(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-05
(45)【発行日】2022-10-14
(54)【発明の名称】ハニカム構造体、排気ガス浄化装置及びハニカム構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
F01N 3/28 20060101AFI20221006BHJP
F01N 3/027 20060101ALI20221006BHJP
F01N 3/022 20060101ALI20221006BHJP
F01N 3/20 20060101ALI20221006BHJP
F01N 3/24 20060101ALI20221006BHJP
B24B 7/16 20060101ALI20221006BHJP
B23B 37/00 20060101ALI20221006BHJP
B23P 15/00 20060101ALI20221006BHJP
B01J 35/04 20060101ALI20221006BHJP
B01J 35/02 20060101ALI20221006BHJP
C04B 38/00 20060101ALI20221006BHJP
C04B 35/195 20060101ALI20221006BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
F01N3/28 301P
F01N3/027 D
F01N3/022 C
F01N3/20 D
F01N3/24 L
B24B7/16 Z
B23B37/00
B23P15/00 Z
B01J35/04 301F
B01J35/02 G
B01J35/04 301E
C04B38/00 303Z
C04B35/195
B01D53/94 222
B01D53/94 ZAB
B01D53/94 245
B01D53/94 280
(21)【出願番号】P 2021506194
(86)(22)【出願日】2020-01-14
(86)【国際出願番号】 JP2020000934
(87)【国際公開番号】W WO2020188973
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2021-04-15
(31)【優先権主張番号】P 2019049069
(32)【優先日】2019-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】宮入 由紀夫
(72)【発明者】
【氏名】桝田 昌明
(72)【発明者】
【氏名】加藤 恭平
(72)【発明者】
【氏名】木俣 貴文
(72)【発明者】
【氏名】細田 和也
【審査官】齊藤 彬
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-212954(JP,A)
【文献】特開2010-013945(JP,A)
【文献】特開2010-024910(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0022868(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/28
F01N 3/027
F01N 3/022
F01N 3/20
F01N 3/24
B24B 7/16
B23B 37/00
B23P 15/00
B01J 35/04
B01J 35/02
C04B 38/00
C04B 35/195
B01D 53/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周壁と、
前記外周壁の内側に配設され、一方の端面から他方の端面まで貫通して流路を形成する複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁と、
を有する柱状のハニカム構造体であって、
前記一方の端面及び前記他方の端面の一方または両方に溝部が設けられており、
前記溝部に、導電性材料を含む環状の導電ループが1つ以上埋め込まれて
おり、
前記導電ループが、金属板部材であるハニカム構造体。
【請求項2】
外周壁と、
前記外周壁の内側に配設され、一方の端面から他方の端面まで貫通して流路を形成する複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁と、
を有する柱状のハニカム構造体であって、
前記一方の端面及び前記他方の端面の一方または両方に溝部が設けられており、
前記溝部に、導電性材料を含む環状の導電ループが1つ以上埋め込まれており、
前記導電ループが、金属メッシュ部材であ
るハニカム構造体。
【請求項3】
前記金属メッシュ部材が、金属繊維で構成されている請求項
2に記載のハニカム構造体。
【請求項4】
前記金属繊維が、金属ウールで構成されている請求項
3に記載のハニカム構造体。
【請求項5】
外周壁と、
前記外周壁の内側に配設され、一方の端面から他方の端面まで貫通して流路を形成する複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁と、
を有する柱状のハニカム構造体であって、
前記一方の端面及び前記他方の端面の一方または両方に溝部が設けられており、
前記溝部に、導電性材料を含む環状の導電ループが1つ以上埋め込まれており、
前記導電ループが、導電性粒子含有層で構成されてい
るハニカム構造体。
【請求項6】
前記導電性粒子含有層が、接合材を含む請求項
5に記載のハニカム構造体。
【請求項7】
前記導電ループと前記溝部との間に接合材が設けられている請求項1~
4のいずれか一項に記載のハニカム構造体。
【請求項8】
前記導電ループに、熱伝導フィンが設けられている請求項1~
7のいずれか一項に記載のハニカム構造体。
【請求項9】
前記導電ループの少なくとも一部が、導電性の弾性部材で構成されている請求項1~
8のいずれか一項に記載のハニカム構造体。
【請求項10】
前記導電ループの厚みが、0.1~5mmである請求項1~
9のいずれか一項に記載のハニカム構造体。
【請求項11】
前記溝部が
前記複数のセルにわたって形成されている請求項1~
10のいずれか一項に記載のハニカム構造体。
【請求項12】
前記セルは、前記一方の端面側が開口して前記他方の端面側の端面に目封止部を有する複数のセルAと、前記セルAとそれぞれ交互に配置され、前記他方の端面側が開口して前記一方の端面側の端面に目封止部を有する複数のセルBとを含む請求項1~
11のいずれか一項に記載のハニカム構造体。
【請求項13】
前記隔壁及び外周壁がセラミックス材料で構成されている請求項1~
12のいずれか一項に記載のハニカム構造体。
【請求項14】
前記セラミックス材料がコージェライト、炭化珪素、チタン酸アルミニウム、窒化珪素、ムライト、及び、アルミナからなる群から選択される少なくとも1つである請求項
13に記載のハニカム構造体。
【請求項15】
請求項1~
14のいずれか一項に記載のハニカム構造体と、
前記ハニカム構造体の外周を螺旋状に周回するコイル配線と、
前記ハニカム構造体及び前記コイル配線を収容する金属管と、
を有する排気ガス浄化装置。
【請求項16】
外周壁と、
前記外周壁の内側に配設され、一方の端面から他方の端面まで貫通して流路を形成する複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁と、
を有する柱状のハニカム構造体の製造方法であって、
前記一方の端面及び前記他方の端面の一方または両方に溝部を形成する工程と、
前記溝部に、導電性材料を含む環状の導電ループを1つ以上埋め込む工程と、
を含む
請求項1~14のいずれか一項に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項17】
前記溝部を、超音波加工で形成する請求項
16に記載のハニカム構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造体、排気ガス浄化装置及びハニカム構造体の製造方法に関する。とりわけ、数十kHz以下の比較的低い周波数でも十分に電磁誘導加熱が可能であり、材料のキュリー点による制限が無く、加熱速度が良好なハニカム構造体、排気ガス浄化装置及びハニカム構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車排ガス有害成分(HC、NOx、CO)の低減要求が高まっているが、現在、排出される有害成分は、エンジン始動直後の触媒温度が低く、活性が不十分な期間に排出されている。この対応として、特許文献1には、触媒担体ハニカムとして広く使用されているコージェライトハニカムの一部のセルに磁性体ワイヤーを挿入し、ハニカム外周のコイルに電流を流して誘導加熱することによりワイヤー温度を上昇させる技術が開示されている。当該技術によれば、誘導加熱によってハニカム温度を上昇させ、そのハニカム自体に触媒を担持して触媒活性を維持したり、この加熱ハニカムに流れるガスを加熱して後段に位置する触媒ハニカムを加熱することができる。
【0003】
ディーゼルエンジンやガソリンエンジンの排気カーボン微粒子も、人体健康への影響があるため低減要求が高く、ハニカム構造で交互に目封じを配したウォールフロー型のフィルタが使用されている。当該フィルタで捕集したススは、排気ガスを高温化することにより燃焼除去している。しかしながら、これにかかる時間が長いと排気ガス温度を高温化するために必要な燃料の消費が増加してしまう問題が生じる。また、搭載スペース確保の観点からは、比較的スペースの余裕のある床下位置に搭載することが、排気システム構成上の設計自由度確保の観点から好ましい。しかしながら、車両床下に当該フィルタを配置すると、エンジンからの排気温度が低くなり、カーボン微粒子(スス)を燃焼除去できない問題が生じる。この対策として、特許文献2には、フィルタの隔壁表面に磁性体微粒子を分散配置して、電磁誘導加熱により加熱する技術が開示されている。また、特許文献3には、フィルタの目封止部に磁性体ワイヤーを挿入する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許出願公開第2017/0022868号
【文献】国際公開第2016/021186号
【文献】米国特許出願公開第2017/0014763号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ワイヤーを装着する方法や金属粒子の分散配置をする方法においては、ワイヤーの直径や金属粒子の直径が小さすぎて、低周波数では、渦電流が発生しくいため、加熱速度が十分とは言えない場合があった。渦電流を発生しやすくし、かつ、磁性ヒステリシスも利用すれば、ワイヤーでも加熱可能であるが、強磁性体を用いる必要があり、キュリー点以上の温度では加熱できない課題や、高周波数電源系において高コストになる課題があった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑み、数十kHz以下の比較的低い周波数であっても十分に電磁誘導加熱が可能であり、材料のキュリー点による制限が無く、加熱速度が良好なハニカム構造体、排気ガス浄化装置及びハニカム構造体の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討の結果、ハニカム構造体の一方の端面及び他方の端面の一方または両方に溝部を設け、当該溝部に、導電性材料を含む環状の導電ループを1つ以上埋め込んだ構成とすることで、上記課題を解決できることを見出した。すなわち、本発明は以下のように特定される。
(1)外周壁と、
前記外周壁の内側に配設され、一方の端面から他方の端面まで貫通して流路を形成する複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁と、
を有する柱状のハニカム構造体であって、
前記一方の端面及び前記他方の端面の一方または両方に溝部が設けられており、
前記溝部に、導電性材料を含む環状の導電ループが1つ以上埋め込まれているハニカム構造体。
(2)(1)のハニカム構造体と、
前記ハニカム構造体の外周を螺旋状に周回するコイル配線と、
前記ハニカム構造体及び前記コイル配線を収容する金属管と、
を有する排気ガス浄化装置。
(3)外周壁と、
前記外周壁の内側に配設され、一方の端面から他方の端面まで貫通して流路を形成する複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁と、
を有する柱状のハニカム構造体の製造方法であって、
前記一方の端面及び前記他方の端面の一方または両方に溝部を形成する工程と、
前記溝部に、導電性材料を含む環状の導電ループを1つ以上埋め込む工程と、
を含むハニカム構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、数十kHz以下の比較的低い周波数であっても十分に電磁誘導加熱が可能であり、材料のキュリー点による制限が無く、加熱速度が良好なハニカム構造体、排気ガス浄化装置及びハニカム構造体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態のハニカム構造体を模式的に示す斜視図である。
【
図2】(a):本発明の一実施形態のハニカム構造体の一方の端面を模式的に示す平面図である。(b):本発明の一実施形態のハニカム構造体のセル及び隔壁における、セルの延伸方向に平行な断面を模式的に示す断面図である。
【
図3】(a)、(b)、(c):それぞれ本発明の一実施形態のハニカム構造体の導電ループの構成例である。
【
図4】(a)、(b):本発明の一実施形態のハニカム構造体の一方の端面を模式的に示す平面図である。
【
図5】(a):本発明の一実施形態のハニカム構造体の一方の端面を模式的に示す平面図である。(b):本発明の一実施形態のハニカム構造体のセル及び隔壁における、セルの延伸方向に平行な断面を模式的に示す断面図である。
【
図6】(a)、(b):本発明の一実施形態のハニカム構造体の一方の端面を模式的に示す平面図である。
【
図7】(a)、(b):本発明の一実施形態のハニカム構造体の一方の端面を模式的に示す平面図である。
【
図8】(a)、(b):本発明の一実施形態のハニカム構造体の一方の端面を模式的に示す平面図である。
【
図9】本発明の一実施形態の目封止部を有するハニカム構造体を模式的に示す斜視図である。
【
図10】本発明の一実施形態の目封止部を有するハニカム構造体のセル及び隔壁における、セルの延伸方向に平行な断面を模式的に示す断面図である。
【
図11】(a):本発明の一実施形態の目封止部を有するハニカム構造体の一方の端面を模式的に示す平面図である。(b):本発明の一実施形態の目封止部を有するハニカム構造体のセル及び隔壁における、セルの延伸方向に平行な断面を模式的に示す断面図である。
【
図12】ハニカム構造体が組み込まれた排気ガス浄化装置の排気ガス流路の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明のハニカム構造体の実施形態について説明するが、本発明は、これに限定されて解釈されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。
【0011】
<1.ハニカム構造体>
図1には、本発明の一実施形態のハニカム構造体1を模式的に示す斜視図が記載されている。
図2(a)には、ハニカム構造体1の一方の端面13を模式的に示す平面図が記載されている。
図2(b)には、ハニカム構造体1のセル15及び隔壁12における、セル15の延伸方向に平行な断面を模式的に示す断面図が記載されている。図示のハニカム構造体1は柱状であり、最外周に位置する外周壁11を有する。また、図示のハニカム構造体1は、外周壁11の内側に配設され、一方の端面13から他方の端面14まで貫通して流路を形成する複数のセル15を区画形成する多孔質の隔壁12を有する。
【0012】
ハニカム構造体1の隔壁12及び外周壁11の材質については特に制限はないが、多数の細孔を有する多孔質体であることが必要であるため、通常は、セラミックス材料で形成される。当該セラミックス材料は、SiO2、Al2O3、及び、MgOからなる群から選択される少なくとも1種を含むことができる。また、当該セラミックス材料としては、例えば、コージェライト(2MgO・2Al2O3・5SiO2)、炭化珪素、チタン酸アルミニウム、窒化珪素、ムライト、アルミナ、珪素-炭化珪素系複合材料、炭化珪素-コージェライト系複合材料の、特に珪素-炭化珪素複合材又は炭化珪素を主成分とする焼結体が挙げられる。本明細書において「炭化珪素系」とは、ハニカム構造体1が炭化珪素を、ハニカム構造体1全体の50質量%以上含有していることを意味する。ハニカム構造体1が珪素-炭化珪素複合材を主成分とするというのは、ハニカム構造体1が珪素-炭化珪素複合材(合計質量)を、ハニカム構造体1全体の90質量%以上含有していることを意味する。ここで、珪素-炭化珪素複合材は、骨材としての炭化珪素粒子、及び炭化珪素粒子を結合させる結合材としての珪素を含有するものであり、複数の炭化珪素粒子が、炭化珪素粒子間に細孔を形成するようにして、珪素によって結合されていることが好ましい。また、ハニカム構造体1が炭化珪素を主成分とするというのは、ハニカム構造体1が炭化珪素(合計質量)を、ハニカム構造体1全体の90質量%以上含有していることを意味する。
【0013】
ハニカム構造体1のセル形状は特に限定されないが、中心軸に直交する断面において、三角形、四角形、五角形、六角形、八角形等の多角形、円形、又は楕円形であることが好ましく、その他不定形であってもよい。
【0014】
また、ハニカム構造体1の外形としては、特に限定されないが、端面が円形の柱状(円柱形状)、端面がオーバル形状の柱状、端面が多角形(四角形、五角形、六角形、七角形、八角形等)の柱状等の形状とすることができる。また、ハニカム構造体1の大きさは、特に限定されないが、中心軸方向長さが40~500mmが好ましい。また、例えば、ハニカム構造体1の外形が円筒状の場合、その端面の半径が50~500mmであることが好ましい。
【0015】
ハニカム構造体1の隔壁12の厚さは、0.10~0.50mmであることが好ましく、製造の容易さの点で、0.25~0.45mmであることが更に好ましい。例えば、0.20mm以上であると、ハニカム構造体1の強度がより向上し、0.50mm以下であると、ハニカム構造体1をフィルタとして用いた場合に、圧力損失をより小さくすることができる。なお、隔壁12の厚さは、ハニカム構造体1の中心軸方向断面を顕微鏡観察する方法で測定した平均値である。
【0016】
また、ハニカム構造体1を構成する隔壁12の気孔率は、30~70%であることが好ましく、製造の容易さの点で40~65%であることが更に好ましい。30%以上であると、圧力損失が減少しやすく、70%以下であると、ハニカム構造体1の強度を維持できる。
【0017】
また、多孔質の隔壁12の平均細孔径は、5~30μmであることが好ましく、10~25μmであることが更に好ましい。5μm以上であると、ハニカム構造体1をフィルタとして用いた場合に、圧力損失をより小さくすることができ、30μm以下であると、ハニカム構造体1の強度を維持できる。なお、本明細書において、「平均細孔径」、「気孔率」というときには、水銀圧入法により測定した平均細孔径、気孔率を意味するものとする。
【0018】
ハニカム構造体1のセル密度も特に制限はないが、5~93セル/cm2の範囲であることが好ましく、5~63セル/cm2の範囲であることがより好ましく、31~54セル/cm2の範囲であることが更に好ましい。
【0019】
ハニカム構造体1は、一方の端面13に溝部22が設けられており、溝部22には、導電性材料を含む環状の導電ループ21が1つ以上埋め込まれている。このような構成によれば、導電ループ21の形状が環状であるため、電磁誘導加熱により導電ループ21を周回するように電流が流れやすくなり、渦電流が発生しやすい。このため、数十kHz以下の比較的低い周波数でも十分に電磁誘導加熱が可能となる。また、導電ループ21の形状によって渦電流が発生しやすくなっているため、導電ループ21に必ず強磁性体を用いなければならない等の材料のキュリー点による制限が無く、加熱速度が良好なハニカム構造体1を得ることができる。
【0020】
溝部22及び導電ループ21は、ハニカム構造体1の一方の端面13及び他方の端面14の両方に設けられているのが好ましい。このような構成によれば、ハニカム構造体1の両端面13、14で渦電流を発生させることができ、より良好にハニカム構造体1の電磁誘導加熱を行うことができる。本明細書において、ハニカム構造体1の一方の端面13及び/または他方の端面14に設けられた溝部22は、深さ方向が、ハニカム構造体1のセル15の延伸方向に平行となっている。
【0021】
導電ループ21の形成位置は、具体的には、ハニカム構造体1の排ガスの入り口となる端面(13または14)、出口となる端面(14または13)、または、その両方に設けることができる。ハニカム構造体1をフィルタに捕集されたカーボン微粒子(スス)の燃焼除去に用いる場合には、ガス流れのある状態で加熱する場合には、入り口端面側に導電ループ21を設置すると、ガス流れによってハニカム構造体1内部へ導電ループ21で発熱した熱が伝達されやすいため好都合である。また、ガス流れの無い状態での加熱を主に想定する用途では、スス堆積量の多い出口端面側に導電ループ21を埋設することが好ましい。入り口端面側のみ、または出口端面側のみに限定して導電ループ21を埋設する場合には、その位置に対応する部分にのみ外周コイルを配置することで目的を達成できるため、電磁誘導加熱に用いるコイルのサイズを小さくすることができる。
【0022】
溝部22は、ハニカム構造体1の複数のセル15にわたって形成されている。溝部22は、上述の通り、導電ループ21を埋め込むためのものである。このため、溝部22の深さは、導電ループ21の厚み以上であればよい。また、溝部22の形状、数、大きさ等についても同様に、導電ループ21を埋め込めるように形成されていればよく、導電ループ21の形状、数、大きさ等に合わせて形成されていればよい。
【0023】
導電ループ21は、ハニカム構造体1の端面13側に設けられた溝部22に埋め込まれている。導電ループ21の厚みは、0.1~5mmであるのが好ましい。導電ループ21の厚みが0.1mm以上であれば、より大きな渦電流を発生させることができる。導電ループ21の厚みが5mm以下であれば、ガス流れを阻害する部分の面積を減らせるため、より圧力損失を低減することができる。導電ループ21の厚みは、0.5~4mmであるのがより好ましく、1~3mmであるのが更により好ましい。
【0024】
図1及び
図2に示す導電ループ21は、ハニカム構造体1の端面13側から見たとき、端面13の中心をその中心とする略正四角形の環状に形成されている。導電ループ21における、ハニカム構造体1の端面13側から見たときの大きさは特に限定されず、ハニカム構造体1の端面13の大きさにもよる。
図1及び
図2に示すような環状の略正四角形の導電ループ21であれば、導電ループ21の幅が0.1~5mmであるのが好ましい。導電ループ21の幅が0.1mm以上であれば、より大きな渦電流を発生させることができる。導電ループ21の幅が5mm以下であれば、より圧力損失を低減することができる。導電ループ21の幅は、0.5~4mmであるのがより好ましく、1~3mmであるのが更により好ましい。
【0025】
導電ループ21は、四角形の環状に限られず、円形、楕円形、三角形、または五角形以上の矩形の環状に形成されていてもよい。
【0026】
導電ループ21は、
図3(a)に示すように、導電性粒子含有層23で構成されていてもよい。導電性粒子含有層23としては、接合材に導電性粒子を含有させて構成した層を用いることができる。導電性粒子の粒径は、例えば、体積基準の平均粒径D50が10~3000μmのものを用いることができる。導電性粒子含有層23の接合材としては、例えば、セラミックス、ガラス、またはセラミックスとガラスとの複合材料を用いることができる。導電性粒子含有層23の接合材を構成する複合材料としては、例えば、ガラスを50体積%以上、より好ましくは60体積%以上、更により好ましくは70体積%以上含有した材料を用いることができる。導電性粒子含有層23の接合材を構成するセラミックスとしては、例えば、SiO
2系、Al
2O
3系、SiO
2-Al
2O
3系、SiO
2-ZrO
2系、SiO
2-Al
2O
3-ZrO
2系等のセラミックスを挙げることができる。また、導電性粒子含有層23の接合材を構成するガラスとしては、例えば、無鉛系のB
2O
3-Bi
2O
3系、B
2O
3-ZnO-Bi
2O
3系、B
2O
3-ZnO系、V
2O
5-P
2O
5系、SnO-P
2O
5系、SnO-ZnO-P
2O
5系、SiO
2-B
2O
3-Bi
2O
3系、SiO
2-Bi
2O
3-Na
2O系等のガラスを挙げることができる。
【0027】
導電ループ21は、金属メッシュ部材25で形成されていてもよい。また、
図3(b)に示すように、導電ループ21を平面視したときに、接合材24、金属メッシュ部材25及び接合材24がこの順で積層された構成となっていてもよい。このような構成によれば、金属メッシュ部材25と溝部22との間に接合材24が設けられた構成となるため、溝部22に埋め込まれた金属メッシュ部材25が、より良好にハニカム構造体1の隔壁12と接合することができる。接合材24としては、上述の導電性粒子含有層23の接合材と同じ材料を用いてもよく、また異なる材料を用いてもよい。金属メッシュ部材25としては、金属繊維で構成されたものであってもよい。また、金属繊維としては、金属ウールで構成されたものであってもよい。
【0028】
導電ループ21は、金属板部材26で形成されていてもよい。また、
図3(c)に示すように、導電ループ21を平面視したときに、接合材24、金属板部材26及び接合材24がこの順で積層された構成となっていてもよい。このような構成によれば、金属板部材26と溝部22との間に接合材24が設けられた構成となるため、溝部22に埋め込まれた金属板部材26が、より良好にハニカム構造体1の隔壁12と接合することができる。
【0029】
また、導電ループ21が導電性粒子含有層23であって、接合材を含有しているか、あるいは、導電ループ21が金属メッシュ部材25または金属板部材26であって、接合材24を介して溝部22に埋め込まれた構成であると、ハニカム構造体1を排ガスフィルタとして用いたときの溝部22からのガス漏れを、当該接合材で良好に抑制することができる。
【0030】
導電ループ21をそれぞれ構成する、導電性粒子含有層23に含有される導電性粒子、金属メッシュ部材25及び金属板部材26は、導電性を有する材料で構成されていれば特に限定されないが、例えば、フェライト系ステンレス、オーステナイト系ステンレス、その他のFe、Co、及び、Niからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む合金等を用いることができる。
【0031】
導電ループ21の形態は、
図1及び2に示すものに限られない。以下、その他の種々の導電ループ21の形態について詳述する。
【0032】
図4(a)に示す導電ループ21は、ハニカム構造体1の端面13側から見たとき、端面13の中心を、それぞれがその中心とする、外側の大きな略正四角形の環状の導電ループと、内側の小さな略正四角形の環状の導電ループとの、二重構造となっている。導電ループ21は、三重、四重、または五重以上の構造であってもよい。
【0033】
図4(b)に示す導電ループ21は、ハニカム構造体1の端面13側から見たとき、端面13の中心を、その中心とする略正四角形の環状の導電ループと、当該導電ループの上下左右に等間隔で1つずつ、同様の大きさ及び形状の環状の導電ループとが配置され、合計5つの導電ループで構成されている。導電ループ21は、大きさを変えることにより、いくつでも配置することができ、合計2つ、3つ、4つ、または6つ以上配置されていてもよい。
【0034】
図5(a)及び(b)に示す導電ループ21は、ハニカム構造体1の端面13側から見たとき、端面13の中心を、その中心として等間隔でそれぞれ離間した位置に設けられた4つの導電ループからなる。各導電ループは、六角形の環状に形成されており、その一部の辺が端面13の中心から直線方向に伸びる辺29を有している。導電ループ21は、大きさを変えることにより、いくつでも配置することができ、合計2つ、3つ、または5つ以上配置されていてもよい。ハニカム構造体1の一か所が高温になり、スス燃焼がその位置で開始されれば、スス燃焼熱による近傍の加熱の伝搬により、ハニカム構造体1の半径方向及び軸方向にススの燃焼が伝搬する。このため、全てのススを燃焼させるために、誘導加熱で完全にハニカム構造体1全体を加熱する必要は無く、一点においてでもスス燃焼可能温度に早く到達することの方が重要ではある。しかしながら、より確実に且つ早期にススを燃焼させるために、導電ループ21を複数個で構成することで、複数の箇所からスス燃焼が開始される方が望ましい。また、導電ループ21が複数個で構成されていると、ハニカム構造体1として熱伝導率の低い材料、例えば、コージェライト等を用いる場合、導電ループ材料及びその周辺のみが加熱され、離れた位置のハニカム材料の温度が上昇しにくいことを抑制することができる。
【0035】
図6(a)に示す導電ループ21は、
図1及び2に示す略正四角形の環状の導電ループの各辺の中央から外周壁11へ伸びる方向に、それぞれ直線状の熱伝導フィン27が設けられている。
図6(b)に示す導電ループ21は、
図1及び2に示す略正四角形の環状の導電ループの各辺の中央及び両端から外周壁11へ伸びる方向に、それぞれ直線状の熱伝導フィン27が設けられている。
図7(a)に示す導電ループ21は、
図6(a)に示す導電ループ21の熱伝導フィン27が、端面13の中心方向にも伸びた形状を有している。
図7(b)に示す導電ループ21は、
図6(b)に示す導電ループ21の各辺の中央に設けられた熱伝導フィン27が、端面13の中心方向にも伸びた形状を有している。これらの熱伝導フィン27は、導電ループ21と同じ材料で形成することができる。このような構成によれば、中央の略正四角形の環状の導電ループの熱を熱伝導フィン27によって周りに分散させることができ、中央の略正四角形の環状の導電ループのみが急激に加熱するのを抑制することができる。
【0036】
図8(a)に示す導電ループ21は、
図6(a)に示す導電ループ21において、略正四角形の環状の導電ループの四隅の角部が導電性の弾性部材28で構成されている。
図8(b)に示す導電ループ21は、
図6(b)に示す導電ループ21において、略正四角形の環状の導電ループの四隅の角部が導電性の弾性部材28で構成されている。このような構成によれば、ハニカム構造体1の加熱時の、セラミックス材料と導電ループ21の導電性材料との熱膨張差を吸収するため、ハニカム構造体1の破壊を良好に抑制することができる。導電性の弾性部材28は、
図8(a)及び(b)に示すように導電ループ21が多角形の環状に形成されている場合、上述の熱膨張差による破壊が生じやすい角部に設けることが好ましいが、これに限定されず、環状の導電ループ21のどのような位置に設けてもよく、その数についても特に限定されない。導電性の弾性部材28としては、導電性ワイヤー、金属メッシュ、導電ループ21の薄肉部、バネ部材等で構成することができる。
【0037】
このようなハニカム構造体1は、セラミックス原料を含有する坏土を、一方の端面から他方の端面まで貫通し流体の流路となる複数のセル15を区画形成する隔壁12を有するハニカム状に成形して、ハニカム成形体を形成し、このハニカム成形体を、乾燥した後に焼成することによって作製される。そして、このようなハニカム構造体を、本実施形態のハニカム構造体1として用いる場合には、外周壁をハニカム構造部と一体的に押し出してそのまま外周壁として使用してもよいし、成形又は焼成後に、ハニカム成形体(ハニカム構造体)の外周を研削して所定形状とし、この外周を研削したハニカム構造体に、コーティング材を塗布して外周コーティングを形成してもよい。なお、本実施形態のハニカム構造体1においては、例えば、ハニカム構造体の最外周を研削せずに、外周を有したハニカム構造体を用い、この外周を有するハニカム構造体の外周面(即ち、ハニカム構造体の外周の更に外側)に、更に、上記コーティング材を塗布して、外周コーティングを形成してもよい。即ち、前者の場合には、ハニカム構造体の外周面には、コーティング材からなる外周コーティングのみが最外周に位置する外周壁となる。一方、後者の場合には、ハニカム構造体の外周面に、更にコーティング材からなる外周コーティングが積層された、最外周に位置する、二層構造の外周壁が形成される。外周壁をハニカム構造部と一体的に押し出してそのまま焼成し、外周の加工無しに、外周壁として使用してもよい。
【0038】
コーティング材の組成は特に限定されるものではなく、種々の公知のコーティング材を適宜使用することができる。コーティング材は、コロイダルシリカ、有機バインダ、粘土等を更に含有させてもよい。なお、有機バインダは、0.05~0.5質量%用いることが好ましく、0.1~0.2質量%用いることが更に好ましい。また、粘土は、0.2~2.0質量%用いることが好ましく、0.4~0.8質量%用いることが更に好ましい。
【0039】
なお、ハニカム構造体1は、隔壁12が一体的に形成された一体型のハニカム構造体1に限定されることはなく、例えば、多孔質の隔壁12を有し、隔壁12によって流体の流路となる複数のセル15が区画形成された柱状のハニカムセグメントが、接合材層を介して複数個組み合わされた構造を有するハニカム構造体1(以下、「接合型ハニカム構造体」ということがある)であってもよい。
【0040】
また、本実施形態のハニカム構造体1は、複数のセル15の内壁を形成する多孔質の隔壁12の表面及び/又は隔壁12の細孔内に触媒が担持されたものであってもよい。このように、本実施形態のハニカム構造体1は、触媒を担持した触媒担体として構成されたものであってもよい。
【0041】
触媒の種類については特に制限はなく、ハニカム構造体1の使用目的や用途に応じて適宜選択することができる。例えば、貴金属系触媒又はこれら以外の触媒が挙げられる。貴金属系触媒としては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)といった貴金属をアルミナ細孔表面に担持し、セリア、ジルコニア等の助触媒を含む三元触媒や酸化触媒、又は、アルカリ土類金属と白金を窒素酸化物(NOx)の吸蔵成分として含むNOx吸蔵還元触媒(LNT触媒)が例示される。貴金属を用いない触媒として、銅置換又は鉄置換ゼオライトを含むNOx選択還元触媒(SCR触媒)等が例示される。また、これらの触媒からなる群から選択される2種以上の触媒を用いてもよい。なお、触媒の担持方法についても特に制限はなく、従来、ハニカム構造体に触媒を担持する担持方法に準じて行うことができる。
【0042】
焼成ハニカム構造体のそれぞれをハニカムセグメントとして利用し、複数のハニカムセグメントの側面同士を接合材で接合して一体化し、ハニカムセグメントが接合された状態のハニカム構造体とすることができる。ハニカムセグメントが接合された状態のハニカム構造体は例えば以下のように製造することができる。各ハニカムセグメントの両底面に接合材付着防止用マスクを貼り付けた状態で、接合面(側面)に接合材を塗工する。
【0043】
次に、これらのハニカムセグメントを、ハニカムセグメントの互いの側面同士が対向するように隣接して配置し、隣接するハニカムセグメント同士を圧着した後、加熱乾燥する。このようにして、隣接するハニカムセグメントの側面同士が接合材によって接合されたハニカム構造体を作製する。ハニカム構造体に対しては、外周部を研削加工して所望の形状(例えば円柱状)とし、外周面にコーティング材を塗工した後、加熱乾燥させて外周壁11を形成してもよい。
【0044】
接合材付着防止用マスクの材料は、特に制限はないが、例えばポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド、又はテフロン(登録商標)等の合成樹脂を好適に使用可能である。また、マスクは粘着層を備えていることが好ましく、粘着層の材料は、アクリル系樹脂、ゴム系(例えば、天然ゴム又は合成ゴムを主成分とするゴム)、又はシリコン系樹脂であることが好ましい。
【0045】
接合材付着防止用マスクとしては、例えば厚みが20~50μmの粘着フィルムを好適に使用することができる。
【0046】
接合材としては、例えば、セラミックス粉末、分散媒(例えば、水等)、及び必要に応じて、バインダ、解膠剤、発泡樹脂等の添加剤を混合することによって調製したものを用いることができる。セラミックスとしては、コージェライト、ムライト、ジルコン、チタン酸アルミニウム、炭化珪素、窒化珪素、ジルコニア、スピネル、インディアライト、サフィリン、コランダム、及びチタニアからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有するセラミックスであることが好ましく、ハニカム構造体と同材質であることがより好ましい。バインダとしては、ポリビニルアルコールやメチルセルロース、CMC(カルボキシメチルセルロース)などを挙げることができる。
【0047】
次に、ハニカム構造体1の製造方法を説明する。まず、多孔質の隔壁を有し、隔壁によって複数のセルが区画形成されたハニカム構造体を作製する。例えば、コージェライトからなるハニカム構造体を作製する場合には、まず、坏土用材料としてコージェライト化原料を用意する。コージェライト化原料は、コージェライト結晶の理論組成となるように各成分を配合するため、シリカ源成分、マグネシア源成分、及びアルミナ源成分等を配合する。このうちシリカ源成分としては、石英、溶融シリカを用いることが好ましく、更に、このシリカ源成分の粒径を100~150μmとすることが好ましい。
【0048】
マグネシア源成分としては、例えば、タルク、マグネサイト等を挙げることができる。これらの中でも、タルクが好ましい。タルクは、コージェライト化原料中37~43質量%含有させることが好ましい。タルクの粒径(平均粒子径)は、5~50μmであることが好ましく、10~40μmであることが更に好ましい。また、マグネシア(MgO)源成分は、不純物としてFe2O3、CaO、Na2O、K2O等を含有していてもよい。
【0049】
アルミナ源成分としては、不純物が少ないという点で、酸化アルミニウム及び水酸化アルミニウムの少なくともいずれか一種を含有するものが好ましい。また、コージェライト化原料中、水酸化アルミニウムは10~30質量%含有させることが好ましく、酸化アルミニウムは0~20質量%含有させることが好ましい。
【0050】
次に、コージェライト化原料に添加する坏土用材料(添加剤)を用意する。添加剤として、少なくともバインダと造孔剤を用いる。そして、バインダと造孔剤以外には、分散剤や界面活性剤を使用することができる。
【0051】
造孔剤としては、コージェライトの焼成温度以下において酸素と反応して酸化除去可能な物質、又は、コージェライトの焼成温度以下の温度に融点を有する低融点反応物質等を用いることができる。酸化除去可能な物質としては、例えば、樹脂(特に、粒子状の樹脂)、黒鉛(特に、粒子状の黒鉛)等を挙げることができる。低融点反応物質としては、鉄、銅、亜鉛、鉛、アルミニウム、及びニッケルからなる群より選択される少なくとも一種の金属、これらの金属を主成分とする合金(例えば、鉄の場合には炭素鋼や鋳鉄、ステンレス鋼)、又は、二種以上を主成分とする合金を用いることができる。これらの中でも、低融点反応物質は、粉粒状又は繊維状の鉄合金であることが好ましい。更に、その粒径又は繊維径(平均径)は10~200μmであることが好ましい。低融点反応物質の形状は、球状、巻菱形状、金平糖状等が挙げられ、これらの形状であると、細孔の形状をコントロールすることが容易となるため好ましい。
【0052】
バインダとしては、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等を挙げることができる。また、分散剤としては、例えば、デキストリン、ポリアルコール等を挙げることができる。また、界面活性剤としては、例えば、脂肪酸石鹸を挙げることができる。なお、添加剤は、一種単独又は二種以上用いることができる。
【0053】
次に、コージェライト化原料100質量部に対して、バインダを3~8質量部、造孔剤を3~40質量部、分散剤を0.1~2質量部、水を10~40質量部の割合で混合し、これら坏土用材料を混練し、坏土を調製する。
【0054】
次に、調製した坏土を、押出成形法、射出成形法、プレス成形法等でハニカム形状に成形し、生のハニカム成形体を得る。連続成形が容易であり、例えばコージェライト結晶を配向させることができることから、押出成形法を採用することが好ましい。押出成形法は、真空土練機、ラム式押出成形機、2軸スクリュー式連続押出成形機等の装置を用いて行うことができる。
【0055】
次に、ハニカム成形体を乾燥させて所定の寸法に調整してハニカム乾燥体を得る。ハニカム成形体の乾燥は、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、誘電乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等で行うことができる。なお、全体を迅速且つ均一に乾燥することができることから、熱風乾燥と、マイクロ波乾燥又は誘電乾燥と、を組み合わせて乾燥を行うことが好ましい。
【0056】
なお、後述のように、
図9、
図10及び
図11に示すような目封止部を有するハニカム構造体20を製造する場合は、ここで、目封止部の原料を用意する。目封止部の材料(目封止用スラリー)は、隔壁(ハニカム乾燥体)と同じ坏土用材料を用いてもよいし、異なる材料を用いてもよい。具体的には、セラミック原料、界面活性剤、及び水を混合し、必要に応じて焼結助剤、造孔剤等を添加してスラリー状にし、ミキサー等を使用して混練することにより得ることができる。次に、ハニカム乾燥体の一方の端面のセル開口部の一部にマスクを施し、その端面を、目封止用スラリーが貯留された貯留容器中に浸漬して、マスクをしていないセルに目封止用スラリーを充填する。同様にして、ハニカム乾燥体の他方の端面のセル開口部の一部にマスクを施し、その端面を、目封止用スラリーが貯留された貯留容器中に浸漬して、マスクをしていないセルに目封止用スラリーを充填し、その後、乾燥させて、目封止部を有するハニカム乾燥体を得る。目封止の方法としては、ペースト状の材料を、スキージのようなへらで押し込むのが簡単な方法である。スキージの押し込み回数で深さを制御するのが簡単である。深く磁性体を入れたいセルの部分は、押し込み回数を多くし、周辺の浅い箇所は押し込み回数を少なくする。
【0057】
次に、ハニカム乾燥体を焼成することによって、ハニカム構造体を得る。上記乾燥の条件は、ハニカム成形体を乾燥させる条件と同様の条件を採用することができる。また、上記焼成の条件は、コージェライト化原料を用いた場合には、通常、大気雰囲気下、1410~1440℃の温度で3~15時間とすることができる。
【0058】
次に、焼成後のハニカム構造体に対し、一方の端面及び他方の端面の一方または両方に溝部を形成し、当該溝部に、導電性材料を含む環状の導電ループを1つ以上埋め込む処理を行う。溝部は、超音波加工で形成してもよく、砥石で加工してもよい。いずれの場合も、まず、ハニカム構造体の一方の端面に被覆材(樹脂シート等)を、端面全面を覆うように貼り付けて封止する。次に、超音波加工で溝部を形成する場合は、例えば超音波加工機の超音波ドリルを、焼成後のハニカム構造体の端面に直接当てて、研削を行うことで、所望の形状及び深さの溝部を形成することができる。また、砥石による加工で溝部を形成する場合は、砥石を用いて端面に所望の形状及び深さの溝部を形成する。
【0059】
このようにして、端面に溝部が形成されたハニカム構造体に対し、溝部の底部を封止する。封止には、粘土等を用いることができる。粘土の材料としては、特に限定されず、一般的な材料を用いることができるが、コージェライト粒子とコロイダルシリカと微小細孔を形成する造孔材なるデンプンと、水とを混合して適当な粘度となるよう調整したものを用いることが好ましい。
【0060】
次に、溝部に、導電性材料を含む環状の導電ループを1つ以上埋め込む。このとき、導電ループを導電性粒子含有層で構成する場合は、導電性粒子と接合材とのスラリーを作製しておき、当該スラリーを溝部内へ注入する。続いて、ハニカム構造体を乾燥した後、端面の被覆材(樹脂シート等)を剥がし、ハニカム構造体を焼成する。焼成条件は、接合材として用いた材料が硬化する条件とすることができる。
【0061】
また、導電ループを金属板部材または金属メッシュ部材とする場合は、溝部内へ金属板部材または金属メッシュ部材を埋め込み、隙間に接合材を流し込む。続いて、ハニカム構造体を乾燥した後、端面の被覆材(樹脂シート等)を剥がし、ハニカム構造体を焼成する。焼成条件は、接合材として用いた材料が硬化する条件とすることができる。
【0062】
こうして得られた導電ループが溝部に埋め込まれたハニカム構造体は、その外周面に外周壁が形成された状態で作製される場合には、その外周面を研削し、外周壁を取り除いた状態としてもよい。このようにして外周壁を取り除いたハニカム構造体の外周に、後の工程にて、コーティング材を塗布して外周コーティングを形成する。また、外周面を研削する場合には、外周壁の一部を研削して取り除き、その部分に、コーティング材によって外周コーティングを形成してもよい。
【0063】
コーティング材を調製する場合には、例えば、2軸回転式の縦型ミキサーを用いて調製することができる。
【0064】
また、コーティング材には、コロイダルシリカ、有機バインダ、粘土等を更に含有させてもよい。なお、有機バインダは、0.05~0.5質量%用いることが好ましく、0.1~0.2質量%用いることが更に好ましい。また、粘土は、0.2~2.0質量%用いることが好ましく、0.4~0.8質量%用いることが更に好ましい。
【0065】
先に作製したハニカム構造体の外周面に、コーティング材を塗布し、塗布したコーティング材を乾燥させて、外周コーティングを形成する。このように構成することによって、乾燥・熱処理時の外周コーティングのクラックの発生を効果的に抑制することができる。
【0066】
コーティング材の塗工方法としては、例えば、ハニカム構造体を回転台の上に載せて回転させ、コーティング材をブレード状の塗布ノズルから吐出させながらハニカム構造体の外周部に沿うように塗布ノズルを押し付けて塗布する方法を挙げることができる。このように構成することによって、コーティング材を均一な厚さで塗布することができる。また、形成した外周コーティングの表面粗さが小さくなり、外観に優れ、且つ熱衝撃によって破損し難い外周コーティングを形成することができる。
【0067】
なお、ハニカム構造体の外周面が研削されて、外周壁が取り除かれたものの場合には、ハニカム構造体の外周面全体にコーティング材を塗布して外周コーティングを形成する。一方、ハニカム構造体の外周面に外周壁が存在する、或いは、一部の外周壁が取り除かれている場合には、部分的にコーティング材を塗布して外周コーティングを形成してもよいし、勿論、ハニカム構造体の外周面全域にコーティング材を塗布して外周コーティングを形成してもよい。
【0068】
塗布したコーティング材(即ち、未乾燥の外周コーティング)を乾燥する方法については特に制限はないが、例えば、乾燥クラック防止の観点から、室温にて24時間以上保持することでコーティング材中の水分の25%以上を乾燥させた後、電気炉にて600℃で1時間以上保持することで水分及び有機物を除去する方法を好適に用いることができる。
【0069】
また、ハニカム構造体のセルの開口部が予め封止されていない場合には、外周コーティングを形成した後に、セルの開口部に目封止を行ってもよい。
【0070】
図9には、本発明の一実施形態の目封止部19を有するハニカム構造体20を模式的に示す斜視図が記載されている。
図10には、本発明の一実施形態の目封止部19を有するハニカム構造体20のセル15及び隔壁12における、セル15の延伸方向に平行な断面を模式的に示す断面図が記載されている。ハニカム構造体20は、柱状に形成されており、外周壁11と、外周壁11の内側に配設され、一方の端面13から他方の端面14まで貫通して流路を形成する複数のセル15を区画形成する多孔質の隔壁12とを備える。図示のハニカム構造体20において、セル15は、一方の端面13側が開口して他方の端面14に目封止部19を有する複数のセルAと、セルAとそれぞれ交互に配置され、他方の端面14側が開口して一方の端面13に目封止部19を有する複数のセルBとを備える。セルA及びセルBは隔壁12を挟んで交互に隣接配置されており、両端面は市松模様を形成する。セルA及びセルBの数、配置、形状等及び隔壁12の厚み等は制限されず、必要に応じて適宜設計することができる。このような構成のハニカム構造体20は、排ガス中の粒状物質(カーボン微粒子)に対し、誘導加熱を用いて燃焼除去するための目封止部19を設けたフィルタ(例えば、ディーゼルパティキュレートフィルタ(以下、「DPF」ともいう))として用いることができる。なお、このような目封止部19は従来公知のハニカム構造体の目封止部として用いられるものと同様に構成されたものを用いることができる。そして、外周コーティングが形成された後に配設されたものであってもよいし、外周コーティングが形成される前の状態、即ち、ハニカム構造体20を作製する段階で配設されたものであってもよい。
【0071】
図11(a)には、ハニカム構造体20の一方の端面13を模式的に示す平面図が記載されている。
図11(b)には、ハニカム構造体20のセル15及び隔壁12における、セル15の延伸方向に平行な断面を模式的に示す断面図が記載されている。目封止部19を有するハニカム構造体20についても、ハニカム構造体1で説明した構成と同様に、一方の端面13及び他方の端面14の一方または両方に溝部22が設けられており、溝部22に、導電性材料を含む環状の導電ループ21が1つ以上埋め込まれている。
【0072】
<2.排気ガス浄化装置>
上述した本発明のハニカム構造体を用いて排気ガス浄化装置を構成することができる。
図12は、例として、ハニカム構造体1が組み込まれた排気ガス浄化装置6の排気ガス流路の概略図を示している。排気ガス浄化装置6は、ハニカム構造体1とハニカム構造体1の外周を螺旋状に周回するコイル配線4とを有する。また、排気ガス浄化装置6は、ハニカム構造体1及びコイル配線4を収容する金属管2を有する。金属管2の拡径部2aに排気ガス浄化装置6を配置することができる。コイル配線4は固定部材5によって金属管2内に固定されてもよい。固定部材5は、セラミック繊維等の耐熱性部材であることが好ましい。ハニカム構造体1は触媒を担持してもよい。
【0073】
コイル配線4は、ハニカム構造体1の外周に螺旋状に巻かれる。2以上のコイル配線4が用いられる形態も想定される。スイッチSWのオン(ON)に応じて交流電源CSから供給される交流電流がコイル配線4に流れ、この結果として、コイル配線4の周囲には周期的に変化する磁界が生じる。なお、スイッチSWのオン・オフが制御部3により制御される。制御部3は、エンジンの始動に同期してスイッチSWをオンさせ、コイル配線4に交流電流を流すことができる。なお、エンジンの始動とは無関係に(例えば、運転手により押される加熱スイッチの作動に応じて)制御部3がスイッチSWをオンする形態も想定される。
【0074】
本開示においては、コイル配線4に流れる交流電流に応じた磁界の変化に応じてハニカム構造体1が昇温する。これによりハニカム構造体1により捕集されるカーボン微粒子などが燃焼する。また、ハニカム構造体1が触媒を担持する場合、ハニカム構造体1の昇温は、ハニカム構造体1に含まれる触媒担体より担持された触媒の温度を高め、触媒反応が促進される。端的には、一酸化炭素(CO)、窒化酸化物(NOx)、炭化水素(CH)が、二酸化炭素(CO2)、窒素(N2)、水(H2O)に酸化又は還元される。
【実施例】
【0075】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例を例示するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0076】
<実施例1>
コージェライト(2MgO・2Al
2O
3・5SiO
2)からなる、円柱状のハニカム構造体を準備した。当該円柱状のハニカム構造体は、長さ:85mm、長さ方向と垂直な断面の直径:83mm、隔壁の厚み:150μm、セル密度:63セル/cm
2、気孔率:27%、平均細孔直径:2μmであった。
続いて、ハニカム構造体の一方の端面に被覆材(樹脂シート)を、当該端面全面を覆うように貼り付けて封止した。続いて、研削幅1.5mmの砥石を用いて当該端面に、
図8(a)に示すような形状の環状の溝部を加工形成した。環状の溝部の内径は50mm、深さは1mm、幅は1.5mmであった。また、溝部の熱伝導フィンに位置する部分について、長さは30mm、深さは1.0mmであった。
次に、溝部の底部を粘土で封止した。粘土材料としては、コージェライト粒子とコロイダルシリカと微小細孔を形成する造孔材なるデンプンと、水とを混合して適当な粘度となるよう調整したものを用いた。
次に、底部が粘度で封止された溝部へ、厚さ1mm、全長30mmの略四角形で、角部に変形を容易にする低バネ定数のバネ部材を設けた、環状のフェライト系ステンレス金属環を挿入した。次いで、コージェライト粒子とコロイダルシリカと微小細孔を形成する造孔材なるデンプンと水との混合スラリーを、溝部内の隙間、及び、環状のフェライト系ステンレス金属環が挿入されていない溝部へ注入した。
次に、ハニカム構造体を120℃で1時間乾燥させた。次に、端面の被覆材(樹脂シート)を剥がした後、ハニカム構造体を700℃で1時間焼成した。
その結果、環状のフェライト系ステンレス金属環は溝部に埋め込まれて固定されるとともに、溝部へガスが侵入しない構造が得られた。
【0077】
<実施例2>
実施例1と同様の構成の円柱状のハニカム構造体を準備した。
続いて、円柱状のハニカム構造体の一方の端面に被覆材(樹脂シート)を、当該端面全面を覆うように貼り付けて封止した。次いで、実施例1と同様の方法で、同様のサイズの溝部を形成した。当該溝部は、
図6(a)に示す形状であった。
次に、実施例1と同様の方法で、溝部の底部を粘土で封止した。
次に、フェライト系ステンレス粒子(平均粒子径100μm)と、シリカ系ガラス粒子(平均径2μm)、分散材、及び水を含むスラリーを、これらの溝部の内部へ注入した。スラリーは、フェライト系ステンレス粒子:シリカ系ガラス粒子:分散材:水=66:33:1:140の質量比であった。
次に、スラリーが注入される側とは反対側の被覆材の孔からスラリーが流出するタイミングでスラリーの注入を停止した。
その後、ハニカム構造体を120℃で1時間乾燥させた。次に、端面の被覆材(樹脂シート)を剥がした後、ハニカム構造体を900℃で1時間焼成した。
その結果、環状のフェライト系ステンレス粒子含有層で構成された金属環が溝部に埋め込まれて固定されるとともに、溝部へガスが侵入しない構造が得られた。
【0078】
<実施例3>
実施例1と同様の構成の円柱状のハニカム構造体を準備した。
続いて、円柱状のハニカム構造体の一方の端面に被覆材(樹脂シート)を、当該端面全面を覆うように貼り付けて封止した。次いで、実施例1と同様の方法で、同様のサイズの溝部を形成した。当該溝部は、
図6(a)に示す形状であった。
次に、実施例1と同様の方法で、溝部の底部を粘土で封止した。
次に、底部が粘度で封止された溝部へ、厚さ1mm、全長30mmの略四角形の環状のフェライト系ステンレス金属繊維布からなる導電環を挿入した。次いで、コージェライト粒子とコロイダルシリカと微小細孔を形成する造孔材なるデンプンと水との混合スラリーを、溝部内の隙間、及び、環状のフェライト系ステンレス金属繊維布が挿入されていない溝部へ注入した。
次に、ハニカム構造体を120℃で1時間乾燥させた。次に、端面の被覆材(樹脂シート)を剥がした後、ハニカム構造体を700℃で1時間焼成した。
その結果、環状のフェライト系ステンレス金属繊維布は溝部に埋め込まれて固定されるとともに、溝部へガスが侵入しない構造が得られた。
【0079】
<比較例1、2>
実施例1と同様の構成の円柱状のハニカム構造体を準備した。
続いて、比較例1では、このハニカム構造体の5セルおきにフェライト系ステンレスワイヤをセル内に挿入した。また、比較例2では、このハニカム構造体の5セルおきにオーステナイト系ステンレスワイヤをセル内に挿入した。
【0080】
(評価試験:最高温度点の到達温度)
得られた実施例3及び比較例1、2のハニカム構造体をコイルの内側に置き、初期温度を室温とし、30kHzの周波数で14kWの電力をコイルに投入し、各サンプルの最高温度点の到達温度を放射温度計により計測した。得られた最高温度点の到達温度を表1に示す。
【0081】
【0082】
(考察)
表1に示すとおり、比較例1、2では、最高温度点の到達温度がススの燃焼に必要な600℃に達していないが、実施例3では、周波数30kHzにおいても、ススの燃焼開始に必要な600℃を超える温度が確認された。
【符号の説明】
【0083】
1、20 ハニカム構造体
2 金属管
3 制御部
4 コイル配線
5 固定部材
6 排気ガス浄化装置
11 外周壁
12 隔壁
13、14 端面
15 セル(セルA+セルB)
19 目封止部
21 導電ループ
22 溝部
23 導電性粒子含有層
24 接合材
25 金属メッシュ部材
26 金属板部材
27 熱伝導フィン
28 弾性部材
29 導電ループの一辺