(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-06
(45)【発行日】2022-10-17
(54)【発明の名称】架橋ペプチドの作製方法、及びその方法を用いて作製した架橋ペプチド
(51)【国際特許分類】
C12P 21/02 20060101AFI20221007BHJP
C07K 14/00 20060101ALI20221007BHJP
C07K 14/705 20060101ALI20221007BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20221007BHJP
C12Q 1/6811 20180101ALI20221007BHJP
C40B 40/06 20060101ALI20221007BHJP
【FI】
C12P21/02 C ZNA
C07K14/00
C07K14/705
C12N15/11 Z
C12Q1/6811 Z
C40B40/06
(21)【出願番号】P 2015220862
(22)【出願日】2015-11-11
【審査請求日】2018-11-07
【審判番号】
【審判請求日】2020-11-26
(73)【特許権者】
【識別番号】504190548
【氏名又は名称】国立大学法人埼玉大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110002332
【氏名又は名称】特許業務法人綾船国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】根本 直人
(72)【発明者】
【氏名】種村 裕太郎
(72)【発明者】
【氏名】糠塚 明
【合議体】
【審判長】長井 啓子
【審判官】伊藤 良子
【審判官】高堀 栄二
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-522564(JP,A)
【文献】Chemical Communications,2014,Vol.50,pp.5608-5610,Electronic Supplementary Information
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)28~32アミノ酸のシステインに富んだペプチドコード配列を含むDNAから転写によってmRNAを調製し、mRNAライブラリを作製するmRNAライブラリ作製工程と、ここで、前記ペプチドコード配列は、
N末端から3番目及び28番目にシステインをコードする2つのコード配列を含み、前記2つのシステインの間にさらに2つのシステインをコードする配列とを含み;
(b)前記(a)工程で得られたmRNAを、ペプチド結合部位、固相結合部位及びmRNA結合部位並びに逆転写
用のプライマーとして機能するプライマー領域を有するリンカーのmRNA結合部位にライゲーションさせるリンカー-mRNA連結体調製工程と;
(c)前記(b)工程で得られたリンカー-mRNA連結体を無細胞翻訳系で翻訳して、前記mRNAに対応するペプチドを前記リンカー-mRNA連結体にディスプレイしたペプチドディスプレイ分子を作製するペプチドディスプレイ作製工程と;
(d)前記(c)工程で得られた前記ペプチドディスプレイ分子を、固相に固定化する固定化工程と;
(e)前記(d)工程で固相に固定化された前記ペプチドディスプレイ中のmRNAを逆転写し、前記ペプチドディスプレイ
分子にcDNAを連結させた、cDNAディスプレイ分子を調製する逆転写工程と;
(f)前記(e)工程で得られたcDNAディスプレイ分子中のリンカーの側鎖にディスプレイした前記ペプチドを、酸化型/還元型グルタチオン及びプロテイン・ジスルフィド・イソメラーゼによる処理を行うことなく酸化によってフォールディングして、ペプチド分子内架橋を形成させる酸化フォールディング工程と;
(g)前記(f)工程で架橋されたcDNAディスプレイ分子を固相から切り離して、タグ付きのタンパク質精製用の固相を用いて精製する、精製工程と;
(h)前記(g)工程で精製されたcDNAディスプレイ分子をアフィニティー選択する選択工程であって、前記アフィニティー選択は、前記cDNAディスプレイ分子中のペプチドと標的タンパク質との相互作用を用いるものであり;
(i)前記(h)工程で選択されたcDNAディスプレイ分子を前記標的タンパク質から切り離して溶出させる溶出工程;
(j)前記(i)工程で溶出されたcDNAディスプレイ分子をPCRで増幅させる増幅工程と;を備え、
上記(a)~(j)の工程を標的タンパク質(IL-6受容体を除く)と結合する配列に収束するまで繰り返す
ことで得られたcDNAから、同一ループ内に2つの架橋を有するペプチド
を含むペプチド群を作製する方法。
【請求項2】
前記標的タンパク質は、sCD40 Ligandであることを特徴とする、請求項1に記載の
ペプチド群を作製する方法。
【請求項3】
前記所望の配列のDNAは、5’側から3’側に向かって、
T7プロモーター-Ω-
Kozak配列、前記システインに富んだ
28~
32アミノ酸からなるペプチドコード配列、
GGGS配列、
His-
tag配列、
GGS配列及び
NewYtag配
列(配列表の配列番号6)が配置されている、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の
ペプチド群を作製する方法。
【請求項4】
前記固相結合部位は、ストレプトアビジン、及びビオチンからなる群から選ばれるもので構成されていることを特徴とする、請求項
3に記載の
ペプチド群を作製する方法。
【請求項5】
前記ペプチドコード配列中のアミノ酸数は30であることを特徴とする、請求項1~
4のいずれかに記載の
ペプチド群を作製する方法。
【請求項6】
前記酸化フォールディングは、終夜の撹拌によって行われることを特徴とする、請求項1~
5のいずれかに記載の
ペプチド群を作製する方法。
【請求項7】
請求項
2~
6のいずれかに記載された方法で作製された、同一ループ内に2つの架橋を有するペプチド
を含むペプチド群。
【請求項8】
5’側から3’側に向かって、
T7プロモーター-Ω-
Kozak配列、システインに富んだ
30アミノ酸からなるペプチドコード配列、
GGGS配列、
His-
tag配列、
GGS配列及び
NewYtag配列
(配列表の配列番号6)が配置され、前記システインに富んだ
30アミノ酸からなるペプチドコード配列中、
N末端から3番目及び28番目に位置する2つのシステインをコードする配列と、それらの間に位置するさらに2つのシステインをコードする配列とを
含み、
sCD40リガンドに結合する、30アミノ酸で規定されるペプチドコード配列を有する、同一ループ内に2つの架橋を有するペプチドを産生するDNAコンストラクト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋ペプチドの作製方法、及びその方法を用いて作製した前記ペプチドに関する。特に、ジスルフィド結合による2つの架橋を有する架橋ペプチドの作製方法、及びその方法を用いて作製した前記ペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
種々の疾病を適切に診断し、効果的な治療を行うためには、疾病のマーカーとなるタンパク質その他の生体分子の検出が、非常に重要である。従来、検出対象である生体分子(以下、「標的分子」という。)と特異的に結合する抗体分子が、こうした生体検出について使用されてきた。しかし、分子量が大きく、熱安定性に関し問題点があった。
【0003】
こうした欠点を補うものとして、分子量が小さく、化学合成が可能であり、特異修飾も可能なペプチド分子が、生体検出分子として注目されるようになった。しかし、アミノ酸の一次構造のような単鎖構造のペプチド分子では、酸や塩基、熱などの影響を受けて、切断や想定しない修飾が起こり、構造的に不安定となるという問題があった。
【0004】
ところで、イモガイが作り出す貝毒成分であるコノトキシンのように、天然に存在するペプチドであっても、構造的に非常に安定なものがある。こうした構造的な安定性は、分子内架橋によって、3つの環が形成されていることによるものと考えられている(非特許文献1参照)。
【0005】
現在、構造的に安定なペプチドを得るために、分子内に架橋を有するコノトキシンのようなペプチドの研究が進められている。そうした研究の中で、分子内架橋を有する炎症性サイトカインであるインターロイキン6の受容体(以下、「IL-6R」ということがある。)等が合成されている。ここで、前記IL-6Rは、Cys4-2又はCys2-6に分子内架橋を有する合成化合物である(非特許文献2参照、以下、「従来技術1」という。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】PDB:1TTK http://www.ebi.ac.uk/thornton-srv/databases/cgi-bin/pdbsum/GetPage.pl
【文献】Yamaguchi, et al., Nucleic Acid Research, 37, e108 (2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術1は、分子内ジスルフィド架橋を形成させて構造を安定化するという点では、優れた技術である。しかし、こうした架橋形成には、酸化型/還元型グルタチオン及びProtein disulfide isomeraseで処理する必要があり、操作が煩雑であった。そのため、より簡便な方法により分子内ジスルフィド架橋を形成できることが望まれていた。
【0008】
また、従来技術1では、このペプチドをコードする塩基配列のうち、システインに対応する配列が5’末端側から3番目に1つだけ配置されるように設計されていた。このため、このように位置が固定されたシステインと、それ以外の位置にランダムに配置されるシステインとの間で形成されるジスルフィド架橋を有するペプチドが、標的分子に結合する分子に収束せず、むしろ、標的分子以外に結合する分子に収束してしまうという問題があった。これは、ペプチド配列中に、チロシンとアルギニンが多数出現することに起因すると考えられていた(
図1参照)。
このため、より簡便に分子内架橋を形成させ、より確実に標的分子と結合するような架橋ペプチドの作製について、強い社会的要請があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
こうした状況の下で、本発明の発明者らは、鋭意研究を重ねて本願発明を完成したものである。
すなわち、本発明の第1の態様は、(a)28~32アミノ酸のシステインに富んだペプチドコード配列を含むDNAから転写によってmRNAを調製し、mRNAライブラリを作製するmRNAライブラリ作製工程と、ここで、前記ペプチドコード配列は、N末端から3番目及び28番目に前システインをコードする2つのコード配列を含み、前記2つのシステインの間にさらに2つのシステインをコードする配列とを含み;(b)前記(a)工程で得られたmRNAを、ペプチド結合部位、固相結合部位及びmRNA結合部位並びに逆転写用のプライマーとして機能するプライマー領域を有するリンカーのmRNA結合部位にライゲーションさせるリンカー-mRNA連結体調製工程と;(c)前記(b)工程で得られたリンカー-mRNA連結体を無細胞翻訳系で翻訳して、前記mRNAに対応するペプチドを前記リンカー-mRNA連結体にディスプレイしたペプチドディスプレイ分子を作製するペプチドディスプレイ作製工程と;(d)前記(c)工程で得られた前記ペプチドディスプレイ分子を、固相に固定化する固定化工程と;(e)前記(d)工程で固相に固定化された前記ペプチドディスプレイ中のmRNAを逆転写し、前記ペプチドディスプレイにcDNAを連結させた、cDNAディスプレイ分子を調製する逆転写工程と;
【0010】
(f)前記(e)工程で得られたcDNAディスプレイ分子中のリンカーの側鎖にディスプレイした前記ペプチドを、酸化型/還元型グルタチオン及びプロテイン・ジスルフィド・イソメラーゼによる処理を行うことなく酸化によってフォールディングして、ペプチド分子内架橋を形成させる酸化フォールディング工程と;(g)前記(f)工程で架橋されたcDNAディスプレイ分子を固相から切り離して、タグ付きのタンパク質精製用の固相を用いて精製する、精製工程と;(h)前記(g)工程で精製されたcDNAディスプレイ分子をアフィニティー選択する選択工程であって、前記アフィニティー選択は、前記cDNAディスプレイ分子中のペプチドと標的タンパク質との相互作用を用いるものであり;(i)前記(h)工程で選択されたcDNAディスプレイ分子を前記標的タンパク質から切り離して溶出させる溶出工程;(j)前記(i)工程で溶出されたcDNAディスプレイ分子をPCRで増幅させる増幅工程と;を備え、上記(a)~(j)の工程を標的タンパク質(IL-6受容体を除く)と結合する配列に収束するまで繰り返す、同一ループ内に2つの架橋を有するペプチドを含むペプチド群を作製する方法である。ここで、前記標的タンパク質は、抗体、酵素、DNA結合タンパク質からなる群から選ばれるものであることが好ましく、sCD40 Ligandであることが好ましい。
【0011】
ここで、前記所望の配列のDNAは、5’側から3’側に向かって、T7プロモーター-Ω-Kozak配列、前記システインに富んだ28~32アミノ酸からなるペプチドコード配列、GGGS配列、His-tag配列、GGS配列及びNewYtag配列(配列表の配列番号6)が配置されていることが好ましい。前記固相結合部位は、ストレプトアビジン、及びビオチンからなる群から選ばれるもので構成されていることが好ましく、前記ペプチドコード配列中のアミノ酸数は30であることが好ましい。前記酸化フォールディングは、終夜の撹拌によって行われることが好ましい。
【0012】
本発明の第2の態様は、上記の架橋ペプチドの作製方法で作製された架橋ペプチドである。ここで、前記架橋ペプチドは、5’側から3’側に向かって、T7プロモーター-Ω-Kozak配列、システインに富んだ30アミノ酸からなるペプチドコード配列、GGGS配列、His-tag配列、GGS配列及びNewYtag配列(配列表の配列番号6)が配置された構成となっており、DNAライブラリを構成する。本発明のさらに別の態様は、5’側から3’側に向かって、T7プロモーター-Ω-Kozak配列、システインに富んだ28~32アミノ酸からなるペプチドコード配列、GGGS配列、His-tag配列、GGS配列及びNewYtag配列(配列表の配列番号6)が配置され、前記システインに富んだ30アミノ酸からなるペプチドコード配列中、N末端から3番目及び28番目に位置する2つのシステインをコードする配列と、それらの間に位置するさらに2つのシステインをコードする配列とを含み、sCD40リガンドに結合する、30アミノ酸で規定されるペプチドコード配列を有する、同一ループ内に2つの架橋を有するペプチドを産生するDNAコンストラクトである。
【0013】
本発明の第3の態様は、上記の架橋ペプチドを用いて、これらのペプチドと相互作用をするタンパク質を精製する、相互作用タンパク質の精製方法である。
【0014】
本発明の第4の態様は、上記の架橋ペプチドを用いて、これらのペプチドと相互作用をするタンパク質をスクリーニングする、相互作用タンパク質のスクリーニング方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の架橋ペプチドの作製方法によれば、酸化剤や酵素を使用しない簡便な手法によって、酸化によるジスルフィド架橋を有するペプチドを作製することができる。また、ジスルフィド架橋を形成しているペプチド(以下、「空気酸化架橋ペプチド」という。)が、そのタンパク質と相互作用をするタンパク質(以下、「相互作用タンパク質」という。)に対して、天然架橋ペプチドと同等の相互作用をすることができる架橋ペプチドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、従来の方法で使用されている、システインの含有率の高いペプチド(以下、「システインリッチペプチド」という。)をコードする配列とアミノ酸の出現頻度を表した図である。
【
図2】
図2は、本願の方法で使用している、システインリッチペプチドをコードする配列とアミノ酸の出現頻度を表した図である。
【
図3】
図3は、Overlap extension PCRにより作製した、フルコンストラクトDNAのランダム配列を波形データで示す図である。
【
図4】
図4は、Overlap extension PCRによるフルコンストラクトDNAの調製方法のフローチャートを示した図である。
【
図5】
図5は、本願発明の架橋ペプチドの作製方法を示す模式図である。
【
図6】
図6は、本願で使用するmRNAが結合されたmRNA-リンカー連結体を示す模式図である。
【
図7】
図7は、
図1の従来のシステインリッチペプチドを用いたときの、アフィニティーセレクション後のPCRの電気泳動の結果を示したものである。
【
図8】
図8は、
図2の本願のシステインリッチペプチドを用いたときの、アフィニティーセレクション後のPCRの電気泳動の結果を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明を、
図2~6及び8を参照しつつ、さらに詳細に説明する。
図5に示したように、本発明は、上述したように、(a)mRNAライブラリ作製工程と;(b)リンカー-mRNA連結体調製工程と;(c)ペプチドディスプレイ作製工程と;(d)固定化工程と;(e)逆転写工程と;(f)酸化フォールディング工程と;(g)精製工程と;(h)選択工程と;(i)結合工程と;(j)増幅工程と;を備える2つの架橋を有する架橋ペプチドの作製方法である。
【0018】
ここで、上記(a)mRNAライブラリ作製工程では、所望の配列のDNAから転写によってmRNAを調製し、mRNAライブラリを作製する。続く(b)のリンカー-mRNA連結体調製工程において、得られたmRNAライブラリ中のmRNAを、リンカーと結合させてリンカー-mRNA連結体を調製する。この工程で使用するリンカーは、固相結合部位及びmRNA結合部位を有する主鎖とペプチド結合部位を有する側鎖とを有している。そして、前記固相結合部位を挟むように、2つのリボGが配置されている。また、上記リンカーの側鎖は蛍光標識されているため、リンカー-mRNA連結体を容易に得ることができるようになっている。
【0019】
次いで、前記(b)工程で得られたリンカー-mRNA連結体を無細胞翻訳系で翻訳し、前記mRNAに対応するペプチドを前記リンカー-mRNA連結体にディスプレイさせる。このようにして、上記(c)工程でペプチドディスプレイを作製することができる。無細胞翻訳系では、後述するような市販の哺乳類の網状赤血球細胞のライセート等を使用することが好ましい。
【0020】
引き続き、(c)工程で得られたペプチドディスプレイを、上記(d)固相結合工程において、主鎖上の固相結合部位で固相と結合させる。上記の固相結合部位としては、例えば、固相と結合できるような構造とすることが好ましい。例えば、固相結合部位がビオチンで構成されている場合には、これに結合するストレプトアビジンとすることができる。
【0021】
ついで、(e)逆転写工程において、後述する所定の条件で逆転写酵素を用いて上記ディスプレイを逆転写し、リンカー-mRNA-cDNA連結体を調製する。この工程において、逆転写によって作製されたcDNAがリンカーの主鎖上に二本鎖cDNAとして形成される。ついで、(f)酸化フォールディング工程において、以上のようにして調製されたリンカー-mRNA-cDNA連結体の側鎖に結合された上記ペプチドを酸化によってフォールディングし、分子内架橋させる。
【0022】
引き続き、(g)精製工程において、以上のようにして前記分子内架橋されたペプチドを有する、リンカー-mRNA-cDNA連結体を固相から切り離して精製する。この固相からの切り離しには、上記2つのリボGを切断することができる酵素を使用することが好ましく、例えば、RNase T1、RNase ONE(プロメガ社製)等を挙げることができる。次いで、以上のようにして固相から切り離されたリンカー-mRNA-cDNA連結体を、(h)アフィニティー選択工程において、標的分子固定化ビーズ充填カラムを用いて選択する。
【0023】
その後、上記選択工程で選択されたリンカー-mRNA-cDNA連結体中の架橋ペプチドが標的分子と結合し得るものであるか否かを確認するために、上記のように選択されたリンカー-mRNA-cDNA連結体を、固相に固定された標的タンパク質と結合させる。ここで、標的タンパク質は特に限定されないが、例えば、抗体、酵素、DNA結合タンパク質等を挙げることができる。その後、上記のように標的分子に結合されたリンカー-mRNA-cDNA連結体を、(j)増幅工程において、標的分子から解離させて溶出し、所望の条件でPCRにより増幅させる。
以上のようにして、2つの架橋を有する所望の配列の架橋ペプチドを作製することができる。
【0024】
(1)架橋ペプチド
本明細書において、「架橋ペプチド」とは、特定の物質と特異的に結合する核酸分子(ペプチドアプタマー)で、タンパク質や細胞の機能を変化させるものをいう。ペプチドアプタマーが結合する「特定の物質」には、増殖因子、酵素、受容体、ウイルスタンパク質その他の種々のタンパク質、各種金属イオンなどが含まれる。ペプチドアプタマーは、核酸合成装置などで合成することもでき、cDNAディスプレイ法等で作製することもできる。
【0025】
(2)システインリッチペプチドをコードするDNAディスプレイの作製
所望の配列のDNAディスプレイ中のペプチド配列は、システインリッチペプチドとすることができる。本明細書中でシステインリッチペプチドとは、ペプチド配列中にシステインが少なくとも2つ以上存在しているペプチドのことを指す。ここで、システインリッチペプチドをコードする所望のDNA配列の5’側から2番目~4番目及び27番目~29番目にシステインに対応するコード配列を含むことが、安定したジスルフィド架橋ペプチドを形成する上で好ましく、5’側から3番目及び28番目に、システインに対応するコード配列を含むことが、さらに好ましい。また、前記2つのシステインの間にさらに2つのシステインに対応するコード配列を含むことが、2つの分子内ジスルフィド架橋を形成する上で好ましい。
【0026】
前記ペプチドのアミノ酸数は、後述するジスルフィド架橋の形成効率を高める上で28~32が好ましく、30であることがさらに好ましい。また、前記DNAディスプレイ中、前記ペプチドをコードする配列の上流側の5’末端に7-メチル化グアノシンキャップ構造を有することが、タンパク質の合成効率の点から好ましい。T7プロモーター配列、Cap配列、Ω配列(タバコモザイクウイルスの翻訳エンハンサー)及び翻訳開始用Kozak配列を有することが、翻訳の開始を促進することから、さらに好ましい。また、前記ペプチドをコードする配列の下流側の3’末端にポリA尾部構造を有することがタンパク質の合成効率の点から好ましい。His-tagを有することが、後述する精製を行う上でさらに好ましい。
【0027】
所望の配列のDNAは、常法に従って合成することができる。例えば、前記ペプチド配列をコードする配列と、T7プロモーター配列-Cap配列-Ω配列-Kozak配列からなる配列と、His-tagを有する配列を用いて、Overlap extension PCRによって合成することが出来る。例えば、まず、ペプチド配列をコードする配列とHis-tagを有する配列のDNAフラグメントを含むPCR反応液を調製し、所望の条件でOverlap extension PCRを行う。その後、このPCR産物にT7プロモーター配列-Cap配列-Ω配列-Kozak配列からなる配列を含むPCR反応液を加えて、所望の条件でOverlap extension PCRを行い、目的の配列のDNAを得ることが出来る。
【0028】
例えば所望のペプチドをコードする配列とHis-tagを有する配列を含むPCR反応液(1×PrimeSTAR buffer (Mg2+)、0.1~0.4mM dNTPs、0.01~0.04U/μL PrimeSTAR HS DNA polymerase (タカラバイオ(株)製)) 25~75μLを調製し、以下のPCRプログラムを用いてOverlap extension PCRを行う。PCRプログラムは、例えば、
(a)92~96℃(1~3分)
(b)92~96℃(5~45秒)
(c)50~70℃(2~30秒)
(d)65~80℃(20~40秒)
(e)65~80℃(1~3分)
とし、ステップ(b)~(d)を6~10サイクル行うことが、十分な増幅産物を入手できる点から好ましい。
【0029】
次に、このPCR産物にT7プロモーター配列-Cap配列-Ω配列-Kozak配列からなる配列を含んだPCR反応液(1×PrimeSTAR buffer (Mg2+)、0.1~0.4mM dNTPs、0.6μM F1、0.01~0.04U/μL PrimeSTAR HS DNA polymerase (タカラバイオ(株)製)) 25~75μLを加えて、全量を50~150μLとしたのちに以下のPCRプログラムを用いてOverlap extension PCRを行う。PCRプログラムは、例えば、
(a)92~96℃(1~3分)
(b)92~96℃(5~45秒)
(c)50~70℃(2~30秒)
(d)65~80℃(20~40秒)
(e)65~80℃(1~3分)
とし、ステップ(b)~(d)を6~10サイクル行うことが、十分な増幅産物を入手できる点から好ましい。
二本鎖化したフルコンストラクトDNAは、共沈剤 (Quick-Precip Plus Solution, EdgeBio社製) を使用してエタノール沈殿した後にFavogenのFavorPrep PCR Clean-Up Mini Kitを使用してカラム精製する。
【0030】
(3)mRNAディスプレイの作製
以上のようにして得たDNAを鋳型DNAとして用いて転写を行う。こうした転写は、例えば、市販されている転写キットを使用することができ、プロメガのキット(RiboMAX Large Scale RNA Production Systems - T7)を用いることが、迅速簡便に転写を行えるために好ましい。こうしたキットを使用する場合、キットに付属しているプロトコルに従い、例えば、0.5~5μgのdsDNAを使用して、10~30μLのスケールで転写を行えばよい。通常使用される恒温槽を用いて、所望の条件でインキュベートし、所望量のDNaseを加えて再びインキュベートしてmRNAを合成することができる。
【0031】
例えば、アルミブロック恒温槽(Anatech社製、Cool Stat 5200)を使用して、35~40℃で、1~3時間インキュベーションし、その後、キットに付属するRQ1 DNaseの0.5~2μLを試料中に加え、さらに35~40℃で5~30分間インキュベートすることによって、mRNAを得ることが合成効率の上から好ましい。得られたmRNAは、所望のキットを用いて精製することができ、こうした精製キットとしては、例えば、After Tri-Reagent RNA Clean-Up Kit(Favogen社製)を使用することができる。
【0032】
(4)ペプチドアプタマー作製用リンカー
本明細書において、「リンカー」とは、cDNAディスプレイ法において用いられる、リンカー-mRNA連結体、ペプチドディスプレイ、リンカー-mRNA-cDNA連結体(以下、この連結体を「IVV」ということがある)、及びリンカー-mRNA-cDNA連結体からなる群から選ばれるいずれかの連結体を生成する際に使用するリンカーのことをいう。
【0033】
前記リンカーは、(L1)固相との結合を形成する分子を有している固相結合部位(BB)と;(L2)前記固相結合部位を挟むように位置し、RNA分解酵素で切断されるリボGを含む、前記固相から切り離すための2以上の切断部位(C1及びC2)と;(L3)前記リンカーの5’末端側に位置し、RNAリガーゼが認識し得るmRNA結合部位(MB)と;(L4)前記リンカーの3’末端側近傍に位置する側鎖結合部位(SB)と;(L5)前記リンカーの3’末端側に位置し、前記リンカー上で逆転写が行われる場合に逆転写用のプライマーとして機能するプライマー領域(PR)と、を備える主鎖と;(L6)前記側鎖結合部位(SB)に結合される側鎖とを有する。
【0034】
前記リンカーは、主としてDNAで構成されるが、デオキシイノシン、ビオチン修飾デオキシチミン、Fluorescein修飾デオキシチミン等のDNAアナログを含んでいてもよく、全体として、柔軟性と親水性とを有するように、設計することが好ましい。また、「固相合成」とは、ビーズ、反応容器の側壁、底面その他の固相表面に、本願発明のリンカーを直接的又は間接的に固定して行う合成反応をいう。
また、本明細書中において、「所定のmRNA」には、遺伝子をコードする配列、又は連結体形成、翻訳反応促進に必要な配列、あるいはその他の配列等を有するmRNAが含まれるものとする。
【0035】
前記固相との結合を形成する分子としては、例えば、固相にアビジン及びストレプトアビジン等が結合されている場合にはビオチン、マルトース結合タンパク質が結合されている場合にはマルトース、Gタンパク質が結合されている場合にはグアニンヌクレオチド、ポリヒスチジンペプチドが結合されている場合にはNi又はCo等の金属、グルタチオン-S-トランスフェラーゼが結合されている場合にはグルタチオン、配列特異的なDNA又はRNA結合タンパク質が結合されている場合にはこれらに特異的な配列を有するDNA又はRNA、抗体又はアプタマーが結合されている場合には抗原又はエピトープペプチド、カルモジュリンが結合されている場合にはカルモジュリン結合ペプチド、ATP結合タンパク質が結合されている場合にはATP、エストラジオール受容体タンパク質が結合されている場合にはエストラジオール等を挙げることができる。これらの中でも、ビオチン、マルトース、Ni又はCo等の金属、グルタチオン、抗原分子又はエピトープペプチド等を使用することが好ましく、リンカー合成の容易さの面から、ビオチンが使用されることが多い。
【0036】
前記固相結合部位(BB)は、上述したペプチドディスプレイ等の連結体を、リンカーを介して固相に結合させるための部位であり、前記固相結合部位(BB)は、少なくとも1~10塩基で構成されている。例えば、ビオチン修飾デオキシチミジン(dT)が含まれていてもよい。
【0037】
前記(L3)の前記mRNA結合部位は、少なくとも1~10塩基で構成されている。前記mRNA結合領域(MB)は、あらかじめリン酸化されている必要はないが、所定のmRNAと結合されるためには、前記mRNAの3’末端とのライゲーション反応に先だって、又はライゲーション反応中に、キナーゼ等によりリン酸化される必要がある。
【0038】
前記(L4)の前記リンカーの3’末端側近傍に位置する側鎖結合部位(SB)は、後述する側鎖が結合する部位である。また、例えば、リンカーの側鎖結合部位(SB)が、Amino-Modifier C6 dTで構成されている場合には、前記側鎖の5’末端を下記式(V)の5'-Thiol-Modifier C6として、EMCSを用いて架橋させ、主鎖と側鎖とを結合させることができる。
【0039】
前記(L5)のプライマー領域(PR)は、前記リンカーの3’末端側に位置し、前記リンカー上で逆転写が行われる場合に逆転写用のプライマーとして機能する領域であり、前記側鎖結合部位の3’側に隣接している。ここで、プライマー領域(PR)は、前記リンカー上で逆転写が行われる場合に逆転写用のプライマーとして機能する領域である。この領域は、約1~15塩基からなることが好ましく、特に3~5塩基からなることが好ましい。15塩基を越えると、リンカーとしての結合効率が悪くなるため、リンカーとの結合効率及びプライマーとしての反応効率という面から、上記の塩基数とすることが好ましい。
【0040】
ここで、前記側鎖のタンパク質結合部位としては、ヌクレオチド配列の3’末端とアミノ酸がアミド結合を形成しているピューロマイシン、リボシチジルピューロマイシン(rCpPur)、デオキシジルピューロマイシン(dCpPur)、デオキシウリジルピューロマイシン(dUpPur)等のピューロマイシン類縁体の他、3'-N-アミノアシルピューロマイシンアミノヌクレオシド(PANS-アミノ酸)、3'-N-アミノアシルアデノシンアミノヌクレオシド(AANS-アミノ酸)等を挙げることができる。
【0041】
PANS-アミノ酸としては、例えば、PANS-Gly、PANS-Val、PANS-Ala等を挙げることができ、AANS-アミノ酸としては、AANS-Gly、AANS-Val、AANS-Ala等を挙げることができる。また、ヌクレオシドとアミノ酸とがエステル結合したものなども使用することができるが、ピューロマイシンを使用することが、前記タンパク質結合部位におけるタンパク質の結合の安定性が高いことから特に好ましい。
【0042】
前記側鎖が、前記タンパク質結合部位と、前記側鎖結合部位との間に蛍光基を有することで、後述するcDNAディスプレイ法の各工程において、リンカーの有無を容易に検出することが可能となる。蛍光基としては、例えば、活性エステルに変換可能なカルボキシル基、ホスホロアミダイドに変換可能な水酸基、又はアミノ基等のフリーの官能基を有し、標識された塩基としてリンカーに結合することができる蛍光化合物を使用することが好ましい。このような蛍光化合物としては、例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、フィコビリタンパク質、希土類金属キレート、ダンシルクロライド、テトラメチルローダミンイソチオシアネート、フルオレセイン-dT等を挙げることができる。これらの中でも、分子標識用の化合物として使用されるフルオレセイン-dTを使用することが、合成が容易であることから好ましい。
【0043】
以下に、ペプチドアプタマー作製用のリンカーの製造方法について説明する。
まず、所望の配列となるように、常法に従ってDNAを合成し、主鎖として使用するための一本鎖のオリゴマーを作製する。このように合成した一本鎖オリゴマーは、上述したように、固相結合部位と、2以上の切断部位と、mRNA結合部位と、側鎖結合部位と、プライマー領域とを備えている。2以上の切断部位の大きさ及び主鎖中の位置によって、主鎖となる一本鎖オリゴマーの長さを適宜決定する。次いで、所望の長さの側鎖を合成し、主鎖上の側鎖結合部位に結合させる。側鎖の遊離末端に、例えば、ピューロマイシンを導入し、上述したFluorescein-dTを蛍光標識部位に導入して、本発明のmRNA/cDNA-タンパク質連結体作製用リンカーを得ることができる。
【0044】
主鎖の設計に際しては、各種のmRNAのコード配列を参考にすることができる。例えば、配列が知られている各種のレセプタータンパク質をコードするmRNA、各種抗体又はその断片をコードするmRNAその他のmRNA等を挙げることができる。mRNAのコード配列から翻訳されて生成されたポリペプチド鎖のC末端に、ピューロマイシンやその類縁体といったアミノアシルtRNAの3’末端アナログが取り込まれ、前記ポリペプチド鎖とリンカー-mRNA連結体とが結合されるためには、終止コドンを含まない配列を選択する。こうしたmRNAは、in vitro転写反応、化学合成、生体・細胞・微生物からの抽出その他の各種の方法を用いて得ることができるが、in vitro転写反応を用いて作製すると、リンカーとの結合及び無細胞翻訳の反応効率が高い。
【0045】
また、5’末端の7-メチル化グアノシンキャップ構造、又は3’末端のポリA尾部構造の少なくとも一方の構造を有するものであることが、タンパク質の合成効率の点から好ましい。Kozak配列や、Shine-Dalgarno配列を有することが、翻訳の開始を促進することから、さらに好ましい。ここで使用するmRNAの長さは、原則として本発明を利用して分子進化させるべきタンパク質又はポリペプチドの長さより規定されるコード領域の長さに依存する。50~1,000塩基長であることが、反応効率の面から好ましく、200~500塩基であることが、最も高い反応効率を得られることから、さらに好ましい。
【0046】
(5)ライゲーション
ライゲーション反応は、反応効率の点から20~40μLで行い、RNA:リンカーを、モル比で3:1~1:6の範囲で行う。反応効率を上げ、残余を最少化するためには、1:(1~2)(10pmolのmRNAに対し、10~20pmolのリンカー)とするとよい。
【0047】
次に、ヒートブロック、アルミブロック、ウォーターバスその他の加温用器具を用いて、約60~100℃にて約1~約60分間、試料溶液を温めた後、室温で約1~約60分間放置し、液温を穏やかに低下させる。その後、さらに、約-5℃~約10℃まで冷却する。具体的には、例えば、90℃で5分間アルミブロック上にて試料溶液を温め、次に、70℃のアルミブロック上に移して5分間置き、その後上記mRNAと上記リンカーとのライゲーション反応を行なう。例えば、約0.1~約2.5U/μLのT4ポリヌクレオチドキナーゼ、約0.4~約5U/μLのT4 RNAリガーゼ、約2~約50mMの塩化マグネシウム、約2~約50mMのDTT、約0.2~約5mMのATPを含む10~250mMのTris-塩酸緩衝液(pH7.0~8.0)中で行い、約10℃~約40℃で、約1分~約60分間反応させる。作業効率及び反応効率の面から、20℃~30℃で5分~30分間行うことが好ましく、25℃で15分間とすることがさらに好ましい。
【0048】
(6)無細胞翻訳
無細胞翻訳として哺乳類の網状赤血球細胞のライセートを利用することが好ましく、ウサギの血液から得られた網状赤血球細胞のライセートを利用することがさらに好ましい。また、前記哺乳動物に予めアセチルフェニルヒドラジンを投与して溶血性貧血等を誘導し、数日間経過した後に採血をすると、血中の網状赤血球の割合を高めることができる。例えば、前記ライセートとして、マイクロコッカルヌクレアーゼによって細胞由来のmRNAを分解し、グリコールエーテルジアミン四酢酸(EGTA)を加えてカルシウムをキレートし、前記ヌクレアーゼを不活化処理したもの(以下、「マイクロコッカルヌクレアーゼ処理済」という。)を使用する。
【0049】
例えば、約16~約400mMの酢酸カリウム、約0.1~約2.5mMの酢酸マグネシウム、約0.2~約50mMのクレアチンリン酸、0~約0.25mMのアミノ酸を含む反応液(濃度はいずれも終濃度)10~100μL中に、マイクロコッカルヌクレアーゼ処理済のウサギ網状赤血球ライセートと上記連結体とを加えて、翻訳反応を行うことができる。
反応効率の点から、ウサギ網状赤血球ライセートの量を約8.5~約17μL、上記連結体の量を約1.2~約2pmolとし、反応系のサイズを約12.5~約25μLとして、約20~約40℃で約10~約30分間行う。この場合に使用する反応液は、約80mMの酢酸カリウム、約0.5mMの酢酸マグネシウム、約10mMのクレアチンリン酸、それぞれ約0.025mMのメチオニン及びロイシン、約0.05mMのメチオニン及びロイシン以外のアミノ酸を含む。約30℃で約20分間翻訳を行うと、生成効率と作業効率が高い。
【0050】
翻訳反応後、翻訳産物であるペプチドとリンカー-mRNA連結体とを、例えば、約0.3~約1.6Mの塩化カリウム及び約40~約170mMの塩化マグネシウムの存在下(濃度はいずれも終濃度)、約27~約47℃で、約30分~約1.5時間反応させると、ペプチドを上記連結体と効率よく結合させることができる。
【0051】
(7)固定化
翻訳後のリンカー-mRNA連結体が固定される固相としては、例えば、スチレンビーズ、ガラスビーズ、アガロースビーズ、セファロースビーズ、磁性体ビーズ等のビーズ;ガラス基板、シリコン(石英)基板、プラスチック基板、金属基板(例えば、金箔基板)等の基板;ガラス容器、プラスチック容器等の容器;ニトロセルロース、ポリビニリデンフロリド(PVDF)等の材料からなるメンブレンなどが挙げられる。固相がスチレンビーズ、スチレン基板などのプラスチック材料で構成されている場合には、必要に応じて、公知の手法を用いてリンカーの一部を直接それらの固相に共有結合させてもよい(Qiagen社製、LiquiChip Applications Handbook等参照)。連結体にビオチン又はその類縁体が結合されている場合には、固相にアビジンを結合させておけば、上記連結体を容易に固相に結合させることができる
【0052】
固相に結合しなかった連結体は、約0.1~約10Mの塩化ナトリウム、約0.1~約10mMのEDTA、約0.01~約1%の界面活性剤を含む1~100mMのTris-塩酸緩衝液(pH7.0~9.0)もしくはリン酸緩衝液(pH7.0-9.0)等を用いて、洗浄して除去する。2Mの塩化ナトリウム、2mMのEDTA、0.1%のTriton X-100を含む20mMのTris-塩酸緩衝液(pH8.0)を使用すると、洗浄効率がよい。
【0053】
(8)逆転写
固相に固定化されたペプチドディスプレイの逆転写反応は、前記主鎖の3’末端を反応開始点とし、前記mRNAを鋳型として、所定の条件の下でcDNA鎖を合成する。その結果、リンカー-mRNA-cDNA連結体が得られる。逆転写反応系は任意に選択できるが、上記mRNA-リンカー-mRNA連結体と、dNTP Mixと、DTTと、逆転写酵素と、標準溶液と、RNaseを除去した水(以下、「RNaseフリー水」という。)とを加えて反応系を調製し、この系中、5~20分間、30~50℃の条件で逆転写を行わせることが好ましい。
また、市販のキットを使用して逆転写を行ってもよい。例えば、PrimeScript RT-PCR Kit(タカラバイオ(株)製)やReverTra Ase(東洋紡(株)製)を用いて付属のプロトコルに従って行うことができる。
【0054】
以上の方法では、得られたmRNAとピューロマイシンを有するリンカーDNAがストレプトアビジンで修飾された磁性体ビーズ上に固定され、無細胞翻訳系を用いて、mRNAよりタンパクを合成し、逆転写反応を用いてmRNAよりcDNAを合成している。このため、表現型であるペプチドと遺伝型であるDNA配列情報とが、磁性体ビーズ上で安定に1対1に対応付けられている。
【0055】
(9)フォールディング
上記逆転写反応により得られたリンカー-mRNA-cDNA連結体の側鎖に結合している、上記無細胞翻訳によって合成されたペプチド部分を、所望の方法で酸化させて分子内架橋を形成する。例えば、逆転写後のリンカー-mRNA-cDNA連結体が結合している磁性体ビーズを、所望のバッファーで洗浄後、冷却サーモブロックローテーターを使用して4℃で一晩撹拌して、ペプチド内に分子内架橋を形成させることができる。バッファーとしては、例えば30~70mM Tris-HCl pH7.4, 0.75~1.25M NaCl, 0.75~1.25mM EDTA, 0.025~0.1% Tween-20を含む洗浄用バッファーを使用することができる。
【0056】
(10)精製
上記撹拌終了後に、上記磁性体ビーズ上から、分子内架橋したペプチドが結合した状態でリンカー-mRNA-cDNA連結体を回収する。まず、所望の洗浄バッファーで上記磁性体ビーズを洗浄し、次いで遊離剤を加えてインキュベートし、リンカー中の切断部位から切断されたリンカー-mRNA-cDNA連結体を遊離させる。こうした洗浄バッファーとしては、例えば、1xHis-タグ洗浄バッファー(10~30mM リン酸ナトリウム(pH7.4), 0.25~0.75M NaCl, 10~30mM イミダゾール, 0.025~0.1%Tween-20を含む)を使用することができる。また、遊離剤としては所定の濃度のRNA分解酵素、例えば、500~1,500UのRNase T1を含む1xHis-タグ洗浄バッファーを使用することができる。
【0057】
例えば、50~200μLの上記1xHis-タグバッファーで上記磁性体ビーズを1~3回洗浄し、その後、上記のRNase T1含有1xHis-タグ洗浄バッファーを加えて、35~40℃で5~25分インキュベートする。この上清を分子内架橋したペプチドが結合したリンカー-mRNA-cDNA連結体として回収する。
【0058】
得られた分子内架橋したペプチドが結合したリンカー-mRNA-cDNA連結体を、His-タグタンパク質精製用ビーズを用いて精製する。こうしたHis-タグタンパク質精製用ビーズとしては、His MagセファロースNi (GE healthcare社製)等を使用することができる。His-タグタンパク質精製用ビーズを、予め上記His-タグ洗浄バッファーで洗浄する。次に、洗浄済の上記His-タグタンパク質精製用ビーズに、回収した上記リンカー-mRNA-cDNA連結体を加え、所望の条件でインキュベートし、上記ビーズを上記His-タグ洗浄バッファーで洗浄した後に、His-タグタンパク質溶出バッファー(以下、「His-タグ溶出バッファー」ということがある。)を加えて所望の条件で撹拌し、精製リンカー-mRNA-cDNA連結体を得る。こうしたHis-タグ溶出バッファーとしては、10~30mM リン酸ナトリウム(pH7.4), 0.25~0.75M NaCl, 100~500mM イミダゾール, 0.025~0.1%Tween20を含む組成のものを使用することができる。
【0059】
例えば、1xHis-タグ洗浄バッファーで洗浄したHis MagセファロースNi (GE healthcare社製)に、回収した上記リンカー-mRNA-cDNA連結体のうちの1/5程度、例えば、回収量が50~200μLであった場合には、10~40μLを加え、冷却サーモブロックローテーター等を使用して、20~30℃で0.5~2時間撹拌する。その後、例えば、50~200μLの1×His-タグ洗浄バッファーを用いて2~4回洗浄し、5~20μLのHis-タグ溶出バッファーを加えて、マイクロチューブミキサー((株)トミー精工製、MT-360)を使用し、室温で10~20分撹拌する。以上の操作によって、生成された架橋ペプチドを得ることができる。
【0060】
(11)標的タンパク質とのアフィニティーセレクション
標的分子固定化ビーズ充填カラムを用いて、標的分子と特異的に結合する、同一ループ内に架橋を有するシステインリッチペプチドと結合したcDNA(以下、cDNAディスプレイということがある)を分離する。標的分子としては、抗原と抗体、酵素基質と酵素、DNA結合タンパク質等が挙げられる。使用する担体は所望のビーズを使用する。例えばラウンド1ではアガロースビーズを、ラウンド2以降は磁性体ビーズを用いることができる。
【0061】
上記アガロースビーズは、所望のビーズを選ぶことができる。例えば、NHS-activated Sepahrose 4 Fast Flow (GE healthcare社製)を使用することが、低分子リガンドも確実に固定できる点で好ましい。アガロースビーズを充填したカラムの作製例を以下に示す。例えば、MicroSpin Empty Columns (GE healthcare社製)に、カラムボリューム(CV)が200~400μLになるように、上記のNHS-活性化セファロース 4 Fast Flowを充填した。次いで、CVの10倍量の1mMの冷却HClでこのカラムを洗浄した。その後、300~500μLの標的分子をこのカラムに流し込み、室温で1~3時間、インキュベートする。
【0062】
さらに未反応の活性基を除去するために、所望の濃度、例えば0.25~0.75Mのエタノールアミンを含む溶液300~500μLをこのカラム中に流し込み、室温で30分~1.5時間、インキュベートする。次いで、0.05~0.2MのTris-HClバッファ(pH 8.5)と0.25~0.75MのNaClを含む酢酸バッファ(pH 5.0)とを、それぞれCVの3倍量で交互に数回流し込み、このカラムの洗浄を行う。最後に、CVの10倍量以上のセレクションバッファを用いてこのカラムの平衡化を行う。
【0063】
上記磁性体ビーズは、所望のビーズを選ぶことができる。例えば、NHS-Activated Magnetic Beadsを使用することが低分子リガンドと固定しやすい点から好ましい。この、NHS-Activated Magnetic Beadsを0.5~1.5mM ice-cold HClで洗浄する。洗浄後、100~200μLを1.75 mLチューブに入れる。ここに、所望の標的分子、例えば1~2μM sCD40 Ligandを含むPBS溶液200~400μLを流し込み、室温で1~2時間インキュベートする。さらに未反応活性基をつぶすためにエタノールアミン1~10μLを加え、室温で0.5~1時間インキュベートした後に、Selection buffer 200μLで2回洗浄して、標的分子固定化磁性ビーズを得ることができる。
【0064】
上記カラムに例えば、10~110pmolに調製したcDNAディスプレイを加え、その後、100~300μLのセレクションバッファを加え、ただちにキャップを閉めて、室温で所望の時間、例えば、1~3時間放置する。その後例えば、200~400μLのセレクションバッファを6~10回加えて、未結合のcDNAディスプレイ分子を除去する。
【0065】
次いで、所望の濃度の還元剤、例えば25~75mMのDTT入りのセレクションバッファーをカラムに投入し、室温で所望の時間、例えば30分~1時間撹拌し、標的分子と結合しているcDNAディスプレイ分子を溶出させる。2回目以降の溶出は、所望の濃度のセレクションバッファーをカラムに投入し、室温で所望の時間撹拌後、標的分子と結合した溶出させる。
【0066】
例えば、2回目の溶出には1~5%SDS入りのセレクションバッファー200~400μLカラムに投入し、室温で10分~30分撹拌して標的分子と結合しているcDNAディスプレイ分子を溶出させることができる。例えば、3回目の溶出には0.1M グリシン-HCl(pH2.5) バッファー200~400μLカラムに投入し、室温で10分~30分撹拌して標的分子と結合しているcDNAディスプレイ分子を溶出させることができる。
【0067】
全溶出工程により得られたサンプルは次のラウンドにまわす。回収したcDNAディスプレイ分子から、次ラウンドのためのフルコンストラクトライブラリDNAを調製する。
【0068】
ラウンド2は、標的分子固定化磁性体ビーズを用いて、上記標的分子と結合するシステインリッチペプチドのcDNAディスプレイ分子を分離する。まず、所望の量の磁性体ビーズ、例えばNHS-Activated Magnetic Beads 25~75μLと、cDNAディスプレイ分子を含むセレクションバッファー150μL~250μLとを混合し、チューブローテーターを使用して、室温で0.5~2時間インキュベートして、その後上清を回収する。これによって、予め磁性体ビーズに結合したcDNAディスプレイ分子を除去することができる。
【0069】
続いて、回収した上清を、例えば、10~20μL分の標的分子固定化磁性体ビーズと混合し、チューブローテーターを使用して、室温で0.5~2時間、インキュベートする。50~200μLのセレクションバッファで適宜洗浄し、次いで、1~10mMの標的分子を含むセレクションバッファを50~200μL加えて、チューブローテーターを用いて、室温で0.5~2時間、インキュベートする。これによって、標的分子に結合しているcDNAディスプレイ分子を溶出させることができる。
【0070】
2回目の溶出として、0.5~2%SDSを含むセレクションバッファを、例えば、ここに200~400μLカラムに投入し、シェーカーを使用して、室温で10~20分撹拌する。結合しているcDNAディスプレイを溶出させて回収する。回収した溶出液をエタノール沈殿させ、上記と同様の手順によって、次ラウンドのためのフルコンストラクトライブラリDNAを調製する。ここで、上記のエタノール沈殿には、例えば、上述したQuick-Precip Plus Solutionを用いることができる。
【0071】
ラウンド3以降では、使用する磁性体ビーズをさらに減らし、洗浄回数を増やしながら、同様の操作を行う。各ラウンドの溶出液は、ラウンド1で得られたものを溶出液1、ラウンド2で得られたものを溶出液2、というように画分として得ることができる。上記溶出液に含まれるライブラリDNAをそれぞれ、フルコンストラクトに戻し、次いで、ダイレクトシーケンシングを行う。これにより、ライブラリDNAを得ることができ、また、得られたライブラリのシグナルパターンを初期ライブラリのシグナルパターンと比較することができる。
【0072】
(12)PCRによる増幅
アフィニティーセレクションの際に回収した溶液を用いて、標的分子と結合したcDNAディスプレイを、所望のプライマーを用いてPCR法等を用いて増幅させ、所望のシステインリッチペプチドのコード配列を含むDNAライブラリを作製することができる。
例えば、セレクションの際に回収した溶液を、例えば共沈剤(Quick-Precip Plus Solution, EdgeBio社製)を使用してエタノール沈殿させ、それぞれPCR反応液(1×PrimeSTAR buffer (Mg2+)、0.1~0.4mM dNTPs、4~12μM T7omeganew (配列: 5'‐GATCCCGCGAAATTAATACGACTCACTATAGGGGAAGTATTTTTACAACAATTACCAACA‐3':配列番号1)、6~10μM NewYtag、0.01~0.04U/μL PrimeSTAR HS DNA polymerase)200~400μLを加え、以下のPCRプログラムを行う。PCRプログラムは、例えば、
(a)92~96℃(1~3分)
(b)92~96℃(5~45秒)
(c)50~70℃(20~60秒)
(d)65~80℃(30~90秒)
とし、ステップ(b)~(d)を10~20サイクル行うことが、十分な増幅産物を入手できる点から好ましい。
【実施例】
【0073】
(実施例1)システインリッチペプチドをコードしたDNAライブラリの作製
(1)DNAライブラリ用DNA断片の作製
DNAライブラリは、下記表1に示す3本の合成DNA断片を作製した。F1(配列番号2)とF3(配列番号4)はユーロフィンジェノミクス(株)に0、F2(配列番号3)はつくばオリゴサービス(株)にDNAの合成を依頼して入手した。
【0074】
【0075】
上記表1中の大文字M、K及びSは、それぞれ混合塩基を示しており、その比率は下記表2の通りである。また、MKSのコドン中の理論上の各アミノ酸の出現頻度を
図2に示した。
これによると、システインの出現確率が10%、その他のアミノ酸の出現確率が90%である。したがって、3番目と28番目のシステインの間にある24アミノ酸のうち、1つ以下がシステインである確率が約29%、2又は3つがシステインである確率が約49%、4つ以上がシステインである確率が約21%と算出される。
【0076】
【0077】
まず、F2とF3のDNAフラグメントを含むPCR反応液(1×PrimeSTAR buffer (Mg2+)、0.2mM dNTPs、0.2μM F2、0.6μM F3、0.02U/μL PrimeSTAR HS DNA polymerase (タカラバイオ(株)製) 50μLを調製し、以下のPCRプログラムを用いてOverlap extension PCRを行った。PCRプログラムは、
(a)95℃(2分)
(b)95℃(20秒)
(c)58℃(20秒)
(d)72℃(30秒)
(e)72℃(2分)
とし、ステップ(b)~(d)を9サイクル行った。
【0078】
次に、このPCR産物にF1を含んだPCR反応液 (1×PrimeSTAR buffer (Mg2+)、0.2mM dNTPs、0.6μM F1、0.02U/μL PrimeSTAR HS DNA polymerase (タカラバイオ(株)製) 50μLを加えて、全量を100μLとしたのちに以下のPCRプログラムを用いてOverlap extension PCRを行った。PCRプログラムは、
(a)95℃(2分)
(b)95℃(20秒)
(c)57℃(20秒)
(d)72℃(30秒)
(e)72℃(2分)
とし、ステップ(b)~(d)を9サイクル行った。
【0079】
上記PCR反応溶液を8M 尿素変性4.5% PAGE (ATTO、AE-6510 レゾルマックス二連ミニスラブ) にて電気泳動を行い、F1~F3が連結したフルコンストラクトDNA (265 mer) を切出し、精製した。続いて、精製したフルコンストラクトDNAをPCR反応液 (1×PrimeSTAR buffer (Mg2+)、0.2 mM dNTPs、0.4 μM Newleft (配列: 5'-GATCCCGCGAAATTAATACGACTCACTATAGGG-3':配列番号5)、0.4 μM NewYtag (配列: 5'-TTTCCCCGCCGCCCCCCGTCCT-3':配列番号6)、0.02 U/μL PrimeSTAR HS DNA polymerase) 900 μLに混ぜ、50 μLずつに分注した後、以下のPCRプログラムを行った。PCRプログラムは、
(a)95℃(2分)
(b)95℃(20秒)
(c)69℃(20秒)
(d)72℃(30秒)
(e)72℃(2分)
とし、ステップ(b)~(d)を5サイクル行った。
【0080】
二本鎖化したフルコンストラクトDNAは、共沈剤 (Quick-Precip Plus Solution, EdgeBio社製) を使用してエタノール沈殿した後にFavogenのFavorPrep PCR Clean-Up Mini Kitを使用してカラム精製した。
ユーロフィンジェノミクス(株)にダイレクトシーケンシングを依頼し、作製したフルコンストラクトDNAの配列を確認した(
図3参照)。
【0081】
上記フルコンストラクトDNAのOverlap extension PCRによる調製方法のフローを
図4に示す。
図4中の記号と略の定義を以下に示す。
T7Ω: T7プロモーター、Ω配列及びKozak配列からなる配列
Ω:タバコモザイクウイルスの翻訳エンハンサー
CysRich-4:システインに対応するコード配列を4つ含む30のアミノ酸からなるペプチド
各フラグメントの反応量比は、T7Ω:CysRich-4:NewYtag-HisX6=3:1:3[mol]とした。
【0082】
本実施例で作製したDNAライブラリのランダム領域のアミノ酸配列(配列番号7)は及び塩基配列(配列番号8)を下記表3に示し、塩基配列の領域を表4に示した。また、ランダム領域のアミノ酸配列のうち、5’側から3番目及び28番目にシステインに対応するコード配列を含み、前記2つのシステインの間にさらに2つのシステインに対応するコード配列を含むアミノ酸配列の例を表5に示した。下記表3中の配列番号8の大文字M、K及びSは、それぞれ混合塩基を示す。
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
(実施例2)cDNAディスプレイ法によるシステインリッチペプチドの選択
具体的な方法は、
図5に示した通りとした。
(1)初期ライブラリDNAの転写
実施例1で作製したライブラリDNAの転写は、プロメガのキット (RiboMAX Large Scale RNA Production Systems―T7) に付属するプロトコルに従い、dsDNA 16pmol、50μLスケールで行った。アルミブロック恒温槽(Anatech社製、Cool Stat 5200)を使用して、37℃で2時間インキューベションした後、キット付属のDNase (RQ1 DNase) を3μL加え、さらに37℃で15分間インキュベートした。合成されたmRNAはFavogen社のAfter Tri-Reagent RNA Clean-Up Kitを使用して精製した。
【0087】
(2)初期ライブラリDNAのライゲーション
転写により得られたmRNA 120pmolに、ピューロマイシンリンカーDNA (Short Biotin-segment Puromycin (SBP)-linker) 120pmol、10×T4 RNA Ligase buffer (タカラバイオ(株)製) 12μL、0.1% BSA 7.2μLを加え、Nuclease-free waterで合計111μLとなるよう調製後、18.5μLずつに分注した。90℃で1分間インキュベートした後に70℃で1分間インキュベートし、0.04℃/sのスピードで25℃まで温度を下げた。T4 Polynucleotide kinase (タカラバイオ(株)製) 3μL、T4 RNA Liagse 6μLを加え、25℃で1時間インキュベートし、リンカー-mRNA連結体を作製した。上記ピューロマイシンリンカーDNAは、下記引用文献に記載の方法により作製した(
図6参照)。
引用文献:Mochizuki Y, Biyani M, Tsuji-Ueno S, Suzuki M, Nishigaki K, Husimi Y, and Nemoto N. (2011) One-pot preparation of mRNA/cDNA display by a novel and versatile puromycin-linker DNA. ACS Comb. Sci., 13, 478-485
【0088】
(3)翻訳
上記リンカー-mRNA連結体 108pmolを、無細胞翻訳系(Rabbit Reticulocyte Lysate System, Nuclease Treat、Promega社製)900μLスケールで翻訳した。翻訳は25μLずつ1.75 mLチューブに分注してから、30℃で20分間行った。その後、MgCl2、KClをそれぞれ最終濃度75mM、900mMとなるように加えて37℃で1時間インキュベートすることで、ペプチドディスプレイを得た。
【0089】
(4)逆転写
翻訳した産物を9本分ずつまとめ (360μL×4本)、 0.5M EDTA (pH 8.0) 64μL、2×Binding buffer (20mM Tris-HCl pH7.5, 2M NaCl, 2mM EDTA, 0.2% Tween-20) 424μLを加え4℃で10分間インキュベートすることで、ペプチドディスプレイに結合しているリボソームを除去した。1× Binding buffer で洗浄済みのDynabeads MyOne C1 Streptavidin 250μLを1.75mL チューブ(×4本)に用意し、翻訳産物848μL分を加え、冷却サーモブロックローテーター((株)日伸理化製、SNP-24B)を使用して25℃で30min撹拌した。Dynabeadsを1×Binding buffer 150μLで3回洗浄しつつ、1本の1.75mLチューブにまとめた。
逆転写はReverTra Ase(東洋紡(株)製)に付属のプロトコルに従い、1mL分のDynabeadsに対して800μLのスケールで行った。冷却サーモブロックローテーターを使用して42℃で60min撹拌した。
【0090】
(5)磁性体ビーズ上での空気酸化によるフォールディング
逆転写後のDynabeadsをSelection buffer (50mM Tris-HCl pH7.4, 1M NaCl, 1mM EDTA, 0.1% Tween-20)で2回洗浄した後、800μLのSelection bufferを加え、冷却サーモブロックローテーターを使用して4℃で一晩撹拌した。
【0091】
(6)磁性体ビーズ上からの回収
1×His-tag binding buffer (20mM sodium phosphate pH7.4, 0.5M NaCl, 5mM Imidazole, 0.05% Tween20) 500μLでDynabeadsを洗浄した後に、RNase T1 (Ambion社製) 1000U入りの1×His-tag binding buffer 300μLを加え、37℃で20minインキュベートした。その後、上清を回収しmRNA-cDNA連結体を回収した。
【0092】
(7)His-tagによる精製
回収したmRNA-cDNA連結体サンプル300μLに、1×His-tag binding bufferにより洗浄済みの His Mag Sepharose Ni (GE healthcare社製) 50μL分を加え、冷却サーモブロックローテーターを使用して25℃で1時間撹拌した。1×His-tag wash buffer (20mM sodium phosphate pH7.4, 0.5M NaCl, 20mM Imidazole, 0.05% Tween20) 100μLで3回洗浄した後に、1×His-tag elution buffer (20mM sodium phosphate pH7.4, 0.5M NaCl, 250mM Imidazole, 0.05% Tween20)を50μL加え、マイクロチューブミキサー((株)トミー精工製、MT-360)を使用して、室温で15分間撹拌した。その後、上清を回収した。
回収した上清はBIO-RADのBio-Spin 6 Tris Columnsを用いて、1×His-tag elution bufferからSelection bufferへのバッファー交換を行った。
【0093】
(8)cDNAディスプレイ分子からのフルコンストラクトDNA調製
エタノール沈殿させたcDNAディスプレイ分子が入った1.75mLチューブに、PCR反応液(1×PrimeSTAR buffer (Mg2+)、0.2 mM dNTPs、8 μM T7omeganew、8 μM NewYtag、0.02U/μL PrimeSTAR HS DNA polymerase)300μLを加え、以下のPCRプログラムを行った。PCRプログラムは、
(a)95℃(2分)
(b)95℃(15秒)
(c)68℃(35秒)
(d)68℃(1分)
とし、ステップ(b)~(d)を16サイクル行った。
【0094】
(実施例3)sCD40 Ligand結合システインリッチペプチドのセレクション
(1)担体へのsCD40 Ligandの固定化
cDNAディスプレイ分子ライブラリ中から、sCD40 Ligandに結合するcDNAディスプレイ分子を分離するために使用するsCD40 Ligand固定化ビーズ(アガロースビーズ、磁性体ビーズ)を調製した。
【0095】
以下にsCD40 Ligand固定化アガロースビーズを充填したカラムの作製手順を記す。
アガロースビーズはNHS-activated Sepahrose 4 Fast Flow (GE healthcare社製)を使用し、MicroSpin Empty Columns (GE healthcare社製) カラムボリューム(CV)が300μLになるように充填した。CVの10倍量の1mM ice-cold HClで洗浄した後に、6μM sCD40 Ligandを含むPBS溶液300μLを流し込み、室温で2時間インキュベートした。さらに未反応活性基をつぶすためにethanolamine 5μLを加え、室温で1時間インキュベートした。CVの10倍量以上のSelection bufferにより洗浄した。
【0096】
以下にsCD40 Ligand固定化磁性体ビーズの作製手順を記す。
磁性体ビーズには、NHS-Activated Magnetic Beads (Thermo Scientific社製)を使用した。1mM ice-cold HClで洗浄済みのNHS-Activated Magnetic Beads 100μLを1.75mLチューブに用意し、1.5μM sCD40 Ligandを含むPBS溶液300μLを流し込み、室温で2時間インキュベートした。さらに未反応活性基をつぶすためにethanolamine 5μLを加え、室温で1時間インキュベートした後に、Selection buffer 200μLで2回洗浄した。
【0097】
(2)アフィニティーセレクション
使用する担体は、ラウンド1はアガロースビーズ、ラウンド2以降は磁性体ビーズを用いた。セレクションのラウンド1では108pmol、その後のラウンド2~4ではそれぞれ42、24、12pmol分のリンカー-mRNA連結体から調製したcDNAディスプレイ分子をセレクションに使用した。また各調製ステップも適宜スケールダウンして行った。
【0098】
ラウンド1ではsCD40 Ligand固定化カラムを用いてsCD40 Ligandに結合するシステインリッチペプチドのcDNAディスプレイ分子を分離した。調製したcDNAディスプレイライブラリを投入し沈みきった後にSelection buffer 250μLを投入し、すぐにキャップを閉め室温で2時間放置した。その後Selection buffer 300μLを3回投入することで未結合のcDNAディスプレイ分子を除去した。50mM DTT入りのSelection buffer 300μLをカラムに投入し室温で30分間撹拌し、sCD40 Ligandに結合しているcDNAディスプレイ分子を溶出させた。続いて2回目の溶出として1% SDS入りのSelection buffer 300μLをカラムに投入し室温で10分間撹拌した。最後に、3回目の溶出としてE3 buffer(0.1M Glycine-HCl, pH2.5) 300μLをカラムに投入し室温で10分間撹拌した。全3回の溶出の工程により得られたサンプルはすべて次ラウンドに回した。回収した溶出液をそれぞれQuick-Precip Plus Solutionを用いてエタノール沈殿し、cDNAディスプレイ分子からのフルコンストラクトDNA調製と同様の手順により、回収したcDNAディスプレイ分子から次ラウンドのためのフルコンストラクトライブラリDNAを調製した。
【0099】
ラウンド2以降はsCD40 Ligand固定化磁性体ビーズを用いて、sCD40 Ligandに結合するシステインリッチペプチドのcDNAディスプレイ分子を分離した。反応活性基をethanolamine でつぶしたNHS-Activated Magnetic Beads 50μLとcDNAディスプレイ分子を含むSelection buffer 200μLを混合しチューブローテーターを使用して室温で1時間インキュベートすることで、予め磁性体ビーズに結合するcDNAディスプレイ分子を除去した。その上清を、調製したsCD40 Ligand固定化磁性体ビーズ 50μL分と混合しチューブローテーターを使用しつつ室温で1時間インキュベートした。Selection buffer 200 μLで5回洗浄した後に、50mM DTT入りのSelection buffer 300μLをカラムに投入し室温で30分撹拌することで、sCD40 Ligandに結合しているcDNAディスプレイ分子を溶出させた。
【0100】
続いて2回目の溶出として1% SDS入りのSelection buffer 300μLをカラムに投入し室温で10分間撹拌した。最後に、3回目の溶出としてE3 buffer(0.1M Glycine-HCl, pH2.5) 300μLをカラムに投入し室温で10分間撹拌した。回収した溶液をQuick-Precip Plus Solutionを用いてエタノール沈殿し、(実施例1)と同様の手順により、次ラウンドのためのフルコンストラクトライブラリDNAを調製した。
ラウンド2~4では洗浄する回数を5、10、10回と増やしていき、ラウンド4では比較のためにsCD40 Ligandを固定化していない磁性体ビーズを調製して同様のセレクションを行った。
【0101】
(3)セレクションの確認用PCR
セレクションの際に回収した溶液(固定化上清、洗浄)も、溶出と同様にエタノール沈殿させ、それぞれPCR反応液(1×PrimeSTAR buffer (Mg
2+)、0.2mM dNTPs、8μM T7omeganew、8μM NewYtag、0.02U/μL PrimeSTAR HS DNA polymerase)300μLを加え、以下のPCRプログラムを行った。PCRプログラムは、
(a)95℃(2分)
(b)95℃(15秒)
(c)68℃(35秒)
(d)68℃(1分)
とし、ステップ(b)~(d)を16サイクル行った。
上記PCR反応溶液を8M Urea変性4.5% PAGEにて電気泳動し、セレクションの確認を行った(
図7及び
図8参照)。その結果、
図7で示した、従来のシステインリッチペプチド配列に比べ、
図8に示した本願のシステインリッチペプチド配列のほうが、sCD40 Ligandと結合しやすいことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本願発明は、医薬分野、特に診断薬の分野において有用である。
【配列表フリーテキスト】
【0103】
配列番号1:cDNAのPCR用フォワードプライマー
配列番号2:DNAライブラリ合成用のDNA断片の塩基配列(F1)
配列番号3:DNAライブラリ合成用のシステインリッチペプチドのコード配列
配列番号4:DNAライブラリ合成用のDNA断片の塩基配列(F3)
配列番号5:フルコンストラクトDNAのPCR用フォワードプライマー
配列番号6:フルコンストラクトDNAのPCR用リバースプライマー
配列番号7:DNAライブラリのランダム領域のアミノ酸配列
配列番号8:DNAライブラリの塩基配列
配列番号9:システインリッチペプチドのアミノ酸配列
配列番号10:システインリッチペプチドのアミノ酸配列
配列番号11:システインリッチペプチドのアミノ酸配列
配列番号12:システインリッチペプチドのアミノ酸配列
配列番号13:システインリッチペプチドのアミノ酸配列
配列番号14:システインリッチペプチドのアミノ酸配列
【配列表】