(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-06
(45)【発行日】2022-10-17
(54)【発明の名称】心肥大におけるマイクロRNA hsa-miR-665
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7105 20060101AFI20221007BHJP
A61K 31/711 20060101ALI20221007BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20221007BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20221007BHJP
A61P 9/04 20060101ALI20221007BHJP
C12N 15/861 20060101ALN20221007BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20221007BHJP
【FI】
A61K31/7105 ZNA
A61K31/711
A61K48/00
A61P9/00
A61P9/04
C12N15/861 Z
C12N15/113 Z
(21)【出願番号】P 2019550570
(86)(22)【出願日】2018-03-13
(86)【国際出願番号】 EP2018056230
(87)【国際公開番号】W WO2018167057
(87)【国際公開日】2018-09-20
【審査請求日】2021-01-27
(32)【優先日】2017-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】503291646
【氏名又は名称】キングズ カレッジ ロンドン
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(74)【代理人】
【識別番号】100221545
【氏名又は名称】白江 雄介
(72)【発明者】
【氏名】マウロ・ジャッカ
(72)【発明者】
【氏名】ルカ・ブラガ
(72)【発明者】
【氏名】マッテオ・ダル・フェッロ
(72)【発明者】
【氏名】ミゲール・ルイス・クーニャ・マノ
(72)【発明者】
【氏名】アナ・ソフィア・ブレジェイロ・エウラリオ
【審査官】池上 京子
(56)【参考文献】
【文献】Bioinformation,2013年,vol.9(18),p.919-922
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
A61K 31/00-31/80
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
心肥大により特徴づけられる心臓病の予防または治療のための使用のための医薬組成物であって、少なくともマイクロRNA hsa-miR-665またはかかるマイクロRNAの一次転写産物またはかかるマイクロRNAの前駆
体またはかかるマイクロRNAをコードするDNA、またはそれらの組み合わせ、および薬学的に許容可能な媒体または賦形剤の少なくとも1つを含む、医薬組成物。
【請求項2】
前記心臓病が心不全、心筋症、病的心肥大、特に虚血後病的肥大、遺伝的および非遺伝的起源の心筋症、特に肥大型表現型を有する心筋症、心筋梗塞、虚血性または非虚血性由来の心筋症、心筋虚血および拡張機能障害の増加により特徴づけられる病因不明の心筋症からなる群から選択される、請求項1に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項3】
前記心臓病が駆出率が保持された心不全(HFpEF)である、請求項1に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項4】
マイクロRNAが心肥大を発症するリスクのある状態において使用される、請求項1に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項5】
心肥大を発症するリスクのある状態が慢性高血圧、心臓弁疾患、肥大型表現型につながる遺伝性心筋症、心筋梗塞、慢性のまたは突発性の虚血損傷による心筋細胞損失および虚血性または非虚血性由来の心筋症からなる群から選択される、請求項4に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項6】
遺伝子治療における使用のための請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
少なくともマイクロRNA hsa-miR-665および/または前記マイクロRNAの一次転写産物および/または前記マイクロRNAの前駆
体および/または前記マイクロRNAをコードするDNAおよび/または一次転写産物をコードするDNA、マイクロRNAの前駆
体、またはそれらの組み合わせを含む
ベクターを含む医薬組成物であって、心肥大により特徴づけられる心臓病の予防または治療のための使用のための
医薬組成物。
【請求項8】
前記ベクターが、天然または人工のいずれかの任意のカプシド血清型のアデノ随伴ベクター(AAV)である、請求項7に記載の使用のための
医薬組成物。
【請求項9】
心不全の治療のための、請求項1-6のいずれか一項に記載の使用のための
医薬組成物。
【請求項10】
心肥大により特徴づけられる心臓病の予防または治療のための使用のための
、RNAストレッチ
を含む医薬組成物であって、該ストレッチは、インビトロにおいて無細胞転写法によって得られるか、合成によって生成されるか、関連するDNAコーディング配列の移入によって細胞内で発現されるか、またはプラスミド、ウイルスもしくは他の種類のベクターの投与によって細胞内に導入もしくは発現される、マイクロRNA hsa-miR-665、
それについての一次転写産物、
または前駆
体を含む、
医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品およびバイオテクノロジーの分野に関する。
【0002】
特に、本発明は、心肥大に関連する心臓疾患およびその後の心臓の病理的なリモデリングの治療のための、特に心不全(HF)を防ぐおよび/または治療するための、ヒトマイクロRNA hsa-miR-665に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
心臓血管の手術と治療の最近の進歩にもかかわらず、心臓血管疾患(CVD)は毎年1700万人以上の死亡の原因であり、全世界の死亡の31%に相当する(http://www.who.int/cardiovascular_diseases/en/)。これらの死亡の80%は中所得国および低所得国で発生するため、CVDの負担は高所得人口にもはや制限されない。
【0004】
CVDの範囲内で、心不全(HF)はさまざまな根本的な病理学的原因によって決定される最終的な状態を表す。アメリカ心臓病学会/アメリカ心臓協会ガイドラインは、HFを「心室が血液を充満または排出する能力を損なう任意の構造的または機能的心臓障害から生じる複雑な臨床症候群」と定義している[1][2]。この症候群は世界中で2600万人以上の人々に影響を与えており、そのうち74%が少なくとも1つの併存疾患を患っており、HFによってかなり悪化する[3]。
【0005】
成体の心臓は動的器官であり、異なる外因性および内因性の刺激に応じて大幅にリモデリングできる。病理学的刺激の大部分は、個々の心筋細胞サイズの代償的増加に起因する心肥大の段階を最初に誘導する。後に、これはしばしば非代償性肥大の形に発展し、最終的にLV解剖学のリモデリングを決定し、顕性HFに陥らせる(引用文献[4]-[5]で総説される)。代償性肥大は、慢性または突発性の虚血性損傷(虚血性心筋症または、心筋梗塞)による心筋細胞損失、慢性高血圧または心臓弁疾患によって決定され得る([5]に概説される)。同じ反応が、肥大型表現型につながる遺伝性心筋症の様々な遺伝子変異の結果としても観察されている([5]に概説される)。
【0006】
心筋細胞肥大はまた、保持された左心室(LV)駆出率(EF)を伴うHF、HFpEFの発症と一般的に関連しており、現在HF症例の約50%を占める。この条件に関する限り、EFが低下したHFと比較したHFpEFの有病率(HFrEFは通常、虚血性心疾患により観察される)は10年ごとに10%増加しており、蔓延していることを疫学的観察は示唆する[6、7]。この傾向は、HFpEFに関連した併存疾患(特に高血圧と肥満)の増加率、人口の平均寿命の延長、および冠動脈疾患(CAD)患者のより良い管理によって維持されている。HFpEF患者の死亡率は5年で60%に近く、入院率が高く、生活の質が著しく損なわれる。
【0007】
現在、CADに起因するHFrEFの治療(特に、アンジオテンシンアルドステロンシステム阻害剤、ベータ遮断薬、LCZ696、ペースメーカー/デバイス療法)は、HFpEF患者ではほとんど効果がない[8]。スタチンでの治療は、HFpEFを有する185人の患者についての小さな臨床試験において、相対的な利益を示した[9];しかしながら、この薬物の作用機構は依然として欠けており(missing)、この結果は、より多数の患者において再現されていない。
【0008】
HFpEFの生理学および分子の相関関係は複雑であり、非常に部分的に理解されている。当該疾患は、無症候性から症候性に漸進的に進行し、かつLV肥大、緩慢なLV弛緩、LV弛緩性硬直、減少したLV収縮性性能、左心房リモデリング、末梢血管抵抗、内皮機能障害、肺動脈および静脈抵抗の増加、神経ホルモン活性化および心室-動脈結合によりさまざまに特徴づけられる[10]。HFpEFの根底にある病因は不明のままであるが、この状態の2つの最も顕著な表現型相関は、増加した心筋細胞の硬直の増加[11]および心筋細胞の収縮性の障害[12]であるという十分なコンセンサスが存在する。加齢は、コラーゲンの蓄積および架橋[13]、心筋細胞損失および反応性肥大[14]により、弛緩を長くし、LV硬直を高める。
【0009】
したがって、心肥大およびその結果、特に心不全の治療のための、より特には、保持された左心室(LV)駆出率(EF)形態(HFpEF)の現在不治の心不全の治療のための治療ツールの必要性が依然として存在する。
【0010】
さらに、心肥大状態に介入して関連疾患の発症を防ぐことが望ましい。
【0011】
マイクロRNAは進化的に保存された小さな非コーディングRNAであり、標的メッセンジャーmRNAに存在する相補配列への不完全な塩基対形成により、転写後レベルで遺伝子発現を調節し、より頻繁には3’-UTRにあるが、5’UTRおよびコーディング配列にもある。ペアリングにより、翻訳抑制、mRNA分解、またはその両方が発生する[15]。マイクロRNAのmRNAへの結合に不可欠なマイクロRNAシード配列は保存された配列であり、ほとんどの場合、マイクロRNA5’末端から2-8の位置にある[16]。
【0012】
マイクロRNAは、一般的にRNAポリメラーゼIIによってプライマリマイクロRNA(priマイクロRNA)に転写されるゲノムコード化された配列である。pri-マイクロRNAは、異なる細胞エンドヌクレアーゼによって連続的に処理され、最終的に約19~23ヌクレオチドの2つの鎖を含有する二本鎖を生成する。その後、マイクロRNA二本鎖が解かれ、成熟したマイクロRNAがRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)に組み込まれ、マイクロRNAによるサイレンシングを媒介する([17]で総説される)。
【0013】
心臓の発達、肥大および心不全におけるさまざまなマイクロRNAの役割が広く研究されている([18];[19]で総説される)。特に、マイクロRNAが適切な心臓の発達に関与していることが示された。ダイサーのノックアウトによるマイクロRNAネットワーク全体の除去は、発達中の心臓と成人の心臓の両方で、重度の心不全と死につながる[20]。さらに、機能の獲得および喪失に関する多くの研究は、病理学的心臓リモデリングに関与するマイクロRNAファミリーまたは単一のマイクロRNAを強調しており、これらのマイクロRNAを、バイオマーカーまたは新規治療の標的のいずれかとして使用する可能性を高めている(引用文献で総説される:[21]および[22])。心筋細胞増殖(miR-1[23]、miR-133a[24]、miR-199a-3p[25])、心筋細胞肥大(miR-208a[26]、マイクロRNA-212/132ファミリー[27]、miR-378[28])、心臓線維化(miR-29[29]、miR-21[30]、miR-378[28])、心筋細胞収縮性(miR-208a[26])を含む心臓の生態学における特定のプロセスを調節するために、いくつかのマイクロRNAが記載されている。
【0014】
ほぼすべてのヒト疾患におけるマイクロRNAの役割を考えると、それらの多くは革新的な治療法の標的と考えられており、いくつかは治療薬自体としても考えられている。
【0015】
しかしながら、これらの潜在的な適用のうち、これまでに臨床実験に至ったのはごくわずかであり、これらはいずれも心疾患の治療には使用されていない。
【0016】
従って、現在不治のHFpEF形態に特に関連して、心不全に関与し、心不全および関連疾患の治療に使用できるマイクロRNAが強く望まれている。
【0017】
心筋細胞機能の調節におけるマイクロRNA hsa-miR-665のこれまで知られていなかった役割が発見された。
【0018】
実際、当該マイクロRNAは、前肥大状態のラットおよびマウスの新生児心筋細胞のサイズを効果的に減少させることがわかっている。
【0019】
以前に公開された証拠は、このマイクロRNAが心不全患者の血液中で増加することを報告している[31]。逆に、別の報告では、心不全の患者は同じマイクロRNAの心臓内レベルがさらに低いことが示されている[32]。
【0020】
しかしながら、先行技術では、心不全の発生ましてや治療における、このマイクロRNAの原因となるまたは効果的な役割は示されておらず、示唆すらされていない。
【0021】
現在、生体内での培養心筋細胞および心臓に外因的に投与されたhsa-miR-665のこれまで知られていなかった薬理学的役割が発見された。
【0022】
特に、肥大状態では、マイクロRNAが心肥大および病理学的心臓リモデリングをブロックし、減少させると同時に心機能を高めることがわかっている。また、このマイクロRNAは、生体力学的ストレス応答の調節に関与する遺伝子の発現を特異的にダウンレギュレートし、肥大状態での治療的使用をさらにサポートすることがわかっている。
【0023】
十分に評価され、受け入れられている動物モデルで得られたこれらの結果により、ヒト対象の心疾患の治療用のhsa-miR-665を含む医薬品の開発が可能になった。
【0024】
hsa-miR-665は、病的肥大に対抗し、心不全を防ぐおよび/または治療するための治療オプションとして使用できる。
【0025】
マイクロRNAはまた、病的心肥大、特に、例えば虚血後病的肥大、HFpEFおよび肥大型表現型を伴う遺伝的に決定された心筋症などの心筋細胞硬直の増加に関与する、により特徴づけられる全状態を防ぐおよび/または治療するために使用され得る。
【発明の概要】
【0026】
本発明の1つの対象は、心肥大により特徴づけられる心臓の病態の予防および/または治療のためのマイクロRNA hsa-miR-665である。
【0027】
特に、当該疾病は病的心肥大、駆出率が保持された心不全(HFpEF)、減少した駆出率を有する心不全(HFrEF)ならびに遺伝的および非遺伝的起源の心筋症からなる群から選択され得る。
【0028】
特に、本発明の1つの対象は、特に心不全が心肥大の結果または心肥大に関連する場合に、心不全の予防および/または治療のためのマイクロRNA hsa-miR-665である。
【0029】
より特には、当該マイクロRNAは肥大の発症後に心臓機能を回復させるために使用され得る。
【0030】
また、例えば、心筋梗塞および虚血性または非虚血性由来の心筋症などの心肥大を発症するリスクのある状態において使用され得る。
【0031】
それを必要とする対象にhsa-miR-665の投与を含む、生体内で心肥大を調節する、防ぐおよび/または治療する方法も本発明の範囲内である。
【0032】
上述した使用のためのhsa-miR-665の投与のための組成物、ベクターおよび製剤も本発明の範囲内である。
【0033】
本発明の詳細な説明
定義
本発明の意味の範囲内で、心不全については、心室の血液を充填または排出する能力を損なう任意の構造的または機能的心障害から生じ得る複雑な臨床症候群が意図される。
【0034】
本発明の意味の範囲内で、心肥大については、これは、心筋細胞のサイズの増加および細胞外マトリックスなどの他の心筋成分の変化に起因する心筋の異常な拡大または肥厚を意図しており、これにより心機能が低下する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】心筋細胞の細胞サイズを調節するマイクロRNAのハイコンテンツスクリーニング。A.スクリーニングワークフロー。B.スクリーニングの反復にわたるCMサイズ間の相関、Spearman係数=0.84。各ドットは、個々のマイクロRNAの効果を表す。点線は、通常のコントロールCMの平均面積を示す。875マイクロRNAでのトランスフェクション後のコントロール(CTRL)に対するCM面積倍率変化。マイクロRNA/反復あたり約2500個の細胞が分析された。hsa-miR-665の効果が具体的に示されている。875マイクロRNAでのトランスフェクション後のコントロール(CTRL)へのCM面積倍率変化;約2500細胞をマイクロRNA/反復あたり解析した。hsa-miR-665の効果が具体的に示される。
【
図2】ラットCMにおけるhsa-miR-665抗肥大効果の検証。A、実験モデル。B.フェニレフリンPE(40μM)でのラットCMの処理後のまたはフェニレフリンPE(40μM)で処理され、かつhsa-miR-665で遺伝子導入されたラットCMのqRT-PCRにより評価される、示された遺伝子の発現レベル。結果は、少なくとも3つの異なる実験の平均値±s.d.である。**P<0.01はhsa-miR-665vs.未処理心筋細胞。
【
図3】慢性圧負荷のTACモデルにおけるhsa-miR-665の過剰発現の効果。A.実験モデル:偽(sham)手術または胸部大動脈狭窄(TAC)は10週齢雌性CD1マウスで実施した。同時にTAC手術を受けたマウス(n=8)をAAV9-hsa-miR-665またはAAV9コントロールで注射した(1×10
11vg/動物)。心臓機能をTAC後15、30日および60日に心エコーにより解析し、マウスを組織学的解析のためにTAC後30または60日にと殺した。B.TAC後30日および60日の偽、AAV9-空、AAV9-hsa-miR-665についての脛骨の長さに対する心臓の重量の比率として報告される心臓の質量。**P<0.01;***P<0.001。C.パネルBと同じ処置でのマウスにおける心臓切片の過ヨウ素酸シッフ(PAS)染色後のCM断面積の測定。DおよびE.AAV-コントロールまたはAAV-miR-665心臓内注射後(1×10
11vg/動物)30、45および60日に拡張期および駆出率(EF)中のLV前壁の厚さ(LVAW)の心エコー評価(それぞれパネルDおよびE)。*P<0.05;**P<0.01;***P<0.001。
【
図4】確立した肥大型表現型に対するhsa-miR-665の過剰発現の効果。A.実験モデル:偽手術または胸部大動脈狭窄(TAC)を10週齢雌性CD1マウスで実施した。TAC後15日、TAC手術を受けたマウス(n=8)はAAV9-hsa-miR-665またはAAV9コントロールで注射し(1×10
11vg/動物)、TAC後30、45および60日に心臓機能を心エコーにより解析し、マウスを組織学的解析のためにTAC後45または60日にと殺した。TAC後30、45および60日の拡張期中のLVAWd-左心室前壁の厚さ(B)、EF-駆出率(C)、LVID-左心室内径(D)の心エコー測定。
【
図5】hsa-miR-665はFHl1、EnahおよびXirp2を直接標的化する。A.コントロールと比較したTAC下でのhsa-miR-665過剰発現時のマウス試料の生体内でのmRNAseq;AAV9-Ctrlで注射されたTAC-マウス(n=3)に対するAAV9-hsa-miR-665で注射されたTAC-マウス(n=3)におけるアップ/ダウンレギュレートされたmRNAのLog2倍率変化。B.3’-UTRルシフェラーゼレポーターアッセイをcel-miR-67(非標的コントロール)またはhsa-miR-665で遺伝子導入されたHeLa細胞で行った。結果はFhl1、Enahの3’-UTRについて、およびXirp2の5’UTRについて、並びに空ベクター(ベクター)について、示される;ウミシイタケルシフェラーゼ活性はホタルルシフェラーゼの活性に標準化した。値は平均値±s.d.として表示される。*p<0.05、**P<0.01
【0036】
hsa-miR-665の配列はID hsa-miR-665(www.mirbase.org;Database Release 21;stem-loop sequence accession number MI0005563, mature sequence accession number MIMAT0004952)で最新で入手可能である。
【0037】
特に、hsa-miR-665は以下の配列のいずれか1つを有し得る:
受託番号MI0005563に対応する5’-UCUCCUCGAGGGGUCUCUGCCUCUACCCAGGACUCUUUCAUGACCAGGAGGCUGAGGCCCCUCACAGGCGGC-3’(配列番号1);
成熟配列受託番号MIMAT0004952に対応する5’-ACCAGGAGGCUGAGGCCCCU-3’(配列番号2)。
本発明によれば、上記配列のいずれか1つが使用され得る。
【0038】
本発明のマイクロRNAは875のマイクロRNA模倣体のライブラリーを使用して新生児ラット心筋細胞(CM)において実施されるハイコンテンツ、蛍光顕微鏡ベースの、ハイスループットスクリーニングにより請求された使用について同定された。
【0039】
本発明はまた、hsa-miR-665について本願明細書に開示される使用のためのhsa-miR-665の一次転写産物、前駆体および模倣体を含む。マイクロRNA一次転写産物、前駆体および模倣体の概念は、当技術分野で周知であり、さらなる説明を必要としない。特に、マイクロRNA模倣体につき、ネイティブマイクロRNAの活性および機能の「模倣」を目的としたRNA分子が意図される。hsa-miR-665をコードするDNAの使用も本発明の範囲内である。かかるDNA、例えば、cDNAは、当該分野の一般的な知識に従って設計できる。
【0040】
マイクロRNA hsa-miR-665は抗肥大作用を有することがわかっている。実際、心筋細胞のサイズを小さくできる。
【0041】
より特には、hsa-miR-665が効果的に、強い前肥大状態でラットおよびマウス新生児心筋細胞のサイズを減少させ、かつ心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、α-骨格アクチン(sk-αアクチン)および脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)などの病的肥大後の病理学的心臓リモデリングに関連する遺伝子の発現を負に制御し、一方で正常な心臓機能に関与する遺伝子(Serca2a、リアノジン受容体(Ryr)およびα-ミオシン重鎖(Myh6)を正に制御することが見出された。hsa-miR-665が心肥大および病理学的心臓リモデリングをブロックし、一方でLV圧負荷のマウスモデルにおけるこのマイクロRNAを発現するウイルスベクターの心臓内注射後に心臓機能を増加させることも見出された。
【0042】
従って、当該マイクロRNAは、病的肥大後に起こりうる病理学的心臓を防ぐことができる。
【0043】
さらに、hsa-miR-665は、LVの拡張とHFを防ぐことにより、病理学的表現型を救い、病理学的LV圧負荷にさらされるマウスの寿命を延ばすことができることが見出された。
【0044】
従って、当該マイクロRNAは心肥大の治療および心不全の予防に使用できる。
【0045】
最後に、特定の作用メカニズムに限定されることなく、hsa-miR-665活性が心筋細胞収縮性に関与する転写後調節に関与すること、および、特に、細胞の剛性および弾性を調節することにより圧負荷に対する心筋細胞応答を調節し、それにより、心肥大の調節におけるこのマイクロRNAの役割をさらに強化することが見出された。
【0046】
したがって、hsa-miR-665は、特に心筋細胞の硬直の増加を伴う、心肥大により特徴づけられる任意の状態の治療に使用できる。
【0047】
特に、心肥大により特徴づけられる任意の心臓病の予防また治療において使用され得る。
【0048】
当業者、例えば、心臓病の分野に特化した医師は、当該分野の常識に従って心肥大により特徴づけられる病態を同定できる。ファースターと他の著者、Mc Growth Hillによるハーストの「The Heart」の最終版も参照できる。
【0049】
当該マイクロRNAはまた、心肥大を発症するリスクのある任意の状態において有利に使用され得る。
【0050】
実際、予防について、心肥大の状態、従って例えば、遺伝的素因、環境条件または高血圧などのいくつかの条件または病態の存在に起因する関連心疾患、にかかりやすいまたは発症するリスクのある対象へのマイクロRNAの投与が意図される。
【0051】
例えば、虚血性心筋症および心筋梗塞などの慢性のまたは突発性の虚血損傷による心筋細胞損失、慢性高血圧、心臓弁疾患、肥大型表現型を引き起こす遺伝性心筋症および病因不明の心筋症により特徴づけられる、特に拡張機能障害の増加により特徴づけられる状態で使用され得る。
【0052】
心筋細胞サイズおよび硬さに対するその活性のおかげで、hsa-miR-665は特に保持された左心室駆出率を有する心不全(HFpEF)の予防または治療のために有利に使用され得る。
【0053】
本発明のマイクロRNAにより防がれ得る、または治療され得る疾病は、好ましくは病的心肥大、特に虚血後病的肥大、遺伝的および非遺伝的な起源の心筋症、心筋梗塞、虚血性または非虚血性由来の心筋症、心筋虚血ならびに駆出率が保持された心不全(HFpEF)および減少した駆出率を有する心不全(HFrEF)を含む心不全からなる群から選択される。
【0054】
遺伝子治療におけるhsa-miR-665の使用はまた、本発明の好ましい実施形態である。
【0055】
遺伝子治療について、疾患を治療するための医薬として患者の細胞への核酸ポリマーの治療的送達が意図される。本発明によれば、hsa-miR-665はかかる疾病を治療するためにそれを必要とする対象、例えば、心肥大または心不全または任意の上述の疾病に罹患するまたは発症するリスクのある対象の細胞に送達され得る。
【0056】
本発明のさらなる対象はマイクロRNAを含むRNAストレッチ(stretch)である。RNAの連続領域としてのRNAストレッチの概念は、この分野で一般的に知られている。当該RNAストレッチは、インビトロにおいて無細胞転写法によって得られるか、合成によって生成されるか、または関連するDNAコーディング配列の移入によって細胞内で発現されるか、またはプラスミド、ウイルスもしくは他の種類のベクターの投与によって細胞内に導入もしくは発現される。
【0057】
本発明は、心肥大および上述した疾病のいずれかの予防および/または治療についての医薬としての使用のためのRNAストレッチを提供する。
【0058】
本発明の実施形態では、マイクロRNA hsa-miR-665は従来の方法により医薬として対象に投与され得る。
【0059】
便宜的には、当該医薬は非経口、冠動脈内、静脈内または心臓内投与用の製剤の形態であるが、他の形態も同様に本発明を実施するのに適している。当業者は、患者の状態、疾患の重症度、患者の反応、およびこの問題の一般的な知識内の任意の他の臨床パラメーターに応じて、有効な投与時間を決定するであろう。
【0060】
本発明の別の対象は、心肥大および任意の関連する状態、特に心不全の予防および/または治療のための有効成分としてのマイクロRNA hsa-miR-665を含む医薬組成物である。
【0061】
本発明の医薬組成物は、以下:本発明のマイクロRNAに対応する合成RNAまたはその一次転写産物または前駆体、当該マイクロRNAをコードするDNA、一次転写産物をコードするDNAまたはこのDNAを含有する細胞の内側で産生されるマイクロRNAなどのRNAについての前駆体、の少なくとも1つを含有する。
【0062】
本発明のマイクロRNA(または一次転写産物または前駆体)または対応するコーディングDNAは当該技術分野では、送達を促進できるカチオン性脂質などの脂質分子またはペプチドとともに、またはポリマー足場の状況で、投与され得る。
【0063】
リポソームなどの脂質分子をベクターとして使用してmiRNAを投与する場合、miRNAの配列は好ましくは配列番号2である(受託番号MIMAT0004952)。
【0064】
かかるマイクロRNAまたはその対応するDNAを投与する別の方法は、RNAまたはDNAの投与で知られている適切なベクターによるものである。
【0065】
好ましいベクターは、任意のカプシド血清型のアデノ随伴ベクター(AAV)、天然の(AAV1、AAV2、AAV8、AAV9などであるがこれらに限定されない)または人工のいずれか、生体内でのDNAの投与について周知のウイルスベクター[33]である。
【0066】
ウイルスベクターをベクターとして使用してmiRNAを投与する場合、miRNAの配列は好ましくは配列番号1(受託番号MI0005563)である。
【0067】
少なくともマイクロRNA hsa-miR-665および/または少なくとも当該マイクロRNAをコードするDNAおよび/または少なくとも一次転写産物または前駆体をコードするDNAまたは当該マイクロRNAの模倣体、またはそれらの組み合わせを含む本発明の使用のためのベクターも本発明の対象である。
【0068】
本発明のマイクロRNAに対応する合成RNA、マイクロRNAをコードするDNA、一次転写産物をコードするDNAまたはこのDNAを含有する細胞の内側で産生されるマイクロRNAなどのRNAについての前駆体を投与するための、すべてのこれらの方法および製剤は従来のものであり、当技術分野で周知であり、さらに説明する必要はない。
【0069】
特に、当業者は、当該分野の一般的な知識に従って、例えばヒト投与のために、適切な投与モードおよびベクターを選択する方法がわかる。
【0070】
心臓内注射および全身注射が好ましい投与経路である。しかしながら、当業者は、任意の従来の医薬組成物によりマイクロRNAを投与することを決定できる。レミントンのPharmaceutical Sciences、最終版を参照できる。
【0071】
投与計画、用量および薬量は、医師の経験、治療される疾患および患者の状態に従って医師により決定されるだろう。
【0072】
選択された投与経路によれば、組成物は、経口、非経口、静脈内または動脈内投与に適した固体または液体の形である。
【0073】
本発明による組成物は、有効成分とともに、少なくとも1つの薬学的に許容可能な媒体または賦形剤を含む。これらは、特に有用な製剤補助剤、例えば、可溶化剤、分散剤、懸濁剤、および乳化剤であり得る。
【0074】
活性剤の平均量は異なる場合があり、特に資格のある医師の推奨と処方に基づいているべきである。
【実施例】
【0075】
以下の実施例は、本発明をさらに説明する。
実施例1
ハイコンテンツ、蛍光顕微鏡ベースの、ハイスループットスクリーニングは、心筋細胞サイズを改変できるマイクロRNAを同定する。
【0076】
875マイクロRNA模倣体のライブラリー(988 mature microRNAs, 875 unique sequences, miRBase release 13.0(2009、http://mirbase.org)を使用して、ハイコンテンツ、蛍光顕微鏡ベースの、ハイスループットスクリーニングを新生児ラット心筋細胞(CM)において実施した。新生児ラット心室のCMの培養をマイクロRNA模倣体のライブラリーで逆遺伝子導入した。72時間後、細胞をサルコメアα-アクチニンで染色して、CMのサイズと数を特異的に測定した。(
図1における実験模式図、パネルA)。スクリーニングは二連で行った。;反復試験は非常に良好な再現性を示した(Spearman係数0.84;
図1B)。
図1パネルCは各マイクロRNAがCM細胞サイズに及ぼす影響を、模擬遺伝子導入CMに対する倍率変化として表している。平均して、実験条件ごとに約2500個の細胞が分析され、再現された。
【0077】
11個のマイクロRNAが、CM細胞サイズをコントロールに対して1 Log2倍以上減少できることがわかった(miR-cel67でトランスフェクトされたCM);hsa-miR-665は最も効果的な抗肥大性マイクロRNAであった。
【0078】
実施例2
スクリーニングヒットの検証
スクリーニング結果に基づいて、各マイクロRNAが肥大表現型に対抗または誘導する能力を評価するという特定の目的で、抗肥大および肥前肥大状態の下での選択されたトップマイクロRNAの効果を検証および特性化することにした。最初に、以前に病的肥大(胎児の心臓遺伝子プログラム:心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、β-ミオシン重鎖(MYH7)およびα-骨格アクチン(sk-αアクチン)[4]または生理的な肥大(Serca2a、α-ミオシン重鎖(MYH6)およびリアノジン受容体(RYR)[4]に関連していた遺伝子のセットの発現に対する各マイクロRNAの効果を調べた。特に、CM細胞サイズを減少させることができるマイクロRNAの効果を調べるために、これらの細胞を既知の前肥大刺激であるフェニレフリン(PE)で刺激し、同時に個々のマイクロRNAで遺伝子導入した。トランスフェクションの72時間後に総RNAを抽出し、調査した遺伝子サブセットに特異的なTaqManプローブを使用したqRT-PCRで分析した(実験模式図、
図2、パネルA)。0.1%FBSで培養したラットCMに対するPE(40μM)の純粋な効果を、マイクロRNAの非存在下で72時間の処理後にqRT-PCRにより評価した。PEは、胎児心臓遺伝子プログラムに典型的な遺伝子のサブセット(ANP、BNPおよびsk-αアクチン)を強くアップレギュレートし、コントロールと比較してCMサイズを有意に増加させた(
図2、パネルB)。
【0079】
hsa-miR-665は、ANPとBNPのレベルを下げることにより、PEによって誘導される病的肥大のシグネチャを元に戻すことができ、同時に、良い収縮性の全既知のマーカーSerca2a、RyRおよびMYH6をアップレギュレートした(
図2、パネルB)[34、35]。
【0080】
実施例3
hsa-miR-665はマウスにおける横行大動脈狭窄後の肥大の発症に対抗し、かつ心臓機能を維持する。
生体内でのhsa-miR-665の抗肥大性効果を評価するために、このマイクロRNAが慢性心臓の圧負荷の横行大動脈狭窄(TAC)モデルにおける肥大を防ぐことができるかどうかを調べた。8週齢のCD1マウスをTACまたは偽手術に供し、同時にhsa-miR-665を発現するアデノ随伴ウイルス(AAV)血清型9(AAV9)ベクターまたはコントロールベクターでLV前壁(LVAW)に注射した(1×10
11vg/動物;n=群当たり8;
図3、パネルA)。我々の以前の経験ではこの手順が効率的な心筋形質導入および導入遺伝子の1か月間の発現をもたらすことを示している[25]。
【0081】
図3パネルBで報告されているように、hsa-miR-665の過剰発現は30日および60日の両方で心臓の肥大性リモデリングに対抗することができ、生理学的レベルで心臓質量を維持した(TAC後30日、脛骨の長さ(mm)で正規化された心臓質量(gr)は0.09±0.020であった;コントロールベクター受けた動物については0.013±0.019、P<0.001;TAC後60日、AAV9-miR-665注射動物について0.010±0.0006およびコントロールベクター受けた動物について0.015±0.0008、P<0.01)。
【0082】
処理およびコントロールマウスの心臓切片の過ヨウ素酸シッフ(PAS)染色はTAC後30日で心筋細胞断面積の顕著な減少を明らかにした(AAV9-miR-665注射動物について242.26±76.020μm2、コントロールベクター受けた動物について比較して487.26±104.27μm2、P<0.001)。(
図3、パネルC)。
【0083】
TACの15、30、および60日後に心エコー検査で評価されたように、拡張期のLV前壁厚(LVAW)は、hsa-miR-665処理マウスで30日と60日の両方でコントロールと比較して有意に減少した。
TAC後15、30日および60日で心エコーで評価すると、拡張期におけるLV前壁の厚さ(LVAW)は30日および60日の両方でコントロールと比較してhsa-miR-665-処理マウスで有意に減少した。TAC後30日で、AAV9-miR-665注射動物がLVAW厚さ-dは1.01±0.05mmを有し、コントロールベクター受けた動物については1.36±0.65mm、P<0.01、この効果はTAC後60日まで維持された、AAV9-miR-665について1.02±0.15mmおよびコントロール処理動物について1.44±0.8mm;P<0.01(
図3、パネルD)。
【0084】
注目すべきことに、TAC後30日および60日に、左心室駆出率(LVEF)も、コントロール動物と比較してAAV9-miR-665で処理した狭窄マウスで顕著に保持された(
図3、パネルE)(TAC後30日、AAV9-miR-665注射動物のLVEFは56.5±5.4であった、コントロール処理動物では42.54±5.90%、P<0.05;TAC後60日でAAV9-miR-665注射動物のLVEFは51.3±5.8であった、コントロール処理動物では34.82±0.77%、P<0.01)。
【0085】
総合すると、これらの結果は大動脈バンディング後のhsa-miR-665の過剰発現は心肥大の減少および慢性心臓過負荷モデルにおける心臓の機能の維持に有利な効果を奏することを指し示し、このマイクロRNAがインビトロで病理学的心筋細胞肥大を減少させることを示した効果と一致する。
【0086】
実施例4
hsa-miR-665は心臓の拡張および肥大性心臓における機能障害発症を遅らせる。
これらの結果の可能な橋渡し応用(translational application)に焦点を当てて、次に、hsa-miR-665が病的肥大の発症を救い、正常な心臓表現型に戻すことができるかどうかを検証することにした。
【0087】
このレスキュー実験では、TAC手術の2週間後に、AAV9-hsa-miR-665またはAAV9コントロールをマウスにLVAWで注射した(1×10
11vg/動物;10週齢雌性CD1マウス、n=群当たり8)。動物に30、45および60日続いた(
図4における実験模式図、パネルA)。フォローアップ中に軽度の肥大表現型の有意な救出は観察されなかったが(AAV注射後15/30日-TAC後45および60、LVAW-d厚さ:AAV9-miR-665処理動物について0.88±1.13/0.91±0.08mm、コントロールでは0.8±0.11/0.96±0.33mm)、LVID-dおよびEFは、コントロールについて、処理動物で正常範囲に強く維持された(最終時点でLVEFはそれぞれ処理およびコントロール動物で57.5%±5.60 vs 28.4%±15、p<0.001;最終時LVID-d:それぞれ処理およびコントロール動物で4.05±0.16mm、4.8±0.69mm、p<0.001)(
図4パネルB、CおよびD)。
【0088】
まとめると、これらの結果は、hsa-miR-665が大動脈狭窄誘導圧負荷後の心臓機能の維持に大きな有利な効果を発揮することを示している。これらの結果は、ex vivoおよび生体内での両方で心筋細胞肥大を防ぐこのmicroRNAの能力と一致するようである。
【0089】
実施例5
hsa-miR-665はFour and Half Limドメイン1(FHL1)を標的化し、かつLVコンプライアンスを促進する
hsa-miR-665の関連する標的を同定するために、TACおよびhsa-miR-665またはAAV-コントロールでの形質導入後のRNAディープシーケンシングにより心臓における全体的なトランスクリプトーム変化を評価した。この解析は90のダウンレギュレートされた転写産物(FPKM
>20、2倍のダウンレギュレートに設定された閾値)および47のアップレギュレートされたmRNA(FPKM
>20、2倍のアップレギュレートに設定された閾値)を同定した(
図5、パネルA)。次に、サルコメアIバンドメカノトランスダクションと筋原線維リモデリングに機能的に結合されたダウンレギュレートされた転写産物を探した。
【0090】
このアプローチはUTR-ルシフェラーゼレポーターアッセイによりhsa-miR-665の直接の標的であることが示された3つのサルコメアタンパク質(すなわちEnah、Fhl1およびXirp2)を同定した(
図5、パネルB)。
【0091】
これらのすべての転写産物は、介在板(ID)の近くに局在するタンパク質をコードする。ここで、それらは複数の機械的刺激を統合および伝達し、それにより、転写レベルおよび構造レベルの両方で心臓肥大リモデリングを促進する[36-39]。さらに、Sheikh F.ら([40])は、FHL1がタイチンのN2B領域に結合することを示し、それは、拡張機能中の筋原線維受動張力の原因となるばね様ドメインである[41][42]。実際、FHL1-/-マウスの心臓は、心筋硬直の減少、収縮機能の増加、TAC後の肥大した表現型の鈍化を示す[40]。
【0092】
これらの結果は、心筋細胞の生体力学的ストレス応答を媒介することが知られている遺伝子のダウンレギュレーションを介して、少なくとも部分的に、hsa-miR-665の抗肥大効果が発揮されることを示す。
【0093】
【配列表】