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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-05
(45)【発行日】2022-10-14
(54)【発明の名称】炭化珪素含有ハニカム構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 38/00 20060101AFI20221006BHJP
   B01J 35/04 20060101ALI20221006BHJP
   C04B 35/577 20060101ALI20221006BHJP
   C04B 35/622 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
C04B38/00 303Z
B01J35/04 301P
B01J35/04 301M
C04B38/00 304Z
C04B35/577
C04B35/622 040
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020054897
(22)【出願日】2020-03-25
(65)【公開番号】P2021155236
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2021-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】西垣 拓
(72)【発明者】
【氏名】児玉 優
(72)【発明者】
【氏名】木村 佳祐
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-168438(JP,A)
【文献】特開2019-178052(JP,A)
【文献】国際公開第2005/030675(WO,A1)
【文献】特表2005-511294(JP,A)
【文献】特開2005-126317(JP,A)
【文献】特開2012-045926(JP,A)
【文献】国際公開第2014/208460(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 38/00
B01J 35/04
C04B 35/577
C04B 35/622
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼成後の工程において第一の炭化珪素含有ハニカム構造体を構成する材料に由来する再生原料を、出発原料の一部として配合することを含む第二の炭化珪素含有ハニカム構造体の製造方法であって、
前記出発原料は炭化珪素及び金属珪素を含み、
前記再生原料は、前記焼成後の工程において第一の炭化珪素含有ハニカム構造体を構成する材料から回収され、回収後に、レーザー回折・散乱法を用いて体積基準の累積粒度分布を測定したときの10%径(D10)が10μm以上、かつ50%径(D50)が35μm以下となるように粒度調整された粉末である、
製造方法。
【請求項2】
前記再生原料は、レーザー回折・散乱法を用いて体積基準の累積粒度分布を測定したときの10%径(D10)が15μm以上となるように粒度調整した粉末である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記再生原料は、レーザー回折・散乱法を用いて体積基準の累積粒度分布を測定したときの90%径(D90)が60μm以下となるように粒度調整した粉末である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記再生原料を、前記炭化珪素、前記金属珪素、及び前記再生原料の合計質量に占める割合が20~80質量%となるように前記出発原料中に配合することを含む請求項1~3の何れか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭化珪素含有ハニカム構造体の製造方法に関する。とりわけ、本発明は自動車排ガス浄化用のフィルタ又は触媒担体等に使用される炭化珪素含有ハニカム構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)は、高耐熱性、高硬度、優れた耐薬品性、優れた耐摩耗性といった特性を活かして、ヒートシンク、排ガスフィルタ、触媒担体、摺動部品、ノズル、熱交換器、及び半導体製造装置用部品といった種々のセラミックス製品に利用されている。中でも、炭化珪素多孔質体に金属珪素を含浸したSi含浸SiC材料は、優れた熱伝導率からヒートシンク材としての用途がある。また、炭化珪素粒子が金属珪素によって結合されたSi結合SiC材料は、耐熱性、耐熱衝撃性、耐酸化性に優れた特性を持ち、内燃機関、ボイラー等の排ガス中の微粒子を捕集するフィルタや、排ガス浄化用触媒の触媒担体等に用いられるハニカム構造体の代表的な構成材料として知られている。
【0003】
炭化珪素含有ハニカム構造体は、例えば、炭化珪素粉末に、金属珪素(シリコン)、有機バインダー、及びアルカリ土類金属を添加し、混合及び混練して得られた坏土を、所定のハニカム構造を有するハニカム成形体に押出成形し、得られたハニカム成形体を仮焼して成形体中の有機バインダーを除去した後、焼成することにより製造される。
【0004】
このような炭化珪素含有ハニカム構造体は一体成形品として提供される場合もあるが、耐熱衝撃性を向上させるために、焼成後、複数のハニカム構造セグメントを接合材で接合して使用する場合もある。後者の場合、複数のハニカム構造セグメントが接合されてできたセグメント接合体の外周部を研削加工して所望の形状(例えば円柱状)とし、セグメント接合体の外周側面にコーティング材を塗工した後、加熱乾燥して外周壁を形成する工程が行われる。
【0005】
近年、原料収率向上及び廃棄物量削減の観点から、炭化珪素含有ハニカム構造体の製造過程で生じる廃材を再生利用することが求められている。焼成する前のハニカム成形体の不良品を回収して、再度原料として利用する検討は従来なされてきた。一方、成形体を焼成した後の工程において発生する不良品及び端材のような廃材は、ハニカム構造体の品質に悪影響を及ぼすと考えられていた。このため、ハニカム成形体を焼成した後の工程において発生する廃材を回収してハニカム構造体の原料として再利用するための技術開発はあまり進んでいないのが現状であるが、炭化珪素を原料に含むハニカム成形体を焼成した後の廃材を利用することを目的とした先行技術としては、特許文献1(特開2011-168438号公報)に記載されている技術が挙げられる。
【0006】
特許文献1においては、炭化珪素ハニカム構造体の出発原料を焼成した後の工程において炭化珪素ハニカム構造体を構成する材料から再生原料を回収し、この再生原料の平均粒子径を5~100μmに調整した後に、炭化珪素ハニカム構造体の出発原料の一部として当該出発原料全体に占める割合が50質量%以下となるように添加して、炭化珪素ハニカム構造体を製造する方法が提案されている。また、別法として、前記再生原料を前記出発原料の一部として前記出発原料全体に占める割合が50質量%以下となるように添加した後、平均粒子径を5~100μmに調整し、これを用いて炭化珪素ハニカム構造体を製造する方法も提案されている。特許文献1に記載の炭化珪素ハニカム構造体の製造方法によれば、再生品を使用しない場合と同程度の熱伝導率、強度、気孔率等の特性を有するハニカム構造体を製造することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011-168438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の技術は、炭化珪素含有ハニカム構造体を製造するために炭化珪素を含有するハニカム成形体を焼成した後の工程において発生する廃材を回収して再利用する技術を提供する点で有意義である。しかしながら、未だ当該技術は発展途上にあり、改善の余地が残されている。具体的には、本発明者の検討結果によると、特許文献1の技術に従って再生原料を利用して製造した炭化珪素含有ハニカム構造体は、良好な熱伝導率を安定して得られないという問題があった。熱伝導率が低下すると、炭化珪素含有ハニカム構造体の製品としての耐久性が低下するので回避することが望ましい。また、熱伝導率が高い方が、フィルタ再生時に煤が燃えやすいのでフィルタ再生を短時間で行うことができる。更に、ハニカム構造体を加熱したときの温度の内外周差を小さくすることもできる。
【0009】
また、特許文献1の技術に従って再生原料を利用して製造した炭化珪素含有ハニカム構造体は、フィルタとして使用した場合に良好な捕集効率を安定して得るという点においては改善の余地があった。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、一実施形態において、焼成後の工程において炭化珪素含有ハニカム構造体を構成する材料に由来する再生原料を、炭化珪素含有ハニカム構造体の出発原料として再び利用する場合に、熱伝導率の低下及び捕集効率の低下が抑制された炭化珪素含有ハニカム構造体を安定して製造するための方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、特許文献1においては、再生原料粉末の平均粒子径を5~100μmに調整することが記載されているが、それだけでは不十分であり、再生原料粉末のD10及びD50を所定の条件に調整することが熱伝導率の低下を抑制する上で有効であることを見出した。本発明は当該知見に基づき完成したものであり、以下に例示される。
【0012】
[1]
焼成後の工程において第一の炭化珪素含有ハニカム構造体を構成する材料に由来する再生原料を、出発原料の一部として配合することを含む第二の炭化珪素含有ハニカム構造体の製造方法であって、
前記出発原料は炭化珪素及び金属珪素を含み、
前記再生原料は、前記焼成後の工程において第一の炭化珪素含有ハニカム構造体を構成する材料から回収され、回収後に、レーザー回折・散乱法を用いて体積基準の累積粒度分布を測定したときの10%径(D10)が10μm以上、かつ50%径(D50)が35μm以下となるように粒度調整された粉末である、
製造方法。
[2]
前記再生原料は、レーザー回折・散乱法を用いて体積基準の累積粒度分布を測定したときの10%径(D10)が15μm以上となるように粒度調整した粉末である[1]に記載の製造方法。
[3]
前記再生原料は、レーザー回折・散乱法を用いて体積基準の累積粒度分布を測定したときの90%径(D90)が60μm以下となるように粒度調整した粉末である[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4]
前記再生原料を、前記炭化珪素、前記金属珪素、及び前記再生原料の合計質量に占める割合が20~80質量%となるように前記出発原料中に配合することを含む[1]~[3]の何れか一項に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一実施形態によれば、焼成後の工程において炭化珪素含有ハニカム構造体を構成する材料に由来する再生原料を利用する場合に、熱伝導率の低下が抑制された炭化珪素含有ハニカム構造体を安定して製造することが可能になる。従って、本発明の一実施形態によれば、炭化珪素含有ハニカム構造体を工業生産するにあたって原料収率向上及び廃棄物量削減に寄与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に本発明の実施形態を詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0015】
本発明の一実施形態によれば、焼成後の工程において第一の炭化珪素含有ハニカム構造体を構成する材料に由来する再生原料を、出発原料の一部として配合することを含む第二の炭化珪素含有ハニカム構造体の製造方法が提供される。
【0016】
(1.再生原料)
再生原料は、焼成後の工程において第一の炭化珪素含有ハニカム構造体を構成する材料に由来する限り特に制約はないが、代表的には、炭化珪素を含有するハニカム成形体を焼成することで得られる炭化珪素含有ハニカム構造体の焼成物の不良品に由来する。この焼成物は、バージン原料のみを用いて焼成されたものでもよく、バージン原料及び再生原料の混合物を用いて焼成されたものでもよい。また、複数のハニカム構造セグメントを接合材で接合して一体化することで炭化珪素含有ハニカム構造体が製造される場合には、再生原料は、(1)ハニカム構造セグメントの不良品(焼成物)、(2)複数のハニカム構造セグメントが接合材を介して接合されてできたセグメント接合体の不良品(焼成物であるハニカム構造セグメント以外に、非焼成物である接合材が含まれる。)、(3)セグメント接合体の外周部を所望の形状(例えば円柱状)を得るために研削加工する際に発生する研削粉(焼成物であるハニカム構造セグメント以外に、非焼成物である接合材が含まれる。)、(4)セグメント接合体の外周側面にコート材を塗工した後、乾燥及び熱処理して外周壁を形成する工程を経て得られた完成体の不良品(焼成物であるハニカム構造セグメント以外に、非焼成物である接合材及びコート材が含まれる。)などに由来することが可能である。
【0017】
従って、再生原料は、炭化珪素含有ハニカム構造体の本体を構成する焼成物のみならず、接合材及び外周用のコート材のような未焼成の材料も含有し得る。再生原料のうち、不純物の観点からは、80質量%以上が当該焼成物であることが好ましく、90質量%以上が当該焼成物であることがより好ましい。とりわけ、再生原料のうち、焼成物である炭化珪素-珪素複合材が70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。
【0018】
再生原料は、焼成後の工程において第一の炭化珪素含有ハニカム構造体を構成する材料から回収され、回収後に、レーザー回折・散乱法を用いて体積基準の累積粒度分布を測定したときの10%径(D10)が10μm以上、かつ50%径(D50)が35μm以下となるように粒度調整された粉末であることが望ましい。D10及びD50を当該範囲に調整することで、再生原料を利用したときに、熱伝導率の低下が抑制された第二の炭化珪素含有ハニカム構造体を安定して製造することが可能になる。また、第二の炭化珪素含有ハニカム構造体を排ガスフィルタとして使用する場合に、捕集効率の低下を抑制することができる。粒度調整は、例えば、焼成後の工程において第一の炭化珪素含有ハニカム構造体を構成する材料を回収した後、粉砕及び篩別といった公知の手段を行うことで可能である。
【0019】
再生原料のD10の下限は、第二の炭化珪素含有ハニカム構造体の熱伝導率を高めるという観点から、10μm以上であることが好ましく、15μm以上であることがより好ましく、20μm以上であることが更により好ましい。再生原料のD10の上限は特に制限はなく、D50の上限が35μmであることによって自ずと35μm以下になる。再生原料のD10の上限は、典型的には30μm以下であり、より典型的には25μm以下である。
【0020】
再生原料のD50は「≧40μm細孔容積率」に相関があり、D50が小さいほうが「≧40μm細孔容積率」も小さくなる傾向にある。「≧40μm細孔容積率」とは、隔壁中の全細孔容積における40μm以上の気孔の容積割合を意味する。そして、「≧40μm細孔容積率」はフィルタによる煤などの粒状物質(PM)の捕集効率に相関があり、「≧40μm細孔容積率」が小さい方がPMの捕集効率が向上する。従って、再生原料のD50は、捕集効率を向上するという観点から、35μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましく、25μm以下であることが更により好ましい。再生原料のD50の下限は特に制限はないが、D10の下限が10μmであることによって自ずと10μm以上になる。D10の下限は、典型的には15μm以上であり、より典型的には20μm以上である。
【0021】
従って、再生原料は、好ましい一実施形態において、D10が15μm以上、かつD50が30μm以下となるように粒度調整された粉末である。再生原料は、別の好ましい一実施形態において、D10が20μm以上、かつD50が30μm以下となるように粒度調整された粉末である。再生原料は、更に別の好ましい一実施形態において、D10が15μm以上、かつD50が25μm以下となるように粒度調整された粉末である。
【0022】
また、再生原料は、レーザー回折・散乱法を用いて体積基準の累積粒度分布を測定したときの90%径(D90)が60μm以下となるように粒度調整した粉末であることが望ましい。再生原料のD90が60μm以下、好ましくは50μm以下であることにより、良好な成形性を確保することができ、良好な生産性が得られる。再生原料のD90には特に下限は設定されないが、典型的には35μm以上であり、より典型的には40μm以上である。
【0023】
(2.出発原料)
再生原料は、第二の炭化珪素含有ハニカム構造体を製造するための出発原料の一部として配合することができる。一実施形態において、第二の炭化珪素含有ハニカム構造体の出発原料は、炭化珪素及び金属珪素を含み、更に再生原料を含む。炭化珪素、金属珪素、及び再生原料の合計質量に占める再生原料の割合は20~80質量%とすることが好ましい。炭化珪素含有ハニカム構造体の工業的な製造ラインにおける廃材の一般的な発生量を考えると、再生原料の当該割合が20質量%以上、好ましくは30質量%以上であれば、炭化珪素含有ハニカム構造体の製造過程で生じる廃材を概ね使い切ることが可能である。また、再生原料の当該割合が80質量%以下であれば、良好な成形性を確保することができ、良好な生産性が得られる。第二の炭化珪素含有ハニカム構造体への特性悪化を防止することもできる。第二の炭化珪素含有ハニカム構造体の良好な特性及び成形性を確保するという観点からは、再生原料の当該割合は好ましくは70質量%以下であり、より好ましくは60質量%以下であり、更により好ましくは50質量%以下である。
【0024】
一実施形態において、第二の炭化珪素含有ハニカム構造体を製造するための出発原料に配合する炭化珪素は粉末状である。この場合、炭化珪素粉末を構成する炭化珪素粒子のD50は、圧力損失を低くするという観点から、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、15μm以上であることが更により好ましい。また、炭化珪素粉末を構成する炭化珪素粒子のD50は、フィルタとしての捕集性能を高めるという観点から、60μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましく、40μm以下であることが更により好ましい。本発明においては、炭化珪素粒子のD50は炭化珪素粉末についてレーザー回折・散乱法で体積基準の累積粒度分布を測定したときの50%径を指す。
【0025】
第二の炭化珪素含有ハニカム構造体を製造するための出発原料中に金属珪素を配合することで、焼成後には炭化珪素及び金属珪素の複合材を得ることができる。一実施形態において、出発原料に配合する金属珪素は粉末状である。この場合、金属珪素粉末を構成する金属珪素粒子のD50は、焼成体の強度を高めるという観点から、10μm以下であることが好ましく、8μm以下であることがより好ましく、6μm以下であることが更により好ましい。金属珪素粒子は細かいほど好ましいためD50の下限は特に制限はないが、入手容易性の観点から、金属珪素粒子のD50は3μm以上であることが通常である。本発明においては、金属珪素粒子のD50はレーザー回折・散乱法で金属珪素粉末について体積基準の累積粒度分布を測定したときの50%径を指す。
【0026】
上記出発原料のうち、炭化珪素及び金属珪素の合計質量(再生原料に含まれる炭化珪素及び金属珪素を除く。)を100質量部としたとき、金属珪素の濃度は、焼成体強度を高めるという理由により、14質量部以上であることが好ましく、16質量部以上であることがより好ましい。また、炭化珪素及び金属珪素の合計質量(再生原料に含まれる炭化珪素及び金属珪素を除く。)を100質量部としたとき、金属珪素の濃度は、焼成時の変形を抑えるという理由により、24質量部以下であることが好ましく、22質量部以下であることがより好ましい。
【0027】
第二の炭化珪素含有ハニカム構造体の出発原料は更に、有機バインダーを含有することができる。有機バインダーとしては、限定的ではないが、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等を挙げることができる。有機バインダーは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0028】
上記出発原料中の有機バインダーの濃度は、成形体の形状保持能を高めるという理由により、炭化珪素、金属珪素及び再生原料の合計100質量部に対して、3質量部以上であることが好ましく、4質量部以上であることがより好ましく、5質量部以上であることが更により好ましい。また、上記出発原料中のバインダーの濃度は、乾燥収縮を小さくする観点から、炭化珪素、金属珪素及び再生原料の合計100質量部に対して、10質量部以下であることが好ましく、9質量部以下であることがより好ましく、8質量部以下であることが更により好ましい。
【0029】
第二の炭化珪素含有ハニカム構造体の出発原料は更に、造孔材を含有することができる。例えば、炭化珪素含有ハニカム構造体を排ガスフィルタとして使用する場合には、気孔率を高める目的で、出発原料中に造孔材を配合することができる。造孔材の配合量は、例えば、炭化珪素、金属珪素及び再生原料の合計100質量部に対して40質量部以下とすることができ、典型的には1~25質量部とすることができる。
【0030】
使用する造孔材の種類は、特に限定されることはないが、グラファイト、発泡樹脂、発泡済みの発泡樹脂、小麦粉、澱粉、フェノール樹脂、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレン、ポリメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート等を挙げることができる。造孔材は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0031】
第二の炭化珪素含有ハニカム構造体の出発原料は更に、焼成時の金属珪素の濡れ性向上のため、アルカリ土類金属を含有してもよい。アルカリ土類金属の配合量は、例えば、炭化珪素、金属珪素及び再生原料の合計100質量部に対し、5質量部以下とすることができ、典型的には1~3質量部とすることができる。使用するアルカリ土類金属の種類は、特に限定されることはないが、具体的にはカルシウム、ストロンチウム等を挙げることができる。アルカリ土類金属は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0032】
(3.第二の炭化珪素含有ハニカム構造体の製造方法)
第二の炭化珪素含有ハニカム構造体は、例えば、上述した再生原料を含む出発原料を混合及び混練してできる坏土を押出成形して所定のハニカム構造を有するハニカム成形体を得る工程と、得られたハニカム成形体を仮焼して成形体中の有機バインダーを除去した後、焼成する工程を実施することにより製造可能である。以下、各工程について例示的に説明する。
【0033】
一実施形態において、坏土を押出成形することにより、外周側壁と、外周側壁の内周側に配設され、一方の底面から他方の底面まで流体の流路を形成する複数のセルを区画形成する隔壁とを有する柱状ハニカム構造部を備えたハニカム成形体を作製することが可能である。押出成形に際しては、所望の全体形状、セル形状、隔壁厚み、セル密度等を有する口金を用いることができる。
【0034】
次に、得られた未乾燥の成形体について、乾燥を行なって水分を除去する。乾燥は例えば120~160℃程度の熱風を成形体に当てることで実施することができる。乾燥の際には有機物が分解しないようにする点に留意することが望ましい。
【0035】
セルの流路方向に直交する断面におけるセルの形状に制限はないが、四角形、六角形、八角形、又はこれらの組み合わせであることが好ましい。これらのなかでも、正方形及び六角形が好ましい。セル形状をこのようにすることにより、焼成後のハニカム成形体にガスを流したときの圧力損失を小さくすることができる。
【0036】
ハニカム成形体の形状は、例えば、底面が円形の柱状(円柱形状)、底面がオーバル形状の柱状、底面が多角形(四角形、五角形、六角形、七角形、八角形等)の柱状等の形状とすることができる。
【0037】
乾燥後のハニカム成形体に対しては、必要に応じて両底面に目封止部を形成した後、バインダー等の有機物を加熱除去して脱脂体を得る工程(脱脂工程)を実施することができる。両底面に目封止部を形成する方法は、特に限定されるものではなく、所定のマスクを貼った底面のセル開口部に、目封止スラリーを充填するといった周知の手法を採用することができる。脱脂工程における成形体の加熱温度は、例えば400~500℃とすることができ、当該加熱温度における加熱時間は、例えば1~3時間とすることができる。
【0038】
脱脂工程を実施する際の雰囲気としては、例えば大気雰囲気、不活性雰囲気、減圧雰囲気とすることができる。これらの中でも、不活性雰囲気及び減圧雰囲気は、炭化珪素の酸化による炭化珪素と金属珪素の結合不足を防ぎ、また原料内に含まれる酸化物を還元し易いという観点で好ましい。しかしながら、不活性雰囲気及び減圧雰囲気で脱脂工程を実施すると、非常に長時間を要する。また、脱脂温度はそれほど高くはないため、大気雰囲気で行っても成形体は酸化しにくい。そこで、生産効率と品質のバランスを考慮すると、大気雰囲気で脱脂工程を実施することが好ましい。
【0039】
乾燥後の成形体又は脱脂後の成形体を、不活性雰囲気下で焼成することで、炭化珪素含有ハニカム構造体が製造される。脱脂工程と焼成工程を、連続炉を用いて合わせて実施することも可能である。焼成温度は、例えば1400~1500℃とすることができ、当該焼成温度における加熱時間は、例えば0.1~3時間とすることができる。
【0040】
焼成工程を実施することにより得られた第二の炭化珪素含有ハニカム構造体の隔壁の気孔率は、特に制限はないが、圧力損失を低くする観点から35%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましい。但し、耐久性の観点からは、当該気孔率は70%以下が好ましく、65%以下がより好ましい。本明細書において、気孔率は水銀圧入法の方法により測定された値を指す。
【0041】
焼成工程を実施することにより得られた第二の炭化珪素含有ハニカム構造体の隔壁の熱伝導率は、耐久性を確保するという観点から、15W/(m・K)以上であることが好ましく、17W/(m・K)以上であることがより好ましく、19W/(m・K)以上であることが更により好ましく、例えば、15~23W/(m・K)とすることができる。本明細書において、第二の炭化珪素含有ハニカム構造体の隔壁の熱伝導率は、定常法により測定された50℃における値を指す。
【0042】
焼成工程を実施することにより得られた第二の炭化珪素含有ハニカム構造体の隔壁の「≧40μm細孔容積率」は、当該ハニカム構造体をフィルタとして用いたときの粒状物質に対する捕集効率を高めるという観点から、7%以下であることが好ましく、6%以下であることがより好ましい。第二の炭化珪素含有ハニカム構造体の隔壁の「≧40μm細孔容積率」は、JIS R1655:2003に規定する水銀圧入法により求めた累積気孔径分布曲線から測定された値を指す。
【0043】
焼成工程を実施することにより得られた第二の炭化珪素含有ハニカム構造体は、それ自体を完成品として使用してもよい。別の実施形態においては、複数の第二の炭化珪素含有ハニカム構造体をそれぞれハニカム構造セグメントとして用いて、これらのセグメントの側面同士を接合材を介して接合し、加熱乾燥することによって得られたセグメント接合体を第二の炭化珪素含有ハニカム構造体の完成品としてもよい。更に別の実施形態においては、セグメント接合体の外周部を研削加工して所望の形状(例えば円柱状)とし、外周側面にコート材を塗工した後、乾燥及び熱処理して外周壁を形成することで、完成品としてもよい。熱処理の温度は例えば400~700℃とすることができる。
【0044】
接合材は、公知の接合材を用いることができる。接合材としては、例えば、セラミックス粉末、分散媒(例えば、水等)、及び必要に応じて、バインダー、解膠剤、発泡樹脂等の添加剤を混合することによって調製したものを用いることができる。セラミックスとしては、コージェライト、ムライト、リン酸ジルコニウム、チタン酸アルミニウム、炭化珪素、珪素-炭化珪素複合材(例:Si結合SiC)、コージェライト-炭化珪素複合材、ジルコニア、スピネル、インディアライト、サフィリン、コランダム、チタニア、窒化珪素等が挙げられ、珪素-炭化珪素複合材であることがより好ましい。バインダーとしては、ポリビニルアルコールやメチルセルロースなどを挙げることができる。
【0045】
コート材は、公知の外周コート材を用いることができる。外周コート材としては、例えば、無機繊維、コロイダルシリカ、粘土、セラミックス粒子等の無機原料に、有機バインダー、発泡樹脂、分散剤等の添加剤と水とを加えて混練し、スラリー状としたものを挙げることができる。また、外周コート材の塗工方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0046】
第二の炭化珪素含有ハニカム構造体を排ガスフィルタとして使用する場合、用途に応じて適切な触媒を担持してもよい。フィルタに触媒を担持させる方法としては、例示的には、触媒スラリーを、従来公知の吸引法等によりセル内に導入し、隔壁の表面や細孔に付着させた後、高温処理を施して、触媒スラリーに含まれる触媒を隔壁に焼き付ける方法が挙げられる。
【0047】
触媒としては、限定的ではないが、炭化水素(HC)及び一酸化炭素(CO)を酸化燃焼させて排ガス温度を高めるための酸化触媒(DOC)、スス等のPMの燃焼を補助するPM燃焼触媒、窒素酸化物(NOx)を除去するためのSCR触媒及びNSR触媒、並びに、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)及び窒素酸化物(NOx)を同時に除去可能な三元触媒が挙げられる。触媒は、例えば、貴金属(Pt、Pd、Rh等)、アルカリ金属(Li、Na、K、Cs等)、アルカリ土類金属(Ca、Ba、Sr等)、希土類(Ce、Sm、Gd、Nd、Y、Zr、Ca、La、Pr等)、遷移金属(Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Sc、Ti、V、Cr等)等を適宜含有することができる。
【実施例
【0048】
(1.第一の炭化珪素含有ハニカム構造体の製造)
D50が30μmの炭化珪素粉末を80質量部、D50が5μmの金属珪素粉末を20質量部、澱粉(造孔材)を2質量部、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(有機バインダー)を5質量部、炭酸ストロンチウムを2質量部用意してこれらを粉体混合し、水を加えてニーダーを用いて混錬した。得られた混錬土を押出成形機で所定の口金から押出成形することにより、直方体状のハニカム成形体を成形した。ハニカム成形体は、外周側壁と、外周側壁の内周側に配設され、一方の底面から他方の底面まで流体の流路を形成する複数のセルを区画形成する隔壁とを有する柱状ハニカム構造部を有していた。
【0049】
ハニカム成形体をマイクロ波乾燥した後、熱風乾燥機を用いて120℃で2時間乾燥し、両底面を所定量切断する等の必要に応じた加工を実施し、縦35mm×横35mm×高さ(セルの延びる方向)160mm、隔壁厚さ300μm、セル密度47個/cm2の直方体状ハニカム乾燥体を作製した。次に、ハニカム乾燥体の両底面におけるセル端部に市松模様状に交互に目封止部を形成後、ハニカム乾燥体を連続式の電気炉に入れ、大気雰囲気下、450℃以下で2時間加熱することにより脱脂(バインダー除去)して、ハニカム脱脂体を得た。次に、ハニカム脱脂体をAr雰囲気下で1450℃で2時間焼成し、炭化珪素含有ハニカム構造体(ハニカムセグメント)を得た。
【0050】
次いで、上記の製造方法により得られたハニカムセグメントを16個用意して、これらの側面同士を、炭化珪素及びセラミックスファイバーを含有する接合材を介して縦4個×横4個の配列で接合し、140℃で加熱乾燥することによりセグメント接合体を作製した。セグメント接合体に対して、外周部を研削加工して円柱状とし、外周側面全体に炭化珪素を含有するコート材を塗工した後、600℃で加熱乾燥して厚み0.2mmの外周コート層を形成することで、第一の炭化珪素含有ハニカム構造体を作製した。
【0051】
(2.第二の炭化珪素含有ハニカム構造体の製造)
上記の第一の炭化珪素含有ハニカム構造体を工業的に製造する過程において発生した、焼成後のハニカムセグメント不良品、セグメント接合体不良品、外周研削粉、及び完成体不良品を回収した後、ローラーミルによって粉砕し、篩別することにより、表1に記載の試験番号に応じた各種の粒度分布(D10、D50、D90)をもつ再生原料を得た。再生原料における炭化珪素-珪素の複合材(焼成物)の含有量は90質量%であった。
【0052】
D50が30μmの炭化珪素粉末と、D50が5μmの金属珪素粉末を、炭化珪素粉末:金属珪素粉末=4:1の質量比で用意し、更に、炭化珪素粉末、金属珪素粉末、及び再生原料の合計質量に占める再生原料の割合が表1に記載の各値となるように、再生原料を用意した。再生原料の割合は各試験番号において0質量%から90質量%まで変化させた。次いで、炭化珪素、金属珪素及び再生原料の合計100質量部に対して、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(有機バインダー)を5質量部、澱粉(造孔材)を2質量部、炭酸ストロンチウムを2質量部用意した。これらを炭化珪素粉末、金属珪素粉末、及び再生原料と共に乾式混合して、水を添加しニーダーで混錬した。得られた混錬土を押出成形機で所定の口金から押出成形することにより、直方体状のハニカム成形体を成形した。ハニカム成形体は、外周側壁と、外周側壁の内周側に配設され、一方の底面から他方の底面まで流体の流路を形成する複数のセルを区画形成する隔壁とを有する柱状ハニカム構造部を有していた。
【0053】
ハニカム成形体をマイクロ波乾燥した後、熱風乾燥機を用いて120℃で2時間乾燥し、両底面を所定量切断する等の必要に応じた加工を実施し、縦35mm×横35mm×高さ(セルの延びる方向)160mm、隔壁厚さ300μm、セル密度47個/cm2の直方体状ハニカム乾燥体を作製した。次に、ハニカム乾燥体の両底面におけるセル端部に市松模様状に交互に目封止部を形成後、ハニカム乾燥体を連続式の電気炉に入れ、大気雰囲気下、450℃以下で2時間加熱することにより脱脂(バインダー除去)して、ハニカム脱脂体を得た。次に、ハニカム脱脂体をAr雰囲気下で1450℃で2時間焼成し、第二の炭化珪素含有ハニカム構造体(ハニカムセグメント)を得た。
【0054】
(3.気孔率)
上記で得られた第二の炭化珪素含有ハニカム構造体から、約1cm角のサンプルを切り出し、その気孔率(%)をJIS R1655:2003に規定する水銀圧入法(島津製作所社製、型式AUTOPORE)により水銀注入圧力0.6~10000psiaの条件で測定した。結果を表1に示す。当該測定は複数の第二の炭化珪素含有ハニカム構造体に対して行ったが、同じ条件で製造した第二の炭化珪素含有ハニカム構造体は、概ね同様の測定結果が安定して得られた。
【0055】
(4.熱伝導率)
上記で得られた第二の炭化珪素含有ハニカム構造体から、サンプルを流路と垂直に厚み約20mmに輪切りして採取し、その50℃における熱伝導率(W/(m・K))を定常法(ULVAC-RIKO社製、型式GH-1S)により測定した。結果を表1に示す。当該測定は複数の第二の炭化珪素含有ハニカム構造体に対して行ったが、同じ条件で製造した第二の炭化珪素含有ハニカム構造体は、概ね同様の測定結果が安定して得られた。
【0056】
(5.≧40μm細孔容積率)
上記気孔率の測定によって得られた累積気孔径分布曲線から、40μm以上の細孔の容積を求め、全細孔容積における割合を算出した。結果を表1に示す。当該測定は複数の第二の炭化珪素含有ハニカム構造体に対して行ったが、同じ条件で製造した第二の炭化珪素含有ハニカム構造体は、概ね同様の測定結果が安定して得られた。
【0057】
(6.成形ピッチ)
第二の炭化珪素含有ハニカム構造体を製造する過程において、上述した坏土を押出成形する際の成形ピッチ(秒/個)を、成形速度をレーザー速度計により測定し、1個当たりのハニカム成形体長さを成形速度で除することにより求めた。結果を表1に示す。
【0058】
【表1-1】
【0059】
【表1-2】
【0060】
.考察)
表1から分かるように、何れの試験例についても、再生原料割合を増やしていくにつれて、熱伝導率は低下する傾向が見られた。しかしながら、実施例1~実施例9は、比較例1及び2に対して再生原料のD10及びD50が適切に調整されていたことから、熱伝導率の低下が抑制され、更に、捕集効率に関係する≧40μm細孔容積率の上昇も抑制された。また、実施例7~9の比較により、再生原料のD90が適切に調整されることで、成形ピッチの上昇も抑制されることが分かる。
【0061】
.≧40μm細孔容積率とフィルタ捕集効率の関係)
第一の炭化珪素含有ハニカム構造体の製造過程において、造孔材の平均粒子径を変化させることにより、6%~9%の範囲の種々の「≧40μm細孔容積率」を有する炭化珪素含有ハニカム構造体を得た。各炭化珪素含有ハニカム構造体をDPFとして用いて、欧州規制運転モード(NEDC)にて運転した際における排ガス中の粒状物質の排出個数(PN)を、PMP(欧州規制のパティキュレート計測プロトコル)に沿った計測方法で計測した。その結果、「≧40μm細孔容積率」とPNの間には、決定係数(R2)=0.9551の高い相関があることが分かった。つまり、≧40μm細孔容積率とフィルタ捕集効率には高い相関があることが分かった。