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特許7154173ストランド製造機器を監視する監視装置、監視方法、および監視プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-06
(45)【発行日】2022-10-17
(54)【発明の名称】ストランド製造機器を監視する監視装置、監視方法、および監視プログラム
(51)【国際特許分類】
   B29B 9/06 20060101AFI20221007BHJP
【FI】
B29B9/06
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019063186
(22)【出願日】2019-03-28
(65)【公開番号】P2020029085
(43)【公開日】2020-02-27
【審査請求日】2021-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(73)【特許権者】
【識別番号】517048164
【氏名又は名称】株式会社エムイーピーコム四日市
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】▲瀬▼下 晃平
(72)【発明者】
【氏名】中山 正
(72)【発明者】
【氏名】三原 正和
(72)【発明者】
【氏名】吉野 崇史
【審査官】神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-232322(JP,A)
【文献】特開平11-300738(JP,A)
【文献】特開2004-202815(JP,A)
【文献】特開2006-159849(JP,A)
【文献】国際公開第2018/008636(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 9/06
B29C 48/00-48/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のストランドを吐出するストランド製造機器を監視する監視装置であって、
前記ストランドの吐出方向と交差する検知軸上に配列する複数の検知点に係る座標および測定温度の組である温度情報セットを生成可能な温度検知部と、
ある瞬間における前記温度情報セットである現在温度情報セットと、前記ストランドが正常に吐出されている状態における前記温度情報セットである基準セットとの比較に基づいて、当該瞬間において前記ストランドの吐出状態に異常が生じているか否かを判断可能な演算部と、を備え
前記演算部は、
前記現在温度情報セットまたは前記基準セットについて、前記座標に対して前記測定温度をプロットした曲線において前記測定温度が極大値を取る極大値座標を特定可能であり、
前記現在温度情報セットの前記極大値座標の個数と、前記基準セットの前記極大値座標の個数と、を比較して、前記現在温度情報セットの前記極大値座標の個数が、前記基準セットの前記極大値座標の個数より少なく、かつ、前記現在温度情報セットの少なくとも1つの前記極大値座標における前記測定温度が、当該現在温度情報セットの他の前記極大値座標における前記測定温度に比べて、所定の基準を超えて高いときに、少なくとも2本の前記ストランドが合一する態様の異常が生じていると判断する監視装置。
【請求項2】
複数のストランドを吐出するストランド製造機器を監視する監視装置であって、
前記ストランドの吐出方向と交差する検知軸上に配列する複数の検知点に係る座標および測定温度の組である温度情報セットを生成可能な温度検知部と、
ある瞬間における前記温度情報セットである現在温度情報セットと、前記ストランドが正常に吐出されている状態における前記温度情報セットである基準セットとの比較に基づいて、当該瞬間において前記ストランドの吐出状態に異常が生じているか否かを判断可能な演算部と、を備え、
前記演算部は、
前記現在温度情報セットまたは前記基準セットについて、前記座標に対して前記測定温度をプロットした曲線において前記測定温度が極大値を取る極大値座標を特定可能であり、
前記現在温度情報セットの前記極大値座標の個数が、前記基準セットの前記極大値座標の個数より少なく、かつ、前記現在温度情報セットのすべての前記極大値座標における前記測定温度が、所定の基準範囲内の値であるときに、少なくとも1本の前記ストランドが切断する態様の異常が生じていると判断する監視装置。
【請求項3】
複数のストランドを吐出するストランド製造機器を監視する監視装置であって、
前記ストランドの吐出方向と交差する検知軸上に配列する複数の検知点に係る座標および測定温度の組である温度情報セットを生成可能な温度検知部と、
ある瞬間における前記温度情報セットである現在温度情報セットと、前記ストランドが正常に吐出されている状態における前記温度情報セットである基準セットとの比較に基づいて、当該瞬間において前記ストランドの吐出状態に異常が生じているか否かを判断可能な演算部と、を備え、
前記演算部は、
前記現在温度情報セットまたは前記基準セットについて、前記座標に対して前記測定温度をプロットした曲線において前記測定温度が極大値を取る極大値座標を特定可能であり、
前記現在温度情報セットの前記極大値座標の個数が、前記基準セットの前記極大値座標の個数と一致し、かつ、前記現在温度情報セットの前記極大値とあらかじめ定められた基準温度との差異が所定の閾値より大きい前記極大値座標が存在するときに、前記ストランドの温度が異常であると判断する監視装置。
【請求項4】
複数のストランドを吐出するストランド製造機器を監視する監視装置であって、
前記ストランドの吐出方向と交差する検知軸上に配列する複数の検知点に係る座標および測定温度の組である温度情報セットを生成可能な温度検知部と、
ある瞬間における前記温度情報セットである現在温度情報セットと、前記ストランドが正常に吐出されている状態における前記温度情報セットである基準セットとの比較に基づいて、当該瞬間において前記ストランドの吐出状態に異常が生じているか否かを判断可能な演算部と、を備え、
前記吐出方向に沿って離間する少なくとも2つの前記検知軸を有し、
前記ストランド製造機器に近い側に位置する第1検知軸において取得した第1現在温度情報セットに基づいて、前記ストランドの温度に係る異常の有無を判断し、かつ、
前記ストランド製造機器から遠い側に位置する第2検知軸において取得した第2現在温度情報セットに基づいて、前記ストランドの合一または切断に係る異常の有無を判断する監視装置。
【請求項5】
前記基準セットは、前記吐出状態が正常であると判断された最新の前記現在温度情報セットである請求項1に記載の監視装置。
【請求項6】
前記演算部は、
前記現在温度情報セットまたは前記基準セットについて、前記座標に対して前記測定温度をプロットした曲線において前記測定温度が極大値を取る極大値座標を特定可能であり、
前記現在温度情報セットの前記極大値座標の個数が、前記基準セットの前記極大値座標の個数との比較に基づいて、前記吐出状態に異常が生じているか否かを判断可能である請求項に記載の監視装置。
【請求項7】
前記演算部は、前記現在温度情報セットの前記極大値座標の配置を、前記吐出状態に異常が生じているか否かのさらなる判断材料とする請求項1~3および6のいずれか一項に記載の監視装置。
【請求項8】
前記演算部は、
前記現在温度情報セットまたは前記基準セットについて、有効データとして取り扱う温度の最小値であるフィルタ値を、前記曲線における最大値と最小値との間の値から選択して設定可能であり、
前記極大値座標の前後で前記曲線が前記フィルタ値を取る2つの座標の間に形成されるピークの幅であるピーク幅を、前記吐出状態に異常が生じているか否かのさらなる判断材料とする請求項1~3、6、および7のいずれか一項に記載の監視装置。
【請求項9】
複数のストランドを吐出するストランド製造機器を監視する監視方法であって、
ある瞬間における、前記ストランドの吐出方向と交差する検知軸上に配列する複数の検知点に係る座標および測定温度の組である現在温度情報セットと、前記ストランドが正常に吐出されている状態における前記複数の検知点に係る座標および測定温度の組である基準セットと、を特定する工程と、
前記現在温度情報セットおよび前記基準セットについて、前記座標に対して前記測定温度をプロットした曲線において前記測定温度が極大値を取る極大値座標を特定する工程と、
前記現在温度情報セットの前記極大値座標の個数と、前記基準セットの前記極大値座標の個数と、を比較して、前記現在温度情報セットの前記極大値座標の個数が、前記基準セットの前記極大値座標の個数より少なく、かつ、前記現在温度情報セットの少なくとも1つの前記極大値座標における前記測定温度が、当該現在温度情報セットの他の前記極大値座標における前記測定温度に比べて、所定の基準を超えて高いときに、少なくとも2本の前記ストランドが合一する態様の異常が生じていると判断する工程と、を備える監視方法。
【請求項10】
複数のストランドを吐出するストランド製造機器を監視する監視方法であって、
ある瞬間における、前記ストランドの吐出方向と交差する検知軸上に配列する複数の検知点に係る座標および測定温度の組である現在温度情報セットと、前記ストランドが正常に吐出されている状態における前記複数の検知点に係る座標および測定温度の組である基準セットと、を特定する工程と、
前記現在温度情報セットおよび前記基準セットについて、前記座標に対して前記測定温度をプロットした曲線において前記測定温度が極大値を取る極大値座標を特定する工程と、
前記現在温度情報セットの前記極大値座標の個数が、前記基準セットの前記極大値座標の個数より少なく、かつ、前記現在温度情報セットのすべての前記極大値座標における前記測定温度が、所定の基準範囲内の値であるときに、少なくとも1本の前記ストランドが切断する態様の異常が生じていると判断する工程と、を備える監視方法。
【請求項11】
複数のストランドを吐出するストランド製造機器を監視する監視方法であって、
ある瞬間における、前記ストランドの吐出方向と交差する検知軸上に配列する複数の検知点に係る座標および測定温度の組である現在温度情報セットと、前記ストランドが正常に吐出されている状態における前記複数の検知点に係る座標および測定温度の組である基準セットと、を特定する工程と、
前記現在温度情報セットおよび前記基準セットについて、前記座標に対して前記測定温度をプロットした曲線において前記測定温度が極大値を取る極大値座標を特定する工程と、
前記現在温度情報セットの前記極大値座標の個数が、前記基準セットの前記極大値座標の個数と一致し、かつ、前記現在温度情報セットの前記極大値とあらかじめ定められた基準温度との差異が所定の閾値より大きい前記極大値座標が存在するときに、前記ストランドの温度が異常であると判断する工程と、を備える監視方法。
【請求項12】
複数のストランドを吐出するストランド製造機器を監視する監視方法であって、
ある瞬間における、前記ストランドの吐出方向と交差する検知軸上に配列する複数の検知点に係る座標および測定温度の組である現在温度情報セットと、前記ストランドが正常に吐出されている状態における前記複数の検知点に係る座標および測定温度の組である基準セットと、を、少なくとも2つの前記検知軸について特定する工程と、
前記ストランド製造機器に近い側に位置する第1検知軸において取得した第1現在温度情報セットに基づいて、前記ストランドの温度に係る異常の有無を判断し、かつ、前記ストランド製造機器から遠い側に位置する第2検知軸において取得した第2現在温度情報セットに基づいて、前記ストランドの合一または切断に係る異常の有無を判断する工程と、を備える監視方法。
【請求項13】
複数のストランドを吐出するストランド製造機器を監視する監視プログラムであって、
コンピュータにおいて実行されたときに、
ある瞬間における、前記ストランドの吐出方向と交差する検知軸上に配列する複数の検知点に係る座標および測定温度の組である現在温度情報セットと、前記ストランドが正常に吐出されている状態における前記複数の検知点に係る座標および測定温度の組である基準セットと、を特定する機能と、
前記現在温度情報セットおよび前記基準セットについて、前記座標に対して前記測定温度をプロットした曲線において前記測定温度が極大値を取る極大値座標を特定する機能と、
前記現在温度情報セットの前記極大値座標の個数と、前記基準セットの前記極大値座標の個数と、を比較して、前記現在温度情報セットの前記極大値座標の個数が、前記基準セットの前記極大値座標の個数より少なく、かつ、前記現在温度情報セットの少なくとも1つの前記極大値座標における前記測定温度が、当該現在温度情報セットの他の前記極大値座標における前記測定温度に比べて、所定の基準を超えて高いときに、少なくとも2本の前記ストランドが合一する態様の異常が生じていると判断する機能と、前記コンピュータに実現させる監視プログラム。
【請求項14】
複数のストランドを吐出するストランド製造機器を監視する監視プログラムであって、
コンピュータにおいて実行されたときに、
ある瞬間における、前記ストランドの吐出方向と交差する検知軸上に配列する複数の検知点に係る座標および測定温度の組である現在温度情報セットと、前記ストランドが正常に吐出されている状態における前記複数の検知点に係る座標および測定温度の組である基準セットと、を特定する機能と、
前記現在温度情報セットおよび前記基準セットについて、前記座標に対して前記測定温度をプロットした曲線において前記測定温度が極大値を取る極大値座標を特定する機能と、
前記現在温度情報セットの前記極大値座標の個数が、前記基準セットの前記極大値座標の個数より少なく、かつ、前記現在温度情報セットのすべての前記極大値座標における前記測定温度が、所定の基準範囲内の値であるときに、少なくとも1本の前記ストランドが切断する態様の異常が生じていると判断する機能と、を前記コンピュータに実現させる監視プログラム。
【請求項15】
複数のストランドを吐出するストランド製造機器を監視する監視プログラムであって、
コンピュータにおいて実行されたときに、
ある瞬間における、前記ストランドの吐出方向と交差する検知軸上に配列する複数の検知点に係る座標および測定温度の組である現在温度情報セットと、前記ストランドが正常に吐出されている状態における前記複数の検知点に係る座標および測定温度の組である基準セットと、を特定する機能と、
前記現在温度情報セットおよび前記基準セットについて、前記座標に対して前記測定温度をプロットした曲線において前記測定温度が極大値を取る極大値座標を特定する機能と、
前記現在温度情報セットの前記極大値座標の個数が、前記基準セットの前記極大値座標の個数と一致し、かつ、前記現在温度情報セットの前記極大値とあらかじめ定められた基準温度との差異が所定の閾値より大きい前記極大値座標が存在するときに、前記ストランドの温度が異常であると判断する機能と、を前記コンピュータに実現させる監視プログラム。
【請求項16】
複数のストランドを吐出するストランド製造機器を監視する監視プログラムであって、
コンピュータにおいて実行されたときに、
ある瞬間における、前記ストランドの吐出方向と交差する検知軸上に配列する複数の検知点に係る座標および測定温度の組である現在温度情報セットと、前記ストランドが正常に吐出されている状態における前記複数の検知点に係る座標および測定温度の組である基準セットと、を、少なくとも2つの前記検知軸について特定する機能と、
前記ストランド製造機器に近い側に位置する第1検知軸において取得した第1現在温度情報セットに基づいて、前記ストランドの温度に係る異常の有無を判断し、かつ、前記ストランド製造機器から遠い側に位置する第2検知軸において取得した第2現在温度情報セットに基づいて、前記ストランドの合一または切断に係る異常の有無を判断する機能と、を前記コンピュータに実現させる監視プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のストランドを吐出するストランド製造機器を監視する監視装置、監視方法、および監視プログラムに関する。なお、本明細書、特許請求の範囲、図面、および要約書において「ストランド」とは、紐状の成形体をいう。
【背景技術】
【0002】
合成樹脂材料は、数ミリメートル大のペレットとして市販されることが一般的である。重合反応により得られる高分子原料は多くの場合において粉体状であるが、輸送性および取扱性を向上するため、当該粉体をペレット状に成形するペレット化工程を経て出荷される。また、かかるペレット化の工程において、高分子原料に対して酸化防止剤、帯電防止剤、補強剤などの添加剤を混合して、合成樹脂材料に付加的な機能を与えうる。以上のようにペレット化工程は、合成樹脂材料の商品価値を向上する重要な役割を果たす。
【0003】
かかるペレット化工程の典型的な態様として、ストランドカット法が汎用される。ストランドカット法のペレット化工程においては、押出機において、熱可塑性樹脂材料を融点以上に加熱して溶融流動する状態にし、溶融した樹脂材料を数ミリメートル大の吐出口を有するダイから連続的に吐出する。吐出された樹脂材料はストランドとなり、連続的に冷却装置に案内される。冷却されたストランドは、ペレタイザーと呼ばれる細断機によって数ミリメートル長に切断される。このように、ストランドカット法のペレット化工程は、押出機から吐出されたストランドが、冷却装置を経てペレタイザーに連続的に案内されることを前提としているため、ペレットを安定的に生産するためには、ストランドが安定して連続的に製造されることを要する。
【0004】
ストランドの製造を妨げる典型的な異常として、ストランドの合一と、ストランドの切断とが挙げられる。ストランドの合一は、ダイから吐出された直後の流動性を有する複数のストランドが互いに貼り付いて合一してしまう現象である。また、ストランドの切断は、ストランドが何らかの原因により張力を受けて切断してしまう現象である。これらの異常が発生すると、生産されるペレットの品質の低下、生産性の低下、および装置の破損を招くおそれがある。そのため、これらの異常を早期に発見し、復旧作業を行うことが求められる。
【0005】
たとえば、特開2004-276439号公報(特許文献1)には、切断したストランドがダイの下方に垂れ下がることに着目し、ストランドが垂れ下がりうる位置に光電管式センサーなどのセンサーを設けてストランドの切断を検出する技術が開示されている。また、特開2000-289092号公報(特許文献2)には、走行中のストランドに支持される位置に配置した検出アームが、ストランドが切断した際に自重で下降することを利用して、ストランドの切断を検出する技術が開示されている。これらの技術によれば、ストランドの切断を早期に発見できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-276439号公報
【文献】特開2000-289092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1および特許文献2の技術によっては、ストランドが切断する異常を早期に発見できる一方で、ストランドが合一する異常は発見できなかった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、ストランドが切断する異常および合一する異常の双方を発見できる監視装置、監視方法、および監視プログラムの実現が求められる。
【0009】
本発明に係る第一の監視装置は、複数のストランドを吐出するストランド製造機器を監視する監視装置であって、前記ストランドの吐出方向と交差する検知軸上に配列する複数の検知点に係る座標および測定温度の組である温度情報セットを生成可能な温度検知部と、ある瞬間における前記温度情報セットである現在温度情報セットと、前記ストランドが正常に吐出されている状態における前記温度情報セットである基準セットとの比較に基づいて、当該瞬間において前記ストランドの吐出状態に異常が生じているか否かを判断可能な演算部と、を備え、前記演算部は、前記現在温度情報セットまたは前記基準セットについて、前記座標に対して前記測定温度をプロットした曲線において前記測定温度が極大値を取る極大値座標を特定可能であり、前記現在温度情報セットの前記極大値座標の個数と、前記基準セットの前記極大値座標の個数と、を比較して、前記現在温度情報セットの前記極大値座標の個数が、前記基準セットの前記極大値座標の個数より少なく、かつ、前記現在温度情報セットの少なくとも1つの前記極大値座標における前記測定温度が、当該現在温度情報セットの他の前記極大値座標における前記測定温度に比べて、所定の基準を超えて高いときに、少なくとも2本の前記ストランドが合一する態様の異常が生じていると判断することを特徴とする。
本発明に係る第二の監視装置は、複数のストランドを吐出するストランド製造機器を監視する監視装置であって、前記ストランドの吐出方向と交差する検知軸上に配列する複数の検知点に係る座標および測定温度の組である温度情報セットを生成可能な温度検知部と、ある瞬間における前記温度情報セットである現在温度情報セットと、前記ストランドが正常に吐出されている状態における前記温度情報セットである基準セットとの比較に基づいて、当該瞬間において前記ストランドの吐出状態に異常が生じているか否かを判断可能な演算部と、を備え、前記演算部は、前記現在温度情報セットまたは前記基準セットについて、前記座標に対して前記測定温度をプロットした曲線において前記測定温度が極大値を取る極大値座標を特定可能であり、前記現在温度情報セットの前記極大値座標の個数が、前記基準セットの前記極大値座標の個数より少なく、かつ、前記現在温度情報セットのすべての前記極大値座標における前記測定温度が、所定の基準範囲内の値であるときに、少なくとも1本の前記ストランドが切断する態様の異常が生じていると判断することを特徴とする。
本発明に係る第三の監視装置は、複数のストランドを吐出するストランド製造機器を監視する監視装置であって、前記ストランドの吐出方向と交差する検知軸上に配列する複数の検知点に係る座標および測定温度の組である温度情報セットを生成可能な温度検知部と、ある瞬間における前記温度情報セットである現在温度情報セットと、前記ストランドが正常に吐出されている状態における前記温度情報セットである基準セットとの比較に基づいて、当該瞬間において前記ストランドの吐出状態に異常が生じているか否かを判断可能な演算部と、を備え、前記演算部は、前記現在温度情報セットまたは前記基準セットについて、前記座標に対して前記測定温度をプロットした曲線において前記測定温度が極大値を取る極大値座標を特定可能であり、前記現在温度情報セットの前記極大値座標の個数が、前記基準セットの前記極大値座標の個数と一致し、かつ、前記現在温度情報セットの前記極大値とあらかじめ定められた基準温度との差異が所定の閾値より大きい前記極大値座標が存在するときに、前記ストランドの温度が異常であると判断することを特徴とする。
本発明に係る第四の監視装置は、複数のストランドを吐出するストランド製造機器を監視する監視装置であって、前記ストランドの吐出方向と交差する検知軸上に配列する複数の検知点に係る座標および測定温度の組である温度情報セットを生成可能な温度検知部と、ある瞬間における前記温度情報セットである現在温度情報セットと、前記ストランドが正常に吐出されている状態における前記温度情報セットである基準セットとの比較に基づいて、当該瞬間において前記ストランドの吐出状態に異常が生じているか否かを判断可能な演算部と、を備え、前記吐出方向に沿って離間する少なくとも2つの前記検知軸を有し、前記ストランド製造機器に近い側に位置する第1検知軸において取得した第1現在温度情報セットに基づいて、前記ストランドの温度に係る異常の有無を判断し、かつ、前記ストランド製造機器から遠い側に位置する第2検知軸において取得した第2現在温度情報セットに基づいて、前記ストランドの合一または切断に係る異常の有無を判断することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る第一の監視方法は、複数のストランドを吐出するストランド製造機器を監視する監視方法であって、ある瞬間における、前記ストランドの吐出方向と交差する検知軸上に配列する複数の検知点に係る座標および測定温度の組である現在温度情報セットと、前記ストランドが正常に吐出されている状態における前記複数の検知点に係る座標および測定温度の組である基準セットと、を特定する工程と、前記現在温度情報セットおよび前記基準セットについて、前記座標に対して前記測定温度をプロットした曲線において前記測定温度が極大値を取る極大値座標を特定する工程と、前記現在温度情報セットの前記極大値座標の個数と、前記基準セットの前記極大値座標の個数と、を比較して、前記現在温度情報セットの前記極大値座標の個数が、前記基準セットの前記極大値座標の個数より少なく、かつ、前記現在温度情報セットの少なくとも1つの前記極大値座標における前記測定温度が、当該現在温度情報セットの他の前記極大値座標における前記測定温度に比べて、所定の基準を超えて高いときに、少なくとも2本の前記ストランドが合一する態様の異常が生じていると判断する工程と、を備えることを特徴とする。
本発明に係る第二の監視方法は、複数のストランドを吐出するストランド製造機器を監視する監視方法であって、ある瞬間における、前記ストランドの吐出方向と交差する検知軸上に配列する複数の検知点に係る座標および測定温度の組である現在温度情報セットと、前記ストランドが正常に吐出されている状態における前記複数の検知点に係る座標および測定温度の組である基準セットと、を特定する工程と、前記現在温度情報セットおよび前記基準セットについて、前記座標に対して前記測定温度をプロットした曲線において前記測定温度が極大値を取る極大値座標を特定する工程と、前記現在温度情報セットの前記極大値座標の個数が、前記基準セットの前記極大値座標の個数より少なく、かつ、前記現在温度情報セットのすべての前記極大値座標における前記測定温度が、所定の基準範囲内の値であるときに、少なくとも1本の前記ストランドが切断する態様の異常が生じていると判断する工程と、を備えることを特徴とする。
本発明に係る第三の監視方法は、複数のストランドを吐出するストランド製造機器を監視する監視方法であって、ある瞬間における、前記ストランドの吐出方向と交差する検知軸上に配列する複数の検知点に係る座標および測定温度の組である現在温度情報セットと、前記ストランドが正常に吐出されている状態における前記複数の検知点に係る座標および測定温度の組である基準セットと、を特定する工程と、前記現在温度情報セットおよび前記基準セットについて、前記座標に対して前記測定温度をプロットした曲線において前記測定温度が極大値を取る極大値座標を特定する工程と、前記現在温度情報セットの前記極大値座標の個数が、前記基準セットの前記極大値座標の個数と一致し、かつ、前記現在温度情報セットの前記極大値とあらかじめ定められた基準温度との差異が所定の閾値より大きい前記極大値座標が存在するときに、前記ストランドの温度が異常であると判断する工程と、を備えることを特徴とする。
本発明に係る第四の監視方法は、複数のストランドを吐出するストランド製造機器を監視する監視方法であって、ある瞬間における、前記ストランドの吐出方向と交差する検知軸上に配列する複数の検知点に係る座標および測定温度の組である現在温度情報セットと、前記ストランドが正常に吐出されている状態における前記複数の検知点に係る座標および測定温度の組である基準セットと、を、少なくとも2つの前記検知軸について特定する工程と、前記ストランド製造機器に近い側に位置する第1検知軸において取得した第1現在温度情報セットに基づいて、前記ストランドの温度に係る異常の有無を判断し、かつ、前記ストランド製造機器から遠い側に位置する第2検知軸において取得した第2現在温度情報セットに基づいて、前記ストランドの合一または切断に係る異常の有無を判断する工程と、を備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る第一の監視プログラムは、複数のストランドを吐出するストランド製造機器を監視する監視プログラムであって、コンピュータにおいて実行されたときに、ある瞬間における、前記ストランドの吐出方向と交差する検知軸上に配列する複数の検知点に係る座標および測定温度の組である現在温度情報セットと、前記ストランドが正常に吐出されている状態における前記複数の検知点に係る座標および測定温度の組である基準セットと、を特定する機能と、前記現在温度情報セットおよび前記基準セットについて、前記座標に対して前記測定温度をプロットした曲線において前記測定温度が極大値を取る極大値座標を特定する機能と、前記現在温度情報セットの前記極大値座標の個数と、前記基準セットの前記極大値座標の個数と、を比較して、前記現在温度情報セットの前記極大値座標の個数が、前記基準セットの前記極大値座標の個数より少なく、かつ、前記現在温度情報セットの少なくとも1つの前記極大値座標における前記測定温度が、当該現在温度情報セットの他の前記極大値座標における前記測定温度に比べて、所定の基準を超えて高いときに、少なくとも2本の前記ストランドが合一する態様の異常が生じていると判断する機能と、前記コンピュータに実現させることを特徴とする。
本発明に係る第二の監視プログラムは、複数のストランドを吐出するストランド製造機器を監視する監視プログラムであって、コンピュータにおいて実行されたときに、ある瞬間における、前記ストランドの吐出方向と交差する検知軸上に配列する複数の検知点に係る座標および測定温度の組である現在温度情報セットと、前記ストランドが正常に吐出されている状態における前記複数の検知点に係る座標および測定温度の組である基準セットと、を特定する機能と、前記現在温度情報セットおよび前記基準セットについて、前記座標に対して前記測定温度をプロットした曲線において前記測定温度が極大値を取る極大値座標を特定する機能と、前記現在温度情報セットの前記極大値座標の個数が、前記基準セットの前記極大値座標の個数より少なく、かつ、前記現在温度情報セットのすべての前記極大値座標における前記測定温度が、所定の基準範囲内の値であるときに、少なくとも1本の前記ストランドが切断する態様の異常が生じていると判断する機能と、を前記コンピュータに実現させることを特徴とする。
本発明に係る第三の監視プログラムは、複数のストランドを吐出するストランド製造機器を監視する監視プログラムであって、コンピュータにおいて実行されたときに、ある瞬間における、前記ストランドの吐出方向と交差する検知軸上に配列する複数の検知点に係る座標および測定温度の組である現在温度情報セットと、前記ストランドが正常に吐出されている状態における前記複数の検知点に係る座標および測定温度の組である基準セットと、を特定する機能と、前記現在温度情報セットおよび前記基準セットについて、前記座標に対して前記測定温度をプロットした曲線において前記測定温度が極大値を取る極大値座標を特定する機能と、前記現在温度情報セットの前記極大値座標の個数が、前記基準セットの前記極大値座標の個数と一致し、かつ、前記現在温度情報セットの前記極大値とあらかじめ定められた基準温度との差異が所定の閾値より大きい前記極大値座標が存在するときに、前記ストランドの温度が異常であると判断する機能と、を前記コンピュータに実現させることを特徴とする。
本発明に係る第四の監視プログラムは、複数のストランドを吐出するストランド製造機器を監視する監視プログラムであって、コンピュータにおいて実行されたときに、ある瞬間における、前記ストランドの吐出方向と交差する検知軸上に配列する複数の検知点に係る座標および測定温度の組である現在温度情報セットと、前記ストランドが正常に吐出されている状態における前記複数の検知点に係る座標および測定温度の組である基準セットと、を、少なくとも2つの前記検知軸について特定する機能と、記ストランド製造機器に近い側に位置する第1検知軸において取得した第1現在温度情報セットに基づいて、前記ストランドの温度に係る異常の有無を判断し、かつ、前記ストランド製造機器から遠い側に位置する第2検知軸において取得した第2現在温度情報セットに基づいて、前記ストランドの合一または切断に係る異常の有無を判断する機能と、を前記コンピュータに実現させることを特徴とする。
【0012】
これらの構成によれば、ストランド製造装置から吐出されるストランド自体の温度に基づいて、ストランドの吐出状態に異常が生じているか否かを判断するので、切断および合一のいずれの異常も発見できる。
第一の監視装置、監視方法、および監視プログラムによれば、極大値座標の個数に基づいてストランドの本数が明らかになるため、ストランド合一および切断をより発見しやすく、特にストランドが合一する異常を正確に検出しやすい。
第二の監視装置、監視方法、および監視プログラムによれば、極大値座標の個数に基づいてストランドの本数が明らかになるため、ストランド合一および切断をより発見しやすく、特にストランドが切断する異常を正確に検出しやすい。
第三の監視装置、監視方法、および監視プログラムによれば、極大値座標の個数に基づいてストランドの本数が明らかになるため、ストランド合一および切断をより発見しやすく、さらに、ストランドの温度の異常を検出しうる。
第四の監視装置、監視方法、および監視プログラムによれば、ストランドの吐出直後の温度に基づいて温度異常の有無を判断できるので、ストランドの温度を正確に判断しやすい。また、ストランドの合一および切断が起こりうる領域の最下流に近い位置の温度に基づいて合一および切断の有無を判断するため、ストランドの吐出状態を正確に判断しやすい。
【0013】
以下、本発明の好適な態様について説明する。ただし、以下に記載する好適な態様例によって、本発明の範囲が限定されるわけではない。
【0014】
本発明に係る監視装置は、一態様として、前記基準セットは、前記吐出状態が正常であると判断された最新の前記現在温度情報セットであることが好ましい。
【0015】
この構成によれば、最新の正常状態を基準として異常の有無を判断できるので、生産条件の軽微変更などがあった場合であっても、監視装置の設定を変更する必要性が少ない。
【0016】
本発明に係る監視装置は、一態様として、前記演算部は、前記現在温度情報セットまたは前記基準セットについて、前記座標に対して前記測定温度をプロットした曲線において前記測定温度が極大値を取る極大値座標を特定可能であり、前記現在温度情報セットの前記極大値座標の個数が、前記基準セットの前記極大値座標の個数との比較に基づいて、前記吐出状態に異常が生じているか否かを判断可能であることが好ましい。
【0017】
この構成によれば、極大値座標の個数に基づいてストランドの本数が明らかになるため、ストランド合一および切断をより発見しやすい。
【0018】
本発明に係る監視装置は、一態様として、前記演算部は、前記現在温度情報セットの前記極大値座標の配置を、前記吐出状態に異常が生じているか否かのさらなる判断材料とすることが好ましい。
【0019】
この構成によれば、ストランドの配置が変化しやすい合一と、正常なストランドの配置が変化しにくい切断とを、区別して検出しやすい。
【0020】
本発明に係る監視装置は、一態様として、前記演算部は、前記現在温度情報セットまたは前記基準セットについて、有効データとして取り扱う温度の最小値であるフィルタ値を、前記曲線における最大値と最小値との間の値から選択して設定可能であり、前記極大値座標の前後で前記曲線が前記フィルタ値を取る2つの座標の間に形成されるピークの幅であるピーク幅を、前記吐出状態に異常が生じているか否かのさらなる判断材料とすることが好ましい。
【0021】
この構成によれば、極大値座標の個数およびピーク幅の両方が変化しやすい合一と、極大値座標の個数は変化するがピーク幅は変化しにくい切断とを、区別して検出しやすい。
【0030】
本発明のさらなる特徴と利点は、図面を参照して記述する以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本実施形態に係るペレット化装置の概要図
図2】本実施形態に係るペレット化装置のダイ付近の平面概略図
図3】ストランドが正常な状態における温度情報セットのプロット例
図4】ストランドの合一が生じた場合の平面概略図
図5】ストランドの合一が生じた場合における温度情報セットのプロット例
図6】ストランドの切断が生じた場合の平面概略図
図7】ストランドの切断が生じた場合における温度情報セットのプロット例
図8】ストランドの重なりが生じた場合の平面概略図
図9】ストランドの重なりが生じた場合における温度情報セットのプロット例
図10】本実施形態に係る判断フローを示す図
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明に係る監視装置、監視方法、および監視プログラムの実施形態について、図面を参照して説明する。以下では、本発明に係る監視装置を、樹脂材料をペレット化するペレット化装置Pに含まれる押出機E(ストランド製造機器の例)を監視する監視装置1に適用した例について説明する。
【0033】
〔監視対象の概要〕
本実施形態に係る監視装置1について説明する前提として、ペレット化装置Pの概要について説明する(図1)。ペレット化装置Pは、押出機E、冷却水槽B、ペレタイザーCを備える。押出機Eは、熱可塑性樹脂材料を融点以上に加熱して溶融流動する状態にし、数ミリメートル大の吐出口を有するダイDから連続的に吐出する。ダイから吐出された樹脂材料はストランドSとなり、ペレタイザーCによって連続的に引き取られ、冷却水槽B中の水の中を通過して融点以下に冷却された後に、ペレタイザーCに到達する。ペレタイザーCは、ストランドSを数ミリメートル長に切断し、数ミリメートル大のペレットを製造する。
【0034】
なお、本実施形態では、ダイDが7つの吐出口を有する例について説明する(図2)。7つの吐出口から吐出されたストランドS(S~S)は、冷却水槽Bに貯留された水の中に配置されたガイドBsによって案内され、水中に進入する。
【0035】
ペレット化装置Pを用いてペレット化される対象となる樹脂材料は、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂である。ペレット化にあたっては、ストランドSを吐出できるだけの流動性を確保するため、ペレット化する樹脂材料の融点より十分に高い温度に加熱する必要がある。そのため、ダイDの設定温度は、たとえば、ポリエチレンのペレット化においては180℃程度であり、ポリプロピレンのペレット化においては200℃程度である。また、上記に例示した樹脂材料以外の場合であっても、ダイDの設定温度は室温より遥かに高い100~400℃程度であることが典型的である。したがって、ダイDから吐出された直後のストランドSの温度も、室温より十分に高い。
【0036】
ペレット化装置Pによるペレットの製造において、ストランドSが互いに合一してしまう異常が生じうる。ダイDから吐出された直後のストランドSは融点以上の温度であり、ある程度の流動性を有している。そのため、隣り合うストランドS同士が接触すると、互いに貼り付いて合一してしまう。そして、複数のストランドSが合一した状態で冷却水槽Bの水に進入するため、合一した状態のまま冷却され、互いに離れなくなる。最終的に、複数のストランドSが合一したままペレタイザーCで切断されるため、ストランド複数本分の断面積を有するペレットが得られる。このようなペレットは、本来意図されるペレットより大きいため、不良品になりうる。また、通常想定されるよりも断面積の大きいストランドがペレタイザーCに導入されるため、ペレタイザーCの刃部を傷めるおそれがある。
【0037】
また、ペレット化装置Pによるペレットの製造において、ストランドSが切断する異常が生じうる。何らかの原因によりストランドSが張力を受けた場合、かかる張力がストランドSの溶融状態における引張強度を上回ると、ストランドSが切断する。ストランドSが切断すると、当該ストランドSはペレタイザーCに案内されずにダイDの下方に堆積するため、ペレットの生産に寄与しなくなる。
【0038】
ペレットの安定的な生産を継続するため、上記のような異常を早期に発見し、復旧作業を行うことが求められる。本実施形態に係る監視装置1は、これらの異常を速やかに検出し、作業員に対して復旧作業の必要性を報知する。
【0039】
〔監視装置の構成〕
監視装置1は、サーモカメラ2と、コンピュータ3(演算部の例)とを備える(図1)。サーモカメラ2とコンピュータ3とは通信可能に接続されており、サーモカメラ2が撮影した画像に係るデータをコンピュータ3により演算処理することにより、押出機Eの監視を行う。
【0040】
本明細書において、「サーモカメラ」とは、検査対象の物体の表面温度の分布を可視化する装置をいう。たとえば、物体の表面から放射される赤外線を検出し、その赤外線の強度に基づいて物体の表面温度の分布を可視化する装置が一般に流通している。本実施形態におけるサーモカメラ2は、一般に流通する公知のサーモカメラである。
【0041】
本実施形態に係るサーモカメラ2は、ダイDから吐出されたストランドSをダイDおよび冷却水槽Bの上方から撮影する。具体的には、サーモカメラ2は、少なくとも図2中に破線21で示した範囲を撮影しうる。
【0042】
なお、以降の説明において、図2に符号21、22、および23で示した各部をそれぞれ、「撮影範囲21」、「第1検知軸22」、および「第2検知軸23」という。第1検知軸22および第2検知軸23は、撮影範囲21の横方向に平行であり、ストランドSの吐出方向に交差する。
【0043】
〔監視方法〕
サーモカメラ2が生成する撮影データ(元データ)は、撮影範囲21を縦横それぞれの方向に等間隔に区分した各区分についての[横方向座標,縦方向座標,測定温度]の3つの値からなる組の群として構成されている。コンピュータ3は、サーモカメラ2から、撮影範囲21に係る撮影データを受信する。
【0044】
まず、ストランドSの吐出状態が正常な場合について、ストランドSの状態、生成される撮影データ、および演算処理結果について説明する。なお、ストランドSの吐出状態が正常な場合とは、ダイDから吐出されたストランドS~Sがいずれも合一も切断もせずに冷却水槽BおよびペレタイザーCに案内され、かつ、ストランドSの温度があらかじめ定められた所定の工程管理値範囲内にある状態をいう。
【0045】
コンピュータ3は、撮影データのうちの第1検知軸22上の各点について、[横方向座標,測定温度]の2つの値からなる第1現在温度情報セットを抽出する。また同様に第2検知軸23上の各点について、第2現在温度情報セット(現在温度情報セットの例)を抽出する。なお、コンピュータ3は、サーモカメラ2が生成した元データから第1現在温度情報セットおよび第2現在温度情報セットを抽出するのであり、第1現在温度情報セットおよび第2現在温度情報セットの生成自体はサーモカメラ2により行われている。
【0046】
図3は、第2現在温度情報セットをプロットした例であり、極大値31と極小値32とが交互に表れることが看取できる。ここで、7つの極大値31は第2検知軸23上のストランドS~Sの温度にそれぞれ対応する。
【0047】
コンピュータ3は、測定温度が極大値31を取る極大値座標x~x、および、測定温度が極小値32を取る極小値座標t~tを特定する。また、プロットの最大値と最小値との間の温度Tfをフィルタ値として設定し、測定温度がTf以上のデータのみを有効データとして取り扱う。すなわち、Tfは有効データとして取り扱う温度の最小値である。そして、図3に示すように、測定温度Tfにおけるピーク幅w~wを特定する。
【0048】
コンピュータ3は、極大値座標の個数に基づいて、ストランドSの本数を認識する。本実施形態では、撮影データに基づいて認識したストランドSの本数と、正常な状態のストランドSの本数とが一致する。
【0049】
また、コンピュータ3は、第1検知軸22上の極大値に基づいて、ストランドS~Sの温度を決定する。
【0050】
このとき同時に、監視装置1の使用者により、ストランドSの吐出状態の目視確認が行われる。使用者が、目視確認によりストランドSの吐出状態が正常であることを確認した旨をコンピュータ3に入力すると、コンピュータ3は、当該入力時点における第2現在温度情報セットを、基準セットとして登録する。この操作により、コンピュータ3に、正常状態における温度情報セットの例が、基準セットとして登録されたことになる。
【0051】
その後、コンピュータ3は、上記と同様の手順により、第1現在温度情報セットおよび第2現在温度情報セットを定期的に取得する。そして、取得した第2現在温度情報セット(現在温度情報セットの例)に基づいて認識されるストランドSの本数を、基準セットに基づいて認識された正常状態におけるストランドSの本数と比較し、両者が一致する場合は測定時点においてストランドSの本数が正常であると判断する。また、取得した第1現在温度情報セットに基づいて決定されるストランドS~Sの温度を、あらかじめ定められた基準温度と比較し、全てのストランドS~Sについて両者の差異が所定の基準値内にある場合は、ストランドS~Sの温度が正常であると判断する。そして、ストランドSの本数および温度がいずれも正常であると判断したとき、コンピュータ3は、ストランドSの吐出状態が正常であると判断する。
【0052】
コンピュータ3は、ストランドSの吐出状態が正常であると判断したとき、かかる判断の根拠となった第2現在温度情報セットによって、基準セットを更新する。すなわち、基準セットは、常に、ストランドSの吐出状態が正常であると判断された最新の第2現在温度情報セットに更新される。
【0053】
次に、ストランドSの合一が生じた場合について、ストランドSの状態、生成される温度情報セット、および演算処理結果について説明する。以降の説明では、2本のストランド(ストランドSおよびS)が合一した場合を例として説明する。図4に示すように、ストランドSとSとが冷却水槽Bの水に進入する前に接触して合一し、一体のストランドS2+3として水に進入している場合である。
【0054】
図5は、図4に示した状態について、第2現在温度情報セットをプロットした例である。図3に示したプロットと比較して、以下の相違点がある。
【0055】
まず、図5において極大値座標の個数は6であり、基準セット(図3)の極大値座標の個数7より少ない。また、図5において、他の極大値31より突出して高い測定温度を示す高極大値33が存在する。加えて、測定温度が高極大値33を取る高極大値座標x2+3は、基準セットに見られる極大値座標x~xのいずれとも大きく異なる。さらに、高極大値33を示すピークのピーク幅w2+3は、基準セットに見られるピーク幅w~wのいずれよりも大きい。これらはストランドの本数や放熱性の変化、またはストランドの合一による極大値の位置ズレなどにより生じるものである。
【0056】
以上のように、ストランドSの合一が生じた場合、第2現在温度情報セットのプロットに明確な変化が生じる。コンピュータ3は、これらの変化に基づいて、ストランドSが合一する態様の異常が生じていると判断する。
【0057】
続いて、ストランドSの切断が生じた場合について、ストランドSの状態、生成される温度情報セット、および演算処理結果について説明する。以降の説明では、ストランドSが切断した場合を例として説明する。図6に示すように、ストランドSが冷却水槽Bの水に進入する前に切断している。
【0058】
図7は、図6に示した状態について、第2現在温度情報セットをプロットした例である。図3に示したプロットと比較して、以下の相違点がある。
【0059】
図7において極大値座標の個数は6であり、基準セット(図3)の極大値座標の個数7より少ない。一方、図7において、極大値座標x~x、x、およびxは、基準セットと比べてほとんど変化していない。
【0060】
以上のように、ストランドSの切断が生じた場合も、第2現在温度情報セットのプロットに明確な変化が生じる。また、その変化の態様は、ストランドSの合一が生じた場合とも明らかに異なる。コンピュータ3は、これらの変化に基づいて、ストランドSが切断する態様の異常が生じていると判断する。
【0061】
なお、図8に示すように、ストランドSが第2検知軸23において上下方向に離間して重なっている場合、各ストランドは独立に正常に吐出されているので、異常と判断するべきではない。しかし、この場合も、合一および切断の異常が生じている場合と同様に、極大値座標の個数が基準セットにおける極大値座標の個数より少なくなる(図9)。しかしこの場合は、各ストランドが独立に存在し、通常通り放熱されるため、ストランドが重なる部分に対応する極大値31´は他の極大値31と同等である。したがって、図9のプロットは図5(合一)とも図7(切断)とも態様が異なるので、コンピュータ3はストランドSの吐出状態が異常ではないと判断できる。このように、極大値座標の個数および配置、極大値自体、ならびにピーク幅を判断材料とすることにより、ストランドSの吐出状態が異常であるか否かを正確に判断できる。
【0062】
〔本実施形態に係る判断フロー〕
以上の実施形態を総括し、図10により、本実施形態に係る監視装置1における、異常が生じているか否かを判断する判断フローを示す。サーモカメラ2による撮影が行われる(100)と、生成された撮影データがコンピュータ3に転送される(110)。コンピュータ3は、第2検知軸23上の各点について第2現在温度情報セットを抽出し、その極大値座標の数を基準セットと比較する(120)。
【0063】
極大値座標の数が基準セットと一致する場合、コンピュータ3は、第1検知軸22上の各点について第1現在温度情報セットを抽出する。そして、抽出した第1現在温度情報セットの各極大値を、あらかじめ定められた基準温度と比較する(131)。
【0064】
第1現在温度情報セットに、あらかじめ定められた基準温度との差異があらかじめ定められた閾値を超える極大値が存在する場合、コンピュータ3は、ストランドSの温度が異常であると判断する(143)。このとき、コンピュータ3は、使用者に対して温度異常を知らせるアラームを発報する(144)。一方、そのような極大値が存在しない場合、コンピュータ3は、ストランドSの吐出状態が正常であると判断する(141)。このとき、コンピュータ3は、第2現在温度情報セットによって基準セットを更新する(142)。その後、再び撮影工程(100)に戻り、押出機Eの監視を継続する。
【0065】
極大値座標の数が基準セットと一致しない場合、コンピュータ3は、第2現在温度情報セットにおけるピーク幅と、あらかじめ定められたピーク幅の基準値とを比較する(132)。第2現在温度情報セットにおけるピーク幅と、ピーク幅の基準値との差異が、いずれのピークにおいても所定の閾値を超えない場合、コンピュータ3は、ストランドSが切断する態様の異常が生じていると判断する(145)。このとき、コンピュータ3は、使用者に対して異常を知らせるアラームを発報する(146)。
【0066】
第2現在温度情報セットにおけるピーク幅と、ピーク幅の基準値との差異が所定の閾値を超えるピークがある場合、コンピュータ3は、第2現在温度情報セットにおける極大値座標の配置と、基準セットにおける極大値座標の配置とを比較する(133)。
【0067】
第2現在温度情報セットに、基準セットにおける各極大値座標からの変位が基準値を超える極大値座標が存在する場合、コンピュータ3は、ストランドSが合一する態様の異常が生じていると判断する(147)。このとき、コンピュータ3は、使用者に対して異常を知らせるアラームを発報する(146)。
【0068】
第2現在温度情報セットの全ての極大値座標について、基準セットにおける各極大値座標からの変位が基準値以内である場合、コンピュータ3は、第2現在温度情報セットにおける測定温度の各極大値を他の極大値と比較する(133)。具体的には、測定温度が他の極大値より大きい高極大値が存在するか否かを判定する。
【0069】
高極大値が存在する場合、コンピュータ3は、ストランドSが合一する態様の異常が生じていると判断する(147)。このとき、コンピュータ3は、使用者に対して異常を知らせるアラームを発報する(146)。
【0070】
高極大値が存在しない場合、コンピュータ3は、ストランドSが上下に重なった状態が撮影されたと判断する(148)。この場合、コンピュータ3はストランドSの吐出状態が正常であると判断する。このとき、コンピュータ3は、第2現在温度情報セットに対して、ストランドSが上下に重なった状態を表すと判断されたピークを補正する処理を行った上で、基準セットを更新する(149)。
【0071】
なお、切断または合一の異常生産に及ぼす影響が大きいため、温度異常に比べて重要である。そのため、切断または合一の異常を報知するアラーム(146)と、温度異常を報知するアラーム(144)とは、使用者がその重要度の違いを認識できる態様で、それぞれ発報される。たとえば、アラームの発報に際して発される音、光、画面表示などの態様が互いに異なる。
【0072】
〔その他の実施形態〕
最後に、本発明に係る監視装置、監視方法、監視プログラムのその他の実施形態について説明する。なお、以下のそれぞれの実施形態で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0073】
上記の実施形態では、監視装置1が、温度検知部としてのサーモカメラ2と、演算部としてのコンピュータ3とを別体に備える構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、本発明に係る監視装置は、温度検知部および演算部を一体に備えてもよい。
【0074】
上記の実施形態では、監視装置1が、温度検知部としてのサーモカメラ2を備える構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、本発明に係る温度検知部は、ストランドの吐出方向と交差する検知軸上に配列する複数の検知点に係る座標および測定温度の組である温度情報セットを生成可能である以上、任意の態様であってよい。たとえば、接触式または非接触式の温度測定装置を、ストランドの吐出方向と交差する軸上に複数台設置し、各温度計の配置場所と検出温度との組を、座標および測定温度の組としてもよい。かかる温度測定装置としては、熱電対、赤外温度計、などが例示される。
【0075】
上記の実施形態では、第1検知軸22および第2検知軸23の双方について、温度情報セット(第1現在温度情報セットおよび第2現在温度情報セット)が生成される構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、本発明に係る温度検知部は、少なくとも1つの検知軸に係る温度情報セットを生成可能であればよい。
【0076】
上記の実施形態では、第1検知軸22がストランドSのダイDから吐出された直後の部分に位置し、第2検知軸23がストランドSの冷却水槽B中の水に進入する直前の部分に配置される構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、本発明に係る監視装置における検知軸は、ストランドの吐出方向と交差して配置されている限り、任意の位置に配置されうる。ただし、上記の実施形態のように、ストランドの温度が周囲の温度より十分に高く、かつ、ストランドの合一および切断の不具合が起こりうる領域に検知軸を配置することが好ましい。特に、上記の実施形態における第2検知軸23のように、ストランドの合一および切断の不具合が起こりうる領域の最下流域に検知軸を配置することが、より好ましい。
【0077】
上記の実施形態では、コンピュータ3が、基準セットを、ストランドSの吐出状態が正常であると判断された最新の第2現在温度情報セットに更新する構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、本発明に係る監視装置において、基準セットは更新されなくてもよい。たとえば、基準セットとして、あらかじめ定められた正常状態に係る温度情報セットや、一連の生産が開始した当初の正常状態に係る温度情報セットを、一貫して用いてもよい。また、本発明に係る監視装置において基準セットが更新される場合、吐出状態が正常であると判断された最新の前記現在温度情報セットによって常に基準セットを更新する必要はなく、その更新間隔は任意に設定されうる。
【0078】
上記の実施形態では、コンピュータ3が、現在温度情報セットと基準セットとを比較し、現在温度情報セットについての、極大値座標の個数および配置、極大値自体、ならびにピーク幅を比較することで、合一または切断の異常が発生していると判断する構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、本発明に係る演算部は、現在温度情報セットと基準セットとを、任意の方法で比較しうる。たとえば、極大値座標の間隔、プロットの曲線形状などを比較しうる。また、必ずしも上記の実施形態のように極大値座標の個数および配置、極大値自体、ならびにピーク幅の全てを比較しなくてもよい。
【0079】
上記の実施形態では、本発明が監視対象とするストランド製造装置が押出機Eである構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、本発明に係る監視装置は、複数の紐状体が連続的に吐出されるストランド製造装置であれば、任意の装置を監視しうる。また、本発明が監視対象とするストランド製造装置が押出機である場合、当該押出機は、単軸押出機、二軸押出機、多軸押出機など、任意の押出機であってよい。
【0080】
上記の実施形態では、本発明が、樹脂材料のストランドを吐出する押出機Eを監視対象とする構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、本発明に係る監視装置は、複数の紐状体が連続的に吐出されるストランド製造装置である以上、任意の材料のストランドを吐出する製造装置であってよい。そのような材料としては、樹脂材料のほか、たとえば、金属、繊維、食品などが例示される。
【0081】
その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の範囲はそれらによって限定されることはないと理解されるべきである。当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜改変が可能であることを容易に理解できるであろう。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変された別の実施形態も、当然、本発明の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、たとえば、ペレット化装置に含まれる押出機の監視装置として利用することができる。
【符号の説明】
【0083】
1 :監視装置
2 :サーモカメラ
3 :コンピュータ
21 :撮影範囲
22 :第1検知軸
23 :第2検知軸
31 :極大値
32 :極小値
33 :高極大値
P :ペレット化装置
E :押出機
D :ダイ
B :冷却水槽
Bs :ガイド
C :ペレタイザー
S :ストランド
図1
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