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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-05
(45)【発行日】2022-10-14
(54)【発明の名称】制振材用樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/00 20060101AFI20221006BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20221006BHJP
   C08L 71/02 20060101ALI20221006BHJP
   C08L 33/04 20060101ALI20221006BHJP
   C08L 25/02 20060101ALI20221006BHJP
   C08F 12/00 20060101ALI20221006BHJP
   C08F 20/00 20060101ALI20221006BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20221006BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20221006BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
C09K3/00 P
C08L101/00
C08L71/02
C08L33/04
C08L25/02
C08F12/00
C08F20/00
C09D201/00
C09D7/63
C09D5/02
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020535785
(86)(22)【出願日】2019-08-06
(86)【国際出願番号】 JP2019030895
(87)【国際公開番号】W WO2020032022
(87)【国際公開日】2020-02-13
【審査請求日】2021-02-03
(31)【優先権主張番号】P 2018147639
(32)【優先日】2018-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】宮脇 幸弘
(72)【発明者】
【氏名】波元 冬子
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-048363(JP,A)
【文献】特開2010-275547(JP,A)
【文献】特開2016-164230(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/00
C08L 101/00
C08L 71/02
C08L 33/04
C08L 25/02
C08F 12/00
C08F 20/00
C09D 201/00
C09D 7/63
C09D 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第2級アルコールエトキシレート骨格を有する界面活性剤成分、及び、重量平均分子量が11万~35万である樹脂を含み、
該第2級アルコールエトキシレート骨格を有する界面活性剤成分は、第2級炭素原子にエチレンオキシドの平均付加モル数が3~200である(ポリ)アルキレングリコール鎖が結合した構造を有し、かつノニオン性界面活性剤成分であり、
該樹脂は、(メタ)アクリル系重合体を含むことを特徴とする制振材用樹脂組成物。
【請求項2】
前記第2級アルコールエトキシレート骨格を有する界面活性剤成分の含有量は、樹脂の固形分100質量%に対して、0.1~20質量%であることを特徴とする請求項に記載の制振材用樹脂組成物。
【請求項3】
前記制振材用樹脂組成物は、更に、アニオン性界面活性剤成分を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の制振材用樹脂組成物。
【請求項4】
前記アニオン性界面活性剤成分は、脂肪族炭化水素基を有するアニオン性界面活性剤成分を含むことを特徴とする請求項に記載の制振材用樹脂組成物。
【請求項5】
前記アニオン性界面活性剤成分の含有量は、樹脂の固形分100質量%に対して、0.1~20質量%であることを特徴とする請求項又はに記載の制振材用樹脂組成物。
【請求項6】
前記第2級アルコールエトキシレート骨格を有する界面活性剤成分と、前記アニオン性界面活性剤成分との質量割合は、1:9~9:1であることを特徴とする請求項のいずれかに記載の制振材用樹脂組成物。
【請求項7】
前記樹脂の形態は、単量体成分を乳化重合してなるエマルション樹脂粒子であることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の制振材用樹脂組成物。
【請求項8】
前記樹脂は、芳香環を有する不飽和単量体由来の構成単位を有する重合体を含むことを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の制振材用樹脂組成物。
【請求項9】
前記第2級アルコールエトキシレート骨格を有する界面活性剤成分は、下記一般式(1):
【化1】
(式中、m及びnは、それぞれ0以上の整数である。xは、エチレンオキシドの平均付加モル数を表し、3~200の数である。)で表される第2級アルコールエトキシレートであることを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載の制振材用樹脂組成物。
【請求項10】
前記一般式(1)におけるm+nは、7以上、15以下であることを特徴とする請求項9に記載の制振材用樹脂組成物。
【請求項11】
第2級アルコールエトキシレート骨格を有する界面活性剤の存在下で単量体成分を乳化重合して重量平均分子量が11万~35万であるエマルション樹脂粒子を得る工程を含み、該第2級アルコールエトキシレート骨格を有する界面活性剤は、第2級炭素原子にエチレンオキシドの平均付加モル数が3~200である(ポリ)アルキレングリコール鎖が結合した構造を有し、かつノニオン性界面活性剤であり、
該エマルション樹脂粒子は、(メタ)アクリル系重合体を含むことを特徴とする制振材用樹脂組成物の製造方法。
【請求項12】
請求項1~10のいずれかに記載の制振材用樹脂組成物、及び、顔料を含むことを特徴とする制振塗料。
【請求項13】
請求項12に記載の制振塗料を用いて得られることを特徴とする塗膜。
【請求項14】
請求項13に記載の塗膜を有することを特徴とする乗り物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振材用樹脂組成物に関し、より詳しくは、制振性が要求される各種構造体を得るために好適に用いることができる制振材用樹脂組成物、その製造方法、該制振材用樹脂組成物、及び、顔料を含む制振塗料、該制振塗料を用いて得られる塗膜、並びに、該塗膜を有する乗り物に関する。
【背景技術】
【0002】
制振材は、各種構造体の振動や騒音を防止して静寂性を保つためのものであり、自動車の室内床下等に用いられている他、鉄道車両、船舶、航空機や電気機器、建築構造物、建設機器等にも広く利用されている。制振材としては、従来、振動吸収性能及び吸音性能を有する材料を素材とする板状又はシート状の成形加工品が使用されているが、その代替品として、塗膜を形成することにより振動吸収効果及び吸音効果を得ることが可能な塗布型制振材配合物(制振塗料)が種々提案されている。
例えば、制振塗料に使用できる制振性付与剤として、第2級アルコールエトキシレート骨格を有する化合物を含むものが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
また制振材を製造するためのポリマー分散液の使用であって、前記ポリマー分散液は、ラジカル重合可能なモノマーの乳化重合によって得られる少なくとも1種のポリマーを含有し、かつ前記ポリマーは、100000超、好ましくは100000超~350000の質量平均分子量を有する、前記使用が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-164230号公報
【文献】特表2016-540090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、制振材用樹脂組成物として種々のものが提案されており、上記特許文献2では低い吸水度を有する材料を提供することが開示されているが、特に自動車等の乗り物の部材を被覆する塗膜は、高温・高湿度条件下に晒されるため、耐水性に非常に優れ、当該条件下でも優れた制振性を充分に維持できる塗膜とすることが望まれていた。
【0006】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、耐水性に非常に優れ、高温・高湿度条件下でも充分に優れた制振性を維持できる塗膜を得る方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、耐水性に非常に優れ、高温・高湿度条件下でも充分に優れた制振性を維持できる塗膜を得る方法を種々検討し、塗膜を得るための制振材用樹脂組成物に着目した。そして、本発明者は、第2級アルコールエトキシレート骨格を有する界面活性剤成分と、重量平均分子量が6万~35万である樹脂とを含む制振材用樹脂組成物とすると、塗膜の耐水性、特に耐温水性が顕著に優れるものとなり、高温・高湿度条件下で優れた制振性を充分に維持できる塗膜を形成できることを見出し、上記課題を見事に解決できることに想到し、本発明に到達したものである。
【0008】
すなわち本発明は、第2級アルコールエトキシレート骨格を有する界面活性剤成分、及び、重量平均分子量が6万~35万である樹脂を含む制振材用樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の制振材用樹脂組成物は、耐水性に非常に優れ、高温・高湿度条件下でも優れた制振性を充分に維持できる塗膜を得ることができるものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0011】
<本発明の制振材用樹脂組成物>
本発明の制振材用樹脂組成物は、第2級アルコールエトキシレート骨格を有する界面活性剤成分、及び、重量平均分子量が6万~35万である樹脂を含む。
なお、本発明における「樹脂」とは、後述の通り、1種の重合体や、2種以上の重合体を含む重合体の混合物や複合化物等である。
本発明の制振材用樹脂組成物は、このような第2級アルコールエトキシレート骨格を有する界面活性剤成分と、重量平均分子量が6万~35万である樹脂との組合せにより、塗膜の耐水性、特に耐温水性が顕著に優れるものとなり、高温・高湿度条件下で優れた制振性を充分に維持することができる塗膜を得ることができる。
【0012】
本発明の制振材用樹脂組成物は、上記界面活性剤成分、及び、上記樹脂又はその原料を用いて得ることができる。より具体的には、本発明の制振材用樹脂組成物は、樹脂を乳化重合で製造する際の乳化剤として上記界面活性剤成分を用いて得られるものであってもよく、樹脂を製造した後に上記界面活性剤成分を添加して得られるものであってもよい。中でも、界面活性剤成分と樹脂粒子との相互作用が好適であり、形成した塗膜の耐温水性が優れ、高温・高湿度条件下でより優れた制振性を維持できることから、樹脂を乳化重合で製造する際の乳化剤として上記界面活性剤成分を用いることが望ましい。
ここで、本発明の制振材用樹脂組成物を得る際に、樹脂を乳化重合で製造する際の乳化剤として上記界面活性剤成分を用いて得る場合は、樹脂を製造した後に上記界面活性剤成分を添加して得る場合と比べて、樹脂を製造した後に該樹脂に対して上記界面活性剤成分を含む水溶液を添加する必要がないため、得られる制振材用樹脂組成物の固形分を高くしやすく、濃度の調整が簡単になり、より安定に本発明の制振材用樹脂組成物を生産することができる。
尚、本発明において、固形分とは、例えば、水系溶媒等の溶媒以外の成分、すなわち不揮発分を意味する。
また、上記界面活性剤成分は、反応性基を有していてもよく、この場合、樹脂を乳化重合で製造する際の反応性乳化剤として使用されてもよいが、その少なくとも一部が樹脂中の重合体の構成単位となっていてもよい。
以下では、先ず、本発明に係る第2級アルコールエトキシレート骨格を有する界面活性剤成分について詳しく説明する。
【0013】
(第2級アルコールエトキシレート骨格を有する界面活性剤成分)
第2級アルコールエトキシレート骨格を有する界面活性剤成分(以下、本発明に係る界面活性剤成分とも言う。)は、第2級アルコールにエチレンオキシドを含むアルキレンオキシドが付加して得られる構造を有していればよく、第2級アルコール由来の分岐状の疎水性基(例えば、炭化水素基)と、エチレンオキシドを含むアルキレンオキシドが付加した構造である親水性基とを有していればよい。エチレンオキシドを含むアルキレンオキシドが付加した構造は、エチレンオキシドを少なくとも1つ付加させて得られる(ポリ)アルキレングリコール鎖である。なお、上記(ポリ)アルキレングリコール鎖は、エチレンオキシドが少なくとも1つ付加したものであればよく、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド等のエチレンオキシド以外のアルキレンオキシドが更に付加したものであっても構わない。中でも、上記(ポリ)アルキレングリコール鎖は、エチレンオキシド由来の部位が、エチレンオキシドを含むアルキレンオキシド由来の部位の総数100モル%に対して、50~100モル%であることが好ましい。該エチレンオキシド由来の部位は、70モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましく、95モル%以上であることが更に好ましく、99モル%以上であることが特に好ましく、100モル%であることが最も好ましい。すなわち、上記(ポリ)アルキレングリコール鎖は、エチレンオキシドを1つ付加させて得られるエチレングリコール鎖又はエチレンオキシドを2つ以上付加させて得られるポリエチレングリコール鎖であることが好ましい。
【0014】
本発明の制振材用樹脂組成物において、上記第2級アルコールエトキシレート骨格を有する界面活性剤成分は、第2級炭素原子にエチレンオキシドの平均付加モル数が3~200である(ポリ)アルキレングリコール鎖が結合した構造を有することが好ましい。該平均付加モル数は、5以上であることがより好ましく、7以上であることが更に好ましく、9以上であることが一層好ましく、耐水性をより優れたものとする観点からは、12以上であることがより一層好ましく、20以上であることが特に好ましい。また、該エチレンオキシドの付加モル数は、100以下であることがより好ましく、70以下であることが更に好ましく、50以下であることが一層好ましく、40以下であることが特に好ましい。該エチレンオキシドの平均付加モル数とは、第2級アルコールが有する1モルの水酸基に対して付加させたエチレンオキシドのモル数の平均値を意味する。
【0015】
なお、この第2級アルコールの水酸基の付加位置としては特に制限はないが、均等に付加している方が好ましい。付加位置は、アルキル基末端の炭素から数えた水酸基の付加位置で表され、例えば炭素数12の第2級アルコールならば2,3,4,5,6の位置が存在する。水酸基の付加位置分布としては、単一位置成分(特定の位置成分)の最大量が各80%以下であることが好ましく、各70%以下であることがより好ましく、各50%以下であることが更に好ましく、各40%以下であることが特に好ましい。
【0016】
本発明に係る界面活性剤成分は、第2級アルコールエトキシレート骨格がもつ(ポリ)エチレングリコール鎖の末端に水酸基(-OH)を有するものであることが好ましい。
また本発明に係る界面活性剤成分は、ノニオン性であることが好ましい。これにより、本発明の制振材用樹脂組成物を用いて得られる塗膜の耐水性がより優れるものとなる。
【0017】
本発明に係る界面活性剤成分は、化合物又は化合物由来の構成単位ごとに(ポリ)エチレングリコール鎖を1つ有していてもよく、2つ以上有していてもよいが、化合物又は構成単位ごとに(ポリ)エチレングリコール鎖を1つ有することが好ましい。
【0018】
本発明に係る界面活性剤成分における第2級アルコールエトキシレート骨格は、炭素数が3以上の有機基を有する。
上記有機基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基等の炭化水素基が挙げられ、中でもアルキル基が好ましい。
上記有機基は、炭素数が5以上であることが好ましく、8以上であることがより好ましく、10以上であることが更に好ましく、12以上であることが特に好ましい。また、該炭素数が30以下であることが好ましく、24以下であることがより好ましく、18以下であることが更に好ましく、14以下であることが特に好ましい。
【0019】
本発明に係る界面活性剤成分は、下記一般式(1):
【化1】
(式中、m及びnは、それぞれ0以上の整数である。xは、エチレンオキシドの平均付加モル数を表し、3~200の数である。)で表される第2級アルコールエトキシレートであることが好ましい。
【0020】
上記一般式(1)におけるm及びnは、それぞれ1以上であることが好ましく、2以上であることがより好ましく、3以上であることが更に好ましく、4以上であることが特に好ましい。
上記一般式(1)におけるm+nの好ましい範囲は、炭化水素基CH-(CH-CH-(CH-CHの合計炭素数が上述した有機基の炭素数の好ましい範囲となるように設定すればよく、2以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましく、7以上であることが更に好ましく、9以上であることが特に好ましい。また、該炭素数が27以下であることが好ましく、21以下であることがより好ましく、15以下であることが更に好ましく、11以下であることが特に好ましい。
上記一般式(1)におけるxの好ましい範囲は、上述したエチレンオキシドの平均付加モル数の好ましい範囲と同様である。
【0021】
本発明に係る界面活性剤成分は、第2級アルコールが有する水酸基にエチレンオキシド等を付加させる等の従来公知の方法を用いて得ることができる。また、本発明に係る化合物としては、市販品を使用することも可能である。市販品としては、例えば、ソフタノール90、ソフタノール120、ソフタノール200、ソフタノール300、ソフタノール400、ソフタノール500等のソフタノールMシリーズ、ソフタノールL90等のソフタノールLシリーズ(それぞれ、株式会社日本触媒製)が挙げられる。
上述したように、本発明に係る界面活性剤成分は、(ポリ)エチレングリコール鎖の末端が水酸基であるノニオン性のものが好ましい。
【0022】
本発明の制振材用樹脂組成物は、制振材用樹脂組成物中の樹脂固形分100質量%に対して、第2級アルコールエトキシレート骨格を有する界面活性剤成分を0.1質量%以上含むことが好ましく、0.5質量%以上含むことがより好ましく、1質量%以上含むことが更に好ましく、2質量%以上含むことが特に好ましい。また、本発明の制振材用樹脂組成物は、制振材用樹脂組成物中の樹脂固形分100質量%に対して、第2級アルコールエトキシレート骨格を有する界面活性剤成分を30質量%以下含むことが好ましく、20質量%以下含むことがより好ましく、10質量%以下含むことが更に好ましく、8質量%以下含むことが特に好ましい。
【0023】
本発明の制振材用樹脂組成物は、更に、アニオン性界面活性剤成分を含むことが好ましい。これにより、本発明の制振材用樹脂組成物を、特に本発明の制振材用樹脂組成物がエマルションである場合に、より安定化することができる。
上記アニオン性界面活性剤成分は、樹脂を乳化重合で製造する際の乳化剤として好適に使用されてもよいし、樹脂を製造した後に当該樹脂に直接添加されてもよい。なお、上記アニオン性界面活性剤成分は反応性基を有していてもよく、この場合、該アニオン性界面活性剤成分は樹脂を乳化重合で製造する際の反応性乳化剤として使用され、その少なくとも一部が樹脂中の構成単位となったものであってもよい。
【0024】
上記アニオン性界面活性剤成分は、脂肪族炭化水素基を有するアニオン性界面活性剤成分を含むことが好ましい。
上記脂肪族炭化水素基を有するアニオン性界面活性剤成分としては、硫酸塩化合物、又は、コハク酸塩化合物であって、該硫酸塩化合物は、炭素数8以上の脂肪族アルキル基、オレイル基、アルキルフェニル基、スチリル基、及び、ベンジル基からなる群より選択される少なくとも1種の基を有するものであることが好ましい。炭素数8以上の脂肪族アルキル基としては、炭素数12以上あるいは芳香環を1つ以上有するものがより好ましい。
また上記脂肪族炭化水素基が、直鎖状脂肪族炭化水素基であることもまた本発明の好ましい形態の1つである。
【0025】
上記特定の構造を有するアニオン性界面活性剤成分の中でも、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、及び/又は、ポリオキシアルキレンオレイルエーテル硫酸ナトリウム塩であることが好ましい。
これらのアニオン性界面活性剤成分を用いることにより、本発明の制振材用樹脂組成物の特性がより効果的に発揮されることになる。
【0026】
上記特定の構造を有するアニオン性界面活性剤成分としては、上述したものの中でも、特に、平均付加モル数15~35のエチレンオキシド鎖を有するポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩であることが好ましい。
これらのアニオン性界面活性剤成分として特に好適な化合物としては、後述する反応性乳化剤以外に、ラテムルWX、レベノールWZ、ラテムル118B(花王社製)等を挙げることができる。
【0027】
またアニオン性界面活性剤成分は、重合性基を有する反応性乳化剤(反応性アニオン性乳化剤)であってもよく、重合性基を有する反応性乳化剤が、乳化重合時にエマルション中の重合体の構成単位となったものであってもよい。これらの中でも、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロイル基、プロペニル基等の重合性基を有する反応性乳化剤が好適に使用される。反応性乳化剤として、スルホコハク酸塩型反応性乳化剤、アルケニルコハク酸塩型反応性乳化剤、硫酸塩型反応性乳化剤等の1種又は2種以上を用いることができる。
スルホコハク酸塩型反応性乳化剤の市販品としては、ラテムルS-120、S-120A、S-180及びS-180A(いずれも商品名、花王社製)、エレミノールJS-2(商品名、三洋化成工業社製)等が挙げられる。
アルケニルコハク酸塩型反応性乳化剤の市販品としては、ラテムルASK(商品名、花王社製)等が挙げられる。
硫酸塩型反応性乳化剤の市販品としては、アデカリアソープSR-10、SR-20、SR-30(ADEKA社製)、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンスルフォネート塩(例えば、三洋化成工業社製「エレミノールRS-30」、日本乳化剤社製「アントックスMS-60」等)、アリルオキシメチルアルキルオキシポリオキシエチレンのスルフォネー卜塩(例えば、第一工業製薬社製「アクアロンKH-05」、「アクアロンKH-10」等)、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム(例えば、花王社製「ラテムルPD-104」等)等を用いることができる。
【0028】
上記アニオン性界面活性剤成分中、脂肪族炭化水素基を有するアニオン性界面活性剤成分の含有量は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
【0029】
本発明の制振材用樹脂組成物は、制振材用樹脂組成物中の樹脂固形分100質量%に対して、アニオン性界面活性剤成分を0.1質量%以上含むことが好ましく、0.5質量%以上含むことがより好ましく、1質量%以上含むことが更に好ましく、2質量%以上含むことが特に好ましい。また、本発明の制振材用樹脂組成物は、制振材用樹脂組成物中の樹脂固形分100質量%に対して、アニオン性界面活性剤成分を30質量%以下含むことが好ましく、20質量%以下含むことがより好ましく、10質量%以下含むことが更に好ましく、8質量%以下含むことが特に好ましい。
【0030】
上記第2級アルコールエトキシレート骨格を有する界面活性剤成分と、上記アニオン性界面活性剤成分との質量割合は、1:9~9:1であることが好ましい。該質量割合は、2:8~8:2であることがより好ましく、3:7~7:3であることが更に好ましい。
【0031】
本発明の制振材用樹脂組成物は、上述した第2級アルコールエトキシレート骨格を有する界面活性剤成分、脂肪族炭化水素基を有するアニオン性界面活性剤成分以外のその他の界面活性剤成分を含んでいても構わない。その他の界面活性剤成分は、樹脂を乳化重合で製造する際の乳化剤として用いられたものであってもよく、樹脂を製造した後に添加されたものであってもよい。
本発明の制振材用樹脂組成物は、制振材用樹脂組成物の固形分100質量%中、その他の界面活性剤成分を10質量%以下含むことが好ましく、1質量%以下含むことがより好ましく、0.1質量%以下含むことが更に好ましい。
【0032】
(重量平均分子量が6万~35万である樹脂)
本発明の制振材用樹脂組成物は、重量平均分子量が6万~35万である樹脂を含む。上記重量平均分子量は、好ましくは7万以上であり、より好ましくは8万以上であり、更に好ましくは11万以上であり、一層好ましくは15万以上であり、より一層好ましくは18万以上であり、更に一層好ましくは20万以上であり、特に好ましくは22万以上である。また、上記重量平均分子量は、好ましくは32万以下であり、より好ましくは30万以下であり、更に好ましくは28万以下である。
なお、重量平均分子量(Mw)は、GPCを用い、後述する実施例に記載の条件により測定することができる。
【0033】
上記樹脂は、種々のものを使用できるが、例えば、芳香環を有する不飽和単量体由来の構成単位を有する重合体を含むことが好ましい。
上記芳香環を有する不飽和単量体としては、例えば、ジビニルベンゼン、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン等が挙げられ、好ましくはスチレンである。このような形態によって、コストを削減しつつ本発明の効果を充分に発揮することができる。
【0034】
上記樹脂の原料となる単量体成分は、上記芳香環を有する不飽和単量体を含む場合は、全単量体成分100質量%に対して、1質量%以上含むことが好ましく、5質量%以上含むことがより好ましく、10質量%以上含むことが更に好ましく、15質量%以上含むことが特に好ましい。また、該単量体成分は、上記芳香環を有する不飽和単量体を、全単量体成分100質量%に対して、80質量%以下含むことが好ましく、70質量%以下含むことがより好ましく、60質量%以下含むことが更に好ましく、40質量%以下含むことが特に好ましい。
【0035】
上記樹脂はまた、例えば、(メタ)アクリル系重合体、ジエン系重合体、及び、酢酸ビニル系重合体からなる群より選択される少なくとも1種の重合体(以下、本発明に係る重合体とも言う。)を含むものが好ましい。
上記(メタ)アクリル系重合体は、(メタ)アクリル系単量体由来の構成単位を有するものであれば、(メタ)アクリル系単量体から誘導されていてもいなくてもよい。(メタ)アクリル系単量体には、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系単量体、(メタ)アクリル酸系単量体が含まれる。(メタ)アクリル酸アルキルエステル系単量体とは、(メタ)アクリル酸のカルボキシル基がアルキルアルコールでエステル化したかたちのカルボン酸エステル基を有する単量体であり、アクリロイルオキシ基若しくはメタクリロイルオキシ基とアルキル基とを有する化合物(単量体)を言う。
【0036】
上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル系単量体としては、例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、プロピルアクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、tert-ブチルアクリレート、tert-ブチルメタクリレート、ペンチルアクリレート、ペンチルメタクリレート、イソアミルアクリレート、イソアミルメタクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、オクチルアクリレート、オクチルメタクリレート、イソオクチルアクリレート、イソオクチルメタクリレート、ノニルアクリレート、ノニルメタクリレート、イソノニルアクリレート、イソノニルメタクリレート、デシルアクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルアクリレート、ドデシルメタクリレート、トリデシルアクリレート、トリデシルメタクリレート、ヘキサデシルアクリレート、ヘキサデシルメタクリレート、オクタデシルアクリレート、オクタデシルメタクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することが好適である。
【0037】
上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル系重合体の原料となる単量体成分としては、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル系単量体を、全単量体成分100質量%に対して、20質量%以上含有することが好ましく、40質量%以上含有することがより好ましく、60質量%以上含有することが更に好ましく、65質量%以上含有することが特に好ましい。また、上記(メタ)アクリル系単量体を、全単量体成分100質量%に対して、99.9質量%以下含有することが好ましく、99.8質量%以下含有することがより好ましく、99.6質量%以下含有することが更に好ましく、99.5質量%以下含有することが特に好ましい。
【0038】
上記(メタ)アクリル系重合体は、更に、(メタ)アクリル酸系単量体由来の構成単位を有することが好ましい。上記(メタ)アクリル酸系単量体とは、アクリロイルオキシ基若しくはメタクリロイルオキシ基における水素原子が結合した化合物(単量体)、もしくは、該水素原子が他の原子若しくは原子団に置き換わった化合物(単量体)であり、該基中のカルボニル基をもつカルボキシル基(-COOH基)、カルボキシル基が塩となったカルボン酸塩基、又は、カルボキシル基の酸無水物基(-C(=O)-O-C(=O)-基)を有する単量体である。上記(メタ)アクリル系重合体が(メタ)アクリル酸系単量体由来の構成単位を有することにより、本発明の制振材用樹脂組成物を含む制振塗料において、例えば顔料等の分散性が向上し、得られる塗膜の機能がより優れたものとなる。
上記(メタ)アクリル酸系単量体は、(メタ)アクリル酸(塩)であることが好ましい。(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を言う。
上記(メタ)アクリル酸系単量体の塩としては、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩等であることが好ましい。金属塩を形成する金属原子としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属原子等の1価の金属原子;カルシウム、マグネシウム等の2価の金属原子;アルミニウム、鉄等の3価の金属原子が好適である。また、有機アミン塩としては、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩等のアルカノールアミン塩や、トリエチルアミン塩が好適である。
【0039】
上記(メタ)アクリル系重合体は、例えば、(メタ)アクリル酸系単量体を、全単量体成分100質量%に対して、0.1~5質量%を共重合して得られるものであることが好ましい。上記単量体成分において、(メタ)アクリル酸系単量体が0.3質量%以上であることがより好ましく、(メタ)アクリル酸系単量体が0.5質量%以上であることが更に好ましく、(メタ)アクリル酸系単量体が0.7質量%以上であることが特に好ましい。また、上記単量体成分において、(メタ)アクリル酸系単量体が5質量%以下であることが好ましく、(メタ)アクリル酸系単量体が4質量%以下であることがより好ましく、(メタ)アクリル酸系単量体が3質量%以下であることが更に好ましい。このような範囲内とすることにより、単量体成分が安定に共重合する。
【0040】
上記(メタ)アクリル系重合体は、更に、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系単量体、(メタ)アクリル酸系単量体以外のその他の共重合可能な不飽和単量体由来の構成単位を有していてもよい。
その他の共重合可能な不飽和単量体としては、例えば、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、アリルアクリレート、アリルメタアクリレート等;これら以外の(メタ)アクリル酸系単量体のエステル化物、アクリルアミド、メタクリルアミド等:これら以外の(メタ)アクリル酸系単量体のアミド化物、アクリロニトリルや、トリメチロールプロパンジアリルエーテル等の多官能性不飽和単量体、酢酸ビニル等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することが好適である。
【0041】
上記樹脂は、本発明の課題解決に支障がない程度で、ジエン系重合体を含有していても良い。上記ジエン系重合体は、ジエン系単量体を含む単量体成分を重合して得られるものである。
上記ジエン系重合体は、例えば、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、メチルメタクリレートブタジエンゴム(MBR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)等が好適なものとして挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0042】
上記樹脂は、本発明の効果を更に優れたものとする観点から、(メタ)アクリル系重合体を含むことが好ましい。例えば、上記樹脂が重合体として(メタ)アクリル系重合体だけを含むことが本発明の特に好ましい形態の1つである。
【0043】
本発明の制振材用樹脂組成物は、水系溶媒を含み、上記樹脂は、水系溶媒中に分散しているか、又は、溶解していることが好ましく、水系溶媒中に分散していることがより好ましい。すなわち、本発明の制振材用樹脂組成物は、エマルションであることがより好ましい。なお、本明細書中、水系溶媒中に分散しているとは、水系溶媒中に溶解することなく分散していることを意味する。
また上記樹脂は、例えば、溶液重合、懸濁重合等、公知の方法により重合することができるが、その形態は、単量体成分を乳化重合してなるエマルション樹脂粒子(エマルションに存在する樹脂粒子)であることが好ましい。
【0044】
本発明の制振材用樹脂組成物は、本発明に係る樹脂を含むが、本発明に係る樹脂は、重合体を1種含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。樹脂が重合体を2種以上含む場合、2種以上の本発明に係る重合体を混合(ブレンド)して得られる混合物であってもよく、一連の製造工程の中で2種以上の本発明に係る重合体を含むものを製造(例えば、多段重合等)して得られる2種以上の本発明に係る重合体が複合化したものであってもよい。一連の製造工程の中で2種以上の本発明に係る重合体を含むものを得るためには、単量体滴下条件等の製造条件を適宜設定すればよい。上記2種以上の本発明に係る重合体が複合化したものとは、例えば、後述するコア部とシェル部とを有する形態が挙げられる。本発明に係る重合体が、コア部とシェル部とを有する形態としては、例えば、本発明に係る重合体が2種類の本発明に係る重合体からなり、該2種類の本発明に係る重合体の一方がコア部、他方がシェル部を形成しているものが挙げられる。なお、本発明に係る樹脂が(メタ)アクリル系重合体を含み、(メタ)アクリル系重合体がコア部とシェル部とを有する場合において、上記(メタ)アクリル系重合体が(メタ)アクリル系単量体を含む単量体成分を用いて得られる重合体であるとは、単量体成分を用いる製造工程のいずれかにおいて単量体成分が(メタ)アクリル系単量体を含んでいればよく、例えば、(メタ)アクリル系単量体が、エマルション樹脂粒子のコア部を形成する単量体成分、シェル部を形成する単量体成分のいずれかに含まれていればよく、これらの両方に含まれていてもよい。
【0045】
上記樹脂は、ガラス転移温度が-30~40℃であることが好ましい。樹脂としてこのようなガラス転移温度を有するものを用いると、制振材の実用温度域での制振性能を効果的に発現することができることとなる。上記樹脂のガラス転移温度は、より好ましくは-20~35℃であり、更に好ましくは-15~30℃である。
なお、ガラス転移温度(Tg)は、使用した単量体組成から、下記計算式(1)を用いて算出されるものである。
【0046】
【数1】
【0047】
式中、Tg′は、重合体のTg(絶対温度)である。W′、W′、・・・Wn′は、全単量体成分に対する各単量体の質量分率である。T、T、・・・Tnは、各単量体成分からなるホモポリマー(単独重合体)のガラス転移温度(絶対温度)である。
なお、本発明に係る樹脂が2種以上の重合体を含む場合、または、重合体の少なくとも1種が多段重合して得られるものである場合(例えば、コア部とシェル部とを有するエマルション樹脂粒子である場合)は、上記ガラス転移温度は、全ての段で用いた単量体組成から算出したTg(トータルTg)を意味する。
【0048】
上記樹脂の平均粒子径は80~450nmであることが好ましい。
これにより、制振材に要求される塗工性等の基本性能を充分なものとした上で、制振性をより優れたものとすることができる。平均粒子径は、より好ましくは400nm以下であり、更に好ましくは350nm以下である。また、平均粒子径は、好ましくは100nm以上である。
上記平均粒子径は後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0049】
本発明の制振材用樹脂組成物中における、上記樹脂の固形分の含有量は、本発明の制振材用樹脂組成物の固形分100質量%中、20質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることが更に好ましく、80質量%以上であることが特に好ましく、90質量%以上であることが最も好ましい。
【0050】
(その他の成分)
本発明の制振材用樹脂組成物は、上述した界面活性剤成分及び樹脂を含むものである限り、効果を阻害しない範囲で、上述した界面活性剤成分及び樹脂以外のその他の成分を含んでもよい。その他の成分としては、例えば、第1級アルコールエトキシレート骨格を有する化合物等の公知の界面活性剤、溶媒、防腐剤等が挙げられる。
【0051】
(溶媒)
本発明の制振材用樹脂組成物は、その他の成分として、水系溶媒等の溶媒を含むことが好ましい。
なお、本明細書中、水系溶媒は、水を含む限りその他の有機溶媒を含んでいてもよいが、水であることが好ましい。
【0052】
本発明の制振材用樹脂組成物は、固形分の含有割合が制振材用樹脂組成物全体に対して40~80質量%であることが好ましく、50~70質量%であることがより好ましい。
【0053】
本発明の制振材用樹脂組成物のpHとしては特に限定されないが、2~10であることが好ましく、3~9.5であることがより好ましく、7~9であることが更に好ましい。pHは、樹脂に、アンモニア水、水溶性アミン類、水酸化アルカリ水溶液等を添加することによって調整することができる。
本明細書中、pHは、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0054】
本発明の制振材用樹脂組成物の粘度としては特に限定されないが、1~10000mPa・sであることが好ましく、2~8000mPa・sであることがより好ましく、3~6000mPa・sであることが更に好ましく、5~5000mPa・sであることが一層好ましく、10~4000mPa・sであることがより一層好ましく、20~3000mPa・sであることが更に一層好ましく、30~2000mPa・sであることが特に好ましく、40~1000mPa・sであることが更に特に好ましく、50~500mPa・sであることが最も好ましい。
本明細書中、粘度は、後述する実施例に記載の条件により測定することができる。
【0055】
本発明の制振材用樹脂組成物は、これ自体を塗布して制振被膜を形成するのに用いることができるが、通常、後述する本発明の制振塗料を得るために用いられる。
【0056】
<本発明の制振材用樹脂組成物の製造方法>
本発明の制振材用樹脂組成物の製造方法は特に制限されないが、例えば、特開2011-231184号公報に記載の製造方法と同様の方法により好適に製造することができる。
また例えば、本発明は、第2級アルコールエトキシレート骨格を有する界面活性剤の存在下で単量体成分を乳化重合して重量平均分子量が6万~35万であるエマルション樹脂粒子を得る工程を含む制振材用樹脂組成物の製造方法でもある。このようにして得られる制振材用樹脂組成物を用いて形成した塗膜の耐温水性はより優れるものとなり、高温・高湿度条件下でより優れた制振性を維持できる。また、得られる制振材用樹脂組成物の固形分を高くしやすく、濃度の調整が簡単になり、より安定に本発明の制振材用樹脂組成物を生産することができる。
上記第2級アルコールエトキシレート骨格を有する界面活性剤とは、上述した第2級アルコールエトキシレート骨格を有する界面活性剤成分のうち、重合体の構成単位以外のもの(重合体とは別の化合物)を言う。なお、上記第2級アルコールエトキシレート骨格を有する界面活性剤は、重合性基を有する反応性乳化剤であってもよく、重合性基を有することで、乳化重合時に第2級アルコールエトキシレート骨格がエマルション中の重合体の構成単位となることができるものであってもよい。
【0057】
上記乳化重合における重合温度としては特に限定されず、例えば、0~100℃とすることが好ましく、30~90℃とすることがより好ましい。また、重合時間も特に限定されず、例えば、0.1~15時間とすることが好ましく、1~10時間とすることがより好ましい。
【0058】
<本発明の制振塗料>
本発明はまた、本発明の制振材用樹脂組成物、及び、顔料を含む制振塗料でもある。本発明の制振塗料が含む制振材用樹脂組成物の好ましいものは、上述した本発明の制振材用樹脂組成物の好ましいものと同様である。
本発明の制振塗料の固形分100質量%中、本発明の制振材用樹脂組成物に含まれる樹脂の固形分は、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることが更に好ましく、15質量%以上であることが特に好ましい。また、上記樹脂の固形分は、70質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることが更に好ましい。
【0059】
(顔料)
上記顔料は、有機顔料であってもよく、無機顔料であってもよいが、無機顔料であることが好ましい。上記無機顔料は、例えば、無機着色剤、防錆顔料、充填材等の1種又は2種以上を使用することができる。該無機着色剤としては、酸化チタン、カーボンブラック、弁柄等が挙げられる。該防錆顔料としては、リン酸金属塩、モリブデン酸金属塩、硼酸金属塩等が挙げられる。該充填材としては、炭酸カルシウム、カオリン、シリカ、タルク、硫酸バリウム、アルミナ、酸化鉄、ガラストーク、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、珪藻土、クレー等の無機質充填材;ガラスフレーク、マイカ等の鱗片状無機質充填材;金属酸化物ウィスカー、ガラス繊維等の繊維状無機質充填材等が挙げられる。
上記顔料は、平均粒子径が1~50μmのものが好ましい。顔料の平均粒子径は、レーザー回析式粒度分布測定装置により測定することができ、粒度分布からの重量50%径の値である。
上記顔料の配合量としては、本発明の制振塗料中の樹脂の固形分100質量部に対し、10~900質量部とすることが好ましく、より好ましくは100~800質量部であり、更に好ましくは200~500質量部である。
【0060】
(分散剤)
本発明の制振塗料は、更に分散剤を含んでいてもよい。
上記分散剤としては、例えば、ヘキサメタリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム等の無機質分散剤、及び、ポリカルボン酸系分散剤等の有機質分散剤が挙げられる。
上記分散剤の配合量としては、本発明の制振塗料中の樹脂の固形分100質量部に対し、固形分で0.1~8質量部が好ましく、0.5~6質量部がより好ましく、1~3質量部が更に好ましい。
【0061】
(増粘剤)
本発明の制振塗料は、更に増粘剤を含んでいてもよい。
上記増粘剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース系誘導体、ポリカルボン酸系樹脂等が挙げられる。
上記増粘剤の配合量としては、本発明の制振塗料中の樹脂の固形分100質量部に対し、固形分で0.01~5質量部が好ましく、0.1~4質量部がより好ましく、0.2~2質量部が更に好ましい。
【0062】
(その他の成分)
本発明の制振塗料は、更にその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、例えば、発泡剤;溶媒;有機着色剤;ゲル化剤;消泡剤;可塑剤;安定剤;湿潤剤;防腐剤;発泡防止剤;老化防止剤;防黴剤;紫外線吸収剤;帯電防止剤等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。
なお、上記顔料、分散剤、増粘剤、及び、他の成分は、例えば、ディスパー、バタフライミキサー、プラネタリーミキサー、スパイラルミキサー、ニーダー、ディゾルバー等を用いて、本発明に係る界面活性剤成分や樹脂等と混合され得る。
【0063】
(溶媒)
上記溶媒としては、例えば、水;エチレングリコール、ブチルセロソルブ、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート等の有機溶媒が挙げられる。溶媒の配合量としては、本発明の制振塗料の固形分濃度を調整するために適宜設定すればよい。
【0064】
(制振塗料としての使用)
本発明は、制振材用樹脂組成物、及び、顔料を含む配合物の制振塗料としての使用であって、該制振材用樹脂組成物は、第2級アルコールエトキシレート骨格を有する界面活性剤成分、及び、重量平均分子量が6万~35万である樹脂を含むことを特徴とする使用でもある。
【0065】
<本発明の塗膜>
本発明は更に、本発明の制振塗料を用いて得られる制振材(塗膜)でもある。
本発明の塗膜は、厚みが2~8mmであることが好ましい。より充分な制振性を発揮することと、良好な塗膜を形成する点を考慮すると、このような厚みが好ましい。塗膜の厚みは、より好ましくは、2~6mmであり、更に好ましくは、2~5mmである。
【0066】
本発明の塗膜を形成するための基材は、塗膜を形成することができる限り特に制限されず、鋼板等の金属材料、プラスチック材料等いずれのものであってもよい。中でも、鋼板の表面に塗膜を形成することは、本発明の制振性塗膜の好ましい使用形態の1つである。
【0067】
本発明の塗膜は、例えば、刷毛、へら、エアスプレー、エアレススプレー、モルタルガン、リシンガン等を用いて本発明の制振塗料を塗布することより得ることができる。
【0068】
本発明の塗膜は、塗布した本発明の制振塗料を加熱乾燥して得られるものであることが好ましい。加熱乾燥においては、本発明の制振塗料を基材上に塗布して形成した塗膜を40~200℃にすることが好ましい。より好ましくは、90~180℃であり、更に好ましくは、100~160℃である。加熱乾燥の前により低温で予備乾燥を行っても構わない。
また、塗膜を上記温度にする時間は、1~300分であることが好ましい。より好ましくは、2~250分であり、特に好ましくは、10~150分である。
【0069】
本発明の塗膜の制振性は、膜の損失係数を測定することにより評価することができる。
損失係数は、通常ηで表され、塗膜に対して与えた振動がどの程度減衰したかを示すものである。上記損失係数は、数値が高いほど制振性能に優れていることを示す。
上記損失係数は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0070】
本発明の塗膜は、本発明の制振材用樹脂組成物を用いることにより、耐水性に非常に優れ、高温・高湿度条件下でも充分に優れた制振性を維持できる。具体的には、本発明の塗膜では、水分を吸収して制振性が低下したり、温度と制振性との相関性曲線(制振性カーブ)が変化したりすることを抑制する効果を有し、塗膜の品質を長期間維持することができる。よって、本発明の塗膜は、自動車、鉄道車両、船舶、航空機等の輸送機関や電気機器、建築構造物、建設機器等に好適に用いることができる。
【0071】
<本発明の乗り物>
本発明は、例えば、本発明の塗膜を有する乗り物でもある。本発明の乗り物は、その構成部材の少なくとも1つが、本発明の塗膜を有していればよい。乗り物としては、自動車、鉄道車両、船舶、航空機等が挙げられる。本発明の乗り物は、本発明の塗膜を有することにより、高温・高湿度条件下でも充分に優れた制振性を維持できる。
【実施例
【0072】
以下に発明を実施するための形態を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの発明を実施するための形態のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
以下の製造例において、各種物性等は以下のように評価した。
<平均粒子径>
エマルション樹脂粒子の平均粒子径は動的光散乱法による粒度分布測定器(大塚電子株式会社FPAR-1000)を用い測定した。
<不揮発分(N.V.)>
得られたエマルション約1gを秤量、熱風乾燥機で150℃×1時間後、乾燥残量を不揮発分として、乾燥前質量に対する比率を質量%で表示した。
<pH>
pHメーター(堀場製作所社製「F-23」)により25℃での値を測定した。
<粘度>
B型回転粘度計(東機産業社製「VISCOMETER TUB-10」)を用いて、25℃、20rpmの条件下で測定した。
【0073】
<重量平均分子量>
以下の測定条件下で、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定した。
測定機器:HLC-8120GPC(商品名、東ソー社製)
分子量カラム:TSK-GEL GMHXL-Lと、TSK-GELG5000HXL(いずれも東ソー社製)とを直列に接続して使用
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
検量線用標準物質:ポリスチレン(東ソー社製)
測定方法:測定対象物を固形分が約0.2質量%となるようにTHFに溶解し、フィルターにてろ過した物を測定サンプルとして分子量を測定する。
【0074】
なお、全ての段で用いた単量体組成から算出したTgを「トータルTg」として記載した。
上記計算式(1)により重合性単量体成分のガラス転移温度(Tg)を算出するのに使用したそれぞれのホモポリマーのTg値を下記に示した。
メチルメタクリレート(MMA):105℃
スチレン(St):100℃
ブチルアクリレート(BA):-56℃
2-エチルヘキシルアクリレート(2EHA):-70℃
アクリル酸(AA):95℃
【0075】
<エマルション(本発明の制振材用樹脂組成物)の製造例等>
(製造例1)
撹拌機、還流冷却管、温度計、窒素導入管及び滴下ロートを取り付けた重合器に脱イオン水280部を仕込んだ。その後、窒素ガス気流下で撹拌しながら内温を75℃まで昇温した。一方、上記滴下ロートにメチルメタクリレート550部、ブチルアクリレート310部、2-エチルヘキシルアクリレート130部、アクリル酸10部、連鎖移動剤であるt-ドデシルメルカプタン(t-DM)1.2部、それぞれ予め20%水溶液に調整した、ソフタノール300(日本触媒社製)125部及びレベノールWZ(商品名、花王社製)125部、並びに、脱イオン水183.0部からなる単量体乳化物を仕込んだ。次に、重合器の内温を75℃に維持しながら、上記単量体乳化物のうちの27.0部、重合開始剤(酸化剤)である5%過硫酸カリウム水溶液5部及び2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液10部を添加し、初期重合を開始した。40分後、反応系内を80℃に維持したまま、残りの単量体乳化物を210分にわたって均一に滴下した。同時に5%過硫酸カリウム水溶液95部及び2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液90部を210分かけて均一に滴下し、滴下終了後60分同温度を維持し、重合を終了した。
得られた反応液を室温まで冷却後、2-ジメチルエタノールアミン16.7部、脱イオン水39部を添加し、不揮発分55.0%、pH8.5、粘度300mPa・s、平均粒子径200nm、ポリマーのガラス転移温度8.6℃、重量平均分子量347000のアクリル系エマルション(オールアクリル系エマルション)1を得た。
【0076】
(製造例2)
メチルメタクリレート550部、ブチルアクリレート310部、2-エチルヘキシルアクリレート130部の代わりに、スチレン550部、ブチルアクリレート130部、2-エチルヘキシルアクリレート310部を使用した以外は製造例1と同様の反応を行い、ポリマーのガラス転移温度7.1℃、重量平均分子量276000のアクリル系エマルション(アクリルスチレン系エマルション)2を得た。
【0077】
(製造例3)
予め20%水溶液に調整したソフタノール300(日本触媒社製)125部の代わりに予め20%水溶液に調整したソフタノール90(日本触媒社製)125部を使用し、t-ドデシルメルカプタンの使用量を1.2部から1.8部に変更した以外は製造例1と同様の反応を行い、重量平均分子量221000のアクリル系エマルション(オールアクリル系エマルション)3を得た。
【0078】
(製造例4)
予め20%水溶液に調整したレベノールWZ(商品名、花王社製)125部の代わりに予め20%水溶液に調整したアデカリアソープSR-10(商品名、ADEKA社製)125部を使用し、メチルメタクリレート550部の代わりにスチレン550部を使用し、t-ドデシルメルカプタンの使用量を1.2部から2.5部に変更した以外は製造例1と同様の反応を行い、重量平均分子量155000のアクリル系エマルション(アクリルスチレン系エマルション)4を得た。
【0079】
(製造例5)
予め20%水溶液に調整したソフタノール300(日本触媒社製)125部の代わりに予め20%水溶液に調整したソフタノール500(日本触媒社製)125部を使用し、t-ドデシルメルカプタンの使用量を1.2部から3.5部に変更した以外は製造例1と同様の反応を行い、重量平均分子量85000のアクリル系エマルション(アクリルスチレン系エマルション)5を得た。
【0080】
(製造例6)
それぞれ予め20%水溶液に調整した、ソフタノール300(日本触媒社製)125部及びレベノールWZ(商品名、花王社製)125部の代わりに予め20%水溶液に調整した、ソフタノール500(日本触媒社製)125部及びレベノールWZ(商品名、花王社製)200部を使用し、t-ドデシルメルカプタンの使用量を1.2部から2.7部に変更した以外は製造例1と同様の反応を行い、重量平均分子量115000のアクリル系エマルション(アクリルスチレン系エマルション)6を得た。
【0081】
(製造例7)
それぞれ予め20%水溶液に調整した、ソフタノール300(日本触媒社製)125部及びレベノールWZ(商品名、花王社製)125部の代わりに予め20%水溶液に調整したレベノールWZ(商品名、花王社製)250部を使用し、t-ドデシルメルカプタンの使用量を1.2部から1.8部に変更した以外は製造例1と同様の反応を行い、重量平均分子量230000のアクリル系エマルション(オールアクリル系エマルション)7を得た。
【0082】
(製造例8)
それぞれ予め20%水溶液に調整した、ソフタノール300(日本触媒社製)125部及びレベノールWZ(商品名、花王社製)125部の代わりに予め20%水溶液に調整したネオペレックスG-65(商品名、花王社製)250部を使用し、t-ドデシルメルカプタンの使用量を1.2部から1.8部に変更した以外は製造例1と同様の反応を行い、重量平均分子量228000のアクリル系エマルション(オールアクリル系エマルション)8を得た。
【0083】
(製造例9)
t-ドデシルメルカプタンの使用量を1.2部から5.0部に変更した以外は製造例1と同様の反応を行い、重量平均分子量51000のアクリル系エマルション(オールアクリル系エマルション)9を得た。
【0084】
なお、上記製造例で用いた第2級アルコールエトキシレート骨格を有する界面活性剤の具体的内容は以下のとおりである。
(ソフタノール300)
株式会社日本触媒製:ポリオキシエチレンアルキルエーテル(第2級アルコールエトキシレート)、EO付加モル数30、第2級アルコールのアルキル基部分の炭素数12~14
(ソフタノール90)
株式会社日本触媒製:ポリオキシエチレンアルキルエーテル(第2級アルコールエトキシレート)、EO付加モル数9、第2級アルコールのアルキル基部分の炭素数12~14
(ソフタノール500)
株式会社日本触媒製:ポリオキシエチレンアルキルエーテル(第2級アルコールエトキシレート)、EO付加モル数50、第2級アルコールのアルキル基部分の炭素数12~14
【0085】
また上記製造例で用いたアニオン性界面活性剤の具体的内容は以下のとおりである。
(レベノールWZ)
花王社製:ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム
(アデカリアソープSR-10)
ADEKA社製:アリルオキシメチルアルコキシエチルヒドロキシポリオキシエチレン硫酸エステル塩
(ネオペレックスG-65)
花王社製:ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム
【0086】
(実施例1~4、参考例1、実施例6、比較例1~3)
<制振塗料の調製>
実施例1~4、参考例1、実施例6として、製造例1~6において得られたアクリル系エマルション1~6、及び、比較例1~3として、製造例7~9において得られたアクリル系エマルション7~9を、それぞれ下記の通り配合し、制振塗料を作製し、以下のように各種特性を評価した。結果を表1に示す。
アクリル系エマルション1~9 350部
炭酸カルシウムNN#200*1 620部
分散剤 アクアリックDL-40S*2 6部
増粘剤 アクリセットWR-650*3 4部
*1:日東粉化工業株式会社製 充填剤
*2:株式会社日本触媒製 ポリカルボン酸型分散剤(有効成分44%)
*3:株式会社日本触媒製 アルカリ可溶性のアクリル系増粘剤(有効成分30%)
【0087】
各種特性の評価方法を以下に示す。
上記実施例、比較例で得られた制振塗料について、塗膜の外観評価、制振性試験、及び、機械的安定性の評価を下記方法にて実施した。結果を表1に示す。
【0088】
<制振性試験>
実施例1~4、参考例1、実施例6及び比較例1~3で調製した制振塗料を冷間圧延鋼板(商品名SPCC・幅15mm×長さ250mm×厚み1.5mm、日本テストパネル社製)の上に3mmの厚みで塗布して80℃で30分間予備乾燥後、150℃で30分間乾燥し、冷間圧延鋼板上に面密度4.0Kg/mの制振材被膜を形成した。
制振性の測定は、それぞれの温度(10℃、30℃、50℃)における損失係数を、片持ち梁法(株式会社小野測機製損失係数測定システム)を用いて評価した。また、制振性の評価は、総損失係数(10℃、30℃、50℃での損失係数の和)により行い、総損失係数の値が大きいほど制振性に優れるものとした。
【0089】
<耐水性の評価>
[吸水率の評価]
実施例1~4、参考例1、実施例6及び比較例1~3で調製した制振塗料から、幅50mm×長さ100mm×厚み4.0mmの試験片を作製し、150℃で50分間乾燥し、乾燥塗膜を得た。続いて得られた乾燥塗膜の重量を測定し、それぞれ25℃及び50℃に調整した脱イオン水に48時間浸漬後、その重量を測定した。浸漬前後の重量から、下記式で吸水率を求め、以下の基準で評価した。
吸水率=((浸漬後の塗膜重量)-(乾燥塗膜重量))/(乾燥塗膜重量)×100(wt%)
【0090】
[25℃の脱イオン水に48時間浸漬後の塗膜外観評価]
○:塗膜の形状が、浸漬前と変化なし。
×:浸漬前と大きく異なる。一部または全部が消失している。
【0091】
<耐水試験後の制振性評価>
制振性試験に使用した片持ち梁試験片を、25℃に調整した脱イオン水に24時間浸漬し、余分な水分を拭き取った後、速やかに制振性試験と同様の手法で損失係数を測定した。
耐水試験後に測定した制振性(10℃、30℃、50℃での損失係数の和)の結果を表1に示す。また、耐水試験前の制振性に対する耐水試験後の制振性の変化率を以下の式で算出した。その変化率を表1に示す。
耐水試験前の制振性に対する耐水試験後の制振性の変化率(%)={耐水試験前に測定した制振性(10℃、30℃、50℃での損失係数の和)-耐水試験後に測定した制振性(10℃、30℃、50℃での損失係数の和)}/耐水試験前に測定した制振性(10℃、30℃、50℃での損失係数の和)×100
【0092】
【表1】
【0093】
実施例1~4、参考例1、実施例6と比較例1、2とを比較(特に、乳化剤〔界面活性剤〕以外の製造条件が同様の実施例3と比較例1とを比較)すると、界面活性剤として、アニオン性界面活性剤のみではなく、第2級アルコールエトキシレート骨格を有する界面活性剤を使用することで、耐水性(特に、耐温水性)が顕著に優れたものとなることが分かった。また、制振性がより優れたものとなり、しかも耐水試験後も制振性をより充分に維持できることが分かった。
また実施例1~4、参考例1、実施例6と比較例3とを比較すると、樹脂の重量平均分子量を6万~35万の範囲内とすることで、耐水性(特に、耐温水性)が顕著に優れたものとなることが分かった。また、制振性がより優れたものとなり、しかも耐水試験後も制振性をより充分に維持できることが分かった。
実施例の制振塗料は、界面活性剤として第2級アルコールエトキシレート骨格を有する界面活性剤を使用することと、樹脂の重量平均分子量を6万~35万の範囲内とすることの組合せにより、耐水性に非常に優れ、高温・高湿度条件下でも充分に優れた制振性を発揮できる塗膜を形成できるものであった。
【0094】
実施例の塗膜は、水分を吸収して制振性が低下したり、温度と制振性との相関性曲線(制振性カーブ)が変化したりすることを抑制する効果を有し、塗膜の品質を長期間維持することが可能であった。