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特許7153602糸状緑藻の増殖抑制剤、糸状緑藻の増殖抑制キット、及び糸状緑藻の増殖抑制方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-05
(45)【発行日】2022-10-14
(54)【発明の名称】糸状緑藻の増殖抑制剤、糸状緑藻の増殖抑制キット、及び糸状緑藻の増殖抑制方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 65/00 20090101AFI20221006BHJP
   A01P 13/02 20060101ALI20221006BHJP
   A01N 59/02 20060101ALI20221006BHJP
   A01N 25/34 20060101ALI20221006BHJP
   C02F 1/50 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
A01N65/00 Z
A01P13/02
A01N59/02 A
A01N25/34 Z
C02F1/50 510D
C02F1/50 520B
C02F1/50 531J
C02F1/50 532A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019074172
(22)【出願日】2019-04-09
(65)【公開番号】P2020172458
(43)【公開日】2020-10-22
【審査請求日】2021-10-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】リン ブーンケン
(72)【発明者】
【氏名】中村 華子
(72)【発明者】
【氏名】竹内 秀雄
(72)【発明者】
【氏名】茅原 茂
【審査官】高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-084524(JP,A)
【文献】特開2014-159498(JP,A)
【文献】特開2010-116449(JP,A)
【文献】特開2015-033341(JP,A)
【文献】特開2006-213690(JP,A)
【文献】特開平03-135905(JP,A)
【文献】山岸淳,橋爪厚,水田の緑藻類の生態と防除に関する2,3の知見,雑草研究,1974年,No.18,pp.39-43
【文献】木村淳子,藻類へのアレロパシー活性をもつ植物の検索,広島県立総合技術研究所保健環境センター研究報告,No.19,2011年,pp.37-46
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N59/00
A01P13/00
A01M65/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
針葉樹皮を含む樹皮材と、硫黄の単体を含む硫黄材と、を含
前記針葉樹皮の質量:前記硫黄の単体の質量が、0.5~5.0:0.1~1.0である、
糸状緑藻の増殖抑制剤。
【請求項2】
針葉樹皮を含む樹皮材と、硫黄の単体を含む硫黄材と、を含み、
前記針葉樹皮の質量:前記硫黄の単体の質量が、0.5~5.0:0.1~1.0であり、
前記針葉樹皮の少なくとも一部と、前記硫黄の単体の少なくとも一部とが、互いに接触した状態で用いられる、
糸状緑藻の増殖抑制キット。
【請求項3】
針葉樹皮を含む樹皮材と、硫黄の単体を含む硫黄材とを、閉鎖性水域に供給する工程を含み、
前記針葉樹皮の質量:前記硫黄の単体の質量が、0.5~5.0:0.1~1.0であり、
前記針葉樹皮の少なくとも一部と、前記硫黄の単体の少なくとも一部とは、前記閉鎖性水域内で互いに接触している、糸状緑藻の増殖抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸状緑藻の増殖抑制剤、糸状緑藻の増殖抑制キット、及び糸状緑藻の増殖抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
閉鎖性水域における藻類の増殖は、景観の悪化、悪臭発生、水域内の生息生物への悪影響等の問題をもたらし得る。
【0003】
そのため、閉鎖性水域における藻類の増殖を抑制するための様々な技術が開発されている。例えば、ある種の植物が有するアレロパシー(植物等が生産する化学物質が環境に放出されることによって、他植物に直接又は間接的に与える作用)を利用した、藻類の増殖抑制方法が知られる。このような藻類へのアレロパシー活性を有する植物としてユキヤナギ(学名:Spiraea thunbergii)が挙げられる(非特許文献1参照)。また、特許文献1では、スギの樹皮等から得られる抽出物を藻類の増殖を抑制するために用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-84524号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】広島県立総合技術研究所保健環境センター研究報告、No.19.p37-46.(2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、藻類の増殖をより効率的に抑制できる技術に対してニーズがある。
【0007】
本発明は、上記の状況に鑑みてなされたものであり、藻類の増殖をより効率的に抑制できる新規な藻類増殖抑制剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、針葉樹皮と、硫黄の単体との組み合わせが、藻類のうち特に糸状緑藻の増殖を良好に抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的に、本発明は以下を提供する。
【0009】
(1) 針葉樹皮を含む樹皮材と、硫黄の単体を含む硫黄材と、を含む、糸状緑藻の増殖抑制剤。
【0010】
(2) 前記針葉樹皮の質量:前記硫黄の単体の質量が、0.5~5.0:0.1~1.0である、(1)に記載の増殖抑制剤。
【0011】
(3) 針葉樹皮を含む樹皮材と、硫黄の単体を含む硫黄材と、を含み、
前記針葉樹皮の少なくとも一部と、前記硫黄の単体の少なくとも一部とが、互いに接触した状態で用いられる、
糸状緑藻の増殖抑制キット。
【0012】
(4) 針葉樹皮を含む樹皮材と、硫黄の単体を含む硫黄材とを、閉鎖性水域に供給する工程を含み、
前記針葉樹皮の少なくとも一部と、前記硫黄の単体の少なくとも一部とは、前記閉鎖性水域内で互いに接触している、糸状緑藻の増殖抑制方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、藻類の増殖をより効率的に抑制できる新規な藻類増殖抑制剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】藻類を用いた培養試験における実験環境を示す図である。
図2】藻類を用いた培養試験における、日間増重量の結果を示す図である。
図3】藻類を用いた培養試験における、日間増重量の結果を示す図である。
図4】藻類を用いた培養試験における実験環境を示す図である。
図5】藻類を用いた培養試験における、日間増重量の結果を示す図である。
図6】閉鎖性水域での試験における、池水面の藻類被覆面積の割合を示す結果である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれに特に限定されない。
【0016】
<糸状緑藻の増殖抑制剤>
本発明の糸状緑藻の増殖抑制剤(以下、「本発明の増殖抑制剤」ともいう。)は、針葉樹皮を含む樹皮材と、硫黄の単体を含む硫黄材と、を少なくとも含む。
【0017】
従来、スギ等の針葉樹皮から得られる抽出物が、藻類増殖抑制効果を有することが知られていた。しかし、本発明者らは、針葉樹皮及び硫黄の単体を組み合わせて用いると、意外にも、顕著な藻類増殖抑制効果が奏されることを見出した。本発明によれば、針葉樹皮からの抽出を行わずとも、針葉樹皮そのものを利用して藻類増殖抑制効果を簡便に発揮できる。
【0018】
本発明者らがさらに詳細に検討した結果、上記の増殖抑制効果は、針葉樹皮及び硫黄の単体を互いに接触させることで奏される点を見出した。換言すれば、針葉樹皮及び硫黄の単体を互いに接触しないように用いても、十分な藻類増殖抑制効果は奏されなかった。
【0019】
したがって、本発明の増殖抑制剤は、針葉樹皮の少なくとも一部と、硫黄の単体の少なくとも一部とが、互いに接触した状態で用いられる。本発明において、「針葉樹皮の少なくとも一部と、硫黄の単体の少なくとも一部とが、互いに接触している」とは、樹皮材に含まれる針葉樹皮の一部又は全体が、硫黄材に含まれる硫黄の単体の一部又は全体と、直接接触していることを意味する。本発明の増殖抑制剤は、例えば、針葉樹皮の表面に硫黄単体がまぶされた状態で用いられる。
【0020】
(樹皮材)
本発明における樹皮材は、針葉樹皮を含む。「針葉樹皮」とは、針葉樹から剥がされた樹皮そのもの(未処理の樹皮)であってもよく、物理的処理(乾燥処理、粉砕処理等)をされた樹皮であってもよい。ただし、「針葉樹皮」には、溶剤等を用いて得られる樹皮抽出物は含まれない。
【0021】
樹皮材には、針葉樹皮以外の針葉樹の部位(葉、枝、茎、根、果球等)や、針葉樹以外の樹木の部位(皮、葉、枝、茎、根、果球等)が含まれていてもよい。好ましくは、樹皮材は、針葉樹皮からなる。
【0022】
針葉樹皮が由来する針葉樹としては、特に限定されないが、ヒノキ科(スギ、ヒノキ等)、マツ科(アカマツ、クロマツ、トドマツ、エゾマツ等)等の針葉樹が挙げられる。これらのうち、樹皮材には、スギ、ヒノキ、及びマツからなる群から選択される1種以上の樹皮が含まれることが好ましい。
【0023】
樹皮材としては、市販のマルチング材を用いることができる。
【0024】
(硫黄材)
本発明における硫黄材は、硫黄の単体を含む。硫黄の単体としては、八硫黄(S)を主に含むもの、又は、八硫黄からなるものを使用できる。
【0025】
硫黄材には、本発明の増殖抑制剤を投入する環境を害さない任意の硫黄化合物、特に植物が由来する硫黄化合物が含まれているもの(にんにく、ネギ、わさび等)でもよい。好ましくは、硫黄材は、硫黄の単体からなる。
【0026】
(樹皮材と硫黄材との比率)
本発明の増殖抑制剤に配合される樹皮材及び硫黄材の比率は、特に限定されないが、本発明の効果を奏しやすいという観点から、針葉樹皮の量が、硫黄の単体の量と等量以上となるように配合されることが好ましい。例えば、樹皮材中の針葉樹皮の質量と、硫黄材中の硫黄の単体の質量との比は、「樹皮材中の針葉樹皮の質量:硫黄材中の硫黄の単体の質量」が好ましくは0.5~5.0:0.1~1.0、より好ましくは1.0~1.5:0.3~0.8、さらに好ましくは1.2~1.0:0.4~0.5であってもよい。樹皮材の質量と硫黄材の質量との比は、「樹皮材の質量:硫黄材の質量」が好ましくは0.5~2.0:0.2~1.0、より好ましくは1.0~1.5:0.3~0.8、さらに好ましくは1.0~1.2:0.4~0.5であってもよい。
【0027】
本発明の増殖抑制剤に配合される樹皮材の量の下限値は、糸状緑藻増殖抑制効果を奏することができる量であれば特に限定されないが、増殖抑制剤に対する針葉樹皮の量が、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上となるように調整してもよい。樹皮材の量の上限値は、硫黄材を十分に配合する観点から、増殖抑制剤に対する針葉樹皮の量が、好ましくは99質量%以下、より好ましくは70質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下となるように調整してもよい。なお、上記の値は、針葉樹皮の乾燥重量に換算した量である。
【0028】
本発明の増殖抑制剤に配合される硫黄材の量の下限値は、糸状緑藻増殖抑制効果を奏することができる量であれば特に限定されないが、増殖抑制剤に対する硫黄の単体の量が、好ましくは1質量%以上、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上となるように調整してもよい。硫黄材の量の上限値は、樹皮材を十分に配合する観点から、増殖抑制剤に対する硫黄の単体の量が、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下となるように調整してもよい。
【0029】
(その他の成分)
本発明の増殖抑制剤には、上記成分(つまり、樹皮材及び硫黄材)のほか、これらの成分の作用を損なわない範囲で、任意の添加物が含まれていてもよい。このような添加物としては、任意の樹木の全体又は部分からの抽出物、培地、ビタミン、酸化防止剤、キレート剤、pH緩衝剤等が挙げられる。これらの添加物の種類や量は、得ようとする効果に応じて適宜設定できる。
【0030】
本発明の増殖抑制剤は、好ましくは樹皮材及び硫黄材からなる。本発明の増殖抑制剤は、より好ましくは針葉樹皮及び硫黄の単体からなる。
【0031】
(糸状緑藻)
本発明の増殖抑制剤によれば、糸状緑藻の増殖を効果的に抑制できる。糸状緑藻としては特に限定されないが、Spirogyra sp.、Klebsormidium sp.、Stigeoclonium sp.、Ulothrix sp.、Microspora sp.等が挙げられる。これらのうち、本発明によれば、Spirogyra sp.の増殖を特に効果的に抑制できる。糸状緑藻の増殖が抑制されたかどうかは、目視、顕微鏡観察や、実施例の方法を用いて評価できる。
【0032】
<増殖抑制剤の製造方法>
本発明の増殖抑制剤の製造方法は特に限定されず、上記成分を適宜混合、撹拌等することで得られる。また、本発明の増殖抑制剤の剤型も特に限定されない。
【0033】
<糸状緑藻の増殖抑制キット>
本発明の糸状緑藻の増殖抑制キット(以下、「本発明のキット」ともいう。)は、針葉樹皮を含む樹皮材と、硫黄の単体を含む硫黄材と、を含む。樹皮材及び硫黄材の詳細は上述のとおりである。本発明のキットは、針葉樹皮の少なくとも一部と、硫黄の単体の少なくとも一部とが、互いに接触した状態で水域内等に供給されることで糸状緑藻の増殖抑制効果が奏される。樹皮材及び硫黄材は、水域内等に同時に供給してもよく、個別に投入してもよい。
【0034】
本発明のキットにおいて、樹皮材及び硫黄材は、別個に容器等に収容していてもよく、樹皮材及び硫黄材を1つの容器等に収容していてもよい。ただし、本発明のキットの使用時には、針葉樹皮の少なくとも一部と、硫黄の単体の少なくとも一部とが、互いに接触した状態にする。このような状態にするには、例えば、樹皮材及び硫黄材を1つの容器(メッシュ状バッグ、繊維製バッグ等の孔部を有する容器等)に入れることや、針葉樹皮に硫黄の単体がまぶすこと等が挙げられる。
【0035】
<糸状緑藻の増殖抑制方法>
上記のとおり、針葉樹皮を含む樹皮材、及び、硫黄の単体を含む硫黄材の組み合わせにより、糸状緑藻の増殖を抑制できる。本発明によれば、樹皮材及び硫黄材を、針葉樹皮の少なくとも一部と、硫黄の単体の少なくとも一部とが互いに接触するように閉鎖性水域に供給することで糸状緑藻の増殖を効果的に抑制できる。
【0036】
本発明において「閉鎖性水域」とは、外部水域との間での水の出入りが少ない水域を意味する。閉鎖性水域としては、湖沼、溜池、城濠、ビオトープ施設、水槽等が挙げられる。
【0037】
樹皮材及び硫黄材の、閉鎖性水域への供給量は、得ようとする増殖抑制効果の程度に応じて適宜設定できる。
【0038】
樹皮材は、糸状緑藻の増殖を十分に抑制するために、水量1mに対し、樹皮材中の針葉樹皮の量が好ましくは20g以上、さらに好ましくは30g以上となるように供給してもよい。また、樹皮材の供給量は過度でなくとも十分な効果を奏することができるため、水量1mに対し、樹皮材中の針葉樹皮の量を、好ましくは100g以下、さらに好ましくは50g以下となるように供給してもよい。なお、上記の値は、針葉樹皮の乾燥重量に換算した量である。
【0039】
硫黄材は、糸状緑藻の増殖を十分に抑制するために、水量1mに対し、硫黄材中の硫黄の単体の量が好ましくは20g以上、さらに好ましくは30g以上となるように供給してもよい。また、樹皮材の供給量は過度でなくとも十分な効果を奏することができるため、水量1mに対し、樹皮材中の針葉樹皮の量を、好ましくは100g以下、さらに好ましくは50g以下となるように供給してもよい。
【0040】
樹皮材及び硫黄材を閉鎖性水域へ供給するに際しては、その順番は限定されず、これらを同時に供給してもよいし、一方を先に供給した後に他方を供給してもよい。ただし、樹皮材及び硫黄材は、針葉樹皮の少なくとも一部と、硫黄の単体の少なくとも一部とが互いに接触するように閉鎖性水域へ供給される。
【0041】
樹皮材及び硫黄材を閉鎖性水域へ供給する方法は、樹皮材及び硫黄材と、閉鎖性水域中の水とが接触でき、かつ、針葉樹皮の少なくとも一部と、硫黄の単体の少なくとも一部とが互いに接触できれば特に限定されないが、例えば、下記の方法が挙げられる。
(1)樹皮材に硫黄材をまぶした後、これを閉鎖性水域内に直接投入する。
(2)閉鎖性水域の底部に、樹皮材及び硫黄材を一緒に詰めた孔部を有する容器(繊維製バッグ等)を設置する。
(3)閉鎖性水域に設けられた装置(濾過装置、ポンプ等)の一部に、樹皮材及び硫黄材を一緒に詰めた孔部を有する容器(メッシュ状バッグ、繊維製バッグ等)を組み込み、閉鎖性水域内を循環する水と、これらの成分とを接触させる。
(4)樹皮材及び硫黄材を一緒に入れた浮島を、閉鎖性水域の表面に浮遊させる。浮島は太陽電池等で稼働させて閉鎖性水域内を移動してもよい。
【実施例
【0042】
以下に、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0043】
<藻類を用いた培養試験-1>
以下の方法で、樹皮材及び硫黄材による藻類増殖抑制効果を評価した。なお、以下、表中の樹皮材の量は、針葉樹皮の乾燥重量に換算した量である。
(1)ガラス製角型水槽(幅200mm×奥行200mm×高さ250mm)を4つ用意し、各水槽に8L水道水を注ぎ、栄養塩(商品名「HYPONeX5-10-5」、村上物産株式会社製)を添加した後、糸状緑藻(湿重量1.0g)を入れた。糸状緑藻としては、株式会社京都科学より譲渡されたSpirogyra sp.(アオミドロとして知られる。)を用いた。水槽底には80gの砂利(0.5~2mmサイズ)を敷いた。
(2)各水槽に、表1に示す量の材を投入した。また、材を投入しない対照も用意した。各材は、図1に示すように、樹皮材及び/又は硫黄材を、1つの不織布の葉袋(お茶パック)に詰め、通気管とネットの間に挟んで水中に固定した。
(3)各水槽へ材を投入した後、水温24℃、照度9000lux、12時間の明暗周期で、28日間、微量の曝気をしながら糸状緑藻を培養した。
(4)培養開始時点及び培養終了時点での各水槽中の糸状緑藻の湿重量を測定した。以下の式に基づき、各区の日間増殖重量(単位:g/日)を算出した。
日間増重量(g/日)=(培養終了時点の湿重量-培養開始時点の湿重量)/培養日数
(5)培養期間中、水槽内を曝気しながら、7日ごとにpH及び電気伝導度を測定した。pHは商品名「pH meter D-52型」(株式会社堀場製作所製)を用いて測定し、電気伝導度は商品名「COND meter ES-71型」(株式会社堀場製作所製)を用いて測定した。
【0044】
各材として以下を用いた。
樹皮材:針葉樹皮マルチング材(スギ、ヒノキ、マツの樹皮を含む。)、丸和バイオケミカル株式会社製
硫黄材:硫黄の単体の粉末、株式会社日本ランテック製
【0045】
【表1】
【0046】
各区の日間増重量を図2に示す。日間増重量が少ないほど、糸状緑藻の増殖抑制効果が高いことを意味する。図2に示されるとおり、樹皮材区では、対照区よりもやや高い増殖抑制効果が認められた。硫黄材区では増殖抑制効果が認められなかった。他方で、混合材区では、他の各区よりも顕著に高い増殖抑制効果が認められた。以上から、硫黄材及び樹皮材を組み合わせることで顕著に高い増殖抑制効果が生じるという、意外な相乗効果が奏されることがわかった。
【0047】
なお、培養期間中、いずれの区においても、pH7~8、電気伝導度18~20mS/mであり、各材の投入によって水質の急激な変動は生じなかった。
【0048】
<藻類を用いた培養試験-2>
水槽に投入する材の量を表2に示される量に変更した点以外は、上記<藻類を用いた培養試験-1>同様の方法で、各区の日間増殖重量を算出した。その結果を図3に示す。
【0049】
【表2】
【0050】
図3に示されるとおり、いずれの混合材区においても、糸状緑藻の増殖抑制効果が高かった。硫黄材と少なくとも等量の樹皮材を用いることで、十分な増殖抑制効果が奏された。
【0051】
なお、培養期間中、いずれの区においても、pH7~8、電気伝導度14~16mS/mであり、各材の投入によって水質の急激な変動は生じなかった。
【0052】
<藻類を用いた培養試験-3>
水槽に投入する材の量及び材の投入条件を表3に示される条件に変更した点以外は、上記<藻類を用いた培養試験-1>同様の方法で、各区の日間増殖重量を算出した。その結果を図5に示す。
【0053】
なお、「混合材区3-1」は、樹皮材及び硫黄材を1つの袋に詰め、この袋を水槽に投入した区である(つまり、樹皮材及び硫黄材が互いに接触した状態で、樹皮材及び硫黄材が同時に投入された区である。)。
「分離投入区3-1」は、樹皮材及び硫黄材を別々の袋に詰め、これらの袋を同時に水槽に投入した区である(つまり、樹皮材及び硫黄材が互いに接触していない状態で、樹皮材及び硫黄材が同時に投入された区である。)。
「分離投入区3-2」及び「分離投入区3-3」は、樹皮材及び硫黄材を別々の袋に詰め、これらの袋を7日の間隔を空けて別々に水槽に投入した区である(つまり、樹皮材及び硫黄材が互いに接触していない状態で、樹皮材及び硫黄材が別々に投入された区である。)。「分離投入区3-2」は樹皮材を先に投入した区であり、「分離投入区3-3」は硫黄材を先に投入した区である。
【0054】
【表3】
【0055】
図5に示されるとおり、混合材区では糸状緑藻の増殖抑制効果が高かった。
【0056】
他方で、分離投入区では、投入順序にかかわらず、対照区よりも糸状緑藻の増殖抑制効果がやや高かったものの、混合材区よりも増殖抑制効果が劣っていた。
【0057】
以上のことから、樹皮材及び硫黄材は、これらが接触した状態で供給されることで、顕著に高い糸状緑藻の増殖抑制効果を奏することがわかった。
【0058】
<閉鎖性水域における試験>
以下の方法で、樹皮材及び硫黄材による藻類増殖抑制効果を評価した。
(1)樹皮材及び硫黄材の混合材として、以下をメッシュ状の袋(幅620mm×奥行20mm×高さ480mm)に詰めたものを24個用意した。
樹皮材:2kg、針葉樹皮マルチング材(スギ、ヒノキ、マツの樹皮を含む。)、丸和バイオケミカル株式会社製
硫黄材:1kg、硫黄粉末、株式会社日本ランテック製
(2)上記(1)で用意した混合材を、閉鎖性水域(日本国内にあるゴルフ場修景池(池の水量:480m))の池底に固定した。池の水量に対する混合材の投入量は、樹皮材100g/m及び硫黄材50g/mに相当する。
(3)混合材を投入後、75日間(6月~7月)にわたって、池水面における藻類被覆面積の割合を目視観察で測定した。その結果を図6に示す。
【0059】
なお、図6中、「対照区」とは、混合材を投入しなかった点以外は、混合材を投入した池と同様の環境の池において池水面における藻類被覆面積の割合を測定した結果である。
【0060】
本試験における測定は、藻類が最も繁茂する6~7月にかけて行った。図6に示されるとおり、対照区では藻類が増殖し、池水面の藻類被覆面積が経時的に増加したのに対し、混合材区では藻類の増殖が抑制されており、池水面の藻類被覆面積の増加が抑制されていた。
【0061】
対照区及び混合材区のそれぞれにおける藻類の増殖を詳細に検討したところ、対照区では糸状藻類が増殖しているのに対し、混合材区では糸状藻類(アオミドロ、学名「Spirogyra sp.」)の増殖が、対照区と比較して顕著に抑制されていることがわかった。他方で、混合材区では浮遊緑藻類の増殖が認められたが、このことは、景観(池水面の藻類被覆面積の増加)に影響を及ぼさなかった。以上から、本発明の混合材は、糸状藻類の抑制に有効であることがわかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6