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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-05
(45)【発行日】2022-10-14
(54)【発明の名称】石垣の補強構造および石垣の修復方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 29/02 20060101AFI20221006BHJP
   E02D 17/20 20060101ALI20221006BHJP
   E02D 17/18 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
E02D29/02 303
E02D17/20 103H
E02D17/18 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019103608
(22)【出願日】2019-06-03
(65)【公開番号】P2020197059
(43)【公開日】2020-12-10
【審査請求日】2021-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】境 吉彦
【審査官】彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-63774(JP,A)
【文献】特開2004-124516(JP,A)
【文献】特開2004-218265(JP,A)
【文献】特開平7-34461(JP,A)
【文献】特開平3-69721(JP,A)
【文献】特開2011-26792(JP,A)
【文献】特開2003-96778(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 29/02
E02D 17/20
E02D 17/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
築石の控えの部分に巻き付けられたベルトと、
前記築石の背面側に積まれた栗石の内部に配置された補強ネットと、
前記ベルトと前記補強ネットとを連結する連結部材と、
を具備することを特徴とする石垣の補強構造。
【請求項2】
前記補強ネットが、前記築石の背面側に配置された石材を巻き込むように配置されたことを特徴とする請求項1記載の石垣の補強構造。
【請求項3】
前記補強ネットは、平面視で前記築石の控えの長さ方向に平行な切込みを設けることによって端部付近が帯状に分割され、帯状に分割された部分が前記石材を巻き込むように配置されたことを特徴とする請求項2記載の石垣の補強構造。
【請求項4】
前記補強ネットに取り付けられた帯状材または線状材が、前記築石の背面側に配置された石材を巻き込むように配置されたことを特徴とする請求項1記載の石垣の補強構造。
【請求項5】
前記ベルトは、所定の可撓性、耐久性および強度を有し、荷締め機能を備えていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の石垣の補強構造。
【請求項6】
前記連結部材は、所定の引張強度および柔軟性を有し、荷締め機能を備えていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の石垣の補強構造。
【請求項7】
前記連結部材が前記ベルトに対して脱着可能であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の石垣の補強構造。
【請求項8】
解体後の石垣の修復方法であって、
築石を積む工程aと、
前記築石の背面側に補強ネットを敷設する工程bと、
前記築石の控えの部分に巻き付けられたベルトと前記補強ネットとを連結部材で連結する工程cと、
を具備し、
前記補強ネットが前記築石の背面側に積まれた栗石の内部に配置されることを特徴とする石垣の修復方法。
【請求項9】
前記築石の背面側に配置した石材を前記補強ネットで巻き込むことを特徴とする請求項8記載の石垣の修復方法。
【請求項10】
前記築石の背面側に配置した石材を前記補強ネットに取り付けられた帯状材または線状材で巻き込むことを特徴とする請求項8記載の石垣の修復方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石垣の補強構造および石垣の修復方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、石垣の補強構造として、石積み構造物の積み石同士の隙間からアンカー装置を挿入し、アンカー部材を構造物の内部で拡げて係止させるものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
石垣の補強方法としては、解体した石垣を積みなおす際に、築石間の裏側間隙と背面地盤との間に石材や鋼製の棒状補強部材を設置する方法がある(例えば、特許文献2参照)。また、石垣の裏込めの土圧低減を目的として、耐震用の補強ネットの一端側を築石(つきいし)や介石(かいいし、飼石とも言う)に挟み込み、他端側を背面側の盛土に埋め込む方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-71046号公報
【文献】特許第5549914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の方法では石垣の表面に人工物であるアンカー装置の先端が露出する可能性がある。また、特許文献2記載の方法では、築石間の各箇所について裏側間隙と背面地盤との距離に応じた寸法の棒状補強部材を予め準備する必要がある。補強ネットを用いる方法では、築石や介石が補強ネット上で滑って石垣の強度が低下する可能性がある。
【0006】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたものであり、石垣の表面に人工物が露出せず、石垣の構成材の形状が不定形であっても確実かつ容易に石垣の強度低下を防止できる石垣の補強構造および石垣の修復方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した目的を達成するために第1の発明は、築石の控えの部分に巻き付けられたベルトと、前記築石の背面側に積まれた栗石の内部に配置された補強ネットと、前記ベルトと前記補強ネットとを連結する連結部材と、を具備することを特徴とする石垣の補強構造である。
【0008】
第1の発明では、築石の控え(ひかえ)に巻き付けたベルトを栗石(ぐりいし)の内部に配置した補強ネットに連結するので、石垣の表面に人工物が露出したり築石が補強ネット上で滑ったりすることがない。また、地震時の揺れなどによる築石の抜け出しのリスクを確実に低減できる。第1の発明によれば、石垣の構成材の形状が不定形であっても、人工的な充填物を使用したり文化財である石垣の構成材に孔をあけたりすることなく確実かつ容易に石垣の強度低下を防止できる。
【0009】
前記補強ネットは、例えば前記築石の背面側に配置された石材を巻き込むように配置される。このとき、前記補強ネットは、平面視で前記築石の控えの長さ方向に平行な切込みを設けることによって端部付近が帯状に分割され、帯状に分割された部分が前記石材を巻き込むように配置されることが望ましい。
これにより、築石の背面側に配置された石材に補強ネットをより確実に定着できる。以下、築石の背面側に配置された石材とは、栗石や、栗石よりも大きい押石(おさえいし)等を指す。また、補強ネットの端部付近を帯状に分割することで、各築石の背面側に配置された石材の位置に合わせて補強ネットの帯状の部分を立ち上げて築石とその背面側の石材とで補強ネットを確実に挟み込むとともに、補強ネットを築石の背面側の石材の外周面に沿わせて配置することができる。
【0010】
または、前記補強ネットに取り付けられた帯状材または線状材が、前記築石の背面側に配置された石材を巻き込むように配置されてもよい。
この場合にも、築石の背面側の石材に補強ネットや帯状材または線状材をより確実に定着できる。また、補強ネットに帯状材または線状材を取り付けることで、各築石の背面側に配置された石材の位置に合わせて帯状材または線状材を立ち上げて築石とその背面側の石材とで帯状材または線状材を確実に挟み込むとともに、帯状材または線状材を築石の背面側の石材の外周面に沿わせて配置することができる。
【0011】
前記ベルトは、所定の可撓性、耐久性および強度を有し、荷締め機能を備えていることが望ましい。
これにより、築石を傷つけることなくベルトを築石に確実に締め付けることができる。また、ベルトを築石の外周面に沿って変形させることにより、築石の外周面の凹凸をベルトに引っ掛けてずれ止めとして用いることができる。
【0012】
また、前記連結部材は、所定の引張強度および柔軟性を有し、荷締め機能を備えていることが望ましい。
これにより、石垣の構成材を傷つけることなくベルトと補強ネットとを連結してベルトと補強ネットとの距離を保ち、築石の抜け出しのリスクを低減することができる。
【0013】
前記連結部材が前記ベルトに対して脱着可能であってもよい。
これにより、適切な時期に連結部材とベルトとを連結することができる。
【0014】
第2の発明は、解体後の石垣の修復方法であって、築石を積む工程aと、前記築石の背面側に補強ネットを敷設する工程bと、前記築石の控えの部分に巻き付けられたベルトと前記補強ネットとを連結部材で連結する工程cと、を具備し、前記補強ネットが前記築石の背面側に積まれた栗石の内部に配置されることを特徴とする石垣の修復方法である。
【0015】
第2の発明では、築石の控えに巻き付けたベルトを栗石の内部に配置した補強ネットに連結するので、石垣の表面に人工物が露出したり築石が補強ネット上で滑ったりすることがない。また、地震時の揺れなどによる築石の抜け出しのリスクを確実に低減できる。第2の発明によれば、石垣の構成材の形状が不定形であっても、人工的な充填物を使用したり文化財である石垣の構成材に孔をあけたりすることなく確実かつ容易に石垣の強度低下を防止できる。
【0016】
前記築石の背面側に配置した石材を前記補強ネットで巻き込むことが望ましい。
これにより、築石の背面側の石材に補強ネットをより確実に定着できる。
【0017】
または、前記築石の背面側に配置した石材を前記補強ネットに取り付けられた帯状材または線状材で巻き込んでもよい。
この場合にも、築石の背面側の石材に補強ネットや帯状材または線状材をより確実に定着できる。また、補強ネットに帯状材または線状材を取り付けることで、各築石の背面側に配置された石材の位置に合わせて帯状材または線状材を立ち上げて築石とその背面側の石材とで帯状材または線状材を確実に挟み込むとともに、帯状材または線状材を築石の背面側の石材の外周面に沿わせて配置することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、石垣の表面に人工物が露出せず、石垣の構成材の形状が不定形であっても確実かつ容易に石垣の強度低下を防止できる石垣の補強構造および石垣の修復方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】石垣1の側面図。
図2】石垣1の1つの層の平面図。
図3】他の連結部材15aの例を示す図。
図4】石垣1aの側面図。
図5】石垣1aの1つの層の修復方法を示す平面図。
図6】切込み25を設けない補強ネット13aを用いた例を示す図。
図7】石垣1bの側面図。
図8】石垣1cの側面図
図9】石垣1cの1つの層の平面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0021】
[第1の実施形態]
図1は本発明の第1の実施形態に係る石垣1の側面図、図2は石垣1の1つの層の平面図である。図2では介石5、栗石7の図示を省略している。
【0022】
図1図2に示すように、石垣1は、築石3、介石5、栗石7、介石9等からなる。石垣1は例えば城郭の石垣である。石垣1の補強構造では、石垣1の修復にベルト11、補強ネット13、連結部材15等が用いられる。
【0023】
築石3は石垣1の表面側に層状に積まれる。築石3は、石垣1の表面に露出する露出面2から所定の奥行までの部分の外周面が他の築石3と接触するように積まれる。築石3は、例えば、奥行が大きくなるに近づくにつれて断面が小さくなるような形状であり、上下の築石3の間には介石5(図1)が配置され、左右の築石3の間には介石9(図2)が配置される。栗石7は、排水とクッション材としての役割のために築石3と背面の地盤との間に裏込めされる。
【0024】
ベルト11は、築石3の控え4の部分(奥行部分)の周囲に巻き付けられる。ベルト11は、例えばアラミド繊維製やステンレス製であり、所定の可撓性、耐久性および強度を有する。ベルト11は荷締め機能を備えた締付具12を有する。荷締め機能を備えた締付具12は、ベルト11の長さを調節するとともに、ベルト11を調節された長さに保つ。
【0025】
補強ネット13は、栗石7の内部に略水平方向に配置される。補強ネット13はジオテキスタイル(登録商標)等の耐震用補強ネットである。補強ネット13は合成樹脂製またはステンレス製であり、引張性能に優れる。
【0026】
連結部材15は、ベルト11と補強ネット13とを連結する。連結部材15の一端はボルト等の固定具17によってベルト11に連結され、固定具17を取り外すことによってベルト11との連結が解除される。すなわち連結部材15はベルト11に対して脱着可能である。連結部材15の他端は補強ネット13の端部23に連結される。連結部材15の他端付近には荷締め機能を備えた締付具19が設けられる。荷締め機能を備えた締付具19は、連結部材15の長さを調節するとともに、連結部材15を調節された長さに保つ。連結部材15は、例えばアラミド繊維製であり、所定の引張強度および柔軟性を有する。連結部材15は、1つの築石3に対して側方の2ケ所に配置される。
【0027】
次に、解体した石垣1の修復方法について説明する。
解体した石垣1を修復するには、まず最下層の築石3を積み、左右の築石3の間に介石9を挟む。このとき、築石3の控え4の部分にベルト11を巻き付け、締付具12でベルト11の長さを調節してベルト11を築石3に所定の力で締め付けておく。また、築石3の左側と右側の各1ケ所において、連結部材15の一端を固定具17によってベルト11に連結しておく。
【0028】
ベルト11は可撓性を有するので、締付具12によって築石3に締め付けられると築石3の外周面の凹凸に合わせて変形する。そのため、築石3の外周面の凹凸に引っ掛かった部分がずれ止めとなって、ベルト11を築石3に固定することができる。
【0029】
次に、築石3の背面側に補強ネット13を敷設して、連結部材15の他端を補強ネット13の端部23に連結する。このとき、締付具19で連結部材15の長さを調節し、ベルト11と補強ネット13との距離を適切な長さに固定する。連結部材15でベルト11と補強ネット13とを連結したら、補強ネット13上に栗石7を積み、築石3上に介石5を積む。
【0030】
連結部材15は柔軟性を有するので、ベルト11と補強ネット13との間に配置する時に築石3や介石9の外周面の凹凸に接触してもこれらを傷つけることがない。連結部材15は、1つの築石3に対して側方の2ケ所に配置されるので、補強ネット13からの引張り力が築石3に左右からバランスよく伝達される。
【0031】
その後、上記した作業を層ごとに繰り返す。すなわち、築石3を積む作業と、築石3の背面側に補強ネット13を敷設する作業と、築石3の控え4の部分に巻き付けられたベルト11と補強ネット13とを連結部材15で連結する作業と、補強ネット13上に栗石7を積む作業とを、下層から上層に向けて繰り返す。
【0032】
このように、第1の実施形態では、築石3の控え4に巻き付けたベルト11を栗石7の内部に配置した補強ネット13に連結するので、石垣1の表面に人工物が露出したり築石3や介石5が補強ネット13上で滑ったりすることがない。また、地震時の揺れなどによる築石3の抜け出しのリスクを確実に低減できる。
第1の実施形態によれば、石垣1の構成材の形状が不定形であっても、人工的な充填物を使用したり文化財である石垣1の構成材に孔をあけたりすることなく確実かつ容易に石垣1の強度低下を防止できる。また、再修復の際にはベルト11、連結部材15、補強ネット13を撤去するだけで元の状態に戻すことができ、石垣1の文化財的価値を損なうことがない。
【0033】
なお、連結部材15はベルト11に対して脱着可能でなくてもよい。図3は、他の連結部材15aの例を示す図である。図3に示す例では、例えば、ベルト11と連結部材15aとが一体に形成される。この場合もベルト11と補強ネット13との間に連結部材15aを配置する時に築石3や介石9の外周面を傷つけることがない。
【0034】
第1の実施形態では、築石3の背面側に栗石7のみを設けたが、押石などの、栗石7よりも大きな石材を設けてもよい。
【0035】
以下、本発明の別の例について、第2~第4の実施形態として説明する。各実施形態はそれまでに説明した実施形態と異なる点について説明し、同様の構成については図等で同じ符号を付すなどして説明を省略する。また、第1の実施形態も含め、各実施形態で説明する構成は必要に応じて組み合わせることができる。
【0036】
[第2の実施形態]
図4は、本発明の第2の実施形態に係る石垣1aの側面図である。図5は石垣1aの1つの層の修復方法を示す平面図である。図5では、介石5、栗石7の図示を省略している。
【0037】
第2の実施形態は、石垣1aの築石3の背面側に押石21が配置され、補強ネット13で押石21を巻き込む点で第1の実施形態と主に異なる。
【0038】
図4図5(b)に示すように、石垣1aの補強構造では、栗石7上に敷設された補強ネット13が、押石21を巻き込んで折り返される。折り返された補強ネット13の端部23は栗石7上の補強ネット13に重ねられる。連結部材15は補強ネット13に連結される。
【0039】
石垣1aの修復には、図5(a)に示す補強ネット13を用いる。補強ネット13の端部23側には、平面視で築石3の控え4の長さ方向に平行な切込み25が設けられる。切込み25は、平面視で押石21同士の間を通る線上に設けられる。切込み25は補強ネット13の端部23の手前まで設けられ、端部23は切らずに残される。切込み25を設けることによって補強ネット13の端部23付近は帯状に分割される。
【0040】
次に、解体した石垣1aの修復方法について説明する。
解体した石垣1aを修復するには、まず第1の実施形態と同様に最下層の築石3を積む。そして、図5(a)に示す補強ネット13を切込み25の終端(端部23から遠い側の端)が各築石3の背面より奥側に位置するように敷設して、連結部材15の他端を補強ネット13に連結する。連結部材15は例えば立ち上げ部24付近に連結される。立ち上げ部24は補強ネット13の折り返しの開始部分であり、補強ネット13の帯状に分割された部分に形成される。
【0041】
連結部材15でベルト11と補強ネット13とを連結したら、補強ネット13上に押石21を配置する。そして、補強ネット13のうち切込み25によって帯状に分割された部分で押石21を巻き込んで、補強ネット13を石垣1の奥側に折り返す。なお、補強ネット13の敷設から押石21の巻き込みまでの作業中は、補強ネット13の端部23を切らずに残しておく。これにより、帯状に分割された部分の端部23をばらけないようにまとめておくことができる。
【0042】
補強ネット13を折り返すときには、押石21の位置や大きさに合わせて補強ネット13の折り返しの開始位置や形状を調整して、折り返した補強ネット13を押石21の下面から奥側に延びる補強ネット13に重ねる。このとき、端部23を切らずに残したままでは折り返した補強ネット13に弛み等が生じる場合があるので、必要に応じて補強ネット13の端部23を切断する。また、補強ネット13の重なり部分の長さは押石21の高さの2倍程度とするのが望ましいので、必要に応じて補強ネット13の重なり部分の長さを調整する。その後、補強ネット13の上に栗石7を積む。
【0043】
ここで、補強ネットに切込み25を設けない場合について考える。図6は、切込み25を設けない補強ネット13aを用いた例を示す図である。図6では、実線で示した築石3および押石21の同一層内に位置する築石3および押石21を点線で示している。図6に示すように、切込み25がない場合には補強ネット13aの立ち上げ部24aが一直線となる。そのため、補強ネット13aの立ち上げ部24aに合わせて押石21を配置すると、いくつかの築石3と押石21との間に隙間31が形成される可能性がある。また、押石21の大きさがそれぞれ異なると、補強ネット13aと押石21との間にも隙間33が形成される。このような隙間31、33が形成されると、石垣内部での力の伝達が妨げられて石垣の弱点となる可能性がある。
【0044】
一方、第2の実施形態のように補強ネット13に切込み25を設けて端部23付近を帯状に分割すれば、各築石3の背面側に配置された押石21の位置に合わせて補強ネット13の立ち上げ部24を形成することができるので、築石3と押石21との間に隙間が形成されない。また、押石21の大きさが異なっても、各押石21の外周面に沿って補強ネット13を配置することができるので、補強ネット13と押石21との間にも隙間が形成されない。
【0045】
その後、第1の実施形態と同様に上記した作業を下層から上層に向けて繰り返す。
【0046】
第2の実施形態においても、第1の実施形態と同様の効果が得られる。また、第2の実施形態では、築石3の背面側の押石21に補強ネット13をより確実に定着できる。また、補強ネット13の端部23付近を帯状に分割することで、押石21の位置に合わせて補強ネット13の帯状の部分を折り返して各築石3とその押石21とで補強ネット13を確実に挟み込むとともに、押石21に沿うように補強ネット13を配置することができるので、石垣1aの内部に力の伝達を妨げるような隙間が形成されない。
【0047】
[第3の実施形態]
図7は、本発明の第3の実施形態に係る石垣1bの側面図である。
【0048】
第3の実施形態は、石垣1bの築石3の背面側に押石が配置されず、補強ネット13で築石3の背面側に配置された栗石7を巻き込む点で第2の実施形態と主に異なる。
【0049】
図7に示すように、石垣1bの補強構造では、補強ネット13が、栗石7のうち築石3の背面近傍に配置されたものを巻き込んで折り返される。石垣1bの修復には、図5(a)に示す補強ネット13が用いられる。補強ネット13の切込み25は、平面視で築石3同士の間を通る線上に設けられる。
【0050】
次に、解体した石垣1bの修復方法について説明する。
解体した石垣1bを修復するには、まず第2の実施形態と同様に最下層の築石3を積む。そして、図5(a)に示す補強ネット13を切込み25の終端(端部23から遠い側の端)が各築石3の背面より奥に位置するように敷設して、連結部材15の他端を補強ネット13に連結する。
【0051】
連結部材15でベルト11と補強ネット13とを連結したら、敷設した補強ネット13上に栗石7の一部を配置し、補強ネット13のうち切込み25によって帯状に分割された部分で栗石7を巻き込んで石垣1の奥側に折り返す。なお、補強ネット13の敷設から栗石7の巻き込みまでの作業中は、補強ネット13の端部23を切らずに残しておく。これにより、帯状に分割された部分の端部23をばらけないようにまとめておくことができる。
【0052】
補強ネット13を折り返すときには、巻き込む栗石7の配置に合わせて補強ネット13の折り返しの開始位置や形状を調整する。このとき、端部23を切らずに残したままでは折り返した補強ネット13に弛み等が生じる場合があるので、必要に応じて補強ネット13の端部23を切断する。また、補強ネット13の折り返し部分の長さは巻き込んだ栗石7の高さの2倍程度とするのが望ましいので、必要に応じて補強ネット13の重なり部分の長さを調整する。その後、補強ネット13の上にさらに栗石7を積む。
その後、上記した作業を下層から上層に向けて繰り返す。
【0053】
第3の実施形態のように補強ネット13の端部23付近を帯状に分割すれば、各築石3の背面側に配置された栗石7の位置に合わせて補強ネット13の帯状の部分を立ち上げて折り返すことができるので築石3と栗石7との間に隙間が形成されない。
【0054】
第3の実施形態においても、第1の実施形態と同様の効果が得られる。また、第3の実施形態では、築石3の背面側の栗石7に補強ネット13をより確実に定着できる。また、補強ネット13の端部23付近を帯状に分割することで、築石3と栗石7とで補強ネット13を確実に挟み込むとともに、栗石7に沿うように補強ネット13を配置することができるので、石垣1bの内部に力の伝達を妨げるような隙間が形成されない。
【0055】
[第4の実施形態]
図8は、本発明の第4の実施形態に係る石垣1cの側面図、図9は、石垣1cの1つの層の平面図である。図9では、栗石7の図示を省略している。
【0056】
第4の実施形態は、帯状ネット27で築石3の背面側に配置された押石21を巻き込む点で第2の実施形態と主に異なる。
【0057】
石垣1cの補強構造では、図9に示す補強ネット13および帯状ネット27が用いられる。帯状ネット27は、補強ネット13と同様の素材であり、一方の端部29aが補強ネット13の端部23付近に取り付けられる。帯状ネット27は、築石3の控え4の長さ方向に延びる部材である。
【0058】
図8に示すように、石垣1cの補強構造では、栗石7上に敷設された補強ネット13に取り付けられた帯状ネット27が押石21を巻き込んで折り返される。帯状ネット27の端部29bは栗石7上の補強ネット13に重ねられる。
【0059】
次に、解体した石垣1cの修復方法について説明する。
解体した石垣1cを修復するには、まず第2の実施形態と同様に最下層の築石3を積む。そして、端部23に帯状ネット27を取り付けた補強ネット13を、端部23が全ての築石3の背面より奥側に位置するように敷設する。そして、連結部材15の他端を補強ネット13に連結する。
【0060】
連結部材15と補強ネット13とを連結したら、敷設した補強ネット13上に押石21を配置し、帯状ネット27で押石21を巻き込んで折り返す。そして、折り返した帯状ネット27を補強ネット13に重ね、その上に栗石7を積む。帯状ネット27の折り返し部分の長さは、押石21の高さの2倍程度とする。
その後、上記した作業を下層から上層に向けて繰り返す。
【0061】
第4の実施形態のように補強ネット13に帯状ネット27を取り付ければ、各築石3の背面側に配置された押石21の位置に合わせて帯状ネット27を立ち上げて折り返すことができるので築石3と押石21との間に隙間が形成されない。また、押石21の大きさが異なっても、押石21の外周面に沿うように帯状ネット27を配置することができるので、補強ネット13と押石21との間にも隙間が形成されない。
【0062】
第4の実施形態においても、第1の実施形態と同様の効果が得られる。また、第4の実施形態では、築石3の背面側の押石21に補強ネット13や帯状ネット27をより確実に定着できる。また、補強ネット13に帯状ネット27を取り付けることで、築石3と押石21とで帯状ネット27を確実に挟み込むとともに、押石21に沿うように帯状ネット27を配置することができるので、石垣1cの内部に力の伝達を妨げるような隙間が形成されない。
【0063】
なお、第4の実施形態では補強ネット13に帯状材である帯状ネット27を取り付けたが、代わりに線状材を取り付けても良い。また、1つの築石3に対する帯状材や線状材の本数は1本に限らず、複数本でもよい。
【0064】
また、第2から第4の実施形態では、連結部材15を用いてベルト11と補強ネット13とを連結したが、連結部材15およびベルト11を用いなくてもよい。すなわち、補強ネット13のみを用いて石垣を修復してもよいし、補強ネット13と帯状材または線状材とを用いて石垣を修復してもよい。
【0065】
以上、添付図面を参照しながら、本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0066】
1、1a、1b、1c………石垣
3………築石
4………控え
5、9………介石
7………栗石
11………ベルト
12、19………締付具
13、13a………補強ネット
15、15a………連結部材
17………固定具
21………押石
23、29a、29b………端部
24、24a………立ち上げ部
25………切込み
27………帯状ネット
31、33………隙間
図1
図2
図3
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図5
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図8
図9