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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-06
(45)【発行日】2022-10-17
(54)【発明の名称】機械部品
(51)【国際特許分類】
   C22C 14/00 20060101AFI20221007BHJP
   F16C 33/12 20060101ALN20221007BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20221007BHJP
   C22F 1/02 20060101ALN20221007BHJP
   C22F 1/18 20060101ALN20221007BHJP
【FI】
C22C14/00 Z
F16C33/12 A
C22F1/00 602
C22F1/00 604
C22F1/00 620
C22F1/00 630A
C22F1/00 630B
C22F1/00 631A
C22F1/02
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
C22F1/18 H
C22F1/00 630C
C22F1/00 630G
C22F1/00 630K
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018176122
(22)【出願日】2018-09-20
(65)【公開番号】P2020045536
(43)【公開日】2020-03-26
【審査請求日】2021-03-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水田 浩平
(72)【発明者】
【氏名】大木 力
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-090843(JP,A)
【文献】特開2014-065967(JP,A)
【文献】特開2017-218661(JP,A)
【文献】特開昭61-194163(JP,A)
【文献】特開平04-000355(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0065158(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 14/00
C22F 1/00, 1/18
F16C 17/00-17/26
F16C 33/00-33/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
64チタン製の機械部品であって、
前記64チタンは、プライマリα結晶粒と、セカンダリα結晶粒とを含み、
断面視野において、前記64チタン中における前記プライマリα結晶粒の面積率は1パーセント以上20パーセント以下であり、
断面視野において400μm×300μmの矩形形状の測定領域内にある前記セカンダリα結晶粒のうち、結晶粒径が最も大きい前記セカンダリα結晶粒から結晶粒径が10番目に大きい前記セカンダリα結晶粒までが、又は結晶粒径が上位30パーセントまでの前記セカンダリα結晶粒が第1群に属しており、
前記第1群に属する前記セカンダリα結晶粒の平均粒径は、1μm以上7μm以下である、機械部品。
【請求項2】
シャルピー衝撃試験における全吸収エネルギーの値が0.1J/mm以上0.4J/mm以下である、請求項1に記載の機械部品。
【請求項3】
シャルピー試験における亀裂発生エネルギーの値がシャルピー試験における亀裂伝播エネルギーの値よりも大きい、請求項1に記載の機械部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械部品に関する。より具体的には、本発明は、チタン合金製の機械部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、機械部品には、チタン合金が広く用いられている(例えば、特開2007-32558号公報(特許文献1)参照)。また、チタン合金の機械的特性を改善するための熱処理として、溶体化処理が知られている。
【0003】
溶体化処理をチタン合金のβ単相変態点以上の温度で行う場合、プライマリα結晶粒が完全に消失してβ結晶粒となり、当該β結晶粒はセカンダリα結晶粒となるため、チタン合金の強度は改善される。しかしながら、この場合、プライマリα結晶粒によるピン止め効果も消失するため、結晶粒が粗大化してしまう。結晶粒が粗大化すると、衝撃強度が低下してしまう(靱性が低下してしまう)。
【0004】
他方、溶体化処理をチタン合金のβ単相変態点未満の温度で行う場合、プライマリα結晶粒が残留するため、強度の向上が不十分となる。また、この場合、プライマリα結晶粒は相変態しないため、結晶粒が微細化されない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-32558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のとおり、チタン合金の強度及び靱性を改善するためには、プライマリα相の比率を減らしつつ、結晶粒を微細化させることが必要である。しかしながら、そのような目的を達成するための溶体化処理条件及び金属組織に関する知見は、乏しい。
【0007】
本発明は、上記のような従来技術の問題点に鑑みてなされたものである。具体的には、プライマリα結晶粒の比率を減らしつつ、結晶粒が微細化することにより、強度及び靱性が改善されたチタン合金製の機械部品及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る機械部品は、64チタン製である。この機械部品を構成する64チタンは、プライマリα結晶粒と、セカンダリα結晶粒とを含んでいる。断面視野において、64チタン中におけるプライマリα結晶粒の面積率は1パーセント以上20パーセント以下である。断面視野において400μm×300μmの測定領域内にあるセカンダリα結晶粒のうち、結晶粒径が最も大きいセカンダリα結晶粒から結晶粒径が10番目に大きいセカンダリα結晶粒までが、又は結晶粒径が上位30パーセントまでのセカンダリα結晶粒が第1群に属している。第1群に属するセカンダリα結晶粒の平均粒径は、1μm以上7μm以下である。
【0009】
上記の機械部品において、シャルピー衝撃試験における全吸収エネルギーの値が0.1J/mm以上0.4J/mm以下であってもよい。
【0010】
上記の機械部品において、シャルピー試験における亀裂発生エネルギーの値がシャルピー試験における亀裂伝播エネルギーの値よりも大きくてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様に係る機械部品及びその製造方法によると、プライマリα結晶粒の比率を減らしつつ、結晶粒が微細化することにより、機械部品を構成するチタン合金の強度及び靱性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】すべり軸受10の上面図である。
図2図1のII-IIに沿った断面図である。
図3】針状組織のセカンダリα結晶粒の模式図である。
図4】等軸状組織のセカンダリα結晶粒の模式図である。
図5】試験片における変位-荷重曲線の模式的なグラフである。
図6】実施形態に係る機械部品の製造方法を示す工程図である。
図7】サンプル1のEBSD像である。
図8】サンプル2のEBSD像である。
図9】サンプル3のEBSD像である。
図10】サンプル4のEBSD像である。
図11】サンプル1~サンプル4に対するシャルピー試験の結果を示すグラフである。
図12】プライマリα結晶粒の面積率とシャルピー試験の結果との関係を示すグラフである。
図13】第1群に属するセカンダリα結晶粒の平均粒径とシャルピー試験の結果との関係を示すグラフである。
図14】第1時間及び第1温度とプライマリα結晶粒の面積率との関係を示すグラフである。
図15】第1温度及び第1時間及び第1温度と第1群に属するセカンダリα結晶粒の平均粒径との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態の詳細を、図面を参照しながら説明する。以下の図面においては、同一又は相当する部分に同一の参照符号を付し、重複する説明は繰り返さない。なお、以下に記載する実施形態の少なくとも一部を任意に組み合わせてもよい。
【0014】
(実施形態に係る機械部品の構成)
以下に、実施形態に係る機械部品の構成を説明する。
【0015】
実施形態に係る機械部品は、例えば、すべり軸受10である。実施形態に係る機械部品はこれに限られるものではないが、以下においては、すべり軸受10を例として、実施形態に係る機械部品の構成を説明する。
【0016】
図1は、すべり軸受10の上面図である。図2は、図1のII-IIに沿った断面図である。図1及び図2に示されるように、すべり軸受10は、環状(リング状)の形状を有している。
【0017】
すべり軸受10は、上面10aと、底面10bと、内周面10cと、外周面10dとを有している。上面10a及び底面10bは、中心軸10eに沿う方向における端面を構成している。底面10bは、上面10aの反対面である。内周面10cは、上面10a及び底面10bに連なっており、外周面10dは上面10a及び底面10bに連なっている。内周面10cは、すべり軸受10のすべり面を構成している。
【0018】
すべり軸受10は、チタン合金製である。より具体的には、すべり軸受10は、64チタンで形成されている。なお、64チタンとは、ASTM規格(B348-13 GR.5)に定められるTi-6Al-4Vチタン合金である。表1に、64チタンの化学組成を示す。
【0019】
【表1】
【0020】
すべり軸受10は、64チタン以外のα+β型チタン合金で形成されていてもよい。すべり軸受10は、α型チタン合金で形成されていてもよい。α+β型チタン合金は、常温においてα相及びβ相で構成される2相組織を呈するチタン合金である。α型チタン合金は、常温においてα相単相組織を呈するチタン合金である。α相とは、hcp(hexagonal closed pack)構造のチタンの低温相であり、β相とは、fcc(face centered cubic)構造のチタンの高温相である。
【0021】
すべり軸受10を構成しているチタン合金は、プライマリα結晶粒とセカンダリα結晶粒とを含んでいる。プライマリα結晶粒は、プライマリα相で構成される結晶粒である。セカンダリα結晶粒は、セカンダリα相で構成される結晶粒である。なお、プライマリα結晶粒とセカンダリα結晶粒とは、溶体化処理前後の組織観察により識別することができる。
【0022】
プライマリα相は、後述する溶体化処理工程S2及び時効処理工程S3のいずれにおいてもβ相に変態することなく残存したα相である。また、セカンダリα相は、一旦β相に変態した後に冷却される際に、マルテンサイト変態又はマッシブ変態により形成される相である。セカンダリα相には、hcp構造のα’相と、斜方晶構造のα’’相とがある。
【0023】
各々のプライマリα結晶粒(セカンダリα結晶粒)は、結晶方位により識別される。より詳細には、あるプライマリα結晶粒(セカンダリα結晶粒)の結晶方位と当該プライマリα結晶粒(セカンダリα結晶粒)に隣接する別のプライマリα結晶粒(セカンダリα結晶粒)の結晶方位とのずれが15°未満である場合、それらのプライマリα結晶粒(セカンダリα結晶粒)は、1つのプライマリα結晶粒(セカンダリα結晶粒)と見做される。
【0024】
他方で、あるプライマリα結晶粒(セカンダリα結晶粒)の結晶方位と当該プライマリα結晶粒(セカンダリα結晶粒)に隣接する別のプライマリα結晶粒(セカンダリα結晶粒)の結晶方位とのずれが15°以上である場合、それらのプライマリα結晶粒(セカンダリα結晶粒)は、別々のプライマリα結晶粒(セカンダリα結晶粒)と見做される。なお、結晶方位の測定(各々のプライマリα結晶粒界、セカンダリα結晶粒界の特定)は、例えば、EBSD(Electron Back Scatter Diffraction)法を用いて行われる。
【0025】
断面視野において、すべり軸受10を構成しているチタン合金中に含まれるプライマリα相の面積比率は、1パーセント以上20パーセント以下である。断面視野におけるチタン合金中のプライマリα結晶粒の面積比率は、EBSD法を用いてプライマリα結晶粒を特定した後、画像処理によりプライマリα結晶粒が占める面積の比率を算出することにより行われる。なお、プライマリα結晶粒の面積比率の算出は、算出対象となる領域内に十分な数のプライマリα結晶粒(例えば20個以上)が存在する状態で行われる。
【0026】
断面視野において、測定領域内に存在するセカンダリα結晶粒は、第1群と、第2群とに区分されている。第1群には、測定領域内に存在するセカンダリα結晶粒のうち、最も結晶粒径が大きいセカンダリα結晶粒から結晶粒径が10番目に大きいセカンダリα結晶粒が属している。第2群には、残余のセカンダリα結晶粒が属している。
【0027】
このことを別の観点からいえば、第1群に属する10個のセカンダリα結晶粒の結晶粒径の最小値は、第2群に属するセカンダリα結晶粒の最大値よりも大きく、第1群に属するセカンダリα結晶粒の数は10である。
【0028】
第1群には、測定領域内に存在するセカンダリα結晶粒のうち、結晶粒径が上位30パーセントに属するセカンダリα結晶粒が属しているとともに、第2群には、残余のセカンダリα結晶粒が属していてもよい。
【0029】
上記の測定領域は、すべり軸受10の表面(上面10a、底面10b、内周面10c及び外周面10d)から0.2mmの位置に配置されることが好ましい。上記の測定領域の寸法は、400μm×300μmの矩形形状である。
【0030】
第1群に属するセカンダリα結晶粒の平均粒径は、1μm以上7μm以下である。各々のセカンダリα結晶粒の結晶粒径は、以下の方法により測定することができる。
【0031】
セカンダリα結晶粒は、針状組織である場合と、等軸状組織である場合とがある。図3は、針状組織のセカンダリα結晶粒の模式図である。図3に示されるように、針状組織のセカンダリα結晶粒は、底面の直径がb、高さがa/2の円錐の底面同士を接続した形状で近似することができる。
【0032】
つまり、針状組織のセカンダリα結晶粒の体積は、2×{1/3×a/2×(b/2)×π}=πab/12で近似することができる。直径がdの球の体積は、πd/6で表すことができる。針状組織のセカンダリα結晶粒においてaの値及びbの値を測定することにより、πab/12=πd/6の関係から、針状組織のセカンダリα結晶粒における球相当径((ab/2)1/3、dの値)を求めることができる。そして、この球相当径の値を、針状組織のセカンダリα結晶粒の結晶粒径と見做す。
【0033】
図4は、等軸状組織のセカンダリα結晶粒の模式図である。図4に示されるように、等軸状組織のセカンダリα結晶粒は、長軸の長さがa/2、短軸の長さがb/2である楕円球で近似することができる。つまり、等軸状組織のセカンダリα結晶粒の体積は、4π×a/2×(b/2)=πab/6で近似することができる。等軸状組織のセカンダリα結晶粒においてaの値及びbの値を測定することにより、πab/6=πd/6の関係から、等軸状組織のセカンダリα結晶粒における球相当径((ab2)1/3、上記のdの値)を求めることができる。そして、この球相当径の値を、等軸状組織のセカンダリα結晶粒の結晶粒径と見做す。
【0034】
上記のようにして得られた第1群に属するセカンダリα結晶粒の結晶粒径を合計するとともに、それを第1群に属するセカンダリα結晶粒の数(10)で除すことにより、第1群に属するセカンダリα結晶粒の平均粒径が得られる。また、上記のようにして得られたセカンダリα結晶粒の結晶粒径に基づいて、測定領域内に存在するセカンダリα結晶粒が上位30パーセントの範囲内にあるか(第1群に属するか)が決定される。
【0035】
すべり軸受10のシャルピー試験における全吸収エネルギーの値は、0.1J/mm以上0.4J/mm以下であることが好ましい。すべり軸受10のシャルピー試験における亀裂発生エネルギーの値は、すべり軸受10のシャルピー試験における亀裂伝播エネルギーの値よりも大きいことが好ましい。シャルピー試験の亀裂発生エネルギーがシャルピー試験における亀裂伝播エネルギーよりも大きいことは、破壊靭性が相対的に高いことの指標となる。
【0036】
すべり軸受10に対するシャルピー試験においては、まず、試験片の準備が行われる。より具体的には、すべり軸受10から1.5mm×1.5mm×20mmの試験片が切り出される。この試験片には、ノッチは形成されない。次に、衝撃刃を、試験片の上方120mmの位置から、空気圧を動力として、試験片の1.5mm×20mmの面の中央付近に真上から垂直落下させる。この際の空気圧、落下速度及び負荷荷重は、それぞれ、0.9MPa、1m/s及び200Nである。衝撃刃の刃先における曲率半径は、0.3mmである。そして、この落下の際に、試験片に加わる変位及び荷重が測定される。
【0037】
図5は、試験片における変位-荷重曲線の模式的なグラフである。図5中において、横軸は試験片に加わる変位であり、縦軸は試験片に加わる荷重である。図5に示されるように、試験片に加わる荷重は、変位の増加に伴い、最大値であるPに達する。荷重がPmに達した際の変位をDとする。荷重がPに達した後は、試験片が破断に至るまで、変位の増加に伴って試験片に加わる荷重が減少する。試験片が破断に至った際の変位をDとする。
【0038】
上記の変位-荷重曲線を変位が0からDの範囲で積分することにより、亀裂発生エネルギーの値が得られる。また、上記の変位-荷重曲線を変位がDからDの範囲で積分することより、亀裂伝播エネルギーの値が得られる。亀裂発生エネルギーの値と亀裂伝播エネルギーの値とを合計することにより、全吸収エネルギーの値が得られる。
【0039】
(実施形態に係る機械部品の製造方法)
以下に、実施形態に係る機械部品の製造方法を説明する。
【0040】
図6は、実施形態に係る機械部品の製造方法を示す工程図である。図6に示されるように、実施形態に係る機械部品の製造方法は、準備工程S1と、溶体化処理工程S2と、時効処理工程S3とを有している。溶体化処理工程S2は準備工程S1の後に行われ、時効処理工程S3は溶体化処理工程S2の後に行われる。
【0041】
準備工程S1においては、加工対象部材が準備される。加工対象部材は、チタン合金製である。より具体的には、加工対象部材は、64チタンで形成されている。
【0042】
溶体化処理工程S2においては、加工対象部材に対する溶体化処理が行われる。溶体化処理工程S2は、加熱工程S21と冷却工程S22とを有している。加熱工程S21は、加工対象部材を第1温度において第1時間保持することにより行われる。加熱工程S21は、例えば、還元炉中において行われる。加熱工程S21は、例えば、不活性ガス雰囲気中において行われる。この不活性ガスは、例えば、アルゴンガスである。このアルゴンガスの組成は、表2に示されるとおりである。
【0043】
【表2】
【0044】
第1温度は、冷却工程S22においてセカンダリα結晶粒を析出させるために、β変態開始点以上とされる。
【0045】
冷却工程S22は、加熱工程S21の後に行われる。冷却工程S22においては、加熱工程S21において加熱保持された加工対象部材が冷却される。これにより、加熱工程S21において形成されたβ相からセカンダリα結晶粒が形成される。
【0046】
時効処理工程S3は、加工対象部材を第2温度において第2時間保持することにより行われる。
【0047】
(実施形態に係る機械部品及びその製造方法の効果)
実施形態に係る機械部品を構成するチタン合金中においては、相対的に硬さが低いプライマリα結晶粒の面積率が1パーセント以上20パーセント以下になっているため、強度(硬さ)が改善されている。
【0048】
実施形態に係る機械部品を構成するチタン合金中においては、第1群に属するセカンダリα結晶粒の平均粒径が、1μm以上7μm以下に微細化されている。そのため、実施形態に係る機械部品においては、靱性も改善されている。このように、実施形態に係る機械部品及びその製造方法によると、機械部品を構成するチタン合金の強度及び靱性の双方を改善することができる。
【実施例
【0049】
実施形態に係る機械部品の効果を確認するために、表3に示されるサンプルが準備された。表3に示されるように、サンプル1~サンプル4は、64チタンにより形成された。サンプル1に対する溶体化処理においては、第1温度が940℃、第1時間が2.4×10秒とされた。サンプル2に対する溶体化処理においては、第1温度が980℃、第1時間が1.2×10秒とされた。サンプル3に対する溶体化処理においては、第1温度が990℃、第1時間が1.2×10秒とされた。サンプル4に対する溶体化処理においては、第1温度が1000℃、第1時間が0.3×10秒とされた。なお、サンプル1及びサンプル2については、第1温度が、64チタンのβ変態点よりも40℃低い温度以上64チタンのβ変態点よりも10℃低い温度以下の範囲内にある。
【0050】
サンプル1~サンプル4の溶体化処理における冷却速度は、毎秒250℃~毎秒370℃とされた。サンプル1~サンプル4に対する時効処理は、530℃において1.8×10秒保持することにより行われた。
【0051】
【表3】
【0052】
図7は、サンプル1のEBSD像である。図8は、サンプル2のEBSD像である。図9は、サンプル3のEBSD像である。図10は、サンプル4のEBSD像である。これらのEBSD像に基づいてチタン合金中のプライマリα結晶粒の面積率を算出すると、サンプル1~サンプル4におけるプライマリα結晶粒の面積率は、それぞれ24.3パーセント、16.5パーセント、4.7パーセント及び5.9パーセントであった。これらのEBSD像に基づいてチタン合金中における第1群に属するセカンダリα結晶粒の平均粒径を算出すると、サンプル1~サンプル4における第1群に属するセカンダリα結晶粒の平均粒径は、それぞれ5.1μm、6.0μm、8.3μm及び7.9μmであった。
【0053】
図11は、サンプル1~サンプル4に対するシャルピー試験結果を示すグラフである。図11に示されるように、サンプル1及びサンプル2の全吸収エネルギーの値は、サンプル3及びサンプル4の全吸収エネルギーの値よりも大きくなっていた。より具体的には、サンプル1及びサンプル2においては、全吸収エネルギーの値が0.1J/mm以上であったが、サンプル3及びサンプル4においては、全吸収エネルギーの値が0.1J/mm未満であった。
【0054】
サンプル1及びサンプル2の亀裂伝播発生エネルギーの値はサンプル3及びサンプル4の亀裂伝播エネルギーの値よりも大きくなっており、サンプル1及びサンプル2の亀裂発生エネルギーの値はサンプル3及びサンプル4の亀裂発生エネルギーの値よりも大きくなっていた。
【0055】
サンプル1及びサンプル2においては、亀裂発生エネルギーの値が亀裂伝播エネルギーの値よりも大きくなっていた。他方で、サンプル3及びサンプル4においては、亀裂発生エネルギーの値が亀裂伝播エネルギーの値よりも小さくなっていた。このように、サンプル1及びサンプル2の衝撃強度は、サンプル3及びサンプル4の衝撃強度よりも良好であった。
【0056】
図12は、プライマリα結晶粒の面積率とシャルピー試験の結果との関係を示すグラフである。図13は、第1群に属するセカンダリα結晶粒の平均粒径とシャルピー試験の結果との関係を示すグラフである。なお、これらのグラフは、サンプル1~サンプル4に対するシャルピー試験結果、プライマリα結晶粒の面積率の測定結果及び第1群に属するセカンダリα結晶粒の平均粒径の測定結果に基づいて作成されている。
【0057】
図12及び図13に示されるように、プライマリα結晶粒の面積率が1パーセント以上20パーセント以下であり、かつ、第1群に属するセカンダリα結晶粒の平均粒径が1μm以上7μm以下である場合には、全吸収エネルギーの値が0.1J/mmとなっており、かつ、亀裂発生エネルギーの値が亀裂伝播エネルギーの値よりも大きくなっていた。
【0058】
図14は、第1時間及び第1温度とプライマリα結晶粒の面積率との関係を示すグラフである。図15は、第1温度及び第1時間及び第1温度と第1群に属するセカンダリα結晶粒の平均粒径との関係を示すグラフである。図14及び図15においては、第1温度を880℃から1000℃の範囲で変化させており、第1時間を0秒から1×10秒の範囲で変化させている。図14及び図15に示されるように、第1時間を0.5×10秒以上4.8×10秒以下とし、第1温度をβ単相変態点よりも40℃低い温度以上β単相変態点よりも10℃低い温度以下とすることにより、プライマリα結晶粒の面積率が1パーセント以上20パーセント以下、かつ、第1群に属するセカンダリα結晶粒の平均粒径が1μm以上7μm以下とすることができる。
【0059】
以上のように本発明の実施形態について説明を行ったが、上述の実施形態を様々に変形することも可能である。また、本発明の範囲は、上述の実施形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含むことが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0060】
上記の実施形態は、チタン合金製の機械部品及びチタン合金製の機械部品の製造方法に特に有利に適用される。
【符号の説明】
【0061】
10 すべり軸受、10a 上面、10b 底面、10c 内周面、10d 外周面、10e 中心軸、S1 準備工程、S2 溶体化処理工程、S3 時効処理工程、S21 加熱工程、S22 冷却工程。
図1
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