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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-06
(45)【発行日】2022-10-17
(54)【発明の名称】多剤型組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B02C 18/12 20060101AFI20221007BHJP
   B01F 27/00 20220101ALI20221007BHJP
   B01F 27/80 20220101ALI20221007BHJP
   B01F 35/10 20220101ALI20221007BHJP
   B01F 33/82 20220101ALI20221007BHJP
【FI】
B02C18/12
B01F27/00
B01F27/80
B01F35/10
B01F33/82
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018079120
(22)【出願日】2018-04-17
(65)【公開番号】P2019181410
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-03-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000006769
【氏名又は名称】ライオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】石瀬 一帆
(72)【発明者】
【氏名】本田 弘旭
(72)【発明者】
【氏名】田中 修
【審査官】高橋 成典
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-144996(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0025178(US,A1)
【文献】特許第4902994(JP,B2)
【文献】特開平09-206617(JP,A)
【文献】実開昭55-126957(JP,U)
【文献】特開2006-055811(JP,A)
【文献】特開2007-190447(JP,A)
【文献】特開2012-101985(JP,A)
【文献】実開昭62-56130(JP,U)
【文献】欧州特許第1210184(EP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B02C 13/00 - 13/31
18/00 - 18/38
B01F 27/00 - 27/96
35/00 - 35/95
29/00 - 33/87
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均圧壊強さが0.6~3.0MPaであり、平均粒径が2.0mm以下である粒状剤型0.1~5.0質量部と、25℃における粘度が20~200Pa・sである高粘度剤型100質量部との混合物である多剤型組成物を製造する方法であり、
下記ホモジナイザーを備えた混合装置を用い、下記条件I~IIIを満足するように前記粒状剤型と前記高粘度剤型とを混合する、多剤型組成物の製造方法。
(ホモジナイザー)
外側から順に円筒状の固定刃と、前記固定刃と同軸的に配置された回転刃とを交互に有し、
前記固定刃には、内側から外側に貫通した複数の流路が形成され、
前記固定刃の流路は、内側から外側に向かうにしたがって前記固定刃の周方向に傾斜している、ホモジナイザー。
(条件I)
前記ホモジナイザーの固定刃と回転刃との間のクリアランス、前記粒状剤型の平均粒径および前記粒状剤型の圧壊時平均圧縮ひずみが、下記式を満足する。
A>B×(100-C)/100
ただし、Aは、固定刃と回転刃との間のクリアランス(mm)であり、Bは、粒状剤型の平均粒径(mm)であり、Cは、粒状剤型の圧壊時平均圧縮ひずみ(%)である。
(条件II)
前記固定刃の流路が内側から外側に向かうにしたがって固定刃の周方向に傾斜している方向と同じ方向に前記回転刃を回転させる。
(条件III)
前記固定刃と前記回転刃との間におけるせん断速度が、20,000s-1以下である。
【請求項2】
前記混合装置が、アンカー翼を有する撹拌槽をさらに備えた、請求項1に記載の多剤型組成物の製造方法。
【請求項3】
前記混合装置が、前記撹拌槽で混合され、次いで前記ホモジナイザーでさらに混合されて前記ホモジナイザーから吐出された前記粒状剤型および前記高粘度剤型を、前記撹拌槽に返送する外部循環ラインをさらに備えた、請求項2に記載の多剤型組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多剤型組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歯磨剤、コンディショナー、トリートメント、スキンクリーム等の高粘度剤型を製造する方法としては、固定刃と回転刃とを有するホモジナイザーを用いて、原料に高いせん断力を加えながら原料を均一に混合する方法が知られている(特許文献1)。
【0003】
また、最近では、皮膜内に油性成分(香料、有効成分等)を内包したカプセル剤等の粒状剤型を、歯磨剤に配合することが提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-144996号公報
【文献】特許第4902994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、カプセル剤等の粒状剤型は使用時(歯磨時等)に崩壊しやすいように設計されているため、ホモジナイザーを用いて歯磨剤等の高粘度剤型と粒状剤型とを混合した場合、粒状剤型が崩壊してしまうという問題がある。
【0006】
本発明は、粒状剤型の崩壊を抑えつつ、粒状剤型と高粘度剤型とを均一に混合できる多剤型組成物の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記の態様を有する。
<1>平均圧壊強さが0.6~3.0MPaであり、平均粒径が2.0mm以下である粒状剤型と、高粘度剤型との混合物である多剤型組成物を製造する方法であり、下記ホモジナイザーを備えた混合装置を用い、下記条件I~IIIを満足するように前記粒状剤型と前記高粘度剤型とを混合する、多剤型組成物の製造方法。
(ホモジナイザー)
円筒状の固定刃と、固定刃の内側にかつ固定刃と同軸的に配置された回転刃とを有し、前記固定刃には、内側から外側に貫通した複数の流路が形成され、前記固定刃の流路は、内側から外側に向かうにしたがって前記固定刃の周方向に傾斜している、ホモジナイザー。
(条件I)
前記ホモジナイザーの固定刃と回転刃との間のクリアランス、前記粒状剤型の平均粒径および前記粒状剤型の圧壊時平均圧縮ひずみが、下記式を満足する。
A>B×(100-C)/100
ただし、Aは、固定刃と回転刃との間のクリアランス(mm)であり、Bは、粒状剤型の平均粒径(mm)であり、Cは、粒状剤型の圧壊時平均圧縮ひずみ(%)である。
(条件II)
前記固定刃の流路が内側から外側に向かうにしたがって固定刃の周方向に傾斜している方向と同じ方向に前記回転刃を回転させる。
(条件III)
前記固定刃と前記回転刃との間におけるせん断速度が、20,000s-1以下である。
<2>前記混合装置が、アンカー翼を有する撹拌槽をさらに備えた、前記<1>の多剤型組成物の製造方法。
<3>前記混合装置が、前記撹拌槽で混合され、次いで前記ホモジナイザーでさらに混合されて前記ホモジナイザーから吐出された前記粒状剤型および前記高粘度剤型を、前記撹拌槽に返送する外部循環ラインをさらに備えた、前記<2>の多剤型組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の多剤型組成物の製造方法によれば、粒状剤型の崩壊を抑えつつ、粒状剤型と高粘度剤型とを均一に混合できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】混合装置の一例を示す概略構成図である。
図2】ホモジナイザーの一例を示す、固定刃および回転刃の中心軸に直交する方向の断面図である。
図3】ホモジナイザーの一例を示す、固定刃および回転刃の中心軸に沿う方向の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の用語の定義は、本明細書および特許請求の範囲にわたって適用される。
「多剤型組成物」は、複数種類の剤型の混合物を意味する。
「粒状剤型」は、粒状の固形剤を意味する。
「高粘度剤型」は、25℃における粘度が20Pa・s以上である半固形剤または液剤を意味する。
「25℃における粘度」は、単一円筒型回転式粘度計を用い、20rpm、25℃で測定される、測定開始から3分後の測定値である。
「圧壊強さ」は、JIS R 1639-5:2007に準拠して、粒状剤型が圧壊するときの試験力(圧壊試験力)を測定し、下記式から求めた値である。
σ=2.48×P/(π×d
ただし、σは、圧壊強さ(MPa)であり、Pは、圧壊試験力(N)であり、dは、粒状剤型の粒径(mm)である。
「平均圧壊強さ」は、無作為に選ばれた20個の粒状剤型について圧壊強さを求め、算術平均した値である。
「圧壊時圧縮ひずみ」は、圧壊試験力を測定する際に、粒状剤型が圧壊するときの圧縮変位(圧壊時圧縮変位)を測定し、下記式から求めた値である。
ε=Δd/d×100
ただし、εは、圧壊時圧縮ひずみ(%)であり、Δdは、圧壊時圧縮変位(μm)であり、dは、圧縮前の粒状剤型の粒径(μm)である。
「圧壊時平均圧縮ひずみ」は、無作為に選ばれた20個の粒状剤型について圧壊時圧縮ひずみを求め、算術平均した値である。
「粒径」は、粒状剤型内で得られる最大長の値である。
「平均粒径」は、無作為に選ばれた10000個の粒状剤型の粒径を算術平均した値である。
「固定刃と回転刃との間におけるせん断速度」は、下記式から求めた値である。
D=v/A
ただし、Dは、せん断速度(s-1)であり、vは、回転刃の周速(mm/s)であり、Aは、固定刃と回転刃との間のクリアランス(mm)である。
数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含むことを意味する。
図1図3における寸法比は、説明の便宜上、実際のものとは異なったものである。
【0011】
本発明の多剤型組成物の製造方法は、ホモジナイザーを備えた混合装置を用いて崩壊しやすい粒状剤型と高粘度剤型とを、後述する条件I~IIIを満足するように混合することによって、粒状剤型と高粘度剤型との混合物である多剤型組成物を製造する方法である。
【0012】
(混合装置)
本発明の製造方法に用いる混合装置は、ホモジナイザーを備える。
混合装置は、必要に応じて、アンカー翼を有する撹拌槽をさらに備えていてもよい。
混合装置は、必要に応じて、撹拌槽で混合され、次いでホモジナイザーでさらに混合されてホモジナイザーから吐出された粒状剤型および高粘度剤型を、撹拌槽に返送する外部循環ラインをさらに備えていてもよい。
【0013】
図1は、混合装置の一例を示す概略構成図である。
混合装置1は、撹拌槽10と、撹拌槽10の底部に接続するホモジナイザー20と、ホモジナイザー20から吐出された粒状剤型および高粘度剤型を撹拌槽10に返送する外部循環ライン40とを備える。
【0014】
撹拌槽10は、槽本体12と、槽本体12の内部に配置されたアンカー翼14と、アンカー翼14を回転させるモーター(図示略)とを備える。
槽本体12は、底部に内容物の排出口12aを有する。
アンカー翼14は、中心部16とU字部18とを有する。
【0015】
中心部16は、槽本体12の高さ方向と平行に配置される回転軸16aと、回転軸16aから槽本体12の側壁面側に突出する複数の羽根16bとを有する。
U字部18は、回転軸16aの先端から槽本体12の側壁面に沿って上方に延びるU字軸18aと、U字軸18aから回転軸16a側に突出する複数の羽根18bと、U字軸18aから槽本体12の側壁面側に突出し、側壁面を掻き取る複数の羽根18cとを有する。
中心部16およびU字部18は、個別にまたは一緒に、かつ同方向または逆方向に回転自在に設けられている。
【0016】
図2は、ホモジナイザー20の固定刃および回転刃の中心軸に直交する方向の断面図(図3のII-II断面図)である。図3は、ホモジナイザー20の固定刃および回転刃の中心軸に沿う方向の断面図(図2のIII-III断面図)である。
ホモジナイザー20は、固定部22と、回転部32と、回転部32を回転させるモーター(図示略)とを有する。
【0017】
回転部32は、回転軸34と、回転軸34の上端に設けられた円板状の回転円板36と、回転円板36の外周縁から上方に延びる回転刃38とを有する。
固定部22は、回転刃38の上端を覆うように配置され、中央に開口24aが形成されたリング状の天板24と、天板24の外周縁から下方に延びる円筒状の第1固定刃26と、天板24の内周縁から下方に延びる円筒状の第2固定刃28と、回転円板36の下方に配置され、回転部32の回転軸34の軸受けとなる開口30aが形成され、外周縁に第1固定刃26の下端が固定される円板状の軸受け板30とを有する。
回転刃38は、第1固定刃26の内側にかつ第2固定刃28の外側に配置される。また、第1固定刃26、回転刃38および第2固定刃28は、回転軸34の中心軸と同軸的に配置される。
【0018】
第1固定刃26は、周方向に沿う壁状の羽根26aが円周等分の複数箇所に間隔をあけて設けられたものであり、櫛歯状となっている。羽根26aの数は、10~60が好ましい。羽根26aの数が前記範囲内であれば、本発明の効果が発揮されやすい。
隣り合う2つの羽根26aの間には、第1固定刃26の内側から外側に貫通した複数の流路26bが形成される。流路26bの最小幅は、粒状剤型の崩壊を抑え、かつ流量を確保する点から、粒状剤型の平均粒径以上が好ましい。流路26bの最小幅は、第1固定刃26と回転刃38との間の各剤型に効率よくせん断力を加える点から、羽根26aの周方向の長さ以下が好ましい。
流路26bは、内側から外側に向かうにしたがって第1固定刃26の周方向(図2における時計回りの方向)に傾斜している。流路26bの傾斜角は、第1固定刃26の半径方向を基準(0度)として、30~60度が好ましい。流路26bの傾斜角が前記範囲内であれば、本発明の効果が発揮されやすい。
【0019】
第2固定刃28は、周方向に沿う壁状の羽根28aが円周等分の複数箇所に間隔をあけて設けられたものであり、櫛歯状となっている。羽根28aの数は、10~60が好ましい。羽根28aの数が前記範囲内であれば、本発明の効果が発揮されやすい。
隣り合う2つの羽根28aの間には、第2固定刃28の内側から外側に貫通した複数の流路28bが形成される。流路28bの最小幅は、粒状剤型の崩壊を抑え、かつ流量を確保する点から、粒状剤型の平均粒径以上が好ましい。流路28bの最小幅は、第2固定刃28と回転刃38との間の各剤型に効率よくせん断力を加える点から、羽根28aの周方向の長さ以下が好ましい。
流路28bは、内側から外側に向かうにしたがって第2固定刃28の周方向(図2における時計回りの方向)に傾斜している。流路28bは、第1固定刃26の流路26bと同じ方向に傾斜している。流路28bの傾斜角は、第2固定刃28の半径方向を基準(0度)として、30~60度が好ましい。流路28bの傾斜角が前記範囲内であれば、本発明の効果が発揮されやすい。
【0020】
回転刃38は、半径方向に延びる羽根38aが円周等分の複数箇所に間隔をあけて設けられたものであり、櫛歯状となっている。羽根38aの数は、10~60が好ましい。羽根38aの数が前記範囲内であれば、本発明の効果が発揮されやすい。
隣り合う2つの羽根38aの間には、第2固定刃28の内側から外側に貫通した複数の流路38bが形成される。流路38bの最小幅は、粒状剤型の崩壊を抑え、かつ流量を確保する点から、粒状剤型の平均粒径以上が好ましい。流路38bの最小幅は、第1固定刃26と回転刃38との間、および第2固定刃28と回転刃38との間の各剤型に効率よくせん断力を加える点から、羽根26aの周方向の長さ以下かつ羽根28aの周方向の長さ以下が好ましい。
流路38bは、回転刃38の半径方向に沿って形成される。
【0021】
第1固定刃26と回転刃38との間のクリアランスは、後述する条件Iを満足するように適宜設定される。
第2固定刃28と回転刃38との間のクリアランスは、後述する条件Iを満足するように適宜設定される。
【0022】
外部循環ライン40の途中からは、多剤型組成物を混合装置1から排出するための排出ライン42が分岐している。外部循環ライン40から排出ライン42が分岐する分岐点には、三方弁44が設けられている。
【0023】
(粒状剤型)
粒状剤型としては、カプセル剤、マイクロゲル粒子、顆粒剤等が挙げられる。
カプセル剤としては、皮膜内に油性成分(香料、有効成分等)を内包したものが挙げられる。
マイクロゲル粒子としては、ゲル化剤、油性成分および界面活性剤を含む混合物を水中で分散させゲル化させて得られたハイドロゲル粒子等が挙げられる。
顆粒剤としては、顆粒ゼオライト、研磨性シリカと水不溶性結合剤を用いて造粒した水不溶性顆粒等が挙げられる。
【0024】
粒状剤型の平均圧壊強さは、0.6~3.0MPaであり、0.6~2.0MPaが好ましく、1.0~1.5MPaがより好ましい。粒状剤型の平均圧壊強さが前記範囲の下限値以上であれば、ホモジナイザー20を用いて高粘度剤型と粒状剤型とを混合する際に粒状剤型が容易に崩壊することがない。粒状剤型の平均圧壊強さが前記範囲の上限値以下であれば、多剤型組成物の使用時(歯磨時等)に粒状剤型が崩壊しやすい。
【0025】
粒状剤型の平均粒径は、2.0mm以下であり、0.2~2.0mmが好ましく、0.5~2.0mmがより好ましく、0.5~1.5mmがさらに好ましい。粒状剤型の平均粒径が前記範囲の下限値以上であれば、多剤型組成物の使用時(歯磨時等)に粒状剤型が崩壊しやすい。粒状剤型の平均粒径が前記範囲の上限値以下であれば、ホモジナイザー20を用いて高粘度剤型と粒状剤型とを混合する際に粒状剤型が容易に崩壊することがない。
【0026】
(高粘度剤型)
高粘度剤型としては、歯磨剤、コンディショナー、トリートメント、スキンクリーム等が挙げられる。
歯磨剤の原料としては、研磨剤、発泡剤、湿潤剤、粘結剤、香料等が挙げられる。
【0027】
高粘度剤型の25℃における粘度は、20~200Pa・sが好ましく、40~130Pa・sが好ましい。高粘度剤型の25℃における粘度が前記範囲内であれば、ホモジナイザーを備えた混合装置を用いて粒状剤型と高粘度剤型とを均一に混合しやすい。
【0028】
(多剤型組成物)
多剤型組成物は、平均圧壊強さおよび平均粒径が特定の範囲内にある特定の粒状剤型と高粘度剤型との混合物である。
多剤型組成物は、必要に応じて、特定の粒状剤型以外の粒状剤型を含んでいてもよい。また、多剤型組成物は、必要に応じて、粒状剤型および高粘度剤型以外の剤型を含んでいてもよい。
粒状剤型の配合量は、高粘度剤型の100質量部に対して、通常、0.1~5.0質量部である。
【0029】
(混合方法)
高粘度剤型は、別の撹拌槽であらかじめ調製してもよく、粒状剤型を投入する前に撹拌槽10で調製してもよく、粒状剤型との混合と同時に調製してもよい。
高粘度剤型またはその原料、および粒状剤型を撹拌槽10内に投入し、アンカー翼14によって撹拌し、予備混合する。アンカー翼14の周速は、0.6~3.6m/sが好ましく、1.0~3.0m/sがより好ましい。高粘度剤型および粒状剤型をアンカー翼14によって予備混合することによって、撹拌槽10内の高粘度剤型および粒状剤型を偏りなくホモジナイザー20に供給できるため、撹拌槽10内の高粘度剤型および粒状剤型の全体をムラなく混合できる。
【0030】
予備混合された粒状剤型および高粘度剤型をホモジナイザー20の第2固定刃28の内側に供給する。第2固定刃28の内側に供給された粒状剤型および高粘度剤型は、第2固定刃28の流路28bを通って、回転刃38の流路38bに流れ込む。回転刃38が回転することによって、粒状剤型および高粘度剤型に遠心力が加わり、粒状剤型および高粘度剤型が第1固定刃26の流路26bから外側に吐出される。この際、回転する回転刃38と第1固定刃26との間、および回転する回転刃38と第2固定刃28との間に流れ込んだ粒状剤型および高粘度剤型に高いせん断力が加わり、粒状剤型が高粘度剤型に均一に分散される。
【0031】
ホモジナイザー20で混合されてホモジナイザー20から吐出された粒状剤型および高粘度剤型は、外部循環ライン40を通って撹拌槽10の上部に返送される。外部循環ライン40によって撹拌槽10とホモジナイザー20との間で粒状剤型および高粘度剤型を循環させることによって、撹拌槽10内の高粘度剤型および粒状剤型を偏りなくホモジナイザー20に供給できるため、撹拌槽10内の高粘度剤型および粒状剤型の全体をムラなく混合できる。
【0032】
(条件I)
本発明においては、ホモジナイザー20の第1固定刃26と回転刃38との間のクリアランス、粒状剤型の平均粒径および粒状剤型の圧壊時平均圧縮ひずみが、下記式を満足するように粒状剤型と高粘度剤型とを混合する。
また、第2固定刃28と回転刃38との間のクリアランス、粒状剤型の平均粒径および粒状剤型の圧壊時平均圧縮ひずみが、下記式を満足するように粒状剤型と高粘度剤型とを混合する。
A>B×(100-C)/100
ただし、Aは、固定刃と回転刃との間のクリアランス(mm)であり、Bは、粒状剤型の平均粒径(mm)であり、Cは、粒状剤型の圧壊時平均圧縮ひずみ(%)である。
【0033】
「B×(100-C)/100」は、圧壊時の粒状剤型の圧縮方向の粒径を表している。固定刃と回転刃との間のクリアランスAが、圧壊時の粒状剤型の圧縮方向の粒径よりも大きければ、固定刃と回転刃との間に粒状剤型が挟まれて圧縮変形しても、粒状剤型が崩壊しにくい。
【0034】
(条件II)
本発明においては、第1固定刃26の流路26bが内側から外側に向かうにしたがって第1固定刃26の周方向に傾斜している方向(以下、「流路の傾斜方向」とも記す。)および第2固定刃28の流路28bの傾斜方向と同じ方向(図2における時計回りの方向)に回転刃38を回転させる。
【0035】
回転刃38が回転することによって、粒状剤型および高粘度剤型に周方向の力および遠心力が加わるため、粒状剤型および高粘度剤型の流れ方向は、回転刃38の回転方向かつ回転刃38から外側にしだいに離れる方向となる。
よって、回転刃38を時計回りの方向に回転させると、粒状剤型および高粘度剤型の流れ方向は、第1固定刃26の流路26bの傾斜方向とほぼ同じ方向となる。そのため、回転する回転刃38と第1固定刃26との間に流れ込んだ粒状剤型および高粘度剤型が、スムーズに第1固定刃26の流路26bに流れ込む。その結果、粒状剤型および高粘度剤型に過度のせん断力が加わりにくく、粒状剤型が崩壊しにくい。
一方、回転刃38を反時計回りの方向に回転させると、粒状剤型および高粘度剤型の流れ方向は、第1固定刃26の流路26bの傾斜方向と交差する方向となる。そのため、回転する回転刃38と第1固定刃26との間に流れ込んだ粒状剤型および高粘度剤型が、第1固定刃26の流路26bに流れ込むときに、粒状剤型および高粘度剤型に過度のせん断力が加わり、粒状剤型が崩壊しやすい。
【0036】
(条件III)
第1固定刃26と回転刃38との間におけるせん断速度および第2固定刃28と回転刃38との間におけるせん断速度は、20,000s-1以下であり、5,000~20,000s-1が好ましく、10,000~15,000s-1がより好ましい。せん断速度が前記範囲の下限値以上であれば、粒状剤型が高粘度剤型に均一に分散されやすい。せん断速度が前記範囲の上限値以下であれば、粒状剤型および高粘度剤型に過度のせん断力が加わりにくく、粒状剤型が崩壊しにくい。
【0037】
(作用機序)
以上説明した本発明の多剤型組成物の製造方法にあっては、ホモジナイザーを備えた混合装置を用いて粒状剤型と高粘度剤型とを混合しているため、粒状剤型と高粘度剤型とを均一に混合できる。
また、下記の理由から、ホモジナイザーを備えた混合装置を用いて粒状剤型と高粘度剤型とを混合しているにもかかわらず、粒状剤型の崩壊が抑えられる。
i)粒状剤型の平均圧壊強さが0.6MPa以上であり、粒状剤型の平均粒径が2.0mm以下であるため、ホモジナイザーを用いて高粘度剤型と粒状剤型とを混合する際に粒状剤型が容易に崩壊することがない。
ii)条件Iを満足するように、すなわち固定刃と回転刃との間のクリアランスを、圧壊時の粒状剤型の圧縮方向の粒径よりも大きくして、粒状剤型と高粘度剤型とを混合しているため、固定刃と回転刃との間に粒状剤型が挟まれて圧縮変形しても、粒状剤型が崩壊しにくい。
iii)条件IIを満足するように、すなわち固定刃の流路の傾斜方向と同じ方向に回転刃を回転させて、粒状剤型と高粘度剤型とを混合しているため、回転する回転刃と固定刃との間に流れ込んだ粒状剤型および高粘度剤型が、スムーズに固定刃の流路に流れ込む。その結果、粒状剤型および高粘度剤型に過度のせん断力が加わりにくく、粒状剤型が崩壊しにくい。
iv)条件IIIを満足するように、すなわち固定刃と回転刃との間におけるせん断速度を比較的低く抑えているため、粒状剤型および高粘度剤型に過度のせん断力が加わりにくく、粒状剤型が崩壊しにくい。
【0038】
(他の実施形態)
なお、本発明の多剤型組成物の製造方法は、上述したホモジナイザーを備えた混合装置を用い、上述した条件I~IIIを満足するように、平均圧壊強さおよび平均粒径が特定の範囲にある粒状剤型と高粘度剤型とを混合する方法であればよく、図示例の混合装置を用いた方法に限定されない。
例えば、混合装置として、外部循環ラインを備えていないものを用いてもよい。
混合装置として、アンカー翼以外の撹拌翼を有する撹拌槽を備えたものを用いてもよい。
混合装置として、撹拌槽を備えていないものを用いてもよい。
ホモジナイザーとして、第2固定刃28を有さないものを用いてもよい。
ホモジナイザーとして、第2固定刃28の内側にかつ第2固定刃28と同軸的に配置された第2回転刃を有するものを用いてもよい。
ホモジナイザーとして、固定刃と回転刃との組み合わせを3組以上有するものを用いてもよい。
【実施例
【0039】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
(粘度)
高粘度剤型の25℃における粘度は、単一円筒型回転式粘度計(東機産業社製、TVB10H)を用い、20rpm、25℃で測定される、測定開始から3分後の測定値とした。
【0041】
(粒径)
粒状剤型の粒径は、画像解析粒度分布計(ジャスコインタナショナル社製、FF-30micro)を用いて粒状剤型の最大長を測定して求めた。
粒状剤型の平均粒径は、無作為に選ばれた10000個の粒状剤型の粒径を算術平均して求めた。
【0042】
(平均圧壊強さ)
高粘度剤型に粒状剤型を添加して10分後に高粘度剤型内から無作為に選ばれた20個の粒状剤型について、小型卓上試験機(株式会社島津製作所製、EZ-SX)を用い、JIS R 1639-5:2007に準拠して試験速度:1mm/minの条件にて圧壊試験力を測定し、圧壊強さを求め、算術平均したものを平均圧壊強さとした。
【0043】
(圧壊時平均圧縮ひずみ)
高粘度剤型に粒状剤型を添加して10分後に高粘度剤型内から無作為に選ばれた20個の粒状剤型について、圧壊試験力を測定する際に、圧壊時圧縮変位)を測定し、圧壊時圧縮ひずみを求め、算術平均したものを圧壊時平均圧縮ひずみとした。
【0044】
(粒状剤型の崩壊性)
撹拌槽内から多剤型組成物をサンプリングし、崩壊していない粒状剤型の数を目視にてカウントした。サンプリング量は、高粘度剤型および粒状剤型の投入量から求めた多剤型組成物の単位質量あたりの粒状剤型の理論数から算出される、サンプル内の粒状剤型の理論数が20~100個程度になる一定量とした。同じ操作を10回繰り返し、算術平均を求めてサンプル内の粒状剤型の実測数とした。サンプル内の粒状剤型の実測数とサンプル内の粒状剤型の理論数とを用い、下記式から粒状剤型の残存率を求めた。
残存率(%)=(粒状剤型の実測数)/(粒状剤型の理論数)×100
下記基準にて粒状剤型の崩壊性を評価した。
○:残存率90%以上。
×:残存率90%未満。
【0045】
(実施例1)
混合装置として、図1に示す混合装置1を用いた。
ホモジナイザーとして、図2および図3に示すホモジナイザー20を用いた。
粒状剤型として、平均圧壊強さが0.6MPaであり、平均粒径が1.9mmであり、圧壊時平均圧縮ひずみが71%であるカプセル剤を用いた。
高粘度剤型として、25℃における粘度が55.0Pa・sであるペースト状の歯磨剤を用いた。
【0046】
混合装置1の撹拌槽10内に高粘度剤型の99.5質量部を投入し、アンカー翼14を周速1.0m/sで回転させながら、粒状剤型の0.5質量部を投入し、予備混合した。
表1に示すクリアランス、表1に示すホモジナイザーモード、および表1に示すせん断速度でホモジナイザー20を駆動させ、粒状剤型および高粘度剤型をさらに混合すると同時に、ホモジナイザー20から吐出された粒状剤型および高粘度剤型を、外部循環ライン40を通って撹拌槽10の上部に返送した。
外部循環ライン40を通って撹拌槽10に返送された粒状剤型および高粘度剤型のトータルの容量が、撹拌槽10内に投入した高粘度剤型の容量と同じ容量になるまで、アンカー翼14およびホモジナイザー20による混合を続け、多剤型組成物を得た。
混合後、撹拌槽10内から多剤型組成物をサンプリングし、粒状剤型の崩壊性を評価した。結果を表1に示す。
【0047】
(実施例2~3)
せん断速度を表1に示す値に変更した以外は、実施例1と同様にして多剤型組成物を得た。粒状剤型の崩壊性を評価した。結果を表1に示す。
【0048】
(実施例4~6)
粒状剤型として、平均圧壊強さが2.4MPaであり、平均粒径が1.0mmであり、圧壊時平均圧縮ひずみが73%であるカプセル剤を用い、第1固定刃26と回転刃38との間のクリアランスを表1に示す値に変更した以外は、実施例1~3と同様にして多剤型組成物を得た。粒状剤型の崩壊性を評価した。結果を表1に示す。
【0049】
(実施例7~9)
粒状剤型として、平均圧壊強さが2.4MPaであり、平均粒径が1.0mmであり、圧壊時平均圧縮ひずみが73%であるカプセル剤を用いた以外は、実施例1~3と同様にして多剤型組成物を得た。粒状剤型の崩壊性を評価した。結果を表2に示す。
【0050】
(実施例10~12)
粒状剤型として、平均圧壊強さが1.1MPaであり、平均粒径が0.5mmであり、圧壊時平均圧縮ひずみが80%であるカプセル剤を用い、第1固定刃26と回転刃38との間のクリアランスを表2に示す値に変更した以外は、実施例1~3と同様にして多剤型組成物を得た。粒状剤型の崩壊性を評価した。結果を表2に示す。
【0051】
(比較例1~3)
第1固定刃26と回転刃38との間のクリアランスを表3に示す値に変更した以外は、実施例1~3と同様にして多剤型組成物を得た。粒状剤型の崩壊性を評価した。結果を表3に示す。
【0052】
(比較例4)
せん断速度を表3に示す値に変更した以外は、実施例1と同様にして多剤型組成物を得た。粒状剤型の崩壊性を評価した。結果を表3に示す。
【0053】
(比較例5)
粒状剤型として、平均圧壊強さが0.1MPaであり、平均粒径が1.0mmであり、圧壊時平均圧縮ひずみが57%であるカプセル剤を用いた以外は、実施例1と同様にして多剤型組成物を得た。粒状剤型の崩壊性を評価した。結果を表3に示す。
【0054】
(比較例6)
ホモジナイザーモードを表3に示すモードに変更し、せん断速度を表3に示す値に変更した以外は、実施例1と同様にして多剤型組成物を得た。粒状剤型の崩壊性を評価した。結果を表3に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
【表3】
【0058】
表中におけるホモジナイザーモードの「P」はポンピングモード(固定刃の流路の傾斜方向と同じ方向に回転刃を回転させるモード)であり、「H」はホモジナイジングモード(固定刃の流路の傾斜方向とは逆方向に回転刃を回転させるモード)である。
【0059】
実施例1~12は、条件I~IIIを満足するため、粒状剤型の崩壊が抑えられた。
比較例1~3は、粒状剤型の圧壊時平均圧縮ひずみが小さく、かつ第1固定刃26と回転刃38との間のクリアランスが狭いため、条件Iを満足せず、崩壊する粒状剤型が多くなった。
比較例4は、第1固定刃26と回転刃38との間におけるせん断速度が高いため、条件IIIを満足せず、崩壊する粒状剤型が多くなった。
比較例5は、粒状剤型の平均圧壊強さが低いため、崩壊する粒状剤型が多くなった。
比較例6は、固定刃の流路の傾斜方向とは逆方向に回転刃を回転させたため、条件IIを満足せず、崩壊する粒状剤型が多くなった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の多剤型組成物の製造方法は、粒状剤型(カプセル剤、マイクロゲル粒子、顆粒剤等)入りの高粘度剤型(歯磨剤、コンディショナー、トリートメント、スキンクリーム等)を製造する方法として有用である。
【符号の説明】
【0061】
1 混合装置、10 撹拌槽、12 槽本体、12a 排出口、14 アンカー翼、16 中心部、16a 回転軸、16b 羽根、18 U字部、18a U字軸、18b 羽根、18c 羽根、20 ホモジナイザー、22 固定部、24 天板、24a 開口、26 第1固定刃、26a 羽根、26b 流路、28 第2固定刃、28a 羽根、28b 流路、30 軸受け板、30a 開口、32 回転部、34 回転軸、36 回転円板、38 回転刃、38a 羽根、38b 流路、40 外部循環ライン、42 排出ライン、44 三方弁。
図1
図2
図3