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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-06
(45)【発行日】2022-10-17
(54)【発明の名称】組立BOX柱の溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/00 20060101AFI20221007BHJP
   B23K 9/12 20060101ALI20221007BHJP
   B23K 37/06 20060101ALI20221007BHJP
【FI】
B23K9/00 501B
B23K9/12 331F
B23K37/06 R
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019061667
(22)【出願日】2019-03-27
(65)【公開番号】P2020157361
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】梅津 匡一
(72)【発明者】
【氏名】上野 純
【審査官】後藤 泰輔
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-297144(JP,A)
【文献】特開平08-270224(JP,A)
【文献】特開2018-058078(JP,A)
【文献】特開2018-053626(JP,A)
【文献】特開平08-229676(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00
B23K 9/12
B23K 37/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面部にエレクションピースが設置されている組立BOX柱を用い、該エレクションピースを建て入れ治具で連結して仮固定された上下の組立BOX柱であり、各4つの角部と仮固定された箇所との間に存在する8つの角辺部を有している上下の組立BOX柱を、溶接ロボットを用いて溶接する方法であって、
角部の開先に溶接仕切板を挿入し、
少なくとも、対角となる一組の角辺部あるいは対向する一組の角辺部を溶接ロボットで溶接し、
各角部に隣接する一方の角辺部の溶接が終了した後に、挿入されている溶接仕切板を取り外し、他方の角辺部を溶接ロボットで溶接する、
ことを特徴とする組立BOX柱を溶接ロボットで溶接する方法。
【請求項2】
対角をなす一組の角辺部の溶接順は、90度おきに行われることを特徴とする請求項1記載の組立BOX柱を溶接ロボットで溶接する方法。
【請求項3】
平面部にエレクションピースが設置されている組立BOX柱を用い、該エレクションピースを建て入れ治具で連結して仮固定された上下の組立BOX柱であり、各4つの角部と仮固定された箇所との間に存在する8つの角辺部を有している上下の組立BOX柱を、溶接ロボットを用いて溶接する方法であって、
角部の開先に溶接仕切板を挿入し、
一組の対向する辺を、対角にある一組の角辺部ごとに溶接ロボットで溶接し、
挿入されている溶接仕切板を取り外し、
他の一組の対向する辺を溶接ロボットで溶接する、
ことを特徴とする組立BOX柱を溶接ロボットで溶接する方法。
【請求項4】
一つの平面部に複数のエレクションピースが設置されている組立BOX柱を用い、該エレクションピースを建て入れ治具で連結して仮固定された上下の組立BOX柱であり、各4つの角部と仮固定された箇所との間に存在する8つの角辺部と隣接する仮固定された箇所との間に存在する辺央部を有している上下の組立BOX柱を、溶接ロボットを用いて溶接する方法であって、
溶接ロボットを用いて対向する辺央部を溶接し、
角辺部を溶接する前に4隅の角部の開先に溶接仕切板を挿入し、
対角する角辺部を溶接し、
溶接が済んだ角辺部の角部から溶接仕切板を取り外して、該角部に接する他の角辺部を溶接する、
ことを特徴とする組立BOX柱を溶接ロボットで溶接する方法。
【請求項5】
部分的に済んだ溶接によって、上下の組立BOX柱の仮固定の維持にとって不要となった建て入れ治具をエレクションピースから取り外して、溶接ロボットで引き続き溶接を行うことを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の組立BOX柱を溶接ロボットで溶接する方法。
【請求項6】
溶接仕切板は、セラミック製であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の組立BOX柱を溶接ロボットで溶接する方法。
【請求項7】
溶接ロボットは、溶接トーチの後端側を溶接ロボットの基体に接続することにより、基体からトーチ先端までの長さを長くして、溶接ロボットの首を振って建て入れ治具で覆われた組立BOX柱の接合部、あるいは上下のエレクションピースの間の組立BOX柱の接合部を溶接することを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の組立BOX柱を溶接ロボットで溶接する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築の柱を構築する組立BOX柱の溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建設現場における角形鋼管柱の継手溶接は溶接技能者により手作業で行われることが多い。
高層ビルなどの大型の建築物では、ボックス柱の一辺の寸法が例えば800mm程度、板厚が80mm程度と大きくなるために、多層溶接が必要となり、熟練した技能と施工確認管理が行われている。
その一方で、特許文献1や特許文献2に見られるような溶接ロボットの活用も提案されている。
しかし、建設現場では、短い角形鋼管を積み重ね、通直性を維持するように姿勢を保持しながら、上下の鋼管に設けたエレクションピースを仮支持した状態で溶接を行う必要があって、エレクションピースや仮支持用の建て入れ治具が邪魔になって、ロボットによる溶接作業ができない部分が生じる。
このような事情により、部分的にロボット溶接ができたとしても、手作業部分が残ることになる。
また、エレクションピースなどで区切られた区間を一方から溶接した場合、先行溶接部によって歪みが発生し、通直性に偏りが生ずるので、溶接は対向箇所を同時に進めなくてはならず、2人の溶接工あるいは2台の溶接ロボットが必要となる。
すなわち、1つの柱の対向面の直線部を溶接し、コーナ部ではグラインダ処理を交えながら積層溶接することとなるので、高度の溶接技術が必要であって、溶接作業は手溶接に頼るところが多く、作業能率が低下する。人手不足の状況もあって、溶接技術の改良が求められている。
【0003】
高層ビルの建築に使用される管タイプの鉄骨柱には、冷間成形角形鋼管(一般に「鋼管柱」という)や溶接四面BOX柱(「組立BOX柱」、「BOX柱」、「箱型柱」などの呼び名がある。以下「組立BOX柱」という。)。組立BOX柱は、鋼管柱よりも大径に作成することができ、より超高層建築等の柱部材に適しており、4枚の厚板を溶接して正方形または長方形の断面の鋼製の柱が作成されている。
鋼管柱は、板状に圧延された鋼板を折り曲げるように成形して角柱に形成するので、角部にRが形成される。一方、組立BOX柱は4枚の鋼板を溶接して組み立てるので、角部は直角に形成されている。
建設現場で用いられる四角の角形鋼管柱を溶接する自動溶接の例として、たとえば次の2つのような提案がある。
特許文献1(特開平4-351272号公報)、特許文献2(特開2000-135594号公報)には、上下の鋼管の接合部付近に周回レールを設け、外レール上に溶接ロボットを走行させて溶接を行う自動溶接装置が提案されている。
しかし、実際の現場では、上下の角形鋼管を通直に制御し維持するために、接合部を上下に跨ぐエレクションピースや建て入れ治具が存在し、周回走行ができない場合があり、このようなケースではこれらの提案技術を適用することはできない。
特許文献3(特開平8-229676号公報)には、組立BOX柱を溶接する方法であって、柱の角部にエレクションピースを取り付けて建て入れ治具で仮固定した状態で、溶接ロボット用いて溶接する方法が提案されている。角部の仮固定装置を溶接ロボットに取り付けられている溶接トーチが離間して回避して次の辺部へ回り込むことにより溶接することが開示されている。この発明は、明細書にも記載されているように、通常用いられている平面部にエレクションピースを設けている組立BOX柱には適用できない溶接方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平04-351272号公報
【文献】特開2000-135594号公報
【文献】特開平08-229676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、組立BOX柱の現場溶接において、溶接ロボットによる溶接法を開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1.平面部にエレクションピースが設置されている組立BOX柱を用い、該エレクションピースを建て入れ治具で連結して仮固定された上下の組立BOX柱であり、各4つの角部と仮固定された箇所との間に存在する8つの角辺部を有している上下の組立BOX柱を、溶接ロボットを用いて溶接する方法であって、
角部の開先に溶接仕切板を挿入し、
少なくとも、対角となる一組の角辺部あるいは対向する一組の角辺部を溶接ロボットで溶接し、
各角部に隣接する一方の角辺部の溶接が終了した後に、挿入されている溶接仕切板を取り外し、他方の角辺部を溶接ロボットで溶接する、
ことを特徴とする組立BOX柱を溶接ロボットで溶接する方法。
2.対角をなす一組の角辺部の溶接順は、90度おきに行われることを特徴とする1.記載の組立BOX柱を溶接ロボットで溶接する方法。
3.平面部にエレクションピースが設置されている組立BOX柱を用い、該エレクションピースを建て入れ治具で連結して仮固定された上下の組立BOX柱であり、各4つの角部と仮固定された箇所との間に存在する8つの角辺部を有している上下の組立BOX柱を、溶接ロボットを用いて溶接する方法であって、
角部の開先に溶接仕切板を挿入し、
一組の対向する辺を、対角にある一組の角辺部ごとに溶接ロボットで溶接し、
挿入されている溶接仕切板を取り外し、
他の一組の対向する辺を溶接ロボットで溶接する、
ことを特徴とする組立BOX柱を溶接ロボットで溶接する方法。
4.一つの平面部に複数のエレクションピースが設置されている組立BOX柱を用い、該エレクションピースを建て入れ治具で連結して仮固定された上下の組立BOX柱であり、各4つの角部と仮固定された箇所との間に存在する8つの角辺部と隣接する仮固定された箇所との間に存在する辺央部を有している上下の組立BOX柱を、溶接ロボットを用いて溶接する方法であって、
溶接ロボットを用いて対向する辺央部を溶接し、
角辺部を溶接する前に4隅の角部の開先に溶接仕切板を挿入し、
対角する角辺部を溶接し、
溶接が済んだ角辺部の角部から溶接仕切板を取り外して、該角部に接する他の角辺部を溶接する、
ことを特徴とする組立BOX柱を溶接ロボットで溶接する方法。
5.部分的に済んだ溶接によって、上下の組立BOX柱の仮固定の維持にとって不要となった建て入れ治具をエレクションピースから取り外して、溶接ロボットで引き続き溶接を行うことを特徴とする1.~4.のいずれかに記載の組立BOX柱を溶接ロボットで溶接する方法。
6.溶接仕切板は、セラミック製であることを特徴とする1.~5.のいずれかに記載の組立BOX柱を溶接ロボットで溶接する方法。
7.溶接ロボットは、溶接トーチの後端側を溶接ロボットの基体に接続することにより、基体からトーチ先端までの長さを長くして、溶接ロボットの首を振って建て入れ治具で覆われた組立BOX柱の接合部、あるいは上下のエレクションピースの間の組立BOX柱の接合部を溶接することを特徴とする1.~6.のいずれかに記載の組立BOX柱を溶接ロボットで溶接する方法。
【発明の効果】
【0007】
1.組立BOX柱の溶接は、直角な角部に開先があり、溶接ロボットは角部を溶接しながらスムーズに回動することができない。本発明では、角部の開先に溶接仕切板を挿入し、先行溶接する辺の側の開先を溶接し、溶接仕切板で止まったビード端部は平らに形成され、のちに他方の辺の開先を溶接ロボットでそのまま溶接ができる。溶接仕切板は、角部に隣接する一辺側が溶接されたのちに取り外す。
また、平面部にエレクションピースを有する組立BOX柱であって、上下の組立BOX柱を仮固定している建て入れ治具は、部分的に進められる溶接と一部の建て入れ治具よって仮固定が維持された段階で撤去できる建て入れ治具を取り外す、ことができ、その後、上下のエレクションピースの間隔も連続して溶接ロボットで溶接ができるようになる。
これによって、角部に先行して形成される溶接ビードの接続表面は凹凸がない平らな面に形成され、後行する溶接をスムーズに行うことができ、溶接接続面も瑕疵が発生せずしっかりした溶接を構築することができる。
本発明では、最初に行われる部分的な溶接は対角的に対向する箇所あるいは対向する箇所から始めることを原則とする。溶接部分を拡張していく段階で、溶接による仮固定が発揮された段階で、建て入れ治具を取り外し、連続して溶接できる区間を延ばして、溶接ロボットによる溶接効率を向上させる方法を提案している。
2.また、本発明は、角部に溶接仕切板を挿入し、平面部にエレクションピースを備えた組立BOX柱を2台の溶接ロボットを用いて溶接する具体的な方法を開発した。
一つは、2台の溶接ロボットで対角に存在する角辺部を順に溶接することにより、非常に安定した溶接を行う方法である。角辺部の溶接は、90度おきに4回行われることとなる。なお、組立BOX柱の溶接部であって、仮固定部と角の間の溶接部分を角辺部としている。したがって、角辺部は8つある。各平面に1個のエレクションピースを有する組立BOX柱の場合は、8つの角辺部を溶接することで、組立BOX柱の溶接全体が終了する。
3.二つ目は、対向する一組の溶接辺の左右の角辺部を、溶接ロボットを用いて溶接し、他の対向する溶接辺の溶接は、組み立て治具を取り外して、一気に溶接ロボットで溶接する方法である。少なくとも一組の対向する辺が溶接されれば、十分に溶接だけで仮固定が維持でき、さらに条件よっては、一組の対向する角辺部の溶接が終了した時点で、建て入れ治具をとり外すことができる場合がある。
4.3つめは、組み立てBOX柱の一つの平面に2つなど複数のエレクションピースがある場合、一つの平面に建て入れ治具による仮固定部が2か所以上できる。この仮固定箇所の間にある溶接辺部を辺央部とし、対向する辺央部を先行して2台の溶接ロボットで溶接する方法である。辺央部の溶接によって建て入れ治具を外すことができる場合は、取り外して、残りの角辺部及び辺央部の溶接を行うことができる。
5.本発明では、組立BOX柱にコーナーを湾曲させて周回するレールを設置し、レールに溶接ロボットを取り付けて移動させることにより、溶接ロボットを付け替えずに全体を溶接することができる。また、溶接が先行する辺に溶接仕切板を設けて、角部にできる溶接端部の接続面がきれいに形成されることと、長い溶接トーチを工夫し、建て入れ治具の際では首振り溶接でき、上下のエレクションピースの間では差し込んで溶接できるので、溶接ロボットを溶接個所へ移動させることで、溶接ロボットで溶接することができることとなり、溶接職人による手動溶接を不要にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】組立BOX柱の基本構成を示す図である。
図2】上下に重ねた組立BOX柱の溶接部分の拡大図を示す図である。
図3】組立BOX柱の溶接部の構成断面を示す図である。
図4】実施態様1の概略を示す図である。図中に示す「〇」印は溶接トーチの首を振って溶接する箇所を示している。これは他の図でも同様である。また、丸付き数字は、溶接の順番を示している。これも他の図でも同様である。そして、組立BOX柱の外側に示す「⇔」は溶接個所を示し、ハンチングは溶接が終了した箇所を、白抜きはその工程で溶接する箇所を示している。これも他の図で同様である。「▽」印は溶接仕切板を挿入する角部の開先を示す。これも他の図も同様である。
図5】実施態様2の概略を示す図である。
図6】実施態様3の概略を示す図である。
図7】実施態様4の概略を示す図である。
図8】実施態様5の概略を示す図である。
図9】実施態様6の概略を示す図である。
図10】溶接仕切板の例を示す図である。
図11】本溶接ロボットの概略を示す図である。
図12】バー状レールを用いた溶接ロボットの移動例を示す図である。
図13】周回レールを用いた溶接ロボットの移動の例を示す。
図14】溶接仕切板の使用状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、溶接ロボットを用いて建設現場で上下に仮固定された組立BOX柱を溶接する方法であって、連続溶接ができない直角の角部の開先に溶接仕切板を挿入して、角部の一方の溶接辺側を溶接し、溶接仕切板を取り外して他方の溶接辺側を溶接する方法である。これによって、溶接ロボットが一方の溶接辺の溶接を終了して、一端溶接を中断して、他方の溶接辺の溶接を開始できる。溶接トーチから出るビードが角部の開先に設けられた溶接仕切板に当接して、接続用の角部溶接端面がきれいに形成される。したがって、該角部溶接端面に他方側から溶接ロボットで連続して溶接することができる。
建築現場では、先行して設置された既設の組立BOX柱の上に新たな組立BOX柱を積み重ねて、上下の柱に設けてあるエレクションピースを建て入れ治具で仮固定して、溶接する。仮固定器具のところで溶接が一旦停止するが、本発明は、この停止回数を少なくする方法を提案する。ロングタイプの溶接トーチを開発して、溶接トーチを斜めにして建て入れ治具の付近から上下のエレクションピースの間まで伸ばして溶接できるようにし、また、建て入れ治具を取り外した上下のエレクションピースの間から開先にトーチ先端を臨ませて溶接パスを通過して、連続溶接できるようにした。組立BOX柱の対向部を2台の溶接ロボットで溶接を順次進める過程で、部分的な溶接でもって仮固定が維持できる状態になった段階で建て入れ治具の一部を取り外し、上下のエレクションピース間隙を開放し、前記したように溶接トーチが通過して連続溶接ができるようにした。
これらの工夫により、溶接ロボットが連続して駆動できる範囲を拡大する。エレクションピースは全周の溶接終了後にガス溶断にて撤去する。
【0010】
組立BOX柱を溶接する主な方法は次のとおりである。一つの方法は、組み立てBOX柱には、4か所ある角の両側に溶接辺が8か所あり、この8か所の溶接辺を対角に位置する2辺を一組として2台の溶接ロボットで溶接する方法である。二つ目の方法は、対向する辺を仮固定で区分される半分ずつ溶接ロボットで溶接し、途中あるいは対抗する辺の溶接が終了した段階で建て入れ治具で撤去する。他の対向する辺は溶接を始める前に建て入れ治具を撤去して、溶接する。三つ目の方法は、一つの辺に二つの仮固定がある場合、二つの仮固定間を先行して溶接し、建て入れ治具を撤去して、左右の角辺部を溶接する方法である。四つ目の方法は、同様に一つの辺に二つの仮固定がある場合、対向する角部の両側の角辺部を溶接したのち、建て入れ治具を撤去し、残りの部分の溶接を進める方法である。五つ目の方法は、同様に一つの辺に二つの仮固定がある場合、対向する一組の辺について、対向角の角辺部から溶接を始めて、当該辺の建て入れ治具を撤去して残りの当該辺全体の溶接を行い、他の対向する辺については、最初に建て入れ治具を撤去して、辺全体を一気に溶接する方法である。
【0011】
エレクションピースは溶接終了後にガス溶断にて撤去する。仮に、溶接の途中にガス溶断作業が入ると溶断作業時間の他、溶断によって上昇する鋼管の品温を冷まさないと、溶接ができないので、放冷時間も必要となり、溶接時間が間延びすることとなる。本発明は、エレクションピースの溶断を溶接の後工程とすることができるので、溶接の制限条件からエレクションピースの溶断を切り離すことができた。
【0012】
(実施態様1)
以下図面を参照して説明する。
まず最初に、組立BOX柱を上下に重ねた状態に関する基本事項を図1図3に説明する。
図1は組立BOX柱の基本構成を示し、(a)は側面図、(b)は断面図である。図2は上下に重ねた組立BOX柱の溶接部分の拡大図を示し、(a)は全体概略図、(b)は溶接仕切板を角部開先に挿入した図、(c)は溶接が終了した図、(d)は角部開先に溶接仕切板を挿入した角部の開先の拡大図、(e)は(d)の開先部を溶接した状態を示す拡大図、(f)は溶接後に溶接仕切板を取り外したビード端面を示す図である。図3は溶接部における基本構成断面を示している。
組立BOX柱は、各面をなす4枚の鋼板を四角に合わせて、合わせ部を溶接して組み立てられている。そのため、角部4は直角になっている。建築現場ではすでに組付けられた既存の下側の組立BOX柱1bの上端に上側の組立BOX柱1a下端を載せて、上下の組立BOX柱を仮固定し、突合せ部を溶接して、仮固定を解除する。一般に下側の組立BOX柱1bの鋼板の上端面は平坦に形成され、上側の組立BOX柱1aの鋼板の下端面は傾斜している。この状態は図2(a)、(b)(d)などに示されている。したがって、開先を構成する溶接辺5は下側が平坦で上側が外開きに傾斜している。このように形成されている角部の開先に溶接仕切板3が挿入される。
【0013】
仮固定状態が図1に示されている。短い平板が上下の組立BOX柱に溶接されてエレクションピース12が形成され、上側の組立BOX柱1aには、4面にエレクションピース12a1、12b1、12c1、12d1が設けられている。下側の組立BOX柱1bには、4面にエレクションピース12a2、12b2、12c2、12d2が設けられている。それぞれ上下のエレクションピースにはボルト用の穴が設けられている。上下のエレクションピースを両側から挟むようにボルト穴が形成されている平板上の建て入れ治具13をあてがい、各ボルト穴にボルト14を挿入し、ナットで締めて上下の組立BOX柱が仮固定される。四面に建て入れ治具13a、13b、13c、13dがあって、仮固定は4面で行われている。建て入れ治具13と開先5との間に隙間があって、後述するようにロングタイプの溶接トーチの首を振って、隙間が溶接できることとなる。
【0014】
図3は、溶接部の断面の基本構成を示しており、溶接対象の4つの溶接辺5a、5b、5c、5dがあり、溶接辺5は仮固定治具によって、2分されており、各角部4a、4b、4c、4dと仮固定治具間を、8つの角辺部51a、51b、51c、51d、51e、51f、51g、51hに区分されている。
図2にしたがって、溶接仕切板を使用した組立BOX柱の溶接方法の概略を説明する。
下側組立BOX柱1bの上面は平らに形成されており、その平面上に外開きにテーパが形成されている上側組立BOX柱1aの下面を重ねて、上下面を当接させた状態が図2(a)に示されている。溶接辺5は、テーパによって形成された断面3角形の空間に溶接ビードが充填される開先が形成されている。角部の開先に挿入する溶接仕切板3が準備されている。その溶接仕切板3、3を両端にある角部の開先に挿入した状態が図2(b)であり、拡大状態を図2(d)に示されている。溶接仕切板3は、図示の状態では角部の開先にある稜線の右側のテーパ面に当接させる状態に挿入される。これによって、図示される正面側の開先に充填される溶接ビード53の角部端面を形成することができる。
この充填した状態を図2(e)に示している。図2(f)は、(e)とは角度を変えてあらわした溶接仕切板を取り外した角部の溶接ビード53の溶接角部端面54が形成された状態を示している。図2(f)に示すように、溶接仕切板の側面に当接して形成された溶接角部端面54は、平面に形成されており、正面に見える未充填の溶接辺5の開先側から溶接する場合にきれいな溶接接合面ができる。このようにして形成された上下の溶接された組立BOX柱の状態を図2(c)に示している。
【0015】
図4は、実施態様1の溶接工程の概略構成を示している。本実施態様1では、次の工程で溶接が進められる。
なお、図4から図10に記入されている記号、「〇」印は溶接トーチの首を振って溶接する箇所を示し、「丸付き数字」は、溶接の順番を示し、組立BOX柱の外側に示す「⇔」は溶接個所を示し、ハンチングは溶接が終了した箇所を示し、白抜きはその工程で溶接する箇所を示し、「▽」印は、溶接仕切板を挿入する角部の開先を示している。
【0016】
第1工程:角部4aと角部4cの開先に溶接仕切板3a、3cを挿入する。
第2工程:対角に位置する角辺部51b、51fを2台の溶接ロボットで溶接する。建て入れ治具13a、13cにある上下のエレクションピース12a、12cの間の開先は溶接トーチを振って溶接する。角部4a、4cでは溶接仕切板3a、3cに溶接のビードが当接してきれいな面に仕上がる。但し、建て入れ治具が撤去されている第7工程ではエレクションピースの間から溶接トーチを差し入れて溶接することができるので、必ずしも第2工程で首振り溶接を行う必要はない。溶接仕切板3a、3cは、第2工程終了後から第5工程の間に取り外す。
第3工程:角部4bと角部4dの開先に溶接仕切板3b、3dを挿入する。
第4工程:対角に位置する角辺部51d、51hを2台の溶接ロボットで溶接する。建て入れ治具13b、13dにある上下のエレクションピース12b、12dの間の開先は溶接トーチを振って溶接する。但し、建て入れ治具が撤去されている第6工程ではエレクションピースの間から溶接トーチを差し入れて溶接することができるので、必ずしも第2工程で首振り溶接を行う必要はない。角部4b、4dでは溶接仕切板3b、3dに溶接のビードが当接してきれいな面に仕上がる。
【0017】
第5工程:建て入れ治具13をすべて取り外し、残っている溶接仕切板3があれば取り外す。各溶接辺の半分が溶接された状態となっており、建て入れ治具を取り外しても、仮固定が維持できる状態となっている。
第6工程:対角に位置する角辺部51c、51gを2台の溶接ロボットで溶接する。溶接仕切板が撤去された4a、4cはきれいな溶接端面になっているので、そのまま溶接ロボットで溶接することができる。また、建て入れ治具13b、13dが撤去されているので、上下のエレクションピースの間は露出しており、溶接トーチを差し込んで連続溶接することができる。首振り溶接よりも容易であるので、前記4工程の首振り溶接は省略することもできる。
第7工程:対角に位置する角辺部51e、51aを2台の溶接ロボットで溶接する。溶接仕切板が撤去された4b、4dはきれいな溶接端面になっているので、そのまま溶接ロボットで溶接することができる。また、建て入れ治具13a、13cが撤去されているので、上下のエレクションピースの間は露出しており、溶接トーチを差し込んで連続溶接することができる。首振り溶接よりも容易であるので、前記2工程の首振り溶接は省略することもできる。
【0018】
溶接ロボットに対してティーチングは、各溶接の前に行われる。
また、溶接ロボットは組立BOX柱の周囲に取り付けた走行レールを利用して移動する。
エレクションピースは、溶接終了後に溶断する。
【0019】
(実施態様2)
実施態様2を図5に従って説明する。
対向する辺に着目して溶接を進める方法である。対向する一組の辺の溶接が済んだ段階で建て入れ治具を取り外して、他の対向する辺は連続して溶接する方法である。建て入れ治具があるので先行して溶接する辺は、一つの角辺部から始め、隣の角辺部の溶接をするときは、既に溶接されている角辺部と他の辺にある建て入れ治具によって仮固定が維持できるので、当該辺の建て入れ治具を取り外すこともできる。
具体的には次の工程で溶接が進められる。
第1工程:角部4bと角部4dの開先に溶接仕切板3b、3dを挿入する。
第2工程:一組の対向する辺5b、5dの内の対角に位置する角辺部51d、51hを2台の溶接ロボットで溶接する。建て入れ治具13b、13dにある上下のエレクションピース12b、12dの間の開先は溶接トーチを振って溶接する。角部4b、4dでは溶接仕切板3b、3dに溶接のビードが当接してきれいな面に仕上がる。溶接仕切板3b、3dは、第2工程終了後から第5工程の間に取り外す。
第3工程:角部4aと角部4cの開先に溶接仕切板3a、3cを挿入する。
第4工程:一組の対向する辺5b、5dの内の他の対角に位置する角辺部51c、51gを2台の溶接ロボットで初層からn層まで溶接する。建て入れ治具13b、13dにある上下のエレクションピース12b、12dの間の開先は溶接トーチを振って溶接する。このn層は、建て入れ治具13b、13dを取り外ししても仮固定が維持できる溶接層である。角部4a、4cでは溶接仕切板3a、3cに溶接のビードが当接してきれいな面に仕上がる。
【0020】
第5工程:建て入れ治具13b、13dを取り外し、角辺部51c、51gを仕上げ層まで溶接する。この場合、エレクションピース12b、12dの間の開先へ溶接トーチを差し込んで溶接する。既存の溶接部角辺部51d、51hと初期の層が溶接された角辺部51c、51gとさらに建て入れ治具13a、13cが取り付けられている上下の組立BOX柱は仮固定が十分に維持されるので、この工程の最初に建て入れ治具13b、13dを取り外すことができる。そうするとエレクションピース12b、12dの間の開先へ溶接トーチを差し込んで溶接することができるようになり、溶接作業が容易で効率的になる。
第6工程:溶接仕切板3a、3cを取り外し、建て入れ治具13a、13cを取り外す。対向する辺5b、5dが溶接されているので、建て入れ治具13a、13cを取り外しても上下の組立BOX柱は仮固定を維持することができる。
第7工程:エレクションピース12aの両側の角辺部51a、51bで構成される辺5aと対向する角辺部51e、51fで構成される辺5cを溶接ロボットで通して溶接する。辺の全長を一気に溶接できるので効率的である。
【0021】
なお、この実施態様2では、第2工程における角辺部51d、51hの溶接と建て入れ治具13a、13cによって、上下の組立BOX柱の仮固定が維持できるようであれば、建て入れ治具13b、13dを取り外すことができ、角辺部51c、51gを初層から仕上げ層まで溶接することができる。この場合第4、第5工程は一つになる。
なお、溶接ロボットに対するティーチングは、各溶接の前に行われる。
また、溶接ロボットは組立BOX柱の周囲に取り付けた走行レールを利用して移動する。
エレクションピースは、溶接終了後に溶断する。
【0022】
(実施態様3)
実施態様3を図6に従って説明する。
対向する一組の平面部に一つのエレクションピース16a、16dがあり、他の対向する平面部に二つのエレクションピース16b、16c、16e、16fが設けられた組立BOX柱を対象とする溶接方法である。上下の組立BOX柱は、上下のエレクションピースを建て入れ治具で6か所が仮固定されている。
上下に重ねられた組立BOX柱1a、1bには、4つの角部4と8つの角辺部51と二つのエレクションピース間に存在する辺央部52b、52dを有している。この角辺部と辺央部が、溶接個所となる。
概略的には、一つのエレクションピースを有する辺5a、5bを先行して溶接し、二つのエレクションピースがある辺5b、5cを後から溶接する方法である。
具体的には次の工程で溶接が進められる。
第1工程:角部4bと角部4dの開先に溶接仕切板3b、3dを挿入する。
第2工程:一組の対向する辺5a、5cの内の対角に位置する角辺部51a、51eを2台の溶接ロボットで溶接する。建て入れ治具17a、17dにある上下のエレクションピース16a、16dの間の開先は溶接トーチを振って溶接する。角部4b、4dでは溶接仕切板3b、3dに溶接のビードが当接してきれいな面に仕上がる。溶接仕切板3b、3dは、第2工程終了後から第5工程の間に取り外す。
第3工程:角部4aと角部4cの開先に溶接仕切板3a、3cを挿入する。
第4工程:一組の対向する辺5a、5cの内の他の対角に位置する角辺部51b、51fを2台の溶接ロボットで初層からn層まで溶接する。建て入れ治具17a、17dにある上下のエレクションピース16a、16dの間の開先は溶接トーチを振って溶接する。このn層は、建て入れ治具17a、17dを取り外しても仮固定が維持できる溶接層である。
【0023】
第5工程:建て入れ治具17a、17dが取り外されている状態で、角辺部51b、51fを仕上げ層まで溶接する。この場合、エレクションピース17a、17dの間の開先は溶接トーチ差し込んで溶接する。エレクションピース17a、17dの間の開先へ溶接トーチを差し込んで溶接することができるようになり、溶接作業が容易で効率的になる。角部4a、4cでは溶接仕切板3a、3cに溶接のビードが当接してきれいな面に仕上がる。
第6工程:溶接仕切板3a、3cを取り外し、建て入れ治具17b、17c、17e、17fを取り外す。対向する辺5a、5cが溶接されているので、建て入れ治具17b、17c、17e、17fを取り外しても上下の組立BOX柱は仮固定を維持することができる。
第7工程:エレクションピース16b、16cがある辺5bとエレクションピース16e、16fがある辺5dを一気に溶接ロボットで溶接する。辺5bはエレクションピース16b、16cによって、角辺部51c、辺央部52b、角辺部51dとなっているが、建て入れ治具が撤去されているので、上下のエレクションピースの間に溶接トーチを差し込んで溶接することができるので、連続して溶接できる。辺5dも同様に溶接できるので、溶接効率が向上する。
【0024】
なお、溶接ロボットに対するティーチングは、各溶接の前に行われる。
また、溶接ロボットは組立BOX柱の周囲に取り付けた走行レールを利用して移動する。
エレクションピースは、溶接終了後に溶断する。
【0025】
(実施態様4)
実施態様4を図7に示す。
この実施態様では、各面にエレクションピース18が2つ設けられており、仮固定用の建て入れ治具19が上下柱のエレクションピース間に設けられている組立BOX柱を溶接対象とする。したがって、この組立BOX柱には、8つのエレクションピース18a、18b、18c、18d、18e、18f 、18g、18hと8つの建て入れ治具19a、19b、19c、19d、19e、19f 、19g、19hがあり、溶接対象となる溶接辺5a、5b、5c、5dは、それぞれ、2つの角辺部と1つの辺央部に分かれる。
本実施態様では、辺央部を先行して溶接し、建て入れ治具を撤去したのちに、溶接仕切板を各角の開先に挿入して角辺部を溶接する方法である。
具体的には次の工程で溶接が進められる。
第1工程:建て入れ治具19a、19b間の辺央部52aと建て入れ治具19e、19f間の辺央部52cを2台の溶接ロボットで溶接する。各建て入れ治具19a、19b、19e、19fにある上下のエレクションピース18a、18b、18e、18fの間の開先は溶接トーチを振って溶接する。なお、首振り溶接を行わずに後工程の角辺部の溶接時にエレクションピース間を溶接することもできる。
【0026】
第2工程:辺央部52bと辺央部52dを第1工程と同様に溶接する。すなわち、建て入れ治具19c、19d間の辺央部52bと建て入れ治具19g、19h間の辺央部52dを2台の溶接ロボットで溶接する。各建て入れ治具19c、19d、19g、19hにある上下のエレクションピース18c、18d、18g、18hの間の開先は溶接トーチを振って溶接する。なお、首振り溶接を行わずに後工程の角辺部の溶接時にエレクションピース間を溶接することもできる。
第3工程:4か所の角部4a、4b、4c,4dの開先に溶接仕切板3a、3b、3c、3dを挿入する。
第4工程:8つ全ての建て入れ治具を撤去する。対面する4か所の辺央部が溶接されているので、上下の組立BOX柱の仮固定は維持される。なお、建築現場の事情ですべての建て入れ治具を撤去した場合に仮固定が維持できない場合は、第5工程に影響しない建て入れ治具19d、19hをのこして、他を取り外す。建て入れ治具19d、19hは、第5工程終了後に撤去する。
【0027】
第5工程:一組の対向する辺5b、5dの内の対角に位置する角辺部51c、51gを2台の溶接ロボットで溶接する。角部4a、4cでは溶接仕切板3a、3cにビードが当接してきれいな面に仕上がる。
第6工程:一組の対向する辺5b、5dの内の他の対角に位置する角辺部51d、51hを2台の溶接ロボットで溶接する。角部4b、4dでは溶接仕切板3b、3dにビードが当接してきれいな面に仕上がる。
なお、第5工程と第6工程で行う角辺部はどちらでもよい。また、第5、第6工程では、上下のエレクションピース間には溶接トーチを差し入れて溶接することができるので、首振り溶接をする必要はない。さらに、前述するように、第2工程でエレクションピース間を溶接せずに、この第5、第6工程でまとめて溶接することが可能である。
第7工程:一組の対向する辺5a、5cの内の対角に位置する角辺部51a、51eを2台の溶接ロボットで溶接する。
第8工程:一組の対向する辺5a、5cの内の他の対角に位置する角辺部51b、51fを2台の溶接ロボットで溶接する。
【0028】
なお、溶接ロボットに対するティーチングは、各溶接の前に行われる。
また、溶接ロボットは組立BOX柱の周囲に取り付けた走行レールを利用して移動する。
エレクションピースは、溶接終了後に溶断する。
【0029】
(実施態様5)
実施態様5を図8に示す。
この実施態様では、図7に示す組立BOX柱と同様に各面にエレクションピース18が2つ設けられており、仮固定用の建て入れ治具19が上下柱のエレクションピース間に設けられている組立BOX柱を溶接対象とする。図8に記入される符号は図7と同様である。この組立BOX柱は、図7に示す組立BOX柱よりもエレクションピース間の間隔が狭くなっている。この組立BOX柱では、角辺部が長くなるので一つの対角にある角辺部を先行して溶接し、溶接による仮固定を利用して、組立治具を順次取り外して、溶接辺の残りである辺央部と角辺部を通して溶接して、溶接の効率化をはかるものである。
【0030】
具体的には次の工程で溶接が進められる。
第1工程:溶接仕切板3a、3cを角部4aと4cの開先に挿入する。
第2工程:対角に位置する角辺部51b、51fを2台の溶接ロボットで溶接する。建て入れ治具19b、19fにある上下のエレクションピース18b、18fの間の開先は溶接トーチを振って溶接する。角部4a、4cでは溶接仕切板3a、3cに溶接のビードが当接してきれいな面に仕上がる。
第3工程:溶接仕切板3a、3cを取り外して、角辺部51cと角辺部51gを溶接する。溶接仕切板3a、3cに当接した溶接のビードによって、端面がきれいになっているので、溶接ロボットで角辺部をスムーズに溶接することができる。
【0031】
第4工程:溶接仕切板3b、3dを角部4bと4dの開先に挿入し、建て入れ治具19c、19d、19g、19hを取り外す。
第5工程:建て入れ治具19c、19dがなくなった、溶接辺5bの溶接されていない部分である辺央部52bと角辺部51dを溶接ロボットで一気に溶接する。上下の柱のエレクションピース18c、18dの隙間から溶接トーチを差し込んで溶接できるので、連続溶接ができる。同様に建て入れ治具19g、19hがなくなった、溶接辺5dの辺央部52dと角辺部51hを他の溶接ロボットで一気に溶接する。
第6工程:溶接仕切板3b、3dを取り外すとともに、建て入れ治具19a、19b、19e、19fを取り外す。
第7工程:建て入れ治具19a、19bがなくなった、溶接辺5aの溶接されていない部分である辺央部52aと角辺部51aを溶接ロボットで一気に溶接する。上下の柱のエレクションピース18a、18bの隙間から溶接トーチを差し込んで溶接できるので、連続溶接ができる。同様に建て入れ治具19e、19fがなくなった、溶接辺5cの辺央部52cと角辺部51eを他の溶接ロボットで一気に溶接する。
【0032】
角部の開先では溶接仕切板に溶接ビードが当接して、きれいに仕上がるので、ロボットによる次の溶接を容易に行うことができる。そして、この例では、角部4aと対角の角部4cに隣接する角辺部を先に溶接することにより、対向する溶接辺5b、5dでは建て入れ治具を取り外して、残り部分を連続して溶接することが可能となり、ロボット溶接が効率的になる。例えば、ティーチングを辺央部52bと角辺部51dを分けることなく1回で行うことができる。
なお、溶接ロボットに対するティーチングは、各溶接の前に行われる。
また、溶接ロボットは組立BOX柱の周囲に取り付けた走行レールを利用して移動する。
エレクションピースは、溶接終了後に溶断する。
【0033】
(実施態様6)
実施態様6を図9に示す。
この実施態様では、図8に示す組立BOX柱と同様に各面にエレクションピース18が2つ設けられており、仮固定用の建て入れ治具19が上下柱のエレクションピース間に設けられている組立BOX柱を溶接対象とする。図9に記入される符号は図7、8と同様である。この例では、対面する溶接辺の対角にある角辺部を溶接し、その溶接辺の建て入れ治具を取り外して、対面する溶接辺の残りの未溶接部分を溶接し、その後残りの建て入れ治具を取り外して、他の対面する溶接辺を通して一気に溶接する方法である。
この溶接方法では、溶接トーチの首振り溶接は一度でよくまた、溶接ロボットは3度に分けて溶接できるので作業効率が向上する。
【0034】
具体的には次の工程で溶接が進められる。
第1工程:溶接仕切板3a、3cを角部4aと4cの開先に挿入する。
第2工程:対角に位置する角辺部51b、51fを2台の溶接ロボットで溶接する。建て入れ治具19b、19fにある上下のエレクションピース18b、18fの間の開先は溶接トーチを振って溶接する。角部4a、4cでは溶接仕切板3a、3cに溶接のビードが当接してきれいな面に仕上がる。溶接仕切板3a、3cは、この後取り外す。
第3工程:溶接仕切板3b、3dを角部4b、4dの開先に挿入するとともに、建て入れ治具19a、19b、19e、19fを取り外す。
第4工程:建て入れ治具19a、19bがなくなった、溶接されていない溶接辺5aの部分である辺央部52aと角辺部51aを溶接ロボットで一気に溶接する。上下の柱のエレクションピース18a、18bの隙間から溶接トーチを差し込んで溶接できるので、連続溶接ができる。同様に建て入れ治具19e、19fが取り外された、溶接辺5cの辺央部52cと角辺部51eを他の溶接ロボットで一気に溶接する。
【0035】
第5工程:溶接仕切板3b、3dを取り外すとともに、建て入れ治具19c、19d、19g、19hを取り外す。建て入れ治具19c、19dがなくなり、角部4aと角部4bには先行して形成された溶接端部がきれいに成形されているので、溶接辺5bは、溶接ロボットで一気に全体を通して溶接することができる。そして、同時に対面する溶接辺5dも他の溶接ロボットで一気に溶接することができる。
【0036】
なお、溶接ロボットに対するティーチングは、各溶接の前に行われる。
また、溶接ロボットは組立BOX柱の周囲に取り付けた走行レールを利用して移動する。
エレクションピースは、溶接終了後に溶断する。
【0037】
<溶接仕切板の例>
図10は、溶接仕切板3の例である。斜視図(a)、平面図(b)、右側面図(c)、背面図(d)である。
溶接仕切板3は、側面視でほぼ直角三角形状をしており、上面には中心に稜線があって、左右に上右当接面31Rと上左当接面31Lが形成されている。
左右に設けられている当接面は、挿入する角部に向かって、左側の溶接辺を先行して溶接する場合と、右側の溶接辺を先行して溶接する場合に合わせて、上右当接面31Rと上左当接面31Lを選択して使用することができる。
材質は高温耐性とビードとの剥離性の点でセラミックが適している。
使用状態の写真を図14に示す。図14の例では、正面に見える開先の溶接辺5が溶接予定部分であって、セラミック製の溶接仕切板5を奥側に数ミリずらして設置してある。これは、溶接終了後に溶接仕切板5を取り外して、角部にできたビード端を研磨するためである。溶接仕切板をこのようにずらして設置する場合は、溶接仕切板は、その位置に適した形状に成形される。なお、先行して角部に形成される溶接ビードを研磨成形するか、そのままにするかによって、溶接仕切板を成形することになる。
【0038】
<溶接ロボットの例>
図11は、本溶接ロボットの概略図である。(a)は、基本構成図であり、(b)は、モニタリング装置を装着した図である。なお、符号は図1と同様である。
上下の組立BOX柱1、1が、重ねられて、それぞれに設けられているエレクションピース12、12を建て入れ治具13で連結して、上下の角形鋼管の姿勢が仮固定されている。上下の角形鋼管の接合部には溶接部となる開先15が形成される。
上側の角形鋼管1にレール6を取り付け、このレール6に走行台車25を接続し、走行台車25と溶接トーチ24とを基体26で連結して、溶接ロボット2が構成されている。この溶接ロボットには、電源ケーブル、溶接金属線材などが付帯されるが省略して示す。この開先15に臨むようにトーチの先端を位置させて溶接を行うこととなる。図11(a)に示すように、上下のエレクションピースがあるとトーチを差し込む隙間が限定されるので、トーチが短いと開先に届かず、溶接ロボットを使用できないため、手作業で行うこととなる。
なお、電源ケーブルなどがついているので、溶接ロボットは柱を周回して溶接することはできず、対面あるいは対角に配置した2台の溶接ロボットを往復させて、溶接パスを重ねることとなる。建設の鉄骨用に、用いられる鋼板は厚いので溶接パスが数十回とおこなわれ、数層に重なってできる。
【0039】
本発明では、ロングトーチを開発することにより、エレクションピースの隙間から開先に、溶接トーチが届くようにした。
従来例では、把持バランスを考えて、溶接トーチの長さの中間部を把持するように基体に連結しているので、トーチ先端までの長さが限定されており、エレクションピースの隙間から開先に届くのは困難である。
これに対して、図11の改良例は、トーチの後端部を基体に接続することにより、トーチの突き出し長を長くすることができている。
図11(a)に示される上下の鋼管によって設けられた開先15は例えば25度程度の狭開先であることがある。このように開き角度が小さく、また、上下のエレクションピース12、12の隙間がある場合、本発明ではトーチ24の突き出し長が長いので、エレクションピースの隙間から開先に精度良くアクセスすることができる。なお、溶接の初層は1回のパスで溶接ができるが、2層目以降は、開先が広がるので数回に分けて層全体を仕上げる必要がある。例えば、2層は2パス、3層は3パスなどとパスの回数が増加することとなる。トーチ先端の通過箇所も調整する必要が生ずる。
トーチを長くする場合、トーチ先端部の姿勢を安定させるために、トーチ基部側を炭素繊維で形成するなど軽量化素材を用いて軽量化をおこなう。さらに、トーチの後方寄りを基体に接続し先端側を長くし、トーチの後端にバランサとなる調整錘を付けることにより、トーチの制御操作性を向上させる。
さらに図11(b)では、トーチに、溶接状態をリアルに観察できるモニタリングカメラ27を取り付けてあるので、溶接の品質を溶接中に確認することができる。
なお、溶接の品質管理上母材温度(パス間温度)を管理することが重要とされている。本発明では、モニタリングカメラ27として赤外線サーモグラフィーを採用すると、直接的にパス(ビード)の温度管理ができる。一般的には、母材の温度が250℃ないし350℃以下に下がるまで、次のパスの溶接をしないようにコントロールする。
【0040】
図12に溶接ロボットを組立BOX柱に取り付けた作業状態を示す。
図12は下組立BOX柱1bと上組立BOX柱1aを重ねた溶接部分を示している。上下の組立BOX柱のエレクションピース12、12に建て入れ治具19で仮固定してある。開先となる溶接辺5、5の角部に溶接仕切片3が挿入されている。溶接ロボットは、バー状のレール61に取り付けられる。バー状のレール61は磁石62で上組立BOX柱の側面に装着されている。
溶接ロボット2は、レール61に組み付けられる走行台車25と走行台車25の下方に機体26が取り付けられている。走行台車25にはハンドル23なども取り付けられている。機体26には溶接トーチ24が取り付けられている。溶接トーチ24には溶接材供給チューブ28から溶接材が連続して供給される。走行台車25には、コントロールワイヤ29が接続している。コントロールワイヤは電源ケーブルを併設することができる。
組立BOX柱の他の面に溶接ロボットを移動するときは、磁石62を他の面に取り付けてバー状のレール61を付け替えることができるので、溶接ロボットの移動は容易である。なお、磁石を多数用意することで、磁石の移動も不要であり、レール61も同様である。
【0041】
図13に溶接ロボットを組立BOX柱に取り付けた一例を示す。なお、符号は図1と同様である。
図13(a)は、上下の組立BOX柱のエレクションピース12、12を建て入れ治具13で仮固定した組立BOX柱1に周回レール63を周回するように取り付け、さらに溶接ロボット2をレールに取り付けている状態を示している。
レールは組立BOX柱の平面部に多面する範囲は直線とし、コーナー部はカーブとして、組立BOX柱の角部を回り込むときに溶接ロボットを着脱する必要はなく、レールを走行させることによって、溶接個所へ移動させることができる。
角形鋼管から建て入れ治具13を取り外した状態を図13(b)に示している。各実施態様で示したように、一部あるいは全部の建て入れ治具を除去しても、既存の部分的な溶接と残りの建て入れ治具によって仮固定が維持できる場合は、このような状態で溶接ロボットで溶接される。
溶接終了後エレクションピースをガス溶断して除去した状態を図13(c)に示している。溶断除去したエレクションピース痕が組立BOX柱1に残る。周回レール63と溶接ロボット2は、エレクションピースの溶断作業の前に取り外すことができる。
ガス溶断すると角形鋼管の温度が上昇するので、放冷期間をおく必要があるが、本発明では、ガス溶断を溶接工程の後にすることができるので、溶接時間を間延びさせることはない。
【符号の説明】
【0042】
1 組立BOX柱
1a 上側組立BOX柱
1b 下側組立BOX柱
11 平面部
12、12a、12b、12c、12d エレクションピース
13、13a、13b、13c、13d 建て入れ治具
14 ボルト
15 開先
16、16a、16b、16c、16d、16e、16f エレクションピース
17、17a、17b、17c、17d、17e、17f 建て入れ治具
18、18a、18b、18c、18d、18e、18f 、18g、18h エレクションピース
19、19a、19b、19c、19d、19e、19f 、19g、19h 建て入れ治具

2、21、22 溶接ロボット
23 ハンドル
24 溶接トーチ
25 走行台車
26 機体
27 モニタリングカメラ
28 溶接材供給チューブ
29 コントロールワイヤ

3、3a、3b、3c、3d 溶接仕切板
31 上側当接面
31R 上右当接面
31L 上左当接面

4、4a、4b、4c、4d 角部

5、5a、5b、5c、5d 溶接辺
51、51a、51b,51c、51d、51e、51f、51g、51h 角辺部
52、52a、52b、52c、52d 辺央部
53 ビード
54 溶接角部端面

6 レール
61 バー状のレール
62 磁石
63 周回レール
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14