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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-05
(45)【発行日】2022-10-14
(54)【発明の名称】繊維シート
(51)【国際特許分類】
   D04H 1/43 20120101AFI20221006BHJP
   D04H 1/728 20120101ALI20221006BHJP
   D01D 5/04 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
D04H1/43
D04H1/728
D01D5/04
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022534453
(86)(22)【出願日】2021-11-25
(86)【国際出願番号】 JP2021043208
【審査請求日】2022-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2020195843
(32)【優先日】2020-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 佳織
(72)【発明者】
【氏名】小島 理恵
(72)【発明者】
【氏名】川部 雅章
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-268405(JP,A)
【文献】特開2012-197529(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0088946(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H1/00-18/04
D01D1/00-13/02
D01F1/00-9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノマーとして少なくともアクリロニトリルと酢酸ビニルとを有する共重合体を含有した繊維を含んでいる、静電紡糸により製造された 繊維シートであって、
下記測定方法で評価される、単位目付あたりのたわみ量が0.44(単位:mm/g/m)未満である、繊維シート。
<測定方法>
工程(1)繊維シートから長方形形状の試料(短辺:50mm、長辺:100mm)を採取する、
なお、短辺方向は繊維シートの生産方向と平行を成し、長辺方向は繊維シートの生産方向と垂直を成す、
工程(2)天板に重力方向に空けられた開口(形状:円形、直径:10mm)を有する台を用意し、前記開口を覆うように前記天板上に、採取した前記試料を固定する、
工程(3)半径0.5mmの半円形形状に丸められた先端を有する針状の測定子(直径:1.0mm)の前記先端を、前記試料上から前記試料を貫通して前記開口を通過する重力方向へ、毎分10mmの速度で移動させる、
工程(4)前記試料における、前記工程(3)で前記測定子の前記先端が前記試料と接触した箇所について、前記測定子の前記先端が前記試料を貫通するまでに、前記箇所が重力方向へ向かい移動した距離(単位:mm)を測定する、
工程(5)前記移動した距離を前記試料の目付(単位:g/m)で割った値(単位:mm/g/m)を算出する、
工程(6)前記試料における別の箇所で、前記工程(2)から前記工程(5)の測定を行い、新たに値(単位:mm/g/m)を算出する、
工程(7)前記工程(1)から前記工程(6)を、同一の繊維シートから採取した合計5枚の試料ごとに行い、合計10個(単位:mm/g/m)の値を算出し、それらの平均値を単位目付あたりのたわみ量(単位:mm/g/m)とする。
【請求項2】
前記繊維シートを構成する繊維の繊維径のCV値が、44.7%未満である請求項1に記載の繊維シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維シートに関する。
【背景技術】
【0002】
アクリロニトリル共重合体(以降、PAN共重合体と略すことがある)、ポリアクリロニトリルなどのポリアクリロニトリル系樹脂は、耐油性、耐薬品性、ガスバリア性、剛性など諸物性に優れる。
【0003】
このような特徴を有することから、ポリアクリロニトリル系樹脂を含有する繊維を含み構成されている繊維シートは、様々な分野で使用されている。繊維シートは、例えば、電気化学素子用セパレータ(特許文献1参照)、気体フィルタ、液体フィルタ、燃料電池の電解質膜支持体、水分解用分離膜支持体、人工皮膚などの医用材料(特許文献2参照)、細胞培養担体などのバイオサイエンスに使用する担体または支持体、または、芯地、生地などの衣料材料に使用されている。
【0004】
近年では、繊維シートは、表面が平滑であることおよび比表面積が大きいことなどによって、より様々な産業に使用できるよう、当該繊維シートの平均繊維径は小さいことが求められている。本発明者らは、これまで、ポリアクリロニトリル系樹脂を静電紡糸してなる繊維を含み構成されている繊維シートと、その製造方法について検討を行ってきた。そして、当該検討を通し、PAN共重合体を採用することで、平均繊維径が小さい繊維シートを提供できるという知見(特許文献1参照)を得た。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-266311号公報
【文献】特開2004-321484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、PAN共重合体を含有した繊維を含み構成されている繊維シートは、伸度が高く外力に追従して意図せず変形し易いという問題を有している。この意図せず変形し易いという問題は、特にPAN共重合体を含有した繊維の平均繊維径が小さいほど、顕著に表れるものである。
そのため、このような問題を有する繊維シートを、例えば、人工皮膚などの医用材料に使用する場合、または、芯地、生地などの衣料材料に使用する場合には、針の刺し入れる方向へ繊維シートが意図せず伸びて、針を通し難いといった問題が発生することがある。
本発明は、上記事情に鑑みてなされてものであり、意図せず変形し易いという問題が発生し難い、PAN共重合体を含有した繊維を含んでいる繊維シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討を続けた結果、所定の測定方法で評価される、単位目付あたりのたわみ量が0.44(単位:mm/g/m)未満であるという構成を満足することで、意図せず変形するのが防止された、PAN共重合体を含有した繊維を含んでいる繊維シートを提供できることを見出した。
加えて、繊維シートを構成する繊維の繊維径のCV値が44.7%未満であるという構成を満足することで、主面全体にわたり意図せず変形するのが防止された、PAN共重合体を含有した繊維を含んでいる繊維シートを提供できることをも見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、「アクリロニトリル共重合体を含有した繊維を含んでいる、繊維シートであって、下記測定方法で評価される、単位目付あたりのたわみ量が0.44(単位:mm/g/m)未満である、繊維シートである。
<測定方法>
工程(1)繊維シートから長方形形状の試料(短辺:50mm、長辺:100mm)を採取する、なお、短辺方向は繊維シートの生産方向と平行を成し、長辺方向は繊維シートの生産方向と垂直を成す、
工程(2)天板に重力方向に空けられた開口(形状:円形、直径:10mm)を有する台を用意し、前記開口を覆うように前記天板上に採取した前記試料を固定する、
工程(3)半径0.5mmの半円形形状に丸められた先端を有する針状の測定子(直径:1.0mm)の前記先端を、前記試料上から前記試料を貫通して前記開口を通過する重力方向へ、毎分10mmの速度で移動させる、
工程(4)前記試料における、前記工程(3)で前記測定子の前記先端が前記試料と接触した箇所について、前記測定子の前記先端が前記試料を貫通するまでに、前記箇所が重力方向へ向かい移動した距離(単位:mm)を測定する、
工程(5)前記移動した距離を前記試料の目付(単位:g/m)で割った値(単位:mm/g/m)を算出する、
工程(6)前記試料における別の箇所でも前記工程(2)から前記工程(5)の測定を行い、新たに値(単位:mm/g/m)を算出する、
工程(7)前記工程(1)から前記工程(6)を、同一の繊維シートから採取した合計5枚の試料ごとに行い、合計10個(単位:mm/g/m)の値を算出し、それらの平均値を単位目付あたりのたわみ量(単位:mm/g/m)とする。
【0009】
前記繊維シートを構成する繊維の繊維径のCV値は、44.7%未満であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、意図せず変形するのが防止された、PAN共重合体を含有した繊維を含んでいる繊維シートを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明では、例えば以下の構成など、各種構成を適宜選択できる。なお、本発明で説明する各種測定は特に記載や規定のない限り、大気下である常圧25℃温度条件下で測定を行った。そして、本発明で説明する各種測定結果は特に記載や規定のない限り、求める値よりも一桁小さな値まで測定で求め、当該一桁小さな値を四捨五入することで求める値を算出した。具体例として、小数第一位までが求める値である場合、測定によって小数第二位まで値を求め、得られた小数第二位の値を四捨五入することで小数第一位までの値を算出し、この値を求める値とした。また、本発明で例示する各上限値および各下限値は、任意に組み合わせることができる。
【0012】
本発明でいう繊維シートとはシート状の布帛を指し、例えば、繊維ウェブまたは不織布、織物または編み物などであることができる。特に、繊維ウェブ、不織布など、繊維同士がランダムに絡合してなる繊維シートであると、繊維同士が成す空隙の形状および大きさが均一なものとなることで、より様々な産業に使用でき好ましい。
【0013】
本発明でいうPAN共重合体とは、直鎖構造中に-(CHCH(CN))-化学構造のセグメントと、他種の化学構造のセグメントとを備える共重合体の樹脂を指す。PAN共重合体は、このような複数種類のセグメントを備えた化学構造を有しているため、ホモポリマーであるポリアクリロニトリルよりも、細径化し易く平均繊維径が小さい繊維シートを調製し易く、そして、伸度が高いという特性を有している。
【0014】
PAN共重合体の種類は、本発明にかかる繊維シートの用途によって適宜選択できる。例えば、アクリロニトリル-酢酸ビニル共重合体、アクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸メチル共重合体、アクリル酸共重合体、メタクリル酸共重合体、塩化ビニル共重合体、塩化ビニリデン共重合体、アクリル酸アミド共重合体、ビニルスルホン酸塩共重合体などを採用できる。なお、平均繊維径が小さい繊維であることができるように、また、剛性に優れているように、PAN共重合体を構成するセグメントに占めるアクリロニトリル成分は85~98モル%であるのが好ましい。
【0015】
PAN共重合体の分子量は、繊維化できるかぎり限定されるものでなく、本発明にかかる繊維シートの用途によって適宜選択できる。例えば、PAN共重合体の分子量は、1万~100万であることができ、2万~80万であることができ、4万~60万であることができる。本発明でいう分子量とは、ゲル浸透クロマトグラフィーに基づき測定した値である。なお、カタログや論文などに採用するPAN共重合体の分子量が記載されている場合には、その分子量を当該PAN共重合体の分子量とすることができる。
【0016】
なお、PAN共重合体は、直鎖状ポリマーまたは分岐状ポリマーのいずれからなるものでもよく、ブロック共重合体またはランダム共重合体でもよく、立体構造、結晶性の有無も、特に限定されるものではない。
【0017】
繊維シートの構成繊維である、PAN共重合体を含有した繊維(以降、PAN共重合体繊維と略すことがある)に含有されている、PAN共重合体の割合は適宜調整できる。しかし、耐油性、耐薬品性、ガスバリア性、剛性など諸物性に優れ、かつ、平均繊維径が小さい、繊維シートであることによって、より様々な産業に使用できるよう、PAN共重合体繊維の構成樹脂は、PAN共重合体のみであるのが好ましい。
【0018】
また、PAN共重合体繊維に含有されている、PAN共重合体の種類は一種類または複数種類であってもよい。しかし、求める産業に最適な物性を有する繊維シートを、意図した通り得ることを容易にする観点から、PAN共重合体繊維に含有されているPAN共重合体の種類は、一種類であるのが好ましい。
【0019】
PAN共重合体繊維の平均繊維径は、細いほど上記効果が発揮され易くなる。そのため、平均繊維径が4μm以下であるのが好ましく、3μm以下であるのがより好ましく、2μm以下であるのさらに好ましく、1μm以下であるのがよりさらに好ましく、500nm以下であるのが特に好ましい。なお、下限値も適宜調整できるが、0.1μm以上であるのが現実的である。なお、本発明でいう「繊維径」は、繊維シートの主面の電子顕微鏡写真に写る繊維における、繊維の長さ方向に対して直交する方向における長さをいい、測定対象となる50本の繊維における各繊維径の平均値を「平均繊維径」という。
【0020】
主面全体にわたり物性が不均一な繊維シートでは、その主面全体にわたり針の通し易さが不均一となり易い。それに対し、本発明にかかる繊維シートが繊維径の揃った繊維で構成されている場合には、繊維シートの主面全体にわたり針の通し易さが均一な繊維シートを提供でき、主面全体にわたり意図せず変形するのが防止された繊維シートを提供できる。そのため、本発明にかかる繊維シートは、構成繊維の繊維径のCV値が44.7%未満であるという構成を満足するのが好ましい。なお、ここでいうCV値は以下の測定方法で求めることができる。
【0021】
(CV値の測定方法)
1.繊維シートから50本の繊維をランダムに選出し、その繊維径の平均値(平均繊維径)を算出する。なお、当該50本の繊維として、平均繊維径を算出するため選出した50本の繊維を採用できる。
2.上述した50本の繊維における繊維径分布から求めた、50本の繊維における繊維径の標準偏差を上記平均繊維径で除した値を算出し、百分率に換算した値をCV値(単位:%)とする。
なお、標準偏差は、以下の計算式を用いて算出できる。
標準偏差=[(nΣχ-(Σχ))/n(n-1)]1/2
ここで、nは測定した繊維の本数(つまり50本)、χはそれぞれの繊維の繊維径を意味する。
【0022】
繊維径のCV値が小さい繊維シートであるほど、当該繊維シートは繊維径が揃った繊維(PAN共重合体繊維など)で構成されていることを意味する。そのため、CV値は44.7%未満であるのが好ましく、40%以下であるのがより好ましく、30%以下であるのがさらに好ましく、20%以下であるのがよりさらに好ましく、16.3%以下であるのが特に好ましい。なお、CV値の下限値は特に限定されるものではないが、理想的には0%であって、5%以上であるのが現実的である。
【0023】
そして、繊維シートの構成繊維がPAN共重合体繊維のみであり、上述したCV値を満足する繊維シートであるのがより好ましい。その結果、さらに、主面全体にわたり意図せず変形するのが防止された、PAN共重合体繊維のみで構成された繊維シートを提供できる。
【0024】
このようなCV値が十分小さい繊維シートは、後述の実施例で使用している、紡糸液へノズルやスリットから吐出された気体流を作用させることなく、電界を作用させて紡糸する方法によって提供できる。一方、紡糸液へノズルやスリットから吐出された気体流を作用させて紡糸する方法を用いると、CV値が44.7%未満の繊維シートを提供することができない。この理由として、ノズルやスリットから吐出された気体流が紡糸液とぶつかり紡糸液が引きちぎられる、または、紡糸液の吐出方向と平行を成すようにしてノズルやスリットから吐出された気体流によって紡糸液が延伸されることで、紡糸液の細径化が不均一になり、構成繊維の繊維径が不均一な繊維シートとなるためである。
【0025】
また、PAN共重合体繊維の繊維長も適宜調整するが、0.1mm以上であることができ、0.5mm以上であることができ、1mm以上であることができる。繊維シートは、繊維長が長いPAN共重合体繊維を含むことが好ましい。これにより、表面平滑な繊維シートを調製でき、より様々な産業に使用できる。そのため、PAN共重合体繊維は連続長を有するのが好ましく、構成繊維が連続長を有するPAN共重合体繊維のみである繊維シートがより好ましい。このような繊維シートは、直接紡糸法を用いることで調製可能である。なお、「繊維長」は、繊維を撮影した電子顕微鏡写真をもとに測定した、測定対象となる50本の繊維における各繊維の長さ方向の長さの平均値を「繊維長」という。また、当該測定において、測定対象となる繊維の繊維長が長過ぎるため、繊維における長さ方向の長さを測定することが困難である場合、当該繊維は連続長を有すると判断できる。
【0026】
繊維シートは構成繊維として、前述したPAN共重合体繊維以外にも、他の樹脂を含有した繊維を含んでいてもよい。他の樹脂は、直鎖状ポリマーまたは分岐状ポリマーのいずれからなるものでも構わず、また、樹脂がブロック共重合体やランダム共重合体でも構わず、さらに、樹脂の立体構造、結晶性、および結晶性の有無も、特に限定されるものではない。さらには、多成分の樹脂を混ぜ合わせたものでもよい。他の樹脂を含有した繊維の平均繊維径および繊維長は、上述したPAN共重合体繊維と同様の値を取ることができる。
【0027】
繊維シートに含まれるPAN共重合体繊維の割合は適宜調整できるが、より様々な産業に使用できるよう、繊維シートの構成繊維はPAN共重合体繊維のみであることが好ましい。
【0028】
繊維シートの構成繊維は、例えば、溶融紡糸法、乾式紡糸法、湿式紡糸法、直接紡糸法(メルトブロー法、スパンボンド法、静電紡糸法など)、複合繊維から一種類以上の樹脂成分を除去することで繊維径が細い繊維を抽出する方法、繊維を叩解して分割された繊維を得る方法など公知の方法により得ることができる。特に、繊維径のCV値が小さい繊維シートを提供できるよう、紡糸液へノズルやスリットから吐出された気体流を作用させることなく、電界を作用させて紡糸する方法を採用するのが好ましい。
【0029】
繊維シートの構成繊維は、一種類の樹脂から構成されてなるものでも、複数種類の樹脂から構成されてなるものでも構わない。複数種類の樹脂から構成されてなる繊維として、一般的に複合繊維と称される、例えば、芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型、オレンジ型、バイメタル型などの態様であることができる。
【0030】
また、繊維シートの構成繊維は、略円形の繊維および楕円形の繊維以外にも異形断面繊維を含んでいてもよい。なお、異形断面繊維として、中空形状、三角形形状などの多角形形状、Y字形状などのアルファベット文字型形状、不定形形状、多葉形状、アスタリスク形状などの記号型形状、またはこれらの形状が複数結合した形状などの繊維断面を有する繊維であってもよい。
【0031】
また、繊維シートは機能材(例えば、固形状の機能材としてシリカ粒子、チタニア粒子、ジルコニア粒子、イットリア安定化ジルコニア粒子、アルミナ粒子、金属有機構造体(MOF)、各種ポリマー粒子)を含んでいてもよい。繊維シートの構成繊維中に含有されていても、構成繊維同士の間(繊維シートの空隙中)に存在する態様であってもよい。
【0032】
繊維シートが繊維ウェブまたは不織布である場合、例えば、繊維をカード装置やエアレイ装置などに供することで繊維を絡み合わせる乾式法、繊維を溶媒に分散させシート状に抄き繊維を絡み合わせる湿式法、直接紡糸法(メルトブロー法、スパンボンド法、静電紡糸法、紡糸原液と気体流を平行に吐出して紡糸する方法(例えば、特開2009-287138号公報に開示の方法)など)を用いて繊維の紡糸を行うと共にこれを捕集する方法、などによって調製できる。
【0033】
特に、厚みが薄く構成繊維が均一に分散した繊維シートを調製可能であることから、直接紡糸法により調製された繊維シートであるのが好ましい。そして、繊維径のCV値が小さい繊維シートを提供できるよう、紡糸液へノズルやスリットから吐出された気体流を作用させることなく、電界を作用させて紡糸する方法により調製された繊維シートであるのが好ましい。
【0034】
調製した繊維ウェブの構成繊維を絡合および/または一体化させて不織布を調製してもよい。構成繊維同士を絡合および/または一体化させる方法として、例えば、ニードルや水流によって絡合する方法、繊維ウェブを加熱処理へ供するなどして周知のバインダあるいは熱融着性繊維によって、構成繊維同士を接着一体化あるいは熱融着させる方法などを挙げることができる。
【0035】
加熱処理の方法は適宜選択できるが、例えば、ロールにより加熱または加熱加圧する方法(例えば、ヒートロールを用いることで加熱加圧できる)、オーブンドライヤー、遠赤外線ヒーター、乾熱乾燥機、熱風乾燥機などの加熱機へ供し加熱する方法、無圧下で赤外線を照射する方法などを用いることができる。
【0036】
繊維シートが織物または編物である場合、前述のようにして調製した繊維を織るまたは編むことで、織物または編物を調製できる。なお、繊維ウェブ以外にも不織布、織物、編物などの繊維シートを、前述した構成繊維同士を絡合および/または一体化させる方法へ供してもよい。
【0037】
繊維シートの、例えば目付、厚み、および空隙率などの諸物性は、用途に合わせ適宜調整できる。
【0038】
目付は、0.1~50g/mであることができ、0.3~45g/mであることができ、0.5~40g/mであることができる。この「目付」はJIS P8124(紙及び板紙―坪量測定法)に規定されている方法に基づいて得られる坪量をいう。
【0039】
繊維シートの厚みは、0.3~175μmであることができ、1~150μmであることができ、2~130μmであることができる。この「厚み」は、JIS B7502に規定されている外側マイクロメータ―(測定可能厚み:0~25mm)を用いて測定した値をいう。
【0040】
繊維シートの空隙が多い程、柔軟性に富み取扱い性が優れるため、より様々な産業に使用でき好ましい。繊維シートの空隙率は40%以上が好ましく、50%以上であるのがより好ましく、70%以上であるのがさらに好ましく、80%以上であるのがよりさらに好ましい。
【0041】
一方、空隙が多過ぎると強度に劣る恐れがあるため、空隙率は99%以下であるのが好ましく、95%以下であるのがより好ましく、90%以下であるのがさらに好ましい。この「空隙率」は次の式により得られる値をいう。
P=[1-M/(T×d)]×100
ここで、Mは繊維シートの目付(単位:g/m)、Tは繊維シートの厚み(単位:μm)、dは繊維シートを構成する各種樹脂の平均密度(単位:g/cm)を、それぞれ意味する。
【0042】
本発明にかかる繊維シートは、ショットを有していてもよい。ショットとは、繊維シートを構成する繊維の構成樹脂(PAN共重合体など)で構成された非繊維状の構造をした部分である。具体例として、直接紡糸法を用いた際に紡糸液が繊維化せず液滴の状態で捕集面に付着した場合、当該付着物がショットとなる。
【0043】
繊維シートがショットを有している場合には、当該ショットの存在によってPAN共重合体繊維同士が固定される。その結果、繊維シートの剛性が向上する。繊維シートの剛性の向上は、本発明にかかる構成(詳細は後述する、単位目付あたりのたわみ量が0.44(単位:mm/g/m)未満)を満足する繊維シートを実現できるため、好ましい。特に、繊維シートが有するショットの量が多いほど好ましく、本発明にかかる構成を満足する繊維シートを実現し易くなる。
【0044】
繊維シートが有するショットの量は、後述する方法で算出される、繊維シートの主面に占める、当該主面に露出し存在するショットの面積の百分率で評価できる。
【0045】
本発明者らは、本発明にかかる構成を満足する繊維シートを実現する観点から、ショット面積の百分率が0.6%よりも多いことが好ましいことを見出した。当該ショット面積の百分率は、1%以上であるのが好ましく、5%以上であるのが好ましく、10%以上であるのが好ましく、15%以上であるのが好ましく、16.8%よりも多いのが好ましく、17%以上であるのが好ましく、18%以上であるのが好ましく、19%以上であるのが好ましく、20%以上であるのが好ましい。一方、ショット面積の百分率が高過ぎると通気性に劣るなど、より様々な産業に使用するのが困難な繊維シートとなる恐れがある。そのため、ショット面積の百分率は100%未満であるのが好ましく、70%以下であるのが好ましく、50%以下であるのが好ましい。なお、ショット面積の百分率は、以下の方法で算出できる。
【0046】
(ショット面積の百分率の算出方法)
(1)電子顕微鏡を用いて、繊維シートの主面の電子顕微鏡写真(倍率:500倍、視野範囲:縦方向200μm×横方向300μm)を撮影する。
(2)撮影された電子顕微鏡写真を、画像処理ソフトウェアであるImageJ(配布サイト:https://imagej.nih.gov/ij/)に取り込む。
(3)繊維シートの平均繊維径の10倍の直径を有する真円を想定し、当該真円の面積以上の面積を有すると共に、繊維シートを構成する繊維の構成樹脂からなる非繊維状の構造をした部分をショットとみなす。そして、電子顕微鏡写真に写る、全てのショットを選出する。
(4)ImageJに取り込んだ電子顕微鏡写真を8ビット形式に変換し、選出されたショットが全て抽出されるように閾値調整で二値化する。なお、二値化が電子顕微鏡写真の色調により困難であった場合は、予め電子顕微鏡写真に写るショットを黒色に塗りつぶし、塗りつぶしていない部分を白色に変換した画像を作成し、当該画像をImageJに取り込み閾値調整で二値化する。
(5)電子顕微鏡写真における繊維シートの主面が写る面積に占める、ショットの総面積の百分率を算出する。
(6)上述した(1)~(5)の工程を、同一の繊維シートにおける他の箇所を撮影した20枚の電子顕微鏡写真(倍率:500倍)に対しても同様に行い、電子顕微鏡写真における繊維シートの主面が写る面積に占める、ショットの総面積の百分率を各々算出する。
(7)算出された各百分率の平均値を、ショット面積の百分率(単位:%)とする。
【0047】
また、繊維シートの剛性が向上するという効果が発揮されるよう、繊維シートの構成繊維同士が固定されているのが好ましい。具体例として、繊維シートの構成繊維同士がその繊維交点で繊維接着していることが好ましい。これにより、本発明にかかる構成を満足する繊維シートを実現できる。特に、伸度が高いPAN共重合体繊維同士がその繊維交点で繊維接着していることが好ましい。これにより、本発明にかかる構成を満足する繊維シートを、より実現できる。このような繊維シートは、後述する繊維シートの製造工程において、加熱処理へ供することを通して、構成繊維を軟化させ繊維接着することで調製できる。なお、繊維シートの構成繊維同士がその繊維交点で繊維接着しているか否かは、上述した方法で撮影された電子顕微鏡写真をもとに、目視で確認できる。
【0048】
本発明にかかる繊維シートは、単位目付あたりのたわみ量が0.44(単位:mm/g/m)未満である。なお、本発明でいう「単位目付あたりのたわみ量」とは、以下の測定方法で評価された値である。
【0049】
(単位目付あたりのたわみ量の測定方法)
工程(1)繊維シートから長方形形状の試料(短辺:50mm、長辺:100mm)を採取する。なお、短辺方向は繊維シートの生産方向と平行を成し、長辺方向は繊維シートの生産方向と垂直を成す。
工程(2)天板に重力方向に空けられた開口(形状:円形、直径:10mm)を有する台を用意し、開口を覆うように天板上に採取した試料を固定する。
工程(3)半径0.5mmの半円形形状に丸められた先端を有する針状の測定子(直径:1.0mm)の先端を、試料上から試料を貫通して開口を通過する重力方向へ、毎分10mmの速度で移動させる。
工程(4)試料における工程(3)で測定子の先端が試料と接触した箇所について、測定子の先端が試料を貫通するまでに、上記箇所が重力方向へ向かい移動した距離(単位:mm)を測定する。
工程(5)移動した距離を試料の目付(単位:g/m)で割った値(単位:mm/g/m)を算出する。
工程(6)試料における別の箇所でも工程(2)から工程(5)の測定を行い、新たに値(単位:mm/g/m)を算出する。
工程(7)工程(1)から工程(6)を、同一の繊維シートから採取した合計5枚の試料ごとに行い、合計10個(単位:mm/g/m)の値を算出し、それらの平均値を単位目付あたりのたわみ量(単位:mm/g/m)とする。
【0050】
なお、繊維シートの生産方向が不明である場合には、次の方法で生産方向を判断できる。
(1)繊維シートの様々な方向から長方形形状の試料(短辺:50mm、長辺:100mm)を採取する。
(2)定速伸長型引張試験機を用いて、各試料における長辺方向の破断強度を測定する。
(3)測定された各破断強度のうち、最も高い値を有する試料の長辺方向を生産方向とする。そして、繊維シートにおける当該長辺方向と平行を成す方向を生産方向とする。
【0051】
本発明において測定し評価する「単位目付あたりのたわみ量」は、繊維シートの主面に垂直方向へ針を刺し貫通させるまでに、繊維シートが針を通す方向へどれだけ伸びるのかを評価した値である。当該値が大きい繊維シートであるほど、伸度が高く外力に追従して意図せず変形し易い性質を有するものである。例えば、人工皮膚などの医用材料に使用した場合や、芯地や生地などの衣料材料に使用した場合には、針の刺し入れる方向へ繊維シートが意図せず伸びて、針を通し難いといった問題が発生し易い。
【0052】
本発明者らは、単位目付あたりのたわみ量が0.44(単位:mm/g/m)未満の繊維シートであることによって、例えば上述のような、針を通し難いという問題が発生するのを防止して、より様々な産業に使用できる繊維シートを実現できることを見出した。繊維シートの「単位目付あたりのたわみ量」が低いほど、上述のような問題が発生するのを防止できることから、その値は0.40(単位:mm/g/m)以下であるのが好ましく、0.37(単位:mm/g/m)以下であるのがより好ましく、0.32(単位:mm/g/m)以下であるのがさらに好ましく、0.26(単位:mm/g/m)以下であるのがよりさらに好ましく、0.21(単位:mm/g/m)以下であるのが特に好ましい。なお、「単位目付あたりのたわみ量」の下限値は適宜調整できるが、0(単位:mm/g/m)よりも大きいのが現実的であり、0.02(単位:mm/g/m)以上であるのがより現実的である。
【0053】
また、繊維シートおよび繊維シートの構成繊維は、接着成分、架橋剤などの添加剤を有していてもよい。添加剤の存在によって、繊維シートへ、例えば、親水性、接着性などを付与することができる。また、添加剤の存在によって、PAN共重合体の環化反応を促進できる。添加剤の種類および濃度は、紡糸性および繊維シートの物性が意図せず影響を受けることがないよう調整できる。
【0054】
次いで、本発明にかかる繊維シートの製造方法について、例示し説明する。なお、既に説明した項目と構成を同じくする点については説明を省略する。
【0055】
本発明にかかる繊維シートの製造方法は適宜選択することができるが、一例として、
(M1)PAN共重合体を溶媒に溶解させてなる紡糸液、または、PAN共重合体を分散媒に分散させてなる紡糸液を用意する工程、
(M2)紡糸液を細径化することで紡糸し、得られた繊維を捕集して繊維ウェブを調製する工程、および
(M3)繊維ウェブから紡糸液に含まれている溶媒または分散媒を除去する工程、を備える繊維シートの製造方法を用いることができる。
【0056】
まず、工程(M1)について説明する。
【0057】
溶媒または分散媒の種類は適宜選択するものであるが、水、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,4-ジオキサン、ピリジン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、アセトニトリル、ギ酸、トルエン、ベンゼン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、四塩化炭素、塩化メチレン、クロロホルム、トリクロロエタン、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネートなどを挙げることができる。なお、溶媒または分散媒は一種類であっても、複数種類混合してなる混合溶媒あるいは混合分散媒であってもよい。
【0058】
紡糸液中に含まれるPAN共重合体の質量(固形分質量)は、求める繊維シートを調製できるよう適宜調整する。1~50質量%であることができ、5~40質量%であることができ、10~35質量%であることができる。
【0059】
また、紡糸液中に機能材を含んでいてもよい。紡糸液中に含まれる機能材の質量(固形分質量)は、求める繊維シートを調製できるよう、適宜選択する。紡糸液中に含まれる機能材の質量は、0.1~30質量%であることができ、0.5~20質量%であることができ、1~15質量%であることができる。
【0060】
紡糸液の温度および粘度は求める繊維シートを調製できるよう、適宜選択する。紡糸液の温度は5~40℃であることができ、10~35℃であることができ、15~30℃であることができる。また、紡糸液の粘度は50~8000mPa・sであることができ、100~6000mPa・sであることができ、200~5000mPa・sであることができる。なお、この「粘度」は粘度測定装置を用い、温度25℃で測定したシェアレート100s-1時の値をいう。
【0061】
なお、使用するPAN共重合体の種類、紡糸液中に含まれるPAN共重合体の質量(固形分質量)、紡糸液の温度、紡糸液の粘度などを調整することで、ショットを有する繊維シートを調製できると共に、繊維シートが有するショットの量(ショット面積の百分率)を調整できる。
【0062】
次いで、工程(M2)について説明する。
【0063】
紡糸液を細径化することで紡糸する方法は、求める繊維シートを調製できるよう適宜選択する。例えば、直接紡糸法(特に、静電紡糸法)を採用できる。静電紡糸法を採用する場合、紡糸液に電圧を付与すると共に、該紡糸液の吐出部分と離間させ設けた金属板などの対抗電極へ該電圧と反対の電圧を付与することで、あるいは、対抗電極をアースとすることで、紡糸液を対抗電極へ向け飛翔させ細径化させる。このとき、紡糸液へノズルやスリットから吐出された気体流を作用させることなく、電界を作用させて紡糸することで、繊維径のCV値が十分小さい繊維シートを提供できる。
そして、細径化した紡糸液を捕集体へ捕集することで、捕集体上に繊維ウェブを形成する。なお、上述した金属板などの対抗電極を捕集体としてもよい。
【0064】
なお、紡糸液に付与させる電圧の強さ、紡糸液の吐出量、紡糸雰囲気の温湿度、紡糸液の吐出部分と捕集体との距離などを調整することで、ショットを有する繊維シートを調製できると共に、繊維シートが有するショットの量(ショット面積の百分率)を調整できる。
【0065】
そして、工程(M3)について説明する。
【0066】
繊維ウェブ中に含まれている溶媒あるいは分散媒を除去する方法は適宜選択できる。一例として、繊維ウェブを加熱処理へ供する方法を採用できる。なお、加熱装置の種類は適宜選択でき、例えば、ロールにより加熱または加熱加圧する装置、オーブンドライヤー、遠赤外線ヒーター、乾熱乾燥機、熱風乾燥機、赤外線を照射し加熱できる装置などを用いた方法を採用できる。加熱装置による加熱温度は適宜選択するが、残留している溶媒あるいは分散媒を揮発させ除去可能であると共に、構成繊維などの構成成分が意図せず分解や変性しない温度であるように適宜調整する。
【0067】
なお、繊維ウェブの構成繊維中に接着成分や架橋可能な樹脂が存在する場合は、加熱処理へ供することで接着成分による繊維接着を行っても、当該架橋可能な樹脂を架橋させてもよい。
【0068】
なお、繊維ウェブの加熱温度および/または加熱時間などを調整することで、繊維シートの構成繊維同士をその繊維交点で繊維接着できる。加熱温度は適宜調整できるが、効率よく繊維交点が繊維接着した繊維シートを調製できるように、加熱温度はPAN共重合体が軟化可能となる温度以上であるのが好ましい。具体的には、加熱温度は190℃以上であるのが好ましく、230℃以上であるのがより好ましく、230℃よりも高いのがさらに好ましく、260℃以上であるのがよりさらに好ましい。なお加熱温度の上限値は適宜調整できるが、300℃以下であるのが現実的である。
【0069】
また、加熱処理へ供することでPAN共重合体の環化反応を起こし、PAN共重合体の化学構造を剛性に富むものにしてもよい。PAN共重合体を環化するための加熱温度は適宜調整するが、加熱温度は200℃以上であるのが好ましく、230℃以上であるのがより好ましく、260℃以上であるのがさらに好ましい。なお加熱温度の上限値は適宜調整できるが、300℃以下であるのが現実的である。
【0070】
なお、加熱温度や加熱条件を調整することで、構成繊維同士がその繊維交点で繊維接着している繊維シートを調製できる。例えば、ヒートロールへ供し繊維ウェブを加熱加圧することで、繊維交点における繊維接着が成されている繊維シートを調製できる。
【0071】
以上の製造方法によって、本発明にかかる構成を満足する繊維シートを製造できる。調製した繊維シートはそのまま様々な産業へ使用してもよいが、表面を平滑化あるいは空隙率などを調整するためカレンダーなどの加圧装置へ供する、親水化処理へ供する、使用態様に合わせて形状を打ち抜くなど、各種の加工工程へ供してから様々な産業へ使用してもよい。
【0072】
また、別の多孔体、フィルム、発泡体などの他の構成部材を繊維シートに積層し、当該積層体を様々な産業へ使用してもよい。
【実施例
【0073】
以下に、本発明の実施例を記載するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0074】
(紡糸液の調製方法)
PAN共重合体であるアクリロニトリル-酢酸ビニル共重合体(分子量:20万)を、N、N-ジメチルホルムアミド(沸点:153℃)に溶解させ、紡糸液(固形分濃度:14質量%、粘度:2000mPa・s、温度:25℃)を調製した。
【0075】
(静電紡糸条件1)
・金属製ノズル(紡糸液吐出部分)における、紡糸液吐出部分の形状:内径0.44mmの円形状
・金属製ノズルの先端と、アースした捕集体との距離:80mm
・紡糸液へ印加した電圧:15kV
・金属製ノズルから吐出された紡糸液:3.0g/時間
・紡糸環境:温度25℃、湿度22%RH
・紡糸時に、紡糸液へノズルやスリットから吐出された気体流を作用させない。
【0076】
(静電紡糸条件2)
・金属製ノズル(紡糸液吐出部分)における、紡糸液吐出部分の形状:内径0.44mmの円形状
・金属製ノズルの先端と、アースした捕集体との距離:80mm
・紡糸液へ印加した電圧:17kV
・金属製ノズルから吐出された紡糸液:3.5g/時間
・紡糸環境:温度25℃、湿度20%RH
・紡糸時に、紡糸液へノズルやスリットから吐出された気体流を作用させない。
【0077】
(比較例1)
上述した(静電紡糸条件1)に基づき、紡糸液を静電紡糸装置へ供し細径化することで紡糸した。そして、得られた繊維を捕集体の表面上に捕集して、繊維ウェブを調製した。このようにして調製した繊維ウェブを、繊維シートとした。
【0078】
(比較例2)
比較例1で調製した繊維ウェブをヒートロール(加熱温度:260℃)へ供し、3分間加熱加圧した。このようにして加熱した後の繊維ウェブを、繊維シートとした。
【0079】
(実施例1)
上述した(静電紡糸条件2)に基づき、紡糸液を静電紡糸装置へ供し細径化することで紡糸した。そして、得られた繊維を捕集体の表面上に捕集して、繊維ウェブを調製した。調製した繊維ウェブをヒートロール(加熱温度:260℃)へ供し、3分間加熱加圧した。このようにして加熱した後の繊維ウェブを、繊維シートとした。
【0080】
(実施例2)
実施例1で調製した繊維ウェブをヒートロール(加熱温度:190℃)へ供し、3分間加熱加圧した。このようにして加熱した後の繊維ウェブを、繊維シートとした。
【0081】
(実施例3)
実施例1で調製した繊維ウェブをヒートロール(加熱温度:230℃)へ供し、90分間加熱加圧した。このようにして加熱した後の繊維ウェブを、繊維シートとした。
【0082】
(実施例4)
(紡糸液の調製方法)
PAN共重合体であるアクリロニトリル-酢酸ビニル-メタリルスルフォン酸共重合体(分子量:20万)を、N、N-ジメチルホルムアミド(沸点:153℃)に溶解させ、紡糸液(固形分濃度:10質量%、粘度:160mPa・s、温度:23℃)を調製した。
以下に挙げる(静電紡糸条件3)に基づき、紡糸液を静電紡糸装置へ供し細径化することで紡糸した。そして、得られた繊維を捕集体の表面上に捕集して、繊維ウェブを調製した。このようにして調製した繊維ウェブを、繊維シートとした。
(静電紡糸条件3)
・金属製ノズル(紡糸液吐出部分)における、紡糸液吐出部分の形状:内径0.33mmの円形状
・金属製ノズルの先端と、捕集体との距離:100mm
・紡糸液へ印加した電圧:10kV
・金属製ノズルから吐出された紡糸液:3.0g/時間
・紡糸環境:温度28℃、湿度40%RH
・紡糸時に、紡糸液の吐出方向と平行を成すようにしてノズルから気体流を吐出することで、気体流を紡糸液へ作用させることによっても、紡糸液を延伸させる。
【0083】
(実施例5)
(紡糸液の調製方法)
PAN共重合体であるアクリロニトリル-酢酸ビニル-メタリルスルフォン酸共重合体(分子量:20万)を、N、N-ジメチルホルムアミド(沸点:153℃)に溶解させ、紡糸液(固形分濃度:7質量%、粘度:60mPa・s、温度:23℃)を調製した。
以下に挙げる(静電紡糸条件4)に基づき、紡糸液を静電紡糸装置へ供し細径化することで紡糸した。そして、得られた繊維を捕集体の表面上に捕集して、繊維ウェブを調製した。このようにして調製した繊維ウェブを、繊維シートとした。
(静電紡糸条件4)
・金属製ノズル(紡糸液吐出部分)における、紡糸液吐出部分の形状:内径0.33mmの円形状
・金属製ノズルの先端と、捕集体との距離:100mm
・紡糸液へ印加した電圧:10kV
・金属製ノズルから吐出された紡糸液:1.5g/時間
・紡糸環境:温度28℃、湿度40%RH
・紡糸時に、紡糸液の吐出方向と平行を成すようにしてノズルから気体流を吐出することで、気体流を紡糸液へ作用させることによっても、紡糸液を延伸させる。
【0084】
なお、実施例3の繊維シートでは繊維交点における繊維接着が認められなかったのに対し、実施例1の繊維シートでは繊維交点における繊維接着が認められた。そのため、使用したアクリロニトリル-酢酸ビニル共重合体の軟化温度は、230℃より高く260℃以下の範囲内にあると考えられた。
【0085】
調製した各繊維シートの諸物性を評価し、表1にまとめた。表中における「針の通し易さ」は、調製した繊維シートから採取した長方形形状の試料(短辺:50mm、長辺:100mm)の主面に対し、人が手によって直径0.53mmの手縫い針を当該主面の垂直方向へ貫通させる際に感じた、針の通し易さを評価したものである。
針を通す方向へ繊維シートが意図せず伸び針を通し難いと感じたものを「B」と評価した。針を通す方向へ繊維シートが意図せず伸びることなく針を通し易いと感じたものを「A」と評価した。「A」と評価された繊維シートよりもさらに意図せず伸びることなく針を通し易いと感じたものを「AA」と評価した。
【0086】
また、表中における「針の通し易さのバラつき」は、調製した繊維シートから採取した長方形形状の試料(短辺:50mm、長辺:100mm)の主面に対し、ランダムに30箇所、人が手によって直径0.53mmの手縫い針を当該主面の垂直方向へ貫通させる際に感じた、針の通し易さの均一さを評価したものである。
実施例4で調製した繊維シートを評価した結果を「B」と評価して、基準とした。一方、実施例4で調製した繊維シートよりも、針の通し易さにばらつきが小さいと感じられた繊維シートを「A」と評価した。「A」と評価された繊維シートは、主面全体にわたり物性が均一な繊維シートであって、主面全体にわたり意図せず変形するのが防止された繊維シートである。
また、実施例4で調製した繊維シートと同等、あるいは、それよりも針の通し易さにばらつきが大きいと感じられた繊維シートを「B」と評価した。「B」と評価された繊維シートは、主面全体にわたり物性が不均一な繊維シートである。
【0087】
【表1】
【0088】
実施例と比較例を比較した結果、PAN共重合体繊維を含んでいる繊維シートにおいて、その単位目付あたりのたわみ量が0.44(単位:mm/g/m)未満(具体例として、単位目付あたりのたわみ量が0.40(単位:mm/g/m)以下))であることによって、意図せず変形するのが防止された、繊維シートを提供できることが判明した。
【0089】
また、実施例1と実施例3を比較した結果、単位目付あたりのたわみ量が0.26(単位:mm/g/m)未満、より好ましくは0.21(単位:mm/g/m)以下であることによって、さらに意図せず変形するのが防止された、繊維シートを提供できることが判明した。
【0090】
さらに、実施例と比較例を比較した結果、繊維シートのショット面積の百分率の大小と、針の通し易さとの間に相関関係があることが判明した。また、実施例1~3を比較した結果、繊維交点における繊維接着の有無と、針の通し易さとの間に相関関係があることが判明した。このことから、ショット面積の百分率が大きい(具体例として、ショット面積が0.6%よりも大きい)繊維シートであることによって、さらに効果的には、繊維交点における繊維接着が成されている繊維シートであることによって、意図せず変形するのが防止された、繊維シートを提供できると考える。
【0091】
また、実施例1~3と実施例4~5とを比較した結果から、繊維シートを構成する繊維のCV値が44.7%未満(好ましくは16.3%以下)であることによって、主面全体にわたり物性が均一な繊維シートを実現できることを見出した。
以上から、本発明によって、主面全体にわたり意図せず変形するのが防止された繊維シートを提供できる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明に係る繊維シートは、例えば、電気化学素子用セパレータ、気体フィルタや液体フィルタ、燃料電池の電解質膜支持体、水分解用分離膜支持体、人工皮膚などの医用材料、細胞培養担体などのバイオサイエンスに使用する担体または支持体、芯地、生地などの衣料材料といった、様々な産業に使用できる。特に、医用材料、衣料材料などの針を通す用途で好適に使用できる。
【要約】
本発明は、アクリロニトリル共重合体を含有した繊維を含んでいる、繊維シートであって、所定の測定方法で評価される、単位目付あたりのたわみ量が0.44(単位:mm/g/m)未満である、繊維シートである。本発明の繊維シートは、意図せず変形するのが防止されている。