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特許7154139流体加熱部品、流体加熱部品複合体、及び流体加熱部品の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-06
(45)【発行日】2022-10-17
(54)【発明の名称】流体加熱部品、流体加熱部品複合体、及び流体加熱部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/02 20060101AFI20221007BHJP
   B01J 35/04 20060101ALI20221007BHJP
   B01D 39/20 20060101ALI20221007BHJP
   B01D 46/00 20220101ALI20221007BHJP
   B01D 46/42 20060101ALI20221007BHJP
   F01P 3/20 20060101ALI20221007BHJP
   H05B 3/40 20060101ALI20221007BHJP
【FI】
B01J35/02 G ZAB
B01J35/04 301E
B01J35/04 301M
B01D39/20 D
B01D46/00 302
B01D46/42 Z
F01P3/20 E
H05B3/40 A
B01J35/04 301J
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019005519
(22)【出願日】2019-01-16
(65)【公開番号】P2019162612
(43)【公開日】2019-09-26
【審査請求日】2021-03-17
(31)【優先権主張番号】P 2018053319
(32)【優先日】2018-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(72)【発明者】
【氏名】高橋 博紀
(72)【発明者】
【氏名】石田 弘樹
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-045852(JP,A)
【文献】米国特許第03163841(US,A)
【文献】特開2013-238116(JP,A)
【文献】特開2010-013945(JP,A)
【文献】特開平08-266841(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
B01D 53/86-53/90,53/94-53/96
B01D 39/20
B01D 46/00
B01D 46/42
F01P 3/20
H05B 3/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の流通する流路が形成されたセラミックス製の多孔質体と、
前記多孔質体の前記流路の少なくとも一部の流路表面に被設された導電性皮膜層と、
前記多孔質体の孔部の表面に被設された導電性孔部皮膜層と
を具備し、
前記導電性皮膜層は、
前記導電性孔部皮膜層と電気的に接続され、かつ連続したものであり、
前記多孔質体は、
一方の端面から他方の端面まで延びる前記流路として形成された複数のセルを区画形成する隔壁を備えたハニカム構造体である流体加熱部品。
【請求項2】
前記導電性皮膜層及び前記導電性孔部皮膜層の少なくとも一方は、
前記流体の流通方向に直交する前記流路の切断面において、少なくとも一部が環状に連続した状態で形成されている請求項1に記載の流体加熱部品。
【請求項3】
前記多孔質体は、
気孔率が0.1%~60%の範囲である請求項1または2に記載の流体加熱部品。
【請求項4】
前記多孔質体は、
炭化珪素、コージェライト、珪素-炭化珪素系複合材料、ムライト、アルミナ、スピネル、炭化珪素-コージェライト系複合材料、リチウムアルミニウムシリケート、及びチタン酸アルミニウム、窒化珪素、窒化アルミニウム、酸化マグネシウムから選択される少なくとも1つ以上のセラミックスを主成分とする請求項1~3のいずれか一項に記載の流体
加熱部品。
【請求項5】
前記多孔質体は、
熱伝導率が0.1W/m・K~300W/m・Kの範囲である請求項1~4のいずれか一項に記載の流体加熱部品。
【請求項6】
前記多孔質体は、
炭化珪素を主成分とするセラミックスであり、電気抵抗率が0.01Ωcm~10Ωcmである請求項1~5のいずれか一項に記載の流体加熱部品。
【請求項7】
前記導電性皮膜層は、層構造を呈し、前記多孔質体の前記表面と接する無電解めっき層と、前記無電解めっき層の上に積層された少なくとも一層以上の誘導加熱層とを備える請求項1~6のいずれか一項に記載の流体加熱部品。
【請求項8】
前記導電性皮膜層は、
皮膜層厚さが0.1μm~500μmの範囲である請求項1~7のいずれか一項に記載の流体加熱部品。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の流体加熱部品の製造方法であって、
セラミックス製の多孔質体に形成された流体の流路に沿って導電性皮膜層及び導電性孔部皮膜層の成分を含む気体または液体の原料流体を流通させ、前記流路の表面に前記導電性皮膜層を、及び、前記多孔質体の内部の孔部に電気的に接続され、かつ連続した導電性孔部皮膜層を形成する原料流体流通工程を具備し、
前記多孔質体は、
一方の端面から他方の端面まで延びる、前記流体の前記流路として形成される複数のセルを区画形成する隔壁を備えたハニカム構造体であって、
前記ハニカム構造体の前記一方の端面を所定の配設基準に従って目封止するとともに、前記他方の端面の残余のセルを目封止する目封止工程を更に具備し、
前記原料流体流通工程は、
前記目封止工程によって目封止部が形成された前記ハニカム構造体の内部に前記原料流体を流通させ、前記導電性皮膜層及び前記導電性孔部皮膜層を形成する流体加熱部品の製造方法。
【請求項10】
請求項1~のいずれか一項に記載の流体加熱部品を用いて形成され、
複数の角柱状の前記流体加熱部品を用いて一体的に構築され、若しくは、少なくとも一つ以上の角柱状の前記流体加熱部品、及び、流体の流通する流路が形成された、一または複数の角柱状のセラミックス製の多孔質体を用いて一体的に構築された流体加熱部品複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体加熱部品、流体加熱部品の製造方法、及び流体加熱部品複合体に関する。更に詳しくは、ハニカム構造体等のセラミックス部材を用い、電磁誘導加熱方式によって気体や液体等の流体を加熱するための流体加熱部品、流体加熱部品の製造方法、及び当該流体加熱部品を組み合わせて形成された流体加熱部品複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の燃費性能の改善等を目的として、エンジン始動時のフリクション(摩擦)損失の低減や、排ガス浄化用触媒の浄化性能を高めることが行われている。特に、エンジン始動直後は、冷却水やエンジンオイル、及びATF(オートマチックトランスミッションフルード)等の液体、或いは排ガス浄化用触媒が冷めた状態にあるため、エンジン性能を十分に発揮できないことがある。そこで、冷却水等の液体を速やかに適温まで加熱させたり、或いは排ガス浄化用触媒を早期に活性化させたりするための加熱システムが採用されている。
【0003】
加熱システムには、流体(冷却水やエンジンオイル等の液体或いは排気ガス等の気体等)を加熱するために、例えば、高い熱伝導率を有するセラミックス製のハニカム構造体と、抵抗加熱式ヒーター、高周波加熱式ヒーター、或いは燃焼加熱式ヒーター等の加熱体とを備えた流体加熱部品が用いられている(例えば、特許文献1参照)。セラミックス製のハニカム構造体は、隔壁によって区画された複数のセルを有し、当該セルが上記流体の流路となる。複数のセルを備えることで流体との接触面積が大きくなり、加熱体によって発生させた熱を当該流体に対して効率的に伝搬させることができる。
【0004】
一方、電磁誘導加熱方式によって導電性の担体を加熱しながら、ハロゲン化炭化水素ガス等を含む流体を担体内部に流通させることで、ハロゲン化炭化水素を高温で熱分解処理する分解方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。これによると、炭化珪素(SiC)等のカーボンセラミックスやステンレス鋼等を上記担体のベースとして用い、更に当該担体にハロゲン化炭化水素ガスに対する耐腐食性の高い白金(Pt)、パラジウム(Pd)、金(Au)、ロジウム(Rh)、及びニッケル(Ni)の少なくとも一種類の金属元素(第一群元素)、及び、タングステン(W)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、モリブデン(Mo)、及びバナジウム(V)の少なくとも一種類の金属元素(第二群元素)を触媒として担持したものが使用される。これらの触媒を担持した導電性の担体は、外部に設置された電磁誘導コイルによって生じた渦電流のジュール熱によって加熱され、担体の内部を流通する流体を加熱することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-238116号公報
【文献】特開2001-54723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記に示したような流体加熱部品や加熱による流体(ハロゲン化炭化水素ガス)の分解方法は、下記に掲げる不具合を生じる可能性があった。すなわち、特許文献1に示すような流体加熱部品の場合、セラミックス製のハニカム構造体と、主に金属等で構成される加熱体との異なる材質の二つの部材で構成されていた。これにより、ハニカム構造体及び加熱体の間の境界付近での熱抵抗が大きくなり、加熱体によって発生させた熱がハニカム構造体に効率的に伝搬されないことがあった。その結果、加熱効率が低くなるおそれがあった。
【0007】
更に、それぞれ異なる材質でハニカム構造体及び加熱体が形成されているため、加熱時における両者の熱膨張率の違いが問題となることがあった。すなわち、熱膨張率の違いによってハニカム構造体及び加熱体の境界付近に隙間や空隙等が生じる可能性があり、加熱効率がより低くなる可能性があった。特に、比較的大型の流体加熱部品を形成した場合、上記熱膨張率の違いによる不具合が顕著に現れることがあった。
【0008】
一方、特許文献2に示すような導電性の担体を用いるものは、担体として使用されるSiC自体の電気抵抗が高いため、電磁誘導加熱方式による発熱効率が低く、速やかに担体を所定の温度まで上昇させられないことがあった。その結果、触媒が活性化するまでに時間が必要となるとともに、当該温度まで上昇させるために多くの電気エネルギーが必要となる等のデメリットがあった。
【0009】
そこで、本発明は、上記実情に鑑み、電磁誘導加熱方式による効率的な加熱を可能とするとともに、熱膨張率の違いによる影響を受けることのない、速やかな加熱が可能なセラミックス製の流体加熱部品、流体加熱部品複合体、及び流体加熱部品の製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、以下に掲げる流体加熱部品、流体加熱部品の製造方法、及び流体加熱部品複合体が提供される。
【0011】
[1] 流体の流通する流路が形成されたセラミックス製の多孔質体と、前記多孔質体の前記流路の少なくとも一部の流路表面に被設された導電性皮膜層と、前記多孔質体の孔部の表面に被設された導電性孔部皮膜層とを具備し、前記導電性皮膜層は、前記導電性孔部皮膜層と電気的に接続され、かつ連続したものであり、前記多孔質体は、一方の端面から他方の端面まで延びる前記流路として形成された複数のセルを区画形成する隔壁を備えたハニカム構造体である流体加熱部品。
【0013】
] 前記導電性皮膜層及び前記導電性孔部皮膜層の少なくとも一方は、前記流体の流通方向に直交する前記流路の切断面において、少なくとも一部が環状に連続した状態で形成されている前記[1]に記載の流体加熱部品。
【0015】
] 前記多孔質体は、気孔率が0.1%~60%の範囲である前記[1]または2]に記載の流体加熱部品。
【0016】
] 前記多孔質体は、炭化珪素、コージェライト、珪素-炭化珪素系複合材料、ムライト、アルミナ、スピネル、炭化珪素-コージェライト系複合材料、リチウムアルミニウムシリケート、及びチタン酸アルミニウム、窒化珪素、窒化アルミニウム、酸化マグネシウムから選択される少なくとも1つ以上のセラミックスを主成分とする前記[1]~[]のいずれかに記載の流体加熱部品。
【0017】
] 前記多孔質体は、熱伝導率が0.1W/m・K~300W/m・Kの範囲である前記[1]~[]のいずれかに記載の流体加熱部品。
【0018】
] 前記多孔質体は、炭化珪素を主成分とするセラミックスであり、電気抵抗率が0.01Ωcm~10Ωcmである前記[1]~[]のいずれかに記載の流体加熱部品。
【0019】
] 前記導電性皮膜層は、層構造を呈し、前記多孔質体の前記表面と接する無電解めっき層と、前記無電解めっき層の上に積層された少なくとも一層以上の誘導加熱層とを備える前記[1]~[]のいずれかに記載の流体加熱部品。
【0020】
] 前記導電性皮膜層は、皮膜層厚さが0.1μm~500μmの範囲である前記[1]~[]のいずれかに記載の流体加熱部品。
【0021】
] 前記[1]~[]のいずれかに記載の流体加熱部品の製造方法であって、セラミックス製の多孔質体に形成された流体の流路に沿って導電性皮膜層及び導電性孔部皮膜層の成分を含む気体または液体の原料流体を流通させ、前記流路の表面に前記導電性皮膜層を、及び、前記多孔質体の内部の孔部に電気的に接続され、かつ連続した導電性孔部皮膜層を形成する原料流体流通工程を具備し、前記多孔質体は、一方の端面から他方の端面まで延びる、前記流体の前記流路として形成される複数のセルを区画形成する隔壁を備えたハニカム構造体であって、前記ハニカム構造体の前記一方の端面を所定の配設基準に従って目封止するとともに、前記他方の端面の残余のセルを目封止する目封止工程を更に具備し、前記原料流体流通工程は、前記目封止工程によって目封止部が形成された前記ハニカム構造体の内部に前記原料流体を流通させ、前記導電性皮膜層及び前記導電性孔部皮膜層を形成する流体加熱部品の製造方法。
【0023】
[1] 前記[1]~[]のいずれかに記載の流体加熱部品を用いて形成され、複数の角柱状の前記流体加熱部品を用いて一体的に構築され、若しくは、少なくとも一つ以上の角柱状の前記流体加熱部品、及び、流体の流通する流路が形成された、一または複数の角柱状のセラミックス製の多孔質体を用いて一体的に構築された流体加熱部品複合体。
【発明の効果】
【0024】
本発明の流体加熱部品、流体加熱部品複合体、及び流体加熱部品の製造方法によれば、電磁誘導加熱方式によって流体加熱部品を速やかに、かつ効率的に加熱することができる。その結果、自動車のエンジンの始動直後であっても、排ガス浄化用触媒が活性化する温度まで速やかに加熱することができる加熱システムに当該流体加熱部品を採用することが可能となる。
【0025】
また、本発明の流体加熱部品、及び流体加熱部品複合体を自動車エンジンの排ガス浄化用フィルタに用いる場合には、フィルタに溜まったカーボン微粒子を電磁誘導加熱方式によって燃焼除去を助けることが可能となる。
【0026】
特に、セラミックス製の多孔質体(ハニカム構造体等)の流路表面(セル表面)に導電性皮膜層或いは隔壁の内部に導電性孔部皮膜層が被設され、切断面において電気的に接続され、かつ連続した状態のため、効率的な誘導加熱が可能になり、局所的な温度の上昇が生じることがなく、かつ多孔質体と導電性皮膜層等との間の熱膨張率の違いによって、加熱効率が低下したり、クラック等の割れが発生したりする不具合が発生するおそれが小さくなる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の一実施形態の流体加熱部品の概略構成を示す斜視図である。
図2】流体加熱部品の概略構成を示す一部拡大断面図である。
図3】流体加熱部品の別例構成を示す一部拡大断面図である。
図4A】導電性皮膜層の配置パターンの一例を示す説明図である。
図4B】導電性皮膜層の配置パターンの一例を示す説明図である。
図4C】導電性皮膜層の配置パターンの一例を示す説明図である。
図5A】導電性孔部皮膜層の配置パターンの一例を示す説明図である。
図5B】導電性孔部皮膜層の配置パターンの一例を示す説明図である。
図5C】導電性孔部皮膜層の配置パターンの一例を示す説明図である。
図6】不適合な流体加熱部品の一例を示す一部拡大断面図である。
図7】不適合な流体加熱部品の一例を示す一部拡大断面図である。
図8】流体加熱部品の製造方法の一例を模式的に示す説明図である。
図9】流体加熱部品の別例構成の製造方法の一例を模式的に示す説明図である。
図10】流体加熱部品複合体の概略構成を示す分解斜視図である。
図11図10の流体加熱部品複合体の概略構成を示す斜視図である。
図12】流体加熱部品複合体の別例の概略構成を示す分解斜視図である。
図13図12の流体加熱部品複合体の概略構成を示す斜視図である。
図14】誘導加熱試験装置、及び温度測定の概略構成を示す説明図である。
図15】ハニカム構造体の隔壁に形成された表面層及び導電性皮膜層の概略構成の一例を示す一部拡大端面図である。
図16】ハニカム構造体の隔壁に形成された表面層及び導電性皮膜層の概略構成の一例を示す一部拡大端面図である。
図17】ハニカム構造体の流体の切断面、及び導電性皮膜層の形成の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照しつつ、本発明の流体加熱部品、流体加熱部品の製造方法、及び流体加熱部品複合体の実施の形態について説明する。なお、本発明の流体加熱部品、流体加熱部品の製造方法、及び流体加熱部品複合体は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良等を加え得るものである。
【0029】
1.流体加熱部品
本発明の一実施形態の流体加熱部品1は、図1及び図2に示すように、セラミックス製のハニカム構造体2と、ハニカム構造体2の流路を構成するセル3のセル表面3a(本発明の流路表面に相当)に被設された導電性皮膜層4とを具備するものである。
【0030】
更に、流体F(図1参照)の流通方向(図2における紙面手前方向から紙面奥行方向に相当)、換言すれば、ハニカム構造体2の軸方向A(図1参照)に直交するハニカム構造体2の切断面において、ハニカム構造体2のセル表面3aを環状に囲み、電気的に接続され、かつ連続した状態の導電性皮膜層4が被設されたものである。
【0031】
ここで、“電気的に接続され、かつ連続した”状態とは、導電性皮膜層が「断続的」に分散して存在しているものではなく、全てが電気的に接続され、電流の流通が可能な状態を示すものとして、本明細書において定義する。図2は流体加熱部品1をハニカム構造体2の軸方向Aに直交する方向に沿って切断した切断面の一部拡大断面図である。更に、セル表面3aに被設される導電性皮膜層4は、ハニカム構造体2のセル表面3aの全体に亘って必ずしも被設される必要はなく、切断面の少なくとも一部において環状(リング状)を呈して電気的に接続された状態であればよい(詳細は後述する)。
【0032】
ハニカム構造体2が本発明の流体加熱部品1におけるセラミックス製の多孔質体に相当する。更に具体的に説明すると、ハニカム構造体2は、一方の端面5aから他方の端面5bまで延びる流体Fの流路となる複数のセル3を区画形成する格子状の隔壁6を備えた、略円柱状を呈する構造のものである。
【0033】
多孔質体としてのハニカム構造体2が、このような構成を備えることで、流体加熱部品1のハニカム構造体2の一方の端面5aから内部に導入された流体Fは、ハニカム構造体2の内部のセル3を通過し、他方の端面5bから放出される。なお、本発明の流体加熱部品における多孔質体は、図1等に示した略円柱状のハニカム構造体2に限定されるものではなく、セル3に相当するような流体Fの流路を備え、流路表面に導電性皮膜層4が被設されている構成であれば構わない。
【0034】
ハニカム構造体2は、多孔質のものであり、セル3を区画形成する隔壁6の内部に複数の微細な孔部(図示しない)を備えている。そのため、セル表面3aに沿って導電性皮膜層4を形成するとともに、隔壁6の内部の孔部の表面に導電性孔部皮膜層7を備えた流体加熱部品1aを構成するものであっても構わない(図3参照)。なお、図3において、導電性孔部皮膜層7をハッチングによって模式的に示している。この場合において、セル表面3aに形成された導電性皮膜層4は、導電性孔部皮膜層7と電気的に接続しているのが望ましい。
【0035】
多孔質のハニカム構造体2に対して、導電性皮膜層4および導電性孔部皮膜層7を電気的に接続した状態で被設する場合、ハニカム構造体2の軸方向に直交する方向に沿って切断した切断面において、電気的に接続されたループが存在することが好適である。当該切断面に正対した状態で観察したループの形状は、特に限定されるものではなく、例えば、円形、楕円形、或いは、三角形、四角形、六角形、及びその他の多角形等から選択した任意の形状とすることができる。
【0036】
更に、当該切断面に正対した状態で観察したループの長径が大きいものがより好適である。ループの長径が大きくすることで、誘導加熱の際の周波数を抑えることができる。当該周波数を低くすれば、より大きな出力をかけることが容易となる利点を有する。ここで、ループの長径は、例えば、5mm以上のものが好適であり、10mm以上のものが更に好適であり、20mm以上のものがより好適である。更に、誘導加熱の周波数を30kHzと低く設定した場合には、ループの長径を15mm以上とすることが好適であり、20mm以上とするものが更に好適である。
【0037】
更に、図1図3に示したように、ハニカム構造体2のセル3の全体に対して導電性皮膜層4及び/または導電性孔部皮膜層7を有する流体加熱部品1,1aを示したがこれに限定されるものではない。すなわち、ハニカム構造体2の軸方向に直交する方向に沿って切断した切断面において、特定の領域に導電性皮膜層4及び/または導電性孔部皮膜層7を設け、残余の領域に導電性皮膜層4等を設けないようにしたものであっても構わない。
【0038】
これにより、電磁誘導加熱方式により流体加熱部品を加熱する際に、流体加熱部品の全体を効率的に加熱することが可能となる。このように加熱する領域を導電性皮膜層4の有無によって調整することもできる。なお、上記特定の領域に導電性皮膜層4等を設ける場合であっても、それぞれの領域において導電性皮膜層4の切断面におけるセル3のセル表面3a(流路表面)が電気的に接続している必要がある。
【0039】
導電性皮膜層が電気的に接続され、かつ連続した状態にない、換言すれば、“断続的な導電性皮膜層”であった場合は、特に低い周波数(波長)の誘導加熱装置を用いると十分な加熱効率を得ることができないのに対し、本実施形態の流体加熱部品は上記不具合を解消し、十分な加熱効率を得ることができる。
【0040】
ハニカム構造体2は、所定のセラミックスを主成分とすることにより、隔壁6の熱伝導率を高くすることができ、効率的な流体Fの加熱等を行うことができる。なお、本明細書において、“主成分”とは、ハニカム構造体2において50質量%以上含むものとして定義し、金属複合セラミックスなども含まれる。
【0041】
多孔質性のセラミックスとしては、気孔率が0.1%~60%の範囲であることが好ましく、適宜設計に応じて、好ましい気孔率を選択することができる。なお、気孔率は、アルキメデス法や水銀ポロシメータ(例えば、Micromeritics社製、商品名:Autopore 9500等)で測定することができる。
【0042】
更に、上記セラミックスとしては、周知のコージェライトや炭化珪素、珪素-炭化珪素系複合材料、ムライト、アルミナ、スピネル、炭化珪素-コージェライト系複合材料、リチウムアルミニウムシリケート、及びチタン酸アルミニウム、窒化珪素、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム等の種々の材料を使用することができる。特に、流体Fに対する伝熱性を考慮した場合、高い熱伝導率を有する炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム等を主成分とすることが好適である。更に、炭化珪素をハニカム構造体2の主成分とすることで、上記熱伝導率以外に、耐熱性及び耐腐食性に優れるといったメリットを有する。
【0043】
更に、ハニカム構造体2を構成する基材の材料としては、Si含浸SiC、(Si+Al)含浸SiC、金属複合SiC、再結晶SiC、Si、及びSiC等を採用することができる。ここで、更に高い熱伝導率を得るために、炭化珪素を主成分とするハニカム構造体2(多孔質体)は、気孔率を小さくすることが好適である。
【0044】
すなわち、ハニカム構造体2の気孔率を10%以下にすることが好ましく、5%以下にすることがより好ましく、2%以下にすることがさらに好ましく、特に、上記Si含浸SiCや(Si+Al)含浸SiCを採用することが好適である。SiCは、それ自体で高い熱伝導率を有し、かつ放熱しやすい特性を有するが、Si含浸SiCの場合、上記の気孔率に製造することができ十分な強度にできる。
【0045】
例えば、一般的な炭化珪素の場合、熱伝導率が20W/m・K程度に対し、気孔率を2%以下とすることにより、150W/m・K程度にすることができる。なお、上記気孔率は、アルキメデス法により測定したものである。
【0046】
ここで、ハニカム構造体2は、上記熱伝導率が0.1W/m・K~300W/m・Kの範囲であり、更に100W/m・K以上であることが好ましい。より好ましくは、120W/m・K~300W/m・K、最も好ましくは、150~300W/m・Kのものである。熱伝導率を上記範囲とすることで、熱伝導性が良好なものとなり、効率的にハニカム構造体2の内部に熱を伝達することができ、流体Fに対する加熱を速やかに行うことができる。
【0047】
また、ハニカム構造体2が炭化珪素からできている場合は、電気抵抗率が0.01Ωcm~10Ωcmの範囲であり、更に1Ωcm以下であることが好ましい。より好ましくは、0.1Ωcm以下、特に好ましくは0.05Ωcm以下であることが好ましい。これにより、電磁誘導加熱方式による加熱効率を高めることができる。
【0048】
本実施形態のハニカム構造体は、隔壁の表面及び隔壁の細孔の内部の少なくとも一方に、触媒が担持されたものであってもよい。このように、本実施形態のハニカム構造体2は、触媒を担持した触媒担体や、排ガス中の粒状物質(カーボン微粒子)を浄化するために目封止部を設けたフィルタ(例えば、ディーゼルパティキュレートフィルタ(以下、「DPF」ともいう)やガソリンパティキュレートフィルタ)として構成されたものであってもよい。
【0049】
なお、多孔質体(ハニカム構造体2等)の気孔率は、その使用用途に応じて適宜大きな気孔率のものを選択することもできる。例えば、ハニカム構造体2を自動車用の触媒担体や排ガス浄化フィルタとして用いる場合は、所定のセラミックスを主成分とし、気孔率を30~60%とするのが好ましい。30%未満の気孔率であると、触媒を効率的に担持できなくなり、また、フィルタとしての機能を低下させるため、好ましくない。また、60%の気孔率であると、強度が十分でなく、耐久性が低下するため好ましくない。
【0050】
一方、コージェライトを主成分として多孔質体を形成する場合、この場合、炭化珪素を主成分とするハニカム構造体と比較して、熱伝導率が低くなるものの、熱膨張率を小さく抑えることができ、かつ比熱が小さいために耐熱衝撃性が優れたものにできる。これにより、加熱時における割れ(クラック)の発生を抑えることができ、また比重も小さいため、速やかな昇温が可能となる利点を備えている。
【0051】
ここで、コージェライトを主成分として多孔質体を形成する場合、熱膨張率は0.1ppm/K以上、2ppm/K以下であることが好ましい。なお、熱膨張率の測定方法としては、たとえば、流体Fの流通方向に沿った10mm以上の長さを有する試験片であって、この流通方向に直交する方向を含む断面の面積が1mm以上、100mm以下である試験片を多孔質体から切り出し、この試験片の流通方向の熱膨張率を、石英を標準比較サンプルとする示差式の熱膨張計により測定する方法を採用することができる。
【0052】
ハニカム構造体40を自動車用の触媒担体や排ガス浄化フィルタとして用いる場合は、その隔壁41の隔壁表面41aの少なくとも一部において、通気性を有する表面層42を有していてもかまわない。表面層42の材質は、特に限定するものではなく、セラミックス、金属、CMC(セラミックスマトリックスコンポジット)など、必要に応じて適宜材質を選択することができる(図15図16参照)。ここで、図15図16は、上記ハニカム構造体40の隔壁41に形成された表面層42及び導電性皮膜層43の概略構成の一例をそれぞれ示す一部拡大端面図である。
【0053】
表面層42は、単層でも多層でもかまわない。隔壁41の隔壁表面41aに導電性皮膜層43を形成した上に表面層42を形成しても良いし(図15参照)、隔壁41の隔壁表面41aに表面層42を形成した上に導電性被膜層43を形成しても良い(図16参照)。ここで、通気性を有するとは、表面層42のパーミアビリティーが、1.0×10-13以上であることをいう。圧力損失をさらに低減する観点から、パーミアビリティーが、1.0×10-12以上であることが好ましい。表面層42が通気性を有することで、表面層42に起因する圧力損失を抑制することができる。
【0054】
また、本明細書において「パーミアビリティー」は、下記数1により算出される物性値をいい、所定のガスがその物(隔壁)を通過する際の通過抵抗を表す指標となる値である。ここで、下記数1中、Cはパーミアビリティー(m)、Fはガス流量(cm/s)、Tは試料厚み(cm)、Vはガス粘性(dynes・sec/cm)、Dは試料直径(cm)、Pはガス圧力(PSI)を示す。なお、下記式数1中の数値は、13.839(PSI)=1(atm)であり、68947.6(dynes・sec/cm)=1(PSI)である。
【0055】
【数1】
【0056】
パーミアビリティーを測定する際には、表面層42つきの隔壁41を切り出し、この表面層42つきの状態で、パーミアビリティーを測定した後、表面層42を削りとった状態でのパーミアビリティー測定を行い、表面層42と隔壁41の厚さの比率と、これらのパーミアビリティー測定結果から、表面層42のパーミアビリティーを算出する。
【0057】
更に、ハニカム構造体のセルの形状は、特に限定されるものではなく、円形、楕円形、三角形、四角形、及び六角形その他の多角形等の中から任意のものを選択することができる。例えば、セルを放射状に配したハニカム構造体を用い、当該ハニカム構造体の流体の流通する流路表面に導電性皮膜層を形成したものや、端面形状がドーナツ状のハニカム構造体を用いるものであってもよい(図示しない)。その他、ハニカム構造体の外形状、外周壁厚さ、内周壁厚さ、セル密度、隔壁の隔壁厚さ、隔壁密度等は任意に設定することができる。
【0058】
ハニカム構造体の流体が流通する流路表面に、導電性皮膜層4を具備する場合、必ずしもすべての流路(セル3)に導電性皮膜層4を具備している必要はなく、一部に導電性皮膜層4を具備するものであっても構わない。この場合、導電性皮膜層4の形成されるセル3は所定のパターンに基づいて任意に指定することができる(図4A,4B,4C参照)。ここで、図4A等は流体加熱部品1の切断面を模式的に示したものである。
【0059】
図4Aは、流体加熱部品1の中央付近に流体が流れ易い場合を想定したものであり、中央付近に位置するセル3にのみ導電性皮膜層4を形成したものである。これにより、中央付近を流れる流体を効率的に加熱することができる。一方、図4B及び図4Cは、誘導加熱によって流体加熱部品1の外周付近が特に高温となることが予想される場合を想定したものであり、流体加熱部品1の中央付近(内部)及び外周付近(外部)の間の加熱バランスを考慮してそれぞれ導電性皮膜層4を配置したものである。この場合、導電性皮膜層4の配置は、所定のパターンに沿って規則正しく配置する場合、或いは導電性皮膜層4を設けるセル3をランダムに選択したものであってもよい。更に、導電性皮膜層4を各セル3に被設する場合において、それぞれの皮膜層厚さについても、任意に変更することができる。すなわち、中央付近のセル3に被設した導電性皮膜層4の皮膜層厚さに対し、外周付近のセル3に被設した導電性皮膜層4の皮膜厚さを薄く(若しくは厚く)することができる。これにより、中央付近及び外周付近の加熱バランスを更に整えることができる。
【0060】
例えば、全ての流路(セル3)に導電性皮膜層4が被設された場合、誘導加熱コイルに近接する導電性皮膜層4が効率的に加熱され、流体加熱部品1の内部(中央付近)の導電性皮膜層4の加熱効率が低下する現象が生じる可能性がある。導電性皮膜層に電流が流れた場合、誘導加熱コイルによって発生する磁界に反する磁界が発生し、互いに磁界が相殺することが予想されるためである。そのため、流体加熱部品1の内側を特に加熱したい場合には、上記した磁界の相殺現象を生じさせないように、外周付近の一部のセル3には導電性皮膜層4を被設しない、或いは、導電性皮膜層4を設ける箇所を局所的に制限することにより、誘導加熱コイルによって発生した磁界を流体加熱部品1の内部まで到達するように構成したものであっても構わない。
【0061】
一方、多孔質体(ハニカム構造体2)の孔部の内側(孔内周面)に導電性孔部皮膜層7を被設する場合、全ての孔部に設ける以外に、少なくとも一部に導電性孔部皮膜層7が形成されているものであってもよい。この場合、導電性孔部皮膜層7を設ける箇所(隔壁6)の位置は、所定のパターンに基づいて任意にすることができる(図5A,5B,5C参照)。ここで、図5A等は流体加熱部品1の切断面を模式的に示したものである。
【0062】
図5Aは、流体加熱部品1の中央付近のセル3に導電性皮膜層4のみを設け、当該セル3を区画する隔壁6には導電性孔部皮膜層7を設けないものである。更に、これらの中央付近から外側の領域(中間領域)には、導電性皮膜層4及び導電性孔部皮膜層7をいずれも被設し、更に流体加熱部品1の外周付近は再び、導電性皮膜層4のみを設けたものである。図5Bは、図5Aと逆に中央付近のセル3に導電性皮膜層4及び導電性孔部皮膜層7を被設し、その後外周付近に向かって交互に導電性皮膜層4のみの領域と導電性皮膜層4+導電性孔部皮膜層7の領域を設けたものである。図5Cは導電性孔部皮膜層7の形成領域の別例を示すものである。これらは、前述の図4A等で示した流体加熱部品1と同様、中央付近及び外周付近の加熱バランスの調整を図るためのものである。
【0063】
導電性皮膜層4及び導電性孔部皮膜層7(以下、「導電性皮膜層4等」と称す。)は、ハニカム構造体2のセル3のセル表面3aに対し、例えば、めっき法、真空蒸着法、メタライジング法、CVD法(化学気相蒸着法)等の周知の方法により形成することが可能である。皮膜層厚さを薄く均一にし、欠陥のない導電性皮膜層4等を形成するために、めっき法或いはCVD法を採用するものが好ましい。なお、導電性皮膜層4等の形成方法を含む流体加熱部品の製造方法の詳細は後述する。
【0064】
導電性皮膜層4等を構成する材質は、特に限定されるものではないが、例えば、めっき法の場合は、Ni,Ni-P、Ni-Fe、Ni-W、Ni-B-W、Ni-Co、Ni-Cr,Ni-Cd、Ni-Zn、Cr、その他クロメート処理皮膜、Co-W、Fe-W、Fe-Cr、Cr-C、及びZn-Fe等の周知の材料を組み合わせて用いることができる。
【0065】
更に、上記以外にもスズ(Sn)、亜鉛(Zn)、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、及びカドミウム(Cd)等の金属元素を使用することができる。また、必要に応じて炭化物(炭化珪素、炭化タングステン、炭化クロム、炭化硼素等)、酸化物(アルミナ、シリカ、ジルコニア、酸化タングステン、二酸化チタン、二酸化モリブデン等)、黒鉛、窒化硼素、及び各種機能性粒子を複合化させたものであっても構わない。また、必要に応じて、封孔処理を行うことも好ましい形態の一つである。封孔処理を行うことにより、耐熱性、防錆性等を高めることができ、流体加熱部品としての耐久性を向上させることができる。
【0066】
一方、CVD法によって導電性皮膜層4等を形成する場合、特に限定はないが、例えば、メタルCVD法、プラズマCVD法、熱CVD法等を用いることができる。
【0067】
ここで、導電性皮膜層4等は、既に示したように、流体Fの流通方向(ハニカム構造体2の軸方向A)に直交するハニカム構造体2の切断面において、当該ハニカム構造体2のセル3のセル表面3a(流路表面)に沿って少なくとも一部で電気的に接続されている必要がある(図2参照)。上記の通り、本発明の流体加熱部品は、電磁誘導加熱方式によって、外部から加熱されるものであり、流体加熱部品1自体に加熱手段を設けるものではない。
【0068】
そのため、セル表面3aに沿って電気的に接続されていない(電気的に途切れて断続した)箇所が存在すると、当該部位において誘導加熱の効率が悪くなるため加熱速度が遅くなり、所定の温度に加熱するためには、より多くの出力が必要になったり、周波数を大幅に上げたりする必要が出てくるため、電磁誘導加熱装置が大型にあるいは高価になり、自動車等の車載向けとしては好ましくない。また、局所的な加熱や放電が発生するなどの不具合を生じる可能性がある。これらの事態を防ぎ、流体加熱部品1の全体において均一で効率的な加熱を可能とし、放電の発生を抑えるため、少なくとも一部においてセル表面3aに沿って電気的に接続した状態とされる。導電性皮膜層4と導電性孔部皮膜層7とが電気的に接続している必要があることも同様の理由からである。
【0069】
ここで、不適合な流体加熱部品10a,10bの例をそれぞれ図6及び図7に示す。すなわち、図6の流体加熱部品10aの場合、セル11のセル表面11aを被設する導電性皮膜層12aが形成されているものの、セル表面11aの一部で導電性皮膜層12aが途切れ、切断面においてリング状になっていない。すなわち、導電性皮膜層12aが非連続に所定の隙間を空けて形成されている。
【0070】
一方、図7の場合、セル11のセル表面11bを被設する導電性皮膜層12bが切断面に非連続的に形成され、かつ、隔壁13の内部の孔部(図示しない)に形成された導電性孔部皮膜層14が導電性皮膜層12bと電気的に接続されていない。すなわち、図6と同様の状態である。このような場合、電磁誘導加熱方式による加熱では、流体加熱部品10a,10bにおける加熱時の温度分布に局所的な偏向が生じ、流体加熱部品10a,10bの全体を均一に加熱することができなくなる。
【0071】
更に、導電性皮膜層4及び/または導電性孔部皮膜層7は、多層構造を呈するものであっても構わない。例えば、ハニカム構造体2のセル3のセル表面3aに接する当接層と、当該当接層の上に少なくとも一層以上が積層した積重層とで構成されるものであっても構わない。なお、上記当接層は、ハニカム構造体2のセル3のセル表面3aとの接着性を良好とするため、セラミックス材料との相性がよい、熱膨張率が小さく、低硬度、かつ高温で基材となるセラミックス材料(炭化珪素やコージェライト等)と反応しない、無電解めっきによって形成された無電解めっき層であることが特に好適である。
【0072】
一方、上記無電解めっき層に積層される積重層は、それぞれ導電性皮膜層4や導電性孔部皮膜層7に求められる特性に特化したものであっても構わない。例えば、電磁誘導加熱を行うために強磁性体の材料で形成された誘導加熱層を少なくとも有するとともに、更に誘導加熱層の上に積重され、耐熱性、耐腐食性や耐熱衝撃性に優れたCr、Si、Al、Ni、W、B、Au、Rd、Pd、Ptのうち、少なくとも一種類の金属元素が含有している耐熱層とを備えるものであっても構わない。これにより、導電性皮膜層の全体で、多孔質体との接着性、加熱性、及び耐熱性等の優れた効果を奏することができる。なお、図1図11において、図示を簡略化するため、導電性皮膜層4等はそれぞれ単層で示している。
【0073】
導電性皮膜層4は、皮膜層厚さが0.1μm~500μm、更に好ましくは0.3μm~200μmであり、より好ましくは0.5μm~50μmであり、特に0.5μm~10μmが好適なものである。導電性皮膜層4の皮膜層厚さを上記範囲内とすることで、ハニカム構造体2との間の熱膨張率の違いによっても、セル表面3aからの剥離やハニカム構造体2の割れを抑えることができる。皮膜層厚さが厚過ぎると上記剥離等の不具合が生じ易く、また必要以上に熱容量が増加し抵抗も下がるため、加熱効率や加熱速度が悪化する場合がある、一方、皮膜層厚さが薄すぎると電磁誘導加熱方式による加熱効率が著しく低下する問題が生じる。そのため、導電性皮膜層4の皮膜層厚さは、上記範囲内である必要がある。
【0074】
なお、上述した多層構造の導電性孔部皮膜層7は、皮膜層厚さが0.1μm~10μm、更に好ましくは0.1μm~5μmであり、より好ましくは0.3μm~3μmであり、特に0.5μm~1μmが好適なものである。導電性孔部皮膜層7の皮膜層厚さを上記範囲内とすることで、ハニカム構造体2との間の熱膨張率の違いによっても、セル表面3aからの剥離やハニカム構造体2の割れを抑えることができる。また、皮膜層厚さが厚過ぎると多孔質の特性に不具合が生じ、一方、皮膜層厚さが薄すぎると電磁誘導加熱方式による加熱効率が著しく低下する問題が生じる。そのため、導電性孔部皮膜層7の皮膜層厚さは、上記範囲内である必要がある。
【0075】
2.流体加熱部品の製造方法
次に、流体加熱部品1(または流体加熱部品1a)の製造方法の一例について説明する。流体加熱部品1等は、多孔質体のハニカム構造体2のセル3のセル表面3aに、既に説明しためっき法やCVD法等を用いて導電性皮膜層4を形成するものである。そこで、図8に示すように、ハニカム構造体2の一方の端面5aから他方の端面5bに向かって、ハニカム構造体2の内部に導電性皮膜層4の原料となる気体や液体等の原料流体Gを流通させ、セル表面3aと原料流体Gとを接触させる(原料流体流通工程)。この状態で、上記めっき法やCVD法等によりセル表面3aに皮膜を形成し、導電性皮膜層4を設けることができる。
【0076】
更に、隔壁6の内部の孔部に導電性孔部皮膜層7を設ける場合は、予めハニカム構造体2の一方の端面5aに開口したセル3に対し、所定の配設基準に従って目封止部8を設け、かつ他方の端面5bの残余のセル3に対しても同様に複数の目封止部8を設ける(目封止工程、図9参照)。
【0077】
この状態で、上記図8と同様に、原料流体Gをハニカム構造体2の内部に流すことにより、セル3の一部が目封止部8によって封鎖されているため、原料流体Gは多孔質の隔壁6を通って隣接するセル3に流れ、他方の端面5bから排出される。これにより、隔壁6を通過する原料流体Gによって、隔壁6の孔部に導電性孔部皮膜層7を形成することができる。なお、目封止部8の形成方法、及びメッキ法及びCVD法等の、導電性皮膜層4及び導電性孔部皮膜層7の形成方法自体は周知のものであるためここでは詳細は省略する。
【0078】
ハニカム構造体2に目封止部8を設けない場合は、ハニカム構造体2の一方の端面5a及び他方の端面5bを、それぞれ周知の目封止治具(図示しない)で被覆し、原料流体Gをハニカム構造体の多孔質の隔壁6内を通って隣接するセル3に流すこともできる。その後、導電性皮膜層4等の形成後に目封止治具を一方の端面5a等から除去することで、目封止部を形成することなく、導電性孔部皮膜層7を得ることができる。
【0079】
導電性皮膜層4及び導電性孔部皮膜層7(以下、「導電性皮膜層4等」と称す。)は、ハニカム構造体2のセル3のセル表面3aまたは隔壁6の孔部に対し、例えば、めっき法、真空蒸着法、メタライジング法、CVD法(化学気相蒸着法)法等の周知の方法により形成することが可能である。皮膜層厚さを均一にし、欠陥のない導電性皮膜層4等を形成するために、めっき法或いはCVD法を採用するものが好ましい。これらの方法は、既に周知のものであり、かつ、低コストで形成が可能な点で実施できるメリットも備えている。
【0080】
また、原料流体Gが通る場所を制限し、例えばハニカム構造体の中央部にのみ原料流体Gを通すことで、上述した導電性皮膜層4等を中央部にのみ形成することもできる。原料流体Gが通る場所をパターン化したり、何段階かに分けて導電性皮膜層4等を形成することで、厚さが異なる導電性皮膜4等を任意の位置に形成することができる。(図4A,B,C、及び図5A,B,C等参照)。
【0081】
ハニカム構造体の隔壁の表面の少なくとも一部に、通気性を有する表面層を形成する場合、当該表面層は、隔壁の少なくとも片面を覆うことが好ましい。表面層を形成する方法として、主には、以下3つの方法がある。
【0082】
・表面層形成粒子と、金属又はガラスを主成分とする結合材とを含むスラリーをハニカム構造体のセル内に流し込み塗膜を形成し、当該塗膜を金属の融点、又は、ガラスの軟化点以上の温度で加熱して表面層を形成する方法。
【0083】
・表面層形成粒子と、シリカ又はアルミナを主成分とする接着材料と、を含むスラリーをハニカム構造体のセル内に流し込み塗膜を形成し、当該塗膜を加熱してシリカ又はアルミナを固化して表面層を形成する方法。
【0084】
・表面層形成粒子と、上記結合材又は上記接着材料とを含むガスをハニカム構造体のセル内に流し込む、あるいは表面層形成粒子だけを含むガスをハニカム構造体のセル内に流し込み塗膜を形成し、当該塗膜を加熱して表面層を形成する方法がある。
【0085】
スラリーをハニカム構造体のセル内に流し込むには、例えば、スラリーをハニカム構造体のセル内に流通させる、又はスラリーをハニカム構造体のセル内に浸漬すればよい。ここで、金属又はガラスを主成分とする結合材を使用する場合は、製造時にハニカム基材の耐熱温度以下で一度溶融又は軟化させる必要があるので、結合材の融点又は軟化点の温度以上で塗膜を加熱することが好ましい。
【0086】
また、ハニカム構造体の使用環境においては、最高温度が約700℃に到達するため、この温度以上の融点又は軟化点を有する金属又はガラスを用いることがより好ましい。具体的な融点又は軟化点としては、例えば、800~1200℃である。
【0087】
一方、シリカ又はアルミナを主成分とする接着材料を用いる場合は、製造時に加熱乾燥によって接着材料が固化することができるものであることが好ましい。加熱乾燥によって上記接着材料が固化することができるものとしては、例えば、シリカまたはアルミナのコロイド分散体が挙げられ、シリカおよびアルミナを含むコロイド分散体であってもよい。
【0088】
また、ハニカム構造体の使用環境における最高温度が約700℃に到達するため、この温度以上の耐熱温度を有するシリカ又はアルミナを用いることがより好ましい。スラリーをハニカム構造体のセル内に流し込んだ後、ハニカム構造体下流に吸引治具を取り付け、ハニカム構造体下流である他方の開口端部側より吸引し余剰水分を取り除き、塗膜を形成する。この塗膜を加熱処理する条件としては、温度800~1200℃、0.5~3時間で加熱することが好ましい。
【0089】
アルミナやシリカを主成分とする接着材料を用いる場合においては、スラリーをセル内に流し込む工程はハニカム成形体の乾燥の段階で行っても良い。この場合は、スラリーをセル内に流し込んだ後、その表面層形成前のハニカム構造体を乾燥した後、ハニカム構造体の焼成工程において、表面層形成粒子が接着材料に固定し表面層を形成する工程が同時に行われる。
【0090】
シリカ又はアルミナは、乾燥により固化する効果を発現することが好ましい。また、上記金属やガラスを主成分とする結合材を添加する以外に、表面層形成粒子に予め金属又はガラスを主成分とする結合材をコートさせておいてもよい。また、表面層形成粒子と結合材を含む複合粒子を形成する工程を設けてもよい。
【0091】
スラリーは、例えば、表面層形成粒子と、上記接着材料又は上記結合材と、有機バインダと、水又はアルコールと、を混合することで得ることができる。さらに、スラリーに対して、更に、油脂と、界面活性剤と、を加えて、混合し、エマルジョン化してもよい。また、スラリーには表面層の気孔率を制御するための造孔剤を混ぜておいても良い。造孔剤としては、例えば、粒子径0.5μm~10μmの樹脂粒子、デンプン粒子、カーボン粒子等を用いることができる。
【0092】
表面層形成粒子と、及び上記結合材又は上記接着材料とを含むガスをハニカム構造体のセル内に流し込む方法として、例えば表面層形成粒子を含むガスを0.005~0.4リットル/cm2でセル中に吹き込むことによって、浮遊状態の表面層形成粒子を隔壁の表面に堆積させる。その後、例えば800~1200℃で0.5~3時間の条件で熱処理することにより、表面層形成粒子を隔壁の表面に融着させて固定し、表面層を形成する。
【0093】
また、表面層形成粒子だけを含むガスをハニカム構造体のセル内に流し込む場合は、例えば表面層形成粒子を含むガスを0.005~0.4リットル/cm2でセル中に吹き込むことによって、浮遊状態の表面層形成粒子を隔壁の表面に堆積させその後、1280~1330℃で0.5~3時間の条件で熱処理することにより、表面層形成粒子を隔壁の表面に融着させて固定し、表面層を形成する。
【0094】
結合材および接着材料を用いずに表面層形成粒子のみをセル内に流し込む方法を含め、上述のスラリー又はガスをハニカム構造体のセル内に流し込む方法において、有機バインダをスラリー又はガスに混合させてもよい。有機バインダを加えることによって、加熱によって表面層を形成する工程よりも前の段階で、塗膜を仮固定することができる。
【0095】
有機バインダとしては、加熱により表面層を形成する工程の温度以下、すなわち800℃以下の酸化雰囲気で酸化除去されてしまう材料が好ましい。また、ハニカム構造体を製造する際の造孔剤として用いられるバインダと同様のバインダを用いることが好ましい。
【0096】
3.流体加熱部品複合体
上記のように構成された本発明の流加熱部品を複数組み合わせることで一体的に構築された流体加熱部品複合体30a,30bを形成することができる。ここで、図10は流体加熱部品複合体30aの構築前の状態を示す分解斜視図であり、図11図10の流体加熱部品複合体30aの構築後の概略構成を示す斜視図であり、図12は別例構成の流体加熱部品複合体30bの構築前の状態を示す分解斜視図であり、図13図12の流体加熱部品複合体30bの構築後の概略構成を示す斜視図である。
【0097】
流体加熱部品複合体30aは、図10及び図11に示すように、角柱状のハニカム構造体31と、ハニカム構造体31のセル32のセル表面32aに沿って形成された導電性皮膜層33とを具備する複数の流体加熱部品34を組み合わせて構成されたものである。
【0098】
すなわち、同じ形状の9つの流体加熱部品34が使用され、互いのハニカム構造体31の側周面を相対させるようにして、縦3つ×横3つに組み合わせたものである。なお、流体加熱部品34の接合は、セラミックス材料同士を接合する際の周知の接着剤等を用いるため、ここでは詳細な説明は省略する。これにより、大型自動車や工作機械等の加熱システムに用いることのできる流体加熱部品複合体が形成される。この場合であっても、流体Fの流通方向に直交する切断面において、導電性皮膜層33がそれぞれ電気的に接続されている。
【0099】
更に、図12及び図13に示す別例構成の流体加熱部品複合体30bを構成するものであっても構わない。別例構成の流体加熱部品複合体30bは、5つの角柱状の流体加熱部品34と、導電性皮膜層及び導電性孔部皮膜層を有しない4つの角柱状のハニカム構造体35とを交互に配し、縦3つ×横3つに組み合わせたものである。この場合でも電磁誘導加熱方式によって流体Fを効率的に加熱することができる。なお、図10及び図11において示した流体加熱部品複合体30aと同一の構成については、同一番号を付し、説明を省略する。
【実施例
【0100】
(1)ハニカム構造体
SiCもしくはコージェライトを主成分とするハニカム構造体の製造を行った。始めに、所定の粒度、調合量に調整したSiC粉末もしくはコージェライト化原料、バインダ、水などを混練した成形用原料を、所望の形状に押出成形し、乾燥させてハニカム成形体を得た後、適宜加工を加えて、高温で焼成を行い、基材がSiCもしくはコージェライトのハニカム構造体を得た。ここで、ハニカム構造体は、SiCについてはハニカム径が43mm、軸方向のハニカム長さが23mmのサイズのものを、コージェライトについてはハニカム径が82mm、軸方向のハニカム長さが85mmのサイズのものを用いた。ハニカム構造体の製造方法は周知であるため、詳細な説明は省略する。成形用原料の配合比等を変更することにより、実施例1,2、及び比較例2,3ではハニカム構造体の気孔率が35%となるように調整した。一方、実施例3及び比較例1では、ハニカム構造体の気孔率が2%以下となるようにSi含浸焼成を行った。また、実施例4~6、比較例4~7では、ハニカム構造体の気孔率が45%となるように調整した。
【0101】
(2)流体加熱部品の製造(導電性皮膜層の形成)
上記(1)によって得られたSiCハニカム構造体のセルのセル表面に対し、導電性皮膜層を形成した。ここで、実施例1は、導電性皮膜層としてNi-Pめっきを施したものであり、実施例2,3はNi-Bめっきを施したものである。形成された導電性皮膜層は、いずれも流体の流通方向に直交する流路(セル)の切断面において、電気的に接続された状態で、流路の切断面のセルのセル表面を被設しているものである。なお、実施例1~3における導電性皮膜層の皮膜層厚さは、いずれもセル表面にておよそ2μmとなるように調整した。なお、めっきの詳細は周知のものであるため、ここでは説明を省略する。一方、比較例1,2は導電性皮膜層の形成は行っていない。また、比較例3は、流体の流通方向に流路(セル)に対し断続的に導電性の皮膜層を形成したものであり、流体の流通方向に直交する流路(セル)の切断面において、電気的に接続されていない状態で、流路の切断面のセルのセル表面を被設しているものである。
【0102】
実施例4~6については、コージェライトハニカム構造体を用いた。このコージェライトハニカム構造体は、ハニカム構造体のセル表面に対し、通気性を有する表面層を形成し、その上に導電性被膜層を被膜する多層構造を形成した。ここで、表面層は、表面層形成粒子としてのシリカ、アルミナ、マグネシア等の酸化物粒子と、結合剤(ガラス)とを含むスラリーを塗膜乾燥し、所定の熱処理を実施して、形成した。表面層の厚さは、いずれもセル表面にておよそ30μmとなるように調整した。表面層形成粒子として、実施例4ではシリカ、実施例5ではアルミナ、実施例6ではマグネシアを用いた。
【0103】
さらに、表面層を形成した後に、以下のようにして導電性被膜層43を形成した。ハニカム構造体40の流体の流通方向Aに直交する流路(セル45)の切断面46において(図17参照)、一のセル45を基準とし、前後及び左右にそれぞれ一つずつ間隔をあけたセル45に対してめっき液を流し、導電性被膜層43の被設処理を行った。これにより、めっき液を流した市松模様(チェッカーボードパターン)に配置されたセル45のセル表面(図示しない)にのみ、表面層の上に導電性皮膜層43としてNiBめっきが形成された。ここで、導電性皮膜層43の被膜厚さは、1~2μmであり、かつ、電気的に接続された状態で被設される。
【0104】
一方、比較例4,5では、導電性皮膜層の形成は行っていない以外は、実施例4~6と同様に表面層を形成したコージェライトハニカム構造体を作成した。また、比較例6、7は、実施例4~6と同様に表面層を形成したコージェライトハニカム構造体を作成し、以下のようにして導電性皮膜層を形成した。図17と同様の配置で、流体の流通方向に流路(セル)に対し断続的に導電性被膜を形成した。この比較例6、7の導電性被膜は、流体の流通方向に直交する流路(セル)の切断面において、電気的に接続されていない状態で、流路の切断面のセルのセル表面を被設しているものである。
【0105】
(3)誘導加熱試験
図14に示す概略構成を示す誘導加熱試験装置100を用い、流体加熱部品としてのハニカム構造体の誘導加熱試験を実施した。ここで、誘導加熱試験装置100は、高周波を発生させる高周波電源装置101と、フィーダーダクト102を通して高周波電源装置101と電気的に接続されたフレキフィーダー103と、フレキフィーダー103の一端と接続された加熱コイル104と、加熱コイル104の周囲に配されたケーシング105と、加熱コイル104の内部に収容されたハニカム構造体106(流体加熱部品)の上方に配置され、加熱コイル104による誘導加熱時におけるハニカム構造体106の温度(一方の端面106aの温度)を非接触で測定するサーモカメラ107とを具備している。ここで、サーモカメラ107は、熱画像カメラとも呼ばれ、例えば、CHINO製のCPA-2300等を使用することができる。
【0106】
誘導加熱試験は、始めに誘導加熱試験装置100の加熱コイル104の内部の空間に試験対象のハニカム構造体106を配置した状態で、高周波電源装置101から高周波電流を発生させ、フィーダーダクト102及びフレキフィーダー103を介して高周波電源装置101と接続された加熱コイル104に高周波電流を流す。これにより、加熱コイル104において高周波磁束が発生する。発生した高周波磁束の中に設置されたハニカム構造体106は電流を誘導し、加熱される。本実施例では、高周波電源装置101は、最大出力40kW、周波数30~400kHzであり、出力制御の範囲を10%~100%の範囲で調整した。なお、加熱コイル104は、銅製パイプを用いたコイルの内径IDがφ80mmあるいはφ100mmであり、コイル長さLが200mmの円形コイルを用いて構成されている。なお、加熱コイル104の銅製パイプのパイプ内部には、冷却水を流している。なお、加熱コイル104の内部への冷却水の供給の詳細はここでは説明を省略する。
【0107】
(4)温度の測定方法
上記の誘導加熱試験装置100を用いた誘導加熱試験の際に、加熱コイル104の上方に設置されたサーモカメラ107によってハニカム構造体106の一方の端面106aの温度を平面的に測定し、測定された一方の端面106aにおける最も低い(中央位置の)温度を測定温度とした。
【0108】
(5)実験条件1
上記(1)によって得られたSiCハニカム構造体に対し、高周波電源装置101における周波数を約30kHzに固定し、高周波電流の出力を10%~100%の間で任意の出力値に設定した後、上記(4)に示した手法でサーモカメラ107によって加熱速度を測定した。ここで、加熱コイル104に高周波電流を出力した際の誘導加熱出力(kW)は、高周波電源装置101に搭載されている電圧計、及び電流計(図示しない)の数値から算出した。更に、高周波電流の出力を開始してから、ハニカム構造体106の測定温度が300℃に到達するまでの到達時間を測定し、これを“経過時間”とした。なお、300℃に達するまでの時間が60s以上の場合や、昇温が途中で止まる場合には、その時点における到達温度及び経過時間を記録した。
【0109】
(6)実験条件2
上記(1)によって得られたコージェライトハニカム構造体に対し、高周波電源装置101における誘導加熱出力(kW)を約4kWとなる様に高周波電流の出力を10%~100%の間で調整し、かつ周波数を30、80、360kHzの3種類の条件に変更して、上記(4)に示した手法でサーモカメラ107によって加熱速度を測定した。加熱速度については、実験条件1と同様に、周波電流の出力を開始してから、ハニカム構造体106の測定温度が300℃に到達するまでの到達時間を測定し、これを“経過時間”とした。なお、300℃に達するまでの時間が60s以上の場合や、昇温が途中で止まる場合には、その時点における到達温度及び経過時間を記録した。上記(3)~(6)の試験結果をまとめたものを下記表1、2に示す。
【0110】
【表1】
【0111】
【表2】
【0112】
(7)まとめ
実験条件1については、表1に示されるように、本願発明の要件を満たす実施例1~3は、SiCハニカム構造体の誘導加熱試験において、加熱開始からの経過時間がいずれも30s以内で300℃まで到達することができる。特に、実施例3では、9sで300℃まで到達することができる。なお、表1において特に示していないが、誘導加熱試験後の流加熱部品、特にハニカム構造体に割れが生じる等の不具合が発生することがなかった。そのため、排ガス浄化用触媒の加熱システムの一部として使用されることにより、エンジン始動直後から触媒を活性化させることができ、燃費の改善に大きな効果を奏することが期待される。
【0113】
なお、実施例1~3の流加熱部品においては、ハニカム構造体(多孔質体)のセル表面に形成される導電性皮膜層の金属種類(Ni-P、またはNi-B)によって特に大きな有意性は認められず、本願発明の規定した範囲であれば良好な結果を得ることが確認された。
【0114】
一方、導電性皮膜層を有しない流加熱部品(比較例1,2)の場合、導電性を有するSiCハニカム基材を用いても、誘導加熱試験の加熱開始からの経過時間が60sを経過してようやく300℃まで昇温するものや、或いは300sを経過しても50℃程度に留まることが確認された。また、比較例3の様な断続的な導電性皮膜層の場合、有効な加熱効率を発揮することができず、300sを経過しても100℃程度に留まることが確認された。すなわち、比較例1~3との比較から本願発明における導電性皮膜層の存在が、必須であることが示された。特に、基材(SiC)の気孔率が高い場合、その傾向が特に顕著に示されている。そのため、本願発明の要件を満たさない流加熱部品は、速やかな加熱や昇温ができないことが示された。したがって、燃費改善のための加熱システムに採用することが困難であることが確認された。
【0115】
実験条件2については、コージェライトハニカム基材を用いた誘導加熱試験において、表2に示されるように、電気的に接続された導電性皮膜層を有する実施例4~6は、実験条件1と比べて10倍以上の容積があるにも関わらず、加熱開始からの経過時間がいずれも60s以内で300℃まで到達することが確認された。特に、実施例6では、35sで300℃まで到達することができる。なお、表2において特に示していないが、誘導加熱試験後の流加熱部品、特にハニカム構造体に割れが生じる等の不具合が発生することがなかった。そのため、排ガス浄化用触媒の加熱システムの一部として使用されることにより、エンジン始動直後から触媒を活性化させることができ、燃費の改善に大きな効果を奏することが期待される。
【0116】
一方、導電性皮膜層を有さない流加熱部品(比較例4、5)の場合、誘導加熱試験の加熱開始からの経過時間が300sを経過して温度変化は見られなかった。また、比較例6,7の様な断続的な導電性皮膜層の場合、有効な加熱効率を発揮することができず、300sを経過しても250℃以下に留まることが確認された。なお、実施例4~6の流加熱部品においては、誘導加熱条件の周波数によって加熱速度が変化しており、周波数が高いほど加熱速度が大きくなり、効率的に加熱できる結果が明らかであるが、比較例4~6においては、周波数を上げても、300℃に到達できなかった。すなわち、導電性皮膜層の存在が誘導加熱に有効であることが確認された。また、連続的な導電性被膜層が存在することで、誘導加熱装置の周波数を下げることが可能であると確認された。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明の流体加熱部品、流体加熱部品の製造方法、及び流体加熱部品複合体は、自動車の燃費改善のための排ガス浄化用触媒を加熱するための加熱システム等に使用することができる。
【符号の説明】
【0118】
1,1a,34:流体加熱部品、2,31、35、40,106:ハニカム構造体、3,11,32,45:セル、3a,11a,11b,32a:セル表面(流路表面)、4,12a,12b,33,43:導電性皮膜層、5a、106a:一方の端面、5b:他方の端面、6,13,41:隔壁、7,14:導電性孔部皮膜層、8,44:目封止部、10a,10b:不適合な流体加熱部品、30a,30b:流体加熱部品複合体、41a:隔壁表面、42:表面層、100:誘導加熱試験装置、101:高周波電源装置、102:フィーダーダクト、103:フレキフィーダー、104:加熱コイル、105:ケーシング、107:サーモカメラ、A:軸方向、F:流体、G:原料流体、ID:コイルの内径、L:コイル長さ。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17