(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-05
(45)【発行日】2022-10-14
(54)【発明の名称】固体ナノ複合電解質材料
(51)【国際特許分類】
H01B 1/06 20060101AFI20221006BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20221006BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20221006BHJP
H01M 10/056 20100101ALI20221006BHJP
H01M 10/0568 20100101ALN20221006BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01M10/052
H01B13/00 Z
H01M10/056
H01M10/0568
(21)【出願番号】P 2020507739
(86)(22)【出願日】2018-02-20
(86)【国際出願番号】 EP2018054054
(87)【国際公開番号】W WO2018197073
(87)【国際公開日】2018-11-01
【審査請求日】2020-11-27
(32)【優先日】2017-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】514156563
【氏名又は名称】アイメック・ヴェーゼットウェー
【氏名又は名称原語表記】IMEC VZW
(73)【特許権者】
【識別番号】599098493
【氏名又は名称】カトリーケ・ユニフェルシテイト・ルーヴァン
【氏名又は名称原語表記】Katholieke Universiteit Leuven
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100100479
【氏名又は名称】竹内 三喜夫
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ・フェレーケン
(72)【発明者】
【氏名】チェン・シュービン
(72)【発明者】
【氏名】マールテン・メース
【審査官】石井 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-074351(JP,A)
【文献】特表2016-508279(JP,A)
【文献】特開2012-243743(JP,A)
【文献】特開2009-076402(JP,A)
【文献】特表2011-529248(JP,A)
【文献】米国特許第08119273(US,B1)
【文献】特開2008-004533(JP,A)
【文献】特開2014-241275(JP,A)
【文献】特開2011-134459(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-4/62
H01M10/05-10/0587
H01B1/06
H01B13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体ナノ複合電解質材料を含む固体ナノ複合電解質層であって、
該固体ナノ複合電解質材料は、複数の相互接続された細孔を含むメソポーラス誘電体
材料であって、複数の相互接続された細孔は、メソポーラス誘電体
材料の内表面を画定する、メソポーラス誘電体
材料と、
内表面を覆う電解質層とを備え、
電解質層は、第1層と、第2層とを備え、
第1層は、第1双極子化合物または第1イオン化合物を含み、
第1双極子化合物または第1イオン化合物は、第1極性の第1極と、第1極性とは反対の第2極性の第2極とを含み、
第1層は、第1極が内表面に面するように内表面に吸着され、これにより第1双極子化合物または第1イオン化合物に電荷非局在化(delocalization)を導入または修正し、第1双極子化合物または第1イオン化合物において分子双極子モーメントを導入または修正するものであり
、
第2層は、第1層を覆い、第2層は、第1極性の第1イオンおよび第2極性の第2イオンを含む第2イオン化合物または塩を含み、
第2イオン化合物または塩の第1イオンは、第1層に結合しており、これにより第1イオンと第2イオンとの間の結合を弱めて、第2イオンの移動度を増強しており、
電解質層は、固体ナノ複合電解質材料のメソポーラス誘電体
材料の全体に渡って
連続した途切れない層であり、該メソポーラス誘電体
材料と該電解質層との間の界面が
、メソポーラス誘電体材料の全体に渡って連続した途切れない領域であり、
固体ナノ複合電解質材料は、予め定めた閾値より高い、誘電体材料に対する、第1イオン化合物または第1双極子化合物および第2イオン化合物または塩の量を有する組成を有し、
閾値は、固体ナノ複合電解質材料のイオン伝導率が、複数の相互接続された細孔の内表面を覆う電解質層の材料のみからなるバルク電解質層のイオン伝導率よりも高い組成の選択に基づいて予め決定される、
固体ナノ複合電解質層。
【請求項2】
電解質層はさらに、第2層を覆う少なくとも1つの追加層を含み、
該少なくとも1つの追加層は、第2層の第2イオン化合物または塩の第2イオンのための溶媒および伝導体である、請求項1に記載の固体ナノ複合電解質
層。
【請求項3】
電解質層はさらに、第2層を覆う少なくとも1つの追加層を含み、
該少なくとも1つの追加層は、第2層と同じ第2イオン化合物または塩を含む、請求項1または2に記載の固体ナノ複合電解質
層。
【請求項4】
第1双極子化合物または第1イオン化合物は、有機塩、有機錯体、共晶塩または金属塩である、請求項1~3のいずれかに記載の固体ナノ複合電解質
層。
【請求項5】
第1双極子化合物または第1イオン化合物は、イオン液体である、請求項1~4のいずれかに記載の固体ナノ複合電解質
層。
【請求項6】
第1極性は負極性であり、第2極性は正極性である、請求項1~5のいずれかに記載の固体ナノ複合電解質
層。
【請求項7】
第2層の第2極性の第2イオンは、Li
+、Na
+、K
+、Ca
2+、Mg
2+、Cu
2+、Al
3+、Co
2+およびNi
2+から選択される金属カチオンである、請求項1~6のいずれかに記載の固体ナノ複合電解質
層。
【請求項8】
第2層の第1極性の第1イオン(321)は、ClO
4
-、BF
4
-、PF
6
-、TFSI
-およびBETI
-から選択される大きな脱分極アニオンである、請求項1~7のいずれかに記載の固体ナノ複合電解質
層。
【請求項9】
第1極性は正極性であり、第2極性は負極性である、請求項1~5のいずれかに記載の固体ナノ複合電解質
層。
【請求項10】
メソポーラス誘電体材料は、酸化シリコン、酸化アルミニウムまたはこれらの混合物を含む、請求項1~9のいずれかに記載の固体ナノ複合電解質
層。
【請求項11】
メソポーラス誘電体材料は、25%~90%の範囲の間隙率を有する、請求項1~10のいずれかに記載の固体ナノ複合電解質
層。
【請求項12】
複数の相互接続された細孔は、2nm~50nmの範囲の直径を有する、請求項1~11のいずれかに記載の固体ナノ複合電解質
層。
【請求項13】
メソポーラス誘電体材料はさらに、2nmより小さい直径を有する複数のマイクロ細孔を含む、請求項1~12のいずれかに記載の固体ナノ複合電解質
層。
【請求項14】
前記電解質層は、1mS/cmよりも高いイオン伝導率を有する、請求項1~
13のいずれかに記載の固体ナノ複合電解質
層。
【請求項15】
複数の相互接続された細孔および該内表面を覆う電解質層は、固体ナノ複合電解質層の第1表面と固体ナノ複合電解質層の反対側の第2表面との間にイオン伝導のための連続経路を形成する、
請求項1~14のいずれかに記載の固体ナノ複合電解質層。
【請求項16】
活性電極材料および、請求項1~
14のいずれかに記載の固体ナノ複合電解質
層の混合物を含む複合イオン挿入電極。
【請求項17】
請求項
1~15のいずれかに記載の固体ナノ複合電解質層を含む固体バッテリセル。
【請求項18】
請求項
16に記載の複合イオン挿入電極を含む固体バッテリセル。
【請求項19】
請求項1~15のいずれかに記載の固体ナノ複合電解質
層を形成する方法であって、
誘電体材料前駆体と、
第1双極子化合物または第1イオン化合物と、第2イオン化合物または塩と、脱イオン水と、アルコールとを含む溶液を得るステップと、
溶液のゲル化を誘導することによって、溶液を固体材料に変換し、これによりゲルを形成し、その後、ゲルを乾燥させて固体ナノ複合電解質材料を形成するステップとを含む方法。
【請求項20】
一方では、溶液中の第1イオン化合物または第1双極子化合物および第2イオン化合物または塩のモル量の合計と、他方では、溶液中の誘電材料前駆体のモル量との間のモル比xが、予め定めた閾値x
thrを超えている、請求項
19に記載の方法。
【請求項21】
誘電材料前駆体は、シリカ前駆体またはアルミナ前駆体またはこれらの混合物であり、
第1双極子化合物または第1イオン化合物は、イオン液体であり、
第2イオン化合物または塩は、金属塩を含み、該金属塩は、
Li
+、Na
+、K
+、Ca
2+、Mg
2+、Cu
2+、Al
3+、Co
2+およびNi
2+から選択される金属カチオンを含み、そして、ClO
4
-、BF
4
-、PF
6
-、TFSI
-およびBETI
-から選択される大きな
アニオンを含む、請求項
19または20に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、固体ナノ複合電解質材料、固体ナノ複合電解質層、複合イオン挿入電極、固体イオン挿入バッテリセル、およびこうした固体ナノ複合電解質層及び/又は複合イオン挿入電極を含むバッテリに関する。
【0002】
本開示はさらに、固体ナノ複合電解質材料および層を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
バッテリセルは、正極またはカソードと、負極またはアノードと、これらの間にある電解質層とを含む。増加した安全性のため、そして増強されたエネルギー密度、パワー密度、および充電レートのための理由で固体電解質が好ましい。
【0004】
こうした固体電解質の主な要件は、高いイオン伝導率(例えば、1mS/cmより大きく、好ましくは10mS/cmより大きい)および良好な化学的および機械的安定性である。化学的安定性は、通常、電気化学ウインドウによって示され、これは、電解質の負電圧制限および正電圧制限を定義し、したがって、活性電極材料の化学的性質の選択を定義する。機械的安定性は、電極を物理的かつ電気的に充分に隔離されるように維持するための機械的サポートを伴う。
【0005】
イオン伝導率、そしてセル容量および充電レートは、ナノ構造電気絶縁材料、例えば、酸化物など、例えば、薄膜多孔質材料またはナノ粒子系の材料、およびイオン伝導体、例えば、塩(例えば、Li塩)などを含むナノ複合電解質を使用することによって増加でき、イオン伝導体は、ナノ構造材料の内表面に存在する。こうした構造では、原則として、増強されたイオン伝導率が、イオン伝導体と絶縁材料との間の界面で得られる。
【0006】
種々のタイプの固体(ナノ)複合電解質材料が、固体イオン挿入バッテリでの使用、例えば、シリカ/イオン液体(IL)固体複合電解質(SCE)などのための可能性のある候補として提案されている。こうした固体複合電解質は、良好なイオン伝導性(例えば、0.1mS/cmよりも大きい)および良好な電気化学ウインドウを潜在的に提供できる。しかしながら、実際には、こうした複合電解質材料のイオン伝導率は、対応するイオン液体電解質のバルク伝導率よりも常に低いことが観察された。
【0007】
シリカ/イオン液体固体複合電解質は、例えば、ゾルゲル法を用いて製造できる。こうしたゾルゲル法では、電解質前駆体溶液が、化学的ゲル化プロセスによってゲルに変換され、続いて、乾燥および硬化プロセスによって固体材料に変換される。ゾルゲル法を使用したシリカ/イオン液体固体複合電解質の形成では、典型的には、有機酸または有機酸と塩酸の組合せが、溶液中でのシリコン前駆体の加水分解および重縮合のための触媒として使用され、シリカを形成する。しかしながら、酸の存在のため、こうした溶液は、イオン挿入固体バッテリで使用されるいくつかの電極、例えば、リチウムイオンバッテリの場合、LiMn2O4またはLi4Ti5O12電極など、と化学的に不適合である。酸と電極材料との間の化学反応がバッテリの故障をもたらすであろう。
【0008】
よって、実際、改善されたイオン伝導率を有するナノ複合電解質材料、好ましくは固体ナノ複合電解質材料についてニーズがある。こうした改善された(固体)ナノ複合電解質材料の製造方法は、好ましくは、固体イオン挿入バッテリで典型的に使用される電極、例えば、リチウムイオンバッテリの場合、LiMn2O4またはLi4Ti5O12電極などと適合性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本開示の目的は、固体イオン挿入バッテリセルおよびバッテリへの組込みに適した、良好なイオン伝導率を有する固体ナノ複合電解質材料を提供することである。本開示の実施形態の利点は、対応する電解質材料、即ち、固体ナノ複合電解質材料の一部である電解質材料のバルクイオン伝導率より大きいイオン伝導率を有する固体ナノ複合電解質材料を提供することである。
【0010】
本開示の目的は、こうした固体ナノ複合電解質材料を含む固体ナノ複合層を提供することである。本開示の目的は、こうした固体ナノ複合電解質材料を含む複合電極を提供することである。本開示の目的は、こうした固体ナノ複合電解質材料を含むバッテリセルおよびバッテリを提供することである。
【0011】
本開示の目的は、固体イオン挿入バッテリセルおよびバッテリへの組込みに適した、良好なイオン伝導率を有する固体ナノ複合電解質材料を形成する方法を提供することである。この方法は、好ましくは、こうした固体イオン挿入バッテリセルおよびバッテリを形成するために使用される他の材料、例えば、電極を形成するために使用される材料と適合性がある。特に、本開示の目的は、良好なイオン伝導率を有する固体ナノ複合電解質材料を形成するための溶液方式の方法を提供することである。好ましくは、この方法は、こうた固体イオン挿入バッテリセルおよびバッテリを形成するために使用される他の材料と適合性がある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
これらおよび他の目的は、独立請求項で定義される開示によって少なくとも部分的に満足される。好ましい実施形態は、従属請求項に記載される。
【0013】
第1態様によれば、本開示は、固体ナノ複合電解質材料に関するものであり、固体ナノ複合電解質材料は、複数の相互接続された細孔(pore)を含むメソポーラス誘電体であって、複数の相互接続された細孔は、メソポーラス誘電体の内表面を画定する、メソポーラス誘電体と、
内表面を覆う電解質層とを備え、
電解質層は、第1層と、第2層とを備え、
第1層は、第1双極子化合物または第1イオン化合物を含み、
第1双極子化合物または第1イオン化合物は、第1極性の第1極と、第1極性とは反対の第2極性の第2極とを含み、
第1層は、第1極が内表面に面するように内表面に吸着され、これにより第1双極子またはイオン化合物に電荷非局在化(delocalization)を導入または修正し、第1双極子またはイオン化合物において分子双極子モーメントを導入または修正するものであり、
第2層は、第1層を覆い、第2層は、第1極性の第1イオンおよび第2極性の第2イオンを含む第2イオン化合物または塩を含み、
第2イオン化合物または塩の第1イオンは、第1層に結合しており、これにより第1イオンと第2イオンとの間の結合を弱めて、第2イオンの移動度を増強しており、
電解質層は、材料全体に渡って実質的に連続した途切れない層である。
【0014】
本開示の第1態様に係る実施形態において、第1双極子化合物または第1イオン化合物は、例えば、有機塩、有機錯体、共晶塩または金属塩でもよい。例えば、第1双極子化合物または第1イオン化合物は、イオン液体でもよい。それは、例えば、カチオン、例えば、1-ブチル-1-メチルピロリジニウム(BMP+)、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム(BMI+)、;1,2-ジメチル-3-プロピルイミダゾリウム(DMPI+);1,2-ジエチル-3,5-ジメチルイミダゾリウム(DEDMI+)、トリメチル-n-ヘキシルアンモニウム(TMHA+)、N-ブチル-N-メチルピロリジニウム(PYR+)、N-メチル-N-プロピルピペリジニウム(PIP+)またはN-エチル-N-メチルモルホリジニウム(PYR+)、及び/又は、アニオン、例えば、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(TFSI-)、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド(BETI-)または2,2,2-トリフルオロ-N-(トリフルオロメタンスルホニル)アセトアミド(TSAC-)を含んでもよい。
【0015】
本開示の第1態様に係る実施形態において、第1極性は負極性でもよく、第2極性は正極性でもよく、またはその逆も同様であり、第1極性は正極性でもよく、第2極性は負極性でもよい。
【0016】
本開示の第1態様に係る実施形態において、第1極性は負極性であり、第2極性は正極性であり、第2層の第2極性の第2イオンは、例えば、金属カチオン、例えば、Li+、Na+、K+、Ca2+、Mg2+、Cu2+、Al3+、Co2+およびNi2+から選択される金属カチオンでもよい。こうした実施形態において、第2層の第1極性の第1イオンは、例えば、大きな脱分極(depolarized)アニオン、例えば、ClO4
-、BF4
-、PF6
-、TFSI-およびBETI-から選択されるアニオンでもよい。
【0017】
本開示の第1態様に係る実施形態において、メソポーラス誘電体材料は、例えば、酸化シリコン、酸化アルミニウムまたはこれらの混合物を含むでもよい。実施形態において、メソポーラス誘電体材料は、例えば、25%~90%の範囲の間隙率(porosity)を有してもよい。複数の相互接続された細孔は、例えば、2nm~50nmの範囲の直径を有してもよい。メソポーラス誘電体材料はさらに、複数のマイクロ細孔を含んでもよく、マイクロ細孔は、例えば、2nmより小さい直径を有する。
【0018】
本開示の第1態様に係る固体ナノ複合電解質材料の実施形態の利点は、これらの材料は、内表面を覆う電解質材料のバルクイオン伝導率よりも高いイオン伝導率を有することがあることである。この増強されたイオン伝導率は、第1極性の第1極および反対の第2極性の第2極を有する第1化合物(第1双極子化合物または第1イオン化合物)を含む第1層の存在に関係しており、第1層は、第1極が内表面に面するように内表面に吸着され、これにより第1化合物において分子双極子モーメントを導入または修正する。内表面と第2層との間のこうした第1層の存在のために、第2層は、第1極性の第1イオンと第2極性の第2イオンとを含む第2化合物を含み、第1極性の第1イオンによって第1層に結合しており(即ち、第2層は、第1イオンによって第1層に実質的に固定される)、第2化合物の第2イオンは、第2化合物の第1イオンとあまり強く結合しなくなることがあり、そのためこれらの第2イオンはより自由に移動できるようになり、これらの第2イオンの増強されたイオン伝導率性をもたらす。従って、第1層は、第2層の一部である第2イオン化合物または塩の第2イオンのための「イオン伝導促進剤(promotor)」とみなすことができる。例えば、本開示の実施形態において、第1層(「イオン伝導促進剤」)は、イオン液体を含んでもよく、第2層は、塩、例えば、リチウム塩などを含んでもよい。この例では、誘電体材料の内表面とリチウム塩の間でのイオン液体(分子双極子モーメントを有する)の存在の効果は、リチウム塩のアニオンが、誘電体材料の内表面に吸着されたイオン液体層に固定されることである。これによりリチウム塩のLi+カチオンがリチウム塩のアニオンとあまり強く結合しなくなり、電解質材料を通るLi+カチオンのより容易でより自由な移動をもたらし、従って、材料のLi+イオン伝導率の増強をもたらす。上述したような第1層の存在はさらに、第2イオン、例えば、Li+イオンなどの転移率または輸率の増加をもたらすことがある。第2イオン(第2化合物、例えば、リチウム塩など塩の)の転移率または輸率は、これらの第2イオン(たとえば、Li+カチオン)、即ち、イオン伝導率を提供するイオンによって運ばれる電解質を通る全イオン電流の割合である。全電流の他の割合は、例えば、化合物、例えば、塩の第1イオンによって運ばれてもよい。
【0019】
本開示の第1態様に係る実施形態において、固体ナノ複合電解質材料は、好ましくは、予め定めた閾値より高い、誘電体材料に対する、第1イオン化合物または第1双極子化合物および第2イオン化合物または塩の量を有する組成を有し、閾値は、固体ナノ複合電解質材料のイオン伝導率が、複数の相互接続された細孔の内表面を覆う電解質層の材料のみからなるバルク電解質層のイオン伝導率よりも高い組成の選択に基づいて予め決定される。
【0020】
本開示の第1態様に係る固体ナノ複合電解質材料の実施形態の利点は、これらが、高いイオン伝導率、例えば、10mS/cmよりも高いイオン伝導率を有し得ることである。固体イオン挿入バッテリセルまたはバッテリ内で電解質層として使用する場合、イオン伝導率が高いほど、バッテリセルまたはバッテリの充電レートがより速くなるようになる。固体イオン挿入バッテリセルまたはバッテリの複合電極内で電解質層として使用する場合、イオン伝導率が高いほど、電極の厚さが増加し、バッテリセルまたはバッテリの増強された容量、増強されたエネルギー密度、および増強されたパワー密度をもたらす。
【0021】
本開示の第1態様の実施形態において、固体ナノ複合電解質材料の電解質層はさらに、第2層を覆う少なくとも1つの追加層を含んでもよく、少なくとも1つの追加層は、第2層の第2イオン化合物または塩の第2イオンのための溶媒および伝導体であり、このことは、この少なくとも1つの追加層が、第2層の第2イオンの移動を促進および増強する「溶媒」層として機能し、従って、複合電解質材料のイオン伝導率をさらに増強する点で有利である。実施形態において、少なくとも1つの追加層は、例えば、第2層と同じ第2イオン化合物または塩を含んでもよい。
【0022】
第2態様によれば、本開示は、本開示の第1態様の実施形態に係る固体ナノ複合電解質材料を含む固体ナノ複合電解質層に関する。
【0023】
本開示の第2態様に係る実施形態において、固体ナノ複合電解質層は、メソポーラス誘電材料の内表面を画定する複数の相互接続された細孔を含むメソポーラス誘電材料と、第1態様に係る内表面を覆う電解質層とを備える。複数の相互接続された細孔および電解質層は、好都合には、固体ナノ複合電解質層の第1表面と固体ナノ複合電解質層の反対側の第2表面との間にイオン伝導のための連続経路を形成できる。これは、第2態様の固体ナノ複合電解質層が固体イオン挿入バッテリセルまたはバッテリ内で電解質層として使用される場合、イオン伝導のための連続した途切れない経路がバッテリセルまたはバッテリの第1電極層と第2電極層の間、即ち、バッテリセルまたはバッテリの反対極性の電極間に形成できる点で有利である。これは、第2態様の固体ナノ複合電解質層が固体イオン挿入バッテリセルまたはバッテリの複合電極内で電解質層として使用される場合、イオン伝導のための連続した途切れない経路が複合電極全体に形成できる点で有利である。
【0024】
本開示の第2態様に係る実施形態において、固体ナノ複合電解質層は、例えば、複数の相互接続された細孔の内表面を覆う電解質層の材料のみからなるバルク電解質層のイオン伝導率よりも高いイオン伝導率を有してもよい。例えば、固体ナノ複合電解質層は、1mS/cmより高いイオン伝導率を有してもよい。これは、第2態様の固体ナノ複合電解質層が固体イオン挿入バッテリセルまたはバッテリ内で電解質層として使用される場合、イオン伝導率が高いほど、バッテリセルまたはバッテリの充電レートがより速くなるようになる点で有利である。これは、第2態様の固体ナノ複合電解質層が固体イオン挿入バッテリセルまたはバッテリの複合電極内で電解質層として使用される場合、イオン伝導率が高いほど、電極の厚さが増加し、バッテリセルまたはバッテリの増強された容量、増強されたエネルギー密度、および増強されたパワー密度をもたらす。
【0025】
本開示の第2態様に係る実施形態において、固体ナノ複合電解質層は、好ましくは、予め定めた閾値より高い、誘電体材料に対する、第1イオン化合物または第1双極子化合物および第2イオン化合物または塩の量を有する組成を有し、閾値は、固体ナノ複合電解質材料のイオン伝導率が、複数の相互接続された細孔の内表面を覆う電解質層の材料のみからなるバルク電解質層のイオン伝導率よりも高い組成の選択に基づいて予め決定される。
【0026】
第3態様によれば、本開示は、活性電極材料および、本開示の第1態様の実施形態に係る固体ナノ複合電解質材料の混合物を含む複合イオン挿入電極に関する。
【0027】
第3態様に係る複合イオン挿入電極の実施形態の利点は、それが増強されたイオン伝導率を有することができ、これにより電極の厚さを増加させ、こうした複合イオン挿入電極を含むバッテリセルまたはバッテリの増強された容量、増強されたエネルギー密度、および増強されたパワー密度をもたらす。
【0028】
第4態様によれば、本開示は、本開示の第2態様の実施形態に係る固体ナノ複合電解質層を含む固体バッテリセルに関する。本開示はさらに、第4態様に係る少なくとも1つの固体バッテリセルを含む固体バッテリを提供する。
【0029】
第4態様の実施形態に係る固体バッテリセルおよび固体バッテリの利点は、これらが増強された、例えば、高速充電レートを有し得ることである。
【0030】
第5態様によれば、本開示は、本開示の第3態様の実施形態に係る複合イオン挿入電極を含む固体バッテリセルに関する。本開示はさらに、第5態様に係る少なくとも1つの固体バッテリセルを含む固体バッテリを提供する。
【0031】
第5態様の実施形態に係る固体バッテリセルおよび固体バッテリの利点は、これらが増強された容量、増強されたエネルギー密度及び/又は増強されたパワー密度を有し得ることである。
【0032】
第6態様によれば、本開示は、本開示の第1態様の実施形態に係る固体ナノ複合電解質材料を形成する方法を提供し、固体ナノ複合電解質材料を形成する方法は、
誘電体材料前駆体と、第1双極子化合物または第1イオン化合物と、第2イオン化合物または塩と、脱イオン水と、アルコールとを含む溶液を得るステップと、
溶液のゲル化を誘導することによって、溶液を固体材料に変換し、これによりゲルを形成し、その後、ゲルを乾燥させて固体ナノ複合電解質材料を形成するステップとを含む。
【0033】
本開示の第6態様に係る実施形態において、誘電材料前駆体は、例えば、シリカ前駆体またはアルミナ前駆体またはこれらの混合物でもよく、第1双極子化合物または第1イオン化合物は、例えば、イオン液体でもよく、第2イオン化合物または塩は、例えば、金属塩を含んでもよく、金属塩は、金属カチオン、例えば、Li+、Na+、K+、Ca2+、Mg2+、Cu2+、Al3+、Co2+およびNi2+から選択される金属カチオンを含み、そして、大きな脱分極(depolarized)アニオン、例えば、ClO4
-、BF4
-、PF6
-、TFSI-およびBETI-から選択される大きな脱分極アニオンを含んでもよい。
【0034】
本開示の第6態様に係る実施形態において、イオン液体と、シリカ前駆体またはアルミナ前駆体またはこれらの混合物との間のモル比は、例えば、0.1~2の範囲でもよく、脱イオン水と、シリカ前駆体またはアルミナ前駆体またはこれらの混合物との間の体積比は、例えば、ほぼ1に等しくてもよく(例えば、0.9から1.1でもよい)、金属塩とイオン液体との間のモル比は、例えば、0.1~1の範囲でもよく、そして、イオン液体とアルコールとの間の重量比は、例えば、0.1~2の範囲でもよい。
【0035】
第6態様に係る固体ナノ複合電解質材料を形成する方法の実施形態の利点は、それが単一の製造プロセス、特に単一のゾルゲル製造プロセスからなり、メソポーラス誘電体材料およびその内表面を覆う電解質層の同時形成をもたらすことである。
【0036】
本開示の第6態様に係る固体ナノ複合電解質材料を形成する方法の実施形態の利点は、湿式前駆体を使用することである。第6態様の実施形態に従って形成される固体ナノ複合電解質材料を含む複合電極を製造する場合、湿式前駆体の使用により、活性電極材料を含む多孔質層の細孔内部への前駆体の容易な導入が可能になり、これらの細孔内部への導入後、湿式前駆体の硬化を行って、活性電極材料を含む多孔質層の細孔内に固体ナノ複合電解質材料を形成できる。これにより好都合には、ナノ複合電解質材料に埋め込まれた活性電極材料を含む組込み複合電極層が得られる。それにより好都合には、減少した間隙率および、活性電極材料と電解質材料との間の良好な全周接触を備えたコンパクトな電極構築 が得られる。こうした複合電極をバッテリセルまたはバッテリで使用する場合、これは、バッテリセルまたはバッテリの増強されたエネルギー密度および増強されたパワー密度をもたらすことができる。
【0037】
本開示の特定の好ましい態様は、添付の独立及び従属請求項に記載される。従属請求項からの特徴は、独立請求項の特徴および他の従属請求項の特徴と適切に組み合わせてもよく、単に請求項に明示的に記載されているだけではない。
【0038】
本開示の上記の及び他の特性、特徴及び利点は、例として本開示の原理を示す添付図面と併せて、下記詳細な説明から明らかになるであろう。この説明は、本開示の範囲を限定することなく、例のみのために与えられている。以下に引用した参照図は、添付図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】先行技術に係る粒子系複合電解質材料の構造を概略的に示す。
【
図2】本開示の第1態様の実施形態に係る複合電解質材料の構造の一例を概略的に示す。
【
図3】第1層および第2層のスタックを含む電解質層で覆われた誘電体層の概略図であり、カチオン性伝導体を備えた実施形態における電荷非局在化を示す。
【
図4】第1層および第2層のスタックを含む電解質層で覆われた誘電体層の概略図であり、アニオン性伝導体を備えた実施形態における電荷非局在化を示す。
【
図5】第1層および第2層のスタックを含む電解質層で覆われた誘電体層の概略図であり、カチオン性伝導体を備えた実施形態における電荷非局在化を示し、第2層の第2イオン化合物または塩と、第1層の第1双極子化合物または第1イオン化合物との間のモル比は、1:2である。
【
図6】第1層および第2層のスタックを含む電解質層で覆われたシリカ層表面の一例の概略図である。
【
図7】第1層、第2層、および追加層のスタックを含む電解質層で覆われたシリカ層表面の一例の概略図である。
【
図8】3つのタイプの材料、即ち、(a)ナノ粒子系の複合電解質、(b)メソポーラス・マイクロ粒子系の複合電解質、(c)本開示の実施形態によるメソポーラス誘電体材料を含むナノ複合電解質について、全体酸化物表面積当りのイオン液体電解質体積の関数として、種々の固体ナノ複合電解質材料について測定したときの正規化したイオン伝導率を示す。
【
図9】種々のイオン液体について、イオン液体電解質(Li塩およびイオン液体)と、ゾルゲル製造プロセスで使用される溶液中のシリカ前駆体との間のモル比xの関数として、本開示の実施形態に係る種々の固体ナノ複合電解質材料について測定したときの正規化したイオン伝導率を示す。
【
図10】Li塩が添加されたゾルゲル前駆体溶液中のイオン液体電解質とシリカの種々のモル比x(1[BMP
+][TFSI
-])当り0.34分子[Li
+][TFSI
-](黒塗り記号))について、そしてイオン液体溶液中の初期またはバルクリチウム塩(白丸)について、温度の関数として、ゾルゲルプロセスを用いて製造されたナノ複合電解質材料の測定したイオン伝導率値を示す。
【
図11】Li塩が添加されたゾルゲル前駆体溶液中のイオン液体電解質とシリカの種々のモル比x(1[BMI
+][TFSI
-])当り0.34分子[Li
+][TFSI
-](黒塗り記号))について、そして、イオン液体溶液中の初期またはバルクリチウム塩(白丸)について、温度の関数として、ゾルゲルプロセスを用いて製造されたナノ複合電解質材料の測定したイオン伝導率値を示す。
【0040】
異なる図において、同じ参照符号は、同じ又は類似の要素を参照する。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本開示は、特定の実施形態に関して特定の図面を参照して説明されるが、本開示は、それらによって限定されず、請求項によってのみ限定される。記載した図面は、概略的に過ぎず、非限定的である。図面において、要素のいくつかのサイズは、説明目的のために誇張されたり、縮尺通りに描かれていないことがある。寸法および相対寸法は、本開示の実際の実施化に対応していない。
【0042】
明細書及び請求項の第1、第2、第3などの用語は、同様の要素を区別するために用いられ、必ずしも時間的、空間的、ランキングまたは他の方法で順序を記述するために用いていない。そのように用いられる用語は、適切な状況下で交換可能であり、本明細書で記載された本開示の実施形態は、本明細書で記載され図示されたものとは他の順序で動作可能であると理解すべきである。
【0043】
請求項で用いられる「備える、含む」(comprising)という用語は、その後に列挙される手段に制限されるように解釈されるべきでなく、他の要素またはステップを排除しないことに留意すべきである。したがって、言及した特徴、整数、ステップまたは構成要素の存在を特定するように解釈すべきであり、1つ以上の特徴、整数、ステップまたは構成要素、またはそれらのグループの存在または追加を排除しない。こうして表現「装置は、手段AとBを備える」の範囲は、構成要素AとBのみからなる装置と限定されるべきでない。本開示に関して、装置の唯一の関連した構成要素がAとBであることを意味する。
【0044】
本明細書を通じて「一実施形態」または「実施形態」との参照は、実施形態に関連して記載された特定の特徴、構造または特性が本開示の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。こうして本明細書を通じて様々な場所での「一実施形態において」または「実施形態において」の語句の出現は、必ずしも同じ実施形態を全て参照してないが、参照することもある。さらに特定の特徴、構造または特性は、1つ以上の実施形態において、本開示から当業者にとって明白であるように、任意の適切な方法で組み合わせてもよい。
【0045】
同様に、本開示の例示的な実施形態の記載において、本開示の様々な特徴は、1以上の様々な本発明の態様の開示の合理化及び理解の助けのために、1つの実施形態、図または説明に時にはグループ化されることは理解すべきである。しかしながら、本開示のこの方法は、権利請求した開示は、各請求項に明白に記載されるものより多くの特徴を要求するという意図を反映するように解釈すべきでない。むしろ、下記請求項が反映するように、発明の態様は、単一の前述の開示された実施形態の全ての特徴より少ない点にある。したがって、詳細な説明に続く請求項は、本開示の分離した実施形態として、この詳細な説明の中にここで明確に組み込まれ、各請求項は、本開示の別個の実施形態として独立している。
【0046】
さらに、本明細書で記載された幾つかの実施形態が、他の実施形態に含まれるいくつかを含み、他の特徴を含まないが、異なる実施形態の特徴の組合せは、当業者によって理解されるように、本開示の範囲内であり、異なる実施形態を形成することを意味する。例えば、下記請求項において、権利請求される実施形態の何れも任意の組合せで使用できる。
【0047】
本明細書で提供される説明において、多数の特定の詳細が記載されている。しかしながら、本開示の実施形態は、これらの特定の詳細なしで実施できることが理解される。他の例では、周知の方法、構造及び技術は、この説明の理解を曖昧にしないために、詳細に示していない。
【0048】
下記用語は、本開示の理解を助けるためだけに提供される。
【0049】
本開示の文脈において、バッテリセルは、間に電解質層を備えた2つの電極層を含む構造であり、即ち、第1電極層/電解質層/第2電極層のスタックを含む構造である。バッテリが、単一のバッテリセルを備えてもよく、あるいは、複数の、例えば、少なくとも2つのバッテリセルを備えてもよい。バッテリが、直列または並列に接続された2つ以上のバッテリセル、または直列および並列に接続されたバッテリセルの組合せを備えてもよい。
【0050】
本開示の文脈において、イオン挿入バッテリセルが、バッテリセルの作動中にカチオンまたはアニオンを受容または放出できる電極を含むバッテリセルである。イオン挿入バッテリセルが、1つのカチオンエレメントだけ、複数のカチオンエレメント、アニオンだけ、またはアニオンエレメントとカチオンエレメントの混合物の挿入/抽出に依存できる。イオン挿入バッテリセルがさらに、使用される個々のイオンのイオン伝導を可能にし、使用する電極材料に関して(電気)化学的に安定である電解質を含む。
【0051】
再充電可能バッテリセルにおいて、電極の各々は、放電(即ち、バッテリ動作)中に第1極性と、充電中に反対の第2極性とを有する。技術的に言うと、負極は、放電中にアノードであり、充電中にカソードである。逆も同様に、正極は、放電中にカソードであり、バッテリを充電する場合はアノードである。本開示の文脈において、放電の用語(即ち、バッテリ動作)が使用される。ここではさらに、陽極で負電極を意味し、陰極で正電極を意味する。本開示を通じて、「アノード材料」と称する場合、それは負電極材料を意味し、「カソード材料」と称する場合、それは正電極材料を意味する。
【0052】
本開示の文脈において、複合電解質材料が、電気絶縁材料に複数の内表面を作成または画定する複数の細孔を有する電気絶縁材料と、内表面を覆う層または層スタックとを含む材料であり、層または層スタックは、電解質材料を含む。
【0053】
本開示の文脈において、活性電極材料は、バッテリ電極層のコンポーネントである材料である。活性電極材料において、実際の電気化学的変換(原子の原子価または酸化状態の変化)が生じて、電極に化学エネルギーの蓄積を引き起こす。電極層が、典型的には、活性電極材料および支持材料で構成される。
【0054】
本開示の文脈において、複合電極が、活性電極材料および電解質材料の混合物を含み、必要に応じて、支持材料、例えば、バインダまたは非活性炭素などを含む電極である。固体複合電極が、活性電極材料および固体電解質材料の混合物を含み、必要に応じて、支持材料、例えば、バインダまたは非活性炭素などを含む電極である。こうした複合電極は、薄膜複合電極層でもよく、あるいは粒子系の複合電極層、例えば、ブレードコーティング層またはプレスペレット層でもよい。
【0055】
本開示の文脈において、ナノ多孔性材料が、100nmより小さい孔サイズ(例えば、孔直径)を備えた細孔(pore)を有する材料である。こうしたナノ多孔性材料は、これらの孔サイズに基づいて種々のカテゴリにさらに分類できる。本開示の文脈において、下記用語は、種々のナノ多孔性材料のカテゴリを説明するために使用され、即ち、50nm~100nmの孔サイズを有する材料では「マクロポーラス(macroporous)」、2nm~50nmの孔サイズを有する材料では「メソポーラス(mesoporous)」、2nm未満の孔サイズを有する材料では「マイクロポーラス(microporous)」である。
【0056】
本開示の文脈において、材料の間隙率は、材料のボイド率(「空」空間の割合)である。それは、全材料体積に対するボイドまたは「空」空間の体積の割合である。ナノ多孔性材料の間隙率は、例えば、ガス吸着/脱着法によって決定してもよい。
【0057】
本開示の文脈において、イオン液体電解質が、イオン液体と、イオン液体に溶解した、電解質伝導用のイオン、例えば、カチオンを含む塩、例えば、電解質伝導用のLi+カチオンを含むリチウム塩など、とを含む電解質である。イオン液体および塩は、同じアニオンを含んでもよく、または異なるアニオンを含んでもよい。
【0058】
本開示の文脈において、イオン液体が、液体状態のイオン有機化合物または有機塩である。室温で液体であるイオン液体では、用語「室温イオン液体」を使用してもよい。
【0059】
本開示は、本開示の幾つかの実施形態の詳細な説明により説明される。本開示の他の実施形態は、本開示の技術的教示から逸脱することなく当業者の知識に従って構成できることは明らかであり、本開示は添付の請求項の用語によってのみ限定される。
【0060】
第1態様において、本開示は、複数の相互接続された細孔を含むメソポーラス誘電体材料と、メソポーラス誘電体材料の内表面を覆う実質的に連続した途切れない電解質層とを含む固体ナノ複合電解質材料を提供し、
電解質層は、第1層と、第2層とを備え、
第1層は、第1双極子化合物または第1イオン化合物を含み、
第1双極子化合物または第1イオン化合物は、第1極性の第1極と、第1極性とは反対の第2極性の第2極とを含み、
第1層は、第1極が内表面に面するように内表面に吸着され、これにより(吸着の結果として)第1双極子またはイオン化合物に電荷非局在化(delocalization)を導入または修正し、第1双極子またはイオン化合物において分子双極子モーメントを導入または修正するものであり、
第2層は、第1層を覆い、第2層は、第1極性の第1イオンおよび第2極性の第2イオンを含む第2イオン化合物または塩を含み、
第2イオン化合物または塩の第1イオンは、第1層に結合しており、
これにより(結合の結果として)第1イオンと第2イオンとの間の結合を弱めて、第2イオンの移動度を増強する。
【0061】
第1層は、第2層の第2極性の第2イオンのためのイオン伝導促進剤として機能できる。第2層の第2極性の第2イオンは、固体ナノ複合電解質材料の電解質伝導を提供する。
【0062】
本開示の第1態様の実施形態に係る固体ナノ複合電解質材料において、電解質層は、複数の相互接続された細孔を完全に充填することなく、メソポーラス誘電材料の内表面にコーティングを形成でき、多孔性固体ナノ複合電解質材料をもたらす。本開示の第1態様の実施形態に係る固体ナノ複合電解質材料において、電解質層は、複数の相互接続された細孔の少なくとも一部を完全に充填してもよい。
【0063】
既知の固体ナノ複合電解質材料は、ナノ構造の電気絶縁材料、例えば、酸化物など、例えば、薄膜多孔性材料またはナノ粒子系の材料と、固体イオン伝導体(固体電解質材料)とを含む固体材料であり、イオン伝導体は、ナノ構造材料の内表面に存在する。こうした構造において、増強されたイオン伝導率(「バルク」固体イオン伝導体でのイオン伝導率と比較して)が、イオン伝導体と絶縁材料との間の界面で得られる。
【0064】
こうした固体ナノ複合電解質材料を含む層を通じた高いイオン伝導率を達成するために、好ましくは、連続的な界面が絶縁材料とイオン伝導体の間で層全体に渡って形成され、即ち、絶縁材料とイオン伝導体との間の界面は、好ましくは、層の第1表面から層の反対側の第2表面まで間に途切れることなく延びている。こうした複合電解質材料を固体イオン挿入バッテリの電解質層として使用する場合、これにより正極と負極との間に延びるイオン伝導の途切れない経路を形成できる。こうした複合電解質材料を固体イオン挿入バッテリの複合電極の電解質として使用する場合、電極の厚さを増加でき、その結果、バッテリ容量が増強する。
【0065】
多くの最先端の複合電解質材料は粒子系である。これらは、電気絶縁材料を含む複数の(ナノ)粒子を含み、粒子の表面が、固体層または液体層でもよい電解質層で少なくとも部分的に覆われている。これは、
図1に概略的に示されており、複数の粒子11、例えば、酸化物粒子などを含む粒子系の複合電解質材料10の構造を示し、粒子11の表面は、電解質層12で覆われており、例えば、純粋な塩電解質、例えば、LiIまたはLiClO
4などのシングルリチウム塩、ポリマー電解質、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)系のリチウムイオン電解質、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)に混合されたLiClO
4など、または、イオン液体電解質、例えば、BMP-TFSIイオン液体中のLi-TFSI塩など、を含む層で覆われている。粒子11と電解質層12との間の界面には、界面領域13が形成され、適切な材料の組合せでは、バルク電解質層12内のイオン伝導率と比較して増強されたイオン伝導率が得られる。
図1に示す破線は、複合材料10を通るイオンが一方の側から反対側へと追従できる経路を概略的に示す。これは、こうした材料では、イオン伝導が界面領域13だけでなく、隣接する粒子11の間でもイオン伝導がより低いイオン伝導率を有するバルク電解質層12を通って進行し、これにより粒子系の複合材料を経由したイオン伝導率の増強を制限していることを示す。純粋な固体塩電解質を含む複合電解質材料では、多くの固体塩が極めて低いバルクイオン伝導率(例えば、LiClO
4では10
-10S/cm、LiIでは10
-6S/cm)を有し、最大約10
-5S/cmまでのイオン伝導率の僅かな増強が観察されている。また、約10
-7S/cmのバルクLiイオン伝導率を有するPEO電解質を備えた複合電解質材料でも、例えば、ポリマー電解質中の、例えば、TiO
2ナノ粒子の添加とともに、最大10
-4S/cmまでの増強が観察されている。しかしながら、イオン液体電解質を含む既知の粒子系の複合電解質材料では、イオン伝導率は、常にイオン液体電解質のバルクイオン伝導率よりも低いことが観察される。これは、例えば、ナノ多孔性またはメソポーラス粒子11(不図示)を含む粒子系の複合電解質材料の場合でもある。
【0066】
複数の(ナノ)細孔を有する電気絶縁性シリカマトリクス(即ち、粒子の代わりに連続層、または換言すると非粒子)を含む固体複合電解質材料であり、(ナノ)細孔は、液体電解質、例えば、イオン液体電解質(例えば、イオン液体溶媒を備えたLi塩)または、プロピレンカーボネート電解質(例えば、プロピレンカーボネート溶媒を備えたLi塩)などで充填されるものも知られている。また、このタイプの固体複合電解質材料では、追加の表面機能化が設けられない限り、イオン伝導率は、固体イオン伝導体のバルクイオン伝導率(例えば、イオン液体電解質)よりも低いことが観察される。増強された界面伝導に起因するイオン伝導率の増強は、これらのシステムにおいて追加の表面機能化なしでは観察されない。複数の(ナノ)細孔内の電解質のナノ閉じ込めは、それ自体、増強された導電率を提供できない。これに対して細孔壁での剪断流は、液体電解質の増強された粘度をもたらし、バルク電解質の減少した体積とともに、導電率を減少させる。
【0067】
本開示の実施形態に係る固体ナノ複合電解質材料は、複数の相互接続された細孔および、メソポーラス誘電体材料の内表面を覆う、実質的に連続した途切れない固体電解質層(固体ナノ複合電解質材料全体で)を含むメソポーラス誘電体材料(典型的には非粒子)を備える。固体電解質層は、電解質、例えば、イオン液体電解質などの内表面(複数の相互接続された細孔によって画定される)での吸着によって形成できる。これは、
図2に概略的に示されており、こうした固体ナノ複合電解質材料20の構造の一例を示す。ナノ複合電解質材料20は、メソポーラス誘電材料21での内表面を画定する複数の相互接続された細孔24を含むメソポーラス誘電材料21を備える。内表面は、固体ナノ複合電解質材料20全体にわたって連続した途切れない電解質層22(
図2の黒)で覆われている。メソポーラス誘電体材料21と電解質層22の界面には、界面領域23(
図2中の白)が形成され、適切な材料の組合せでは、電解質層22内のバルクイオン伝導率と比較して増強されたイオン伝導率が得られる。こうした増強されたイオン伝導率を得るための材料の組合せの適合性は、実験的に決定できる。下記の更なる説明において、こうした適切な材料の組合せの例を示す。
図2に示す破線2は、ナノ複合電解質材料20を通るイオンが一方の側から反対側へ追従できる経路を概略的に示す。これは、電解質層22と同様に、界面領域23も連続した途切れない(例えば、バルク電解質層22によって「途切れない」、粒子系の材料での場合のように、)経路を一方の側から反対側へ、即ち、材料20全体に渡って形成するため、こうした材料20においてイオン伝導が界面領域23のみを通過して進行できることを示す。界面領域23は、増強されたイオン伝導率を備えた領域であり、これにより、バルク電解質層22を通るバルクイオン伝導率と比較して、ナノ複合電解質層20を通る増強されたイオン伝導率をもたらし得る。
【0068】
従って、本開示の一実施形態に係るナノ複合電解質材料20を固体イオン挿入バッテリの電解質層に使用する場合、ナノ複合電解質材料20は、
図2に概略的に示すように、実質的に連続した途切れない電解質層22と、同様に実質的に連続した界面領域23とを備えており、正極と負極との間に延びる、増強されたイオン伝導を備えた途切れない経路の形成をもたらし得る。これにより、電解質層のために使用される対応する電解質材料のバルク伝導率よりも高いナノ複合電解質材料のイオン伝導率をもたらし得る。固体イオン挿入バッテリセルまたはバッテリでの電解質層として使用する場合、イオン伝導率が高いほど、バッテリセルまたはバッテリのより高速な充電レートが得られる。固体イオン挿入バッテリセルまたはバッテリの複合電極での電解質層として使用する場合、イオン伝導率が高いほど、電極の厚さを増加でき、バッテリセルまたはバッテリの増強された容量、増強されたエネルギー密度、増強されたパワー密度をもたらす。
【0069】
本開示の第1態様に係るナノ複合電解質材料の好ましい実施形態において、メソポーラス誘電材料の複数の相互接続された細孔は、2nm~50nmの範囲の細孔サイズまたは細孔直径(メソポーラス)を有する。必要に応じて、メソポーラス誘電体材料は、より小さなマイクロ細孔、例えば、2nmより小さい細孔サイズを有する細孔をさらに含んでもよい。メソポーラス誘電材料は、例えば、25%~90%の範囲の間隙率(porosity)を有してもよく、本開示はそれに限定されない。本開示の実施形態に係るナノ複合電解質材料20において、イオン伝導は、主として連続固体電解質層22とメソポーラス誘電体材料21との間の界面領域23を介して生じる。従って、内部表面積(メソポーラス誘電体の内表面の合計面積に対応)は可能な限り大きいことが好ましい。メソポーラス誘電体、例えば、メソポーラスシリカ、メソポーラスアルミナなどは、最も大きい表面積を与える(即ち、50nmより大きい、より大きな細孔を有するマクロポーラス材料よりも大きい)。
【0070】
本開示の実施形態において、メソポーラス誘電体材料21の内表面を覆う電解質層22は、少なくとも2つの層、即ち、少なくとも内表面に吸着される第1層と、第1層を覆う第2層とを含む。第1層は、第1双極子化合物または第1イオン化合物、例えば、有機塩、有機錯体、共晶塩または液体金属塩、例えば、イオン液体を含む。第2層は、第1極性の第1イオン、例えば、大きな脱分極アニオンと、第2極性の第2イオン、例えば、金属カチオンとを含む第2イオン化合物または塩を含む。電解質層22はさらに、第2層を覆う少なくとも1つの追加層を含んでもよい。少なくとも1つの追加層は、第2極性の第2イオンの増強された伝導を提供するのを支援できる。
【0071】
本開示の実施形態において、電解質層22の第1層は、第1双極子化合物または第1イオン化合物を含み、第1双極子化合物または第1イオン化合物は、第1極性の第1極および第1極性とは反対の第2極性の第2極を含み、好ましくは、第1極および第2極は、両方とも分子構造に渡って何らかの形態の電荷非局在化が可能である。この電荷非局在化は、例えば、自由電子対が利用可能であるシグマ型結合(σ-結合)、または炭素(C)とのパイ型結合(π結合)、または、例えば、TFSI分子のS=O結合のように酸素(O)と組合せで、分子構造に接続された元素、例えば、硫黄(S)、リン(P)、窒素(N)及び/又は酸素(O)などの形態で設けられる。代替として、電荷非局在化は、例えば、共役π-π結合によって、例えば、フェニル型、イミダゾリウム型またはピリジニウム型の分子構造に設けてもよい。イオン液体のいくつかの有機カチオンでのように、第1層は、第1極が内表面に面するように内表面に吸着され、これにより第1双極子またはイオン化合物に電荷非局在化(delocalization)を導入または修正し、第1双極子またはイオン化合物について分子双極子モーメントを導入または修正する。第1の双極子化合物または第1イオン化合物は、好ましくは大きな化合物である。例えば、第1双極子化合物または第1イオン化合物は、少なくとも(7nm)3のサイズを有するアニオンと、大きなカチオン、例えば、アニオンサイズの少なくとも2倍のサイズを有するカチオンとを含んでもよく、本開示はこれに限定されない。本開示の実施形態において、第1双極子化合物または第1イオン化合物は、例えば、有機塩、有機錯体、共晶塩または金属塩でもよい。第1化合物は、例えば、イオン液体でもよい。
【0072】
本開示の実施形態において、電解質層22の第2層は、第1層を実質的に覆う。第2層は、第1極性の第1イオンおよび第2極性の第2イオンを含む第2イオン化合物または塩を含む。第1イオンは、好ましくは第2イオンよりも大きく、本開示はこれに限定されない。第1極性の第1イオンは、好ましくは何らかの形態の電荷非局在化が可能であり、第2極性の第2イオンは、例えば、限定された電荷分極を有するか、または電荷分極を有さなくなくてもよく、本開示はこれに限定されない。本開示の実施形態において、第2極性の第2イオンは、例えば、Li+、Na+、K+またはMg2+などの単一元素を含む単純なカチオン、または、例えば、Cl-またはF-などの単一元素を含む単純なアニオンでもよい。本開示の他の実施形態において、第2極性の第2イオンは、例えば、NO3-またはCOO-などの複数の元素を含んでもよい。第2層のイオン化合物または塩の第1イオンは、例えば、弱い分子間力を介して第1層に結合しており、第1層への結合は、第2層の第1イオンと第2イオンとの間の結合を弱め、これにより第2イオンの移動度を増加させる。第2イオンのこの移動度の増加は、第2イオンが、第1イオンとあまり結合しなくなり、またはあまり関連しなくなることに関連している。本開示の実施形態において、第1層は、第2層の第2極性の第2イオンのイオン伝導促進剤として機能できる。第2層の第2極性の第2イオンは、固体ナノ複合電解質材料の電解質伝導を提供する。
【0073】
図3は、第1層221と第2層222のスタックを含む電解質層22で覆われた誘電材料層21の概略図であり、第1層221は、第1極性の第1極311および第2極性の第2極312を含む第1双極子化合物または第1イオン化合物を含み、第2層222は、第1極性の第1イオン321および第2極性の第2イオン322を含む第2イオン化合物または塩を含み、一実施形態における電荷非局在化を示しており、第1極性は負極性で、第2極性は正極性である。第2イオン322(
図3に示す実施形態ではカチオン)は、イオン伝導を提供し、図示の例では、例えば、Liイオン電解質の場合はカチオン伝導を提供する。分極した第1層221への第2層222の結合は、第2層222の第1イオン321と第2イオン322との間の結合を弱め、これにより第2イオン322の移動度を増加させる。こうして第1層221は、第2層の第2極性の第2イオン322のためのイオン伝導促進剤として機能できる。第2層の第2極性の第2イオン322は、固体ナノ複合電解質材料の電解質伝導を提供する。
【0074】
図4は、第1層221と第2層222のスタックを含む電解質層22で覆われた誘電材料層21の概略図であり、第1層221は、第1極性の第1極311および第2極性の第2極312を含む第1双極子化合物または第1イオン化合物を含み、第2層222は、第1極性の第1イオン321および第2極性の第2イオン322を含む第2イオン化合物または塩を含み、一実施形態における電荷非局在化を示しており、第1極性は正極性で、第2極性は負極性である。第2イオン322(
図4に示す実施形態ではアニオン)は、イオン伝導を提供し、図示の例では、例えば、塩化物電解質の場合はアニオン伝導を提供する。分極した第1層221への第2層222の結合は、第2層222の第1イオン321と第2イオン322との間の結合を弱め、これにより第2イオン322の移動度を増加させる。こうして第1層221は、第2層の第2極性の第2イオン322のためのイオン伝導促進剤として機能できる。第2層の第2極性の第2イオン322は、固体ナノ複合電解質材料の電解質伝導を提供する。
【0075】
図5は、第1層221と第2層222のスタックを含む電解質層22で覆われた誘電体材料層21の概略図であり、第1層221は、第1極性の第1極311および第2極性の第2極312を含む第1双極子化合物または第1イオン化合物を含み、第2層222は、第1極性の第1イオン321および第2極性の第2イオン322を含む第2イオン化合物または塩を含み、一実施形態における電荷非局在化を示しており、第1極性は負極性で、第2極性は正極性であり、例えば、第2層の第2イオン化合物または塩と第1層の第1双極子化合物または第1イオン化合物とのモル比が1とは異なっており、特に図示した例では1:2である。これは一例に過ぎず、他のモル比、例えば、1:3から1:5などが使用でき、本開示はこれに限定されない。1より小さいモル比の利点は、第2層222の第2極性の第2イオン322の増強された移動度をもたらし、そして増強されたイオン伝導率をもたらすことである。しかしながら、このモル比が小さいほど、利用可能な第2イオンの量が少なくなり、これらの第2イオン間の距離が大きくなり、伝承したイオン伝導率をもたらすことがある。従って、第2層の第2イオン化合物または塩と第1層の第1双極子化合物または第1イオン化合物との間のモル比について最適値が存在し得る。こうした最適な比率は、実験的に決定できる。
【0076】
電解質層22が、第2層を覆う少なくとも1つの追加層を含む本開示の実施形態において、少なくとも1つの追加層は、好ましくは、第2層の第2イオン化合物または塩の第2極性の第2イオンの溶媒和および伝導にとって適切または適合される。換言すると、少なくとも1つの追加層は、好ましくは、第2層の第2イオン化合物または塩の第2極性の第2イオンのための溶媒および伝導体である。こうした少なくとも1つの追加層は、第2層の第2イオン化合物または塩の第2極性の第2イオンのための一種の「溶媒」層として機能でき、即ち、ナノ複合電解質材料を経由したこれらの第2イオンの移動をさらに促進(増強)でき、こうしてナノ複合電解質材料を経由したイオン伝導率を増強する。少なくとも1つの追加層は、例えば、第2層と同じイオン化合物または同じ塩を含んでもよく、本開示はこれに限定されない。
【0077】
図6は、本開示の実施形態で使用できるように、第1層221と第2層222のスタックを含む電解質層22で覆われたシリカ層21表面の例の概略図である。
図6に示す例において、酸化シリコン(シリカ)層21は、OH終端表面を有し、第1層221は、イオン液体(第1イオン化合物)、特に[BMP]TFSI(1-ブチル-1-メチルピロリジニウム[BMP
+]ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド[TFSI
-])イオン液体を含み、第2層222は、TFSI
-(ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド)アニオン(負極性の第1イオン)およびLi
+カチオン(正極性の第2イオン)を含む。第1層221は、シリカ層の表面に吸着され、負極性の第1極([TFSI
-])が表面に面している。第2層222は、第1層221を覆い、負極性の第1イオンによって第1層に結合される。
【0078】
図7は、本開示の実施形態で使用できるように、第1層221、第2層222および追加層223のスタックを含む電解質層22で覆われたシリカ層21表面の例の概略図である。
【0079】
本開示は、
図6および
図7に示す例に限定されない。他の第1双極子化合物または第1イオン化合物は、第1層を形成するために使用でき、及び/又は、他の第1イオンおよび第2イオンが第2層に含まれてもよい。例えば、第1双極子化合物または第1イオン化合物は、有機塩、有機錯体、共晶塩または金属塩でもよい。例えば、第1双極子化合物または第1イオン化合物は、イオン液体、例えば、[BMP
+][TFSI
-](1-ブチル-1-メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド)、[BMI
+][TFSI
-](1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド)など、有機塩、例えば、1-ブチル-3-メチル-イミダゾリウムクロリド(T
m342K)、1-エチル-3-メチル-イミダゾリウム硝酸塩(T
m311K)または1-メチル-3-メチル-イミダキソリウムテトラフルオロボレート(T
m377K)など、または無機塩、例えば、クロロアルミネートまたはLiF-BeF
2などでもよく、本開示はこれらに限定されない。第2層の一部でもよい第1イオンの例は、ClO
4
-、BF
4
-、PF
6
-、TFSI
-およびBETI
-(ビス(ペルフルオロエチルスルホニル)イミド)でもよく、本開示はこれらに限定されない。本開示の実施形態において、第2層の第2イオンは、金属カチオン、例えば、Li
+、Na
+、K
+、Ca
2+、Mg
2+、Cu
2+、Al
3+、Co
2+またはNi
2+などでもよく、本開示はこれらに限定されない。
【0080】
図8は、酸化物材料を含む種々の固体ナノ複合電解質材料について測定したときの正規化したイオン伝導率を示し、イオン液体電解質が酸化物材料の内表面に設けられる。プロットは、3つのタイプの材料について、全体酸化物表面積(即ち、イオン液体電解質が設けられる、例えば、コートされる酸化物材料の内表面の全体面積)当りのイオン液体電解質体積の関数として、対応するイオン液体電解質のバルクイオン伝導率に対して正規化したイオン伝導率を示す。曲線(a)(黒丸)は、非多孔性または実質的に非多孔性のナノ粒子を含むナノ粒子系の複合電解質について測定した正規化イオン伝導率を示す。異なるナノ粒子サイズ(7nm~80nm)について酸化シリコンナノ粒子または酸化アルミニウムナノ粒子のいずれかを含む複合電解質についての結果を示す。こうしたナノ粒子系の複合電解質では、イオン伝導が部分的に電解質層のバルクを通って進行し(
図1に示すように)、そのため酸化物と電解質層との間の界面での増強されたイオン伝導の全体イオン伝導率に対する影響は無視できる。曲線(b)(白四角と白三角)は、メソポーラスマイクロ粒子を含むメソポーラスマイクロ粒子系の複合電解質について測定した正規化イオン伝導率を示す。白四角は、4nmの細孔サイズを有するメソポーラス酸化アルミニウム粒子を含む複合電解質についての結果を示し、白三角は、3nmの細孔サイズを有するMOF(Metal-Organic Framework: 金属有機構造体)粒子を含む複合電解質についての結果を示す。こうしたメソポーラスマイクロ粒子系の複合電解質材料では、全体内部表面積は、非多孔質粒子系の材料より大きくなることがあるが、このタイプの材料でも、イオン伝導は、電解質層のバルクを部分的に進行し(
図1に示したものに類似)、全体イオン伝導率に対する酸化物と電解質層との間の界面での増強されたイオン伝導の影響が無視できるようになる。曲線(c)(黒菱形)は、例えば、
図2に示すように、本開示の実施形態に従って、複数の相互接続された細孔(連続した実質的に途切れないメソポーラスマトリクス)を含むメソポーラス誘電体材料を含む固体ナノ複合電解質材料について測定した正規化イオン伝導率を示す。BMP-TFSIイオン液体を含む複合電解質およびBMI-TFSIイオン液体を含む複合電解質についての結果を示す。
【0081】
全体酸化物表面積当りのイオン液体電解質体積は、イオン液体体積全体がコーティングされ、利用可能な内表面エリアに均等に分布すると仮定すると、誘電体材料の内表面上の電解質層の理論コーティング厚に対応する。
図8に示すデータは、理論的には、約10nmの厚さを有するイオン液体電解質コーティングが、実質的に非多孔性のナノ粒子(a)ではイオン液体電解質バルク伝導率の半分に、メソポーラスマイクロ粒子(b)では約5nmの厚さに到達する必要があることを示す。本開示の実施形態に係る連続メソポーラス誘電体材料を含む固体ナノ複合電解質材料では、2nm未満の厚さを有するイオン液体電解質コーティングで充分である。さらに、
図8に示す結果は、複合粒子系の材料(a)および(b)の両方について、イオン伝導率がバルクイオン伝導率を超えないことを示す。
しかしながら、メソポーラス連続マトリクス系の材料(c)では、バルク伝導率を超えることがある(相対的なイオン液体電解質の体積に依存して)。これは、イオン伝導率の界面増強が実際に存在し、本開示の実施形態に係る固体ナノ複合電解質材料の全体イオン伝導率に対してプラス効果をもたらすことを示す。
【0082】
粒子系の材料(a)および(b)とは対照的に、本開示の実施形態に係る材料(c)において、電解質層が、連続した実質的に途切れないコーティングをメソポーラス誘電体材料の内表面に形成する場合、増強された全体イオン伝導率が得られる。電解質コーティングの途切れは、途切れたイオン伝導経路をもたらし、接続する細孔の数の減少をもたらし、全体イオン伝導率の減少をもたらすことがある。空の細孔はイオン伝導に寄与しない。従って、好ましくは、内表面のかなりの部分、好ましくは全ての内表面が、電解質層でコーティングまたは被覆される。好ましい実施形態において、電解質コーティングは、いくつかの単分子層(monolayer)、例えば、少なくとも2つ~3つの単分子層を含み、本開示はそこに限定されない。いくつかの実施形態において、細孔は、例えば、細孔サイズおよび電解質単分子層の厚さに依存して、電解質で完全に充填されてもよい。
【0083】
更なる要件は、誘電体マトリクス(例えば、シリカ)とその内表面にコートされた電解質層との間の相互作用が、イオン伝導の増強を提供することである。これは、誘電体と電解質材料の組合せについての場合ではない。疎水性の細孔表面、例えば、CVDシリカ内のメチル(CH3-)終端細孔表面は、LiClO4とPEG(ポリエチレングリコール)の混合物についてイオン伝導の増強を提供しないことが実験的に示された(文献: Xubin Chen et al, "100 nm Thin-Film Solid-Composite Electrolyte for Lithium-Ion Batteries", Adv. Mater. Interfaces 2017, 1600877)。Liイオン伝導率は、多孔性シリカ構造での電解質の粘度(伝導率に反比例)の増加に起因して、純粋なLiClO4-PEGポリマー電解質よりも低いことが示された。イオン伝導の増強を提供する誘電体材料および電解質層の適切な組合せは、実験的に決定できる。
【0084】
第2の態様において、本開示は、本開示の第1態様の実施形態に係る固体ナノ複合電解質材料を含む固体ナノ複合電解質層を提供する。固体ナノ複合電解質層は、基板上に設けてもよい。基板は、例えば、半導体材料(例えばシリコン)、金属(例えば、金属箔)、カーボンナノシート、プラスチック箔、またはセラミック材料、例えば、ケイ酸塩などを含んでもよく、本開示はこれらに限定されない。基板は、異なる層のスタックを含むか、またはこれから成るものでもよい。例えば、本開示の第2態様に係る固体ナノ複合電解質層がイオン挿入バッテリの固体電解質層として使用される場合、基板は、キャリア基板、例えば、シリコンキャリア基板を備えてもよく、その上にコレクタ層および電極層が設けられる。
【0085】
本開示の第2態様の有利な実施形態において、固体ナノ複合電解質層は、層の第1表面側(例えば、基板に面する表面)から第1側とは反対にある第2表面側(第2表面側は、例えば、基板から遠くに面する層表面)まで途切れなしで延びる複数の相互接続された細孔を含み、連続した実質的に途切れない電解質層が層の内表面を覆い、電解質層は、ナノ複合電解質層の第1表面側から第2表面側へ途切れなしで延びる。これによりナノ複合電解質層の対向する表面の間で増強されたイオン伝導のための連続経路の形成をもたらすという利点がある。これによりナノ複合電解質層を経由した(例えば、バッテリセルまたはバッテリの第1電極層と第2電極層の間にある)イオン伝導率(電解質層のみからなるバルク電解質層のバルクイオン伝導率よりも高い)をもたらし得る。
【0086】
第3態様において、本開示は、本開示の第1態様の実施形態に係る、活性電極材料および固体ナノ複合電解質材料の混合物を含む複合イオン挿入電極を提供する。複合イオン挿入電極は、例えば、薄膜固体イオン挿入バッテリでの電極層として使用するために、薄膜電極でもよい。他の実施形態において、複合イオン挿入電極は、例えば、粒子系(「セラミック」)固体イオン挿入バッテリセルまたはバッテリでの電極層として使用するために、粒子系またはペレット系の電極でよい。
【0087】
第4態様において、本開示は、本開示の第2態様の実施形態に係る固体ナノ複合電解質層を含む固体バッテリセルおよび固体バッテリを提供する。固体バッテリは、薄膜バッテリまたはセラミックバッテリでもよい。
【0088】
第5態様において、本開示は、本開示の第3態様の実施形態に係る複合イオン挿入電極を含む固体バッテリセルおよび固体バッテリを提供する。固体バッテリは、薄膜バッテリまたはセラミックバッテリでもよい。
【0089】
第6態様において、本開示は、本開示の第1態様の実施形態に係る固体ナノ複合電解質材料を形成する方法を提供する。本開示の第6態様に係る固体ナノ複合電解質材料を形成する方法は、誘電体材料前駆体と、第1双極子化合物または第1イオン化合物と、第2イオン化合物または塩と、脱イオン水と、溶媒(好ましくはアルコール)とを含む溶液を得る(用意する、形成する)ステップと、
溶液のゲル化を誘導することによって、溶液を固体材料に変換し、これによりゲルを形成し、その後、ゲルを乾燥させて固体ナノ複合電解質材料を形成するステップとを含む。
【0090】
本開示の第6態様に係る方法の有利な実施形態において、誘電材料前駆体は、シリカ前駆体またはアルミナ前駆体またはそれらの混合物でもよく、第1双極子化合物または第1イオン化合物は、有機塩、有機錯体、共晶塩または金属塩、例えば、イオン液体でもよく、第2イオン化合物または塩は、金属塩を含んでもよく、金属塩は、例えば、Li+、Na+、K+、Ca2+、Mg2+、Cu2+、Al3+、Co2+およびNi2+から選択される金属カチオンを含み、そして、例えば、ClO4
-、BF4
-、PF6
-、TFSI-およびBETI-から選択される大きな脱分極アニオンを含んでもよく、本開示はこれらに限定されない。
【0091】
本開示の第6態様の実施形態に係る方法の利点は、それが、メソポーラス誘電体材料およびその内表面を覆う電解質層を同時に形成するための単一の製造ステップ、特に単一のゾルゲル式の製造ステップだけを必要とすることである。換言すると、複数の相互接続された細孔を含むメソポーラス誘電体を最初に形成し、その後、メソポーラス誘電体の内表面を電解質層でコーティングする必要はない。代わりに、これらのステップは、単一のゾルゲル製造手順において組合せ可能である。複数の相互接続された細孔を有するメソポーラス誘電体材料を形成すること、およびその内表面を電解質層でコーティングすることは同時に行うことができ、即ち、単一の製造手順で組合せ可能である。
【0092】
ゾルゲルナノ複合電解質製造プロセスを使用する追加の利点は、バッテリセル電極、例えば、ナノ複合電解質を備えた粒子系またはペレット系の電極を含浸させることが可能になり、これにより活性電極材料および固体ナノ複合電解質の混合物を含む複合電極を形成できることである。ゾルゲル法で使用されるゲル化および乾燥プロセスは、典型的には収縮を意味することから、コンパクトな複合電極構造を形成できる。従って、こうした方法を用いて、極めて高密度の電極が高い体積百分率の活性電極材料で製作でき、高いエネルギー密度を持つ電極が得られる。
【0093】
本開示の第6態様の実施形態に係る方法を用いて、誘電体材料の内表面を覆う(途切れ無し)連続した途切れない表面電解質層またはコーティングが、第1双極子化合物または第1イオン化合物および第2イオン化合物または塩を含む電解質材料の溶液中での相対量(誘電体材料前駆体の量に対して)が、xについて特定の閾値xthrを超える場合に形成できる(xは、一方では、第1イオン化合物または第1双極子化合物および第2イオン化合物または塩のモル量の合計と、他方では、誘電材料前駆体のモル量との間のモル比を参照する)。この閾値xthrは、使用する第1双極子化合物または第1イオン化合物の種類および第2イオン化合物または塩(例えば、Li塩)の種類と濃度に依存する。閾値xthrを超えてxの値をさらに増加させるために、途切れなしで内表面を覆う連続した途切れない表面電解質層の形成が依然として実現できるが、xが特定の臨界値xcritを超えた場合、イオン液体電解質の含有量は、こうした途切れなし層を形成するには高すぎることがある。xcritを超えるx値では、メソポーラス誘電体材料の形成が妨げられ、代わりに、より小さい表面積を備えた(より小さいイオン伝導率をもたらす)より大きな細孔を有する誘電体が形成でき、あるいは、不連続な誘電体粒子がイオン液体電解質内に形成できる。選択した材料組合せでは、xthrとxcritの値は実験的に決定できる。
【0094】
シリカゾルゲル混合物に添加される電解質材料は、バルク形態での液体または固体でもよい。それは、第2イオン化合物または塩、例えば、金属塩、例えば、リチウム塩などの混合物を含んでもよく、溶媒和媒体または分子(第1双極子化合物または第1イオン化合物)、例えば、有機塩(例えば、イオン液体)またはポリマー(ポリエチレングリコールまたはPEGまたはその誘導体)を備え、これらは、それぞれイオン液体電解質(ILE)およびポリマー電解質(ポリエチレンオキシドまたはPEO電解質)での溶媒和媒体である。好ましい実施形態において、溶媒和媒体は、配位結合を形成して金属カチオン、例えば、Li+イオンを安定化させる能力を有するが、極めて弱い会合(association)を伴うため、金属カチオン、Li+イオンは、ある配位部位から他の配位部位に容易に移動できる。
【0095】
本開示の実施形態に係る固体ナノ複合電解質材料は、「単一ステップ」ゾルゲルプロセスを用いて形成してもよい。例えば、メソポーラスシリカ材料およびリチウムイオン系の電解質を含むナノ複合電解質材料は、シリカ前駆体(例えば、TEOSまたはPEOS、本開示はこれらに限定されない)、溶媒(例えば、1-メトキシ-2-プロパノールまたはPGME、本開示はこれらに限定されない)、リチウム塩(例えば、LiTFSIまたはLiClO4、本開示はこれらに限定されない)、H2O、および、Liイオン溶媒和及び/又は表面伝導促進剤(例えば、[BMP][TFSI]またはPEGなど)のために機能的であるポロゲン(porogen)を含む溶液を最初に用意することによって形成できる。こうした溶液では、Li塩は触媒として機能し得る。このことは、多くの先行技術の手法とは対照的に、前駆体溶液に酸性成分を加える必要がないことを意味し、これは、いくつかのタイプの基板、例えば、固体ナノ複合電解質材料が上に設けられる電極層との改善された適合性をもたらし得る点で有利である。有機塩が、ポロゲンとしておよびLiイオン溶媒和媒体として使用できる。硬化は、低温、例えば、120℃未満の温度で行うことができる。しかし、これは一例に過ぎず、本開示はそれに限定されない。
【0096】
一例として、Liイオン系の材料では、溶液は下記のものを含んでもよい。
・第2イオン化合物または塩、例えば、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)リチウム塩、または、他のリチウム塩、例えば、過塩素酸リチウム、テトラフルオロホウ酸リチウム、ヘキサフルオロヒ酸リチウム、ヘキサフルオロリン酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、トリス(ペルフルオロエチル)トリフルオロリン酸リチウム、リチウムフルオロアルキルホウ酸リチウム、またはビスアチタングトレンヌング(オキサラト)ホウ酸リチウム、本開示はこれらに限定されない。
・脱イオンH2O。
・第1双極子化合物または第1イオン化合物、例えば、N-ブチル、N-メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド([BMP][TFSI])イオン液体。(イオン液体は、有機または無機アニオン、例えば、ヘキサフルオロホスフェート、テトラフルオロボレート、トリフルオロメタンスルホネート、トシレート、ニトレート、メシレート、オクチルサルフェート、または過塩素酸塩など(本開示はこれらに限定されない)と、カチオン、例えば、イミダゾリウム、ホスホニウム、アンモニウム、ピリジニウム、ピラゾリウム、ピペリジニウム、スルホニウム、トリアゾリウム、チアゾリウム、ピロリジニウム、ベンズイミダゾリウムなど(カチオン上のHは、有機基、例えば、ブチル基、メチル基またはエチル基で置換してもよい)(本開示はこれらに限定されない)とを有してもよい。好ましい実施形態において、合成条件下およびバッテリ動作条件下の両方で(電気)化学的に安定であるアニオン/カチオンの組合せが選択される。)
・誘電体材料前駆体、例えば、アルキシリケート前駆体テトラエチルオルトシリケート(TEOS)または、他のケイ酸塩前駆体、例えば、テトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリル)エタン、ビニルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシランなど(本開示はこれらに限定されない)。
・溶媒、例えば、1-メトキシ-2-プロパノール(PGME)、または、他のアルコール、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノールなど(本開示はこれらに限定されない)。
【0097】
有利な実施形態において、イオン液体(第1双極子化合物または第1イオン化合物)とアルキシリケート前駆体(誘電体材料前駆体)との間のモル比は、例えば、0.1~2の範囲でもよく、H2Oとアルキシリケート前駆体との間の体積比は、約1でもよく、リチウム塩(第2イオン化合物または塩)とイオン液体との間のモル比は、0.1~1の範囲でもよく、イオン液体と溶媒との間の重量比は、0.1~2の範囲でもよい。溶液は、酸成分を含まなくてもよい。しかしながら、本開示はこれらに限定されず、他の比率および溶液組成が使用できる。
【0098】
一例として、ゾルゲルプロセス用の溶液を用意するステップは、Li-TFSI、H2O、BMP-TFSI、TEOSおよびPGMEをガラス容器に順次に供給することを含んでもよい。種々の化学物質を溶液に添加する任意のシーケンスを使用してもよい。例えば、0.22gのLi-TFSI、0.75mlのH2O、0.97gのBMP-TFSI、0.5mlのTEOSおよび1mlのPGMEが供給できる。溶液を用意するステップに続いて、ゲル化ステップ、その後、乾燥ステップが行われる。ゲル化は、例えば、ゲルが形成されるまで、即ち、溶液がゲルに変換されるまで、数日間、例えば、4~6日間、周囲温度(または、例えば、0℃~60℃の範囲の温度)で溶液を維持することを含んでもよい。乾燥ステップは、例えば、ゲルを真空オーブン内に、例えば、10-3ミリバールより低い圧力で、90℃~150℃の範囲の温度で約48時間置くことを含んでもよい。乾燥ステップを実施する前に、予備焼成ステップを実施してもよく、例えば、真空中80℃、数時間で、水分子および有機溶媒の大部分を蒸発させてもよい。そして、焼成ステップにより、残っている水分子の除去およびシリカ材料の硬化をもたらし、これによりシリカ材料を固化する。しかしながら、これは単なる例に過ぎず、本開示はこれらに限定されず、他の溶液組成、他のゲル化条件および他の乾燥条件を使用してもよい。
【0099】
Liイオンイオン液体電解質を調製するために使用できる室温イオン液体(即ち、室温で液体であるイオン液体)の例は、下記のとおりである。N-ブチル、N-メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド([BMP][TFSI])1-ブチル、3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド([BMI][TFSI])。しかしながら、本開示はこれらに限定されず、他のイオン液体を使用してもよい。例えば、室温より高い融点Tmを有するイオン液体(即ち、室温で固体であるイオン液体)を使用してもよく、例えば、NaイオンまたはMgイオン系のイオン液体電解質のために使用してもよい。いくつかの例は、下記のとおりである。1-ブチル-3-メチル-イミダゾリウムクロリド(Tm 69℃)、1-エチル-3-メチル-イミダゾリウムニトレート(Tm 38℃)、および1-メチル-3-メチル-イミダゾリウムテトラフルオロボレート(Tm 104℃)。
【0100】
無機塩も、高温で液体となることができ(他の金属塩を溶解するために使用できる)、典型的には「溶融塩」として示される。例えば、クロロアルミネートおよびLiF-BeF2。「共晶塩」および「液体金属塩」と呼ばれる特定の混合物もある。例えば、N-メチルアセトアミドと混合した硝酸リチウム、およびグリムと混合したリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドなど。
【0101】
これらの材料全てが、本開示の実施形態に係るナノ複合電解質材料の製造のためのワンステップゾルゲル混合物に添加されるイオン電解質として使用できる。
【0102】
本開示の第6態様の実施形態に係る方法を使用して、本開示の第1態様および第2態様に係る固体ナノ複合電解質材料および固体ナノ複合電解質層を形成した実験を示す実施例を以下に示す。これらの実施例は、本開示の実施形態の特徴および利点を説明するため、そして本開示を実施化する際に当業者を支援するために提供される。しかしながら、これらの実施例は、いずれも開示を限定するものと解釈されるべきではない。
【0103】
ナノ複合電解質材料を本開示の実施形態に従って製造した。0.5mlのTEOS、0.5mlのH2O、1mlのPGME、Li-TFSIリチウム塩、および[BMP][TFSI]イオン液体を含む溶液を、第1実験でのゾルゲルプロセスの基礎として使用した。第2実験では、0.5mlのTEOS、0.5mlのH2O、1mlのPGME、Li-TFSIリチウム塩、[BMI][TFSI]イオン液体を含む溶液を、ゾルゲルプロセスの基礎として使用した。両方の場合、リチウム塩とイオン液体との間のモル比は0.34、イオン液体電解質とTEOS前駆体との間の種々のモル比x、特に、0.1、0.25、0.5、1.0および1.5を使用した。ゲル化の後、ゲルを120℃で乾燥させた。
【0104】
図9は、こうして製造した固体ナノ複合電解質材料について測定したときの正規化したイオン伝導率(対応するイオン液体電解質のバルクイオン伝導率に対して正規化)を、モル比x(上記のように)の関数として、Li-TFSI塩と組み合わせた種々のイオン液体:[BMP][TFSI](四角)および[BMI][TFSI](菱形)について示す。これらの実験結果から、図示した例では、モル比x(x
thr)の下限があり、それを超えると、増加したイオン伝導が得られることが結論付けらる。この下限より下では、バルク電解質層を通るイオン伝導よりも低いイオン伝導が測定された。これは、メソポーラスシリカ材料の内表面の完全カバーを可能にするため、即ち、メソポーラスシリカ材料の内表面に連続的で実質的に途切れない電解質層を形成するために、最小モル比が必要であることの兆候であろう。図示した例において、[BMI][TFSI]系のナノ複合電解質材料について最大のイオン伝導率の増強が得られる。
【0105】
図10は、リチウム塩が添加されたゾルゲル溶液中のイオン液体電解質とシリカ前駆体の種々のモル比x(1[BMP
+][TFSI
-])当り0.34分子[Li
+][TFSI
-](黒塗り記号))について、そしてイオン液体溶液中の初期またはバルクリチウム塩(白丸)について、温度の関数として、ゾルゲルプロセスを用いて製造されたナノ複合電解質材料の測定したイオン伝導率値を示す。
図10は、x=0.25(黒三角)、x=1(黒菱形)およびx=1.5(黒四角)についてのイオン伝導率値を示す。バルクイオン液体電解質(白丸)では、電解質材料の相(phase)に応じて、イオン伝導率の温度依存性において異なる形態(regime)が観察できる。融点T
mよりも高い温度では、イオン液体電解質は液体材料であり、完全に固化する温度T
mhより低い温度では固体材料であり、T
mとT
mhの間の温度では、中間相(mesophase)(即ち、完全に液体と完全に固体の間の相)である。
【0106】
図11は、リチウム塩が添加されたゾルゲル溶液中のイオン液体電解質とシリカの種々のモル比x(1[BMI
+][TFSI
-])当り0.34分子[Li
+][TFSI
-](黒塗り記号))について、そしてイオン液体溶液中の初期またはバルクリチウム塩(白丸)について、温度の関数として、ゾルゲルプロセスを用いて製造されたナノ複合電解質材料の測定したイオン伝導率値を示す。イオン伝導率値は、x=0.1(黒三角)、x=0.25(黒菱形)およびx=1(黒四角)について示す。
【0107】
バルクイオン液体電解質(
図10の[Li
+][TFSI
-]塩を含む[BMP
+][TFSI
-]イオン液体、
図11の[Li
+][TFSI
-]塩を含む[BMI
+][TFSI
-]イオン液体)についてのイオン伝導率の温度依存性を表す基準曲線は、イオン液体電解質(ILE)の相に関連する異なるゾーンを示す。即ち、ILEが液体である融点(T
mp)より上の第1ゾーン、融点より低いが完全凝固温度T
mphより高い第2ゾーン、ILEが固体である完全凝固温度より低い第3ゾーン。第2ゾーンにおいて、ILEは中間相、即ち、完全に液体と完全に固体の間の相である。これは、異なる温度で固化するイオン液体混合物の分子間のいくつかの分子結合の存在に関連している。1つの結合が他の分子相互作用に影響するため、固化は、1つの区別できる温度の代わりに、ある温度範囲に渡って生ずる。
図10と
図11に示す結果では、x値の低い範囲で、内表面にコートされた電解質層を有するメソポーラス誘電体材料を含むナノ複合電解質材料について、イオン伝導率の同様の温度依存性が観察される。このx値の範囲では、ナノ複合電解質材料のイオン伝導率は、対応するバルク電解質のイオン伝導率よりも低い。しかしながら、より高い範囲のx値では、イオン伝導率の異なる温度依存性が観察され、これは、図示した温度範囲全体に渡って中間相の存在を示唆している。このx値の範囲内で、ナノ複合電解質材料のイオン伝導率は、対応するバルク電解質のイオン伝導率よりも高い。これは、xについて閾値x
thrが存在し、それを超えると増加したイオン伝導率が得られることを示す。この閾値x
thrは、使用する材料に依存する。例えば、([BMP
+][TFSI
-](
図10)では、x
thrは1.5より低いが1より高い。[BMI
+][TFSI
-](
図11)では、x
thrは1より低いが0.25より高い)。他の材料の組合せでは、閾値x
thrは、種々のx値について温度の関数としてイオン伝導率の温度依存性の測定に基づいて実験的に決定できる。
【0108】
図10および
図11は、一方では[Li
+][TFSI
-]と、他方では[BMP
+][TFSI
-]または[BMI
+][TFSI
-]との間で0.34のモル比を使用した場合の電解質材料の結果を示し、これは、バルクイオン液体電解質の1MのLiイオン濃度に対応する。[BMP
+][TFSI
-]イオン液体系の材料について、他のモル比について追加の実験を行った。x=1およびx=1.5について結果を(表1)に示す。参考として、対応するバルクイオン液体電解質(ILE)のイオン伝導率も(表1)に示す。
【0109】
【0110】
表1に報告された範囲で[Li
+][TFSI
-]濃度を増加させることによって(Li塩とイオン液体との間のモル比を増加させることによって)、[Li
+][TFSI
-]+[BMP
+][TFSI
-]混合物(バルクイオン液体電解質)は、液体状態から粘性(シロップテクスチャ)を経由して柔らかい固体(ソフトワックスのテクスチャ)に移行した。対応する電解質層がその内表面を覆うシリカメソポーラス材料を含む固体ナノ複合電解質材料も、これらの組成物で製造した(本開示に係るゾルゲル法を用いて)。例えば、x=1かつ、Liとイオン液体のモル比(1:1)では、バルクILEよりわずかに高いイオン伝導率が達成され、この場合も界面伝導率の増強効果が得られることを示す。
結果は、x
thrの値が、使用した材料に依存するだけでなく(
図10と
図11に示すように)、ゾルゲル溶液に使用されるLiとイオン液体の量の比率にも依存することを示す。他の比率では、しきい値x
thrは実験的に決定できる。
【0111】
本開示の実施形態に係る実施形態において、好ましくは、誘電体材料前駆体によく溶解し、水またはアルコールと反応せず、少なくとも180℃まで熱的に安定である有機塩が選択され、それは、広い電気化学的ウインドウと高い固有イオン伝導率を有する。好ましい実施形態において、液体塩は、ポロゲン(porogen)として機能する。有機塩は、室温で液体でもよく、室温より高い融点を有してもよい。
【0112】
リチウム塩を選択した場合、好ましくは、大きな分極可能なアニオンを有する塩が選択される。大きな分極可能なアニオンを有することの利点は、Li+との会合が減少し、Li塩の溶媒和が改善できることである。
【0113】
前述の説明は、本開示の特定の実施形態を詳説する。しかしながら、前述の内容がテキストにどの程度詳しいかに関係なく、本開示は多くの方法で実施できることは理解されよう。本開示の特定の特徴または態様を説明する場合、特定の用語の使用は、該用語が関連付けらている本開示の特徴または態様の特定の特性を含むことに限定されるように本明細書で再定義されていることを意味するものではないことに留意すべきである。
【0114】
本開示に係る装置について好ましい実施形態、特定の構造および構成ならびに材料が本明細書において議論したが、本発明から逸脱することなく、形態および詳細の種々の変更または修正が可能であることは理解すべきである。例えば、本開示の範囲内で説明した方法に対してステップが追加または削除されてもよい。