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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-06
(45)【発行日】2022-10-17
(54)【発明の名称】線材係止装置及び線材係止方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/094 20160101AFI20221007BHJP
   H01F 41/04 20060101ALI20221007BHJP
   B65H 54/70 20060101ALI20221007BHJP
   B65H 54/02 20060101ALI20221007BHJP
   B65H 54/10 20060101ALI20221007BHJP
【FI】
H01F41/094
H01F41/04 F
B65H54/70 Z
B65H54/02 Z
B65H54/10
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019009895
(22)【出願日】2019-01-24
(65)【公開番号】P2020119998
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000227537
【氏名又は名称】NITTOKU株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121234
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 利明
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 重信
【審査官】古河 雅輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-11108(JP,A)
【文献】特開2007-12991(JP,A)
【文献】特開2013-144595(JP,A)
【文献】特開2004-105666(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00-21/02
B65H 54/00-54/88
B65H 59/00-59/40
H01F 41/00-41/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定片(16)と、前記固定片(16)に対して相対移動可能に設けられた可動片(17)と、前記可動片(17)を前記固定片(16)に対して相対移動させる移動手段(39)とを備えた線材係止装置であって、
前記固定片(16)又は前記可動片(17)のいずれか一方に複数の係止ピン(16a)が前記可動片(17)の移動方向に直交する方向に並んで設けられ、
前記固定片(16)に対する前記可動片(17)の相対移動により前記複数の係止ピン(16a)の間に進入し又は離間する1又は2以上の挿脱ピン(17b)が前記固定片(16)又は前記可動片(17)のいずれか他方に設けられた
ことを特徴とする線材係止装置。
【請求項2】
固定片(16)に対する可動片(17)の相対移動方向に平行な軸を中心に回転可能に設けられた回転体(13)と、前記回転体(13)を回転させる回転手段(23)とを更に備え、
前記回転体(13)に固定片(16)及び可動片(17)が設けられた請求項1記載の線材係止装置。
【請求項3】
回転体(13)に可動片(17)を移動させる操作軸(18)が前記回転体(13)の回転中心軸に挿通して設けられ、移動手段(39)は前記操作軸(18)を介して前記可動片(17)を相対移動させるように構成された請求項2記載の線材係止装置。
【請求項4】
移動手段(39)が、可動片(17)を固定片(16)に対して一方の方向に付勢する付勢手段(26)と、前記付勢手段(26)の付勢力に抗して前記可動片(17)を他方の方向に移動させる駆動装置(40)とを備えた請求項1ないし3いずれか1項に記載の線材係止装置。
【請求項5】
駆動装置(40)が、可動片(17)を移動可能なカム(41)と、前記カム(41)を任意の位置に変位させるモータ(42)とを備えた請求項4記載の線材係止装置。
【請求項6】
固定片(16)と、前記固定片(16)に対して相対移動可能に設けられた可動片(17)と、前記固定片(16)又は前記可動片(17)のいずれか一方に前記可動片(17)の移動方向に直交する方向に並んで設けられた複数の係止ピン(16a)と、前記固定片(16)又は前記可動片(17)のいずれか他方に設けられ前記固定片(16)に対する前記可動片(17)の相対移動により前記複数の係止ピン(16a)の間に進入し又は離間する1又は2以上の挿脱ピン(17b)とを備えた線材係止装置(10)を用いた線材係止方法であって、
前記係止ピン(16a)と前記係止ピン(16a)から離間した前記挿脱ピン(17b)との間に線材(9)を挿通させ、
固定片(16)に対して前記可動片(17)を相対移動させて前記線材(9)を前記複数の係止ピン(16a)と前記複数の係止ピン(16a)の間に進入する1又は2以上の挿脱ピン(17b)に掛け回して係止し、
前記複数の係止ピン(16a)の間に進入する前記1又は2以上の挿脱ピン(17b)の進入の程度を変化させて前記複数の係止ピン(16a)及び前記1又は2以上の挿脱ピン(17b)に前記線材(9)が係止する力を変更させる
ことを特徴とする線材係止方法。
【請求項7】
線材係止装置(10)が、固定片(16)に対して可動片(17)を相対移動可能なカム(41)と、前記カム(41)を任意の位置に変位させるモータ(42)とを更に備え、
前記モータ(42)による前記カム(41)の変位量によって複数の係止ピン(16a)の間に進入する1又は2以上の挿脱ピン(17b)の進入の程度を変化させる請求項6記載の線材係止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湾曲や屈曲が自在な線材を係止させる線材係止装置及び線材係止方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、湾曲や屈曲が自在な線材を巻回する巻線装置などに主に用いられ、その線材を把持して引き回すために使用される線材係止装置では、互いに接近して間に存在する線材を把持する一対の把持片と、一対の把持片を互いに接近して閉じる方向に付勢するスプリングと、そのスプリングの付勢力に抗して一対の把持片を離間させて開せる駆動装置である流体圧シリンダとを備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-331860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、近年の巻線装置においては、巻回する線材の引き回しや、その処理まで行う様なものも開発されるに至っている。従って、このような巻線装置などに使用される線材係止装置では、線材を一対の把持片により把持して、その一対の把持片に対する線材の移動を禁止し、その一対の把持片をそれらが把持する線材と共に移動させて、それに把持された線材を引き回す他に、一対の把持片により線材を比較的弱い力で把持して、その一対の把持片に対する線材の移動を許容し、線材の移動を許容しつつ一対の把持片を移動させて、それに把持された線材を一対の把持片の間で滑らせながら引き延ばすようなことも要求されるに至った。
【0005】
しかし、流体圧シリンダにより一対の把持片を離間させて開き、その間に線材を挿入し、その後に流体圧シリンダを解除して、スプリングにより一対の把持片を互いに接近させて閉じて、その一対の把持片により線材を把持させる従来の線材係止装置では、線材を把持する把持力の調整が、バネ定数の異なるスプリングに取り替えなければ変化させることができず、その変更調整が困難となる不具合があった。
【0006】
また、流体圧シリンダに給排する流体の圧力を調整して、一対の把持片により線材を把持する把持力を調整することも考えられるが、線材が比較的細い被覆銅線のようなものである場合、その線材を一対の把持片により把持させた状態で、その一対の把持片に対する線材の移動を許容させようとすると、断線を回避するために、その把持力は著しく小さい値としなければならない。
【0007】
けれども、一対の把持片により線材を比較的弱い力で把持させるために、流体圧シリンダに給排する流体の圧力を調整しようとすると、微妙な圧力の調整が必要となり、その流体圧の調整を精密に行うこと自体が困難であって、微妙な把持力の調整は不可能であった。仮に可能であったとしても、迅速に流体圧の調整を行うこと自体が困難で、素早い把持力の調整は不可能であるという、いまだ解決すべき課題が残存することになる。
【0008】
本発明の目的は、比較的細い線材であっても、断線させることなくそれが係止する力を迅速に調整し得る線材係止装置及び線材係止方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、固定片と、その固定片に対して相対移動可能に設けられた可動片と、その可動片を固定片に対して相対移動させる移動手段とを備えた線材係止装置の改良である。
【0010】
その特徴有る構成は、固定片又は可動片のいずれか一方に複数の係止ピンが可動片の移動方向に直交する方向に並んで設けられ、固定片に対する可動片の相対移動により複数の係止ピンの間に進入し又は離間する1又は2以上の挿脱ピンが固定片又は可動片のいずれか他方に設けられたところにある。
【0011】
この線材係止装置では、固定片に対する可動片の相対移動方向に平行な軸を中心に回転可能に設けられた回転体と、回転体を回転させる回転手段とを更に備える場合、その回転体に固定片と可動片を設けることが好ましく、その回転体に可動片を移動させる操作軸が回転体の回転中心軸に挿通して設けられ、移動手段は操作軸を介して可動片を相対移動させるように構成されたことが更に好ましい。
【0012】
また、移動手段は、可動片を固定片に対して一方の方向に付勢する付勢手段と、付勢手段の付勢力に抗して可動片を他方の方向に移動させる駆動装置とを備えることが好ましく、この場合の駆動装置は、可動片を移動可能なカムと、カムを任意の位置に変位させるモータとを備えることができる。
【0013】
別の本発明は、固定片と、固定片に対して相対移動可能に設けられた可動片と、固定片又は可動片のいずれか一方に可動片の移動方向に直交する方向に並んで設けられた複数の係止ピンと、固定片又は可動片のいずれか他方に設けられ固定片に対する可動片の相対移動により複数の係止ピンの間に進入し又は離間する1又は2以上の挿脱ピンとを備えた線材係止装置を用いた線材係止方法である。
【0014】
その特徴有る点は、係止ピンと係止ピンから離間した挿脱ピンとの間に線材を挿通させ、固定片に対して可動片を相対移動させて線材を複数の係止ピンと複数の係止ピンの間に進入する1又は2以上の挿脱ピンに掛け回して係止し、複数の係止ピンの間に進入する1又は2以上の挿脱ピンの進入の程度を変化させて複数の係止ピン及び1又は2以上の挿脱ピンに線材が係止する力を変更させるところにある。
【0015】
線材係止装置が、固定片に対して可動片を相対移動可能なカムと、そのカムを任意の位置に変位させるモータとを更に備える場合、この線材係止方法では、そのモータによるカムの変位量によって複数の係止ピンの間に進入する1又は2以上の挿脱ピンの進入の程度を変化させることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の線材係止装置では、固定片又は可動片のいずれか一方に係止ピンを設け、いずれか他方に挿脱ピンを設けたので、係止ピンと係止ピンから離間した挿脱ピンとの間に線材を挿通させ、固定片に対して可動片を相対移動させて線材を複数の係止ピンと複数の係止ピンの間に進入する1又は2以上の挿脱ピンに掛け回すことにより、その線材の長手方向への移動を困難として、その線材を係止ピンと挿脱ピンに係止させることができる。
【0017】
係止ピン及び挿脱ピンが線材を係止する力は、それらの間の生じる摩擦力で有るために、線材の係止ピン又は挿脱ピンへの接触の程度により異なり、その接触の程度は線材の掛け回される角度などにより変化することになる。このため、本発明の線材係止装置及び線材係止方法では、複数の係止ピンの間に進入する1又は2以上の挿脱ピンの進入の程度を変化させることにより、複数の係止ピン及び1又は2以上の挿脱ピンに線材が係止する力を変更させることができる。
【0018】
すると、係止ピンの間に進入する挿脱ピンの進入の程度を減少させて、係止力を低下させることにより線材の長手方向の移動は許容され、線材を係止ピンと挿脱ピンに掛け回した状態で滑らせながら引き延ばすようなことが可能になる。
【0019】
このように、本発明は、線材を把持せず、係止ピンの間に進入する挿脱ピンの進入の程度を変化させることにより、係止ピンと挿脱ピンに掛け回された線材の係止力の調整を行うので、比較的細い線材であっても、断線させることなく、線材の係止力を迅速に調整し得る線材係止装置及び線材係止方法となる。
【0020】
そして、複数の係止ピンの間への挿脱ピンの進入をカムにより行い、そのカムをモータにより任意の位置にまで変位可能にすれば、モータがカムの変位量を変更調整するように制御するだけで、係止ピン及び挿脱ピンが線材との間に生じさせる係止力を無段階であってかつ容易に変化させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の線材係止装置を示す上面図である。
図2】その線材係止装置の正面図である。
図3図1のA-A線断面図である。
図4図1のB-B線断面図である。
図5図2のC-C線断面図である。
図6】その係止ピンと挿脱ピンの間に線材が挿通された状態を示す図3の拡大図に対応する図である。
図7】その係止ピンに挿脱ピンが僅かに進入して線材が係止された状態を示す図6に対応する図である。
図8】その係止ピンに挿脱ピンが更に進入して線材が比較的強く係止された状態を示す図7に対応する図である。
図9】その線材係止装置が係止した線材を引き回す状態を示す図である。
図10】別の係止ピンと挿脱ピンの関係を示す図8に対応する図である。
図11】更に別の係止ピンと挿脱ピンの関係を示す図8に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【0023】
図1図3に示すように、本発明の線材係止装置10は、例えば、比較的細い線材9(図1)を巻回する巻線装置等において、線材9を係止して保持するため、又はその線材9を引き延ばすために用いられるものであり、その図示しない巻線装置等に取り付ける為の取付板11が備えられる。この取付板11には、図示しない巻線装置等に取付けるための複数の取付孔11a(図3)が形成される。
【0024】
取付板11にはブロック状の基台12が取付けられ、この基台12には、円筒状の回転体13が貫通して設けられる。円筒状の回転体13は、その中心軸を中心に回転可能にベアリング14(図3)を介して基台12に設けられ、基台12の一方の端部から突出する回転体13には、棒状の固定片16が回転体13の回転中心軸に平行に成るようにその基端が取付けられる。
【0025】
具体的に、回転体13の端部周囲には固定片16の基端を包囲する取付具15が取付けられる。図における取付具15は、固定片16を離脱可能に取付けるものであって、図4に詳しく示すように、回転体13の一方の端部に取付けられて回転体13の回転中心軸に平行な凹溝15bが形成された取付具本体15aと、その凹溝15bを塞ぐように取付具本体15aにネジ止めわれた蓋板15cとを有するものを示す。
【0026】
図3に示すように、取付具本体15aには、凹溝15bに直交する挿通孔15dが形成され、その挿通孔15dに対応する固定片16の基端には雌ねじ孔16bが形成される。そして、固定片16の基端が凹溝15bに進入して挿通孔15dに雌ねじ孔16bを対向させた状態で、挿通孔15dに挿通させた雄ねじ15eを雌ねじ孔16bに螺合することにより、凹溝15bに進入させた固定片16の基端を取付具15に固定させる。このようにして、回転体13の一端に、取付具15を介して棒状の固定片16が回転体13の回転中心軸に平行に成るように取付けられる。
【0027】
図1及び図4に示す様に、この固定片16には略同等の大きさの棒状の可動片17が重合し、その可動片17の基端は凹溝15bに移動可能に挿入される。これにより可動片17は固定片16に重合した状態で、その固定片16に対して長手方向、即ち、回転体13の回転中心軸に平行に相対移動可能に設けられる。
【0028】
図1図3に示すように、円筒状の回転体13には、その回転中心軸上に操作軸18が貫通して設けられ、回転体13の一方の端部から突出する操作軸18には、可動片17に係止する係止片19が取付けられる。この実施の形態における係止片19は周方向に溝19aが連続して形成されたリング状物であって、図4に示すように、可動片17には、この溝19aに進入する係合ピン17aが設けられる。
【0029】
図5に詳しく示すように、取付具15における蓋板15cには係合ピン17aが挿通する長孔15fが操作軸18に平行に形成され、その取付具15には、可動片17が操作軸18の長手方向と同一方向に移動可能に設けられるので、係合ピン17aが操作軸18の一端に取付けられた係止片19における溝19aに進入すると、可動片17の操作軸18と別に独立した移動は不能と成り、操作軸18と共に可動片17は固定片16に対して相対移動可能に構成される。
【0030】
図1に戻って、回転体13が枢支された基台12には、回転体13の他端側に突出し、かつ取付板11と直交する様な支持板21が取付けられ、基台12の他端から突出する回転体13にはプーリ22が嵌着される。そして支持板21には回転体13を回転させるモータ23が回転手段として設けられる。即ち、モータ23はその回転軸23aが回転体13に平行になるように支持板21に設けられ、モータ23の回転軸23aには別のプーリ24が設けられる。そして、回転体13のプーリ22とモータ23における回転軸23aのプーリ24の間にはベルト25が掛け回され、これによりモータ23が駆動するとベルト25を介して回転体13を回転可能に構成される。
【0031】
また、支持板21には、操作軸18を介して可動片17を固定片16に対して相対移動させる移動手段39が設けられる。図における移動手段は、可動片17を一方の方向に付勢する付勢手段であるコイルスプリング26と、そのコイルスプリング26の付勢力に抗して可動片17を他方の方向に移動させる駆動装置40を備えるものを示す。
【0032】
具体的に、図3に示すように、この支持板21にはレール27が、回転体13の回転中心軸に平行に設けられ、このレール27には可動台28がスライド部材28cを介して移動可能に搭載される。図1に示す様に、可動台28には、この可動台28を操作軸18の他端に連結する連結具29が取付けられ、この可動台28に、コイルスプリング26の一端が取付けられる。
【0033】
この実施の形態におけるコイルスプリング26は一対準備され、可動台28の両側において操作軸18に平行に設けられる。そして、それらの一端が可動台28の両側にそれぞれ取付けられ、それらの他端が回転体13に沿って基台12から遠ざかる方向において支持板21にそれぞれ取付けられる。
【0034】
即ち、可動台28の両側には第一ネジ28aがそれぞれ設けられ、その第一ネジ28aにコイルスプリング26の一端をそれぞれ係止させ、その第一ネジ28aより基台12から遠ざかる位置の支持板21に第二ネジ21aが取付けられる。そして、第一及び第二ネジ28a,21aにコイルスプリング26が引き延ばされた状態で、回転体13の回転中心軸に平行に架設される。
【0035】
すると、コイルスプリング26は縮まろうとする力により第一ネジ28aを可動台28とともに第二ネジ21a側に引き戻し、可動台28を回転体13が設けられた基台12から離間する方向に付勢するように構成される。このように、可動台28を移動させると、その可動台28に連結具29を介して連結された操作軸18も共に移動し、その操作軸18の一端の係止片19を介して係止された可動片17を固定片16に対して一方の方向に移動させるように付勢することになる。
【0036】
一方、このコイルスプリング26の付勢力に抗して可動片17を他方の方向に移動させる駆動装置40は、可動台28を基台12側に移動可能なカム41と、そのカム41を任意の位置に変位させるサーボモータ42とを備えるものを例示して示す。
【0037】
この実施の形態におけるカム41は板カム41であって、円板状の板カム41をその中心から偏倚した位置にサーボモータ42の回転軸42aを取付けるものとする。このサーボモータ42は、その回転軸42aを可動台28の移動方向に直行させて、その回転軸42aに偏心して設けられた板カム41の外周が可動台28の他端、即ち基台12から遠ざかる方向の他端縁に接触するように支持板21に取付けられる。そして、可動台28の他端にはカム41の外周を転動可能なローラ28bが枢支される。
【0038】
従って、コイルスプリング26は、基台12から遠ざかる方向の可動台28の他端縁に板カム41の外周を接触させるように付勢するものとなり、サーボモータ42はそのコイルスプリング26の付勢力に抗してカム41を回転変位させて、その可動台28を基台12側に移動可能に構成されたものとなる。
【0039】
そして、可動台28には、連結具29を介して操作軸18が連結されるため、駆動装置40であるサーボモータ42は、カム41を回転変位させて可動台28を移動させると、連結具29及び操作軸18を介して、その操作軸18に係止された可動片17を固定片16に対して相対移動させるものとして構成される。
【0040】
互いに重合する固定片16及び可動片17の先端における対向位置には所定の間隔を開けるための切り欠き17cが固定片16及び可動片17のいずれか一方又は双方に形成され、固定片16又は可動片17のいずれか一方には複数の係止ピン16aが設けられ、固定片16又は可動片17のいずれか他方には1又は2以上の挿脱ピン17bが設けられる。後述するけれども、この係止ピン16a及び挿脱ピン17bは、線材9が掛け回されて摺動可能なように、断面円形であって、線材9を傷つけるような凹凸が表面にないようなものが用いられる。
【0041】
この実施の形態では、可動片17の先端における固定片16との対向位置に、その固定片16との間に所定の間隔を開けるための切り欠き17cが形成され、図3の拡大図に示す様に、その切り欠き17cに対向する固定片16の先端には、複数の係止ピン16a、この実施の形態では、3本の係止ピン16aが可動片17の移動方向に直交する方向、即ち、幅方向に並んで、その切り欠き17cに臨むように立設される。
【0042】
一方、図5に示すように、挿脱ピン17bは可動片17の切り欠き17cに固定片16に向かって立設され、複数の場合には可動片17の移動方向に直交する方向、即ち、幅方向に並んで立設される。この挿脱ピン17bは可動片17の先端近傍の切り欠き17cに立設され、図6に一点鎖線で示すように、その可動片17が回転体13側に移動して後退すると、可動片17の先端縁から固定片16に設けられた係止ピン16aがその先端縁から突出して、その先端縁と係止ピン16aの間に線材9が挿通可能に構成される。
【0043】
挿脱ピン17bの可動片17の幅方向の立設位置は固定片16における係止ピン16aとの関係により定められ、図7及び図8に示す様に、その可動片17が固定片16の先端側に向かって移動すると、その可動片17と共に移動する挿脱ピン17bが固定片16に設けられた複数の係止ピン16aの間に進入し、その間に線材9が挿通されていたならば、その線材9を蛇腹状に折り曲げるように、係止ピン16aとの間に少なくとも係止させようとする線材9の線径以上の隙間を空けて進入するように構成される。
【0044】
また、固定片16の係止ピン16aが設けられた先端、及び可動片17の挿脱ピン17bが設けられた先端には、断面がコ字状を成してそれらの先端を外側から覆うカバー体20がそれぞれネジ止めされる。図1の拡大図に示す様に、これらのカバー体20は、それらの対向面が線材9の外径より僅かに広い所定の隙間tを開けて対向するように形成され、係止ピン16aや挿脱ピン17bに係止される線材9を挟んで、係止ピン16aや挿脱ピン17bに掛け回された線材9がそれらから離脱するようなことを防止するように構成される。
【0045】
次に、このように構成された線材係止装置を用いた本発明の線材係止方法を説明する。
【0046】
本発明の線材係止方法は、上述した線材係止装置10を用いるので、固定片16と、その固定片16に対して相対移動可能に設けられた可動片17と、固定片16又は可動片17のいずれか一方に可動片17の移動方向に直交する方向に並んで設けられた複数の係止ピン16aと、固定片16又は可動片17のいずれか他方に設けられ固定片16に対する可動片17の相対移動により複数の係止ピン16aの間に進入し又は離間する1又は2以上の挿脱ピン17bとを備えることを要件とする。
【0047】
そして、複数の係止ピン16aの間に進入する1又は2以上の挿脱ピン17bの進入の程度を変化させて複数の係止ピン16a及び1又は2以上の挿脱ピン17bに線材9が係止する力を変更させることを特徴とする。
【0048】
ここで、上述した線材係止装置10では、図1に示すように、カム41を変位させるサーボモータ42を備えるので、本発明の線材係止方法は、サーボモータ42によりカム41を回転変位させても、コイルスプリング26の付勢力により、可動台28の他端はそのカム41の外周に常に接触することになる。
【0049】
このため、サーボモータ42によりカム41を回転変位させて、可動台28を基台12から遠ざけると、操作軸18はその可動台28とともに移動して、係止片19が固定片16から遠ざかり、図6に一点鎖線で示すように、係止片19に係止する可動片17が回転体13側に移動して後退する。すると、それらに設けられた係止ピン16aと挿脱ピン17bは互いに離間するとともに、可動片17の先端縁から固定片16に設けられた係止ピン16aがその先端縁から突出することになる。
【0050】
このように、可動片17の先端縁と係止ピン16aの間に隙間を生じさせた状態で、その隙間に線材9を挿通させる。この線材9の挿通は、図示しない巻線装置等に設けられた線材9を繰り出すノズルを移動させることや、この線材係止装置10自体を移動させることにより、行うことができる。
【0051】
可動片17の先端縁と係止ピン16aの間の隙間に線材を挿通させた後には、図1に示すサーボモータ42によりカム41を再び回転させて変位させ、可動台28をコイルスプリング26の付勢力に抗して移動させ、その可動台28に操作軸18を介して連結された可動片17を回転体13から遠ざかる方向に移動させて前進させる。
【0052】
すると、図7に示す様に、複数の係止ピン16aの間に1又は2以上の挿脱ピン17bが進入することになり、その間に挿通された線材9は、複数の係止ピン16aとその複数の係止ピン16aの間に進入する1又は2以上の挿脱ピン17bに交互に掛け回されることになる。
【0053】
係止ピン16aと挿脱ピン17bに掛け回された線材9は、係止ピン16a及び挿脱ピン17bの双方に両側から接触することになり、線材9が長手方向に移動しようとすると、それを妨げる方向に摩擦力が生じ、その摩擦力により線材9は長手方向の移動が困難となって、それらに係止されることになる。
【0054】
ここで、係止ピン16a及び挿脱ピン17bが線材9を係止する力は、図6に示すように、係止ピン16aから挿脱ピン17bが離間して、その間に挿通された線材9がそれらに接触しない状態ではゼロで有り、係止ピン16aに挿脱ピン17bが接近してそれらが線材9に接触するまでゼロとなる。
【0055】
そして、図7に示す様に、係止ピン16aと挿脱ピン17bに線材9が挟まれて接触すると、線材9が長手方向に移動しようとする際の摩擦力を生じさせ、その摩擦力により係止ピン16a及び挿脱ピン17bの双方に掛け回された線材9を移動させずにその場に留め置くように作用する係止力が発生する。
【0056】
このように摩擦により生じる係止力は、線材9の係止ピン16a又は挿脱ピン17bへの接触の程度により異なることになる。即ち、その接触の程度は線材9の掛け回される角度などにより変化することになり、その掛け回しの程度が急角度になると、線材9の屈曲抵抗も加わって、線材9を移動させずにその場に留め置くように作用する係止力は徐々に高まることになる。
【0057】
このため、図8に示す様に、複数の係止ピン16aの間に進入する1又は2以上の挿脱ピン17bの進入の程度を増加させると、係止ピン16a又は挿脱ピン17bに掛け回される線材9の角度は増加し、その係止力は高まり、このように係止力を高めた場合、係止ピン16a及び挿脱ピン17bに掛け回された線材9の長手方向の移動は困難になるので、線材係止装置10を引き回すことにより、その線材係止装置10に係止された線材9を所望の経路で引き回すことが可能になる。
【0058】
逆に、図7に示す様に、複数の係止ピン16aの間に進入する1又は2以上の挿脱ピン17bの進入の程度を減少させると、複数の係止ピン16a及び1又は2以上の挿脱ピン17bに掛け回される線材9の角度は減少して、摩擦力は減少し、その係止力は低下することになる。このように係止力を低下させると、線材9の長手方向の移動は許容され、線材9を係止ピン16aと挿脱ピン17bに掛け回した状態で滑らせながら引き延ばすようなことが可能になる。
【0059】
このように、本発明の線材係止装置及び線材係止方法では、線材9を把持することをせずに、係止ピン16aと挿脱ピン17bに掛け回し、それらとの間に生じる摩擦力により線材9を係止させるものである。そして、複数の係止ピン16aの間に進入する1又は2以上の挿脱ピン17bの進入の程度を変化させて、複数の係止ピン16a及び1又は2以上の挿脱ピン17bに線材9が係止する力を変更させるので、比較的細い線材9であっても、断線させることなく、線材9の係止力を迅速に調整し得る線材係止装置10及び線材係止方法となる。
【0060】
そして、複数の係止ピン16aの間に進入する1又は2以上の挿脱ピン17bの進入の程度は、可動台28を移動させるカム41の回転変位により変化し、本発明の線材係止装置10は、そのカム41をサーボモータ42により任意の位置にまで変位可能に構成されている。
【0061】
依って、本発明の線材係止装置10及び線材係止方法では、カム41の変位量によって複数の係止ピン16aの間に進入する1又は2以上の挿脱ピン17bの進入の程度を無段階に変更させることが可能なものとなる。そして、サーボモータ42によりカム41を変位させることによって、そのカム41の変位量を無段階であってかつ容易に調整しうることから、本発明の線材係止装置10及び線材係止方法は、線材9を把持する把持力を無段階で容易に調整し得るものとなるのである。
【0062】
ここで、係止ピン16aと挿脱ピン17bとの間に少なくとも係止させようとする線材9の線径以上の隙間を空けて進入するようにしているので、外径の異なる線材9を係止させようとすると、係止ピン16aの立設間隔や挿脱ピン17b立設間隔をそれぞれ変更させる必要が生じる。
【0063】
けれども、回転体13の端部周囲に取付具15を取付け、この取付具15を介して固定片16及び可動片17を回転体13に取付けているので、係止ピン16aの立設間隔が異なる別の固定片16や挿脱ピン17b立設間隔が異なる別の可動片17への取り替えが比較的容易となり、線材9の外径の変更にも容易に対応させることが可能となる。
【0064】
このような線材係止装置10を用いた線材9の引き回しを例示すると、図8に示すように線材9の係止力を高めて、その係止ピン16a及び挿脱ピン17bに対する線材9の移動を禁止し、その係止ピン16a及び挿脱ピン17bを、それらが係止する線材9と共に移動させれば、それに係止された線材9を、例えば、図9(a)に示すように、引き回して、絡げピン8に巻回させることが可能となる。
【0065】
一方、本発明の線材係止装置10では、複数の係止ピン16aの間に進入する1又は2以上の挿脱ピン17bの進入の程度を減少させると、複数の係止ピン16a及び1又は2以上の挿脱ピン17bに掛け回される線材9の係止力は低下することになり、その線材9を長手方向に移動可能になる。
【0066】
このため、例えば、線材9を絡げピン8に巻回させた後に、複数の係止ピン16a及び1又は2以上の挿脱ピン17bに掛け回される線材9の係止力を低下させ、その状態で、図9(b)のようにその係止ピン16a及び挿脱ピン17bを線材9の一方の方向に引っ張ると、複数の係止ピン16a及び1又は2以上の挿脱ピン17bに掛け回される線材9は、その係止ピン16a及び挿脱ピン17bに掛け回された状態で長手方向に滑りながら移動し、それらとの間に生じる摩擦力に等しい力で線材9を引っ張って、その線材9を引き延ばすようなことが可能になる。
【0067】
その後、図9(c)に示すように、線材9の係止力を再び高めて、その係止ピン16a及び挿脱ピン17bに対する線材9の移動を禁止し、その係止ピン16a及び挿脱ピン17bを、それらが係止する線材9と共に移動させれば、その線材9を引き回し途中の、例えば絡げピン8の近傍において引き千切ることも可能となるのである。
【0068】
なお、上述した実施の形態では、カム41として板カム41を用いる場合を説明した。けれども、付勢手段であるコイルスプリング26の付勢力に抗して可動片17を固定片16に対して移動可能である限り、カム41は、正面カム41(溝カム41)や立体カム41であっても良い。
【0069】
また、上述した実施の形態では、付勢手段がコイルスプリング26である場合を説明した。けれども、可動片17を固定片16に対して移動可能である限り、付勢手段はコイルスプリング26以外の形式のものであっても良い。
【0070】
また、上述した実施の形態では、カム41を任意の位置に変位させるモータとしてサーボモータ42を用いる場合を説明したけれども、このモータは、カム41を任意の位置に変位させ得る限り、他の形式のモータであっても良い。
【0071】
また、上述した実施の形態では、固定片16及び可動片17を互いに重合させ、それらの先端における対向位置に、線材9を挿通させるための所定の間隔を開けるための切り欠き17cが形成される場合を説明したけれども、線材9を挿通させるための所定の間隔が固定片16と可動片17の間に既に形成されている場合には、切り欠き17cを形成しなくても良い。
【0072】
また、上述した実施の形態では、固定片16に3本の係止ピン16aが設けられ、それらの間に進入するような2本の挿脱ピン17bが可動片17に設けられる場合を説明したけれども、所望の係止力が得られるのであれば、図10に示す様に、2本の係止ピン16aの間に単一の挿脱ピン17bを進入させるようのものであっても良い。
【0073】
更に、上述した実施の形態では、係止ピン16aと挿脱ピン17bに線材9を交互に掛け回して蛇腹状に折り曲げる場合を説明したけれども、所望の係止力が得られるのであれば、図11に示す様に、係止ピン16aと挿脱ピン17bのいずれか一方又は双方に線材9が連続して掛け回されるように、複数の係止ピン16aを固定片16に設け、1又は2以上の挿脱ピン17bを可動片17に設けるようにしても良い。
【符号の説明】
【0074】
9 線材
10 線材係止装置
13 回転体
16 固定片
16a 係止ピン
17 可動片
17b 挿脱ピン
18 操作軸
23 モータ(回転手段)
26 付勢手段(コイルスプリング)
39 移動手段
40 駆動装置
41 カム
42 サーボモータ(モータ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11