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特許7153947口腔の炎症の治療のために用いられるイヌICAM-1に対するアンチセンス薬物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-06
(45)【発行日】2022-10-17
(54)【発明の名称】口腔の炎症の治療のために用いられるイヌICAM-1に対するアンチセンス薬物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/711 20060101AFI20221007BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20221007BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20221007BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221007BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20221007BHJP
   A23K 50/40 20160101ALI20221007BHJP
   A23K 20/153 20160101ALI20221007BHJP
【FI】
A61K31/711 ZNA
A61P1/02
A61P29/00
A61P43/00 111
A61P43/00 171
C12N15/113 140Z
A23K50/40
A23K20/153
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020504235
(86)(22)【出願日】2018-07-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-09-24
(86)【国際出願番号】 EP2018068750
(87)【国際公開番号】W WO2019020371
(87)【国際公開日】2019-01-31
【審査請求日】2021-05-24
(31)【優先権主張番号】17001305.6
(32)【優先日】2017-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518294487
【氏名又は名称】ウニヴェルジテート ツー リューベック
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュザキエル ゲオルク
(72)【発明者】
【氏名】クレッチュメル-カゼミ ファル ローゼル
(72)【発明者】
【氏名】プロイス フランツィスカ
【審査官】松本 淳
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2004/0049022(US,A1)
【文献】国際公開第2004/011613(WO,A2)
【文献】国際公開第2002/085309(WO,A2)
【文献】NEDBAL, W. et al,Antisense-Mediated Inhibition of ICAM-1 Expression: A Therapeutic Strategy Against Inflammation of Human Periodontal Tissue,ANTISENSE & NUCLEIC ACID DRUG DEVELOPMENT,2002年,Vol.12,pp.71-78
【文献】ROUDEBUSH, P. et al,Evidence-Based Veterinary Dentistry: A Systematic Review of Homecare for Prevention of Periodontal Disease in Dogs and Cats,J. VET. DENT.,2005年,Vol.22, No.1,pp.6-15
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61P 1/00-43/00
A23K 10/00-50/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イヌ対象の口腔の炎症性疾患または状態を予防または治療する方法のために用いられる単離アンチセンスオリゴヌクレオチドであって、配列番号1によるヌクレオチド配列のみからなる、オリゴヌクレオチド。
【請求項2】
前記口腔の炎症性疾患または状態が歯周疾患または状態である、請求項1に記載の単離アンチセンスオリゴヌクレオチド。
【請求項3】
前記歯周疾患または状態が歯肉炎、慢性歯周炎、侵襲性歯周炎、全身性疾患の発現としての歯周炎、壊死性潰瘍性歯肉炎、壊死性潰瘍性歯周炎、歯周組織の膿瘍、および歯周-歯内病変の組み合わせからなる群より選択される、請求項2に記載の単離アンチセンスオリゴヌクレオチド。
【請求項4】
基礎ICAM-1発現を抑制する、請求項1からのいずれか一項に記載の単離アンチセンスオリゴヌクレオチド。
【請求項5】
請求項1に定義される単離アンチセンスオリゴヌクレオチドを含む組成物または製品。
【請求項6】
イヌ用飼料、イヌ用チューインガム、イヌ用咀嚼玩具、イヌ用咀嚼骨、イヌ用デンタルガム、イヌ用歯ブラシ、イヌ用指ブラシ、イヌ用口腔衛生ペーストもしくはゲル、イヌ用マウスウォッシュもしくはデンタルリンス、犬用歯磨き粉、イヌ用口腔衛生スプレー、イヌ用歯研磨剤、またはイヌ用練り歯磨きである、請求項に記載の組成物または製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イヌ対象の口腔の炎症性疾患または状態を予防または治療する方法のために用いられる単離アンチセンスオリゴヌクレオチドであって、イヌICAM-1に対して向けられたアンチセンスオリゴヌクレオチドに関する。本発明はさらに、前記アンチセンスオリゴヌクレオチドを含む組成物または製品に関する。
【背景技術】
【0002】
歯周炎、すなわち歯肉、歯周靭帯および歯槽の炎症、ならびに後期のセメント質および顎骨の損傷は、イヌの口腔の最も流行性の疾患である。5歳という若齢でも、5匹のイヌのうち4匹が検出可能な歯周炎を示す。この疾患は単なる美容上の問題ではなく、全身状態の悪化につながり、内臓の炎症を促進するおそれがある。
【0003】
イヌの歯周炎の高い有病率とは対照的に、関連する症状の多くは慢性的でやや微妙な進行を示すため、疾患が診断されるのがしばしば遅れるまたは遅すぎることさえある。しかしながら、健康な口腔の再確立は、疾患の進行とともにますます困難になる。
【0004】
したがって、持続的な歯科衛生が不可欠であり、獣医または獣医学歯科医での定期的な管理および治療が極めて重要である。さらに、イヌの飼い主が歯周炎を防ぐためのいくつかの手段、最も重要なことにはイヌの歯の定期的なブラッシングを講じることができる。さらに、イヌの歯の十分な摩耗を保証する咀嚼玩具が利用可能である。それにもかかわらず、イヌ歯周炎を予防および治療するための単純で効率的な手段の必要性は依然として大きい。
【0005】
これに関連して、イヌ歯周炎の従来の治療法は経験および合理的設計に基づいているが、炎症の分子病理機序を考慮していない。したがって、病理機序に基づいた治療選択肢が、高い有効性の優れた可能性を有すると想定するのが妥当と思われる。
【0006】
炎症過程を予防または治療するための細胞間接着分子1(ICAM-1;CD54)の抑制は、当技術分野でかねてから知られている。ヒトでは、ICAM-1に対して向けられたアンチセンスオリゴヌクレオチドの使用が記載されている。しかしながら、イヌICAM-1の抑制に基づいてイヌ歯周炎を予防または治療する手段は、これまでのところとらえどころのないものであった。
【0007】
しかしながら、従来の治療は経験的または部分的に合理的であるが、炎症の分子病理機序とは関係ない。したがって、分子機序に基づいた治療は、高い有効性の優れた可能性を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の根底にある技術的課題は、イヌ歯周炎およびイヌ対象の口腔の他の炎症性疾患または状態を予防または治療するための単純で効率的な手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の技術的課題の解決は、特許請求の範囲で特徴付けられる実施形態によって達成される。
【0010】
特に、第1の態様では、本発明は、イヌ対象の口腔の炎症性疾患または状態を予防または治療する方法のために用いられる単離アンチセンスオリゴヌクレオチドであって、
(i)配列番号1によるヌクレオチド配列;または
(ii)少なくとも14個のヌクレオチドを有する配列番号1によるヌクレオチド配列の断片
を含むオリゴヌクレオチドに関する。
【0011】
これに関連して、本明細書で使用される特異的アンチセンスオリゴヌクレオチドは、ヒトにおいて刺激されたICAM-1発現を抑制することが当技術分野で知られている。しかしながら、刺激された発現とは対照的に、ヒトにおける基礎ICAM-1発現のレベルは、前記オリゴヌクレオチドによって抑制されない。対照的に、本発明は、イヌ対象で、基礎ICAM-1発現が本発明の特異的アンチセンスオリゴヌクレオチドによって有利かつ予想外に有意な程度まで抑制されることを特定した。
【0012】
好ましい実施形態では、本発明によって予防または治療される口腔の炎症性疾患または状態が、歯周疾患または状態、より好ましくは歯肉炎、慢性歯周炎、侵襲性歯周炎、全身性疾患の発現としての歯周炎、壊死性潰瘍性歯肉炎、壊死性潰瘍性歯周炎、歯周組織の膿瘍、および歯周-歯内病変の組み合わせからなる群より選択される歯周疾患または状態である。
【0013】
特定の実施形態では、本発明の単離アンチセンスオリゴヌクレオチドが、配列番号1の少なくとも14個、少なくとも15個、少なくとも16個または17個のヌクレオチドを有する配列番号1によるヌクレオチド配列の断片を含む、すなわち、前記断片が、配列番号1の14個、15個、16個または17個のヌクレオチドを有する。好ましくは、前記オリゴヌクレオチドが、前記断片のみからなる、すなわち、前記オリゴヌクレオチドが、14個、15個、16個または17個のヌクレオチドの長さを有する。前記断片を含むアンチセンスオリゴヌクレオチドは、好ましくは少なくとも14個、15個、16個または17個のヌクレオチド、および最大で50塩基以下、より好ましくは40塩基以下、より好ましくは30塩基以下、より好ましくは25塩基以下、最も好ましくは21塩基以下の長さを有する。
【0014】
特に好ましい実施形態では、本発明の単離アンチセンスオリゴヌクレオチドが、配列番号1によるヌクレオチド配列全体を含む。好ましくは、前記オリゴヌクレオチドが、前記ヌクレオチド配列のみからなる、すなわち、前記オリゴヌクレオチドが18個のヌクレオチドの長さを有する。前記ヌクレオチド配列を含むアンチセンスオリゴヌクレオチドは、好ましくは18~50塩基、より好ましくは18~40塩基、より好ましくは18~30塩基、より好ましくは18~25塩基、最も好ましくは18~21塩基の長さを有する。
【0015】
本発明の単離アンチセンスオリゴヌクレオチドは、当技術分野で知られているオリゴヌクレオチド修飾、例えばLNA(ロックされた核酸(locked nucleic acid))修飾などのアンチセンスオリゴヌクレオチド-標的RNA複合体の安定性を高める修飾を含むことができる。
【0016】
第2の態様では、本発明は、本発明の第1の態様について上に定義される単離アンチセンスオリゴヌクレオチドを含む組成物または製品に関する。
【0017】
好ましくは、組成物または製品が、イヌ用飼料、イヌ用チューインガム、イヌ用咀嚼玩具、イヌ用咀嚼骨、イヌ用デンタルガム、イヌ用歯ブラシ、イヌ用指ブラシ、イヌ用口腔衛生ペーストまたはゲル、イヌ用マウスウォッシュまたはデンタルリンス、犬用歯磨き粉、イヌ用口腔衛生スプレー、イヌ用歯研磨剤、イヌ用練り歯磨き、あるいは口腔衛生および/または口腔の健康を改善する任意の製剤または混合物である。本発明のオリゴヌクレオチドをそれぞれの組成物または製品に組み込む手段は特に限定されず、当技術分野で知られている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】NM_001003291によるイヌICAM-1:アンチセンスオリゴヌクレオチドの局所標的配列および配列位置(アンチセンス種as1559a(配列番号2)、as1559b(配列番号1)、as1559c(配列番号3)および陰性対照、すなわち、スクランブル配列sc1284(配列番号4))を示す図である。
図2】イヌICAM-1の基礎遺伝子発現のas1559b媒介阻害の用量依存性を示す図である。
図3】as1559由来アンチセンス種によるICAM-1の基礎発現の抑制を示す図である。播種時の細胞密度250000細胞/ウェルおよび20時間のインキュベーション時間で測定したデータを左パネルに示し、播種時の細胞密度500000細胞/ウェルおよび44時間のインキュベーション時間での測定値を右パネルに示す。ここでは、オリゴヌクレオチド処理の20時間前に、DH82細胞を12ウェル組織培養プレートに250000または500000細胞/ウェルの密度で播種した。リポフェクタミン2000を最終濃度5μg/mLで4時間使用して、細胞を100nMアンチセンスオリゴヌクレオチドでトランスフェクトし、本明細書に記載されるその後の分析のために、トランスフェクションの20時間または44時間後に収集した。さらなる実験の詳細については、以下の「材料および方法」の節を参照されたい。エラーバーは、細胞培養で2連で行った4つのPCR実験からの標準偏差を表す。
図4】ICAM-1のイヌ遺伝子発現の基礎レベルはas1559bによって抑制することができるが、as1559aによってもas1559cによっても抑制することができず(右のバー群)、ヒトECV-304細胞では有意には抑制できない(左のバー群)ことを示す図である。
図5】アンチセンスオリゴヌクレオチドas1559bが、イヌ細胞での高い再現性および有効性を特徴とすることを示す図である。オリゴヌクレオチド処理の24時間前に、DH82細胞を12ウェル組織培養プレートに250000細胞/ウェルの密度で播種した。リポフェクタミン2000を最終濃度5μg/mLで4時間使用して、細胞を100nMアンチセンスオリゴヌクレオチドでトランスフェクトし、RTqPCRによってICAM-1のmRNAレベルを測定するために、トランスフェクションの20時間後に収集した。さらなる実験の詳細については、以下の「材料および方法」の節を参照されたい。エラーバーは、細胞培養でそれぞれ3連で行った3つの独立した生物学的実験の標準偏差を表す。
【0019】
本発明を以下の実施例でさらに説明するが、これらに限定されるものではない。
実施例
【0020】
材料および方法:
細胞株および細胞培養:
細胞株DH82(Sigma-Aldrich Chemie GmbH、ミュンヘン、ドイツ)を、悪性組織球増殖症の10歳の雄ゴールデンレトリバーから得た。細胞を、5%COの加湿雰囲気中、37℃で、3.7 g/L NaHCO、4.5 g/L D-グルコース、安定グルタミン、ピルビン酸Na(Biochrom GmbH、ベルリン、ドイツ)および15%ウシ胎児血清(Biochrom GmbH、ベルリン、ドイツ)を補充したダルベッコのMEMで維持し、1週間に2~3回分割した。
【0021】
細胞株ECV-304は、誘導性様式でICAM-1を発現するヒト膀胱癌細胞株T-24の誘導株である。細胞を、5%CO2の加湿雰囲気中、37℃で、HEPES(25 mM)、0.68 mM L-グルタミン(Sigma-Aldrich、ダイゼンホーフェン、ドイツ)および10%ウシ胎児血清(Invitrogen by Thermo Fisher Scientific、カールスバッド、米国)を含有する培地199で維持し、1週間に2~3回分割した。ICAM-1(CD54)の刺激のために、200 U/mlのインターロイキン1β(IL-1β; PromoCell、ハイデルベルク、ドイツ)を培地に添加し、細胞を一晩16~18時間インキュベートした。
asONによる細胞のトランスフェクション:
【0022】
オリゴヌクレオチドによるトランスフェクションの20時間前に、DH82細胞を12ウェル組織培養プレートに2.5×10細胞/ウェルの密度で播種した。リポフェクタミン2000(Invitrogen by Thermo Fisher Scientific、カールスバッド、米国)を用いたトランスフェクションミックスの調製を、製造業者の指示に従って行った。細胞のトランスフェクションを、1ウェル当たり様々な濃度のasON(12.5 nM~200 nM)および5 μg/mLのリポフェクタミン2000を含有する0.5 mL Opti-MEM I培地(Invitrogen、Thermo Fisher Scientific、カールスバッド、米国)で行った。細胞を37℃、5%COで4時間インキュベートした。その後、トランスフェクション培地を15%FCSを含有する新鮮なDMEM培地に交換し、37℃、5%COで20時間インキュベートした。
【0023】
オリゴヌクレオチド処理の15時間前に、ECV-304細胞を12ウェル培養プレートに2.0×10細胞/ウェルの密度で播種した。リポフェクチン(Invitrogen by Thermo Fisher Scientific、カールスバッド、米国)を用いたトランスフェクションミックスの調製を、製造業者の指示に従って行った。asONのトランスフェクションを、1ウェル当たり100 nMのasONおよび5 μg/mLのリポフェクチンを含有する1.0 mL Opti-MEM I培地(Invitrogen by Thermo Fisher Scientific、カールスバッド、米国)で行った。細胞を37℃、5%CO2で4時間インキュベートした。その後、トランスフェクション培地を10%FCSを含有する培地199に交換した。37℃、5%CO2で4時間インキュベートした後、培地を10%FCSおよび200U/mLのIL-1βを含有する培地199で置換して、16~18時間ICAM-1発現を刺激した。全ての細胞培養実験を、3連で、少なくとも2回の独立した実行で行った。
【0024】
RNA抽出、cDNA合成および定量的PCR:
Qiazol試薬(Qiagen、ヒルデン、ドイツ)を使用して、トランスフェクト細胞から全細胞RNAを抽出した。その後、製造業者の指示に従って、RNAをTURBO DNase(Ambion by Thermo Fisher Scientific、カールスバッド、米国)で処理した。RNAの収量および純度を、分光光度法によって決定した。
【0025】
cDNAの合成を、RevertAid First Strand cDNA合成キットおよび200ngのランダムヘキサマープライマー(Thermo Fisher Scientific、カールスバッド、米国)を使用して、等量のRNA(3μg)を含む20μlの容量で逆転写によって行った。
【0026】
定量的PCRを、ABI Prism 7900HT配列検出システム(Applied Biosystems、ダルムシュタット、ドイツ)およびSYBR Select Master Mix(Thermo Fischer、カールスバッド、米国)を使用して行った。イヌICAM-1 cDNA(3ng/PCR)を順方向プライマー5’-TGACAACCATTGTCATCTTAGGAA-3 ’(配列番号5)および逆方向プライマー5’-GGTGTGTTCAGCTTCATGGC-3’(配列番号6)で増幅し、124bpの断片を得た。イヌ18S cDNA(0.03 ng/PCR)を順方向プライマー、5’-CACATCCAAGGAAGGCAGCAG-3 ’(配列番号7)および逆方向プライマー、5’-GACTTGCCCTCCAATGGATCC-3’(配列番号8)で増幅し、152bpの産物を得た。全てのqPCRの実行を、95℃で2分間、次いで、95℃で15秒間と60℃で60秒間の40サイクルで行った。反応の特異性を、融解曲線分析によって検証した。各反応を3連で実行した。各試料のmRNA発現レベルを18S rRNAの量に正規化し、比較ΔCt法によって分析し、陰性対照(sc1284)に対する相対量として表した。
【0027】
ヒトECV-304細胞の実験では、RNaseフリーDNase I(Qiagen、ヒルデン、ドイツ)による処理を含むRNeasyミニキットを使用して、トランスフェクト細胞から総RNAを抽出した。RNAの収量および純度を、分光光度法によって決定した。cDNAの合成を、製造業者の仕様(Invitrogen by Thermo Fisher Scientific、カールスバッド、米国)に従って、ランダムヘキサマープライマーおよびSuperscript II RNase H逆転写酵素を使用して行った。ICAM-1の遺伝子発現を定量的PCRによって分析した。したがって、SYBRグリーンPCRコア試薬(Eurogentec、Seraing、セラン、ベルギー)を使用して、100ngの逆転写RNAを分析した。反応を、それぞれ300nMの遺伝子特異的5’および3’プライマーを含有する50μlで行い、GeneAmp 5700配列検出システム(Applied Biosystems、ダルムシュタット、ドイツ)でアッセイした。ヒトICAM-1 cDNAを、順方向プライマー5’-GCCACTTCTTCTGTAAGTCTGTGGG-3 ’(配列番号9)および逆方向プライマー5’-CTACCGGCCCTGGGACG-3’(配列番号10)で増幅した。試料を、ヒトGAPDHをコードするcDNAに特異的なプライマー(順方向プライマー、5’-AACAGCGACACCCACTCCTC-3 ’(配列番号11)および逆方向プライマー、5’-GGAGGGGAGATTCAGTGTGGT-3’(配列番号12))を使用して正規化した。各PCR実行内で、全ての増幅反応を3連で行った。結果を、100%に設定した対照ONでの発現の割合として表す。
【0028】
実施例1:
イヌICAM-1の発現は、as1559bによって濃度依存的に抑制される。
図2は、イヌDH82細胞におけるICAM-1発現の基礎レベル(100%)をアンチセンスオリゴヌクレオチドas1559bによって濃度依存的に抑制することができることを示している。この実験は上記のように行った。詳細には、トランスフェクションの20時間後に、RNAを単離し、ICAM-1 mRNAならびに18S rRNAのレベルをRT-qPCRによって3連で測定した。各試料のICAM-1発現レベルを、最初に18S rRNAの量に正規化し、次いで、同じ総用量で対照オリゴヌクレオチド(sc1284)でトランスフェクトした細胞と比較した。図2は、3連でのRT-qPCRベースの定量化の平均および標準偏差を示している。
【0029】
これに関連して、ICAM-1のこの濃度依存的抑制は、サイトカイン刺激レベルではなく、ヒト系では決して観察されなかった基礎遺伝子発現のレベルで起こることに留意すべきである。ヒト細胞では、比較可能な実験条件下で、基礎遺伝子発現はasONの影響を受けることができなかった。
【0030】
実施例2:
as1559bによるICAM-1の基礎遺伝子発現の実質的な抑制。
3つのas1559関連アンチセンスオリゴヌクレオチドは全て、イヌDH82細胞におけるICAM-1の遺伝子発現の基礎レベルを抑制する。しかしながら、as1559bの使用で最大の標的阻害が観察される(図3図5)。この実験では、DH82細胞(250.000細胞/ウェル)を、5μg/mlのリポフェクタミン2000を含有するOpti-MEM I培地で4時間、それぞれ100nMの最終濃度のオリゴヌクレオチドas1559a、as1559bまたはas1559cでトランスフェクトした。トランスフェクションの20時間後に細胞を収集した。RNA単離、cDNA合成および定量的PCRを、上記のように行った。各試料のICAM-1発現レベルを、最初に18S rRNAの量に正規化し、次いで、同じ総用量で対照オリゴヌクレオチド(sc1284)でトランスフェクトした細胞と比較した。図2図3および図5は、3連でのRT-qPCRベースの定量化の平均および標準偏差を示している。
【0031】
as1559aおよびas1559cと比較した1559bの有効性の増加は、初期細胞密度が低く、観測時間が短い場合は中程度で有意であるが、初期細胞密度が高く、観測時間が長い場合にas1559bは大幅に効率的に作用する。要約すると、as1559bは、細胞密度およびas1559bへの曝露期間に応じて、正常な発現レベルの50%の範囲で堅牢かつ再現可能なICAM-1発現の基礎レベルの驚くほど強い阻害を示すと結論付けらる。
【0032】
実施例3:
アンチセンスオリゴヌクレオチドas1559bは、イヌ細胞で驚くほど効率的である。
【0033】
ICAM-1に対する3つのアンチセンス種全て、すなわちas1559a、as1559bおよび1559cはそれぞれ、それらの標的の同じ局所標的モチーフ、すなわちICAM-1 mRNAに対して向けられている(図1)。
【0034】
ICAM-1の遺伝子発現に関して、これは基礎レベルと刺激範囲に細分されることに留意すべきである(図4、右パネルおよびY軸参照)。この分割は、オリゴヌクレオチドベースの阻害剤に対する反応性が異なるため重要である。ヒト細胞、およびおそらく他の哺乳動物でICAM-1遺伝子発現の刺激範囲を完全に抑制することは極めて容易であるが、この図で100%に設定されている基礎発現レベルを下方制御することは非常に困難である。ほとんどのアンチセンスオリゴヌクレオチドおよび多くのsiRNAもまた、この基礎範囲のICAM-1発現に有意な影響を及ぼさない。
【0035】
図4に示されるデータは、3つのアンチセンスオリゴヌクレオチドのいずれも、ヒト細胞の基礎遺伝子発現に実質的な効果を示さないことを実証している(左パネル)。これは、イヌ細胞においてas1559aおよびas1559cによって媒介される強い効果の欠如によって反映されている(右パネル)。2つの理由のために、as1559bがイヌ細胞でICAM-1を13%のレベルに下方制御することは驚くべきことである(右パネル、円)。第一に、as1559bによる阻害の程度は、これまでにアンチセンスオリゴヌクレオチドの使用では観察されてこなかった。第二に、as1559bはイヌ系で高度に活性であるが、このことはヒト系から予測できない。
【0036】
本発明は、以下のヌクレオチド配列に関する。
【0037】
配列番号:1
アンチセンスオリゴヌクレオチドas1559b
TCTTCCGCTGGCGGTTAT
配列番号2
アンチセンスオリゴヌクレオチドas1559a
CCGCTGGCGGTTATAGAG
配列番号3
アンチセンスオリゴヌクレオチドas1559c
ATCTTCCGCTGGCGGTTA
配列番号4
スクランブル陰性対照オリゴヌクレオチドsc1284
CAGGTGGTCAGATGGACC
配列番号5
プライマー配列
TGACAACCATTGTCATCTTAGGAA
配列番号6
プライマー配列
GGTGTGTTCAGCTTCATGGC
配列番号7
プライマー配列
CACATCCAAGGAAGGCAGCAG
配列番号8
プライマー配列
GACTTGCCCTCCAATGGATCC
配列番号9
プライマー配列
GCCACTTCTTCTGTAAGTCTGTGGG
配列番号10
プライマー配列
CTACCGGCCCTGGGACG
配列番号11
プライマー配列
AACAGCGACACCCACTCCTC
配列番号12
プライマー配列
GGAGGGGAGATTCAGTGTGGT
配列番号13
イヌ(Canis lupus familiaris)ICAM-1 mRNAの部分配列
TGTAGCCGCTTACCTCTATAACCGCCAGCGGAAGATCCAGAAATACAAGCT
配列番号14
si1559aの鎖
CUCUAUAACCGCCAGCGGATT
配列番号15
si1559aの鎖
UCCGCUGGCGGUUAUAGAGTT
【表1】
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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