(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-05
(45)【発行日】2022-10-14
(54)【発明の名称】操縦指令処理装置と方法、及び遠隔操縦システム
(51)【国際特許分類】
G05D 1/00 20060101AFI20221006BHJP
【FI】
G05D1/00 B
(21)【出願番号】P 2019002645
(22)【出願日】2019-01-10
【審査請求日】2021-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】500302552
【氏名又は名称】株式会社IHIエアロスペース
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100097515
【氏名又は名称】堀田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100136700
【氏名又は名称】野村 俊博
(72)【発明者】
【氏名】田川 悟
【審査官】牧 初
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-150512(JP,A)
【文献】特開2007-310698(JP,A)
【文献】特開2010-250536(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 1/00-1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠隔操縦装置から送信された操縦指令に従って、移動装置に対する指令経路を生成する指令経路生成部と、
前記指令経路が安全な経路であるかを判断する補正判断部と、
前記判断の結果が否定となった場合に、前記指令経路を補正した補正経路を生成する補正部と、
前記指令経路と前記補正経路を表わす経路データを生成するデータ生成部と、
前記経路データを前記遠隔操縦装置へ送信する通信部と、を備える、操縦指令処理装置。
【請求項2】
前記補正判断部は、前記指令経路が安全な経路でないと判断した場合に、前記指令経路を補正する理由を示す理由データを生成し、
前記通信部は、前記経路データおよび前記理由データを前記遠隔操縦装置へ送信する、請求項1に記載の操縦指令処理装置。
【請求項3】
前記指令経路に関して安全性を示す評価値を求める評価部と、
前記評価値に基づいて、前記指令経路が安全な傾向にあるかを判定する判定部と、
前記指令経路が安全な傾向にないと判定された場合に、警告情報を生成する警告生成部と、を備え
前記通信部は、前記警告情報を前記遠隔操縦装置へ送信する、請求項1又は2に記載の操縦指令処理装置。
【請求項4】
前記評価部は、
前記指令経路と交差する横方向に該指令経路からずれた複数の追加経路を生成する追加経路生成部と、
前記指令経路および前記複数の追加経路の各々の評価値を求める評価値生成部と、を備え、
前記判定部は、前記指令経路および前記複数の追加経路のうち指定本数または指定比率の本数以上の前記経路の前記評価値が閾値を下回ったかを判断し、当該判断の結果が肯定である場合には、前記指令経路が安全な傾向にないと判定する、請求項3に記載の操縦指令処理装置。
【請求項5】
前記評価値生成部は、複数の評価項目の各々について、前記指令経路および前記複数の追加経路の評価値をそれぞれ求め、
前記判定部は、複数の評価項目の各々について、前記指令経路および前記複数の追加経路のうち指定本数または指定比率の本数以上の前記経路の前記評価値が閾値を下回ったかどうかを判断し、当該判断の結果が肯定である場合には、当該評価項目について前記移動経路が安全な傾向にないと判定し、
前記警告生成部は、当該判断の結果が肯定となった前記評価項目に対応する前記警告情報を生成し、
前記複数の評価項目にそれぞれ対応する複数の前記警告情報は、互いに異なっている、請求項4に記載の操縦指令処理装置。
【請求項6】
前記複数の評価項目は、経路曲率半径、前記移動装置の横転、前記移動装置の横滑り、障害物との距離、および路面状態のうち複数を含み、
前記経路曲率半径についての前記評価値は、前記経路の最小曲率半径であり、
前記移動装置の横転についての前記評価値は、当該横転に関する安全性を示す評価値であり、
前記移動装置の横滑りについての前記評価値は、当該横滑りに関する安全性を示す評価値であり、
障害物との距離についての前記評価値は、前記経路に最も近い障害物と当該経路との距離であり、
前記路面状態についての前記評価値は、前記経路上の路面の良好度である、請求項5に記載の操縦指令処理装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の操縦指令処理装置と、前記遠隔操縦装置を備える遠隔操縦システムであって、
前記遠隔操縦装置は、前記経路データを表示する表示装置を備える、遠隔操縦システム。
【請求項8】
前記補正判断部は、前記指令経路が安全な経路でないと判断した場合に、前記指令経路を補正する理由を示す理由データを生成し、
前記通信部は、前記経路データおよび前記理由データを前記遠隔操縦装置へ送信し、
前記表示装置は、前記経路データと前記理由データを表示する、請求項7に記載の遠隔操縦システム。
【請求項9】
遠隔操縦装置から送信された操縦指令に従って、移動装置に対する指令経路を指令経路生成部により生成し、
前記指令経路が安全な経路であるかを補正判断部により判断し、
当該判断の結果が否定となった場合に、前記指令経路を補正した補正経路を補正部により生成し、
前記指令経路と前記補正経路を表わす経路データをデータ生成部により生成し、
前記経路データを前記遠隔操縦装置へ送信する、操縦指令処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠隔操縦装置から移動装置に送信された操縦指令に従った指令経路を生成する場合に、この指令経路が安全でない場合に補正経路を生成する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
無人車両のような移動装置を遠隔操縦するために、例えば、移動装置にカメラが設けられる。このカメラは移動装置から見た領域を撮像して画像データを生成する。この画像データは、移動装置から遠隔操縦装置へ無線通信で送信される。遠隔操縦装置は、移動装置から送信された画像データを受け、この画像データを表示装置に表示する。人は、表示された表示装置を見て遠隔操縦装置の操作部(例えばハンドル又は操作レバ―)を操作する。この操作に応じて、遠隔操縦装置は、進行方向についての操縦指令を生成して移動装置へ送信する。
【0003】
移動装置は操縦指令を受け、移動装置の経路生成装置は、操縦指令に従って移動装置の移動経路としての指令経路を生成する。移動装置の制御装置は、この指令経路上を移動装置が移動するように移動装置を制御する。
【0004】
特許文献1では、上述のように生成された指令経路上に障害物が存在するかを、移動装置の障害物検出手段により判定する。当該指令経路上に障害物が存在すると判定された場合には、当該指令経路から横方向にずれた補正経路を経路計画手段により生成する。補正経路上に障害物が存在すると障害物検出手段により判定された場合には、経路計画手段は、当該補正経路から更に横方向にずれた新たな補正経路を生成する。このように、新たに生成された補正経路上に障害物が存在しなくなるまで、上述の処理を繰り返す。その後、移動装置の制御装置が、障害物が存在しない新たな補正経路上を移動装置が移動するように移動装置を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述のように、移動装置において、操縦指令に従った指令経路が補正され、補正経路上を移動装置が移動する。そうすると、操縦者は、移動装置が自身の指令の通りに移動していないと考えて、自身の指令の通りに移動装置を移動させようとして、追加の不適切な操縦指令を与え続けてしまう可能性がある。その結果、移動装置の移動が困難な状況に陥る可能性がある。
【0007】
例えば、障害物が存在する為に移動装置の移動が困難な状況に陥ることを回避するために、指令経路が補正される。この場合、操縦者が、自身の指令の通りに移動装置を移動させようとして追加の不適切な操縦指令を与え続けてしまうことで、このような移動困難な状況を回避できなくなってしまう。
【0008】
そこで、本発明の目的は、移動装置に対して与えられた操縦指令に従った指令経路が補正された場合に、指令経路と補正後の経路との違いが把握されないことによる追加の不適切な操縦指令を防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的を達成するため、本発明による操縦指令処理装置は、遠隔操縦装置から送信された操縦指令に従って、移動装置に対する指令経路を生成する指令経路生成部と、
前記指令経路が安全な経路であるかを判断する補正判断部と、
前記判断の結果が否定となった場合に、前記指令経路を補正した補正経路を生成する補正部と、
前記指令経路と前記補正経路を表わす経路データを生成するデータ生成部と、
前記経路データを前記遠隔操縦装置へ送信する通信部と、を備える。
【0010】
また、本発明による遠隔操縦システムは、上述の操縦指令処理装置と、前記遠隔操縦装置を備え、前記遠隔操縦装置は、前記経路データを表示する表示装置を備える。
【0011】
更に、本発明による操縦指令処理方法は、遠隔操縦装置から送信された操縦指令に従って、移動装置に対する指令経路を指令経路生成部により生成し、
前記指令経路が安全な経路であるかを補正判断部により判断し、
当該判断の結果が否定となった場合に、前記指令経路を補正した補正経路を前記補正部により生成し、
前記指令経路と前記補正経路を表わす経路データをデータ生成部により生成し、
前記経路データを前記遠隔操縦装置へ送信する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、移動装置に対する操縦指令に従った指令経路を補正する場合に、指令経路と補正経路を表わす経路データが遠隔操縦装置へ送信される。したがって、経路データが表わす両経路の違いが遠隔操縦装置の側で把握できるので、当該違いが把握されないことによる追加の不適切な操縦指令がなされることが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態による操縦指令処理装置が適用可能な遠隔操縦システムを示すブロック図である。
【
図3】(A)は、指令経路を生成した上述の地図を示し、(B)は、指令経路と複数の追加経路を生成した上述の地図を示す。
【
図4】(A)は、地図生成処理のフローチャートであり、(B)は、画像生成表示処理のフローチャートである。
【
図5】本発明の実施形態による操縦指令処理方法を示すためのフローチャートである。
【
図6】(A)は、1つの評価経路における各評価領域を示し、(B)は、(A)の部分拡大図である。
【
図7】評価領域の指標値を算出する方法のフローチャートである。
【
図8】(A)~(C)は、それぞれ、評価領域が段差面、平面、凹凸面である場合の各計測点の説明図である。
【
図9】(A)~(C)は、それぞれ、評価領域が段差面、平面、凹凸面である場合の指標値の算出方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0015】
図1は、本発明の実施形態による操縦指令処理装置10が適用可能な移動装置20の遠隔操縦システム100を示すブロック図である。遠隔操縦システム100は、操縦指令処理装置10が設けられた移動装置20と、移動装置20を遠隔操縦するための遠隔操縦装置30を備える。
【0016】
(移動装置20の構成)
図2は、移動装置20の一例を示す。移動装置20は、走行用の走行タイヤ1を有し、この走行タイヤ1が回転駆動されることにより地表面2を走行する車両であってよい。代わりに、移動装置20は、クローラにより地上を走行する走行装置、または他の装置であってもよい。
【0017】
<地図生成のための構成>
移動装置20には、
図1のように、障害物センサ3、速度センサ5、向きセンサ7、位置検出部9、および地図生成部11が設けられている。
【0018】
障害物センサ3は、移動装置20から障害物を検出する。すなわち、障害物センサ3は、移動装置20に固定されたセンサ座標系における障害物の位置(座標)を検出する。
【0019】
障害物センサ3は、本実施形態では、移動装置20から見た計測範囲に対して計測を行うことにより、計測範囲に存在する各物体の位置をセンサ座標系で表わした障害物データを取得する。計測範囲は、移動装置20の進行方向側の範囲を含む。センサ座標系の原点は、当該障害物データを取得した時の移動装置20の位置である。障害物センサ3による障害物データの取得は、移動装置20の移動中に繰り返し行われる。
【0020】
障害物センサ3は、例えばレーザレーダである。レーザレーダは、計測範囲に対してレーザ光(例えばパルスレーザ光)を走査して、物体表面の各計測点からの反射レーザ光に基づいて、各計測点の座標(例えば三次元座標)を取得する。レーザレーダは、例えばLiDAR(Light Detection and Ranging)またはLRF(Laser Range Finder)と呼ばれる機器であってよい。レーザレーダは、取得した各計測点の座標をセンサ座標系で表わした障害物データを取得する。
【0021】
速度センサ5は、移動装置20の速さ(速度の大きさ)を検出する。速度センサ5は、例えば、車両としての移動装置20の走行タイヤ1の回転速度を計測し、この回転速度から、地表面2に固定された地図座標系に対する移動装置20の速さを求めるものであってよい。
【0022】
向きセンサ7は、上述の地図座標系に対する移動装置20の向き(すなわち進行方向)を検出する。向きセンサ7は、例えばジャイロセンサを用いて構成されたものであってよい。
【0023】
位置検出部9は、上述の地図座標系における移動装置20の現在位置を求める。例えば、位置検出部9は、速度センサ5が計測した速さと、向きセンサ7が検出した向きとに基づいて、移動装置20の現在位置を求める。すなわち、位置検出部9は、速度センサ5が検出した速さで、向きセンサ7が計測した向きへ、移動装置20が各時点で移動したとして、各時点の当該速さと向きに基づいて移動装置20の現在位置を求める。
【0024】
地図生成部11は、障害物センサ3が取得した障害物データを、地表面2に固定された地図座標系のデータに変換する。また、地図生成部11は、当該変換後のデータに基づいて、地図座標系において、障害物を含む各物体(例えば上述の各計測点)の3次元位置を表わした地図(例えば局所地図)を生成し、当該地図を記憶部11aに記憶する。障害物データの上述の変換は、上述のセンサ座標系からの座標変換であり、障害物データの取得時に向きセンサ7が検出した移動装置20の向きと、当該取得時に位置検出部9が求めた移動装置20の位置とに基づいて行われてよい。
【0025】
障害物センサ3が障害物データを取得する度に、地図生成部11は、当該障害物データから上述のように生成する。すなわち、地図生成部11は、地図を新たに生成する度に、当該地図を、記憶部11aに記憶されている地図に組み込むことにより、記憶部11aの地図を更新する。
【0026】
<遠隔操縦のための構成>
移動装置20は、
図1のように、カメラ13と通信部15(以下で移動側通信部15ともいう)を備える。カメラ13は、移動装置20の移動中に、移動装置20の進行方向側の領域を繰り返し撮像する。移動側通信部15は、遠隔操縦装置30と無線通信を行う。移動側通信部15は、カメラ13が繰り返し撮像した各画像データを遠隔操縦装置30へ順次送信する。
【0027】
遠隔操縦装置30は、
図1のように、操縦側通信部17と表示装置19と操作装置21と指令生成部25を備える。操縦側通信部17は、移動側通信部15から送信された各画像データを受信する。表示装置19は、操縦側通信部17が受信した各画像データを順次表示する。
【0028】
操縦者は、表示装置19に表示された画像データを見て、操作装置21を操作できる。操作装置21は、移動装置20の進行方向に関する方向操作部22と、移動装置20の速さに関する速度操作部23を含んでよい。
【0029】
指令生成部25は、操作装置21になされた操作に従って操縦指令を生成する。
方向操作部22の操作に従って指令生成部25が生成する操縦指令は、移動装置20の進行方向を、移動装置20の現在の進行方向から右側と左側のいずれに曲げるかを示す方向情報と、当該方向情報が示す方向(右側又は左側)へ曲げる量を示す方向変更量を含む。
速度操作部23の操作に従って指令生成部25が生成する操縦指令は、例えば、移動装置20の速さに対する加減速値を含む。
【0030】
方向操作部22に行われた操作に応じた方向情報と方向変更量が、指令生成部25により生成される。方向操作部22は、例えば、ハンドル又はレバーであってよい。方向操作部22がハンドルである場合、基準回転位置から当該ハンドルを右回り又は左回りに回すことにより、上述の方向情報が示す向き(すなわち、上述の右側または左側)が定まる。また、基準回転位置からの当該ハンドルの回転量が大きいほど大きい方向変更量が、指令生成部25により生成される。方向操作部22がレバーである場合、基準回転位置から当該レバーを右側または左側に操作(例えば、倒す)ことにより、上述の方向情報が示す向き(すなわち、上述の右側または左側)が定まる。また、基準回転位置からの当該レバーの操作量が大きいほど大きい方向変更量が、指令生成部25により生成される。なお、方向操作部22は、上述のハンドル又はレバーに限定されない。
【0031】
速度操作部23に行われた操作に応じた加減速値が、指令生成部25により生成される。加減速値が正の値である場合には、加速を示し、加減速値が負の値である場合には、減速を示す。速度操作部23は、例えばアクセルペダル23aとブレーキペダル23bを含んでよい。この場合、アクセルペダル23a又はブレーキペダル23bになされた操作量が大きいほど絶対値が大きい加減速値が、指令生成部25により生成される。アクセルペダル23aが操作された場合、加減速値は正の値となり、ブレーキペダル23bが操作された場合、加減速値は負の値となる。
【0032】
生成された操縦指令は、操縦側通信部17から移動装置20へ送信される。これにより、移動側通信部15は、この操縦指令を受信する。なお、操作装置21には、例えば、図示しない作動ボタンが設けられていてよく、作動ボタンの操作により、操作装置21が作動状態と非作動状態に切り替えられてよく、操作装置21が非作動状態にある時には、指令生成部25は操縦指令を生成しない。
【0033】
<操縦指令に対する処理を行う構成>
【0034】
移動装置20は、操縦指令処理装置10と制御部33を備える。操縦指令処理装置10は、指令経路生成部27と補正判断部29と補正部31とデータ生成部32とを備える。
【0035】
指令経路生成部27は、記憶部11aに記憶されている上述の地図において、移動側通信部15が受けた操縦指令に従って、移動装置20に対する指令経路を生成する。
【0036】
図3(A)は、指令経路を生成した上述の地図を示す。
図3(A)は、上方から見た地図を示している。指令経路は、移動装置20の現在の進行方向(向き)から操縦指令の方向情報が示す方向(右側又は左側)に、操縦指令の方向変更量に応じた度合いで曲がるように延びていてよい。指令経路の始点(移動装置20の現在位置Pc)において、指令経路の接線は、移動装置20の現在の進行方向と同じであってよい。
【0037】
このような指令経路を生成する時に、指令経路生成部27は、操縦指令と、位置検出部9が検出した移動装置20の現在位置と、向きセンサ7が検出した移動装置20の現在の向きとを用いてよい。指令経路は、一定の曲率を有する曲線(すなわち円弧)、クロソイド曲線、またはスプライン曲線であってよいが、これらに限定されない。
【0038】
指令経路生成部27は、生成した指令経路を補正判断部29とデータ生成部32と後述の評価部37に入力する。
【0039】
補正判断部29は、指令経路が、移動装置20にとって安全な経路であるかを判断する。例えば、補正判断部29は、予め定めた経路条件を指令経路が満たす場合には、指令経路が安全な経路であると判断する。経路条件は、上述の地図において指令経路が障害物に干渉しないという障害物条件を含む。また、経路条件は、さらに、他の条件を含んでいてもよい。なお、他の条件は、例えば、後述の評価項目に関する条件であってよい。すなわち、他の条件は、後述の評価項目である経路曲率半径、移動装置20の横転、移動装置20の横滑り、および路面良好度のうち、予め定められた1つ又は複数(例えば全て)の評価項目についてのそれぞれの後述の評価値が設定値(例えば後述の閾値)以上であるという条件であってよい。ここで、複数の評価項目が予め定められている場合には、他の条件は、当該複数の評価項目の全ての評価値が対応する設定値以上であるという条件であってよい。
【0040】
補正判断部29は、指令経路が安全な経路であると判断した場合には、指令経路を制御経路として制御部33に入力する。
【0041】
指令経路が安全な移動経路ではないと補正判断部29により判断した場合には、補正部31は、指令経路を補正した補正経路を生成する。補正経路は、移動装置20が安全に移動可能な経路である。すなわち、補正経路は、上述の経路条件を満たす経路である。なお、補正経路は、地図において指令経路から横方向にずれた経路であって、始点が指令経路の始点と同じ経路であってよい。
補正部31は、生成した補正経路をデータ生成部32に入力する。また、補正部31は、生成した補正経路を制御経路として制御部33に入力する。
【0042】
データ生成部32は、入力された指令経路と補正経路を表わす経路データを生成する。例えば、経路データは、指令経路と補正経路を互いに比較可能に上記地図において表わしたデータであってよい。例えば、この地図には、上述のように障害物を含む各物体の位置と、移動装置20の現在位置とが表わされており、指令経路と補正経路は、当該現在位置から延びている。この場合、当該地図は、鉛直方向から見た二次元平面の地図であってよい。
【0043】
また、補正判断部29は、指令経路が安全な経路でないと判断した場合に、指令経路を補正する理由を示す理由データを生成してよい。理由データは、例えば、文字または所定のマークである。上記経路条件が障害物条件を含み、指令経路が障害物条件を満たさない場合には、理由データは、操縦指令に従った経路は障害物に干渉することを示すデータである。上記経路条件が、上記評価項目に関する条件を含み、指令経路が当該条件を満たさない場合には、理由データは、操縦指令に従った経路は、当該評価項目に対応するデータである。例えば、当該理由データは、当該評価項目についての評価が低い旨を示すデータであってよい。評価項目に対応する理由データの具体例は、後述する。
【0044】
理由データが生成される場合、データ生成部32は、経路データと理由データを互いに対応付けた補正関連データを生成してよい。
【0045】
移動側通信部15は、上述のように生成された経路データ及び理由データ(例えば上述の補正関連データ)を、遠隔操縦装置30の操縦側通信部17へ送信する。これにより、表示装置19は、操縦側通信部17が受けた経路データ及び理由データ(補正関連データ)を、その画面に表示する。例えば、表示装置19は、画面において、上述の画像データを表示する領域と異なる領域に経路データ及び理由データを表示する。ただし、遠隔操縦装置30において、表示装置19が経路データ及び理由データを表示し、別の表示装置が上述の画像データを表示してもよい。
【0046】
一方、制御部33は、補正判断部29または補正部31から入力された制御経路に従って、移動装置20の移動を制御する。すなわち、制御部33は、移動装置20の駆動装置を制御する。この制御により、移動装置20は、当該制御経路上を移動する。なお、移動装置20の駆動装置は、例えば、移動装置20としての車両のアクセル、ブレーキ、ステアリング、変速機などをそれぞれ操作する複数のアクチュエータにより構成されている。
【0047】
<操縦指令が無い場合の処理を行う構成>
移動装置20は、移動側通信部15が操縦指令を受信しない時に、予め定めた周期で、移動装置20の移動経路を生成する自動経路生成部35を備えていてもよい。自動経路生成部35は、生成した移動経路を制御経路として制御部33に入力する。一例では、自動経路生成部35は、地図生成部11が生成した上述の地図において、移動装置20の現在位置から次の経由点に向かう安全な移動経路を生成する。ここで、安全な移動経路であることの経路条件は、補正判断部29に関して上述した経路条件と同じであってよい。また、次の経由点は、移動装置20が目標位置へ移動するために通過する複数の経由点のうち、移動装置20が次に通過する経由点であってよい。目標位置と複数の経由点は予め設定されている。
【0048】
制御部33は、自動経路生成部35から入力された制御経路に従って、移動装置20の移動を制御する。
【0049】
<操縦指令の評価を行う構成>
操縦指令処理装置10は、移動装置20の遠隔操縦のために遠隔操縦装置30から送信されてきた操縦指令に従った指令経路が安全な傾向にあるかを判定する機能を有していてよい。この場合、操縦指令処理装置10は、更に、評価部37と判定部39と警告生成部41を備える。
【0050】
評価部37は、上述のように指令経路生成部27から入力された指令経路に関して安全性を示す評価値を求める。
判定部39は、評価部37が求めた評価値に基づいて、指令経路が安全な傾向にあるかを判定する。
警告生成部41は、指令経路が安全な傾向にないと判定部39により判定された場合に、警告情報を生成し、移動側通信部15は、生成された警告情報を遠隔操縦装置30へ送信する。この警告情報は、上述の理由データとは別に遠隔操縦装置30へ送信される。
【0051】
評価部37は、例えば、追加経路生成部37aと評価値生成部37bを備える。
【0052】
追加経路生成部37aは、記憶部11aの地図において、指令経路と交差する横方向にずれた複数の追加経路を生成する。例えば、複数の追加経路は、始点は指令経路の始点と同じであり、始点以降の各追加経路上の各点は、指令経路から距離が上限値以下になっている。このような複数の追加経路は、例えば、指令経路に沿って延びていてよい。
図3(B)は、
図3(A)において、指令経路に加えて、複数の追加経路が生成された上述の地図を示す。各追加経路は、一定の曲率を有する曲線、クロソイド曲線、またはスプライン曲線であってよいが、これらに限定されない。なお、指令経路と各追加経路は、一定の長さを有していてもよいし、予め定めた条件を満たす長さを有していてもよい。
【0053】
評価値生成部37bは、指令経路および複数の追加経路の各々の評価値を求める。
【0054】
この場合、判定部39は、指令経路および複数の追加の経路のうち指定本数または指定比率の本数以上の経路の評価値が閾値を下回ったかを判断し、当該判断の結果が肯定である場合には、指令経路が安全な傾向にないと判定する。
【0055】
また、評価値生成部37bは、複数の評価項目の各々について、指令経路および複数の追加経路の評価値をそれぞれ求めてよい。この場合、判定部39は、複数の評価項目の各々について、指令経路および複数の追加経路のうち指定本数または指定比率の本数以上の経路の評価値が閾値を下回ったかどうかを判断し、当該判断の結果が肯定である場合には、当該評価項目について指令経路が安全な傾向にないと判定する。ここで、評価項目毎に当該閾値が設定されており、これらの閾値は互いに異なっていてよい。なお、評価項目については後述する。
【0056】
警告生成部41は、指令経路が安全な傾向にないと判定された評価項目に対応する警告情報を生成し、移動側通信部15は、当該警告情報を遠隔操縦装置30へ送信する。ここで、複数の評価項目にそれぞれ対応する警告情報は、互いに異なっている。
【0057】
(各部の処理手順)
次に、各部の処理の手順を
図4と
図5に基づいて説明する。
【0058】
<地図生成処理>
図4(A)は、地図生成処理のフローチャートである。地図生成処理は、ステップS1,S2を含む。
ステップS1では、障害物センサ3により上述の障害物データを取得する。ステップS1は、移動装置20の移動中に繰り返し行われる。
ステップS2は、ステップS1で障害物データが取得される度に、当該障害物データに基づいて行われる。すなわち、ステップS2では、地図生成部11により、ステップS1で取得した障害物データに基づいて地図を生成し、上述のように記憶部11aの地図を更新する。
【0059】
<画像生成表示処理>
図4(B)は、画像生成表示処理のフローチャートである。画像生成表示処理は、ステップS3~S5を含む。
ステップS3で、移動装置20のカメラ13は、移動装置20の進行方向側の領域を撮像した画像データを生成する。ステップS3は、移動装置20の移動中に繰り返し行われる。ステップS3で画像データが生成される度に、当該画像データに対してステップS4、S5が行われる。
ステップS4で、移動側通信部15は、この画像データを遠隔操縦装置30へ送信する。
ステップS5で、操縦側通信部17は、ステップS4で送信された画像データを受け、表示装置19は、この画像データを表示する。
【0060】
<操縦者の操作>
一方、操縦者は、ステップS5で繰り返し表示される画像データを見て、操作装置21に操作を行うことができる。操作装置21に操作が行われると、指令生成部25は、上述のように、操作装置21に行われた操作に従って操縦指令を生成し、この操縦指令が操縦側通信部17から移動装置20へ送信される。
【0061】
<移動装置20の制御処理>
図5は、移動装置20における処理を示すフローチャートである。この処理は、上述の地図生成処理と画像生成表示処理と並行して行われ、ステップS6~S18を含む。本発明の実施形態による操縦指令処理方法は、
図5に示すようにステップS6~S12とステップS16~S18を有する。
【0062】
ステップS6は、移動装置20の移動中に繰り返し行われる。ステップS6で、移動側通信部15が遠隔操縦装置30から操縦指令を受けたかが判断され、操縦指令を受けた場合には、ステップS7へ進む。一方、予め定めた期間にわたって、移動側通信部15が操縦指令を受けない場合には、ステップ14へ進んでよい。
【0063】
ステップS7で、指令経路生成部27は、ステップS6で受けた操縦指令に従って、指令経路を生成する。詳しくは、指令経路生成部27は、上述の地図生成処理で生成された最新の地図において、操縦指令に従って移動装置20の現在位置から延びる指令経路を生成する。この現在位置は、位置検出部9に検出され指令経路生成部27に入力されたものである。指令経路生成部27は、生成した指令経路を補正判断部29と評価部37に入力する。
【0064】
ステップS8で、補正判断部29は、ステップS7で生成された指令経路が安全な経路であるかを上述のように判断する。この判断の結果が肯定である場合には、ステップS9へ進み、そうでない場合には、ステップS10へ進む。
【0065】
ステップS9では、補正判断部29は、指令経路を制御経路として制御部33へ入力する。
ステップS10で、補正判断部29は、指令経路を補正する理由を示す理由データを生成し、補正部31は、上述のように指令経路を補正した補正経路を生成し、この補正経路を制御経路として制御部33へ入力する。
【0066】
ステップS11で、データ生成部32は、ステップS7で生成された指令経路とステップS10で生成された補正経路を表わす経路データを生成する。この時、データ生成部32は、当該経路データとステップS10で生成された理由データとを互いに対応付けた補正関連データを生成してもよい。
【0067】
ステップS12で、移動側通信部15は、ステップS10で生成された理由データとステップS11で生成された経路データを、操縦側通信部17へ送信する。この時、当該理由データと経路データとして上述の補正関連データが移動側通信部15により操縦側通信部17へ送信されてもよい。これにより、遠隔操縦装置30では、理由データと経路データが、操縦側通信部17に受信されて表示装置19によりその画面に表示される。なお、当該理由データは、表示される代わりに、遠隔操縦装置30において、図示しない出力装置により、音声で出力されてもよい。
【0068】
一方、ステップS13で、制御部33は、ステップS9又はS10で入力された制御経路に従って移動装置20の移動を制御する。この時、ステップS6で受けた操縦指令に加減速値が含まれている場合には、制御部33は、この加減速値に従って移動装置20の速さを制御する。
【0069】
一方、ステップS14では、自動経路生成部35は、上述のように移動装置20の安全な移動経路(例えば次の経由点へ向かう経路)を生成し、この移動経路を制御経路として制御部33に入力する。
【0070】
ステップS15で、制御部33は、ステップS14で入力された制御経路に従って移動装置20の移動を制御する。
【0071】
<経路傾向判定処理>
本発明の実施形態による操縦指令処理方法は、経路傾向判定処理を含んでよい。この経路傾向判定処理は、ステップS6で移動側通信部15が操縦指令を受ける度に行われてよい。経路傾向判定処理は、上述した操縦指令処理装置10により行われる。経路傾向判定処理は、ステップS16~S18を含む。
【0072】
ステップS16において、評価部37は、ステップS7で生成された指令経路に関して安全性を示す評価値を求める。本実施形態では、ステップS16は、ステップS161、S162を含む。
【0073】
ステップS161で、追加経路生成部37aは、ステップS7で生成された指令経路と交差する横方向に当該指令経路からずれた複数の追加経路を生成する。
ステップS162で、評価値生成部37bは、指令経路および複数の追加経路の各々の評価値を求める。この時、評価値生成部37bは、複数の評価項目毎に、指令経路および複数の追加経路の各々の評価値を求めてよい。
【0074】
ステップS17で、判定部39は、ステップS16(S162)で求められた評価値に基づいて、ステップS7で生成された指令経路が安全な傾向にあるかを判定する。例えば、判定部39は、指令経路および複数の追加の経路のうち指定本数または指定比率の本数以上の経路の当該評価値が閾値を下回ったかを判断し、この判断の結果が肯定である場合には、指令経路が安全な傾向にないと判定する。ステップS16(S162)で複数の評価項目毎に評価値が求められている場合には、ステップS17で、判定部39は、各評価項目について、上記判断を行い、当該判断の結果が肯定である場合には、当該評価項目について指令経路が安全な傾向にないと判定する。
【0075】
ステップS17において指令経路が安全な傾向にないと判定された場合には、ステップS18へ進み、そうでない場合には、経路傾向判定処理を終了する。複数の評価項目についてステップS17の判定が行われた場合には、ステップS17において、少なくとも1つの評価項目について指令経路が安全な傾向にないと判定された場合には、ステップS18へ進み、そうでない場合には、経路傾向判定処理を終了する。
【0076】
ステップS18において、警告生成部41は、指令経路が安全な傾向にない旨の警告情報を生成し、移動側通信部15は、遠隔操縦装置30へ送信する。複数の評価項目についてステップS17の判定が行われた場合には、指令経路が安全な傾向にないと判定された評価項目毎に、当該評価項目に対応する警告情報を生成して遠隔操縦装置30へ送信する。
【0077】
移動側通信部15が送信した警告情報は、操縦側通信部17に受けられて表示装置19に表示されてよい。操縦者は、表示された警告情報を見て、移動装置20の移動経路を修正するための操作を操作装置21に行うことができる。なお、当該警告情報は、表示される代わりに、遠隔操縦装置30において、図示しない出力装置により、音声で出力されてもよい。
【0078】
(評価項目の詳細)
補正判断部29と評価値生成部37bが用いる評価項目とその評価値の具体例を以下で説明する。
【0079】
複数の評価項目として、例えば、以下の(1)経路曲率半径、(2)移動装置20の横転、(3)移動装置20の横滑り、(4)障害物との距離、および(5)路面良好度のうち2つ以上(例えば全て)がある。以下、各評価項目についての評価値を説明する。以下で、指令経路と複数の追加経路の各々を評価経路と呼ぶ。
【0080】
(1)経路曲率半径
経路曲率半径についての評価値は、評価経路の最小曲率半径である。最小曲率半径は、評価経路の全範囲(評価経路の始点から終点まで)の各局所部分における曲率半径(旋回半径)のうちの最小値である。例えば、各局所部分について、当該局所部分から3点を選び、当該3点を通る円弧の曲率が当該局所部分の曲率半径として計算されてよい。
【0081】
(2)移動装置20の横転
移動装置20の横転についての評価値は、当該横転に関する安全性を示す評価値である。この評価値は、例えば、移動装置20の速さから横転限界速さを引いた値である。ここで、移動装置20の速さは、速度センサ5が検出した移動装置20の現在の速さであってもよいし、操縦指令が加減速値を含む場合には、速度センサ5が検出した移動装置20の現在の速さと当該加減速値を加味した速さであってよい。
【0082】
横転限界速さは、移動装置20が評価経路上を移動する場合に、移動装置20が評価経路における最小曲率半径の位置を通過する時に横転することになる移動装置20の下限速さである。すなわち、移動装置20が評価経路上を移動する場合に、移動装置20の速さが下限速さ(横転限界速さ)よりも低ければ、移動装置20は横転せずに最小曲率半径の上記位置を通過でき、移動装置20の速さが下限速さ以上であれば、移動装置20は最小曲率半径の上記位置を通過する時に横転してしまう。
【0083】
最小曲率半径の各値についての横転限界速さは、想定条件(例えば路面と移動装置20の走行タイヤ1との想定動摩擦係数)に基づいて予め求められていてよい。この場合、評価値生成部37bは、最小曲率半径の各値についての横転限界速さを記憶していてよく、記憶している横転限界速さと評価経路に基づいて、上記評価値を算出してよい。
【0084】
(3)移動装置20の横滑り
移動装置20の横滑りについての評価値は、当該横滑りに関する安全性を示す評価値である。この評価値は、例えば、移動装置20の速さから横滑り限界速さを引いた値である。ここで、移動装置20の速さは、速度センサ5が検出した移動装置20の現在の速さであってよいし、操縦指令が加減速値を含む場合には、速度センサ5が検出した移動装置20の現在の速さと当該加減速値を加味した速さであってよい。
【0085】
横滑り限界速さは、移動装置20が評価経路上を移動する場合に、移動装置20が評価経路における最小曲率半径の位置を通過する時に横滑りすることになる移動装置20の下限速さである。すなわち、移動装置20が評価経路上を移動する場合に、移動装置20の速さが下限速さ(横滑り限界速さ)よりも低ければ、移動装置20は横滑りせずに最小曲率半径の上記位置を通過でき、移動装置20の速さが下限速さ以上であれば、移動装置20は最小曲率半径の上記位置を通過する時に横滑りしてしまう。
【0086】
最小曲率半径の各値についての横滑り限界速さは、上記想定条件に基づいて予め求められていてよい。この場合、評価値生成部37bは、最小曲率半径の各値についての横滑り限界速さを記憶していてよく、記憶している横滑り限界速さと評価経路に基づいて、上記評価値を算出してよい。
【0087】
(4)障害物との距離
障害物との距離についての評価値は、記憶部11aの地図において評価経路に最も近い障害物と当該評価経路との距離(例えば、当該障害物において最も評価経路に近い点と評価経路との最短距離)である。なお、評価経路上に障害物が存在する場合には、当該離間距離はゼロである。
【0088】
(5)路面状態
路面状態についての評価値は、評価経路上の路面の良好度(以下で路面良好度という)である。路面良好度は、評価経路に沿った路面領域の高低差に基づいて算出される。路面良好度は、次のように、評価経路の各評価領域について算出した指標値の最低値であってよい。まず、対象とする評価経路に沿って該評価経路の始点から終点まで移動装置20が移動した場合に、移動装置20が通過することになる、評価経路に沿って間隔をおいた各評価領域毎に、該評価領域における上記各計測点の高さに基づいて、該評価領域が、走行不能であるか、段差面であるか、平面であるか、または、凹凸面であるかを判断する。その上で、評価経路の各評価領域の中に、走行不能であると判断されたものがある場合には、評価経路の路面良好度を0にし、そうでない場合には、次のようにする。すなわち、各評価領域毎に、段差面であると判断した場合には、その段差がどれだけ小さいかを示す路面良好度の指標値を算出し、平面であると判断した場合には、その路面良好度の指標値を算出し、凹凸面であると判断した場合には、その凹凸がどれだけ小さいかを示す路面良好度の指標値を算出し、評価経路のすべての評価領域の各指標値のうち最も小さい値を、評価経路の路面良好度とする。各指標値は、0~1までの値をとるものであってよい。
【0089】
以下において、路面良好度について詳しく説明する。
【0090】
路面良好度は、移動装置20の現在位置を含む、記憶部11aの地図に組み込まれた上記各計測点の高さに基づいて評価値生成部37bにより算出される。これら各計測点の高さは、それぞれ、実際の路面上の対応する各位置の高さであり、上述のレーザレーダ3により取得され地図座標系に変換された障害物データの各計測点の座標(鉛直方向を向く座標軸の座標)である。
【0091】
評価経路の路面良好度は、当該評価経路における各評価領域の指標値のうち最も低い値である。
図6(A)は、1つの評価経路における各評価領域ERを破線で示す。評価経路の各評価領域毎に、当該評価領域の各計測点の高さに基づいて指標値が算出され、算出された各評価領域の指標値のうち最も低い値を、当該評価経路の路面良好度とする。
図6(A)に示すように、評価経路の各評価領域ERは、2次元地図において、評価経路上の所定間隔をおいた各位置(
図6(A)において白丸で示す)にあり、当該位置において評価経路と交差(例えば、直交)する両側(水平方向両側に対応)へ、当該位置が中心となるように広がっている線状領域である。この線状領域ERの長さは、2次元地図において、移動装置20(車体)の幅に相当する長さ程度(例えば移動装置20の幅に余裕幅を加えた長さ)であるのがよい。
【0092】
評価経路の各評価領域の指標値は、
図7のフローチャートに従って算出され、各評価領域の指標値のうち最も値が低いものを、当該評価経路の路面良好度とする。
【0093】
評価領域の指標値を算出する方法について
図7などを参照して説明する。
図6(B)は、
図6(A)における複数の線状の評価領域ERのうちの任意の1つを示した部分拡大図である。
【0094】
ステップST1において、
図6(B)に示す評価領域ER上に存在し互いに間隔が置かれている複数の計測点(
図6(B)において白丸で示す)のうち左右の各走行タイヤ1毎に、第1~第4の計測点P
m1~P
m4について、隣接する2つの計測点毎に、当該2つの計測点の高低差を算出し、当該2つの計測点間の勾配を算出し、これら高低差の分散を算出する。
【0095】
第1~第4の計測点P
m1~P
m4を
図6(B)に基づいて説明する。
図6(B)において、破線は、通過する移動装置20(車両)の左右の走行タイヤ1を示す。
図6(B)のように、このステップST1で使用する計測点が各タイヤの幅(図における左右方向の幅)内に2~3つ以上存在する。より詳しく述べると、
図6(B)の破線で囲まれた2つの部分は、評価経路を移動装置20が通る場合に、移動装置20の左右の2つの走行タイヤ1が評価領域ERを通過する時のこれら走行タイヤ1を示す。第1および第2の計測点P
m1、P
m2は、
図6(B)に示すように、路面が平面である場合に走行タイヤ1が当該路面と接触する接触領域における当該走行タイヤ1の左右一方側端を挟む。第3および第4の計測点P
m3、P
m4は、路面が平面である場合に走行タイヤ1が当該路面と接触する接触領域における当該走行タイヤ1の左右他方側端を挟む。第1および第4の計測点P
m1、P
m4は、接触領域外にあり、第2および第3の計測点P
m2、P
m3は、接触領域内にある。
【0096】
上述した隣接する2つの計測点の高低差は、当該2つの計測点の高さの差であり、上述した2つの計測点間の勾配は、水平面からの傾き角度であり、水平方向に関する当該2つの計測点の位置座標値の差をXとし、当該2つの計測点の高さの差をYとして、Atan(Y/X)である。Atanは、正接の逆関数(アークタンジェント)である。
【0097】
ステップST2において、各走行タイヤ1に対応する第1~第4の計測点Pm1~Pm4について、隣接する2つの計測点(Pm1とPm2など)の高低差が、所定のしきい値以上であるかを判断する。すなわち、ステップST1で算出した高低差の中に、所定の高低差しきい値以上となるものがある場合には、ステップST3へ進む。一方、ステップST1で算出した高低差の中に、高低差しきい値以上となるものがない場合には、ステップST4へ進む。
【0098】
ステップST3において、対象の評価領域は通過不可能(走行不能)であるとして、指標値を0にする。
【0099】
ステップST4において、対象とする評価領域が段差面であるかどうかを判断する。すなわち、各走行タイヤ1に対応する第1~第4の計測点Pm1~Pm4について、ステップST1で算出した第1および第2の計測点Pm1、Pm2間の勾配、および、ステップST1で算出した第3および第4の計測点Pm3、Pm4間の勾配のいずれもが、平面とみなせる上限値以下である場合には、対象とする評価領域が段差面であるとして、ステップST5に進む。一方、そうでない場合には、ステップST6へ進む。
【0100】
図8は、ステップST4、ST6、ST8の説明図である。
図8(A)~(C)のグラフでは、横軸が、走行タイヤ1に対応する各計測点P
m1~P
m4の水平方向位置座標を示し、縦軸が、これら計測点P
m1~P
m4の高さを示し、白丸が、各計測点P
m1~P
m4を示す。例えば、ステップST4において、
図8(A)の場合には、対象とする評価領域が段差面であるとして、ステップST5に進む。
【0101】
ステップST5において、ステップST1で算出した、左側の走行タイヤ1に対応する第2および第3の計測点P
m2、P
m3の高低差の大きさと、右側の走行タイヤ1に対応する第2および第3の計測点P
m2、P
m3の高低差の大きさのうち、大きい方に応じて、指標値を算出する。例えば、
図9(A)に示す関係に従って指標値を算出する。
図9(A)のグラフは、計測点P
m2、P
m3の高低差の大きさが大きい方の走行タイヤ1の当該計測点P
m2、P
m3の高低差の大きさと指標値との関係を示す。
【0102】
ステップST6において、対象とする評価領域が平面とみなせるかどうかを判断する。すなわち、ステップST1で算出した高低差の分散が、平面とみなせる上限値以下である場合には、対象とする評価領域は平面であるとして、ステップST7へ進む。ここで、分散は、ステップST1で算出した高低差に基づいて計算される。すなわち、ステップST1で算出した各高低差について、当該高低差と、ステップST1で算出した高低差の平均値との差を自乗し、これら自乗して得た値の平均値が、上述の分散である。一方、ステップST1で算出した高低差の分散が、平面とみなせる上限値以下でない場合には、ステップST8へ進む。
例えば、
図8(B)の場合には、対象とする評価領域が平面であるとして、ステップST7に進む。
【0103】
ステップST7において、ステップST6で算出した分散に応じて、指標値を算出する。例えば、
図9(B)に示す関係に従って指標値を算出する。
図9(B)のグラフは、分散と指標値との関係を示す。
【0104】
ステップST8において、対象とする評価領域が凹凸面であるとする。例えば、
図8(C)の場合には、対象とする評価領域が凹凸面であるとする。
また、ステップST8において、ステップST1で算出した高低差の大きさのうち最大となるもの(最大高低差という)に応じて、指標値を算出する。例えば、
図9(C)に示す関係に従って指標値を算出する。
図9(C)のグラフは、最大高低差と指標値との関係を示す。
【0105】
<理由データの具体例>
補正判断部29により生成される、評価項目に対応する理由データについて説明する。経路曲率半径(最小曲率半径)の評価項目に対応する理由データは、操縦指令に従った経路のカーブが大きすぎることを示すデータであってよい。移動装置20の横転の評価項目に対応する理由データは、操縦指令に従った経路では移動装置20が横転するおそれがあることを示すデータであってよい。移動装置20の横滑りの評価項目に対応する理由データは、操縦指令に従った経路では移動装置20が横滑りするおそれがあることを示すデータであってよい。路面良好度の評価項目に対応する理由データは、操縦指令に従った経路の路面状態が悪いことを示すデータであってよい。
【0106】
<警告情報の具体例>
警告生成部41により生成される、各評価項目に対応する警告情報について説明する。
最小曲率半径の評価項目に対応する警告情報は、操縦指令に従った経路のカーブが大きすぎる傾向にあることを表わす情報であってよい。移動装置20の横転の評価項目に対応する警告情報は、操縦指令に従った経路では移動装置20が横転する傾向にあることを表わす情報であってよい。移動装置20の横滑りの評価項目に対応する警告情報は、操縦指令に従った経路では移動装置20が横滑りする傾向にあることを表わす情報であってよい。障害物との距離の評価項目に対応する警告情報は、操縦指令に従った経路は障害物と干渉する傾向にあることを表わす情報であってよい。路面良好度の評価項目に対応する警告情報は、操縦指令に従った経路の路面状態が悪い傾向にあることを表わす警告情報であってよい。
【0107】
なお、評価値生成部37bは、上述した複数の評価項目のいずれか1つについて、指令経路および複数の追加経路の評価値をそれぞれ求めてよい。この場合、判定部39は、当該評価項目について、指令経路および複数の追加経路のうち指定本数または指定比率の本数以上の経路の評価値が閾値を下回ったかどうかを判断し、当該判断の結果が肯定である場合には、指令経路が安全な傾向にないと判定する。この場合、警告生成部41は、当該評価項目に対応する警告情報を生成する。
【0108】
(実施形態の効果)
本実施形態による操縦指令処理装置10は、操縦指令に従った指令経路が安全かどうかを判断し、安全でないと判断した場合には、補正経路を生成するとともに、指令経路と補正経路を表わす経路データを遠隔操縦装置30へ送信する。これにより、経路データが表示装置19に表示される。したがって、遠隔操縦装置30の操縦者は、表示された指令経路と補正経路を見て、両者の差異を把握できるので、不適切な操縦指令を操縦者が与えることを防止できる。例えば、操縦者は、地図上の障害物に対して、当該地図上の指令経路と補正経路のうち補正経路のほうが好ましい経路であることを認識して、追加の不適切な操縦指令を与えなくなる。
【0109】
また、操縦指令処理装置10は、指令経路が安全な経路でないと判断した場合に、指令経路を補正する理由を示す理由データを生成し、通信部15は、経路データおよび理由データを遠隔操縦装置30へ送信する。これにより、経路データだけでなく理由データも表示装置19の画面に表示される。遠隔操縦装置30の操縦者は、表示された理由データを見て、指令経路が補正された理由を知ることができる。これにより、補正経路を指令経路に戻すような追加の不適切な操縦指令がなされることを、より確実に防止できる。
【0110】
操縦指令処理装置10は、遠隔操縦装置30からの操縦指令に従った指令経路を生成し、この指令経路に関して安全性を示す評価値を求め、評価値に基づいて、指令経路が安全な傾向にあるかを判定し、安全な傾向にないと判定された場合に、遠隔操縦装置30へ警告情報を送信する。この警告情報により、遠隔操縦装置30の操縦者は、自身が行った操作による指令経路が安全でない傾向にあることを知ることができる。したがって、操縦指令に従った指令経路が補正部31により補正される前に、操縦者自身が、警告情報に基づいて、移動経路を修正するための操作を遠隔操縦装置30に行うことができる。このように、操縦者自身が移動経路を修正することが可能になるので、操縦者に操縦の違和感を与えることを回避できる。
【0111】
また、指令経路が安全でないと補正判断部29により判断される前に、指令経路が安全でない傾向にある段階で、操縦者は、警告情報に基づいて、移動経路を修正するための操作を遠隔操縦装置30に行うことができる。これにより、操縦者自身の操作により、移動装置20の移動が困難な状況に陥ることを回避することも可能になる。よって、このような状況をより確実に回避できる。
【0112】
操縦指令に従って生成された移動経路を指令経路として、追加経路生成部37aは、指令経路から横方向にずれた複数の追加経路を生成し、評価値生成部37bは、指令経路および複数の追加経路の各々の評価値を求め、これらの評価値に基づいて、指令経路が安全な傾向にあるかを判定できる。すなわち、指定本数または指定比率の本数以上の経路の評価値が閾値を下回った場合には、指令経路が安全な傾向にないと判定できる。
【0113】
評価値生成部37bは、複数の評価項目の各々について、指令経路および複数の追加経路の評価値をそれぞれ求め、判定部39は、複数の評価項目の各々について、指令経路および複数の追加経路のうち指定本数または指定比率の本数以上の経路の評価値が閾値を下回ったかどうかを判断する。警告生成部41は、判断の結果が肯定となった評価項目に対応する警告情報を遠隔操縦装置30に送信する。この警告情報により、操縦者は、どの評価項目について操縦指令が適切でなかったかを知ることができる。したがって、操縦者は、当該評価項目について移動経路を修正するための操作を遠隔操縦装置30に行うことができる。
【0114】
本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の技術的思想の範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0115】
1 走行タイヤ、2 地表面、3 障害物センサ、5 速度センサ、7 向きセンサ、9 位置検出部、10 操縦指令処理装置、11 地図生成部、11a 記憶部、13 カメラ、15 移動側通信部、17 操縦側通信部、19 表示装置、20 移動装置、21 操作装置、22 方向操作部、23 速度操作部、23a アクセルペダル、23b ブレーキペダル、25 指令生成部、27 指令経路生成部、29 補正判断部、30 遠隔操縦装置、31 補正部、33 制御部、35 自動経路生成部、37 評価部、37a 追加経路生成部、37b 評価値生成部、39 判定部、41 警告生成部、100 遠隔操縦システム