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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-06
(45)【発行日】2022-10-17
(54)【発明の名称】低温硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/80 20060101AFI20221007BHJP
   C08G 18/32 20060101ALI20221007BHJP
   C08G 59/50 20060101ALI20221007BHJP
【FI】
C08G18/80
C08G18/32 053
C08G59/50
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019123924
(22)【出願日】2019-07-02
(65)【公開番号】P2021008581
(43)【公開日】2021-01-28
【審査請求日】2021-04-20
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】305032254
【氏名又は名称】サンスター技研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(74)【代理人】
【識別番号】100138885
【弁理士】
【氏名又は名称】福政 充睦
(72)【発明者】
【氏名】西田 貴富
(72)【発明者】
【氏名】花咲 和明
(72)【発明者】
【氏名】南堀 考志
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/039230(WO,A1)
【文献】特開2018-184525(JP,A)
【文献】特開2016-108429(JP,A)
【文献】国際公開第2013/077293(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 18/00-18/87
C08G 59/00-59/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ブロックイソシアネート、
(B)アミン系潜在性硬化剤、
(C)ポリ塩化ビニル系ホモポリマー及び/又は塩化ビニル-酢酸ビニル系コポリマーから選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂、及び
(D)可塑剤を含む、低温硬化性組成物であって、
(B)アミン系潜在性硬化剤は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂との反応温度ピークが70℃と110℃の間にあり、
下記(ア)及び(イ)から選択される少なくとも1つを満たす、低温硬化性組成物。
(ア) (A)ブロックイソシアネートは、一種もしくは二種以上からなり、少なくともその一種はポリオキシアルキレン構造を含む;及び
(イ) (A)ブロックイソシアネートのブロック剤はフェノール系ブロック剤を含む。
【請求項2】
(B)アミン系潜在性硬化剤は、0.1~20μmの平均粒子径及び65~140℃の融点を有し、及びビスフェノール骨格を含む、請求項1に記載の低温硬化性組成物。
【請求項3】
(B)アミン系潜在性硬化剤は、ピラジン環、アダマンタン環及びインドール環から選択される少なくとも一つを有する、請求項1又は2に記載の低温硬化性組成物。
【請求項4】
(A)ブロックイソシアネートは、芳香族系ブロックイソシアネートを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の低温硬化性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温硬化性組成物に関し、さらに詳しくは、例えば、自動車製造の際に、プレスされた鋼板を溶接により組み立ててホワイトボディーを作る車体工程、そのホワイトボディーの塗装及び焼き付け工程等で使用され得る低温硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車を製造するために、種々の硬化性組成物が使用されている。例えば、プレスされた鋼板を溶接により組み立てホワイトボディーを作る車体工程では、ドア、フード等のヘムフランジの剛性付与、腐食防止のために、1液熱硬化性エポキシ樹脂が使用される(例えば、特許文献1及び2参照)。更に、例えば、ボディーの塗装及び焼き付け工程では、ボディー接合の継ぎ目のシール及び防錆等のために、プラスチゾルが使用される(例えば、特許文献3及び4参照)。
【0003】
自動車は、車両軽量化のため、ボディーの樹脂化が進められている。現在の自動車製造工程では、樹脂製部品と鋼板製ボディーは別々に作られて、塗装され、焼き付けされて、その後両者が組み合わされる。
【0004】
一般的に、車体工程で使用される硬化性組成物も、その後の塗装及び焼き付け工程で最終的に硬化が完了する。従って、樹脂製部品の耐熱温度以下での硬化させるために、車体工程、塗装、焼き付け工程等で使用される硬化性組成物の硬化温度をより低温化しながら適切な可使時間(ポットライフ又は貯蔵安定性)を有することが求められている。
【0005】
特許文献1は、ウレタン変性エポキシ樹脂と、ジシアンジアミドと、イミダゾール系を少なくとも含む硬化促進剤と、カルボン酸変性した粉末状ゴムを含む接着剤組成物は、130℃、20分間で硬化することを開示する(特許文献1[0061]、[0063]、[0066]~[0069]等参照)。
【0006】
特許文献2は、エポキシ樹脂、ウレア系硬化促進剤、及びピラジン環を有するアミン系硬化剤を含む硬化組成物は、130℃、10分間で硬化しながら、貯蔵安定性に優れることを開示する(特許文献2[0030]~[0033]、[0037]~[0040]等参照)
【0007】
特許文献3は、塩化ビニル樹脂、可塑剤、充填材等を主成分とし、ブロックイソシアネート及び粉体アミンを含む、ポリ塩化ビニルプラスチゾル組成物を提案し、それは鋼板製ボディーのアンダーコート用に使用される。そのアンダーコートは、鋼板製ボディーに塗装されて耐チッピング性及び耐制振性塗膜として使用されるが、具体的な焼き付け温度は記載されていない(特許文献3[0062]~[0063]、[0066]参照)。
【0008】
特許文献4は、低温硬化性のボディーシーラーとして、アクリル樹脂と充填剤を可塑剤に分散し、ブロックウレタンプレポリマーとポリアミン系潜在性硬化剤を含むアクリルゾル組成物は、100℃、10分間で硬化しながら、貯蔵安定性に優れることを開示する(特許文献4第8頁~第10頁参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】WO2013/069368
【文献】WO2019/039230
【文献】特開2014-210900号公報
【文献】WO01/088011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
自動車製造工程を更に効率化し、使用エネルギーを更に削減するために、樹脂製部品と鋼板製ボディーを同時に塗装することが、求められている。樹脂製部品-鋼板同時塗装工程では、樹脂製部品と鋼板製ボディーが同時に塗装され、焼き付けが行われる。その際、樹脂製部品の熱変形を防止するため、より低い温度、具体的には90~120℃に、焼き付け温度が制限される。
【0011】
自動車の製造工程では、塗装焼き付け時の硬化炉が設定されており、組成物の硬化適正に合わせて適切な温度に設定されている。しかし、自動車ボディーの部位によって温度差が発生するため、適用可能な最も低い温度設定でも、十分な硬化性能を発揮させることが必要である。従って、炉の設定されている温度よりも低い温度での硬化性を必要とされる場合がある。
【0012】
例えば、上述の特許文献1~3のように、130℃~160℃で硬化する場合、比較的高温の焼付炉で使用することができるが、更に実質的に10~40℃程度の硬化温度の低温化が求められることがある。すなわち、例えば120℃での硬化性を要求されることがある。
例えば、上述の特許文献4のように、100℃で硬化する場合、比較的低温の焼付炉で使用することができるが、更に10~20℃程度の硬化温度の低温化が求められることがある、すなわち、例えば90℃での硬化性を要求されることがある。
従って、例えば、自動車製造に使用される硬化性組成物について、更に約10~400℃低い温度での低温硬化性を共通して発揮させる(付与できる)方法が望まれている。
【0013】
本発明は、例えば、自動車製造に使用される硬化性組成物について、更に約10~40℃低い温度での低温硬化性を(好ましくは共通して)発揮させる(付与できる)方法、及びそのような方法に使用できる新たな硬化性組成物を提供することを目的とする。更に、その低温硬化性組成物によって、より低い焼き付け温度(具体的には、90~120℃)で、硬化物性及び接着性を発現可能な、新たな硬化性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、鋭意検討を重ねた結果、エポキシ樹脂およびブロックイソシアネートから選択される少なくとも1種という特定の硬化性成分(A)と、ビスフェノールA型エポキシ樹脂との反応温度ピークが70℃と110℃の間にあるアミン系潜在性硬化剤を含む特定の潜在性硬化剤(B)を含む硬化性組成物は、更に約10~40℃低いいずれかの温度で低温硬化性を(好ましくは共通して)発揮させることができ、適切な可使時間(ポットライフ又は貯蔵安定性)を有し得ることを見出した。更に、そのより低温硬化性を発揮した硬化性組成物は、より低い温度範囲(具体的には、90~120℃)で、硬化物性及び接着性を発現可能であることを見出した。更に、そのような硬化性組成物は、自動車製造用途に好適であることを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0015】
本明細書は、以下の実施形態を含む。
1.(A)エポキシ樹脂およびブロックイソシアネートから選択される少なくとも1種の硬化性成分、及び
(B)アミン系潜在性硬化剤を含む、低温硬化性組成物であって、
(B)アミン系潜在性硬化剤は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂との反応温度ピークが70℃と110℃の間にある、低温硬化性組成物。
2.(B)アミン系潜在性硬化剤は、0.1~20μmの平均粒子径及び65~140℃の融点を有し、及びビスフェノール骨格を含む、上記1に記載の低温硬化性組成物。
3.(B)アミン系潜在性硬化剤は、ピラジン環、アダマンタン環及びインドール環から選択される少なくとも一つを有する、上記1又は2に記載の低温硬化性組成物。
4.(A)成分は、一種もしくは二種以上からなり、少なくともその一種はポリオキシアルキレン構造を含む、上記1~3のいずれか1に記載の低温硬化性組成物。
5.(A)成分のブロックイソシアネートは、脂肪族系ブロックイソシアネートを含み、ブロック剤はオキシム系ブロック剤又はアミン系ブロック剤を含む、上記1~4のいずれか1に記載の低温硬化性組成物。
6.(A)成分のブロックイソシアネートは、芳香族系ブロックイソシアネートを含み、ブロック剤はフェノール系ブロック剤を含む、上記1~4のいずれか1に記載の低温硬化性組成物。
7.(C)ポリ塩化ビニル系ホモポリマー、塩化ビニル-酢酸ビニル系コポリマー及び/又はアクリル系樹脂から選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂を含む、上記1~6のいずれか1に記載の低温硬化性組成物。
8.(D)可塑剤を含む、上記1~7のいずれか1に記載の低温硬化性組成物。
9.自動車を製造するために使用される、上記1~8のいずれか1に記載の低温硬化性組成物。
10.上記1~9のいずれか1に記載の低温硬化性組成物を用いることを含む、硬化性組成物の硬化温度を低下させる方法。
11.上記1~9のいずれか1に記載の低温硬化性組成物を使用することを含む、自動車の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の実施形態の硬化性組成物は、特定の硬化性成分(A)と特定の潜在性硬化剤(B)を含むので、更に約10~40℃低いいずれかの温度での低温硬化性を(好ましくは共通して)発揮させることができ、適切な可使時間(ポットライフ又は貯蔵安定性)を有し得ることを見出した。更に、そのより低温硬化性を発揮した硬化性組成物は、より低い焼き付け温度(具体的には、90~120℃)で、硬化物性及び接着性を発現することができる。よって、本発明の実施形態の硬化性組成物は、自動車を更に効率的に、更に低エネルギーで製造するために好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、一の要旨において、新たな硬化性組成物を提供し、それは、
(A)エポキシ樹脂およびブロックイソシアネートから選択される少なくとも1種の硬化性成分、及び
(B)アミン系潜在性硬化剤を含有する、低温硬化性組成物であって、
(B)アミン系潜在性硬化剤は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂との反応温度ピークが70℃と110℃の間にある、低温硬化性組成物である。
【0018】
本発明の実施形態の硬化性組成物は、(A)エポキシ樹脂およびブロックイソシアネートから選択される少なくとも1種の硬化性成分を含む。本明細書において、「硬化性成分」とは、エポキシ樹脂およびブロックイソシアネートから選択される少なくとも1種の成分をいい、本発明が目的とする硬化性組成物を得られる限り、特に制限されることはない。
【0019】
本明細書において「エポキシ樹脂」とは、分子中に2以上のエポキシ基を含む化合物であって、一般にエポキシ樹脂と呼ばれる化合物をいい、本発明が目的とする硬化性組成物を得られる限り、特に制限されることはない。エポキシ樹脂として、例えば、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂等を例示することができる。
【0020】
本発明の実施形態の硬化性組成物に含まれるエポキシ樹脂として、更に、例えば、
ビスフェノールA、ビスフェノールF、臭素化ビスフェノールA、ビスフェノールADのジグリシジルエーテル、ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物のジグリシジルエーテルなどのビスフェノール型エポキシ樹脂;
カテコール、レゾルシノール、ハイドロキノンなどの芳香環1個を有するジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;
ダイマー酸、フタル酸、水添フタル酸をベースとしたジグリシジルエステル型エポキシ樹脂;
ビスフェノールAやビスフェノールFを多核化した多官能ノボラック型エポキシ樹脂:
カルボキシル末端のブタジエン‐アクリロニトリル共重合体ゴムとビスフェノール型エポキシ樹脂とを、1:5~4:1、好ましくは1:3~3:2の質量比で配合し、80~180℃の温度で反応させることにより製造されるアクリロニトリル‐ブタジエン共重合体変性エポキシ樹脂;
ポリヒドロキシ化合物[例えば、ポリアルキレングリコール(ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンプロピレングリコールなど);ヘキシレングリコール、ブチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリエチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサントリオール、グリセロールなどの脂肪族多価ヒドロキシ化合物]とエピハロヒドリンを反応させて得られるアルキレンオキシド変性グリシジルエーテル型エポキシ樹脂;
ポリアルキレングリコールの末端にポリイソシアネートを付加したポリウレタンプレポリマーにエポキシ樹脂の水酸基と反応して得られるウレタン変性エポキシ樹脂(混合比は10:90~50:50)やアクリルゴム粒子の表面のカルボキシル基とエポキシ樹脂とを反応させたアクリル変性エポキシ樹脂(混合比は10:90~50:50)等を例示できる。
【0021】
上記エポキシ樹脂として、市販品を使用することができる。それらの市販品として、例えば、三菱ケミカル(株)製の「jER(登録商標)828」、(株)ADEKA製の「アデカレジンEPR-4023」、「アデカグリシロールED‐506」、「アデカレジンEPU‐73B」、(株)カネカ製の「カネエースMX‐257」等を例示することができる。
エポキシ樹脂は、単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0022】
本明細書において、「ブロックイソシアネート」とは、例えば、比較的低分子のポリイソシアネート成分の末端のNCO基が、例えば、フェノール、酸アミド、ラクタム、低級1価アルコール、セロソルブ、アミン、カプロラクタム、メチルエチルケトンオキシム(MEKO)等のオキシム類等のブロック剤でブロックされた化合物をいう。
ブロック剤は、ポリイソシアネートのイソシアナート基と結合し、常温では安定であるが、ある温度以上に加熱されると、イソシアネート基から解離可能な、活性水素を含む化合物をいい、本発明が目的とする硬化性組成物を得られる限り特に制限されることはない。本発明の実施形態において、比較的低温で解離することが求められることから、フェノール類、オキシム類、アミン類等が、ブロック剤として好ましい。
【0023】
ポリイソシアネート成分として、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)等の脂肪族イソシアネート;ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、メタフェニレンジイソシアネート、ナフチレンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート等の芳香族イソシアネート;イソホロンジイソシアネート、水添MDI等の脂環式ジイソシアネート;これらのイソシアネートのビューレット体、イソシアヌレート体、エチレングリコール、トリメチロールプロパン等の多価アルコールとのアダクト体、又は、ウレタンプレポリマ等を例示できる。
【0024】
ブロックイソシアネートは、ウレタンプレポリマをブロックしたブロックウレタンプレポリマー、(所謂、ブロック型ウレタン樹脂)を含むことができる。ブロック型ウレタン樹脂は、加熱によりブロック剤が解離すると、ウレタン樹脂の分子間架橋による橋かけ反応を生じ、橋かけ反応でウレタン樹脂が網目構造をとり得る。
【0025】
ブロック型ウレタン樹脂として、例えば、ポリエーテルポリオール及びポリエステルポリオール等のポリオールと、ジフェニルメタンジイソシアナート(MDI)、トリレンジイソシアナート(TDI)及びヘキサメチレンジイソシアナート(HDI)等のイソシアナートとを反応させて得られるウレタン樹脂を、上述のブロック剤を用いてブロックしたブロック型ウレタン樹脂を用いることができる。ポリプロピレングリコール(PPG)とトリレンジイソシアナート(TDI)またはジフェニルメタンジイソシアナート(MDI)から合成されたウレタン樹脂を用いることが好ましい。
【0026】
本発明の実施形態の硬化性組成物は、(B)アミン系潜在性硬化剤を含む。
本明細書において、(B)アミン系潜在性硬化剤とは、ビスフェノールA型エポキシ樹脂との反応温度ピークが70℃と110℃の間にありアミン系化合物であって、硬化剤として機能し、本発明が目的とする硬化性組成物を得られる限り、特に制限されることはない。
【0027】
ここで、「ビスフェノールA型エポキシ樹脂との反応温度ピークが70℃と110℃の間」とは、より具体的には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱ケミカル社製JER828)と(B)アミン系潜在性硬化剤を、ビスフェノールA型エポキシ樹脂/(B)アミン系潜在性硬化剤(質量比)の割合で反応させて、反応温度のピークを、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製Q2000を使用して、室温より5℃/分の速度で200℃まで昇温して、得られる反応温度のピークが70℃と110℃との間にあることをいう。測定方法の詳細は、実施例に記載した。
反応温度のピークは、75~105℃であることが好ましく、81~99℃であることがより好ましい。
【0028】
(B)アミン系潜在性硬化剤は、0.1~20μmの平均粒子径を有することが好ましく、0.2~5μmの平均粒子径を有することがより好ましく、0.3~1μmの平均粒子径を有することが更に好ましい。
(B)アミン系潜在性硬化剤は、0.1~20μmの平均粒子径を有する場合、貯蔵安定性と硬化後の物性がより安定するという有利な効果を奏し得る。
尚、(B)アミン系潜在性硬化剤の平均粒子径は、具体的には、堀場製作所社製レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置LA-950V2を使用して、乾式法を用いて測定して得られる。測定方法の詳細は、実施例に記載した。
【0029】
(B)アミン系潜在性硬化剤は、65~140℃の融点を有することが好ましく、70~120℃の融点を有することがより好ましく、75~100℃の融点を有することが更に好ましい。
(B)アミン系潜在性硬化剤は、65~140℃の融点を有する場合、反応性と貯蔵安定性に優れるという有利な効果を奏し得る。
尚、(B)アミン系潜在性硬化剤の融点は、JISK7121に準じDSC法を用いて測定して、得られる。測定方法の詳細は、実施例に記載した。
【0030】
(B)アミン系潜在性硬化剤は、ビスフェノール骨格を含むことが好ましい。ビスフェノール骨格は、本発明が目的とする硬化性組成物を得られる限り特に制限されることはない。ビスフェノール骨格として、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD等を例示することができ、ビスフェノール骨格は、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールADから選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
(B)アミン系潜在性硬化剤は、ビスフェノール骨格を含む場合、硬化後の物性および接着性が優れるという有利な効果を奏し得る。
【0031】
(B)アミン系潜在性硬化剤は、ピラジン環、アダマンタン環及びインドール環から選択される少なくとも一種を有することが、好ましい。
(B)アミン系潜在性硬化剤は、ピラジン環、アダマンタン環及びインドール環から選択される少なくとも一種を有する場合、低温硬化性と貯蔵安定性と接着性のバランスに優れるという有利な効果を奏し得る。
【0032】
(B)アミン系潜在性硬化剤は、ピラジン環を有するアミン系硬化剤(B1-1)、アダマンタン環を有するアミン系硬化剤(B1-2)及びインドール環を有するアミン系硬化剤(B1-3)から選択される少なくとも一種(B1)を有することが、好ましく、二種以上を有してよい。
【0033】
本発明の実施形態において、ピラジン環を有するアミン系硬化剤(B1-1)とは、ピラジン環を有するアミン化合物であり、脂肪族アミン、脂環式アミンおよび芳香族アミンであってよく、更に、エポキシ樹脂とそのようなアミン化合物とのアミンアダクトであってよく、本発明が目的とする低温硬化性組成物を得られる限り、特に制限されることはない。本明細書中で用いられる「ピラジン環」は、窒素原子の位置が異なる構造異性体としての「ピリミジン環」および「ピリダジン環」を含む。
【0034】
本発明の実施形態において、ピラジン環を有するアミン系硬化剤(B1-1)は、ピラジン環を有するアミン化合物(B2‐1)と、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(B3)と、フェノールノボラック(B4)との混合物を含み、それは、反応混合物であってよい。上記ピラジン環を有するアミン化合物(B2‐1)は、本発明が目的とする低温硬化性組成物を得られる限り、特に限定されることはないが、例えば、アミノピラジン、ジアミノピラジン、メチルアミノピラジン、メチルジアミノピラジン、エチルアミノピラジン、3‐アミノピラジン‐2‐カルボン酸を例示することができる。上記ピラジン環を有するアミン化合物(B2‐1)は、例えば、活性水素当量20~300g/eq、好ましくは50~180g/eqを有することができる。
【0035】
上記ピラジン環を有するアミン系硬化剤(B1-1)中の上記ピラジン環を有するアミン化合物(B2‐1)に由来する部分の量は、例えば、1~20質量%であってよく、好ましくは2~15質量%、より好ましくは3~10質量%である。上記ピラジン環を有するアミン化合物(B2‐1)に由来する部分の量が1質量%以上の場合、低温硬化性により優れ、20質量%以下であれば貯蔵安定性により優れる。
【0036】
本発明の実施形態において、アダマンタン環を有するアミン系硬化剤(B1-2)とは、アダマンタン環を有するアミン化合物であり、脂肪族アミン、脂環式アミンおよび芳香族アミンであってよく、更に、エポキシ樹脂とそのようなアミン化合物とのアミンアダクトであってよく、本発明が目的とする低温硬化性組成物を得られる限り、特に制限されることはない。
【0037】
本発明の実施形態において、アダマンタン環を有するアミン系硬化剤(B1-2)は、アダマンタン環を有するアミン化合物(B2‐2)と、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(B3)と、フェノールノボラック(B4)との混合物を含み、それは、反応混合物であってよい。上記アダマンタン環を有するアミン化合物(B2‐2)は、本発明が目的とする低温硬化性組成物を得られる限り、特に限定されることはないが、例えば、1-アダマンチルアミン、1,3-ジアミノアダマンタン、メチルアミノアダマンタン、メチルジアミノアダマンタン、エチルアミノアダマンタンとうの各種アダマンタン誘導体を例示できる。
上記アダマンタン環を有するアミン化合物(B2‐2)は、例えば、活性水素当量20~300g/eq、好ましくは50~180g/eqを有することができる。
【0038】
上記アダマンタン環を有するアミン系硬化剤(B1-2)中の上記アダマンタン環を有するアミン化合物(B2‐2)に由来する部分の量は、例えば、1~20質量%であってよく、好ましくは2~15質量%、より好ましくは3~10質量%である。上記アダマンタン環を有するアミン化合物(B2‐2)に由来する部分の量が1質量%以上の場合、低温硬化性により優れ、20質量%以下の場合、貯蔵安定性により優れる。
【0039】
本発明の実施形態において、インドール環を有するアミン系硬化剤(B1-3)とは、インドール環を有するアミン化合物であり、脂肪族アミン、脂環式アミンおよび芳香族アミンであってよく、更に、エポキシ樹脂とそのようなアミン化合物とのアミンアダクトであってよく、本発明が目的とする低温硬化性組成物を得られる限り、特に制限されることはない。本明細書中で用いられる「インドール環」は、窒素原子の位置が異なる構造異性体としての「イソインドール環」を含む。
【0040】
本発明の実施形態において、インドール環を有するアミン系硬化剤(B1-3)は、インドール環を有するアミン化合物(B2-3)と、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(B3)と、フェノールノボラック(B4)との混合物を含み、それは、反応混合物であってよい。上記インドール環を有するアミン化合物(B2‐3)は、本発明が目的とする低温硬化性組成物を得られる限り、特に限定されることはないが、例えば、アミノインドール、ジアミノインドール、メチルアミノインドール、メチルジアミノインドール、エチルアミノインドール、3‐アミノインドール‐2‐カルボン酸などを例示することができる。上記インドール環を有するアミン化合物(B2‐3)は、例えば、活性水素当量20~300g/eq、好ましくは50~180g/eqを有することができる。
【0041】
上記インドール環を有するアミン系硬化剤(B1-3)中の上記インドール環を有するアミン化合物(B2‐3)に由来する部分の量は、例えば、1~20質量%であってよく、好ましくは2~15質量%、より好ましくは3~10質量%である。上記インドール環を有するアミン化合物(B2‐3)に由来する部分の量が1質量%以上の場合、低温硬化性により優れ、20質量%以下であれば貯蔵安定性により優れる。
【0042】
上記ビスフェノールA型エポキシ樹脂(B3)として、例えばエポキシ当量100~1300g/eq、好ましくは200~600g/eqを有するものを用いることができる。ピラジン環を有するアミン系硬化剤(B1-1)、アダマンタン環を有するアミン系硬化剤(B1-2)及びインドール環を有する(B)アミン系潜在性硬化剤は、上記ビスフェノールA型エポキシ樹脂(B3)を、一般的には、例えば、10~80質量%、好ましくは30~75質量%、より好ましくは40~70質量%の含有量で含むことができる。上記ビスフェノールA型エポキシ樹脂(B3)の含有量が10質量%以上であることが、接着性を確保し易く、好ましく、80質量%以下であれ、硬化性を確保することができ好ましい。ビスフェノールA型エポキシ樹脂(B3)として市販品を使用することができ、例えば、三菱ケミカル社製のJER828、三菱ケミカル社製のJER1001、等を例示することができる。
【0043】
上記フェノールノボラック(B4)として、例えば水酸基当量90~250g/eq、好ましくは95~150g/eqを有し、例えば数平均分子量190~5000、好ましくは300~3000を有するものを用いることができる。上記アミン系潜在性硬化剤(B)は、上記フェノールノボラック(B4)を、例えば5~50質量%、好ましくは10~35質量%、より好ましくは20~30質量%の含有量で、含むことができる。上記フェノールノボラック(B4)を5質量%以上の含有量で含む場合、貯蔵安定性をより確保し易く、50質量%以下の含有量で含む場合、硬化性をより確保し易い。
【0044】
本発明の実施形態の低温硬化性組成物において、上記アミン系潜在性硬化剤(B)は、上記ピラジン環を有するアミン化合物(B2-1)、アダマンタン環を有するアミン化合物(B2-2)及びインドール環を有する化合物(B2-3)から選択される少なくとも一種のアミン化合物(B2)、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(B3)のアダクト反応物を、上記フェノールノボラック(B4)で中和した形態の化合物を含むことが好ましい。
【0045】
本発明の実施形態の低温硬化性組成物中、上記アミン系潜在性硬化剤(B)は、上記アミン系潜在性硬化剤(B)の総質量を100質量%として、ピラジン環、アダマンタン環及びインドール環の合計を、例えば1~15質量%、好ましくは2~9質量%の含有量で含むことが望ましい。上記ピラジン環、アダマンタン環及びインドール環の合計の含有量は、熱分解GC/MS測定からピラジン環、アダマンタン環及びインドール環の吸収ピークの面積比を抽出することにより算出することができる。
【0046】
本発明の実施形態の低温硬化性組成物中の上記(A)硬化性成分の配合量は、密着性の点で、100質量部に対して、1~60質量部が好ましく、3~40質量部がより好ましい。
【0047】
本発明の実施形態の低温硬化性組成物中の上記アミン系潜在性硬化剤(B)の配合量は、(A)硬化性成分の低温硬化性および貯蔵安定性の点で、(A)硬化性成分100質量部に対して、0.5~40質量部が好ましく、1~30質量部がより好ましく、2~10質量部であってもよい。
【0048】
上記アミン系潜在性硬化剤(B)は、60~120℃、好ましくは70~100℃、より好ましくは75~90℃の融点を有することが望ましい。上記アミン系潜在性硬化剤(B)の融点が60℃以上である場合、低温硬化性組成物の貯蔵安定性をより向上することができ、上記融点が120℃以下であると得られる低温硬化性組成物の低温硬化性をより向上することができる。
【0049】
本発明の実施形態の低温硬化性組成物に用いられるアダマンタン環を有するアミン系潜在性硬化剤(B1-2)は、通常の(アダマンタン環を有さない)アミン化合物(B2-4)、アダマンタン環を有するエポキシ樹脂(B3-2)と、フェノールノボラック(B4)とを含んでもよい。上記通常のアミン化合物(B2-4)は、特に限定されることはないが、例えば、ジアミノプロパン、ジエチルアミノプロピルアミン、イソフォロンジアミン、アミノトリメチルシクロヘキシルアミン等を例示することができる。上記アダマンタン環を有するエポキシ樹脂(B3‐2)には、特に限定されないが、例えば、1,3-ビス(4-グリシジルオキシフェニル)アダマンタン、1,3-ビス(4-グリシジルオキシシクロヘキシル)アダマンタンなどが挙げられる。上記アミン化合物(B2-4)は、活性水素当量20~300g/eq、好ましくは50~180g/eqを有するものを用いることができる。
【0050】
本発明の実施形態のアダマンタン環を有するアミン系潜在性組成物(B1-2)は、上記アダマンタン環を有するアミン化合物(B2‐1)およびビスフェノールA型エポキシ樹脂(B3)、及び/又は上記通常の(アダマンタン環を含まない)アミン化合物(B2-4)およびアダマンタン環を有するエポキシ樹脂(B3-2)のアダクト反応物を、上記フェノールノボラック(B4)で中和した形態の化合物を含むことができる。このアダマンタン環を有するアミン系潜在性組成物(B1-2)について、上述したアミン系潜在性組成物(B)及びアダマンタン環を有するアミン系潜在性組成物(B1-2)の記載を参照することができる。
【0051】
本明細書において、(C)熱可塑性樹脂とは、加熱すると軟化して可塑性を有し、冷却すると固化する樹脂であって、ポリ塩化ビニル系(PVC)ホモポリマー、塩化ビニル-酢酸ビニル系(PVC-PVA)コポリマー(塩化ビニルと酢酸ビニルとの共重合体)及びアクリル系樹脂から選択される少なくとも1種を含み、本発明が目的とする低温硬化性組成物を得られる限り特に制限されることはない。
本発明の実施形態の組成物は、(C)熱可塑性樹脂を含む場合、硬化物に柔軟性を与え伸び性能や強靭性が向上し好ましい。
【0052】
本明細書において、ポリ塩化ビニル系ホモポリマーとは、一般的にポリ塩化ビニル系ホモポリマーとして理解され、塩化ビニルの単独ポリマーであって、本発明が目的とする低温硬化性組成物を得られる限り特に制限されることはない。
【0053】
ポリ塩化ビニル系ホモポリマーとして、市販品を使用することができる。そのような市販品として、例えば、カネカ社製のPSH-10、カネカ社製のPBM-6、カネカ社製のPSL-10、等を例示することができる。
ポリ塩化ビニル系ホモポリマーは、単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0054】
本明細書において、塩化ビニル-酢酸ビニル系(PVC-PVAc)コポリマーは、一般的に塩化ビニルと酢酸ビニルの共重合体として理解され、本発明が目的とする低温硬化性組成物を得られる限り、特に制限されることはない。
【0055】
本発明の実施形態の組成物において、塩化ビニル-酢酸ビニル系(PVC-PVAc)コポリマーは、酢酸ビニルに由来する繰り返し単位を、例えば、1~15質量%の割合で含むことができ、3~12質量%の割合で含むことが好ましく、5~10質量%の割合で含むことがより好ましく、7.5~9.5質量%の割合で含むことが更により好ましい。このような酢酸ビニルと塩化ビニルの共重合体を含むことで、本発明の実施形態の低温硬化性組成物は、より低温で硬化物性及び接着性を発現することができる。
【0056】
酢酸ビニルと塩化ビニルの共重合体に含まれる、酢酸ビニルに由来する繰り返し単位の含有量(質量%)は、下記のようにして求めることができる。
酢酸ビニルと塩化ビニルの共重合体100mgとKBr10mgを混合し、すりつぶして成形して、測定サンプルを準備する。この測定サンプルについて、赤外分光光度計(例えば、島津製作所製、FTIR-8100A(商品名))を使用して、赤外吸収スペクトルを測定する。ピーク1(1430cm-1付近のC-H面内変角による吸収ピークトップ)のAbs.値(以下「A1」という)と、ピーク2(1740cm-1付近のC=O伸縮による吸収ピークトップ)のAbs.値(以下「A2」という)を読み取る。下記式から算出する。
酢酸ビニルに由来する繰り返し単位の含有量(質量%)
=(3.73×A2/A1+0.024)×1.04
【0057】
本発明の実施形態において、酢酸ビニルと塩化ビニルとの共重合体は、さらに、下記一般式(1)で示される化合物を含むことができる。酢酸ビニルと塩化ビニルとの共重合体は、一般式(1)で示される化合物を、例えば、100~3000ppmの量で、より好ましくは500~2000ppmの量で、含むことができる。
【化1】

(ここで、一般式(1)において、Rは炭素数6~18のアルキル基、アルケニル基又はアラルキル基を示し、Rは水素又は炭素数6~18のアルキル基、アルケニル基若しくはアラルキル基を示し、Rは水素又はプロペニル基を示し、Aは炭素数2~4のアルキレン基を示し、nは1~200の整数を示し、Mはアルカリ金属、アンモニウムイオン又はアルカノールアミン残基を示す。)
【0058】
一般式(1)において、Rの炭素数は7~11、R及びRは水素、Aは炭素数2~3のアルキレン基、nは1~40であることが好ましい。本発明の実施形態のゾル組成物は、そのような一般式(1)で示される化合物を含む酢酸ビニルと塩化ビニルとの共重合体を含む場合、低温での硬化物性及び貯蔵安定性により優れ、自動車製造のためにより優れる。
【0059】
前記一般式(1)で示される化合物は、例えば、ノニルプロペニルフェノールエチレンオキシド10モル付加体硫酸エステルアンモニウム塩、ノニルプロペニルフェノールエチレンオキシド20モル付加体硫酸エステルアンモニウム塩、オクチルジプロペニルフェノールエチレンオキシド10モル付加体硫酸エステルアンモニウム塩、オクチルジプロペニルフェノールエチレンオキシド100モル付加体硫酸エステルアンモニウム塩、ドデシルプロペニルフェノールエチレンオキシド20モル付加体硫酸エステルナトリウム塩、ドデシルプロペニルフェノールプロピレンオキシド10モルランダム付加体硫酸エステルナトリウム塩、ドデシルプロペニルフェノールブチレンオキシド4モルブロック付加体硫酸エステルナトリウム塩及びドデシルプロペニルフェノールエチレンオキシド30モルブロック付加体硫酸エステルナトリウム塩等からなる群より選択される化合物であり、であることが好ましい。
【0060】
前記一般式(1)で示される化合物は、ノニルプロペニルフェノールエチレンオキシド10モル付加体硫酸エステルアンモニウム塩、ノニルプロペニルフェノールエチレンオキシド20モル付加体硫酸エステルアンモニウム塩からなる群より選択される化合物であることがより好ましい。本発明の実施形態のゾル組成物は、そのような一般式(1)で示される化合物を含む酢酸ビニルと塩化ビニルとの共重合体を含む場合、自動車製造のために更により優れる。
【0061】
一般式(1)で示される化合物は、酢酸ビニルと塩化ビニルとの共重合体を製造する際に、界面活性剤としても作用し得、本発明の実施形態の低温硬化性組成物の保存安定性等に寄与し得、特に低温での硬化物性、保存安定性により優れ、特に自動車製造用に優れる。
本発明の実施形態の低温硬化性組成物は、一般式(1)で示される化合物を含む場合、貯蔵安定性が向上し得る。
【0062】
本発明の実施形態の低温硬化性組成物は、さらに、例えばアルキルベンジルフタレート又はアルキルスルフォン酸フェニル系可塑剤等の(D)可塑剤を含む場合、硬化性を向上しながら貯蔵安定性の低下を抑制し得る。一般式(1)で示される化合物を後添加しても貯蔵安定性等を向上することができるが、酢酸ビニルと塩化ビニルとの共重合体に一般式(1)で示される化合物が含まれることが好ましい。尚、一般式(1)で示される化合物は、エチレン性二重結合が開いた繰り返し単位の形態で、含まれてよい。
【0063】
本明細書において、アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル系樹脂とも記載され、アクリル系樹脂及び/又はメタクリル系樹脂を含み、本発明が目的とする低温硬化性組成物を得られる限り、特に制限されることはない。
【0064】
(C)熱可塑性樹脂は、アクリル系樹脂を含むことが好ましく、アクリル系樹脂は、カルボキシル基及び/又はアセトセチル基を含むことがより好ましい。また、貯蔵安定性と硬化性を両立するためにコアシェル構造を有するアクリル樹脂が好ましい。
アクリル系樹脂は、入手容易で有り、低温硬化性、貯蔵安定性、接着性に優れ、好ましい。更に、(メタ)アクリル系樹脂は、カルボキシル基及び/又はアセトセチル基を含む場合、より低温で界面破壊(AF)を生じ難く、凝集破壊(CF)を生じやすく、より好ましい。
【0065】
(C)熱可塑性樹脂は、上述の塩化ビニルホモポリマー、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体及びアクリル系樹脂の他に、例えば、塩化ビニルと水酸基を有するビニルとの共重合体、塩化ビニルとカルボン酸基を有するビニルとの共重合体などの塩化ビニル系樹脂(上述の塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体を除く)、ポリオレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等)、塩化ビニリデン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリフルオロエチレン等のフッ素系樹脂、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)樹脂、AS(アクリロニトリル-スチレン)樹脂等を含むことができる。
【0066】
本発明の実施形態の低温硬化性組成物は、組成物全体を100質量部として、(C)熱可塑性樹脂を、例えば、1~50質量部含むことができ、2~40質量部含むことが好ましく、3~35質量部含むことがより好ましく、5~30質量部含むことが更により好ましい。
【0067】
本発明の実施形態の低温硬化性組成物は、組成物全体を100質量部として、上述の塩化ビニルホモポリマーを、例えば、1~50質量部含むことができ、2~40質量部含むことが好ましく、3~35質量部含むことがより好ましく、5~30質量部含むことが更により好ましい。
【0068】
本発明の実施形態の低温硬化性組成物は、組成物全体を100質量部として、上述の塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体を、例えば、1~50質量部含むことができ、2~40質量部含むことが好ましく、3~35質量部含むことがより好ましく、5~30質量部含むことが更により好ましい。
【0069】
本発明の実施形態の低温硬化性組成物は、組成物全体を100質量部として、アクリル樹脂を、例えば、1~50質量部含むことができ、2~40質量部含むことが好ましく、3~35質量部含むことがより好ましく、5~30質量部含むことが更により好ましい。
【0070】
本明細書において、(D)可塑剤とは、(C)熱可塑性樹脂に加えることで、塑性を増大させて軟らかくすることができ、本発明が目的とする低温硬化性組成物を得られる限り特に制限されることはない。
【0071】
可塑剤として、例えば、フタル酸ブチルベンジル(ブチルベンジルフタレート:BBP)、フタル酸オクチルベンジル(オクチルベンジルフタレート:OBP)、及びフタル酸イソノニルベンジル(イソノニルベンジルフタレート)等のアルキルベンジルフタレート;フタル酸ジメチルシクロヘキシル(ジメチルシクロヘキシルフタレート:DMCHP);フタル酸ポリエステル;安息香酸エステル;フタル酸ジイソノニル(ジイソノニルフタレート:DINP)、フタル酸ジオクチル(ジオクチルフタレート:DOP)、フタル酸ジメチル(ジメチルフタレート:DMP)、フタル酸ジエチル(ジエチルフタレート:DEP)、フタル酸ジブチル(ジブチルフタレート:DBP)、フタル酸ジヘプチル(ジヘプチルフタレート:DHP)、フタル酸ジノニル(ジノニルフタレート:DNP)、フタル酸ジデシル(ジデシルフタレート:DDP)、フタル酸ジノルマルオクチル(ジノルマルオクチルフタレート:DnOP)、フタル酸ジイソデシル(ジイソデシルフタレート:DIDP)、及びフタル酸ビス-2-エチルへキシル(ビスー2-エチルフタレート:DEHP)等のジアルキルフタレート;トリメリット酸トリス(トリオクチルトリメリテート:TOTM)、トリオクチルトリメリテート(TOTN)、トリイソオクチルトリメリテート、及びトリイソデシルトリメリテート等のトリメリット酸トリエステル等を例示できる。
【0072】
可塑剤は、フタル酸ジエステルを含むことが好ましく、フタル酸ジエステルは、アルキルベンジルフタレート及び/又はジアルキルフタレートを含むことがより好ましい。
可塑剤が、フタル酸ジエステルを含む場合、適度な硬化性を持ちながら貯蔵安定性が優れ好ましく、アルキルベンジルフタレート及び/又はジアルキルフタレートを含む場合、硬化性を高めより好ましい。
【0073】
本発明の実施形態の低温硬化性組成物は、組成物全体を100質量部として、可塑剤を、例えば、5~60質量部含むことができ、10~55質量部含むことが好ましく、15~50質量部含むことがより好ましく、20~40質量部含むことが更により好ましい。
【0074】
本発明の実施形態の低温硬化性組成物は、組成物全体を100質量部として、上述のフタル酸ジエステルを、例えば、5~60質量部含むことができ、10~55質量部含むことが好ましく、15~50質量部含むことがより好ましく、20~40質量部含むことが更により好ましい。
【0075】
本発明の実施形態の低温硬化性組成物は、組成物全体を100質量部として、アルキルベンジルフタレート及び/又はジアルキルフタレートを、例えば、0.1~60質量部含むことができ、0.3~20質量部含むことが好ましく、0.5~10質量部含むことがより好ましく、1~5質量部含むことが更により好ましい。
【0076】
本発明の実施形態の低温硬化性組成物は、組成物全体を100質量部として、ジアルキルフタレートを、例えば、0.1~60質量部含むことができ、0.2~30質量部含むことが好ましく、0.3~20質量部含むことがより好ましく、0.5~10質量部含むことが更により好ましい。
【0077】
本発明の実施形態の低温硬化性組成物は、その他の成分を適宜含むことができる。その他の成分として、例えば、通常の硬化剤(上述の(B)アミン系潜在性硬化剤を除く)、充填材、希釈剤、界面活性剤(上述の一般式(1)で示される化合物を除く)、その他の添加剤等を例示することができる。
【0078】
本発明の実施形態において、硬化剤とは、常温では硬化作用を有さないが、ある温度になると、硬化作用を発現する化合物であって、上述の(B)アミン系潜在性硬化剤を除き、本発明が目的とする低温硬化性組成物を得られる限り、特に制限されることはない。
硬化剤として、例えば、60℃以上、好ましくは100~200℃の温度で活性化してエポキシ樹脂と反応し得る潜在性硬化剤(活性化温度60℃未満のものでは、粘度が上昇し、貯蔵安定性が悪化するので望ましくない):具体例として、アジピン酸ジヒドラジド、セバチン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、ドデカンジオヒドラジド、1,3-ビス(ヒドラジノカルボエチル)-5-イソプロピルヒダントイン、エイコサン二酸ジヒドラジド、ハイドロキノンジグリコール酸ジヒドラジド、レゾルシノールジグリコール酸ジヒドラジド、4,4’-エチリデンビスフェノールジグリコール酸ジヒドラジド等のジヒドラジド化合物;4,4’-ジアミノジフェニルスルホン;イミダゾール、2-n-ヘプタンデシルイミダゾール等のイミダゾール化合物;メラミン;ベンゾグアナミン;N,N’-ジアルキル尿素化合物;N,N’-ジアルキルチオ尿素化合物;ジアミノジフェニルメタン、ジアミノビフェニル、ジアミノフェニール、フェニレンジアミン、トリレンジアミン、ドデカンジアミン、デカンジアミン、オクタンジアミン、テトラデカンジアミン、ヘキサデカンジアミン、ポリオキシプロピレンジアミン、ヒドラジド系ポリアミン等の融点60℃以上の常温固形のポリアミン;シアノグアニジン等のグアニジン誘導体が挙げられる。これらの1種あるいは2種以上を混合して用いることができる。
硬化剤として市販品を使用することができ、例えば、四国化成社製のC17Z(商品名)、日本ヒドラジド社製のADH(商品名)、ADEKA社製のEH3731s(商品名)等を例示することができる。
【0079】
本発明の実施形態において、充填材とは、本発明の実施形態の低温硬化性組成物を増量するとともに、低温硬化性組成物から形成される膜にある程度の強さを与えることができる化合物であって、本発明が目的とする低温硬化性組成物を得られる限り、特に制限されることはない。
【0080】
充填材として、例えば、炭酸カルシウム(重質炭酸カルシウム、沈降性炭酸カルシウム、表面処理炭酸カルシウム等)、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム等のアルカリ土類金属の炭酸塩及び硫酸塩、マイカ(雲母)、グラファイト、タルク(滑石)、クレー、硝子フレーク(硝子ビーズ)、ヒル石、カオリナイト、ワラストナイト(針状カルシウムメタシリケート)、シリカ、珪藻土、石膏、セメント、転炉スラグ、シラス、ゼオライト、セルロース粉、粉末ゴム、ゾノライト、チタン酸カリウム、ベントナイト、窒化アルミ、窒化珪素、亜鉛華、酸化チタン、酸化カルシウム、アルミナ、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化マグネシウム、酸化チタン、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、珪酸カルシウム、その他にも炭酸カルシウムウィスカ(針状炭酸カルシウム)、セラミック短繊維またはそのウィスカ、ロックウール短繊維、ガラスファイバー短繊維、チタン酸カリウム短繊維、ケイ酸カルシウム短繊維、アルミニウムシリケート、カーボンファイバー短繊維、アラミドファイバー短繊維、セピオライト等の鉱物繊維、各種ホイスカー等の繊維状充填材、ガラスバルーン、シリカバルーン、樹脂バルーン、炭素無機中空球等の中空状充填材、塩化ビニリデン、アクリルニトリル等の有機合成樹脂からなるプラスチックバルーン等の有機中空状充填材や、アルミニウムフィラー等のメタリックフィラー等を例示できる。
【0081】
本発明の実施形態において、希釈剤とは、本実施形態の低温硬化性組成物に流動性を与えることができ、本発明が目的とする低温硬化性組成物を得られる限り、特に制限されることはない。
希釈剤として、例えば、ナフサ、パラフィン等の高沸点炭化水素系溶剤等を例示することができる。
希釈剤として市販品を使用することができ、希釈剤の沸点が100℃-250℃であることが好ましく、より好ましくは希釈剤の沸点は150-220℃、さらに好ましくは160-200℃である。例えば、エクソンモービル社製のアイソパーH(商品名)、エクソンモービル社製のD-40(商品名)、エクソンモービル社製のD-80(商品名)等を例示することができる。
【0082】
本発明の実施形態において、その他の添加剤として、例えば、吸湿剤(酸化カルシウム、モレキュラーシーブス等)、揺変性賦与剤(有機ベントナイト、フュームドシリカ、ステアリン酸アルミニウム、金属石けん類、ヒマシ油誘導体等)、安定剤[2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、2,2-メチレン-ビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、ジブチルジチオカルバミン酸ニッケル等]、硬化促進剤(ジブチル錫ジラウレート、オクチル酸鉛、オクチル酸ビスナス等)等を例示することができる。その他の添加剤は、本発明が目的とする低温硬化性組成物を得られる限り、特に制限されることなく、適宜使用することができる。
【0083】
本発明の実施形態の低温硬化性組成物は、上述の成分を混合することによって製造することができる。
低温硬化性組成物は、混合分散機として、具体的には、例えば、プラネタリーミキサー、ニーダー、アトライター、グレンミル、ロール、ディゾルバー等を使用して、標記成分を混合して製造することができる。
本発明の実施形態の低温硬化性組成物は、ゾルの形態を有しても有さなくてもよく、プラスチゾルの形態を有しても有さなくてもよく、上述の成分が分散質として、分散媒中に存在してもしなくてもよく、溶解していても溶解していなくても良い。
【0084】
本発明の実施形態の低温硬化性組成物は、保存安定性に優れることが好ましい。保存安定性は、40℃で7日間保管し、その前後の粘度を測定し、保管前の粘度を基準として、粘度が何%増えたか(粘度増加率)で評価する。詳細な評価方法は、実施例に記載した。
粘度増加率は、40% 以下である場合A(優良)、40%を超え、60% 以下である場合B(良)、60%を超え、80% 以下である場合C(普通)、80%を超える場合D(不十分)、ゲル化を認めた場合E(不良)。
【0085】
本発明の実施形態の低温硬化性組成物は、通常の硬化条件、例えば(B)成分の代わりに通常の硬化剤を用いた時の硬化条件、より具体的には、その他の硬化剤である、実施例に示す(b11)~(b14)を用いたときの硬化温度、よりも10~40℃低いいずれかの温度(例えば、10℃、20℃、30℃又は40℃低いいずれかの温度)で、30%以上のせん断強度を維持しながらせん断接着試験にて凝集破壊が界面破壊と混在する状態を維持することができる。より好ましくは全体として凝集破壊であることが好ましい。さらには、より高いせん断強度を維持することが好ましい。50%以上、70%以上のせん断強度を維持できることが更により好ましい。
【0086】
本発明の実施形態の低温硬化性組成物は、通常の硬化条件よりも10~40℃低いいずれかの温度(例えば、10℃、20℃、30℃又は40℃低いいずれかの温度)で、抗張力は、通常の硬化条件での組成物の抗張力の40%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、80%であることが更により好ましい。
【0087】
本発明の実施形態の低温硬化性組成物は、通常の硬化条件よりも10~40℃低いいずれかの温度(例えば、10℃、20℃、30℃又は40℃低いいずれかの温度)で、伸び率は、通常の硬化条件での組成物の伸び率の40%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、80%以上であることが更により好ましい。
【0088】
本実施形態の低温硬化性組成物は、公知の塗布方法、例えば、ビード塗布、スリット塗布、スプレー塗布、スワール塗布、ショット塗布等の塗布方法を用いて、必要な場所に任意の厚さ及び塗布形態において塗布することができ、例えば、熱風循環乾燥炉等を使用して所定温度に加熱することで塗膜を形成することができる。
【0089】
本発明の実施形態において、本発明の実施形態の低温硬化性組成物を使用することを含む、自動車の製造方法を提供することができる。
本発明の実施形態の低温硬化性組成物は、自動車を製造するための塗装工程に使用することができる。
【0090】
上記塗布手段において、コンピュータ制御による自動塗布機や、ロボット塗布機による塗布も可能である。
【0091】
本発明は、他の要旨において、上述の低温硬化性組成物を使用することを含む、硬化性組成物の硬化温度を低下させる方法を提供する。
【実施例
【0092】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的かつ詳細に説明するが、これらの実施例は本発明の一態様にすぎず、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0093】
本実施例で使用した成分を以下に示す。
(A)エポキシ樹脂および/またはブロックイソシアネート(硬化性成分)
(a1)エポキシ樹脂(三菱ケミカル社製JER828(商品名))
(a2)エポキシ樹脂(ADEKA社製EPU78-11(商品名))
(a3)エポキシ樹脂(ADEKA社製ED-506(商品名))
(a4)ブロックウレタンプレポリマー(下記製造例参照)
(a5)トリレンジイソシアヌレートのノニルフェノールブロック30%とDINP70%の混合物(有効イソシアネート当量:16%)
(a6)トリレンジイソシアネート系ブロックイソシアネート (エアプロダクト社製N269A(商品名))
(a7)ヘキサメチレンジイソシアヌレートオキシムブロック80%/DINP20% (有効NCO%:5%)
(a8)ヘキサメチレンジイソシアネート系ブロックイソシアネート(ADEKA社製QR-9262(商品名))
【0094】
(B)アミン系潜在性硬化剤
(b1)アミン系潜在性硬化剤(ADEKA社製EH4358(商品名))、融点約95℃、ビスフェノールA型エポキシ樹脂との反応温度ピークは85℃
(b2)アミン系潜在性硬化剤(ADEKA社製EH5030s(商品名))、融点約80℃、ビスフェノールA型エポキシ樹脂との反応温度ピークは93℃
(b3)アミン系潜在性硬化剤(富士化成工業社製1090MP(商品名))、ビスフェノールA型エポキシ樹脂との反応温度ピークは87℃
(b4)ピラジン環を有するアミン系潜在性硬化剤(ピラジン環含有率8%)(下記製造例1参照)、ビスフェノールA型エポキシ樹脂との反応温度ピークは90℃
(b5)アダマンタン環を有するアミン系潜在性硬化剤(アダマンタン環含有量約5%)(下記製造例2参照)、ビスフェノールA型エポキシ樹脂との反応温度ピークは88℃
(b6)インドール環を有するアミン系潜在性硬化剤(インドール含有量約5%)(下記製造例3参照)、ビスフェノールA型エポキシ樹脂との反応温度ピークは78℃
(b7)インドール環及びアダマンタン環を有するアミン系潜在性硬化剤(アダマンタン環含有量約3.6%/インドール環含有量約5%)(下記製造例4参照)、ビスフェノールA型エポキシ樹脂との反応温度ピークは95℃
(b8)インドール環及びアダマンタン環を有するアミン系潜在性硬化剤(アダマンタン環含有量約3%/インドール環含有量約3%)(下記製造例5参照)、ビスフェノールA型エポキシ樹脂との反応温度ピークは88℃
【0095】
その他の硬化剤
(b11)イミダゾール系硬化剤(四国化成社製2P4MZ(商品名))、融点174~184℃、ビスフェノールA型エポキシ樹脂との反応温度ピークは150℃以上
(b12)ウレア系硬化剤(AlzChem社製Dyhard(登録商標)UR200(商品名))、ビスフェノールA型エポキシ樹脂との反応温度ピークは144℃
(b13)イミダゾール系硬化剤(大塚化学社製ADH(商品名))、ビスフェノールA型エポキシ樹脂との反応温度ピークは150℃以上
(b14)ジシアンジアミド、ビスフェノールA型エポキシ樹脂との反応温度ピークは150℃以上
【0096】
(C)PVCホモポリマー、PVCコポリマー成分及びアクリル樹脂から選択される熱可塑性樹脂
(c1)カルボキシル基を有するアクリル系樹脂(三菱化学社製LP-3106(商品名))
(c2)アセトアセチル基を有するアクリル系樹脂(三菱化学社製LP-3121(商品名))
(c3)塩化ビニル系樹脂(ポリ塩化ビニルホモポリマー)(カネカ社製PSH-10(商品名))
(c4)塩化ビニル系樹脂(ポリ塩化ビニルホモポリマー)(カネカ社製PBM-6(商品名))
(c5)塩化ビニル系樹脂(酢酸ビニル含有量7%、塩化ビニル-酢酸ビニルコポリマー)(カネカ社製PCH-843(商品名))
【0097】
(D)可塑剤
(d1)フタル酸ジイソノニル
(d2)フタル酸オクチルベンジル
【0098】
その他
充填剤、白石工業社製ハクエンカCCR(商品名)
充填剤、備北粉化工業社製BF200(商品名)
希釈剤、エクソンモービル社製アイソパーH
その他の添加剤
トクヤマ社製QS30(商品名)
井上石灰工業社製酸化カルシウムQC-X(商品名)
NYCO Minerals社製NYAD325(商品名)
三菱化学社製 カーボンブラック#30(商品名)
【0099】
<(A)硬化性成分の製造方法>
(a4)ブロックウレタンプレポリマーの製造(製造例)
ポリエーテルポリオール( 旭硝子(株)製EL-5030(商品名)、分子量5000、官能価3)100部とMDI 16.4部を(NCO/OH=2.2)、80℃で5時間反応させて、末端NCO含有ウレタンプレポリマーを得た。その後、ジブチル錫ジラウレート0.008部の存在下、メチルエチルケトキシム6.5部を50℃で5時間反応させて、IRにてNCOが消失することを確認して、(a4)ブロックウレタンプレポリマーを得た。
【0100】
<(B)アミン系潜在性硬化剤の製造方法>
(b4)ピラジン環を有するアミン系潜在性硬化剤の製造(製造例1)
メチルジアミノピラジン(ピラジン環を有するアミン化合物)75gとジアミノプロパン125gの混合物中に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱ケミカル(株)製のjER 828(商品名))500gを、110℃で180分間少しずつ滴下した。その後、130℃で60分撹拌してアダクト反応物(エポキシ樹脂‐アミンアダクト)を得た。次に、フェノールノボラック(日本化薬社製KAYAHARD KTG‐105(商品名)、水酸基当量105g/eqおよび軟化点103℃)250gを加えて、180℃で60分間中和して、(b4)ピラジン環を有するアミン系潜在性硬化剤(融点82℃;ピラジン環含有率8%)を得た。
【0101】
(b5)アダマンタン環を有するアミン系潜在性硬化剤の製造(製造例2)
フラスコ中に1,2-ジアミノプロパン150gを加え、60℃に加温した。これに、BPAグリシジルエーテル(ビスフェノールAグリシジルエーテル)(旭電化製のアデカレジンEP-4100(商品名))290gと1,3-ビス(4-グリシジルオキシフェニル)アダマンタン110gの混合物を攪拌しながら少しずつ加え、反応させた。添加後、反応混合物を140℃に加熱して1.5時間撹拌して、アミンとエポキシ基の付加反応を行って、反応生成物を得た。
上記の反応生成物にフェノールノボラックレジン(旭有機材(株)製MP-800K(商品名)、軟化点73℃)を110g加え、150℃で60分溶融マスキング反応を行って、(b5)アダマンタン環を有するアミン系潜在性硬化剤を得た。(アダマンタン環含有量は約5%)
【0102】
(b6)インドール環を有するアミン系潜在性硬化剤の製造(製造例3)
フラスコ中に1,2-ジアミノプロパン150gを加えて、60℃に加温した。これにBPAグリシジルエーテル(旭電化製アデカレジンEP-4100(商品名))290gとインドール含有エポキシ樹脂110gの混合物を攪拌しながら少しずつ加えて、反応させた。添加後、反応混合物を140℃に加熱して、1.5時間撹拌して、アミンとエポキシ基の付加反応を行って、反応生成物を得た。
上記の反応生成物にフェノールノボラックレジン(旭有機材(株)製MP-800K(商品名)、軟化点73℃)を110g加え、150℃で60分間溶融マスキング反応を行って(b6)インドール環を有するアミン系潜在性硬化剤を得た。(インドール含有量は約5%)
【0103】
(b7)インドール環及びアダマンタン環を有するアミン系潜在性硬化剤(製造例4)
フラスコ中に1,3-ジアミノアダマンタン30gと1,2-ジアミノプロパン120gを加え、その混合物を60℃に加温た。これにBPAグリシジルエーテル(旭電化製アデカレジンEP-4100(商品名))290gとインドール環を有するエポキシ樹脂(下記式に示すINRE)110gの混合物を攪拌しながら少しずつ加えて反応させた。
【化2】
添加後、反応混合物を140℃に加熱して1.5時間撹拌して、アミンとエポキシ基との付加反応を行って、反応生成物を得た。
上記反応生成物にフェノールノボラックレジン(旭有機材(株)製MP-800K(商品名)、軟化点73℃)110gを加えて、150℃で60分間溶融マスキング反応を行い、(b7)インドール環及びアダマンタン環を有するアミン系潜在性硬化剤を得た。(アダマンタン環含有量は約3.6%/インドール環含有量は約5%)
【0104】
(b8)インドール環及びアダマンタン環を有するアミン系潜在性硬化剤(製造例5)
フラスコ中に1,2-ジアミノプロパン150gを加えて60℃に加温した。これにBPAグリシジルエーテル(旭電化製アデカレジンEP-4100(商品名))260gと1,3-ビス(4-グリシジルオキシフェニル)アダマンタン70gとインドール環を有するエポキシ樹脂(上記式に示すINRE)70gの混合物を攪拌しながら少しずつ加えて反応させた。添加後、反応混合物を140℃に加熱して1.5時間、アミンとエポキシ基の付加反応を行って反応生成物を得た。
上記の反応生成物にフェノールノボラックレジン(旭有機材(株)製MP-800K(商品名)、軟化点73℃)110g加えて、150℃で60分間溶融マスキング反応を行って(b8)インドール環及びアダマンタン環を有するアミン系潜在性硬化剤を得た。(アダマンタン環含有量は約3%/インドール環含有量は約3%)
【0105】
(B)アミン系潜在性硬化剤のビスフェノールA型エポキシ樹脂との反応温度のピーク
(B)アミン系潜在性硬化剤をビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱ケミカル社製JER828(商品名))と、ビスフェノールA型エポキシ樹脂/(B)アミン系潜在性硬化剤(100/6、質量比)の割合で混合した。混合物を、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製Q2000(商品名)を使用して、25℃から200℃まで、5℃/minの割合で加熱して、反応温度のピークを得た。反応温度の測定結果は、すでに記載した。
【0106】
(B)アミン系潜在性硬化剤の融点の測定
(B)アミン系潜在性硬化剤を、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製Q2000(商品名)を使用して、25℃から200℃まで、2℃/minの割合で加熱して、融解ピークを得た。融解ピークのピークトップを融点とした。結果はすでに記載した。
【0107】
これらの成分を表1~6に示す割合で配合し、実施例1~53及び比較例1~43の硬化性組成物を製造した。
【0108】
このようにして得られた実施例1~53及び比較例1~43の硬化性組成物について、下記の評価を行った。評価結果は、表1~6にまとめて記載した。
【0109】
(せん断強度および破壊状態)
25×100×1mmの電着塗装鋼板もしくは25x100x1.6mmのSPCC鋼板を用い、所定のラップ長さ(25mmもしくは12.5mm)、所定の厚み(1mmもしくは0.15mm)で剪断接着試験片を作製後、所定の条件(焼き付け温度及び時間を表1~6に記載)に保持して焼付けを行い、標準状態(20℃x65%)24時間後、JASO M 323-77の9.20せん断接着試験法に準じてせん断強度を測定した。その後、破壊状態を確認した。破壊状態の評価基準は以下の通りである。
CF:接着層の凝集破壊
AF:被着体と接着層との間の界面破壊
所定条件:
A被着体と接着条件:1.6mmSPCC鋼板、ラップ長さ12.5mm、接着剤厚み0.15mm(表1及び2に使用)
B被着体と接着条件:1mm電着塗装鋼板、ラップ長さ25mm、接着剤厚み1mm(表3~6に使用)
【0110】
(抗張力および伸び率)
JASO M 323-77の9.17引張試験A法に準じ、試験片を作成後、所定の硬化条件(上記の所定焼付条件)に保持にて焼付けを行い、24時間後、破断時の強度と伸び率を測定した。
【0111】
ゾル組成物の保存性
40℃7日後の粘度変化率は、次のように算出した。
JASO M323-77の粘度試験A法に準じ、7番ローター、20回転、1分後の粘度を測定した。次式により変化率(%)を算出した。
変化率=(n2-n1)/n1×100
ここで、n1:初期の粘度
n2:40℃で放置後の粘度
【0112】
【表1】
【0113】
【表2】
【0114】
【表3】
【0115】
【表4】


【0116】
【表5】
【0117】
【表6】
【0118】
実施例1~10及び41~53は、いずれも140又は160℃で良好な硬化性と接着性を有しており、その硬化性と接着性は、120℃でも維持された。
これに対し、比較例1~2及び41~43は、いずれも140℃又は160℃で良好な硬化性及び接着性を有し得るが、120℃では接着性が、不十分であった。尚、表2比較例1~2のせん断強度の「-」は、強度が低い(未硬化含む)ため測定できなかったことを意味する。
これは、比較例では、特定の硬化促進剤を使用していないからと考えられる。
【0119】
実施例21~33は、いずれも100℃で良好な硬化性を有しており、その硬化性は、90℃でも維持された。
これに対し、比較例21~23は、いずれも100℃で良好な硬化性および接着性を有しているが、90℃では特に接着性を維持できず、不十分であった。
これは、比較例では、特定の硬化促進剤を使用していないからと考えられる。
【0120】
更に実施例1~53は、いずれも、適切な保存安定性を有していた。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明の実施形態の硬化性組成物は、特定の硬化性成分(A)と特定の潜在性硬化剤(B)を含むので、更に約10~40℃低温での低温硬化性を(好ましくは共通して)発揮させることができ、適切な可使時間(ポットライフ又は貯蔵安定性)を有し得ることを見出した。更に、そのより低温硬化性を発揮した硬化性組成物は、より低い焼き付け温度(具体的には、90~120℃)で、硬化物性及び接着性を発現することができる。よって、本発明の実施形態の硬化性組成物は、自動車を更に効率的に、更に低エネルギーで製造するために好適に使用することができる。