δ,ppm):7.70-7.56(H
1、H
1’、H
3およびH
3’)、7.37-7.19(H
2、H
2’、H
6、H
7およびH
8)、2.54(H
4およびH
5)、および2.24(H
6)(
図10)。
【0077】
(2)ピペリジニウム官能化ポリマー(PAP-2-75)の合成。マグネティックバーを備えた50mLの一口フラスコに対して、ピペリジン官能化ポリマー(1.0g)をDMSO(20mL)に溶解させた。ヨウ化メチル(1mL)を迅速に添加した。この溶液を室温で12時間にわたって撹拌した。得られた粘稠な黄色溶液をエーテル中に滴下した。黄色固体を濾過し、エーテルで洗浄し、60℃にて真空下で完全に乾燥させた。ポリマーPAP-2-75の収率は、ほぼ100%であった。
1H NMR(DMSO-d6,δ,ppm):7.98-7.46(H
1、H
1’、H
2、H
2’、H
3およびH
3’)、7.22-7.17(H
7、H
8およびH
9)、3.38(H
5)、3.17(H
6)、および2.85(H
4)(
図11)。
【0078】
(3)PAP-2-75膜流延およびヒドロキシド交換。PAP-2-75ポリマー(1.0g)をDMSO(30mL)に溶解させ、80℃で8時間、透明なガラス板上で流延することによって膜を調製した。この膜(ヨウ化物形態である)を脱イオン(DI)水と接触させてガラス板から剥がした。60℃にて24時間、1MのKOH中でイオン交換した後、残留KOHを除去するためにDI水で洗浄してアルゴン下でDI水中に48時間浸すことによって、水酸化物形態の膜を得た。
【0079】
(4)水取り込みおよびヒドロキシド伝導度。全ての膜は、20℃~95℃において純水中で、(
図12に示されるような)優れた伝導度および(
図13に示されるような)低い水取り込みを示した。
を示した。
【0080】
実施例3
別のポリ(アリールピペリジニウム)ポリマーは、N-メチル-4-ピペリドン、2,2,2-トリフルオロアセトフェノンおよびp-クアテルフェニルに基づく(PAP-3-x;ここでxは、2,2,2-トリフルオロアセトフェノンに対するN-メチル-4-ピペリドンのモル比である;x=1~100)。PAP-3-xの合成は、PAP-1-xと同様であり、以下の反応スキームに示されている。
【0081】
【0082】
実施例4
別のポリ(アリールピペリジニウム)ポリマーは、N-メチル-4-ピペリドン、2,2,2-トリフルオロアセトフェノンおよびベンゼンに基づく(PAP-4-x;xは、2,2,2-トリフルオロアセトフェノンに対するN-メチル-4-ピペリドンのモル比である;x=1~100)。PAP-4-xの合成は、PAP-1-xと同様であり、その反応スキームを以下に示す。
【0083】
【0084】
実施例5
別のポリ(アリールピペリジニウム)ポリマーは、3-オキソ-6-アゾニアスピロ[5.5]ウンデカンヨーダイド、2,2,2-トリフルオロアセトフェノンおよびビフェニルに基づく(PAP-ASU-1-x;xは、3-オキソ-6-アゾニアスピロ[5.5]ウンデカンヨーダイドおよび2,2,2-トリフルオロアセトフェノンのモル比である;x=1~100)。この合成の反応スキームは以下の通りである。
【0085】
【0086】
実施例6
さらに別のポリ(アリールピペリジニウム)ポリマーは、3-オキソ-6-アゾニアスピロ[5.5]ウンデカンヨーダイド、2,2,2-トリフルオロアセトフェノンおよびp-テルフェニルに基づく(PAP-ASU-2-x;ここでxは、2,2,2-トリフルオロアセトフェノンに対する3-オキソ-6-アゾニアスピロ[5.5]ウンデカンヨーダイドのモル比である;x=1~100)。このポリマー合成の反応スキームを以下に示す。
【0087】
【0088】
実施例7
別のポリ(アリールピペリジニウム)ポリマーは、3-オキソ-6-アゾニアスピロ[5.5]ウンデカンヨーダイド、2,2,2-トリフルオロアセトフェノンおよびp-クアテルフェニルに基づく(PAP-ASU-3-x;ここでxは、2,2,2-トリフルオロアセトフェノンに対する3-オキソ-6-アゾニアスピロ[5.5]ウンデカンヨーダイドのモル比である;x=1~100)。このポリマー合成の反応スキームを以下に示す。
【0089】
【0090】
実施例8
別のポリ(アリールピペリジニウム)ポリマーは、3-オキソ-6-アゾニアスピロ[5.5]ウンデカンヨーダイド、2,2,2-トリフルオロアセトフェノンおよびベンゼンに基づく(PAP-ASU-4-x;ここでxは、2,2,2-トリフルオロアセトフェノンに対する3-オキソ-6-アゾニアスピロ[5.5]ウンデカンヨーダイドのモル比である;x=1~100)。このポリマー合成の反応スキームを以下に示す。
【0091】
【0092】
実施例9
以下の手順によって強化膜を作製した。まず、0.5gのヨード形態のPAP-2-85ポリマー(実施例2の方法に従って調製)を25mlのジメチルホルムアミド溶媒(DMF)に溶解させてPAP溶液を形成した。DMF中の20μmポリエチレン(PE)基材の湿潤性を改善するために、多孔質PE膜を無水エタノール中に24時間浸した。それと同時に、20mlのエタノールと5mlの水をPAP溶液に添加し、24時間撹拌して均一な溶液を形成した。この均一な溶液を、湿ったPE膜上に流延して強化膜を調製した。この膜をオーブン中で60℃にて24時間加熱して溶媒を除去し、得られた強化膜を、さらに、80℃で12時間、真空乾燥した。膜を1MのKOH中に60℃で24時間放置することによって、I-形態からOH-形態への変換を達成した。OH-交換強化PAP/PE膜を、7というpHに達するまでDI水で洗浄した。強化PAP/PE HEMの伝導度は、DI水中で20℃において20mS/cmであり、含水量の上昇は約18%である。強化PAP/PE HEMの厚さは約30μmである。
【0093】
定義
本明細書で使用される場合、「好適な置換基」なる用語は、化学的に許容される官能基(好ましくは本発明の化合物の活性を無効にしない部分)を意味することが意図される。そのような好適な置換基には、ハロ基、ペルフルオロアルキル基、ペルフルオロアルコキシ基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ヒドロキシ基、オキソ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アルコキシ基、アリール基もしくはヘテロアリール基、アリールオキシ基もしくはヘテロアリールオキシ基、アラルキル基もしくはヘテロアラルキル基、アラルコキシ基もしくはヘテロアラルコキシ基、HO-(C=O)-基、複素環基、シクロアルキル基、アミノ基、アルキルアミノ基およびジアルキルアミノ基、カルバモイル基、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アルキルアミノカルボニル基、ジアルキルアミノカルボニル基、アリールカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルスルホニル基、ならびにアリールスルホニル基が包含されるが、これらに限定されない。当業者であれば、多くの置換基がさらなる置換基によって置換され得るということを理解するであろう。
【0094】
本明細書で使用される場合、「アルキル」なる用語は、好ましくは1~32個の炭素原子(すなわち、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、39、30、31、または32個の炭素)を有し、より好ましくは1~18個の炭素原子を有する、直鎖状、分枝状または環状の炭化水素ラジカルを指す。アルキル基には、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、第二ブチル、および第三ブチルが包含されるが、これらに限定されない。アルキル基は、置換されていなくてもよいか、1つ以上の好適な置換基によって置換されていてもよい。
【0095】
本明細書で使用される場合、「アルケニル」なる用語は、好ましくは2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、39、30、31、または32個の炭素を有し、より好ましくは1~18個の炭素原子を有し、1つ以上の炭素-炭素二重結合を有する、直鎖状、分枝状または環状の炭化水素ラジカルを指す。アルケニル基には、エテニル、1-プロペニル、2-プロペニル(アリル)、イソプロペニル、2-メチル-1-プロペニル、1-ブテニル、および2-ブテニルが包含されるが、これらに限定されない。アルケニル基は、置換されていなくてもよいか、1つ以上の上記で定義されるような好適な置換基によって置換されていてもよい。
【0096】
本明細書で使用される場合、「アルキニル」なる用語は、好ましくは2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、39、30、31、または32個の炭素を有し、より好ましくは1~18個の炭素原子を有し、1つ以上の炭素-炭素三重結合を有する、直鎖状、分枝状または環状の炭化水素ラジカルを指す。アルキニル基には、エチニル、プロピニル、およびブチニルが包含されるが、これらに限定されない。アルキニル基は、置換されていなくてもよいか、1つ以上の上記で定義されるような好適な置換基によって置換されていてもよい。
【0097】
本明細書で使用される場合、「アリール」なる用語は、任意選択で1つ以上の上記で定義されるような好適な置換基(好ましくは1~5個の好適な置換基)によって置換されていてもよい単環式、二環式または三環式の芳香族ラジカル(フェニル、ナフチル、テトラヒドロナフチル、インダニル等など)を意味する。「アリール」なる用語はまた、ヘテロアリールも包含する。
【0098】
本明細書で使用される場合、「シクロアルキル」なる用語は、任意選択で1つまたは2つの二重結合を含んでもよい単環式、二環式または三環式の炭素環ラジカル(例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロノニル、シクロペンテニル、シクロヘキセニル、ビシクロ[2.2.1]ヘプタニル、ビシクロ[3.2.1]オクタニルおよびビシクロ[5.2.0]ノナニル等)を指す。シクロアルキル基は、置換されていなくてもよいか、1つ以上の上記で定義されるような好適な置換基(好ましくは1~5個の好適な置換基)によって置換されていてもよい。
【0099】
本明細書で使用される場合、「エーテル」なる用語は、少なくとも1つのエーテル結合(すなわち、-O-)を含む二価(すなわち、二官能性)の基を表す。
【0100】
本明細書で使用される場合、「ヘテロアリール」なる用語は、その環(複数可)中にO、SおよびNから選択される1つ以上のヘテロ原子(例えば、1~3つのヘテロ原子)を含む単環式、二環式または三環式の芳香族複素環基を指す。ヘテロアリール基には、ピリジル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル、チエニル、フリル、イミダゾリル、ピロリル、オキサゾリル(例えば、1,3-オキサゾリル、1,2-オキサゾリル)、チアゾリル(例えば、1,2-チアゾリル、1,3-チアゾリル)、ピラゾリル、テトラゾリル、トリアゾリル(例えば、1,2,3-トリアゾリル、1,2,4-トリアゾリル)、オキサジアゾリル(例えば、1,2,3-オキサジアゾリル)、チアジアゾリル(例えば、1,3,4-チアジアゾリル)、キノリル、イソキノリル、ベンゾチエニル、ベンゾフリル、およびインドリルが包含されるが、これらに限定されない。ヘテロアリール基は、置換されていなくてもよいか、1つ以上の上記で定義されるような好適な置換基(好ましくは1~5個の好適な置換基)によって置換されていてもよい。本明細書で使用される場合、「炭化水素」なる用語は、炭素元素と水素元素のみからなる化合物またはラジカルを表す。
【0101】
「置換される(substituted)」なる用語は、問題の基において、炭素原子に結合した少なくとも1つの水素原子が、ヒドロキシ(-OH)、アルキルチオ、ホスフィノ、アミド(-CON(RA)(RB);ここでRAおよびRBは独立的に水素、アルキルまたはアリールである)、アミノ(-N(RA)(RB);ここでRAおよびRBは独立的に水素、アルキルまたはアリールである)、ハロ(フルオロ、クロロ、ブロモまたはヨード)、シリル、ニトロ(-NO2)、エーテル(-ORA;ここでRAはアルキルまたはアリールである)、エステル(-OC(O)RA;ここでRAはアルキルまたはアリールである)、ケト(-C(O)RA;ここでRAはアルキルまたはアリールである)、ヘテロシクロ等などの1つ以上の置換基で置き換えられるということを意味する。「置換される」なる用語が、置換される可能性のある基のリストの前にあるか、それに続く場合、その用語が、その群の全てのメンバーに適用されるということが意図される。すなわち、「任意選択で置換されていてもよいアルキルまたはアリール」なる表現は、「任意選択で置換されていてもよいアルキルまたは任意選択で置換されていてもよいアリール」と解釈されるべきである。同様に、「任意選択でフルオライドで置換されていてもよいアルキルまたはアリール」なる表現は、「任意選択でフルオライドで置換されていてもよいアルキルまたは任意選択でフルオライドで置換されていてもよいアリール」と解釈されるべきである。
【0102】
本発明またはその好ましい実施形態(複数可)の要素の前にある場合、冠詞「a」、「an」、「the」および「said」は、1つ以上の要素が存在するということを意味することが意図される。用語「含む(comprising)」、「包含する(including)」および「有する(having)」は、包括的であるとともに、列挙された要素以外の追加的な要素が存在し得るということを意味することが意図される。
【0103】
上記を考慮すれば、本発明のいくつかの目的が達成され、他の有利な結果が達成されるということが分かるであろう。
【0104】
本発明の範囲から逸脱することなく上記の生成物および方法に様々な変更が加えられ得るため、上記の説明に含まれる事項および添付の図面に示される事項は全て、例示的なものであって限定的な意味ではないと解釈されるべきであるということが意図される。