(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-06
(45)【発行日】2022-10-17
(54)【発明の名称】データ処理方法、データ処理装置、およびコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 10/00 20120101AFI20221007BHJP
【FI】
G06Q10/00
(21)【出願番号】P 2021180036
(22)【出願日】2021-11-04
【審査請求日】2021-11-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521483412
【氏名又は名称】日本ゼルス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103872
【氏名又は名称】粕川 敏夫
(74)【代理人】
【識別番号】100088856
【氏名又は名称】石橋 佳之夫
(74)【代理人】
【識別番号】100149456
【氏名又は名称】清水 喜幹
(74)【代理人】
【識別番号】100194238
【氏名又は名称】狩生 咲
(74)【代理人】
【識別番号】100205648
【氏名又は名称】森田 真一
(72)【発明者】
【氏名】野島 健史
【審査官】谷川 智秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-097577(JP,A)
【文献】特開2019-175416(JP,A)
【文献】特開2021-152883(JP,A)
【文献】特開2012-063856(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録主端末および分散データベースとネットワークを通じて接続されるコンピュータが、
温室効果ガスの削減量に関する証明データを前記記録主端末から受信する証明データ受信処理と、
前記証明データに対応付けて送信される
、前記証明データとは別に前記記録主端末から
預託される預託
財産を示す預託信号を受信する預託受信処理と、
前記証明データの格納請求および前記格納請求に必要な預託処理を前記分散データベースに送信する通信処理と、
前記証明データの買主の情報を受け付け、前記買主の情報を前記証明データと対応付けて記録する記録処理と、
前記証明データの償却命令を受信した場合に、償却されたことを示す償却情報を前記証明データに対応付けて前記分散データベースに格納する償却処理と、
前記償却情報が格納されると、当該証明データに対応付けられている前記預託
財産を、前記記録主端末に償還する預託償還処理と、
を実行する、
データ処理方法。
【請求項2】
前記記録処理では、前記分散データベースを参照し、受信した前記証明データと同一のデータが記録されている場合には、当該証明データの記録を行わない、
請求項1記載のデータ処理方法。
【請求項3】
前記記録処理では、前記分散データベースを参照し、前記証明データに前記償却情報が紐づけられている場合には、当該証明データの変更を行わない、
請求項1又は2記載のデータ処理方法。
【請求項4】
前記証明データは前記温室効果ガスの分量の情報を含み、前記償却命令には、償却される前記分量および前記分量を保有する前記買主の情報が含まれ、
前記償却処理では、前記償却命令に含まれる前記分量に基づいて、前記証明データの一部を償却し、
前記預託償還処理では、前記証明データに含まれるすべての前記分量が償却された場合に、当該証明データに対応付けられている前記預託
財産を前記記録主端末に償還する、
請求項1乃至3のいずれかに記載のデータ処理方法。
【請求項5】
前記証明データに紐づけたコードを発行し、前記記録主端末に送信するコード発行処理をさらに実行し、
前記償却処理では前記コードの入力を受け付け、当該コードが前記償却命令に含まれる前記証明データに紐づけられる前記コードと一致する場合にのみ、前記償却情報を前記分散データベースに格納する、
請求項1乃至4のいずれかに記載のデータ処理方法。
【請求項6】
前記記録処理では、前記証明データの譲渡履歴を前記分散データベースに格納する、
請求項1乃至5のいずれかに記載のデータ処理方法。
【請求項7】
記録主端末および分散データベースとネットワークを通じて接続されるデータ処理装置であって、
温室効果ガスの削減量に関する証明データを前記記録主端末から受信する証明データ受信部と、
前記証明データに対応付けて送信される
、前記証明データとは別に前記記録主端末から
預託される預託
財産を示す預託信号を受信する預託受信部と、
前記証明データの格納請求および前記格納請求に必要な預託処理を前記分散データベースに送信する通信処理部と、
前記証明データの買主の情報を受け付け、前記買主の情報を前記証明データと対応付けて前記分散データベースに記録する記録部と、
前記証明データの償却命令を受信した場合に、償却されたことを示す償却情報を前記証明データに対応付けて前記分散データベースに格納する償却部と、
前記償却情報が格納されると、当該証明データに対応付けられている前記預託
財産を、前記記録主端末に償還する預託償還部と、
を備える、
データ処理装置。
【請求項8】
記録主端末および分散データベースとネットワークを通じて接続されるコンピュータに対して、
温室効果ガスの削減量に関する証明データを前記記録主端末から受信する証明データ受信処理と、
前記証明データに対応付けて送信される
、前記証明データとは別に前記記録主端末から
預託される預託
財産を示す預託信号を受信する預託受信処理と、
前記証明データの格納請求および前記格納請求に必要な預託処理を前記分散データベースに送信する通信処理と、
前記証明データの買主の情報を受け付け、前記買主の情報を前記証明データと対応付けて記録する記録処理と、
前記証明データの償却命令を受信した場合に、償却されたことを示す償却情報を前記証明データに対応付けて前記分散データベースに格納する償却処理と、
前記償却情報が格納されると、当該証明データに対応付けられている前記預託
財産を、前記記録主端末に償還する預託償還処理と、
を実行する、
コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、データ処理方法、データ処理装置、およびコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出を抑制し気候変動を抑制する実効的な対策として、カーボンクレジットおよび排出権の規格を整備し、普及する動きが進んでいる。カーボンクレジットおよび排出権は、国際規格による厳格な審査を経て証明がなされ、企業等への売却が行われるところ、証明データの二重発行、二重譲渡、改ざん、偽造コピー等の問題が発生している。
【0003】
そこで、カーボンクレジット証書や排出権といった、温室効果ガスの抑制に関する証明データの管理プラットホームに耐える、信頼性の高いデータ処理技術が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【0005】
特許文献1には、発行された非化石証書をブロックチェーンが有する台帳に記憶させる記憶制御部を有し非化石証書の発行にかかる時間を短縮するとともに、非化石証書を安全に管理する証書管理装置が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、温室効果ガスの抑制に関する証書の管理に関し、高い信頼性を実現することを目的する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一の観点に係るデータ処理方法は、記録主端末および分散データベースとネットワークを通じて接続されるコンピュータが、温室効果ガスの削減量に関する証明データを前記記録主端末から受信する証明データ受信処理と、前記証明データに対応付けて送信される前記記録主端末からの預託を受信する預託受信処理と、前記証明データの格納請求および前記格納請求に必要な預託処理を前記分散データベースに送信する通信処理と、前記証明データの買主の情報を受け付け、前記買主の情報を前記証明データと対応付けて記録する記録処理と、前記証明データの償却命令を受信した場合に、償却されたことを示す償却情報を前記証明データに対応付けて前記分散データベースに格納する償却処理と、前記償却情報が格納されると、当該証明データに対応付けられている前記預託を、前記記録主端末に償還する預託償還処理と、を実行する。
【0008】
前記記録処理では、前記分散データベースを参照し、受信した前記証明データと同一のデータが記録されている場合には、当該証明データの記録を行わないものとしてもよい。
【0009】
前記記録処理では、前記分散データベースを参照し、前記証明データに前記償却情報が紐づけられている場合には、当該証明データの変更を行わないものとしてもよい。
【0010】
前記証明データは前記温室効果ガスの分量の情報を含み、前記償却命令には、償却される前記分量および前記分量を保有する前記買主の情報が含まれ、前記償却処理では、前記償却命令に含まれる前記分量に基づいて、前記証明データの一部を償却し、前記預託償還処理では、前記証明データに含まれるすべての前記分量が償却された場合に、当該証明データに対応付けられている前記預託を前記記録主端末に償還するものとしてもよい。
【0011】
前記証明データに紐づけたコードを発行し、前記記録主端末に送信するコード発行処理をさらに実行し、前記償却処理では前記コードの入力を受け付け、当該コードが前記償却命令に含まれる前記証明データに紐づけられる前記コードと一致する場合にのみ、前記償却情報を前記分散データベースに格納するものとしてもよい。
【0012】
前記記録処理では、前記証明データの譲渡履歴を前記分散データベースに格納するものとしてもよい。
【0013】
本発明の別の観点に係るデータ処理装置は、記録主端末および分散データベースとネットワークを通じて接続されるデータ処理装置であって、温室効果ガスの削減量に関する証明データを前記記録主端末から受信する証明データ受信部と、前記証明データに対応付けて送信される前記記録主端末からの預託を受信する預託受信部と、前記証明データの格納請求および前記格納請求に必要な預託処理を前記分散データベースに送信する通信処理部と、前記証明データの買主の情報を受け付け、前記買主の情報を前記証明データと対応付けて前記分散データベースに記録する記録部と、前記証明データの償却命令を受信した場合に、償却されたことを示す償却情報を前記証明データに対応付けて前記分散データベースに格納する償却部と、前記償却情報が格納されると、当該証明データに対応付けられている前記預託を、前記記録主端末に償還する預託償還部と、を備える。
【0014】
本発明のさらに別の観点に係るコンピュータプログラムは、記録主端末および分散データベースとネットワークを通じて接続されるコンピュータに対して、温室効果ガスの削減量に関する証明データを前記記録主端末から受信する証明データ受信処理と、前記証明データに対応付けて送信される前記記録主端末からの預託を受信する預託受信処理と、前記証明データの格納請求および前記格納請求に必要な預託処理を前記分散データベースに送信する通信処理と、前記証明データの買主の情報を受け付け、前記買主の情報を前記証明データと対応付けて記録する記録処理と、前記証明データの償却命令を受信した場合に、償却されたことを示す償却情報を前記証明データに対応付けて前記分散データベースに格納する償却処理と、前記償却情報が格納されると、当該証明データに対応付けられている前記預託を、前記記録主端末に償還する預託償還処理と、を実行する。
【0015】
なお、コンピュータプログラムは、インターネット等のネットワークを介したダウンロードによって提供したり、コンピュータ読み取り可能な各種の記録媒体に記録して提供したりすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、温室効果ガスの抑制に関する証書の管理に関し、高い信頼性を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第1実施形態にかかるデータ処理装置、およびネットワークを通じて接続される各構成が備える機能を示す機能ブロック図である。
【
図2】上記データ処理装置に記憶されるデータテーブルの1例を示す図である。
【
図3】上記データ処理装置に接続される記録主端末から証明データが登録される処理の流れを示したシーケンス図の例である。
【
図4】上記証明データが償却される処理の流れを示したシーケンス図の例である。
【
図5】上記データ処理装置が預託を返還する処理の流れを示したフローチャートの例である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明にかかるデータ処理装置の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0019】
●データ処理装置●
図1に、本発明の実施形態に係るデータ処理装置1の構成を示す。データ処理装置1は、記録主が記録主端末30を介して記録される、温室効果ガスの削減に関する証明データを保全するとともに、所定の操作に基づいて証明データを償却する装置である。ここで、本説明において証明データとは、例えばカーボンクレジット証書のデジタルデータ、又は温室効果ガスの排出権を証明するデジタルデータを含む上位概念を指す文言である。また、証明データには、その発行主および買主の情報が含まれている。
【0020】
カーボンクレジット証書は、二酸化炭素等の温室効果ガスの吸収又は削減を行った活動を、その吸収量又は削減量とともに証明する証書である。吸収又は削減は、例えば省エネ設備の導入又は再生可能エネルギーの活用等を行う企業や、適切な植林、間伐等により森林を管理する農業者、森林所有者等により行われる。カーボンクレジット証書は、第三者である審査機関が所定の規格に基づいて発行プロジェクトの資料又はデータ等を審査し、審査機関により発行される。カーボンクレジット証書は、例えばデジタルデータとして発行される。カーボンクレジット証書は、国又は企業により購入され、カーボンクレジット証書の所有者に所定の代金が支払われる。このような仕組みによれば、温室効果ガスの削減に寄与した証書所有者は金銭を得ることができ、削減に寄与するインセンティブが生まれる。また、購入した国又は企業も、金銭の供出により間接的に温室効果ガスの削減に寄与できる。ひいては、非中央集権的な仕組みによる地球温暖化対策が増進される。
【0021】
温室効果ガスの排出権は、温室効果ガスの排出量に関する何等かの規制値を超過していない国又は企業が有する資産であり、この国又は企業は、超過している国又は企業に対し排出権を売却できる。また、排出権は、資産として企業間での売買がなされる。排出権の概念を共有し、資産として売買がなされる仕組みも、地球温暖化対策の一助となり得る。
【0022】
図1に示すように、データ処理装置1は、記録主が利用する記録主端末30、買主端末40、および分散データベース50と、ネットワークNWを介して通信可能に構成されている。データ処理装置1、記録主端末30、買主端末40、分散データベース50相互の通信は、本実施形態においては無線であるが、一部または全部の接続が有線であってもよい。
【0023】
●記録主端末30
記録主端末30は、証明データを記録する記録主が操作する端末である。記録主は、例えば、カーボンオフセットの審査機関、審査を受けた被審査者、又は、被審査を代理して当該システムに証書を記録する仲介者である。
記録主端末30は、デジタルデータである証明データを、データ処理装置1に記録する。また、記録主端末30は、証明データの記録時に、証明データの記録の生成に必要な預託財産を分散データベース50に預託する、預託信号を送信する。預託財産は、記録主の口座から支払われ、例えば仮想通貨、より具体的には暗号通貨として分散データベース50上で管理される。
【0024】
記録主端末30は、例えばスマートホンやタブレット端末、又はコンピュータである。記録主端末30は、CPU(Central Processing Unit)、CPUが実行するコンピュータプログラム、コンピュータプログラムや所定のデータを記憶するRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)などにより、入出力部31、及び通信処理部32からなる機能ブロックを構成する。
【0025】
入出力部31は、データを入出力するためのディスプレイやタッチパネル、音声データを入出力するためのマイクやスピーカ等によって実現される。
【0026】
通信処理部32は、インターネット等のネットワークNWを介し、データ処理装置1および分散データベース50と所定のプロトコルに従ったデータの送受信処理を実行可能とする処理部であって、アプリまたは、Webブラウザ等により実現される。
【0027】
●買主端末40
買主端末40は、証明データにより証明されるカーボンクレジット証書又は排出権を購入した買主が使用する端末である。買主端末40は、例えばスマートホンやタブレット端末、又はコンピュータである。買主端末40は、CPU(Central Processing Unit)、CPUが実行するコンピュータプログラム、コンピュータプログラムや所定のデータを記憶するRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)などにより、入出力部41、及び通信処理部42からなる機能ブロックを構成する。
【0028】
入出力部41は、データを入出力するためのディスプレイやタッチパネル、音声データを入出力するためのマイクやスピーカ等によって実現される。通信処理部42は、インターネット等のネットワークNWを介し、データ処理装置1および分散データベース50と所定のプロトコルに従ったデータの送受信処理を実行可能とする処理部であって、アプリまたは、Webブラウザ等により実現される。
【0029】
なお、データ処理装置1に接続される記録主端末30および買主端末40の個数は任意であり、それぞれ複数あってよい。
【0030】
●分散データベース50
データ処理装置1は、分散データベース50を構成する複数の管理装置の少なくともいずれかに接続されている。分散データベース50は、イーサリアム(Ethereum)等、ブロックチェーンを利用した既存の暗号通貨による取引が可能なブロックチェーンネットワークを構成し、証明データを記録するブロックチェーンの台帳を格納する。なお、独自の仮想通貨による取引が可能であってもよい。複数の管理装置のそれぞれは、ブロックチェーンの台帳を構成する複数のブロックを記憶している。複数のブロックのそれぞれは、例えば所定数のデータとして、証明データ及び証明データの譲渡履歴の少なくともいずれかを格納している。また、複数のブロックのそれぞれは、直前に生成されたブロックのハッシュ値を含んでおり、ブロックチェーンを形成している。なお、ブロックチェーンにおいて、証明データの台帳と、譲渡履歴の台帳とは、それぞれ別に管理されていてもよい。
【0031】
図2に示すように、分散データベース50は、発行主の識別情報(「発行主ID」ともいう。)および証明データの情報を対応付けて記憶する。分散データベース50に記憶されるテーブルT1には、証明データに含まれる情報、例えばカーボンクレジットおよび排出権の別等を示す資産タイプ、審査に用いられた規格の種別、温室効果ガスの分量、および測定単位等が合わせて記憶されている。また、証明データを購入した買主がいる場合には、買主の識別情報(「買主ID」ともいう。)が発行主の識別情報に対応付けられて記憶されている。買主IDには、当該買主が購入した分量が合わせて記憶される。なお、本実施形態においては、テーブルT1のデータを全て分散データベース50に記憶するものとしたが、データの一部をデータ処理装置1が有する記憶部に記憶する構成であってもよい。
【0032】
テーブルT1には1個の証明データIDに対して、複数の買主IDが対応付けられていてもよい。すなわち、データ処理装置1においては、1個の証明データを分割して複数の買主に売却することができる。分割の単位は、例えば単位分量であってよく、具体的には1トンであってよい。
図2の例においては、証明データID「S02」に対して、2個の買主ID「K02」および「K03」が対応付けられている。また、「K02」には30トン、「K03」には20トンが割り当てられている。
【0033】
証明データには、買主ごとにステータスが紐づけられていて、同図の例では、「K02」の保有する30トンの排出権は償却済みであり、「K03」の保有する20トンの排出権は未償却である。また、テーブルT1において、購入量をさらに分割し、単位分量ごとにステータスが格納可能になっていてもよい。例えば、買主ID「K02」が保有する30トンの排出権のうち、一部を償却済みとし、残量を未償却として格納可能であってもよい。また、証明データが記録主端末30から格納された時点では、ステータスは未償却となっていてよい。また、買主が記録されていない分量のステータスは未償却のみが登録可能となっており、償却済みのステータスは登録を許可しない構成としてもよい。
【0034】
上述のように、証明データに記載の分量を分割し、単位分量ごとに買主およびステータスを対応付けて格納できる構成によれば、カーボンクレジット証書又は排出権の発行単位に囚われず、必要な分量の取引が可能になり、利便性が高い。また、単位分量での取引が基本となる結果、取引される単位分量の価格が明示できるため、購入の検討も容易である。ひいては、取引が普及した結果、温室効果ガスの削減を加速することができる。
【0035】
また、分散データベース50に記憶されているデータは、分散データベース50に接続可能な適宜の端末により参照可能である。適宜の端末は、例えばパーソナルコンピュータ、スマートホン又はタブレット端末であってよい。データの参照は、汎用のウェブブラウザのソフトウェアアプリケーションを介して可能である他、専用のアプリケーションを介して可能であってもよい。このような構成によれば、カーボンクレジット証書や排出権に関する情報を、誰でも場所や時間に囚われず参照することができ、信頼性の高い取引を実現できる。
【0036】
●データ処理装置1
図1に示すように、データ処理装置1は、証明データ受信部11、預託受信部12、コード発行部13、参照情報発行部14、記録部15、償却部16、預託償還部17、および通信処理部18からなる各機能ブロックを構成する。
【0037】
証明データ受信部11は、記録主端末30を介して登録される証明データを受信する機能部である。証明データ受信部11は、様々な国際規格で審査を受けた証明データを受信可能である。本実施形態においては、証明データは審査機関からデジタルデータで発行され、当該デジタルデータが記録主端末30から送信されることを想定しているが、これに限られず、証明データが紙面で発行され、当該紙面から手入力や撮影データによりデータを抽出したものを受信する構成であってもよい。
【0038】
預託受信部12は、証明データに対応付けて送信される前記記録主端末からの預託を受信する機能部である。預託財産の額は、証明データに含まれる温室効果ガスの分量に応じて定められており、データ処理装置1から記録主端末30に提示される。
【0039】
コード発行部13は、証明データに紐づけた1次性コードを発行し、記録主端末30に送信する機能部である。1次性コードは特許請求の範囲におけるコードの例であり、例えば英数字もしくは記号、又はこれらの組合せで構成される。なお、1次性コードはこれに限られず、所定の多次元コードであってもよい。記録主端末30は、受信したコードを表示するとともに、このコードを記憶しておくよう表示又は音声等種々の方法で記録主に案内する。
【0040】
参照情報発行部14は、分散データベース50に格納されている証明データ、およびこれに付随する情報を閲覧するための参照情報を発行する機能部である。参照情報からはテーブルT1に格納されている情報が適宜閲覧可能である。参照情報で閲覧できるデータには買主の情報も含まれており、参照情報を閲覧することで、誰かに保有されている証明データであるか否かが明らかである。すなわち、二重譲渡でないことが明確になり、取引の信頼性を高めることができる。参照情報を有する者は、記録者、買主又はそれ以外の第三者のいずれであってもよく、参照情報に基づいて証明データを適宜閲覧可能である。参照情報は、証明データ固有の識別情報を含み、例えば特定のサイトにおいて入力することで情報が表示される英数字等の組合せであってもよいし、ダイレクトURLであってもよい。また、参照情報は、カメラによりスキャンすることで証明データページを表示する2次元コードであってもよい。このような構成によれば、現実の取引においても即時に信頼性を担保できる。
【0041】
記録部15は、記録主端末30又は買主端末40から受信したデータを、データ処理装置1が有する分散データベース50に記録する機能部である。また、記録部15は、証明データの買主の情報を受け付け、買主の情報を証明データと対応付けて分散データベース50に記録する。
【0042】
記録部15は、分散データベース50を参照し、受信した証明データに関し既に同一のデータが登録されているか否かを照合する。記録部15は、証明データに含まれる情報のうち特定の情報又は複数の情報が一致している場合に、同一のデータが登録されていると推定する。例えば、証明データごとに識別情報が割り振られている場合には、当該識別情報が一致している場合に同一のデータであると推定してもよい。また、記録部15は、審査日、発行日、審査機関、被審査者および分量のうち複数の情報が一致している場合に、同一のデータであると推定してもよい。記録部15は、同一のデータが登録されている場合、受信した証明データの登録を行わず、その旨を記録主端末30に通知する。この構成によれば、証明データの二重登録を防止することができる。
【0043】
記録部15は、証明データの譲渡履歴を分散データベース50に格納してもよい。この構成によれば、当該証明データに関する透明性がより担保される。また、記録部15は、証明データの種類に応じて譲渡の可否を判別してもよい。具体的には、記録部15は、排出権のデジタルデータにおいては譲渡を許可し、買主の情報を更新するとともに、譲渡履歴を分散データベース50に格納する一方、カーボンクレジット証書のデジタルデータにおいては譲渡を不許可とし、譲渡履歴の格納を行わないものとしてもよい。この構成によれば、取引の実情に即したシステム構築が可能である。
【0044】
償却部16は、証明データの償却命令を受信した場合に、償却されたことを示す償却情報を当該証明データに対応付けて分散データベース50に格納する機能部である。記録部15は、分散データベース50を参照し、証明データに償却情報が紐づけられている場合には、当該証明データの変更を行わない。すなわち、償却された証明データは、二度と変更されず、償却時点での買主の記録が保全される。償却された証明データは他者に売却できないよう保護されているため、本発明にかかるデータ処理方法により管理される証明データは二重譲渡等のおそれがなく高い信頼性を担保することができる。
【0045】
償却部16は1次性コードの入力を受け付け、当該1次性コードが償却命令に含まれる証明データに紐づけられる1次性コードと一致する場合にのみ、償却情報を分散データベース50に格納してもよい。この構成によれば、1次性コードを知っている者のみが償却の手続きを行うことができ、不正な手続きが防止できる。
【0046】
償却部16は、償却命令に含まれる分量に基づいて、証明データの一部を償却してもよい。償却部16は、例えば単位分量ごとに償却が可能である。この構成によれば、必要な分量の取引が可能となり、取引の普及が促進される。償却部16は、償却命令に含まれる分量が、買主の保有分量を超えている場合にエラーを通知してもよい。
【0047】
預託償還部17は、償却情報が格納されると、当該証明データに対応付けられている預託財産を、記録主端末30に償還する機能部である。預託償還部17は、預託財産が分散データベース50により管理されている場合には、預託の償還信号を分散データベース50に送信し、分散データベース50から預託財産を記録主端末30に送信する。
【0048】
預託償還部17は、証明データに含まれるすべての分量が償却された場合に、当該証明データに対応付けられている預託を記録主端末30に償還する。証明データに含まれる分量の一部が残存している場合には、預託の償還は行われない。このような構成によれば、記録主に全ての分量を早期に償却したい動機が生まれるため、取引が促進される。
【0049】
通信処理部18は、インターネット等のネットワークNWを介し、データ処理装置1および分散データベース50と所定のプロトコルに従ったデータの送受信処理を実行可能とする処理部であって、アプリまたは、Webブラウザ等により実現される。通信処理部18は特に、証明データ、1次性コードおよび償却命令を記録主端末30から受信する。また、通信処理部18は、証明データの格納請求および格納請求に必要な預託処理を分散データベース50に送信する。また、通信処理部18は、預託の償還信号を分散データベース50に送信する。
【0050】
●記録主端末30がデータ処理装置1に証明データを格納するフロー
図3に示すように、まず、記録主端末30は、データ処理装置1に対して証明データを送信する(ステップS101)。証明データには、例えばカーボンクレジット証書に記載されている情報が含まれ、特に温室効果ガスの分量を含む。
【0051】
データ処理装置1は、分散データベース50を参照し、受信した証明データが既に登録されているデータと同一か否かを確認する(ステップS102)。既登録データと重複がない場合には、その旨を記録主端末30に通知するとともに、預託の送信を促す。重複がある場合には、登録を不許可とする通知を記録主端末30に送信する。
【0052】
ついで、記録主端末30は、預託財産の情報を含む預託信号を送信する(ステップS103)。預託信号は、証明データとともにデータ処理装置1を介して分散データベース50に送信される(ステップS104)。なお、ステップS103の前に、データ処理装置1が、証明データに含まれる温室効果ガスの分量に応じて預託すべき預託財産の額を決定し、記録主端末30に通知する処理が行われてもよい。この場合には、記録主にとって預託財産の必要額が明確である。
【0053】
分散データベース50が預託財産の額を確認すると、確認された旨がデータ処理装置1に送信される(ステップS105)。次いで、データ処理装置1は、証明データを分散データベース50に格納する(ステップS106)。分散データベース50は証明データを格納し、格納が完了した旨の完了信号をデータ処理装置1に送信する(ステップS107)。完了信号を受領したデータ処理装置1は、1次性コードを発行し、記録主端末30に送信する(ステップS108)。また、1次性コードの発行と同時又は発行に次いで、参照情報を発行し、記録主端末30に送信する(ステップS109)。なお、参照情報の発行は、当該時点に限らず、記録主端末30からの命令に応じて、適宜のタイミングで行われてよい。
【0054】
●証明データを償却するフロー
図4に示すように、まず、記録主端末30からデータ処理装置1に償却命令が送信される(ステップS201)。次いで、データ処理装置1は記録主端末30に1次性コードの入力を要求する(ステップS202)。記録主端末30は、1次性コードの入力を受け付け、1次性コードをデータ処理装置1に送信する(ステップS203)。なお、ステップS201とステップS202は順不同であり、記録主端末30から償却命令と1次性コードが合わせて送信されてもよい。また、ステップS201およびステップS203は、買主端末40により行われてもよい。この場合、ステップS202は、買主端末40に対し行われる。さらに、ステップS201およびステップS203は、買主以外の者、例えば仲介者が操作する端末により行われ、当該端末に対しステップS203が実行されてもよい。
【0055】
データ処理装置1は、分散データベース50を参照し、償却命令に含まれる証明データに紐づけられるコードと入力された1次性コードとを照合する(ステップS204)。データ処理装置1は、1次性コードが一致する場合には、分散データベース50に償却情報を送信する(ステップS205)。償却情報には少なくとも、記録主端末30から送信された償却命令に含まれる証明データの識別情報、買主の識別情報、および償却する分量の情報を含む。償却情報を受信した分散データベース50は、受信した買主が保有する証明データにおいて償却情報に含まれる分量の償却を行う(ステップS206)。より具体的には、分散データベース50は、当該分量のステータスを「未償却」から「償却済」に変更する。ステータスの変更が完了した旨の情報は、分散データベース50からデータ処理装置1に送信される。
【0056】
データ処理装置1は、証明データに含まれるすべての分量が償却された場合に、預託財産の償還信号を分散データベース50に送信する(ステップS207)。分散データベース50は、当該証明データに対応付けられている預託財産を記録主端末30に償還する(ステップS208)。
【0057】
●預託を償還するフロー
図5では、預託の償還に関するデータ処理装置1の処理を説明する。
図5に示すように、データ処理装置1はまず償却命令を受信する(ステップS301)。また、1次性コードを受信する(ステップS302)。次いで、1次性コードを照合し(ステップS303)、償却命令に含まれる証明データの1次性コードと一致しない場合には、エラーを通知する(ステップS304)。
【0058】
ステップS303において1次性コードが一致する場合、償却命令に含まれる分量の償却が行われる(ステップS305)。次いで、証明データに含まれる全ての償却が完了しているかを判定し(ステップS306)、完了している場合には、預託財産の償還信号を分散データベース50に送信する(ステップS307)全ての償却が完了していない場合には、(ステップS306でN)預託財産の償還は行わず、処理を終了する。
【0059】
上述の通り、本発明にかかるデータ処理方法によれば、温室効果ガスの抑制に関する証書の管理に関し、高い信頼性を実現できる。ひいては、詐欺を恐れることなくカーボンオフセットに取り組みやすい環境を構築できる。そして、取引が促進および普及した結果、地球温暖化への対策に資するものとなる。
【符号の説明】
【0060】
1 データ処理装置
11 証明データ受信部
12 預託受信部
13 コード発行部
14 参照情報発行部
15 記録部
16 償却部
17 預託償還部
18 通信処理部
30 記録主端末
40 買主端末
50 分散データベース
【要約】 (修正有)
【課題】温室効果ガスの抑制に関する証書を管理する信頼性の高いデータ処理方法、装置及びコンピュータプログラムを提供する。
【解決手段】データ処理方法は、記録主端末30及び分散データベース50とネットワークNWで接続するデータ処理装置1が、温室効果ガスの削減量に関する証明データを記録主端末から受信する証明データ受信処理、証明データに対応付けて送信される記録主端末からの預託を受信する預託受信処理、証明データの格納請求及び格納請求に必要な預託処理を分散データベースに送信する通信処理、証明データの買主の情報を受け付け、買主の情報を証明データと対応付けて記録する記録処理、証明データの償却命令を受信した場合、償却されたことを示す償却情報を証明データに対応付けて分散データベースに格納する償却処理及び償却情報が格納されると、証明データに対応付けられている預託を、記録主端末に償還する預託償還処理を実行する。
【選択図】
図1