(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-06
(45)【発行日】2022-10-17
(54)【発明の名称】動的に制御されるインクリザーバを有するインクジェット印刷システム
(51)【国際特許分類】
B41J 2/175 20060101AFI20221007BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20221007BHJP
【FI】
B41J2/175 171
B41J2/175 121
B41J2/175 501
B41J2/01 451
B41J2/01 401
B41J2/175 141
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018097769
(22)【出願日】2018-05-22
【審査請求日】2021-05-21
(32)【優先日】2017-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500520743
【氏名又は名称】ザ・ボーイング・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】The Boeing Company
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(74)【代理人】
【識別番号】100163522
【氏名又は名称】黒田 晋平
(74)【代理人】
【識別番号】100154922
【氏名又は名称】崔 允辰
(72)【発明者】
【氏名】リチャード・ジェイ・ベイカー
(72)【発明者】
【氏名】マイルズ・エス・ダンカンソン
(72)【発明者】
【氏名】ロバート・ジー・パリフカ
(72)【発明者】
【氏名】ベネット・エム・モリアーティ
(72)【発明者】
【氏名】シェーン・イー・アーサー
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-300332(JP,A)
【文献】特開2006-035850(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク受けチャンバおよび制御流体供給源からの制御流体を受容するための制御チャンバを画定するインクリザーバーと、前記インクリザーバーの配向を判定して配向信号を生成するよう構成された配向センサとを有するインクジェットアセンブリのインクリザーバーの圧力を動的に制御するためのコントローラであって、前記コントローラは、前記制御流体供給源および前記配向センサに動作可能に結合されたプロセッサを備え、前記プロセッサは、
少なくとも部分的に、前記配向信号に基づいて、前記制御チャンバの所望の圧力を決定し、および
前記制御チャンバの実際の圧力レベルを前記制御チャンバの前記所望の圧力に調整するために前記制御流体供給源を制御する、
ようにプログラムされ
ており、
前記インクリザーバーが長手方向軸線を画定し、垂直基準軸線に対する前記長手方向軸線の角度を感知することによって、前記配向センサが前記インクリザーバーの前記配向を判定し、前記プロセッサは、少なくとも部分的に、前記垂直基準軸線に対する前記長手方向軸線の前記角度に基づいて、前記制御チャンバの前記所望の圧力を決定するようプログラムされている、コントローラ。
【請求項2】
前記インク受けチャンバに配置されたインクは、インク上面レベルを画定し、前記インク受けチャンバに流体的に連通するノズル内の所望のメニスカスレベルは、前記長手方向軸線に沿って距離D1だけ前記インク上面レベルから離間され、前記プロセッサは、前記垂直基準軸線に対する前記長手方向軸線の前記角度および前記距離D1に基づいて前記垂直基準軸線に沿った有効水柱高さを計算し、および少なくとも部分的に、前記有効水柱高さに基づいて、前記制御チャンバの前記所望の圧力を決定するようさらにプログラムされている、
請求項1に記載のコントローラ。
【請求項3】
前記プロセッサが前記所望のメニスカスレベルにおける所定の圧力から前記有効水柱高さを減じることによって前記制御チャンバの前記所望の圧力を決定するようプログラムされている、
請求項2に記載のコントローラ。
【請求項4】
インク受けチャンバおよび制御流体供給源からの制御流体を受容するための制御チャンバを画定するインクリザーバーと、前記インクリザーバーの配向を判定して配向信号を生成するよう構成された配向センサとを有するインクジェットアセンブリのインクリザーバーの圧力を動的に制御するためのコントローラであって、前記コントローラは、前記制御流体供給源および前記配向センサに動作可能に結合されたプロセッサを備え、前記プロセッサは、
少なくとも部分的に、前記配向信号に基づいて、前記制御チャンバの所望の圧力を決定し、および
前記制御チャンバの実際の圧力レベルを前記制御チャンバの前記所望の圧力に調整するために前記制御流体供給源を制御する、
ようにプログラムされており、
前記インクジェットアセンブリが前記制御チャンバの前記実際の圧力レベルを示す圧力信号を生成するために、前記制御チャンバに動作可能に結合された、圧力センサ
をさらに備え、前記プロセッサが、前記圧力センサにさらに動作可能に結合される
、コントローラ。
【請求項5】
インク受けチャンバおよび制御流体供給源からの制御流体を受容するための制御チャンバを画定するインクリザーバーと、前記インクリザーバーの配向を判定して配向信号を生成するよう構成された配向センサとを有するインクジェットアセンブリのインクリザーバーの圧力を動的に制御するためのコントローラであって、前記コントローラは、前記制御流体供給源および前記配向センサに動作可能に結合されたプロセッサを備え、前記プロセッサは、
少なくとも部分的に、前記配向信号に基づいて、前記制御チャンバの所望の圧力を決定し、および
前記制御チャンバの実際の圧力レベルを前記制御チャンバの前記所望の圧力に調整するために前記制御流体供給源を制御する、
ようにプログラムされており、
前記制御流体供給源が、第1のバルブを介して前記制御チャンバと流体連通する正圧供給源と、第2のバルブを介して前記制御チャンバと流体連通する負圧供給源とを含み、前記プロセッサが、前記第1のバルブと、前記第2のバルブとに動作可能に結合される
、コントローラ。
【請求項6】
インクジェット印刷システムであって、
インク受けチャンバおよび制御チャンバを画定するインクリザーバーと、
前記制御チャンバに流体的に連通する制御流体供給源と、
前記インクリザーバーの配向を判定して、配向信号を生成するよう構成された配向センサと、
前記制御流体供給源および前記配向センサに動作可能に結合されたプロセッサと、
を備え、
前記プロセッサは、
少なくとも部分的に、前記配向信号に基づいて前記制御チャンバの所望の圧力を決定し、および
前記制御チャンバの実際の圧力レベルを前記制御チャンバの前記所望の圧力に調整するために、前記制御流体供給源を制御する
ようブログラムされて
おり、
前記インクリザーバーが長手方向軸線を画定し、前記配向センサは、垂直基準軸線に対する前記長手方向軸線の角度を決定するよう構成されている、インクジェット印刷システム。
【請求項7】
前記インク受けチャンバと流体連通するノズルを画定する印刷ヘッドをさらに備え、前記ノズルは、前記インクリザーバーに対する固定位置を有する所望のメニスカスレベルを画定する、
請求項6に記載のインクジェット印刷システム。
【請求項8】
前記インク受けチャンバに配置されたインクが、インク上面レベルを画定し、前記ノズルの前記所望のメニスカスレベルが、前記インクリザーバーの前記長手方向軸線に沿って前記インク上面レベルから距離D1だけ離間される、
請求項7に記載のインクジェット印刷システム。
【請求項9】
前記プロセッサが、前記垂直基準軸線に対する前記長手方向軸線の前記角度および前記距離D1に基づいて前記垂直基準軸線に沿った有効水柱高さを計算し、および少なくとも部分的に、前記有効水柱高さに基づいて、前記制御チャンバの前記所望の圧力を決定するようさらにプログラムされている、
請求項8に記載のインクジェット印刷システム。
【請求項10】
前記制御チャンバの前記所望の圧力を決定するステップが、前記所望のメニスカスレベルにおける所定の圧力から前記有効水柱高さを減じるステップを備える、
請求項9に記載のインクジェット印刷システム。
【請求項11】
インクジェット印刷システムであって、
インク受けチャンバおよび制御チャンバを画定するインクリザーバーと、
前記制御チャンバに流体的に連通する制御流体供給源と、
前記インクリザーバーの配向を判定して、配向信号を生成するよう構成された配向センサと、
前記制御流体供給源および前記配向センサに動作可能に結合されたプロセッサと、
を備え、
前記プロセッサは、
少なくとも部分的に、前記配向信号に基づいて前記制御チャンバの所望の圧力を決定し、および
前記制御チャンバの実際の圧力レベルを前記制御チャンバの前記所望の圧力に調整するために、前記制御流体供給源を制御する
ようブログラムされており、
当該インクジェット印刷システムが、前記制御チャンバの前記実際の圧力レベルを示す圧力信号を生成するために、前記制御チャンバに動作可能に結合された、圧力センサ
をさらに備え、前記プロセッサが、前記圧力センサにさらに動作可能に結合される
、インクジェット印刷システム。
【請求項12】
インクジェット印刷システムであって、
インク受けチャンバおよび制御チャンバを画定するインクリザーバーと、
前記制御チャンバに流体的に連通する制御流体供給源と、
前記インクリザーバーの配向を判定して、配向信号を生成するよう構成された配向センサと、
前記制御流体供給源および前記配向センサに動作可能に結合されたプロセッサと、
を備え、
前記プロセッサは、
少なくとも部分的に、前記配向信号に基づいて前記制御チャンバの所望の圧力を決定し、および
前記制御チャンバの実際の圧力レベルを前記制御チャンバの前記所望の圧力に調整するために、前記制御流体供給源を制御する
ようブログラムされており、
前記配向センサが加速度計を備え
るインクジェット印刷システム。
【請求項13】
インクジェット印刷システムであって、
インク受けチャンバおよび制御チャンバを画定するインクリザーバーと、
前記制御チャンバに流体的に連通する制御流体供給源と、
前記インクリザーバーの配向を判定して、配向信号を生成するよう構成された配向センサと、
前記制御流体供給源および前記配向センサに動作可能に結合されたプロセッサと、
を備え、
前記プロセッサは、
少なくとも部分的に、前記配向信号に基づいて前記制御チャンバの所望の圧力を決定し、および
前記制御チャンバの実際の圧力レベルを前記制御チャンバの前記所望の圧力に調整するために、前記制御流体供給源を制御する
ようブログラムされており、
可撓性膜が前記インク受けチャンバおよび前記制御チャンバの間に配置されている
、インクジェット印刷システム。
【請求項14】
インクジェット印刷システムであって、
インク受けチャンバおよび制御チャンバを画定するインクリザーバーと、
前記制御チャンバに流体的に連通する制御流体供給源と、
前記インクリザーバーの配向を判定して、配向信号を生成するよう構成された配向センサと、
前記制御流体供給源および前記配向センサに動作可能に結合されたプロセッサと、
を備え、
前記プロセッサは、
少なくとも部分的に、前記配向信号に基づいて前記制御チャンバの所望の圧力を決定し、および
前記制御チャンバの実際の圧力レベルを前記制御チャンバの前記所望の圧力に調整するために、前記制御流体供給源を制御する
ようブログラムされており、
前記制御流体供給源が、第1のバルブを介して前記制御チャンバと流体連通する正圧供給源と、第2のバルブを介して前記制御チャンバと流体連通する負圧供給源とを含み、前記プロセッサが、前記第1のバルブと、前記第2のバルブとに動作可能に結合される
、インクジェット印刷システム。
【請求項15】
動的に制御されたインク背圧を有するインクジェット印刷システムであって、前記インクジェット印刷システムは、
垂直基準軸線に対して少なくとも1自由度で回転するように支持されたフレームと、
前記フレームに結合され、長手方向軸線を画定し、制御チャンバおよびインク受けチャンバを備えるインクリザーバーと、
前記制御チャンバと流体連通して、制御流体を様々な圧力レベルで送達する、制御流体供給源と、
前記インクリザーバーの配向を判定して、配向信号を生成する、配向センサと、
前記制御流体供給源および前記配向センサに動作可能に結合されたプロセッサと、
を備え、
前記プロセッサは、
少なくとも部分的に、前記配向信号に基づいて前記制御チャンバの所望の圧力を決定し、および
前記制御チャンバの実際の圧力レベルを前記制御チャンバの前記所望の圧力に調整するために、前記制御流体供給源を制御する
ようブログラムされている、インクジェット印刷システム。
【請求項16】
前記配向センサは、前記垂直基準軸線に対する前記長手方向軸線の角度を判定するよう構成され、前記プロセッサは、少なくとも部分的に、前記垂直基準軸線に対する前記長手方向軸線の前記角度に基づいて、前記制御チャンバの前記所望の圧力レベルを決定するようプログラムされている、
請求項15に記載のインクジェット印刷システム。
【請求項17】
前記インク受けチャンバと流体連通するノズルをさらに備え、前記ノズルが前記インクリザーバーに対して固定された位置を有する所望のメニスカスレベルを画定する、
請求項16に記載のインクジェット印刷システム。
【請求項18】
前記インク受けチャンバに配置されたインクがインク上面レベルを画定し、
前記ノズルの前記所望のメニスカスレベルは、前記インクリザーバーの前記長手方向軸線に沿って距離D1だけ前記インク上面レベルから離間され、かつ
前記プロセッサは、前記垂直基準軸線に対する前記長手方向軸線の前記角度および前記距離D1に基づいて前記垂直基準軸線に沿った有効水柱高さを計算し、および少なくとも部分的に、前記有効水柱高さに基づいて、前記制御チャンバの前記所望の圧力を決定する
ようさらにプログラムされている、
請求項17に記載のインクジェット印刷システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般にインクジェット印刷に関し、さらに詳細には、インクジェット印刷中に使用される、インクリザーバ内に保持されたインクの圧力の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
ドロップオンデマンド方式の印刷システムは一般に、インクをノズル内で所望のメニスカスレベルに保持するために、印刷ヘッド内でわずかな背圧を維持する。背圧は、システムがインクを能動的に射出していないときに、インクがノズルから漏れるのを防止するように十分に高くする必要があるが、ノズルを通して印刷ヘッドに空気が取り込まれるほどの高さであってはならない。従来のシステムでは、背圧は、一般に静圧レベルに設定される。一部のシステムでは、使用される印刷モードのタイプに基づいて、複数の静圧レベルが提供される場合がある。しかしながら、1つ以上の静圧レベルを提供するシステムは、複雑な三次元表面に印刷するように構成されたインクジェットシステムの背圧を適切に管理しておらず、印刷ヘッドが、印刷する表面に対して異なる姿勢で配置されると、背圧要件が変化する場合がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本開示の一態様によれば、インクジェット印刷システムは、長手方向軸線を画定し、垂直基準軸線に対して少なくとも1自由度で、回転するように支持されたインクリザーバであって、インク受けチャンバ、及び制御チャンバを画定する、インクリザーバと、制御チャンバと流体連通して、様々な圧力レベルで制御流体を送達する、制御流体供給源と、インクリザーバの長手方向軸線の配向を判定して、配向信号を生成する、配向センサとを備える。プロセッサが、制御流体供給源、及び配向センサに動作可能に結合されて、配向センサからの配向信号に基づいて、垂直基準軸線に対する、長手方向軸線の角度を推測し、少なくとも部分的に、推測した長手方向軸線の角度に基づいて、制御チャンバの所望の圧力を決定し、制御チャンバの実際の圧力レベルを、制御チャンバの所望の圧力に調節するために、制御流体供給源を制御するようにプログラムされる。
【0004】
本開示の別の態様によれば、動的に制御されたインク背圧を有するインクジェット印刷システムは、垂直基準軸線に対して少なくとも1自由度で、回転するように支持されたフレームと、フレームに結合されたインクジェットアセンブリとを備える。インクジェットアセンブリは、長手方向軸線を画定するインクリザーバを備え、内部チャンバを画定するハウジングと、ハウジングに配置されて、内部チャンバを制御チャンバとインク受けチャンバとに分割する可撓性膜と、制御チャンバと流体連通して、様々な圧力レベルで制御流体を送達する制御流体供給源と、インクリザーバの長手方向軸線の配向を判定して、配向信号を生成する配向センサとを備える。インクジェットアセンブリは、インク受けチャンバと流体連通するノズルを画定する、印刷ヘッドであって、ノズルは、インクリザーバに対して固定された位置を有する、所望のメニスカスレベルを画定し、インク受けチャンバに配置されたインクは、インク上面レベルを画定し、ノズルの所望のメニスカスレベルは、インクリザーバの長手方向軸線に沿って、距離D1でインク上面レベルから離間される、印刷ヘッドをさらに備える。プロセッサは、制御流体供給源、及び配向センサに動作可能に結合されて、配向センサからの配向信号に基づいて、垂直基準軸線に対する、長手方向軸線の角度を推測し、推測した長手方向軸線の角度と、距離D1とに基づいて、垂直基準軸線に沿った有効水柱高さを計算し、少なくとも部分的に、有効水柱高さに基づいて、制御チャンバの所望の圧力を決定し、制御チャンバの実際の圧力レベルを、制御チャンバの所望の圧力に調節するために、制御流体供給源を制御するようにプログラムされる。
【0005】
本開示の別の態様によれば、インクジェットアセンブリのインクリザーバの圧力を動的に制御する方法が提供され、本方法は、配向センサからの配向信号に基づいて、インクリザーバの長手方向軸線の配向を決定するステップと、インクリザーバの長手方向軸線と、垂直基準軸線との間の角度を計算するステップと、少なくとも部分的に、この角度に基づいて、インクリザーバの制御チャンバの、所望の圧力を決定するステップと、ノズルで所望の圧力を生成するために、インクリザーバと流体連通する制御流体供給源を制御するステップとを含む。
【0006】
これまで述べてきた特徴、機能、及び利点は、種々の実施形態において別個独立に達成することができ、或いは以下の説明及び図面を参照してさらなる詳細を見ることができる、さらに別の実施形態で組み合わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の開示による、インクジェット印刷システムの概略ブロック図である。
【
図2】
図1のインクジェット印刷システムで用いられる、例示的なアクチュエーターの拡大斜視図である。
【
図3】
図1のインクジェット印刷システムで用いられる、インクジェットアセンブリの正面図である。
【
図4】
図3のインクジェットアセンブリの側面図である。
【
図5】
図3及び
図4のインクジェットアセンブリの部分概略図である。
【
図6】垂直位置にある、
図3~
図5のインクジェットアセンブリの断面の、概略正面平面図である。
【
図7】第1の回転位置にある、
図3~
図6のインクジェットアセンブリの断面の、概略正面平面図である。
【
図8】インクジェットアセンブリのノズルが反転された、第2の回転位置にある、
図3~
図7のインクジェットアセンブリの断面の、概略正面平面図である。
【
図9】インクジェット印刷システムのインクリザーバの背圧を動的に制御する方法を示す、ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図面は必ずしも縮尺通りではないこと、並びに開示されている実施形態は、概略的に図示される場合があることを理解されたい。また、後述する詳細な説明は単に例示的なものであって、本発明、又はその用途及び使用を限定することは意図されていないことが、さらに理解されるべきである。したがって、本開示は、説明の便宜上、いくつかの例示的な実施形態として図示及び説明されるが、これは様々な他の種類の実施形態、並びに様々な他のシステム及び環境で実施され得ることが理解されよう。
【0009】
以下の詳細な説明は、本発明を実施する上で現在最良と考えられている態様のものである。本説明は、限定的な意味に解釈されるべきではなく、本発明の一般原理を単に例示する目的でなされたものであり、これは、本発明の範囲が、添付の特許請求の範囲によって最もよく定義されることによる。
【0010】
本明細書では、航空機の表面10(
図5)などの複雑な三次元表面に印刷するのに特に適した、インクジェット印刷システム及び方法が開示される。さらに詳細には、本明細書で開示されるシステム及び方法は、印刷ヘッドの配向に基づいて、インクリザーバの圧力を動的に管理する。結果として、印刷ヘッドの配向に関わらず、印刷ヘッドのノズルにおけるメニスカスのレベルが維持される。
【0011】
図1をさらに詳細に参照すると、インクジェット印刷システム20は、フレーム24に結合された、インクジェットアセンブリ22を備える。フレーム24は、垂直基準軸線26に対して少なくとも1自由度で、回転するように支持される。いくつかの実施形態において、フレームは、例えば直交するX、Y、及びZ軸の周囲で、3自由度で回転するように支持され、垂直基準軸線26は、
図1に示すように、Z軸と平行であってもよい。
【0012】
インクジェット印刷システム20は、垂直基準軸線26に対して少なくとも1自由度でフレーム24を作動させるための、フレームアクチュエーター30をさらに備えてもよい。例えば、
図2に示す例示的なフレームアクチュエーター30は、フレーム24をX、Y、及びZ軸の周囲で回転させるように動作する。この実施形態において、フレームアクチュエーター30は、複数のマイクロ作動部品を有する、マイクロホイール作動装置32を備える。例えば、マイクロホイール作動装置32は、第1の電気モーター36に回転可能に結合された、第1のマイクロホイール34と、第2の電気モーター40に回転可能に結合された、第2のマイクロホイール38とを備える。第1の電気モーター36、及び第2の電気モーター40はそれぞれ、第1のマイクロホイール34、及び第2のマイクロホイール38を独立して駆動させる。しかしながら、必要に応じて、より少ない、又はより多い数のマイクロホイール、及び電気モーターをマイクロホイール作動装置32に組み込んでもよいことは理解されよう。いくつかの実施形態において、第1のマイクロホイール34の周囲には第1のホイール表面42があり、第2のマイクロホイール38の周囲には第2のホイール表面44がある。また、第1のホイール表面42、及び第2のホイール表面44はそれぞれ、ジンバル48の表面のマイクロテクスチャと係合する、ホイールマイクロテクスチャ46を有する。フレーム24は、ジンバル48の周囲で枢動及び/又は回転する、フレーム基部50を備えてもよく、その結果、第1の電気モーター36、及び第2の電気モーター40が順に、又は同時に動作すると、フレーム24が枢動する。フレームアクチュエーター30は、
図2ではジンバル式のアクチュエーターとして示されているが、添付の特許請求の範囲から逸脱することなく、歯車駆動、又はロボットアームなどの他のタイプのフレームアクチュエーターが使用されてもよいことは理解されよう。また、図示されているフレームアクチュエーター30は、3軸での移動を行うが、フレームアクチュエーターは、3軸よりも多い、又は少ない移動が可能であってもよいことは理解されよう。
【0013】
インクジェットアセンブリ22は、フレーム24に結合され、フレーム24に対して枢動可能である。
図3~
図5に最もよく示されているように、インクジェットアセンブリ22は通常、インクを保持するインクリザーバ60と、印刷する表面10にインクを堆積させる、印刷ヘッド62とを備える。インクリザーバ60は、供給導管64を介して印刷ヘッドと流体連通してもよい。2つの供給導管64が示されているが、必要に応じて、これよりも数が少ない、又は多い供給導管64が設けられてもよい。また、インクリザーバ60は、長手方向軸線66に沿って延伸する。
【0014】
図5に最もよく示されているように、インクリザーバ60は、内部チャンバ70を画定する、ハウジング68を備える。ハウジング68には可撓性膜72が配置されて、内部チャンバ70を制御チャンバ74と、インク受けチャンバ76とに分割する。可撓性膜72は、制御チャンバ74及びインク受けチャンバ76の容積の変化に対応する。いくつかの実施形態において、可撓性膜72は、インク受けチャンバ76の流体に反力又は圧力を加えることなく、形状を変更できるように構成される。可撓性膜72は、
図5ではほぼ平面であるように示されているが、可撓性膜72は、円錐台形状、又は袋状などの他の形状で形成されてもよいことは理解されよう。ハウジング68は、インク出口ポート78と、インク補充ポート80と、第1の圧力供給ポート82と、第2の圧力供給ポート84と、圧力感知ポート86とをさらに画定する。インク補充バルブ81は、インク補充ポート80と流体連通する、インク補充ライン83に設けられてもよい。
【0015】
インク受けチャンバ76に配置されたインクの圧力を制御するために、制御流体が制御チャンバ74に供給される。引き続き
図5を参照すると、制御流体供給源88は、制御チャンバ74と流体連通して、制御流体を様々な圧力レベルで送達する。図示されている実施形態において、制御流体供給源88は、第1のバルブ92から第1の圧力供給ポート82を通って制御チャンバ74と流体連通し、正圧(すなわちハウジング68の外部に存在する大気圧を超える)で制御流体を供給する、正圧供給源90を備える。制御流体供給源88は、第2のバルブ96から第2の圧力供給ポート84を通って制御チャンバ74と流体連通し、負圧(すなわちハウジング68の外部に存在する大気圧を下回る)で制御流体を供給する、負圧供給源94をさらに備える。第1のバルブ92、及び第2のバルブ96を選択的に開くことによって、制御チャンバ74に所望の圧力の制御流体が供給され、この圧力は次に、可撓性膜72を介して、インク受けチャンバ76のインクに印加される。例示的な制御流体は空気であるが、他の流体が使用されてもよい。
【0016】
また、インクジェットアセンブリ22の配向を判定するための、配向センサ100が設けられる。
図5の例示的な実施形態では、配向センサ100は、インクリザーバ60のハウジング68に結合された加速度計である。したがって、加速度計は、垂直基準軸線26などの固定された基準フレームに対して、インクリザーバ60の長手方向軸線66などの、インクリザーバ60に関連付けられた、基準となる配向を判定し得る。この実施形態では、配向センサ100は、インクリザーバ60の長手方向軸線66と、垂直基準軸線26との間の角度を示す、配向信号を生成する。
【0017】
インクジェットアセンブリ22は、制御チャンバ74の実際の圧力レベルを測定するための、圧力センサ102をさらに備える。
図5に最もよく示されているように、圧力センサ102は、圧力感知ポート86と流体連通する、圧力センサライン104に配置されてもよい。圧力センサ102は、制御チャンバ74の実際の圧力レベルを示す、圧力信号を生成する。
【0018】
印刷ヘッド62は、インクリザーバ60からインクを受けて、表面10にインク滴を選択的に吐出する。
図5及び
図6に最もよく示されているように、印刷ヘッド62は、供給導管64、及びインク出口ポート78を介して、インク受けチャンバ76と流体連通するノズル110を画定し、ここからインク滴が吐出される。ノズル110は、インク滴の正確な吐出を容易にする、所望のメニスカスレベル112を画定する。所望のメニスカスレベル112は、インクリザーバ60に対して、固定された位置を有する。さらに詳細には、インクリザーバ60がインクで満たされると、インク受けチャンバ76に配置されたインクは、インク上面レベル114を画定し、ノズル110の所望のメニスカスレベル112は、インクリザーバ60の長手方向軸線66に沿って、インク上面レベル114から距離D1だけ離間される。また、所望のメニスカスレベル112は、ノズル110の先端109に対し、距離D2で画定されてもよい。例えば、
図5に示すように、距離D2は約10ミクロンであってもよい。
【0019】
インクジェットアセンブリ22は、インクジェットアセンブリの動作を制御するための、コントローラー120をさらに備える。さらに詳細には、コントローラーは、動作を制御するために、データ記憶装置124に記憶されたロジックを実行し得る、プロセッサ122を備える。コントローラー120は、第1のバルブ92、第2のバルブ96、配向センサ100、及び圧力センサ102に動作可能に結合される。コントローラー120は、あらゆる種類のコンピューター装置、又はコントローラーを代表するものであってもよく、或いはまた、全体がサーバーに含まれる装置などの、別の装置の一部であってもよく、コントローラー120の一部は、他の場所にあってもよく、或いは他のコンピューター装置内に配置されてもよい。
【0020】
プロセッサ122は、インクリザーバ60の配向に基づいて、制御チャンバ74の圧力を動的に制御するようにプログラムされる。さらに詳細には、プロセッサ122は、配向センサ100からの配向信号に基づいて、垂直基準軸線26に対する、長手方向軸線66の角度Aを推測するようにプログラムされてもよい。
【0021】
また、プロセッサ122は、インクリザーバ60の長手方向軸線66の角度A、及びノズル110の所望のメニスカスレベル112と、インク上面レベル114との間の距離D1に基づいて、垂直基準軸線26に沿った有効水柱高さを計算するようにプログラムされる。距離D1が予め定められてほぼ固定され、配向センサ100で長手方向軸線66の角度が判定されると、単純な三角法を用いて、有効水柱が計算され得る。
【0022】
プロセッサ122はさらに、少なくとも部分的に有効水柱高さHに基づいて、制御チャンバ74の所望の圧力を決定するようにプログラムされてもよい。有効水柱高さHは、直接、水柱インチなどの圧力値に変換することができ、インクを所望のメニスカスレベル112に維持するのに必要な背圧の量の測定に使用され得る。さらに詳細には、制御チャンバ74の所望の圧力は、メニスカスで所定の圧力を維持するために、有効水柱高さHに相当する圧力を考慮に入れなければならない。数学的に示すと、メニスカスPMにおける所定の圧力は、制御チャンバPCの所望の圧力と、有効水柱圧PEWCとの和に等しい。制御チャンバPCの所望の圧力は、いくつかの要因に依存するが、主としてインクリザーバ60と、印刷ヘッド62との間の距離に関連する。航空機に印刷するのに用いられるシステムの場合、例えば、制御チャンバPCの所望の圧力は、約+10水柱インチ~-10水柱インチの範囲内であることが予想される。メニスカスPMにおける所定の圧力は、インクを所望のメニスカスレベル112に保持する値になるように選択される。例えば、メニスカスPMにおける所定の圧力は、約+0.5水柱インチ~-0.5水柱インチの範囲内であってもよい。
【0023】
また、前述の方程式は、制御チャンバPCの所望の圧力を求めるために再編成されてもよく、制御チャンバPCの所望の圧力は、メニスカスPMにおける所定の圧力から、有効水柱圧PEWCを減じたものに等しい。例えば、メニスカスPMにおける所定の圧力が-0.25水柱インチで、有効水柱高さHが2インチ(したがって、有効水柱圧PEWCは2水柱インチ)の場合、制御チャンバPCの所望の圧力は、-2.25水柱インチである。
【0024】
有効水柱圧P
EWCは、インクリザーバ60の配向によって変化することは理解されよう。さらに詳細には、角度Aのコサインは、有効水柱高さを距離D1で割ったものに等しい。別の言い方をすれば、有効水柱高さは、距離D1と角度Aのコサインとの積に等しい。したがって、長手方向軸線66が垂直になるようにインクリザーバ60が配向されると、角度Aはゼロになり、ゼロのコサインは1なので、有効水柱圧P
EWCは、距離D1に等しい。
図7に示すように、インクリザーバ60が角度A1まで回転されると、有効水柱圧P
EWCは、距離D1に角度A1のコサインを乗じたものに等しい。例えば、角度A1が20度で、距離D1が2インチの場合は、有効水柱高さは(したがって、有効水柱圧P
EWCは)、1.88水柱インチである。この例において、メニスカスP
Mにおける所定の圧力が-0.25水柱インチの場合は、制御チャンバP
Cの所望の圧力は、-2.13水柱インチである。
【0025】
さらに、
図8に示すように、インクリザーバ60が角度A2に反転されると、有効水柱高さは、負の値になることに留意されたい。前述のチャンバ圧の方程式によれば、負の値を減ずると、結果的に、インクを所望のメニスカスレベル112に維持する、制御チャンバP
Cの所望の圧力を得るために、有効水柱圧P
EWCをメニスカスP
Mにおける所定の圧力に加えることになる。例えば、有効水柱高さ(したがって有効水柱圧P
EWC)が-1.5水柱インチで、メニスカスP
Mにおける所定の圧力が-0.25水柱インチの場合は、制御チャンバP
Cの所望の圧力は、+1.25水柱インチである。したがって、制御チャンバP
Cの所望の圧力は、インクリザーバ60の配向によって、正にも負にもなり得る。
【0026】
プロセッサ122は、制御チャンバの所望の圧力を達成するために、制御チャンバ74における圧力レベルを調節するように、さらにプログラムされてもよい。さらに詳細には、プロセッサ122は、第1のバルブ92、及び第2のバルブ96を選択的に開閉することによって、制御チャンバ74の内部の圧力を変化させるように、制御流体供給源88を動作させてもよい。プロセッサは、制御チャンバ74が所望の圧力にいつ達するかを判定するために、圧力センサ102からの圧力信号に基づく、単純なフィードバックループを使用してもよい。
【0027】
図9は、インクジェットアセンブリ22のインクリザーバ60の圧力を動的に制御する例示的な方法200を示す、フローチャートである。本方法は、配向センサ100からの配向信号に基づいて、インクリザーバ60の長手方向軸線66の配向を判定するステップである、ブロック202から始まる。本方法は、ブロック202で判定したインクリザーバ60の配向に基づいて、インクリザーバ60の長手方向軸線66と、垂直基準軸線26との間の角度Aを計算するステップである、ブロック204に続く。ブロック206において、少なくとも部分的に、ブロック202で計算された角度に基づいて、インクリザーバ60の制御チャンバ74の所望の圧力が決定される。前述したように、制御チャンバP
Cの所望の圧力は、メニスカスP
Mにおける所定の圧力から、有効水柱圧P
EWCを減じたものに等しくなり得る。次に、有効水柱圧P
EWCが、有効水柱高さを計算することによって決定されてもよく、有効水柱高さは、距離D1と、角度Aのコサインとの積に等しい。本方法は、インクリザーバ60で所望の圧力を生成するように、制御流体供給源88を制御するステップである、ブロック208に続く。例えば、制御流体供給源は、インクリザーバ60の制御チャンバ74と流体連通する、正圧供給源90と、負圧供給源94とを含んでもよく、プロセッサ122は、圧力供給源を選択的に制御して、制御チャンバ74の実際の圧力を、制御チャンバ74の所望の圧力と合致するように調節してもよい。プロセッサ122は、圧力センサ102からのフィードバックを制御チャンバの所望の圧力と比較して、制御チャンバ74がいつ所望の圧力になるかを判定し得る。
【0028】
種々の有利な配置の説明は、例示及び説明の目的で提示されており、すべてを述べ尽くそうとするものでも、開示された形式の実施形態への限定を意図するものでもない。多数の変更及び変種が、当業者にとって明らかであろう。さらに、他の有利な実施形態と比較して、異なる有利な実施形態は、異なる利点を表すことができる。選択された1つまたは複数の実施形態は、実施形態の原理、及び実際の応用を上手く解説するとともに、開示を他の当業者にとって理解可能にするために、選択及び説明されている。特定の使用に適するものとして、様々な変更が考えられる。
【符号の説明】
【0029】
10 表面
20 インクジェット印刷システム
22 インクジェットアセンブリ
24 フレーム
26 垂直基準軸線
30 フレームアクチュエーター
32 マイクロホイール作動装置
34 マイクロホイール
36 電気モーター
38 マイクロホイール
40 電気モーター
42 ホイール表面
44 ホイール表面
46 ホイールマイクロテクスチャ
48 ジンバル
50 フレーム基部
60 インクリザーバ
62 印刷ヘッド
64 供給導管
66 長手方向軸線
68 ハウジング
70 内部チャンバ
72 可撓性膜
74 制御チャンバ
76 インク受けチャンバ
78 インク出口ポート
80 インク補充ポート
81 インク補充バルブ
82 圧力供給ポート
83 インク補充ライン
84 圧力供給ポート
86 圧力感知ポート
88 制御流体供給源
90 正圧供給源
92 第1のバルブ
94 負圧供給源
96 第2のバルブ
100 配向センサ
102 圧力センサ
104 圧力センサライン
109 先端
110 ノズル
112 メニスカスレベル
114 インク上面レベル
120 コントローラー
122 プロセッサ
124 データ記憶装置
200 方法