(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-06
(45)【発行日】2022-10-17
(54)【発明の名称】温水暖房システム
(51)【国際特許分類】
F24D 3/00 20220101AFI20221007BHJP
【FI】
F24D3/00 J
(21)【出願番号】P 2019031947
(22)【出願日】2019-02-25
【審査請求日】2021-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000115854
【氏名又は名称】リンナイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大島 克也
【審査官】岩▲崎▼ 則昌
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-52812(JP,A)
【文献】特開2006-329529(JP,A)
【文献】特開2016-109407(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24D 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱源機と、暖房放熱器と、該熱源機と該暖房放熱器との間で温水を循環させる温水循環路とを備え、前記熱源機で目標温水温度になるように加熱された温水を、該熱源機から前記温水循環路を介して前記暖房放熱器に供給し、さらに、該暖房放熱器で放熱した該温水を該暖房放熱器から該温水循環路を介して該熱源機に還流させるように構成された温水暖房システムであって、
外気温度と前記暖房放熱器が配置された室内の温度との温度差である第1温度差と、該室内から外気への放熱量との関係を規定する第1放熱係数を推定する処理を実行可能であると共に、前記室内の温度と前記暖房放熱器での前記温水の温度との温度差である第2温度差と、該暖房放熱器での温水の放熱量との関係を規定する第2放熱係数を推定する処理を実行可能な放熱係数推定処理部と、
前記目標温水温度を可変的に設定可能な目標温水温度設定部と、
前記第1放熱係数及び前記第2放熱係数の推定処理の実行を前記放熱係数推定処理部に指令する指令信号を所定の操作に応じて前記放熱係数推定処理部に出力する推定指令出力部とを備えており、
前記放熱係数推定処理部は、前記推定指令出力部から前記指令信号が入力されたとき、前記第1放熱係数及び前記第2放熱係数にそれぞれ関連する複数のパラメータであって、前記外気温度を含む当該複数のパラメータの検出値又は推定値を取得し、当該複数のパラメータの検出値又は推定値と、前記推定指令出力部に対する前記所定の操作の実行時の前記室内の温度の値としてあらかじめ設定された温度である設定室温とを用いて前記第1放熱係数及び前記第2放熱係数を推定するように構成され、
前記目標温水温度設定部は、前記放熱係数推定処理部による前記第1放熱係数及び前記第2放熱係数の推定後、前記外気温度の検出値又は推定値が、前記放熱係数推定処理部への前記指令信号の入力時の値と異なる値に変化したとき、その後、前記第1放熱係数及び前記第2放熱係数のそれぞれの推定値と、前記外気温度の検出値又は推定値と、前記設定室温とを用いて、前記室内の温度を前記設定室温に保つために必要な前記目標温水温度を設定するように構成されていることを特徴とする温水暖房システム。
【請求項2】
請求項1記載の温水暖房システムにおいて、
前記複数のパラメータは、前記外気温度の他、前記熱源機から前記暖房放熱器に供給される温水の温度と、前記暖房放熱器から前記熱源機に還流する温水の温度と、前記温水循環路での温水の流量とを含むことを特徴とする温水暖房システム。
【請求項3】
請求項1又は2記載の温水暖房システムにおいて、
前記設定室温を所定の操作に応じて前記放熱係数推定処理部に対して可変的に設定する設定室温変更操作部をさらに備えることを特徴とする温水暖房システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温水暖房システムに関する。
【背景技術】
【0002】
熱源機で加熱した温水を熱源機と暖房放熱器との間で循環させる温水暖房システムでは、従来、例えば特許文献1に見られる技術が知られている。この技術では、住宅放熱係数と必要暖房出力とから、目標温水往き温度(熱源機から暖房放熱器に供給する温水の温度の目標値)を求めるためのマップ(マトリクス図)をあらかじめ作成しておき、実際の暖房運転時に、温水の温度が安定した状態での該温水の温度や流量の検出値を用いて住宅放熱係数が推定される。さらに、設定室温と外気温度の検出値との差と住宅放熱係数の推定値とから必要暖房出力が求められる。そして、これらの住宅放熱係数及び必要暖房出力の値から上記マップに基づいて決定した目標温水往き温度が求められ、この目標温水往き温度を実現するように熱源機を作動(温水の加熱制御)が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1に見られる技術では、上記マップの作成に多大な工数がかかりやすく、個々の暖房放熱器毎の放熱特性のばらつき等の影響を反映させて上記マップを作成することは困難である。このため、該マップにより求められる目標温水往き温度を実現するように熱源機を作動させても、個々の暖房放熱器毎の放熱特性のばらつき等の影響で、暖房出力の過不足が生じやすく、ひいては、実際の室温が設定室温からずれた温度になることが生じやすい。
【0005】
ここで、前記特許文献1に見られる技術では、上記の如くマップにより求めた目標温水往き温度を実現するように熱源機で温水を加熱した状態で、温水の温度や流量の検出値から実際の暖房出力を算出し、この暖房出力と、住宅放熱係数を用いて算出した必要暖房出力とが異なる場合に、その大小関係に応じて目標温水往き温度を増加補正又は減少補正するようにしている。
【0006】
しかしながら、かかる技術では、実際の暖房出力が、実際の室温を設定室温にするために必要な暖房出力になるまでに時間がかかり、ひいては、室温の安定性が損なわれてしまう。
【0007】
本発明はかかる背景に鑑みてなされたものであり、暖房放熱器が配置された室内の温度が適切な温度になるように暖房運転を行うことを安定的に実現することができる温水暖房システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の温水暖房システムは、上記の目的を達成するために、熱源機と、暖房放熱器と、該熱源機と該暖房放熱器との間で温水を循環させる温水循環路とを備え、前記熱源機で目標温水温度になるように加熱された温水を、該熱源機から前記温水循環路を介して前記暖房放熱器に供給し、さらに、該暖房放熱器で放熱した該温水を該暖房放熱器から該温水循環路を介して該熱源機に還流させるように構成された温水暖房システムであって、
外気温度と前記暖房放熱器が配置された室内の温度との温度差である第1温度差と、該室内から外気への放熱量との関係を規定する第1放熱係数を推定する処理を実行可能であると共に、前記室内の温度と前記暖房放熱器での前記温水の温度との温度差である第2温度差と、該暖房放熱器での温水の放熱量との関係を規定する第2放熱係数を推定する処理を実行可能な放熱係数推定処理部と、
前記目標温水温度を可変的に設定可能な目標温水温度設定部と、
前記第1放熱係数及び前記第2放熱係数の推定処理の実行を前記放熱係数推定処理部に指令する指令信号を所定の操作に応じて前記放熱係数推定処理部に出力する推定指令出力部とを備えており、
前記放熱係数推定処理部は、前記推定指令出力部から前記指令信号が入力されたとき、前記第1放熱係数及び前記第2放熱係数にそれぞれ関連する複数のパラメータであって、前記外気温度を含む当該複数のパラメータの検出値又は推定値を取得し、当該複数のパラメータの検出値又は推定値と、前記推定指令出力部に対する前記所定の操作の実行時の前記室内の温度の値としてあらかじめ設定された温度である設定室温とを用いて前記第1放熱係数及び前記第2放熱係数を推定するように構成され、
前記目標温水温度設定部は、前記放熱係数推定処理部による前記第1放熱係数及び前記第2放熱係数の推定後、前記外気温度の検出値又は推定値が、前記放熱係数推定処理部への前記指令信号の入力時の値と異なる値に変化したとき、その後、前記第1放熱係数及び前記第2放熱係数のそれぞれの推定値と、前記外気温度の検出値又は推定値と、前記設定室温とを用いて、前記室内の温度を前記設定室温に保つために必要な前記目標温水温度を設定するように構成されていることを特徴とする(第1発明)。
【0009】
なお、本発明において、外気温度等の前記パラメータの検出値は、適宜のセンサもしくは検出器により検出された該パラメータの値を意味し、前記パラメータの推定値は、該パラメータと一定の相関関係を有する他の1つ以上のパラメータの検出値から、該相関関係に基づいて推定してなる値、あるいは、該パラメータの実際の値に一致もしくはほぼ一致するとみなし得る疑似的な推定値を意味する。疑似的な推定値としては、目標値又は指令値を使用することもできる。
【0010】
上記第1発明によれば、外気温度と暖房放熱器が配置された室内の温度との温度差である第1温度差と該室内から外気への放熱量との関係を規定する第1放熱係数と、室内の温度と暖房放熱器での温水の温度との温度差である第2温度差と該暖房放熱器での温水の放熱量との関係を規定する第2放熱係数とが、前記複数のパラメータの検出値又は推定値と、前記推定指令出力部に対する所定の操作の実行時の室内の温度の値としてあらかじめ設定された温度である設定室温とを用いて推定される。
【0011】
そして、第1放熱係数及び前記第2放熱係数の推定後に、外気温度の検出値又は推定値が、放熱係数推定処理部への前記指令信号の入力時の値と異なる値に変化したときには、その後、前記第1放熱係数及び前記第2放熱係数のそれぞれの推定値と、前記外気温度の検出値又は推定値と、前記設定室温とを用いて、前記室内の温度を前記設定室温に保つために必要な前記目標温水温度を設定する。
【0012】
この場合、放熱係数推定処理部で推定した第1放熱係数及び第2放熱係数を用いて目標温水温度を設定することで、室内の温度を設定室温に保つために必要な目標温水温度を、温水暖房システムが設置された住戸の放熱特性や、暖房放熱器の放熱特性等を反映させて適切に設定することができる。このため、該目標温水温度を実現するように熱源機から暖房放熱器に供給する温水の温度を制御することで、室内の温度を設定室温に保つ上で過不足の少ない熱エネルギーを暖房放熱器に安定的に供給することが可能となる。
【0013】
よって、第1発明によれば、暖房放熱器が配置された室内の温度が適切な温度になるように暖房運転を行うことを安定的に実現することが可能となる。
【0014】
上記第1発明では、前記複数のパラメータは、前記外気温度の他、前記熱源機から前記暖房放熱器に供給される温水の温度と、前記暖房放熱器から前記熱源機に還流する温水の温度と、前記温水循環路での温水の流量とを含むことが好ましい(第2発明)。
【0015】
これによれば、前記第1放熱係数及び第2放熱係数を、前記複数のパラメータを用いて適切に推定することができる。
【0016】
上記第1発明又は第2発明では、前記設定室温を所定の操作に応じて前記放熱係数推定処理部に対して可変的に設定する設定室温変更操作部をさらに備えることが好ましい(第3発明)。
【0017】
これによれば、温水暖房システムのユーザにとって好適な室温を設定室温として設定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態の温水暖房システムの全体構成を示す図。
【
図2】
図1に示す制御装置の処理を示すフローチャート。
【
図3】
図2のSTEP2の処理を示すフローチャート。
【
図4】
図2のSTEP5の処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態を
図1~
図4を参照して以下に説明する。
図1を参照して、本実施形態の温水暖房システム1は、屋外に設置される熱源機2と、室内に設置される暖房放熱器50と、これらの熱源機2及び暖房放熱器50の間で温水を循環させる温水循環路11とを備える。
【0020】
熱源機2は、本実施形態では、その筐体2a内に、燃焼式の加熱装置3を備える。該加熱装置3は、加熱部としてのバーナ4と、該バーナ4の燃焼熱により加熱される熱交換器5とが内部(燃焼室)に収容された燃焼筐6と、バーナ4に燃料ガスを供給する燃料供給路7と、バーナ4に燃焼用空気を供給する電動式の燃焼ファン8とを備える。
【0021】
燃焼筐6には、バーナ4の燃焼運転により生成される燃焼排ガスを、内部から熱源機2の筐体2aの外部に導出する排気通路6aが接続されている。燃焼ファン8は、その回転作動により、筐体2aの外部から燃焼用空気(大気)を吸引し、その吸引した燃焼用空気をバーナ4に供給し得るように燃焼筐6に取付けられている。
【0022】
燃料供給路7には、図示しない燃料供給源の配管から、燃料ガスが供給される。そして、燃料供給路7には、これを開閉する電磁弁7aと、バーナ4への燃料ガスの供給量を調整する燃料調整弁7bとが介装されている。燃料調整弁7bは例えば比例弁、あるいは、電動式の流量制御弁等により構成され得る。
【0023】
上記構成の加熱装置3では、燃焼ファン8を作動させつつ、図示しない点火装置を作動させると共に、電磁弁7aを開弁制御することで、バーナ4が点火され、該バーナ4の燃焼運転が開始する。そして、バーナ4の燃焼運転時には、燃料調整弁7bを制御することで、バーナ4への燃料供給量が調整され、ひいては、バーナ4の火力が調整される。また、電磁弁7aを閉弁制御することで、バーナ4への燃料供給が遮断され、該バーナ4が消火される。
【0024】
熱交換器5は、バーナ4の燃焼運転により加熱される温水を暖房放熱器50との間で循環させ得るように、温水循環路11を介して暖房放熱器50に接続されている。より詳しくは、温水循環路11は、熱交換器5から暖房放熱器50に温水を供給する往路側温水路11aと、該暖房放熱器50から熱交換器5に温水を戻す復路側温水路11bとから構成される。
【0025】
そして、往路側温水路11aの上流端と復路側温水路11bの下流端とが、熱交換器5の内部の通水路5aの出口と入口とに各々接続され、熱源機2の筐体2a内から外部に延設された往路側温水路11aの下流端と復路側温水路11bの上流端とが、暖房放熱器50の温水の流入口と流出口とに各々接続されている。暖房放熱器40としては、例えば床暖房装置、ファンコンベクタ等が挙げられる。なお、暖房放熱器50の流入口側又は流出口側には、サーモバルブが備えられていてもよい。
【0026】
温水循環路11の往路側温水路11a及び復路側温水路11bの一方、例えば熱源機2の筐体2a内の復路側温水路11bには、循環ポンプ12が介装されており、この循環ポンプ12の作動により温水循環路11での温水の循環が行われる。
【0027】
熱源機2には、種々のセンサが搭載されている。具体的には、熱源機2の筐体2a内の往路側温水路11aには、熱源機2から暖房放熱器50側に供給される温水の温度(以降、往路側温水温度という)を検出する往路側温度センサ13aが取り付けられ、熱源機2の筐体2a内の復路側温水路11bには、暖房放熱器50側から熱源機2に還流する温水の温度(以降、復路側温水温度という)を検出する復路側温度センサ13bが取り付けられている。
【0028】
また、往路側温水路11a及び復路側温水路11bの一方、例えば熱源機2の筐体2a内の復路側温水路11bには、温水循環路11を循環する温水の流量(以降、温水流量という)を検出する流量センサ14が取り付けられている。また、熱源機2の筐体2a内には、外気温度を検出する温度センサ15が取り付けられている。なお、該温度センサ15は、筐体2aの外部に配置されていてもよい。
【0029】
熱源機2の筐体2a内には、さらに、熱源機2の作動制御を行う機能を有する制御装置20が搭載されている。該制御装置20は、例えばマイクロコンピュータ、メモリ、インターフェース回路等を含む電子回路ユニットにより構成され、熱源機2に備えられた各センサ(上記の各センサ13a,13b,14,15を含む)の検出信号が入力される。また、制御装置20は、温水暖房システム1の運転操作用のリモコン30と有線又は無線による通信を行うことが可能である。
【0030】
そして、制御装置20は、実装されたハードウェア構成及びプログラム(ソフトウェア構成)の一方又は両方により実現される機能として、加熱装置3及び循環ポンプ12の作動制御を行う機能を有する他、後述する第1放熱係数R及び第2放熱係数Pを推定する処理を実行する放熱係数推定処理部21としての機能と、熱源機2から暖房放熱器50に供給する温水の温度(往路側温水温度)の目標値である目標温水温度を設定する目標温水温度設定部22としての機能とを含む。なお、加熱装置3の作動制御(バーナ4の燃焼運転の制御)は、前記電磁弁7a、燃料調整弁7b、燃焼ファン8、及び図示しない点火装置の作動制御を通じて行われる。
【0031】
リモコン30は、温水暖房システム1のユーザが屋内で操作可能な端末機であり、種々の情報を表示する表示器31と、操作部32とを備える。この場合、操作部32には、温水暖房システム1の運転開始操作又は運転停止操作を行うための操作スイッチ32a、前記放熱係数推定処理部21による処理の実行を制御装置20に指令するための操作スイッチ32b、目標温水温度の増減を制御装置20に指令するための操作スイッチ32c、ユーザが希望する室温の設定値の増減を制御装置20に指令するための操作スイッチ32d等の複数の操作スイッチが含まれる。そして、リモコン30は、それぞれの操作スイッチ32a~32dの操作に応じて、それぞれに対応する指令の内容を示す指令信号を制御装置20に出力する。
【0032】
かかるリモコン30は、本発明における推定指令出力部としての機能と、設定室温変更操作部としての機能とを併せ持つ。この場合、操作スイッチ32bの操作が、推定指令出力部に係る所定の操作に相当し、操作スイッチ32dの操作が設定室温変更操作部に係る所定の操作に相当する。
【0033】
なお、操作部32の各操作スイッチは、複数の機能を併せもっていてもよい。また、例えば上記操作スイッチ32c,32dは、共用の操作スイッチにより構成されていてもよい。また、操作部32は、例えばタッチパネル形式の操作部であってもよい。さらに、操作部32は、音声入力部を含み得る。
【0034】
次に、本実施形態の温水暖房システム1の作動について説明する。温水暖房システム1の設置後の初回の暖房運転時(もしくは試運転時)、あるいは、リモコン30の操作部32の操作により所定の運転モードが設定された状態での暖房運転時に、制御装置20は、熱源機2の運転制御を行いつつ、
図2のフローチャートのSTEP1、2の処理を実行する。
【0035】
この場合の熱源機2の運転制御においては、制御装置20は、循環ポンプ12を所定の回転数で作動させつつ、加熱装置3のバーナ4の燃焼運転を開始させる。そして、制御装置20は、リモコン30の操作スイッチ32cの操作に応じて目標温水温度を設定し、往路側温度センサ13aにより検出される温水の温度が、設定した目標温水温度に一致もしくはほぼ一致するように、バーナ4の燃焼量を制御する。該バーナ4の燃焼量の制御は、燃料調整弁7b及び燃焼ファン8の作動制御を通じて行われる。
【0036】
このように熱源機2の運転制御を行っている状態で、制御装置20は、放熱係数推定処理部21の処理(以降、放熱係数推定処理ということがある)の実行指令操作である前記操作スイッチ32bの操作(又は該操作に対応する音声入力)がリモコン30でなされたか否かを判断し、この判断結果が肯定的になるまで、熱源機2の上記の運転制御を継続しつつ、待機する(STEP1の判断処理を継続する)。
【0037】
ここで、温水暖房システム1のユーザあるいは施工業者(以下、ユーザ等という)は、熱源機2の運転(暖房運転)が上記の如く行われている状態で、暖房放熱器50が配置された室内の温度(室温)が定常的に、ユーザが適正な温度と体感し得る温度になるように、リモコン30の操作スイッチ32cにより目標温水温度を調整操作する。具体的には、ユーザ等は、室温が適正温度よりも低いと判断される状況では、目標温水温度を増加させるように操作スイッチ32cを操作し、室温が適正温度よりも高いと判断される状況では、目標温水温度を減少させるように操作スイッチ32cを操作する。
【0038】
そして、ユーザ等は、室温が定常的に適正温度になったと判断すると、リモコン30の操作スイッチ32bを操作する(又は該操作に対応する音声入力を行う)。これにより、放熱係数推定処理を実行すべき旨の指令信号が、リモコン30から制御装置20に入力され、ひいては、STEP1の判断結果が肯定的になる。
【0039】
なお、どのようなタイミングで、操作スイッチ32bを操作すべきかの報知情報(視覚的または聴覚的な報知情報)を、リモコン30から出力するようにしてもよい。また、ユーザ等は、室温が定常的に適正な温度になったと判断したときに、例えば室内のユーザ等の周囲温度を適宜の温度計により計測し、その計測値に一致もしくはほぼ一致する温度をユーザが希望する適正温度として制御装置20に記憶保持させるように前記操作スイッチ32dを操作し、その上で、操作スイッチ32bを操作するようにしてもよい。
【0040】
STEP1の判断結果が肯定的になると、制御装置20は、次にSTEP2において、放熱係数推定処理(放熱係数推定処理部21の処理)を実行する。該放熱係数推定処理は、
図3のフローチャートに示す如く実行される。
【0041】
具体的には、制御装置20の放熱係数推定処理部21は、STEP21において、現在の外気温度Tg、往路側温水温度T1、復路側温水温度T2、及び温水流量Mのそれぞれの検出値を、前記温度センサ15,13a,13b及び流量センサ14のそれぞれを介して取得する。なお、外気温度Tg、往路側温水温度T1、復路側温水温度T2、及び温水流量Mのそれぞれの検出値の代わりに、それぞれに関連する他のパラメータの検出値から推定した値をSTEP21で取得してもよい。
【0042】
また、STEP21では、放熱係数推定処理部21は、図示しないメモリから設定室温Tsを読み込む。該設定室温Tsは、ユーザにとって適正な室温として、制御装置20のメモリにあらかじめ記憶保持された温度値であり、デフォルト値(標準値)は例えば20℃に設定されている。ただし、該設定室温Tsは、ユーザ等がリモコン30の操作スイッチ32dを操作することで、デフォルト値から所定の範囲内で所望の温度(例えば、22℃、24℃、18℃等)に変更することも可能である。なお、設定室温Tsを変更するための操作スイッチ32dは、リモコン30の代わりに、例えば、制御装置20に付設されたディップスイッチ等により構成されていてもよい。
【0043】
次いで、STEP22において、放熱係数推定処理部21は、STEP21で取得した往路側温水温度T1、復路側温水温度T2、及び温水流量Mのそれぞれの検出値から、暖房出力Q1を算出する。該暖房出力Q1は、単位時間当たりに、熱源機2から温水を介して暖房放熱器50側に供給された熱量(熱エネルギー)に相当するものであり、T1、T2、Mの値から例えば次式(1)により算出される。
【0044】
Q1[W]=((T1[℃]-T2[℃])×M[リットル/min]×60)÷0.86 ……(1)
なお、式(1)の右辺の0.86は、暖房出力Q1の単位を[kcal/h]から、[W]に変換するための定数である。
【0045】
補足すると、加熱装置3の作動制御において、バーナ4の目標熱量を逐次設定し、この目標熱量を実現するようにバーナ4の燃焼量(単位時間当たりの発熱量)を制御する場合には、例えば、該目標熱量をバーナ4の発熱量の推定値とみなし、該目標熱量に、バーナ4から温水への熱伝達効率の設定値を乗じてなる熱量を、暖房出力Q1として算出してもよい。この場合には、T1、T2、Mの値を必要とせずに、暖房出力Q1を算出することができる。
【0046】
次いで、STEP23において、放熱係数推定処理部21は、STEP22で求めた暖房出力Q1の値と、STEP21で取得した外気温度Tgの検出値及び設定室温Tsの値とから、第1放熱係数Rの推定値を算出する。
【0047】
該第1放熱係数Rは、暖房放熱器50が配置された室内の温度(室温)がほぼ一定に保たれた定常状態において、室温と外気温度との温度差である第1温度差と、該室内から外気への放熱量(単位時間当たりの放熱量)との関係を近似的に規定する比例係数(該放熱量が第1温度差に近似的に比例するとみなした場合の比例係数)である。この第1放熱係数Rは、温水暖房システム1が設置された住戸の構造等に依存するものであり、該住戸に固有のパラメータとみなすことができる。
【0048】
ここで、暖房放熱器50が配置された室内の温度(室温)がほぼ一定に保たれた定常状態では、室内から外気への放熱量は、暖房出力Q1に一致もしくはほぼ一致するとみなすことができる。そこで、STEP23では、放熱係数推定処理部21は、Q1,Tg、Tsの値から、例えば次式(2)により第1放熱係数Rの推定値を算出する。
【0049】
R[W/℃]=Q1[W]÷(Ts[℃]-Tg[℃]) ……(2)
なお、例えば、式(2)の右辺の演算により求められる値の逆数値(=1/R)を第1放熱係数として算出してもよい。また、式(1)、(2)を統合した演算式によりに第1放熱係数Rを算出してもよい。
【0050】
さらに、STEP24において、放熱係数推定処理部21は、STEP22で求めた暖房出力Q1の値と、STEP21で取得した往路側温水温度T1及び復路側温水温度T2のそれぞれの検出値と、設定室温Tsの値とから、第2放熱係数Pを算出(推定)する。
【0051】
該第2放熱係数Pは、暖房放熱器50が配置された室内の温度(室温)がほぼ一定に保たれた定常状態において、暖房放熱器50が配置された室内の温度(室温)と該暖房放熱器50を流通する温水の温度(該温水の平均温度)との温度差である第2温度差と、該暖房放熱器50での温水の放熱量(暖房放熱器50から室内への単位時間当たりの放熱量)との関係を近似的に規定する比例係数(該放熱量が第2温度差に近似的に比例するとみなした場合の比例係数)である。この第2放熱係数Pは、暖房放熱器50の放熱特性等に依存するものであり、該暖房放熱器50に固有のパラメータとみなすことができる。
【0052】
ここで、暖房放熱器50が配置された室内の温度(室温)がほぼ一定に保たれた定常状態では、暖房放熱器50を流通する温水の平均温度THaveは、往路側温水温度T1と復路側温水温度T2との平均値に一致もしくはほぼ一致するとみなすことができる。また、暖房放熱器50から室内への放熱量(単位時間当たりの放熱量)は、暖房出力Q1に一致もしくはほぼ一致するとみなすことができる。
【0053】
そこで、STEP24では、放熱係数推定処理部21は、Q1,T1,T2,Tsの値から、例えば次式(3)により第2放熱係数Pの推定値を算出する。
【0054】
P[W/℃]=Q1[W]÷(THave[℃]-Ts[℃])
=Q1[W]÷(((T1[℃]+T2[℃])/2)-Ts[℃]) ……(3)
なお、例えば、式(3)の右辺の演算により求められる値の逆数値(=1/P)を第2放熱係数として算出してもよい。また、式(1)、(3)を統合した演算式によりに第2放熱係数Pの推定値を算出してもよい。また、STEP24は、STEP23よりも前に実行してもよい。
【0055】
次いで、STEP25において、放熱係数推定処理部21は、STEP21で取得した外気温度Tgの検出値と、STEP23、24でそれぞれ求めた第1放熱係数R及び第2放熱係数Pのそれぞれの推定値とを図示しないメモリに記憶保持する。
図2のSTEP2での放熱係数推定処理は、以上の如く実行される。
【0056】
次に、以上の如く放熱係数推定処理が実行された後の温水暖房システム1の暖房運転時には、制御装置20は、STEP3からの処理を実行する。なお、この場合の暖房運転は、放熱係数推定処理の実行後、継続している暖房運転、あるいは、一旦、停止された後の暖房運転のいずれでもよい。
【0057】
STEP3では、制御装置20は、温度センサ15を介して検出される現在の外気温度Tgが、前記STEP25で記憶保持した外気温度Tg(放熱係数推定処理の実行時に取得した検出値。以降、基準外気温度Tg0という)と異なる温度に変化したか否かを判断する。この場合、本実施形態では、制御装置20は、例えば、外気温度Tgの検出値が、基準外気温度Tg0と所定値以上(例えば1℃以上)異なる温度に変化した場合、あるいは、外気温度Tgの検出値が基準外気温度Tg0と所定値以上異なる状態が所定時間以上継続した場合に、STEP3の判断結果が肯定的であると判断する。
【0058】
そして、STEP3の判断結果が否定的である場合には、制御装置20は、STEP4において、目標温水温度を放熱係数推定処理の実行時における目標温水温度に維持しつつ、温水の温調制御を行う。すなわち、制御装置20は、温度センサ13aにより検出される往路側温水温度T1の検出値が、放熱係数推定処理の実行時における目標温水温度に一致もしくはほぼ一致するように加熱装置3の作動制御を行う。そして、制御装置20はSTEP3からの処理を継続する。
【0059】
この場合、外気温度Tgが基準外気温度Tg0に一致もしくはほぼ一致するので、暖房放熱器50が配置された室内の温度は、放熱係数推定処理の実行時における適正温度(≒設定室温Ts)とほぼ同じに保たれる。
【0060】
一方、STEP3の判断結果が肯定的になった場合には、外気温度Tgの検出値が、基準外気温度Tg0よりも所定値以上高いか、もしくは所定値以上低いので、目標温水温度を現状の温度(放熱係数推定処理の実行時の温度)に維持したままでは、室温が適正温度(≒設定室温Ts)よりも低い温度に低下し、もしくは高い温度に上昇する。
【0061】
そこで、この場合には、制御装置20は、STEP5において、目標温水温度設定部22により、目標温水温度T1cmdを、前記STEP25で記憶保持した第1放熱係数R及び第2放熱係数Pを用いて算出する。このSTEP5の処理は、
図4のフローチャートに示す如く行われる。
【0062】
具体的には、制御装置20の目標温水温度設定部22は、STEP51において、現在の外気温度Tg、及び温水流量Mのそれぞれの検出値を、前記温度センサ15及び流量センサ14のそれぞれを介して取得する。また、目標温水温度設定部22は、図示しないメモリから設定室温Ts、第1放熱係数R、及び第2放熱係数Pを読み込む。
【0063】
次いで、STEP52において、目標温水温度設定部22は、STEP51で取得した外気温度Tgの検出値、設定室温Tsの値、及び第1放熱係数Rの値から、室温を設定室温Ts(適正温度)に維持するための暖房出力である必要暖房出力Q1dmdを算出する。
【0064】
この場合、目標温水温度設定部22は、STEP51で取得したR、Ts、Tgのそれぞれの値から、前記式(2)を変形して得られる次式(4)により、必要暖房出力Q1dmdを算出する。
【0065】
Q1dmd[W]=R×(Ts[℃]-Tg[℃]) ……(4)
【0066】
次いで、STEP53において、目標温水温度設定部22は、STEP52で求めたQ1dmdの値と、STEP51で取得した第2放熱係数P、設定室温Ts及び温水流量Mのそれぞれの値とから、目標温水温度T1cmdを算出する。
【0067】
この場合、目標温水温度設定部22は、まず、Q1dmd、Ts、Pのそれぞれの値から、例えば前記式(3)を変形して得られる次式(5)により、暖房放熱器50での温水の平均温度THaveを算出する。
【0068】
THave[℃]=(Q1dmd[W]÷P{W/℃})+Ts[℃] ……(5)
【0069】
さらに、目標温水温度設定部22は、上記の如く算出したTHaveの値と、STEP52で算出したQ1dmdの値と、STEP51で取得したMの値とを用いて、前記式(1)とTHave=(T1+T2)/2という関係式とから得られる次式(6)により、目標温水温度T1cmdを算出する。
【0070】
T1cmd[℃]=THave[℃]+(Q1dmd[W]÷M[リットル/min]÷60÷2×0.86)
……(6)
【0071】
図2のSTEP5で目標温水温度T1cmdを算出する処理は、以上の如く実行される。なお、前記式(4)~(6)を統合した演算式により、目標温水温度T1cmdを算出してもよい。
【0072】
図2に戻って、制御装置20は、上記の如く、STEP5で目標温水温度T1cmdを算出した後、次に、STEP6において、該目標温水温度T1cmdに応じて温水の温調制御を行う。すなわち、制御装置20は、温度センサ13aにより検出される往路側温水温度T1の検出値が目標温水温度T1cmdに一致もしくはほぼ一致するように加熱装置3の作動制御を行う。そして、制御装置20はSTEP3からの処理を継続する。
【0073】
この場合、外気温度Tgが基準外気温度Tg0から変化した場合に、目標温水温度T1cmdが上記の如く第1放熱係数R及び第2放熱係数Pの値を用いて算出されるので、室温が適正温度(≒設定室温Ts)に維持されるように、熱源機2から暖房放熱器50に供給される温水の温度(往路側温水温度T1)が調整されることとなる。なお、STEP3の判断結果が肯定的になった後、外気温度Tgの検出値がほぼ一定に維持されている状態では、目標温水温度T1cmdを、STEP3の判断結果が肯定的になった直後に算出した目標温水温度T1cmdと同じ値に維持するようにしてもよい。
【0074】
また、暖房運転中に、リモコン30の操作スイッチ32cにより目標温水温度を増加又は減少させる操作が行われた場合には、制御装置20は、STEP1からの処理を改めて実行する。
【0075】
本実施形態では、以上説明した如く、温水暖房システム1の暖房運転時に、温水の温調制御が行われる、この場合、温水暖房システム1の実際の運転時に、所用のパラメータ(T1、T2、M等)の検出値を用いて、第1放熱係数R及び第2放熱係数Pが特定(推定)される。このため、第1放熱係数R及び第2放熱係数Pを、温水暖房システム1が設置された住戸の外気への実際の放熱特性や、暖房放熱器50から室内への実際の放熱特性を反映させた形態で適切に推定することができる。
【0076】
そして、この放熱係数推定処理の実行後には、外気温度Tgが、放熱係数推定処理の実行時の温度(基準外気温度Tg0)と異なる温度に変化すると、推定した第1放熱係数Rと第2放熱係数Pとを用いて目標温水温度T1cmdが算出され、該目標温水温度T1cmdに応じて温水の温調制御が行われる。このため、暖房放熱器50が配置された室内の温度を、放熱係数推定処理の実行時にユーザが適正な温度と認識した設定室温Tsに保つ上で、過不足の少ない熱エネルギーを熱源機2から暖房放熱器50の温水を介して供給することができる。ひいては、暖房放熱器50が配置された室内の温度を、ユーザにとって適正な温度としての設定室温Tsの近辺の温度に安定に保つことがことができる。
【0077】
補足すると、本実施形態において、放熱係数推定処理の実行時に、ユーザが適正と認識した室温が、事前に設定された設定室温Tsと異なる場合には、外気温度Tgの検出値が基準外気温度Tg0と異なる温度に変化した場合に実現される実際の室温と適正温度とのずれが生じ得る。ただし、本願発明者の検討によれば、例えば、設定室温Tsが20℃に設定されている状態で、放熱係数推定処理の実行時の実際の室温(適正温度)が設定室温Ts(20℃)と±4℃の範囲内で異なっていても、外気温度Tgが、放熱係数推定処理の実行時の温度(基準外気温度Tg0)から±10℃の範囲内で異なった温度に変化した場合に実現される室温と適正温度との差は、±2℃程度の範囲内に留まることが確認された。
【0078】
なお、本発明は、以上説明した実施形態に限定されるものではなく他の実施形態を採用することもできる。前記実施形態では、温水循環路11に1つの暖房放熱器50だけが接続されている場合を例示したが、温水循環路11の往路側温水路11aと復路側温水路11bとの間に複数の暖房放熱器が接続されていてもよい。この場合、設定室温Tsは、各暖房放熱器が配置された全ての室内について共通の温度として設定される。また、放熱係数推定処理により算出される第1放熱係数R及び第2放熱係数Pは、暖房放熱器の全体に係る放熱係数としての意味を持つ。
【0079】
また、前記実施形態では、熱源機2は、燃焼式の加熱装置3を有するものであるが、熱源機2は、例えばヒートポンプ装置を加熱装置として有するもの、あるいは、燃焼式の加熱装置とヒートピンプ装置との両方を加熱装置として有するものであってもよい。また、燃焼式の加熱装置の燃料は、燃料ガスに限らず、液体燃料であってもよい。
【符号の説明】
【0080】
1…温水暖房システム、2…熱源機、11…温水循環路、50…暖房放熱器、21…放熱係数推定処理部、22…目標温水温度設定部、30…リモコン(推定指令出力部、設定室温変更操作部)。