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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-06
(45)【発行日】2022-10-17
(54)【発明の名称】抗菌剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 43/16 20060101AFI20221007BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20221007BHJP
   A61K 31/7004 20060101ALI20221007BHJP
   A61K 31/7028 20060101ALI20221007BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20221007BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20221007BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20221007BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221007BHJP
【FI】
A01N43/16
A01P3/00
A61K31/7004
A61K31/7028
A61P1/02
A61P17/00 101
A61P31/04
A61P43/00 121
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021192239
(22)【出願日】2021-11-26
【審査請求日】2022-07-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591286270
【氏名又は名称】株式会社伏見製薬所
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹下 圭
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-89723(JP,A)
【文献】特開2018-70504(JP,A)
【文献】特表2000-507222(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A01P
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分として式(I):
【化1】
(式中、R1は炭素数1~4のアルキル基を示す)
で表わされるソルボシド化合物および式(II):
【化2】
で表わされるL-ソルボースを含有してなる抗菌剤。
【請求項2】
請求項1に記載の抗菌剤を含有してなる皮膚外用剤。
【請求項3】
請求項1に記載の抗菌剤を含有してなる防腐剤。
【請求項4】
請求項1に記載の抗菌剤を含有してなる口腔用剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌剤に関する。さらに詳しくは、本発明は、抗菌剤、当該抗菌剤を含有する皮膚外用剤、当該抗菌剤を含有する防腐剤、および当該抗菌剤を含有する口腔用剤に関する。
【0002】
本発明の抗菌剤は、顔ニキビ原因菌(アクネ菌など)、腋臭・加齢臭原因菌(コリネバクテリウムなど)、背中ニキビ・フケ原因菌(マラセチアなど)、口腔細菌(ミュータンス菌など)などの菌に対して抗菌(静菌)作用を示すことから、例えば、皮膚に対する抗菌剤などの皮膚外用剤、防臭剤などの化粧品、口腔用剤などの医薬品および医薬部外品、食品保存剤、切り花用吸水材などの用途に使用することが期待される。
【背景技術】
【0003】
化粧品、食品などの製品の保存時および使用時に細菌および真菌が生育することを抑制するために、当該製品には一般にパラベン、サリチル酸およびその塩、トリクロサンなどの抗菌剤が用いられている(例えば、特許文献1~3参照)。
【0004】
パラベンは、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ベンジルパラベンなどのパラオキシ安息香酸エステルであり、化粧品の殺菌剤、防腐剤などとして用いられている。しかし、パラベンは、ヒトによっては皮膚炎、アレルギー性湿疹などを引き起こすおそれがあるとともに、近年、内分泌攪乱作用を有するおそれがあると考えられていることから、その使用を控えることが望ましい(例えば、非特許文献1~3参照)。
【0005】
サリチル酸およびその塩は、殺菌力が高く、抗炎症作用および角質を溶解させて軟化させる作用を有することから殺菌剤として有効である。しかし、サリチル酸およびその塩は、ヒトの肌に対する刺激が強いため、皮膚に対してヒリヒリとする刺激を付与することがあるとともに、皮膚に紅斑が生じるおそれがある。
【0006】
トリクロサンは、一般細菌に対する殺菌力およびブドウ球菌などのグラム陽性菌に対する静菌力を有することから、抗菌性および抗真菌性に優れている。しかし、トリクロサンは、細菌に薬剤抵抗性を与えるおそれがあり、さらに内分泌攪乱物質である可能性があることから、パラベンと同様にその使用を控えることが望ましい。
【0007】
また、従来の抗菌剤のなかには皮膚に対する刺激性を呈し、アレルギー性を示すおそれがある抗菌剤が含まれていることから、近年、刺激性が低く、人体に対する安全性が高く、抗菌(静菌)性に優れている抗菌剤の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2012-024520号公報
【文献】特開2015-218147号公報
【文献】特開2015-224244号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】Darbre et al., J. Appl. Toxicol., 28, 561-578
【文献】城武 昇一ら、「フレグランスジャーナル」10, 26-35, 2013
【文献】東京衛研年報 Ann. Rep. Tokyo Metr. Res. Lab. P.H., 53, 265-267, 2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、ヒトの皮膚に対する刺激性が低く、人体に対する安全性が高く、抗菌(静菌)性に優れている抗菌剤、当該抗菌剤を含有する皮膚外用剤、当該抗菌剤を含有する防腐剤、および当該抗菌剤を含有する口腔用剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、
(1)有効成分として式(I):
【0012】
【化1】
【0013】
(式中、R1は炭素数1~4のアルキル基を示す)
で表わされるソルボシド化合物および式(II):
【0014】
【化2】
【0015】
で表わされるソルボース化合物
を含有してなる抗菌剤、
(2) 前記(1)に記載の抗菌剤を含有してなる皮膚外用剤、
(3) 前記(1)に記載の抗菌剤を含有してなる防腐剤、および
(4) 前記(1)に記載の抗菌剤を含有してなる口腔用剤
に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ヒトの皮膚に対する刺激性が低く、人体に対する安全性が高く、抗菌(静菌)性に優れている抗菌剤、当該抗菌剤を含有する皮膚外用剤、当該抗菌剤を含有する防腐剤、および当該抗菌剤を含有する口腔用剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実験例2で抗菌剤を用いて菌の生育度の経時変化を調べた結果を示すグラフである。
図2】実験例5で培養液中の菌を培養した後の培地の外観を示す図面代用写真である。
図3】実験例6で培養液中の菌を培養した後の培地の外観を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の抗菌剤は、前記したように、有効成分として式(I):
【0019】
【化3】
【0020】
(式中、R1は炭素数1~4のアルキル基を示す)
で表わされるソルボシド化合物(以下、単にソルボシド化合物という)および式(II):
【0021】
【化4】
【0022】
で表わされるソルボース化合物(以下、単にソルボース化合物という)
を含有する。
【0023】
本発明においてはソルボシド化合物およびソルボース化合物が併用されている点に特徴があり、ソルボシド化合物およびソルボース化合物が併用されているので、両者併用の相乗効果により、抗菌性に優れている。したがって、本発明の抗菌剤は、例えば、皮膚外用剤、防腐剤、口腔用剤、化粧料、医薬部外品などの用途に使用することが期待される。
【0024】
糖には種々の種類があり、その代表的なものとして、D-グルコース、D-マンノース、D-ガラクトースなどが挙げられる。本発明者の研究によれば、これらの糖にアルコールを結合させたO-グリコシドが微生物の生育に与える影響を調べたところ、これらの糖では有意な抗菌作用が示されなかったのに対し、ソルボースにアルコールを結合させたソルボシドでは有意な抗菌作用が示されることが確認されている。
【0025】
メチル-L-ソルボシドなどのソルボシド化合物は、食用に供されているトロピカルフルーツに含まれている化合物であることから人体に対する安全性が高く、皮膚に対する刺激性が低く、アレルギー性も低いと考えられている。
【0026】
ソルボース化合物は、ソルボシド化合物と同様に、人体に対する安全性が高いと考えられており、皮膚に対する刺激性が低く、またアレルギー性も低いと考えられている。
【0027】
したがって、本発明の抗菌剤は、有効成分としてソルボシド化合物およびソルボース化合物が用いられているので、ヒトの皮膚に対する刺激性が低く、人体に対する安全性が高いという利点を有する。
【0028】
ソルボシド化合物は、例えば、インドウオトリギ(学名:Grewia asiatica)などのトロピカルフルーツから抽出することによって得ることができるほか、合成によって得ることができる。トロピカルフルーツに含まれているソルボシド化合物としては、例えば、メチル-L-ソルボシドなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0029】
ソルボシド化合物を合成によって得る場合、原料として、例えば、L-ソルボース、D-ソルボースなどのソルボースを用いることができる。これらのソルボースは、いずれも商業的に容易に入手することができる。ソルボースのなかでは、ヒトの皮膚に対する刺激性が低く、人体に対する安全性が高く、抗菌(静菌)性に優れていることから、L-ソルボースが好ましい。
【0030】
原料としてソルボースを用いる場合、当該ソルボースとアルコールとを反応させることにより、ソルボシド化合物を得ることができる。
【0031】
前記アルコールは、式(I)に示されている-OR1(式中、R1は前記と同じ)で表わされるアルコキシ基を形成するものである。前記アルコールとして、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、2-ブタノールなどの炭素数が1~4の1価の脂肪族アルコールなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。前記アルコールには、本発明の目的が阻害されない範囲内で、例えば、水、酢酸エチルなどのアルコール以外の溶媒が含まれていてもよい。
【0032】
ソルボースとアルコールとを反応させる際、ソルボースとアルコールとが化学量論的に等モル比で反応するが、ソルボースを効率よくグリコシド化させることによってソルボシド化合物を得る観点から、アルコールの量は、ソルボースに対して過剰量であることが好ましく、ソルボース100gあたりのアルコールの量は、300~2000mL程度であることがより好ましい。
【0033】
ソルボースとアルコールとの反応は、例えば、ソルボースとアルコールとを混合することによって容易に行なうことができる。ソルボースとアルコールとの反応温度は、特に限定されず、通常、好ましくは0~120℃、より好ましくは10~110℃、さらに好ましくは15~100℃である。
【0034】
なお、原料のソルボースは、アルコールに対して難溶性を呈するのに対し、生成するソルボシド化合物は、アルコールに対して可溶性を呈する。したがって、ソルボースの量が減少することは、ソルボースが、その量が減少した分だけアルコールと反応し、ソルボシド化合物が生成していることを示唆するものと考えられる。したがって、ソルボシド化合物の生成は、ソルボースの量の減少によって容易に把握することができる。ソルボースとアルコールとの反応の終点は、ソルボースの量がほとんど減少しなくなった時点とすることができる。なお、ソルボシド化合物が生成していることは、例えば、1H-NMR(核磁気共鳴)による分析、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)による分析などによって確認することができる。
【0035】
ソルボースとアルコールとを反応させる際には、両者の反応を促進させるために、酸触媒を用いることが好ましい。酸触媒としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、過塩素酸などの無機酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、フルオロスルホン酸などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。ソルボース100質量部あたりの酸触媒の量は、0.01~20質量部程度であることが好ましい。酸触媒は、アルコールにあらかじめ添加しておいてもよく、ソルボースとアルコールの混合物に添加してもよい。
【0036】
以上のようにしてソルボースとアルコールとを反応させることにより、式(I)で表わされるソルボシド化合物を含有する反応溶液を得ることができる。
【0037】
前記反応溶液は、生成したソルボシド化合物を含有するアルコール溶液である。前記反応溶液は、そのままの状態で用いることができるが、必要により、当該反応溶液からアルコールおよび酸触媒を常法で除去することによって精製してもよく、副生するアルキル-L-ソルボシドの異性体を除去し、ソルボシド化合物の純度を高めるために、クロマトグラフィーによって前記反応溶液からソルボシド化合物を分離してもよい。
【0038】
式(I)において、R1は、炭素数1~4のアルキル基である。アルキル基のなかでは、種々の菌に対する抗菌性に優れていることから、炭素数2~4のアルキル基が好ましく、炭素数が2または3のアルキル基がより好ましく、プロピル基がさらに好ましい。また、R1のなかでは、アクネ菌、コリネバクテリウム、トリコフィトンなどの菌に対して特異的に抗菌性に優れており、皮膚を保護する性質を有する常在菌に対して抗菌性をほとんど呈さず、常在菌による皮膚のバリア機能を高める観点からメチル基およびエチル基が好ましい。
【0039】
ソルボースとアルコールとを反応させることによってソルボシド化合物を調製した場合、ソルボシド化合物は、アルコールとの混合溶液として得られる。当該混合溶液は、そのままの状態で用いることができるが、必要により、当該混合溶液からアルコールおよび酸触媒を常法で除去することにより、精製してもよい。
【0040】
ソルボシド化合物は、種々の菌に対する抗菌性に優れていることから、式(I)において、R1が炭素数1~4のアルキル基であるアルキルソルボシドであるが、R1が炭素数1~4のアルキル基であるアルキル-L-ソルボシドが好ましく、R1が炭素数2~4のアルキル基であるアルキル-L-ソルボシドがより好ましく、R1が炭素数2または3のアルキル基であるアルキル-L-ソルボシドがより一層好ましく、1-プロピル-L-ソルボシドおよび2-プロピル-L-ソルボシドがさらに好ましく、2-プロピル-L-ソルボシドがさらに一層好ましい。また、ソルボシド化合物のなかでは、アクネ菌、コリネバクテリウム、トリコフィトンなどの菌に対して特異的に抗菌性に優れており、皮膚を保護する性質を有する常在菌に対して抗菌性をほとんど呈さず、常在菌による皮膚のバリア機能を高める観点から、メチル-L-ソルボシドおよびエチル-L-ソルボシドが好ましい。
【0041】
メチル-L-ソルボシドなどのソルボシド化合物は、一般的に人体に対する毒性が低いといわれている糖質であることから人体に対する安全性が高いのみならず、人体に対する安全性が高いソルボースとアルコールとの縮合体であり、当該縮合体は、酸、酵素などによって容易に分解され、分解されると元の安全性の高いソルボースに戻るという性質を有するとともに、刺激性が極めて低いという性質を有する。
【0042】
ソルボシド化合物は、安価で供給が安定しているソルボースを原料として容易に合成することができるので、安定して供給することができる。ソルボシド化合物が呈する静菌効果は、病原性菌に対して強いが、常在菌などの病原性菌以外の菌に対して弱いので、ヒトの皮膚の表面でバリア機能を形成している細菌叢を壊さず、悪玉菌を選択的に抑制するという特異的な抗菌性を有する。
【0043】
本発明においてはソルボシド化合物とともにソルボース化合物が用いられている。ソルボース化合物としては、例えば、L-ソルボース、D-ソルボースなどのソルボースを用いることができる。これらのソルボースは、いずれも商業的に容易に入手することができる。ソルボースのなかでは、ヒトの皮膚に対する刺激性が低く、人体に対する安全性が高く、抗菌(静菌)性に優れていることから、L-ソルボースが好ましい。
【0044】
ソルボシド化合物とソルボース化合物との質量比(ソルボシド化合物/ソルボース化合物)は、両者併用による相乗効果として抗菌性を高める観点から、好ましくは10/90~90/10、より好ましくは、20/80~80/20、さらに好ましくは30/70~70/30、さらに一層好ましくは40/60~40/60である。
【0045】
本発明の抗菌剤におけるソルボシド化合物とソルボース化合物との合計含有率は、当該抗菌剤の用途などによって異なるので一概には決定することができないことから、その用途などに応じて適宜決定することが好ましい。抗菌剤におけるソルボシド化合物とソルボース化合物との合計含有率は、通常、1~100質量%であり、例えば、化粧品などの皮膚外用剤、口腔用剤、医薬品、医薬部外品などの用途に用いる場合には、0.5~1.0質量%程度であっても優れた抗菌性を化粧品などの皮膚外用剤などに付与することができる。
【0046】
本発明の抗菌剤は、有効成分としてソルボシド化合物およびソルボース化合物が用いられているので、前記した種々の優れた性質を有し、ヒトの皮膚に対して低刺激性を有し、抗菌作用および人体に対する安全性に優れている。
【0047】
また、本発明の抗菌剤は、有効成分としてソルボシド化合物およびソルボース化合物が併用されているので、両者併用による相乗作用として、例えば、顔ニキビ原因菌(アクネ菌など)、背中ニキビ・フケ原因菌(マラセチアなど)、腋臭・加齢臭原因菌(コリネバクテリウムなど)、口腔細菌(ミュータンス菌など)などの菌に対して優れた抗菌(静菌)作用を示す。
【0048】
したがって、本発明の抗菌剤は、化粧品などの皮膚外用剤、防腐剤、含嗽薬などの口腔用剤、医薬品、医薬部外品、食品保存剤、切り花用吸水材などの種々の用途に使用することが期待される。前記化粧品としては、例えば、ニキビ予防用ローション、防臭スプレー、保湿用パッド、保湿クリーム、フケ症改善用ヘアトニック、肌荒れ予防用お尻拭きシート、褥瘡の悪化防止介護用シートなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0049】
また、本発明の抗菌剤に用いられるソルボシド化合物およびソルボース化合物は、常温で水溶性を有することから、例えば、イオン交換水などの精製水に溶解させ、得られたソルボシド化合物の水溶液を抗菌剤として用いることができる。
【0050】
なお、本発明の抗菌剤には、本発明の目的を阻害しない範囲内で、例えば、安定化剤、pH調整剤、保存剤、分散剤、界面活性剤、着色剤、香料などの添加剤が含まれていてもよい。
【0051】
本発明の抗菌剤の剤型としては、例えば、液体、クリーム、ゲル、固体などの剤型で用いることができるが、本発明は、当該剤型の種類によって限定されるものではない。
【実施例
【0052】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0053】
調製例1
L-ソルボース〔ナカライテスク(株)製〕5.0g、酸触媒として10%塩酸1滴(約0.3mL)およびメタノール50mLを500mL容のフラスコ内に入れ、15~100℃の温度で10時間撹拌することにより、L-ソルボースとメタノールとを反応させ、式(I)において、R1がメチル基であるソルボシド化合物のメタノール溶液を得た。
【0054】
次に、前記で得られたメタノール溶液に含まれている不純物および副生物を除去するために、クロマトグラフィーにより、当該メタノール溶液からソルボシド化合物を分離し、当該ソルボシド化合物を回収した。
【0055】
前記で得られたソルボシド化合物が、式(I)においてR1がメチル基であるソルボシド化合物(メチル-L-ソルボシド)であることは、1H-NMRによる分析およびHPLCによる分析によって確認した。
【0056】
前記で得られたソルボシド化合物のメタノール溶液からメタノールおよび酸触媒(塩酸)を留去した後、イオン交換水に溶解させることにより、30%ソルボシド化合物水溶液を調製した。
【0057】
前記で得られたソルボシド化合物水溶液にさらに脱色、脱塩およびクロマトグラフィーによる分離を行ない、得られたソルボシド化合物を乾燥させてソルボシド化合物を回収した。
【0058】
調製例2
調製例1において、メタノール50mLの代わりにエタノール50mLを用いたこと以外は、調製例1と同様の操作を行なうことによりソルボシド化合物を得た。なお、得られたソルボシド化合物が、式(I)においてR1がエチル基であるソルボシド化合物(エチル-L-ソルボシド)であることは、1H-NMRによる分析およびHPLCによる分析によって確認した。
【0059】
実施例1~3
調製例1で得られたソルボシド化合物とL-ソルボースとを表1に示す量比で混合することにより、抗菌剤を調製した。
【0060】
比較例1
抗菌剤として、L-ソルボースのみを使用した。
【0061】
比較例2
抗菌剤として、調製例1で得られたソルボシド化合物のみを用いた。
【0062】
次に、前記で得られた抗菌剤を用いて以下の抗菌性の評価方法に基づいて抗菌性を評価した。その結果を表1に示す。
【0063】
実験例1
抗菌剤の抗菌性として抗菌剤を使用したときの菌の生育度および抗菌剤による菌の生育阻害性を以下の方法に基づいて評価した。
【0064】
〔抗菌性の評価方法〕
抗菌剤をイオン交換水に溶解させ、抗菌剤の含有率が15質量%である水性抗菌剤を調製した。
【0065】
ペプトン1質量%およびD-グルコース0.5質量%を含有する水性培地15mLを分注した直径18mmの試験管内に前記で得られた水性抗菌剤1mLを添加した後、コリネバクテリウム〔Corynebacterium striatum NBRC15291(加齢臭原因菌)〕を一白金耳の量で接種し、28~36℃の培養温度で振盪しながら培養した。
【0066】
(1)菌の生育度
菌の生育度は、濁度法によって求めた。より具体的には、コリネバクテリウムを48時間培養した後、可視分光光度計(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、商品名:SPECTRONIC200)を用い、波長600nmにて吸光度を測定し、当該吸光度の値を菌の生育度の指標とした。その結果を表1に示す。なお、菌の生育度が低くなるにしたがって吸光度が低くなる。
【0067】
(2)菌の生育阻害性
前記菌の生育度の測定方法に準じて波長600nmにおける吸光度を測定し、式:
[菌の生育阻害率(%)]
=100-{[抗菌剤を添加したときの吸光度]÷[抗菌剤が添加されていないときの吸光度]×100
に基づいて菌の生育阻害率を求めた。
【0068】
菌の生育度および菌の生育阻害性を調べた結果を表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
表1に示された結果から、各実施例で得られた抗菌剤による菌の生育度は、抗菌剤が添加されていないとき(参考例)の菌の生育度と対比して菌の生育度が格段に低いことから、菌の繁殖を抑制する効果に優れていることがわかる。また、各実施例では、ソルボシド化合物とL-ソルボースとが併用されていることから、L-ソルボースが単独で使用されている場合(比較例1)およびソルボシド化合物が単独で使用されている場合(比較例2)と対比して、菌の生育度が有意に低いことから、ソルボシド化合物とL-ソルボースとの併用により、菌の繁殖を抑制する効果が高められることがわかる。
【0071】
また、各実施例では、ソルボシド化合物とL-ソルボースとが併用されていることから、L-ソルボースが単独で使用されている場合(比較例1)およびソルボシド化合物が単独で使用されている場合(比較例2)と対比して、菌の生育阻害率が顕著に高いことから、各実施例で得られた抗菌剤は、ソルボシド化合物とL-ソルボースとの併用により、加齢臭原因菌の生育阻害効果に顕著に優れていることがわかる。
【0072】
実験例2
実施例3、比較例1および比較例2で得られた各抗菌剤を用い、各抗菌剤をそれぞれイオン交換水に溶解させ、抗菌剤の含有率が0.5質量%である水性抗菌剤を調製した。
【0073】
前記で得られた水性抗菌剤を用いて菌の生育度を実験例1と同様にして測定し、当該菌の培養時間を変更したときの生育度の経時変化を調べた。その結果を図1に示す。図1は、抗菌剤を用いて菌の生育度の経時変化を調べた結果を示すグラフである。
【0074】
なお、図1において、記号Aは実施例3で得られた抗菌剤を用いたときの菌の生育度の経時変化、記号Bは比較例1で得られた抗菌剤を用いたときの菌の生育度の経時変化、記号Cは比較例2で得られた抗菌剤を用いたときの菌の生育度の経時変化、記号Xは抗菌剤を使用しなかったときの菌の生育度の経時変化を示す。
【0075】
図1に示された結果から、実施例3で得られた抗菌剤による菌の生育度(図中の符合A)は、ソルボシド化合物が単独で使用されている場合(図中の符合B)およびL-ソルボースが単独で使用されている場合(図中の符号C)と対比して経時的に顕著に低いことから、実施例3で得られた抗菌剤は、ソルボシド化合物とL-ソルボースとの併用により、加齢臭原因菌の生育の抑止効果の持続性に顕著に優れていることがわかる。
【0076】
実験例3
実施例3および比較例2で得られた各抗菌剤を用い、各抗菌剤をそれぞれイオン交換水に溶解させ、抗菌剤の含有率が0.5質量%または1.0質量%である水性抗菌剤を調製した。
【0077】
実験例1において、菌株としてコリネバクテリウムの代わりにクチバクテリウム〔Cutibacterium acnes NBRC107605(アクネ菌)〕を用い、酸素濃度が1%未満である嫌気培養装置を用いて37℃で培養したこと以外は実験例1と同様の操作で、前記で得られた水性抗菌剤を用いたときの菌の生育度を測定し、当該菌の培養時間を変更したときの生育度の経時変化を調べた。その結果を表2に示す。
【0078】
【表2】
【0079】
表2に示された結果から、実施例3で得られた抗菌剤による菌の生育度は、比較例2のソルボシド化合物が単独で使用されている場合と対比して経時的に顕著に低いことから、実施例3で得られた抗菌剤は、ソルボシド化合物とL-ソルボースとの併用により、アクネ菌の生育の抑止効果の持続性に顕著に優れていることがわかる。
【0080】
実施例4
調製例2で得られたソルボシド化合物とL-ソルボースとを60/40の質量比(ソルボシド化合物/L-ソルボース)で混合することにより、抗菌剤を調製した。
【0081】
実験例4
実施例4で得られた抗菌剤および比較例2で得られた抗菌剤を用い、各抗菌剤をそれぞれイオン交換水に溶解させ、抗菌剤の含有率が0.5質量%である水性抗菌剤を調製した。
【0082】
次に、実験例3と同様の操作を行なうことにより、前記で得られた水性抗菌剤を用いたときの菌の生育度を測定し、当該菌の培養時間を変更したときの生育度の経時変化を調べた。また、参考例として、抗菌剤を使用しなかったときの生育度の経時変化を調べた。それらの結果を表3に示す。
【0083】
【表3】
【0084】
表3に示された結果から、実施例4で得られた抗菌剤による菌の生育度は、比較例2のソルボシド化合物が単独で使用されている場合と対比して経時的に顕著に低いことから、実施例4で得られた抗菌剤は、ソルボシド化合物とL-ソルボースとの併用により、アクネ菌の生育の抑止効果の持続性に顕著に優れていることがわかる。
【0085】
実験例5
実施例3で得られた抗菌剤および比較例2で得られた抗菌剤を用い、各抗菌剤をそれぞれイオン交換水に溶解させ、抗菌剤の含有率が1質量%である水性抗菌剤を調製した。
【0086】
ペプトン1質量%およびD-グルコース0.5質量%を含有する水性培地15mLを分注した直径18mmの試験管内に前記で得られた水性抗菌剤1mLを添加した後、クチバクテリウム〔Cutibacterium acnes NBRC107605(アクネ菌)〕を一白金耳の量で接種し、当該試験管を酸素濃度が1%未満である嫌気培養装置内で30℃の培養温度で48時間静置培養した。
【0087】
次に、試験管内の培養液を適宜希釈し、シャーレ内の寒天培地に播種した後、前記と同様にして酸素濃度が1%未満である嫌気培養装置内で30℃の培養温度で48時間静置培養した。その後、各シャーレを嫌気培養装置から取り出し、培地の外観を観察した。また、参考のため、抗菌剤を使用しなかったときの培地の外観も観察した。それらの結果を図2に示す。図2は、培養液中の菌を培養した後の培地の外観を示す図面代用写真である。
【0088】
図2において、(A)は抗菌剤を使用しなかったときの培地の外観、(B)は比較例2で得られた抗菌剤を使用したときの培地の外観、(C)は実施例3で得られた抗菌剤を使用したときの培地の外観を示す。
【0089】
図2に示された結果から、実施例3で得られた抗菌剤を使用した場合には、培地にコロニーが殆ど見受けられないのに対し、比較例2で得られた抗菌剤を使用した場合には、培地にコロニーが存在していることが見受けられ、抗菌剤を使用しなかった場合には、培地に多数のコロニーが存在していることがわかる。これらのことから、実施例3で得られた抗菌剤は、ソルボシド化合物とL-ソルボースとの併用により、アクネ菌(ニキビ悪化要因菌)を効果的に静菌していることがわかる。
【0090】
実験例6
実施例3で得られた抗菌剤および比較例2で得られた抗菌剤を用い、各抗菌剤をそれぞれイオン交換水に溶解させ、抗菌剤の含有率が1質量%である水性抗菌剤を調製した。
【0091】
ペプトン1質量%およびD-グルコース0.5質量%を含有する水性培地15mLを分注した直径18mmの試験管内に前記で得られた水性抗菌剤1mLを添加した後、コリネバクテリウム〔Corynebacterium striatum NBRC15291(加齢臭原因菌)〕を一白金耳の量で接種し、当該試験管を空気中で30℃の培養温度で48時間静置培養した。
【0092】
次に、試験管内の培養液を適宜希釈し、シャーレ内の寒天培地に播種した後、前記と同様にして酸素濃度が1%未満である嫌気培養装置内で30℃の培養温度で48時間静置培養した。その後、各シャーレを嫌気培養装置から取り出し、培地の外観を観察した。また、参考のため、抗菌剤を使用しなかったときの培地の外観も観察した。それらの結果を図3に示す。図3は、培養液中の菌を培養した後の培地の外観を示す図面代用写真である。
【0093】
図3において、(A)は抗菌剤を使用しなかったときの培地の外観、(B)は比較例2で得られた抗菌剤を使用したときの培地の外観、(C)は実施例3で得られた抗菌剤を使用したときの培地の外観を示す。
【0094】
図3に示された結果から、実施例3で得られた抗菌剤を使用した場合には、培地にコロニーが殆ど見受けられないのに対し、比較例2で得られた抗菌剤を使用した場合には、培地にコロニーが存在していることが見受けられ、抗菌剤を使用しなかった場合には、培地に多数のコロニーが存在していることがわかる。これらのことから、実施例3で得られた抗菌剤は、ソルボシド化合物とL-ソルボースとの併用により、コリネバクテリウムを効果的に静菌していることがわかる。
【0095】
実験例7
実施例2で得られた抗菌剤および実施例4で得られた抗菌剤を用い、各抗菌剤をそれぞれイオン交換水に溶解させ、抗菌剤の含有率が0.5質量%、1.0質量%、2.0質量%または3.0質量%である水性抗菌剤を調製した。
【0096】
ペプトン1質量%およびD-グルコース0.5質量%を含有する水性培地15mLを分注した直径18mmの試験管内に前記で得られた水性抗菌剤1mLを添加した後、表4に示すいずれかの菌を一白金耳の量で接種した。培養に供した菌体の種類によっては、好気性、嫌気性、最適培養温度、最適pH領域などが異なるが、当該培養では、各菌体に最も適した条件で当該菌体を48時間培養した。なお、培養時には、培養温度を28~36℃に設定し、好気性菌は振盪器で回転速度150rpmにて振盪し、嫌気性菌は樹脂製容器内に脱酸素剤〔三菱ガス化学(株)製、商品名:アネロパック〕を入れて静置培養した。
【0097】
次に、菌を培養した後の水性培地を目視にて観察し、以下の評価基準に基づいて各菌株に対する生育阻害効果を評価した。その結果を表4に示す。
【0098】
[評価基準]
A:菌の生育がほとんど認められないことから菌の生育阻害効果に優れている。
B:菌の生育の阻害効果が僅かに認められる。
C:菌の生育の阻害効果がやや認められる
D:菌の生育の阻害効果が認められない。
【0099】
【表4】
【0100】
表4に示された結果から、実施例2で得られた抗菌剤を用いた場合および実施例4で得られた抗菌剤を1.0質量%までの濃度で使用した場合には、種々存在する菌株の中で特定の菌株に対して選択的に抗菌作用を付与することができることがわかる。このことから、メチル-L-ソルボシドが含まれている抗菌剤を用いた場合およびエチル-L-ソルボシドが含まれている抗菌剤を低濃度で用いた場合には、菌種に応じて選択的に抗菌性を付与することができるという利点があることがわかる。
【0101】
また、実施例4で得られたエチル-L-ソルボシドが含まれている抗菌剤を2.0質量%以上の濃度で使用した場合には、当該抗菌剤は、幅広い菌種に対して抗菌性を付与することがわかる。このことから、エチル-L-ソルボシドが含まれている抗菌剤は、その濃度を高めることにより、汎用的な防腐剤として利用することができることがわかる。
【0102】
実験例8
各実施例で得られた抗菌剤を用い、前記と同様にしてプロピオニバクテリウム(ニキビ菌)、コリネバクテリウム(加齢臭原因菌)、ミュータンス菌(虫歯菌)に対する抗菌性として菌の生育度および菌の育成阻害性を前記と同様にして調べた。その結果、各実施例で得られた抗菌剤は、いずれも、抗菌スペクトルが異なるが、プロピオニバクテリウム(ニキビ菌)、コリネバクテリウム(加齢臭原因菌)、トリコフィトン(水虫菌)、ミュータンス菌(虫歯菌)などの菌体に対し、強力な生育阻害作用を有するという、他の抗菌剤では見られない特異的効果が奏されることが確認された。この効果は、ソルボースではまったく発現されなかったことから、当該ソルボースから予期することができない顕著に優れた斬新な効果であることが確認された。
【0103】
また、一般に、生育の阻害(抗菌)作用は、滅菌、殺菌、静菌などに分けられるが、本発明の抗菌剤を用いた場合には、多くの菌が培養の初期で抑制されるが、長時間の培養により、最終的に菌が生育していた。このことから、本発明の抗菌剤を用いることにより、菌の生育が遅延されることから、抗菌の種類は静菌に帰属するものであることが認められた。
【0104】
以上の結果から、本発明の抗菌剤は、ソルボシド化合物とL-ソルボースとが併用されていることから、ヒトの皮膚に対して低刺激性を有し、抗菌性および人体に対する安全性に優れており、例えば、顔ニキビ原因菌(アクネ菌など)、背中ニキビ・フケ原因菌(マラセチアなど)、腋臭・加齢臭原因菌(コリネバクテリウムなど)、口腔細菌などの菌に対して抗菌(静菌)作用を示すことから、皮膚に対する抗菌剤、防臭剤などの化粧品などの皮膚外用剤、防腐剤、口腔用剤、医薬品、医薬品および医薬部外品をはじめ、食品、樹脂フィルム、コーティング剤などの用途に使用することが期待される。
【要約】      (修正有)
【課題】ヒトの皮膚に対する刺激性が低く、人体に対する安全性が高く、抗菌(静菌)性に優れていることから、皮膚に対する抗菌剤、防臭剤などの化粧品などの皮膚外用剤、口腔用剤、医薬品、医薬品および医薬部外品をはじめ、食品、樹脂フィルム、コーティング剤などの用途に使用することが期待される抗菌剤、当該抗菌剤を含有する皮膚外用剤、当該抗菌剤を含有する防腐剤、および当該抗菌剤を含有する口腔用剤を提供する。
【解決手段】抗菌剤は、有効成分として式(I):

(式中、R1は炭素数1~4のアルキル基を示す)で表わされるソルボシド化合物およびL-ソルボースを含有する。
【選択図】なし
図1
図2
図3