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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-05
(45)【発行日】2022-10-14
(54)【発明の名称】電子線監視装置及び電子線照射システム
(51)【国際特許分類】
   G21K 5/04 20060101AFI20221006BHJP
   H01J 37/30 20060101ALI20221006BHJP
   G01T 1/29 20060101ALI20221006BHJP
   H01J 37/244 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
G21K5/04 C
G21K5/04 E
H01J37/30
G01T1/29 A
H01J37/244
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021169425
(22)【出願日】2021-10-15
【審査請求日】2022-08-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100156395
【弁理士】
【氏名又は名称】荒井 寿王
(72)【発明者】
【氏名】松井 信二郎
【審査官】後藤 大思
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-10533(JP,A)
【文献】特開2004-361195(JP,A)
【文献】特開2011-99839(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21K 5/00-7/00
G21K 1/00-3/00
B01J 14/00-19/32
B05C 7/00-21/00
G01T 1/00-1/16
G01T 1/167-7/12
H01J 37/00-37/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線を出射窓を介して被照射物に照射する電子線照射装置を含む電子線照射システムにおいて、当該電子線を監視する電子線監視装置であって、
前記出射窓と前記被照射物との間に向けた検出面を有し、X線を検出する第1X線検出部と、
前記出射窓に対向するように配置され、X線の一次元分布又は二次元分布を検出する第2X線検出部と、を備える、電子線監視装置。
【請求項2】
前記出射窓は、長尺な形状を呈し、
前記第1X線検出部は、前記出射窓の長手方向において前記出射窓に対して離間する位置に配置されている、請求項1に記載の電子線監視装置。
【請求項3】
前記第1X線検出部は、前記X線を検出するチャンネルを1つのみ有する第1X線検出器を1つのみ備える、請求項1又は2に記載の電子線監視装置。
【請求項4】
前記第1X線検出部は、前記X線を検出するチャンネルを1つのみ有する第1X線検出器を複数備える、請求項1又は2に記載の電子線監視装置。
【請求項5】
複数の前記第1X線検出器のうちの一対の前記第1X線検出器は、前記電子線照射装置から照射された電子線が到達する範囲である電子線到達範囲を挟んで互いに対向するように配置される、請求項4に記載の電子線監視装置。
【請求項6】
前記第2X線検出部は、長尺な形状の検出面を有する、請求項1~5の何れか一項に記載の電子線監視装置。
【請求項7】
前記第2X線検出部は、前記X線を検出するチャンネルを複数有する第2X線検出器を備え、
複数の前記チャンネルは、一次元状又は二次元状に並べられている、請求項1~6の何れか一項に記載の電子線監視装置。
【請求項8】
前記第2X線検出部は、前記X線を検出するチャンネルを1つのみ有する第2X線検出器を複数備え、
複数の前記第2X線検出器は、一次元状又は二次元状に並べられている、請求項1~6の何れか一項に記載の電子線監視装置。
【請求項9】
前記出射窓と前記第2X線検出部との間に配置され、X線の進行方向を前記出射窓に対向する方向に沿うように制限するコリメータを備える、請求項1~5の何れか一項に記載の電子線監視装置。
【請求項10】
前記第2X線検出部に入力されるX線を遮断可能な遮断部を備える、請求項1~9の何れか一項に記載の電子線監視装置。
【請求項11】
前記第1X線検出部及び前記第2X線検出部は、前記被照射物への前記電子線の照射を妨げない位置に配置されている、請求項1~10の何れか一項に記載の電子線監視装置。
【請求項12】
前記第1X線検出部及び前記第2X線検出部は、前記電子線照射装置から照射された電子線が到達する範囲である電子線到達範囲外に配置されている、請求項11に記載の電子線監視装置。
【請求項13】
前記第1X線検出部の検出結果に基づいて、前記第2X線検出部の検出結果を補正する補正部を備える、請求項1~12の何れか一項に記載の電子線監視装置。
【請求項14】
前記第1X線検出部は、経時的に検出データを取得し、
前記第2X線検出部は、複数のチャンネルにおいて経時的に検出データを取得し、
前記補正部は、
前記第1X線検出部で取得した検出データの変動率を、第1変動率として算出し、
前記第2X線検出部で取得した複数の検出データの総和又は平均の変動率を、第2変動率として算出し、
前記第2変動率が前記第1変動率と一致するように、前記第2X線検出部における複数のチャンネルで取得する検出データのそれぞれに、補正係数を乗算する、請求項13に記載の電子線監視装置。
【請求項15】
前記電子線照射システムは、前記被照射物を搬送する搬送面を備えた搬送機構を含み、
前記第1X線検出部は、前記搬送面に沿う方向であって前記搬送機構の搬送方向と交差する所定方向において前記搬送面に対して離間する位置に配置され、
前記第2X線検出部は、前記搬送面に対して前記出射窓側と反対側に配置されている、請求項1~14の何れか一項に記載の電子線監視装置。
【請求項16】
請求項1~15の何れか一項に記載の電子線監視装置を備える、電子線照射システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子線監視装置及び電子線照射システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電子線照射システムとして、例えば特許文献1には、電子線を出射窓(電子線取出部材)を介して被照射物に照射する電子線照射装置を備えたシステムが記載されている。この電子線照射装置の真空容器(スキャンホーン)の側壁には、真空容器内から外部に導かれた電子線を測定する目的で、X線検出器が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-053924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような電子線照射システムでは、例えば微小放電の発生及び出射窓の透過率の変動等の要因により、被照射物に照射される電子線の線量及び分布が変化する可能性がある。そのため、例えば印刷のインク硬化に電子線照射システムが利用される場合には、インクの一部が硬化されない等の問題が発生し得る。よって、上述したような電子線照射システムでは、被照射物に照射される電子線の線量及び分布を監視(換言すると、被照射物に照射中の電子線の線量及び分布をリアルタイムで検出)することが望まれる。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、被照射物に照射される電子線の線量及び分布を監視することができる電子線監視装置及び電子線照射システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る電子線監視装置は、電子線を出射窓を介して被照射物に照射する電子線照射装置を含む電子線照射システムにおいて、当該電子線を監視する電子線監視装置であって、出射窓と被照射物との間に向けた検出面を有し、X線を検出する第1X線検出部と、出射窓に対向するように配置され、X線の一次元分布又は二次元分布を検出する第2X線検出部と、を備える。
【0007】
出射窓を介して被照射物に照射される電子線は、例えば出射窓と被照射物との間の照射雰囲気中の気体分子と衝突を繰り返しつつ被照射物に照射されるが、この衝突に伴ってX線が発生する。つまり、出射窓を介して被照射物に照射される電子線は、当該電子線の照射に伴って発生するX線と深い関係がある。よって、当該X線を監視することで、被照射物に照射される電子線を監視できることが見出される。この点、本発明に係る電子線監視装置では、第1X線検出部により、被照射物に照射される電子線によって生じたX線の線量を監視することができる。これと共に、第2X線検出部により、被照射物に照射される電子線によって生じたX線の分布を監視することができる。したがって、被照射物に照射される電子線の線量及び分布を監視することが可能となる。
【0008】
本発明に係る電子線監視装置では、出射窓は、長尺な形状を呈し、第1X線検出部は、出射窓の長手方向において出射窓に対して離間する位置に配置されていてもよい。このような第1X線検出部の配置は、出射窓が長尺な形状を呈する場合において、生じたX線の全体的な線量を第1X線検出部で監視する上で有効である。
【0009】
本発明に係る電子線監視装置では、第1X線検出部は、X線を検出するチャンネルを1つのみ有する第1X線検出器を1つのみ備えていてもよい。この場合、X線を検出するチャンネルを1つのみ有する第1X線検出器を利用して、複雑な信号処理を行うことなく、生じたX線の全体的な線量の監視を容易に行うことが可能となる。
【0010】
本発明に係る電子線監視装置では、第1X線検出部は、X線を検出するチャンネルを1つのみ有する第1X線検出器を複数備えていてもよい。さらに、複数の第1X線検出器のうちの一対の第1X線検出器は、電子線照射装置から照射された電子線が到達する範囲である電子線到達範囲を挟んで互いに対向するように配置されていてもよい。この場合、X線を検出するチャンネルを1つのみ有する第1X線検出器を複数利用することで、生じたX線の全体的な線量の監視をより正確に行うことが可能となる。
【0011】
本発明に係る電子線監視装置では、第2X線検出部は、長尺な形状の検出面を有していてもよい。この場合、長尺な形状の検出面を有する第2X線検出部を利用して、出射窓の長手方向におけるX線の分布を監視することが可能となる。
【0012】
本発明に係る電子線監視装置では、第2X線検出部は、X線を検出するチャンネルを複数有する第2X線検出器を備え、チャンネルは、一次元状又は二次元状に並べられていてもよい。この場合、一次元状又は二次元状に並べられた複数のチャンネルを有する第2X線検出器を利用して、より詳細にX線の分布を監視することが可能となる。
【0013】
本発明に係る電子線監視装置では、第2X線検出部は、X線を検出するチャンネルを1つのみ有する第2X線検出器を複数備え、第2X線検出器は、一次元状又は二次元状に並べられていてもよい。この場合、一次元状又は二次元状に並べられた複数の第2X線検出器を利用して、より詳細にX線の分布を監視することが可能となる。
【0014】
本発明に係る電子線監視装置は、出射窓と第2X線検出部との間に配置され、X線の進行方向を出射窓に対向する方向に沿うように制限するコリメータを備えていてもよい。この場合、第2X線検出部に入力されるX線の進行方向を出射窓に対向する方向に沿わせ、X線の一次元分布又は二次元分布を第2X線検出部で精度よく検出することが可能となる。
【0015】
本発明に係る電子線監視装置は、第2X線検出部に入力されるX線を遮断可能な遮断部を備えていてもよい。この場合、遮断部により、例えば検出時以外には第2X線検出部にX線が入力されないように当該X線を遮断することができる。これにより、第2X線検出部へのX線の照射時間が増加するのに伴って第2X線検出部の感度が変化してしまうことを抑制することが可能となる。
【0016】
本発明に係る電子線監視装置では、第1X線検出部及び第2X線検出部は、被照射物への電子線の照射を妨げない位置に配置されていてもよい。さらに、第1X線検出部及び第2X線検出部は、電子線照射装置から照射された電子線が到達する範囲である電子線到達範囲外に配置されていてもよい。この場合、被照射物への電子線の照射と干渉しない位置に第1X線検出部及び第2X線検出部を配置することが可能となる。
【0017】
本発明に係る電子線監視装置は、第1X線検出部の検出結果に基づいて、第2X線検出部の検出結果を補正する補正部を備えていてもよい。これにより、第1X線検出部の検出結果に基づいて第2X線検出部の検出結果を補正し、第2X線検出部の感度変動による悪影響を抑えることが可能となる。これにより、X線の一次元分布又は二次元分布を精度よく検出することができ、被照射物に照射される電子線の分布を精度よく監視することが可能となる。
【0018】
本発明に係る電子線監視装置では、第1X線検出部は、経時的に検出データを取得し、第2X線検出部は、複数のチャンネルにおいて経時的に検出データを取得し、補正部は、第1X線検出部で取得した検出データの変動率を、第1変動率として算出し、第2X線検出部で取得した複数の検出データの総和又は平均の変動率を、第2変動率として算出し、第2変動率が第1変動率と一致するように、第2X線検出部における複数のチャンネルで取得する検出データのそれぞれに、補正係数を乗算してもよい。この場合、第2X線検出部の検出結果を効果的に補正することが可能となる。
【0019】
本発明に係る電子線監視装置では、電子線照射システムは、被照射物を搬送する搬送面を備えた搬送機構を含み、第1X線検出部は、搬送面に沿う方向であって搬送機構の搬送方向と交差する所定方向において搬送面に対して離間する位置に配置され、第2X線検出部は、搬送面に対して出射窓側と反対側に配置されていてもよい。この場合、搬送機構を含む電子線照射システムにおいて、第1X線検出部及び第2X線検出部を搬送に影響のない位置に適用することができる。
【0020】
本発明に係る電子線照射システムは、上記電子線監視装置を備える。電子線照射システムにおいても、上記電子線監視装置を備えることから、被照射物に照射される電子線の線量及び分布を監視することが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、被照射物に照射される電子線の線量及び分布を監視することができる電子線監視装置及び電子線照射システムを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、実施形態に係る電子線照射システムを示す斜視図である。
図2図2は、図1の電子線照射装置を示す縦断面図である。
図3図3は、図1の電子線監視装置を示す概略図である。
図4図4は、図3のポイントセンサの例を示す模式的断面図である。
図5図5は、図3の電子線監視装置による電子線監視方法の例を示すフローチャートである。
図6図6は、図3の電子線監視装置による電子線監視方法の例を示す他のフローチャートである。
図7図7は、ポイントセンサの検出データによるラインセンサの検出データの補正例を示す表である。
図8図8は、変形例に係る電子線監視装置を示す概略図である。
図9図9は、他の変形例に係る電子線監視装置を示す概略斜視図である。
図10図10は、図9の第2X線検出器としてのポイントセンサを示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を用い、重複する説明を省略する。
【0024】
図1は、電子線照射システム100を示す斜視図である。図2は、電子線照射装置1を示す縦断面図である。X方向、Y方向及びZ方向は、図示する方向に基づいており便宜的なものである。ここでの例では、X方向は水平方向に対応し、Y方向はX方向に垂直な水平方向に対応し、Z方向は鉛直方向に対応する。
【0025】
図1に示されるように、電子線照射システム100は、被照射物Sへの電子線の照射によって当該被照射物Sの滅菌、乾燥又は表面改質等を行うために使用されるシステムである。例えば被照射物Sは、印刷物であり、電子線照射システム100は、印刷物のインクの乾燥に用いられる。なお、被照射物Sは、特に限定されず、種々の物体であってもよい。また、被照射物Sへの電子線の照射は、被照射物Sの全体に限らず、被照射物Sの一部でもよい。電子線照射システム100は、電子線照射装置1と、搬送機構8と、コントローラ9と、を備える。
【0026】
図2に示されるように、電子線照射装置1は、電子線通過孔20を形成するチャンバ30と、電子線通過孔20のZ方向の一端側を塞ぐようにチャンバ30に気密に取り付けられた電子銃40と、電子線通過孔20のZ方向の他端側を塞ぐようにチャンバ30に気密に取り付けられた電子線透過ユニット50と、を有する。電子銃40が発生した電子線EBは、電子線通過孔20をZ方向に沿って進行し、電子線透過ユニット50の出射窓55を介して外部に出射する。
【0027】
チャンバ30は、電子線を発生する電子銃40が取り付けられた筐体31を有している。筐体31は、金属により円柱状に形成されている。電子銃40は、金属により直方体状に形成されたケース41を有している。ケース41は、筐体31に気密に固定されている。ケース41内には、絶縁性材料(例えば、エポキシ樹脂等)からなる絶縁ブロック42が配置されている。絶縁ブロック42は、ケース41内に収容された基部42aと、基部42aからZ方向に突出する突出部42bと、を含む。絶縁ブロック42には、コネクタ43の先端部が埋設されている。
【0028】
コネクタ43は、外部の電源装置から、カソードであるフィラメント44に高電圧を供給するためのものである。コネクタ43の基端部は、ケース41外に突出している。コネクタ43の先端部には、一対の内部配線46,46が接続されている。一対の内部配線46,46は、突出部42bの前端部まで延在しており、一対の給電用ピン47,47にそれぞれ接続されている。一対の給電用ピン47,47の先端部には、フィラメント44が掛け渡されている。突出部42bには、給電用ピン47及びフィラメント44を包囲するように、グリッド電極48が固定されている。
【0029】
筐体31には、電子線通過孔21を挟んで対になるようにアライメントコイル2及び集束コイル3が設けられている。電子銃40から出射して電子線通過孔21を通過する電子線EBは、アライメントコイル2によって、電子線EBの中心線が電子線通過孔20の中心線に一致するように調整された後、集束コイル3によって、電子線透過ユニット50に集束される。なお、筐体31には、電子線通過孔21と真空ポンプとを接続する排気管4が設けられており、これにより、チャンバ30内(すなわち、電子線通過孔20)が真空引きされる。
【0030】
チャンバ30は、筐体31のZ方向の他端側に固定された偏向管32を有している。偏向管32は、四角柱状の外形を有している。電子線通過孔20のうち偏向管32によって形成される部分である電子線通過孔22の断面は、Y軸方向を長手方向とする長方形状となっている。偏向管32の外側には、偏向管32の内側を通過する電子線EBを偏向する偏向コイル5が取り付けられている。集束コイル3によって集束されて電子線通過孔22を通過する電子線EBは、偏向コイル5によってY軸方向に偏向される。
【0031】
チャンバ30は、偏向管32のZ方向の他端側に固定された走査管33を有している。走査管33は、Z方向の他端側に向かって末広がりの四角柱状の外形を有している。電子線通過孔20のうち走査管33によって形成される部分である電子線通過孔23の断面は、Y軸方向を長手方向とする長方形状となっている。
【0032】
電子線透過ユニット50は、走査管33の出射側開口部に配置されている。電子線透過ユニット50は、走査管33に対して気密に固定されている。電子線透過ユニット50は、窓枠体50Aを含む。窓枠体50Aの内側には、Y軸方向を長手方向とする長方形状(長尺な形状)の支持部材52及び出射窓55が配置されている。支持部材52は、メッシュ部を含む。出射窓55は、チタンからなる薄膜状の部材である。出射窓55は、支持部材52を覆うように配置されている。出射窓55は、支持部材52上に支持され、走査管33の内側を通過した電子線EBを透過させる。
【0033】
以上のように構成された電子線照射装置1では、フィラメント44に高電圧が印加されると、フィラメント44から電子が放出される。フィラメント44から放出された電子は、グリッド電極48によって形成された電界により加速及び集束され、これにより、電子線EBがZ軸方向に出射される。出射されて電子線通過孔21を通過する電子線EBは、アライメントコイル2によって、電子線EBの中心線が電子線通過孔20の中心線に一致するように調整された後、集束コイル3によって、電子線透過ユニット50に集束される。集束コイル3によって集束されて電子線通過孔22を通過する電子線EBは、偏向コイル5によってY軸方向に偏向される。偏向コイル5によってY軸方向に偏向された電子線EBは、電子線透過ユニット50の出射窓55を透過して外部に出射される。外部に出射された電子線EBは、電子線到達範囲RAにおいて搬送機構8(図1参照)で搬送される被照射物Sに照射され、被照射物Sが反応(乾燥、殺菌、表面改質等)する。電子線到達範囲RAは、電子線照射装置1から照射された電子線EBが到達する範囲である。
【0034】
図1に示されるように、搬送機構8は、可動するベルト81を有する。搬送機構8は、被照射物Sを搬送する搬送面82を有する。搬送面82は、例えば当該ベルト81の表面により構成される。搬送機構8は、搬送面82上に被照射物Sを載置して搬送する。搬送面82は、出射窓55に対向する。図示する例では、搬送機構8は、搬送面82上の被照射物Sを、X方向に沿って電子線到達範囲RAを通過するように搬送する。搬送機構8としては特に限定されず、種々の機構を用いてもよい。
【0035】
コントローラ9は、CPU(Central Processing Unit)及びROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等で構成されるコンピュータである。コントローラ9における各種動作の制御は、例えばROMに格納されているプログラムがRAM上にロードされてCPUで実行されることによって行われる。コントローラ9は、電子回路等によるハードウェアとして構成されてもよい。コントローラ9は、電子線照射システム100の各種の動作を制御する。
【0036】
図3は、電子線監視装置10を示す概略図である。図1及び図3に示されるように、本実施形態の電子線照射システム100は、被照射物Sに照射される電子線EBを監視する電子線監視装置10を備える。監視とは、被照射物Sに電子線EBを照射中に当該電子線EBをリアルタイムで検出することを含む。監視は、モニタリングとも称される。電子線監視装置10は、被照射物Sに照射される電子線EBそのものを監視するのではなく、電子線EBの照射によって発生するX線を監視することにより当該電子線EBを監視する。まず、電子線監視装置10がX線による監視を行う理由を以下に説明する。
【0037】
電子線照射装置1から出射窓55を介して照射雰囲気(例えば窒素雰囲気)中に出射された電子線EBは、照射雰囲気中の気体分子と衝突を繰り返しながらそのエネルギーを減衰させていくため、電子線EBの到達距離は非常に短く、特に印刷用途等に用いられる、加速電圧70kV~150kV程度の低エネルギー電子線では、出射窓55から数mm~数十mm程度しか電子線EBは到達せず、電子線到達範囲RAも出射窓55から数mm~数十mm程度である。そのため、電子線EBを直接監視する場合には、この狭い電子線到達範囲RA内に電子線検出器を設置する必要がある。しかし、電子線到達範囲RAを通過するように搬送機構8の搬送路が設けられることから、電子線照射システム100に電子線検出器を設置するのは困難である。
【0038】
一方、照射雰囲気中に電子線EBを出射した際には、同時にX線も発生する。X線は、例えば電子線照射装置1の出射窓55と電子線EBの衝突により、及び、照射雰囲気中の気体分子への電子線EBの衝突に伴って発生する。つまり、出射窓55を介して被照射物Sに照射される電子線EBの量は、当該電子線EBの照射に伴って発生するX線の量と深い関係がある。これらのX線は、数keV~百数十keVのエネルギーを有するため、照射雰囲気中では数十cm以上の距離でも到達する。そのため、電子線EBの放出に伴うX線を監視する場合、X線検出器は電子線到達範囲RA内に設置する必要はなく、数十cm離れた位置に設置することが可能である。そのため、搬送機構8及び被照射物Sと干渉しない周辺位置にX線検出器を設置可能であり、電子線照射システム100を実動作させながらリアルタイムにX線を検出することができる。
【0039】
このようなX線による監視を行う電子線監視装置10は、ポイントセンサ60、ラインセンサ70及びコリメータ75を有する。ポイントセンサ60は、X線を検出するX線検出器(第1X線検出器)である。ここでのポイントセンサ60は、放射線耐久性が高く、長期に安定したX線量の測定が可能なセンサである。ポイントセンサ60は、出射窓55と被照射物Sとの間に向けた検出面61を有する。検出面61は、出射窓55と当該出射窓55に対向する位置(換言すると、出射窓55の直下、又は、電子線到達範囲RA内)の被照射物Sとの間の空間に対面するように設けられている。検出面61は、Y方向に垂直になるように設けられている。
【0040】
ポイントセンサ60は、被照射物Sへの電子線EBの照射を妨げない位置に配置されている。本実施形態においては、ポイントセンサ60は、電子線到達範囲RA外に配置されている。ポイントセンサ60は、Y方向において出射窓55及び搬送面82に対して離間する位置に配置されている。Y方向は、出射窓55の長手方向に対応する。またY方向は、搬送面82に沿う方向であって搬送方向と交差する所定方向に対応する。ポイントセンサ60は、出射窓55及び搬送面82の側方に配置されている。ポイントセンサ60は、出射窓55及び搬送面82の周囲に配置されている。ポイントセンサ60は、例えば支持部材(不図示)により、電子線照射システム100のフレーム等に固定されている。
【0041】
ポイントセンサ60は、X線を検出するチャンネルを1つのみ有するX線検出器である。より具体的には、ポイントセンサ60は、1つの検出面に対応する1つの検出信号出力部のみを有する検出素子を1つのみ有する。換言すれば、ポイントセンサ60は、1画素のみを有するセンサである。ポイントセンサ60は、ポイントセンサ60は、1つのチャンネル(画素)において、X線の線量に関する検出データを経時的に取得する。ポイントセンサ60は、コントローラ9に接続され、その動作がコントローラ9により制御される。ポイントセンサ60は、その検出結果をコントローラ9へ出力する。ポイントセンサ60は、第1X線検出部を構成する。ポイントセンサ60は、例えば安定性に実績があり、長時間の線量変動を信頼性高く測定可能であるものが選択される。ポイントセンサ60は、電子線到達範囲RA内の任意のZ位置において、Y方向全体に渡るX線量を常時に検出することで、相対的に総X線量を常時に検出可能である。
【0042】
図4は、ポイントセンサ60の例を示す模式的断面図である。ポイントセンサ60は、主として、開口部H2を有する略直方体の有底ケース62と、開口部H2を塞ぐX線透過性の平板状蓋体63と、有底ケース62内に収容された蛍光体層64及びフォトダイオード65と、有底ケース62に固定され且つフォトダイオード65に電気的に接続されたコネクタ66と、から構成されている。平板状蓋体63の表面は、検出面61を構成する。
【0043】
蛍光体層64は、平板状蓋体63を透過して有底ケース62外部から該有底ケース62内に入射するX線を、フォトダイオード65が検出可能な波長の蛍光に波長変換する。蛍光体層64は、堆積された結晶性のX線蛍光体からなる層である。蛍光体層64によりX線から波長変換された蛍光は、フォトダイオード65内の光電変換部67に照射される。蛍光体層64を構成するX線蛍光体としては、X線をフォトダイオード65が検出可能な波長の蛍光に波長変換できるものであれば特に限定されず、使用する光電変換部67に応じて適宜選択される。例えば蛍光体層64を構成するX線蛍光体としては、入射するX線による劣化がほとんど無く、発光量の温度に対する依存性が小さい(約-1.0%/10℃,なお、この値は20℃における発光量を基準とし温度を変化させた場合の発光量の変化率を百分率で表示した値を示す)という利点を有するという理由から、TbをドープしたGdS蛍光体を用いてもよい。なお、TbはGdSにX線蛍光体としての機能を発現させるために必要な付活剤である。蛍光体層64は、放射線による着色(ブラウニング)の少ない材料を用いたX線蛍光体で構成してもよい。
【0044】
フォトダイオード65は、蛍光体層64から出射される蛍光を光電変換して電気信号を出力する。フォトダイオード65は、開口部H5を有する略直方体の有底ケース68と、開口部H5を塞ぐ平板状蓋体69と、有底ケース68内に収容された光電変換部67と、から構成されている。
【0045】
有底ケース68は、光電変換部67を収容し且つ固定できる内部空間を有する。有底ケース68の構成材料は絶縁性材料であれば特に限定されないが、耐熱性及び機械的強度に優れた材料(例えば、セラミクス材料)が挙げられる。平板状蓋体69は、放射線による着色の少ない石英ガラスにより形成された平板である。光電変換部67は、pn接合を有するPNフォトダイオード(例えば、Siフォトダイオード)の構造を有する。すなわち、有底ケース68の底面上に配置されるn型半導体層67aと、n型半導体層67a上に配置されるp型半導体層67bと、p型半導体層67b上に配置される絶縁膜67cと、n型半導体層67aに電気的に接続される電極(図示せず)と、p型半導体層67bに電気的に接続される電極(図示せず)と、から構成されている。絶縁膜67cの入射側の面が、光電変換部67の受光面となる。絶縁膜67cは、例えばシリコン窒化膜(SiN膜)である。ポイントセンサ60には、有底ケース62及びポイントセンサ60からの信号を伝送するための配線の表面を、耐酸化性のある金属(例えばステンレス鋼材)で覆う等のオゾン腐食防止対策が施されていてもよい。
【0046】
コネクタ66は、有底ケース62の底部に嵌め込まれて固定されている。コネクタ66には、導電性のワイヤ66a及びワイヤ66bのそれぞれの一端が電気的に接続されており、ワイヤ66aの他端はフォトダイオード65のn型半導体層67aに接続された電極(図示せず)に電気的に接続されており、ワイヤ66bの他端はフォトダイオード65のp型半導体層67bに接続された電極(図示せず)に電気的に接続されている。コネクタ66により、フォトダイオード65の光電変換部67から出力される電気信号が有底ケース62の外部に出力される。
【0047】
図1及び図3に示されるように、ラインセンサ70は、X線の一次元分布又は二次元分布を検出するX線検出器(第2X線検出器)である。ラインセンサ70は、Y方向に長尺な形状の検出面71を有する。ラインセンサ70の検出範囲におけるY方向の幅は、例えば300mm~2000mmであってもよいし、例えば450mm~1000mmであってもよい。ラインセンサ70は、被照射物Sへの電子線EBの照射を妨げない位置に配置されている。本実施形態においては、ラインセンサ70は、電子線到達範囲RA外に配置されている。ラインセンサ70は、検出面71が出射窓55に対向するように配置されている。ラインセンサ70は、搬送機構8の搬送面82に対して出射窓55側と反対側に配置されている。ラインセンサ70は、例えば支持部材(不図示)により、電子線照射システム100のフレーム等に固定されている。
【0048】
ラインセンサ70は、X線を検出するチャンネルを複数有し、チャンネルは、一次元状又は二次元状に並べられている。より具体的には、1つの検出面に対応する1つの検出信号出力部を有する検出素子を複数有する。ラインセンサ70の複数の検出素子は、一次元状又は二次元状に並べられており、換言すれば、複数画素を有するセンサである。例えばラインセンサ70としては、X線蛍光体とX線蛍光体からの蛍光を検出可能な感度を有する半導体光検出素子とを、数百mmの長さにおいて数百個以上並べた一次元ラインセンサ(例えばフォトダイオードアレイ)を用いることができる。ラインセンサ70は、複数の検出素子に対応する複数のチャンネルのそれぞれにおいて、X線の線量に関する検出データを経時的に取得する。ラインセンサ70は、コントローラ9に接続され、その動作がコントローラ9により制御される。ラインセンサ70は、その検出結果をコントローラ9へ出力する。ラインセンサ70は、第2X線検出部を構成する。
【0049】
ラインセンサ70は、例えば高い空間分解能(数mm以下)でX線の位置分布を測定可能である。ラインセンサ70は、瞬時に長手方向(Y方向)におけるX線の線量プロファイルを取得することが可能である。ラインセンサ70は、Y方向のX線分布に変動がないかを常時に検出可能である。ラインセンサ70は、相対的なX線分布変化を精度よくモニタ可能である。
【0050】
コリメータ75は、出射窓55とラインセンサ70との間に配置され、X線の進行方向をZ方向(出射窓55に対向する方向)に沿うように制限し、コリメータ75を通過するX線の視野角を制限する。図示する例では、コリメータ75は、電子線到達範囲RAとラインセンサ70との間に配置されている。コリメータ75は、ラインセンサ70に入射するX線の進行方向をZ方向に沿う方向に平行化する(図3中の矢印参照)。コリメータ75は、X線吸収特性の高い材質(例えば、タングステン、鉛及びステンレス鋼等)により形成されている。コリメータ75は、Z方向に貫通する複数の円形の貫通孔75hを有する。複数の貫通孔75hのピッチは、ラインセンサ70における複数のチャンネルのピッチよりも大きい。例えば、貫通孔75hのピッチは10mmであるのに対し、ラインセンサ70のチャンネルのピッチは0.4mmである。コリメータ75は、例えば支持部材(不図示)により、電子線照射システム100あるいはラインセンサ70のフレーム等に固定されている。
【0051】
図1に示されるように、コントローラ9は、ポイントセンサ60の検出結果に基づいて、ラインセンサ70の検出結果を補正する補正部91を有する。補正部91は、ポイントセンサ60で取得した検出データの変動率を、第1変動率として算出する。補正部91は、ラインセンサ70で取得した複数のチャンネルの各検出データの総和の変動率を、第2変動率として算出する。補正部91は、第2変動率が第1変動率と一致するように、ラインセンサ70における複数のチャンネルで取得する検出データのそれぞれに、補正係数を乗算する。補正部91の処理については、後述する。
【0052】
コントローラ9は、ポイントセンサ60及びラインセンサ70によるX線の監視結果に基づき、被照射物Sに照射される電子線EBの線量及び分布を監視する。X線の測定量から電子線EBの線量を求める手法は、特に限定されず、種々の公知の手法を用いることができる。コントローラ9には、GUI(Graphical User Interface)92が接続されている。GUI92は、X線及び電子線EBの監視結果を表示させるための表示部を構成すると共に、コントローラ9に対して各種の設定を入力するための操作入力部を構成する。
【0053】
次に、電子線監視装置10による電子線監視方法の例について、図5及び図6のフローチャートを参照して具体的に説明する。
【0054】
まず、GUI92において、ラインセンサ70の連続使用制限時間を設定する(ステップS1)。ラインセンサ70の連続使用制限時間は、ラインセンサ70を連続して使用する上で、複数のチャンネル間で劣化差(検出能の低下差)が所定値よりも少ない期間に対応する。ラインセンサ70の連続使用制限時間は、予め定められてコントローラ9に記憶されていてもよい。また、GUI92において、ラインセンサ70の変動率閾値を設定する(ステップS2)。ラインセンサ70の変動率閾値は、ラインセンサ70の検出データの変動率が、求められる基準内かどうかを判定するための閾値である。ラインセンサ70の変動率閾値は、予め定められてコントローラ9に記憶されていてもよい。なお、上記ステップS1,S2は順不同である。
【0055】
続いて、電子線照射装置1から被照射物Sに電子線EBが照射された場合、コントローラ9により以下の監視処理を実行する。すなわち、ラインセンサ70の初期化を行う(ステップS3)。上記ステップS3では、ラインセンサ70の全チャンネルの規格化(シェーディング補正)を行う。例えば、上記ステップS3における1回目の初期化では、電子線EBを照射したときのラインセンサ70の全チャンネルの検出データを、一定値に補正する。また例えば、上記ステップS3における2回目以降の初期化では、ラインセンサ70の全チャンネルの検出データを、そのときの補正後検出データ(後述)に補正する。ラインセンサ70の全チャンネルにおいて、そのときの検出データを初期値として取得する(ステップS4)。また、ポイントセンサ60において、そのときの検出データを初期値として取得する(ステップS5)。
【0056】
続いて、ラインセンサ70の全チャンネルで検出データを取得する(ステップS6)。ラインセンサ70の各チャンネルにおける検出データの総和の変動率である第2変動率を算出する(ステップS7)。第2変動率は、ラインセンサ70の各チャンネルにおける初期値の総和を基準にした変動率である。例えば第2変動率は、「(“ラインセンサ70の各チャンネルにおける検出データの総和”-“ラインセンサ70の各チャンネルにおける初期値の総和”)/“ラインセンサ70の各チャンネルにおける初期値の総和”」で算出される。
【0057】
また、ポイントセンサ60の検出データを取得する(ステップS8)。ポイントセンサ60の検出データの変動率である第1変動率を算出する(ステップS9)。第1変動率は、ポイントセンサ60の初期値を基準にした変動率である。例えば第1変動率は、「(“ポイントセンサ60の検出データ”-“ポイントセンサ60の初期値”)/“ポイントセンサ60の初期値”」で算出される。
【0058】
補正部91により、ラインセンサ70の補正係数を算出する(ステップS10)。補正係数は、第2変動率が第1変動率と一致するように、ラインセンサ70における複数のチャンネルの検出データを補正するパラメータである。例えば補正係数は、第1変動率/第2変動率で求められる。補正部91により、算出した補正係数を用いて、ラインセンサ70の各チャンネルにおける検出データを補正する(ステップS11)。上記ステップS11では、ラインセンサ70における複数のチャンネルの検出データのそれぞれに補正係数を乗算し、複数の補正後検出データを取得する。
【0059】
続いて、ラインセンサ70の各チャンネルにおける補正後検出データの変動率を算出する。補正後検出データの変動率は、ラインセンサ70の各チャンネルにおける初期値を基準にして算出される。ラインセンサ70の各チャンネルにおける補正後検出データの変動率が、設定された変動閾値以内であるか否かを判定する(ステップS12)。
【0060】
上記ステップS12でNOの場合、例えばGUI92から音及び表示による警報を出力し、監視処理を終了する(ステップS13)。上記ステップS12でYESの場合、例えばポイントセンサ60及びラインセンサ70により監視したX線の線量及び分布、及び、X線の線量及び分布から導出された電子線EBの線量及び分布を、GUI92に表示させる。また、上記ステップS12でYESの場合、監視処理を終了するか否かを判定する(ステップS14)。上記ステップS14では、例えば電子線照射装置1からの電子線EBの照射を終了した場合、YESと判定され、監視処理を終了する。
【0061】
上記ステップS14でNOの場合、ラインセンサ70の連続使用時間が、連続使用制限時間内かどうかを判定する(ステップS15)。ラインセンサ70の連続使用時間は、ラインセンサ70によってX線の分布を連続して検出している時間であって、ラインセンサ70を初期化したタイミングを0してカウントされる時間である。上記ステップS15でYESの場合、上記ステップS6に移行し、再度ラインセンサ70により検出データを取得すると共に、上記ステップS8に移行し、再度ポイントセンサ60により検出データを取得する。上記ステップS15でNOの場合、上記ステップS3に移行し、再度ラインセンサ70の初期化を行う。
【0062】
以上、電子線監視装置10は、ポイントセンサ60及びラインセンサ70を備える。ポイントセンサ60により総X線量を取得し、ラインセンサ70は相対的なX線分布変化を取得することができる。つまり、ポイントセンサ60により、被照射物Sに照射される電子線EBによって生じたX線の全体的な線量を監視すると共に、ラインセンサ70により、被照射物Sに照射される電子線EBによって生じたX線の一次元分布又は二次元分布を監視することができる。これにより、被照射物Sに照射される電子線EBの線量及び分布を監視することが可能となる。その結果、予め設定した基準通りの線量及び分布で電子線EBが出力されているのかを確認することができる。換言すれば、予め設定した基準を逸脱した電子線EBが出力されている領域がないかを確認することができる。電子線照射装置1の動作状態を担保することが可能となる。
【0063】
電子線監視装置10では、出射窓55は、長尺な形状を呈し、ポイントセンサ60は、出射窓55の長手方向(Y方向)において出射窓55に対して離間する位置に配置されている。このようなポイントセンサ60の配置は、出射窓55が長尺な形状を呈する場合において、生じたX線の全体的な線量をポイントセンサ60で監視する上で有効である。例えば短手方向(X方向)において出射窓55に対して離間する位置にポイントセンサ60が配置される場合と比べて、生じたX線の全体的な線量を精度よく検出することが可能となる。
【0064】
電子線監視装置10では、ポイントセンサ60は、チャンネルを1つのみ有している。この場合、X線を検出するチャンネルを1つのみ有するポイントセンサ60を第1X線検出部として利用して、複雑な信号処理を行うことなく、生じたX線の全体的な線量の監視を容易に行うことが可能となる。
【0065】
電子線監視装置10では、ラインセンサ70は、長尺な形状の検出面を有していてもよい。この場合、長尺な形状の検出面を有するラインセンサ70を利用して、出射窓55の長手方向におけるX線の分布を監視することが可能となる。
【0066】
電子線監視装置10では、ラインセンサ70は、一次元状又は二次元状に並べられた複数のチャンネルを有する。この場合、一次元状又は二次元状に並べられた複数のチャンネルを有するラインセンサ70を第2X線検出部として利用して、より詳細にX線の分布を監視することが可能となる。
【0067】
電子線監視装置10は、出射窓55とラインセンサ70との間に配置されたコリメータ75を備える。コリメータ75により、ラインセンサ70に入射(入力)するX線の進行方向をZ方向に沿わせることができる。その結果、被照射物Sに照射される電子線EBによって生じたX線の一次元分布又は二次元分布(すなわち、電子線EBの量に対応する一次元分布又は二次元分布)を、ラインセンサ70により精度よく検出することができる。一般的に、電子線到達範囲RAの全体から全方位にX線がラインセンサ70に照射されるため、コリメータ75の設置は特に有効である。
【0068】
電子線監視装置10では、ポイントセンサ60及びラインセンサ70は、被照射物Sへの電子線EBの照射を妨げない位置に配置されている。より詳細には、ポイントセンサ60及びラインセンサ70は、電子線到達範囲RA外に配置されている。この場合、被照射物Sへの電子線EBの照射と干渉しない位置にポイントセンサ60及びラインセンサ70を配置することが可能となる。また、電子線EBとポイントセンサ60及びラインセンサ70を構成する材料の相互作用による、ポイントセンサ60及びラインセンサ70自身からのX線の発生により計測が攪乱されることがない。
【0069】
電子線監視装置10は、ポイントセンサ60の検出結果に基づいて、ラインセンサ70の検出結果を補正する補正部91を備える。補正部91により、ポイントセンサ60の検出結果に基づいてラインセンサ70の検出結果を補正して、ラインセンサ70の感度変動による悪影響を抑えることが可能となる。X線の一次元分布又は二次元分布を精度よく検出することができ、被照射物Sに照射される電子線EBの分布を精度よく監視することが可能となる。ポイントセンサ60とラインセンサ70とのそれぞれの長所を生かし、ポイントセンサ60とラインセンサ70との性能を相補的に利用し、X線による電子線量の監視を最適化させることが可能となる。
【0070】
ラインセンサ70では、ポイントセンサ60に比べて、長時間の安定性に関する信頼性が不足する場合がある。ラインセンサ70では、ポイントセンサ60に比べて、センサ応答劣化速度が速い場合がある。ラインセンサ70では、例えば検出するX線の線量が、1000時間の使用で25%低下する可能性がある。そこで、電子線監視装置10において、補正部91は、ポイントセンサ60で取得した検出データの変動率を第1変動率として算出し、ラインセンサ70で取得した検出データの総和の変動率を第2変動率として算出する。補正部91は、第2変動率が第1変動率と一致するよう、ラインセンサ70における複数のチャンネルで取得する検出データのそれぞれに、補正係数を乗算する。これにより、ラインセンサ70の検出結果を、ポイントセンサ60の検出結果を利用して効果的に補正することが可能となる。
【0071】
電子線監視装置10では、ポイントセンサ60は、搬送機構8の搬送方向と交差するY方向において搬送面82に対して離間する位置に配置されている。ラインセンサ70は、搬送面82に対して出射窓55側と反対側に配置されている。この場合、搬送機構8を含む電子線照射システム100において、ポイントセンサ60及びラインセンサ70を搬送に影響のない位置に適用することができる。
【0072】
電子線照射システム100においても、電子線監視装置10を備えることから、被照射物Sに照射される電子線EBの線量及び分布を監視できる等の上記効果が奏される。
【0073】
図7は、ポイントセンサ60の検出データによるラインセンサ70の検出データの補正例を示す表である。図7中のサイクル時間は、所定の時間間隔に対応し、例えば図5及び図6のフローチャートにおいて上記ステップS6,S8が繰り返される間隔に対応する。図中では、5サイクル時間が連続使用制限時間である。図中のCH1、CH2及びCH3は、ラインセンサ70の複数のチャンネルのうちの第1チャンネル、第2チャンネル及び第3チャンネルを意味する。
【0074】
図7に示される例では、サイクル時間が0のときにラインセンサ70で1回目の初期化が行われ、サイクル時間が5,10のときにラインセンサ70で2回目以降の初期化が行われている。2回目以降の初期化では、そのときの補正後検出データが、そのままシェーディング補正に採用される(図中の枠内参照)。図7に示される例では、ポイントセンサ60及びラインセンサ70の検出データに基づく補正係数を利用し、ラインセンサ70の検出データを補正することで、補正後検出データを得ることが可能となっている。
【0075】
以上、実施形態について説明したが、本発明の一態様は上記実施形態に限定されない。
【0076】
図8は、変形例に係る電子線監視装置110を示す概略図である。図8に示されるように、変形例に係る電子線監視装置110は、シャッター機構(遮断部)111を更に備える点で電子線監視装置10(図3参照)と異なる。シャッター機構111は、ラインセンサ70に入力されるX線を遮断可能な機構を含むである、シャッター機構111は、開状態とすることでラインセンサ70へのX線の入力を許容し、閉状態とすることでラインセンサ70へ入力されるX線を遮断する。シャッター機構111は、コントローラ9に接続され、その開閉動作がコントローラにより制御される。シャッター機構111としては、特に限定されず、種々の機構を用いることができる。
【0077】
このような電子線監視装置110では、例えばX線検出時以外にはラインセンサ70にX線が入力されないようにX線を遮断することができる。これにより、ラインセンサ70へのX線の照射時間が増加するのに伴ってラインセンサ70の感度が変化してしまうことを抑制することが可能となる。なお、ラインセンサ70を移動させるステージ等の移動機構を備え、例えばX線検出時以外にはラインセンサ70にX線が入力されないように、当該ラインセンサ70を移動機構により移動させてもよい。
【0078】
上記実施形態及び上記変形例における電子線照射装置1では、点状の電子線EBを偏向コイル5によって偏向することで長尺状の電子線到達範囲RAを得ていたが、電子線を偏向することなく、長尺状のフィラメントから出射される線状の電子線を長尺状の出射窓から取り出すような電子線照射装置でもよい。また、複数の電子線照射装置を並べることで、長尺状の電子線到達範囲を形成してもよい。また、ポイントセンサ60及びラインセンサ70の少なくとも何れかにエネルギー弁別機能を持たせることで、特定の元素依存性(例えば出射窓55の材料であるチタンの特性X線の検出)をもってX線を検出してもよい。上記実施形態及び上記変形例では、第1X線検出部としてポイントセンサ60を用い、第2X線検出部としてラインセンサ70を用いたが、これに限定されず、その他のX線検出器を用いてもよい。例えば第1X線検出部としてラインセンサ70を用いてもよく、この場合、複数チャンネルの出力を1つにまとめて出力してもよい。X線の二次元分布を検出するエリアセンサを第2X線検出部として用いてもよい。
【0079】
上記実施形態及び上記変形例では、ポイントセンサ60及びラインセンサ70の何れにもX線蛍光体と半導体光検出素子との組み合わせを用いたが、X線蛍光体と光電子増倍管等の電子管との組み合わせを用いてもよいし、X線蛍光体を用いることなくX線を直接検出する直接変換型の半導体素子を用いてもよい。X線の二次元分布を検出するエリアセンサを第2X線検出部として用いてもよい。上記実施形態では、ラインセンサ70の各チャンネルにおける検出データの総和の変動率を第2変動率として算出したが、ラインセンサ70の各チャンネルにおける検出データの平均の変動率を第2変動率として算出してもよい。
【0080】
上記実施形態及び上記変形例では、第1X線検出部は、X線を検出するチャンネルを1つのみ有する第1X線検出器を複数備えていてもよい。さらに、複数の第1X線検出器のうちの一対の第1X線検出器は、電子線到達範囲RAを挟んで互いに対向するように配置されていてもよい。また、第2X線検出部は、X線を検出するチャンネルを1つのみ有する第2X線検出器を複数備え、第2X線検出器は、一次元状又は二次元状に並べられていてもよい。一例として、以下の他の変形例に係る電子線監視装置220を採用してもよい。
【0081】
図9は、電子線監視装置220を示す概略斜視図である。図10は、図9の第2X線検出器としてのポイントセンサ211を示す概略斜視図である。図9に示されるように、電子線監視装置220は、上述したポイントセンサ60と同様なポイントセンサ260を第1X線検出器として一対備える。一対のポイントセンサ260のそれぞれは、X線を検出するチャンネルを1つのみ有する。一対のポイントセンサ260は、検出面が電子線到達範囲RAを挟んでY方向に互いに対向するように、Y方向に離れて配置されている。一対のポイントセンサ260は、Y方向において出射窓55を挟む位置に配置されている。一対のポイントセンサ260のそれぞれは、支持板265に固定されて支持されている。支持板265は、電子線照射システム100のフレーム等に固定されている。
【0082】
電子線到達範囲RAが長尺になると、その長手方向の一方側の片側一箇所に設置された第1X線検出器に入射するX線の量(すなわち電子線EBの量)は、当該第1X線検出器に近い場所で発生する場合と当該第1X線検出器から遠い場所で発生する場合とで、差が大きい可能性がある。部分的に同じ電子線EBの線量変動が発生しても、それに起因するX線の変動場所が当該第1X線検出器から近いか遠いかで計測値に現れる影響が異なる。ゆえに、片側一箇所に設置された第1X線検出器では、局所的に線量変動が起きた場合に、その役割である「総量の変動」を正確に反映できないおそれがある。この点、電子線監視装置220では、ポイントセンサ260を一対(複数)備えている。さらに、一対のポイントセンサ260は電子線到達範囲RAを挟んで互いに対向するように配置されている。この場合、複数のポイントセンサ260を利用することで、生じたX線の全体的な線量の監視をより正確に行うことが可能となる。2つのポイントセンサ260を同軸上で対向させて、2つのポイントセンサ260の測定量の和、あるいは平均値を第1X線検出部の信号(すなわち、電子線出力総量の変動)として採用することができ、X線の発生場所に起因する影響を補正することが可能となる。
【0083】
また、図9及び図10に示されるように、電子線監視装置220は,上述したラインセンサ70(図3参照)に代えて、上述したポイントセンサ60と同様なポイントセンサ211を第2X線検出器として複数備える。複数のポイントセンサ211のそれぞれは、X線を検出するチャンネルを1つのみ有する。複数のポイントセンサ211は、検出面210mが出射窓55に対向するように配置されている。複数のポイントセンサ211は、所定の間隔でY方向に一次元状に並べられている。複数のポイントセンサ211のそれぞれは、コリメータ251を介して固定板270に固定されている。
【0084】
コリメータ251は、出射窓55とポイントセンサ211との間に配置されている。コリメータ251は、X線の進行方向をZ方向に沿うように制限し、通過するX線の視野角を制限し、ポイントセンサ211に入射するX線の進行方向をZ方向に沿う方向に平行化する。コリメータ251は、Z方向に貫通する円形の貫通孔250hを有する。貫通孔250hは、Z方向から見て、ポイントセンサ211の検出面210mと重なるように設けられている。固定板270は、電子線照射システム100のフレーム等に固定されている。固定板270には、Z方向に貫通する円形の貫通孔270hが、コリメータ251の貫通孔250hと連通するように設けられている。
【0085】
このように電子線監視装置220では、X線を検出するチャンネルを1つのみ有するポイントセンサ211を複数備え、ポイントセンサ211は、一次元状に並べられている。この場合、一次元状に並べられた複数のポイントセンサ211を利用して、より詳細にX線の分布を監視することが可能となる。一次元状に並べられた複数のポイントセンサ211に、上述のラインセンサ70(図3参照)と同等の機能を持たせることができる。なお、ポイントセンサ211は、複数設けられていればよく、例えば3~5個程度設けられていてもよい。複数のポイントセンサ211は、XY面に沿う二次元状に並べられていてもよい。
【0086】
上記実施形態及び上記変形例における各構成には、上述した材料及び形状に限定されず、様々な材料及び形状を適用することができる。上記実施形態又は変形例における各構成は、他の実施形態又は変形例における各構成に任意に適用することができる。上記実施形態又は変形例における各構成の一部は、本発明の一態様の要旨を逸脱しない範囲で適宜に省略可能である。
【符号の説明】
【0087】
1…電子線照射装置、8…搬送機構、10,110,220…電子線監視装置、55…出射窓、60…ポイントセンサ(第1X線検出部,第1X線検出器)、61…検出面、70…ラインセンサ(第2X線検出部,第2X線検出器)、71…検出面、75…コリメータ、82…搬送面、91…補正部、100…電子線照射システム、111…シャッター機構(遮断部)、211…ポイントセンサ(第2X線検出器)、251…コリメータ、EB…電子線、RA…電子線到達範囲、S…被照射物。
【要約】
【課題】被照射物に照射される電子線の線量及び分布を監視することができる電子線監視装置及び電子線照射システムを提供する。
【解決手段】電子線監視装置10は、電子線EBを出射窓55を介して被照射物Sに照射する電子線照射装置1を含む電子線照射システム100において、当該電子線EBを監視する。電子線監視装置10は、出射窓55と被照射物Sとの間に向けた検出面61を有し、X線を検出するポイントセンサ60と、出射窓55に対向するように配置され、X線の一次元分布又は二次元分布を検出するラインセンサ70と、を備える。
【選択図】図3

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10