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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-05
(45)【発行日】2022-10-14
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/08 20060101AFI20221006BHJP
   G01P 3/486 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
H02P27/08
G01P3/486 X
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021095139
(22)【出願日】2021-06-07
(62)【分割の表示】P 2019547907の分割
【原出願日】2018-06-13
(65)【公開番号】P2021141816
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2021-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2017196591
(32)【優先日】2017-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 弘
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 正貴
(72)【発明者】
【氏名】平賀 正宏
(72)【発明者】
【氏名】荒尾 祐介
(72)【発明者】
【氏名】中村 敦彦
(72)【発明者】
【氏名】富田 浩之
(72)【発明者】
【氏名】堀田 和茂
(72)【発明者】
【氏名】小沼 雄作
【審査官】柏崎 翔
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0046486(US,A1)
【文献】特開2011-64578(JP,A)
【文献】特開2008-39722(JP,A)
【文献】特開平10-174473(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/08
G01P 3/486
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電圧を交流電圧に変換してモータに供給するインバータと、
前記モータに接続されるエンコーダから得られる出力パルスから、前記モータの速度を算出する速度算出部と、
前記速度算出部から前記モータの速度を受信し、前記インバータを制御する制御部とを有し、
前記速度算出部は、
記出力パルスの定速時デューティ比を測定し、
前記出力パルスの第1の半周期を測定し、前記第1の半周期に対して前記定速時デューティ比を用いた第1の計算により前記モータの速度を算出し、
前記出力パルスの第2の半周期を測定し、前記第2の半周期に対して前記定速時デューティ比を用いた第2の計算により前記モータの速度を算出
前記出力パルスの第1の遷移から第2の遷移への半周期である、前記第1の半周期T1を測定し、
前記出力パルスの前記第2の遷移から前記第1の遷移への半周期である、前記第2の半周期T2を測定し、
直近で測定終了した方の半周期に対して前記第1の計算または前記第2の計算を適用し、直近の前記モータの速度を算出する、
電力変換装置。
【請求項2】
前記第1の計算は、
N=60/((T1×100/D)×p)[rpm]
であり、
前記第2の計算は、
N=60/((T2×100/(100-D))×p)[rpm]
であり、
ただし、Nは前記モータの回転数(rpm)、Dは前記定速時デューティ比(%)、T1は前記第1の半周期の長さ(sec)、T2は前記第2の半周期の長さ(sec)、pは前記エンコーダがモータ1回転当たり生成するパルス数[ppr]である、
請求項記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、速度算出装置およびこれを用いた電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電力変換装置においては、モータの速度や位置を検出する為にエンコーダ信号を入力可能なものも存在する。モータの回転速度の検出に関しては、エンコーダ信号のパルス波の全周期または半周期を計測する方式があった(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-294199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電力変換装置における、エンコーダ信号の全周期または半周期の計測によるモータ回転速度検出の方法は、(1)エンコーダ信号の全周期を測定する方式か半周期を測定する方式のいずれか一方に固定されているか(以下「固定式」ということがある)、もしくは、(2)ユーザがパラメータ設定によってどちらかの方法を使用開始前に選択する方式(以下「選択式」ということがある)であった。
【0005】
ここで、半周期測定方式の方が短い時間で速度を確定できる為、検出の時間軸上の分解能(検出頻度)としては細かく測定でき有利である。したがって、精度の点からは半周期測定方式を使用したい所であるが、機械的には回転角度方向に一定間隔で信号生成手段の一部であるスリット等が施された構造のエンコーダを使用した場合でも、電力変換装置への電子回路を含む伝送路の方式(オープンコレクタ方式の場合等)によると、モータが実際には定速で回転していたとしても、その信号のデューティが50%に保たれない場合がある。
【0006】
信号のデューティ比50%が保証されない場合に半周期での検出方法を適用すると、信号の立ち上がりエッジから立下りエッジの半周期と、立下りエッジから立ち上がりエッジまでの半周期の時間が異なることになる。よって、これらそれぞれから導かれる異なるモータ速度が交互に算出され、結果、正しいモータ速度が検出されない。あらかじめ検出結果からモータ速度を読み取れるように平滑化フィルタをかけていても、検出速度が安定せず、実際の速度と乖離することがある。
【0007】
以上のように、信号のデューティ比の状態によって、全周期を測定する方式と半周期を測定する方式を選択して適用できることが望ましい場合がある。
【0008】
このような場合、全周期か半周期に固定する方式(固定式)の場合は、電力変換装置本体やその増設装置もしくは基板の交換か、あるいは、エンコーダから電力変換装置への伝送路の方式変更もしくは交換が必要である。
【0009】
また、ユーザがパラメータ設定によって使用開始前に全周期か半周期を選択する方式(選択式)の場合は、パラメータの再設定が必要となる。このため、安定的なモータ駆動の為には一般には電力変換装置を停止させ、モータが回転を停止してからパラメータの再設定をすることになり、電力変換装置の設置から運転開始までの工数がより多くかかる状況であった。
【0010】
また、エンコーダから電力変換装置への伝送路の経年変化等によって、デューティ比が50%からずれて来る場合がある。この場合には、固定式か選択式かによらず測定に誤差が生じ、電力変換装置やその上位装置が測定値を異常と認識し、システム停止に至る可能性がある。また、電力変換装置がエンコーダによる速度検出結果を用いた速度制御をしている場合は、モータ速度の不安定を招いたり、モータに接続された機械への負担を増し破損に至る状況も想定された。
【0011】
そこで本発明では、前記のような速度検出方式の選択による煩雑な工数を省略し、極力細かい時間軸上の分解能を維持し、安定稼働を実現する速度検出方法、および該方法を搭載した電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一側面は、駆動対象物に接続されるエンコーダから得られる出力パルスから、駆動対象物の速度を算出する速度算出装置である。この装置は、出力パルスのデューティ比を測定し、デューティ比が所定範囲内の場合は、出力パルスの半周期を用いて速度を算出し、デューティ比が所定範囲外の場合は、出力パルスの全周期を用いて速度を算出する。
【0013】
本発明の他の一側面は、直流電圧を交流電圧に変換してモータに供給するインバータと、モータに接続されるエンコーダから得られる出力パルスから、モータの速度を算出するモータ速度算出部と、モータ速度算出部からモータの速度を受信し、インバータを制御する制御部とを有する電力変換装置である。この電力変換装置では、モータ速度算出部は、出力パルスのデューティ比を測定し、デューティ比が50%に対して所定範囲内の場合は、出力パルスの半周期を用いて速度を算出し、デューティ比が50%に対して所定範囲外の場合は、出力パルスの全周期を用いて速度を算出する。
【0014】
本発明の他の一側面は、直流電圧を交流電圧に変換してモータに供給するインバータと、モータに接続されるエンコーダから得られる出力パルスから、モータの速度を算出する速度算出部と、速度算出部からモータの速度を受信し、インバータを制御する制御部とを有する電力変換装置である。この電力変換装置では、速度算出部は、出力パルスの定速時デューティ比を測定し、出力パルスの第1の半周期を測定し、第1の半周期に対して定速時デューティ比を用いた第1の計算によりモータの速度を算出し、出力パルスの第2の半周期を測定し、第2の半周期に対して定速時デューティ比を用いた第2の計算によりモータの速度を算出する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、速度検出方式の選択による煩雑な工数を省略し、極力細かい時間軸上の分解能を維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】電力変換装置の一実施例を示す構成ブロック図である。
図2】実施例1による、速度検出の方式を全周期測定または半周期測定に自動で切り替える処理の一例を示すフローチャートである。
図3】実施例におけるエンコーダ信号の各周期を説明するグラフである。
図4】実施例2による、適用検出速度を全周期測定による速度または半周期測定による速度に自動で切り替える処理の一例を示すフローチャートである。
図5】実施例3による、エンコーダ信号の半周期を測定しておき、速度検出の処理方式をデューティ比と半周期の区分により自動で切り替える処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、実施例を図面を用いて説明する。図面等において示す各構成の位置、大きさ、形状、範囲などは、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、形状、範囲などを表していない場合がある。このため、本発明は、必ずしも、図面等に開示された位置、大きさ、形状、範囲などに限定されない。
【0018】
以下で説明する実施例の一例では、電力変換装置がモータを定速とするような出力をしている際に、エンコーダからの入力信号のデューティを測定し、これが50%近傍の所定の値から外れた場合に速度検出の方式を全周期測定にし、逆に所定の値に収まる場合に速度検出の方式を半周期測定に自動で切り替える手段を備えるという構成をとる。
【0019】
このような構成によれば、エンコーダ信号によるモータ速度検出の方式が全周期か半周期に固定でなくなり、適切でない方式選定による電力変換装置本体やその増設装置・基板の交換やエンコーダから電力変換装置への伝送路の方式変更・交換等の追加工数を低減できる。
【0020】
また、従来はユーザがパラメータ設定によって使用開始前に全周期か半周期を選択していた場合においても、不適切なパラメータ設定による電力変換装置・モータの一時停止を伴うパラメータ再設定の工数を低減できる。エンコーダから電力変換装置への伝送路の経年変化によってデューティが50%からずれて来た場合の、電力変換装置やその上位装置での異常検知によるシステム停止や、電力変換装置の速度制御のフィードバック擾乱によるモータ速度の不安定を未然に防止する事が可能となり、モータに接続された機械への負担増や破損のリスクを低減、システムとしての可用性向上に寄与する電力変換装置を提供することができる。
【実施例1】
【0021】
本実施例では、エンコーダ信号の全周期または半周期を用いたモータ速度検出法の自動切替について説明する。すなわち、エンコーダ信号が回転機器の1回転当たりM個の回転位置を示す位置信号を出力する場合、全周期を用いた速度検出では、回転機器の1回転当たりM回の計測期間において速度が計測され、半周期を用いた速度検出では、回転機器の1回転当たり2×M回の計測期間において速度が計測されることになる。
【0022】
図1は本実施例の電力変換装置100の構成図の例である。一般に電力変換装置100は、図中の交流電源101、モータ112、エンコーダ113以外の部分で構成されることが多い。図において、交流電源101とコンバータ部102、コンバータ部102と平滑用コンデンサ103、平滑用コンデンサ103とインバータ部104(駆動回路を含む)、インバータ部104とモータ112、モータ112とエンコーダ113、エンコーダ113とエンコーダ出力信号伝送路(A相/B相)114、エンコーダ出力信号伝送路(A相/B相)114とモータ速度算出部115が接続される。なおエンコーダ出力信号には、A相、B相のほか1回転に一度出力されるZ相を含めてもよい。
【0023】
周知のようにエンコーダは、例えばモータに取り付けられる円盤形状をしており、モータの回転角度方向に一定間隔でスリット等が施され、スリットを通過する光によりエンコーダ信号を生成する。すなわち、モータ軸の回転と共にディスクが回転すると、それに応じて、一対のスリットを通る光が透過、遮断される。この光は、それぞれのスリットに対抗する受光素子で電気信号に変換され、波形整形されて2つの矩形波出力(A相、B相)として出力される。この一対のスリットは、矩形波出力の位相が互いに1/4ピッチ異なるように配置されており、A相、B相は理想的には1/4周期ずれている。このA相、B相を用いて、モータの回転速度と回転方向を検出することができる。本実施例ではエンコーダ113自体は、市販されている一般的な構成を使用してよい。
【0024】
また、制御部108と電流検出器105、電圧検出器106、PWM(Pulse Width Modulation)演算部109、モータ速度算出部115がそれぞれ接続されている。さらに電流検出器105はインバータ部104とモータ112の間に、電圧検出器106は平滑用コンデンサ103とインバータ部104の間に、PWM演算部109はインバータ部104に接続されている。
【0025】
制御部108はPWM演算部109とモータ速度算出部115にモータ速度指令116を伝達し、モータ速度算出部115はモータ検出速度117を制御部108に伝達する。制御部ではモータ検出速度117を各種の制御に用いる。例えば、モータ速度指令116とモータ検出速度117とを比較して、フィードバック速度制御を行う。また、モータ速度算出部115は、制御部108にデューティを測定中であることを示すデューティ測定中信号119を送信する。
【0026】
次に動作について説明する。まず、コンバータ部102は、商用の交流電源101から供給された三相交流電圧を整流して直流電圧に変換し、平滑用コンデンサ103に充電する働きをする。一方、インバータ部104は、ブリッジ接続されたトランジスタとダイオードにより構成され、平滑用コンデンサ103で平滑化された直流電圧を、3相交流電圧に変換し、モータ112に供給する働きをする。
【0027】
制御部108は、設定器107から与えられる速度目標値とその上限値である最高周波数、加減速時間のパラメータに対応して、直線、S字等の所望のパターンで時々刻々のモータ速度指令116を加減速演算し、これをPWM演算部109に伝達する。
【0028】
同時に制御部108は、モータ速度指令116とは別に演算したモータ電圧指令118をPWM演算部109に伝達する。そこで、PWM演算部109は、モータ速度指令116とモータ電圧指令118からパルス幅変調演算を実施、所定のスイッチング信号を発生し、これをインバータ部104に出力する。
【0029】
この結果、このとき指令されている速度に対応した所定の電圧で所定の周波数の3相交流電力が、インバータ部104からモータ112に供給されることになる。記憶部110は、設定器107から制御部108に与えられた速度目標値や加速時間等のパラメータの設定値を記憶し、表示器111は、制御部108が記憶部110から取り込んだパラメータの設定値を表示する。
【0030】
図2はエンコーダからの入力信号デューティ値により、速度検出の方式を全周期測定または半周期測定に自動で切り替える処理を示すフローチャートの例である。当該処理は図1の電力変換装置100において、主にモータ速度算出部115によって行われる。以下、エンコーダ信号の全周期または半周期を用いたモータ速度検出法の自動切替を実施する処理を、図2のフローチャートを用いて説明する。
【0031】
ここでまず、図2中「START」から「END」までの処理は、一定の周期にて繰返し実行されるものとする。電力変換装置100では、制御部108は、設定器107から与えられる速度目標値とその上限値である最高周波数、加減速時間等のパラメータに対応して、直線、S字等の所望のパターンで時々刻々のモータ速度指令116を加減速演算して生成する。周知のようにPWM演算部109は、周期は一定で、入力信号(たとえばDCレベル)の大きさに応じて、パルス幅のデュ-ティ・サイクル(パルス幅のHとLの比)を変え、モータを制御する回路である。PWM演算部109は、モータ速度指令116を用いてインバータ部104を制御する制御信号を生成してモータ112の回転数を制御し、モータが速度目標値に到達すると、定速状態となる。
【0032】
定速状態では、制御部108からモータ速度算出部115に伝達されるモータ速度指令116は、速度目標値に等しい値を維持するに至る。この時、モータ速度算出部115は、図2のフローチャートで、まず、前回実行時のモータ速度指令116と変化がない、もしくはモータ速度指令116が速度目標値に等しいといった条件で、モータ速度が定速かどうかを判定する(S201)。
【0033】
この判定結果が「Yes」ならモータ速度算出部115はエンコーダ信号の定速時デューティ比を測定する(S202)。ここで、デューティ比測定中にモータ速度指令116が変動しないことを保証する為に、モータ速度算出部115はデューティ測定中信号119を出力し、制御部108はこの信号がONの間は、モータ速度指令116を直近で確定した値に固定としても良い。上記構成をとる理由は、デューティ比測定中にモータ速度が変動すると、当該モータ速度の変動によってもデューティ比が変動するため、モータ速度の変動に基づくデューティ比変化を除外することが望まれるからである。
【0034】
判定結果が「No」なら新たにエンコーダ信号の定速時デューティ比は測定せずに、前回定速になった際の定速時デューティ比を保持する。ここで、エンコーダ信号の定速時デューティ比は、例えばマイクロコンピュータの周辺機能であるタイマを一定クロックにて用い、エンコーダ信号の両エッジまたは片方いずれかのエッジのタイミングで、タイマカウント値を自動取得しレジスタに格納する機能を使う事で、信号が「High」,「Low」それぞれの状態にある時間を測定でき、これらの比を取ることで定速時デューティ比を算出できる。
【0035】
次に、例えば、
|定速時デューティ比-50| < 所定値
の条件で、定速時デューティ比が50%近傍(デューティ比50%プラスマイナスX%の範囲内)にあるかを判定する(S203)。ここで所定値Xは例えば0.5%等の小さな値を選ぶ。この判定結果が「Yes」ならエンコーダ信号の半周期を測定する(S204)。判定結果が「No」ならエンコーダ信号の全周期を測定する(S205)。
【0036】
次に、S204またはS205で測定したエンコーダ信号の半周期・全周期の値を用いて、モータ検出速度117を算出する(S206)。ここで、S204で測定した半周期(Th[s]:直近で測定終了した半周期)を用いるモータ検出速度117の算出式は、モータに1回転当たり p[ppr (Pulse per revolution)]のエンコーダとして、
N = 60/(2*Th*p)
となり、S205で測定した全周期(Tf[s]=T1+T2)を用いるモータ検出速度117の算出式は、
N = 60/(Tf*p)
となる。このモータ検出速度117は、ユーザ参照用モニタや速度制御の為に利用される。ここで、T1は前半の半周期、T2は後半の半周期であり、理想的にはTh=T1=T2であるが、本実施例ではこの等式が成立しない場合に着目している。
【0037】
図3は、エンコーダ信号の1相分(A相あるいはB相)信号の波形図の例である。デューティ比は、パルス周期時間と1周期のHレベル時間の比であるから、図3においてT1×100/(T1+T2)がデューティ比を示している。図3では、デューティ比が50%からずれた状態を示している。このようなずれは、エンコーダ自体が機械的に完全であったとしても、例えば図1のエンコーダ113からモータ速度算出部115へ至る電気回路の特性により生じうる。T1は第1の半周期[s]であり、たとえばパルスの立ち上がり、立ち下り間に相当する。T2は第2の半周期[s]であり、たとえばパルスの立ち下り、立ち上がり間に相当する。
【0038】
ここで、図2の処理S206相当の処理にて、切替をせずに常にエンコーダ出力信号の半周期を用いてモータ検出速度を算出する従来の方法では、図3のようなエンコーダの1相分信号が繰り返される定速状態の場合、この時のデューティDが、
D = T1*100/(T1+T2) = 17%
であるとして、モータに1回転当たり p[ppr](Pulse per revolution) のエンコーダが取りつけられていている場合、モータ回転数N[rpm](Revolution per minites) は、
N = 60/(2*T1*p), N = 60/(2*T2*p)
で交互に求められ、
p=1024[ppr],
TF = T1+T2 = 32.55[μs],
T1=5.5335 [μs],
T2=27.0165[μs]
の時、
N=5294[rpm], N=1084[rpm]
と定速にも関わらず、正しく測定した値 N=60/(TF*p)≒1800 [rpm]と著しく異なる値が交互に測定される状況であった。
【0039】
前記実施例で説明した方法によれば、エンコーダ信号によるモータ速度検出の方式が全周期か半周期に固定でなくなり、デューティが50%近傍の場合のみ半周期測定した結果が自動で適用され、前記の数値例で言えば N=1800 [rpm] をモータ検出速度として算出することができる。このため、適切でない方式選定による電力変換装置本体やその増設装置・基板の交換やエンコーダから電力変換装置への伝送路の方式変更・交換等の追加工数を低減できる。
【0040】
また、従来はユーザがパラメータ設定によって使用開始前に全周期か半周期を選択していた場合においても、不適切なパラメータ設定による電力変換装置・モータの一時停止を伴うパラメータ再設定の工数を低減できる。エンコーダから電力変換装置への伝送路の経年変化によってデューティが50%からずれて来た場合の、電力変換装置やその上位装置での異常検知によるシステム停止や、電力変換装置の速度制御のフィードバック擾乱によるモータ速度の不安定を未然に防止する事が可能となり、モータに接続された機械への負担増や破損のリスクを低減、システムとしての可用性向上に寄与する電力変換装置を提供することができる。
【0041】
また、この例の場合、特にモータ速度指令が定速となることがあれば、運転中でも信号の状況を監視して自動で測定法を切り替えられるので、経年変化等による突然の挙動不安定を防止できる。又、モータ速度指令116が定速とならない利用法の場合は、速度検出方式を全周期又は半周期と判定するのに必要な時間分、制御部108内にて、別途自動的にモータ速度指令116を定速としても良い。
【0042】
また、本実施形態でのエンコーダを、ロータリエンコーダ、リニアエンコーダ、インクリメンタルエンコーダ、レゾルバ信号をエンコーダ相信号当に変換・取り扱うようにしたものに置き換えても良い。
【0043】
また、エンコーダの信号として一般にA相、B相、Z相が存在するが、本速度検出法の構成法は、これらの内A相かB相の一つに適用しても良いし、双方に適用しても良い。
Z相についても設計上デューティ50%となるZ相パルスを対象とするならば、こちらに適用しても良いし、設計上デューティ50%でない場合も図5の方法を適用しても良い。
【0044】
また、前記定速かどうかの判定方法としては、図1のモータ速度指令116が前回値と今回値の変動が所定範囲内である状態を1回ないし所定回数継続した場合を以て定速と判定しても良いし、モータ速度指令116の変動とモータへの出力電流値の変動が所定範囲内である状態を1回ないし所定回数継続した場合を以て定速と判定しても良いし、エンコーダ信号の半周期、全周期、もしくはそのそれぞれについての前回値からの変動が所定範囲内である状態を1回ないし所定回数継続した場合を以て定速と判定しても良い。
【0045】
また、ここで半周期とは、立ち上がりエッジから立ち下りエッジ、立ち下りエッジから立ち上がりエッジの一方、もしくは両方を指す。また、全周期は、立ち上がりエッジ間、立ち下がりエッジ間の一方、もしくは両方を指す。
【0046】
また、図2のフローチャートの条件判定S201の内容を、「電源投入、始動後最初の定速?」に変更して、定速かどうかの判定を最初の1回に限るものも考えられる。この場合、運転中常に判定を実施しないことによる、マイクロコンピュータの処理負荷率増大を抑制することが可能で、かつ、周期の測定方法を最初の判定以降固定できることで、運転中の変動を嫌う用途の場合に有効である。また、装置の電源を投入し、モータ始動後に定速到達する度に条件判定で分岐するようにしてもよい。
【0047】
また、図2のフローチャートの条件判定S201の内容を、「接続モータ中駆動するモータを選択した後の最初の定速到達?」に変更したものも考えられる。電力変換装置はその出力にコンタクタを介して複数のモータを接続する場合があり、かつ、電力変換装置に入力する制御用信号やパラメータ設定によって、次の運転指令で駆動するモータを選択することで、1台の電力変換装置で機械の複数軸を切り替えつつ駆動して、機械全体に必要とする電力変換装置の数を減らしコスト低減を狙うことがある。このような使用方法で、選択対象の各モータにエンコーダが取り付けられている場合に、上記の判定条件とすることでモータ選択を切り替える度に、エンコーダ周期測定の方法を切り替えることができる。
【0048】
また、図2のフローチャートの条件判定S201の内容を、「駆動するモータのパラメータを設定した後の最初の定速到達?」に変更したものも考えられる。これは、前記のモータ切替がなく1つのモータが新たに接続された場合、又はモータ切替対象の各々のモータを新たに接続された場合に、各モータの特性に合わせた適切な制御を実施する為に、モータの電気回路定数をパラメータ設定、もしくは電力変換装置が自動測定する場合があるが、このパラメータ設定もしくは自動測定を実施した後の最初の定速到達時に、エンコーダ信号の周期測定法を1回判定、切り替える。
【0049】
また、図2のフローチャートの条件判定S201の内容を、「駆動するモータに取り付けられたエンコーダの特性を示す為の電力変換装置に設けられたパラメータを設定した後の最初の定速到達?」に変更したものも考えられる。これは、例えばエンコーダ付モータ1回転当たりのエンコーダパルス数を示す電力変換装置に予め設けられたパラメータを接続モータに合わせて設定した後に、エンコーダ周期測定法を切り替える事を意味する。
【実施例2】
【0050】
別の実施形態として、全周期測定と半周期測定を切替えるのではなく、同じ相のエンコーダ信号を2系統の測定手段(例えばマイクロコンピュータの2チャンネルのタイマ)に入力しておき、常に一方は半周期、一方は全周期を測定して其々モータ速度を検出し、検出された2系統のモータ速度を選択して使用する方式がある。
【0051】
図4は、実施例2のモータ速度算出部115が実行する処理を説明するフロー図である。このフローは、実施例1の図2のフローと同様に周期的に繰り返される。
【0052】
処理S401では、前回検出した「今回半周期モータ検出速度」を「前回半周期モータ検出速度」のデータにセットし、前回検出した「今回全周期モータ検出速度」を「前回全周期モータ検出速度」のデータにセットする。
【0053】
処理S402では、エンコーダ信号の半周期、全周期を両方とも測定する。処理S403では、処理S402で測定したエンコーダ信号の半周期を用いて「今回半周期モータ検出速度」を算出し、平行して、エンコーダ信号の全周期を用いて「今回全周期モータ検出速度」を算出する。
【0054】
処理S404ではモータ速度指令が定速で、かつデューティ比が50%近傍かどうかを判定する。この処理は実施例1と同様に行うことができる。
【0055】
このとき、定速時にデューティ比が50%近傍であるか否かで、処理S402で測定した全周期または半周期の一方の測定結果を選択し、処理S403で一方のモータ検出速度を算出しても良い。あるいは、図4の処理S403に示すように全周期/半周期共にモータ検出速度を常に算出しておいて、処理S404により定速時にデューティ比が50%近傍であるか否かを判定して、適用するモータ検出速度を選択するようにしてもよい。
【0056】
実施例2では、処理S402で常にエンコーダ信号の半周期と全周期を測定しているので、これを利用して処理S404の変形例を採用することもできる。
【0057】
処理S404においてモータ速度が定速かどうか判定する変形例の具体例としては、「前回全周期モータ検出速度」と「今回全周期モータ検出速度」の変動が所定範囲内かどうかを判定する構成がある。もしくは、「前回T1半周期モータ検出速度」と「今回T1半周期モータ検出速度」の変動が所定範囲内かどうかを判定する構成でもよい。もしくは、「前回T2半周期モータ検出速度」と「今回T2半周期モータ検出速度」の変動が所定範囲内かどうかを判定する構成でもよい。これらの判定の結果、変動が所定範囲内であれば定速と判断することができる。このとき、実施例1で説明した、モータ速度指令を用いた判定を併用すれば、判定の信頼性が向上する。
【0058】
また、デューティ比が50%近傍であるか否かの判定は、実施例1と同様に構成してもよいが、前記処理S404で説明した方法等で定速と判断した状況で、半周期に関しては常にT1,T2,T1,T2と常に交互に測定しておき、半周期に基づいて算出したモータ検出速度を利用する方法がある。すなわち、直前と今回、つまり、T1由来、T2由来のデューティ比50%を前提とした計算式で算出したモータ検出速度を定速時に毎回比較し、変動が所定範囲内かどうかで判定しても良い。
【0059】
つまり、前回の「半周期モータ検出速度」と今回の「半周期モータ検出速度」の変動が所定範囲内かどうかで、間接的にデューティ比が50%近傍であるか否かを判定することができる。すなわち、図3を参照すると、前回の半周期がT1であり、今回の半周期がT2であるとすれば、デューティ比が50%近傍であれば、定速時にT1とT2はほぼ等しく、結果的に其々から得られる半周期モータ検出速度はほぼ等しくなる。
【0060】
この現象を用いれば、デューティ比が50%近傍であるか否かの判定と定速の状態の検出を、同時に行うことができる。すなわち、T1,T2を用いた半周期モータ検出速度の変動が所定範囲内の場合は、定速でかつデューティ比50%近傍、所定範囲外の場合は、デューティ比が50%から外れるか、あるいは、モータが加減速状態にあると判定できる。
【0061】
この場合、常時判定を実施すると加減速状態では全周期モータ検出速度を採用することになるが、一定期間内に半周期モータ検出速度の変動が所定範囲内となることがあれば、その後の一定期間は半周期を採用する、と定めることで、加減速時に全周期を常に採用することを避けることができる。もちろん、モータ速度指令を用いた定速判定を併用すれば、判定の信頼性が向上する。
【0062】
また、モータが定速でない場合でも、制御部108がモータ速度指令116として算出したモータ112の加減速率を加味して、将来のT1,T2半周期を予測して算出、この値と信号から検出した半周期の差が所定範囲内に収まるかでデューティ比50%近傍を判定する事も考えられる。つまり、例えば加速率からデューティ比50%であればT1半周期時、次回T2半周期が今回の80%となると算出できる場合、エンコーダ信号から検出されたT2半周期がこの80%から所定範囲以上外れれば、デューティ比は50%近傍ではない、いう判定が可能となる。
【0063】
従って、前回の「半周期モータ検出速度」と今回の「半周期モータ検出速度」の変動が所定範囲内であれば、半周期モータ検出速度をそのまま用い、変動が所定範囲外であれば、全周期モータ検出速度に切り替えるように制御を行えばよい。
【0064】
処理S404の判定により、「Yes」の場合は、制御用フラグである「適用モータ検出速度種別」に「半周期」をセットする(処理S405)。「No」の場合は、「適用モータ検出速度種別」に「全周期」をセットする(処理S406)。
【0065】
処理S407では、制御用フラグである「適用モータ検出速度種別」をチェックし、それが「半周期」かどうかを判定する。
【0066】
処理S407の判定により、「Yes」の場合は、制御データである「適用モータ検出速度」として、「今回半周期モータ検出速度」が使用される(S408)。「No」の場合は、制御データである「適用モータ検出速度」として、「今回全周期モータ検出速度」が使用される(S409)。モータ速度算出部115は「適用モータ検出速度」をモータ検出速度117として、制御部108に伝達する。
【0067】
ここで、直近で測定終了した半周期をTh[s]、全周期を(Tf[s]=T1+T2)、モータ1回転当たり p[ppr](Pulse per revolution) のエンコーダとすると、処理S403における「今回半周期モータ検出速度」N[rpm]の算出式は、
N = 60/(2*Th*p)
となり、処理S403の「今回全周期モータ検出速度」 N[rpm]の算出式は、
N = 60/(Tf*p)
となる。
【0068】
以上説明したように実施例2では、エンコーダ信号の全周期、半周期によるモータ検出速度を常に演算しておき、定速時のデューティ比を直接測定せずに、半周期によるモータ検出速度の変動によって、適用するモータ検出速度を半周期、全周期どちらによる値とするか選択できることを示している。
【実施例3】
【0069】
図5は、実施例3のモータ速度算出部115が実行する処理を説明するフロー図である。実施例3では、エンコーダ信号の全周期と半周期の測定の切替ではなく、適用する処理を切り替えることで同等の効果を得る。すなわち、モータが定速時のデューティ比を測定しておき、エンコーダ信号は半周期を常時測定しておき、また、測定した半周期が前半か後半かを特定しておく。これにより、直近の半周期が前半か後半かによって、当該半周期からモータ速度を検出する処理を選択し、正確な速度を算出するものである。
【0070】
処理S501では、実施例1と同様にモータ速度が定速かどうかを判定する。処理S502では、モータ速度が定速時には、エンコーダ信号の定速時デューティ比D%を測定し、「定速時デューティ比」のデータにセットする。
【0071】
一方、処理S503では、モータ速度算出部115は、常時エンコーダ信号の立ち上がりから立ち下りの半周期(T1 [s])、立ち下りから立ち上りの半周期(T2 [s])を測定している(図3参照)。直近で測定終了した方をTh [s] にセットし、その種別を変数 K にセットする。例えば、T1を直近で測定した場合K=1,、T2を直近で測定した場合K=2のようにセットする。
【0072】
処理504では、変数K の値で モータ回転数 N を求める数式を選択する分岐を実施する。
【0073】
直近が T1 を測定の場合は
N = 60/( (T1*100/D)*p ) [rpm] (S505)、
直近が T2 を測定の場合は
N = 60/( (T2*100/(100 - D))*p ) [rpm] (S506)
となる。
【0074】
実施例3では、本発明による、エンコーダ信号の立ち上がりから立ち下りの半周期と、立ち下りから立ち上りの半周期を常に測定しておき、定速時デューティ比Dにより双方の半周期から全周期を演算し、この値からモータ検出速度を算出する処理を示した。
【0075】
以上の処理によると、各半周期と定速時デューティDに依り、半周期毎に全周期を求め、正確なモータ検出速度を算出することが可能である。また、半周期/全周期測定切替に比し、定速時デューティ比が50%から遠く、最初の実施形態の場合では全周期測定を適用する場合でも、時間軸上の分解能を半周期相当に維持しつつ、モータ検出速度の精度も維持することができる。
【0076】
以上の実施例で説明したように、モータが定速回転にもかかわらずエンコーダ出力信号のデューティ比が50%でない場合、半周期検出法では信号の前半周期と後半周期が異なり検出速度が安定しない問題があった。本実施例では、デューティ比の状態によって検出方法を変えることにより、短時間で速度確定可能な半周期測定方式の利益を享受しつつ上記の問題を解決している。この構成により、本実施例では細かい時間軸上分解能を維持する速度検出法、それを搭載して電力変換装置の提供を可能としている。
【0077】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0078】
また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、例えば、モータ速度算出部115は、マイコンで構成されており、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【0079】
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【符号の説明】
【0080】
101・・・交流電源、102・・・コンバータ部、103・・・平滑用コンデンサ、104・・・インバータ部(駆動回路を含む)、105・・・電流検出器、106・・・電圧検出器、107・・・設定器、108・・・制御部、110・・・記憶部、111・・・表示器、112・・・モータ、113・・・エンコーダ、114・・・エンコーダ出力信号伝送路(A相/B相)、115・・・モータ速度算出部、116・・・モータ速度指令、117・・・モータ検出速度、118・・・モータ電圧指令、
119・・・デューティ測定中信号
図1
図2
図3
図4
図5