(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-06
(45)【発行日】2022-10-17
(54)【発明の名称】発電システム、及びその負荷投入方法
(51)【国際特許分類】
H02J 9/08 20060101AFI20221007BHJP
H02P 9/04 20060101ALI20221007BHJP
【FI】
H02J9/08
H02P9/04 J
(21)【出願番号】P 2019071231
(22)【出願日】2019-04-03
【審査請求日】2021-11-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】望月 祥平
(72)【発明者】
【氏名】松村 章二朗
【審査官】右田 勝則
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-190688(JP,A)
【文献】特開2007-006595(JP,A)
【文献】特開2002-152977(JP,A)
【文献】特開2016-205860(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 9/08
H02P 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンにより回転駆動されて発電を行う発電機と、
前記発電機に対して利用者側の複数の電力負荷を解並列可能な電力負荷遮断器と、
前記エンジンを駆動させた状態で前記電力負荷遮断器を解列状態から並列状態へ切り換えて前記発電機に対して前記電力負荷を投入する電力負荷投入処理を実行し、前記発電機の出力電圧が規定電圧に維持されるように前記エンジンの出力を制御するエンジン出力制御を実行する発電制御部と、前記エンジンの始動時点からの経過時間に応じて決定される前記エンジンへ投入可能な定格負荷に対する割合である負荷投入率を記憶する記憶部を有する発電システムであって、
前記記憶部は、夫々の前記電力負荷の消費電力を記憶するものであり、
前記エンジンの現時点での周囲環境の状態を示す周囲環境状態指標、又は前記エンジンの現時点での運転状態を示す運転状態指標の少なくとも何れか一方に基づいて、前記記憶部に記憶される前記負荷投入率を補正した補正負荷投入率を導出する補正負荷投入率導出部と、
次に並列状態となっている前記電力負荷の消費電力の和が、前記補正負荷投入率導出部にて導出された現時点での前記補正負荷投入率と前記エンジンの定格負荷との積算値以下となるように、複数の前記電力負荷の中から次に解列状態から並列状態へ移行させる前記電力負荷を決定する電力負荷決定部とを備える発電システム。
【請求項2】
前記エンジンに吸気される吸気温度を計測する吸気温度計測部を備え、
前記補正負荷投入率導出部は、前記吸気温度計測部にて計測された前記吸気温度を前記周囲環境状態指標とし、前記吸気温度が高いほど前記補正負荷投入率を低い値とする請求項1に記載の発電システム。
【請求項3】
前記エンジンのエンジンオイルの温度であるオイル温度を計測するオイル温度計測部を備え、
前記補正負荷投入率導出部は、前記オイル温度計測部にて計測されたオイル温度を前記運転状態指標とし、前記オイル温度が低いほど前記補正負荷投入率を低い値とする請求項1又は2に記載の発電システム。
【請求項4】
前記記憶部は、複数の前記電力負荷の夫々の重要度を記憶しており、
前記電力負荷決定部は、次に並列状態となる前記電力負荷の消費電力が、前記補正負荷投入率導出部にて導出された現時点での前記補正負荷投入率と前記エンジンの定格負荷との積算値以下となる条件を満たすことを前提として、複数の前記電力負荷の中から次に解列状態から並列状態へ移行する前記電力負荷を前記重要度の高いものから順に選択して決定する請求項1~3の何れか一項に記載の発電システム。
【請求項5】
エンジンにより回転駆動されて発電を行う発電機と、前記発電機に対して利用者側の複数の電力負荷を解並列可能な電力負荷遮断器と、前記エンジンを駆動させた状態で前記電力負荷遮断器を解列状態から並列状態へ切り換えて前記発電機に対して前記電力負荷を投入する電力負荷投入処理を実行し、前記発電機の出力電圧が規定電圧に維持されるように前記エンジンの出力を制御するエンジン出力制御を実行する発電制御部と、前記エンジンの始動時点からの経過時間に応じて決定される前記エンジンへ投入可能な定格負荷に対する割合である負荷投入率を記憶する記憶部を有する発電システムの負荷投入方法であって、
前記記憶部は、夫々の前記電力負荷の消費電力を記憶するものであり、
前記エンジンに吸気される燃焼用空気に影響する前記エンジンの現時点での周囲環境状態指標、又は前記エンジンの現時点での運転状態指標の少なくとも何れか一方に基づいて、前記記憶部に記憶される前記負荷投入率を補正した補正負荷投入率を導出する補正負荷投入率導出処理と、
次に並列状態となっている前記電力負荷の消費電力の和が、前記補正負荷投入率導出処理にて導出された現時点での前記補正負荷投入率と前記エンジンの定格負荷との積算値以下となるように、複数の前記電力負荷の中から次に解列状態から並列状態へ移行させる前記電力負荷を決定する電力負荷決定処理とを実行する負荷投入方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンにより回転駆動されて発電を行う発電機と、前記発電機に対して利用者側の複数の電力負荷を解並列可能な電力負荷遮断器と、前記エンジンを駆動させた状態で前記電力負荷遮断器を解列状態から並列状態へ切り換えて前記発電機に対して前記電力負荷を投入する電力負荷投入処理を実行し、前記発電機の出力電圧が規定電圧に維持されるように前記エンジンの出力を制御するエンジン出力制御を実行する発電制御部と、前記エンジンの始動時点からの経過時間に応じて決定される前記エンジンへ投入可能な定格負荷に対する割合である負荷投入率を記憶する記憶部を有する発電システム、及びその負荷投入方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気機器などの電力負荷を設けた施設では、通常、商用電力系統から受電した基準電圧(例えば6600V)及び基準周波数(例えば60Hz)の受電電力が当該電力負荷に供給される。また、施設には、例えば商用電力系統に連系して発電を行って、基準電圧及び基準周波数の発電電力を電力負荷に供給可能なコージェネレーションシステムなどの発電システムが設けられる場合がある。
このような発電システムとして、商用電力系統からの受電が停止する停電時において、商用電力系統から発電機を切り離した状態で、発電機を駆動するエンジンを起動させて発電機の自立運転を行い、発電機の発電電圧が確立し安定して発電が行えるようになった段階で、停電時の給電対象とする電力負荷の一部又は全部の特定負荷を発電機に投入して、特定負荷への給電を継続するように構成されたものが知られている(例えば特許文献1を参照。)。
当該発電システムにおいて、特に、都市ガスを燃料とするガスエンジンの場合、定格負荷以下であっても過大な負荷が一度に投入された場合、負荷の急変にエンジンが追従できず、運転が不安定となったり、ストールしてしまったりする場合がある。
そのため、例えば、
図4に示すように、エンジンの始動時点からの経過時間と定格負荷に対する負荷の投入率である負荷投入率との負荷投入関係が制御装置の記憶部に記憶され、当該負荷投入関係に基づいて、エンジンへの負荷投入がなされる。特に、エンジンの始動時点の後で最初に投入できる負荷の割合は、初期負荷投入率として定義され、例えば、定格負荷が1000kWのコージェネレーションシステムのエンジンでは初期負荷投入率35%程度に設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記発電システムに係るエンジンにおいては、通常、初期負荷投入率が定格負荷に対する割合として、機種毎に固定の値が定められているが、エンジンの始動時点の直後に投入できる負荷は、エンジンの現時点での周囲環境の状態(例えば、外気温度)や、エンジンの現時点での運転状態(例えば、暖気状態)に応じて変化するものであるが、現状の発電システムは、これらまで考慮したものになっておらず、改善の余地があった。
【0005】
本発明は、かかる点に着目してなされたものであり、その目的は、エンジンにより発電機を回転駆動する発電システムにおいて、停電時等において発電機に投入される電力負荷をより実情に沿ったものとして、エンジンの運転を安定したものとして、排気エミッションの増加やストール等をより効果的に抑制できる技術を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための発電システムは、
エンジンにより回転駆動されて発電を行う発電機と、
前記発電機に対して利用者側の複数の電力負荷を解並列可能な電力負荷遮断器と、
前記エンジンを駆動させた状態で前記電力負荷遮断器を解列状態から並列状態へ切り換えて前記発電機に対して前記電力負荷を投入する電力負荷投入処理を実行し、前記発電機の出力電圧が規定電圧に維持されるように前記エンジンの出力を制御するエンジン出力制御を実行する発電制御部と、前記エンジンの始動時点からの経過時間に応じて決定される前記エンジンへ投入可能な定格負荷に対する割合である負荷投入率を記憶する記憶部を有する発電システムであって、その特徴構成は、
前記記憶部は、夫々の前記電力負荷の消費電力を記憶するものであり、
前記エンジンの現時点での周囲環境の状態を示す周囲環境状態指標、又は前記エンジンの現時点での運転状態を示す運転状態指標の少なくとも何れか一方に基づいて、前記記憶部に記憶される前記負荷投入率を補正した補正負荷投入率を導出する補正負荷投入率導出部と、
次に並列状態となっている前記電力負荷の消費電力の和が、前記補正負荷投入率導出部にて導出された現時点での前記補正負荷投入率と前記エンジンの定格負荷との積算値以下となるように、複数の前記電力負荷の中から次に解列状態から並列状態へ移行させる前記電力負荷を決定する電力負荷決定部とを備える点にある。
【0007】
上記目的を達成するための発電システムの負荷投入方法は、
エンジンにより回転駆動されて発電を行う発電機と、前記発電機に対して利用者側の複数の電力負荷を解並列可能な電力負荷遮断器と、前記エンジンを駆動させた状態で前記電力負荷遮断器を解列状態から並列状態へ切り換えて前記発電機に対して前記電力負荷を投入する電力負荷投入処理を実行し、前記発電機の出力電圧が規定電圧に維持されるように前記エンジンの出力を制御するエンジン出力制御を実行する発電制御部と、前記エンジンの始動時点からの経過時間に応じて決定される前記エンジンへ投入可能な定格負荷に対する割合である負荷投入率を記憶する記憶部を有する発電システムの負荷投入方法であって、その特徴構成は、
前記記憶部は、夫々の前記電力負荷の消費電力を記憶するものであり、
前記エンジンに吸気される燃焼用空気に影響する前記エンジンの現時点での周囲環境状態指標、又は前記エンジンの現時点での運転状態指標の少なくとも何れか一方に基づいて、前記記憶部に記憶される前記負荷投入率を補正した補正負荷投入率を導出する補正負荷投入率導出処理と、
次に並列状態となっている前記電力負荷の消費電力の和が、前記補正負荷投入率導出処理にて導出された現時点での前記補正負荷投入率と前記エンジンの定格負荷との積算値以下となるように、複数の前記電力負荷の中から次に解列状態から並列状態へ移行させる前記電力負荷を決定する電力負荷決定処理とを実行する点にある。
【0008】
上記特徴構成によれば、従来は固定値として定められていた負荷投入率を、補正負荷投入率導出部が、エンジンの現時点での周囲環境の状態を示す周囲環境状態指標、又はエンジンの現時点での運転状態を示す運転状態指標の少なくとも何れか一方に基づいて、負荷投入率を補正して補正負荷投入率を導出するから、現時点でのエンジンの周囲環境状態や運転状態をも加味して負荷の投入率を補正負荷投入率として導出できる。
更に、電力負荷決定部が、次に並列状態となっている電力負荷の消費電力の和が、補正負荷投入率とエンジンの定格負荷との積算値以下となるように、複数の電力負荷の中から次に解列状態から並列状態へ移行させる電力負荷を決定することで、現時点での周囲環境状態や運転状態に応じて、次に並列状態となる電力負荷を投入できるから、エンジンの運転状態を安定なものとして排気エミッションの増加や、ストールを効果的に抑制できる発電システムを実現できる。
【0009】
発電システムの更なる特徴構成は、
前記エンジンに吸気される吸気温度を計測する吸気温度計測部を備え、
前記補正負荷投入率導出部は、前記吸気温度計測部にて計測された前記吸気温度を前記周囲環境状態指標とし、前記吸気温度が高いほど前記補正負荷投入率を低い値とする点にある。
【0010】
上記特徴構成によれば、周囲環境状態指標として、吸気温度計測部にて計測された吸気温度を用い、吸気温度が高いほど補正負荷投入率を低い値とするから、吸気温度が高くなるほど新気の体積が膨張して実質的な意味での新気の吸気量が減少し、実質的な意味での負荷投入率が減少することを、補正負荷投入率に反映できる。
【0011】
発電システムの更なる特徴構成は、
前記エンジンのエンジンオイルの温度であるオイル温度を計測するオイル温度計測部を備え、
前記補正負荷投入率導出部は、前記オイル温度計測部にて計測されたオイル温度を前記運転状態指標とし、前記オイル温度が低いほど前記補正負荷投入率を低い値とする点にある。
【0012】
上記特徴構成によれば、運転状態指標として、オイル温度計測部にて計測されたオイル温度を用い、オイル温度が低いほど補正負荷投入率を低い値とするから、オイル温度が低くなるほどエンジンの暖気が進んでおらず運転状態が不安定であり、実質的な意味での負荷投入率が減少することを、補正負荷投入率として反映できる。
【0013】
発電システムの更なる特徴構成は、
前記記憶部は、複数の前記電力負荷の夫々の重要度を記憶しており、
前記電力負荷決定部は、次に並列状態となっている前記電力負荷の消費電力が、前記補正負荷投入率導出部にて導出された現時点での前記補正負荷投入率と前記エンジンの定格負荷との積算値以下となる条件を満たすことを前提として、複数の前記電力負荷の中から次に解列状態から並列状態へ移行する前記電力負荷を前記重要度の高いものから順に選択して決定する点にある。
【0014】
電力負荷には、電力供給が途絶えた場合の影響が大きい重要負荷がある。
上記特徴構成によれば、重要度の高いものから順に次に解列状態から並列状態へ移行する電力負荷を選択していくことを、次に並列状態となっている電力負荷の消費電力が、補正負荷投入率導出部にて導出された現時点での補正負荷投入率とエンジンの定格負荷との積算値以下となる条件を満たすことを前提として実行するから、エンジンの安定運転を維持してストールを効果的に抑制しながらも、重要負荷に対して優先的に給電できるから、より適切な給電状態を実現できる発電システムを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態に係る発電システムの概略構成図である。
【
図2】停電時における発電システムの発電制御の処理フロー図である。
【
図3】補正負荷投入率の補正の傾向を示すグラフ図である。
【
図4】エンジン始動時点からの経過時間と負荷投入率を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態に係る発電システム100は、エンジン10aにより発電機10bを回転駆動する発電システムにおいて、停電時等において発電機10bに投入される電力負荷をより実情に沿ったものとして、エンジン10aの運転を安定したものとして、排気エミッションの増加やストール等をより効果的に抑制できるものに関する。
以下、
図1~3に基づいて当該実施形態に係る発電システム100について説明する。
【0017】
図1に示す発電システム100は、商用電力系統1から受電した受電電力を消費する電力負荷Fを有する事業所などの施設に設けられて、当該商用電力系統1からの受電が停止する停電が発生したときに、複数の電力負荷Fに対して、発電装置10で発電した発電電力を供給するシステムとして構成されている。尚、商用電力系統1から受電した受電電力は、電力線3に供給される。当該受電電力は、第3電力負荷遮断器K3、変圧器20、第4電力負荷遮断器K4などを介して電力線9に接続される電力負荷Fに供給される。
当該電力負荷Fは、コンプレッサ、ポンプ、エレベータ、医療機器などの非常用設備などのように、施設の全電力負荷のうち一部の電力負荷とされており、停止するとその影響が大きい重要負荷が含まれている。また、電力負荷Fの電力線9に対する接続部には、電力負荷Fの消費電力を計測する電力負荷消費電力計測器5が設けられている。
【0018】
かかる発電システム100には、発電装置10と、この発電装置10の運転制御などを行う発電制御装置15(発電制御部の一例)とが設けられている。上記発電装置10は、商用電力系統1の受電電力と同じ基準電圧(例えば6600V)及び基準周波数(例えば60Hz)の発電電力を電力負荷Fに供給可能なものとして構成されている。更に、発電装置10は、発電に伴って熱を発生するコージェネレーションシステムとして構成されている。
【0019】
上記発電装置10は、発電機10bをエンジン10aで駆動する形態で発電を行って発電電力を出力する一般的な発電装置として構成されている。図示は省略するが、この発電装置10には、発電機10bの発電電力を基準電圧及び基準周波数に変換する電力変換器や、バッテリーの蓄電電力を利用してエンジン10aを起動させるセルモータ等が設けられている。そして、発電制御装置15は、外部からの電力供給がない状態でも、エンジン10aをセルモータにより自立起動することができ、また、エンジン10aの回転速度を所望の定格回転速度に設定する形態で、発電機10bの出力電圧が規定電圧に維持されるように、エンジン10aの出力を制御するエンジン出力制御を実行する。
発電装置10の出力側は、第2電力負荷遮断器K2を介して電力線8に接続されており、この電力線8は、第3電力負荷遮断器K3を介して電力線9に接続されている。
即ち、第2電力負荷遮断器K2及び第3電力負荷遮断器K3は、発電機10bに対して電力負荷Fを解列自在に構成されている。
【0020】
発電システム100には、商用電力系統1から電力線3が受電する受電電圧を計測する系統連系保護継電器2が設けられている。即ち、この系統連系保護継電器2は、受電電圧の計測結果を監視し、その結果から商用電力系統1からの受電が停止する停電を検出する停電検出部として働く。
一方、発電制御装置15は、詳細については後述するが、系統連系保護継電器2の計測結果により停電が検出された停電時に、第1電力負荷遮断器K1を解列状態に切り換えて商用電力系統1から電力線3を切り離したうえで、エンジン10aを起動させた状態で、第2電力負荷遮断器K2及び第3電力負荷遮断器K3を解列状態から並列状態に切り換えて発電機10bに対して電力負荷Fを投入する電力負荷投入処理を実行する。尚、この電力負荷Fのように、エンジン10aの起動後に発電機10bに投入される電力負荷を初期負荷と呼ぶ場合もある。
【0021】
さて、上述の如く、電力負荷Fを投入する場合、特に、都市ガスを燃料とするガスエンジンにあっては、定格負荷以下であっても過大な負荷が一度に投入された場合、負荷の急変にエンジンが追従できず、運転が不安定となったり、ストールしてしまったりする場合がある。
そのため、例えば、
図4に示すように、エンジン10aの始動時点からの経過時間と定格負荷に対する負荷の投入率である負荷投入率との負荷投入関係が制御装置Cの記憶部Mに記憶されている。そして、当該記憶部Mに当該負荷投入関係に基づいて、エンジン10aへの負荷投入がなされる。例えば、エンジン10aの始動時点から第1経過時間t1が経過した時点においては、定格負荷に初期負荷投入率を積算した部分負荷以下の電力負荷Fが投入されるよう制御される。
【0022】
上述した負荷投入率の適正値は、エンジン10aの現時点での周囲環境の状態を示す周囲環境状態指標(例えば、吸気温度)、又はエンジン10aの現時点での運転状態を示す運転状態指標(例えば、暖気状態:エンジンオイルの温度(以下、オイル温度と略称))に基づいて変動する。
そこで、当該実施形態における発電システム100にあっては、エンジン10aに吸気される吸気温度を計測する吸気温度センサT1(吸気温度計測部の一例)を備えると共に、エンジン10aのオイルパン(図示せず)のオイル温度を計測するオイル温度センサT2(オイル温度計測部の一例)を備える。更に、ソフトウェアとハードウェアとが協働する形態で構成される制御装置Cとして、吸気温度センサT1にて計測される吸気温度及びオイル温度センサT2にて計測されるオイル温度に基づいて、記憶部Mに記憶される負荷投入率を補正した補正負荷投入率を導出する補正負荷投入率導出部C1と、次に並列状態となっている電力負荷Fの消費電力の和が、補正負荷投入率導出部C1にて導出された現時点での補正負荷投入率とエンジン10aの定格負荷との積算値以下となるように、複数の電力負荷Fの中から次に解列状態から並列状態へ移行させる電力負荷Fを決定する電力負荷決定部C2とを備え、電力負荷決定部C2にて決定された電力負荷を投入する電力負荷投入部C3を備える。
【0023】
説明を追加すると、補正負荷投入率導出部C1は、
図3の補正負荷投入率の補正の傾向を示すグラフ図に示すように、吸気温度センサT1にて計測された吸気温度が高いほど補正負荷投入率を低い値とし、オイル温度センサT2にて計測されたオイル温度が低いほど補正負荷投入率を低い値とする。
尚、
図3では、図示を省略しているが、
図3において負荷投入率を減少する補正を行う領域、及び負荷投入率を増加する補正を行う領域の夫々における補正率は、吸気温度及びエンジンオイル温度に応じて段階的又は連続的に変化するものとし、一律の補正率ではないものとする。
【0024】
尚、電力負荷決定部C2は、例えば、停電時においては、次に並列状態となっている電力負荷Fの消費電力の和が、現時点での補正負荷投入率とエンジン10aの定格負荷との積算値以下で、最大の消費電力となるように、複数の電力負荷Fの中から次に解列状態から並列状態へ移行させる電力負荷Fを決定することで、より多くの電力負荷Fに対して電力を供給する制御を実行する。
【0025】
更に、電力負荷決定部C2による次に解列状態から並列状態へ移行する電力負荷Fの決定につき説明を追加する。
電力負荷Fとしては、停止した場合に影響の大きい重要負荷とそれ以外の通常負荷とが存在し、記憶部Mは、複数の電力負荷Fの夫々の重要度を記憶している。
電力負荷決定部C2は、次に並列状態となっている電力負荷Fの消費電力の和が、補正負荷投入率導出部C1にて導出された現時点での補正負荷投入率とエンジン10aの定格負荷との積算値以下となる条件を満たすことを前提として、複数の電力負荷Fの中から次に解列状態から並列状態へ移行する電力負荷Fを重要度の高いものから順に選択して決定する。
【0026】
次に、これまで説明してきた発電システム100が、停電時において実行する停電時の電力負荷投入処理に係る一連の制御フローを、
図2を参照して説明する。
系統連系保護継電器2の計測結果により停電が検出された停電時(ステップ#01のyes側)には、発電制御装置15が、第1電力負荷遮断器K1及び第2電力負荷遮断器K2を解列状態(非通電状態)に切り替えて、発電機10bから電力負荷Fを解列した状態で、蓄電電力によりセルモータを作動して、エンジン10aを自立起動させる(ステップ#02)。すると、エンジン10aの回転速度が上昇し、それに伴って、エンジン10aにより回転駆動される発電機10bの発電電圧が上昇する。
【0027】
次に、発電制御装置15は、エンジン10aの回転速度が定格回転速度に達し、それに伴って、発電機10bの発電電圧が基準電圧に到達して確立されたと判定したときに(ステップ#03のyes側)、補正負荷投入率導出部C1は、例えば回転数計測センサS1の測定結果からエンジン10aが駆動状態にあるか否かを判断すると共に、その時点における吸気温度センサT1及びオイル温度センサT2の計測結果を取得し、吸気温度センサT1にて計測される吸気温度及びオイル温度センサT2にて計測されるオイル温度に基づいて、記憶部Mに記憶される負荷投入率を補正した補正負荷投入率を導出する補正負荷投入率導出処理を実行する(ステップ#04)。
更に、電力負荷決定部C2は、次に並列状態となっている電力負荷Fの消費電力の和が、補正負荷投入率導出部C1にて導出された現時点での補正負荷投入率とエンジン10aの定格負荷との積算値以下となるように、複数の電力負荷Fの中から次に解列状態から並列状態へ移行させる電力負荷Fを決定する電力負荷決定処理を実行する(ステップ#05)。
発電制御装置15が、第2電力負荷遮断器K2及び第3電力負荷遮断器K3を解列状態から並列状態(通電状態)に切り替えると共に、電力負荷投入部C3が、電力負荷決定部C2にて決定された次に解列状態から並列状態へ移行させる電力負荷Fに相当する第4電力負荷遮断器K4を解列状態から並列状態(通電状態)に切り替えて、電力負荷投入処理を実行する(ステップ#06)。
エンジン10aが定格負荷となるか又はエンジン10aの始動時点から所定時間が経過するまで、ステップ#04~06の処理を連続して実行し続ける(ステップ#07)。
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態では、停電時にエンジン10aが起動されて種々の制御が実行される例を示したが、本発明の発電システム100は、停電時に限定して働くものではなく、停電時以外の通常時においても駆動可能である。
【0028】
(2)上記実施形態では、発電システム100は、エンジン10aの現時点での周囲環境の状態を示す周囲環境状態指標(例えば、吸気温度)、又はエンジン10aの現時点での運転状態を示す運転状態指標(例えば、エンジンオイルの温度(以下、オイル温度と略称))の双方に基づいて、補正負荷投入率を導出する構成を示した。
しかしながら、補正負荷投入率は、周囲環境状態指標又は運転状態指標の何れか一方に基づいて導出する構成であっても構わない。
【0029】
(3)周期環境状態指標としては、湿度を採用することもでき、この場合、補正負荷投入率導出部C1は、湿度が高いほど吸気の比熱が高く燃焼室での燃焼が緩慢となり軸出力が低下するため、湿度が高いほど補正負荷投入率を低い値とする制御を実行する。
【0030】
尚、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の発電システムは、エンジンにより発電機を回転駆動する発電システムにおいて、停電時等において発電機に投入される電力負荷をより実情に沿ったものとして、エンジンの運転を安定したものとして、排気エミッションの増加やストール等をより効果的に抑制できる発電システムとして、有効に利用可能である。
【符号の説明】
【0032】
10 :発電装置
10a :エンジン
10b :発電機
15 :発電制御装置
100 :発電システム
C :制御装置
C1 :補正負荷投入率導出部
C2 :電力負荷決定部
F :電力負荷
M :記憶部
S1 :回転数計測センサ
T1 :吸気温度センサ
T2 :オイル温度センサ