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特許7154193酸素還元触媒のためのイオン液体および八面体Pt-Ni-Cu合金ナノ粒子からなる組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-06
(45)【発行日】2022-10-17
(54)【発明の名称】酸素還元触媒のためのイオン液体および八面体Pt-Ni-Cu合金ナノ粒子からなる組成物
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/89 20060101AFI20221007BHJP
   B01J 33/00 20060101ALI20221007BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20221007BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20221007BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20221007BHJP
【FI】
B01J23/89 M
B01J33/00 A
H01M8/10 101
H01M4/90 M
H01M4/86 H
【請求項の数】 20
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019123610
(22)【出願日】2019-07-02
(65)【公開番号】P2020022955
(43)【公開日】2020-02-13
【審査請求日】2021-09-02
(31)【優先権主張番号】16/030,103
(32)【優先日】2018-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】508108718
【氏名又は名称】トヨタ モーター エンジニアリング アンド マニュファクチャリング ノース アメリカ,インコーポレイテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】505395700
【氏名又は名称】ザ ユニバーシティ オブ アクロン
【氏名又は名称原語表記】The University of Akron
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】フーアン カン
(72)【発明者】
【氏名】ゾウ リーチン
(72)【発明者】
【氏名】ジア ホンフェイ
(72)【発明者】
【氏名】加藤 久雄
(72)【発明者】
【氏名】ポン ジェンモン
(72)【発明者】
【氏名】シェン シャオチェン
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0113218(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0177428(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0058185(US,A1)
【文献】Journal of the Electrochemical Society,2017年,vol.164,no.13,p.F1448 -F1459,DOI:10.1149/2.1071713jes
【文献】ACS Catalysis,2015年,vol.5,p.2296 -2300,Supporting Information,DOI:10.1021/cs502112g
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
H01M 8/10
H01M 4/90
H01M 4/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金、ニッケル、及び銅を有する白金合金を含む多孔質八面体ナノ粒子(Pt-Ni-Cu)と、
前記多孔質八面体ナノ粒子に接触しており、1-メチル-2、3、4、6、7、8-ヘキサヒドロ-1H-ピリミド[1、2-a]ピリミジン-9-イウム 1、1、2、2、3、3、4、4、4-ノナフルオロブタン-1-スルホネート([MTBD][CSO])を含む補助アイオノマーと、
を含む、酸素還元反応(ORR)触媒。
【請求項2】
前記多孔質八面体ナノ粒子がニッケルと銅をニッケル:銅のモル比が1:2~2:1の範囲内で含む、請求項1に記載のORR触媒。
【請求項3】
前記多孔質八面体ナノ粒子がニッケルと銅をニッケル:銅のモル比が1:1で含む、請求項2に記載のORR触媒。
【請求項4】
前記多孔質八面体ナノ粒子が白金とニッケルを白金:ニッケルのモル比が1:1~4:1の範囲内で含む、請求項1に記載のORR触媒。
【請求項5】
前記多孔質八面体ナノ粒子が白金とニッケルを白金:ニッケルのモル比が2:1で含む、請求項4に記載のORR触媒。
【請求項6】
前記補助アイオノマーの前記白金合金に対する重量比が1.25:1以上3.85:1以下である、請求項1に記載のORR触媒。
【請求項7】
前記補助アイオノマーの前記白金合金に対する重量比が2:1以上3:1以下である、請求項1に記載のORR触媒。
【請求項8】
前記補助アイオノマーの前記白金合金に対する重量比が2.5:1以上2.6:1以下である、請求項1に記載のORR触媒。
【請求項9】
前記白金合金に接触している高分子アイオノマーを含む、請求項1に記載のORR触媒。
【請求項10】
前記補助アイオノマーが前記白金合金の全体を被覆している、請求項1に記載のORR触媒。
【請求項11】
前記補助アイオノマーが前記白金合金を部分的に被覆している、請求項1に記載のORR触媒。
【請求項12】
記補助アイオノマーが少なくとも部分的に前記多孔質八面体ナノ粒子に含浸している、請求項1に記載のORR触媒。
【請求項13】
酸素還元用のカソードであって、
カソード集電体と、
白金、ニッケル、及び銅を有する白金合金を含む多孔質八面体ナノ粒子(Pt-Ni-Cu)と、
前記多孔質八面体ナノ粒子に接触しており、1-メチル-2、3、4、6、7、8-ヘキサヒドロ-1H-ピリミド[1、2-a]ピリミジン-9-イウム 1、1、2、2、3、3、4、4、4-ノナフルオロブタン-1-スルホネート([MTBD][CSO])を含む補助アイオノマーと、
を備えるカソード。
【請求項14】
前記多孔質八面体ナノ粒子がニッケルと銅をニッケル:銅のモル比が1:2~2:1の範囲内で含む、請求項13に記載のカソード。
【請求項15】
前記多孔質八面体ナノ粒子がニッケルと銅をニッケル:銅のモル比が1:1で含む、請求項14に記載のカソード。
【請求項16】
前記多孔質八面体ナノ粒子が白金とニッケルを白金:ニッケルのモル比が1:1~4:1の範囲内で含む、請求項13に記載のカソード。
【請求項17】
前記多孔質八面体ナノ粒子が白金とニッケルを白金:ニッケルのモル比が2:1で含む、請求項16に記載のカソード。
【請求項18】
前記補助アイオノマーの前記白金合金に対する重量比が2:1以上3:1以下である、請求項13に記載のカソード。
【請求項19】
前記補助アイオノマーの前記白金合金に対する重量比が2.5:1以上2.6:1以下である、請求項13に記載のカソード。
【請求項20】
請求項13に記載のカソードを備える高分子電解質型燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般的には燃料電池に関し、特に燃料電池における酸素還元反応のための改良された触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
ここに設けられた背景技術の記載は本開示の背景を概略的に示すためのものである。現在記載されている発明者の研究は、出願時に別の形で先行技術としての資格を有しない明細書の態様と同様に、背景技術に記載される範囲で、明示または黙示を問わず本技術に対する先行技術として認めるものではない。
【0003】
燃料電池車両(FCV)高分子電解質膜燃料電池(PEMFC)は電力を供給する。PEMFCはFCVのドライブトレーンのコストの相当な部分を占めるため、PEMFCの出力効率の改善は、FCVの経済的実行可能性を向上させるための重要な判定基準である。
【0004】
PEMFCのカソードで起こる酸素還元反応(ORR)は化学反応速度が比較的遅く、電池性能に障害を来す。八面体白金合金触媒は、少なくとも部分的には最適な表面ファセットの構造的な提示により、性能を向上させたことが示されている。しかし、八面体Pt合金触媒の使用には、さらなる改善が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
イオン液体は、低揮発性、広い電位窓、良好なイオン伝導性および良好な化学的安定性を有することから電気化学的応用のための非水性反応媒体として研究されている。ORRプロモーターとしてのイオン液体の使用は、比活性と質量活性の両方の有意な向上をもたらすが、現在これらの活性のさらなる向上のための開発がされている。
【0006】
したがって、PEMFCにおけるORR触媒の活性を高めるために、イオン液体と金属触媒の改良された組み合わせを提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この節では、本開示の概要を示し、その完全な範囲またはその特徴のすべてを包括的に開示しているものではない。
【0008】
種々の態様において、本教示は酸素還元反応(ORR)触媒を提供する。ORR触媒は、白金、ニッケル、及び銅を有する白金合金(Pt-Ni-Cu)を含む八面体ナノ粒子を含む。ORR触媒はさらに、八面体ナノ粒子に接触する補助アイオノマーを含み、当該補助アイオノマーは、1-メチル-2、3、4、6、7、8-ヘキサヒドロ-1H-ピリミド[1、2-a]ピリミジン-9-イウム 1、1、2、2、3、3、4、4、4-ノナフルオロブタン-1-スルホネート([MTBD][CSO])を含む。
【0009】
他の態様において、本教示は酸素還元用のカソードを提供する。カソードはカソード集電体を含む。カソードはさらに白金、ニッケル、銅を有する白金合金(Pt-Ni-Cu)を含む八面体ナノ粒子を含む。カソードはさらに、八面体ナノ粒子に接触する補助アイオノマーを含み、当該補助アイオノマーは、1-メチル-2、3、4、6、7、8-ヘキサヒドロ-1H-ピリミド[1、2-a]ピリミジン-9-イウム 1、1、2、2、3、3、4、4、4-ノナフルオロブタン-1-スルホネート([MTBD][CSO])を含む。
【0010】
適用可能な更なる分野と上記の技術を向上させる様々な方法が本明細書で明らかになる。この概要の説明および具体例は、説明のみを目的としており、本開示の範囲を限定するものではない。
【0011】
本教示は以下の詳細な説明と添付の図面からより深く理解される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1A】本教示のイオン液体を形成する[MTBD]イオン及び[CSOイオンの化学線図である。
図1B図1Aのイオンにより形成されるイオン液体のNMRスペクトルである。
図2A】八面体Pt-Cu-Ni/Cのカソード触媒を有する電気化学セルの0.05V~1.0Vの電位窓を横断するサイクリックボルタモグラムであって、カソード触媒が図1のアイオノマーを有する場合と有さない場合を示す図である。
図2B図2Aの電気化学セルの0.05V~1.0Vの電位窓を横断するライナースイープボルタモグラムである。
図2C図2A及び図2Bの電気化学セルについて、0.05Vから1.0Vまでの電位窓を横断して、0.9VvsRHEにおいて計算された比活性および質量活性を示す図である。
図3A】八面体Pt-Cu-Ni/Cのカソード触媒を有する電気化学セルの0.05V~1.2Vの電位窓を横断するサイクリックボルタモグラムであって、カソード触媒が図1のアイオノマーを有する場合と当該アイオノマーを有さない場合を示す図である。
図3B図2Aの電気化学セルの0.05V~1.2Vの電位窓を横断するライナースイープボルタモグラムである。
図3C図2A及び図2Bの電気化学セルについて、0.05Vから1.2Vまでの電位窓を横断して、0.9VvsRHEにおいて計算された比活性および質量活性を示す図である。
【0013】
ここで説明する図はいくつかの態様の記述を目的として本技術の概略的特徴のうち方法、アルゴリズム、装置の概略的な特徴を例示することを意図している。これら図は態様の特徴を詳細に反映していない可能性があり、必ずしも本技術の範囲内における特定の実施形態を規定したり限定することを意図するものではない。さらに、いくつかの態様は図の組み合わせによる特徴を包含してもよい。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本教示は、酸素還元反応のための改良された燃料電池触媒を提供し、高分子電解質膜燃料電池(PEMFC)の効率を向上させるのに有用である。以下に記載された結果は、本開示のPEMFCに用いられるカソードにおける触媒が、従来の触媒に比べて優れた活性を有することを示す。
【0015】
本開示の触媒は、イオン液体(IL)を含浸させた八面体Pt-Ni-Cu合金が含まれる。特に、八面体PtCuNiナノ粒子を有する従来の触媒は、知られている最も安定で活性な触媒の一つであることが示されているが、補助アイオノマーとしての疎水性イオン液体(1-メチル-2、3、4、6、7、8-ヘキサヒドロ-1H-ピリミド[1、2-a]ピリミジン-9-イウム 1、1、2、2、3、3、4、4、4-ノナフルオロブタン-1-スルホネート([MTBD][CSO]))を含浸させたPtCuNiナノ粒子を有する本開示の触媒は、優れた比活性と質量活性を有する。
【0016】
よって、PEMFCにおいてORRに触媒作用をもたらす触媒組成物(ORR触媒とも言う)を開示する。触媒組成物としては、白金合金ナノ粒子が含まれる。いくつかの実例においては、白金合金のナノ粒子は、炭素等の他の材料の粒子と混合することができる。特に実施例としては、白金合金には、白金、ニッケル、銅の合金(Pt-Ni-Cu)が含まれる。このような場合には、合金中のニッケル:銅のモル比は1:2~2:1の範囲内にあり、特に1:1とすることができる。合金中の白金:ニッケルのモル比は1:1~4:1の範囲内にあり、特に2:1とすることができる。いくつかの例では、合金中の白金:ニッケル:銅のモル比は、2:1:1することができ、式PtNiCuで表される。式PtNiCuの合金は、記載された式からのいくらかの軽微な差異を含むことができる。例えば、Pt50Ni25Cu24の正確な式を有する合金は、おおよそのPtNiCu合金とみなすことができる。
【0017】
一般に、Pt-Ni-Cuナノ粒子は、ナノ粒子全体に白金、ニッケル、及び銅の均一な分布を有することが好ましい。分布の均一性は、例えば、ブラッグの法則及びベガードの法則を用いて得られた格子パラメーターがほぼ同等であることによって測定することができる。多くの実施形態において、Pt-Ni-Cuは面心立方(fcc)単位格子を有することができ、そのナノ粒子は八面体形態を有することができる。
【0018】
いくつかの実例においては、触媒金属粒子は比表面積が少なくとも10m/g、あるいは20m/g、あるいは30m/g、あるいは40m/g、あるいは50m/g、あるいは60m/g、あるいは70m/g、あるいは80m/g、あるいは90m/g、あるいは100m/gである。いくつかの実例においては、触媒金属粒子は最大寸法の平均が100nm未満、もしくは90nm未満、もしくは80nm未満、もしくは70nm未満、もしくは60nm未満、もしくは50nm未満、もしくは40nm未満、もしくは30nm未満、もしくは20nm未満、もしくは10nm未満のナノ粒子である。いくつかの実例においては、触媒組成物は最大寸法の平均が2nm以上5nm以下の白金合金ナノ粒子を含む。いくつかの実例においては、触媒金属粒子は多孔質粒子を含む。
【0019】
本開示の触媒組成物は白金合金ナノ粒子に接触している補助アイオノマーを含む。補助アイオノマーはイオン液体である1-メチル-2、3、4、6、7、8-ヘキサヒドロ-1H-ピリミド[1、2-a]ピリミジン-9-イウム 1、1、2、2、3、3、4、4、4-ノナフルオロブタン-1-スルホネート([MTBD][CSO])を含む。図1は、本教示のイオン液体を形成する[MTBD]イオン及び[CSOイオンの線画を示す。[MTBD][CSO]は、以下により詳しく述べるように、触媒金属粒子と接触するとORR効率と触媒安定性を向上させる。イオン液体と接触している触媒金属粒子を含む触媒を以下では補助アイオノマー触媒と言う。ここで述べる実施形態例のいくつかにおいては、固体触媒は白金粒子と炭素粒子との混合物を含む。そのような触媒の例は、[MTBD][CSO]と接触している場合は、Pt/C-[MTBD][CSO]とも言う。いくつかの実例においては、触媒組成物は固体触媒に接触しているナフィオン(Nafion(登録商標))などの高分子アイオノマーを含んでもよい。
【0020】
いくつかの実例においては、本開示の触媒組成物は白金合金に対する重量比が1.25:1以上3.85:1以下である[MTBD][CSO]を有する。いくつかの実例においては、本開示の触媒組成物は白金合金に対する重量比が2:1以上3:1以下である[MTBD][CSO]を有する。いくつかの実例においては、本開示の触媒組成物は白金合金に対する重量比が2.5:1以上2.6:1以下である[MTBD][CSO]を有する。いくつかの実例においては、触媒金属粒子は全体が[MTBD][CSO]により被覆され、他の実例においては、触媒金属粒子は一部が[MTBD][CSO]により被覆される。いくつかの実例においては、触媒金属粒子は多孔質で[MTBD][CSO]が含浸される。
【0021】
図1Aは本開示のイオン液体を構成する[MTBD]カチオンと[CSO]アニオンを示す。図1Bはイオン液体のNMRスペクトルを示し、その合成と純度を裏付けるものである。
【0022】
ここでは図示しないが、室温、圧力45バール以下で[MTBD][CSO]のO溶解度を測定した。同様に4つの比較となるイオン液体である、[MTBD][beti]、[MTBD][TFSI]、[MTBD][COCSO]、および[MTBD][C13SO]についてもO溶解度を測定し、同様に0.1MのHClOについてもO溶解度を測定した。圧力とモル分率との間には完全な線形の関係があり、1バールにおけるOモル分率([O])はそのグラフから推定される。一次元の質量拡散を用いて下記(1)式により拡散係数(D)を計算する。
【0023】
【数1】
【0024】
(1)式において、初期条件はt=1、0<z<Lの時C=C、であり、境界条件はt>0、z=0、∂C/∂Z=0の時C=Cである。CはILにおけるOの濃度、CはILにおけるOの初期の均質濃度であり、初期数値は0である。Cは飽和濃度である。Lは試料容器内のイオン液体の深さである。Dは一定と仮定した拡散係数である。空間平均O濃度の解析解(<C>)は下記(2)式により決定される。
【0025】
【数2】
【0026】
(2)式において、λ={n+(1/2)}π/Lである。
【0027】
[MTBD][CSO]イオン液体のO拡散性及び比較種であるイオン液体のO拡散性を表1にまとめて示す。ここで、[MTBD][COCSO]、[MTBD][C13SO]、および[MTBD][CSO]は室温では固体なので、室温でのO拡散性の測定はそのままでは不可能である。しかし、[MTBD][COCSO]、[MTBD][C13SO]、および[MTBD][CSO]は[MTBD][TFSI]に溶解するため、混合イオン液体におけるOの溶解度と拡散性は測定可能である。下記(3)式に示すように、個々のO溶解度は、てこの原理により計算される。
【0028】
【数3】
【0029】
(3)式において、XO2はイオン液体混合物中の[O]、X1およびX2は無ガス混合物における個々のILのモル分率、XO2,1およびXO2,2は純粋な個々のIL中の[O]を表す。それら固体のILの拡散係数については、液相に達するために温度を上げる必要があり、拡散係数は60℃で出現した。
【0030】
図2Aおよび図2Bはそれぞれ本開示の例となる触媒を有するPEMFCの0.05Vから1.0Vまでの電位窓を横断するサイクリックボルタンメトリー曲線とライナースイープボルタンメトリー曲線を示す。図2Aおよび図2BのPEMFCの触媒は、開示されたイオン液体である[MTBD][CSO]に接触している、あるいは当該イオン液体と接触していない、合金微粒子と炭素粒子の混合物中に八点体PtCuNi合金ナノ粒子を含む。図2Aおよび図2Bのボルタンメトリー曲線は、0.05V~1.0V(可逆水素電極[RHE])の電位窓を横断して測定された。電気化学活性表面積(ECSA)は、それぞれイオン液体無しの場合は41m/g-Ptであり、イオン液体有りの場合は37m/g-Ptであり、イオン液体の有無にかかわらず非常に類似していた。比活性(SA)および質量活性(MA)については、ILの包含後にそれぞれ比活性(SA)が67%増加し、質量活性(MA)が52%増加した。
【0031】
図2Cは、図2A及び図2Bの2つのPEMFCの0.9Vvs.RHEにおける比活性および質量活性の算出結果を示す。MAはKoutecky-Levich方程式、MA=SA*ECSAを用いて計算される。図2Cに示すように、開示されたイオン液体を接触させたORR触媒は、当該イオン液体を含まない触媒よりも優れた比活性を有する。
【0032】
図3Aおよび図3Bは、0.05V~1.2Vvs.RHEの電位窓を横断すること以外は、図2Aおよび図2Bと同じPEMFCのサイクリックボルタンメトリー曲線とライナースイープボルタンメトリー曲線を示す。ECSAは、それぞれイオン液体無しの場合は45m/g-Ptであり、イオン液体有りの場合は43m/g-Ptであり、イオン液体の有無にかかわらず非常に類似していた。SAおよびMAについては、ILの包含後にそれぞれSAが77%増加し、MAが69%増加した。
【0033】
図3Cは、図3の曲線から算出された比活性および質量活性を示す。SAおよびMAについては、ILの包含後にそれぞれSAが77%増加し、MAが69%増加した。
【0034】
下記(4)式はORRの割合を一般的に表すものと理解される。
【0035】
【数4】
【0036】
(4)式において、nは移動した電子の数、Fはファラデー定数、Kは化学速度定数、(1-θ)は有効表面積、βは対称性因子、Eは適用した電位、ωはチョムキン等温式のエネルギーパラメーターである。つまり、(4)式は電流密度が酸素濃度に比例することを示す。
【0037】
[MTBD][CSO]イオン液体は酸素溶解度が高く、白金合金表面の酸素濃度の増加が期待されるため、電流密度の比例的な増加がさらに期待できる。図2C及び図3Cに示す結果は、上に示すように[MTBD][CSO]イオン液体による白金合金ナノ粒子の接触に起因する質量活性改善を示す。ここで、電流密度は表面付近の反応物質の濃度(C)だけではなく拡散層の厚さ(δ)と拡散係数(D)によっても決定される。そのため、CとDの積も固体電解質におけるガス拡散の効果を判定する上で重要なパラメーターであると考えることができる。表1より、酸素の拡散係数(DO2)が非常に低いため、C×Dの最終的な積は水性電解質(ここでは0.1M HClO)よりも高い数値を示さなかったことがわかる。よって、同量の酸素モルフラックスが補助アイオノマーの存在によるORR活性の劇的な上昇を限定する要素の一つであると推測できる。
【0038】
【表1】
【実施例
【0039】
以下の実施例に関し本発明をさらに説明する。これらの実施例は本発明の特定の実施形態を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【0040】
(実施例1)八面体Pt-Cu-Niの合成
八面体Pt-Cu-Ni/Cサンプルは、C担体(Vulcan XC 72)上に金属前駆体を含浸させ、COおよびH混合ガス中でそれらを還元することを含む、拡張性があり、界面活性剤を用いない、簡便で革新的な固体化学法を用いて調製した。具体的な手順として、カーボンブラック(バルカンXC-72)は、使用前に水分を除去するために一晩300℃の空気中で熱処理した。プラチナ(II)アセチルアセトネート、銅(II)アセチルアセトネート、およびニッケル(II)アセチルアセトネートは、2:1:1(Pt:Cu:Ni)のモル比でアセトンに溶解し、最終的なPt濃度が20重量%となるように前処理されたC担体に滴下し、激しく撹拌した。混合物は、真空チャンバ内に1時間保持し、残留アセトンを完全に除去した。乾燥混合物は、H/CO(5/120cm/min)のガス雰囲気下、5℃/minで最終温度が200℃になるまで昇温し、200℃で1時間保持することによって還元した。混合物は、H/COガス雰囲気下で周囲温度まで降温した。周囲温度に到達後、製品を回収する前に系内を清めるためにガスをアルゴンに切り替えた。
【0041】
(実施例2)1-メチル-2、3、4、6、7、8-ヘキサヒドロ-1H-ピリミド[1、2-a]ピリミジン-9-イウム 1、1、2、2、3、3、4、4、4-ノナフルオロブタン-1-スルホネート([MTBD][CSO])の合成
MTBD(3.00g、0.0196mol)を水(100mL)に溶かした水溶液を0℃まで冷却し、それに硝酸(1.76g、0.0196mol)を滴下した。次いで、ノナフルオロブタンスルホン酸カリウム(8.58g、0.0196mol)を水溶液に添加し、1時間撹拌した。得られたイオン液体は水相の下に粘性液相となって分離した。
それを超純水で4回洗浄した。洗浄後のイオン液体を減圧下、50℃で18時間にわたり乾燥させ、融点が45℃程度の白色物質を得た。
【0042】
(実施例3)Pt-Ni-Cu([MTBD][CSO])触媒の調製
5mg/mLの[MTBD][CSO]を含むイソプロパノールを調製した。小瓶にPt-Ni-Cu/C触媒を入れ、初めに0.5mLの脱イオン水で濡らし、次いでIL/C重量比を0、1.28、2.56、3.84に変化させて所望のイオン液体ストック溶液を添加した。混合物に対し20分間超音波処理を行い、溶媒を45℃雰囲気下でゆっくり取り除いた。最後に、得られた粉末を高真空下(-1バール、室温)で一晩さらに乾燥させた。
【0043】
(実施例4)触媒を含む回転ディスク電極の調製
実施例3で得られた10mgの製品粉末を、6mLの脱イオン水、4mLのイソプロパノール、および40μLのナフィオン(登録商標)アイオノマー(Nafion DE 520)と混合した。この混合物は、15分間バス超音波処理し、次に1分間プローブ超音波処理し、触媒インクを製造した。10μLの触媒インクを研磨して洗浄されたガラス状炭素電極(直径5mm)上に配置した。当該電極を電極回転子(パインリサーチインスツルメンテーション社製)に取り付け、400rpmで回転させた。
【0044】
(実施例5)電気化学的測定
電気化学的測定はすべてパインインスツルメンテーション社製のRDEワークステーションを用いて行った。実施例3で得られた触媒を被覆したガラス状炭素作用極、白金ワイヤー対極、およびハイドロフレックス(登録商標)参照電極(ET070、eDAQ社製)からなる3極システムを全ての電気化学測定で使用した。電解質(0.1M HClO)は、測定毎に新たに調製した。
【0045】
試験前に電解質を飽和させるために窒素ガスを30分間セルに流した。サイクリックボルタンメトリー試験は、電位窓(0.05Vから1.0Vまで、または0.05Vから1.2Vまで、図2Aおよび図3Aを参照)を通過するように50mV/sの掃引レートで行った。同じ条件で実行される50回の調節サイクルの後に5サイクルの試験を実行した。4サイクル目のデータを、水素吸着範囲(約0.05V~0.40V)内の面積を積分することによってECSAを計算するために使用した。
【0046】
電気化学的インピーダンス分光法(EIS)を、振幅5mV、105Hz~1Hz、0.9Vの条件で行い、溶液抵抗(Rs)が得られた。EISデータ(図示せず)は、オーム損失を包含させるために使用した。
【0047】
以上の説明は、本来単なる実例であり、本開示や本開示の適用、使用を限定することを意図したものではない。ここに用いられるように、A、B、およびCの少なくとも一つという記述は論理和(AまたはBまたはC)であり、包括的論理和“および/または”を用いる。方法中の様々な工程は、本開示の原理を変更することなく異なる順序で行われてもよい。範囲の開示はすべての範囲と範囲全体の中の細分された範囲の開示を含む。
【0048】
「背景技術」「発明の概要」等の見出しや副見出しは、ここでは本開示中の主題を概略的にまとめるためだけのものであり、技術の開示やその態様を限定するものではない。記述された特徴を備える複数の実施形態の列挙は追加的特徴を備える他の実施形態や、記述した特徴の様々な組み合わせを包含する他の実施形態を除外するものではない。
【0049】
ここで用いられているように、「備える」や「含む」という用語またそれらの異形は、連続する項目の記述やリストが本技術の装置や方法において有用であると考えられる他の項目を除外することのないように、限定しないことを意味する。同様に、「することができる」「してもよい」という用語またそれらの異形は、実施形態が特定の要素や特徴を備えることができる、または備えてもよいという記述がそれら要素や特徴を備えない本技術の他の実施形態を除外することのないように、限定しないことを意味する。
【0050】
本開示における広範な教示は様々な形態において実施することができる。そのため、本開示は特定の実施例を含むものの、本願の明細書とそれに続く請求の範囲を検討することにより、他の実施形態も当業者に明らかになるため、本開示の実際の範囲は限定されるべきではない。ある態様、もしくは様々な態様についてのここでの言及は、ある実施形態や特定のシステムに関連して記載される特定の特徴、構造、または特性が少なくとも一つの実施形態または態様に含まれていることを意味する。「一つの態様において」という表現(またはその変形)を用いた場合、必ずしも同じ態様または実施形態について述べているわけではない。また、ここで述べられている様々な方法の工程は必ずしも示されたものと同じ順番で行われなくてもよく、各態様または実施形態が各工程を含む必要もない。
【0051】
上記した実施形態の記述は説明と記述のために用いられたものであり、本開示を包括するためもしくは限定するためのものではない。特定の実施形態の個々の要素や特徴は、通常はその特定の実施形態に限定されないが、適用可能な場合、本明細書に特に記載がなくても、交換可能であり選ばれた実施形態に用いることができ、様々な方法に変形してもよい。そうした変形は本開示から逸脱したものとみなされるべきではなく、そのような改良はすべて本開示の範囲に含まれることが意図されている。
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C