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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-06
(45)【発行日】2022-10-17
(54)【発明の名称】油分濃度計測装置及び油分濃度計測方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/33 20060101AFI20221007BHJP
   B08B 3/08 20060101ALI20221007BHJP
   B08B 3/12 20060101ALI20221007BHJP
【FI】
G01N21/33
B08B3/08 Z
B08B3/12 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018531888
(86)(22)【出願日】2017-07-31
(86)【国際出願番号】 JP2017027732
(87)【国際公開番号】W WO2018025813
(87)【国際公開日】2018-02-08
【審査請求日】2020-07-28
(31)【優先権主張番号】P 2016153372
(32)【優先日】2016-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】592068635
【氏名又は名称】アクトファイブ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 和久
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-114542(JP,A)
【文献】特開平09-061349(JP,A)
【文献】特開平03-115837(JP,A)
【文献】特開2003-128631(JP,A)
【文献】特開2011-032561(JP,A)
【文献】特許第5981083(JP,B1)
【文献】特許第6306546(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-21/61
G01N 33/28-33/30
B08B 3/00-3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) 280~300nmの間の所定の1波長のみの波長を有する照射光を計測対象液に照射する光照射部と、
b) 前記照射光が前記計測対象液を透過した透過光の強度を測定する透過光検出部と、
c) 前記透過光検出部で測定された透過光の強度に基づき、前記計測対象液の前記波長における吸光度を算出し、該吸光度の値と、前記波長における油分の濃度と吸光度の関係を示す検量線に基づいて前記計測対象液中の油分の濃度を求める油分濃度決定部と
d) 320~340nmの間の所定の1波長である第2測定波長を有する第2照射光を前記計測対象液に照射する第2光照射部と、
e) 前記第2照射光が前記計測対象液を透過した第2透過光の強度を測定する第2透過光検出部と、
f) 前記第2透過光検出部で測定された第2透過光の強度に基づき、前記計測対象液の前記第2測定波長における吸光度を算出し、該吸光度の値と、前記第2測定波長における油分の濃度と吸光度の関係を示す検量線に基づいて前記計測対象液中の油分の濃度を求める第2油分濃度決定部と
を備えることを特徴とする、洗浄液中の油分濃度計測装置。
【請求項2】
280~300nmの間の所定の1波長のみの波長を有する照射光を計測対象液に照射し、
前記照射光が前記計測対象液を透過した透過光の強度を測定し、
前記透過光の強度に基づき、前記計測対象液の前記波長における吸光度を算出し、該吸光度の値と、前記波長における油分の濃度と吸光度の関係を示す検量線に基づいて前記計測対象液中の油分の濃度を求め
さらに、
320~340nmの間の所定の1波長である第2測定波長を有する第2照射光を前記計測対象液に照射し、
前記第2照射光が前記計測対象液を透過した第2透過光の強度を測定し、
前記第2透過光の強度に基づき、前記計測対象液の前記第2測定波長における吸光度を算出し、該吸光度の値と、前記第2測定波長における油分の濃度と吸光度の関係を示す検量線に基づいて前記計測対象液中の油分の濃度を求める
ことを特徴とする、洗浄液中の油分濃度計測方法。
【請求項3】
前記計測対象液が、炭素原子の多重結合を有しない分子から成るものであることを特徴とする請求項2に記載の洗浄液中の油分濃度計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄液中の油分の濃度を計測する装置及び方法に関する。この油分濃度計測装置及び油分濃度計測方法は、ワークに付着した切削油、プレス・打抜き油、機械油、グリース、フラックス等の油分を除去する工業用洗浄機において、使用中の洗浄液等に含有される油分の濃度を計測するために好適に用いられるものである。
【背景技術】
【0002】
工業用洗浄機において使用される洗浄液は、炭化水素系洗浄液が主流となっている。炭化水素系洗浄液は、オゾン層破壊物質や塩素を含有しないため、環境や人体に与える影響が少ないという特長を有する。また、上記油分の成分よりも炭化水素の方が沸点が低いことを利用して、炭化水素系洗浄液は、使用後の油分を含有する炭化水素系洗浄液を蒸留槽内に貯留したうえで炭化水素の沸点よりも高く油分の沸点よりも低い温度に加熱することにより、蒸留再生することができるという特長も有する。炭化水素系洗浄液はさらに、この蒸留再生処理時に発生する清浄な蒸気をワークの洗浄及び乾燥(以下、「蒸気洗浄・乾燥」とする)に利用することができる、という特長も有する。蒸気洗浄・乾燥では、蒸気洗浄・乾燥用洗浄槽にワークを収容し、該槽に該蒸気を導入することによりワークの表面を該蒸気で洗浄した後、該槽内を急速に減圧することで洗浄剤の沸点を急激に低下させることにより、ワーク表面に付着していた洗浄剤を突沸・気化させ、該ワークを乾燥させる。実際の工業用洗浄機では、炭化水素系洗浄液が貯留された液体洗浄槽にワークを収容して液体洗浄を行った後、仕上げに蒸気洗浄・乾燥が行われる。
【0003】
工業用洗浄機を連続運転すると、蒸留により除去された油分が徐々に蒸留槽内に蓄積してゆき、蒸留再生後の炭化水素系洗浄液(再生後洗浄液)の蒸気に油分が混入してしまう。そうすると、蒸気洗浄・乾燥の際に蒸気中の油分がワークの表面に付着してしまい、洗浄の能力が低下してしまう。このような洗浄能力の低下を防止するためには、再生後洗浄液の油分濃度を所定濃度以下に抑える必要がある。当該所定濃度は油分の成分により相違するが、成分に依らずに洗浄能力の低下を防止するには50~100ppm以下とすることが望ましい。従来は、ワークの洗浄回数が経験則で定めた所定数に達したときに油分を含む蒸留槽内の残液を除去しているが、再生後洗浄液中の油分の濃度を測定すれば、より適切なタイミングで該残液の除去を行うことができることが期待される。
【0004】
洗浄液の油分濃度を計測するために、例えば特許文献1に記載の方法を用いることが考えられる。特許文献1には、洗浄液に含有される油分の成分毎に定められた所定の一測定波長の紫外線を用いて吸光度を測定し、予め作成しておいた油分毎の油分濃度と吸光度の検量線に基づいて、その洗浄液に溶解している油分の濃度を求めることが記載されている。油分毎の測定波長は、例えば市販プレス油では259nm、市販切削油では234nm、市販フラックスでは250nmとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平09-061349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の油分濃度計測装置及び方法では、油分毎に測定波長が異なるため、それらの測定波長に対応して、複数の波長の光を検出しなければならない。そのためには例えば、それら複数の波長を含む光を試料(炭化水素系洗浄液)に照射する光源と、試料を通過した光を波長毎に分光する分光素子と、分光素子で分光された光を波長毎に検出する検出器を用いる。このような構成では、高価な光学素子である分光素子を用いる必要があるうえに、検出器にも波長毎に設けられた複数の検出素子を有する高価なものを用いる必要がある。また、波長毎にデータをほぼ同時に取得するため、短時間に大量のデータを処理及び保存するための高価な制御機器を要する。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、高価な分光素子、検出素子、及び制御機器を使用する必要がない、洗浄液中の油分濃度計測装置及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために成された本発明に係る洗浄液中の油分濃度計測装置は、
a) 280~300nmの間の所定の1波長のみの波長を有する照射光を計測対象液に照射する光照射部と、
b) 前記照射光が前記計測対象液を透過した透過光の強度を測定する透過光検出部と、
c) 前記透過光検出部で測定された透過光の強度に基づき、前記計測対象液の前記波長における吸光度を算出し、該吸光度の値と、前記波長における油分の濃度と吸光度の関係を示す検量線に基づいて前記計測対象液中の油分の濃度を求める油分濃度決定部と
d) 320~340nmの間の所定の1波長である第2測定波長を有する第2照射光を前記計測対象液に照射する第2光照射部と、
e) 前記第2照射光が前記計測対象液を透過した第2透過光の強度を測定する第2透過光検出部と、
f) 前記第2透過光検出部で測定された第2透過光の強度に基づき、前記計測対象液の前記第2測定波長における吸光度を算出し、該吸光度の値と、前記第2測定波長における油分の濃度と吸光度の関係を示す検量線に基づいて前記計測対象液中の油分の濃度を求める第2油分濃度決定部と
を備えることを特徴とする。
【0009】
前述のように工業用洗浄機用の洗浄液として現在主流となっている炭化水素系洗浄液や、それ以外のグリコールエーテル系洗浄液等の多くの洗浄液は、炭素原子の多重(2重、3重)結合を有しない分子から成る。このような炭素原子の多重結合を有しない分子は、280nm未満の波長で吸光が生じる一方、280nm以上の波長ではほとんど吸光が生じない。それに対して、洗浄対象のワークに付着し、洗浄によって洗浄液に混入する切削油、プレス・打抜き油、機械油、グリース、フラックス等の油分のほとんどは炭素原子の多重結合を有する分子を含有する。このような炭素原子の多重結合を有する分子は、その種類によって吸光度がピークとなる波長は広い範囲に分布するが、油分の種類に依らず、280~300nmの波長範囲内において吸光度が0になることはなく一定の値を有する。さらに、波長が300nmを超えると、50ppm程度の低濃度の油分を検出することが困難になる。
【0010】
そこで本発明では、280~300nmの間の所定の1波長である測定波長で透過光の強度を測定し、該強度に基づき該測定波長における吸光度を算出することにより、計測対象液(洗浄液、計測対象洗浄液)による吸光の影響を抑えつつ、該測定波長における測定対象の油分の濃度と吸光度の関係を示す検量線に基づいて当該油分の濃度を求めることができる。
【0011】
本発明に係る油分濃度計測装置によれば、測定波長として所定の1波長のみを用いるため、分光素子や波長毎の検出素子を用いる必要がない。また、複数の波長を用いる場合よりも同時に処理すべきデータ量が少ないため、高価な制御機器を使用する必要がない。例えば、本発明に係る油分濃度計測装置の専用の制御機器を設けることなく、工業用洗浄機が有する制御機器(プログラマブルロジックコントローラ)を用いて該油分濃度計測装置の制御を行うことができる。これらの理由により、本発明に係る油分濃度計測装置ではコストを抑えることができる。
【0012】
本発明に係る油分濃度計測装置は、50~2000ppmという低濃度の油分の計測に好適に用いることができる。また、このような低濃度の油分の計測に適していることから、本発明に係る油分濃度計測装置は、50ppmという低濃度の油分を検出する能力が必要となる前述の蒸気洗浄・乾燥に用いられる再生後洗浄液中の油分濃度の計測に好適に用いることができる。なお、本発明に係る油分濃度計測装置による油分の計測の対象は、前記再生後洗浄液には限らず、例えばワークの洗浄中の洗浄槽において油分濃度の変化を計測することによって洗浄終了のタイミングを求める(油分濃度の時間変化が所定値以下になった時を終了のタイミングとする)ことに用いることもできる。
【0014】
また、本発明では、280~300nmの間の所定の1波長である測定波長を有する照射光を用いた計測に加えて、320~340nmの間の所定の1波長である第2測定波長を有する第2照射光を用いて計測対象液(洗浄液、計測対象洗浄液)中の油分の濃度を求めることにより、吸光度がピークとなる波長が比較的長い油分における吸光度の測定精度を高くすることができる。この場合にも、油分の種類毎に異なる波長の光を用いる必要はなく、前記測定波長と前記第2測定波長の2種類の波長の光を用いるだけでよい。また、分光素子を用いる必要はなく、透過光の検出素子(透過光検出部及び第2透過光検出部)を多数設ける必要もない。さらには、前記照射光と前記第2照射光を互いに異なる時間に計測対象液に照射すれば、透過光を検出する検出器は、波長を認識する必要がないため、両波長に共通の1個の検出器を用いれば済む。このような検出器には、フォトダイオードを好適に用いることができる。
【0015】
本発明に係る洗浄液中の油分濃度計測方法は、
280~300nmの間の所定の1波長のみの波長を有する照射光を計測対象液に照射し、
前記照射光が前記計測対象液を透過した透過光の強度を測定し、
前記透過光の強度に基づき、前記計測対象液の前記波長における吸光度を算出し、該吸光度の値と、前記波長における油分の濃度と吸光度の関係を示す検量線に基づいて前記計測対象液中の油分の濃度を求め
さらに、
320~340nmの間の所定の1波長である第2測定波長を有する第2照射光を前記計測対象液に照射し、
前記第2照射光が前記計測対象液を透過した第2透過光の強度を測定し、
前記第2透過光の強度に基づき、前記計測対象液の前記第2測定波長における吸光度を算出し、該吸光度の値と、前記第2測定波長における油分の濃度と吸光度の関係を示す検量線に基づいて前記計測対象液中の油分の濃度を求める
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、高価な分光素子、検出素子、及び制御機器を使用する必要がなく安価な、洗浄液中の油分濃度計測装置及び方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る油分濃度計測装置の一実施形態を構成要素として有する工業用洗浄機を示す概略構成図。
図2】炭素原子の多重結合を有しない分子から成る4種の洗浄液における透過光量のスペクトルの測定値を示す図。
図3】本実施形態の油分濃度計測装置における制御部の機能を示す機能ブロック図。
図4】異なる4種類の油分をそれぞれ1種類ずつ含有する洗浄液の透過光量を測定した結果を示すグラフ。
図5図4に示した透過光量から吸光度を求めた結果を示すグラフ。
図6図5に示した吸光度に基づいて作成した油分毎の検量線を示すグラフ。
図7】本実施形態の油分濃度計測装置及び方法により洗浄液中の油分の濃度を測定した結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1図7を用いて、本発明に係る油分濃度計測装置及び方法の実施形態を説明する。
【0019】
図1は、本実施形態の油分濃度計測装置10を構成要素として有する工業用洗浄機1の概略の構成を示している。工業用洗浄機1は、ワークに付着した油分を除去するための装置であり、油分濃度計測装置10の他に、第1洗浄槽11、第2洗浄槽12、蒸気洗浄・乾燥槽13、一時貯留槽14、蒸留槽15、熱交換器16、エゼクタ17、再生後洗浄液貯留槽18、試料セル洗浄液槽19を有する。図1中に示した太い実線は液体の流路を、太い破線は気体の流路を、細い直線の破線は電気信号の経路を、それぞれ示している。
【0020】
(1) 工業用洗浄機1の全体構成及び動作
本実施形態の油分濃度計測装置10について説明する前に、まず、工業用洗浄機1の全体構成及びワークの洗浄の動作を説明する。第1洗浄槽11及び第2洗浄槽12には、槽内に貯留される洗浄液に超音波振動を付与する超音波振動子が設けられている。また、超音波によるキャビテーションを生じ易くするために、第1洗浄槽11及び第2洗浄槽12内は真空ポンプにより減圧され、洗浄液の脱気が行われる。これら第1洗浄槽11及び第2洗浄槽12に洗浄液を貯留したうえで、ワークを洗浄液に浸漬し、超音波振動を付与することにより、ワークが洗浄される。ここで、後述の理由により、第1洗浄槽11内の洗浄液よりも第2洗浄槽12内の洗浄液の方が油分の含有量が少なくなることから、まず第1洗浄槽11でワークを洗浄し、次にそのワークを第2洗浄槽12で洗浄することにより、洗浄液中の油分がワークに再付着することを最小限に抑えることができる。
【0021】
蒸気洗浄・乾燥槽13は、第2洗浄槽12で洗浄されたワークに対して蒸気洗浄及び乾燥を行うための槽である。蒸気洗浄・乾燥に使用される蒸気は、後述のように蒸留槽15から供給される。蒸気洗浄・乾燥槽13内の蒸気、及びワークの表面に残留していたものが除去された洗浄液は、第2洗浄槽12に返送される。また、第1洗浄槽11及び第2洗浄槽12の減圧や洗浄液の蒸発により生じた気体は、一時貯留槽14に回収される。
【0022】
蒸留槽15にはフロート弁151が設けられており、蒸留槽15内の液体が蒸留により所定量以下になると、洗浄液が一時貯留槽14から蒸留槽15内に導入される。蒸留槽15内にはヒータ(図示せず)により加熱されると共に、エゼクタ17により減圧される。これにより、洗浄液は油分を液体として残して蒸発する。発生した蒸気の一部は前述のように蒸気洗浄・乾燥槽13に供給され、残りは熱交換器16で凝縮されたうえで、再生後洗浄液貯留槽18に貯留される。
【0023】
第2洗浄槽12には、蒸留槽15によって油分が除去された再生後洗浄液が再生後洗浄液貯留槽18から流入する。第1洗浄槽11と第2洗浄槽12は第2オーバーフロー管122で接続されている。第2オーバーフロー管122は、第1洗浄槽11との接続位置よりも第2洗浄槽12との接続位置の方が高くなっており、再生後洗浄液の流入によって第2洗浄槽12内の洗浄液の液面が後者の接続位置よりも高くなると、第2洗浄槽12内の洗浄液の一部が自然に第1洗浄槽11に移動する。従って、第1洗浄槽11内の洗浄液よりも第2洗浄槽12内の洗浄液の方が油分の含有量が少なくなる。また、第1洗浄槽11と一時貯留槽14は第1オーバーフロー管112で接続されており、第2洗浄槽12からの洗浄液の流入によって第1洗浄槽11内の洗浄液の液面が第1オーバーフロー管112の接続位置よりも高くなると、第1洗浄槽11中の洗浄液の一部が自然に第1オーバーフロー管112を通って一時貯留槽14に移動する。
【0024】
第1洗浄槽11は、洗浄液を槽内から取り出し、フィルタを通して槽内に戻す第1循環濾過系111を有する。第2洗浄槽12にも同様の第2循環濾過系121が設けられている。これら循環濾過系は、粒径10μm程度以上のパーティクルを除去するものであって、油分を除去することができない。
【0025】
(2) 本実施形態の油分濃度計測装置10の構成
次に、工業用洗浄機1中の油分濃度計測装置10の構成について詳細に説明する。油分濃度計測装置10は、後述のように第1洗浄槽11、第2洗浄槽12及び再生後洗浄液貯留槽18と接続される流路101と、流路101中に設けられた送液ポンプ102と、流路101中の送液ポンプ102よりも下流側に設けられた試料セル103と、リファレンス測定用のリファレンスセル1031と、光照射部104と、透過光検出部105と、装置全体の制御や後述のデータ処理を行う制御部106を有する。
【0026】
流路101の流入部1011は、第1中継管113を介して第1洗浄槽11に、第2中継管123を介して第2洗浄槽12に、第3中継管183を介して再生後洗浄液貯留槽18に、それぞれ接続されている。また、第1中継管113には第1中継開閉弁11Vが、第2中継管123には第2中継開閉弁12Vが、第3中継管183には第3中継開閉弁18Vが、それぞれ設けられている。
【0027】
流路101の流出部は一時貯留槽14に接続されている。従って、油分濃度計測装置10において測定に用いられた洗浄液は、一時貯留槽14を経て蒸留槽15により蒸留され、最終的には油分が除去された状態で第2洗浄槽12に返送される。なお、測定に用いられた洗浄液を流出部から、その洗浄液が収容されていた槽に直接返送するようにしてもよい。
【0028】
試料セル103及びリファレンスセル1031はいずれも、紫外線の吸収が少ない石英製のセルである。流路101には、通常の測定時には試料セル103が接続され、リファレンスデータを測定する時にはリファレンスセル1031が接続される。リファレンスセル1031には、油分を含まない洗浄液が封入されており、制御部106による制御により、所定の時間間隔で油分濃度の測定を中断したうえでリファレンスデータを測定するようになっている。
【0029】
光照射部104は、本実施形態では280~300nmの間の所定の1波長である測定波長を試料セル103内の洗浄液(計測対象液)に照射するものであり、当該測定波長を発光するLEDから成る。本実施形態では、測定波長は290nmとした。
【0030】
ここで図2を用いて、測定波長を280~300nmの間の1波長とする理由を説明する。図2は、炭素原子の多重結合を有しない分子から成る4種の洗浄液1~4における透過光量のスペクトルの測定値を示している。4種のうち洗浄液1~3はいずれも飽和型脂肪族炭化水素系の洗浄液であり、洗浄液4はグリコールエーテル系の洗浄液である。図2には合わせて、入射光のスペクトルを示す。4種の洗浄液はいずれも波長280nm未満において透過光量が入射光の光量よりも大幅に小さくなっており、洗浄液による紫外線の吸収が見られる。それに対して波長280nm以上では、透過光量と入射光の差が小さく、洗浄液による紫外線の吸収がほとんど無い。従って、280nmの測定波長で測定すれば、洗浄液による吸光の影響を抑えつつ油分の濃度の計測を行うことができる。一方、測定波長が300nmを超えると、後掲の図5に示すように、低濃度(図5に示した例では100ppm。さらには50ppm。)の油分による吸光度の値が小さくなりすぎるため求めることができない。従って、280~300nmの間の1波長を測定波長とすることにより、洗浄液による吸光の影響を抑えつつ、50ppm程度の低濃度であっても油分の濃度の計測を行うことができる。
【0031】
透過光検出部105は、試料セル103内の洗浄液を透過した前記測定波長を有する透過光の強度を検出するものであり、フォトダイオードと信号変換部から成る。フォトダイオードは前記測定波長の光を検出してその強度をアナログ信号として出力する。信号変換部は、フォトダイオードが出力したアナログ信号をデジタル信号に変換する。
【0032】
制御部106は、図3の機能ブロック図に示す機能を有する。制御部106には、プログラマブルロジックコントローラやパーソナルコンピュータを用いることができ、工業用洗浄機が有する制御装置をそのまま適用してもよいし、油分濃度計測装置10の制御装置を備えるようにしてもよい。制御部106は、油分濃度決定部1061と、リファレンスデータ記録部1062と、検量線記録部1063と、条件入力部1064と、測定制御部1065を有する。油分濃度決定部1061は、吸光度算出部1061Aと、検量線選択部1061Bと、検量線適用部1061Cから構成される。油分濃度決定部1061の詳細は、本実施形態の油分濃度計測装置10の動作と共に後述する。リファレンスデータ記録部1062には、油分を含有しない洗浄剤について予め測定された、前記測定波長における透過光量のデータ(リファレンスデータ)が記録されている。検量線記録部1063には、ワークの加工に使用し得る油分毎に、油分の濃度が既知である試料を用いて予め測定したデータに基づいて作成された、前記測定波長における油分の濃度と吸光度の関係を示す検量線が記録されている。なお、メーカや型番が異なる複数の加工油同士で成分が近い場合には、それら複数の加工油で共通の検量線を用いてもよい。条件入力部1064は、測定者がタッチパネル等の入力デバイスを用いて後述の測定条件を入力するものである。測定制御部1065は、光照射部104における光源からの光の照射の開始及び終了や、上記各部の処理の開始及び終了等の制御を行う。
【0033】
試料セル洗浄液槽19は、試料セル103を洗浄するための洗浄液(油分濃度計測の対象である洗浄液と同じもの)が貯留される槽である。
【0034】
(3) 本実施形態の油分濃度計測装置10の動作
本実施例の油分濃度計測装置10の動作を説明する。ここでは主に、蒸気洗浄・乾燥槽13で使用される蒸気中の油分濃度に近い、再生後洗浄液貯留槽18内に貯留されている再生後洗浄液を油分濃度の測定対象とする場合について述べる。
【0035】
まず、測定者が条件入力部1064において所定の測定条件を入力したうえで、測定開始の指示を入力することにより、測定が開始される。ここで入力される測定条件は、測定対象の洗浄液を用いて洗浄されるワークに付着していた加工油を特定するための情報(例えば加工油のメーカ及び型番)である。
【0036】
測定が開始されると、まず、測定対象の洗浄液が貯留されている洗浄槽あるいは貯留槽に対応する中継弁が開放される。ここでは、再生後洗浄液貯留槽18に接続されている第3中継管183に設けられた第3中継開閉弁18Vを開放する。これにより、測定対象の再生後洗浄液が流路101を通って試料セル103に導入される。なお、測定対象の洗浄液が第1洗浄槽11内の洗浄液であれば第1中継開閉弁11Vを開放し、第2洗浄槽12内の洗浄液であれば第2中継開閉弁12Vを開放する。
【0037】
光照射部104は試料セル103内の洗浄液に対して前記測定波長(290nm)の光を照射する。透過光検出部105は、洗浄液を透過した透過光量の強度Iを測定し、デジタル信号に変換して出力する。
【0038】
次に、制御部106は、透過光検出部105から出力された透過光量の強度Iを示すデジタル信号を入力すると共に、リファレンスデータ記録部1062から、油分を含有しない洗浄液の前記測定波長における透過光量であるリファレンスデータI0を取得する。制御部106の吸光度算出部1061Aは、これら測定対象の洗浄液における透過光量の強度IとリファレンスデータI0に基づいて、測定対象の洗浄液の吸光度A=log10(I0/I)を求める。
【0039】
続いて、制御部106の検量線選択部1061Bは、条件入力部1064で入力された加工油を特定するための情報に基づいて、特定された加工油に対応する検量線を検量線記録部1063から取得する。そして、検量線適用部1061Cは、吸光度算出部1061Aで得られた測定対象の洗浄液の吸光度Aを、検量線選択部1061Bで選択された検量線に適用し、加工油の濃度を求める。
【0040】
以後、測定対象の再生後洗浄液を連続的に試料セル103に導入しつつ、光照射部104による光の照射及び透過光量の強度Iの測定を繰り返し行うことにより、加工油の濃度を繰り返し求める。そして、加工油の濃度が所定値を超えたときには、蒸留槽15内に残留する残留液の処理を行う。残留液の処理は、残留液を煮詰めることにより残留液中の洗浄液と加工油を分離し、これにより蒸留槽15内に残留した加工油を廃棄することにより行う。
【0041】
なお、測定対象の洗浄液が第1洗浄槽11内又は第2洗浄槽12内の洗浄液とする場合には、ワークの洗浄中に上記と同様の方法により洗浄液中の加工油の濃度を繰り返し求め、その濃度の時間変化が所定値以下になった時にワークの洗浄を終了するという、洗浄終了のタイミングを求めるために測定結果を用いることができる。
【0042】
(4) 吸光度及び検量線の例
代表的な加工油として選択した4種類の油分(表1)をそれぞれ、同じ洗浄液に異なる濃度で混合した複数の試料を作製し、油分及び濃度毎の透過光量を測定して吸光度を求めた。ここでは、測定波長を290nmとすることの妥当性を検証するために、波長を290nmには限定せずに260~400nmの範囲内で透過光量の測定を行った。ここで洗浄液には、炭素原子の多重結合を有しない飽和型脂肪族炭化水素系の洗浄液である「NS100」(JXエネルギー(株)製、図2の洗浄液1)を用いた。また、各油分の濃度はいずれも、100ppm、500ppm、2000ppm及び10000ppmとした。
【表1】
【0043】
測定により得られた透過光量を、洗浄液が含有する油分毎に図4に示す。また、図4に示した透過光量に基づいて吸光度を求めた結果を図5に示す。いずれも、波長280~300nmの範囲内において、吸光度が油分の濃度に依存して異なる値を有している。
【0044】
こうして得られた、波長290nmにおける油分及び濃度毎の吸光度に基づき、油分毎に、吸光度と濃度の関係を示す検量線を作成した。作成した検量線を図6に示す。なお、各油分において、濃度が10000ppmのデータは検量線において直線から外れるため使用していない。図6に示すように、濃度が2000ppm以下のときには検量線を直線で示すことができる。従って、少なくとも2000ppm以下の濃度において、本実施形態の油分濃度計測装置及び方法による油分濃度の計測が可能である。
【0045】
図1に示した工業用洗浄機において、ワークの洗浄の品質を維持するために重要なことは、蒸留槽15で蒸留再生される再生後洗浄液の油分の濃度を計測・管理することである。特に、再生後洗浄液は、蒸留槽15で発生した蒸気がそのまま蒸気洗浄・乾燥槽13においてワークに対する仕上げの洗浄である蒸気洗浄に用いられるため、油分濃度の計測・管理を工業用洗浄機の連続運転中に行うことが最も重要である。本発明によれば、このような工業用洗浄機の連続運転中ににおける油分濃度の計測・管理が可能である。
【0046】
得られた検量線を用いて、再生後洗浄液中の油分の濃度を計測する実験を行った。この実験においても、洗浄液は上記NS100、又はNS200(JXエネルギー(株)製、図2の洗浄液2)を用い、添加する油分には上掲の表1に示したものを含む、5種類の切削油及び5種類のプレス・打ち抜き油を用いた。この実験では、洗浄液及び油分を秤量したうえで両者を混合することにより、濃度が既知(この濃度を「本来の濃度」と呼ぶ)である試料を作製し、本来の濃度と測定値の比較を行った。
【0047】
実験結果を図7のグラフに示す。このグラフでは、本来の濃度を横軸に、測定値を縦軸にとった。データ点は、測定値が本来の濃度の±10%以内に収まれば、グラフ中の2本の破線の間に収まる。また、図7では、全ての試料をデータを1つのグラフに掲載した。このグラフに示すように、今回得られた全ての測定値が概ね本来の濃度の±10%以内に収まっている。±10%程度の精度があれば、工業用洗浄機において用いるには十分である。
【0048】
(5) 変形例
本実施形態の油分濃度計測装置10において、光照射部104は、波長280~300nmの間の測定波長(上記の例では290nm)の光を洗浄液に照射する他に、320~340nmの間の所定の1波長である第2測定波長を洗浄液に照射するようにしてもよい。このような異なる2つの波長の光は、単色光を発する光源であって該単色光の波長が異なる2つの光源を用いて生成することが望ましい。この場合、透過光検出部105は、上記測定波長の光と第2測定波長の光の双方の強度を測定できるものであれば、これら2つの波長の光を共通に検出するものとして1つのみあればよい。あるいは、波長毎に異なる透過光検出部を用いてもよい。当該第2測定波長においても前記測定波長(290nm)の場合と同様に、図5の吸光度のデータに基づいて、油分毎に、吸光度と濃度の関係を示す検量線を作成することができる。
【0049】
例えば、図6(d)に示した検量線は、(a)~(c)の検量線と比較して、吸光度を求めた点と検量線との差がやや大きいことから、2つの測定波長でそれぞれ油分の濃度を求めることにより、精度を高くすることができる。
【符号の説明】
【0050】
1…工業用洗浄機
10…油分濃度計測装置
101…流路
1011…流入部
102…送液ポンプ
103…試料セル
1031…リファレンスセル
104…光照射部
105…透過光検出部
106…制御部
1061…油分濃度決定部
1061A…吸光度算出部
1061B…検量線選択部
1061C…検量線適用部
1062…リファレンスデータ記録部
1063…検量線記録部
1064…条件入力部
1065…測定制御部
11…第1洗浄槽
111…第1循環濾過系
112…第1オーバーフロー管
113…第1中継管
11V…第1中継開閉弁
12…第2洗浄槽
121…第2循環濾過系
122…第2オーバーフロー管
123…第2中継管
12V…第2中継開閉弁
13…蒸気洗浄・乾燥槽
14…一時貯留槽
15…蒸留槽
151…フロート弁
16…熱交換器
17…エゼクタ
18…再生後洗浄液貯留槽
183…第3中継管
18V…第3中継開閉弁
19…試料セル洗浄液槽
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7