(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-06
(45)【発行日】2022-10-17
(54)【発明の名称】エリア再生システム及びエリア再生方法
(51)【国際特許分類】
H04R 3/00 20060101AFI20221007BHJP
H04R 1/40 20060101ALI20221007BHJP
【FI】
H04R3/00 310
H04R1/40 310
(21)【出願番号】P 2018127278
(22)【出願日】2018-07-04
【審査請求日】2021-01-15
(73)【特許権者】
【識別番号】514136668
【氏名又は名称】パナソニック インテレクチュアル プロパティ コーポレーション オブ アメリカ
【氏名又は名称原語表記】Panasonic Intellectual Property Corporation of America
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100118049
【氏名又は名称】西谷 浩治
(72)【発明者】
【氏名】坂口 敦
(72)【発明者】
【氏名】松村 俊之
【審査官】辻 勇貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-010491(JP,A)
【文献】特開2015-231087(JP,A)
【文献】特開2010-213031(JP,A)
【文献】特開2017-050847(JP,A)
【文献】特開2011-217042(JP,A)
【文献】特開2006-263011(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/20-1/40
3/00-5/04
H04S 1/00-7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスピーカを直線状に並べて配置したスピーカアレイを含む再生部と、
前記スピーカアレイと実質的に平行であって前記スピーカアレイから所定距離離間した位置に設定された、前記スピーカアレイから放射された音波が強め合う再生ラインと弱め合う非再生ラインとを含む制御ラインに基づいて、所定音圧以上の音声ビームが、前記再生ラインだけに放射されるように、前記複数のスピーカの其々に出力させる再生音を加工する加工処理を行う加工部と、
前記音声ビームの放射される方向が指定角度だけ偏向されるように、前記再生音の位相を調整する指向角制御処理を行う指向角制御部と、
前記加工処理及び前記指向角制御処理が行われた後の前記再生音と、前記加工処理が行われた後の前記再生音と、を合成する第一合成部と、
を備え、
前記再生部は、前記第一合成部によって合成された第一合成再生音を前記複数のスピーカに出力させる、
エリア再生システム。
【請求項2】
前記加工部は、前記加工処理において、前記再生音を表す再生音信号に、前記制御ラインを実現する制御フィルタを畳み込み、当該畳み込んだ信号を前記複数のスピーカの其々に前記再生音を出力させるための駆動信号として生成し、
前記指向角制御部は、前記指向角制御処理において、前記加工処理において生成された前記駆動信号の位相を調整する
請求項1に記載のエリア再生システム。
【請求項3】
前記再生音の周波数は、前記複数のスピーカの配置間隔、音速及び前記指定角度を用いた下記式を満たす
【数1】
請求項1又は2に記載のエリア再生システム。
【請求項4】
前記加工部は、
更に、前記スピーカアレイと実質的に平行であって前記スピーカアレイから前記所定距離離間した位置に設定された、前記スピーカアレイから放射された音波が強め合う追加再生ラインと弱め合う追加非再生ラインとを含む追加制御ラインに基づいて、前記所定音圧以上の追加音声ビームが、前記追加再生ラインだけに放射されるように、前記再生音と同一の追加再生音を加工する追加加工処理を行い、
前記指向角制御部は、
更に、前記音声ビームの一部と前記追加音声ビームの一部が前記スピーカアレイから前記所定距離離間した位置で交差するように、前記追加再生音の位相を調整する交差調整処理を行い、
前記エリア再生システムは、
前記加工処理及び前記指向角制御処理が行われた後の前記再生音と、前記追加加工処理及び前記交差調整処理が行われた後の前記追加再生音と、を合成する第二合成部を更に備え、
前記再生部は、前記第二合成部によって合成された第二合成再生音を前記複数のスピーカに出力させる
請求項1から3の何れか一項に記載のエリア再生システム。
【請求項5】
複数のスピーカを直線状に並べて配置したスピーカアレイを備えたエリア再生システムのコンピュータが実行するエリア再生方法であって、
前記コンピュータが、
前記スピーカアレイと実質的に平行であって前記スピーカアレイから所定距離離間した位置に設定された、前記スピーカアレイから放射された音波が強め合う再生ラインと弱め合う非再生ラインとを含む制御ラインに基づいて、所定音圧以上の音声ビームが、前記再生ラインだけに放射されるように、前記複数のスピーカの其々に出力させる再生音を加工する加工処理と、
前記音声ビームの放射される方向が指定角度だけ偏向されるように、前記再生音の位相を調整する指向角制御処理と、
前記加工処理及び前記指向角制御処理が行われた後の前記再生音と、前記加工処理が行われた後の前記再生音と、を合成する第一合成処理と、
を行い、
前記第一合成処理によって合成された第一合成再生音を前記複数のスピーカに出力させる、
エリア再生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エリア再生システム及びエリア再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、複数のスピーカを直線状に並べて配置したスピーカアレイを使用して特定の位置だけに音を呈示し、同一空間において別々の位置に異なった音を干渉することなく呈示するエリア再生技術が知られている。この技術を用いることで、各ユーザに対して異なるコンテンツや音量の再生音を呈示することができるようになる。
【0003】
具体的には、特許文献1等に開示のように、スピーカアレイと平行な制御ライン上に、再生音を強め合う再生ラインと弱め合う非再生ラインとを設定し、所定音圧以上の音声ビームを、当該設定した再生ラインだけに放射させるための制御フィルタを導出する。そして、再生音の信号に当該導出した制御フィルタを畳み込んだ信号をスピーカに出力させることで、設定した再生ラインだけに音声ビームを放射する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の従来技術では、音声ビームを放射可能な範囲が、スピーカアレイの長尺方向の長さによって制限されるという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、複数のスピーカを直線状に並べて配置したスピーカアレイを含む再生部と、前記スピーカアレイと実質的に平行であって前記スピーカアレイから所定距離離間した位置に設定された、前記スピーカアレイから放射された音波が強め合う再生ラインと弱め合う非再生ラインとを含む制御ラインに基づいて、所定音圧以上の音声ビームが、前記再生ラインだけに放射されるように、前記複数のスピーカの其々に出力させる再生音を加工する加工処理を行う加工部と、前記音声ビームの放射される方向が指定角度だけ偏向されるように、前記再生音の位相を調整する指向角制御処理を行う指向角制御部と、を備え、前記再生部は、前記加工処理及び前記指向角制御処理が行われた後の前記再生音を、前記複数のスピーカの其々に出力させる。
【0007】
また、本開示の他の一態様のエリア再生方法は、複数のスピーカを直線状に並べて配置したスピーカアレイを備えたエリア再生システムのコンピュータが実行するエリア再生方法であって、前記コンピュータが、前記スピーカアレイと実質的に平行であって前記スピーカアレイから所定距離離間した位置に設定された、前記スピーカアレイから放射された音波が強め合う再生ラインと弱め合う非再生ラインとを含む制御ラインに基づいて、所定音圧以上の音声ビームが、前記再生ラインだけに放射されるように、前記複数のスピーカの其々に出力させる再生音を加工する加工処理と、前記音声ビームの放射される方向が指定角度だけ偏向されるように、前記再生音の位相を調整する指向角制御処理と、を行い、前記加工処理及び前記指向角制御処理が行われた後の前記再生音を、前記複数のスピーカの其々に出力させる。
【発明の効果】
【0008】
上記態様によれば、音声ビームを放射可能な範囲が、スピーカアレイの長尺方向の長さによって制限されることを回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の実施の形態におけるエリア再生システムの構成を示す図である。
【
図2】再生ラインと非再生ラインの設定の一例を示す図である。
【
図3】音声ビームの放射方向を-X方向に偏向する調整の一例を示す図である。
【
図4】音声ビームの放射方向をX方向に偏向する調整の一例を示す図である。
【
図5】遅延時間と偏向角度との関係を示す図である。
【
図6】エリア再生の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図7】周波数が異なる複数の再生音を表す音声ビームの放射方向を偏向した結果の一例を示す図である。
【
図8】偏向角度を異ならせて周波数が異なる複数の再生音を表す音声ビームの放射方向を其々偏向した結果の一例を示す図である。
【
図9】グレーティングローブの発生を抑制する条件を示す図である。
【
図10】複数の音声ビームを放射する動作の一例を示す図である。
【
図11】複数の音声ビームを交差するように放射する動作の一例を示す図である。
【
図12】スピーカアレイと再生ラインの関係の一例を示す図である。
【
図13】音声ビームが再生ラインに放射される態様の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本開示の基礎となった知見)
本開示の原理について説明する。一般的なスピーカから出力される再生音は、球面状に伝搬するため、特定のユーザだけに再生音を届けることが出来ない。そこで、近年、空間フィルタリングに基づくエリア再生制御が提案されている(特許文献1等)。この制御では、再生音を届けたい再生エリアだけでなく、再生音を届けたくない非再生エリアについても再生音を制御することができる。
【0011】
図12は、スピーカアレイSAと再生ラインBLの関係の一例を示す図である。
図13は、音声ビームBMが再生ラインBLに放射される態様の一例を示す図である。具体的には、
図12に示すように、スピーカアレイSAと平行な、再生音を強め合う再生ラインBLと弱め合う非再生ラインDLとを設定し、所定音圧以上の音声ビームを、当該設定した再生ラインBLだけに放射するための制御フィルタを導出する。そして、再生音の信号に当該導出した制御フィルタを畳み込んだ信号をスピーカに出力させる。その結果、
図13に示すように、設定した再生ラインBLに音声ビームBMが放射される。
【0012】
しかし、上述のようなエリア再生技術を実際に使用する場合、再生ラインBLは、スピーカアレイSAと対向する領域SAA内において、スピーカアレイSAと平行に設定しなければならなかった。このため、
図12に示すように、音声ビームBMを放射可能な範囲が、スピーカアレイSAの長尺方向の長さLによって制限されるという課題があった。この課題を満たすための技術的な解決策に関して、これまで検討はされていなかった。
【0013】
このような課題を解決するために、本開示の一態様によるエリア再生システムは、複数のスピーカを直線状に並べて配置したスピーカアレイを含む再生部と、前記スピーカアレイと実質的に平行であって前記スピーカアレイから所定距離離間した位置に設定された、前記スピーカアレイから放射された音波が強め合う再生ラインと弱め合う非再生ラインとを含む制御ラインに基づいて、所定音圧以上の音声ビームが、前記再生ラインだけに放射されるように、前記複数のスピーカの其々に出力させる再生音を加工する加工処理を行う加工部と、前記音声ビームの放射される方向が指定角度だけ偏向されるように、前記再生音の位相を調整する指向角制御処理を行う指向角制御部と、を備え、前記再生部は、前記加工処理及び前記指向角制御処理が行われた後の前記再生音を、前記複数のスピーカの其々に出力させる。
【0014】
また、本開示の他の一態様によるエリア再生方法は、複数のスピーカを直線状に並べて配置したスピーカアレイを備えたエリア再生システムのコンピュータが実行するエリア再生方法であって、前記コンピュータが、前記スピーカアレイと実質的に平行であって前記スピーカアレイから所定距離離間した位置に設定された、前記スピーカアレイから放射された音波が強め合う再生ラインと弱め合う非再生ラインとを含む制御ラインに基づいて、所定音圧以上の音声ビームが、前記再生ラインだけに放射されるように、前記複数のスピーカの其々に出力させる再生音を加工する加工処理と、前記音声ビームの放射される方向が指定角度だけ偏向されるように、前記再生音の位相を調整する指向角制御処理と、を行い、前記加工処理及び前記指向角制御処理が行われた後の前記再生音を、前記複数のスピーカの其々に出力させる。
【0015】
これらの態様によれば、加工処理によって、所定音圧以上の音声ビームがスピーカアレイと平行に設定された再生ラインだけに放射されるように加工され、且つ、指向角制御処理によって、音声ビームの放射される方向が指定角度だけ偏向されるように位相が調整された再生音が、複数のスピーカの其々によって出力される。
【0016】
このため、音声ビームを、再生ラインに向かう方向から指定角度だけ偏向した方向に放射させることができる。これにより、再生ラインがスピーカアレイの長尺方向の端部に対向する位置に設定されていたとしても、スピーカアレイと対向しない領域に音声ビームを放射することができる。その結果、音声ビームを放射可能な範囲が、スピーカアレイの長尺方向の長さによって制限されることを回避できる。
【0017】
また、上記態様において、前記加工部は、前記加工処理において、前記再生音を表す再生音信号に、前記制御ラインを実現する制御フィルタを畳み込み、当該畳み込んだ信号を前記複数のスピーカの其々に前記再生音を出力させるための駆動信号として生成し、前記指向角制御部は、前記指向角制御処理において、前記加工処理において生成された前記駆動信号の位相を調整してもよい。
【0018】
本態様によれば、加工処理によって、再生音を表す再生音信号に、制御ラインを実現する制御フィルタが畳み込まれた後、指向角制御処理によって位相が調整された駆動信号が、複数のスピーカの其々によって出力される。
【0019】
このため、例えば、以前と異なる指定角度を設定し、以前の加工処理で生成された駆動信号を再利用して指向角制御処理を行うことで、以前と異なる制御ライン及び指定角度を設定して加工処理及び指向角制御処理を行う場合よりも、音声ビームの放射される方向を迅速に調整することができる。
【0020】
また、上記態様において、前記再生音の周波数は、前記複数のスピーカの配置間隔、音速及び前記指定角度を用いた下記式を満たしてもよい。
【数1】
【0021】
上記式を満たさない周波数の再生音を複数のスピーカに出力させた場合、グレーティングローブが発生することが知られている。本態様によれば、上記式を満たす周波数の再生音が出力されるので、グレーティングローブの発生を回避することができる。
【0022】
また、上記態様において、前記加工処理及び前記指向角制御処理が行われた後の前記再生音と、前記加工処理が行われた後の前記再生音と、を合成する第一合成部を更に備え、前記再生部は、前記第一合成部によって合成された第一合成再生音を前記複数のスピーカに出力させてもよい。
【0023】
本態様によれば、加工処理及び指向角制御処理によって、音声ビームが再生ラインに向かう方向から指定角度だけ偏向した方向に放射されるように調整された再生音と、加工処理によって、音声ビームが再生ラインだけに放射されるように加工された再生音と、を合成した第一合成再生音が、複数のスピーカによって出力される。
【0024】
このため、前者の音声ビームを制御ライン上における非再生ラインの一部の領域に放射し、後者の音声ビームを再生ラインに放射することができる。これにより、制御ライン上で音声ビームが放射される範囲を再生ラインよりも広い範囲に拡大することができる。
【0025】
また、上記態様において、前記加工部は、更に、前記スピーカアレイと実質的に平行であって前記スピーカアレイから前記所定距離離間した位置に設定された、前記スピーカアレイから放射された音波が強め合う追加再生ラインと弱め合う追加非再生ラインとを含む追加制御ラインに基づいて、前記所定音圧以上の追加音声ビームが、前記追加再生ラインだけに放射されるように、前記再生音と同一の追加再生音を加工する追加加工処理を行い、前記指向角制御部は、更に、前記音声ビームの一部と前記追加音声ビームの一部が前記スピーカアレイから前記所定距離離間した位置で交差するように、前記追加再生音の位相を調整する交差調整処理を行い、前記エリア再生システムは、前記加工処理及び前記指向角制御処理が行われた後の前記再生音と、前記追加加工処理及び前記交差調整処理が行われた後の前記追加再生音と、を合成する第二合成部を更に備え、前記再生部は、前記第二合成部によって合成された第二合成再生音を前記複数のスピーカに出力させてもよい。
【0026】
本態様によれば、加工処理及び指向角制御処理によって、音声ビームが再生ラインに向かう方向から指定角度だけ偏向した方向に放射されるように調整された再生音と、追加加工処理及び交差調整処理によって、音声ビームの一部と追加音声ビームの一部がスピーカアレイから所定距離離間した位置で交差するように調整された、再生音と同一の追加再生音と、を合成した第二合成再生音が、複数のスピーカによって出力される。
【0027】
このため、音声ビームの一部と追加音声ビームの一部とを制御ライン上において交差させることができる。これにより、制御ライン上の音声ビームの一部と追加音声ビームの一部とが交差している領域において、再生音の音圧を増大することができる。
【0028】
尚、以下で説明する実施の形態は、いずれも本開示の一具体例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、構成要素、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本開示を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。また全ての実施の形態において、各々の内容を組み合わせることも出来る。
【0029】
(システムの全体像)
まず、本開示の実施の形態におけるエリア再生システムの全体像について説明する。
【0030】
図1は、本開示の実施の形態におけるエリア再生システム1の構成を示す図である。エリア再生システム1は、入力部100、データ部200、処理部300及び再生部500を備える。
【0031】
入力部100は、後述するスピーカ501に再生させる再生音の音源データ201、後述する再生条件等の各種設定操作を行うためのタッチパネル101を備えた端末装置である。尚、入力部100は、タッチパネル101に限らず、物理的なキーボード及びマウスや、ジェスチャーで上記設定操作が可能なユーザインファーフェイス(UI)を備えた端末装置であっても良い。
【0032】
また、入力部100は、エリア再生システム1のユーザが使用するスマートフォンやタブレット等の端末装置であってもよいし、エリア再生システム1によるエリア再生の対象とする室内に設けられた、複数のユーザで共用するパーソナルコンピュータ等の端末装置であってもよい。
【0033】
データ部200は、RAM(Random Access Memory)やHDD(Hard Disk Drive)等の記憶装置である。データ部200には、再生音を表す音源データ201が記憶されている。音源データ201は、インターネット等のネットワーク経由で処理部300へ送信される。尚、データ部200を処理部300と同一の装置内に設けても良いし、処理部300とは異なる装置に設けても良い。
【0034】
処理部300は、マイクロプロセッサ、ROM、RAM、ハードディスクドライブ、キーボード、マウス、ディスプレイユニット等を備えた情報処理装置(コンピュータの一例)である。処理部300は、LAN、Bluetooth(登録商標)、AVケーブル等によって、後述するオーディオIF504と通信可能に接続されている。処理部300は、それ自身ではインターネットと接続不可能であっても、ホームゲートウェイを介してインターネットと接続可能であってもよい。処理部300の詳細については後述する。尚、処理部300をオーディオIF504と同じ装置に設け、AVケーブル等によってオーディオIF504と接続しても良い。
【0035】
再生部500は、音声データを送受信するオーディオIF504、オーディオIF504から入力された音声データをアナログ信号に変換するDAコンバータ503、DAコンバータ503により変換されたアナログ信号を増幅するアンプ502、及びアンプ502により増幅された信号が示す再生音を出力するスピーカ501等を備えた音声出力装置である。
【0036】
尚、再生部500は、複数のスピーカ501を備え、これら複数のスピーカ501を所定の間隔で直線状に並べて配置したスピーカアレイSA(
図2)を構成している。後述するように、各スピーカ501の配置間隔Δxや、スピーカアレイSAの長尺方向の長さL等によって、エリア再生の性能は変化する。尚、スピーカ501の種類や規模は、限定されない。
【0037】
(処理部300の詳細)
次に、処理部300について詳述する。
図1に示すように、処理部300は、フィルタ生成部301、加工部302、指向角制御部303及び合成部304(第一合成部の一例、第二合成部の一例)を備える。
【0038】
フィルタ生成部301は、ユーザが入力部100を用いて指定した再生条件に含まれる後述の制御ラインを実現するための制御フィルタを生成する。フィルタ生成部301による制御フィルタの生成方法の詳細については後述する。
【0039】
加工部302は、ユーザが入力部100を用いて指定した再生条件に含まれる制御ラインが実現されるよう、フィルタ生成部301によって生成された制御フィルタを用いて、複数のスピーカ501に出力させる再生音を加工する加工処理を行う。
【0040】
具体的には、加工部302は、加工処理において、ユーザが入力部100を用いて指定した、複数のスピーカ501に出力させる再生音を表す音源データ201を、アナログ信号に変換する。そして、加工部302は、当該アナログ信号(以降、音源データ201に対応する再生音信号)に、フィルタ生成部301が生成した制御フィルタを畳み込んだ信号を、複数のスピーカ501の其々に前記再生音を出力させるための駆動信号として生成する。
【0041】
指向角制御部303は、ユーザが入力部100を用いて指定した再生条件に、後述する偏向角度(指定角度の一例)が含まれている場合、音声ビームの放射される方向が当該偏向角度だけ偏向されるように、複数のスピーカ501の其々に出力させる再生音の位相を調整する指向角制御処理を行う。
【0042】
具体的には、指向角制御部303は、指向角制御処理において、加工部302によって生成された各スピーカの駆動信号の位相を調整することで、各スピーカ501の駆動を開始させるタイミングを調整する。これによって、指向角制御部303は、複数のスピーカ501の其々に出力させる再生音の位相を調整する。指向角制御部303は、当該位相を調整した後の駆動信号を合成部304に出力する。指向角制御部303による再生音の位相を調整する方法の詳細については後述する。
【0043】
尚、指向角制御部303は、ユーザが入力部100を用いて指定した再生条件に偏向角度が含まれていない場合、加工部302によって生成された駆動信号をそのまま合成部304に出力する。
【0044】
合成部304は、複数の再生音の其々を出力させるための駆動信号が入力された場合、入力された各再生音を出力させるための駆動信号を合成する。合成部304は、当該合成した駆動信号を、複数のスピーカ501に当該複数の再生音を合成した合成再生音(第一合成再生音、第二合成再生音の一例)を出力させるための駆動信号として、再生部500に送信する。尚、合成部304は、指向角制御部303から、一の再生音を出力させるための駆動信号が入力された場合、当該入力された駆動信号をそのまま再生部500に送信する。
【0045】
(制御フィルタの生成方法)
次に、フィルタ生成部301による制御フィルタの生成方法の詳細について説明する。以降、スピーカアレイSAを構成するスピーカ501は、x軸上に並べて配置されているものとする。x軸及びx軸に直交するy軸により表される平面において、スピーカアレイSAの位置A(x0,0)におけるスピーカ501から出力された角周波数ωの再生音のうち、制御点B(x,yref)に到達する角周波数ωの再生音の音圧P(x,yref,ω)は、以下の式(1)によって与えられる。
【数2】
【0046】
式(1)において、D(x0,0,ω)は、各スピーカの駆動信号を示し、G(x-x0,yref,ω)は、各スピーカ501から制御点B(x,yref)までの伝達関数を示す。尚、伝達関数G(x-x0,yref,ω)は、3次元自由空間におけるグリーン関数である。また、再生音の周波数をfとすると、再生音の角周波数ωは、2πfで表される(ω=2πf)。
【0047】
式(1)をx軸方向にフーリエ変換すると畳み込み定理より、以下の式(2)が得られる。
【数3】
【0048】
ここで、「~」は、波数領域における値であることを示す。kxは、x軸方向の空間周波数である。さらに、スピーカ501に出力させる再生音信号をS(ω)、制御フィルタをF(x0,0,ω)とすると、点Aにおけるスピーカの駆動信号D(x0,0,ω)は、以下の式(3)によって表される。
【数4】
【0049】
制御フィルタF(x0,0,ω)は、再生音に依存しないため、以降、S(ω)=1とする。したがって、式(3)をx軸方向にフーリエ変換した結果と式(2)とから、以下の式(4)が得られる。
【数5】
【0050】
図2は、再生ラインBLと非再生ラインDLの設定の一例を示す図である。エリア再生を実現するためには、
図2に示すように、スピーカアレイSAと実質的に平行であって、スピーカアレイSAから距離yref離間した位置に設定された制御ラインCL上に、スピーカアレイSAから放射された音波が強め合う再生ラインBLと弱め合う非再生ラインDLとを定めれば良い。本開示の実施の形態では、再生ラインBLのx軸方向の長さ(以下、再生ラインBLの幅)をlbとする。そして、再生ラインBLのx軸方向の中心をx=0とし、制御ラインCL上の制御点B(x,yref)に到達する再生音の音圧P(x,yref,ω)を、以下の式(5)に示す矩形波としてモデル化する。
【0051】
【0052】
尚、式(5)では、再生音の音圧P(x,yref,ω)が「1」又は「0」であるものとしてモデル化しているが、これに限らず、再生音の音圧P(x,yref,ω)は、「1」以上の所定値(所定音圧の一例)又は「0」であるものとしてモデル化してもよい。
【0053】
エリア再生を実現する制御フィルタF(x,0,ω)は、式(5)をx軸方向にフーリエ変換して得られる波数領域における再生音の音圧を式(4)に代入し、その結果得られる波数領域における制御フィルタを逆フーリエ変換することで、式(6)のように解析的に導出することができる。
【0054】
【数7】
ここで、右辺のF
-1[ ]は逆フーリエ変換を示し、[ ]内に記載の式は波数領域における制御フィルタを示している。
【0055】
ただし、式(6)は、スピーカアレイSAが備えるスピーカ501がx軸上に無限に並べて配置されているものとして得られる式である。実際には、スピーカアレイSAが備えるスピーカ501は有限個であるので、制御フィルタF(x,0,ω)は離散化して導出する必要がある。
【0056】
具体的には、
図2に示すように、スピーカアレイSAが備えるスピーカ501の個数をNとし、各スピーカ501の配置間隔をΔxとし、スピーカアレイSAのx軸方向の長さをLとする。この場合、離散化した制御フィルタF(x,0,ω)は、式(6)の右辺の[ ]内の式によって表される波数領域における制御フィルタを離散逆フーリエ変換することによって、以下の式(7)のように解析的に導出することができる。
【0057】
【0058】
そこで、フィルタ生成部301は、1)各スピーカ501の配置間隔Δxと、2)スピーカアレイSAが備えるスピーカ501の個数Nと、3)スピーカアレイSAから制御ラインCLまでのy軸方向の距離yrefと、4)再生ラインBLの幅lbと、を式(7)に代入することによって、制御フィルタF(x,0,ω)を生成する。
【0059】
(再生音の位相の調整方法)
次に、指向角制御部303による再生音の位相の調整方法の詳細について説明する。
図3は、音声ビームBMの放射される方向(以降、放射方向)を-x方向に偏向する調整の一例を示す図である。
図3の左上は、音声ビームBMが再生ラインBLに放射される一例を示している。
図3の左下は、指向角制御部303による再生音の位相の調整例を示している。
図3の右下は、
図3の左下に示す再生音の位相の調整によって、音声ビームBMの放射方向が偏向された結果の一例を示している。
【0060】
例えば、
図3の左上に示すように、ユーザが、再生条件として、スピーカアレイSAのx方向の中心と再生ラインBLのx方向の中心とが一致するようにして再生ラインBLを設定したとする。これに応じて、ユーザが、制御ラインCLにおけるスピーカアレイSAと対向する範囲内で、再生ラインBLと異なる領域を非再生ラインDLとして設定したとする。そして、当該再生条件でエリア再生を実現するための制御フィルタがフィルタ生成部301によって生成されたとする。また、加工部302によって、音源データ201に対応する再生音信号に、当該生成された制御フィルタを畳み込んだ信号が、複数のスピーカ501の駆動信号Dとして生成されたとする。
【0061】
加工部302によって生成された駆動信号Dによって複数のスピーカ501が駆動されると、
図3の左上に示すように、音声ビームBMがスピーカアレイSAの正面方向であるy方向に放射され、再生ラインBLに放射される。
【0062】
しかし、ユーザが音声ビームBMの放射方向を-x方向に角度「θ」だけ偏向させることを望み、再生条件として、正の角度「θ」を示す偏向角度を指定していたとする。この場合、指向角制御部303は、
図3の左下に示すように、スピーカアレイSAにおいて、ユーザが指定した音声ビームBMの放射方向を偏向する方向(以降、音声ビームBMの偏向方向)である-x方向の端部に近いスピーカ501になる程、駆動を開始するタイミングが大きく遅延するように駆動信号Dの位相を調整する。
【0063】
当該位相が調整された駆動信号Dによって複数のスピーカ501が其々駆動されると、
図3の右下に示すように、音声ビームBMaが、y方向に対して-x方向に偏向角度「θ」成す方向Daに放射される。換言すれば、スピーカアレイSAをy方向に偏向角度「θ」だけ傾けたスピーカアレイSAaから、正面方向に音声ビームBMaが放射されたようになる。その結果、音声ビームBMaは、再生ラインBLの-x方向の一端よりも-x方向の位置にも放射されるようになる。
【0064】
図4は、音声ビームBMの放射方向をx方向に偏向する調整の一例を示す図である。
図4の左上は、
図3の左上と同じ図であり、音声ビームBMがスピーカアレイSAの正面方向であるy方向に放射され、再生ラインBLに放射される例を示している。
図4の左下は、指向角制御部303による再生音の位相の他の調整例を示している。
図4の右下は、
図4の左下に示す再生音の位相の調整によって、音声ビームBMの放射方向が偏向された結果の一例を示している。
【0065】
上記とは異なり、ユーザが音声ビームBMの放射方向をx方向に角度「θ」だけ偏向させることを望み、再生条件として、負の角度「-θ」を示す偏向角度を指定していたとする。この場合、指向角制御部303は、
図4の左下に示すように、スピーカアレイSAにおいて、ユーザが指定した音声ビームBMの偏向方向であるx方向の端部に近いスピーカ501になる程、駆動を開始するタイミングが大きく遅延するように駆動信号Dの位相を調整する。
【0066】
当該位相が調整された駆動信号Dによって複数のスピーカ501が其々駆動されると、
図4の右下に示すように、音声ビームBMbが、y方向に対して-x方向に偏向角度「-θ」成す方向(x方向に角度「θ」成す方向)Dbに放射される。換言すれば、スピーカアレイSAをy方向に偏向角度「-θ」(y方向に角度「θ」)だけ傾けたスピーカアレイSAbから、正面方向に音声ビームBMbが放射されたようになる。その結果、音声ビームBMbは、再生ラインBLのx方向の一端よりもx方向の位置にも放射されるようになる。
【0067】
(遅延時間の算出方法)
尚、指向角制御部303は、隣り合う二個のスピーカ501間で駆動の開始タイミングを遅延させる時間である遅延時間τを、ユーザが指定した偏向角度に基づいて算出する。当該遅延時間τの算出方法について、
図3に示した具体例を用いて説明する。例えば、
図3に示したように、音声ビームBMの放射方向を、y方向から、y方向に対して-x方向に偏向角度「θ」成す方向Daに偏向するとする。
【0068】
図5は、遅延時間τと偏向角度との関係を示す図である。この場合、
図5に示すように、隣り合う二個のスピーカ501a、501bのうち、先に駆動を開始したスピーカ501aから、方向Daに出力された音速cの音波が、x軸をy方向に偏向角度「θ」だけ傾けた直線Laと交差する時点で、スピーカ501bの駆動を開始させればよい。これにより、直線Laと平行な位置上で音波が強め合うようになり、音声ビームBMが、直線Laに直交する方向Daに放射されるようになる。
【0069】
ここで、スピーカ501aから出力された音波が直線Laと交差するまでに移動する距離は、スピーカアレイSAに含まれる複数のスピーカ501の配置間隔Δxと偏向角度θのサイン関数sinθとの積、又は、音速cと遅延時間τとの積で表すことができる。そこで、指向角制御部303は、当該二つの積が一致することを示す下記式(8)を変形した下記式(9)を用いて、遅延時間τを算出する。
【数9】
【数10】
【0070】
つまり、指向角制御部303は、
図3の左下に示すように、音声ビームBMの放射方向を-x方向に偏向する場合、スピーカアレイSAにおいてx方向の中心位置を基準位置とし、基準位置から-x方向に1番目に配置されたスピーカ501の駆動信号Dの位相を、遅延時間τだけ遅らせる。
【0071】
同様に、指向角制御部303は、基準位置から-x方向に2番目に配置されたスピーカ501の駆動信号Dの位相を遅延時間2τだけ遅らせる。すなわち、指向角制御部303は、基準位置から-x方向にm番目に配置されたスピーカ501の駆動信号Dの位相を遅延時間m・τだけ遅らせる。反対に、指向角制御部303は、基準位置からx方向にm番目に配置されたスピーカ501の駆動信号Dの位相を遅延時間m・τだけ早くする。
【0072】
一方、指向角制御部303は、
図4の左下に示すように、音声ビームBMの放射方向をx方向に偏向する場合、基準位置からx方向に1番目に配置されたスピーカ501の駆動信号Dの位相を遅延時間τだけ遅らせる。
【0073】
同様に、指向角制御部303は、基準位置からx方向に2番目に配置されたスピーカ501の駆動信号Dの位相を遅延時間2τだけ遅らせる。すなわち、指向角制御部303は、基準位置からx方向にm番目に配置されたスピーカ501の駆動信号Dの位相を遅延時間m・τだけ遅らせる。反対に、指向角制御部303は、基準位置から-x方向にm番目に配置されたスピーカ501の駆動信号Dの位相を遅延時間m・τだけ早くする。
【0074】
(エリア再生の動作)
次に、エリア再生システム1において実行されるエリア再生方法について説明する。
図6は、エリア再生の動作の一例を示すフローチャートである。まず、ユーザがタッチパネル101を用いて、再生音の音源データ201の名称(以下、音源名)及び再生条件を指定すると(ステップS01)、入力部100は、当該指定された音源名をデータ部200へ送信し(ステップS02)、当該指定された再生条件を処理部300へ送信する(ステップS03)。
【0075】
ステップS01で指定される再生条件には、制御フィルタF(x,0,ω)の生成に必要な上記の1)各スピーカ501の配置間隔Δx、2)スピーカアレイSAが備えるスピーカ501の個数N、3)スピーカアレイSAから制御ラインCLまでのy軸方向の距離yref、及び4)再生ラインBLの幅lbや、5)再生ラインBL上での再生音の音量、6)音声ビームBMの放射方向を偏向させる偏向角度等の条件が含まれる。尚、再生条件に、上記の1)~6)の一部又は全ての条件が含まれていなくてもよい。
【0076】
尚、ステップS01では、ユーザがタッチパネル101を用いて、互いに異なる複数の再生音の音源名を指定し、再生音毎に再生条件を指定してもよい。この場合、入力部100は、ステップS02において、当該指定された複数の音源名をデータ部200へ送信し、ステップS03において、当該指定された再生音毎の再生条件を処理部300へ送信する。
【0077】
次に、データ部200は、一以上の音源名を受信すると(ステップS04)、当該一以上の音源名に対応する一以上の音源データ201を処理部300へ送信する(ステップS05)。
【0078】
処理部300が、一以上の再生音其々の再生条件を受信すると(ステップS06)、フィルタ生成部301は、当該受信した一以上の再生音其々の再生条件のうち、一の再生音(以降、対象再生音)の再生条件(以降、対象再生条件)を対象として、対象再生条件に含まれる上記の1)~4)の条件を式(7)に代入する計算を行う。これによって、フィルタ生成部301は、対象再生条件でエリア再生を実現するための制御フィルタF(x,0,ω)を生成する(ステップS07)。
【0079】
尚、対象再生条件に上記の5)の条件(再生ラインBL上での再生音の音量)が含まれているとする。この場合、フィルタ生成部301は、上記1)~4)の条件を用いて算出した制御フィルタF(x,0,ω)に対し、所定の最大音量に対する当該5)の条件が示す対象再生音の音量の比率r(=対象再生音の音量/最大音量)を乗算した結果r・F(x,0,ω)を、制御フィルタF(x,0,ω)として生成する。
【0080】
一方、上述のように、対象再生条件に上記1)~4)の一部又は全ての条件が含まれていない場合がある。上記1)、2)の条件が含まれていない場合、フィルタ生成部301は、ROM等に予め記憶されている、各スピーカ501の配置間隔Δxと、スピーカアレイSAが備えるスピーカ501の個数Nと、を取得し、これらを上記1)、2)の条件とする。
【0081】
また、フィルタ生成部301は、対象再生条件に上記3)の条件が含まれていない場合、エリア再生システム1に含まれるまたは外部に備えられた不図示の所定のセンサから、人物の位置に関する情報を取得する。そして、フィルタ生成部301は、当該取得した人物の位置に関する情報に基づいて、制御ラインCLを設定するための上記3)の条件を設定する。
【0082】
具体的には、上記所定のセンサには、例えばカメラや熱画像を取得するセンサ等が含まれる。上記所定のセンサは、再生部500と同一の装置内に組み込まれてもよいし、エリア再生システム1の外部に備えられてもよい。上記所定のセンサは、出力信号を処理部300へ送信できればよい。
【0083】
例えば、上記所定のセンサとして、スピーカアレイSAと同じx軸上にy軸方向を撮像する不図示のカメラが設けられているとする。この場合、フィルタ生成部301は、当該カメラが出力した撮像画像を取得し、公知の画像認識技術等を用いて、当該撮像画像内に人物が含まれているか否かを認識する。そして、フィルタ生成部301は、当該撮像画像内に人物が含まれていることを認識した場合、当該認識した人物を示す画像の大きさと撮像画像の大きさとの比率等に基づき、x軸から当該人物の位置までのy軸方向の距離を算出する。
【0084】
或いは、上記所定のセンサとして、x軸から当該人物の位置までのy軸方向の距離を測定し、当該測定した距離を示す信号を処理部300へ出力可能なセンサ(例えば、深度センサ)が設けられているとする。この場合、フィルタ生成部301は、当該センサの出力信号が示す、x軸から当該人物の位置までのy軸方向の距離を取得する。
【0085】
そして、フィルタ生成部301は、x軸から上記人物の位置までのy軸方向の距離を、上記の3)の条件(スピーカアレイSAから制御ラインCLまでのy軸方向の距離yref)として設定する。
【0086】
また、フィルタ生成部301は、対象再生条件に上記4)の条件が含まれていなかった場合、予めROM等に記憶されている、例えば人物の横幅程度に予め定められた固定値(例えば、1m)を取得し、これを上記の4)の条件(再生ラインBLの幅lb)とする。
【0087】
このように、フィルタ生成部301は、ユーザに制御ラインCLの設定に必要な1)~4)の条件の指定の手間をかけさせることなく、所定のセンサから取得した人物の位置に関する情報に基づいて、1)~4)の条件を自動的に設定することができる。これにより、フィルタ生成部301は、制御ラインCLを自動的に設定することができる。
【0088】
次に、処理部300が、ステップS02で指定された一以上の音源名に対応する一以上の音源データ201を受信したとする(ステップS08)。この場合、加工部302は、加工処理を行う。具体的には、加工部302は、加工処理において、当該受信した一以上の音源データ201のうち、対象再生音の音源データ201に対応する再生音信号に、ステップS07で生成された制御フィルタF(x,0,ω)を畳み込んだ駆動信号Dを生成する(ステップS09)。
【0089】
より具体的には、ステップS09において、加工部302は、対象再生音の音源データ201に対応する再生音信号S(2πf)に、ステップS07で生成された制御フィルタF(x,0,2πf)を畳み込んだ駆動信号D(x,0,2πf)(D(x,0,2πf)=S(2πf)F(x,0,2πf))を生成する。
【0090】
次に、対象再生条件に偏向角度が含まれていた場合(ステップS10でYES)、指向角制御部303は、指向角制御処理を行う。具体的には、指向角制御部303は、指向角制御処理において、音声ビームの放射される方向が当該偏向角度だけ偏向されるように、複数のスピーカ501の其々に出力させる対象再生音の位相を調整する(ステップS11)。
【0091】
より具体的には、ステップS11において、指向角制御部303は、上述のように、ステップS09で生成された駆動信号D(x,0,2πf)の位相を調整することで、各スピーカ501の駆動を開始させるタイミングを調整する。これによって、指向角制御部303は、複数のスピーカ501の其々に出力させる対象再生音の位相を調整する。
【0092】
対象再生条件に偏向角度が含まれていなかった場合(ステップS10でNO)又はステップS11が行われた場合において、ステップS08で受信された全ての音源データ201に対応する駆動信号Dが生成されていないとき(ステップS12でNO)、処理はステップS07に戻る。以降、ステップS06で受信された一以上の再生音の再生条件のうち、対応する駆動信号Dが生成されていない一の再生音の再生条件を、対象再生音の対象再生条件として、ステップS07以降の処理が行われる。
【0093】
一方、ステップS08で受信された全ての音源データ201に対応する駆動信号Dが生成されたときは(ステップS12でYES)、合成部304は、ステップS08で受信された全ての音源データ201に対応する駆動信号Dを合成し、当該合成した信号を再生部500へ送信する(ステップS13)。
【0094】
再生部500は、受信した信号によって複数のスピーカ501の其々を駆動することにより、ステップS08で受信された各音源データ201が表す再生音を合成した合成再生音を、複数のスピーカ501の其々に出力させる(ステップS14)。
【0095】
(具体例)
以下、上述の
図6に示す動作によって、周波数が異なる複数の再生音を表す音声ビームBMの放射方向を其々偏向した結果の具体例について説明する。本具体例では、周波数fが500Hz、1000Hz、2000Hz、5000Hzの正弦波の信号で表される再生音を表す音声ビームBMを同一の下記条件で放射させるものとした。
【0096】
図2に示すように、幅35mmのスピーカ501を、配置間隔Δxを35mmとして、x軸上に64個(N=64)並べて配置した、長尺方向の長さLが2.24mのスピーカアレイSAを使用した。そして、スピーカアレイSAのx軸方向の中心に直交するラインをy軸とした。
【0097】
また、ステップS01では、再生条件として、スピーカアレイSAと制御ラインCLまでの距離yrefを2mに設定し、再生ラインBLのx軸方向の中心をy軸上(x=0)に設定し、制御ラインCLにおける再生ラインBLの幅lbを1mに設定した。つまり、ステップS06において、処理部300が、上記1)の条件(各スピーカ501の配置間隔Δx)を35mmとし、2)の条件(スピーカアレイSAが備えるスピーカ501の個数N)を64とし、3)の条件(スピーカアレイSAから制御ラインCLまでのy軸方向の距離yref)を2mとし、4)の条件(制御ラインCLにおける再生ラインBLの幅lb)を1mとする再生条件を受信するようにした。
【0098】
更に、各再生音を表す音声ビームBMをy方向に対して-x方向に角度「38°」成す方向Daに偏向させるため、再生条件として偏向角度「38°」を指定した。
【0099】
図7は、周波数fが異なる複数の再生音を表す音声ビームBMの放射方向を偏向した結果の一例を示す図である。
図7(A)~(D)は、其々、周波数fが500Hz、1000Hz、2000Hz、5000Hzの正弦波の信号で表される再生音の音源名と上記再生条件とを指定して、
図6に示す動作を行うことで、音声ビームBMの放射方向を偏向したときの音圧分布を示している。
【0100】
図7(A)~(D)に示すように、
図6に示す動作によれば、音声ビームBMを、スピーカアレイSAの正面方向であるy方向に対して-x方向に偏向角度「38°」だけ偏向した方向に放射させることができる。これにより、再生ラインBLがスピーカアレイSAの長尺方向の端部に対向する位置に設定されていたとしても、スピーカアレイSAと対向しない領域に音声ビームBMを放射することができる。その結果、音声ビームBMを放射可能な範囲が、スピーカアレイSAの長尺方向の長さLによって制限されることを回避できる。
【0101】
また、ステップS09では、再生ラインBLに音声ビームBMが放射されるように、再生音を複数のスピーカ501に出力させるための駆動信号D(x,0,2πf)が生成される。その後、ステップS11では、音声ビームBMの放射される方向が偏向角度だけ偏向されるように、各スピーカ501の駆動信号Dの位相が調整される。
【0102】
このため、例えば、
図6に示す動作の終了後、ステップS01において、ユーザが入力部100を用いて以前と異なる偏向角度だけを指定できるようにしてもよい。そして、ステップS02、S04、S05、S07~S09を省略し、当該指定された偏向角度と以前のステップS09(加工処理)で生成された駆動信号Dを用いて、ステップS11(指向角制御処理)以降の処理を行うようにしてもよい。
【0103】
この場合、ステップS02、S04、S05、S07~S09が省略されるので、
図6に示すように、ステップS01で、以前と異なる制御ラインCL及び偏向角度を再設定し、当該再設定した制御ラインCL及び偏向角度を用いて、ステップS07~S11の処理を行う場合よりも、音声ビームBMの放射される方向を迅速に調整することができる。
【0104】
(変形実施形態)
以上、本開示の実施の形態について説明したが、各処理が実施される主体や装置は、上記の実施の形態に記載したものに限定されない。例えば、以下に示す変形実施形態であってもよい。
【0105】
(1)
図8は、偏向角度を異ならせて周波数fが異なる複数の再生音を表す音声ビームBMの放射方向を其々偏向した結果の一例を示す図である。
図8(A)~(C)は、周波数fが2000Hzの正弦波の信号で表される再生音の音源名と、
図7を用いて説明した上記具体例と同様の1)~4)の条件を含む再生条件と、を指定し、更に、当該再生条件に含める偏向角度を「θ1」、「θ2(>θ1)」、「θ3(>θ2)」と段階的に増大させて
図6に示す動作を行うことで、音声ビームBMの放射方向を偏向したときの音圧分布を示している。
図8(D)~(F)は、周波数fが5000Hzの正弦波の信号で表される再生音の音源名を指定したときの
図8(A)~(C)と同様音圧分布を示している。
【0106】
図8(A)~(C)に示すように、
図6に示す動作によれば、周波数fが2000Hzの再生音を表す音声ビームBMの放射方向を偏向角度「θ1」~「θ3」だけ偏向させることができる。また、
図8(D)、(E)に示すように、
図6に示す動作によれば、周波数fが5000Hzの再生音を表す音声ビームBMの放射方向を、
図8(A)、(B)と同様に、偏向角度「θ1」、「θ2」だけ偏向させることができる。
【0107】
しかし、
図8(F)に示すように、
図6に示す動作によれば、周波数fが5000Hzの再生音を表す音声ビームBMの放射方向を偏向角度「θ3」だけ偏向させようとした場合、音声ビームBMの放射方向を
図8(C)と同様には偏向できず、スピーカアレイSAの周辺で音波が強め合う、所謂グレーティングローブが発生する。そこで、グレーティングローブが発生しないよう、以下に示すようにして、ユーザが指定可能な再生音の周波数fを制限するようにしてもよい。
【0108】
図9は、グレーティングローブの発生を抑制する条件を示す図である。従来から、
図9に示すように、x方向に沿って配置間隔dを開けて直線状に配置された複数のスピーカ501に、其々、波長λの再生音を出力させた場合に、各スピーカ501からy方向に対して-x方向に角度「θ
m」成す領域内にグレーティングローブを発生させないためには、下記式(10)を満たす必要があることが知られている。
【数11】
【0109】
上記式(10)は、複数のスピーカ501の配置間隔Δx、音速c、及び偏向角度θを用いて、下記式(11)に変形することができる。
【数12】
【0110】
そこで、
図6に示す動作によって、上述のようなグレーティングローブが発生しないよう、ステップS01で指定可能な再生音の周波数fを、式(11)を満たす周波数fに制限するようにしてもよい。
【0111】
具体的には、ステップS08において、処理部300が、データ部200から受信した一以上の音源データ201に、上記式(11)を満たさない周波数fの再生音の音源データ201が含まれているか否かを判定するようにすればよい。そして、処理部300が、上記式(11)を満たさない周波数fの再生音の音源データ201が含まれていると判定した場合には、グレーティングローブを発生させる周波数fの再生音を表す音源名が指定されている旨を示す警告信号を入力部100に送信して、
図6に示す動作を終了するように構成すればよい。
【0112】
これに合わせて、入力部100が、当該警告信号を受信した場合に、グレーティングローブを発生させる周波数fの再生音を表す音源名が指定されている旨を示すメッセージをタッチパネル101に表示させる等して、グレーティングローブを発生させる周波数fの再生音を表す音源名が指定されている旨をユーザに報知するように構成すればよい。
【0113】
本変形実施形態によれば、複数のスピーカ501から、上記式(11)を満たす周波数fの再生音が出力されるので、グレーティングローブの発生を回避することができる。
【0114】
(2)ステップS01において、ユーザが、同一の複数の再生音をエリア再生するための再生条件として、偏向角度が互いに異なる複数の再生条件を指定可能なように入力部100を構成してもよい。
【0115】
図10は、複数の音声ビームBM、BMa、BMbを放射する動作の一例を示す図である。例えば、ステップS01において、ユーザが、一の再生音の音源名を指定し、
図10に示すように、偏向角度を含まない、音声ビームBMをスピーカアレイSAの正面方向であるy方向に放射させる第一再生条件を指定するとともに、下記第二再生条件及び第三再生条件を指定可能なように入力部100を構成してもよい。
【0116】
第二再生条件は、
図10に示すように、y方向に対して-x方向に角度「θa」成す方向Daに、音声ビームBMaの放射方向を偏向させるための再生条件であり、第一再生条件に、更に偏向角度「θa」を含んだ条件である。第三再生条件は、
図10に示すように、y方向に対して-x方向に角度「-θb」(x方向に角度「θb」)成す方向Dbに、音声ビームBMaの放射方向を偏向させるための再生条件であり、第一再生条件に、更に偏向角度「-θb」を含む条件である。
【0117】
尚、ステップS01において、第一再生条件に含まれる再生ラインBL及び非再生ラインDLの設定値を、第二再生条件及び第三再生条件に含まれる再生ラインBL及び非再生ラインDLの設定値として自動的に設定するように、入力部100を構成してもよい。
【0118】
本変形実施形態の構成では、ステップS06において複数の再生条件が受信され、ステップS08では一の音源データ201だけが受信される。このため、ステップS12では、ステップS06で受信された全ての再生条件の其々でエリア再生を実現するための制御フィルタ(以降、全ての再生条件に対応する制御フィルタ)が生成されたか否かを判定するようにすればよい。
【0119】
そして、ステップS06で受信された全ての再生条件に対応する制御フィルタが生成されていないと判定された場合は、対象再生音は変更せず、対応する制御フィルタが生成されていない再生条件を対象再生条件として、ステップS07以降の処理を行うようにすればよい。そして、ステップS06で受信された全ての再生条件に対応する制御フィルタが生成されたと判定された場合に、処理をステップS13に移行するようにすればよい。
【0120】
つまり、本変形実施形態の構成では、ステップS09において、第一再生条件で一の再生音をエリア再生するための駆動信号D(以降、第一駆動信号D1)が加工部302によって生成される。そして、次のステップS09において、第二再生条件に含まれる第一再生条件と同じ再生条件で、前記一の再生音と同一の再生音をエリア再生するための駆動信号D(以降、第二駆動信号D2)が加工部302によって生成される。この場合、ステップS11において、指向角制御部303によって、第二再生条件に含まれる偏向角度「θa」に応じて当該第二駆動信号D2の位相が調整される。
【0121】
そして、次のステップS09において、第三再生条件に含まれる第一再生条件と同じ再生条件で、前記一の再生音と同一の再生音をエリア再生するための駆動信号D(以降、第三駆動信号D3)が加工部302によって生成される。この場合、ステップS11において、指向角制御部303によって、第三再生条件に含まれる偏向角度「-θb」に応じて当該第三駆動信号D3の位相が調整される。
【0122】
そして、ステップS13において、合成部304によって、上記のステップS09で生成された第一駆動信号D1(加工処理が行われた後の再生音の一例)と、上記のステップS09及びステップS11が行われることで生成された第二駆動信号D2及び第三駆動信号D3(加工処理及び指向角制御処理が行われた後の再生音の一例)と、が合成される。そして、ステップS14において、当該ステップS13で合成された信号(第一合成再生音の一例)によって複数のスピーカ501が駆動される。
【0123】
これにより、
図10に示すように、音声ビームBMがy方向に放射され、再生ラインBLに放射される。また、音声ビームBMaが方向Daに放射され、再生ラインBLよりも-x方向の位置にも放射される。更に、音声ビームBMbが方向Dbに放射され、再生ラインBLよりもx方向の位置にも放射される。したがって、再生ラインBLの設定を変更することなく、音声ビームBMが放射される範囲を、再生ラインBLよりも広い範囲に拡大することができる。
【0124】
(3)ステップS01において、ユーザが、一の再生音の音源名を指定し、再生ラインBL及び偏向角度の設定が互いに異なる下記第四再生条件及び第五再生条件を指定可能なように入力部100を構成してもよい。
図11は、複数の音声ビームBMc、BMdを交差するように放射する動作の一例を示す図である。
【0125】
第四再生条件は、
図11に示すように、スピーカアレイSAから距離yref離間した位置に制御ラインCLを設定する条件である。また、第四再生条件は、制御ラインCLとy軸との交差点よりも-x方向に離間した位置が中心位置となるように再生ラインBLcを設定する条件である。また、第四再生条件は、制御ラインCLにおける再生ラインBLcとは異なる領域を非再生ラインDLとして設定する条件である。更に、第四再生条件は、音声ビームBMcの放射方向を-x方向に角度「-θc」(x方向に角度「θc」)偏向させるため、偏向角度「-θc」を設定する条件である。
【0126】
一方、第五再生条件は、
図11に示すように、第四再生条件に含まれる制御ラインCLと同じ制御ラインCLを設定する条件である。つまり、第五再生条件は、スピーカアレイSAから距離yref離間した位置に、制御ラインCL(追加制御ラインの一例)を設定する条件である。また、第五再生条件は、制御ラインCLとy軸との交差点よりもx方向に離間した位置が中心位置となるように再生ラインBLd(追加再生ラインの一例)を設定する条件である。また、第五再生条件は、制御ラインCLにおける再生ラインBLdとは異なる領域を非再生ラインDL(追加非再生ラインの一例)として設定する条件である。更に、第五再生条件は、音声ビームBMd(追加音声ビームの一例)の放射方向を-x方向に角度「θd」偏向させるため、偏向角度「θd」を設定する条件である。
【0127】
ここで、第五再生条件として設定可能な偏向角度は、
図11に示すように、第四再生条件に従って放射された音声ビームBMcの一部と、第五再生条件に従って放射された音声ビームBMdの一部とが、スピーカアレイSAから距離yref離間した位置に設定された制御ラインCL上で交差するような角度に制限されている。
【0128】
具体的には、ユーザが、第五再生条件として前記制限されている角度とは異なる偏向角度を設定したとする。この場合、指向角制御部303は、例えば不正な偏向角度が入力されている旨を示すメッセージ、又は、偏向角度として設定可能な候補の角度とともに、適切な偏向角度を設定するように案内する旨を示すメッセージを、タッチパネル101に表示させるための指示信号を、入力部100に送信する処理(交差調整処理の一部)を行う。入力部100は、当該指示信号を受信すると、当該指示信号に従い、上記メッセージをタッチパネル101に表示させる。
【0129】
これに代えて、ユーザが、第五再生条件の偏向角度を設定できないように入力部100を構成してもよい。そして、指向角制御部303が、ステップS06で受信した第四再生条件及び第五再生条件を参照し、第五再生条件の偏向角度として設定可能な角度を算出し、当該算出した角度を第五再生条件の偏向角度として自動的に設定する処理(交差調整処理の一例)を行うようにしてもよい。
【0130】
この場合、上記(2)の変形実施形態と同様、ステップS06では第四再生条件及び第五再生条件が受信され、ステップS08では、一の音源データ201だけが受信される。このため、ステップS12では、上記(2)の変形実施形態と同様、ステップS06で受信された第四再生条件及び第五再生条件に対応する制御フィルタが生成されたか否かを判定するようにすればよい。
【0131】
そして、ステップS06で受信された第四再生条件及び第五再生条件に対応する制御フィルタが生成されていないと判定された場合は、対象再生音は変更せず、対応する制御フィルタが生成されていない再生条件を対象再生条件として、ステップS07以降の処理を行うようにすればよい。そして、ステップS06で受信された第四再生条件及び第五再生条件に対応する制御フィルタが生成されたと判定された場合に、処理をステップS13に移行するようにすればよい。
【0132】
つまり、本変形実施形態の構成では、ステップS09において、第四再生条件に従って、一の再生音を表す音声ビームBMcを再生ラインBLcに放射するための駆動信号D(以降、第四駆動信号D4)が、加工部302によって生成される。そして、ステップS11において、指向角制御部303によって、第四再生条件に含まれる偏向角度「-θc」に応じて当該第四駆動信号D4の位相が調整される。
【0133】
そして、次のステップS09(追加加工処理の一例)において、第五再生条件に従って、前記一の再生音と同一の再生音を表す音声ビームBMdを再生ラインBLdに放射するための駆動信号D(以降、第五駆動信号D5)が、加工部302によって生成される。そして、ステップS11(交差調整処理の一部)において、指向角制御部303によって、第五再生条件に含まれる偏向角度「θd」に応じて当該第五駆動信号D5の位相が調整される。これにより、音声ビームBMcの一部と音声ビームBMdの一部が制御ラインCL上で交差するように第五駆動信号D5の位相が調整される。
【0134】
そして、ステップS13において、合成部304(第二合成部の一例)によって、上記のステップS09及びステップS11が行われることで生成された第四駆動信号D4(加工処理及び指向角制御処理が行われた後の再生音の一例)と、上記のステップS09及びステップS11が行われることで生成された第五駆動信号D5(追加加工処理及び交差調整処理が行われた後の追加再生音の一例)と、が合成される。そして、ステップS14において、当該ステップS13で合成された信号(第二合成再生音の一例)によって複数のスピーカ501が駆動される。
【0135】
本変形実施形態の構成によれば、
図11に示すように、音声ビームBMcの放射方向が、再生ラインBLcに向うy方向から、-x方向に偏向角度「-θc」(x方向に角度「θc」)だけ偏向され、再生ラインBLcよりもx方向の位置に放射される。また、音声ビームBMcの一部と音声ビームBMdの一部が、スピーカアレイSAから距離yref離間した位置に設定された制御ラインCL上で交差するように、第五再生条件に含まれる偏向角度「θd」が設定される。
【0136】
これにより、音声ビームBMdの放射方向が、再生ラインBLdに向うy方向から、-x方向に偏向角度「θd」だけ偏向され、再生ラインBLdよりも-x方向の位置に放射される。また、音声ビームBMcの一部と音声ビームBMdの一部が制御ラインCL上で交差するようになる。その結果、制御ラインCL上の音声ビームBMcの一部と音声ビームBMdの一部とが交差している領域において、再生音の音圧を増大することができる。
【0137】
(4)ステップS01において、ユーザが、タッチパネル101を用いて一の再生音の音源名だけを指定し、当該再生音に対応する一の再生条件だけを指定可能なように入力部100を構成してもよい。これに合わせて、合成部304を省略し、且つ、ステップS12及びステップS13を省略して、指向角制御部303が、ステップS09で生成された駆動信号D又はステップS11で位相を調整した駆動信号Dを、再生部500に送信するようにしてもよい。
【0138】
尚、上述した実施形態及び変形実施形態における各処理は、エリア再生システム1が備える特定の装置(以下、ローカルの装置)内に組み込まれたプロセッサー等によって処理されてもよい。また、ローカルの装置と異なる場所に備えられたクラウドサーバなどによって処理されてもよい。また、ローカルの装置とクラウドサーバ間で情報の連携を行うことで、本開示にて説明した各処理を分担して実施するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本開示は、スピーカアレイから再生する音波の制御に利用可能である。
【0140】
また、本開示を適用したスピーカアレイシステムは、音声アナウンスシステム、遠隔会議システム、AVシステムなどの産業上の利用可能性がある。
【符号の説明】
【0141】
1 エリア再生システム
300 処理部
301 フィルタ生成部
302 加工部
303 指向角制御部
304 合成部
500 再生部
501、501a、501b スピーカ
BL、BLc、BLd 再生ライン
BM、BMa、BMb、BMc、BMd 音声ビーム
CL 制御ライン
D 駆動信号
DL 非再生ライン
F 制御フィルタ
SA、SAa、SAb スピーカアレイ
c 音速
d スピーカの配置間隔
f 周波数
Δx スピーカの配置間隔
θ 偏向角度(指定角度)