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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-06
(45)【発行日】2022-10-17
(54)【発明の名称】電極の製造方法および電極の製造装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/139 20100101AFI20221007BHJP
   H01M 4/04 20060101ALI20221007BHJP
   B05D 1/28 20060101ALI20221007BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20221007BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20221007BHJP
   B05D 5/12 20060101ALI20221007BHJP
   B05C 11/10 20060101ALI20221007BHJP
   B05C 1/08 20060101ALI20221007BHJP
   H01G 11/86 20130101ALI20221007BHJP
   H01G 13/00 20130101ALI20221007BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/04 Z
B05D1/28
B05D7/14 G
B05D3/00 D
B05D5/12 B
B05C11/10
B05C1/08
H01G11/86
H01G13/00 381
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020191778
(22)【出願日】2020-11-18
(65)【公開番号】P2022080611
(43)【公開日】2022-05-30
【審査請求日】2021-12-03
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】三村 哲矢
(72)【発明者】
【氏名】榎原 勝志
【審査官】福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-219343(JP,A)
【文献】特開2018-037198(JP,A)
【文献】特開2017-091987(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
B05D 1/28- 7/14
B05C 1/08-11/10
H01G 11/86
H01G 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転する第1のロールおよび回転する第2のロールの間のギャップに電極材料を通して前記電極材料から成る塗膜を形成する工程、
前記電極材料から成る塗膜を前記第2のロールに付着させて搬送する工程、および
前記搬送された塗膜を、搬送装置により搬送される電極集電体上に転写して、前記塗膜から成る電極合材層を形成する工程、
を包含する電極の製造方法であって、
前記塗膜の厚み、または前記ギャップの幅に基づいて、前記第2ロールの周速を変化させることによって前記第2ロールの周速と前記電極集電体の搬送速度との速度比を変化させ、
その速度比の変化の時期を、下記式(1)に基づいたものとする、
電極の製造方法。
t=t_const×{B/Bave)}・・・(1)
(a)塗膜の厚みに基づく場合
t:第2のロールに付着した塗膜の厚み測定から第2ロールの周速変化実行までの待機時間
_const:第2のロールに付着した塗膜の厚み測定から第2ロールの周速変化実行までの待機時間の設定値
:第2のロールに付着した塗膜の厚みの測定値
ave:第2のロールに付着した塗膜の厚みの測定値の平均
(b)ギャップの幅に基づく場合
t:ギャップでの塗膜化から第2ロールの周速変化実行までの待機時間
_const:ギャップでの塗膜化から第2ロールの周速変化実行までの待機時間の設定値
:ギャップの幅の値
ave:ギャップの幅の値の平均
【請求項2】
前記電極材料が、湿潤造粒体である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
第1のロールと、
前記第1のロールに対向して配置された第2のロールと、
前記第2のロールに対向して配置され、電極集電体を搬送するように構成された搬送部と、
測定部と、
第2のロールの周速を制御するように構成された制御部と、
を備える電極の製造装置であって、
前記第1のロールと前記第2のロールとの間には、前記第1のロールおよび前記第2のロールを回転させつつ電極材料を供給した際に、前記電極材料から成る塗膜を形成するようギャップが形成されており、
前記第2のロールは、前記電極材料から成る塗膜が付着するように構成されており、
前記測定部は、第2のロールに付着した前記電極材料から成る塗膜の厚みを測定するように、または前記ギャップの幅を求めるための情報を測定するように構成されており、
前記第2のロールおよび前記搬送部は、第2のロールに付着した前記電極材料から成る塗膜が、前記電極集電体上に転写されるように構成されており、
前記制御部は、前記測定部で測定された前記塗膜の厚み、または求められた前記ギャップの幅に基づいて、前記第2ロールの周速を変化させることによって、前記第2ロールの周速と前記電極集電体の搬送速度との速度比を変化させ、かつ
その速度比の変化の時期を、下記式(1)に基づいたものとするよう構成されている、
電極の製造装置。
t=t_const×{B/Bave)}・・・(1)
(a)塗膜の厚みに基づく場合
t:第2のロールに付着した塗膜の厚み測定から第2ロールの周速変化実行までの待機時間
_const:第2のロールに付着した塗膜の厚み測定から第2ロールの周速変化実行までの待機時間の設定値
:第2のロールに付着した塗膜の厚みの測定値
ave:第2のロールに付着した塗膜の厚みの測定値の平均
(b)ギャップの幅に基づく場合
t:ギャップでの塗膜化から第2ロールの周速変化実行までの待機時間
_const:ギャップでの塗膜化から第2ロールの周速変化実行までの待機時間の設定値
:ギャップの幅の値
ave:ギャップの幅の値の平均
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転する一対のロールの間のギャップに電極材料を通して該電極材料から成る塗膜を形成し、該塗膜を一方のロールに付着させ、該塗膜を搬送装置により搬送される電極集電体上に転写して、塗膜から成る電極合材層を形成する電極の製造方法に関する。本発明はまた、当該製造方法の実施に好適な電極の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池等の二次電池は、パソコン、携帯端末等のポータブル電源や、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両駆動用電源などに好適に用いられている。
【0003】
二次電池、特にリチウムイオン二次電池の電極として、一般的に、電極集電体上に、活物質を含有する電極合材層が設けられた電極が用いられている。このような電極の製造方法の一つとして、活物質を含む電極材料を回転する一対のロール間のギャップに通して塗膜を形成し、該塗膜を該一対のロールのうちの一方のロール(以下「転写ロール」ともいう)に付着させ、当該付着した塗膜を、搬送装置により搬送される電極集電体上に転写して該塗膜から成る電極合材層を形成する方法が知られている。
【0004】
ここで、電極の性能および品質を高いレベルで安定させるためには、電極集電体上に転写される電極材料から成る塗膜の目付量(すなわち、単位面積あたりの重量)のバラつきを低減することが重要である。そこで特許文献1には、この目付量のバラつきを低減するために、一対のロール間のギャップの幅に基づいて、転写ロールの回転速度と電極集電体の搬送速度との速度比を変化させることが提案されている。さらに、特許文献2には、一対のロール間のギャップの幅に代えて、転写ロール上の塗膜の膜厚に基づいて、当該速度比を変化させることが提案されている。また、特許文献1には、転写ロールの回転速度と電極集電体の搬送速度との速度比を変化させる方法として、搬送装置の速度を変化させる方法、転写ロールの速度を変化させる方法、ならびに一対のロールの速度および搬送装置の速度のすべてを変化させる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-219343号公報
【文献】特開2018-37198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、転写ロールの回転速度と電極集電体の搬送速度との速度比を変化させる方法として、転写ロールの速度を変化させる方法を採用して検討を行った。その結果、従来技術においては、電極集電体上に転写された塗膜(すなわち、電極合材層)の目付量のバラつきの低減について未だ改善の余地があることを見出した。
【0007】
そこで、本発明の目的は、ロールによる電極材料の塗膜化と、当該塗膜の集電体への転写とを含む電極の製造方法であって、転写された電極材料から成る塗膜の目付量のバラつきを高度に抑制することができる、電極の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ここに開示される電極の製造方法は、回転する第1のロールおよび回転する第2のロールの間のギャップに電極材料を通して前記電極材料から成る塗膜を形成する工程、前記電極材料から成る塗膜を前記第2のロールに付着させて搬送する工程、および前記搬送された塗膜を、搬送装置により搬送される電極集電体上に転写して、前記塗膜から成る電極合材層を形成する工程、を包含する。ここで、前記塗膜の厚み、または前記ギャップの幅に基づいて、前記第2ロールの周速を変化させることによって前記第2ロールの周速と前記電極集電体の搬送速度との速度比を変化させる。その速度比の変化の時期を、下記式(1)に基づいたものとする。
t=t_const×{B/Bave)}・・・(1)
(a)塗膜の厚みに基づく場合
t:第2のロールに付着した塗膜の厚み測定から第2ロールの周速変化実行までの待機時間
_const:第2のロールに付着した塗膜の厚み測定から第2ロールの周速変化実行までの待機時間の設定値
:第2のロールに付着した塗膜の厚みの測定値
ave:第2のロールに付着した塗膜の厚みの測定値の平均
(b)ギャップの幅に基づく場合
t:ギャップでの塗膜化から第2ロールの周速変化実行までの待機時間
_const:ギャップでの塗膜化から第2ロールの周速変化実行までの待機時間の設定値
:ギャップの幅の値
ave:ギャップの幅の値の平均
【0009】
このような構成によれば、転写された電極材料から成る塗膜の目付量のバラつきが高度に抑制された電極を製造することができる。また、当該製造方法において、電極材料は、好ましくは湿潤造粒体である。
【0010】
別の側面から、ここに開示される電極の製造装置は、第1のロールと、前記第1のロールに対向して配置された第2のロールと、前記第2のロールに対向して配置され、電極集電体を搬送するように構成された搬送部と、測定部と、第2のロールの周速を制御するように構成された制御部と、を備える。ここで、前記第1のロールと前記第2のロールとの間には、前記第1のロールおよび前記第2のロールを回転させつつ電極材料を供給した際に、前記電極材料から成る塗膜を形成するようギャップが形成されている。前記第2のロールは、前記電極材料から成る塗膜が付着するように構成されている。前記測定部は、第2のロールに付着した前記電極材料から成る塗膜の厚みを測定するように、または前記ギャップの幅を求めるための情報を測定するように構成されている。前記第2のロールおよび前記搬送部は、第2のロールに付着した前記電極材料から成る塗膜が、前記電極集電体上に転写されるように構成されている。前記制御部は、前記測定部で測定された前記塗膜の厚み、または求められた前記ギャップの幅に基づいて、前記第2ロールの周速を変化させることによって、前記第2ロールの周速と前記電極集電体の搬送速度との速度比を変化させ、かつその速度比の変化の時期を、上記の式(1)に基づいたものとするよう構成されている。
【0011】
このような構成によれば、転写された電極材料から成る塗膜の目付量のバラつきが高度に抑制された電極を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る電極の製造方法を説明するための模式図である。
図2】速度比の変更時期を一定にした場合の、転写ロール上の塗膜の厚みと、転写ロールの周速と、転写された電極合材層の厚みの変動を示すグラフである。
図3図2の場合における電極合材層の変動を示すグラフである。
図4】速度比の変更時期が式(1)に基づいている場合の、転写ロール上の塗膜の厚みと、転写ロールの周速と、転写された電極合材層の厚みの変動を示すグラフである。
図5図4の場合における電極合材層の変動を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明に係る実施の形態を説明する。なお、本明細書において言及していない事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、以下の図面においては、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明している。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚み等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
【0014】
本実施形態に係る電極の製造方法は、回転する第1のロールおよび回転する第2のロールの間のギャップに電極材料を通して前記電極材料から成る塗膜を形成する工程(以下、「塗膜形成工程」ともいう)、当該電極材料から成る塗膜を当該第2のロールに付着させて搬送する工程(以下、「搬送工程」ともいう)、および当該搬送された塗膜を、搬送装置により搬送される電極集電体上に転写して、当該塗膜から成る電極合材層を形成する工程(以下、「転写工程」ともいう)、を包含する。ここで、当該塗膜の厚み、または当該ギャップの幅に基づいて、当該第2ロールの周速を変化させることによって当該第2ロールの周速と当該電極集電体の搬送速度との速度比を変化させる。その速度比の変化の時期を、下記式(1)に基づいたものとする。
t=t_const×{B/Bave)}・・・(1)
(a)塗膜の厚みに基づく場合
t:第2のロールに付着した塗膜の厚み測定から第2ロールの周速変化実行までの待機時間
_const:第2のロールに付着した塗膜の厚み測定から第2ロールの周速変化実行までの待機時間の設定値
:第2のロールに付着した塗膜の厚みの測定値
ave:第2のロールに付着した塗膜の厚みの測定値の平均
(b)ギャップの幅に基づく場合
t:ギャップでの塗膜化から第2ロールの周速変化実行までの待機時間
_const:ギャップでの塗膜化から第2ロールの周速変化実行までの待機時間の設定値
:ギャップの幅の値
ave:ギャップの幅の値の平均
【0015】
図1は、本実施形態に係る電極の製造方法を説明するための模式図である。図1に示す電極製造装置100は、当該製造方法を実施するのに好適な装置の一例である。本実施形態に係る電極の製造方法を実施するための装置は、図1に示す電極製造装置100に限られない。
【0016】
図1に示す電極製造装置100は、第1のロール11(以下、「供給ロール11」ともいう)と、第2のロール12(以下、「転写ロール12」ともいう)と、電極集電体21を搬送するように構成された搬送部として、第3のロール13(以下、「バックアップロール13」ともいう)と、を備える。
【0017】
供給ロール11と転写ロール12は互いに対向している。具体的には、供給ロール11の外周面と転写ロール12の外周面は互いに対向している。供給ロール11と転写ロール12は、図1の矢印に示すように、逆方向に回転する。転写ロール12は、電極材料22から成る塗膜が付着するように構成されている。具体的には、転写ロール12は、供給ロール11よりも大きな周速で回転可能に構成されている。
【0018】
供給ロール11と転写ロール12の間には、所定の幅のギャップがある。このギャップは、供給ロール11と転写ロール12を回転させつつ電極材料を供給した際に、当該電極材料から成る塗膜を形成する。なお、本明細書において「ギャップの幅」とは、供給ロール11の回転軸と転写ロール12の回転軸とを結ぶ線上における、供給ロール11の外周と転写ロール12の外周との間の距離のことをいう。
【0019】
供給ロール11および転写ロール12の幅方向の両端部には、隔壁15が設けられている。隔壁15は、電極材料22を供給ロール11および転写ロール12上に保持すると共に、2つの隔壁15の間の距離によって、電極集電体21上に成膜される電極合材層23の幅を規定する役割を果たす。なお、電極製造装置100に隔壁15を設けずに、ロールの外周の形状に一致した形状のノズルを有するフィーダーを用い、フィーダーのノズルを、供給ロール11および転写ロール12の間のギャップ上に配置した態様も可能である。この態様では、フィーダーのノズルの側面が、隔壁15の機能を果たす。
【0020】
バックアップロール13は、転写ロール12の隣に配置されている。よって、転写ロール12とバックアップロール13は互いに対向している。具体的には、転写ロール12の外周面とバックアップロール13の外周面は互いに対向している。転写ロール12とバックアップロール13は、図1の矢印に示すように、逆方向に回転する。バックアップロール13は、転写ロール12に付着した電極材料から成る塗膜22Aが、電極集電体21上に転写されるように構成されている。具体的に例えば、バックアップロール13は、転写ロール12よりも大きな周速で回転可能に構成されている。
【0021】
なお、図1では、供給ロール11の回転軸と転写ロール12の回転軸とバックアップロール13の回転軸とが水平に並ぶように配置されているが、供給ロール11、転写ロール12およびバックアップロール13の配置は図示される態様に限られない。
【0022】
また、電極製造装置100は、測定部として、センサ31、センサ32、およびセンサ33を備える。センサ31およびセンサ32は、ギャップの幅を求めるための情報を測定するためのものである。センサ33は、電極材料から成る塗膜22Aの厚みを測定するためのものである。なお、本実施形態に係る製造方法による効果を得るためには、塗膜の厚みとギャップ幅のいずれかを利用できればよいため、電極製造装置100は、センサ31およびセンサ32のみを備えていてもよいし、センサ33のみを備えていてもよい。
【0023】
センサ31は、供給ロール11の外周面の位置およびその変位を測定する。センサ32は、転写ロール12の外周面の位置およびその変位を測定する。このセンサ31およびセンサ32で測定した位置と、供給ロール11および転写ロール12の寸法および周速とを用いて、ギャップの幅を求めることができる。センサ31およびセンサ32には、公知の位置センサを用いてよく、例えば、レーザ変位センサを用いてよい。なお、ギャップの幅を求めるための測定部の構成はこれに限られない。
【0024】
センサ33は、転写ロール12に付着した電極材料から成る塗膜22Aの厚みを測定する。センサ33には、公知の厚み測定用のセンサを用いてよく、例えば、レーザ変位センサを用いてよい。なお、当該塗膜22Aの厚みを求めるための測定部の構成はこれに限られない。
【0025】
また電極製造装置100は、制御部40をさらに備える。制御部40は、供給ロール11、転写ロール12、およびバックアップロール13と有線または無線で接続されており、これらの周速を制御するように構成されている。また、制御部40は、センサ31、センサ32、およびセンサ33と有線または無線で接続されており、これらのセンサの測定結果を受け取るように構成されている。また、制御部40は、後述の式(1)に基づく転写ロール12の周速変更制御を行うように構成されている。制御部40は、コンピュータによって構成されている。当該コンピュータは、CPUと、後述の式(1)に基づく転写ロール12の周速変更制御を行うためのプログラムが格納されたROMと、RAMなどを備えていてもよい。しかしながら、後述の式(1)に基づく転写ロール12の周速変更制御が可能な限り、制御部40の構成はこれに限られない。
【0026】
本実施形態に係る電極の製造方法の塗膜形成工程について説明する。当該塗膜形成工程では、まず、回転している供給ロール11および回転している転写ロール12の間に、電極材料22を供給する。
【0027】
電極材料22は、ペースト、スラリー、粉体、および造粒体の形態をとり得るが、好適には、造粒体であり、より好適には湿潤造粒体である。なお、湿潤造粒体とは、溶媒を少量(例、10質量%以上30質量%以下)含有する造粒体のことをいう。造粒体の粒径としては、供給ロール11および転写ロール12の間のギャップの幅よりも大きな粒径をとり得る。例えば、ギャップの幅は、通常、数十μm程度(例えば20μm以上60μm以下)であり、造粒体の粒径は、数百μm程度(例えば200μm以上300μm以下)であり得る。
【0028】
電極材料22は、二次電池、特にリチウムイオン二次電池の電極材料として一般的に使用されているものを用いることができる。
【0029】
電極材料22が正極用の材料であった場合には、例えば、電極材料22は、正極活物質および溶媒を含有する。正極活物質としては、例えばリチウム遷移金属酸化物(例えば、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNiO、LiCoO、LiFeO、LiMn、LiNi0.8Co0.15Al0.5、LiNi0.5Mn1.5等)、リチウム遷移金属リン酸化合物(LiFePO等)等が挙げられる。溶媒としては、例えばN-メチルピロリドン(NMP)等が挙げられる。
【0030】
正極用の電極材料22は、導電材、バインダ等をさらに含有していてもよい。導電材としては、例えばアセチレンブラック(AB)等のカーボンブラックやその他(グラファイト等)の炭素材料等が挙げられる。バインダとしては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)等が挙げられる。
【0031】
電極材料22が負極用の材料であった場合には、例えば、電極材料22は、負極活物質および溶媒を含有する。負極活物質としては、例えば黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素材料が挙げられる。溶媒としては、例えば水等が挙げられる。
【0032】
負極用の電極材料22は、バインダ、増粘剤等をさらに含有していてもよい。バインダとしては、例えばスチレンブタジエンラバー(SBR)等が挙げられる。増粘剤としては、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)等が挙げられる。
【0033】
電極材料22における各成分の含有量および固形分濃度は、公知の二次電池用の電極材料と同様であってよい。
【0034】
電極材料22を供給ロール11および転写ロール12の間に供給すると、電極材料22が、供給ロール11および転写ロール12の回転により供給ロール11および転写ロール12の間のギャップに運ばれる。そして電極材料22は、供給ロール11および転写ロール12の間のギャップを通って塗膜化される。具体的に例えば、電極材料22の造粒体が、供給ロール11および転写ロール12によって押し潰され、造粒体同士が一体化していき、引き延ばされて塗膜22Aを形成する。このようにして、塗膜形成工程を行うことができる。
【0035】
ここで、センサ31およびセンサ32によって、供給ロール11の外周面の位置および転写ロール12の外周面の位置をそれぞれ測定する。このセンサ31およびセンサ32で測定した位置、供給ロール11および転写ロール12の寸法および周速を用いて、ギャップの幅を求めることができる。この測定は、連続して行い、または断続的に繰り返して行い、このギャップの幅の変位をモニタする。
【0036】
次に、搬送工程について説明する。当該搬送工程では、塗膜を転写ロール12に選択的に付着させる必要があるが、電極材料から成る塗膜22Aを転写ロール12に選択的に付着させる方法は公知である。例えば、転写ロール12の周速を、供給ロール11の周速よりも大きく設定する。転写ロール12に付着した塗膜22Aは、転写ロール12の回転によって搬送される。このようにして、搬送工程を行うことができる。
【0037】
ここで、センサ33によって、転写ロール12に付着した電極材料から成る塗膜22Aの厚みを測定する。この測定は連続して行い、または断続的に繰り返して行い、電極材料の塗膜22Aの厚みの変位をモニタする。
【0038】
次に、転写工程について説明する。電極集電体21としては、公知の二次電池(特にリチウムイオン二次電池)用の電極集電体を用いることができ、好適には、金属箔が用いられる。正極を製造する場合、電極集電体21としては、アルミニウム箔が好適である。負極を製造する場合、電極集電体21としては、銅箔が好適である。
【0039】
電極集電体21の厚みは、特に限定されず、例えば5μm以上35μm以下であり、好ましくは7μm以上20μm以下である。
【0040】
電極材料から成る塗膜22Aを電極集電体21に選択的に付着させる方法は公知である。例えば、バックアップロール13の周速を、転写ロール12の周速よりも大きく設定し、転写ロール12の表面に付着した電極材料から成る塗膜22Aを、バックアップロール13により搬送された電極集電体21に、ある程度の圧力で接触させることにより、電極材料から成る塗膜22Aを、電極集電体21に転写させることができる。これにより、電極集電体21上に電極合材層23が形成される。
【0041】
このとき、塗膜22Aの厚み、またはギャップの幅に基づいて、転写ロール12の周速と電極集電体21の搬送速度との速度比を変化させる。この速度比を変化させる制御は、塗膜22Aの厚みおよびギャップの幅のいずれか一方に基づくものである。よって、本実施形態では、センサ31およびセンサ32によってギャップの幅の変動をモニタし、かつセンサ33によって塗膜22Aの厚みの変動をモニタしているが、塗膜22Aの厚みおよびギャップの幅のいずれか一方のみをモニタしておけば十分である。
【0042】
ここで、転写ロール12の回転速度と電極集電体21の搬送速度との速度比が一定であった場合、電極材料から成る塗膜22Aの厚みが大きいときには、電極集電体21に転写された電極合材層23の目付け量が大きい。一方、電極材料から成る塗膜22Aの厚みが小さいときには、電極集電体21に転写された電極合材層23の目付け量が小さい。
【0043】
また、電極材料から成る塗膜22Aの厚みが一定であった場合、転写ロール12の回転速度に対する電極集電体21の搬送速度の比が大きいときには、電極集電体21に転写された電極合材層23の目付け量が小さい。一方、転写ロール12の回転速度に対する電極集電体21の搬送速度の比が小さいときには、電極集電体21に転写された電極合材層23の目付け量が大きい。
【0044】
そして、電極材料から成る塗膜22Aの厚みは、供給ロール11および転写ロール12の間のギャップの幅に依存するものであり、電極材料から成る塗膜22Aの厚みとギャップの幅は相関する。
【0045】
したがって、このことを考慮して、電極集電体21上に転写される電極材料から成る塗膜22Aの厚み、またはギャップの幅に応じて転写ロール12の回転速度と電極集電体21の搬送速度との速度比を変化させれば、電極集電体21に転写された電極合材層23の目付け量のバラつきを低減させることができる。
【0046】
具体的に例えば、電極合材層23の目付け量のバラつきを精度よく効果的に低減させるために、電極材料から成る塗膜22Aが、供給ロール11と転写ロール12との間のギャップの幅が(平均よりも)大きいときに塗膜化されたものである場合には、当該塗膜22Aが電極集電体21上に転写される際の転写ロール12の回転速度に対する電極集電体21の搬送速度を相対的に大きくする。電極材料から成る塗膜22Aが、供給ロール11と転写ロール12との間のギャップの幅が(平均よりも)小さいときに塗膜化されたものである場合には、当該塗膜22Aが電極集電体21上に転写される際の転写ロール12の回転速度に対する電極集電体21の搬送速度を相対的に小さくする。
【0047】
あるいは、電極合材層23の目付け量のバラつきを精度よく効果的に低減させるために、電極材料から成る塗膜22Aの厚みが、(平均よりも)大きい場合には、当該塗膜22Aが電極集電体21上に転写される際の転写ロール12の回転速度に対する電極集電体21の搬送速度を相対的に大きくする。電極材料から成る塗膜22Aの厚みが、(平均よりも)小さい場合には、当該塗膜22Aが電極集電体21上に転写される際の転写ロール12の回転速度に対する電極集電体21の搬送速度を相対的に小さくする。
【0048】
これに関し、より具体的な内容については、特許文献1および特許文献2に記載の通りである。
【0049】
ここで、本実施形態においては、転写ロール12の周速を変化させることによって、転写ロール12の周速と電極集電体21の搬送速度との速度比を変化させる。
【0050】
ここで、速度比の変更は、電極材料から成る塗膜22Aが、電極集電体21と接触する位置に達した際に行われる。電極材料から成る塗膜22Aの厚みに基づいて、速度比を変化させる場合(a)において、電極材料から成る塗膜22Aが、その厚みの測定位置から電極集電体21と接触する位置まで達するのにかかる時間をtとする。速度比変更のための制御は、厚みを測定してから時間t後に行われる。
【0051】
ここで、特許文献1および特許文献2には、この時間tについてなんの言及もない。これについて本発明者らが検討を行ったところ、通常採用されると考えられる条件、すなわち、この時間tを一定とする条件下では、速度比の変更のために転写ロール12の周速を変える場合には、電極集電体21に転写される電極材料から成る塗膜22Aの目付け量のバラつきは低減するものの、未だある程度のバラつきが残るという新たな課題があることを見出した。
【0052】
そこで、本実施形態においては、塗膜22Aの厚みに基づいて速度比を変化させる場合(a)には、その速度比の変化の時期を、下記式(1)に基づいたものとして、転写ロール12の周速を変化させる。
t=t_const×{B/Bave)}・・・(1)
t:転写ロール12に付着した塗膜の厚み測定から転写ロール12の周速変化実行までの待機時間
_const:転写ロール12に付着した塗膜の厚み測定から転写ロール12の周速変化実行までの待機時間の設定値
:転写ロール12に付着した塗膜の厚みの測定値
ave:転写ロール12に付着した塗膜の厚みの測定値の平均
【0053】
具体的には、図1に示す例では、速度比の変更は、次のようにして行う。センサ33により転写ロール12に付着した塗膜22Aの厚みの変動を測定し、測定結果を制御部40が受け取って、転写ロール12に付着した塗膜の厚みの測定値を求める。一方で、転写ロール12の外周に沿った、センサ33による厚みの測定位置と電極集電体21との距離、および転写ロール12の周速の設定値から待機時間設定値t_constを算出し、制御部40に、待機時間設定値t_constを入力しておく。センサ33により転写ロール12に付着した塗膜22Aの厚みを測定し、この厚みの測定値を用いて、式(1)に基づいて、周速変化実行までの待機時間を算出し、当該待機時間後に転写ロール12の周速を変化させ、速度比の変更制御を実行する。
【0054】
同様に、ギャップの幅に基づいて、速度比を変化させる場合(b)において、電極材料から成る塗膜22Aが、ギャップの位置から電極集電体21と接触する位置まで達するのにかかる時間をtとする。速度比の変更は、電極材料22がギャップにより塗膜化された時点から時間t後に行われる。
【0055】
この時間tを一定としたのでは、速度比の変更のために転写ロール12の周速を変える場合には、電極集電体21に転写される電極材料から成る塗膜22Aの目付け量のバラつきは低減するものの、未だある程度のバラつきが残る。
【0056】
そこで、本実施形態においては、ギャップの幅に基づいて速度比を変化させる場合(b)には、その速度比の変化の時期を、下記式(1)に基づいたものとして、転写ロール12の周速を変化させる。
t=t_const×{B/Bave)}・・・(1)
t:ギャップでの塗膜化から第2ロールの周速変化実行までの待機時間
_const:ギャップでの塗膜化から第2ロールの周速変化実行までの待機時間の設定値
:ギャップの幅の値
ave:ギャップの幅の値の平均
【0057】
図1に示す例では、速度比の変更は、次のようにして行う。センサ31およびセンサ32により、供給ロール11の外周面の位置および転写ロール12の外周面の位置を測定し、測定結果を制御部40が受け取り、供給ロール11および転写ロール12の間のギャップ幅の値とその変動を割り出す。そして、ギャップの幅の平均値を求める。一方で、転写ロール12の外周に沿った、ギャップの位置と電極集電体21との距離、および転写ロール12の周速の設定値から待機時間設定値t_constを算出し、制御部40に、待機時間設定値t_constを入力しておく。センサ31およびセンサ32により、供給ロール11の外周面の位置および転写ロール12の外周面の位置を測定し、制御部40は、ギャップの幅を求め、そのギャップの幅の値を用いて、式(1)に基づいて、周速制御実行までの待機時間を算出し、当該待機時間後に転写ロール12の周速を変化させ、速度比の変更制御を実行する。
【0058】
本発明者らは、ロールによる電極材料の塗膜化と、当該塗膜の集電体への転写とを含む電極の製造において、電極材料から成る塗膜の厚みに基づいて、転写ロールの周速と電極種電体の搬送速度との速度比を変化させる実験を実際に行った。この実験では、転写ロールの周速の変更によって当該速度比を変化させた。この実験は、速度比の変更時期を一定にした場合と、上記式(1)に基づいた転写ロールの周速変更制御を行った場合について行った。
【0059】
速度比の変更時期を、待機時間設定値t_constのまま一定にした場合の、転写ロール上の塗膜の厚みと、転写ロールの周速と、転写された電極合材層の厚みの変動を図2に示す。また、このときの電極合材層の目付量の変動を図3に示す。
【0060】
また、速度比の変更時期を、上記式(1)に従ってtとした場合の、転写ロール上の塗膜の厚みと、転写ロールの周速と、転写された電極合材層の厚みの変動を図4に示す。また、このときの電極合材層の目付量の変動を図5に示す。
【0061】
図3および図5の比較より明らかなように、速度比の変更時期を、上記式(1)に従ってtとした(すなわち変動させた)場合に、電極合材層の目付量の変動が大幅に低減されていることがわかる。数値で比較した場合でも、図3の目付量の変動は、6.36mg/cm±2.9%であるのに対し、図5の目付量の変動は、6.36mg/cm±1.6%であり、電極合材層の目付量の変動が大幅に低減されていることがわかる。
【0062】
よって、以上のことから、転写ロールの周速の変更による速度比の変化の時期が下記式(1)に基づいている場合に、電極合材層の目付量の変動を大幅に低減できることが実証された。
【0063】
本実施形態に係る電極の製造方法では、必要に応じ、形成した電極合材層23を乾燥する工程(乾燥工程)を行ってもよい。乾燥工程は、公知方法に従って行うことができる。例えば、乾燥工程は、電極合材層23が成膜された電極集電体21を、乾燥炉(図示せず)に搬送し、加熱して、電極合材層23に含まれる溶媒を除去することによって行うことができる。
【0064】
本実施形態に係る電極の製造方法では、必要に応じ、電極合材層23の高密度化等を目的として、形成した電極合材層23をプレス処理する工程(プレス工程)を行ってもよい。プレス処理は、公知方法に従って行うことができる。
【0065】
以上のようにして、電極合材層の目付量の変動が高度に抑制された電極を得ることができる。
【0066】
本実施形態に係る製造方法により得られる電極は、公知方法に従い、リチウムイオン二次電池等の二次電池の電極として好適に用いることができる。したがって、本実施形態に係る電極の製造方法は、好適には、二次電池(特にリチウムイオン二次電池)用の電極の製造方法である。
【0067】
なお、本明細書において「二次電池」とは、繰り返し充放電可能な蓄電デバイスをいい、いわゆる蓄電池、および電気二重層キャパシタ等の蓄電素子を包含する用語である。また、本明細書において「リチウム二次電池」とは、電荷担体としてリチウムイオンを利用し、正負極間におけるリチウムイオンに伴う電荷の移動により充放電が実現される二次電池をいう。
【0068】
本実施形態に係る製造方法により得られる電極を用いて作製された二次電池、特にリチウムイオン二次電池は、各種用途に利用可能である。好適な用途としては、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両に搭載される駆動用電源;小型電力貯蔵装置等の蓄電池などが挙げられる。
【0069】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0070】
11 供給ロール
12 転写ロール
13 バックアップロール
15 隔壁
21 電極集電体
22 電極材料
22A 塗膜
23 電極合材層
31,32,33 センサ
40 制御部
100 電極製造装置
図1
図2
図3
図4
図5