(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-06
(45)【発行日】2022-10-17
(54)【発明の名称】熱輻射光源
(51)【国際特許分類】
H01K 1/04 20060101AFI20221007BHJP
H01K 1/08 20060101ALI20221007BHJP
H05B 3/10 20060101ALI20221007BHJP
【FI】
H01K1/04
H01K1/08
H05B3/10 B
(21)【出願番号】P 2018197562
(22)【出願日】2018-10-19
【審査請求日】2021-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】末光 真大
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 禎
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-138638(JP,A)
【文献】特開2015-158995(JP,A)
【文献】国際公開第2018/182013(WO,A1)
【文献】Hideki T Miyazaki, et al.,Ultraviolet-nanoimprinted packaged metasurface thermal emitters for infrared CO2 sensing,Science and Technology of Advanced Materials,英国,Taylor and Francis,2015年05月20日,Vol. 16, 035005,pp. 1-5
【文献】Corey Shemelya, et al.,Stable high temperature metamaterial emitters for thermophotovoltaic applications,APPLIED PHYSICS LETTERS,米国,AIP Publishing,2014年05月21日,Vol. 104, 201113,pp. 1-4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01K 1/04
H01K 1/08
H05B 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱輻射層と、当該熱輻射層を加熱する基板とが積層された熱輻射光源であって、
前記熱輻射層が、透明酸化物にて形成される共鳴用透明酸化物層を前記熱輻射層と前記基板との積層方向に沿って並ぶ一対の白金層の間に位置させるMIM積層部を備える輻射制御部、及び、透明酸化物にて形成される放射用透明酸化物層の順に前記基板に近い側に位置させる形態で、前記輻射制御部及び前記放射用透明酸化物層を積層した状態に構成され、
前記共鳴用透明酸化物層の厚さが、4μm以下の波長を共鳴波長とする厚さであ
り、
前記輻射制御部が、前記熱輻射層と前記基板との積層方向に沿って並ぶ前記白金層を3つ以上設け、それら白金層における隣接するもの同士の間に、前記共鳴用透明酸化物層を位置させることにより、前記MIM積層部を複数備える形態に構成されている熱輻射光源。
【請求項2】
前記基板と前記輻射制御部における前記基板に隣接する前記白金層との間に、基板用密着層が積層されている請求項1に記載の熱輻射光源。
【請求項3】
前記MIM積層部における前記白金層と前記共鳴用透明酸化物層との間、及び、前記放射用透明酸化物層と前記輻射制御部における前記放射用透明酸化物層に隣接する前記白金層との間の夫々に、白金用密着層が積層されている請求項
2に記載の熱輻射光源。
【請求項4】
前記基板用密着層及び前記白金用密着層が、チタンにて形成される請求項3に記載の熱輻射光源。
【請求項5】
前記共鳴用透明酸化物層及び前記放射用透明酸化物層を形成する透明酸化物が、酸化アルミニウム又は酸化チタンである請求項
1~4のいずれか1項に記載の熱輻射光源。
【請求項6】
前記基板が、通電により自己発熱する形態に構成されている請求項1~5のいずれか1項に記載の熱輻射光源。
【請求項7】
前記基板が、外部加熱部にて加熱する形態に構成されている請求項1~
5のいずれか1項に記載の熱輻射光源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱輻射層と、当該熱輻射層を加熱する基板とが積層された熱輻射光源に関する。
【背景技術】
【0002】
かかる熱輻射光源は、熱輻射層を基板にて高温状態に加熱することにより、被加熱物を加熱する輻射光を熱輻射層から放射させるものである。
かかる熱輻射光源として、石英ガラス等の透光性気密部材にて形成される封止管の内部に、基板及び熱輻射層を封止状態で配設し、封止管の内部を真空状態にする、あるいは、封止管の内部に窒素ガス等の不活性ガスを封入したものがある(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
特許文献1においては、基板が、電流を流すことにより発熱するタングステン等の高融点金属にて構成され、熱輻射層が、タンタル、モリブテン等の金属層にて形成され、基板や熱輻射層を封止状態で封止管の内部に配設することにより、基板や熱輻射層の酸化による劣化が防止されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の熱輻射光源は、基板や熱輻射層を封止管の内部に封止状態で配設するものであるから、全体構造が複雑で高価となるため、基板及び熱輻射層を大気中に露出させた状態で設置できる熱輻射光源が要望されている。
【0006】
また、例えば、加熱ランプのように石英ガラスを通して被加熱物を加熱する等の目的で、4μm以下の狭帯域の波長(つまり、中赤外光以下の狭帯域の波長)において大きな輻射率(放射率)を有し、4μmよりも大きな波長(つまり、遠赤外光)の輻射率(放射率)が小さい熱輻射光源が要望されている。
つまり、例えば、石英ガラスを通して被加熱物を加熱する際に、4μmよりも大きな波長の遠赤外光が放射されると、石英ガラスが遠赤外光を吸収して高温になるため、石英ガラスを冷却する大掛かりな設備が必要になり、石英ガラス管の内部に収納した被加熱物を加熱するための設備が煩雑になる等の不都合がある。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みて為されたものであって、その目的は、基板及び熱輻射層を大気中に露出させた状態で設置でき、しかも、4μm以下の狭帯域の波長において大きな輻射率を有し且つ4μmよりも大きな波長の輻射率が小さい熱輻射光源を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の熱輻射光源は、熱輻射層と、当該熱輻射層を加熱する基板とが積層されたものであって、その特徴構成は、
前記熱輻射層が、透明酸化物にて形成される共鳴用透明酸化物層を前記熱輻射層と前記基板との積層方向に沿って並ぶ一対の白金層の間に位置させるMIM積層部を備える輻射制御部、及び、前記透明酸化物にて形成される放射用透明酸化物層の順に前記基板に近い側に位置させる形態で、前記輻射制御部及び前記放射用透明酸化物層を積層した状態に構成され、
前記共鳴用透明酸化物層の厚さが、4μm以下の波長を共鳴波長とする厚さであり、
前記輻射制御部が、前記熱輻射層と前記基板との積層方向に沿って並ぶ前記白金層を3つ以上設け、それら白金層における隣接するもの同士の間に、前記共鳴用透明酸化物層を位置させることにより、前記MIM積層部を複数備える形態に構成されている点にある。
【0009】
すなわち、熱輻射層が、MIM積層部を備える輻射制御部及び放射用透明酸化物層の順に輻射制御部を基板に近い側に位置させる形態で、輻射制御部及び放射用透明酸化物層を積層した状態に構成されるものであるから、熱輻射層が基板にて高温状態に加熱されると、MIM積層部を備える輻射制御部が輻射光を放射して、当該輻射光が放射用透明酸化物層から放射されることになる。
【0010】
熱輻射層を加熱するために高温状態になる基板が輻射光を発することになるが、輻射制御部のMIM積層部における基板に隣接する白金層が、基板の輻射光を遮蔽して、基板の輻射光が輻射制御部の内部に透過することを抑制するから、基板の輻射光が輻射制御部から放射される輻射光に影響を与えることが抑制される。
また、白金より屈折率が小さくかつ空気よりも屈折率が大きな放射用透明酸化物層が、輻射制御部における放射用透明酸化物層の存在側に位置する白金層に隣接して位置するから、放射用透明酸化物層の存在側に位置する白金層の反射率が低減されて、輻射制御部から放射される輻射光を外部に良好に放出させることができる。
【0011】
そして、輻射制御部が備えるMIM積層部は、熱輻射層と基板との積層方向に沿って並ぶ一対の白金層の間に共鳴用透明酸化物層を位置させるものであり、且つ、共鳴用透明酸化物層の厚さが、4μm以下の波長を共鳴波長とする厚さであるから、高温状態に加熱される白金層から放射される輻射光のうちの4μm以下の波長(つまり、中赤外光以下の狭帯域の波長)が共鳴作用により増幅されるため、輻射制御部から放射される輻射光は、4μm以下の狭帯域の波長(例えば、波長が0.8μm以上で2.5μm未満の近赤外光及び波長が2.5μm以上で4μm以下の中赤外光を含む狭帯域の波長)において大きな輻射率(放射率)を有し、4μmよりも大きな波長(つまり、遠赤外光)において小さな輻射率(放射率)を有するものとなり、その結果、増幅された4μm以下の狭帯域の波長の輻射光が、放射用透明酸化物層から外部に放出されることになる。
【0012】
説明を加えると、MIMは、metal insulator metalを意味するものであって、MIM積層部は、白金層が放射する輻射光のうちの4μm以下の波長の輻射光を、熱輻射層と基板との積層方向に沿って並ぶ白金層の間(共鳴用透明酸化物層内)で繰り返し反射させることにより、4μm以下の波長の輻射光を増幅させることになり、この増幅された4μm以下の波長の輻射光が、放射用透明酸化物層から外部に放出されることになる。
【0013】
つまり、4μm以下の波長の輻射光が、熱輻射層と基板との積層方向に沿って並ぶ白金層の間で繰り返し反射しながら増幅され、4μm以下の波長の輻射光の一部が、放射用透明酸化物層の存在側に透過して、放射用透明酸化物層から外部に放出されることになるのであり、その結果、増幅された4μm以下の波長の輻射光が放射用透明酸化物層から外部に放出されることになる。
【0014】
これに対して、白金層から放射される輻射光のうちの4μmよりも大きな波長は、共鳴作用により増幅されることが少ない状態で、放射用透明酸化物層から外部に放出されることになる。
その結果、放射用透明酸化物層から外部に放出される輻射光が、4μm以下の狭帯域の波長(つまり、中赤外光以下の狭帯域の波長)において大きな輻射率(放射率)を有し、4μmよりも大きな波長(つまり、遠赤外光の波長)において小さな輻射率(放射率)を有するものとなる。
【0015】
尚、MIM積層部に備えさせる複数の白金層のうちの基板に隣接する白金層は、基板の輻射光を遮蔽する必要があり、他の白金層は、輻射光の一部を透過させる必要があるから、基板に隣接する白金層が、他の白金層よりも厚く形成されることになる。
【0016】
このように、熱輻射層は、増幅された4μm以下の波長の輻射光を放射用透明酸化物層から外部に放出させることになり、加えて、空気中に設置しても、輻射制御部及び基板が酸化により劣化することが抑制されることにより、光学特性を長時間維持できるものとなる。
【0017】
つまり、MIM積層部の白金層は、白金にて形成されるものであり、白金は、標準酸化ギブスエネルギーがあらゆる温度域で正に大きく、空気中では酸化しないものであるから、空気中に設置しても、酸化により劣化することがない。
また、放射用透明酸化物層及び共鳴用透明酸化物層が、空気中の酸素が基板に向けて透過することを抑制するため、基板が酸化される材料にて形成される場合であっても、長時間に亘って、基板が酸化により劣化することが抑制されることになる。
したがって、熱輻射層は、空気中に設置しても、光学特性を長時間維持できるのとなる。
【0018】
ちなみに、基板に隣接する白金層を形成する白金は、高温に加熱されると、基板上を流動して凝集する虞があるが、共鳴用透明酸化物層が、白金の動きを抑制する作用を発揮することになり、また、共鳴用透明酸化物層に対して放射用透明酸化物層の存在側に隣接する白金層を形成する白金は、高温に加熱されると、共鳴用透明酸化物層上を流動して凝集する虞があるが、放射用透明酸化物層が、白金の動きを抑制する作用を発揮することになるから、白金の凝集を抑制できるため、この点からも、熱輻射層は、光学特性を長時間維持できるのとなる。
【0019】
要するに、本発明の特徴構成によれば、基板及び熱輻射層を大気中に露出させた状態で設置でき、しかも、4μm以下の狭帯域の波長において大きな輻射率を有し且つ4μmよりも大きな波長の輻射率が小さい熱輻射光源を提供できる。
【0021】
また、熱輻射層と基板との積層方向に沿って並ぶ一対の白金層の間に共鳴用透明酸化物層を位置させるMIM積層部が、複数備えられているから、共鳴作用による増幅が十分に発揮されて、4μm以下の波長の輻射光を適切に増幅させることができる。
【0022】
ちなみに、複数のMIM積層部が備えられるとは、熱輻射層と基板との積層方向に沿って並ぶ白金層を3つ以上設け、それら白金層における隣接するもの同士の間に、共鳴用透明酸化物層を位置させる形態を意味するものである。
【0023】
尚、例えば、熱輻射層と基板との積層方向に沿って並ぶ白金層を3つ設け、それら白金層における隣接するもの同士の間に、共鳴用透明酸化物層を位置させる形態、つまり、2つのMIM積層部を備えさせる形態においては、輻射光が、隣接する白金層の間で反射されることに加えて、熱輻射層と基板との積層方向における両端に位置する白金層の間でも反射されながら増幅されることになる。
つまり、熱輻射層と基板との積層方向に沿って3つ以上の白金層が設けられる場合には、隣接する白金層同士の間で輻射光を繰り返し反射させることに加えて、他の白金層を挟む形態で位置する白金層同士の間でも、輻射光を繰り返し反射させる作用が発揮されることになる。
【0024】
なお、複数のMIM積層部を備えさせる場合においては、MIM積層部の夫々の共鳴周波数を変えることにより、増幅された4μm以下の波長の輻射光として、波長が0.8μm以上で2.5μm未満の近赤外光及び波長が2.5μm以上で4μm以下の中赤外光に加えて、例えば、波長が0.4μm以上で0.8μm未満の可視光を得られるようにし、さらには、波長が0.4未満の紫外光を得られるようにすることができるものとなる。
【0025】
要するに、本発明の熱輻射光源の特徴構成によれば、4μm以下の波長の輻射光を適切に増幅させることができる。
【0026】
本発明の熱輻射光源の更なる特徴構成は、前記基板と前記輻射制御部における前記基板に隣接する前記白金層との間に、基板用密着層が積層されている点にある。
【0027】
すなわち、基板と輻射制御部における基板に隣接する白金層との間に、基板用密着層が積層されているから、輻射制御部が基板にて加熱された際に、輻射制御部が基板から剥がれることを抑制することができる。
【0028】
つまり、基板の熱膨張率と複数の薄い膜を積層した輻射制御部の熱膨張率とが異なるため、輻射制御部が基板にて加熱された際に、輻射制御部が基板から剥がれる虞があるが、基板と輻射制御部における基板に隣接する白金層とが、基板用密着層にて密着性を高められることにより、輻射制御部が基板から剥がれることを抑制できる。
【0029】
要するに、本発明の熱輻射光源の更なる特徴構成によれば、輻射制御部が基板から剥がれることを抑制できる。
【0030】
本発明の熱輻射光源の更なる特徴構成は、前記MIM積層部における前記白金層と前記共鳴用透明酸化物層との間、及び、前記放射用透明酸化物層と前記輻射制御部における前記放射用透明酸化物層に隣接する前記白金層との間の夫々に、白金用密着層が積層されている点にある。
【0031】
すなわち、白金用密着層が、MIM積層部における白金層と共鳴用透明酸化物層との間、及び、放射用透明酸化物層と輻射制御部における放射用透明酸化物層に隣接する白金層との間に設けられているから、輻射制御部が基板にて高温状態に加熱された際に、MIM積層部における白金層が流動して凝集することを抑制でき、また、熱膨張率の差によって、白金層と共鳴用透明酸化物層とが剥がれることや、放射用透明酸化物層と白金層とが剥がれることを抑制できる。
【0032】
つまり、白金と透明酸化物との密着性が低いため、輻射制御部が基板にて高温状態に加熱された際に、共鳴用透明酸化物層に隣接する白金層や放射用透明酸化物層に隣接する白金層が流動して凝集する虞があるが、白金用密着層が積層されることにより、共鳴用透明酸化物層に隣接する白金層の共鳴用透明酸化物層に対する密着性や、放射用透明酸化物層に隣接する白金層の放射用透明酸化物層に対する密着性が高められることにより、輻射制御部が基板にて高温状態に加熱された際に、MIM積層部における白金層が流動して凝集することを抑制でき、また、白金層と共鳴用透明酸化物層とが剥がれることや、放射用透明酸化物層と白金層とが剥がれることを抑制できるのである。
【0033】
要するに、本発明の熱輻射光源の更なる特徴構成によれば、輻射制御部が基板にて高温状態に加熱された際に、MIM積層部における白金層が流動して凝集することを抑制できる。
【0034】
本発明の熱輻射光源の更なる特徴構成は、前記基板用密着層及び前記白金用密着層が、チタンにて形成される点にある。
【0035】
すなわち、チタンは、基板に隣接する白金層の基板に対する密着性や、共鳴用透明酸化物層に隣接する白金層の共鳴用透明酸化物層に対する密着性や、放射用透明酸化物層に隣接する白金層の放射用透明酸化物層に対する密着性を良好に高めることができ、しかも、融点が1668℃と高いものであるから、輻射制御部が基板にて高温状態に加熱された際に、MIM積層部における白金層が流動して凝集することを適切に抑制できる。
【0036】
ちなみに、基板用密着層及び白金用密着層を形成するチタンは、熱輻射光源の大気中での使用によって、徐々に酸化されて酸化チタンに変化することがある。換言すれば、大気中で熱輻射光源が使用されると、基板用密着層及び白金用密着層が、酸化チタンにて形成されていると見做すことができる。
但し、基板用密着層及び白金用密着層を形成するチタンは、全てが酸化チタンに変化するのではなく、白金層に密着する箇所のチタンは、酸化されることなく、白金層に密着するチタンの状態(金属状態)を継続することになる。
【0037】
尚、チタンにて形成される基板用密着層及び白金用密着層は、光透過性を備えるように薄膜状態に形成されることになり、そして、そのように薄膜状態に形成されたチタンが酸化チタンに変化することになるが、酸化チタンは、透明性を備えるものであるから、チタンが酸化チタンに変化しても、熱輻射層の性能に悪影響を与えることはない。
【0038】
要するに、本発明の熱輻射光源の更なる特徴構成によれば、輻射制御部が基板にて高温状態に加熱された際に、MIM積層部における白金層が流動して凝集することを適切に抑制できる。
【0039】
本発明の熱輻射光源の更なる特徴構成は、前記共鳴用透明酸化物層及び前記放射用透明酸化物層を形成する透明酸化物が、酸化アルミニウム又は酸化チタンである点にある。
【0040】
すなわち、酸化アルミニウム及び酸化チタンは酸素拡散係数が小さいものであるから、放射用透明酸化物層及び共鳴用透明酸化物層を形成する透明酸化物として、酸化アルミニウム又は酸化チタンを用いることにより、大気中の酸素が透過することを適切に抑制して、基板が酸化される材料にて形成される場合であっても、基板における輻射制御部が積層される側の面が酸化により劣化することを適切に回避できる。
【0041】
要するに、本発明の熱輻射光源の更なる特徴構成によれば、基板における輻射制御部が積層される側の面が酸化により劣化することを適切に回避できる。
【0042】
本発明の熱輻射光源の更なる特徴構成は、前記基板が、通電により自己発熱する形態に構成されている点にある。
【0043】
すなわち、基板が、通電により自己発熱する形態に構成されているから、基板に対して通電することにより、基板を自己発熱させて、輻射制御部を加熱することができるものであるから、基板を加熱するための特別な外部加熱部を設ける必要がないため、全体構成の簡素化を図ることができる。
【0044】
ちなみに、通電により自己発熱する材料としては、カンタル、ニクロム等の金属材料を挙げることができ、これらの材料にて基板を構成することができる。
【0045】
要するに、本発明の熱輻射光源の更なる特徴構成によれば、全体構成の簡素化を図ることができる。
【0046】
本発明の熱輻射光源の更なる特徴構成は、前記基板が、外部加熱部にて加熱する形態に構成されている点にある。
【0047】
すなわち、基板を外部加熱部にて加熱するものであるから、例えば、石英(二酸化ケイ素)やサファイア等の種々の材料を用いて基板を構成することができる。
つまり、基板を石英(二酸化ケイ素)やサファイア等の酸化しない材料を用いて構成して、基板の酸化劣化を適切に抑制することができる。
【0048】
要するに、本発明の熱輻射光源の更なる特徴構成によれば、基板の酸化劣化を適切に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図2】熱輻射光源の基本構成における構造例を示す表
【
図3】熱輻射光源の構造例と輻射スペクトルの関係を示すグラフ
【
図4】熱輻射光源の基本構成における別形態を示す図
【
図5】熱輻射光源の基本構成の別形態と輻射スペクトルの関係を示すグラフ
【
図6】熱輻射光源の透明酸化物の種別と輻射スペクトルの関係を示すグラフ
【
図9】白金用密着層の厚さと輻射スペクトルの関係を示すグラフ
【
図10】共鳴用透明酸化物層の変化と輻射スペクトルの関係を示すグラフ
【
図11】第1白金層の厚さと輻射スペクトルとの関係を示すグラフ
【
図12】第2白金層の厚さと輻射スペクトルとの関係を示すグラフ
【
図13】第2白金層の厚さと輻射スペクトルとの関係を示すグラフ
【
図14】共鳴用透明酸化物層の厚さと輻射スペクトルとの関係を示すグラフ
【
図15】共鳴用透明酸化物層の厚さと吸収スペクトルとの関係を示すグラフ
【
図16】熱輻射光源と加熱電極との関係を示す斜視図
【
図17】熱輻射光源と加熱電極との関係を示す斜視図
【
図18】熱輻射光源と熱輻射体との関係を示す斜視図
【
図19】熱輻射光源と高温流体源との関係を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔熱輻射光源の基本構成〕
図1は熱輻射光源Qの基本構成を示すものであって、熱輻射光源Qは、熱輻射層Nと、当該熱輻射層Nを加熱する基板Kとが積層された形態に構成されている。
熱輻射層Nが、輻射制御部Na、及び、透明酸化物にて形成される放射用透明酸化物層Nbの順に基板Kに近い側に位置させる形態で、輻射制御部Na及び放射用透明酸化物層Nbを積層した状態に構成されている。
【0051】
輻射制御部Naが、透明酸化物にて形成される共鳴用透明酸化物層Rを、熱輻射層Nと基板Kとの積層方向に沿って並ぶ一対の白金層Pの間に位置させるMIM積層部Mを備える形態に構成されている。
共鳴用透明酸化物層Rの厚さが、4μm以下の波長を共鳴波長とする厚さに設定されている。
【0052】
図1に示す熱輻射光源Qの基本構成においては、輻射制御部Naが、1つのMIM積層部Mを備えている。
つまり、熱輻射光源Qの基本構成においては、MIM積層部Mを構成する白金層P、共鳴用透明酸化物層R、及び、白金層P、並びに、放射用透明酸化物層Nbが、この記載順に、基板Kの上部に順次積層されている。
尚、以下の記載において、MIM積層部Mにおける基板Kに隣接する白金層Pを、第1白金層P1と呼称し、MIM積層部Mにおける放射用透明酸化物層Nbに隣接する白金層Pを、第2白金層P2と呼称する。
【0053】
そして、熱輻射層Nを基板Kにて高温状態(例えば、800℃)に加熱することにより、熱輻射光源Qが熱輻射層Nから輻射光Hを放射するように構成されている。
具体的には、輻射光Hとして、4μm以下の狭帯域の波長(例えば、波長が0.8μm以上で2.5μm未満の近赤外光及び波長が2.5μm以上で4μm以下の中赤外光を含む狭帯域の波長)において大きな輻射率(放射率)を有し、4μmよりも大きな波長(つまり、遠赤外光)において小さな輻射率(放射率)を有する輻射光Hを放射するように構成されている。
【0054】
つまり、熱輻射層Nが基板Kにて高温状態(例えば、800℃)に加熱されると、輻射制御部Naが備えるMIM積層部Mにおける白金層P(第1白金層P1及び第2白金層P2)が、輻射光を放射することになり、その輻射光(白金からの輻射光)の輻射率(放射率)は、
図3に示すように、4μm以下の波長においては、短波長に向けて漸増する傾向となり、4μmよりも大きな波長において低い値を維持することになる。
【0055】
そして、MIM積層部Mが備える共鳴用透明酸化物層Rの厚さが、4μm以下の波長を共鳴波長とする厚さであるから、MIM積層部Mの白金層P(第1白金層P1及び第2白金層P2)の輻射光のうちの4μm以下の波長(つまり、中赤外光以下の狭帯域の波長)が共鳴作用により増幅される結果、輻射制御部Naが、4μm以下の狭帯域の波長(例えば、波長が0.8μm以上で2.5μm未満の近赤外光及び波長が2.5μm以上で4μm以下の中赤外光を含む狭帯域の波長)において大きな輻射率(放射率)を有し、4μmよりも大きな波長(つまり、遠赤外光)において小さな輻射率(放射率)を有するものとなり、その結果、増幅された4μm以下の波長の輻射光Hが、放射用透明酸化物層Nbから外部に放出されることになる。
【0056】
説明を加えると、MIMは、metal insulator metalを意味するものであって、MIM積層部Mは、白金層P(第1白金層P1及び第2白金層P2)の輻射光のうちの4μm以下の波長の輻射光を、熱輻射層Nと基板Kとの積層方向に沿って並ぶ一対の白金層P(第1白金層P1及び第2白金層P2)の間で繰り返し反射させることにより、4μm以下の波長の輻射光を増幅させ、この増幅された4μm以下の波長の輻射光を、放射用透明酸化物層Nbから外部に放出されることになる。
【0057】
つまり、4μm以下の波長の輻射光が、熱輻射層Nと基板Kとの積層方向に沿って並ぶ白金層P(第1白金層P1及び第2白金層P2)の間で繰り返し反射しながら増幅され、4μm以下の波長の輻射光の一部が、放射用透明酸化物層Nbの存在側に透過して、放射用透明酸化物層Nbから外部に放出されることになるのであり、その結果、増幅された4μm以下の波長の輻射光が放射用透明酸化物層Nbから外部に放出されることになる。
【0058】
これに対して、白金層P(第1白金層P1及び第2白金層P2)が放射する輻射光のうちの4μmよりも大きな波長の輻射光は、共鳴作用により増幅されることが少ない状態で、放射用透明酸化物層から外部に放出されることになる。
その結果、熱輻射光源Qから放射される輻射光H(放射用透明酸化物層Nbから外部に放出される輻射光)が、4μm以下の狭帯域の波長(つまり、中赤外光以下の狭帯域の波長)において大きな輻射率(放射率)を有し、4μmよりも大きな波長(つまり、遠赤外光の波長)において小さな輻射率(放射率)を有するものとなる。
【0059】
ところで、熱輻射層Nを加熱するために高温状態になる基板Kからは、輻射光が放射されるが、その輻射光の輻射制御部Naへの透過が、第1白金層P1にて遮蔽されることになる。換言すれば、第1白金層P1の厚さは、基板Kからの輻射光を遮蔽できる厚さである。
【0060】
また、放射用透明酸化物層Nbが白金より屈折率が大きくかつ空気よりも屈折率が小さなものであるから、放射用透明酸化物層Nbの存在側に位置する白金層P(第2白金層P2)の反射率が低減されることになり、輻射制御部Naから放射される輻射光を外部に良好に放出させることができる。
【0061】
尚、MIM積層部Mに備えさせる白金層P(第1白金層P1及び第2白金層P2)のうちの基板Kに隣接する白金層P(第1白金層P1)は、基板Kの輻射光を遮蔽する必要があり、他の白金層P(第2白金層P2)は、輻射光の一部を透過させる必要があるから、基板Kに隣接する白金層P(第1白金層P1)が、他の白金層P(第2白金層P2)よりも厚く形成されることになるため、白金層P(第1白金層P1及び第2白金層P2)のうちの基板Kに隣接する白金層P(第1白金層P1)の輻射強度が、他の白金層P(第2白金層P2)よりも大きくなる。
【0062】
ちなみに、本発明の熱輻射光源Qは、「4μm以下の輻射率が大きくなり、0.8μmから4μmの間(近赤外~中赤外域)の輻射率の最大値が90%以上となり、一方で、4μm以上の遠赤外域の輻射ピークは小さく、輻射率のピークを持たない」という構成(以下、適正構成と呼称)を備えることが望ましいものである。
【0063】
〔基本構成の構造例の説明〕
次に、熱輻射光源Qの基本構成における構造例を説明する。以下に説明する構造例は、放射用透明酸化物層Nb及び共鳴用透明酸化物層Rを形成する透明酸化物がアルミナ(酸化アルミニウム、Al2O3)である。尚、基板Kは任意のものを使用できるが、基板Kの詳細は後述する。
【0064】
以下に説明する構造例は、
図2の表に示すように、構造1~構造4の4例である。尚、
図2の表においては、基板Kを層No1、第1白金層P1を層No2、共鳴用透明酸化物層Rを層No3、第2白金層P2を層No4、放射用透明酸化物層Nbを層No5と記載する。
【0065】
構造1~構造4の熱輻射光源Qは、
図3に示すように、波長が0.8μm以上で2.5μm未満の近赤外光及び波長が2.5μm以上で4μm以下の中赤外光を含む狭帯域の波長において大きな輻射率(放射率)を有し、4μmよりも大きな波長(つまり、遠赤外光)において小さな輻射率(放射率)を有する輻射光Hを放射する。
【0066】
そして、層No3の共鳴用透明酸化物層Rの膜厚(厚さ)が薄い場合は、共鳴周波数が短波長化するので輻射率のピーク位置が短波長側になり、層No3の共鳴用透明酸化物層Rの膜厚(厚さ)が厚い場合は、共鳴周波数が長波長化するので、輻射率のピークが長波長に移動する傾向となる。
【0067】
また、層No4の第2白金層P2の膜厚(厚さ)が厚い場合は、輻射率のスペクトルのピークが狭帯域化し、層No4の第2白金層P2の膜厚(厚さ)が薄い場合は、輻射率のスペクトルのピークが広帯域化する傾向となる。
さらに、層No5の放射用透明酸化物層Nbの膜厚(厚さ)が厚くなるほど、輻射率のスペクトルが長波長側に移動する傾向となる。
【0068】
熱輻射光源Qを上述の適正構成とする場合には、第1白金層P1の膜厚(厚さ)の好適範囲は、例えば、10nm以上であり、第2白金層P2の膜厚(厚さ)の好適範囲は、例えば、1.5nm以上18nm以下である。
以下、第1白金層P1及び第2白金層P2の膜厚(厚さ)の好適範囲について説明を加える。
【0069】
図11は、構造2の熱輻射光源Qにおいて、第1白金層P1の膜厚(厚さ)と輻射率と関係を例示する。第1白金層P1の膜厚(厚さ)を5~150nmまで変えた場合において、第1白金層P1の膜厚(厚さ)が、5nmの場合には、輻射率のピークが90%を超えないが、10nmの場合には、輻射率のピークが90%を超えることになる。
また、第1白金層P1の膜厚(厚さ)を厚くしていくと、だんだん輻射スペクトルが変化しなくなり、膜厚(厚さ)が60nmあたりから、ほぼ、輻射スペクトルが固定される。このように、第1白金層P1の膜厚(厚さ)の規定に上限は存在しない。
以上の結果により、第1白金層P1の膜厚(厚さ)の好適な範囲は、例えば、10nm以上である。
【0070】
図12は、第2白金層P2の膜厚(厚さ)と輻射率との関係を例示する。ただし、
図12は、第1白金層P1の厚さを150nm、共鳴用透明酸化物層R1の厚さを140nm、放射用透明酸化物層Nbの厚さを75nmとした場合において、第2白金層P2の膜厚(厚さ)を、1nm、1.5nm、6nmに変化させたときの輻射スペクトルを例示する。
第2白金層P2の膜厚が、1.5nmよりも厚いと輻射率のピークが90%を超えるが、それより薄くなると、輻射率のピークが90%を超えなくなる。
【0071】
図13は、第2白金層P2の膜厚(厚さ)と輻射率との関係を例示する。ただし、
図13は、第1白金層P1の厚さを150nm、第1共鳴用透明酸化物層R1の厚さを140nm、放射用透明酸化物層Nbの厚さを100nmとした場合において、第2白金層P2の膜厚(厚さ)を、6nm、15nm、18nm、25nmに変化させたときの輻射スペクトルである。
第2白金層P2の膜厚が、19nmのときに輻射率のピークが90%となり、19nmよりも厚くなると、輻射率のピークが小さくなる。
以上の結果により、第2白金層P2の膜厚(厚さ)の好適範囲は、例えば、1.5nm以上18nm以下である。
【0072】
熱輻射光源Qを上述した適正構成とする場合において、4μm以下の波長を共鳴波長とする共鳴用透明酸化物層Rの厚さ(膜厚)の好適範囲は、透明酸化物がアルミナ(Al2O3)であるときには、60nm以上1050nm以下である。
以下、アルミナ(Al2O3)で形成される共鳴用透明酸化物層Rの厚さ(膜厚)の好適範囲について説明を加える。
【0073】
図14は、共鳴用透明酸化物層Rの厚さ(膜厚)と熱輻射光源Qの輻射率との関係を示すものである。ただし、
図14は、第1白金層P1の厚さを150nm、第2白金層P2の厚さを6.6nm、放射用透明酸化物層Nbの厚さを94nmとした場合において、共鳴用透明酸化物層Rの膜厚(厚さ)を、40nm、60nm、80nm、100nmに変化させたときの輻射スペクトルを例示する。
この
図14より、輻射率がピークとなる800nmの輻射率が90%以上となる共鳴用透明酸化物層Rの膜厚(厚さ)の下限は、60nmであることが分かる。
【0074】
図15は、共鳴用透明酸化物層Rの厚さ(膜厚)と熱輻射光源Qの輻射率との関係を示す。ただし、
図15は、第1白金層P1の厚さを150nm、第2白金層P2の厚さを10nm、放射用透明酸化物層Nbの厚さを100nmとした場合において、共鳴用透明酸化物層Rの膜厚(厚さ)を、800nm、1050nm、1200nmに変化させたときの輻射スペクトルを例示する。
この
図15より、共鳴用透明酸化物層Rの膜厚(厚さ)が1050nmよりも厚くなると、4000nmよりも長波域(遠赤外域)に輻射率のピークがでることが分かる。
以上の結果、4μm以下の波長を共鳴波長とする共鳴用透明酸化物層Rの厚さ(膜厚)の好適範囲は、透明酸化物がアルミナ(Al
2O
3)であるときには、60nm以上1050nm以下である。
【0075】
ところで、共鳴用透明酸化物層Rの厚さ(膜厚)の好適範囲は、透明酸化物の屈折率により変化する。
好適範囲の下限は、
(材料毎の膜厚の下限(単位:nm))=-30.4n+108となる。なお、nは材料毎の屈折率である。
また、好適範囲の上限は、
(材料毎の膜厚の上限(単位:nm))=-600n+2030となる。なお、nは材料毎の屈折率である。
【0076】
ちなみに、熱輻射光源Qを上述した適正構成とする場合において、層No5の放射用透明酸化物層Nbの膜厚(厚さ)の好適な範囲は、例えば、50nm以上500nm以下である。
【0077】
尚、
図3には、上述の如く、白金(白金のみ)の輻射スペクトルを示しているが、この白金(白金のみ)の輻射スペクトルと構造1~構造4の輻射スペクトルを対比することにより、近赤外~中赤外域で輻射率が増大していること、輻射率の大きな部分と小さな部分のコントラストが増加していることがわかる。
【0078】
〔基本構成の別形態〕
上述した基本構成においては、輻射制御部Naが、1つのMIM積層部Mを備える場合を例示したが、輻射制御部Naが、複数のMIM積層部Mを備えるようにしてもよい。
尚、複数のMIM積層部Mが備えられるとは、熱輻射層Nと基板Kとの積層方向に沿って並ぶ白金層Pを3つ以上設け、それら白金層Pにおける隣接するもの同士の間に、共鳴用透明酸化物層Rを位置させる形態を意味するものである。
【0079】
図4は、輻射制御部Naが2つのMIM積層部Mを備える場合を例示し、以下、例示する熱輻射光源Qを構造5と呼称する。
構造5は、白金層Pとして、基板Kに隣接する第1白金層P1、放射用透明酸化物層Nbに隣接する第2白金層P2、及び、第1白金層P1と第2白金層P2の間に位置する第3白金層P3を備えている。
【0080】
また、共鳴用透明酸化物層Rとして、第1白金層P1と第3白金層P3の間に位置する第1共鳴用透明酸化物層R1、及び、第2白金層P2と第3白金層P3の間に位置する第2共鳴用透明酸化物層R2とを備えている。
構造5は、放射用透明酸化物層Nb及び共鳴用透明酸化物層Rを形成する透明酸化物がアルミナ(Al2O3)である。尚、基板Kは任意のものを使用できるが、基板Kの詳細は後述する。
【0081】
そして、第1白金層P1、第3白金層P3、及び、第1共鳴用透明酸化物層R1からひとつのMIM積層部Mが構成され、第2白金層P2、第3白金層P3、及び、第2共鳴用透明酸化物層R2からひとつのMIM積層部Mが構成されることになり、その結果、輻射制御部Naが2つのMIM積層部Mを備えることになる。
【0082】
構造5において、第1白金層P1の厚さを150nm、第1共鳴用透明酸化物層R1の厚さを65nm、第3白金層P3の厚さを8nm、第2共鳴用透明酸化物層R2の厚さを145nm、第2白金層P2の厚さを5nm、放射用透明酸化物層Nbの厚さを72nmとした場合の輻射スペクトルを、
図5に示す。
尚、
図5には、上述した構造1の輻射スペクトルを併記する。
【0083】
構造5においては、2つのMIM積層部Mの共鳴周波数を変えているため、
図5に示すように、波長が0.4μm以上で0.8μm未満の可視光の波長でも共鳴できることになり、増幅された4μm以下の波長の輻射光Hとして、波長が0.8μm以上で2.5μm未満の近赤外光及び波長が2.5μm以上で4μm以下の中赤外光に加えて、波長が0.4μm以上で0.8μm未満の可視光や、波長が0.4未満の紫外光を含む輻射光Hが得られることになる。
【0084】
〔透明酸化物の種別について〕
熱輻射光源Qの上記基本構成及び基本構成の別形態においては、放射用透明酸化物層Nb及び共鳴用透明酸化物層Rを形成する透明酸化物がアルミナ(Al2O3)である場合を例示したが、透明酸化物としては、五酸化タンタル(Ta2O5)、二酸化ケイ素(SiO2)、五酸化ニオブ(Nb2O5)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化チタン(TiO2)、酸化ハフニウム(HfO2)等を使用できる。
尚、アルミナ(Al2O3)及び酸化チタン(TiO2)は酸素拡散係数が小さいものであるから、放射用透明酸化物層Nb及び共鳴用透明酸化物層Rを形成する透明酸化物として特に好ましい。
【0085】
図6には、上述の基本構成において、透明酸化物を異ならせた場合の輻射スペクトルを例示する。つまり、第1白金層P1の厚さを150nm、共鳴用透明酸化物層Rの厚さを120nm、第2白金層P2の厚さを8nm、放射用透明酸化物層Nbの厚さを120nmとした場合において、放射用透明酸化物層Nb及び共鳴用透明酸化物層Rを形成する透明酸化物を異ならせた場合の輻射スペクトルを例示する。
【0086】
図6に示すように、放射用透明酸化物層Nb及び共鳴用透明酸化物層Rを形成する透明酸化物として、五酸化タンタル(Ta
2O
5)、二酸化ケイ素(SiO
2)、五酸化ニオブ(Nb
2O
5)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化チタン(TiO
2)、酸化ハフニウム(HfO
2)を用いても、増幅された4μm以下の波長の輻射光Hを放射することができる。
【0087】
〔熱輻射光源の具体構成〕
熱輻射光源Qの具体構成としては、
図7に示すように、基板Kと輻射制御部Naにおける基板Kに隣接する白金層P(第1白金層P1)との間に、基板用密着層S1が積層され、また、MIM積層部Mにおける白金層P(第1白金層P1及び第2白金層P2)と共鳴用透明酸化物層Rとの間、及び、放射用透明酸化物層Nbと輻射制御部Naにおける放射用透明酸化物層Nbに隣接する白金層P(第2白金層P2)との間の夫々に、白金用密着層S2が積層されている構成である。
【0088】
すなわち、基板Kと輻射制御部Naにおける基板Kに隣接する白金層P(第1白金層P1)との間に、基板用密着層S1が積層されているから、輻射制御部Naが基板Kにて加熱された際に、輻射制御部Naが基板Kから剥がれることが抑制される。
【0089】
つまり、基板Kの熱膨張率と複数の薄い膜を積層した輻射制御部Naの熱膨張率とは大きく異なるため、輻射制御部Naが基板Kにて加熱された際に、輻射制御部Naが基板Kから剥がれる虞があるが、基板Kと輻射制御部Naにおける基板Kに隣接する白金層P(第1白金層P1)とが、基板用密着層S1にて密着性を高められていることにより、輻射制御部Naが基板Kから剥がれることが抑制される。
【0090】
また、白金用密着層S2が、MIM積層部Mにおける白金層P(第1白金層P1及び第2白金層P2)と共鳴用透明酸化物層Rとの間、及び、放射用透明酸化物層Nbと輻射制御部Naにおける放射用透明酸化物層Nbに隣接する白金層P(第2白金層P2)との間に設けられているから、輻射制御部Naが基板Kにて高温状態に加熱された際に、MIM積層部Mにおける白金層P(第1白金層P1及び第2白金層P2)が流動して凝集することが抑制され、白金層Pと共鳴用透明酸化物層Rとが剥離することや、白金層Pと放射用透明酸化物層Nbとが剥離することが抑制される。
【0091】
つまり、白金と透明酸化物との密着性が低いため、輻射制御部Naが基板Kにて高温状態に加熱された際に、共鳴用透明酸化物層Rに隣接する白金層Pや放射用透明酸化物層Nbに隣接する白金層Pが流動して凝集する虞があるが、白金用密着層S2が積層されることにより、共鳴用透明酸化物層Rに隣接する白金層Pの共鳴用透明酸化物層Rに対する密着性や、放射用透明酸化物層Nbに隣接する白金層Pの放射用透明酸化物層Nbに対する密着性が高められることにより、輻射制御部Naが基板Kにて高温状態に加熱された際に、MIM積層部Mにおける白金層Pが流動して凝集することが抑制される。
【0092】
基板用密着層S1及び白金用密着層S2を形成する材料としては、チタン(Ti)やクロム(Cr)が、融点及び密着性の観点から優れている。特に、チタン(Ti)が望ましい。以下、基板用密着層S1及び白金用密着層S2がチタン(Ti)にて形成されているものとして説明する。
【0093】
すなわち、チタン(Ti)は、基板Kに隣接する白金層P(第1白金層P1)の基板Kに対する密着性や、共鳴用透明酸化物層Rに隣接する白金層P(第1白金層P1及び第2白金層P2)の共鳴用透明酸化物層Rに対する密着性や、放射用透明酸化物層Nbに隣接する白金層P(第2白金層P2)の放射用透明酸化物層Nbに対する密着性を良好に高めることができ、しかも、融点が1668℃と高いものであるから、輻射制御部Naが基板Kにて高温状態に加熱された際に、MIM積層部Mにおける白金層P(第1白金層P1及び第2白金層P2)が流動して凝集することを適切に抑制できる。
【0094】
〔基板用密着層の厚さ〕
基板用密着層S1は高温状態になると、4μmよりも大きな波長(つまり、遠赤外光)の輻射光を放射することになるが、基板用密着層S1から放射される輻射光が、第1白金層P1によって遮蔽されるから、この点に関しては、基板用密着層S1の厚さ(膜厚)は厚くても問題ない。
但し、基板用密着層S1が厚すぎると、輻射制御部Naが基板Kにて高温状態に加熱された際に、チタン(Ti)が熱で動き回り、第1白金層P1の共鳴用透明酸化物層Rの存在側の表面に出てくる現象を発生する虞がある。このような現象が生じると、輻射制御部Naの熱輻射制御構造が崩れるので熱輻射の制御が難しくなる。
【0095】
また、基板用密着層S1が薄すぎると、複数の薄膜を備える輻射制御部Naの熱膨張率と基板Kの熱膨張率の違いに対応できなくなり、輻射制御部Naが基板Kにて高温状態に加熱された際に、輻射制御部Naが基板Kから剥がれる虞がある。
このような観点に鑑みると、基板用密着層S1の膜厚(チタンの膜厚)は、2nm以上15nm以下が望ましい。
【0096】
〔白金用密着層の厚さ〕
白金用密着層S2の厚さ(膜厚)は、光学性および耐久性のふたつの観点で設定する必要がある。
すなわち、白金用密着層S2の厚さ(膜厚)が厚過ぎると光学的によくない。つまり、白金用密着層S2は高温状態になると、4μmよりも大きな波長(つまり、遠赤外光)の輻射光を放射することになるから、白金用密着層S2の厚さ(膜厚)が厚過ぎると、白金用密着層S2からの輻射光の強度が大きくなって、輻射制御部Naからの輻射光が、4μmよりも大きな波長(つまり、遠赤外光)において、小さな輻射率(放射率)となることに対して悪影響を与える。
【0097】
また、白金用密着層S2の厚さ(膜厚)が厚過ぎると、輻射光を遮蔽するものとなるから、白金用密着層S2の厚さ(膜厚)が厚過ぎるのは避ける必要がある。尚、厚くなりすぎると、4μm以下の輻射率のピークが90%以下となる。
但し、白金用密着層S2は、基板Kと薄膜とを密着させるのではなく、薄膜同士を密着させるものであるから、基板用密着層S1よりも薄くても密着効果が出る。
このような観点を鑑みると、白金用密着層S2の厚さ(膜厚)は、0.1nm以上10nm以下が望ましい。
【0098】
図9は、白金用密着層S2の厚さ(膜厚)と熱輻射光源Qの輻射率(放射率)との関係を示すものである。
尚、
図9は、基板用密着層S1の厚さを7nm、第1白金層P1の厚さを150nm、共鳴用透明酸化物層の厚さを120nm、第2白金層P2の厚さを6nm、放射用透明酸化物層Nbの厚さを120nmとする場合において、白金用密着層S2の厚さ(膜厚)を変化させたものである。
この
図9を考察すると、白金用密着層S2の厚さ(膜厚)が厚くなるほど、4μmよりも長波長側の遠赤外光が増加することがわかる。
【0099】
〔チタンの酸化について〕
基板用密着層S1及び白金用密着層S2を形成するチタン(Ti)は、大気中での熱輻射光源Qの使用によって、徐々に酸化されて酸化チタン(TiO2)に変化する可能性が高い。換言すれば、大気中で熱輻射光源Qが使用された状態においては、基板用密着層S1及び白金用密着層S2が、酸化チタン(TiO2)にて形成されていると見做すことができる。
【0100】
但し、
図8に示すように、白金用密着層S2を形成するチタンは、全てが酸化チタンに変化するのではなく、白金層P(第2白金層P2)に密着する箇所のチタンは、酸化されることなく、白金層P(第2白金層P2)に密着するチタンの状態(金属状態)を継続することになる。
図示は省略するが、基板用密着層S1を形成するチタンも、全てが酸化チタンに変化するのではなく、白金層P(第1白金層P1)に密着する箇所のチタンは、酸化されることなく、白金層P(第1白金層P1)に密着するチタンの状態(金属状態)を継続することになる。
【0101】
つまり、基板用密着層S1及び白金用密着層S2を形成するチタンは、全てが酸化チタンに変化するのではなく、白金層Pに密着する箇所のチタンは、酸化されることなく、白金層Pに密着するチタンの状態を継続することになり、基板用密着層S1及び白金用密着層S2としての機能を継続することになる。
【0102】
説明を加えると、白金(Pt)は、標準酸化ギブスエネルギー変化が、+200k/mol/O2であることから、酸素と反応しない(化学反応は、ギブスエネルギー変化がマイナスになる方向に進む。ギブスエネルギー変化が正であるということは、反応しないということである。)。このことは、酸化物を白金(Pt)の密着層とすることは、結合エネルギーの関係で難しいことを意味する。このことから、チタンが酸化によって酸化チタンに変化すると、白金(Pt)の密着層として働かなくなる心配があるが、実際には、チタンが酸化しても、白金(Pt)との界面のチタンは白金との結合手を維持しているため、基板用密着層S1及び白金用密着層S2としての機能を継続することになる。
【0103】
ちなみに、チタンにて形成される基板用密着層S1及び白金用密着層S2は、光透過性を備えるように薄膜状態に形成されることになり、そして、薄膜状態に形成されたチタンが酸化チタンに変化することになるが、酸化チタンは、透明性を備えるものであるから、チタンが酸化チタンに変化しても、熱輻射層Nの性能に悪影響を与えることはない。
尚、基板用密着層S1及び白金用密着層S2を形成する材料が酸化することを考慮すると、クロム(Cr)は酸化すると黒色になるので、酸化すると黒色になるクロムは、輻射制御の観点で密着層としては不適であり、酸化すると透明となる酸化チタン(TiO2)を形成するチタン(Ti)は輻射制御の観点で優れている。
【0104】
ところで、白金用密着層S2のチタン(Ti)が経時的に酸化するのであれば、白金用密着層S2が厚くても、いずれは
図8の厚さ(膜厚)が薄い場合の熱輻射に近づくと考えられる。しかし、厚さ(膜厚)が厚い場合、輻射制御部Naが基板Kにて高温状態に加熱された際に、チタン(Ti)が熱で動き回り、第2白金層P2の表面に出てくる現象を発生する虞がある。このような現象が生じると、輻射制御部Naの熱輻射制御構造が崩れるので熱輻射の制御が難しくなる。特に、第2白金層P2の白金は薄いため、チタン(Ti)の動きが熱輻射制御構造の崩れに大きく影響を与える。
従って、白金用密着層S2の厚さ(膜厚)はサブnm程度(1nm以下程度)にするのが望ましい。
【0105】
〔熱輻射光源の経時変化について〕
図10は、実際に作製した熱輻射光源Qを大気中で800℃に加熱して使用したときの熱輻射スペクトルの経時的変化を示すものである。
ちなみに、
図10は、基板Kにサファイアを用い、基板用密着層S1の厚さを7nm、第1白金層P1の厚さを150nm、共鳴用透明酸化物層の厚さを120nm、第2白金層P2の厚さを6nm、放射用透明酸化物層Nbの厚さを120nmとし、白金用密着層S2の厚さを0.5nmとしたときの熱輻射光源Qの熱輻射スペクトルを例示するものである。
【0106】
なお、
図20に示すように、基板K、基板用密着層S1、第1白金層P1、白金用密着層S2、共鳴用透明酸化物層R、第2白金層P2を備えさせるものの、第2白金層P2における放射用透明酸化物層Nbの存在側の表面に対する白金用密着層S2、及び、放射用透明酸化物層Nbを省略すると、加熱の過程で、第2白金層P2の白金(Pt)が凝集し、光を散乱するようになり、輻射光を適切に放射できないものとなった。
【0107】
図10に示すように、120時間(5日間)加熱した熱輻射スペクトルと、24時間(1日間)加熱した熱輻射スペクトルは略同じである。
成膜直後の熱輻射スペクトルと、24時間、120時間加熱後の熱輻射スペクトルとが異なるが、その理由は、加熱により、アルミナ(Al
2O
3)や白金(Pt)の結晶性が高まったことが原因と考えられる。
【0108】
理論値(計算値)の熱輻射スペクトルは、結晶性の高いアルミナ(Al2O3)の光学定数を用いて計算したものである。
成膜直後の熱輻射スペクトルは、理論値(計算値)の熱輻射スペクトルと乖離しているが、加熱後の熱輻射スペクトルは、理論値(計算値)の熱輻射スペクトルと極めて近い値となっているので、加熱によって、アルミナ(Al2O3)や白金(Pt)の結晶性が高まることで、アルミナ(Al2O3)や白金(Pt)の光学定数が理論値に近づいたものと考えられる。
【0109】
上記の結果の通り、本発明の熱輻射光源Qは、大気中で800℃程度に加熱して用いることができる熱輻射光源である。
尚、本発明の熱輻射光源Qの構成材料の融点は、白金(Pt)が、1768℃、アルミナ(Al2O3)が、2072℃、チタン(Ti)が、1668℃、酸化チタン(TiO2)が、1843℃であり、基板Kの融点にもよるが、本発明の熱輻射光源Qの熱輻射層Nは、1400℃程度の温度まで耐久する。
【0110】
〔基板について〕
高温状態になる基板Kの熱輻射光が、第1白金層P1にて遮蔽されて、輻射制御部Naへ透過しない点に鑑みると、基板Kの材料(母材)としては、石英(SiO2)、サファイア、ステンレス鋼(SUS)、カンタル、ニクロム、アルミニウム、シリコン等、様々な材料を用いることができる。
【0111】
酸化物系の材料の基板Kを用いる場合は特に問題ないが、金属系の材料の基板Kを用いる場合は、大気中で加熱して使用する場合には、基板Kの酸化劣化が問題となってくるが、共鳴用透明酸化物層R及び放射用透明酸化物層Nbが存在することによって、上述の通り、基板Kにおける熱輻射層Nの存在側の表面の酸化劣化が防止されることになる。
尚、基板Kにおける熱輻射層Nの存在側の表面は、乱反射しない程度の鏡面に形成されることになる。
【0112】
基板Kは、通電により自己発熱する形態に構成されていてもよく、また、外部加熱部Uにて加熱する形態に構成されていてもよい。
つまり、基板Kが、カンタル、ニクロム等、通電すると発熱する材料にて構成される場合には、基板Kを通電により自己発熱する形態に構成できる。
基板Kが、石英(SiO
2)、サファイア、ステンレス鋼(SUS)等で形成される場合には、
図16~
図19に示すように、外部加熱部Uにて加熱する形態に構成される。
【0113】
図16及び
図17は、外部加熱部Uが、通電により発熱するヒーター線を備える板状の加熱電極Udとして構成される場合であり、熱輻射光源Qの基板Kが、加熱電極Udに密着状態に配設されている。
尚、
図17は、加熱電極Udの片面側に熱輻射光源Qが配設される場合であり、
図16は、加熱電極Udの両面側に熱輻射光源Qが配設される場合を例示する。
【0114】
図18は、外部加熱部Uが、波長が制御されていない熱輻射光Gを放射する熱輻射源Ugとして構成される場合であり、熱輻射光源Qの基板Kが、熱輻射源Ugに対向する状態に配設されている。
図19は、外部加熱部Uが、高温流体Tを供給する流体供給源Utとして構成される場合であり、熱輻射光源Qの基板Kが、流体供給源Utに対向する状態に配設されている。
【0115】
〔基板用密着層の変形例〕
基板用密着層S1は、上述の如く、チタン(Ti)にて構成されるが、基板Kを形成する材料の種類によって、その構成を少し変更する必要がある。
基板Kを形成する材料が、サファイアあるいはアルミナ(Al2O3)の場合には、基板用密着層S1は、上述の如く、チタン(Ti)のみにて構成する。
【0116】
基板Kを形成する材料が、石英(SiO2)の場合には、基板用密着層S1は、チタン(Ti)のみでもよく、また、チタン(Ti)とアルミナ(Al2O3)との積層構造にしてもよい。つまり、第1白金層P1/チタン(Ti)/アルミナ(Al2O3)(30nm)/基板Kの順に積層した構成にしてもよい。
【0117】
基板Kを構成する材料が、ステンレス鋼(SUS)、カンタル、ニクロム、アルミニウム、シリコンの場合には、第1白金層P1/チタン(Ti)/アルミナ(Al2O3)(30nm)/基板Kの順に積層した構成、あるいは、第1白金層P1/チタン(Ti)/アルミナ(Al2O3)(30nm)/酸化ハフニウム(HfO2)/基板Kの順に積層した構成にするとよい。
つまり、基板Kが金属や半導体の場合は、第1白金層P1/チタン(Ti)が基板Kと反応し、合金化して、輻射制御できなくなる虞がある。従って、合金化を防止する観点から酸化物の層を基板Kとチタン(Ti)の間に入れるのが良い。
【0118】
〔別実施形態〕
以下、別実施形態を列記する。
(1)上記実施形態では、基板Kにおける熱輻射層Nが積層される側の面とは反対側の裏面が酸化しても、基板Kの厚さが厚ければ、熱輻射層Nに悪影響を与えることが無い点に鑑みて、基板Kにおける熱輻射層Nが積層される側の面とは反対側の裏面を、露出させる状態としたが、当該裏面に、酸化を抑制する酸化防止膜を積層するようにしてもよい。
【0119】
(2)上記実施形態では、輻射制御部Naが、MIM積層部Mを1つ備える場合や2つ備える場合を例示したが、輻射制御部Naが、MIM積層部Mを3つ以上備える形態で実施してもよい。
【0120】
なお、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【符号の説明】
【0121】
K 基板
N 熱輻射層
Na 輻射制御部
Nb 放射用透明酸化物層
M MIM積層部
P 白金層
R 共鳴用透明酸化物層
S1 基板用密着層
S2 白金用密着層