(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-06
(45)【発行日】2022-10-17
(54)【発明の名称】工作機械
(51)【国際特許分類】
G05B 19/4155 20060101AFI20221007BHJP
G05B 19/18 20060101ALI20221007BHJP
B23B 1/00 20060101ALI20221007BHJP
B23B 3/30 20060101ALI20221007BHJP
【FI】
G05B19/4155 M
G05B19/18 C
B23B1/00 A
B23B3/30
B23B1/00 N
(21)【出願番号】P 2019544496
(86)(22)【出願日】2018-09-06
(86)【国際出願番号】 JP2018032989
(87)【国際公開番号】W WO2019065138
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2021-05-21
(31)【優先権主張番号】P 2017187992
(32)【優先日】2017-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000137856
【氏名又は名称】シチズンマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柳川 章全
【審査官】松浦 陽
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/056504(WO,A1)
【文献】特開2002-268715(JP,A)
【文献】特開2014-235466(JP,A)
【文献】特開2009-110223(JP,A)
【文献】特開2013-025727(JP,A)
【文献】特開2016-153938(JP,A)
【文献】特開2002-132318(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/18 - 19/418
G05B 19/42 - 19/46
B23Q 15/00 - 15/28
B23B 1/00
B23B 3/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを保持する複数のワーク保持手段と、前記各ワーク保持手段に各別に対応する作業手段保持部とを備え、前記作業手段保持部が、対応する前記ワーク保持手段に保持された前記ワークに対して所定の作業を行う作業手段を保持し、前記各ワークに対して前記各作業手段によって前記作業が実行されるように前記各ワーク保持手段及び前記各作業手段保持部の動作を制御する制御部を備えた工作機械であって、
前記制御部は、所定の作業
の実行中は、当該所定の作業によって影響される作業
のみ実行を制限し
て、当該所定の作業によって影響されない作業の並行した実行を許容するように
各作業の実行を制御することを特徴とする工作機械。
【請求項2】
前記所定の作業が、振動加工であり、前記所定の作業によって影響される作業が、精密加工であり、
前記所定の作業によって影響されない作業が、振動の影響を無視できる作業であることを特徴とする請求項1に記載の工作機械。
【請求項3】
前記制御部は、工作機械の所定の駆動軸を制御する制御系統を複数備え、前記制御系統ごとに独立して設定された加工プログラムに基づいて前記制御を行い、前記加工プログラムに備えられた所定の命令コードに従って前記作業の実行を制御するとともに、前記所定の作業又は前記所定の作業によって影響される作業の開始のための命令コードに、前記所定の作業によって影響される作業又は前記所定の作業をパラメータとして指定することで
、前記所定の作業によって影響される作業の実行の制限を行うように構成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の工作機械。
【請求項4】
制御系統ごとの作業工程が表示される表示部と、前記作業工程の変更を入力するとともに制限する作業を指定する操作部を備え、前記制御部は、前記表示部に前記制御系統ごとの前記作業工程の画面を表示し、前記操作部の操作によって前記画面上で変更された前記作業工程に従って、前記各作業の実行を制御するとともに、前記操作部の操作によって前記画面上で指定された作業の実行を制限するように構成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の工作機械。
【請求項5】
前記ワーク保持手段が、主軸であり、前記作業手段が前記ワークを加工する工具であり、前記作業手段保持部が、前記工具を保持する刃物台であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
主軸と刃物台とで構成された加工部を複数備え、複数の加工部間でワークを受け渡しながら、複数のワークに対して並行して加工などの作業ができる工作機械が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1の工作機械は、2つの加工部が共通のベッドに搭載され、一方の加工部での加工時の振動が、他方の加工部での加工品質に影響するのを防止するため、一方の加工部での加工中に他方の加工部での加工に制限を加えている。
【0003】
他方、特許文献2には、加工プログラムに記載されている指令に基づいて、工具を保持する主軸、ワークの送り軸等の軸を駆動制御する工作機械が開示されている。特許文献2では、加工プログラムによって所定の軸の駆動を禁止する駆動禁止指令が指示されている場合には、この所定の軸の駆動を行わないように制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-268715号公報
【文献】特開2009-110223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の従来技術では、一方の加工部での加工中に、他方の加工部での動作全体を停止させるため、結果的にサイクルタイムの増加を招いてしまうおそれがある。また、特許文献2に記載の従来技術は、1つの加工部での各軸の駆動を制限する技術であり、複数の加工部での加工を制限するものではなかった。
【0006】
そこで、本発明は、複数のワーク保持手段が保持する各ワークに対する各作業を並行して実行する際に、所定の作業が他の作業へ影響するのを防止しつつ、サイクルタイムの増加を抑制して、加工精度及び生産性に優れる工作機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために本発明に係る工作機械は、ワークを保持する複数のワーク保持手段と、前記各ワーク保持手段に各別に対応する作業手段保持部とを備え、前記作業手段保持部が、対応する前記ワーク保持手段に保持された前記ワークに対して所定の作業を行う作業手段を保持し、前記各ワークに対して前記各作業手段によって前記作業が実行されるように前記各ワーク保持手段及び前記各作業手段保持部の動作を制御する制御部を備えた工作機械であって、
前記制御部は、所定の作業と、当該所定の作業によって影響される作業との並行した実行を制限し、制限した作業以外の作業の並行した実行を許容するように制御することを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る工作機械によれば、複数のワーク保持手段が保持する各ワークに対する各作業を並行して実行する際に、ワークに対する所定の作業によって影響される作業があるときに、制御部が、所定の作業と、当該所定の作業によって影響される作業との並行した実行を制限し、制限した作業以外の作業の並行した実行を許容するように制御する。そのため、所定の作業が他の作業へ影響するのを防止しつつ、サイクルタイムの増加を抑制して、加工精度及び生産性に優れる工作機械を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る工作機械の全体構成を示す平面図。
【
図2】制御系統ごとの加工プログラムの一例を部分的に示した概略図。
【
図3】
図2の加工プログラムに、第1制御系統での振動加工時に第3制御系統での仕上げ加工を停止する命令コードを記載した一例を示した概略図。
【
図4】変形例において、スケジュール画面に表示される制御系統ごとの加工工程の一例を示す工程図と、振動加工が仕上げ加工とを並行して実行しないように調整した後の工程図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1に示されるように、本発明の一実施形態に係る工作機械100である自動旋盤装置は、ベッド1を備え、ベッド1上に3台のモジュールM1,M2,M3を搭載している。以下、
図1に示すように、モジュールM1,M2,M3の主軸3の軸線方向をZ軸方向、Z軸方向と水平方向において直交する方向をY軸方向、Z軸及びY軸と直交する上下方向をX軸方向とする。
【0011】
各モジュールM1,M2,M3は、同一の基本構成を有し、ベース2上に、ワーク保持手段である主軸3を支持する主軸台4が設けられている。ベース2上には、主軸3に把持されたワークWに対する作業としてワークWを加工する工具が作業手段として保持された刃物台7も作業手段保持部として一体的に設けられている。
【0012】
各ベース2上には、Z軸方向に延出するガイドレール5が、Y軸方向に平行に2本敷設されている。このガイドレール5上に、主軸台4が適宜の移動機構によってZ軸方向にスライド移動自在に装着されている。
【0013】
2つのモジュールM1,M3は、Z軸方向が平行となるようにベッド1上に並設され、各々のベース2がベッド1側に固定されている。
【0014】
両モジュールM1,M3の対向側に、Y軸方向に延在するガイドレール6が、Z軸方向に2本並設されてベッド1上に敷設されている。ガイドレール6は、一方のモジュールM1の対向位置から、他方のモジュールM3の対向位置に亘ってY軸方向に延出している。ガイドレール6上に、モジュールM2のベース2が、ボールネジ等の駆動機構によってY軸方向にスライド移動自在に装着されている。
【0015】
以下、ガイドレール6に搭載されたモジュールM2を「移動モジュール」と称し、Y軸方向には移動不能にベッド1上に固定されたモジュールM1,M3を「固定モジュール」と称する。
【0016】
移動モジュールM2は、ガイドレール6に沿って固定モジュールM1,M3間を往復移動する。これにより、移動モジュールM2は、両固定モジュールM1,M3と対向し、互いに主軸軸線が一直線上に一致する位置に移動することができる。
【0017】
工作機械100は、制御装置20を備え、制御装置20によって駆動制御される。制御装置20は、各モジュールM1,M2,M3の駆動、各主軸台4の移動機構及び移動モジュールM2の駆動機構の駆動部を制御する。
【0018】
各モジュールM1,M2,M3の各々において、主軸3によってワークWを把持した状態で、制御装置20が各駆動部を制御することにより、主軸3が回転し、主軸台4がZ軸方向へ移動し、刃物台7がX軸方向及びY軸方向へ移動することができる。これにより、刃物台7の所定の工具を選択しながらワークWを所定の形状に加工することができる。
【0019】
移動モジュールM2を、固定モジュールM1又は固定モジュールM3の対向位置に、互いに主軸軸線が一致するように移動させ、互いの主軸台4を近接方向に移動させる。これにより、移動モジュールM2と固定モジュールM1,M3との間でワークの授受を行うことができる。
【0020】
本工作機械100は、別々の旋盤として機能する複数のモジュールM1,M2,M3が組み合わされて構成される。本工作機械100では、制御装置20の制御によって、
図1に矢印で示すように、各モジュールM1,M2,M3の間でワークWを順次受け渡しながら、各モジュールM1,M2,M3で並行にワークWの加工が行われ、所定の製品Aが加工される。
【0021】
本実施形態では、固定モジュールM1で、工具等を振動させながらワークWを切削加工する振動加工を行う。移動モジュールM2で、ワークWの荒加工と、ワークWに穴を開口するドリル加工を行う。固定モジュールM3で、ワークWの外周に溝を形成する溝加工と、精密加工の一つである仕上げ加工を行う。
【0022】
なお、本実施形態においては、各モジュールM1,M2,M3は、ワークWを保持する主軸3と、主軸3に保持されたワークWを加工する工具が取付けられた刃物台7を備えた旋削を行うモジュールである例について説明している。しかし、モジュールがこれに限定されるものではなく、所定のモジュールが、研削、フライス、歯切り等の加工を行う加工モジュールであってもよく、これらを備えた工作機械とすることもできる。または所定のモジュールが、X軸,Y軸,Z軸のいずれかの方向に移動可能に単独でベッド1上に設けられた刃物台7であってもよい。
【0023】
制御装置20は、
図1に示すように、CPUやメモリ(記憶部)等を有する制御部21と、操作盤22とを備えている。制御部21は、記憶部に予め記憶されるプログラムや、制御装置20側に設けられるハードウェア等によって、ソフトウェア的又はハードウェア的に工作機械100の各部の動作を制御する。
【0024】
制御部21は、3つのモジュールM1,M2,M3をそれぞれ制御する3つの制御系統m1,m2,m3を備える。各モジュールM1,M2,M3の駆動軸は、モジュールごとに各々別々の制御系統m1,m2,m3に割り当てられている。制御部21は、メモリ等に記憶されている多系統加工プログラムに基づいて、各モジュールM1,M2,M3を駆動制御する。
【0025】
本実施形態の多系統プログラムは、
図2に示すように、制御系統ごとの加工プログラムを記載することができる3つの記載エリア$1,$2,$3を有している。
図2の例では、3つの記載エリア$1,$2,$3が互いに並列に配置されて、1つのワーク加工用プログラムを構成している。
【0026】
記載エリア$1に、第1制御系統m1に対応する加工プログラムが記載される。記載エリア$2に、第2制御系統m2に対応する加工プログラムが記載される。記載エリア$3に、第3制御系統m3に対応する加工プログラムが記載される。
【0027】
制御部21は、各記載エリア$1,$2,$3に記載された各加工プログラムを順次1行ずつ読み出して実行することで、各々の加工プログラムに対応する各制御系統(第1制御系統m1、第2制御系統m2、第3制御系統m3)を互いに独立して駆動制御する。
【0028】
本実施形態においては、固定モジュールM1の各駆動軸が第1制御系統m1に割り当てられている。駆動機構を含む移動モジュールM2の各駆動軸が第2制御系統m2に割り当てられている。固定モジュールM3の各駆動軸が第3制御系統m3に割り当てられている。
【0029】
このため制御部21は、第1制御系統m1によって固定モジュールM1の駆動制御を行う。第2制御系統m2によって移動モジュールM2のY軸方向の移動を含む駆動制御を行う。第3制御系統m3によって固定モジュールM3の駆動制御を行う。以上のような駆動制御により、制御部21は工作機械100の全体動作と、各モジュールM1,M2,M3によるワークの受け渡し動作と加工動作とを制御する。
【0030】
操作盤22は、工作機械100の動作状態や動作指示等を表示する表示部23と、工作機械100に対して所望の動作入力等を行うための操作ボタンやキーボード、タッチパネル等からなる操作部24と、などを有している。
【0031】
外部のパソコンや操作部24の操作等によって、多系統プログラムを作成することができる。作成された多系統プログラムは、制御系統ごとに、記載エリア$1,$2,$3に加工プログラムが記載される。
図2に、加工プログラムの記載例を示す。
図2に示す「aaaa」、「bb」、「cccc」等は、各駆動軸の移動、回転等の各種動作の実行を指令する命令コードを示している。
【0032】
図2に示す例では、第1制御系統m1に対応する記載エリア$1には、正面振動加工PA-1を実行するプログラム(命令コード群)と、移動モジュールM2とのワークWの授受(ローディング)を実行するプログラムが、加工するワークW(W1,W2,W3,W4,・・・)の数に応じて、時系列で繰り返される加工プログラムが記載されている。
【0033】
第2制御系統m2に対応する記載エリア$2には、固定モジュールM1とのワークWの授受を実行するプログラムと、背面加工PB-1を実行するプログラムと、ドリル加工PB-2を実行するプログラムと、固定モジュールM3とのワークWの授受を実行するプログラムが、加工するワークW(W1,W2,W3,W4,・・・)の数に応じて、時系列で繰り返される加工プログラムが記載されている。
【0034】
第3制御系統m3に対応する記載エリア$3には、移動モジュールM2とのワークWの授受を実行するプログラムと、ワークWに溝を加工する溝加工PC-1を実行するプログラムと、ワークWの正面を仕上げる正面仕上げ加工PC-2を実行するプログラムが、加工するワークW(W1,W2,W3,W4,・・・)の数に応じて、時系列で繰り返される加工プログラムが記載されている。
【0035】
図2の加工プログラムによれば、固定モジュールM1(第1制御系統m1)での3個目のワークW3の正面振動加工PA-1と、固定モジュールM3(第3制御系統m3)での1個目のワークW1の正面仕上げ加工PC-2とを並行して実行するようになっている。また、4個目のワークW4の正面振動加工PA-1と、2個目のワークW2の正面仕上げ加工PC-2とを並行して実行するようになっている。5個目以降についても同様である。
【0036】
各モジュールM1,M2,M3は、同一のベッド1上に搭載されているため、ワークWの加工時の振動等が互いに伝わり易い。そのため、比較的高い加工精度が要求される正面仕上げ加工PC-2の加工精度が、正面振動加工PA-1の比較的大きな振動によって影響を受けるおそれがあり、並行して実行するのは好ましくない。
【0037】
正面振動加工PA-1に伴う振動による正面仕上げ加工PC-2の加工精度への影響を防止するため、制御部21は、固定モジュールM1で正面振動加工PA-1を実行しているときに、正面振動加工PA-1によって影響される固定モジュールM3での正面仕上げ加工PC-2を、正面振動加工PA-1と並行して実行しないように制御することができる。
【0038】
本実施形態では、各制御系統m1,m2,m3の加工プログラム中の所定の命令において、加工のための動作の停止を行う軸を指定し、指定された軸の動作の停止範囲を定めることで、制御部21は、指定された軸に対応する所定の制御系統の実行を制限することができる。この軸の指定や指定された軸の動作の停止範囲の設定は、例えば、操作部24の操作等によって制御系統ごとに加工プログラムを作成するときに行うことができる。具体的には、振動加工の開始命令コード(
図3に示す「aaaa」)を、加工のための動作を停止させる軸をパラメータとして指定することが可能な命令コードとする。第1制御系統m1の加工プログラムにおいて、3個目以降のワークWの正面振動加工PA-1の開始の命令コード(
図3に示す3個目の「aaaa」)に、加工のための動作を停止させる軸として固定モジュールM3のX軸(「X3」)とZ軸(「Z3」)をパラメータに指定する。また、振動加工の終了命令コード(
図3に示す「nnnn」)を、軸の停止の解除を含む命令コードとする。正面振動加工PA-1の最後の命令コードを、終了命令コード(「nnnn」)とする。前記軸の指定が可能な命令コードと軸の停止を解除する命令コードを第1制御系統m1用の加工プログラムとして
図3の記載エリア$1に記載することができる。
【0039】
一方、指定された軸の動作の停止範囲の設定は、所定の作業によって影響される加工であることを制御部21に対して宣言する宣言開始命令コード(
図3に示す「mmmm s1」)と、宣言終了命令コード(
図3に示す「mmmm s2」)を予め定める。所定の作業に対する当該所定の作業によって影響される作業の加工プログラムとして、固定モジュールM1での正面振動加工PA-1に対して振動の影響を無視できない固定モジュールM3を制御する第3制御系統m3の加工プログラムの正面仕上げ加工PC-2の加工開始前に、宣言開始命令コード「mmmm s1」を設ける。正面仕上げ加工PC-2の加工終了後に宣言終了命令コード「mmmm s2」)を設ける。前記宣言開始命令コード「mmmm s1」と宣言終了命令コード「mmmm s2」)を第3制御系統m3用の加工プログラムとして
図3の記載エリア$3に記載することができる。
【0040】
図3に示すように、正面仕上げ加工PC-2の加工開始前に宣言開始命令コード「mmmm s1」を、加工終了後に宣言終了命令コード「mmmm s2」を第3制御系統m3の加工プログラムに設けることで、制御部21は、正面振動加工PA-1の振動加工の開始命令コード「aaaa」から振動加工の終了命令コード「nnnn」の間の命令コードの実行による正面振動加工PA-1の加工中は、宣言開始命令コード「mmmm s1」以降の命令コードの実行による正面仕上げ加工PC-2の加工を停止させる。制御部21は、終了命令コード「nnnn」の実行によって軸の停止が解除された後に、宣言開始命令コード「mmmm s1」以降のX軸、Z軸の初期位置への移動命令コードである「ffff」や加工命令コードである「gggg」等の命令コードの実行による正面仕上げ加工PC-2を実行する。
【0041】
具体的な制御動作は、制御部21による各制御系統の加工プログラムの読み込みが進行し、制御部21が、第1制御系統m1の加工プログラムにおいて開始命令コード「aaaa」と停止する軸をパラメータとして読み込むと、パラメータで読み込まれた軸を停止できる状態とする。このときに制御部21は、第3制御系統m3の加工プログラムにおいて宣言開始命令コード「mmmm s1」が読み込まれると、パラメータで読み込まれた軸の制御動作を停止し、宣言開始命令コード「mmmm s1」以降の「ffff」や「gggg」の実行を規制する。正面振動加工PA-1が終了し、第1制御系統m1の加工プログラムにおいて終了命令コード「nnnn」が読み込まれると、パラメータで読み込まれた軸の制御動作の停止が解除されることによって、制御部21は宣言開始命令コード「mmmm s1」以降の「ffff」、「gggg」等の読み込みにより正面仕上げ加工PC-2を実行する。第3制御系統m3の加工プログラムにおいて宣言終了命令コード「mmmm s2」が読み込まれると、制御部21は、正面仕上げ加工PC-2が終了したことを検知する。
図3の斜線部分は、開始命令コード「aaaa」と終了命令コード「nnnn」の間は正面振動加工PA-1が行われるため、その間は固定モジュールM3での加工が停止されることを模式的に表している。
【0042】
正面振動加工PA-1の加工中の正面仕上げ加工PC-2の実行を規制することにより、正面振動加工PA-1と正面仕上げ加工PC-2の進行状態にずれが生じ、正面振動加工PA-1の加工時に正面仕上げ加工PC-2が開始されずに別の加工が行われる場合は、宣言開始命令コード「mmmm s1」の読み込みが行われないことにより、第3制御系統m3の軸は停止されずに、例えば溝加工PC-1等の加工が継続される。
【0043】
一方、正面仕上げ加工PC-2の加工中に第1制御系統m1の加工プログラムにおいて開始命令コード「aaaa」と停止される軸のパラメータが読み込まれた場合に、正面振動加工PA-1を開始しないように制御部21を構成することができる。制御部21を、宣言開始命令コード「mmmm s1」を読み込んだ後、宣言終了の命令コード「mmmm s2」を読み込む前に、開始命令コード「aaaa」を読み込む場合は、開始命令コード「aaaa」以降の読み込みを停止するように予め設定しておくことによって、第3制御系統m3の加工プログラムにおいて宣言終了の命令コード「mmmm s2」が読み込まれ、制御部21が、正面仕上げ加工PC-2の終了を検知した後、開始命令コード「aaaa」以降の命令コードを読み込み、正面振動加工PA-1加工が開始される。
【0044】
制御部21は、
図3に示される加工プログラムを制御系統ごとに順次実行することで、複数のワークWの加工を行う。固定モジュールM1で3個目のワークW3の正面振動加工PA-1が開始される際、開始の命令コード(「aaaa」)に加工のための動作を停止させる軸としてX3とZ3が指定されているため、固定モジュールM3の正面仕上げ加工PC-2の動作(精密加工)が停止される。この動作以外の固定モジュールM3の動作(溝加工PC-1など)と、移動モジュールM2のすべての加工は、振動の影響を無視できるため、実行が許容されて正面仕上げ加工PC-2と並行して実行される。
【0045】
このように、本実施形態では、振動の影響を無視できない加工のみ実行を制限して、振動の影響を無視できる加工は実行を許容することで、複数のモジュールM1,M2,M3で、実行の制限のかかった加工以外の複数の加工を並行して実行することができる。したがって、振動などによる加工精度への影響を防止しつつ、工作機械100全体のサイクルタイムの増大を必要最小限に抑制することができ、加工精度及び生産性に優れる工作機械100を提供することができる。
【0046】
また、第1実施形態では、各制御系統を制御する加工プログラムに、制限する加工を指定する命令コードを記載している。そのため、制御部21が制御系統ごとに加工プログラムを実行することで、振動加工等のような特殊な加工を行っている間は、振動の影響を受け易い仕上げ加工等の実行を自動で制限することができる。
【0047】
なお、第1実施形態では、固定モジュールM1の振動加工中に固定モジュールM3の仕上げ加工の一部を停止するように加工プログラムを構成しているが、これに限定されることはない。例えば、固定モジュールM3の仕上げ加工中に、固定モジュールM1の振動切削を停止するようにしてもよい。この場合、例えば、固定モジュールM3の正面仕上げ加工PC-2の所定の命令コードに、固定モジュールM1の停止させる軸、例えば、X軸(「X1」)、Z軸(「Z1」)をパラメータとして指定する。
【0048】
さらに固定モジュールM1の正面振動加工PA-1の命令コード群の前後に、他の加工精度に影響する動作を制限する命令コードを記載して、仕上げ加工精度に影響する動作のみを停止して、他の動作は仕上げ加工中でも実行を許容するようにしてもよい。これにより、振動加工による仕上げ加工精度への影響を防止しつつ、サイクルタイムの増大を抑制することができ、加工精度及び生産性を向上させることができる。
【0049】
また、本実施形態では、振動加工と仕上げ加工が並行して実行されないように一方の実行を制限しているが、制限される加工が振動加工と仕上げ加工に限定されることはない。他の加工精度に影響を与えるような加工がある場合に、本発明を適用することができる。他の加工精度に影響する加工の実行を制限するか、または、他の加工の実行を制限することで、加工時の互いの加工精度への影響を防止しつつ、サイクルタイムの増加を抑制し、加工精度及び生産性を向上させることができる。
【0050】
また、第1実施形態では、ユーザが加工プログラムを作成するときに、所定の加工プログラムに所定の命令コードを設け、所定の加工のときに制限する加工を指定している。しかし、加工の制限がこの例に限定されることはない。変形例として、操作盤22の表示部23に表示される各制御系統の加工のスケジュール画面上で、制限する加工を指定できる構成とすることができる。
【0051】
図4の紙面上部に、スケジュール画面に表示される各制御系統m1,m2,m3(モジュールM1,M2,M3)の加工工程の一例を示す工程図を示す。なお、
図4の工程図は一例であって、スケジュール画面に表示される工程図が
図4の工程図に限定されることはない。
【0052】
図4の紙面上部の工程図に示すように、第1制御系統m1の振動加工と、第3制御系統m3の仕上げ加工の一部が並行して実行するようになっている。仕上げ加工精度への振動加工の振動による影響を防止するため、タッチパネル等の操作部24を操作して、
図4の紙面下部に示すように、固定モジュールM3の仕上げ加工の時間軸をずらして、振動加工と仕上げ加工とが並行して実行されないように調整することができる。このスケジュール画面での工程の調整を受けて、各制御系統の加工プログラムの記載エリア$1,$2に、加工を制限する命令コードやパラメータが設定されたり、時間軸がずらされたりして、加工プログラムが変更(更新)される。これにより、スケジュール画面で行った加工の制限が加工プログラムに反映される。
【0053】
このようなスケジュール画面での加工の制限によっても、振動加工を実行している間は、仕上げ加工が停止されるが、第2制御系統m2(移動モジュールM2)での加工は振動加工と並行して実行することができる。振動加工が終了すると、第3制御系統m3(固定モジュールM3)での仕上げ加工が開始される。そのため、振動による加工精度への影響を防止して、仕上げ加工を高精度に行うことができるとともに、サイクルタイムの増大を必要最小限に抑制することができ、加工精度及び生産性を向上させることができる。
【0054】
また、スケジュール画面上に加工工程を時系列に表示することで、ユーザは各加工工程がどのように並行して実行されるか等を把握し易くなる。また、ユーザ等が直接に加工プログラムを変更する必要がなく、スケジュール画面上で自在に加工工程を調整することができる。よって、加工の制御をより容易に行うことができるとともに、加工工程の調整の自由度を高めることができる。
【0055】
以上、本発明の実施形態を図面により詳述してきたが、上記実施形態は本発明の例示にしか過ぎないものであり、本発明は上記実施形態の構成にのみ限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、本発明に含まれる。
【0056】
例えば、上記実施形態では、2つの固定モジュールM1,M3及び1つの移動モジュールM2を備えた工作機械100であったが、これに限定されることはない。例えば、2つの固定モジュール及び2つの移動モジュールを備えた構成、或いは固定モジュールを1つあるいは3つ以上備え、移動モジュールを3つ以上備えた構成の場合においても同様に本発明を適用することができる。また、上記実施形態では、1種類の製品の加工を連続的に加工しているが、これに限定されることはない。複数の異なる製品の加工を連続的に加工する場合においても本発明を適用することができる。
【0057】
また、上記実施形態では、所定の作業と、当該所定の作業によって影響される作業との並行した実行を制限したが、前記作業に対して工作機械の所定の動作が影響を与える場合は、前記作業と前記所定の動作の並行した実行を制限しても良い。例えば、前記作業と加工を伴わない移動モジュールの加減速移動の並行した実行を制限することができる。
【0058】
[関連出願への相互参照]
本出願は、2017年9月28日に日本国特許庁に出願された特願2017-187992に基づいて優先権を主張し、その全ての開示は完全に本明細書で参照により組み込まれる。