(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-05
(45)【発行日】2022-10-14
(54)【発明の名称】質量分析用の試薬
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20221006BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20221006BHJP
G01N 33/58 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
G01N27/62 V
G01N33/50 F
G01N33/50 T
G01N33/58 Z
(21)【出願番号】P 2019535813
(86)(22)【出願日】2018-01-31
(86)【国際出願番号】 EP2018052451
(87)【国際公開番号】W WO2018141821
(87)【国際公開日】2018-08-09
【審査請求日】2021-01-15
(32)【優先日】2017-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ.ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【氏名又は名称】中西 基晴
(72)【発明者】
【氏名】カレル,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】コボルト,ウーベ
(72)【発明者】
【氏名】ハインドル,ディーター
(72)【発明者】
【氏名】ベハー,ジルビア
(72)【発明者】
【氏名】ライネンバッハ,アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】レンプト,マルティン
(72)【発明者】
【氏名】プファッフェンエーダー,トニ
(72)【発明者】
【氏名】キルヒナー,アンジー
(72)【発明者】
【氏名】コスマチェフ,オレシア
(72)【発明者】
【氏名】ラヒモフ,ルネ
(72)【発明者】
【氏名】シファーズ,サラ
(72)【発明者】
【氏名】ミューラー,マルクス
【審査官】藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-525639(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0143951(US,A1)
【文献】特表2012-529010(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0136160(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/62
G01N 33/50
G01N 33/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
その任意の塩を含めた、一般式(I):
X-L
1-Y(-L
2-Z)
r
[式中
Xは、分析物分子と反応することができ、それによって分析物分子との共有結合が形成される、反応基であり、
L
1は、結合またはスペーサーであり、
Yは、それ自身が中性であり、かつ、それによって中性種が遊離される断片化が質量分析条件下で可能である中性イオン損失ユニットであり、ここでYは4員、5員、または6員の複素環部分からなり、
L
2は、結合またはスペーサーであり、
Zは、以下を含むかまたは以下からなる荷電ユニットであり:
(i)10以上のpK
aを有する少なくとも1つの正荷電部分;もしくは
(ii)10以上のpK
bを有する少なくとも1つの正荷電部分、
rは、1である]
の化合物
または少なくとも1つの化合物(I)を含む組成物もしくはキットの、
分析物分子の質量分析測定のための使用。
【請求項2】
反応基Xが、カルボニル反応基、親ジエン反応基、カルボン酸反応基、フェノール反応基、アミノ反応基、ヒドロキシル反応基、またはチオール反応基である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
反応基Xが下記(i)~(iv)から選択されるカルボニル反応基である、請求項1または2に記載の使用:
(i)ヒドラジン基、
(ii)ヒドラゾン基、
(iii)ヒドロキシルアミノ基、および
(iv)ジチオール基。
【請求項4】
反応基Xが、チオール反応性ハロアセチル基である、請求項1または2に記載の使用。
【請求項5】
反応基Xが、活性エステル基、ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)エステル、および1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール(HOAt)エステル基から選択されるアミノ反応基である、請求項1または2に記載の使用。
【請求項6】
中性イオン損失ユニットYが、逆環化付加反応によって、断片化可能であり、中性イオン損失ユニットYが、相互に隣接する少なくとも2個のヘテロ原子を有する環状アゾ化合物または5員の複素環部分を含むか、または相互に隣接する少なくとも2個のヘテロ原子を有する環状アゾ化合物または5員の複素環部分からなる、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
中性種が、SO、SO
2、CO、CO
2、NO、NO
2、およびN
2から選択される無機分子である、請求項1~6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
荷電ユニットZが、下記を含む、または下記からなる、請求項1~7のいずれか一項に記載の使用:
(i)一級、二級、三級、もしくは四級アンモニウム基およびホスホニウム基から選択される少なくとも1つの正荷電部分、または
(ii)リン酸基、硫酸基、スルホン酸基、およびカルボキシラート基から選択される少なくとも1つの負電荷部分。
【請求項9】
荷電ユニットZが、1個の永久正荷電部分を含む、または1個の永久正荷電部分からなる、請求項1~8のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
前記化合物(I)が、それによって第1の中性種とは異なる第2の中性種が遊離される代替的な断片化が質量分析条件下でさらに可能である、請求項1~9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
前記化合物(I)が一般式(Ia)または(Ib)
X-L
1-Y-L
2-Z (Ia),
X
1-L
1-Y
1(-L
2-Z)
r (Ib)
[式中、
X、L
1、L
2、Y、Z、およびrが請求項1~10のいずれか一項に記載の通りであり、
X
1がカルボニル反応基であり、
Y
1は、
(i)それによって第1の中性種が遊離される断片化が質量分析条件下で可能である4員、5員、または6員の複素環部分、および
(ii)任意選択で、それによって第1の中性種とは異なる第2の中性種が遊離される代替の断片化が質量分析条件下で可能である部分
を含む中性イオン損失ユニットである]
の化合物である、請求項1~10のいずれか一項に記載の使用。
【請求項12】
前記化合物(I)が一般式(Ic)
【化1】
[式中、Rは、それぞれ独立に、HまたはC
1-4アルキルであり、Aは、陰イオンである]
の化合物である、請求項1~11のいずれか一項に記載の使用。
【請求項13】
化合物(I)が、D、
13C、
15N、および/または
18Oから選択される少なくとも1種の同位元素を含むアイソトポログである、請求項1~12のいずれか一項に記載の使用。
【請求項14】
分析物分子の質量分析測定のための方法であって、
(a)分析物分子と、請求項1~13のいずれか一項に記載の一般式(I)の化合物との共有結合形成反応を起こすステップであって、それによって分析物分子と試薬の付加物が形成されるステップと、
(b)ステップ(a)で得られた付加物を質量分析で解析するステップと
を含み、質量分析による解析ステップ(b)が、
(i)付加物のイオンを、それによって付加物のイオンがその質量/電荷(m/z)比により特徴付けられる質量分析による解析の第1段階で解析するステップと、
(ii)それによって第1の中性種が遊離され、付加物の娘イオンが生成される付加物イオンの断片化を引き起こすステップであって、付加物の娘イオンのm/z比が付加物イオンのm/z比と異なるステップと、
(iii)付加物の娘イオンを、それによって付加物の娘イオンがそのm/z比により特徴付けられる質量分析による解析の第2段階で解析するステップと
を含み、かつ/または
(ii)が、それによって第1の中性種とは異なる第2の中性種が遊離され、付加物の第2の娘イオンが生成される代替の付加物イオンの断片化をさらに含むことができ、
(iii)が、付加物の第1および第2の娘イオンを、それによって付加物の第1および第2の娘イオンがそれらのm/z比により特徴付けられる質量分析による解析の第2段階で解析するステップをさらに含むことができる、方法。
【請求項15】
その任意の塩を含めた、式(Ia):
X-L
1-Y-L
2-Z
[式中、
Xは、カルボニル反応基、親ジエン反応基、カルボン酸反応基、フェノール反応基、アミノ反応基、ヒドロキシル反応基、またはチオール反応基であり、Xがアクリルエステルではなく、
L
1は、結合またはスペーサーであり、
Yは、それ自身が中性であり、かつ、それによって中性種が遊離される断片化が質量分析条件下で可能である中性イオン損失ユニットであり、ここでYは4員、5員、または6員の複素環部分からなり、
L
2は、結合またはスペーサーであり、
Zは、分子全体が10以上のpK
aを有し、一級、二級、三級、もしくは四級アンモニウム基およびホスホニウム基から選択される少なくとも1つの永久正荷電部分を含む荷電ユニットである]
の化合物である試薬または少なくとも1つの化合物(Ia)を含む組成物もしくはキット。
【請求項16】
その任意の塩を含めた、式(Ia):
X-L
1-Y-L
2-Z
[式中、
Xがカルボニル反応基、親ジエン反応基、カルボン酸反応基、フェノール反応基、アミノ反応基、またはヒドロキシル反応基であり、
L
1は、結合またはスペーサーであり、
Yは、それ自身が中性であり、かつ、それによって中性種が遊離される断片化が質量分析条件下で可能である中性イオン損失ユニットであり、ここでYは4員、5員、または6員の複素環部分を含むかまたは4員、5員、または6員の複素環部分からなり、
L
2は、結合またはスペーサーであり、
Zが、10以上のpK
bを有し、リン酸基、硫酸基、スルホン酸基、およびカルボキシラート基から選択される少なくとも1つの永久負荷電部分を含む荷電ユニットである]
の化合物である試薬または少なくとも1つの化合物(Ia)を含む組成物もしくはキット。
【請求項17】
Yが、相互に隣接する少なくとも2個のヘテロ原子を有する環状アゾ化合物または5員の複素環部分からなり、かつ、それによって中性種が遊離される逆環化付加反応による断片化が質量分析条件下で可能である、請求項15に記載の試薬。
【請求項18】
式(Ic)
【化2】
[式中、Rは、それぞれ独立に、HまたはC
1-4アルキルであり、Aは、陰イオンである]
の化合物である、請求項15に記載の試薬。
【請求項19】
Yが、相互に隣接する少なくとも2個のヘテロ原子を有する環状アゾ化合物または5員の複素環部分からなり、かつ、それによって中性種が遊離される逆環化付加反応による断片化が質量分析条件下で可能である、請求項16に記載の試薬。
【請求項20】
請求項15~19のいずれか一項に記載の異なる同位体を含む複数の試薬を含む組成物またはキット。
【請求項21】
分析物分子の質量分析測定のための、請求項1~13のいずれか一項に記載の一般式(I)の化合物と分析物分子の反応によって形成される共有結合性付加物の使用であって、共有結合性付加物が、一般式(II):
T-X’-L
1-Y-(L
2-Z)
r
[式中、
Tは、分析物分子であり、
X’は、化合物(I)上の基Xと分析物分子の反応から生じる部分であり、L
1、Y、L
2、Z、およびrは、請求項1~13のいずれか一項に記載の通りである]
の化合物である、使用。
【請求項22】
キャリブレーターおよび/または標準物質としての請求項21に記載の使用。
【請求項23】
その任意の塩を含めた一般式(I)
X-L
1-Y(-L
2-Z)
r
[式中、
Xは、分析物分子と反応することができ、それによって分析物分子との共有結合が形成される反応基である
L
1は、結合またはスペーサーであり、
Yは、それ自身が中性であり、かつ、それによって中性種が遊離される断片化が質量分析条件下で可能である中性イオン損失ユニットであり、ここでYは4員、5員、または6員の複素環部分からなり、
L
2は、結合またはスペーサーであり、
Zは、少なくとも1つの永久荷電部分を含む荷電ユニットであり、
rは、1である]
の化合物
および分析物分子の反応によって形成される共有結合性付加物
。
【請求項24】
一般式(II):
T-X’-L
1-Y(-L
2-Z)
r
[式中、
Tは、分析物分子であり、
X’は、化合物(I)上の基Xと分析物分子の反応から生じる部分であり、L
1、Y、L
2、Z、およびrは、請求項1~13のいずれか一項に記載の通りである]
の化合物であり、永久正電荷または負電荷を保有する、請求項23に記載の付加物。
【請求項25】
分析物分子Tが炭水化物部分を有する分子である、請求項24に記載の付加物。
【請求項26】
その任意の塩を含めた、一般式(IIa):
T-X’-L
1-Y-L
2-Z (IIa)
[式中、
Tが分析物分子であり、
X’が、化合物(Ia)上の基Xと分析物分子の反応によって生じる部分であり、
T、X、L
1、Y、L
2、およびZが、請求項15~18のいずれか一項に記載の通りである]
の化合物である、請求項23~25のいずれか一項に記載の付加物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析物分子、例えば炭水化物の質量分析測定に適した試薬、ならびにそのような試薬と分析物分子の付加物、ならびに前記試薬および付加物の適用に関する。さらに、本発明は、分析物分子の質量分析測定のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この10年間、生物学および医学研究では、生細胞または生物における炭水化物の役割および機能が注目されている。炭水化物には、タンパク質、脂質、または他の有機分子に結合しているものもあり、それによって特徴的な複雑なグリコシル化パターンが生じている。最近、ある種の障害は、グリコシル化パターンの変化と関連するか、そのような変化を伴うか、そのような変化によって引き起こされることが観察されている。特に、腫瘍疾患は、様々なタンパク質のグリコシル化の変化と関連していることが多い。
【0003】
炭水化物は、クロマトグラフィー分離技法、例えば高速液体クロマトグラフィー(HPLC)またはキャピラリー電気泳動、または質量分析(MS)を含めた様々な技法を用いて解析することができる。
【0004】
MSは、小分子から巨大分子まで及ぶ化学物質の定性的および定量的解析に広く使用されている技法である。一般に、MSは、感度および特異度が極めて高い方法であり、複雑な生物学試料、例えば、環境または臨床試料の解析さえも可能にする。
【0005】
単糖、オリゴ糖、または多糖の解析には、MSは、クロマトグラフィー技法、特にガスクロマトグラフィーおよび液体クロマトグラフィー、例えばHPLCと併用されている。これによって、炭水化物分子は、クロマトグラフィー手順によって分離され、その後、個々に質量分析で解析される。炭水化物は、等圧(位置異性および/または立体異性)構造で存在することが多いので、クロマトグラフィーによる分離が常に可能とは限らない。したがって、イオン移動度ユニットと組み合わせたMSも使用されており、これは、等圧の炭水化物の分離が可能である。
【0006】
しかし、依然として、特に、存在量が少ない炭水化物の解析のため、またはMSによって利用可能な材料(生検組織など)がわずかしか無い場合に、MS解析方法の感度を上げる必要性がある。
【0007】
MSは、シグナル強度が、イオン化特性を反映し、イオンサプレッションと呼ばれるプロセスによる夾雑物に強く影響されるため、定量的ではない。その結果、MS解析を定量的にする必要性がある。
【0008】
本発明は、生物学的試料中の炭水化物などの分析物分子の極めて高感度な測定を可能にする、MSで使用するための新規な試薬に関する。さらに、同位体改変版の試薬の使用によって、比較研究のための正確な定量的MSデータを得ることが可能となる。この試薬は、ゲノム中の糖鎖構造の直接的かつ超高感度な定量的解析に使用され成功を収めている。塩基除去修復によって生じた希少な無塩基部位(AP部位)およびβ脱離生成物(βE部位)が標的分子として測定される。この試薬は、極めて高い感度を有することが分かった。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、本発明の第1の態様は、その任意の塩を含めた、一般式(I):
X-L1-Y(-L2-Z)r (I)
[式中、
Xは、分析物分子と反応することができ、それによって分析物分子との共有結合が形成される反応基であり、
L1は、結合またはスペーサーであり、
Yは、それによって中性種、特に低分子量中性種が遊離される断片化が、質量分析条件下で可能である中性イオン損失ユニットであり、
L2は、結合またはスペーサーであり、
Zは、少なくとも1つの荷電部分、特に永久荷電部分を含む荷電ユニットであり、
rは、0または1である]
の化合物
または少なくとも1つの化合物(I)を含む組成物またはキットの、分析物分子の質量分析測定のための使用である。
【0010】
特定の態様では、化合物(I)は、アイソトポログ、すなわち、本明細書で当該化合物の同位体として中性の原子とも称される1または複数種の主要同位体、例えば、1H、12C、14N、および/または16O原子が、比較的少数の安定同位体、すなわちD、13C、15N、および18Oなどの安定同位体によって置き換えられている化合物として存在してもよい.
本発明のさらなる態様は、試料中の分析物分子の質量分析測定のための方法であって、
(a)分析物分子と、本明細書に定義される式(I)の化合物との共有結合形成反応を起こすステップであって、それによって分析物分子と化合物(I)との共有結合性付加物が形成されるステップと、
(b)ステップ(a)で得られた付加物の質量分析を行うステップと
を含む方法である。
【0011】
さらに、本発明のさらなる態様は、その任意の塩を含めた、一般式(Ia):
X-L1-Y-L2-Z (Ia)
[式中、
Xは、Xがアクリエステルではないという条件で、カルボニル反応基、親ジエン反応基、カルボン酸反応基、フェノール反応基、アミノ反応基、ヒドロキシル反応基、またはチオール反応基であり、
L1は、結合またはスペーサーであり、
Yは、それによって中性種、特に低分子量の中性種が遊離される断片化が質量分析条件下で可能である中性イオン損失ユニットであり、
L2は、結合またはスペーサーであり、
Zは、少なくとも1つの永久正荷電部分を含む荷電ユニットである]
の化合物または少なくとも1つの化合物(Ia)を含む組成物もしくはキットである。
【0012】
さらなる態様では、この発明は、その任意の塩を含めた、式(Ia):
X-L1-Y-L2-Z (Ia)
[式中、
Xは、カルボニル反応基、親ジエン反応基、カルボン酸反応基、フェノール反応基、アミノ反応基、またはヒドロキシル反応基であり、
L1は、結合またはスペーサーであり、
Yは、それによって中性種、特に低分子量の中性種が遊離される断片化が質量分析条件下で可能である中性イオン損失ユニットであり、
L2は、結合またはスペーサーであり、
Zは、少なくとも1つの負電荷部分を含む荷電ユニットである]
の化合物または少なくとも1つの化合物(Ia)を含む組成物もしくはキットに関する。
【0013】
この発明は、少なくとも1種の化合物(Ia)、特に、同位体について様々な分子種の複数の化合物(Ia)を含む試薬組成物または試薬キットにも関する。
本発明のさらなる態様によると、式(I)の化合物と分析物分子、特に炭水化物部分を含む分析物分子の共有結合性付加物は、質量分析測定に使用できる。この付加物は、試料中に存在する分析物分子を化合物(I)と反応させることによって生成できる。しかし、付加物は、キャリブレーターおよび/または標準物質として用いるための純粋な物質として提供することもできる。
【0014】
さらに、本発明のさらなる態様は、化合物(I)と分析物分子の反応によって形成された共有結合性付加物である。この付加物は、その任意の塩を含めた一般式(II):
T-X’-L1-Y(-L2-Z)r (II)
[式中、
Tは、分析物分子であり、
X’は、化合物(I)上の反応基Xと分析物分子の反応から得られる部分である。
Xは、分析物分子と反応することができ、それによって分析物分子との共有結合が形成される反応基であり、
L1は、結合またはスペーサーであり、
Yは、それによって中性種、特に低分子量中性種が遊離される断片化が、質量分析条件下で可能である中性イオン損失ユニットであり、
L2は、結合またはスペーサーであり、
Zは、少なくとも1つの荷電部分を含む荷電ユニットであり、
rは、0または1である]
の化合物であってもよい。
【0015】
特定の実施形態は、化合物(Ia)と分析物分子の反応によって形成される、その任意の塩を含めた式(IIa):
T-X’-L1-Y-L2-Z (IIa)
[式中、
Tは、分析物分子であり、
X’は、化合物(Ia)上の反応基Xと分析物分子の反応から得られる部分であり、
Xは、分析物分子と反応することができ、それによって分析物分子との共有結合が形成される反応基であり、
L1は、結合またはスペーサーであり、
Yは、それによって中性種、特に低分子量中性種が遊離される断片化が、質量分析条件下で可能である中性イオン損失ユニットであり、
L2は、結合またはスペーサーであり、
Zは、少なくとも1つの荷電部分を含む荷電ユニットである]
で表される共有結合性付加物である。
実施形態
本発明は、MSによる分析物分子の測定に関する。分析物分子は、本発明の化合物(I)上の反応基Xとの共有結合を形成できるいかなる物質でもよい。例えば、分析物は、修飾炭水化物、例えば、アミノ基、N-アセチル基、硫酸基、および/またはカルボキシラート基を有する炭水化物ならびにデオキシまたはメチル修飾炭水化物を含めた炭水化物、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、脂肪酸、脂質、ステロイド、ケトステロイド、セコステロイド、ヌクレオシド、ヌクレオチド、核酸、および小分子代謝物およびコファクターを含めた他の生体分子から選択される生体分子でも、薬物、農薬、毒素、またはその代謝物でもよい。そのような分析物分子は、体液、例えば、血液、血清、血漿、尿、唾液、髄液など、組織、または細胞抽出物などの生物学的試料、臨床試料、または環境試料中に存在するものでもよい。一部の実施形態では、分析物分子は、精製試料または部分精製試料、例えば精製または部分精製のタンパク質混合物または抽出物である試料中に存在してもよい。
【0016】
本発明によると、炭水化物、ならびにテストステロンおよびエストラジオールなどのステロイド、ケトステロイド、ならびにビタミンDなどのセコステロイドのようなフェノール基およびケト基を含有する化合物から選択される分析物分子は、特に関連性があり、本明細書に記載の試薬を用いて測定できる。
【0017】
分析物分子は、試料調製ワークフロー内の様々な段階で誘導体化できる。本開示との関連では、用語「誘導体化される」または「誘導体化」は、分析物と、本発明の式(I)の化合物などの化学化合物との反応を指す。したがって、用語「誘導体化試薬」は、分析物を誘導体化するのに使用される化合物を指す。分析物分子は、試料の前処理の後に、試料の第1の濃縮の後に、または試料の第2の濃縮の後に誘導体化できる。
【0018】
分析物分子を含む試料は、様々な方法で前処理および/または濃縮できる。前処理方法は、血液(新鮮血または乾燥血液)、血漿、血清、脳脊髄液(CSF)、組織、尿、または唾液などの試料のタイプに依存する。
【0019】
特に、試料が全血試料の場合、両方とも内部標準(IS)および溶血試薬(HR)の添加と、それに続く、予め定義されたインキュベーション時間(Inc)とを含み、2つのワークフローの間の差が内部標準(IS)および溶血試薬(HR)が添加される順序である2つの予め定義された試料前処理(PT)ワークフローの1つに割り当てられる。追加のステップで、本明細書中の上または下に開示の本発明の化合物などの誘導体化試薬が添加され、それにインキュベーション時間が続く。内部標準(IS)は、典型的には、既知量の同じ目的の分析物であり、これは、例えば、同位体標識されていてもよい。これによって、相対的な比較が可能となり、分析物が質量分析計に到達したときに、試料中に存在する目的の分析物を明確に同定および定量化することが可能になる。
【0020】
試料が尿試料である場合、両方とも内部標準(IS)および酵素試薬(E)の添加と、それに続く予め定義されたインキュベーション時間(Inc)とを含み、2つのワークフローの間の差が内部標準(IS)および酵素試薬(HR)が添加される順序である他の2つの予め定義された試料PTワークフローの1つに割り当てられる。酵素試薬は、典型的には、グルクロニド切断もしくはタンパク質切断または任意の分析物もしくはマトリックスのプレプロセシングに使用される試薬である。追加のステップで、本明細書中の上または下に記載の本発明の化合物などの誘導体化試薬が添加され、それにインキュベーション時間が続く。
【0021】
試料が血漿または血清の場合、それは、内部標準(IS)のみの添加と、それに続く予め定義されたインキュベーション時間(Inc)とを含む別の予め定義されたPTワークフローに割り当てられる。追加のステップで本明細書中の上または下に開示の本発明の化合物などの誘導体化試薬が添加され、それにインキュベーション時間が続く。
【0022】
そのような前処理された試料に、さらに分析物濃縮ワークフローを施すことができる。
特に、分析物濃縮ワークフローは、目的の分析物を捕捉するために、分析物選択性の基を保有する磁気ビーズ(MB)、任意選択でビーズバインダーの、前処理された試料への添加と、それに続く、予め定義されたインキュベーション時間(Inc)とを含んでもよく、磁気ビーズ(MB)の添加は、撹拌または混合を含んでもよい。磁気ビーズ(MB)とのインキュベーションの後、ワークフローは、洗浄ステップ(W1)とを含んでもよく、分析物に応じて、1または複数の追加の洗浄ステップ(W2)を含むことも可能である。洗浄ステップ(W1、W2)は、磁石または電磁石を含む磁気ビーズ操作ユニットによる磁気ビーズ分離(B sep)、液体の吸引(Asp.)、洗浄バッファーの添加(W. Buffer)、磁気ビーズの再懸濁(Res.)、別の磁気ビーズ分離ステップ(B Sep)、および液体の別の吸引(Asp.)を含む一連のステップを含む。さらに、洗浄ステップは、溶剤の体積以外に、溶剤のタイプ(水/有機/塩/pH)および洗浄サイクルの数または組合せに関して相違していてもよい。
【0023】
磁気ビーズから目的の分析物を遊離するために、最後の洗浄ステップ(W1、W2)に続いて、溶出試薬(ER)の添加を行い、それに磁気ビーズの再懸濁(Res.)および予め定義されたインキュベーション時間(Inc.)が続く。次いで、無結合の磁気ビーズを分離し(B Sep.)誘導体化された目的の分析物を含有する上清をLCステーションに直接移すか、希釈液(Dil.)の添加による希釈ステップの後にLCステーションに移す。様々な溶出手順/試薬、例えば、溶媒のタイプ(水/有機/塩/pH)および体積を変えることによっても使用できる。
【0024】
目的の分析物の誘導体化が前処理方法の後に行われなかった場合、試料中の分析物の誘導体化を、磁気ビーズを用いた第1の濃縮ワークフローの後に行ってもよい。本明細書では、本明細書中の上または下に開示の本発明の化合物などの誘導体化試薬が、洗浄ステップ(W1、W2)が行われた後、溶出試薬の前に、同時に、後に目的の試料に添加され、それにインキュベーション時間(定義された時間および温度)が続く。次いで、無結合の磁気ビーズを分離し(B Sep.)、誘導体化された目的の分析物を含有する上清をLCステーションに直接、または希釈液(Dil.)の添加による希釈ステップの後に移す。様々な溶出手順/試薬も、例えば、溶媒のタイプ(水/有機/塩/pH)および体積を変えることによって使用できる。
【0025】
さらなるオプションには、本明細書中の上または下に開示の本発明の化合物などの誘導体化試薬のポストカラムインフュージョンを用いた、クロマトグラフィー分離(限定されるものではないが、液体クロマトグラフィーまたはガスクロマトグラフィーが含まれる)、特に液体クロマトグラフィーを含めた第2の分析物濃縮ワークフローの後の、分析物の誘導体化が含まれる。
【0026】
特定の実施形態では、分析物分子は、炭水化物または炭水化物部分を有する物質、例えば糖タンパク質またはヌクレオシドである。例えば、分析物分子は、リボース、デオキシリボース、アラビノース、リブロース、グルコース、マンノース、ガラクトース、フコース、フルクトース、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミン、ノイラミン酸、N-アセチルノイラミン酸などの単糖、またはオリゴ糖、例えばショ糖、マルトース、もしくはラクトースなどの二糖、または三糖もしくは四糖でもよく、あるいは多糖、またはそのような単糖、オリゴ糖、もしくは多糖部分を含む物質でもよい。
【0027】
好ましくは、分析物分子は、化合物(I)の反応基Xと共有結合を形成できるカルボニル基、例えば、アルデヒドもしくはケト基またはマスクされたアルデヒドもしくはケト基、例えば、ヘミアセタール基、特に環状ヘミアセタール基を含む。分析物分子は、化合物(I)との反応の前にアルデヒド基、ケト基、またはヘミアセタール基に変えることができるアセタール基を含むものでもよい。
【0028】
他の実施形態では、分析物分子は、化合物(I)の反応基Xと共有結合を形成できる、アミノ、チオール、ヒドロキシ、隣接ジオール、共役ジエン、フェノール、核酸塩基、カルボキシル、末端システイン、および末端セリンから選択される基を含んでもよい。さらに、分析物分子上にある基が、まず、化合物(I)の反応基Xとの反応への利用がより容易である別の基に変えられることも、本発明の範囲内にあると意図されている。
【0029】
1または複数個のフェノール基を含有する分析物は、特に興味深い。例えば、分析物は、ステロイド、ステロイド様化合物、エストロゲン、エストロゲン様化合物、エストロン(E1)、エストラジオール(E2)、17a-エストラジオール、17p-エストラジオール、エストリオール(E3)、16-エピエストリオール、17-エピエストリオール、および16,17-エピエストリオール、および/またはその代謝物から選択されるものでもよい。様々な実施形態で、代謝物は、例えば、エストリオール、16-エピエストリオール(16-エピE3)、17-エピエストリオール(17-エピE3)、16,17-エピエストリオール(16,17-エピE3)、16-ケトエストラジオール(16-ケトE2)、16a-ヒドロキシエストロン(16a-OHE1)、2-メトキシエストロン(2-MeOE1)、4-メトキシエストロン(4-MeOE1)、2-ヒドロキシエストロン-3-メチルエーテル(3-MeOE1)、2-メトキシエストラジオール(2-MeOE2)、4-メトキシエストラジオール(4-MeOE2)、2-ヒドロキシエストロン(20HE1)、4-ヒドロキシエストロン(4-OHE1)、2-ヒドロキシエストラジオール(2-OHE2)、エストロン(E1)、硫酸エストロン(E1s)、17a-エストラジオール(E2a)、17p-エストラジオール(E2b)、硫酸エストラジオール(E2s)、エキリン(EQ)、17a-ジヒドロエキリン(EQa)、17p-ジヒドロエキリン(EQb)、エキレニン(EN)、17-ジヒドロエキレニン(ENa)17β-ジヒドロエキレニン(ENb)、A8,9-デヒドロエストロン(dE1)、硫酸A8,9-デヒドロエストロン(dE1s)であってもよい。一部の実施形態では、フェノール性分析物が、sp2混成であるA環を有し、A環の3位にOH基を有するステロイドまたはステロイド様の化合物であってもよい。
【0030】
1または複数個のケト基を含有する分析物は、さらに興味深い。好ましい例は、限定されるものではないが、DHT、テストステロン、エピテストステロン、デスオキシメチルテストステロン(DMT)、テトラヒドロゲストリノン(THG)、アルドステロン、エストロン、4-ヒドロキシエストロン、2-メトキシエストロン、2-ヒドロキシエストロン、16-ケトエストラジオール、16アルファ-ヒドロキシエストロン、2-ヒドロキシエストロン-3-メチルエーテル、プレドニゾン、プレドニゾロン、プレグネノロン、プロゲステロン、DHEA(デヒドロエピアンドロステロン)、17OHプレグネノロン、17OHプロゲステロン、17OHプロゲステロン、アンドロステロン、エピアンドロステロン、およびデルタ4アンドロステンジオン)11-デスオキシコルチゾールコルチコステロン、21デオキシコルチゾール、11デオキシコルチコステロン、アロプレグナノロン、およびアルドステロンを含めたケトステロイドである。
【0031】
分析物のMS測定を容易にし、改善するため、第1の態様において、本発明は、その任意の塩を含めた、一般式(I):
X-L1-Y(-L2-Z)r (I)
[式中、
Xは、分析物分子と反応することができ、それによって分析物分子との共有結合が形成される反応基であり、
L1は、結合またはスペーサーであり、
Yは、それによって中性種、特に低分子量中性種が遊離される断片化が、質量分析条件下で可能である中性イオン損失ユニットであり、
L2は、結合またはスペーサーであり、
Zは、少なくとも1つの荷電部分、特に永久荷電部分を含む荷電ユニットであり、
rは、0または1である]
の化合物
または少なくとも1つの化合物(I)を含む組成物もしくはキットの、分析物分子の質量分析測定のための使用に関する。
【0032】
本発明によるMSで使用するための化合物(I)は、分析物分子と反応することができ、それによって分析物分子との共有結合が形成される反応基Xを含む。
複数の実施形態で、化合物(I)の反応基Xは、分析物分子上の様々な官能基と反応するように選択することができる。どの反応基Xが、目的の分析物の官能基への結合に適格でるかを決めることは、周知のことの範囲内である。分析物分子上の官能基は、隣接ジオール、フェノール基、核酸塩基、アミノ、メルカプト、ヒドロキシ、1-ヒドロキシ2-アミノアルキル、1-アミノ2-メルカプトアルキル、ケト、1,3-ジエニル、エニル、アリル、ホルミル、およびカルボキシラート基である。反応基については、標準的な教科書「Bioconjugate Techniques」、第3版:https://doi.org/10.1016/B978-0-12-382239-0.00025-X;および「The Molecular Probes Handbook: A Guide to Fluorescent Probes and Labeling Technologies」、第11版、Iain D. Johnson編、Life Technologies Corporation,2010、ならびに総説(例えばX. Chenら、Org. Biomol. Chem.,2016,14,5417-5439;およびT. Higashi J Steroid Biochem Mol Biol. 2016 Sep;162:57-69)に概説されている。
【0033】
特に、反応基Xは、カルボニル反応基、親ジエン反応基、カルボン酸反応基、フェノール反応基、アミノ反応基、ヒドロキシル反応基、またはチオール反応基である。特に、反応基Xは、アミン反応基、チオール反応基、カルボニル反応基、親ジエン反応基、1,2ジオール反応基、カルボン酸反応基、ヒドロキシル反応基、1-アミノ2-ヒドロキシアルキル反応基、1-アミノ2-メルカプト反応基、およびフェノールのオルト位で反応する基からなる群から選択される。
【0034】
好ましい一実施形態では、基Xは、カルボニル基を有する任意のタイプの分子、例えば、炭水化物分子と反応することができるカルボニル反応基である。特に、炭水化物-化合物(I)の反応基Xは、グルコース、マンノース、ガラクトース、リボース、またはフコースなどのアルドース、およびリブロースまたはフルクトースなどのケトースを含めたあらゆるタイプの糖と反応することができ、また、到達可能なアルデヒドもしくはケト基またはヘミアセタールマスクされたアルデヒドもしくはケト基を有する二糖、三糖、または四糖などのオリゴ糖および多糖と反応することができる。カルボニル反応基は、隣接するOもしくはN原子NH2-N/Oを通したα効果によって強化された超求核性のN原子またはジチオール分子のいずれかを有しうる。これは、下記から選択されるものでもよい:
(i)ヒドラジン基、例えばH2N-NH-またはH2N-NR1-基、
[式中、R1は、置換されていてもよい、例えばハロで置換されていてもよいアリールまたはC1-4アルキル、特に、C1もしくはC2アルキル、ヒドロキシル、および/またはC1-3アルコキシである]
(ii)ヒドラゾン基、例えばH2N-NH-C(O)-またはH2N-NR2-C(O)-基、
[式中、R2は、置換されていてもよい、例えばハロで置換されていてもよいアリールまたはC1-4アルキル、特に、C1もしくはC2アルキル、ヒドロキシル、および/またはC1-3アルコキシである]
(iii)ヒドロキシルアミノ基、例えばH2N-O-基、および
(iv)ジチオール基、特に1,2-ジチオールまたは1,3-ジチオール基。
【0035】
好ましい一実施形態では、反応基Xが、ケト基を含む分析物と反応することができるケト反応基であり、例えば、ケトステロイド様DHT、テストステロン、エピテストステロン、デスオキシメチルテストステロン(DMT)、テトラヒドロゲストリノン(THG)、アルドステロン、エストロン、4-ヒドロキシエストロン、2-メトキシエストロン、2-ヒドロキシエストロン、16-ケトエストラジオール、16アルファ-ヒドロキシエストロン、2-ヒドロキシエストロン-3-メチルエーテル、プレドニゾン、プレドニゾロン、プレグネノロン、プロゲステロン、DHEA(デヒドロエピアンドロステロン)、17OHプレグネノロン、17OHプロゲステロン、17OHプロゲステロン、アンドロステロン、エピアンドロステロン、およびデルタ4-アンドロステンジオン)11-デオキシコルチゾールコルチコステロン、21デオキシコルチゾール、11デオキシコルチコステロン、アロプレグナノロン、およびアルドステロンである。
【0036】
例えば、Br/I-CH2-C(O)-、アクリルアミド/エステル基、マレイミドもしくはメチルスルホニルフェニルオキサジアゾールなどのイミドなどの反応性ハロアセチル基は、分析物分子上のチオール基などの求核性の基と反応できる。アミノ反応基、例えば、N-ヒドロキシサクシニミド(NHS)エステルもしくはスルホ-NHSエステル、ペンタフルオロフェニルエステル、四角酸エステル、ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)エステル、または1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール(HOAt)エステル、または塩化スルホニル基などの活性エステル基は、分析物分子上のアミノ基と反応できる。上記のヒドラジンまたはヒドロキシルアミノ基も、分析物分子上に存在する他の求電子性の基と反応させるのに使用できる。
【0037】
ジオールへの結合には、反応基Xは、ボロン酸を含んでもよい。あるいは、ジオールは、それぞれのケトンまたはアルデヒドに酸化し、次いで、ケトン/アルデヒド反応基Xと反応させることができる。ジエンに結合させるための反応基Xとして、トリアゾールジオンなどの求ジエン体を選択することができる。分析物分子上にあるフェノール基は、en反応(H. Ban et al J. Am. Chem. Soc.,2010,132(5),pp 1523-1525)を介して、またはジアゾ化によって、あるいはortho-ニトロ化し、それに続きアミンに還元し、これを次いでアミン反応性試薬と反応させることによって、トリアゾールジオンと反応させることができる。
【0038】
核酸塩基は、反応基Xとして、2-クロロアセチルまたはPt錯体と反応させることができる。末端システインは、反応基Xとして、シアン化ヘテロアリール/アリールと反応させることができる。末端セリンは、酸化させてアルデヒド基を生じさせ、次いで知られているアルデヒド反応基Xと反応させることができる。
【0039】
当業者ならば、測定する分析物分子上にある官能基に応じて、化合物(I)に適した反応基Xを選択するであろう。
さらなる実施形態では、反応基が、プロスタグランジンの誘導体化に使用することができるカルボン酸反応基、例えば、ジアゾ化合物(Chromatographia 2012,75,875-881)である。他のよく知られているカルボン酸反応基はハロゲン化アルキルである。カルボン酸の活性化およびそれに続くアミンまたはヒドラジンなどの求核剤との反応もよく知られている(A. Kretschmner et al Journal of Chromatography B Volume 879,17-18,May 2011,Pages 1393-1401)。
【0040】
ヒドロキシル反応基(T. Higashi J Steroid Biochem Mol Biol. 2016 Sep;162:57-69)は、塩化スルホニル、活性化カルボキシルエステル(NHSまたはイミダゾリド)、およびフッ素の求核置換が可能なフルオロアロマート/ヘテロアロマートである。
【0041】
好ましい一実施形態では、反応基Xは、フェノール基を有する任意のタイプの分子と反応することができるフェノール反応基、例えばステロイド、ステロイド様化合物、エストロゲン、エストロゲン様化合物、エストロン(E1)、エストラジオール(E2)、17a-エストラジオール、17p-エストラジオール、エストリオール(E3)、16-エピエストリオール、17-エピエストリオール、および16,17-エピエストリオール、ならびに/またはその代謝物である。例えば、フェノール反応基は、1,2,4-トリアゾリン-3,5-ジオン基でもよく、1,2,4-トリアゾリン-3,5-ジオンは、求ジエン体として作用することもでき、したがって、ビタミンDである1α,25(OH)2VitD3、1α,25(OH)2VitD2、25(OH)VitD2、25(OH)VitD3および24R,25(OH)2VitD3の検出に有用である。
【0042】
化合物(I)は、さらに中性イオン損失ユニットYを含む。本願との関連では、用語「中性イオン損失ユニット」は、電荷を有しない部分を失うことができるユニットを指す。前記部分は、限定されるものではないが、イオン、原子、および複数の原子を含む。ユニットYは、中性であり、すなわち、正電荷も負電荷も帯びず、本明細書中下記に定義されているリンカーL1を介して反応基Xに連結されている。中性ユニットYは、MSの条件下で、例えば衝突誘起解離(CID)を、例えば三連四重極型MS内で受けた場合、それによって中性種が遊離される断片化が可能である。第1の中性種の遊離の後、ユニットYの残部は、依然として中性のままである。必須ではないが、典型的には、1種の中性種の遊離、すなわち第1の中性種の遊離が起こる。特定の実施形態では、2種の中性種が遊離される。
【0043】
第1の中性種は、低分子量中性種、例えば分子量が100未満である、さらに特定すると80未満である中性分子でもよい。さらに、第1の中性種は、SO、SO2、CO、CO2、NO、NO2、またはN2などの無機分子でもよい。特に、中性種は、N2またはSO2である。さらに特定すると、第1の中性種はN2である。中性分子の損失を引き起こす反応は、好ましくは逆環化反応、特に1,3-双極子逆環化でもよい。本開示との関連では、用語「逆環化」は、任意の環化付加反応の逆転を指す。
【0044】
特定の実施形態では、中性イオン損失ユニットYが環状部分(例えば、ビシクロ[2.2.1]ヘプタジエン-7-オンのような環状ケトンはCOを失うことが知られている)、特に複素環部分、さらに特定すると、それによって上記の第1の中性種が遊離される断片化が可能である6員、5員、または4員の複素環部分を含むまたはからなる。そのような(複素)環状基は、それによって中性種が遊離される逆(複素)環化付加反応による断片化を容易に示す。
【0045】
好ましくは、中性イオン損失ユニットYは、トリアゾール、特に1,2,3-トリアゾール、テトラゾール、テトラジン、1,2,3オキサもしくはチアジアゾール、またはその水素化誘導体から選択される環状アゾ化合物および5員環など、相互に隣接する,例えば1,2位にN、O、および/またはS原子、特にN原子などの少なくとも2個のヘテロ原子を有する5員または6員の複素環部分を含むまたはからなる。上記の複素環に、さらなる環、例えばベンゾチアジアゾールまたはベンゾトリアゾールをアニールさせることができる。複素環は、例えば、2,5-ジヒドロピロールおよび2,5-ジヒドロチオフェン-1,1-ジオキシドに部分的に水素化することができる。
【0046】
特に好ましい実施形態では、5員の複素環部分は、トリアゾール部分であり、これは、アルキンおよびアジドの環化付加またはクリック反応を介して、必須ではないが、触媒としてCu(I)が存在してもよい状態で、合成されたものでもよい。MSの条件下で、トリアゾール部分の断片化が、1,3双極子逆環化反応を介したN2の遊離を引き起こし、それによって質量分析計における質量/電荷比(m/z)が28に低下する。
【0047】
当業者ならば、市販のソフトウェア、例えばACD/MS Fragmenter(ACD Labs)を用いて中性イオン損失ユニットを同定できることを十分に認識している。さらに中性損失を引き起こす反応および分子種は次の参考文献に記載されている。
Carey,Sundberg: Organische Chemie,Ein weiterfuhrendes Lehrbuch Korrigierter Nachdruck VCH 1995; ISBN: 3-527-29217-9、およびFred W. McLafferty,Frantisek Turecek,Interpretation von Massenspektren Springer Spektrum 1995,Softcover: ISBN978-3-642-39848-3)。
【0048】
特定の実施形態では、必須ではないが、化合物(I)が少なくとも1個の荷電部分、すなわち実質的に中性の条件下で主に荷電状態で存在する部分を含む荷電ユニットZを有する。例えば、荷電ユニットZは、下記を含む。
(i)一級、二級、三級、もしくは四級アンモニウム基もしくはホスホニウム基などの少なくとも1つの正荷電部分、特にpKaが10以上である、さらに特定するとpKaが12以上である正荷電部分、または
(ii)リン酸基、硫酸基、スルホン酸基、またはカルボキシラート基などの少なくとも1つの負電荷部分、特にpKbが10以上であり、さらに特定するとpKbが12以上である負電荷部分。
【0049】
本願との関連では、用語「pKaが~である」とは、当該荷電部分が無い分子のpKa値とは異なる特定のpKa値を荷電部分が分子全体に与えているという事実を指す。例えば、用語「少なくとも1個のpKaが10以上である正荷電部分」は、前記少なくとも1つの正荷電部分を含む分子全体が10以上のpKaを示すことを指定する。pKb値にも同じことが類似してあてはまる。
【0050】
荷電ユニットZは、最も好ましくは、1個の荷電部分からなる。
荷電ユニットZが存在する場合、それが、本明細書に定義されているリンカーL2を介して、中性イオン損失ユニットYに連結される。したがって、電荷および中性損失を行う能力が、様々なユニットによって提供される。中性イオン損失ユニットYが断片化されて(低分子量)中性種の遊離が起こる条件下でさえ、荷電ユニットZは無変化のままである。これは、残部の荷電状態が変わらないことを意味する。化合物が、荷電ユニットZ内の正電荷により以前に正荷電であった場合、それは、低分子量中性種を遊離した後でも正荷電のままである。
【0051】
好ましくは、化合物(I)は、少なくとも1個の正荷電部分を含む荷電ユニットZを有する。最も好ましくは、荷電ユニットZが、1個の正荷電部分からなり、代替の断片化を行うことができるいかなる基も有しない。
【0052】
試薬化合物(I)は、荷電ユニットZの存在から生じる荷電部分を有してもよい。荷電は、例えば四級アンモニウム基を使用する場合、永久荷電でもよく、またはプロトン化(正電荷)または脱プロトン(負電荷)によって生成されたものでもよい。本発明によると、永久荷電が好ましい。化合物(I)内に荷電部分があることが好ましいが、必ずしも必要ではない。好ましい永久正荷電ユニットは、テトラアルキルアンモニウム、1-アルキルピリジニウム、および1,3-ジアルキルイミダゾリウムユニットである。
【0053】
第1の中性種の遊離に加えて、化合物(I)は、質量分析条件下で、代替の断片化、例えばCIDを介した断片化が可能なものでもよい。それによって、第1の中性種とは異なる第2の中性種が遊離される。例えば、第2の中性種は、アリールラジカル、例えば、フェニルラジカルもしくは置換フェニルラジカル、またはハロゲンラジカル(Cl、Br、I)を含むことができる。第2の中性種の遊離を起こす代替の断片化は、中性イオン損失ユニットYからの第1の中性種の遊離に必要なものより高いエネルギ-の条件下でのみ起こることが好ましい。
【0054】
特定の実施形態では、当該化合物は、その任意の塩を含めた、一般式(Ia):
X-L1-Y-L2-Z (Ia)
[式中、
Xは、カルボニル反応基、親ジエン反応基、カルボン酸反応基、フェノール反応基、アミノ反応基、ヒドロキシル反応基、またはチオール反応基であり、ただしXはアクリエステルではなく、
L1は、結合またはスペーサーであり、
Yは、それによって中性種、特に低分子量中性種が遊離される断片化が質量分析条件下で可能である中性イオン損失ユニットであり、
L2は、結合またはスペーサーであり、
Zは、少なくとも1個の永久正荷電部分を含む荷電ユニットである]
で表される。
特定の実施形態では、当該化合物は、その任意の塩を含めた、一般式(Ia):
X-L1-Y-L2-Z (Ia)
[式中、
Xは、カルボニル反応基、親ジエン反応基、カルボン酸反応基、フェノール反応基、アミノ反応基、またはヒドロキシル反応基であり、
L1は、結合またはスペーサーであり、
Yは、それによって中性種、特に低分子量の中性種が遊離される断片化が質量分析条件下で可能である中性イオン損失ユニットであり、
L2は、結合またはスペーサーであり、
Zは、少なくとも1つの負電荷部分を含む荷電ユニットである]
で表される、または少なくとも1つの化合物(Ia)を含む組成物もしくはキットである。
好ましい一実施形態では、式(I)の化合物は、炭水化物およびケトステロイドの測定のための試薬に適しており、一般式(Ib)の化合物でもよい:
X1-L1-Y1(-L2-Z)r
[式中、
X1は、上記のカルボニル反応基であり、
Y1は、
(i)それによって第1の中性種が遊離される断片化が質量分析条件下で可能である複素環部分、および
(ii)任意選択で、それによって第1の中性種とは異なる第2の中性種が遊離される代替の断片化が質量分析条件下で可能である部分
を含む中性イオン損失ユニットであり、
L1は、結合またはスペーサーであり、
L2は、結合またはスペーサーであり、
Zは、少なくとも1つの荷電部分、特に永久荷電部分を含む荷電ユニットであり、
rは、0または1である。
【0055】
一般式(I)、(Ia)、または(Ib)における基L1およびL2は、独立に、結合、すなわち共有結合、またはスペーサー、すなわち鎖長が1から通常、4、6、8、もしくは10原子、もしくはそれより長い、例えばC原子であり、任意選択で少なくとも1個のヘテロ原子を含む直鎖もしくは分枝のスペーサーを表す。好ましくは、基L1およびL2は、長さが1、2、または3原子の短いスペーサーであって、最も好ましくは代替の断片化を受ける可能性のあるいかなる部分も無いスペーサーである。さらに、基L1およびL2がいかなる立体中心も含まないことが好ましい。立体異性体が存在する場合、1種のみの立体異性体が存在し、2種以上の立体異性体の混合物は存在しない。MSで使用するには、化合物(I)は、立体異性について純粋な形で用意することが好ましい。
【0056】
特定の実施形態では、L1またはL2は、相互に独立に、少なくとも1個のヘテロ原子を任意選択で含む、C1-C4アルキルスペーサーである。さらなる実施形態では、L1およびL2の一方は、上記の代替の断片化の対象となりうる、フェニル基などのアリール基を含む。
【0057】
特定の実施形態では、本発明の化合物と所与の分析物の反応によって形成される付加物は、質量分析で測定された際に.質量遷移を1つしか示さない。
本発明による化合物の特定の例は、式(Ic):
【0058】
【0059】
[式中、Rは、それぞれ独立に、HまたはC1-4アルキル、特にメチルであり、Aは、陰イオン、例えばギ酸イオンである]の化合物である。
本発明のさらなる実施形態は、アイソトポログである式(I)の化合物に関する。用語「アイソトポログ」は、主要同位体の少なくとも1つが、分子質量がその対応する主要同位体の分子質量とは異なる、その対応する元素の比較的少量の安定同位体で置き換えられている化合物(I)に関する。したがって、得られる(I)のアイソトポログは、ここで同位体について中性と呼ばれる主要同位体からなるその対応する化合物の分子質量とは、分子質量が異なる。この分子質量の相違により、同位体について中性な化合物とそのアイソトポログとを質量分析で区別することが可能となる。好ましい一実施形態では、アイソトポログは、D(Hの置換物として)、13C(12Cの置換物として)、15N(14Nの置換物として)、および18O(16Oの置換物として)から選択される少なくとも1種の同位体を含む。
【0060】
アイソトポログでは、同位体について中性の原子それぞれのうち1または複数種、最多では全てが同位体で置き換えられていてもよい。それによって、1つの化合物について極めて多数の様々なアイソトポログが用意できる。
【0061】
例えば、上に示した式(Ic)の化合物において、芳香族ユニットまたはグリシンユニットにおける1もしくは複数種または全てのH、14N、および12C原子をD、15N、または13Cで置き換えることができる。トリアゾール環の2位および3位のN原子は、15Nで置き換えると、中性種N2として切り離されるので、それらは15Nで置き換えられない。
【0062】
R=メチルである式(Ic)の化合物の特定の実施形態では、3個のCH3基がすべてCD3基で置き換えられる。このアイソトポログは、9質量ユニット分重く、したがって、3個のCH3基を有する同位体について中性なその対応する化合物とMS識別可能である。
【0063】
化合物(I)は、同位体について中性な化合物としても、同位体について中性なその対応する化合物とMS識別可能であるアイソトポログとしても、同じ化合物の複数の異なるMS識別可能なアイソトポログを含む組成物としても、同じ化合物の分離形態の複数の異なるMS識別可能なアイソトポログを含むキットとしても用意できる。試薬の複数の異なるMS識別可能なアイソトポログを含む組成物またはキットは、下に記載するマルチプレックス適用に特に適している。
【0064】
そのアイソトポログを含めた式(I)の好ましい化合物の合成については、下の実施例の項に記載されている。
さらに、本発明のさらなる態様は、分析物分子の質量分析測定のため、特に上記の炭水化物分析物分子の測定のための、式(I)の化合物の使用に関する。この使用では、後でMSによって解析される共有結合性付加物がそれによって形成される化合物(I)との反応による分析物分子の誘導体化が行われる。
【0065】
化合物(I)を、MSによる分析物分子の測定のための試薬として使用する一般スキームは、次のステップを含む。
(i)分析物の誘導体化
試薬化合物(I)+分析物→付加物
(ii)MS解析
→付加物イオンの検出
|
付加物→
|
→中性種の断片化によって生じる娘イオンの検出
付加物イオンから生じた中性種の断片化、すなわち中性イオン損失は、全体の電荷を変化させない。したがって、娘イオンは、分子イオンと同じ電荷を有する。
【0066】
付加物が正電荷を含む場合、MS検出は、ポジティブモードで行われる。付加物が負電荷を有する場合、検出は、ネガティブMSモードで行われる。
質量分析測定は、ガスクロマトグラフィー(GC)、液体クロマトグラフィー(LC)、特にHPLC、迅速LC、もしくはマイクロLC(μLC)などのクロマトグラフィー方法および/またはイオンモビリティベースの分離技法を含めた追加の解析方法と組み合わせることができる。
【0067】
本発明のさらなる態様は、上記の一般式(I)の化合物と分析物分子の反応によって形成された付加物の、分析物分子の質量分析測定のための使用である。この反応によって、化合物(I)と分析物分子の間の共有結合が形成される。特定の好ましい実施形態では、質量分析測定は、タンデム質量分析測定、さらに特定すると三連四重極型装置におけるタンデム質量分析測定を含み、その際、分析物付加物の分子イオンが、例えば衝突誘起解離(CID)による、断片化を受け,娘イオンが分子イオンから生成される。付加物分子イオンおよび娘イオンを平行して検出することによって、分析物の極めて高感度な測定が可能である。
【0068】
好ましい一実施形態では、MS測定に使用される付加物が一般式(II):
T-X’-L1-Y(-L2-Z)r (II)
[式中、
Tは、分析物分子であり、
X’は、化合物(I)上の反応基Xと分析物分子の反応から得られる部分であり、L1、Y、L2、Zおよびr上に定義されている通りである]の化合物である。
【0069】
式(II)の付加物化合物は、正電荷または負電荷を帯び、これが、質量分析検出を可能にする。この電荷は、化合物(I)の荷電ユニットZが与える。化合物(I)に荷電ユニットが存在していることが好ましいが、例えば、分析物分子それ自体が電荷を帯びている場合、および/またはプロトン化または脱プロトンによって付加物に電荷を与えることができる場合、他の手段によって電荷を与えることができるので必要ではない。
【0070】
一実施形態では、付加物化合物(II)は、試料中に存在する解析される分析物分子と試料に添加されている化合物(I)の反応によって生成できる。
さらに、本発明のさらなる態様は、その任意の塩または少なくとも1種の式(IIa)の付加物を含む組成物もしくはキットを含めた、付加物化合物(IIa):
T-X’-L1-Y-L2-Z (IIa)
[式中、
T、X’、L1、Y、L2、およびZは、本明細書中の上に定義されている通りである]である。
【0071】
特に、付加物は、その任意の塩を含めた、式(IIa):
T-X’-L1-Y-L2-Z (IIa)
[式中、
X’は、化合物(I)上の反応基Xの反応から得られる部分であり、Xは、Xがアクリエステルではないという条件で、カルボニル反応基、親ジエン反応基、カルボン酸反応基、フェノール反応基、アミノ反応基、ヒドロキシル反応基、またはチオール反応基であり、
L1は、結合またはスペーサーであり、
Yは、それによって中性種、特に低分子量の中性種が遊離される断片化が質量分析条件下で可能である中性イオン損失ユニットであり、
L2は、結合またはスペーサーであり、
Zは、上に定義されている、少なくとも1つの永久正荷電部分を含む荷電ユニット、好ましくは、テトラアルキルアンモニウム、1-アルキルピリジニウム、または1,3-ジアルキルイミダゾリウムユニットである]
の化合物、または少なくとも1種の式(IIa)の付加物を含む組成物もしくはキットである。
【0072】
特に、付加物は、その任意の塩を含めた、式(IIa):
T-X’-L1-Y-L2-Z (IIa)
[式中、
X’は、化合物(I)上の反応基Xの反応から得られる部分であり、Xは、カルボニル反応基、親ジエン反応基、カルボン酸反応基、フェノール反応基、アミノ反応基、またはヒドロキシル反応基であり、
L1は、結合またはスペーサーであり、
Yは、それによって中性種、特に低分子量中性種が遊離される断片化が、質量分析条件下で可能である中性イオン損失ユニットであり、
L2は、結合またはスペーサーであり、
Zは、少なくとも1つの負電荷部分を含む荷電ユニットである]
の化合物、または少なくとも1種の式(IIa)の付加物を含む組成物もしくはキットである。
【0073】
付加物化合物は、キャリブレーターおよび/または標準物質として使用するための純粋な物質として提供することもできる。キャリブレーターとしての、付加物化合物(II)または(IIa)の使用では、特定の分析物分子のための較正曲線の作成を行うことができ、その際、試料中に存在する未知量の分析物分子の正確な定量的測定を可能にするために、様々な既知量の付加物化合物(II)または(IIa)がMS解析を受け、それぞれのシグナル強度が測定される。
【0074】
標準物質としての付加物化合物(II)の使用では、試料の個々の部分、例えばアリコートに、例えばアイソトポログの形態の既知量の試薬-分析物付加物を添加し、これらの個々の試料部分の別個の質量分析を行うことができる。これにより得られた、これらの試料部分中の分析物-試薬付加物の様々なシグナル強度は、試料中に存在する未知量の分析物分子の正確な定量的測定を可能にする。
【0075】
さらに、既知分析物を、例えばアイソトポログの形態で、試料または試料の個々の部分、例えばアリコートに既知量で添加することができる標準物質として用意することができる。式(I)または(Ia)の試薬で試料を処理することによって、次いで、標準付加物と式(I)または(Ia)の試薬および測定するべき分析物から形成される付加物との混合物が生じる。
【0076】
好ましい実施形態によると、標準物質の既知分析物、式(I)もしくは(Ia)の試薬、またはその両方をアイソトポログの形態で用いることができる。
標準付加物と、式(I)の試薬と測定するべき分析物の反応によって形成された付加物との混合物は、次いで、質量分析を用いて解析することができる。一部の実施形態では、分析物の相対濃度を得ることができる。他の実施形態では、既知量の標準物質を用いることによって分析物の絶対定量を得ることができる。
【0077】
試料中の分析物分子と試薬化合物(I)の間の付加物が形成される前、最中、または後に標準物質を試料に添加することができる。好ましくは、試料中の分析物分子と試薬化合物(I)または(Ia)の間の付加物が形成される前に、内部標準が添加される。
【0078】
好ましくは、標準付加物は、試薬化合物(I)または(Ia)と試料中に存在する分析物分子の反応によって生成される付加物とMS識別可能である。この目的で、標準付加物は、試薬化合物(I)または(Ia)のアイソトポログから生成することができ、一方、試料中の分析物分子の付加物は、同位体について中性、すなわち標識されていない試薬化合物(I)もしくは(Ia)または標準物質とは異なるアイソトポログを用いることによって生成できる。代わりに、または加えて、標準物質の分析物がアイソトポログであってもよい。
【0079】
ガスまたは液体クロマトグラフィーなどのクロマトグラフィーによる分離中、アイソトポログ標準付加物は、試料由来の分析物付加物と同じ保持時間を有する。したがって、分析物付加物とアイソトポログ標準付加物の両方が同時に質量分析計に入る。
【0080】
しかし、アイソトポログ標準付加物は、試料由来の分析物付加物とは異なる分子質量を示す。これにより、それらの質量/電荷(m/z)比の相違による、添加した標準付加物由来のイオンと分析物付加物由来のイオンとの間の質量分析による識別が可能となる。両方の付加物とも、上記の第1の中性種の遊離による断片化を受け、娘イオンを生ずる。これらの娘イオンは、それらのm/z比により相互に、そしてそれぞれの付加物イオンから識別することができる。したがって、アイソトポログ標準付加物および分析物付加物からのシグナルの別個の測定および定量化を行うことができる。アイソトポログ標準付加物は既知量で添加されているので、試料由来の分析物付加物のシグナル強度を分析物の特定の定量値に割り当てることができる。
【0081】
さらに、本発明のさらなる態様は、分析物分子の質量分析測定のための方法であって、
(a)分析物分子と、上記の式(I)の試薬化合物との共有結合形成反応を起こすステップであって、それによって分析物分子と試薬化合物の付加物が形成されるステップと、
(b)ステップ(a)で得られた付加物の質量分析を行うステップと
を含む方法に関する。
【0082】
特定の実施形態では、式(I)の化合物とステップa)の分析物分子の反応は、分析物分子のいずれかの濃縮プロセスの前に行われるか、第1の濃縮プロセスの後に行われるか、第2の濃縮プロセスの後に行われる。本開示との関連では、用語「第1の濃縮プロセス」または「第1の濃縮ワークフロー」は、試料の前処理の後に行われ、初めの試料と比較して濃縮されている分析物を含む試料をもたらす濃縮プロセスを指す。本開示との関連では用語「第2の濃縮プロセス」または「第2の濃縮ワークフロー」は、試料の前処理および第1の濃縮プロセスの後に行われ、初めの試料および第1の濃縮プロセスの後の試料と比較して濃縮された分析物を含む試料をもたらす濃縮プロセスを指す。特定の実施形態では、第1の濃縮プロセスは、分析物選択性の磁気ビーズの使用を含む。特定の実施形態では、第2の濃縮プロセスは、クロマトグラフィーによる分離の使用、特に液体クロマトグラフィーの使用を含む。
【0083】
式(I)の化合物とステップa)の分析物分子の反応がいずれかの濃縮プロセスの前にも行われる特定の実施形態では、式(I)の化合物が、前処理された目的の試料に添加される。用語「前処理された試料」は、内部標準(IS)および上に詳細に記載されている溶血試薬(HR)による血液試料の処理または内部標準(IS)および上に詳細に記載されている酵素試薬(E)による尿試料の処理を指す。したがって、分析物分子と式(I)の試薬化合物の付加物が、前処理の後かつ第1の濃縮プロセスの前に形成される。したがって、付加物は、ステップb)の質量分析を受ける前に、第1の濃縮プロセスおよび第2の濃縮プロセスを受ける。
【0084】
式(I)の化合物とステップa)の分析物分子の反応が第1の濃縮プロセスの後に行われる特定の実施形態では、式(I)の化合物が、磁気ビーズを使用する第1の濃縮プロセスが行われた後に、目的の試料に添加される。したがって、この場合、最初に本明細書中の上に記載の通り試料が前処理され、次いで、本明細書中の上に記載の分析物選択性の基を担持する磁気ビーズで処理され、ビーズからの溶出の前、最中、または後に、式(I)の化合物が添加される。したがって、第1の濃縮プロセスの後、かつ第2の濃縮プロセスの前に、分析物分子と式(I)の試薬化合物の付加物が形成される。したがって、付加物は、ステップb)の質量分析を受ける前に、第2の濃縮プロセスを受ける。
【0085】
式(I)の化合物とステップa)の分析物分子の反応が第2の濃縮プロセスの後に行われる特定の実施形態では、クロマトグラフィー、特に液体クロマトグラフィーを用いた第2の濃縮プロセスが行われた後に、目的の試料に式(I)の化合物が添加される。したがって、この場合、最初に本明細書中の上に記載の通り試料が前処理され、次いで本明細書中の上に記載の磁気ビーズワークフローを受け、続いてクロマトグラフィーによる分離、特に液体クロマトグラフィー、特にHPLC、迅速LC、またはマイクロLC(μLC)を用いた分離が行われ、クロマトグラフィーによる分離の後に、式(I)の化合物が添加される。したがって、第2の濃縮プロセスの後に、分析物分子と式(I)の試薬化合物の付加物が形成される。したがって、付加物は、ステップb)の質量分析を受ける前に濃縮プロセスを受けない。
【0086】
好ましくは、質量分析ステップ(b)は、
(i)付加物のイオンを、それによって付加物のイオンがその質量/電荷(m/z)比により特徴付けられる質量分析の第1段階で解析するステップと、
(ii)それによって第1の中性種、特に低分子量中性種が遊離され、付加物の娘イオンが生成される、付加物イオンの断片化を引き起こすステップであって、付加物の娘イオンのm/z比が付加物イオンのm/z比と異なるステップと、
(iii)付加物の娘イオンを、それによって付加物の娘イオンがそのm/z比により特徴付けられる質量分析による解析の第2段階で解析するステップと
を含む。
【0087】
任意選択で、付加物イオンが、それによって第1の中性種とは異なる第2の中性種が遊離され、第2の代替の付加物の娘イオンが生成される代替の断片化を受ける。この場合、付加物の第1および第2の娘イオンが両方とも、それによって付加物の第1および第2の娘イオンが両方ともそれらのm/z比により特徴付けられる質量分析による解析の第2段階を受けることができる。例えばアリールまたはハロゲンラジカルの遊離による、第2の代替の中性イオン損失を可能にする試薬化合物(I)の使用により、試料中の分析物分子の存在および/または量についての追加の情報が得られる。これは、特に、複雑な生物学的試料の解析に関連する。
【0088】
本発明は、試料中の単一分析物または複数の異なる分析物分子の測定を可能にする。しかし、本発明は、マルチプレックス、すなわち複数の試料中の複数の異なる分析物分子の測定も可能にする。
【0089】
特定の化合物は、質量分析で使用される場合、有利であると考えられる。したがって、さらなる態様では、本発明は、以下に開示される化合物に関する。
さらなる態様では、本発明は、式(Ia):
X-L1-Y-L2-Z (Ia)
[式中、X、Y、Z、L1、およびL2は、上に定義されている通りである]の化合物である、質量分析で使用するための試薬を提供する。
【0090】
特に、本発明は、その任意の塩を含めた、式(Ia):
X-L1-Y-L2-Z (Ia)
[式中、
Xは、Xがアクリエステルではないという条件で、カルボニル反応基、親ジエン反応基、カルボン酸反応基、フェノール反応基、アミノ反応基、ヒドロキシル反応基、またはチオール反応基であり、
L1は、結合またはスペーサーであり、
Yは、それによって中性種、特に低分子量の中性種が遊離される断片化が質量分析条件下で可能である中性イオン損失ユニットであり、
L2は、結合またはスペーサーであり、
Zは、上に定義されている、少なくとも1個の永久正荷電部分を含む荷電ユニットであり、好ましくはテトラアルキルアンモニウム、1-アルキルピリジニウム、または1,3-ジアルキルイミダゾリウムユニットである]
の化合物である試薬または少なくとも1つの化合物(Ia)を含む組成物もしくはキットに関する。
特に、本発明は、その任意の塩を含めた、式(Ia):
X-L1-Y-L2-Z (Ia)
[式中、
Xは、カルボニル反応基、親ジエン反応基、カルボン酸反応基、フェノール反応基、アミノ反応基、またはヒドロキシル反応基であり、
L1は、結合またはスペーサーであり、
Yは、それによって中性種、特に低分子量中性種が遊離される断片化が、質量分析条件下で可能である中性イオン損失ユニットであり、
L2は、結合またはスペーサーであり、
Zは、少なくとも1つの負電荷部分を含む荷電ユニットである]
の化合物である試薬または少なくとも1種の化合物(Ia)を含む組成物もしくはキットに関する。
【0091】
複数の実施形態で、上に特定されている化合物(Ia)の反応基Xは、本明細書中の上に記載の分析物分子上の様々な官能基と反応するように選択することができる。どの反応基Xが、目的の分析物の官能基への結合に適格であるかを決めることは、周知のことの範囲内である。分析物分子上の官能基は、隣接ジオール、フェノール基、核酸塩基、アミノ、メルカプト、ヒドロキシ、1-ヒドロキシ-2-アミノアルキル、1-アミノ-2-メルカプトアルキル、ケト、1,3-ジエニル、エニル、アリル、ホルミル、およびカルボキシラート基である。反応基については、標準的な教科書「Bioconjugate Techniques」第3版:https://doi.org/10.1016/B978-0-12-382239-0.00025-X;および「The Molecular Probes Handbook: A Guide to Fluorescent Probes and Labeling Technologies」、第11版。Iain D. Johnson編、Life Technologies Corporation,2010;および総説(例えばX. Chenら、Org. Biomol. Chem.,2016,14,5417-5439;およびT. Higashi J Steroid Biochem Mol Biol. 2016 Sep;162:57-69)に概説されている。
【0092】
特に、反応基Xは、カルボニル反応基、親ジエン反応基、カルボン酸反応基、フェノール反応基、アミノ反応基、ヒドロキシル反応基、またはチオール反応基である。特に、反応基Xは、アミン反応基、チオール反応基、カルボニル反応基、親ジエン反応基、1,2ジオール反応基、カルボン酸反応基、ヒドロキシル反応基、1-アミノ2-ヒドロキシアルキル反応基、1-アミノ2-メルカプト反応基、およびフェノールのオルト位で反応する基からなる群から選択される。
【0093】
好ましい一実施形態では、基Xは、カルボニル基を有する任意のタイプの分子、例えば、炭水化物分子と反応することができるカルボニル反応基である。特に、炭水化物-化合物の反応基Xは、グルコース、マンノース、ガラクトース、リボース、またはフコースなどのアルドース、およびリブロースまたはフルクトースなどのケトースを含めたあらゆるタイプの糖と反応することができ、また、到達可能なアルデヒドもしくはケト基またはヘミアセタールマスクされたアルデヒドもしくはケト基を有する二糖、三糖、または四糖などのオリゴ糖および多糖と反応することができる。カルボニル反応基は、隣接するOもしくはN原子NH2-N/Oを通したα効果によって強化された超求核性のN原子またはジチオール分子のいずれかを有しうる。これは、下記から選択されるものでもよい:
(i)ヒドラジン基、例えばH2N-NH-またはH2N-NR1-基、
[式中、R1は、置換されていてもよい、例えばハロで置換されていてもよいアリール、またはC1-4アルキル、特に、C1もしくはC2アルキル、ヒドロキシル、および/またはC1-3アルコキシである]
(ii)ヒドラゾン基、例えばH2N-NH-C(O)-またはH2N-NR2-C(O)-基、
[式中、R2は、置換されていてもよい、例えばハロで置換されていてもよいアリールまたはC1-4アルキル、特に、C1もしくはC2アルキル、ヒドロキシル、および/またはC1-3アルコキシである]
(iii)ヒドロキシルアミノ基、例えばH2N-O-基、および
(iv)ジチオール基、特に1,2-ジチオールまたは1,3-ジチオール基。
【0094】
好ましい一実施形態では、反応基Xは、ケト基を含む各分析物と反応することができるケト反応基、例えば、ケトステロイド様DHT、テストステロン、エピテストステロン、デスオキシメチルテストステロン(DMT)、テトラヒドロゲストリノン(THG)、アルドステロン、エストロン、4-ヒドロキシエストロン、2-メトキシエストロン、2-ヒドロキシエストロン、16-ケトエストラジオール、16アルファ-ヒドロキシエストロン、2-ヒドロキシエストロン-3-メチルエーテル、プレドニゾン、プレドニゾロン、プレグネノロン、プロゲステロン、DHEA(デヒドロエピアンドロステロン)、17OHプレグネノロン、17OHプロゲステロン、17OHプロゲステロン、アンドロステロン、エピアンドロステロン、およびデルタ4-アンドロステンジオン)11-デスオキシコルチゾールコルチコステロン、21デオキシコルチゾール、11デオキシコルチコステロン、アロプレグナノロン、およびアルドステロンである。
【0095】
例えば、Br/I-CH2-C(O)-などの反応性ハロアセチル基、アクリルアミド/エステル基、マレイミドなどのイミド、またはメチルスルホニルフェニルオキサジアゾール(N. Todaら、Angew. Chem. Int Ed Engl. 2013 Nov 25; 52(48))は、分析物分子上のチオール基などの求核性の基と反応できる。アミノ反応基、例えば、N-ヒドロキシサクシニミド(NHS)もしくはスルホ-NHSエステル、ペンタフルオロフェニルエステル、四角酸エステル、ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)エステル、または1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール(HOAt)エステル基などの活性エステル基、塩化スルホニル、またはイソチオシアナトもしくはイソシアナト基は、分析物分子上のアミノ基と反応できる。上記のヒドラジンまたはヒドロキシルアミノ基も、分析物分子上に存在する他の求電子性の基と反応させるのに使用できる。
【0096】
隣接ジオールへと結合するために、反応基Xは、ボロン酸を含んでもよい。あるいは、ジオールは、酸化させて、それぞれのケトンまたはアルデヒドにし、次いでケトン/アルデヒド反応基Xと反応させることができる。ジエンに結合させるための反応基Xとして、トリアゾールジオンなどのジエノフィルを選択することができる.分析物分子上にあるフェノール基は、en反応を介して(H. Ban et al J. Am. Chem. Soc.,2010,132(5),pp 1523-1525)またはジアゾ化によって、あるいはortho-ニトロ化し、続いて、次いでアミン反応性試薬と反応させることができるアミンに還元することによって、トリアゾールジオンと反応させることができる。核酸塩基は、反応基XとしてのクロロアセチルまたはPt錯体と反応させることができる。末端システインは、反応基Xとしてのシアン化ヘテロアリール/アリールと反応させることができる。末端セリンは、酸化させてアルデヒド基を産生させ、次いで既知のアルデヒド反応基Xと反応させることができる。当業者は、測定する分析物分子上にある官能基に応じて、化合物(Ia)に適した反応基Xを選択する。
【0097】
さらなる実施形態では、反応基は、プロスタグランジンの誘導体化に使用することができるカルボン酸反応基、例えばジアゾ化合物(Chromatographia 2012,75,875-881)である。他のよく知られているカルボキシレート反応基は、ハロゲン化アルキルである。カルボン酸の活性化と、それに続くアミンまたはヒドラジンなどの求核剤との反応(A. Kretschmner et al Journal of Chromatography B volume 879,17-18,May 2011,Pages 1393-1401)もよく知られている。
【0098】
ヒドロキシル反応基(T. Higashi J Steroid Biochem Mol Biol. 2016 Sep;162:57-69)は、塩化スルホニル、活性化カルボキシルエステル(NHSまたはイミダゾリド)、およびフッ素の求核置換が可能なフルオロアロマート/ヘテロアロマートである。
【0099】
好ましい一実施形態では、反応基Xは、フェノール基を有する任意のタイプの分子と反応することができるフェノール反応基、例えばステロイド、ステロイド様化合物、エストロゲン、エストロゲン様化合物、エストロン(E1)、エストラジオール(E2)、17a-エストラジオール、17p-エストラジオール、エストリオール(E3)、16-エピエストリオール、17-エピエストリオール、および16,17-エピエストリオール、ならびに/またはその代謝物である。例えば、フェノール反応基は、1,2,4-トリアゾリン-3,5-ジオン基でもよい。1,2,4-トリアゾリン-3,5-ジオンは、求ジエン体として作用することもでき、したがって、ビタミンDである1α,25(OH)2VitD3、1α,25(OH)2VitD2、25(OH)VitD2、25(OH)VitD3および24R,25(OH)2VitD3の検出に有用である。
【0100】
化合物(Ia)は、さらに中性イオン損失ユニットYを含む。本願との関連では、用語「中性イオン損失ユニット」は、電荷を有しない部分を失うことができるユニットを指す。前記部分は、限定されるものではないが、イオン、原子、および複数の原子を含む。ユニットYは、中性であり、すなわち、正電荷も負電荷も帯びず、本明細書中下記に定義されているリンカーL1を介して反応基Xに連結されている。中性ユニットYは、MSの条件下で、例えば衝突誘起解離(CID)を、例えば三連四重極型MS内で受けた場合、それによって中性種が遊離される断片化が可能である。第1の中性種の遊離の後、ユニットYの残部は、依然として中性のままである。必須ではないが、典型的には、1種の中性種の遊離、すなわち第1の中性種の遊離が起こる。特定の実施形態では、2種の中性種が遊離される。
【0101】
第1の中性種は、低分子量中性種、例えば分子量が100未満である、さらに特定すると80未満である中性分子でもよい。さらに、第1の中性種は、SO、SO2、CO、CO2、NO、NO2、またはN2などの無機分子でもよい。特に、中性種は、N2またはSO2である。さらに特定すると、第1の中性種はN2である。中性分子の損失を引き起こす反応は、好ましくは逆環化反応、特に1,3-双極子逆環化でもよい。本開示との関連では、用語「逆環化」は、任意の環化付加反応の逆転を指す。
【0102】
特定の実施形態では、中性イオン損失ユニットYが環状部分(例えば、ビシクロ[2.2.1]ヘプタジエン-7-オンのような環状ケトンはCOを失うことが知られている)、特に複素環部分、さらに特定すると、それによって上記の第1の中性種が遊離される断片化が可能である6員、5員、または4員の複素環部分を含むまたはからなる。そのような(複素)環状基は、それによって中性種が遊離される逆(複素)環化付加反応による断片化を容易に示す。
【0103】
好ましくは、中性イオン損失ユニットYは、トリアゾール、特に1,2,3-トリアゾール、テトラゾール、テトラジン、1,2,3オキサもしくはチアジアゾール、またはその水素化誘導体から選択される環状アゾ化合物および5員環など、相互に隣接する,例えば1,2位にN、O、および/またはS原子、特にN原子などの少なくとも2個のヘテロ原子を有する5員または6員の複素環部分を含むまたはからなる。上記の複素環に、さらなる環、例えばベンゾチアジアゾールまたはベンゾトリアゾールをアニールさせることができる。複素環は、例えば、2,5-ジヒドロピロール、2,5-ジヒドロチオフェン-1,1-ジオキシドに部分的に水素化することができる。
【0104】
特に好ましい実施形態では、5員の複素環部分は、トリアゾール部分であり、これは、アルキンおよびアジドの環化付加またはクリック反応を介して、必須ではないが、触媒としてCu(I)が存在してもよい状態で、合成されたものでもよい。MSの条件下で、トリアゾール部分の断片化が、1,3双極子逆環化反応を介したN2の遊離を引き起こし、それによって質量分析計における質量/電荷比(m/z)が28に低下する。
【0105】
当業者ならば、市販のソフトウェア、例えばACD/MS Fragmenter(ACD Labs)を用いて中性イオン損失ユニットを同定できることを十分に認識している。さらに中性損失を引き起こす反応および分子種は次の参考文献に記載されている。
Carey,Sundberg: Organische Chemie,Ein weiterfuhrendes Lehrbuch Korrigierter Nachdruck VCH 1995; ISBN: 3-527-29217-9、Fred W. McLafferty,Frantisek Turecek,Interpretation von Massenspektren Springer Spektrum 1995,Softcover: ISBN978-3-642-39848-3。
【0106】
特定の実施形態では、式(Ia)の化合物は、少なくとも1つの荷電部分、すなわち実質的に中性の条件下で主に荷電状態で存在する部分を含む荷電ユニットZを有する。例えば、荷電ユニットZは、以下を含む
(i)一級、二級、三級、もしくは四級アンモニウム基またはホスホニウム基などの少なくとも1個の永久正荷電部分、特にpKaが10以上である、さらに特定するとpKaが12以上である永久正荷電部分、または
(ii)リン酸基、硫酸基、スルホン酸基、またはカルボキシラート基などの少なくとも1つの負電荷部分、特にpKbが10以上であり、さらに特定するとpKbが12以上である負電荷部分。
【0107】
本願との関連では、用語「pKaが~である」とは、当該荷電部分が無い分子のpKa値とは異なる特定のpKa値を荷電部分が分子全体に与えているという事実を指す。例えば、用語「少なくとも1個のpKaが10以上である正荷電部分」は、前記少なくとも1つの正荷電部分を含む分子全体が10以上のpKaを示すことを指定する。pKb値にも同じことが類似してあてはまる。
【0108】
荷電ユニットZは、本明細書に定義されているリンカーL2を介して中性イオン損失ユニットYに連結されている。したがって、電荷および中性損失を行う能力が、様々なユニットによって提供される。中性イオン損失ユニットYが断片化されて(低分子量)中性種の遊離が起こる条件下でさえ、荷電ユニットZは無荷電のままである。これは、残部の荷電状態が変わらないことを意味する。化合物が、荷電ユニットZ内の正電荷により以前に正荷電であった場合、それは、低分子量中性種を遊離した後でも正荷電のままである。
【0109】
好ましくは、化合物(I)は、少なくとも1個の正荷電部分を含む荷電ユニットZを有する。最も好ましくは、荷電ユニットZが、1個の正荷電部分からなり、代替の断片化を行うことができるいかなる基も有しない。
【0110】
電荷は、例えば四級アンモニウム基を使用する場合、永久電荷であるか、またはプロトン化(正電荷)もしくは脱プロトン(負電荷)によって生成できる。好ましい永久正荷電ユニットは、テトラアルキルアンモニウム、1アルキルピリジニウム、および1,3-ジアルキルイミダゾリウムユニットである。
【0111】
第1の中性種の遊離に加えて、化合物(Ia)は、質量分析条件下で、代替の断片化、例えばCIDを介した断片化が可能なものでもよい。それによって、第1の中性種とは異なる第2の中性種が遊離される。例えば、第2の中性種は、アリールラジカル、例えば、フェニルラジカルもしくは置換フェニルラジカル、またはハロゲンラジカル(Cl、Br、I)を含むことができる。第2の中性種の遊離を起こす代替の断片化は、中性イオン損失ユニットYからの第1の中性種の遊離に必要なものより高いエネルギ-の条件下でのみ起こることが好ましい。
【0112】
一般式(Ia)における基L1およびL2は、独立に、結合、すなわち共有結合、またはスペーサー、すなわち鎖長が1から通常、4、6、8、もしくは10原子、もしくはそれより長い、例えばC原子であり、任意選択で少なくとも1個のヘテロ原子を含む直鎖もしくは分枝のスペーサーを表す。好ましくは、基L1およびL2は、長さが1、2、または3原子の短いスペーサーであって、最も好ましくは代替の断片化を受ける可能性のあるいかなる部分も無いスペーサーである。さらに、基L1およびL2がいかなる立体中心も含まないことが好ましい。立体異性体が存在する場合、1種のみの立体異性体が存在し、2種以上の立体異性体の混合物は存在しない。MSで使用するには、化合物(I)は、立体異性について純粋な形で用意することが好ましい。特定の実施形態では、L1およびL2は、相互に独立に、少なくとも1個のヘテロ原子を任意選択で含む、C1-C4アルキルスペーサーである。さらなる実施形態では、L1またはL2の一方は、上記の代替の断片化の対象となりうる、フェニル基などのアリール基を含む。
【0113】
式(Ia)の試薬は、質量分析条件下、その結果生じる付加物(II)、すなわち中性イオン損失ユニットYにおける1つの位置のみで単独の中性損失が1回起こるように設計すると有利である。付加物が代替の断片化の対象となりうる任意のさらなる基を、例えばスペーサーL1および/またはL2内に含む場合、前記代替の断片化は、中性イオン損失ユニットYからの第1の中性種の遊離に要求されるよりも高いエネルギ-の条件下で起こることが好ましい。代替の断片化の例には、アリールまたはハロゲンラジカルなど、第1の中性種とは異なる第2の中性種の遊離が含まれる。
【0114】
式(Ia)の第1の実施形態では、荷電ユニットZが、一級、二級、三級、もしくは四級アンモニウム基またはホスホニウム基などの正荷電部分を含むまたはからなる。電荷は原則として永久電荷であるか、またはプロトン化によって生成できるが、永久電荷、特に化合物全体のpKaが10以上であり、さらに特定するとpKaが12以上である永久電荷が好ましい。この実施形態による特に好ましい試薬式(Ic):
【0115】
【0116】
[式中、Rは、それぞれ独立に、HまたはC1-4アルキル、特にメチルであり、Aは、陰イオン、例えばギ酸イオンである]で表される。
別の実施形態では、荷電ユニットZが、リン酸基、硫酸基、スルホン酸基、またはカルボキシラート基などの負荷電部分を含むまたはからなる.特に、pKbが10以上である、さらに特定するとpKbが12以上であるユニットZが好ましい。
【0117】
図1は、6種の異なる分析物分子を含む試料中の単一分析物分子の定量的測定の例示的なプロトコールを示す。試料中の分析物分子を試薬化合物(R)と反応させ、それによって6種の異なる分析物-試薬付加物が得られる。試料中の分析物分子の1つを定量的に測定するため、試薬アイソトポログ化合物(R
*)と、その対応する分析物分子の反応によって調製された標準物質が添加される。例えば液体クロマトグラフィー(LC)による試料のクロマトグラフィーによる分離の後、目的の分析物と標識されていない試薬(R)の付加物と、そのアイソトポログ(R
*)とは識別できない。したがって、異なる分析物のそれぞれに由来する6種シグナルがクロマトグラフィーの後に観察される。しかし、質量分析は、標識されていない試薬(R)とアイソトポログ(R
*)の間の質量差により、両試薬とは異なるシグナルをもたらす。中性種(ここではN
2)の損失によって、生じるシグナルも異なる2種の娘イオンが生成される。添加されるアイソトポログ付加物の量は既知であるので、標識されていない試薬のシグナル強度からの分析物の正確な定量化が較正により可能である。同様に、試料中の他の分析物の正確な定量的測定が可能である。
【0118】
複数の異なるアイソトポログの使用により、マルチプレックスが可能となる。したがって、複数の異なる試料または異なる量の分析物の直接比較が可能である。その対応する例示的なプロトコールを
図2に示す.各試料は、6種の異なる分析物分子を含む。3種の異なる試料における6種の分析物分子の定量的値を比較するために、異なるアイソトポログ試薬化合物(R、R
*、およびR
**)が、各試料に添加される。これから、異なる3セットの分析物-試薬付加物(R、R
*およびR
**)が得られる。次いで、標準物質、例えばそれぞれの分析物の付加物およびさらに同位体により識別可能な試薬R
***が添加される。例えばLCによる、クロマトグラフィーによる分離の後に、6種のシグナル、すなわち各分析物につき1種のシグナルが得られる。MS解析の後に、6x4シグナルが得られる。分析物と試薬R
***の付加物の正確な量が既知であるので、全てのシグナルの定量的測定が可能である。
【0119】
本発明の特に好ましい実施形態は、試薬または試薬のアイソトポログと分析物分子、好ましくは少なくとも1個の反応性アルデヒド基、ケトン基、またはセミアセタール基を含む炭水化物の反応と、形成された付加物の、MSと組み合わせたGCまたはLCによる、特にHPLC-三連四重極型質量分析による解析を含む。
【0120】
本発明の手順は、通常の手順と比較して2つの主な利点を有する。質量分析計における中性イオン損失により、最小限の試料物質での診断を可能にする前例のない感度での分析物分子の検出が可能である。合成された同位体について改変された付加物を内部標準として添加することにより、分析物分子についての定量情報を得ることができる。これにより、2種以上の試料、例えば組織試料の直接比較およびマルチプレックス化が可能となる。
【0121】
本発明は対象、特にヒト対象についての診断および/または予後診断情報の提供など.、臨床適用に適している。具体的な適用は、生体分子、特に糖タンパク質の糖鎖構造の変化と関連する、を伴う、または、によって引き起こされる疾患の診断、例えばがんなどの過剰増殖性疾患の診断、例えば腫瘍の攻撃性および侵襲性の決定、血小板の特徴付け、および肝線維症レベルの測定、抗体の特徴およびT細胞などの免疫細胞の特徴の検査である。一般に、試薬(I)およびそのアイソトポログは、グリコメディシンの分野における特定の糖鎖バイオマーカーの存在およびレベルについての定量情報を得るのに用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【
図1】本発明の実施形態の模式図。分析物分子の定量的測定のプロトコールは、試料中の分析物分子を試薬(R)と反応させ、それによって共有結合性分析物付加物を形成させることを含む。アイソトポログ試薬(R
*)を含む標準付加物の添加は、LCと、それに続くMSによる分析物分子の定量的測定を可能にする。
【
図2】本発明のさらなる実施形態の模式図。複数の分析物の平行定量的測定のプロトコールは、複数試料における分析物分子を、各試料中の同位体について異なる試薬(R、R
*、R
**)と反応させ、それによって共有結合性分析物付加物を形成させることを含む。さらなるアイソトポログ試薬(R
***)を含む標準付加物の添加は、LCと、それに続くMSによる各試料中の各分析物分子の平行定量的測定を可能にする。
【
図3】塩基除去修復プロセスの機構。a AP部位およびβE部位の形成を伴う塩基除去修復(BER)の化学。b dCにおけるエピジェネティック修飾および可能性のあるBERによるfdCおよびcadCの除去の概要。c 試薬1および1がAP部位およびβE部位と反応したときに形成される反応生成物の図。
【
図4】軽量形態(a)および重量形態(b)の試薬1ならびに内部標準9a/bおよび10a/bの合成。(i)TBTU、DIPEA、DMF、rt、16時間、90%;(ii)Trt-Cl、NEt
3、ピリジン、rt、22時間、74%;(iii)プロパルギルアミン、TBTU、DIPEA、DCM、rt、15時間、92%;(iv)7+4a/b、CuBr・SMe
2、H
2O/DCM(1:1)、rt、16時間、77%;(v)6M HCl、DCM/H
2O(1:1)、rt、1時間、定量的;(vi)H
2O、30℃、16時間、HPLC、15%;(vii)1)DIBAL-H、DCM、-78℃からrt、(2)DMP、DCM、0℃からrt、o/n、2ステップで47%;(viii)(1)1a/b、CHCl
3/H
2O(1:1)、rt、16時間、68%、(2)pTSA・H
2O、H
2O、25℃、o/n、HPLC(2x)、14%。
【
図5-1】AP部位およびβE部位を定量化するためのMS/MSベースの方法。極めて高感度なシグナルを生ずるMS/MS実験におけるAP部位(9)およびβE部位(10)標準物質の断片化パターン。
【
図5-2】AP部位およびβE部位を定量化するためのMS/MSベースの方法。極めて高感度なシグナルを生ずるMS/MS実験におけるAP部位(9)およびβE部位(10)標準物質の断片化パターン。
【
図6a】BER中間体の定量化および同位体追跡研究。AP部位およびβE部位の誘導体化および解析のための一般ワークフロー。
【
図6b】BER中間体の定量化および同位体追跡研究。mESC培養物への標識化ヌクレオシドのフィーディングにより、標識されていない生成物よりも5質量単位重いリボース標識されたAP部位およびβE部位生成物9および10が形成される。
【
図6c】BER中間体の定量化および同位体追跡研究。様々な標識化された付加物およびDNA修飾の定量的データ。
【
図8a】規定の脱塩基部位を有するオリゴデオキシヌクレオチド(ODN)の反応速度論。1aで誘導体化する前(黒い線)および後に得られた脱塩基部位を有するODNおよび逆方向鎖のUVシグナル。
【
図8b】規定の脱塩基部位を有するオリゴデオキシヌクレオチド(ODN)の反応速度論。特定の時点の後におけるODN+1の規準化UVシグナル。
【
図9】1によるgDNAの誘導体化は誘導体化反応が迅速であり、脱塩基部位を人為的に生成しないことを示す。
【
図10】グルタチオン(GSH)などのチオールとアクリルアミド試薬の反応のスキームおよびMS解析におけるN
2損失。
【
図11】アクリルアミドプローブを用いたGSH付加物のMS解析。a 単一荷電種のモルピークを、◆で示す。N
2損失後に形成された断片は、検出可能ではない。b 前駆イオン走査N
2の損失を示している。c 二重荷電種は、N
2損失を直接的に示している。
【
図12】テストステロンとヒドロキシルアミン試薬の反応のスキーム。
【
図13】ヒドロキシルアミンプローブを用いたテストステロン付加物のMS解析。MS実験は、632.5における分子ピーク、604.4におけるN
2損失後断片、および192.1における第2の断片を示している。
【
図14】N
2の損失によるテストステロン付加物の断片化を示すMRM走査。
【
図15】ヒドロキシルアミン試薬を用いたテストステロンの質量分析以下のピークを示している。a テストステロン(110amol)b テストステロン(22amol)c 付加物N
2損失(0.12amol)d 付加物 フェニル損失 クォリファイアー (0.12amol)e 付加物 N
2損失 (3.6amol)f 付加物 フェニル損失 クォリファイアー (3.6amol)g テストステロン (11fmol)
【
図16】反応性エステル試薬を用いたドパミンのMS解析。ドパミン付加物のUHPLC-三連/四重極MSスペクトル。はっきりと見えるのは、m/z=553における分子ピークおよびm/z=525におけるN
2損失シグナルである。
【発明を実施するための形態】
【0123】
以下の実施例により本発明をより詳細に記載する。
【実施例】
【0124】
1.緒言
塩基除去修復(BER)は、損傷した塩基を細胞がゲノムから除去するのを可能にする主要なDNA維持プロセスである(1,2)。このプロセスは、非標準の塩基を認識する特定のDNAグリコシラーゼの作用を必要とする(
図3a)(3)。2種の異なるタイプのDNAグリコシラーゼが知られている。それらは両方とも、最初に脱塩基(AP)部位中間体を生成するグリコシド結合の切断を触媒する(ステップa、
図3a)。単機能グリコシラーゼは、その後、ホスホジエステル結合を加水分解して一本鎖切断を生じさせるのに、APE-1などのエンドヌクレアーゼを必要とする(ステップb、
図3a)。二機能性グリコシラーゼは、対照的に、β脱離(βE)反応を触媒し(ステップc、
図3a)、その結果、規定のβE中間体が生成する。このβE中間体は、次いで、その後のβ脱離反応によって1ヌクレオチドギャップに変わる可能性がある(ステップd、
図3a)(2,3)。BERは、結果として一本鎖切断の形成と共に、修復された塩基が反対の鎖にある場合には、二本鎖切断と共に起こる。
【0125】
市販のアルデヒド反応性プローブなどのBER中間体を測定するための現在のアプローチは、鎖式アルデヒド型のAP部位と反応する、ヒドロキシルアミンを含有する化学プローブであり(
図3a)、ほとんどが濃縮および検出用の親和性基を用いる。これらアプローチの主要な欠点は、原則としてこれらのプローブがあらゆるアルデヒドおよびケトンと非選択的に反応すること、ならびに誘導体化された生成物のアイデンティティーが特徴付けされないまま残り、AP部位とβE部位の間の識別が妨げられることである。
【0126】
最近、BERがゲノムから、損傷した塩基だけでなく、後成的に関連性のある塩基である5-ホルミル-シトシン(fdC)(4)および5-カルボキシシトシン(cadC)もチミンDNAグリコシラーゼ(Tdg)で切断できる(5)ことが発見された。両方とも、β-ケトグルタル酸依存性Tetオキシゲナーゼの助けにより、5-ヒドロキシメチル-シトシン(hmdC)を介した5-メチル-シトシン(mdC)の酸化によって形成される(
図3b)(5,6)。新しい塩基の正確な機能は知られていないが、fdCおよびcadCの除去は、長きにわたり探されてきた活性脱メチル反応の一部のようである(
図3b)。
【0127】
ここでは、極めて高感度なUHPLC-三連四重極型質量分析および同位体補給と組み合わせて、AP部位およびβE部位の正確な定量化を可能にし、検出限界がゲノムあたり100中間体にまで達する新しい試薬の開発を報告する。この新しい技術によって、本発明者らは、両方のタイプの中間体ともピリミジンに蓄積しないことを明らかにすることができた。これは、エピジェネティック部位のBERが、幹細胞ゲノムにおける予測されたような有害な事象ではないことを示す。
2.結果および考察
この新しい技術の基礎は、反応性ヒドロキシルアミンユニットを含有し、AP部位およびβE中間体の両方と安定的かつ規定の反応生成物を形成できる(7)試薬1である(
図3c)。本発明者らは、形成された付加物(
図3c)は加水分解酵素の作用を妨げず(下記参照)、それによって、高感度な質量分析検出および定量化のために、反応生成物をゲノムから切り出すことができることを示した。重要なことに、試薬1は、三連四重極型MS内で、衝突誘起解離(CID)を介して容易に断片になり、N
2の損失によって集中的な娘イオンを生じるトリアゾールユニットを含有する。これにより、迅速かつ信頼できる検出が可能となる。1の四級アンモニウム中心にある永久正電荷が、さらに可能な限り最も高い感度および規定の荷電状態を確実にしている。それは、負荷電のDNA二本鎖に包埋されたAP部位およびβE部位との反応も加速する。
【0128】
この試薬の合成を
図4に示す。合成は、p-アジドアニリン2から始まり、これを、カップリング試薬としてTBTU(N,N,N’,N’-テトラメチル-O-(ベンゾ-トリアゾール-1-イル)ウロニウムテトラフルオロ-エロレート)を用いて、トリメチルアミノグリシン3と反応させ、アジド-アミド4を生成する。目的とする正確なMSベースの定量化(下記参照)に必要な試薬1の安定アイソトポログは、(CD
3)
3-グリシン誘導体を介して、このステップで得られ、これにより9個のD原子が導入できる。
【0129】
平行して、O-(カルボキシメチル)ヒドロキシルアミン5が、TBTUをカップリング試薬として用いて、68にTrt(トリチル)保護され、6がプロパルギルアミンと反応して、アルキン7を生成する。Cu(I)で触媒されたアジド-アルキンクリック反応を介した、7と4の反応により、トリアゾール8が生じた。厳しい酸性条件下でのTrt基の開裂により、軽量バージョン(CH3、a)および重量バージョン(CD3、b)Δm/z=9)の試薬1が全収率47%でわずか5ステップで得られる。この試薬を逆相HPLCで2回精製し、この研究に必要とされる純度>99.9%を確保する。
【0130】
計画されている正確な質量分析定量のため、予期されているAP部位およびβE部位反応生成物を、較正曲線作成用および内部標準用の通常(a)および重同位体(b)標識された化合物として調製した。そのため、本発明者らは、試薬1a/bをリボースと反応させて、予期されているAP部位反応生成物9a/bを得た。必要とされるβ脱離生成物10a/bを調製するために、アセトニド保護されたメチルエステル11をDIBAL-Hでアリルアルコールに還元し、これを、Dess-Martin試薬を用いて選択的にアルデヒド12に酸化した。試薬1a/bと12の反応および最終的なアセタール保護基の開裂により、再度、それぞれ軽量型および重量型の所望の化合物10a/bを得た。化合物9a/bおよび10a/bを、最後に逆相HPLCにより純度>99.9%に精製した。
【0131】
本発明者らは、次に、UHPLC-ESI-三連四重極型(QQQ)機械を用いた質量分析ベースのAP部位およびβE部位検出手順を開発した(
図5)。AP部位反応生成物9aの解析は、アリールラジカルの形成の下に、予期されたN
2損失および第2の断片化の後に形成される2種の分子断片によって引き起こされるMS遷移m/z=478.2→450.2(クオンティファイアー)およびm/z=478.2→192.1(クォリファイアー)のきれいな対称的なシグナル(t=9.5分、勾配については、を参照SI)を示した。第1のMS遷移(クオンティファイアー)は、付加物の正確な定量化に用い、第2のMS遷移(クォリファイアー)は、構造評価に用いた。アイソトポログ9bは、同じ保持時間に、予期された質量移行遷移m/z=487.3→459.2およびm/z=487.3→201.2を示した。同様に、βE反応生成物10aおよびそのアイソトポログ10bの高品質データを得た(
図5)。
【0132】
次いで、本発明者らは、合成AP部位反応生成物9aを用いた希釈実験を行い、MS-シグナルをモニターした。本発明者らは、AP部位9a/bをアトモル(AP部位のLOD=110amol)範囲で検出することができた。全体のAPおよびβEレベルを定量化するのに必要されたゲノムDNAは、1試料あたり若干5mgであったが、これは、以前に発表されている方法(9)と比較して3桁高い感度である。試薬1で得られた感度は、二機能性グリコシラーゼによって形成されたβE中間体の検出も可能にした。ここでもまた、検出性が、アトモル範囲(LODのβE部位=110amol)にまで広がった。
【0133】
次いで、本発明者らは、BERの中間体の定量化を始めた。単機能DNAグリコシラーゼTdgによるfdCおよびcadCの除去と組み合わせたBERは、胚発生中の主要なプロセスであることが報告された(4,5,10,11)。この研究では、マウス胚性幹細胞(mESCs)のナイーブ培養物をプライミング条件(FBS/LIF)条件下で5日間培養した。その後、本発明者らは、標準プロトコール(下記参照)を用いてゲノムDNAを単離し、これを試薬1aとインキュベートした。
【0134】
本発明者らは、1aとのゲノムDNAの誘導体化反応は脱塩基部位を人為的に導入しないこと、および定量化されたレベルが内因性レベルであることを示すために、本発明者らが確立したプロトコール(下記参照)を用いて、幹細胞DNAに1aを添加し、いくつかの時点で反応を停止させた。混合物中の得られたAP部位の定量化は、若干1分後には反応が既に完了したことを示し、インキュベーション時間を60分まで延長しても、脱塩基部位の量の増加が無かったことが示された。その後、脱塩基部位の完全な誘導体化を確実にするためのさらなる研究のため、この試薬を37℃で40分間反応させた。このDNAを、後で、ヌクレアーゼS1、南極ホスファターゼ、およびヘビ毒ホスホジエステラーゼの混合物で、1ヌクレオシドレベルまで消化した(下記参照)。この酵素が確実に反応生成物を完全に切り出すことができるように、本発明者らは、1つのdU塩基でDNAを調製し、このDNAにdU開裂グリコシラーゼUdgを添加して規定の脱塩基部位を導入し、続いて試薬1aとインキュベーションし、生成されたAP部位の量を定量化した(下記参照)。本発明者らは、予期されたレベルのAP部位を正確に測定した。これは、この試薬が穏やかな条件で定量的に反応すること、およびこの酵素消化プロトコールによって反応生成物が完全に単離されることを示す。
【0135】
本発明者らは、幹細胞DNA中のBER中間体の正確な定量化のために、DNA消化後に再度9bおよび10bを内部標準として添加し、得られた混合物をUHPLC-QQQシステムに注入した。標準塩基からの予期されたシグナルに加えて、2種の追加のシグナルが、天然のAP部位およびβE部位反応生成物9aおよび10aで観測された.これは、この試薬およびMS方法によって、これらの重要BER中間体をゲノムDNA中で直接的に検出および定量化できることを示す。
【0136】
同位体標準物質9bおよび10bを用いた正確な定量化により、本発明者らは、AP部位およびβE部位の全体定常状態レベルをそれぞれdNあたり8.8×10-7および1.7×10-6に決定することができた。これは、極めて低いレベルであるが、この方法は感度が高いので、十分に定量化限度の範囲内である(下記参照)。
【0137】
これらのBER付加物が確かに内因的に存在する定常状態レベルであるかどうか、付加物が例えばDNA単離中および試料調製中に形成されるかどうか(これは、βE付加物ではほとんど不可能である)を検討するために、本発明者らは、この試薬とのインキュベーション時間を体系的に1時間まで増加させた。しかし、正確な定量化は、この可能性を否定するような値の増加は示さなかった(下記参照)。本発明者らは、dU含有DNAを用いた研究も繰り返し、Udgとのインキュベーション時間とその後の処理時間を両方とも増加させた。APレベルの増加は観察されなかった。これは、DNA単離および操作によって、BER中間体のレベルが増加しないことを示す。
【0138】
ゲノムDNAで得られた正確な定量化データは、したがって、βE部位およびAP部位が両方とも低い定常状態レベルで存在することを示す(
図6c)。これは、単機能性および二機能性グリコシラーゼの両方によるゲノムの定常的修復を確認するものである。興味深いことに、より高いレベルのβE部位が観察される。これは、二機能性グリコシラーゼによる修復が優勢であるか、これらの中間体は代謝回転が低く、それゆえ、より高い定常状態レベルまで蓄積されることを示す。
【0139】
次いで、本発明者らは、個々のDNA塩基の修復プロセスを読み解くことを望んだ。このため本発明者らは、3種の異なるmESC培養物を調製し、
図6bに示すように、リボースの全てのC原子が
13Cに交換され、環内N原子が
15Nに交換されている同位体標識されたdC
*、dG
*、またはdT
*ヌクレオシドのいずれかを添加した。これらの組み込まれた塩基およびそれらの誘導体におけるBERは、標識されていないAPまたはβE部位で形成される反応生成物9aおよび10aと比較して5質量単位重く、内部標準9bおよび10bより4質量単位軽いAPおよびβE反応生成物9
*および10
*を生じるはずである。まず、本発明者らは、組み込みの効率をモニターした。
13C
10-dG(dG
*)については93%の組み込みがみられた。
13C
9-dC(dC
*)は、40%まで組み込まれ、
13C
10-dT(dT
*)は、dTをほとんど全て置き換えた(97%組み込み)。同位体標識されたdAは、後の調査に十分に高いレベルで組み込むことができなかった。次いで、本発明者らは、dC
*、dG
*、およびdT
*で生成されたAP部位およびβE部位の正確な定量化を行い、比較データを得るために、得られた値を組み込み100%に規準化した。dG塩基は、酸化的損傷を受けやすいことが知られており、形成された損傷部位は、BERによって修復されることが知られている(12,13)。dG
*実験では、実際、AP部位およびβE部位(~2.7×10
-7)は両方ともほぼ同じレベルであることが観察される。これは、dG由来の塩基損傷部位がBERによって確かに修復されることを示している。重要なことに、ここでは、全体データとは対称的に、より多くのAP部位がみられた。これは、主要なDNAグリコシラーゼOgg1が、二機能性グリコシラーゼであるが、遅いβ脱離効率しかなく、それゆえ、in vivoでは、ほとんどAPE1と組み合わせて機能するというアイデアと完全に一致している(14,15)。
【0140】
やや安定な塩基であることが知られているdTでは、両方ともAP部位およびβE部位のレベルが、dNあたり10
-8未満である。これは、ゲノムあたり100未満のBER中間体に相当する。このレベルは、定量下限(LLOQ)より少し低い(
図6c)。
【0141】
次いで、本発明者らは、dCおよび後成的にdCから派生した塩基におけるBERプロセスについて研究した。dC塩基は、ゲノム中である程度まで脱アミノ化することが知られており、これがdU:dGミスマッチを生み出している(16)。加えて、dCは、DNAメチルトランスフェラーゼ(Dnmts)によってmdCにメチル化され、これも脱アミノ化して、dT:dGミスマッチを生じる(17)。これらミスマッチの両方が、単機能グリコシラーゼUng2、Smug1、TdgおよびMbd4によって修復されることが知られており、これによって、検出可能なAP部位が生じるはずである(18,19)。さらに、dC誘導体であるfdCおよびcadCは単機能グリコシラーゼTdgによって開裂する、ことが見いだされた(4,5)。これら全てのBER事象を研究するため、本発明者らは、FBS/LIF条件下で培養したmESCsに100μM dC
*を5日間与えた。DNA単離後、本発明者らは、試薬1aを添加し、このDNAを消化し、再度、標識されたAP部位およびβE部位のレベルを測定した。実際、dTを用いた実験とは対照的に、中間体が検出された。これは、dC塩基は、脱アミノ化により安定性が低下しているというアイデアと一致している。しかし、驚いたことに、二機能性修復グリコシラーゼによって生成される標識化βE中間体のみが測定され、標識化AP部位の形成は、LLOQ未満であった(
図6c)。
【0142】
この結果は、最近の研究から得られたデータと完全に一致する。これは、Tdgが、酵素Neil1-2との密着した複合体で作用している可能性があることを示している(20)。Neilタンパク質は、AP部位の定常状態を低位レベル、したがって、耐えられるレベルに維持するために、生成したAP部位に結合して迅速なβおよびδ脱離反応を触媒するとされている。
【0143】
さらに、定量化により、dC*におけるβE部位のレベルがdNあたり1.3×10-7であることが明らかになった.この数を原則として修復可能なfdCおよびcadCのレベルに関連づけるために、本発明者らは、これらの塩基も定量化した。fdCのレベルは2.1×10-6と測定され、1.0×10-7のcadCが検出された。したがって、定常状態fdCレベルはβE部位レベルより1桁高い。これは、fdCの高いレベルが相当量のBER中間体に結びつかないことを示しており、これは、fdCの報告されている安定性と整合する。
【0144】
エピジェネティックなdC部位における修復へのさらなる洞察を得るために、本発明者らは、TdgかNeil1タンパク質とNeil2タンパク質の両方のいずれかを欠失しているmESCを研究し、両細胞株にdC
*を与えた。得られたデータを
図6cに示す。Tdgの除去は、fdCおよびcadCのレベルを明らかに増加させ、これは、このタンパク質がBERベースの除去に関連しているというアイデアと整合する。fdCのレベルは、10倍に増加する。cadCレベルは、5倍上昇する。このfdCおよびcadCの増加は、標識されたβE部位または標識されたAP部位を有意に変化させない。驚いたことに、Neil1/2タンパク質を欠失したmESCを用いた実験においてさえ、BER中間体の増加は観察されない。これは、この状況では、Neilタンパク質がβ/δ脱離に貢献しないことを示唆する。最後に、本発明者らは、触媒活性がある全てのDnmtタンパク質を欠失しており、その結果、mdC、hmdC、fdCおよびcadCを欠いているmESCを研究した。これによっても、標識化βE部位のレベルは影響されなかったし、標識化AP部位の出現も観察されなかった。これは、dC
*を用いて定量化されたβE部位は全てdC由来の損傷部位から直接的に形成されることを示している。このデータは、xdC部位におけるBERが予期したほど重要ではないか、有害なBER中間体が有意な量まで蓄積しないことを保証するために、BER中間体の量を制御し、それらを極めて低い定常状態レベルに維持する複数の経路を細胞が有することを示唆する。
3.結論
結論として、試薬1は、新しい質量分析ベースの技術(UHPLC-MS)および同位体補給と組み合わせて、1ゲノムあたり100のBER中間体という前例のない精度および感度を有する、様々な標準塩基における中心BER中間体の定量化を可能にする。活性な脱メチル経路を骨格としたBERによるfdCおよびcadC除去の証拠は得られなかった。ほとんどのBER修復プロセスは、dG部位で検出された。これはおそらく、dGにおける酸化的損傷のためである。
4.方法
4.1 化学合成手順
別段の記載が無い限り、全ての反応は、窒素雰囲気下でオーブン乾燥させたガラス器具を用いて行った。Sigma Aldrich製のMolsieve乾燥させた溶媒を使用し、化学物質は、Sigma Aldrich、TCI、CarbolutionおよびCarbosynthから購入した。同位体標識されたトリメチルアミノグリシンは、Eurisotopから得た。抽出およびクロマトグラフィーを目的とする場合、工業用の溶媒は、それらを使用する前に蒸留した。反応の制御はMerck製のTLCプレート(Merck 60 F254)を用いて行い、フラッシュカラムクロマトグラフィー精製は、Merck Geduran Si 60(40-63μM)で行った。TLCプレートの可視化は、UV吸収またはHanessian染料による染色を介して行った。NMRスペクトルは、Varian VXR400S、Varian Inova 400、Bruker AMX 600、Bruker Ascend 400およびBruker Avance III HDにおいて、重水素化された溶媒中で記録した。HR-ESI-MSスペクトルは、Thermo Finnigan LTQ FT-ICRから得た。IR測定は、ダイアモンド-ATR(Attenuated Total Reflection)ユニット付きのPerkin ElmerスペクトルBX FT-IR分光計で行った。HPLC精製は、Macherey Nagel製のNucleosil VP 250/10 C18カラムを用いたWaters Breezeシステム(2487デュアルアレイ検出器、1525バイナリHPLCポンプ)で行い、HPLC用MeCNは、VWRから購入した。化合物1a/b、9a/bおよび10a/bのHPLC精製には、0.25mMギ酸アンモニウム水溶液(バッファーAと称する)および0.25mMギ酸アンモニウムの80%MeCN/H
2O溶液(バッファーBと称する)の緩衝系を用いた。
4.2 ヒドロキシルアミン1および内部標準9a/bおよび10a/bの合成
4.2.1 (N-トリチルアミノオキシ)酢酸(6)
【0145】
【0146】
(N-トリチルアミノオキシ)酢酸は、Kojimaらに従って合成した(8)。
4.2.2 N-(プロパ-2-エン-1-イル)-2-((トリチルアミノ)オキシ)アセトアミド(7)
【0147】
【0148】
N-トリチル保護されたアミノオキシ酢酸6(2.50g、7.50mmol、1.0当量)をDCM(40mL)に懸濁し、その後、TBTU(2.89g、9.00mmol、1.2当量)、DIPEA(1.60mL、9.00mmol、1.2当量)およびプロパルギルアミン(1.40mL、22.6mmol、3.0当量)を充填した。懸濁液をrt(室温)で撹拌し、一方15時間後、清澄な黄色がかった色の溶液が形成された。混合物をEtOAc(300mL)で希釈し、有機相をNH4Cl(300mL)およびNaHCO3(300mL)で洗浄し、次いでNa2SO4で乾燥させた。揮発物を最後にin vacuoで除去し、粗混合物をカラムクロマトグラフィー(10%EtOAc→40%EtOAc/iHex)によって精製した。7(2.57g、6.93mmol、92%)を無色固体として得た。
1H-NMR (300 MHz, CDCl3): δ/ppm = 7.37-7.22 (m, 15H, (C6H5)3C), 6.59 (s, 1H, (C6H5)3C-NH-O), 5.81 (bs, 1H, O=C-NH), 4.25 (s, 2H, O-CH2C=O), 3.85 (dd, 3J = 5.5 Hz, 4J = 2.6 Hz, 2H, HN-CH2), 2.15 (t, 4J = 2.6 Hz, 1H, C≡C-H). 13C-NMR (75 MHz, CDCl3): δ /ppm = 169.1 (C=O), 143.9 (3C, 3 ×O-NH-C-C), 129.0 (6C, CAr-H), 128.2 (6C, CAr-H), 127.4 (3C, Ctert-H), 79.3 (C≡C-H), 74.6 (C(C6H5)3), 73.4 (O-CH2), 71.7 (C≡C- H), 28.8 (NH-CH2).HRMS(ESI+):C24H22N2NaO2[M+Na]+の理論値:393.1573;実測値:393.1571.IR(ATR):ν~(cm-1)=3288(w)、3222(w)、3056(w)、2913(w)、2359(w)、2339(w)、1635(m)、1542(m)、1489(m)、1065(m)、996(m)、763(m)、747(m)、707(s)、697(s)、685(s)、627(s).溶融範囲:157~158℃。
4.2.3 2-((4-アジドフェニル)アミノ-N,N,N-トリメチル-2-オキソエタンアミニウム・クロリド(4a)
【0149】
【0150】
ベタイン3a(0.30g、2.56mmol、1.0当量)をまず、高真空、180℃で20分間乾燥させた。rtに冷却後、無色固体を、DMF(25mL)に懸濁した。4-アジドアニリン塩酸塩2(0.54g、3.17mmol、1.2当量)、TBTU(0.99g、3.07mmol、1.2当量)およびDIPEA(1.10mL、6.32mmol、2.4当量)を添加し、茶色がかった黄色の溶液が緩徐に形成された。rtで1時間の撹拌後、全ての固体が溶解した。この反応物をrtで終夜さらに撹拌した。次いでDMFをin vacuoで除去し、粗混合物をカラムクロマトグラフィー(DCM/MeOH/H2O/7N NH3のメタノール溶液=90:10:0.6:0.6)によって精製し、4aが対応するトリアゾラート塩として得られた。次いで、この塩をH2O(50mL)に再溶解させ、pH=1に酸性化させた。次いで、有機相画分のTLC解析がUV吸収を示さなくなるまで、水相をEt2Oで抽出した。次いで、水層を濃NH3で中和し、4aの塩化物塩(0.62g、2.30mmol、90%)が茶色がかった色の粉末、として得られた。
1H-NMR (300 MHz, DMSO d6): δ/ppm = 11.22 (s, 1H, NH), 7.69 (d, 3J = 8.9 Hz, 2H, CH=C-NH), 7.12 (d, 3J = 8.4 Hz, 2H, CH=C-N3), 4.42 (s, 2H, CH2), 3.30 (s, 9H, N(CH3)3). 13C-NMR (101 MHz, dmso d6): δ/ppm = 162.0 (C=O), 135.0 (NH-C=CH), 134.9 (N3-C=CH), 121.2 (2C, NH-C=CH), 119.5 (2C, N3-C=CH), 64.3 (CH2), 53.4 (3C, N(CH3)3).HRMS(ESI+):C11H16N5O+[M+]の理論値:234.1349;実測値:234.1348.IR(ATR):ν~(cm-1)=3348(w)、2983(w)、2118(s)、2083(m)、1692(s)、1676(m)、1615(m)、1549(m)、1508(s)、1287(s)、1256(m)、1050(s)、1038(s)、922(s)、833(s).溶融範囲:144~146℃。
4.2.4 N,N,N-トリメチル-2-オキソ-2-((4-(4-((2-((トリチルアミノ)オキシ)アセトアミド)メチル)-1H-1,2,3-トリアゾール-1-イル)フェニル)アミノ)エタンアミニウム・クロリド/ブロミド(8a)
【0151】
【0152】
まず、DCMおよびH2Oの混合物(a 5mL)を凍結脱気し(3×)、次いでアジド4a(0.18g、0.65mmol、1.0当量)、アルキン7(0.24g、0.65mmol、1.0当量)およびCuBr・SMe2(40mg、0.20mmol、0.3当量)を添加した.この懸濁液をrtで終夜激しく撹拌し、無色のエマルションが形成された。次いで、この混合物を減圧下で濃縮し、シリカのショートプラグを用いたカラムクロマトグラフィー(DCM/MeOH/H2O/7N NH3のメタノール溶液=80:20:0.6:0.6)により精製した。8aが少し茶色がかった黄色の固体(0.32g、0.50mmol、77%)として得られた。
1H-NMR (300 MHz, DMSO d6): δ/ppm = 11.67 (s, 1H, NH-C6H4), 8.55 (s, 1H, CH2-C=CH-N), 8.34 (s, 1H, Ph3C-NH), 8.32 (t, 3J = 5.8 Hz, 1H, O=C-NH-CH2), 7.91-7.84 (m, 4H, C6H4), 7.34-7.19 (m, 15H, C(C6H5)3), 4.53 (s, 2H, (CH2-N(CH3)3), 4.45 (d, 3J = 5.8, 2H, NH-CH2), 3.85 (s, 2H, N-O-CH2), 3.33 (s, 9H, N(CH3)3). 13C-NMR (101 MHz, dmso d6): δ/ppm = 169.7 (O=C-NH-CH2), 162.4 (O=C-CH2-N), 146.0 (CH2-C=C), 144.1 (3C, O-NH-C-C), 138.1 (N-C=CH-CH), 132.6 (N-C=CH-CH), 128.9 (6C, CAr-H), 127.6 (6C, CAr-H), 126.7 (3C, C-H), 121.0 (CH2-C=CH-N), 120.5 (4C, N-C=CH-CH=C-N), 73.7 (C(C6H6)3), 73.2 (O-CH2), 64.4 (CH2-N(CH3)3), 53.4 (N(CH3)3), 33.8 (NH-CH2).HRMS(ESI+):C35H38N7O3
+[M+]の理論値:604.3031;実測値:604.3026.IR(ATR):ν~(cm-1)=3387(w)、3054(w)、2923(w)、1685(m)、1613(m)、1558(m)、1519(s)、1490(m)、1446(m)、1413(m)、1312(m)、1265(m)、1224(m)、1192(m)、1085(m)、1045(m)、1002(m)、990(m)、948(m)、922(m)、876(m)、838(m)、757(s)、698(s)、627(s).溶融範囲:142~152℃。
4.2.5 2-((4-(4-((2-(アミノオキシ)アセトアミド)メチル)-1H-1,2,3-トリアゾール-1-イル)フェニル-アミノ)-N,N,N-トリメチル-2-オキソエタンアミニウム・ギ酸塩(1a)
【0153】
【0154】
トリチル保護された化合物8a(0.24g、0.38mmol)をDCM(6mL)に溶解させ、6M HCl(6mL)を添加した。この混合物を、相分離が目に見えるようになるまで、rtで1時間激しく撹拌した。次いで、水相を、有機相画分のTLC解析がUV吸収をこれ以上示さなくなるまで、DCM(5×5mL)で抽出した。2M NH3を用いてpHを9~10に調整し、水相をin vacuoで除去した。次いで、75mgの1aを調製用のHPLC(0%→20%バッファーB)によってさらに精製し、23mg(0.05mmol、26%)のXを無色のギ酸塩として得た。
1H-NMR (400 MHz, D2O): δ/ppm = 8.40 (s, 1H, CH2-C=CH-N), 8.21 (s, 1H, HCOO), 7.58 (d, 3J = 9.2 Hz, 2H, CH-CH=C-N3), 7.52 (d, 3J = 9.2 Hz, 2H, CH-CH=C-NH), 4.53 (s, 2H, N-O-CH2), 4.27 (s, 2H, NH-CH2), 4.22 (s, 2H, CH2-N(CH3)3), 3.36 (s, 9H, N(CH3)3). 13C-NMR (101 MHz, D2O): δ/ppm = 169.7 (O=C-NH-CH2), 162.4 (O=C-CH2-N), 146.0 (CH2-C=C), 144.1 (3C, O-NH-C-C), 138.1 (N-C=CH-CH), 132.6 (N-C=CH-CH), 128.9 (6C, CAr-H), 127.6 (6C, CAr-H), 126.7 (3C, C-H), 121.0 (CH2-C=CH-N), 120.5 (4C, N-C=CH-CH=C-N), 73.7 (C(C6H6)3), 73.2 (O-CH2), 64.4 (CH2-N(CH3)3), 53.4 (N(CH3)3), 33.8 (NH-CH2).HRMS(ESI+):C16H24N7O3
+[M+]の理論値:362.1935;実測値:362.1935.IR(ATR):ν~(cm-1)=3130(m)、3037(s)、2807(m)、2649(m)、2363(w)、1684(s)、1610(m)、1556(s)、1517(s)、1487(m)、1475(m)、1442(m)、1403(s)、1312(m)、1262(m)、1193(m)、1128(w)、1083(w)、1048(m)、991(m)、967(w)、921(s)、837(s)。
4.2.6 N,N,N-トリメチル-2-オキソ-2-((4-(4-((2-((((3S,4R)-3,4,5-トリヒドロキシ-ペンチリデン)アミノ)オキシ)アセトアミド)-メチル)-1H-1,2,3-トリアゾール-1-イル)フェニル)-アミノ)エタンアミニウム・ギ酸塩(9a)
【0155】
【0156】
1a(50.0mg、0.12mmol、1-0当量)および2’-デオキシリボース(182mg、1.36mmol、11.8当量)をH2O(2.7mL)に溶解させ、Eppendorf適合のThermoMixer中、30℃、1400rpmで終夜インキュベートした。この混合物を0.2μmのシリンジフィルターで濾過し、その後、2回のHPLC(0→15%バッファーB)によって精製した。純粋な生成物9a(9.1mg、17μmol、15%)を、無色の泡状物質として得た。この化合物は、異性体が指定されていない水溶液中のE/Z異性体の混合物として存在した。
1H-NMR (600 MHz, D2O): δ/ppm = 8.46 (s, 1H, HCOO), 8.34 (s, 1H, CH2-C=CH-N), 7.79 (d, J=9.0 Hz, 2H, CH-CH=C-N3), 7.74 - 7.71 (m, 8H, CH-CH=C-NH, C1'-HA), 7.08 (t, 3J = 5.4 Hz, 1H, C1'-HB), 4.67 (s, 2H, N-O-CH2
B), 4.63 (s, 2H, NH-CH2), 4.62 (s, 2H, N-O- CH2
A), 4.35 (s, 2H, CH2-N(CH3)3), 3.92-3.87 (m, 1H, C3'-HB), 3.85 - 3.80 (m, 1H, C3'-HA), 3.78-3.69 (m, 1H, C5'-H), 3.66-3.53 (m, 2H, C5'-H, C4'-H), 3.42 (s, 9H, N(CH3)3), 2.79-2.69 (m, 2H, C2'-HB), 2.58 - 2.54 (m, 1H, C2'-HA), 2.41 - 2.35 (m, 1H, C2'-HA). 13C-NMR (150 MHz, D2O): δ/ppm = 172.4 (O=C-NH-CH2), 170.9 (HCOO), 162.7 (O=C-CH2-N), 153.5 (C1'A), 153.1 (C1'B), 145.1 (CH2-C=C), 136.8 (N- C=CH-CH), 133.5 (N-C=CH-CH), 122.5 (2C, CH=C-NH), 122.3 (CH2-C=CH-N), 121.9 (2C, CH=C-N3), 74.2 (C4'), 74.0 (C4'), 71.7 (N-O-CH2
B), 71.5 (N-O-CH2
A), 69.0 (C3'A), 68.8 (C3'B), 65.1 (CH2-N(CH3)3), 62.3 (C5'), 54.3 (N(CH3)3), 34.1 (NH-CH2), 32.4 (C2'A), 29.2 (C2'B).HRMS(ESI+):C21H32N7O6
+[M]+の理論値:478.2409;実測値:478.2404。
4.2.7 (S,E)-3-(2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)アクリルアルデヒド(12)
【0157】
【0158】
メチル(2E)-3-[(4S)-2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラン-4-イル]プロパ-2-エノアート11(0.20g、1.08mmol、1.0当量)をDCM(2.0mL)に溶解させ、-78℃に冷却した。DIBAL-H(ジイソブチルアルミニウム・水素化物)(2.20mL、2Mトルエン溶液、2.1当量)を添加し、黄色がかった色の混合物をrtまで緩徐に暖めた。90分後、DCM(5.0mL)およびH2O(4.0mL)およびNaOH(2M、2.0mL)を添加した。rtでさらに1時間撹拌した後、有機相を、水相から分離し、Na2SO4で乾燥させた。揮発物を減圧下で除去し、アリルアルコールを定量的収率で得、これをさらに精製せずに使用した。
1H-NMR (400 MHz, CDCl3):δ/ppm = 5.88 (dt, 3J = 15.4 Hz, 4J = 5.0 Hz, 1H, 5'-H) 5.65 (dd, 3J = 15.6 Hz, 4J = 7.6 Hz, 1H, 5'-H), 4.47 (q, 3J = 7.3 Hz, 1H, 4'-H), 4.08 (d, 3J = 5.1 Hz, 2H, 1'-H), 4.30 (dd, 3J = 8.2 Hz, 4J = 6.1 Hz, 1H, 3'-H), 3.53 (t, 3J = 7.9 Hz, 1H, 2'-H), 2.34 (br s, 1H, CH2-OH), 1.36 (s, 3H, O-C(CH3)(CH3)-O), 1.32 (s, 3H, O-C(CH3)(CH3)-O).
アリルアルコールをDCM(2.0mL)に溶解させ、0℃に冷却し、Dess-Martinペルヨージナン(0.45g、1.08mmol、1.0当量)を充填した。乳白色の懸濁液をrtまで緩徐に暖め、終夜撹拌した。飽和Na2SO4(10mL)およびNa2S2O3の溶液(171mg、10mL H2Oに溶解させた)の添加後、混合物をDCM(3×15mL)で抽出し、Na2SO4で乾燥させた。有機溶媒をin vacuoで除去し、粗混合物をカラムクロマトグラフィー(2.5%MeOH/DCM)で精製した。アルデヒド12(80mg、0.51mmol、47%)を無色のオイルとして単離した。
1H-NMR (400 MHz, CD2Cl2): δ/ppm = 9.50 (d, 3J = 7.6 Hz, 1H, 1'-CHO), 6.70 (dd, 3J = 15.6 Hz, 4J = 5.3 Hz, 1H, 3'-H), 6.23 (dt, 3J = 15.6 Hz, 4J = 5.8 Hz, 1H, 2'-H), 4.73 (q, 3J = 6.8 Hz, 1H, 4'-H), 4.18 (dd, 3J = 8.4Hz, 4J = 6.8Hz, 1H, 5'-H), 3.67 (dd, 3J = 8.4Hz, 4J = 6.8Hz, 1H, 5'-H), 1.39 (s, 3H, O-C(CH3)(CH3)-O), 1.35 O-C(CH3)(CH3)-O). 13C-NMR (101 MHz, CD2Cl2): δ/ppm = 193.0 (-CHO), 153.4 (3'-C), 132.1 (2'-C), 110.3 (Cquart), 74.9 (4'-C), 68.7 (5'-C), 26.2 (O-C(CH3)(CH3)-O), 25.4 (O-C(CH3)(CH3)-O).HRMS(EI):C8H11O3・[M-H]・の理論値:155.0708;実測値:155.0707。
4.2.8 2-((4-(4-((2-((((1E,2E)-3-((S)-2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラe-4-イル)-アリリデン)-アミノ)オキシ)アセトアミド)メチル)-1H-1,2,3-トリアゾール-1-イル)フェニル)-アミノ)-N,N,N-トリメチル-2-オキソエタン-1-アミニウム・ギ酸塩(10a)
【0159】
【0160】
アルデヒド12(20mg、0.13mmol、9.0当量)を、ヒドロキシルアミン1aと共にH2OとCHCl3の1:1混合物(a 2.5mL)に溶解させ、rtで撹拌した。反応過程をHPLC(0→30%バッファーB)によってモニターし、1時間後反応が終了したことを決定した。次いで、水相をDCM(3×10mL)で洗浄し、in vacuoで濃縮した。13a(5.10mg、9.50μmol、68%)が茶色がかった色の粘稠なオイルとして得られた。これをさらに精製せずに用いた。
1H-NMR (400 MHz, D2O): δ/ppm = 8.31 (s, 1H, HCOO), 8.12 (s, 1H, CH2-C=CH-N), 7.84 (d, 1H, 1'-H), 7.59 - 7.53 (m, 4H, CH-CH=C-N3, CH-CH=C-NH), 6.20 - 6.03 (m, 2H, 2' + 3'-H’s), 4.54 - 4.52 (m, 1H, 4'-H), 4.50 (s, 2H, N-O-CH2), 4.47 (s, 2H, NH-CH2), 4.20 (s, 2H, CH2-N(CH3)3), 4.02 - 3.98 (m, 1H, 5'-H), 3.45 - 3.50 (m, 1H, 5'-H), 3.27 (s, 9H, CH2-N(CH3)3), 1.26 (s, 3H, O-C(CH3)(CH3)-O), 1.24 (s, 3H, O-C(CH3)(CH3)-O).HRMS(ESI+):C24H34N7O5
+[M+]の理論値:500.2616;実測値:500.2617。
【0161】
アセトニド13a(4.00mg、7.50μmol、1.0当量)の脱保護をMeOHに溶解させ、PTSA・H2O(1.40mg、7.50μmol、1.0当量)を添加した。この混合物をEppendorf適合のThermoMixer(1300rpm、25℃)中で終夜インキュベートし、溶剤をin vacuoで凍結乾燥によって除去した。最後に、この粗生成物を調製用のHPLC(0→35%バッファーB、45分以内)によって精製し、純粋な10aが、無色の泡状物質として得られた。
1H-NMR (400 MHz, D2O): δ/ppm = 8.53 (s, 1H, HCOO), 8.30 (s, 1H, CH2-C=CH-N), 8.01 (s, d, 3J = 8.9 Hz, 1H, 1'-H), 7.78 - 7.70 (m, 4H, CH-CH=C-N3, CH-CH=C-NH), 6.31 - 6.32 (m, 2H, 2' + 3'-H’s), 4.63 (s, 2H, N-O-CH2), 4.62 (s, 2H, NH-CH2), 4.35 - 4.32 (m, 3H, CH2-N(CH3)3 + 4'-H), 3.61 (dd, 1J = 11.7 Hz, 3J = 4.4, 1H, 5'-H), 3.51 (dd, 1J = 11.7 Hz, 3J = 6.5, 1H, 5'-H), 3.22 (s, 9H, CH2-N(CH3)3). 13C-NMR (101 MHz, D2O): δ/ppm = 172.3 (O=C-NH-CH2), 170.9 (HCOO), 162.7 (O=C-CH2-N), 153.7 (1'-C), 144.5 (CH2-C=C), 142.8 (3'-C), 136.9 (N-C=CH-CH), 133.6 (N-C=CH-CH), 123.0 (2'-C), 122.5 (2C, CH=C-NH), 122.3 (CH2-C=CH-N), 122.0 (2C, CH=C-N3), 72.0 (N-O-CH2) 71.6 (4'-C), 64.4 (5'-C), 65.1 (CH2-N(CH3)3), 54.3 (N(CH3)3), 34.1 (NH-CH2).HRMS(ESI+):C21H30N7O5
+[M]+の理論値:460.2303;実測値:460.2305。
4.2.9 2-((4-アジドフェニル)アミノ-N,N,N-tri(メチル-d3)-2-オキソエタンアミニウム・クロリド(4b)
【0162】
【0163】
4bを4aと同様に合成し、[d11]-ベタイン(98%重水素、Euriso-Top GmbH)を用いて同位体標識を導入した。メチレン基の重水素標識は、反応条件下では安定ではなく、完全なD/H交換が観察された.したがって、[d9]標識された生成物が得られた。
1H-NMR (600 MHz, D2O): δ/ppm = 7.39 (d, 3J=8.6, 2H, CH-CH=C-NH), 7.04 (d, 3J=8.5, 2H, CH-CH=C-N3), 4.18 (s, 2H, CH2). 13C-NMR (150 MHz, D2O, ppm): δ/ppm = 162.7 (C=O), 137.5 (NH-C=CH), 132.5 (N3-C=CH), 123.5 (2C, NH-C=CH), 119.6 (2C, N3-C=CH), 65.0 (CH2).HRMS(ESI+):C11H7D9N5O+[M]+の理論値:243.1914;実測値:243.1916。
4.2.10 2-((4-(4-((2-(アミノオキシ)アセトアミド)メチル)-1H-1,2,3-トリアゾール-1-イル)フェニル-アミノ)-N,N,N-tri(メチル-d3)-2-オキソエタンアミニウム・ギ酸塩(1b)
【0164】
【0165】
アイソトポログ1bは、トリチル保護された中間体8bが単離されず、さらに精製せずに脱保護されるというわずかな改変以外は1aに従って合成した。
4.2.11 N,N,N-トリ(メチル-d3)-2-オキソ-2-((4-(4-((2-((((3S,4R)-3,4,5-トリヒドロキシ-ペンチリデン)アミノ)オキシ)アセトアミド)-メチル)-1H-1,2,3-トリアゾール-1-イル)フェニル)-アミノ)エタンアミニウム・ギ酸塩(9b)
【0166】
【0167】
内部標準9bは、9aと同様に合成し、(E)/(Z)異性体の混合物が得られた(AおよびBで表す)。
1H-NMR (600 MHz, D2O): δ/ppm = 8.46 (s, 2H, HCOO), 8.35 (s, 1H, CH2-C=CH-N), 7.81 (d, 3J = 7.5 Hz, 2H, CH-CH=C-N3), 7.75 - 7.73 (m, 8H, CH-CH=C-NH, C1'-HA), 7.08 (t, 3J = 5.4 Hz, 0.1H, C1'-HB), 4.67 (s, 2H, N-O-CH2
B), 4.64 (s, 2H, NH-CH2), 4.62 (s, 2H, N-O-CH2
A), 4.34 (s, 2H, CH2-N(CH3)3), 3.93-3.87 (m, 1H, C3'-HB), 3.86-3.79 (m, 1H, C3'-HA), 3.78-3.69 (m, 1H, 1x C5'-H2), 3.67-3.53 (m, 2H, 1x C5'-H2, C4'-H), 2.80-2.68 (m, 2H, C2'-H2
B), 2.59 - 2.54 (m, 1H, C2'-HA), 2.43-2.34 (m, 1H, C2'-HA). 13C-NMR (150 MHz, D2O, ppm): δ/ppm = 172.4 (O=C-NH-CH2), 170.9 (HCOO), 162.8 (O=C-CH2-N), 153.5 (C1'A), 153.1 (C1'B), 145.1 (CH2-C=C), 136.8 (N-C=CH-CH), 133.6 (N-C=CH-CH), 122.6 (2C, CH=C-NH), 122.4 (CH2-C=CH-N), 122.0 (2C, CH=C-N3), 74.2 (C4'), 74.0 (C4'), 71.7 (N-O-CH2
B), 71.5 (N-O-CH2
A), 69.0 (C3'A), 68.8 (C3'B), 64.9 (CH2-N(CD3)3), 62.3 (C5'), 53.3 (N(CD3)3), 34.1 (NH-CH2), 32.4 (C2'A), 29.2 (C2'B).HRMS(ESI+):C21H23D9N7O6
+[M]+の理論値:487.2973;実測値:487.2967。
4.2.12 2-((4-(4-((2-((((1E,2E)-3-((S)-2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)-アリリデン)-アミノ)オキシ)アセトアミド)メチル)-1H-1,2,3-トリアゾール-1-イル)フェニル)-アミノ)-N,N,N-トリ(メチル-d3)-2-オキソエタン-1-アミニウム・ギ酸塩(10b)
【0168】
【0169】
10bは、10aに従って合成した。
1H-NMR (800 MHz, D2O): δ/ppm = 8.47 (s, 1H, HCOO), 8.32 (s, 2H, CH2-C=CH-N), 8.02 (d, 3J = 9.4 Hz, 1H, 1'-H), 7.80 - 7.71 (m, 4H, CH-CH=C-N3, CH-CH=C-NH), 6.34 - 6.26 (m, 2H, 2' + 3'-H’s), 4.65 (s, 2H, N-O-CH2), 4.63 (s, 2H, NH-CH2), 4.35 - 4.32 (m, 3H, CH2-N(CH3)3 + 4'-H), 3.63 (dd, 1J = 11.7 Hz, 3J = 4.4, 1H, 5'-H), 3.53 (dd, 1J = 11.7 Hz, 3J = 6.5, 1H, 5'-H). 13C-NMR (150 MHz, D2O): δ/ppm = 172.3 (O=C-NH-CH2), 170.9 (HCOO), 162.8 (O=C-CH2-N), 153.7 (1'-C), 145.2 (CH2-C=C), 142.8 (3'-C), 136.9 (N-C=CH-CH), 133.6 (N-C=CH-CH), 123.0 (2'-C), 122.5 (2C, CH=C-NH), 122.3 (CH2-C=CH-N), 122.0 (2C, CH=C-N3), 72.1 (N-O-CH2) 71.6 (4'-C), 64.4 (5'-C), 65.1 (CH2-N(CH3)3), 53.3 (N(CD3)3), 34.1 (NH-CH2).HRMS(ESI+):C21H21D9N7O5
+[M]+の理論値:469.2868;実測値:469.2874。
4.3 細胞培養
10%FBS(PAN Biotech)、2mML-グルタミン、100U/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシン、1×MEM非必須アミノ酸溶液および0.1mMβ-メルカプトエタノール(Sigma Aldrich)を含有するDMEM高グルコースをmESC(マウス胚性幹細胞)培養物用の基本培地として用いた。基本培地を1000U/mL LIF(ORF Genetics)、3.0μM GSK3阻害剤CHIR99021および1.0μM Mek阻害剤PD0325901(2i;Selleckchem)で補足することによって、ゼラチンコートされたプレート上で、mESC株をナイーブ状態に維持した。1000U/mL LIFで補足した基本mESC培地からなるプライミング条件にmESCを播種することによって、同位体標識化ヌクレオシドを用いた代謝標識実験を行った。標識化ヌクレオシド(B.A.C.H.UG)を下記の濃度で培地に添加した:dG[15N5;13C10]、100μM3日間、続いて200μM標識化dGによる処置2日間;dC[15N3;13C9]およびdT[15N2;13C10]は両方とも濃度100μMの総量で5日間使用した。Dnmt TKO J1 mESCsは、Tsumuraら(21)に記載され、J1野生型mESCは、129S4/SvJae株から得た(22)。Cortazarら(11)に報告されているTdg+/-およびTdg-/-細胞株を用いた。
4.4 細胞溶解およびDNA単離
ゲノムDNAの単離は、Qiagen製のQIAamp DNA Miniキットを用いて行った。全てのmESC試料PBS(Sigma)で洗浄し、400 μM2,6-ジ-テルト-ブチル-4-メチルフェノール(BHT)およびメシル酸デフェロオキサミン(DM)を含有するG2バッファーを添加することによりプレート中で直接溶解させた。ミクロチューブ内で、直径5mmのステンレス鋼ビーズを1チューブあたり1個およびMM400ビーズミル(Retsch)を用いて、30Hzで1分間、ビーズミリングによりDNAを剪断し、その後、15000rpmで10分間遠心処理した。単離するゲノムDNAの量に応じて、細胞可溶化物を、プロテイナーゼK(Genomic-tip 20G用には25μLまたはGenomic-tip 100G用には100μL)およびRNase A(2.0μL/20G、10μL/100G)で、50℃、1時間処理した。30分後、追加のRNase A(それぞれ、2.0μLまたは10μL)を混合物に添加した。次いで、Genomic-tipカラムをローディングバッファーQBT(1.0mL/20Gまたは4.0mL/100G)で平衡化し、1分間ボルテックスした可溶化液をカラムにアプライした。全液がカラムに入った後、バッファーQC(2.0mL/20Gまたは2×7.5mL/100G)を用いて洗浄ステップを行い、最後に、400μM BHT(ブチル化ヒドロキシトルエン)で補足したQFバッファー(2.0mL/20Gまたは5.0mL/100G)でゲノムDNAを溶出した。次いで、i-PrOH(1.4mL/20Gまたは3.5mL/100G、70%容積)の添加によって沈殿を行い、得られたゲノムDNAペレットを遠心分離した(15分、6000g、4℃)。上清を捨て、洗浄ステップを、70%EtOH(5.0mL、15分、6000g、4℃)を用いて行った。最後に、純粋なDNAペレットを、1.0mL70%EtOHに再懸濁し、遠心処理した(10分、15000rpm、4℃)。次に、上清を除去し、20μMBHTを含むddH2O(50~100μL)にペレットを再溶解させた。濃度を、NanoDrop(ND1000、Peqlab)で決定した。
4.5 1aを用いたゲノムDNAの誘導体化
総容積20μLで1で脱塩基部位(標識化されていないgDNAは5.0μg、標識化gDNAは20μg)の誘導体化を行い、溶液の緩衝化をHEPES(20mM、pH=7.5)およびNa2EDTA(0.1mM)で行った。1のH2O溶液ストック(23.8mM)を緩衝液(1の最終濃度=1.5mM)に添加し、混合物を5秒間ボルテックスすることによって反応を開始させた。gDNAを37℃/1400rpmで40分間、Eppendorf適合のThermoMixer内でインキュベートした。反応を、1-ナフチルアルデヒド(66.7μL、2M i-PrOH溶液)の添加によって停止させて過剰の1をクエンチし、37℃/1400rpmで10分間、再度インキュベートした。次いで、NaOAc(3.3μL、3M)を添加し、ボルテックスし、37℃/1400rpmでさらに5分間インキュベートすることによって、誘導体化されたDNAをプレインキュベートした。無水i-PrOH(66.7μL)を添加し、管を数回反転させ、次いで遠心処理した(60分、10℃、15000rpm)。上清を除去し、洗浄ステップ(1x75%i-PrOH、10℃、15000rpm、30分;2x75%冷EtOH、4℃、15000rpm、30分)を行い、各洗浄ステップ後、上清を注意深く除去した。最後に、得られたDNAペレットを、35μLのddH2Oに再溶解させ、次いで、ヌクレオシドレベルまで酵素により消化させた。
4.6 誘導体化されたゲノムDNAの酵素消化
本発明者らは、ゲノムDNA(35μL H2O中で、標識化されていないgDNAは5.0μg、または標識化gDNAは20μg)の酵素消化のために、480μM ZnSO4の水溶液を用い、混合物を37℃で3時間インキュベートした。この溶液は、5U南極ホスファターゼ(New England BioLabs)、42UヌクレアーゼS1(Aspergillius oryzae、Sigma-Aldrich)、ならびにDNA修飾および誘導体化された脱塩基部位の正確な定量化のための特定の量の標識化された内部標準からなった。第2の消化ラウンドでは、本発明者らは、0.2Uヘビ毒ホスホジエステラーゼ I(Crotalus adamanteus、USB社)の520μM[Na]2-EDTA溶液7.5μlを添加し、混合物を37℃でさらに3時間または終夜インキュベートした。消化後、試料を-20℃に貯蔵し、LC-MS/MS解析(4℃での注入体積:39μg)の前に、AcroPrep Advance 96フィルタープレート0.2μm(0.20μm Supor、Pall Life Sciences)を用いることによって濾過した。
4.7 DNA試料のLC-ESI-MS/MS解析
LC-MS/MS研究のために、本発明者らは、UV検出器付きの三連四重極質量分析計Agilent6490およびAgilent 1290UHPLCシステムを用いた。先に発表された研究(23-27)に基づいて、本発明者らは、新しい方法を開発し、それを同位体希釈技法と結びつけた。これにより、1回の単独の解析実施で、誘導体化された脱塩基部位、全ての標準ヌクレオシド、およびシトシン修飾の正確な定量化を行うことが可能となった。
【0170】
クロマトグラフィー分離を、Poroshell 120 SB-C8カラム(Agilent、2.7μm、2.1mm×150mm)で行った。溶出バッファーは、それぞれ0.0085%(v/v)ギ酸を含有する水およびMeCNであり、流速は、30℃で0.35ml/分であった。勾配は次の通りであった:0→5分;0→3.5%(v/v)MeCN;5→6.9分;3.5→5%MeCN;6.9→13.2分;5→80%MeCN;13.2→14.8分;80%MeCN;14.8→15.3分;80→0%MeCN;15.3→17分;0%MeCN。1.5分までおよび12.2分後の溶離液は、Valcoバルブによって廃棄物へと方向転換させた。
【0171】
合成内部標準の直接注入により本発明者らは、ソース依存性パラメータを最適化させた。パラメータは以下の通りであった。気体温度50℃、気流15l/分(N2)、噴霧器30psi、シースガスヒーター275℃、シースガス流11l/分(N2)、キャピラリー電位2500V(ポジティブモード)および-2250V(陰イオンモード)、ノズル電位500V、フラグメンター電位380V、ΔEMV500(ポジティブモード)および800(ネガティブモード)。方法の開発中に最も高い強度を与えた化合物依存性パラメータを表1に要約した。
【0172】
【0173】
【0174】
4.8方法の評価およびデータ処理
方法の評価およびデータ処理は、先に発表された研究に記載の通り行った(24)。較正曲線を得るために、各標準物質(5-8標準物質濃度)を技術的トリプリケートとして解析し、Origin(登録商標)6.0(Microcal(商標))を用いて線形回帰を適用した。したがって、内部標準(
*)に対する標識化されていない誘導体化脱塩基部位9aおよび10aの曲線下面積(A/A
*)の比を、内部標準(
*)に対する標識化されていない誘導体化脱塩基部位9aおよび10aの物質量(n/n
*)の比に対してそれぞれプロットした(
図7参照)。較正関数を重み付け無しで計算した。許容可能な精度(<20%相対的な標準偏差)および正確度(80~124%)が得られた。この精度は、各較正標準について技術的トリプリケートで測定したA/A
*比の標準偏差が<20%である場合に得られた。正確度には、パーセントで表した各濃度についての物質量の理論値に対する使用量の比を用いた。この正確度を証明するために、本発明者らは、各較正標準についてのA/A
*比から物質量nを計算するためのそれぞれの較正関数を用いた。
【0175】
検出下限(LOD)は、ブランクで得られたそれぞれの化合物のMSシグナルの応答の3倍と定義された。定量化の下限(LLOQ)は、正確度および精度の要件を満たし、かつLODより高い応答を実現する最低濃度と定義された。LLOQおよびLODの集計を表2に示す。
【0176】
【0177】
4.9 規定の脱塩基部位を有する合成13マーオリゴヌクレオチドの調製
オリゴヌクレオチド(5’-GTA ATG UGC TAG G-3’および3’-CAT TAC ACG ATC C-5’、a 15 nmol、Metabion)を、UDG-バッファー(150μL、20mM Tris-HCl、pH=8.0、1mM DTT、1.0mM EDTA、New England Biolabs)中で95℃で5分間インキュベートし、次いでrtまで緩徐に冷却した。UDG(5.0μL、25ユニット、New England Biolabs)を添加し、注意深く混合し、この混合物を37℃で2時間インキュベートした。次いで、下の段落に記載のクロロホルム/フェノール抽出によってオリゴヌクレオチドを単離した。CHCl
3/フェノール溶液(200μL、Rotiフェノール)を添加し、30秒間ボルテックスし、rtおよび13400rpmで3分間遠心処理した。水相を注意深く除去し、CHCl
3/フェノール処理を2回繰り返した。NaOAc(20μL、3M)を添加した後、オリゴヌクレオチドをi-PrOH(600μL)で沈殿させた。得られたDNAペレットをrtで30分間(15000rpm)遠心処理し、冷EtOH(300μL)で洗浄し、4℃、15000rpmで、さらに30分間遠心処理した.洗浄ステップをもう1回繰り返し、上清を除去し、ペレットを空気で5分間乾燥させ、その後、オリゴヌクレオチドをddH
2O(150μL)に再溶解させた。識別を、最後に、MALDI-TOF解析で確認した。
4.10 規定の脱塩基部位を有する合成オリゴについての反応速度論
総反応体積20μLにおいて、オリゴヌクレオチド(300pmol)をHEPESバッファー(20mM、pH=7.5)およびNa
2EDTA(0.1mM)で緩衝化し、1(23.8mMストック1.26μL)を添加した。反応(37℃、800rpm、Eppendorf適合のThermoMixer)を、混合物を5秒間ボルテックスした後、開始させ、特定の時点(t=15s、30s、45s、90s、120s、150s、180s、4分、6分、8分、15分、20分)の後、アセトン(200μL)を添加し、液体窒素中でアリコートを凍結させることによって停止させた。過剰のアセトンをspeed vac(RVC-2-33 IR、Christ)で除去し、AcroPrep Advance 96フィルタープレート(0.20mm Supor、Pall Life Sciences)で濾過した。75pmolのDNAを、その後、Dionex microHPLCシステムに注入し、反応生成物をZorbax SB-C
18カラム(0.55×250mm、5.0mm孔径)を用いて、流速350μL/分で分離した。カラム温度60℃、45分以内の勾配0%->20%バッファーB(バッファーA=10mM TEAB、pH=7.5のH
2O溶液およびバッファーB=10mM TEAB、pH=7.5の80%MeCN/H
2O溶液)で解析を行った。最後に、得られたUVシグナルの統合(
図8)は、ODN上の脱塩基部位と1の反応は20分後には完了し、生理条件下では他の断片が生成しなかったことを示した。
4.11 酵素消化の効率
誘導体化された嵩高い脱塩基部位を、上記の酵素カクテルによって切り出すことができるかどうかを検証するために、本発明者らは、上のセクションで述べたオリゴで形成された脱塩基部位の量を定量化した。試薬1aと40分間反応させたオリゴのアリコートを1/4000に希釈し、ある量の標識化内部標準を添加し、混合物をヌクレオシドレベルまで消化した。脱塩基部位の総量を136pmolと測定した。同じオリゴのdGの量をそのUV痕跡によって定量化し、762pmolと計算した。この二本鎖コンストラクトには6個のdG塩基があるため、脱塩基部位の量はdGの量の1/6にあたる量(127pmol)と予測される。これは、消化が完全であり、脱塩基部位付加物によって加水分解酵素が妨げられなかったことを示している.
4.12 ゲノムDNA中の脱塩基部位についての反応速度論
上述の条件(1によるゲノムDNAの誘導体化)と同じ条件を用いて5μgのgDNAを1で誘導体化することによって反応を行った。1-ナフチルアルデヒド(66.7μL、2M、i-PrOH溶液)の添加によって、特定の時点(t=1分、2.5分、5分、10分、20分、30分、60分)で反応を停止させた。最後に、反応アリコートをヌクレオシドレベルまで消化し、定量化した(
図9)。5分間の反応時間の後,全ての脱塩基部位が誘導体化され、インキュベーションを60分間まで延長しても、使用された条件下では、脱塩基部位が人為的に生成されないことが示されている。
5. チオール反応性プローブの合成およびグルタチオン(GSH)のMS解析における使用
分析物分子上のチオール官能基と反応できるプローブの一例として、アクリルアミド試薬を合成し、グルタチオン(GSH)のMS解析において試験した。反応スキームを
図10に示す。
5.1 アクリルアミドプローブの合成
【0178】
【0179】
まず、ヒドロキシルアミンプローブ(20mg、0.044mmol、1.0当量)を、EtOAc/H2O(2:1、3.0mL)の混合物に溶解させ、Na2CO3(19mg、0.176mmol、4.0当量)を添加し、0℃まで冷却した。塩化アクリロイル(120μL、1.47mmol、33当量)を激しく撹拌しながら添加し、反応混合物を0℃に30分間維持した。揮発物を凍結乾燥によって除去し、粗混合物を、Machery & Nagel製のNucleodur C18ecカラムを用いた準調製用のHPLC(0%→40%バッファーB(40分以内)、バッファーA:25mM NH4HCOO、pH=4.3のH2O溶液、バッファーB:20%バッファーAのMeCN溶液)で精製した。最後に、所望の化合物を含有する画分を凍結乾燥させ、生成物(6.0mg、0.013mmol、30%)の茶色がかった色のオイルを得た。
1H-NMR (400 MHz, D2O), δ (ppm): 8.42 (s, 1H), 8.33 (s, 1H), 7.76 (d, J = 9.0 Hz, 2H), 7.69 (d, 9.0 Hz), 6.16 (d, J = 16.6 Hz, 1H), 6.10 (d, J = 10.4 Hz, 1H), 5.76 (d, J = 10.7 Hz), 4.61 (s, 2H), 4.50 (s, 2H), 4.31 (s, 2H), 3.37 (s, 9H).
13C-NMR (121 MHz, D2O), δ(ppm): 170.8, 170.4, 162.8, 144.8, 136.8, 128.9, 125.8, 122.5, 121.9, 74.5, 65.1, 54.3, 34.0.
5.2 GSH付加物の合成
【0180】
【0181】
アクリルアミドプローブ(3.0mg、0.007mmol、1.0当量)を、NaHCO
3/Na
2CO
3バッファー(2.0mL、60mM、pH=10)に溶解させた。グルタチオン(2.0mg、0.007mmol、1.0当量)を添加し、この混合物を50℃で3時間インキュベートした。凍結乾燥により揮発物を除去し、Machery & Nagel製のNucleodur C18ecカラムを用いた準調製用のHPLC(0%→30%バッファーB(40分以内)、バッファーA:25mM NH
4HCOO、pH=4.3のH
2O溶液、バッファーB:20%バッファーAのMeCN)で粗残渣を精製し、GSH-付加物を無色固体として得た(4mg、0.005mmol、74%)。
1H-NMR (400 MHz, D
2O), δ(ppm): 8.42 (s, 1H), 8.34 (s, 1H), 7.76 (d, J = 9.0 Hz, 2H), 7.67 (d, 9.0 Hz), 4.60 (s, 2H), 4.47 (s, 2H), 4.39 (dd, J = 8.9 Hz, 4.9 Hz, 1H), 4.31 (s, 2H), 3.72 (t, J = 6.3 Hz, 1H), 3.67 - 3.66 (m, 2H), 3.37 (s, 9H), 2.84 (dd, J = 14.1 Hz, 5.0 Hz, 1H), 2.67 - 2.64 (m, 3H), 2.44 (dd, J = 8.6 Hz, 6.7 Hz, 2H), 2.38 (t, J = 6.7 Hz, 2H), 2.12 - 2.05 (m, 2H).
13C-NMR (121 MHz, D
2O), δ(ppm): 176.0, 174.7, 173.8, 171.6, 171.2, 170.9, 179.4, 162.7, 144.8, 136.9, 133.4, 122.4, 122.4, 121.7, 74.5, 65.1, 54.3, 54.0, 52.9, 43.2, 34.0, 32.5, 32.0, 31.3, 26.9, 26.1.
HRMS:C
29H
43N
10O
10S
+、[M]
+の理論値=723.2879、実測値:723.2873.
5.3 GSH付加物のMS解析
MS解析は、質量分析計における単一荷電種のN
2損失を、前駆イオン走査で示す。二重荷電種は、N
2損失を直接的に示す。結果を
図11に示す。
6.テストステロンのMS解析におけるケトン反応性プローブの使用
分析物分子上のケトン官能基と反応できるプローブとして、ヒドロキシルアミン試薬を用い、テストステロンのMS解析において試験した。反応スキームを
図12に示す。
6.1 合成手順
テストステロン(20mg、0.069mmol、1.0当量)を、H
2O/MeCN/MeOH(1:1:1、1.0mL、0.05%ギ酸を含有する)の混合物に溶解させた。ヒドロキシルアミン試薬(28mg、0.069mmol、1.0当量)を添加し、この混合物を40℃で終夜インキュベートした。揮発物をin vacuoで除去し、最後に、粗生成物を準調製用のHPLC(50%MeCNから80%MeCNのH
2O溶液+0.05%ギ酸(40分以内)、0.5mL/分)で精製した.付加物を無色固体として得た(5mg、0.009mmol、13%)。
注意:付加物を、指定されていないE/Z異性体の53/46混合物として得た。
1H-NMR (400 MHz, CD
3CN): δ(ppm) = 8.67 (s, 2H), 8.11 (s, 1H), 8.09 (s, 1H), 7.96 - 7.94 (m, 4H), 7.76 - 7.73 (m, 4H), 7.10 (s
t, J = 5.55 Hz, 1H), 7.00 (s
t, J = 5.68 Hz, 1H), 6.39 (s, 1H), 5.69 (s, 1H), 4.57 (s, 4H), 4.46 (s, 4h), 4.44 (s, 4H), 3.32 (s, 18H), 1.79 -1.20 (m, 30 H), 1.07 (s, 3H), 1.06 (s, 3H), 1.03 - 0.73 (m, 10H), 0.71 (s, 3H), 0.68 (s, 3H).
13C-NMR (121 MHz, CD
3CN): δ(ppm) = 170.5, 170.4, 168.3, 163.0 (2xC), 162.4, 158.8, 158.2, 156.0, 146.7, 146.3, 139.7 (2xC), 133.6, 121.7, 121.6, 121.4, 121.3, 121.1, 116.6, 110.5, 81.3, 81.0, 73.2, 72.9, 65.9, 54.7, 54.5, 51.0, 50.9, 43.1, 43.0, 39.4, 38.4, 37.1, 36.9, 36.6, 36.1, 36.0, 35.0, 34.7, 34.6, 33.1, 32.6, 32.5, 32.2, 30.3, 30.2, 24.8, 23.6, 21.3, 21.1, 19.9, 17.9, 17.7, 11.1, 11.0.
HRMS(ESI):C
35H
50N
7O
4
+[M
+]の理論値:632.3919、実測値:632.3915.
6.2 質量分析の詳細
テストステロン付加物を、ストック濃度2.1mMのアセトニトリル/水(1:1)に溶解させた。同じ溶剤混合物の系列希釈により、最後に、濃度0.12pMの溶液を得た。付加物を流速0.35mL/分、50%バッファーB(0.0075%ギ酸を含むアセトニトリル)開始の勾配を用いたUHPLC-QQQ-MSで解析した。この溶液1.0μLの注入は0.12amolに相当する。この量はまだ質量分析計で検出可能であり、質量遷移が632.4→604.4であり、クォリファイアー遷移が632.4→192.1であった。
【0182】
比較に、純粋なテストステロンを、ストック濃度11.04mMのアセトニトリル/EtOH(1:1)に溶解させた。同じ溶剤混合物で系列希釈を行い、最終濃度11pMを得た。この溶液を再び、流速0.35mL/分、50%バッファーB(0.0075%ギ酸を含むアセトニトリル)で開始する勾配を用いたUHPLC-QQQ-MSで解析した。このストックの注入体積2.0μLは、22amolに相当する。この量はまだ質量分析計で検出可能であり、質量遷移が289.2→109.2であった。1.0μLのみの注入では、バックグラウンドノイズより大きなシグナルはみられなかった。
【0183】
まとめると、付加物は、誘導体化されていないテストステロンの感度より、185倍高い感度で検出できる。
結果を
図13~15に示す。
7. ドパミンのMS解析における反応性エステルプローブの使用
以下のドパミンの付加物および反応性エステル化合物を調製し、
【0184】
【0185】
HR-MSおよびUHPLC-MS/MSによって特徴付けた。
HR-MS:C26H33N8O6
+の理論値:553.2518、実測値:553.2518.
付加物を溶解させ、MeOH/アセトニトリル(1:1)中に希釈し、UHPLC-MS/MSで解析した。生成物イオン走査の実施によって、m/z 553.4の分子イオンの断片化によって起こる、525.2にピークを有する窒素損失が特定された。
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