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特許7154276標的粒子または細胞の選択的濃縮のためのフローセル
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-06
(45)【発行日】2022-10-17
(54)【発明の名称】標的粒子または細胞の選択的濃縮のためのフローセル
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20221007BHJP
   G01N 30/00 20060101ALI20221007BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20221007BHJP
【FI】
C12M1/00 A
G01N30/00 B
G01N33/53 Y
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020503277
(86)(22)【出願日】2018-08-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-11-05
(86)【国際出願番号】 EP2018072462
(87)【国際公開番号】W WO2019034795
(87)【国際公開日】2019-02-21
【審査請求日】2021-03-10
(31)【優先権主張番号】17186963.9
(32)【優先日】2017-08-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520020797
【氏名又は名称】ザンテック バイオアナリティクス ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100179213
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100170542
【弁理士】
【氏名又は名称】桝田 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100210251
【弁理士】
【氏名又は名称】大古場 ゆう子
(72)【発明者】
【氏名】ゲディグ, エルク チャリング
(72)【発明者】
【氏名】ディークマン, メラニー
【審査官】田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0158852(US,A1)
【文献】特表2015-522166(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0167047(US,A1)
【文献】特表2003-514221(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00- 3/10
G01N 30/00
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フローセルを通して流体を導くための少なくとも1つの蛇行形状のフローチャネル(3)を形成するように嵌合可能な上部(1)および下部(2)を含む、流体からの標的粒子または標的細胞の選択的濃縮または単離のためのマイクロ流体フローセルであって、前記蛇行形状のフローチャネル(3)は、前記フローセルの対向する側から交互に延びる複数の離間した内壁部(4)によって画定され、前記フローチャネル(3)は、前記標的粒子または細胞に対する親和性を有する分子により被覆された少なくとも1つの表面を含み、前記内壁部(4)の1つ以上は、前記フローチャネル(3)に沿って流れる流体の流れの一部が前記壁部(4)を横切るようにする少なくとも1つの開口部(6)を含むことを特徴とする、マイクロ流体フローセル。
【請求項2】
前記フローセルが複数のフローチャネル(3)を有する、請求項1に記載のマイクロ流体フローセル。
【請求項3】
前記フローセルが、ガラス、プラスチック、シリコンまたはポリジメチルシロキサン(PDMS)からなる、請求項1または2に記載のマイクロ流体フローセル。
【請求項4】
前記被覆が、抗体またはアプタマーを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載のマイクロ流体フローセル。
【請求項5】
前記フローセルが、少なくとも1つの入口(7)および少なくとも1つの出口(8)を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載のマイクロ流体フローセル。
【請求項6】
前記蛇行形状のフローチャネル(3)が、0.9~1.8mmの幅を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載のマイクロ流体フローセル。
【請求項7】
前記開口部(6)が、10~100μmの幅を有するスリットである、請求項1から6のいずれか一項に記載のマイクロ流体フローセル。
【請求項8】
前記フローセルが、幅≦2cmおよび/または長さ≦5cmである、請求項1から6のいずれか一項に記載のマイクロ流体フローセル。
【請求項9】
前記蛇行形状のフローチャネル(3)が、100~300μmの高さを有する、請求項1から8のいずれか一項に記載のマイクロ流体フローセル。
【請求項10】
垂直配向された濾過カートリッジ(24)に流体接続され、前記濾過カートリッジ(24)は、廃棄物導管(26)に接続された漏斗状容器の頂部にフィルタ要素(25)を含む漏斗状容器(22)を含み、前記濾過カートリッジ(24)は、流体サンプルを前記漏斗状容器(22)に導くための入口をさらに含む、請求項1から9のいずれか一項に記載のマイクロ流体フローセル。
【請求項11】
(a)請求項1から10のいずれか一項に記載のマイクロ流体フローセル、および
(b)前記流体を前記マイクロ流体フローセルを通して導くための少なくとも1つのポンプ、
を含むマイクロ流体デバイス。
【請求項12】
血小板および/または赤血球を除去するためのフィルタ要素をさらに含む、請求項11に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項13】
流体サンプルからの標的粒子または細胞の単離のための、請求項1から10のいずれか一項に記載のマイクロ流体フローセルまたは請求項11または12に記載のマイクロ流体デバイスの、使用。
【請求項14】
流体からの標的粒子または細胞の選択的濃縮方法であって、
(a)請求項1から10のいずれか一項に記載のマイクロ流体フローセルを通して前記流体のサンプルを導くこと、および
(b)前記被覆された表面から前記粒子または細胞を得ること、
を含む、方法。
【請求項15】
前記流体の前記サンプルが、請求項10に記載のマイクロ流体フローセルを通して導かれ、前記サンプルが前記フィルタ要素(25)と接触するように、前記流体のサンプルを前記漏斗状容器(22)に注入すること、ここで、前記漏斗状容器(22)は、小さな化合物、粒子または細胞が、重力により前記フィルタ要素(25)を通過し、前記廃棄物導管(26)を介して除去されることを可能にする位置に保持され、およびその後、前記サンプルが前記マイクロ流体フローセルと接触するように、前記濾過カートリッジ(24)の位置を変更することをさらに含む、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ流体技術の分野に関する。具体的には、本発明は、流体からの標的粒子または細胞の選択的濃縮のための新規なフローセルに関する。フローセルは、標的粒子または細胞の収量を大幅に改善する新規なデザインを示す。本発明はまた、本発明によるフローセルを含むマイクロ流体デバイスを提供する。別の観点では、本発明は、流体サンプルからの標的粒子または細胞の単離のための、本発明のフローセルまたはマイクロ流体デバイスの使用に関する。最後に、本発明は、本発明のフローセルを使用して、流体から標的粒子または細胞を選択的に濃縮する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体中の希少細胞の確実な検出は、さまざまな実際の分野において重要である。例えば、飲料水中の病原菌の検出および定量は非常に重要である。別の例は、血液中の循環している腫瘍細胞(CTC)の検出であり、これは、腫瘍疾患の監視および制御の分野において重要なツールになっている。原発腫瘍から播種して血液中に循環する腫瘍細胞は、これらの細胞が転移を形成する可能性があるため、乳がんなどのがんに罹患した患者に高いリスクをもたらす。したがって、血液中の循環している腫瘍細胞の検出は、がんの診断後の予後の判定、転移のリスクの評価、および治療のモニタリングに重要である。
【0003】
しかしながら、CTCの検出は技術的に困難である。というのは、血液中のこれらの細胞の濃度が非常に低いため、細胞の初期濃縮または単離が必要になるからである。一方、血液からCTCを単離するために、分離および濃縮のためのいくつかの免疫細胞化学的方法が確立されている。例えば、腫瘍特異的細胞表面抗原に対する抗体により誘導体化された磁性粒子が、血液サンプルから腫瘍細胞または腫瘍細胞のクラスターを分離するために使用されている。しかしながら、確立されたシステムは十分に選択的ではないため、通常、非特異的な細胞結合を示す。さらに、当該技術分野において知られているシステムは高価であり、それらの使用にはしばしば時間がかかる。
【0004】
免疫細胞化学的濃縮法とは別に、流体中の粒子または細胞の検出のために、いわゆるマイクロ流体システムが開発されている。これらのシステムは、フローセル材料にエッチングまたは成形されたマイクロチャネルを有するガラスまたはポリマーのフローセルを含む。目的の粒子または細胞を含む流体は、チャネルを通して導かれ、粒子または細胞に対する特異性を示す分子によって誘導体化された表面により捕獲される。しかしながら、マイクロ流体フローセルまたはデバイスを通して導かれる場合、細胞はフローチャネルに沿って最小限の分子拡散を有する流線を流れることが判明している。結果として生じる混合の欠如は、細胞または粒子と誘導体化された捕獲表面との間の相互作用の回数を減らし、それにより低い捕獲効率につながる。したがって、流体の一軸性層流の効果的な混合は、フロースルーシステム内の粒子または細胞の分離に不可欠である。かかる混合により、粒子または細胞とフローセルの表面との間の接触の改善が提供される。
【0005】
この目的のために、フローセル内のマイクロチャネルには、まっすぐな流れを妨げるバリア要素が備えられていることが多く、それにより流れの反転が生じる。例えば、層流の規定された偏向を引き起こすマイクロカラムを含むマイクロ流体システムが開発されている。いわゆる「CTC-Chip」(Nagrathら、2007)は、層流に干渉すると同時にチップの表面を大幅に拡張するおよそ78,000個のマイクロカラムを使用している。CTC-Chipの表面は、抗EpCAM抗体によって化学的に機能化されており、表面との接触時に腫瘍細胞を捕捉する。このシステムは、1~2ml/hの最大流量で操作することができ、60~65%の捕捉効率に達する。
【0006】
同様に、Shengら(2012)は、チャネルあたり約59,000カラムを含むマイクロ流体システムを使用している。上記の抗体の代わりに、固定化された腫瘍細胞特異的アプタマー、すなわち腫瘍細胞の表面構造に結合する一本鎖DNAオリゴヌクレオチドがマイクロカラム上に被覆されている。流速600nl/sの全血サンプルを使用して、高さ40μmのマイクロチャネルにおいてこのシステムを使用すると、95%を超える腫瘍細胞の捕捉効率が達成された。1mlの全血が28分間で処理された。光学検出システムによる捕捉された粒子または細胞のその後の検出は、マイクロカラムを含むシステムでは困難である。というのはそれは三次元システムであり、細胞が同一の焦点レベルには存在しないからである。
【0007】
上記のマイクロカラムとは別に、例えば、「ヘリンボーンチップ」において、いわゆるフィッシュボーン構造が使用された(Stottら、2010)。かかるチップは、表面にフィッシュボーン構造を含む8つのマイクロチャネルを含む。チャネルのすべての内壁が、抗EpCAM抗体により被覆されている。著者らによると、フィッシュボーン構造は層流中に渦を引き起こし、これがシステム内の細胞と表面との相互作用を増加させる。しかし、この程度の小型化のマイクロ流体システムにおいては、水系のレイノルズ数が低いために渦は発生することができず、これらのシステムにおいて流れは実際には層状である。このチップを用いて1.2ml/hの流速を使用して、腫瘍細胞株PC-3の捕捉効率91.8%±5.2%(n=6)が達成された。
【0008】
さらに、細胞が遠心力によってチャネル壁に輸送される洞状マイクロチャネルが使用された(Adamsら、2008、Kamandeら、2013)。これらの壁の幅は用途によって異なるため、このようなシステムの標準化は不可能である。Warkianiら(2013)は、標的細胞がチャネルの外壁に向かって流れる、台形型マイクロチャネルを使用している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Nagrathら、2007
【文献】Shengら(2012)
【文献】Stottら、2010
【文献】Adamsら、2008
【文献】Kamandeら、2013
【文献】Warkianiら(2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のフローセルシステムでは、例えば、血小板、マクロファージ、循環している腫瘍細胞、赤血球、白血球などといった様々な粒子または細胞を、全血サンプルから選択的に分離することができ、誘導体化された表面上で捕獲することができる。しかしながら、これらのシステムは分離時間が比較的長いため、小さいサンプル容積を処理する場合にのみ有用である。さらに、いずれも粒子と表面との接触の回数を効果的に増やすことのできるシステムではない。さらに、チップまたはフローセルの表面に組み込まれたバリア要素は、自動化された光学的検出および評価を過度に妨げるものであり、不可能にすることさえある。したがって、現在採用されているシステムの欠点を克服することができる新しいマイクロ流体システムが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記の欠点を克服し、改善された粒子または細胞の収量を提供する、新規な構造を備えたマイクロ流体フローセルを提供する。特に、本発明は、流体からの標的粒子または標的細胞の選択的濃縮または単離のためのマイクロ流体フローセルに関する。かかるフローセルは、流体をフローセルを通して導くための少なくとも1つの蛇行形状のフローチャネルを形成するように嵌合可能な上部および下部を含む。好ましくは、フローチャネルは、フローセルの上部内に、例えばエッチングまたはカッティングにより凹設されており、フローセルの下部の表面は、フローセルの2つの部分を互いに嵌合させた後、フローチャネルの底板を形成する。蛇行形状のフローチャネルは、フローセルの対向する側から交互に延びる複数の離間した内壁部によって画定される。
【0012】
フローチャネルの例示的な実施形態を図2A図2B、および図2Cに示す。これらの概略図では、フローセルの上部が示されており、フローチャネルは上部内に凹設されている。フローセルの上部に凹設されているフローチャネルは、蛇行形状のパターンを有しており、これは、フローチャネルが、チャネルを通って流れる流体の流れが、チャネルの空間的伸張に沿って数回反転するような形状であることを意味する。好ましくは、フローチャネルは、本質的に180度だけ流れの方向を1回以上変更するように、すなわち流れの方向を1回以上完全に反転するように、S字状または洞状である。結果として、チャネルを通って導かれる流体の流れは、チャネルの隣接するセクションを通り抜けて流れるときにその方向を変更する。より具体的には、流体の流れは、フローセルの両側から延びる内壁部の1つの周りを流れるときにその方向を変更する。フローチャネルの例示的な実施形態を図2A図2B、および図2Cに示す。これらの概略図では、フローセルの上部が示されており、フローチャネルは上部内に凹設されている。フローセルの上部に凹設されているフローチャネルは、蛇行形状のパターンを有しており、これは、フローチャネルが、チャネルを通って流れる流体の流れが、チャネルの空間的伸張に沿って数回反転するような形状であることを意味する。好ましくは、フローチャネルは、本質的に180度だけ流れの方向を1回以上変更するように、すなわち流れの方向を1回以上完全に反転するように、S字状または洞状である。結果として、チャネルを通って導かれる流体の流れは、チャネルの隣接するセクションを通り抜けて流れるときにその方向を変更する。より具体的には、流体の流れは、フローセルの両側から延びる内壁部の1つの周りを流れるときにその方向を変更する。
【0013】
フローチャネルはまた、標的粒子または細胞に対する親和性を有する分子、例えば、標的細胞の表面構造に対する抗体またはアプタマーにより被覆された、少なくとも1つの表面を含む。好ましくは、フローチャネルの底板を形成するフローセルの下部が被覆されている。これには、細胞および粒子を被覆された捕獲表面に押しやるのを重力が助けるという特別な利点がある。しかしながら、複数の内部表面が親和性分子により被覆されている可能性もある。
【0014】
本発明によると、標的細胞または粒子の濃縮の効率は、フローセル内のフローチャネルを画定する壁部を改変することにより増強することができることが見出された。特に、流体の流れの方向を変えるバリアを提供する少なくとも1つ、好ましくはすべての内壁部は、フローチャネルを通って流れる流体の流れの一部がそれぞれの壁部を横切ることを可能とする少なくとも1つの開口部を含み、流体の流れの残りの部分は壁部の周りを流れる。これらの開口部は、好ましくは、凹部またはスリットの形態を有する。より好ましくは、壁部のすべてが少なくとも1つのかかる開口部を含む。開口部は、フローチャネルを通って導かれる流体の一部が壁部を横切ることを可能にする寸法を有する。これは、標的細胞または粒子を含む流体が壁部と接触すると、流体は、2つのサブストリームに分割され、壁部の開口部を通して壁部を横切る第1の流体の流れが生成され、それにより、チャネル伸張に沿って存在する圧力勾配の方向に直接流れる流れが生成されるということを意味する。同時に、壁部によって偏向される第2の流体の流れが生成され、それにより、第2の流体の流れは壁部の周りを流れるように方向転換される。壁部を通過した後、2つの流れが再び合流すると、らせん状の対流が発生し、らせん状の対流により、流体中に存在する粒子または細胞は、被覆された捕獲表面に迅速に輸送される。好ましくは、被覆された捕獲表面は、フローセルの下部によって形成される。
【0015】
本発明のフローセルの上部および/または下部は、ガラス、プラスチック、シリコン、またはポリジメチルシロキサン(PDMS)などのポリマー材料によって構成されていてもよい。好ましくは、フローセルの上部および/または下部に選択される材料は半透明であり、蛍光顕微鏡による捕獲細胞の光学的検出を可能にするために低い自己蛍光を有する。1つの好ましい実施形態において、上部はこれらの材料の1つにより作られている。別の好ましい実施形態において、下部はこれらの材料の1つにより作られている。さらに別の好ましい実施形態において、上部および下部は両方ともこれらの材料の1つにより作られている。最も好ましくは、上部および下部は同じ材料により作られている。本発明の好ましい実施形態において、上部および/または下部は、射出成形によって処理することができるプラスチックからなる。これにより、フローセルを射出成形により製造することが可能となり、フローセルの製造コストが大幅に削減される。
【0016】
マイクロ流体フローセルは、少なくとも1つのフローチャネルを含むが、好ましくは2つ以上のフローチャネルを含む。好ましい実施形態において、マイクロ流体フローセルは、2~100個のフローチャネル、2~50個のフローチャネル、または2~10個のフローチャネルを含む。チャネルは、並列に配置されることが好ましい。また、すべてのチャネルが同じ平面にあることが好ましい。フローセルは通常、少なくとも1つの入口と少なくとも1つの出口をさらに含み、フローチャネルは入口と出口の間に配置される。各フローチャネルはフローセルの入口と接触しているため、流体は、入口を介してフローセルにポンプで入ることができ、入口と流体接触しているフローチャネルに入り、フローチャネルを通って流れた後、出口を介してフローセルから出ることができる。
【0017】
本発明によると、フローチャネルの少なくとも1つ、好ましくはすべてのフローチャネルは、フローチャネルを通って導かれる流体の複数回の方向転換を提供する。フローチャネルの方向は、フローセルの対向する側から交互に延びる内壁部によって画定される。これらの交互に延びる内壁部は、例えばS字状フローチャネルをエッチングまたはカッティングして、PDMSなどの好適な材料の固体ブロックにし、そしてフローセルの上部を形成することによって容易に製造することができる。
【0018】
流れの方向転換を提供する内壁部は、異なる幾可学的形状を有していてもよく、好ましい実施形態において、これらの壁部は平面状ストリップまたは突出部である。単一のフローセルの上部における交互に延びる壁部の個数は、約10~1000、好ましくは約50~500、例えば、約200~400の範囲であり得る。かかる配置により、フローチャネルを通して流れる流体の流れは、延びている壁部の周りを流れるよう強いられ、それにより、流れの方向を数回変更することになる。好ましくは、流れの方向は、少なくとも約90度、約100度、約110度、約120度、約130度、約140度、約150度、約160度、約170度、または約180度、変わることになる。この構造は、フローチャネル内に本質的にS字状のフローパターンを誘導する。これはつまり、流体は、本質的に洞状またはS字状カーブの形態でフローチャネルを通って繰り返し流れることを意味する。
【0019】
フローチャネルの幅は、好ましくは約0.4~約2.0mm、より好ましくは約0.6~約2.0mm、さらにより好ましくは約0.9~約1.8mmである。本明細書において使用される場合、フローチャネルの幅は、フローチャネルの2つの側壁間の空間として定義される。さらに、チャネルは、約10~約400μm、例えば約100~約200μmの高さを有する。本明細書において使用される場合、フローチャネルの高さは、上部によって形成される上部チャネル壁と、フローチャネルの下部によって形成される下部チャネル壁との間の空間として定義される。延びている壁部は、約0.1~約1.0mm、より好ましくは約0.6~約0.8mm、さらにより好ましくは約0.3~約0.6mmの幅を有し得る。本発明の特に好ましい実施形態において、フローセルは、10~50個のフローチャネルを含み、各フローチャネルは、約100~約200μmの幅、約100~約200μmの高さを有し、それぞれ、0.6~約0.8mmの幅を有する延びている壁部を含む。
【0020】
上述のように、壁部は、流体の一部が壁部の周りを流れることなく壁部を通過することを可能にする開口部を含む。好ましくは、開口部は、壁部に形成されたスリットまたは凹部である。スリットまたは凹部は、壁部のどこにでも配置することができるが、好ましくは、例えば、フローセルの下部に隣接する壁部の一部などの、捕獲表面の近くに配置される。好ましい実施形態において、凹部は、壁部の下縁とフローセルの下部との間のギャップであり、すなわち、壁部はフローセルの下部と接触しておらず、その代わりに壁部の幅の一部または幅全体に広がる凹部を有する。
【0021】
フローチャネルが1.3mm未満の幅を有する場合、スリットまたは凹部は、約10~100μm、好ましくは約20~60μm、より好ましくは約20~40μmの幅を有し得る。フローチャネルが1.3mmを超える幅を有する場合、スリットまたは凹部は、約10~100μm、好ましくは約20~70μm、より好ましくは約20~50μmの幅を有し得る。
【0022】
マイクロ流体フローセルの全体の寸法に関しては、それは通常、約0.5cm、約1.0cm、または約1.5cmなどの2cm以下の幅を有する。好ましくは、本発明のマイクロ流体フローセルは、約0.5~2.0cm、より好ましくは1.5~2.0cmの幅を有する。マイクロ流体フローセルは、通常、約1.0cm、約2.0cm、約3.0cm、約4.0cm、または約5.0cmなどの5cm以下の長さを有する。好ましくは、本発明のマイクロ流体フローセルは、約1.0~5.0cm、より好ましくは2.0~4.0cmの長さを有する。
【0023】
少なくとも1つのフローチャネルは、濃縮される粒子または細胞に対して特異的な親和性を有する被覆を有する少なくとも1つの表面を含む。本明細書において「捕獲表面」と称されるこの表面は、好ましくは、重力が捕獲表面に向かって濃縮または単離される粒子または細胞を導くことができるように、マイクロ流体フローセルの底にある。しかしながら、「捕獲表面」は、チャネルの側壁に配置することもできる。あるいは、1つ以上のチャネルのすべての壁が親和性被覆により被覆されることも可能である。被覆は、標的粒子または細胞上の所定の構造に選択的に結合するのに好適な少なくとも1種類の親和性分子を含む。
【0024】
特に好ましい実施態様によると、親和性分子を含む捕獲表面は、天然または合成の親水性ポリマー層により被覆されている。好ましくは、親水性ポリマーは、高度に水和されている支持材料上に三次元構造を形成する。したがって、かかるポリマーネットワークは、しばしば「ヒドロゲル」と称される。ヒドロゲルは最大99%以上の水を含むことができ、ポリマー含有量は1%以下でさえあり得る。本発明における使用のためのヒドロゲルの調製方法は、例えば、WO02/10759に記載されている。全体が本明細書に組み込まれるこの国際出願は、ヒドロゲルポリマーの支持材料へのカップリングを提供する接着介在物質層の使用を記載している。WO02/10759において提供されるヒドロゲル被覆は、本発明の方法における使用に特に好ましい。
【0025】
ヒドロゲル被覆には、さまざまな親水性ポリマーを使用することができる。例えば、被覆は、多糖、ポリアルコール、ポリエーテル、ポリアミド、ポリカルボン酸、ポリサルフェート、ポリスルホネート、ポリホスフェート、ポリホスホネートおよび/またはそれらの組合せもしくは官能化誘導体を含むことができ、あるいはそれらからなるものであり得る。かかる官能化としては、例えば、イソチオシアネート、イソシアナート、カルボン酸アジド、N-ヒドロキシスクシンイミド、スルホ-N-ヒドロキシスクシンイミド、N-アシルイミダゾール、スルホニルクロリド誘導体、アルデヒド、ケト、グリオキサール、オキシラン、カーボネート、アリールハロゲン化物、イミドエステル、無水物、ハロゲンアルキル、ハロゲンアシル、マレイミド、アジリジン、アクリロイル、スルフヒドリル、ジスルフィド、ジアゾアルカン、ジアゾアセチル、イミダゾリルカルバメート、ヒドラジド、ジアゾ、アリールアジド、ベンゾフェノン、ジアゾピルベートまたはジアジリンが挙げられる。さらに好ましい官能化には、ニトリロ三酢酸(NTA)誘導体が含まれ、したがって金属キレートによってリガンドまたは抗体を固定化することができる。ストレプトアビジンおよび/またはビオチン誘導体もまた、官能化に好適である。好ましい実施形態によると、ヒドロゲル被覆は、ポリカルボキシレートポリマーを含むか、またはそれからなる。さらに好ましい実施形態によると、ヒドロゲル被覆は、例えばゼータ電位測定によって測定されると、わずかに負の電荷を有する。
【0026】
ヒドロゲル被覆は、ヒドロゲルの表面上の標的粒子または細胞の捕獲を可能にする任意の厚さのものであり得る。好ましくは、ヒドロゲル被覆は、約100nm~約5000nm、好ましくは約500nm~約3000nm、例えば、約600nm、約700nm、約800nm、約900nm、約1000nm、約1100nm、約1200nm、約1300nm、約1400nm、約1500nm、約1600nm、約1700nm、約1800nm、または約1900nmの厚さを有する。被覆の厚さは、例えば、原子間力顕微鏡法または楕円偏光法など、先行技術において利用可能な日常的な方法によって決定することができる。
【0027】
被覆は、好ましくは、親水性ポリマーの鎖が基材表面に対して少なくとも部分的に垂直に、すなわちブラシ状に整列している、三次元表面構造を提供する。かかるブラシ状のヒドロゲル表面は、平面構造と比較して表面が増加しているため、標的粒子または細胞に結合することができる抗体や他の親和性分子などの生体分子の固定化能力が特に向上している。ブラシ状の構造化ヒドロゲル被覆、特に特定のポリカルボキシレートポリマーを含む、またはそれからなる被覆は、その後の検出および/または定量のために細胞を固体支持体に選択的に付着させるための優れた表面を提供することが判明した。本発明における使用に好ましいヒドロゲル表面は、例えば、XanTec bioanalytics GmbH、Dusseldorf、Germanyから、HCまたはHCX被覆スライドとして入手可能である。
【0028】
本発明によると、捕獲表面は、サンプル中の標的細胞に選択的に結合する1つ以上の異なる種類の親和性分子を含み、それにより、流体中に存在するいずれものその他の粒子または細胞からの標的粒子または細胞の分離を可能にする。「親和性分子」は、粒子または細胞の所定の構造、好ましくは、細胞の表面に存在するタンパク質または糖構造に結合する分子として広く理解されている。親和性分子は、好ましくは、受容体、レクチン、リガンド、抗体、抗体断片などのタンパク質分子、核酸(アプタマーなど)、糖構造、またはそれらの組合せである。特に好ましい実施態様において、親和性分子は、がん抗原に対する抗体などの抗体である。
【0029】
細胞の単離が望ましい場合、抗体分子または抗体の抗原結合断片の使用が特に好ましい。したがって、好ましい実施形態において、本発明のマイクロ流体フローセルの捕獲表面上の被覆は、抗体、好ましくは、腫瘍細胞に特異的に結合する抗体を含む。本発明の文脈において、「抗体」という用語には、望ましい免疫学的活性、すなわち標的細胞への特異的結合を示す限り、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、抗イディオタイプ抗体、キメラ抗体、およびヒト化抗体が含まれる。特に、かかる用語は、移植技術などによって調製されたあらゆる種類の人工抗体分子を含むと理解されるべきである。本発明の方法において使用するための抗体は、いずれのアイソタイプクラス、例えばIgG、IgM、IgA、IgE、およびIgDなど、ならびにそれらのサブクラス、例えばIgG1、IgG2などのものであってよい。
【0030】
抗体全体とは別に、本発明はまた、標的細胞に特異的に結合する抗体の抗原結合断片にも関する。本明細書において使用される場合、抗体の抗原結合断片は、標的細胞、例えば、播種性腫瘍細胞の特定の抗原構造に対する、抗体分子全体の特異的結合活性の少なくとも一部を保持する断片である。本発明の抗原結合断片は、Fv、Fab、F(ab’)およびF(ab’)2断片を含み得る。「抗原結合断片」という用語には、単鎖Fv抗体断片およびジスルフィド結合Fv断片(dsFv)がさらに含まれる。抗体断片の組換え産生のための方法は先行技術に記載されており、例えば、ファージディスプレイまたはリボソームディスプレイなどの技術を含む。これらの方法によって産生された組換え抗体断片は、標的細胞、例えば腫瘍細胞に対する結合親和性および特異性について精製および試験することができる。
【0031】
捕獲表面への特定の親和性分子の固定化は、さまざまな方法で行うことができる。捕獲表面がガラススライドなどの固体支持体である場合、ガラス表面のアミノシリル化を使用することができる。捕獲表面がヒドロゲルを含む場合、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)によって事前に活性化されたヒドロゲルへのアミノまたはヒドロキシル官能基を介した親和性分子の共有結合を使用することができる。固定化された親和性分子は、吸着されているのではなく、ヒドロゲル被覆に共有結合しているため、固定化プロセスは、あらゆる種類の親和性分子、例えば、抗体、タンパク質、ペプチド、低分子量の化合物、核酸などに、これらの親和性分子が、アミノ、(ジ)スルフィド、またはアルデヒド部分などの好適な反応基を持つ限り、等しく適している。別のカップリング戦略については、ストレプトアビジン、プロテインA、ジスルフィドまたはヒドラジド官能化被覆が、先行技術において同様に利用可能である。親和性分子を含む緩衝液は、捕獲表面全体に適用することができ、または表面の規定された領域にスポットすることができる。1つの基板上で異なる親和性分子を組み合わせることが容易に可能である。好ましい実施形態において、ヒドロゲル被覆された捕獲表面は、2、3、4、または5つの異なる抗体などの、異なる結合特異性を有する2つ以上の親和性分子を含む。
【0032】
本発明の捕獲表面は、もちろん、同じ標的細胞の同一または異なる抗原構造に対する異なる抗体または抗体断片などの、異なるタイプの親和性分子も含むことができる。あるいは、同一プロセス内で異なるタイプの標的細胞の同時濃縮が望まれる場合、捕獲表面は、異なる標的細胞に対する異なる抗体または抗体断片を含むこともできる。好ましくは、本発明の捕獲表面上の親和性分子の全体密度は、約0.1~約100ng/mm2の範囲、例えば、約0.5ng/mm2、約1ng/mm2、約5ng/mm2、約8ng/mm2、約10ng/mm2、約15ng/mm2、約20ng/mm2、約30ng/mm2、約40ng/mm2、約50ng/mm2、約60ng/mm2、約70ng/mm2、約80ng/mm2、約90ng/mm2、約100ng/mm2またはさらに高密度である。上記の密度は、抗体または抗体断片である親和性分子に関するものであることが特に好ましい。また、捕獲表面に固定化される親和性分子の結合能力は、カップリングプロセスによって実質的に影響を受けないことが好ましい。捕獲表面への固定化の後、親和性分子、例えば抗体または抗体断片は、標的分子に対する元の結合能力、すなわち、固定化されていない場合の標的に対する結合能力の、50%超、好ましくは60%超、70%超、80%超、90%超、より好ましくは95%超を保持する。
【0033】
本発明の親和性分子、例えば、抗体またはそれに由来する抗原結合断片は、標的細胞、例えば、腫瘍細胞に対する選択的結合を示す能力に基づいて選択される。本明細書において使用される場合、選択的結合とは、親和性分子が、サンプル中の非標的細胞への結合と比較して、例えば、親和性分子/標的リガンドの対のKD値によって示して、少なくとも約4倍強く、通常約5倍超強く、約6倍超、約8倍超、約10倍超、約15倍超、約20倍超、約50倍超、または約100倍超強く、標的細胞に結合することを意味する。例えば、本発明の方法において全血サンプルを使用する場合、親和性分子は、濾液に存在する白血球に対する実質的な結合を示すべきではない。
【0034】
さらなる実施態様において、捕獲表面上の親和性分子は、受容体、レクチン、リガンド、またはそれらの機能的部分であり得る。さらに、標的細胞上の構造に対する親和性が低い親和性分子を使用することができる。一般に、1つの相互作用のみでは分離プロセスのために十分に安定ではないが、1つの細胞と捕獲表面との接触面にわたって分布するいくつかの弱い相互作用の協調効果により、十分に強く特異的な相互作用が生じる。これは、最先端のナノ粒子に基づく技術を超える重要な利点である。というのはかかるナノ粒子の比較的小さな表面積は、そのような協調機構を可能にするためには小さすぎるからである。
【0035】
好ましい実施形態において、濃縮および/または単離される標的細胞は、播種性腫瘍細胞であり、それら腫瘍細胞は、腫瘍細胞の細胞表面マーカーに対する特定の結合親和性を有する抗体またはその断片を介して、チャネルにおける捕獲表面、例えば、ヒドロゲルによって被覆された表面に結合するものである。播種性腫瘍細胞の好適な表面マーカーは、当該技術分野において周知であり、上皮増殖因子受容体(EGFR)、上皮細胞接着分子(EpCAMまたはCD326)、インスリン増殖因子-1受容体(IGF-1R)、上皮増殖因子受容体2(Her2)、サイトケラチン19(CK19)、サイトケラチン20(CK20)、ムチン1(MUC1)、ムチン2(MUC2)、ヒト上皮膜抗原(EMA)、上皮抗原(Ber-EP4)、および/または葉酸受容体アルファ(FRalpha)が挙げられる。さらなるマーカーが文献において詳細に議論されており、例えば、Pantelら(2008)、Nature Reviews、8、1-12;Pantelら(2009)、Nat Rev Clin Oncol.、6(6):339-51を参照されたい。
【0036】
したがって、マイクロ流体フローセルの被覆における親和性分子として使用される抗体は、以下を含み得る。抗EpCAM抗体、例えば、抗体クローン323A3(Kamiya Biomedical Company、Seattle、USAから入手可能)、抗体クローンMK-1-25(Acris、Herford、Germanyから入手可能)、抗体クローンAUA1(Novus Biologicals、Littleton、USAから入手可能)、抗体クローン158206(R’n’D Systems GmbH、Wiesbaden、Germanyから入手可能)、抗体クローン528(Santa Cruz Biotechnology Inc.、Heidelberg、Germanyから入手可能)、抗IGF-1R抗体、例えば、CP-751,871(Pfizer Pharma AG、Berlin、Germanyから入手可能)、抗CD19抗体、例えば、Santa Cruz Biotechnology Inc.、Heidelberg、Germanyから入手可能であって、以下のカタログ番号により称されるもの:sc-70563、sc-18895、sc-70560、sc-70559、sc-70561、sc-21714、sc-65295、sc-52311、sc-69736、sc-65255、sc-8498、sc-52378、sc-20922、sc-18884、sc-18894、sc-19650、sc-51529、sc-8500-R、sc-13507、sc-53191、sc-8499、sc-18896およびsc-69735;抗MUC1抗体、例えば、Santa Cruz Biotechnology Inc.、Heidelberg、Germanyから入手可能であって、以下のカタログ番号により称されるもの:sc-71611、sc-71610、sc-71612、sc-71613、sc-59931、sc-71614、sc-59794、sc-59795、sc-59796、sc-59797、sc-52347、sc-6827、sc-53376、sc-59798、sc-52085、sc-59799、sc-53377、sc-6826、sc-59793、sc-59800、sc-15333、sc-25274、sc-53379、sc-52086、sc-52087、sc-52088、sc-52089、sc-52090、sc-52091、sc-52092、sc-52093、sc-6825、sc-53380、sc-73595、sc-53381、sc-56441、sc-65589、sc-65220、sc-69644、sc-73606、sc-80889、sc-73605、sc-7313、およびsc-52094;抗MUC2抗体、例えば、Santa Cruz Biotechnology Inc.、Heidelberg、Germanyから入手可能であって、以下のカタログ番号により称されるもの:sc-59859、sc-7314、sc-15334、sc-23170、sc-23171、およびsc-13312;抗CK19抗体、例えば、Santa Cruz Biotechnology Inc.、Heidelberg、Germanyから入手可能であって、以下のカタログ番号により称されるもの:sc-53258、sc-53257、sc-33110、sc-33120、sc-25724、sc-33111、sc-33119、sc-53003、およびsc-56371;抗CK20抗体、例えば、Santa Cruz Biotechnology Inc.、Heidelberg、Germanyから入手可能であって、以下のカタログ番号により称されるもの:sc-25725、sc-17112、sc-52320、sc-70918、sc-56522、sc-56372およびsc-58730;抗上皮膜抗原抗体、例えば、Dako Deutschland GmbH、Hamburg、GermanyのクローンE29;抗上皮抗原抗体、例えば、Dako Deutschland GmbH、Hamburg、GermanyのクローンBer-EP4;抗egfr抗体、例えば、Santa Cruz Biotechnology Inc.、Heidelberg、Germanyから入手可能なsc-120。さらに好適な抗体は例えば、Novocastra Deutschland、Berlin、Germanyからの抗体VU-1D9;Progen Biotechnik GmbH、Heidelberg Germanyからの抗体Ks5+8.22/C22;Micromet、Munich、Germanyからの抗体A45-BB3-Cy3;Enzo Life Sciences GmbH、Lorrach、Germanyからの抗体Mov18/Zelである。本発明はまた、上記抗体のいずれかの抗原結合断片の使用を含む。
【0037】
単離される粒子または細胞を含む流体は、好ましくは液体であるが、気体であってもよい。好ましくは、流体は個体からの体液または組織抽出液である。好ましくは、サンプルが由来する個体は脊椎動物であり、より好ましくは哺乳動物である。特に好ましい実施形態において、サンプルはヒト由来である。流体は通常、細胞懸濁液である。サンプルは、血液(例えば、全血)または血液成分、尿、胸水、腹水、気管支肺胞洗浄液、女性の乳房の腺の乳頭吸引液または骨髄を含むか、またはそれらからなることができる。好ましい実施態様において、標的細胞を含むサンプルは、血液または骨髄サンプル、例えば、それぞれ血液または骨髄を含むか、または主にそれからなるヒト個体からのサンプルである。サンプルは、先行技術において知られている任意の好適な方法によって採取することができる。例えば、サンプルがヒトの血液サンプルである場合、それは静脈穿刺によって採取することができる。骨髄、例えばヒト骨髄を得る方法も、当該技術分野において周知である。例えば、血液と混合された赤い骨髄は、腸骨の頂部または胸骨から採取することができる。これは一般に、最小限の侵襲的手術によって行われる介入である。あるいは、生体サンプルは腹水、すなわち腹腔液、胸水、女性の乳房の乳頭からの吸引液、尿および他の体液であり得る。
【0038】
別の好ましい実施形態において、流体は、微生物負荷が決定されるべき液体である。例えば、液体は、例えば、静脈内投与用に処方されているために無菌である必要がある液体食品または液体医薬品であり得る。かかる実施形態において、フローセルを使用して、液体に含まれる細菌細胞の量を判定することができる。したがって、フローセルは、食品や医薬品の品質管理に使用することができる。
【0039】
本発明による方法において使用されるサンプルが特に高い粘度を有する場合、サンプルをフィルタ要素に適用する前またはフィルタ要素に適用するのと同時に、サンプルを希釈することが望ましい場合がある。この目的のために、その後の親和性分離表面への標的細胞の結合に干渉しない、生理学的に許容される緩衝液を使用してもよい。サンプルの希釈のために好適な緩衝液は、生理的pH範囲内で緩衝する等張緩衝液、例えば、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、ハンクス平衡塩類溶液、Tris緩衝生理食塩水、HEPES緩衝生理食塩水、MES緩衝液などである。生理学的緩衝液のpHは、好ましくは約pH6.0~約9.0、より好ましくは約pH6.5~約8.0、最も好ましくは約pH7.0~約7.5の範囲内、例えば7.4である。
【0040】
さらに別の実施態様において、本発明は、
(a)上記のマイクロ流体フローセル、および
(b)流体をマイクロ流体フローセルを通して導く少なくとも1つのポンプ
を含む、マイクロ流体デバイスに関する。
【0041】
マイクロ流体デバイスは、本明細書の他の箇所で上述したマイクロ流体フローセルと、さらに、マイクロ流体フローセルのチャネルを通して流体を導くための少なくとも1つのポンプとを含む。いくつかの場合においては、マイクロ流体デバイスに接続された数個のポンプ、例えば、流体の流れを制御する1つのポンプと、フローセルを通して洗浄緩衝液を導くための別のポンプとを有することが好ましいことがあり得る。
【0042】
本発明はさらに、流体サンプルからの標的粒子または細胞の単離のための、本明細書に記載したマイクロ流体フローセルまたはマイクロ流体デバイスの使用に関する。上述のように、サンプルは、血液サンプルなどの体液サンプルであり得る。本明細書においては、流体サンプルからの腫瘍細胞の単離のための本発明のマイクロ流体フローセルまたはデバイスの使用が好ましい。本発明はさらに、親和性分子を含む表面と標的粒子または細胞との間の接触を増加させることにより、流体サンプルから単離される標的粒子または細胞の収量を改善するための本明細書に記載のマイクロ流体フローセルまたはマイクロ流体デバイスの使用に関する。
【0043】
さらに別の実施態様において、本発明は、流体からの標的粒子または細胞の選択的濃縮方法であって、
(a)本明細書の他の箇所に記載のようにマイクロ流体フローセルを通して流体のサンプルを導くこと、および
(b)その後、被覆された表面から標的粒子または細胞を分離すること、
を含む、方法を提供する。
【0044】
本発明の方法は、2つの連続した工程を含む。第1の工程において、流体のサンプルがマイクロ流体フローセルを通して導かれる。通常、フローセルは前もって緩衝液によって洗浄されている。好ましくは、サンプルは、腫瘍細胞を含むか、または腫瘍細胞を含むと疑われる血液サンプルである。0.1~5ml/h、好ましくは1.0~5.0ml/hの流速が用いられる。標的粒子または細胞は、チャネル内の被覆された捕獲表面と相互作用し、表面に付着する。流体サンプルがフローセルを通して導かれた後、フローセルに洗浄緩衝液を流すことによって、フローセル表面を洗浄することができる。洗浄工程においては、捕獲表面に非特異的に結合した材料がすべて除去される。その後、細胞を捕獲表面から注意深く除くことにより細胞を得ることができる。例えば、細胞は、それらが結合した表面から注意深く掻爬することにより取り除くことができる。あるいは、パッチクランプなどによって個々の細胞を取り除くことができる。
【0045】
さらに別の実施態様において、本発明は、流体サンプルから単離される標的粒子または細胞の収量を向上させる方法であって、
(a)本明細書の他の箇所に記載のようにマイクロ流体フローセルを通して流体のサンプルを導くこと、および
(b)その後、被覆された表面から標的粒子または細胞を分離すること、
を含む、方法に関する。
【0046】
上記の方法を実行するための例示的なマイクロ流体デバイスを図4に示す。デバイスは、その入口および出口を介して、タンクからフローセルへと単離または濃縮される粒子または細胞を含む流体を導くポンプに接続される配管に接続される、本発明のマイクロ流体フローセルを含む。図4におけるデバイスは、フローセルの捕獲表面に被覆された抗体への腫瘍細胞の結合に干渉する可能性のある液体からのタンパク質の除去のためのカラムをさらに含む。
【0047】
分析される流体サンプルが血液サンプルである場合、標的細胞の捕獲表面への結合に干渉する可能性のある赤血球および/または血小板がサンプルから除去されることが好ましい。この目的のために、サンプルは、0.5~5μmのサイズの細孔、穴、または開口を有するフィルタ要素を通して濾過され得る。赤血球は、血液中の酸素輸送を担う5~8μmの平均直径を有する無核の血液細胞である。これら赤血球細胞の高い変形能により、わずか0.5μmのポアサイズのフィルタ要素をこれらの細胞の大部分の除去に効果的に使用できることが判明した。赤血球は扁平な形状を有しており、弛緩した扁平な状態の赤血球の平均直径よりかなり小さいサイズを有する開口を通過することができる管状構造を形成することができる。
【0048】
同様に、血小板は、通常、1~2μmの平均直径を有し、ある程度の変形性を有する核のない細胞であり、これは、血小板もまた上記のポアサイズを有するフィルタ要素の細孔を通して通過することができるということを意味する。対照的に、白血球や腫瘍細胞などの有核細胞は一般に5μmより大きく、変形する能力は限られている。これらの細胞はフィルタ要素によって保持される。濾過工程により、サンプル中に存在する赤血球のかなりの部分が除去される。好ましくは、濾過プロセスは、サンプルに存在する赤血球の、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%またはさらに約96%、約97%、約98%、約99%以上までをも除去する。濾過工程は同様に、サンプルに存在する血小板のかなりの部分を除去するのに好適である。好ましくは、濾過プロセスは、サンプルに存在する血小板の、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%またはさらに約96%、約97%、約98%、約99%以上までをも除去する。白血球や腫瘍細胞などの有核細胞はフィルタ要素によって保持されるため、濾過を使用して、それぞれ赤血球または血小板に比べてこれらの細胞の画分を濃縮することができる。フィルタ要素のポアサイズは0.5~5μm、例えば、0.5、1、2、3、4または5μmである。好ましくは、フィルタ要素のポアサイズは1~3μmである。これに関して、特定の細孔のサイズは、本明細書において、その細孔を横切る最小直径として理解される。言い換えると、本明細書において使用されるポアサイズは、細孔を通して依然として通過することができる最大の球体の直径と同一である。
【0049】
フィルタ要素は、織布または不織布を含むか、またはそれからなるものでもよい。細胞分離を可能にする不織布で作られたフィルタ要素は、当該技術分野において周知であり、それらは、様々な材料からなるものであってよく、材料としては、例えば、セルロースまたはセルロース誘導体、例えば、酢酸セルロース、硝酸セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシブチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースが挙げられる。不織布フィルタに一般的に使用されるその他の材料としては、ポリカーボネート、ヒドロキシエチルデンプン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアリーレン、ポリフェニレンエーテル、フッ化ポリビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluorethylene)(PTFE)などならびにガラスが挙げられる。不織布フィルタ材料は、様々な既知のプロセス、例えば、メルトブローイング、スパンボンディング、エアレイ、湿式成形およびボンデッドカーデッドウェブ法によって作ることができる。好適な不織布フィルタはまた、いくつかの異なる供給業者から入手可能であり、例えば、Carl Roth(Karlsruhe、Germany)、Schleicher&Schuell(Dassel、Germany)およびSatorius(Gottingen、Germany)から入手可能である。あるいは、フィルタ要素は、織布、すなわち製織プロセスにより調製された材料であってもよい。本発明の方法において使用するための織布は、ポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリフルオロカーボン、ポリアクリロニトリル、ポリウレタン、ポリアクリレート、ナイロン、ポリフェニレンスルフィド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリベンズイミダゾールなどを含むものであってもよいし、あるいはそれらからなるものであってもよい。好適な織物フィルタは、さまざまな供給業者から購入することができる。
【0050】
サンプルまたは希釈サンプルは、フィルタ要素の両側に圧力差を設けるだけで、フィルタ要素を通して濾過することができ、圧力は、サンプルが提供され、残余分が形成される側でより高くする。例えば、かかる圧力差は、重力または静水圧の差を好適に利用することにより有利に作成することができる。濾過のために選択された特定の設定に応じて、およびフィルタ要素のパラメーター、特にフィルタ要素のポアサイズまたはメッシュサイズに応じて、当業者はサンプルをフィルタ要素を通して導くために適用する圧力を調整することができる。
【0051】
赤血球および/または血小板を除去するための濾過工程は、サンプルが本発明のフローセルと接触する前に実行される。かかる工程をプロセスフロー全体に簡単に組み込むために、分離プロセスに有用な配管やその他の要素を既に含むプラスチックまたは別の好適な材料の既製のカートリッジを使用することができる。例えば、分離カートリッジは、フローセルならびにポンプ、廃棄物容器などを接続するためのルアーロック付きの統合された配管を含めるための規定されたプラグイン位置を含むように射出成形によって製造することができる。同様に、濾過カートリッジには、サンプルが、例えば、シリンジによって注入される漏斗状容器を設けることができる。漏斗形容器は、赤血球および/または血小板を分離除去するためのフィルタ要素を含む。好ましくは、濾過カートリッジは、濾過およびその後の分離が干渉なしで1つのプロセスフローにて実行することができるように分離カートリッジに差し込むことができる。濾過カートリッジと分離カートリッジを含むフローセルアセンブリを図6Aおよび図6Bに示す。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図1図1は、対応する保持デバイスに取り付けられた本発明のマイクロ流体フローセルの模式的探索図を示す。
図2A図2は、本発明のマイクロ流体フローセル内のフローチャネルの幾可学的形状の3つの可能な実施形態を示す。
図2B図2は、本発明のマイクロ流体フローセル内のフローチャネルの幾可学的形状の3つの可能な実施形態を示す。
図2C図2は、本発明のマイクロ流体フローセル内のフローチャネルの幾可学的形状の3つの可能な実施形態を示す。
図3A図3は、本発明のフローセルの異なる可能な構造の概略図を示す。
図3B図3は、本発明のフローセルの異なる可能な構造の概略図を示す。
図3C図3は、本発明のフローセルの異なる可能な構造の概略図を示す。
図3D図3は、本発明のフローセルの異なる可能な構造の概略図を示す。
図4図4は、本発明のマイクロ流体フローセルを含む本発明のマイクロ流体デバイスの概略図を示す。
図5図5は、本発明のマイクロ流体フローセルを使用して平均細胞検出率を測定する実験の結果を示す。左外側のバー:アミノシラン処理表面上の生細胞の回収。左内側のバー:アミノシラン処理表面上のホルムアルデヒド固定細胞の回収。右内側のバー:HC-誘導体化表面上の生細胞の回収。右外側のバー:HC-誘導体化表面上のホルムアルデヒド固定細胞の回収。
図6A図6は、濾過カートリッジおよび分離カートリッジを含む本発明のマイクロ流体デバイスの概略図を示す。
図6B図6は、濾過カートリッジおよび分離カートリッジを含む本発明のマイクロ流体デバイスの概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0053】
本発明を、添付の図面を参照して例示的に説明する。図1は、少なくとも1つの蛇行形状のフローチャネルを形成するために嵌合可能な上部(1)および下部(2)を含む本発明のマイクロ流体フローセルを示す。図1に示される実施形態において、下部は、単離または濃縮される標的細胞または粒子に対する親和性を有する分子により被覆されたガラススライドである。所望により、ゴムリングなどのシール手段(9)を上部(1)と下部(2)の間に配置することができる。マイクロ流体デバイスにおいて使用される場合、フローセルの上部(1)と下部(2)は、上側保持手段(10)と下側保持手段(11)により囲まれており、これらは、上部(1)と下部(2)のアセンブリを取り囲み、安定化させる形状である。上部(1)は、上部の材料内にエッチングまたは成形された1つ以上のフローチャネルを含む。
【0054】
フローチャネルはさまざまな幾可学的形状を有することができ、その一部を図2に示す。例えば、図2Aは、鋭角的屈曲を有するS字状のフローチャネル(3)を含む本発明のフローセルの上部(1)を示す。フローチャネル(3)は、フローセルの対向する側から交互に延びる複数の離間した内壁部(4)によって画定される。フローセルの上部(1)は、フローチャネル(3)と流体接触し、流体がポンプを介してフローチャネル(3)を含む上部(1)に導かれることを可能にする入口(7)を含む。流体は、入口(7)を介してフローチャネル(3)に入り、出口(8)を介してフローセルから出る。図2Bは、丸みを帯びた屈曲を有するS字状のフローチャネル(3)を含む本発明のフローセルの上部(1)を示す。図2Cは、ジグザグ形状のフローチャネル(3)を含む本発明のフローセルの上部(1)を示す。
【0055】
図3Aは、本発明のフローセルの例示的な実施形態の概略図を示す。フローセルは、上板および2つの側壁を含む上部(1)を含む(上板および1つの側壁は示されていない)。上部(1)と下部(2)とは、フローチャネルを形成するよう嵌合可能である。下部は、被覆されたガラススライドである。上部は、フローセルの対向する側壁から交互に延びる複数の離間した内壁部(4)を含む。この構造により、本質的にS字状のフローチャネルが形成される。この実施形態において、右側壁から延びる内壁部(4)のみが、壁部の下縁とフローセルの底板との間に形成される開口部を含む。フローセルを通して導かれる流体の流れは、壁部と接触し、2つの流れに分割される。1つの流れが壁部の周りを流れ、第2の流れが壁部と底板の間の開口部を横切る。これらの流れが再び合流すると、粒子と細胞とを底板に向かって動かす力が生じる。
【0056】
図3Bは、図3Aのフローセルの断面を示す。壁部(4)は、フローセルの上部(1)の右側壁から延びている。壁部(4)は、開口部(6)が形成されるように下部(2)から離間している。図3Cは、代替構造を有するセルの断面を示す。ここで、開口部(6)は、壁部(4)と下部(2)との間のギャップの形態ではなく、壁部(4)の中央にあるスリットの形態である。フローセルのさらに別の代替構造が図3Dに示されており、フローチャネルに延びる壁部のそれぞれが2つの開口部(6)を有しており、その1つは下部(2)に隣接する水平スリットの形態を有し、もう1つはフローチャネルの上部(1)の側壁に隣接する垂直スリットを形成している。
【0057】
サンプル流体からの標的細胞の分離のために、図2Bに示すような上部(1)を有するマイクロ流体フローセルを使用した。内壁部の幅は0.5mmであり、フローチャネル(3)の幅は1.75mmであった。また、内壁部の下縁とフローセルの下部との間の開口部は40μmであった。フローセルの下部(2)として、サイズが1×3cmのガラススライドを使用した。O-リング(9)を使用して、マイクロ流体フローセルを密閉した。実験において使用したマイクロ流体フローセルの一般的なアセンブリを図1に示す。被覆された捕獲表面として、異なる官能化されたガラススライドを使用した。1つのアプローチにおいて、HC-被覆スライド表面に、MCF7またはHT29がん細胞のEpCAM抗原に特異的に結合する抗EpCAM抗体を固定化した。別のアプローチにおいて、アミノシラン処理された正に帯電した表面(ヒストボンド(histobonds)としても知られている)を使用した。これは細胞の分離を助け、細胞は通常負に帯電している。アミノシラン処理表面については、いかなるさらなる成分もない細胞懸濁液を実験において使用した。分離の前に、フローセルを新しい緩衝液で洗浄した。分離プロセスは、生きたMCF7またはHT29腫瘍細胞、および前もってホルムアルデヒドで固定した細胞を使用して行った。細胞懸濁液をピペットでHC-被覆マイクロタイタープレートのウェルに入れ、正確な細胞数を光学スキャナでカウントした。その後、細胞懸濁液を、HC-被覆ピペットチップを使用してマイクロ流体デバイスに移した。通常、固定細胞の約1.8%と生細胞の約5.8%が移動中に失われる。かかる細胞の損失は、それぞれピペットチップへの付着または細胞死によるものである。2ml/時間のポンプ速度でポンプを使用することにより、細胞懸濁液をマイクロ流体フローセルに導入した。細胞懸濁液をフローセルを通して導くことにより、腫瘍細胞を分離した。フローセルを光学スキャナで評価し、ガラススライドに結合した細胞をカウントした。以下の表1のような結果が得られた。
【表1】
【0058】
上記の表に、本発明のマイクロ流体フローセルを使用した細胞検出率が非常に高いことが示されている。特に、本発明の新しいマイクロ流体フローセルを使用して、85~96%の回収率が達成された。細胞回収実験の結果を図5に示す。左外側のバーは、アミノシラン処理表面上の生細胞の回収の結果を示す。左内側のバーは、アミノシラン処理表面上のホルムアルデヒド固定細胞の回収の結果を示す。右内側のバーは、HC-誘導体化表面上の生細胞の回収の結果を示す。右外側のバーは、HC-誘導体化表面上のホルムアルデヒド固定細胞の回収の結果を示す。
【0059】
図4は、新規なマイクロ流体フローセルを含む本発明のマイクロ流体デバイスを示す。フローセルは、フローチャネル(3)を形成するために嵌合可能な上部(1)および下部(2)を含む。フローセルは、配管(17)を介してポンプ(13)に接続され、ポンプ(13)は緩衝液とサンプルをマイクロ流体デバイスを通して導く。標的粒子または標的細胞を含む流体サンプルは、注入デバイス(12)に接続されたバルブ(14)を介してデバイスに注入される。注入デバイスは、例えば、配管を介してバルブに接続されたシリンジであり得る。図4に示す実施形態において、デバイスはまた、それがなければフローセル内のサンプルの処理に干渉する可能性がある特定の化合物をサンプル流体から除去する精製カラム(15)を含む。精製カラムの代わりに、1つ以上のフィルタもまた使用することができる。例えば、血液サンプルから赤血球を除去するフィルタを使用して、過剰な量の赤血球がマイクロ流体フローセルに入ることを回避することができる。デバイスはまた、フローセルを通して流れた流体を収集するための廃棄物容器(16)を含んでいてもよい。
【0060】
図6Aは、分離カートリッジ(18)および濾過カートリッジ(24)を備えたカートリッジアセンブリの側面図を示し、図6Bは上面図を示す。濾過カートリッジ(24)の漏斗状容器(22)が垂直配向され、分離カートリッジ(18)が水平配向されるように、濾過カートリッジ(24)は分離カートリッジ(18)に嵌め込まれる。濾過カートリッジ(24)は、ルアーロック(21)を介してシリンジ(19)に接続することができ、シリンジ(19)は、サンプル流体を濾過カートリッジ(24)にアプライするために使用される。サンプル流体が血液サンプルである好ましい実施形態において、漏斗状容器(22)は、廃棄物導管(26)に接続された容器の頂部にフィルタ要素(25)を含む。フィルタ要素(25)は、赤血球および血小板がフィルタ要素を通過できるように、0.5~5μmのサイズの細孔、穴または開口を有する1つ以上のフィルタを含む。血液サンプルは、入口を介して漏斗状容器(22)に注入される。入口は、フィルタ要素(25)の下のセクションに位置している。サンプルを漏斗状容器(22)に注入する前に、すでに分離カートリッジ(18)に接続されていてもよい濾過カートリッジ(24)を上下逆にして、フィルタ要素(25)が入口の下になるようにする。次に、血液サンプルを漏斗状容器(22)に注入し、それによりフィルタ要素(25)と接触させる。赤血球と血小板はフィルタ要素を通過し、廃棄物導管(26)を介して漏斗状容器(22)から出る。分離は、重力に依存することによって実行できるが、廃棄物導管(26)に接続されたポンプによって支援してもよい。濾過カートリッジ(24)は、赤血球と血小板をサンプルに含まれる他の細胞から分離し、フィルタ要素(25)を通過させるのに十分な時間、この位置に保持される。赤血球と血小板は容器(22)から除去され、導管(26)を通して廃棄物容器に導かれる。赤血球および血小板を除去した後、濾過カートリッジ(24)を再び正しい位置に戻し、赤血球および血小板がもはやなくなったサンプルを、配管(20)を介して分離カートリッジ(18)およびフローセル(23)に導くことにより処理する。フローセル(23)において、粒子が捕獲され、それぞれの親和性分子により被覆された表面に固定化される。
図1
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5
図6A
図6B