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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-06
(45)【発行日】2022-10-17
(54)【発明の名称】筆記具用インク収容管
(51)【国際特許分類】
   B43K 7/02 20060101AFI20221007BHJP
【FI】
B43K7/02
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018156026
(22)【出願日】2018-08-23
(65)【公開番号】P2020029037
(43)【公開日】2020-02-27
【審査請求日】2021-06-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】市川 秀寿
【審査官】富士 春奈
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-519718(JP,A)
【文献】特表2013-534468(JP,A)
【文献】特開昭63-189299(JP,A)
【文献】特開2001-146090(JP,A)
【文献】特開平07-076198(JP,A)
【文献】特開昭62-070097(JP,A)
【文献】特開2005-067009(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 1/00-1/12
B43K 5/00-8/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクと接触する内層と基層との少なくとも二層構造を有し、
前記基層坪量50~500g/m2および厚みが20~2000μmのカートン用原紙で構成され、
前記内層は樹脂で構成され、前記樹脂がアクリル樹脂、ポリスチレン、フッ素樹脂、シリコーン、或いはこれらの併用であることを特徴とするボールペン用インク収容管。
【請求項2】
前記内層を構成する樹脂が、生分解性プラスチックであることを特徴とする請求項1に記載のボールペン用インク収容管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、ボールペン等に用いられる筆記具用インク収容管に関する。
【背景技術】
【0002】
ボールペン等に用いられる筆記具用レフィルは、一般にインク収容管の前端部に筆記チップが、直接、或いは継手と言われる別部材を介して圧入嵌合されて取り付けられている。そして、インク用レフィルを構成するインク収容管には、従来から、成形の容易性とインク量の視認性を確保するために、透明もしくは半透明の樹脂材料、例えばポリプロピレンが用いられている。
【0003】
近年、海洋に流出するマイクロプラスチックの問題が大きく注目を集めている。使い捨てを前提としたプラスチックの使用を控え、地球環境問題に対する取り組みが進むなか、筆記具を構成する部材についても脱プラスチックが要求されている。筆記具においても、生分解性樹脂の基体の内側に他の樹脂層を一層または二層以上形成してなる多層構造の収容筒を装着した油性インク用レフィルが報告され、インク収納筒を生分解性樹脂で成形したものであっても、インク収容筒が油性インクで膨潤して寸法変化をもたらすことなく実用可能であり、しかも生分解性樹脂の部分が生分解されるので、廃棄処理量の少量化に貢献できることが開示されている(特許文献1)。しかしながら、生分解性樹脂を用いた場合、耐久性や耐熱性、強度が経時的に低下するなどの問題があった。
【0004】
特許文献2には、筆記具の軸部材の本体として、紙を基材としてこれにバリアー性を有する合成樹脂や金属等を積層した複合材によりスパイラル成形してなる軸筒を備えた筆記具が開示されている。この筆記具は、インクの揮発量を減ずるため、すなわち、耐水性やガスバリア性を向上させるため、軸筒に用いる複合材を、外面側から、裏面がクラフト紙からなるアルミ箔ラベル紙、およびライナー紙を二層重ねた後、さらにその内面にポリエチレン層、次いでアルミ蒸着膜を片面に持つポリエステル膜を、アルミ蒸着膜が外側となるように積層した構造を有している。特許文献2では、紙基材を含む複合材を用いることで、耐内容性および耐久性を維持しながら、低公害性を具備する筆記具を提供できるといえる。
【0005】
このように生分解性樹脂や紙基材を用いた製品は、低公害性であり、例えば、生分解性樹脂や、パルプまたは紙を含む複合材を用いれば、プラスチックの代替材料となりうる環境問題に配慮した製品が提供できると考えられる。
【0006】
しかしながら、筆記具においては、例えば、ボールペン用レフィルの先端部分に挿着されるポールペンチップは金属製であり、当該部分を生分解性プラスチック等で代替することは難しく、また、現在のところ、ポリプロピレン等でできたインク収容管を、紙基材や生分解性樹脂を含む材料に置き換えたという報告例もない。このような材料を筆記具用インク収容管に適用するには、インク収容管に適用可能な程度に、該材料に強度や耐久性を持たせること、さらには外部からのインク残量の視認できるようにするなど、改良すべき点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2001-146090号公報
【文献】特開昭62-70097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来、ポリプロピレン等のプラスチック製であったインク収容管に紙基材を用いることで、プラスチックの使用量を低減した、環境に配慮した筆記具用インク収容管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のボールペン用インク収容管は、インクと接触する内層と基層との少なくとも二層構造を有し、前記基層坪量50~500g/m2および厚みが20~2000μmのカートン用原紙で構成され、前記内層は樹脂で構成され、前記樹脂がアクリル樹脂、ポリスチレン、フッ素樹脂、シリコーン、或いはこれらの併用であることを特徴とする。
前記内層を構成する樹脂は、生分解性プラスチックであることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、インク収容管の管材料の基層に紙基材を用いることで、プラスチックの使用量を低減した、環境に配慮した筆記具用インク収容管を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明のインク収容管を使用したボールペン用レフィルを備えたノック式複式筆記具の平面図(a)、左側面図(b)およびA-A矢視断面図(c)である。
図2図2は、本発明のインク収容管を使用したボールペン用レフィルの平面図(a)およびA-A矢視断面図(b)である。
図3図3は、本発明の一実施形態に係るインク収容管の軸筒の平面図(a)、A-A矢視断面図(b)、B-B矢視側面図(c)およびB-B矢視拡大側面図(d)である。
図4図4は、本発明の他の実施形態に係るインク収容管の軸筒の平面図(a)、A-A矢視断面図(b)、B-B矢視側面図(c)およびB-B矢視拡大側面図(d)である。
図5図5は、本発明の他の実施形態に係るインク収容管の軸筒の平面図(a)、A-A矢視断面図(b)、B-B矢視側面図(c)およびB-B矢視拡大側面図(d)である。
図6図6は、本発明に係る積層シート(a)、該積層シートをスパイラル巻きしたインク収容管(b)、および該積層シートを平巻きしたインク収容管(c)を表す図である。
図7図7は、インク収容管に設けられた視認用のスリット(a)および窓(b)を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の筆記具用インク収容管について、図面を参照しながら、詳細に説明する。
本発明のインク収容管1は、図3に示すように、インクと接触する内層4と基層5との少なくとも二層構造を有し、前記基層5は紙基材で構成され、前記内層4は樹脂で構成される。
前記インク収容管1は、例えば、図1に示すようなノック式複式筆記具10の軸筒内に備えて用いられる。図1に示すノック式複式筆記具10は、インク収容管1、筆記チップ2および継手部材3からなる筆記具用レフィルと、軸筒の後端に位置するノック部とを備え、ノック部を前方に押圧操作することにより、軸筒の先端孔から筆記チップが突出するノック機構を備えている。前記インク収容管1は、図2に示すように、継手部材3を介して筆記チップ2を先端部に備えた構造を有する。本明細書では、ノック式複式筆記具10を構成する部材のうち、インク収容管1について詳細に説明し、その他の部材については説明を省略する。
【0013】
インク収容管1の内層4はインクと接触する層である。内層4を構成する樹脂は、加工しやすく、水性および油性のインクのいずれにも溶解しないもの、すなわち基層5まで浸透しないものであれば制限されるものではない。前記樹脂には、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、シリコーン、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS樹脂)、アクリロニトリルスチレン樹脂(AS樹脂)、アクリル樹脂(エマルション形態を含む)、ワックス系エマルション単独、ワックス系エマルション単独および合成ゴム系ラテックスの混合液、アクリル系エマルションおよびワックス系エマルションの混合液、ポリ乳酸、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-ヒドロキシヘキサノエート)、ポリグリコール酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ならびに、ポリブチレンアジペートテレフタレートおよびポリエチレンテレフタレートサクシネート等の生分解性プラスチックが挙げられる。これらのうち、加工性や強度に優れ、取り扱いおよび入手容易などの点で、アクリル樹脂、ポリスチレン、フッ素樹脂、シリコーン、或いはこれらの併用および生分解性プラスチックが好ましい。なお、生分解性プラスチックは、インク収容管として必要な強度および寿命を付与しうるかぎり、環境に配慮した材料として好適である。
【0014】
内層4を形成する方法は、例えば、樹脂製フィルムを押出ラミネート等により貼合する方法、或いは液状の樹脂をコーティングする方法などを適宜選択することが可能である。
内層4をコーティングにより形成する場合は、塗工量が5~30g/m2、好ましくは10~20g/m2である。
樹脂製フィルムを貼合する場合、内層4の厚みは、通常3~90μm、好ましくは5~60μmである。
【0015】
基層5を構成する紙基材には、液体貯蔵用に用いられる、一層構成または多層構成の紙基材を用いることができる。本発明で用いる紙基材は、インク収容管1の成型に伴う屈曲耐性、落下衝撃吸収性、および端面の耐水性などに優れることが好ましい。この観点から、低密度の板紙の両側に高密度紙を積層した多層紙基材は、低密度層が曲げ応力や落下の衝撃を吸収する機能に優れるといえる。具体的には、坪量50~500g/m2のカートン用原紙などが好適に用いられる。
基層5の厚みは、通常20~2000μm、好ましくは50~1000μmである。基層は一枚の紙で構成されてもよく、或いは2枚以上の紙を重ね合わせてもよい。
【0016】
本発明のインク収容管1は、内層4と基層5と外層6との三層構造を有していてもよい。外層6はインク収容管1の外側の層であり、基層5を被覆する層である。
外層6を構成する樹脂は、内層4を構成する樹脂と同様に、加工しやすく、水性および油性のインクのいずれにも溶解しないもの、すなわち中間層である基層5まで浸透しないものであれ ばよい。さらにいえば、外気中の水分を吸収しないものが好ましい。
外層6を構成する樹脂としては、内層4を構成する材料と同様の樹脂が挙げられる。内層4を構成する樹脂と、外層6を構成する樹脂とは、同一でもよいし、異なっていてもよい。
外層6の厚みは、通常3~90μm、好ましくは5~60μmである。
【0017】
本発明のインク収容管1の好適な形態は、アクリル樹脂、ポリスチレン、フッ素樹脂、シリコーン、或いはこれらの併用およびポリ乳酸等の生分解性プラスチックなどの高分子化合物を紙基材の表裏に塗工および貼合して耐湿・耐水・耐油性を付与したものである。
【0018】
上記インク収容管は、内層4および基層5の少なくとも二層構造を有していればよく(図3b)、例えば、三層~五層構造であってもよい。本発明の他の実施形態は、図4bに示すような、内層4、基層5、および外層6の三層構造を有するインク収容管、或いは、図5bに示すような、内層4、第1基層15a、樹脂層17、第2基層15b、および外層6の五層構造を有するインク収容管である。前記他の実施形態における第1基層15aおよび第2基層15bはいずれも、坪量50~500g/m2、厚み20~2000μmの紙基材層である。第1基層15aおよび第2基層15bの坪量および厚みは同一でも異なっていてもよく、全体の厚みを考慮して適宜設計することができる。第1基層15aおよび第2基層15bの合計厚みを、紙基材層が一層からなるインク収容管1の基層5と同じ厚みとしてもよい。
上記インク収容管が三層以上の構造を有する場合も、内層4、樹脂層17、および外層6を構成する樹脂は同一でも、異なっていてもよい。また、インク収容管の厚みは概ね、二層の場合と同程度であることが好ましい。
なお、樹脂層17を構成する樹脂としては、内層4を構成する材料と同様の樹脂が挙げられる。
【0019】
上記インク収容管は、本発明の効果を損なわない範囲内において、内側層4および基層5の間、または基層5および外側層6の間に、紫外線吸収膜、アルミニウム蒸着膜、または着色膜などの層を有してもよい。
【0020】
このような内層4および基層5の少なくとも二層構造からなる積層シートは、紙基材の表面および裏面に、内層用および外層用の樹脂を塗工または貼付することにより形成する。
本発明のインク収容管1は、上記した内層4および基層5の少なくとも二層構造からなる積層シートをスパイラルマシンなどを用いて円筒状に丸めながら成形する。円筒状に成形するとは、所望の巻き幅に裁断した積層シートを複数枚、例えば2~4枚用いて、芯棒に巻いて貼り筒状にすることである。巻き方は、図6に示すように、積層シートを芯棒にスパイラル(螺旋)状に巻きつける方法(スパイラル巻き)、および、積層シートを芯棒に対して直角に巻きつける方法(平巻き)のいずれでもよく、強度の観点から、スパイラル巻きがより好ましい。
【0021】
あるいは、別の製造方法として、中間層である基層5である紙基材シートを所望の巻き幅に裁断した後、スパイラル巻きまたは平巻きにして筒状にし、円筒状の基層5を溶融樹脂に浸して 引き上げ、乾燥させることにより、内層4および外層6を形成してもよい。ただし、この場合、内層4および外層6が同一の樹脂で形成されること、および、積層シートを均一な厚さにするための調整が必要な場合がある。
【0022】
前記インク収容管1の寸法は、通常の筆記具に使用する寸法であり、特段制限されるものではないが、概ね、内径1.5~5mm、外径1.8~10mm、長さ30~150mmの範囲内である。
【0023】
本発明のインク収容管は、層5に紙基材層を有するため、不透明である。そのため、インクの残量を視認することができない。そのため、前記インク収容管1は、図7に示すように、縦方向に一定の間隔で視認用の窓を設けてもよいし、スリットを設けてもよい。窓やスリットは、積層シートの一部を透明な樹脂で置き換えたものである。このとき、スリット幅は、視認性およびインク収容管の強度の観点から1.5mm程度とし、窓の大きさは2mm程度、数は2~5個程度とする。
【実施例
【0024】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、下記実施例により制限されるものではない。
【0025】
[実施例1]
坪量 80g/m2 のカートン原紙の片面に、アクリル系樹脂エマルション(サイデン化学(株)製:サイビノールEK-61)を塗工量10g/mとなるようにエアーナイフコータにて塗工し、130℃で乾燥して積層シートを作製した。
この積層シートをスパイラルマシンにセットして、径4mmおよび長さ90mmの芯棒にスパイラル状に巻きつけてインク収容管を作製した。
インク収容管に継手部材およびボールペンチップを挿着して筆記具用レフィルを作製し、筆記具用レフィルを備えた筆記具を作製した。
【0026】
[実施例2]
坪量 120g/m2 のカートン原紙の片面に、固形分換算で、ポリビニルアルコール(PVA-117K,株式会社クラレ製)及びフッ素系樹脂(AGE-060,AGC株式会社製)を塗工量15g/mとなるようにエアーナイフコータにて塗工し、130℃で乾燥して積層シートを作製した。
この積層シートをスパイラルマシンにセットして、径4mmおよび長さ90mmの芯棒にスパイラル状に巻きつけてインク収容管を作製した。
インク収容管に継手部材およびボールペンチップを挿着して筆記具用レフィルを作製し、筆記具用レフィルを備えた筆記具を作製した。
【0027】
[実施例3]
坪量 80g/m2 のカートン原紙の片面に、ポリブチレンサクシネート系生分解性樹脂を、厚さ20μmに押出しラミネーター加工して積層シートを作製した。
この積層シートをスパイラルマシンにセットして、径4mmおよび長さ90mmの芯棒にスパイラル状に巻きつけてインク収容管を作製した。
インク収容管に継手部材およびボールペンチップを挿着して筆記具用レフィルを作製し、筆記具用レフィルを備えた筆記具を作製した。
【符号の説明】
【0028】
1 インク収容管
2 継手部材
3 筆記チップ
4、14 内層
5 基層
15a 第1中間層
15b 第2中間層
6、16 外層
7 スリット
8 窓
10 ノック式複式筆記具
17 樹脂層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7