(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-06
(45)【発行日】2022-10-17
(54)【発明の名称】電子制御装置
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20221007BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20221007BHJP
【FI】
H05K9/00 D
B29C45/14
(21)【出願番号】P 2018132880
(22)【出願日】2018-07-13
【審査請求日】2020-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】窪田 千恵美
(72)【発明者】
【氏名】荒井 聡
(72)【発明者】
【氏名】棚瀬 智和
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 正史
(72)【発明者】
【氏名】南部 宙
【審査官】梅本 章子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-159800(JP,A)
【文献】特開昭60-018997(JP,A)
【文献】特開2001-207062(JP,A)
【文献】特開2002-141690(JP,A)
【文献】特開平06-077687(JP,A)
【文献】特開平10-022671(JP,A)
【文献】実開平05-001291(JP,U)
【文献】特開2000-286587(JP,A)
【文献】特開平09-283962(JP,A)
【文献】実開昭61-162096(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
B29C 45/14
H05K 5/00 - 5/06
H05K 7/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コネクタまたは電子部品のうちの少なくとも何れか一方が実装された回路基板と、
前記回路基板を収納し、ウェルド部が形成された樹脂筐体と、
前記ウェルド部の少なくとも一部と接触しつつ前記樹脂筐体と接触するように設けられ、かつ平面視で前記ウェルド部
を覆うように配置された導電性部材と、
を有し、
前記樹脂筐体は、導電性フィラーを含有する樹脂によって形成され、
前記樹脂筐体の表面に前記樹脂筐体の射出成形時のゲート跡が形成され、
前記導電性部材は、前記導電性フィラーが所定の一方向に沿って配向している前記ウェルド部の領域と、前記導電性フィラーがランダムな方向に配向している非ウェルド部の領域と、に接触するように配置され
、かつ、前記樹脂筐体の前記表面と反対側の内側の面に配置されている、電子制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電子制御装置において、
前記導電性部材は、金属メッシュ、金属繊維フィルム、カーボンフィルムまたはカーボン繊維フィルムの何れかである、電子制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の電子制御装置において、
前記回路基板は、表層に形成されたグランドパターンを有し、
前記樹脂筐体の少なくとも一部は、前記グランドパターンと接触して電気的に接続されている、電子制御装置。
【請求項4】
請求項
3に記載の電子制御装置において、
前記回路基板は、周縁部の表面および裏面に形成されたグランドパターンを有し、
前記樹脂筐体の少なくとも一部は、前記表面および前記裏面のそれぞれの前記グランドパターンと接触して電気的に接続されている、電子制御装置。
【請求項5】
請求項
3に記載の電子制御装置において、
前記樹脂筐体は、2つの凹状の筐体の嵌合によって形成され、嵌合部に前記回路基板が挟まれている、電子制御装置。
【請求項6】
請求項
5に記載の電子制御装置において、
前記樹脂筐体は、前記嵌合部を有し、
前記樹脂筐体の少なくとも一部は、前記嵌合部において導電性緩衝部材を介して前記グランドパターンと電気的に接続されている、電子制御装置。
【請求項7】
請求項1に記載の電子制御装置において、
前記樹脂筐体は、前記樹脂筐体と一体成形された壁部を有し、
前記壁部は、前記樹脂筐体を形成する樹脂と同一の樹脂からなる、電子制御装置。
【請求項8】
請求項
7に記載の電子制御装置において、
前記回路基板に前記コネクタおよび前記電子部品が実装され、
前記壁部は、前記コネクタと前記電子部品とを隔てる位置に配置されている、電子制御装置。
【請求項9】
請求項
7に記載の電子制御装置において、
前記壁部は、前記回路基板に形成されたグランドパターンと少なくとも一部が接触して電気的に接続されており、
前記壁部と前記グランドパターンとは、導電性緩衝部材を介して接触している、電子制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両などの制御を行う電子制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本技術分野の背景技術として、特開2012-229345号公報(特許文献1)がある。この公報には、(A)炭素繊維、(B)金属繊維および(C)熱可塑性樹脂を含む成形材料を成形してなる成形品が記載されている。そして、(A)炭素繊維と(B)金属繊維の重量比が(B)/(A)=1/5~1/25であり、成形品における(A)炭素繊維の重量平均繊維長が0.3mmを超え、(A)炭素繊維の重量平均繊維長/(B)金属繊維の重量平均繊維長が1/2~1/6であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電子制御装置を自動車や建設機械、鉄道車両などに搭載する場合、電子制御装置の小型化、軽量化が求められる。そこで、制御基板を収納する筐体を金属から樹脂製にして軽量化することが行われるが、制御基板への電磁的障害を防止するため、制御基板の電磁波シールドが必要になる。樹脂筐体に電磁波シールド性を付与する方法としては、めっき、塗装、蒸着などの表面処理により、樹脂筐体の表面に金属膜を形成することが知られている。
【0005】
しかし、上記のように金属膜の形成により電磁波シールド性を付与する場合には、樹脂成形などにより筐体を形成した後に、更に金属膜形成のための処理を行わなければならず、製造工程が煩雑化すると共に製造コストも増大する恐れがある。
【0006】
なお、樹脂成形により筐体を形成すると同時に電磁波シールド性を付与する方法として、例えば特許文献1に、樹脂材料中に導電性フィラーを混合して形成する成形品が開示されている。
【0007】
また、特許文献1では成形体(成形品)を射出成形機を用いて得ることが開示されているが、導電性フィラー、特に繊維状の導電性フィラーを含有した樹脂材料を射出成形した場合、金型内で溶融樹脂が合流する部分に発生するウェルド部(ウェルドライン)において、導電性フィラーの配向状態が変化し、電磁波の遮蔽性能が低下するという課題がある。
【0008】
本発明の目的は、電子制御装置における電磁波遮蔽性能を高めることができる技術を提供することにある。
【0009】
本発明の前記の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願において開示される実施の形態のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0011】
一実施の形態における電子制御装置は、上記の課題を鑑みてなされたものであり、コネクタまたは電子部品のうちの少なくとも何れか一方が実装された回路基板と、上記回路基板を収納し、ウェルド部が形成された樹脂筐体と、上記樹脂筐体と接触するように設けられた導電性部材と、を有する。さらに、上記樹脂筐体は、導電性フィラーを含有する樹脂によって形成され、上記導電性部材は、上記ウェルド部の少なくとも一部と接触し、かつ平面視で上記ウェルド部と重なるように配置されている。
【発明の効果】
【0012】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
【0013】
電子制御装置の電磁波遮蔽性能を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施の形態1における電子制御装置の樹脂筐体の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図1に示すA部の樹脂の配向状態の一例を示す模式図である。
【
図3】
図1に示すB部の樹脂の配向状態の一例を示す模式図である。
【
図4】
図1に示す樹脂筐体の構造の一例を示す断面図である。
【
図5】本発明の実施の形態1の電子制御装置の構造の一例を示す斜視図である。
【
図6】
図5に示す電子制御装置のA-A線に沿って切断した構造の一例を示す断面図である。
【
図7】
図6に示す筐体嵌合部の構造の一例を示す部分拡大断面図である。
【
図8】本発明の実施の形態1における射出成形金型の構造の一例を模式的に示す断面図である。
【
図9】本発明の実施の形態2の電子制御装置の筐体嵌合部の構造の一例を示す部分拡大断面図である。
【
図10】本発明の実施の形態3の電子制御装置の筐体嵌合部の構造の一例を示す部分拡大断面図である。
【
図11】本発明の実施の形態4における電子制御装置の樹脂筐体の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図12】本発明の実施の形態4の電子制御装置の構造の一例を示す斜視図である。
【
図13】
図12に示す電子制御装置のB-B線に沿って切断した構造の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。図面では、機能的に同じ要素は同じ番号で表示される場合もある。なお、図面は本発明の原理に則った具体的な実施の形態と実施例を示しているが、これらは本発明の理解のためのものであり、決して本発明を限定的に解釈するために用いられるものではない。
【0016】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1の電子制御装置について、
図1~
図7を用いて説明する。
図1は本発明の実施の形態1における電子制御装置の樹脂筐体の一例を模式的に示す斜視図、
図2は
図1に示すA部の樹脂の配向状態の一例を示す模式図、
図3は
図1に示すB部の樹脂の配向状態の一例を示す模式図である。また、
図4は
図1に示す樹脂筐体の構造の一例を示す断面図、
図5は本発明の実施の形態1の電子制御装置の構造の一例を示す斜視図、
図6は
図5に示す電子制御装置のA-A線に沿って切断した構造の一例を示す断面図、
図7は
図6に示す筐体嵌合部の構造の一例を示す部分拡大断面図である。
【0017】
本実施の形態における電子制御装置は、例えば、自動車、建設機械もしくは鉄道車両などに搭載されるものであり、主に、エンジンの制御、自動運転制御などを行うものである。
【0018】
図1に示されるように、実施の形態1における電子制御装置30(
図5参照)は、蓋型の上部筐体1と下部筐体2とからなる樹脂筐体3の内部に制御基板(回路基板)6が収納されたものである。
図4~
図6に示されるように、制御基板6は凹状の上部筐体1と凹状の下部筐体2との間に配置され、上部筐体1と下部筐体2とによって挟み込まれて支持されている。すなわち、上部筐体1および下部筐体2のそれぞれの一部が、
図6に示す嵌合部10において制御基板6を挟み込んでおり、嵌合部10において樹脂筐体3と制御基板6とが接触している。ここで、制御基板6には、コネクタ18および電子部品のうちの少なくとも何れか一方が実装されているが、実施の形態1では、制御基板6にコネクタ18と電子部品の両方が実装されている場合を説明する。また、実施の形態1では、上記電子部品の一例として、比較的ノイズを出し易いIC(Integrated Circuit)チップ21や電源IC22が実装されている場合を取り上げて説明する。なお、樹脂筐体3において制御基板6が収納される内側の面を内面、露出する外側の面を表面と記載する。
【0019】
図1~
図4に示されるように、実施の形態1に係る樹脂筐体3を構成する上部筐体1と下部筐体2のそれぞれは、樹脂を材料として射出成形で形成されるものである。詳細には、上部筐体1および下部筐体2のそれぞれは、導電性フィラー3bを含む熱可塑性樹脂を射出成形金型にを用いて射出成形することにより得られる。つまり、上部筐体1および下部筐体2のそれぞれは、導電性を有した筐体である。
【0020】
熱可塑性樹脂としては、適宜のものが用いられるが、例えばPBT樹脂(ポリブチレンテレフタレート樹脂)などの熱可塑性樹脂と、カーボンファイバーや金属繊維のような導電性フィラー3bとを含有するものを用いることができる。熱可塑性樹脂中の導電性フィラー3bの含有量は適宜調整されるが、20~50質量%の範囲とすることが好ましい。熱可塑性樹脂や導電性フィラー3bの種類は上記のものに限られず、適宜のものを用いることができる。
【0021】
また、上部筐体1と下部筐体2のそれぞれの表面には、後述する
図8に示す射出成形時の2つのゲート14のそれぞれの跡であるゲート跡5が2つ形成され、さらにその2つのゲート跡5の間にウェルド部3aが形成されている。なお、ウェルド部3aは、上部筐体1と下部筐体2の両者に形成されている。
【0022】
ウェルド部3aは、射出成形時に、溶融された樹脂が金型内に流れ込み合流する部分で発生するものであり、ウェルドラインなどとも呼ばれている。ウェルド部3aにおいては、導電性フィラー3bの配向状態がウェルド部3aの周辺部の配向状態とは異なっている。
図2は、ウェルド部3aではない領域、すなわち、ウェルド部3aの周辺部の領域における導電性フィラー3bの配向状態を示しており、複数の繊維状の導電性フィラー3bが種々の方向を向いてランダムに配置された状態となっている。
【0023】
一方、
図3は、ウェルド部3aにおける導電性フィラー3bの配向状態を示しており、複数の繊維状の導電性フィラー3bが同一方向を向いてライン上に配置された状態となっている。
【0024】
図2に示すウェルド部3aではない箇所の配向状態の場合、複数の繊維状の導電性フィラー3bが種々の方向を向いてランダムに配置されているため、隣接する導電性フィラー間に隙間ができにくく、ノイズが通りにくい。
【0025】
一方、
図3に示すウェルド部3aの配向状態の場合、複数の繊維状の導電性フィラー3bがライン上に同一方向を向いて配置されているため、隣接する導電性フィラー間に隙間ができ易く、ノイズが通り易い。したがって、樹脂筐体3においてウェルド部3aが形成されていると、樹脂筐体3のノイズ(電磁波)の遮蔽性能が低下する。
【0026】
そこで、実施の形態1の樹脂筐体3では、樹脂筐体3のウェルド部3aの少なくとも一部と接触するように導電性部材4が配置され、さらに導電性部材4が平面視でウェルド部3aと重なるように配置されている。つまり、上部筐体1および下部筐体2のそれぞれには、
図4および
図6に示されるように、射出成形により形成した際に発生するウェルド部3aを含む部分に導電性部材4がウェルド部3aに接触するように配置されている。ウェルド部3aは筐体の内側の面である内面および外側の面である表面の両面にライン上に発生するが、導電性部材4は射出成形時のゲート14(
図8参照)と反対側の内側の面、つまり、樹脂筐体3のゲート跡5が形成される表面と反対側の内面に配置される。
【0027】
導電性部材4としては、ステンレス、銅、Niなどの金属からなるメッシュ(金属メッシュ)、または金属めっきした繊維からなるフィルム(金属繊維フィルム)、もしくはカーボンフィルムやカーボン繊維フィルムなどが好適に用いられる。また、車載部品において考慮する電磁波帯域によりメッシュサイズを選ぶことができる。例えば、30GHzまでの遮蔽が必要な場合は、1cm以下の開口部を有するメッシュを用いればよい。これらの繊維状またはメッシュ状の導電性部材4は、射出成形時に射出成形金型23にセットして成形するインサート成形を採用することで、繊維やメッシュ間に樹脂が入り込み、射出成形と同時に樹脂と導電性部材4を接合することが可能である。このように導電性部材4を樹脂筐体3の内面に配置し、さらに導電性部材4として繊維状またはメッシュ状の部材を用いてインサート成形を行うことにより、射出成形後の導電性部材4の接合工程を省くことができ、電子制御装置30の組立て工程の簡略化を図ることができる。なお、導電性部材4としては上記のものに限られず、金属の板や箔を用いてもよい。
【0028】
ここで、
図1に示す上部筐体1および下部筐体2のそれぞれで発生するウェルド部3aは、樹脂筐体3の平面方向をXYとすると、
図3に示すように導電性フィラー3bの繊維がXY平面の一方向(例えば、Y方向)に配向する。繊維の配向方向は、ゲート位置および樹脂の流動方向に応じて変化するが、ウェルド部3aでは一方向に配向する。その際、導電性部材4はこのウェルド部3aを含む部分においてウェルド部3aに接触するように配置されるが、例えば、導電性フィラー3bがY方向に沿って配向しているウェルド部3aの領域から、XY方向にランダム配向している領域(ウェルド部3aではない領域)に接触するような大きさ(面積)で導電性部材4を配置することが望ましい。
【0029】
言い換えると、導電性部材4を配置する領域として、樹脂筐体3のウェルド部3aとその周囲の領域(ウェルド部3aではない領域)とに跨がった領域に導電性部材4が接触するように配置することが望ましい。この場合、導電性部材4の大きさをウェルド部3aとその周囲を含む範囲において最小限に留めることができ、かつ電磁波遮蔽性能を高めることが可能となる。これにより、電子制御装置30の電磁波遮蔽性能を高めることができるとともに、さらに電子制御装置30の製造コスト(直材費)の低減化を図ることも可能である。ただし、導電性部材4の大きさは上記のものに限られず、適宜のものを用いることができる。例えば、
図1に示すウェルド部3aを含む樹脂筐体3の内面の平坦部全面に導電性部材4を配置してもよい。
【0030】
あるいは電磁波遮蔽の効果は少なくなるものの、導電性部材4を樹脂筐体3のウェルド部3aの一部と接触するように配置してもよく、この場合には、導電性部材4の大きさを更に小さくすることができる。
【0031】
また、導電性部材4の配置形態を他の表現で述べると、導電性部材4は、ウェルド部3aを覆うように樹脂筐体3に配置されていてもよい。この時、「ウェルド部3aを覆う」とは、平面視で、導電性部材4がウェルド部3aの少なくとも一部分と重なるように配置されることを表す。あるいは、導電性部材4がウェルド部3aの少なくとも一部分と積層されることを表す。
【0032】
次に、樹脂筐体3において上部筐体1と下部筐体2とが嵌合する嵌合部10について説明する。
【0033】
図7に示されるように、制御基板6には、その外周部の表層にグランドパターン7がレイアウト(配置)されており、このグランドパターン7は上部筐体1および下部筐体2のそれぞれの一部と接触して電気的に接続されている。すなわち、制御基板6は、その外周部(周縁部)の表面と裏面とにグランドパターン7が形成されており、表面のグランドパターン7が上部筐体1の一部と接触し、かつ裏面のグランドパターン7が下部筐体2の一部と接触しており、それぞれの筐体が制御基板6のグランドパターン7と電気的に接続されている。このように樹脂筐体3と制御基板6のグランドパターン7とを電気的に接続することにより、筐体の表面の電荷をグランドパターン7に流すことができ、静電気放電や気中放電を防止することが可能になる。
【0034】
なお、上部筐体1と下部筐体2とは、例えばスナップフィット構造により嵌合される。嵌合部10において、下部筐体2に設けられた嵌合用の係止部8(爪部)を上部筐体1に形成された嵌合用の穴部9に差し込むことで、上部筐体1と下部筐体2を固定する。ここでは、
図7に示すような嵌合用の穴部9を用いた場合を取り上げたが、嵌合用の溝であってもよい。
【0035】
次に、
図8を用いて射出成形用の金型(射出成形金型23とも呼ぶ)について説明する。
図8は本発明の実施の形態1における射出成形金型の構造の一例を模式的に示す断面図である。
【0036】
射出成形金型23としては、
図8に示すように、
図1の上部筐体1および下部筐体2と同一形状の空間(キャビティ11)が内部に形成されるものが用いられる。射出成形金型23は、固定側金型12と可動側金型13とからなり、溶融された樹脂は、固定側金型12に設けられたゲート14を通してキャビティ11に充填される。
【0037】
上部筐体1の成形方法に関して、
図8を用いて説明する。固定側金型12と可動側金型13が開いた状態で、可動側金型13のウェルド部3a(
図1参照)が形成される箇所に導電性部材4を設置する。次に可動側金型13を固定側金型12に移動させる(型閉めと呼ぶ)。
【0038】
型閉め後に固定側金型12に設けられたゲート14を開き、溶融された熱可塑性樹脂材料を射出・充填する。熱可塑性樹脂を充填後、適正な冷却・固化時間を経て、可動側金型13を開き、成形品を取り出す。上記したように、この射出成形プロセスにおいて、可動側金型13に設置された導電性部材4がメッシュ状や繊維状の素材の場合は、溶融された熱可塑性樹脂がメッシュや繊維間に入り込み、成形と同時に導電性部材4を上部筐体に1に接合することができる。導電性部材4として金属の板や箔を用いる場合にも、金属表面にレーザや化学エッチングにより微細な穴や溝を設けることで、射出成形と同時に導電性部材4を上部筐体に1に接合することが可能である。
【0039】
導電性部材4を設置する箇所は、熱可塑性樹脂の流動解析や導電性部材4を設置せずに成形を行うことでウェルド部3aおよび熱可塑性樹脂中の導電性フィラー3bの配向状態を確認し、その結果、適正な箇所を決定する。
【0040】
導電性部材4を配置した上部筐体1の成形方法に関しては、上記の射出成形プロセスによる導電性部材4の接合に限られず、上部筐体1の成形後に導電性部材4を接着剤で接合するなど、適宜のものを用いることができる。また、下部筐体2に関しても、上部筐体1と同様の方法で得ることができる。
【0041】
以上のように、本実施の形態1では、コネクタ18、およびICチップ21や電源IC22などの電子部品が実装された制御基板6を収納する熱可塑性樹脂製の樹脂筐体3を備えた電子制御装置30において、熱可塑性樹脂中に導電性フィラー3bを含有し、かつ樹脂筐体3のウェルド部3aの少なくとも一部が導電性部材4と接触し、かつ平面視でウェルド部3aと重なるように配置されている。これにより、樹脂筐体3にウェルド部3aが形成されていてもウェルド部3aにおける電磁波(ノイズ)の通り抜けを導電性部材4によって阻止することができ、遮蔽性能の高い電子制御装置30を得ることができる。
【0042】
また、射出成形と同時に導電性部材4を樹脂筐体3に接合することで、製造工程を増加することなく、遮蔽性能の高い電子制御装置30を得ることができる。
【0043】
また、制御基板6の外周部の表層にグランドパターン7を設け、樹脂筐体3と接触させることで、筐体の表面の電荷をグランドパターン7に流すことができ、静電気放電や気中防止することができる。すなわち、静電放電耐性が高い電子制御装置30を得ることができる。
【0044】
(実施の形態2)
実施の形態2は、電磁波の遮蔽性能に加えて、防水性を考慮した筐体構造に関するものである。実施の形態2について、
図9を用いて説明する。
図9は本発明の実施の形態2の電子制御装置の筐体嵌合部の構造の一例を示す部分拡大断面図である。
【0045】
実施の形態2における電子制御装置30は、実施の形態1と同様に、蓋型の上部筐体1と下部筐体2とからなる樹脂筐体3の内部に制御基板6が収納され、さらに制御基板6は上部筐体1と下部筐体2との間に配置され、その一部は接触している。また、上部筐体1および下部筐体2には、射出成形により形成した際に発生するウェルド部3aを含む部分に導電性部材4が配置されている。
【0046】
図9の拡大断面図に示されるように、実施の形態2の制御基板6は、実施の形態1と同様に外周部の表層にグランドパターン7がレイアウトされており、このグランドパターン7は上部筐体1および下部筐体2とそれぞれ接触している。また、下部筐体2に配置された嵌合用の係止部8を上部筐体1の穴部9に差し込むことで、上部筐体1と制御基板6と下部筐体2とを固定する。
【0047】
実施の形態2では、上部筐体1と下部筐体2とが接する部分にラビリンス構造15を設けている。
図9に示されるように、嵌合用の係止部8の内側に凹凸形状を設けることで、実施の形態1の構造と比較して水の浸入経路を長くすることができ、基板収納部に水が入ることを防止できる。
【0048】
ここで、導電性部材4の材質、配置箇所、大きさについては、実施の形態1と同様のものを使用することが可能であり、上部筐体1および下部筐体2の成形方法も実施の形態1と同様の方法により成形される。
【0049】
以上の構成により、樹脂筐体3のウェルド部3aにおける電磁波遮蔽性能を高めることができるとともに、防水性能の高い電子制御装置30を得ることができる。
【0050】
(実施の形態3)
実施の形態3は電磁波遮蔽性能に加えて、防水性および耐振性を考慮した筐体構造に関するものである。実施の形態3の構造について、
図10を用いて説明する。
図10は本発明の実施の形態3の電子制御装置の筐体嵌合部の構造の一例を示す部分拡大断面図である。
【0051】
実施の形態3における電子制御装置30は、実施の形態1と同様に、蓋型の上部筐体1と下部筐体2とからなる樹脂筐体3の内部に制御基板6が収納され、制御基板6は上部筐体1と下部筐体2との間に配置され、制御基板6の一部は上部筐体1と下部筐体2とに接触している。また、上部筐体1および下部筐体2のそれぞれには、射出成形により形成した際に発生するウェルド部3aを含む部分に導電性部材4が配置されている。
【0052】
図10の拡大断面図に示されるように、実施の形態3の制御基板6は、実施の形態1と同様に外周部の表層にグランドパターン7がレイアウトされており、このグランドパターン7は導電性弾性体(導電性緩衝部材)16を介して上部筐体1および下部筐体2のそれぞれと接触している。すなわち、上部筐体1と下部筐体2のそれぞれの一部が、制御基板6の外周部の表層に形成されたグランドパターン7と導電性弾性体16を介して電気的に接続されている。なお、下部筐体2に配置された嵌合用の係止部8を上部筐体1に形成された嵌合用の穴部9に差し込むことで、上部筐体1と制御基板6と下部筐体2とを固定する。
【0053】
グランドパターン7と樹脂筐体3とを導電性弾性体16を介して接続することで、樹脂筐体3に振動がかかる場合に、導電性弾性体16が振動を吸収し、制御基板6に振動や応力がかかることを防止することができる。
【0054】
導電性弾性体16としては、銀、金、銅、亜鉛、錫、鉛、タングステン、アルミニウム、ニッケル、鉄などの単体や、半田、真鍮、ステンレス、洋白などの合金から成る金属粉体、金属繊維、もしくはカーボンブラック、カーボン繊維を含有した高分子弾性体が用いられる。高分子弾性体は、シリコーンゴム、ブタジエンゴム、ウレタンゴムなどが用いられる。
【0055】
導電性弾性体16は、樹脂筐体3の嵌合部(筐体周方向)の少なくとも一部に使用すればよいが、耐振性、防水性の面からは周方向全体に配置することが望ましい。
【0056】
ここで、導電性部材4の材質、配置箇所、大きさについては、実施の形態1と同様のものを使用することが可能であり、上部筐体1および下部筐体2の成形方法も実施の形態1と同様の方法により成形される。
【0057】
以上の構成により、ウェルド部3aの電磁波遮蔽性能を高めることができるとともに、防水性能および耐振性の高い電子制御装置30を得ることができる。
【0058】
(実施の形態4)
実施の形態4は、コネクタ経由の電磁波侵入・放出を考慮した電子制御装置に関するものである。本実施の形態4について、
図11~
図13を用いて説明する。
図11は本発明の実施の形態4における電子制御装置の樹脂筐体の一例を模式的に示す斜視図、
図12は本発明の実施の形態4の電子制御装置の構造の一例を示す斜視図、
図13は
図12に示す電子制御装置のB-B線に沿って切断した構造の一例を示す断面図である。
【0059】
実施の形態4における電子制御装置30は、実施の形態1と同様に、蓋型の上部筐体1と下部筐体2とからなる樹脂筐体3の内部に制御基板6が収納され、制御基板6は上部筐体1と下部筐体2との間に配置され、制御基板6の一部は上部筐体1と下部筐体2とに接触している。また、上部筐体1および下部筐体2には、射出成形により形成した際に発生するウェルド部3aを含む部分に導電性部材4が配置されている。
【0060】
図11および
図13に示されるように、実施の形態4の上部筐体1および下部筐体2には筐体と同じ材質からなる隔壁(壁部)17が設けられている。すなわち、樹脂筐体3は、この樹脂筐体3を形成する樹脂と同一の樹脂からなり、かつ樹脂筐体3と一体成形された隔壁(壁部)17を有している。隔壁17は、コネクタ18を制御基板6上の電子部品から隔てるように配置されている。言い換えると、隔壁17は、コネクタ18と、制御基板6上に実装されたICチップ21や電源IC22などの電子部品とを隔てる位置に配置されている。
【0061】
隔壁17は、隔壁17および樹脂筐体3と同一形状のキャビティ11を有する金型を用いることで、射出成形により同一の樹脂材料で一体に成形することができる。樹脂筐体3と一体成形で形成する隔壁17とすることで、金属のシールドケースを用いる場合と比較して、工程および部品点数を削減することができる。
【0062】
隔壁17は、
図13に示されるように、制御基板6の表面と裏面に設けられたグランドパターン19と導電性弾性体20を介して接触して電気的に接続されている。隔壁17を、制御基板6のグランドパターン19と電気的に接続することで、電荷による気中放電、静電放電への耐性を強化することができる。また、隔壁17のグランドパターン19との接続部は、導電性弾性体(導電性緩衝部材)20によって接続されている。導電性弾性体20を介して隔壁17と制御基板6とが接続されていることで、筐体にかかる応力や振動を緩和し、制御基板6に振動や応力がかかることを防止することができる。
【0063】
導電性弾性体20としては、実施の形態3と同様に金属粉体、金属繊維、カーボンブラック、カーボン繊維を含有した高分子弾性体(シリコーンゴム、ブタジエンゴム、ウレタンゴムなど)を用いることができる。
【0064】
実施の形態4の構造によれば、コネクタ18と電子部品との間に隔壁17が配置されたことで、コネクタ18からの電磁波侵入・放出を防止することができる。
【0065】
実施の形態4では、コネクタ18からの電磁波侵入・放出を防止する構成について記載したが、電磁波放出が大きい電子部品を囲むように隔壁17を設ける構成とすることが望ましい。
【0066】
ここで、導電性部材4の材質、配置箇所、大きさについては、実施の形態1と同様のものを使用することが可能であり、上部筐体1および下部筐体2の成形方法も実施の形態1と同様の方法により成形される。
【0067】
以上の構成により、ウェルド部3aの電磁波遮蔽性能を高めることができるとともに、コネクタ18からの電磁波侵入・放出を防止可能な電子制御装置30を得ることができる。
【0068】
以上、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施の形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【0069】
また、ある実施の形態の構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施の形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。また、各実施の形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることが可能である。なお、図面に記載した各部材や相対的なサイズは、本発明を分かりやすく説明するため簡素化・理想化しており、実装上はより複雑な形状となる。
【0070】
例えば、上部筐体や下部筐体の射出成形において、これらを成形する射出成形金型にゲートが2つ設けられている場合を説明したが、設置されるゲートの数は、2つ以外の数であってもよい。
【符号の説明】
【0071】
1 上部筐体
2 下部筐体
3 樹脂筐体
3a ウェルド部
3b 導電性フィラー
4 導電性部材
5 ゲート跡
6 制御基板(回路基板)
7 グランドパターン
8 係止部
9 穴部
10 嵌合部
11 キャビティ
12 固定側金型
13 可動側金型
14 ゲート
15 ラビリンス構造
16 導電性弾性体(導電性緩衝部材)
17 隔壁(壁部)
18 コネクタ
19 グランドパターン
20 導電性弾性体(導電性緩衝部材)
21 ICチップ(電子部品)
22 電源IC(電子部品)
23 射出成形金型
30 電子制御装置