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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-06
(45)【発行日】2022-10-17
(54)【発明の名称】複合材料シート製造装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 70/06 20060101AFI20221007BHJP
   B29C 70/54 20060101ALI20221007BHJP
   B29B 11/16 20060101ALI20221007BHJP
【FI】
B29C70/06
B29C70/54
B29B11/16
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019075802
(22)【出願日】2019-04-11
(65)【公開番号】P2020049938
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-05-18
(31)【優先権主張番号】P 2018178314
(32)【優先日】2018-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003458
【氏名又は名称】芝浦機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渕上 智規
(72)【発明者】
【氏名】丸山 健一
【審査官】田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/002470(WO,A1)
【文献】特開2012-87190(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/06
B29C 70/54
B29B 11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
載置された熱可塑性樹脂と強化短繊維との堆積物を搬送しつつ、目付けの減少を生じることなく前記熱可塑性樹脂と前記強化短繊維とを一体化させるための無端ベルトと、
前記無端ベルトが巻き掛けられ、前記無端ベルトを循環させる駆動ローラと従動ローラの対と、
前記堆積物のうち前記無端ベルトに接触する面の反対側の上面に接触する第2の無端ベルトと、
前記第2の無端ベルトが巻き掛けられる第2の駆動ローラおよび第2の従動ローラと、
前記無端ベルト上で前記堆積物を加熱する加熱装置と、
前記無端ベルト上で加熱された前記堆積物を冷却する冷却装置と、
を備え、
前記第2の無端ベルトは、前記堆積物の搬送方向における前記加熱装置が配設される範囲には設けられずに前記冷却装置が配設される範囲に設けられ、前記冷却装置で前記堆積物を冷却する範囲で前記堆積物に接触することを特徴とする複合材料シート製造装置。
【請求項2】
前記無端ベルトは、前記堆積物の搬送方向における前記加熱装置が配設される範囲では前記堆積物のうち前記無端ベルトに接触する面の反対側の上面が開放される状態で前記堆積物を載置する、
請求項に記載の複合材料シート製造装置。
【請求項3】
前記第2の無端ベルトは、前記無端ベルトにおける前記堆積物が載置される側の面から、前記堆積物に含まれる前記熱可塑性樹脂と前記強化短繊維との割合が前記無端ベルトに載置された前記堆積物における前記熱可塑性樹脂と前記強化短繊維との割合で、前記無端ベルトに載置されて前記加熱装置によって加熱される前の前記堆積物の目付で空孔率が0vol%のときの厚みである理論厚みの1.0倍より大きい距離で離間する請求項に記載の複合材料シート製造装置。
【請求項4】
前記無端ベルトにおける前記堆積物が載置される側の面と前記第2の無端ベルトとの距離dが、前記理論厚みtに対して、1.1t≦d≦40.0tの範囲内である請求項に記載の複合材料シート製造装置。
【請求項5】
前記無端ベルトにおける前記堆積物が載置される側の面と前記第2の無端ベルトとの距離dが、前記理論厚みtに対して、1.1t≦d≦3.0tの範囲内である請求項に記載の複合材料シート製造装置。
【請求項6】
前記無端ベルトにおける前記堆積物が載置される側の面と前記第2の無端ベルトとの距離dが、前記理論厚みtに対して、1.1t≦d≦2.0tの範囲内である請求項3に記載の複合材料シート製造装置。
【請求項7】
前記無端ベルトにおける前記堆積物が載置される側の面と前記第2の無端ベルトとの距離dが、前記理論厚みtに対して、1.1t≦d≦1.5tの範囲内である請求項3に記載の複合材料シート製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂と強化短繊維との堆積物における熱可塑性樹脂を溶融させることにより熱可塑性樹脂と強化短繊維とを一体化させて、成型前の複合材料シートを連続的に製造する複合材料シート製造装置であって、特に、目付けの減少を生じることなく、所定・所望の強度と等方性を有する複合材料シートを製造可能とするものである。
【背景技術】
【0002】
近年では、金属材料が用いられていた用途に、軽量で高強度の複合基材である複合材料シートが用いられることが多くなっている。複合材料シートとしては、例えば、炭素繊維やアラミド繊維、ガラス繊維等の強化繊維と、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂等の樹脂とを含む繊維強化複合材料を用いた複合材料シートが挙げられる。このような複合材料シートは、強化繊維と樹脂とが複合されたマットを加熱し、樹脂の粘度を低下させた状態で加圧することにより、樹脂を強化繊維に含浸させて製造する。例えば、特許文献1には、炭素繊維等の強化繊維を一方向に引き揃えた一方向連続繊維に、熱可塑性樹脂を含浸により一体化させるプリプレグの製造方法が記載されている。また、特許文献2には、所定の長さでカットしてランダムに配合した短長の強化繊維である短繊維と、粉体状、繊維状、またはシート状の熱可塑性樹脂とによって得られるランダムマットを加熱及び加圧することにより得られる複合材料シートが記載されている。
【0003】
これらのプリプレグや複合材料シートは、所定の製造装置によって製造される。例えば、特許文献1には、プリプレグの製造装置として、駆動ロールと従動ロールとの間に無端ベルトが掛け回されたものが2組使用される製造装置が記載されている。この製造装置では、一方の駆動ロールと従動ロールとに掛け回される無端ベルトと、他方の駆動ロールと従動ロールとに掛け回される無端ベルトとが上下に対向する向きで配置される。また、当該製造装置には、駆動ロールと従動ロールとの間に、予備加熱装置とプレスロールとが配置されている。プリプレグの製造時には、熱可塑性樹脂と一方向連続繊維とを重ね合わせた状態で、製造装置の従動ロール側から無端ベルト同士の間に送り込み、無端ベルトによってプリプレグを搬送しながら予備加熱装置によって熱可塑性樹脂が溶融する温度まで加熱する。プリプレグを加熱したら、対向する無端ベルト同士の間隔が小さくなる方向に、無端ベルトをプレスロールによって加圧することにより、無端ベルト同士の間に挟み込まれながら搬送されるプリプレグを、厚さ方向に加圧する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-105310号公報
【文献】国際公開第2014/007389号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
複合材料シートは、熱可塑性樹脂が溶融した状態で加圧することにより熱可塑性樹脂を強化繊維に含浸させるため、特許文献1では、加圧をする際には、線圧20~50kg/cmで加圧することが記載されており、加熱して加圧した後に冷却することにより、複合材料シートを得ることができる。ここで、特許文献1では、強化繊維に、強化繊維が一方向に引き揃えられた一方向連続繊維を用いるのに対し、特許文献2では、強化繊維として、短繊維が用いられている。
【0006】
複合材料シートの加圧は、熱可塑性樹脂が溶融した状態で加圧するため、複合材料シート中の熱可塑性樹脂が流動性を有する状態で行うことになる。特許文献1のように強化繊維に一方向連続繊維を用いる複合材料シートでは、熱可塑性樹脂の流動が抑制され、複合材料シートの単位面積当たりの重量を示す目付けは減少し難くなっている。
【0007】
これに対し、特許文献2のように、短繊維がランダム配向して配置される複合材料シートでは、強化繊維の長さが短いため、加圧された部分に位置する強化繊維は、溶融状態の熱可塑性樹脂と共に流動する虞がある。これにより、加圧された部分に位置する複合材料シートの目付けが減少するとともに、強化短繊維の配向の状態が変化し、所望の複合材料シートを得難くなるという問題が生じる。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、目付けの減少を生じることなく、所定・所望の強度と等方性を有する複合材料シートを製造することのできる複合材料シート製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る複合材料シート製造装置は、載置された熱可塑性樹脂と強化短繊維との堆積物を搬送しつつ、目付けの減少を生じることなく前記熱可塑性樹脂と前記強化短繊維とを一体化させるための無端ベルトと、前記無端ベルトが巻き掛けられ、前記無端ベルトを循環させる駆動ローラと従動ローラの対と、前記無端ベルト上で前記堆積物を加熱する加熱装置と、前記無端ベルト上で加熱された前記堆積物を冷却する冷却装置と、を備える。
【0010】
また、上述した課題を解決し、目的を達成するために、本実施形態に係る複合材料シートの製造方法は、無端ベルトに載置する熱可塑性樹脂と強化短繊維との堆積物を前記無端ベルトで搬送しながら加熱することにより前記熱可塑性樹脂と前記強化短繊維とを一体化させる複合材料シートの製造方法であって、前記無端ベルトにおける前記堆積物が載置される側の面から、前記堆積物に含まれる前記熱可塑性樹脂と前記強化短繊維との割合が前記無端ベルトに載置された前記堆積物における前記熱可塑性樹脂と前記強化短繊維との割合で、前記無端ベルトに載置された加熱前の前記堆積物の目付で空孔率が0vol%のときの厚みである理論厚みの1.0倍より大きい距離が開放される状態で、前記堆積物を搬送する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る複合材料シート製造装置は、目付けの減少を生じることなく、所定・所望の強度と等方性を有する複合材料シートを製造することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施形態1に係る複合材料シート製造装置の模式図である。
図2図2は、実施形態1に係る複合材料シート製造装置で複合材料シートの加熱、搬送を行う場合の説明図である。
図3図3は、実施形態2に係る複合材料シート製造装置の模式図である。
図4図4は、実施形態2に係る複合材料シート製造装置で複合材料シートの加熱、搬送を行う場合の説明図である。
図5図5は、ベルトギャップに対する目付の変化率を示す図表である。
図6図6は、図5に示す試験結果のグラフである。
図7図7は、ベルトギャップに対する引張強度を示す図表である。
図8図8は、図7に示す試験結果のグラフである。
図9図9は、ベルトギャップに対する目付の変化率と引張強度とをまとめたグラフである。
図10図10は、図9に示すグラフのベルトギャップを、理論厚みtで除算した値で示したグラフである。
図11図11は、実施形態2に係る複合材料シート製造装置の変形例であり、第2無端ベルトを介して冷却のみを行う構成についての説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本開示に係る複合材料シート製造装置の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能、且つ、容易に想到できるもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
【0014】
[実施形態1]
<複合材料シート製造装置1の構成>
図1は、実施形態1に係る複合材料シート製造装置1の模式図である。なお、以下の説明では、複合材料シート製造装置1の通常の使用態様での設置状態における水平方向を、本実施形態1においても水平方向として説明し、上方を本実施形態1においても上方または上側として説明し、下方を本実施形態1においても下方または下側として説明する。
複合材料シート製造装置1は、駆動ローラ10と、従動ローラ15と、無端ベルト20と、加熱装置30と、冷却装置35と、駆動モータ40とを有している。このうち、駆動モータ40は、駆動ローラ10を回転駆動させるための駆動力を発生する駆動部になっており、外部の電源(図示省略)から供給される電力により、駆動力を発生する。
【0015】
駆動ローラ10は、略円柱状の形状で形成され、円柱の軸心を回転軸として回転可能になっており、略水平方向に回転軸が延びる向きで配置されている。また、駆動ローラ10は、動力伝達機構(図示省略)を介して駆動モータ40に接続されており、動力伝達機構を介して駆動モータ40から伝達される駆動力により、回転軸を中心として回転駆動することが可能になっている。なお、動力伝達機構は、シャフトやチェーン、ベルト等、駆動モータ40で発生する動力を駆動ローラ10に対して伝達することが出来る手段であれば、構成は問わない。
【0016】
従動ローラ15は駆動ローラ10と対になって設けられており、駆動ローラ10と同様に略円柱状の形状で形成されて円柱の軸心を回転軸として回転可能になっている。また、従動ローラ15は、回転軸が駆動ローラ10の回転軸と略平行な向きで配置され、上下方向における位置が、駆動ローラ10の上下方向における位置とほぼ同じ位置に配置されている。さらに、従動ローラ15は、無端ベルト20を介して駆動ローラ10から伝達される駆動力により、回転軸を中心として回転することが可能になっている。
【0017】
無端ベルト20は、無端帯状の形状で形成され、駆動ローラ10と従動ローラ15とに巻き掛けられている。これにより、無端ベルト20は、駆動ローラ10の回転駆動時には、駆動ローラ10に沿って駆動ローラ10と従動ローラ15と間で走行することが可能になっており、駆動ローラ10からの駆動力を従動ローラ15に伝達することが可能になっている。無端ベルト20は、例えば、銅、鉄、ステンレス等の金属や、ガラスクロス等によって形成されている。
【0018】
また、無端ベルト20は、駆動ローラ10と従動ローラ15と間で走行することにより、後述する堆積物105(図2参照)を搬送可能になっている。詳しくは、駆動ローラ10と従動ローラ15とが共に、回転軸が水平方向に向かう向きで配置されることにより、無端ベルト20は、駆動ローラ10や従動ローラ15の上側を通る経路と、駆動ローラ10や従動ローラ15の下側を通る経路を有している。このうち、無端ベルト20における、駆動ローラ10や従動ローラ15の上側を通る経路は、搬送経路25になっており、駆動ローラ10や従動ローラ15の下側を通る経路は、戻り経路26になっている。無端ベルト20は、搬送経路25における上側の面が、製造工程の上流側から供給された堆積物105を載置して搬送する搬送面25aになっている。本実施形態1に係る複合材料シート製造装置1は、搬送面25aの上側における、少なくとも無端ベルト20で搬送する堆積物105の高さの範囲は、空間部になっており、いずれの部材も配置されていない。このため、無端ベルト20は、堆積物105を載置する搬送面25aが開放されており、無端ベルト20は、堆積物105のうち無端ベルト20に接触する面の反対側の上面が開放される状態で堆積物105を載置することが可能になっている。
【0019】
加熱装置30は、駆動ローラ10と従動ローラ15との間に配置されており、無端ベルト20によって搬送する堆積物105を無端ベルト20上で加熱する加熱部として設けられている。加熱装置30は、堆積物105に含まれる熱可塑性樹脂が、結晶性樹脂の場合は融点以上の温度に、非結晶性樹脂の場合は軟化点以上の温度またはガラス転移点以上の温度になるように堆積物105を加熱し、熱可塑性樹脂を溶融する。加熱装置30には、無端ベルト20の搬送経路25の一部を覆う炉31が設けられ、炉31の内部には加熱手段である加熱ローラ32が複数配置されている。複数の加熱ローラ32は、それぞれ回転軸が駆動ローラ10や従動ローラ15の回転軸と略平行になる向きで、無端ベルト20の搬送経路25の内周面側に配置されている。加熱ローラ32は、搬送経路25の内周面側から無端ベルト20に接触することにより、無端ベルト20を支持している。このように配置される加熱ローラ32は、発熱可能になっており、無端ベルト20に接触しながら発熱することにより、無端ベルト20で搬送する堆積物105を、無端ベルト20を介して加熱することが可能になっている。加熱装置30に配設される加熱手段は、加熱ローラ32以外のものが用いられていてもよく、例えば、赤外線ヒータ等の非接触の熱源を加熱装置30内に配置してもよい。また、加熱装置30に配設される加熱手段は、種類が異なる複数の加熱手段を併用してもよい。
【0020】
冷却装置35は、駆動ローラ10と従動ローラ15との間における、加熱装置30よりも駆動ローラ10寄りの位置に配置されており、無端ベルト20上で加熱装置30によって加熱された堆積物105を冷却する冷却部として設けられている。冷却装置35には、加熱装置30と同様に無端ベルト20の搬送経路25の一部を覆う炉36が設けられ、炉36の内部には冷却手段である冷却ローラ37が複数配置されている。複数の冷却ローラ37は、それぞれ回転軸が駆動ローラ10や従動ローラ15の回転軸と略平行になる向きで、無端ベルト20の搬送経路25の内周面側に配置されている。冷却ローラ37は、搬送経路25の内周面側から無端ベルト20に接触することにより、無端ベルト20を支持している。このように配置される冷却ローラ37は、例えば、水や油等の冷媒が内部を通っており、冷媒は、冷却ローラ37の内外を循環可能になっている。冷却ローラ37は、無端ベルト20に接触することにより、冷却ローラ37の内部を通る冷媒と無端ベルト20との間で熱交換を行わせることが可能になっており、この熱交換により、無端ベルト20を冷却することが可能になっている。これにより冷却ローラ37は、無端ベルト20で搬送する堆積物105を、無端ベルト20を介して冷却することが可能になっている。冷却装置35に配設される冷却手段は、冷却ローラ37以外のものが用いられていてもよく、例えば、クーラ等により冷風を吹きつけてもよい。また、冷却装置35に配設される冷却手段は、種類が異なる複数の冷却手段を併用してもよい。
【0021】
さらに、複合材料シート製造装置1は、張力調整機構50とガイドローラ55とを有している。張力調整機構50は、駆動ローラ10と従動ローラ15とに巻き掛けられる無端ベルト20の張力を調整することが可能になっている。具体的には、張力調整機構50は、駆動ローラ10と従動ローラ15との間隔を変化させる方向に、駆動ローラ10を油圧シリンダによって移動させることが可能に構成されている。張力調整機構50は、油圧シリンダによって駆動ローラ10を移動させて、駆動ローラ10と従動ローラ15との間隔を調整することにより、無端ベルト20の張力を調整することが可能になっている。
【0022】
なお、張力調整機構50は、これ以外の構成であってもよく、例えば、従動ローラ15を移動させることにより駆動ローラ10と従動ローラ15との間隔を調整してもよい。または、張力調整機構50は、駆動ローラ10や従動ローラ15以外で無端ベルト20に接触するローラを移動させることにより、無端ベルト20の張力を調整するように構成されていてもよい。張力調整機構50は、無端ベルト20の張力を適切に調整することができるものであれば、その構成は問わない。
【0023】
また、ガイドローラ55は、無端ベルト20における内周面側に配置されており、本実施形態1では、駆動ローラ10の下方付近の位置と、従動ローラ15の下方付近の位置とに配置されている。即ち、ガイドローラ55は、無端ベルト20における戻り経路26の内周面側に配置されている。ガイドローラ55は、無端ベルト20の戻り経路26の内周面側から無端ベルト20に接触することにより、無端ベルト20の走行経路を、所望の経路にすることが可能になっている。例えば、ガイドローラ55は、駆動ローラ10や従動ローラ15の円周方向における無端ベルト20の接触範囲を所望の範囲にしたり、戻り経路26の走行経路を、他の機器の配置構成に応じて調整したりすることが可能になっている。
【0024】
<堆積物105の構成>
複合材料シート製造装置1によって連続的に製造する複合材料シート100(図2参照)は、熱可塑性樹脂と強化短繊維とを含む。複合材料シート100に用いられる強化短繊維としては、例えば、炭素繊維やガラス繊維、ポリイミド繊維、高分子繊維、セルロース繊維等が挙げられるが、複合材料シート100に適用可能な強化短繊維であれば、特に限定はしない。適用する繊維は、1種単独であっても、2種以上の組合せであってもよい。本実施形態1では、複合材料シート100の強化短繊維として、炭素繊維の短繊維が使用される。
【0025】
また、本実施形態1に係る複合材料シート製造装置1によって製造する複合材料シート100に用いられる熱可塑性樹脂としては、例えば、ナイロンが挙げられ、複合材料シート100に適用可能な熱可塑性樹脂であれば、特に限定しないが、熱可塑性樹脂はエンジニアリングプラスチックが好ましい。
【0026】
<複合材料シート製造装置1の作用>
本実施形態1に係る複合材料シート製造装置1は、以上のような構成を含み、以下、その作用について説明する。
【0027】
図2は、実施形態1に係る複合材料シート製造装置1で堆積物105の加熱、搬送を行う場合の説明図である。複合材料シート製造装置1は、熱可塑性樹脂と強化短繊維とを含む複合材料シート100の製造時における一つの工程に用いられる。堆積物105は、ランダムに配合した短長の強化繊維である強化短繊維と、粉体状、繊維状、またはシート状の熱可塑性樹脂とを堆積して形成したマット状物の状態で、従動ローラ15側から複合材料シート製造装置1に供給される。
【0028】
堆積物105が供給された複合材料シート製造装置1は、堆積物105を搬送しながら加熱し、堆積物105に含まれる熱可塑性樹脂を溶融させることにより、熱可塑性樹脂を強化短繊維同士の間に入り込ませて、強化短繊維と熱可塑性樹脂とを一体化させる。
【0029】
具体的には、複合材料シート製造装置1によって堆積物105を搬送する際には、駆動モータ40を駆動させ、駆動モータ40で発生する駆動力によって駆動ローラ10を回転駆動させる。駆動ローラ10の回転方向は、駆動ローラ10の外周面における上端寄りの部分が、従動ローラ15が位置する側の反対側に向かう方向になっている。
【0030】
このように回転駆動する駆動ローラ10と従動ローラ15との対には、無端ベルト20が巻き掛けられているため、無端ベルト20は、駆動ローラ10の回転駆動に伴って走行する。無端ベルト20の走行方向は、駆動ローラ10の回転方向に沿った方向になっており、搬送経路25が従動ローラ15側から駆動ローラ10側に向かい、戻り経路26が駆動ローラ10側から従動ローラ15側に向かう方向になっている。
【0031】
複合材料シート製造装置1に供給される堆積物105は、このように走行する無端ベルト20の搬送経路25における、搬送面25aに対して従動ローラ15側から載置される。複合材料シート製造装置1は、駆動ローラ10が回転駆動することにより、搬送経路25が従動ローラ15側から駆動ローラ10側に向かう方向に無端ベルト20が走行するため、堆積物105は、搬送経路25に沿って従動ローラ15側から駆動ローラ10側に移動する。即ち、無端ベルト20は、駆動ローラ10の回転駆動によって駆動ローラ10と従動ローラ15との間で走行することにより、堆積物105を従動ローラ15側から駆動ローラ10側に向けて搬送する。
【0032】
このように、堆積物105を搬送する無端ベルト20の搬送経路25の一部は、加熱装置30の炉31に覆われている。加熱装置30は、加熱ローラ32等の加熱手段により、堆積物105を加熱し、堆積物105に含まれる熱可塑性樹脂を溶融することが可能になっている。このため、搬送経路25に沿って搬送される堆積物105は、加熱装置30を通る際に、熱可塑性樹脂が結晶性樹脂の場合は融点以上の温度に、非結晶性樹脂の場合は軟化点以上の温度またはガラス転移点以上の温度になるように加熱される。これにより、堆積物105に含まれる熱可塑性樹脂は溶融して、流動性を有することになる。
【0033】
ここで、堆積物105のうち無端ベルト20に接触する面の反対側の上面は開放されており、無端ベルト20の搬送面25aの上側における、少なくとも堆積物105の厚さの範囲は空間部になっている。このため、無端ベルト20は、無端ベルト20以外の部材を堆積物105に接触させることなく、堆積物105を搬送することができる。これにより、堆積物105に含まれる熱可塑性樹脂が溶融して流動性を有する状態において、熱可塑性樹脂の流動を抑えつつ堆積物105を搬送することができるため、堆積物105の目付けを減少させることなく搬送することができる。
【0034】
一方で、堆積物105は、加熱装置30で加熱されて熱可塑性樹脂が溶融することにより、熱可塑性樹脂が強化短繊維との親和性によって強化短繊維同士の間に入り込み、熱可塑性樹脂と強化短繊維とが広い接触面積で互いに接触する。これにより、熱可塑性樹脂と強化短繊維とが一体化した状態になる。
【0035】
加熱装置30で加熱されることにより、熱可塑性樹脂と強化短繊維とが一体化した状態の堆積物105は、無端ベルト20による搬送が継続されることにより、加熱装置30と駆動ローラ10との間に位置する冷却装置35に搬送される。冷却装置35は、冷却手段である冷却ローラ37により、無端ベルト20を介して堆積物105の冷却を行うことが可能になっている。このため、搬送経路25に沿って搬送される堆積物105は、冷却装置35を通る際に冷却され、熱可塑性樹脂が固化する。堆積物105は、加熱装置30で加熱されることによって、熱可塑性樹脂と強化短繊維とが一体化した状態になっているため、冷却装置35で冷却されて熱可塑性樹脂が固化した際には、熱可塑性樹脂中に強化短繊維がランダムに配合された複合材料シート100、言い換えれば、ランダムに配合された強化短繊維の間に熱可塑性樹脂が入り込んだ複合材料シート100になる。
【0036】
堆積物105が冷却装置35によって冷却されることにより得られた複合材料シート100は、無端ベルト20による搬送が継続されることにより駆動ローラ10側に向けて移動し、駆動ローラ10が位置する部分から、複合材料シート製造装置1の下流側の工程に向けて搬送される。複合材料シート製造装置1は、このように複合材料シート製造装置1に供給される堆積物105の強化短繊維と熱可塑性樹脂とを一体化させて複合材料シート100にした後、複合材料シート製造装置1の下流側の工程に当該複合材料シート100を送り出す。
【0037】
<実施形態1の効果>
以上の実施形態1に係る複合材料シート製造装置1は、加熱装置30により堆積物105を加熱して熱可塑性樹脂を溶融させた際に、堆積物105の流動を抑制することができる。これにより、複合材料シート100の単位面積当たりの重量を示す目付けの減少を生じることなく、所定・所望の強度と等方性を有する複合材料シート100を製造することができる。
【0038】
また、無端ベルト20は、堆積物105の上面が開放された状態で堆積物105を搬送するため、堆積物105の搬送時に堆積物105が加圧されることがない。これにより、熱可塑性樹脂を溶融させた際に、堆積物105が流動することを、より確実に抑制することができる。この結果、より確実に、目付けの減少を生じることなく、所定・所望の強度と等方性を有する複合材料シート100を製造することができる。
【0039】
[実施形態2]
実施形態2に係る複合材料シート製造装置1は、実施形態1に係る複合材料シート製造装置1と略同様の構成であるが、駆動ローラ10と従動ローラ15と無端ベルト20とが2組が配置される点に特徴がある。他の構成は実施形態1と同様なので、その説明を省略すると共に、同一の符号を付す。
【0040】
<複合材料シート製造装置1の構成>
図3は、実施形態2に係る複合材料シート製造装置1の模式図である。実施形態2に係る複合材料シート製造装置1は、実施形態1に係る複合材料シート製造装置1と同様に、駆動ローラ10と従動ローラ15と無端ベルト20とを有している。また、実施形態2に係る複合材料シート製造装置1は、実施形態1に係る複合材料シート製造装置1とは異なり、駆動ローラ10と従動ローラ15と無端ベルト20とは、無端ベルト20によって搬送する堆積物105の厚さ方向における両側に2組が配置されている。
【0041】
詳しくは、実施形態2に係る複合材料シート製造装置1は、第1ベルトユニット6と第2ベルトユニット7とを有しており、それぞれが駆動ローラ10と従動ローラ15と無端ベルト20とを有している。つまり、第1ベルトユニット6は、第1の駆動ローラ10である第1駆動ローラ11と、第1の従動ローラ15である第1従動ローラ16と、第1の無端ベルト20である第1無端ベルト21とを有している。また、第2ベルトユニット7は、第2の駆動ローラ10である第2駆動ローラ12と、第2の従動ローラ15である第2従動ローラ17と、第2の無端ベルト20である第2無端ベルト22とを有している。
【0042】
また、第1ベルトユニット6は、他に第1の駆動モータ40である第1駆動モータ41と、第1の張力調整機構50である第1調整機構51と、第1のガイドローラ55である第1ガイドローラ56とを有している。同様に、第2ベルトユニット7は、第2の駆動モータ40である第2駆動モータ42と、第2の張力調整機構50である第2調整機構52と、第2のガイドローラ55である第2ガイドローラ57とを有している。これらの第1駆動モータ41や第2駆動モータ42、第1調整機構51、第2調整機構52、第1ガイドローラ56、第2ガイドローラ57は、実施形態1に係る複合材料シート製造装置1の駆動モータ40、張力調整機構50、ガイドローラ55と同等の機能を有している。
【0043】
なお、駆動モータ40は、第1駆動モータ41と第2駆動モータ42との2つを有していなくてもよく、第1ベルトユニット6と第2ベルトユニット7とで駆動モータ40を共用してもよい。即ち、1つの駆動モータ40で発生する駆動力を第1駆動ローラ11と第2駆動ローラ12とに伝達し、第1駆動ローラ11と第2駆動ローラ12とを回転駆動させてもよい。第1駆動ローラ11と第2駆動ローラ12との双方を回転駆動させることができれば、駆動手段の構成は問わない。
【0044】
これらのように構成される第1ベルトユニット6と第2ベルトユニット7とは、相対的に第1ベルトユニット6が下側に配置され、第2ベルトユニット7が第1ベルトユニット6の上側に配置されている。その向きは、第1ベルトユニット6は、実施形態1に係る複合材料シート製造装置1と同様に、第1無端ベルト21の搬送経路25が戻り経路26の上側に位置する向きで配置されている。
【0045】
これに対し、第2ベルトユニット7は、第2無端ベルト22の搬送経路25が、戻り経路26の下側に位置する向きで配置されている。このため、第2ベルトユニット7では、第2ガイドローラ57は、第2駆動ローラ12や第2従動ローラ17の上方に位置している。
【0046】
このように構成される第2ベルトユニット7は、第2無端ベルト22の搬送経路25が、第1ベルトユニット6が有する第1無端ベルト21の搬送経路25に対向する位置関係で、第1ベルトユニット6の上方に配置されている。その際における第1無端ベルト21の搬送経路25と第2無端ベルト22の搬送経路25との間隔は、複合材料シート製造装置1によって搬送する堆積物105の高さと同程度の間隔になっている。即ち、第2無端ベルト22は、第1無端ベルト21での堆積物105の搬送時に、堆積物105のうち第1無端ベルト21に接触する面の反対側の上面に接触するように配置されている。
【0047】
また、第1ベルトユニット6と第2ベルトユニット7とは、第2駆動ローラ12が第1駆動ローラ11の上方付近に位置し、第2従動ローラ17が第1従動ローラ16の上方付近に位置している。このため、第1ベルトユニット6と第2ベルトユニット7とは、第1駆動ローラ11や第2駆動ローラ12の駆動時に、第1無端ベルト21の搬送経路25と第2無端ベルト22の搬送経路25とが、同じ方向に走行する向きで配置されている。
【0048】
一方で、加熱装置30と冷却装置35とは、第1ベルトユニット6と第2ベルトユニット7とで共通のものが用いられている。つまり、加熱装置30は1つの炉31で、第1無端ベルト21の搬送経路25の一部と第2無端ベルト22の搬送経路25の一部とを覆っている。その際に、加熱装置30の加熱ローラ32は、第1無端ベルト21の搬送経路25に接触するものと第2無端ベルト22の搬送経路25に接触するものとがそれぞれ配置されている。同様に、冷却装置35は1つの炉36で、第1無端ベルト21の搬送経路25の一部と第2無端ベルト22の搬送経路25の一部とを覆っており、冷却装置35の冷却ローラ37は、第1無端ベルト21の搬送経路25に接触するものと第2無端ベルト22の搬送経路25に接触するものとがそれぞれ配置されている。
【0049】
第2無端ベルト22は、第1無端ベルト21での堆積物105の搬送時に堆積物105の上面に接触するように配置されているが、具体的には、第2無端ベルト22は、第1無端ベルト21における堆積物105が載置される側の面である搬送面25aから、堆積物105の理論厚みtの1.0倍より大きい距離dで離間している。この場合における堆積物105の理論厚みtは、堆積物105に含まれる熱可塑性樹脂と強化短繊維との割合が、第1無端ベルト21に載置された堆積物105における熱可塑性樹脂と強化短繊維との割合で、第1無端ベルト21に載置されて加熱装置30によって加熱される前の堆積物105の目付で空孔率が0vol%のときの厚みになっている。即ち、堆積物105の理論厚みtは、堆積物105の単位面積当たりの重量が、第1無端ベルト21に載置された堆積物105の単位面積当たりの重量と同じ重量で、且つ、堆積物105の密度が、堆積物105に空孔が存在しない密度の状態における、堆積物105の厚みになっている。また、第1無端ベルト21の搬送面25aと第2無端ベルト22との距離dは、加熱装置30が配置される範囲、或いは、加熱装置30によって加熱を行う範囲における、第1無端ベルト21と第2無端ベルト22との互いに対向する面同士の距離が最も狭い位置での、第1無端ベルト21と第2無端ベルト22との対向面同士の距離になっている。
【0050】
なお、第1無端ベルト21の搬送面25aと第2無端ベルト22との距離dは、理論厚みtに対して、1.0t<d≦40.0tの範囲内であるのが好ましく、1.0t<d≦3.0tの範囲内であるのがより好ましく、1.1t≦d≦3.0tの範囲内であるのがより好ましい。さらに、第1無端ベルト21の搬送面25aと第2無端ベルト22との距離dは、理論厚みtに対して、1.1t≦d≦2.0tの範囲内であるのが好ましく、1.1t≦d≦1.5tの範囲内であるのがより好ましい。
【0051】
<複合材料シート製造装置1の作用>
本実施形態2に係る複合材料シート製造装置1は、以上のような構成を含み、以下、その作用について説明する。図4は、実施形態2に係る複合材料シート製造装置1で堆積物105の加熱、搬送を行う場合の説明図である。実施形態2に係る複合材料シート製造装置1で堆積物105を搬送する際には、第1無端ベルト21の搬送経路25と第2無端ベルト22の搬送経路25とが同じ速度で同じ方向に移動するように、第1駆動モータ41と第2駆動モータ42とを駆動させる。
【0052】
このように第1無端ベルト21と第2無端ベルト22とが走行する複合材料シート製造装置1に対して、堆積物105を供給する際には、第1従動ローラ16や第2従動ローラ17側から、第1無端ベルト21の搬送経路25と第2無端ベルト22の搬送経路25との間に供給する。これにより、2つの無端ベルト20のうちの一方の無端ベルト20である第1無端ベルト21は、堆積物105の搬送時は、搬送面25aに堆積物105に載置する状態になる。これに対し、2つの無端ベルト20のうちの他方の無端ベルト20である第2無端ベルト22は、第1無端ベルト21の搬送面25aに載置される堆積物105を押し付けることなく、堆積物105に接触する。
【0053】
詳しくは、第2無端ベルト22は、第1無端ベルト21の搬送面25aから、堆積物105の理論厚みtの1.0倍より大きい距離dで離間しているため、第2無端ベルト22が堆積物105に接触した際に、堆積物105内で圧力が発生することなく、堆積物105に接触することができる。つまり、堆積物105は、強化短繊維と熱可塑性樹脂とが堆積したマット状物の状態で、第1無端ベルト21の搬送面25aに載置されており、空孔率が大きくなっている。このため、第1無端ベルト21と第2無端ベルト22との距離dが、堆積物105の理論厚みtの1.0倍より大きい場合には、第2無端ベルト22が上面側から接触した堆積物105は、内部で圧力が発生せず、第1無端ベルト21と第2無端ベルト22との距離dと同じ厚さになる。即ち、第2無端ベルト22が上面側から接触した堆積物105は、第1無端ベルト21と第2無端ベルト22とに対して反発力を付与することなく、第1無端ベルト21と第2無端ベルト22との距離dと同じ厚さになる。これにより、第2無端ベルト22は、堆積物105を押し付けることなく、堆積物105に接触する。
【0054】
複合材料シート製造装置1は、このように第1無端ベルト21の搬送面25aに堆積物105に載置し、第2無端ベルト22が堆積物105に接触した状態で、堆積物105を従動ローラ15側から駆動ローラ10側に搬送する。無端ベルト20によって搬送される堆積物105は、第1無端ベルト21の搬送経路25と第2無端ベルト22の搬送経路25との一部を覆う加熱装置30によって両側から加熱される。これにより、堆積物105の熱可塑性樹脂は短時間で溶融して、流動性を有することになる。
【0055】
堆積物105は、このように加熱装置30で加熱されて熱可塑性樹脂が溶融することにより、熱可塑性樹脂と強化短繊維との親和性によって熱可塑性樹脂は強化短繊維同士の間に入り込み、熱可塑性樹脂と強化短繊維とが一体化する。その際に、堆積物105は、第1無端ベルト21と第2無端ベルト22との距離dが堆積物105の理論厚みtの1.0倍より大きいことにより内部で圧力が発生しないため、熱可塑性樹脂は、圧力が高くなることなく強化短繊維同士の間に入り込み、強化短繊維と一体化する。加熱装置30で加熱されることにより、熱可塑性樹脂と強化短繊維とが一体化した状態の堆積物105は、無端ベルト20による搬送が継続されることにより冷却装置35に搬送される。冷却装置35に搬送された堆積物105は、冷却装置35を通る際に冷却され、熱可塑性樹脂が固化される。これにより、堆積物105は、熱可塑性樹脂中に強化短繊維がランダムに配合された複合材料シート100、言い換えれば、ランダムに配合された強化短繊維の間に熱可塑性樹脂が入り込んだ複合材料シート100になる。
【0056】
堆積物105が冷却装置35によって冷却されることにより得られた複合材料シート100は、第1無端ベルト21と第2無端ベルト22とによる搬送が継続されることにより、第1駆動ローラ11や第2駆動ローラ12が位置する側に向けて移動する。これにより、複合材料シート100は、第1駆動ローラ11や第2駆動ローラ12が位置する部分から、複合材料シート製造装置1の下流側の工程に向けて搬送される。複合材料シート製造装置1は、このように複合材料シート製造装置1に供給される堆積物105の強化短繊維と熱可塑性樹脂とを一体化させて複合材料シート100にした後、複合材料シート製造装置1の下流側の工程に複合材料シート100を送り出す。
【0057】
<実施形態2の効果>
以上の実施形態2に係る複合材料シート製造装置1は、堆積物105の搬送時に、堆積物105の高さ方向における両側から第1無端ベルト21と第2無端ベルト22とが接触するため、堆積物105の加熱や冷却を、短時間に効率よく行うことができ、熱可塑性樹脂の劣化を抑えることができる。これにより、堆積物105の熱可塑性樹脂をより確実に溶融させることができ、堆積物105の強化短繊維と熱可塑性樹脂とを、目付けの減少を生じることなく、より確実に一体化させることができる。この結果、より確実に所望の複合材料シート100を製造することができる。
【0058】
また、第2無端ベルト22は、第1無端ベルト21における搬送面25aから、堆積物105の理論厚みtの1.0倍より大きい距離dで離間しているため、堆積物105の内部で圧力を発生させることなく、堆積物105に接触することができる。これにより、堆積物105が加熱されることにより熱可塑性樹脂が溶融した際における、第1無端ベルト21の搬送面25a上での熱可塑性樹脂と強化短繊維との流動を抑制しつつ、熱可塑性樹脂を強化短繊維同士の間に入り込ませることができる。従って、熱可塑性樹脂や強化短繊維の流動に起因する目付けの減少を抑制することができ、堆積物105の強化短繊維と熱可塑性樹脂とを、より確実に目付けの減少を生じさせることなく一体化させることができる。この結果、より確実に所望の複合材料シート100を製造することができる。
【0059】
また、第1無端ベルト21における搬送面25aと第2無端ベルト22との距離dが、堆積物105の理論厚みtに対して、1.0t<d≦40.0tの範囲内である場合は、強化短繊維と熱可塑性樹脂とを、より確実に目付けの減少を生じさせることなく一体化させることができる。つまり、第1無端ベルト21と第2無端ベルト22との距離dが、堆積物105の理論厚みtに対して40.0t以下である場合には、堆積物105の搬送時に、第2無端ベルト22をより確実に堆積物105に接触させ続けることができる。これにより、堆積物105の加熱や冷却を、より確実に効率的に行うことができ、熱可塑性樹脂を効率的に溶融させて強化短繊維同士の間に入り込ませると共に、効率的に冷却することによって、熱可塑性樹脂と強化短繊維とを流動させることなく一体化させることができる。さらに、第1無端ベルト21における搬送面25aと第2無端ベルト22との距離dが、堆積物105の理論厚みtに対して、1.0t<d≦3.0tの範囲内である場合は、第2無端ベルト22をより広い範囲に亘って堆積物105に接触させることができ、堆積物105の加熱や冷却を行う際における効率を、さらに向上させることができる。これにより、より確実に熱可塑性樹脂と強化短繊維とを流動させることなく一体化させることができる。従って、堆積物105の強化短繊維と熱可塑性樹脂とを、より確実に目付けの減少を生じさせることなく一体化させることができる。この結果、より確実に所望の複合材料シート100を製造することができる。
【0060】
<複合材料シート100の製造方法の試験>
発明者らは、熱可塑性樹脂と強化短繊維との堆積物105より複合材料シート100を製造する際に、目付けの減少を生じることなく、所定・所望の強度と等方性を有する複合材料シート100を製造することのできる第1無端ベルト21と第2無端ベルト22との距離dについての試験を行った。次に、第1無端ベルト21と第2無端ベルト22との距離dであるベルトギャップを変化させて複合材料シート100を製造することにより行った、ベルトギャップと、製造された複合材料シート100の特性との関連性についての評価試験について説明する。
【0061】
図5は、ベルトギャップに対する目付の変化率を示す図表である。図6は、図5に示す試験結果のグラフである。ベルトギャップと複合材料シート100の特性とについての試験は、実施形態2に係る複合材料シート製造装置1のように、第1無端ベルト21と第2無端ベルト22とを有する複合材料シート製造装置1を用いて行った。また、この試験では、堆積物105に含まれる熱可塑性樹脂と強化短繊維との割合が、体積比で熱可塑性樹脂:強化短繊維=65%:35%となるものを用いて行った。
【0062】
ベルトギャップと複合材料シート100の特性とについての試験は、図5に示すように、加熱装置30の位置と冷却装置35の位置のベルトギャップを、2.5mm、2.7mm、3.0mm、3.2mm、4.0mm、8.0mmにしたものを、それぞれ試験No.1~5、7とし、加熱装置30の位置でのベルトギャップを8.0mmとし、冷却装置35の位置のベルトギャップを3.2mmとしたものを試験No.6として、7種類のベルトギャップにて試験を行った。
【0063】
この試験では、各ベルトギャップにおいて、加熱装置30によって加熱する前の堆積物105の目付であるプロセス前目付と、加熱装置30による加熱後に冷却装置35により冷却した後の複合材料シート100の目付であるプロセス後目付とをそれぞれ測定した。さらに、プロセス前目付とプロセス後目付とを比較することにより、目付の変化率をベルトギャップごとに求めた。この場合における目付の変化率は、(プロセス後目付/プロセス前目付)を演算することにより求めた。
【0064】
このようにして、ベルトギャップごとの目付の変化率を求めた結果、図5図6に示すように、目付の変化率は、ベルトギャップが大きくなるに従って、プロセス前目付に対するプロセス後目付の変化率が小さくなることが確認された。さらに、ベルトギャップがある一定の大きさ以上では、それ以上ベルトギャップが大きくなっても目付の変化率はあまり変化しないことが確認された。
【0065】
図7は、ベルトギャップに対する引張強度を示す図表である。図8は、図7に示す試験結果のグラフである。ベルトギャップと複合材料シート100の特性とについての試験では、さらに、異なるベルトギャップごとに製造された複合材料シート100の強度を測定した。複合材料シート100の強度は、複合材料シート製造装置1での堆積物105の搬送方向における複合材料シート100の引張試験と、複合材料シート製造装置1によって堆積物105が搬送される際の堆積物105の幅方向における複合材料シート100の引張試験とについて行った。
【0066】
この場合における幅方向は、複合材料シート製造装置1での堆積物105の搬送方向と堆積物105の厚さ方向との双方に直交する方向であり、駆動ローラ10や従動ローラ15の回転軸が延びる方向である。また、引張強度は、それぞれのベルトギャップにおける引張試験の方向ごとの平均引張強度を測定した。
【0067】
このようにして複合材料シート100の引張強度を測定した結果、図7図8に示すように、平均引張強度は、いずれのベルトギャップ、及び引張試験の方向に関わらず、200MPa以上になり、300MPaになることが確認された。複合材料シート100は、引張強度が200MPa以上であれば、実用に耐え得る強度を有していると判断することができる。
【0068】
さらに、複合材料シート100の引張強度については、各ベルトギャップにおける搬送方向の引張強度と幅方向の引張強度との比を算出することにより、複合材料シート100の強度の等方性について確認した。つまり、複合材料シート100の搬送方向の引張強度と幅方向の引張強度との比を算出することにより、複合材料シート100の強度が、張力が作用する方向に変わらず、いずれの方向においても同程度の強度を有しているか否かの確認を行った。複合材料シート100の強度の等方性は、(搬送方向の引張強度/幅方向の引張強度)をベルトギャップごとに演算することにより、複合材料シート100の強度の等方性をベルトギャップごとに確認した。このようにして複合材料シート100の強度の等方性を確認した結果、ある一定のベルトギャップ以上で、複合材料シート100の強度の等方性を得易くなることが確認された。
【0069】
図9は、ベルトギャップに対する目付の変化率と引張強度とをまとめたグラフである。ベルトギャップごとの複合材料シート100の目付の変化率と、引張強度の等方性、即ち、(搬送方向の引張強度/幅方向の引張強度)の演算結果をまとめると、図9のように示すことができる。図9に示すように、試験No.1~7の試験条件では、ベルトギャップが2.7mmよりも大きい場合は、プロセスの前後での目付の変化率が小さく、引張強度の等方性も有することができることが確認された。
【0070】
ここで、試験No.1~7の試験に用いられる堆積物105の理論厚みtは、約2.65mmになる。つまり、理論厚みtは、熱可塑性樹脂と強化短繊維との割合が第1無端ベルト21に載置された堆積物105の熱可塑性樹脂と強化短繊維との割合で、加熱前の堆積物105の目付で空孔率が0vol%のときの厚みになっている。このため、理論厚みtは、(プロセス前目付/複合材料シート100の理論比重)を演算することにより算出することができる。換言すると、理論厚みtは、(プロセス前目付/第1無端ベルト21に載置された堆積物105の熱可塑性樹脂と強化短繊維との割合での堆積物105の比重)を演算することにより算出することができる。
【0071】
この場合における複合材料シート100の理論比重は、(堆積物105における強化短繊維の体積比×強化短繊維の比重)+(堆積物105における熱可塑性樹脂の体積比×熱可塑性樹脂の比重)を演算することにより算出することができる。また、堆積物105における強化短繊維の体積比や、堆積物105における熱可塑性樹脂の体積比は、堆積物105に含まれる強化短繊維や熱可塑性樹脂の体積を、堆積物105に含まれる強化短繊維と熱可塑性樹脂とを合わせた体積で除算することにより算出することができる。試験No.1~7の試験に用いられる堆積物105は、これらの演算により算出される理論厚みtが、約2.65mmになる。
【0072】
図10は、図9に示すグラフのベルトギャップを、理論厚みtで除算した値で示したグラフである。ベルトギャップに対する目付の変化率と引張強度について、理論厚みtを基準として表すと、図10に示すように、ベルトギャップが理論厚みtの1.0倍よりも大きくなる条件で、プロセスの前後での目付の変化率が小さく、引張強度の等方性も有することができることが確認された。つまり、この試験では、第1無端ベルト21に載置する熱可塑性樹脂と強化短繊維との堆積物105を第1無端ベルト21で搬送しながら加熱することにより熱可塑性樹脂と強化短繊維とを一体化させて複合材料シート100の製造する際に、第1無端ベルト21における搬送面25aから、理論厚みtの1.0倍より大きい距離が開放される状態で堆積物105を搬送することにより、目付けの減少を生じることなく、所定・所望の強度と等方性を有する複合材料シート100を製造することができることが確認された。
【0073】
[変形例]
なお、上述した実施形態2では、第2無端ベルト22を介して、加熱装置30と冷却装置35とによって堆積物105の上面側からも加熱や冷却を行うことができるように構成されているが、第2無端ベルト22を介して堆積物105に対して行う加熱や冷却は、いずれか一方であってもよい。図11は、実施形態2に係る複合材料シート製造装置1の変形例であり、第2無端ベルト22を介して冷却のみを行う構成についての説明図である。複合材料シート製造装置1が第1ベルトユニット6と第2ベルトユニット7とを有する場合であっても、第2ベルトユニット7の第2無端ベルト22は、例えば、図11に示すように、加熱装置30が配設される範囲には設けられていなくてもよい。これにより、第2無端ベルト22は、堆積物105の搬送方向における加熱装置30で堆積物105を加熱する範囲では堆積物105に接触せず、冷却装置35で堆積物105を冷却する範囲では堆積物105に接触することができる。
【0074】
複合材料シート製造装置1によって製造された複合材料シート100の目付や強度と等方性は、第1無端ベルト21によって堆積物105を搬送する際における、堆積物105を加熱する範囲でのベルトギャップが影響を及ぼすが、堆積物105を冷却する範囲のベルトギャップは、複合材料シート100の目付や強度と等方性には影響を及ぼさない。一方で、堆積物105を冷却する範囲のベルトギャップは、加熱した堆積物105を冷却する際における冷却性能に影響を及ぼし、例えば、堆積物105を冷却する範囲のベルトギャップが理論厚みtに近い場合、複合材料シート100を冷却する際の冷却効果が高くなる。
【0075】
このため、堆積物105の搬送方向における加熱装置30で堆積物105を加熱する範囲では堆積物105に接触せず、冷却装置35で堆積物105を冷却する範囲では堆積物105に接触するように第2無端ベルト22を配設することにより、複合材料シート100を冷却する際の冷却効果を高めることができる。この結果、目付けの減少を生じることなく、所定・所望の強度と等方性を有する複合材料シート100を、高い冷却効果で製造することができる。
【符号の説明】
【0076】
1…複合材料シート製造装置、6…第1ベルトユニット、7…第2ベルトユニット、10…駆動ローラ、11…第1駆動ローラ、12…第2駆動ローラ、15…従動ローラ、16…第1従動ローラ、17…第2従動ローラ、20…無端ベルト、21…第1無端ベルト、22…第2無端ベルト、25…搬送経路、25a…搬送面、26…戻り経路、30…加熱装置、31…炉、32…加熱ローラ、35…冷却装置、36…炉、37…冷却ローラ、40…駆動モータ、41…第1駆動モータ、42…第2駆動モータ、50…張力調整機構、51…第1調整機構、52…第2調整機構、55…ガイドローラ、56…第1ガイドローラ、57…第2ガイドローラ、100…複合材料シート、105…堆積物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11