(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-06
(45)【発行日】2022-10-17
(54)【発明の名称】絶縁化ナノファイバー糸
(51)【国際特許分類】
D06M 15/19 20060101AFI20221007BHJP
C01B 32/15 20170101ALI20221007BHJP
D06M 11/83 20060101ALI20221007BHJP
D06M 15/227 20060101ALI20221007BHJP
D06M 15/55 20060101ALI20221007BHJP
【FI】
D06M15/19
C01B32/15
D06M11/83
D06M15/227
D06M15/55
(21)【出願番号】P 2020511769
(86)(22)【出願日】2018-08-14
(86)【国際出願番号】 US2018046624
(87)【国際公開番号】W WO2019046007
(87)【国際公開日】2019-03-07
【審査請求日】2020-04-27
(32)【優先日】2017-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519164079
【氏名又は名称】リンテック・オヴ・アメリカ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100180231
【氏名又は名称】水島 亜希子
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】ブイコワ,ジュリア
(72)【発明者】
【氏名】リマ,マルシオ・ディー
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-531700(JP,A)
【文献】国際公開第2016/021672(WO,A1)
【文献】特開2009-187944(JP,A)
【文献】特開2007-231089(JP,A)
【文献】特開2016-122644(JP,A)
【文献】特開昭59-129259(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 10/00-15/715
C01B 32/00-32/991
H01B 1/00- 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁化されたナノファイバー導電体を製造する方法であって、
カーボンナノファイバー集合体を供給するステップであって、前記
カーボンナノファイバー集合体は集合体の軸に沿って延在しており、且つ外側表面と内側部分とを有する、ステップと、
第1の材料を前記
カーボンナノファイバー集合体へ塗布するステップと、
前記
カーボンナノファイバー集合体の前記内側部分に前記第1の材料を含浸させるステップと、
前記
カーボンナノファイバー集合体の前記外側表面から過剰な第1の材料を除去し、前記
カーボンナノファイバー集合体の前記外側表面が前記第1の材料を実質的に含まないようにするステップであって、これにより、前記内側部分に前記第1の材料が含浸しており、前記
カーボンナノファイバー集合体の前記外側表面に前記第1の材料が存在していない含浸
カーボンナノファイバー集合体を生成する、ステップと、
第2の材料で前記含浸
カーボンナノファイバー集合体
の前記外側表面を被覆するステップと
を含
み、
前記カーボンナノファイバー集合体が、1×10
-3
Ω-m未満の電気抵抗率を有し、
前記第1の材料が、導電性金属、導電性ポリマー、または導電性金属もしくは導電粒子を含むポリマーであり、
前記第2の材料が、前記第1の材料とは組成的に異なり、少なくとも1×10
12
Ω-mの電気抵抗率を有し、
前記第1の材料と前記第2の材料とが10
5
Pa未満の互いに対する接着値を有する、方法。
【請求項2】
前記第1の材料及び前記第2の材料を選択するステップを更に含み、
前記第1の材料に対する前記第2の材料の接触角が少なくとも90°である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の材料を塗布するステップが、溶融ポリマーまたはポリマー-溶媒溶液を塗布することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の材料を除去するステップが、真空にすることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記外側表面から前記第1の材料を除去するステップが、前記外側表面を動流体にさらすことを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記動流体が加圧ガスまたは溶媒流のうちの1つである、請求項
5に記載の方法。
【請求項7】
前記
カーボンナノファイバー集合体を供給するステップが、直径50μm未満の
カーボンナノファイバー糸として前記
カーボンナノファイバー集合体を選択することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
長手方向の軸に沿って延在しており、且つ外側表面と内側部分とを有する連続
カーボンナノファイバー集合体と、
前記内側部分に含浸している第1の材料であって、前記
カーボンナノファイバー集合体の前記外側表面には実質的に存在しない導電性の第1の材料と、
前記第1の材料とは組成的に異
なり、前記
カーボンナノファイバー集合体の前記外側表面及び前記第1の材料の外側表面を被覆して
いる第2の材料と
を備え
、
前記カーボンナノファイバー集合体が、1×10
-3
Ω-m未満の電気抵抗率を有し、
前記第1の材料が、導電性金属、導電性ポリマー、または導電性金属もしくは導電粒子を含むポリマーであり、
前記第2の材料が、前記第1の材料とは組成的に異なり、少なくとも1×10
12
Ω-mの電気抵抗率を有し、
前記第1の材料と前記第2の材料とが10
5
Pa未満の互いに対する接着値を有する、絶縁化ナノファイバー導電体。
【請求項9】
前記
カーボンナノファイバー集合体が50μm未満の直径を有する、請求項
8に記載の絶縁化ナノファイバー導電体。
【請求項10】
前記第2の材料が、前記第1の材料に配置された場合に少なくとも90°の接触角を有する、請求項
8に記載の絶縁化ナノファイバー導電体。
【請求項11】
前記第1の材料
および前記カーボンナノファイバー集合体の外側表面と前記第2の材料との
間に配置された中間層を更に備え、
前記中間層が
前記第1の材料および前記第2の材料
の両方と組成的に異なる材料を含
み、前記中間層と前記第2の材料との間の接着力が、前記中間層と前記第1の材料との間の接着力よりも弱い、請求項
8に記載の絶縁化ナノファイバー導電体。
【請求項12】
前記第2の材料が、第1の端部と第2の端部のうちの少なくとも一方で省かれる、請求項
8に記載の絶縁化ナノファイバー導電体。
【請求項13】
前記中間層の前記第2の材料と接触している外側表面が、10μm未満の表面粗さを有する、請求項12に記載の絶縁化ナノファイバー導電体。
【請求項14】
前記カーボンナノファイバー集合体および前記第1の材料の外側表面と前記第2の材料との間に中間層を塗布するステップを更に備え、前記中間層と前記第2の材料との間の接着力が、前記中間層と前記第1の間の接着力より弱い、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願]
本出願は、米国特許法第119条(e)の下、2017年8月28日に出願された米国仮特許出願第62/550,761号に基づく優先権を主張し、これはその全体がここに引用することで本明細書の記載の一部をなすものとする。
【0002】
本開示は、概して導電性ナノファイバー糸(yarn)に関し、より具体的には、絶縁化された導電性ナノファイバー糸に関する。
【背景技術】
【0003】
カーボンナノファイバーフォレストは、単層ナノチューブ、複数層ナノチューブ、または両方のいずれから構成されているかに関わらず、高導電性カーボンナノチューブ(CNT)繊維へと引き出して紡糸することができる。引き出される前の状態では、CNTフォレストは、成長基材の表面から垂直に伸びる平行なナノファイバーの単一の層を有している。ナノファイバーシートへと引き出されると、各ナノファイバーの配向が変化して成長基材の表面に平行に延び、引き出されたナノファイバーシート中のナノチューブは、エンド・トゥ・エンドの構成で互いに接続して連続シートを形成する。整列したナノファイバーは、CNT伝導性繊維へと紡糸することができる。
【0004】
CNT導電性繊維としては、高導電性カーボンナノチューブ製のスレッド(thread)、ヤーン、及びロープが挙げられる。CNT導電性繊維は、高強度、低密度、及び高導電性についての他に類を見ない物理的特性により、電気配線用途における従来の銅ワイヤー及びアルミニウムワイヤーを置き換える候補として有望であることが示されている。
【発明の概要】
【0005】
例1(Example 1)は、絶縁化されたナノファイバー導電体を製造する方法であり、これは、ナノファイバー集合体を供給するステップであって、このナノファイバー集合体は集合体の軸に沿って延在しており、且つ外側表面と内側部分とを有する、ステップと、第1の材料をナノファイバー集合体へ塗布するステップと、ナノファイバー集合体の内側部分に第1の材料を含浸させるステップと、ナノファイバー集合体の外側表面から第1の材料を除去するステップであって、これにより、内側部分に第1の材料が含浸しており、ナノファイバー集合体の外側表面に第1の材料が存在していない含浸ナノファイバー集合体を生成する、ステップとを含む。
【0006】
例2(Example 2)は、例1の主題を含み、含浸ナノファイバー集合体を、第1の材料と組成的に異なる第2の材料で被覆するステップを更に含む。
【0007】
例3(Example 3)は、例1または例2の主題を含み、第1の材料は、溶融ポリマーまたはポリマー-溶媒溶液として塗布される。
【0008】
例4(Example 4)は、例1または例2の主題を含み、第1の材料を除去するステップは、真空にすることを含む。
【0009】
例5(Example 5)は、例1~4のうちのいずれかの主題を含み、外側表面から第1の材料を除去するステップは、外側表面を動流体にさらすことを含む。
【0010】
例6(Example 6)は、例1~4のうちのいずれかの主題を含み、外側表面は、加圧ガスまたは溶媒流のうちの一方にさらされる。
【0011】
例7(Example 7)は、例1~6のうちのいずれかの主題を含み、ナノファイバー集合体を供給するステップは、直径50μm未満のナノファイバー糸としてナノファイバー集合体を選択することを含む。
【0012】
例8(Example 8)は、例1~7のうちのいずれかの主題を含み、ナノファイバー集合体は、1×10-3Ω-m未満の抵抗率を有する導電性である。
【0013】
例9(Example 9)は、例1~8のうちのいずれかの主題を含み、第1の材料と第2の材料を、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン、アクリレート-スチレン-アクリロニトリル、酢酸セルロース、PA6ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミドブレンド、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリカーボネート/アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン、ポリカーボネート/ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート/ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリオキシメチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンオキシド、ポリスチレン、スチレンアクリロニトリルコポリマー、熱可塑性エラストマー、熱可塑性ポリウレタン、及び液体シリコーンゴムからなる群から選択するステップを更に含み、第1の材料と第2の材料は、105Pa未満の互いに対する接着値を有する。
【0014】
例9A(Example 9A)、例1~9のうちのいずれかの主題を含み、第2の材料は、第1の材料に対して化学的に不活性である。
【0015】
例10(Example 10)は、例1~9Aのうちのいずれかの主題を含み、第1の材料及び第2の材料は、第1の材料上の第2の材料の接触角が少なくとも90°になるように選択される。
【0016】
例10A(Example 10A)は、例1~9Bのうちのいずれかの主題を含み、第1の材料及び第2の材料は、第1の材料上の第2の材料の接触角が少なくとも135°になるように選択される。
【0017】
例11(Example 11)は、例1~10Aのうちのいずれかの主題を含み、第1の材料は導電性である。
【0018】
例12(Example 12)は、例1~11のうちのいずれかの主題を含み、第1の材料は導電性粒子を含む。
【0019】
例13(Example 13)は、例1~12のうちのいずれかの主題を含み、前記第2の材料は、少なくとも1×1012Ω-mの抵抗率を有する。
【0020】
例14(Example 14)は、絶縁化ナノファイバー導電体であり、これは、長手方向の軸に沿って延在しており、且つ外側表面と内側部分とを有する連続ナノファイバー集合体と、内側部分の中に含浸している第1の材料であって、ナノファイバー集合体の外側表面には実質的に存在しない第1の材料と、ナノファイバー集合体の外側表面を被覆している電気絶縁性の第2の材料とを備える。
【0021】
例15(Example 15)は、例14の主題を含み、ナノファイバー集合体は導電性である。
【0022】
例16(Example 16)は、例14または15のいずれかの主題を含み、ナノファイバー集合体はカーボンナノファイバー糸である。
【0023】
例17(Example 17)は、例14~16のうちのいずれかの主題を含み、ナノファイバー集合体は50μm未満の直径を有する。
【0024】
例18(Example 18)は、例14~17のうちのいずれかの主題を含み、第2の材料は、第1の材料と組成的に異なる。
【0025】
例19(Example 19)は、例14~18のうちのいずれかの主題を含み、第1の材料と第2の材料のうちの一方または両方が、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン、アクリレート-スチレン-アクリロニトリル、酢酸セルロース、PA6ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミドブレンド、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリカーボネート/アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン、ポリカーボネート/ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート/ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリオキシメチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンオキシド、ポリスチレン、スチレンアクリロニトリルコポリマー、熱可塑性エラストマー、熱可塑性ポリウレタン、及び液体シリコーンゴムからなる群から選択されるポリマーを含む。
【0026】
例20(Example 20)は、例14~19のうちのいずれかの主題を含み、第1の材料と第2の材料は、105Pa未満の互いに対する接着値を有する。
【0027】
例21(Example 21)は、例14~20のうちのいずれかの主題を含み、第2の材料は、第1の材料上に配置された場合に少なくとも90°の接触角を有する。
【0028】
例22(Example 22)は、例14~21のうちのいずれかの主題を含み、第1の材料は導電性である。
【0029】
例23(Example 23)は、例14~22のうちのいずれかの主題を含み、第1の材料と第2の材料との間の外側表面に配置された中間層を更に備え、中間層は第2の材料とは異なる材料を含む。複数の例では、中間層はポリマー、揮発性潤滑剤、または粉末である。
【0030】
例24(Example 24)は、例14~23のうちのいずれかの主題を含み、第2の材料は、第1の端部と第2の端部のうちの少なくとも一方で省かれる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】一実施形態における、基材上のナノファイバーフォレストの一例を示す。
【
図2】一実施形態における、ナノファイバーを成長させるために使用される反応器の概略図である。
【
図3】一実施形態における、ナノファイバーシートの相対的な寸法を識別するナノファイバーシートの図であって、シート内の複数のナノファイバーが端から端へと、シートの表面に平行な平面に整列されていることを概略的に示す図である。
【
図4】ナノファイバーフォレストから横方向に引き出されたナノファイバーシートの画像であって、複数のナノファイバーは
図3に概略的に示されているように端から端へと整列されている。
【
図5】本開示の一実施形態に係る絶縁化ナノファイバー集合体の断面図であって、ナノファイバー集合体の一部の中に配置されている第1の材料と、ナノファイバー集合体を被覆している第2の材料とを示す。
【
図6】本開示に係る絶縁化ナノファイバー集合体の実施形態で使用される例示的なポリマー系材料間の接着を示すチャートである。
【
図7】絶縁化ナノファイバー集合体の別の実施形態の断面図であり、ナノファイバー集合体の一部に含浸している第1の材料と、含浸ナノファイバー集合体の外側表面に配置されている中間層と、中間層上に配置された第2の材料とを示す
【
図8】本開示の一実施形態に係る絶縁化ナノファイバー集合体を製造するためのシステムを示す概略図である。
【
図9】本開示の一実施形態に係る絶縁化ナノファイバー集合体を製造する方法における例示的な工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図面は、例示の目的のみのために本開示の様々な実施形態を示している。様々な変形形態、構成、及び他の実施形態は以降の詳細な検討から明らかになるであろう。
【0033】
[概要]
カーボンナノファイバーは、シートへと引き出されたり、整列したナノファイバーのストランドへとまとめられたり、あるいは糸へと撚られたりすると、様々な技術分野における用途に役立つ数多くの有利な電気的、光学的、化学的、及び機械的特性を有する。シート、ストランド、及び/または糸の中の個々のナノファイバーは、それらの間の隙間を画定する。ポリマー、導電性ナノ粒子、導電性ミクロ粒子、及びこれらの組み合わせなどの(ただしこれらに限定されない)他の材料が、これらの隙間に「含浸」することができ、それにより、カーボンナノファイバー単独で示される特性よりも更に広い範囲の特性を有する複合材料を形成することができる。
【0034】
しかし、場合によっては、ポリマーをナノファイバー「集合体」(例えばシートやストランドや糸などの整列したナノファイバーの一群)の中に(及びその上に)含浸させると、ナノファイバー集合体の導電性が低下する場合がある。これは、2つのメカニズムのうちの一方または両方によって生じ得る。第1に、ポリマーは、隣接するナノファイバーを互いに絶縁することにより、集合体内の電気的経路を遮断することができる。
【0035】
第2に、ポリマーはナノファイバー集合体の外側表面を被覆することにより、ナノファイバー集合体と接続されている電気接点との間の電気抵抗を増加させる(導電性を低減または除去する)ことができる。つまり、ナノファイバー自体が導電性である場合(例えばカーボンナノファイバー)、含浸ナノファイバー糸の外側の電気抵抗コーティングは、システムの他の要素への電気接続を必要とする用途におけるナノファイバー糸の使用を妨げる場合がある。ポリマーの外層は、ナノファイバー糸の内部に含浸したポリマーと結合し、一体化しているため、外層のみを除去することは困難な場合がある。硬化した外層は、ナノファイバー表面に対して強い親和性を有する場合もある。熱的または化学的な方法で外側表面層を除去すると、ナノファイバー自体を含む、含浸ナノファイバー糸の他の部分が損傷する可能性がある。ひいては、これらの事象は、ナノファイバー糸の電気的及び/または機械的特性を低下させる可能性がある。これらの理由のため、ナノファイバー糸の外側表面に配置されている絶縁外層は、含浸ナノファイバー糸への低抵抗電気接続(例えば電気はんだの抵抗に匹敵するか、それより小さい抵抗を有する接続)を困難にする。本明細書において、ナノファイバー集合体は、集合体内で1×10-3Ω-m未満の電気抵抗率を示す場合、内部導電性である。ナノファイバーの集合体と外部の電気接点との間の界面は、それが1×10-6Ω-m未満の電気抵抗率を示す場合、導電性であるとされる。
【0036】
ナノファイバーを絶縁化するための別の手法は、絶縁金属(例えばアルミニウムまたは銅)ワイヤーを製造するために使用されるものと同様の表面被覆プロセス(ナノファイバーの含浸集合体または非含浸集合体のいずれに対するものかに関わらず)を使用することである。例えば、ナノファイバー糸は、液体または溶融ポリマーの中に浸漬したり、これを通して引き出したりすることができ、これは、その後、ガラス転移温度未満に冷却されるか、溶媒を除去することによって固化される。しかし、一部のポリマーは、多孔質のナノファイバー糸構造を含浸して別個の絶縁層ではなく複合体を形成する傾向があるため、この手法も問題を有している。これは、上述したように、糸(または他の集合体)内のナノファイバーを互いに絶縁させる可能性がある。場合によっては、含浸を回避するために、90°を超える濡れ角(ナノファイバーシート上)のポリマーを使用することで、ナノファイバーワイヤー上に糸の内部導電性を低下させない絶縁性の表面または近表面コーティングを付与することができる。この手法の欠点は、特定のコーティング材料しか使用できないことである。多様な異なるポリマーがナノファイバー(カーボンナノファイバーを含む)集合体に含浸できるものの、この手法では、カーボンナノファイバー集合体への使用に多くのポリマーが除外され得る。
【0037】
そのため、本開示の一実施形態によれば、絶縁化ナノファイバー集合体を製造するための改善された技術が説明される。いくつかの事例では、「ナノファイバー糸」という用語は、ナノファイバー集合体と同じ意味で使用される。「糸」という用語の使用は便宜的なものであり、本明細書で想定されるナノファイバー集合体の可能な構成の範囲を限定することを意図するものではないことが理解されるであろう。一実施形態では、この方法は、ナノファイバー集合体を第1の材料で含浸するステップと、ナノファイバー集合体の外側表面に第1の材料がないように、過剰量の第1の材料を集合体表面から除去するステップとを含む。絶縁化された含浸ナノファイバー集合体を形成するために、絶縁性の第2の材料の外層を、含浸ナノファイバー集合体の上に配置することができる。本開示の実施形態の利点は、絶縁化ナノファイバー集合体からポリマー材料の絶縁性の外層を剥がして電気接続するための露出した導電性のナノファイバー繊維表面を残す能力である。電気接続は、例えば、電極または他の電気接点(例えば導電性クランプまたは留め具)をナノファイバー集合体の露出表面に直接機械的に接続するか、導電体(例えば銅またはアルミニウムワイヤー)をナノファイバー集合体の露出表面にはんだ付けすることによって行うことができる。絶縁性ポリマー材料の外層の一部を剥がして導電性ナノファイバーの集合体の外側表面を露わにできることにより、ナノファイバーを使用できる電気及び配線用途の数が増加する。本開示で説明される実施形態のもう1つの利点は、外側絶縁層のためにより多様な材料を使用できる能力である。電気コネクタとしての用途に加えて、本開示の剥がせる集合体の別の用途は、生物学的環境で使用するための剥がせる保護層を有する滅菌ナノファイバー集合体である。外層は、滅菌ナノファイバー糸(または他のナノファイバー集合体、例えばナノファイバーシート、ナノファイバーストランド)を露出させるために除去することができる。
【0038】
絶縁化ナノファイバー糸の製造技術の説明の前に、ナノファイバーフォレスト、及びナノファイバー糸の製造技術の説明を行う。
【0039】
[ナノファイバーフォレスト]
本明細書において、用語「ナノファイバー」とは、1μm未満の直径を有する繊維を意味する。いくつかの実施形態では、ナノファイバーは500nm未満または100nm未満の直径を有する。本明細書の実施形態は主にカーボンナノチューブから作製されるものとして述べられているが、グラフェン、ミクロンもしくはナノスケールのグラファイト繊維及び/またはプレートのいずれかに関わらず他の炭素同素体にも本開示の実施形態を適用することができ、更には窒化ホウ素などのナノスケール繊維の他の組成物も、以下に記載される技術を使用して緻密化できることが理解されるであろう。
【0040】
本明細書において、用語「ナノファイバー」及び「カーボンナノチューブ」には、中で炭素原子が互いに結合して円筒構造を形成している、単層カーボンナノチューブ及び/または複数層カーボンナノチューブの両方が包まれる。いくつかの実施形態では、本明細書において言及されているカーボンナノチューブは4~10個の層を有する。本明細書において、「ナノファイバーシート」または単純に「シート」とは、引き出し工程(国際公開第2007/015710号に記載されているとおりであり、これはその全体がここに引用することにより本明細書の記載の一部をなすものとする)によって整列し、その結果シートのナノファイバーの長手方向の軸がシートの主表面に対して垂直(すなわち、堆積したままの形態のシート、しばしば「フォレスト」と呼ばれる)ではなくシートの主表面に対して平行であるナノファイバーのシートのことを指す。これは、
図3及び
図4の中でそれぞれ説明され示されている。
【0041】
カーボンナノチューブの寸法は、使用する製造方法に応じて大きく変動し得る。例えば、カーボンナノチューブの直径は、0.4nm~100nmであってもよく、その長さは10μmから55.5cm超の範囲であってもよい。カーボンナノチューブは、132,000,000:1以上もの大きさになるアスペクト比を有する、非常に大きいアスペクト比(長さ対直径の比率)を有することもできる。幅広い寸法の可能性が備わっていることから、カーボンナノチューブの特性は高度に調整可能または「調節可能」である。カーボンナノチューブの数多くの興味深い特性が明らかになっているものの、カーボンナノチューブの特性を実際の用途に利用するためには、カーボンナノチューブの特徴を維持または向上させることができるスケール拡張可能で制御可能な製造方法が必要とされる。
【0042】
これらの特異的な構造のため、カーボンナノチューブは、特定の用途に特に適した特有の機械的、電気的、化学的、熱的、及び光学的特性を有している。具体的には、カーボンナノチューブは、優れた導電性、高い機械的強度、良好な熱安定性を示し、また疎水性でもある。これらの特性に加えて、カーボンナノチューブは有用な光学特性も示し得る。例えば、カーボンナノチューブは、発光ダイオード(LED)、及び狭く選択された波長で光を放出または検出するための光検出器において使用することができる。カーボンナノチューブは光子の輸送及び/またはフォノンの輸送のために有用であることも示され得る。
【0043】
本開示の様々な実施形態によれば、ナノファイバー(カーボンナノチューブが含まれるが、これに限定されない)は、本明細書で「フォレスト」と呼ばれる構造を含む様々な構造で配置されていてもよい。本明細書において、ナノファイバーまたはカーボンナノチューブの「フォレスト」とは、基材の上でお互いに実質的に平行に配置された、ほぼ等しい寸法を有するナノファイバーの配列を指す。
図1は、基材上のナノファイバーの例示的なフォレストを示している。基材は任意の形状であってもよいが、いくつかの実施形態では基材は平らな表面を有しており、その上にフォレストが集積している。
図1から分かるように、フォレスト中のナノファイバーは高さ及び/または直径がほぼ等しくてもよい。
【0044】
ナノファイバーフォレストのいくつかの実施形態は、その堆積されたままの形態の2つの部分を有するナノファイバーを含む。例えば、1つの部分は、成長基材と接続しておりこれの近傍に配置されている「開放端」で終端する「直線部分」である。他方の部分は、ナノファイバー層の露出表面に配置されており直線部分の長手方向の軸から離れるように曲がっている「弓形部分」(「絡み合った端部」と呼ぶ場合もある)である。
【0045】
本明細書に開示のナノファイバーフォレストは、比較的密であってもよい。具体的には、本開示のナノファイバーフォレストは、少なくとも10億ナノファイバー/cm2の密度を有し得る。いくつかの具体的な実施形態では、本明細書に記載のナノファイバーフォレストは、100億/cm2~300億/cm2の密度を有し得る。別の例では、本明細書に記載のナノファイバーフォレストは、900億ナノファイバー/cm2の範囲の密度を有していてもよい。フォレストは、高密度または低密度の領域を含んでいてもよく、特定の領域はナノファイバーの隙間であってもよい。フォレスト内のナノファイバーは、ファイバー間の接続性も示してもよい。例えば、ナノファイバーフォレスト内の隣接するナノファイバーは、ファンデルワールス力によって互いに引き寄せられる場合がある。それに関わらず、フォレスト内のナノファイバーの密度は、本明細書に記載の技術を利用することによって増加させることができる。
【0046】
ナノファイバーフォレストの製造方法は、例えば国際公開第2007/015710号に記載されており、これはその全体がここに引用することにより本明細書の記載の一部をなすものとする。
【0047】
ナノファイバー前駆体フォレストの製造のために様々な方法を使用することができる。例えば、いくつかの実施形態では、ナノファイバーは
図2に概略的に図示されている高温炉の中で成長させることができる。いくつかの実施形態では、反応器の中に配置されている基材の上で触媒が堆積されてもよく、その後反応器に供給される燃料化合物に曝されてもよい。基材は800℃超、更には1000℃超の温度に耐えることができ、これは不活性材料であってもよい。Siウェハーの代わりに他のセラミック基材が使用されてもよいものの(例えばアルミナ、ジルコニア、SiO
2、ガラスセラミック)、基材は、下にあるシリコン(Si)ウェハー上に配置されたステンレス鋼またはアルミニウムを含んでいてもよい。前駆体フォレストのナノファイバーがカーボンナノチューブである例においては、アセチレンなどの炭素を主体とする化合物が燃料化合物として使用されてもよい。反応器に入れられた後、燃料化合物(複数可)は、その後触媒上に堆積し始め、基材から上方へ成長することによって集積してナノファイバーのフォレストを形成することができる。反応器は、燃料化合物(複数可)及びキャリアガスを反応器へ供給することができるガス吸入口と、使用済み燃料化合物及びキャリアガスを反応器から放出することができるガス排出口も含んでいてもよい。キャリアガスの例としては、水素、アルゴン、及びヘリウムが挙げられる。これらのガス、特に水素は、ナノファイバーフォレストの成長を促進するために反応器に導入することもできる。更に、ナノファイバーに取り込まれるドーパントがガス流に添加されてもよい。
【0048】
ナノファイバー成長時の反応条件は、得られるナノファイバー前駆体フォレストの特性を調整するために変更することができる。例えば、望ましい仕様を有するナノファイバーフォレストを製造するために、必要に応じて触媒の粒径、反応温度、ガス流量、及び/または反応時間を調整することができる。いくつかの実施形態では、基材上の触媒の位置は、望ましいパターニングを有するナノファイバーフォレストを形成するために制御される。例えば、いくつかの実施形態では、触媒はあるパターンで基材上に堆積させられ、パターン化された触媒から成長する得られるフォレストは、同様にパターン化される。例示的な触媒としては、二酸化ケイ素(SiO2)または酸化アルミニウム(Al2O3)の緩衝層を有する鉄が挙げられる。これらは、特に、化学蒸着(CVD)、圧力支援化学蒸着(PCVD)、電子ビーム(eBeam)蒸着、スパッタリング、原子層堆積(ALD)、プラズマ支援化学蒸着(PECVD)を使用して基材上に堆積させることができる。
【0049】
いくつかの具体的な実施形態では、複数のナノファイバーフォレストが、同じ基材上で逐次的に成長して複数層ナノファイバー前駆体フォレスト(あるいは「積層体」とも呼ばれる)を形成してもよい。
【0050】
複数層ナノファイバーフォレストを製造するために使用される方法では、1つのナノファイバーフォレストが基材上に形成された後に、第1のナノファイバーフォレストと接触して第2のナノファイバーフォレストが成長する。複数層ナノファイバーフォレストは、基材上に第1のナノファイバーフォレストを形成し、第1のナノファイバーフォレストの上に触媒を堆積させ、次いで追加的な燃料化合物を反応器に導入して第1のナノファイバーフォレスト上に位置する触媒からの第2のナノファイバーフォレストの成長を促進することによるなどの様々な適切な方法によって、形成することができる。適用する成長方法、触媒の種類、及び触媒の位置に応じて、第2のナノファイバー層は、第1のナノファイバー層の上面に成長させることができ、あるいは触媒を例えば水素ガスなどで回復させた後に基材上に直接成長させて結果として第1のナノファイバー層の下で成長させることができる。いずれにせよ、第1と第2のフォレストの間には容易に検出可能な界面が存在するものの、第2のナノファイバーフォレストは、第1のナノファイバーフォレストのナノファイバーとほぼエンド・トゥ・エンドに整列することができる。複数層ナノファイバーフォレストは、任意の数のフォレストを含んでいてもよい。例えば、複数層前駆体フォレストは、2、3、4、5、またはそれ以上のフォレストを含んでいてもよい。
【0051】
[ナノファイバーシート]
フォレスト構造の中での配置に加えて、主題の用途のナノファイバーは、シート構造に配置されていてもよい。本明細書において、用語「ナノファイバーシート」、「ナノチューブシート」、または単純に「シート」とは、複数のナノファイバーが端から端へと平面に整列されているという、複数のナノファイバーの配列を指す。寸法の表示を有する例示的なナノファイバーシートの図が、
図3に示されている。いくつかの実施形態では、シートはシートの厚さよりも100倍超大きい長さ及び/または幅を有する。いくつかの実施形態では、長さ、幅、または両方が、シートの平均厚さよりも10
3、10
6、または10
9倍大きい。ナノファイバーシートは、例えば約5nm~30μmの厚さと、意図される用途に適切な任意の長さ及び幅を有する。いくつかの実施形態では、ナノファイバーシートは、1cm~10mの長さと1cm~1mの幅を有し得る。これらの長さは例示のために示されているに過ぎない。ナノファイバーシートの長さ及び幅は製造装置の構成によって制約され、ナノチューブ、フォレスト、またはナノファイバーシートのいずれの物理的特性及び化学的特性によっても制約されない。例えば、連続プロセスは任意の長さのシートを製造することができる。これらのシートは、製造しながらロール状に巻き取ることができる。
【0052】
図3から分かるように、複数のナノファイバーが端から端へと整列している軸(axis)は、ナノファイバーの整列方向と呼ばれる。いくつかの実施形態では、ナノファイバーの整列方向はナノファイバーシート全体にわたって連続的であってもよい。ナノファイバーは、必ずしも互いに完全に平行である必要はなく、ナノファイバーの整列方向は、ナノファイバーの整列方向の平均または全体的な基準であると理解される。
【0053】
ナノファイバーシートは、シートを製造することが可能な任意のタイプの適切な方法を使用して構築することができる。いくつかの例示的な実施形態では、ナノファイバーシートはナノファイバーフォレストから引き出すことができる。ナノファイバーフォレストから引き出されたナノファイバーシートの例が、
図4に示されている。
【0054】
図4から分かるように、複数のナノファイバーがフォレストから横方向に引き出され、その後、端と端とで整列されて、ナノファイバーシートを形成することができる。ナノファイバーシートがナノファイバーフォレストから引き出される実施形態では、フォレストの寸法を制御することで、特定の寸法を有するナノファイバーシートを形成することができる。例えば、ナノファイバーシートの幅は、シートが引き出されるナノファイバーフォレストの幅とほぼ同じであってもよい。また、シートの長さは、例えば望ましいシートの長さが得られた時点で引き出しプロセスを終了させることによって制御することができる。
【0055】
ナノファイバーシートは、様々な用途に利用できる数多くの特性を有する。例えば、ナノファイバーシートは、調節可能な不透明性、高い機械的強度及び柔軟性、熱伝導性及び導電性を有することができ、また疎水性も示し得る。シートの中にナノファイバーの高度な整列が存在することで、ナノファイバーシートは非常に薄くなることができる。いくつかの例においては、ナノファイバーシートは約10nmの程度の厚さであり(通常の測定公差内で測定される)、それによりこれはほぼ二次元になる。別の例においては、ナノファイバーシートの厚さは200~300nmにも達する厚さであってもよい。そのため、ナノファイバーシートは、構成要素に最小限の追加的な厚さを付与し得る。
【0056】
ナノファイバーフォレストと同様に、ナノファイバーシート中のナノファイバーは、シートのナノファイバー表面に化学基または元素を付加することによる、ナノファイバー単独とは異なる化学活性を付与する処理剤によって、官能化されていてもよい。ナノファイバーシートの官能化は、予め官能化されているナノファイバーに対して行ってもよいし、予め官能化されていないナノファイバーに対して行ってもよい。官能化は、限定するものではないが、CVDや様々なドーピング技術などの本明細書に記載の任意の手法を使用して行うことができる。
【0057】
ナノファイバーフォレストから引き出されたままの状態のナノファイバーシートはまた、高純度を有することができ、場合によっては、ナノファイバーシートの重量パーセントの90%超、95%超、または99%超がナノファイバーに起因する。同様に、ナノファイバーシートは、90重量%超、95重量%超、99重量%超、または99.9重量%超の炭素を含んでいてもよい。
【0058】
[ナノファイバー集合体]
本明細書で説明される例は、ナノファイバー糸に関する。しかしながら、本開示で説明される実施形態は、シート、撚り合わされていないストランド、スレッド、ヤーン、リボン、ワイヤー、ロープ、ケーブル、プライ、織られた三次元物品、及び他のナノファイバー構造を含むナノファイバー集合体に広く適用されることが想定されている。ナノファイバー糸は、固相延伸及び紡績プロセスを使用して、ナノファイバーフォレストから製造することができる。例えば、ナノファイバーフォレストからナノファイバー集合体を製造するために、溶融紡糸、電解紡糸、乾式紡糸、湿式紡糸、または当該技術分野で公知の他の手法などの従来の合成繊維紡糸方法を使用することができる。紡糸技術及びナノファイバー集合体の製造方法は、米国特許出願第15/844,756号に説明されており、その全体はここに引用することにより本明細書の記載の一部をなすものとする。
【0059】
上述したナノファイバーシートと同様に、複数のナノファイバーがフォレストから横方向に引き出され、複数のナノファイバーが端と端とで整列されて、連続的なナノファイバー糸を形成することができる。ナノファイバー糸がナノファイバーフォレストから引き出される実施形態では、特定の寸法を有する連続ナノファイバー糸を形成するためにフォレストの寸法を制御することができる。一例では、ナノファイバー糸が引き出され、糸の長手方向の軸/長さに沿って一軸方向に延伸される。延伸処理により、繊維の直径が小さくなり、繊維の均一性と糸内のナノチューブの整列が改善される。いくつかの実施形態では、ナノファイバー糸は、高温乾燥空気環境で延伸され、ナノファイバー糸に適用される添加剤は添加されない。別の実施形態では、延伸は液体または蒸気環境で行われ、延伸性能を改善するために添加剤が前駆体繊維に添加される。ナノファイバー糸または他のナノファイバー集合体を製造するために、当該技術分野で公知の他の延伸及び/または紡糸技術を使用することができる。
【0060】
本開示の実施形態は、カーボンナノファイバー糸などの導電性ナノファイバー糸に関するものであるが、ナノファイバー糸は、任意の適切な材料を含むことができる。いくつかの実施形態では、連続ナノファイバー糸は、ポリマー、コポリマー、石油ピッチ、リグニン、グラフェン、セルロース、無機材料由来のゾル、またはこれらの材料の組み合わせを含むことができる。ナノファイバー糸は、有機/無機塩、界面活性剤、有機化合物、高分子、コポリマー、ナノ粒子、ナノチューブ/繊維、ナノプレートレット、ナノワイヤー、及び量子ドットなどの添加剤を任意選択的に含んでいてもよい。任意選択的には、ナノファイバー糸に対して、カーボンナノファイバー糸を形成するための追加の処理が行われてもよい。別の実施形態では、連続ナノファイバー糸は、炭化ケイ素、炭素、無機酸化物、炭素複合体、金属/炭素複合体、または無機酸化物/炭素複合材料のうちの1つ以上の前駆体ナノファイバーを含み得る。
【0061】
金属/炭素複合ナノファイバー糸の作製に適した金属の例としては、白金、銀、金、銅、及びチタンが挙げられる。無機酸化物/炭素複合ナノファイバー糸の作製に適した無機酸化物ナノ材料の例としては、シリカ、酸化鉄、酸化アルミニウム、二酸化チタン、酸化マンガン、酸化亜鉛、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化バナジウム、酸化クロム、酸化ニオブ、二酸化ジルコニウム、酸化ルビジウム、酸化ロジウム、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0062】
ナノファイバーフォレストと同様に、ナノファイバー糸のナノファイバーは、化学基または元素を糸のナノファイバーの表面に付加することで官能化されてもよい。化学基は、ナノファイバー単独とは異なる化学活性を付与することができる。ナノファイバー糸の官能化は、予め官能化されているナノファイバーに対して行ってもよいし、あるいは予め官能化されていないナノファイバーに対して行ってもよい。官能化は、限定するものではないが、CVDや様々なドーピング技術などの本明細書に記載の任意の手法を使用して行うことができる。
【0063】
ナノファイバーフォレストから引き出されたナノファイバー糸は高純度を有することができ、ナノファイバー糸の重量パーセントの90%超、95%超、または99%超がナノファイバーに起因する。同様に、ナノファイバー糸は、90重量%超、95重量%超、99重量%超、または99.9重量%超の炭素を含んでいてもよい。糸は、炭素以外の元素を本質的に含んでいなくてもよい。糸は、ある元素が存在しないか、不純物や汚染による量のみしか検出できない場合、その元素を本質的に含まない。
【0064】
ナノファイバー糸は、撚り、仮撚り、編組、織り、または諸撚りを示す場合がある。本開示の目的のためには、仮撚りとは、一方向への撚りの後に反対方向へのほぼ等しい撚りが行われ、結果としてほぼゼロの正味の撚りが生じる撚りを意味する。
【0065】
[絶縁化ナノファイバー集合体]
説明の便宜上、以下の例は主にナノファイバー糸に焦点を当てる。ナノファイバーの実施形態は、糸、糸の束、諸撚糸、フォレスト、無撚ストランド、撚り、仮撚り、緻密化、または非緻密化に関わらず、ナノファイバーの「集合体」または「構造体」と総称される。以下に説明するナノファイバー糸の代わりに、他のナノファイバーの集合体を使用できることが理解されるであろう。
【0066】
図5は、本開示の一実施形態による絶縁導体100の一例を示す断面図である。絶縁導体100は、内側部分112と外側表面116(集合体110を取り囲む円で示される)とを有するナノファイバー集合体110、第1の材料120、及び第2の材料140を含む。
図5に図示されている物体の大きさ及び層の厚さは、説明の便宜上誇張されていることが理解されるであろう。絶縁導体100は、長手方向の軸に沿って延びるナノファイバー集合体110を含む(
図8との関係で説明される)。第1の材料120は、ナノファイバー集合体110の外側表面116を被覆することなく、ナノファイバー集合体110の内側部分112に配置され、そのため電気接続を行うために外側表面116を露出したままにする。第2の材料140は、ナノファイバー集合体110及び第1の材料120の外側表面116上のコーティングとして配置される。
【0067】
いくつかの実施形態では、ナノファイバー集合体110は、ナノファイバー糸または上述したナノファイバー114の他の集合体であってもよい。いくつかの実施形態では、ナノファイバー集合体110は、カーボンナノファイバー糸(いくつかの例ではこれは導電性ナノ粒子またはマイクロ粒子が含浸している)などの導電体である。複数の例では、ナノファイバー集合体110は、1×10-3Ω-m以下、1×10-5Ω-m以下、または1×10-6Ω-m以下の抵抗率ρを有する。多孔質ナノチューブ繊維の集合体として、ナノファイバー集合体110は、通常多孔質構造と多孔性外側表面116を有する。いくつかの実施形態では、ナノファイバー集合体110は、50μm未満、40μm未満、30μm未満、20μm未満、または10μm未満の直径を有し得る。一例では、ナノファイバー集合体110は、その長さに沿って仮撚りされた、10μm~20μm、20μm~30μm、30μm~40μm、または40μm~50μmの直径を有するナノファイバー糸である。1つの具体的な例では、ナノファイバー集合体110は、約28μm(+/-5μmの自然なプロセス変動測定誤差内)の直径を有するカーボンナノファイバー糸である。別のより大きなまたはより小さな直径/厚さも許容される。また、米国特許出願第15/844,756号に記載されているように、糸は撚られていなくてもよく、あるいは本撚りを示してもよい。
【0068】
第1の材料120は、ナノファイバー集合体110のナノファイバー114間の空隙及び/または個々のナノファイバー112内の空隙の中に配置され又は含浸している。いくつかの実施形態では、外側表面116は第1の材料120を実質的に有しておらず、ナノファイバー集合体110と直接電気接触することができる。外側表面116が第1の材料120の連続コーティングを有しておらず、ナノファイバー集合体110と直接電気接触を行うことができ電気はんだと同等またはそれ以下の抵抗を有する程度まで第1の材料120を含まない場合には、外側表面116は第1の材料120を実質的に含まない。したがって、場合によっては、第1の材料120の比較的小さな孤立した領域が外側表面116上に存在する可能性がある。
【0069】
いくつかの実施形態では、第1の材料120はポリマーである。別の実施形態では、第1の材料120は金属である。更に他の実施形態では、第1の材料120は、導電性ポリマーであるか、金属または他の導電性粒子を含むポリマーである。以下でより詳しく説明するように、第1の材料120は、液体状態(例えば溶融ポリマーまたはポリマー-溶媒溶液)でナノファイバー集合体110に含浸し、次いで硬化するか固体またはゲル状態をとることができる(例えばガラス転移温度未満に冷却するか、溶媒を蒸発させることにより)。
【0070】
第2の材料140は、電気絶縁コーティングとして、ナノファイバー集合体110の外側表面116上に配置するか、その上方に配置することができる。例えば、第2の材料140は、液体コーティング(例えば溶融ポリマーまたはポリマー-溶媒溶液)として塗布され、次いで硬化するか固化することで、固体であるが可撓性を有する絶縁性の外層を形成することができる。別の例では、収縮チューブの長さを短くして、ナノファイバー集合体110に適合させることができる。別の例では、別の絶縁材料をナノファイバー集合体110に組み込むことができる。複数の例では、第2の材料140は、少なくとも1×10
12Ω-m、少なくとも1×10
13Ω-m、少なくとも1×10
14Ω-m、または少なくとも1×10
15Ω-mの抵抗率を有するように選択される。複数の例では、第2の材料140は、少なくとも1×10
7Ω、少なくとも1×10
9Ω、または少なくとも1×10
12Ωの電気抵抗を得るのに十分な厚さを有する。
図5は、ナノファイバー集合体110と比較して有意な厚さを有する第2の材料140を示している。この例では、
図5が縮尺通りに描かれておらず、いくつかの寸法は説明の便宜のために誇張されていることが理解されるであろう。複数の例では、第2の材料140は、ナノファイバー集合体110の直径または厚さにほとんど影響しない厚さを有し得る。いくつかの実施形態では、第2の材料140は、20μm、50μm、100μm、200μm、500μm、750μm、及びこれらの値の間にある値を含む、10μm~1mmの厚さを有する。別の実施形態では、第2の材料は、1mmよりも大きいか、10μmよりも小さい厚さを有する。
【0071】
いくつかの実施形態では、第2の材料140は、第1の材料120からの放出または分離を促進する粒子を含む。例えば、第2の材料140は、シリカ、ガラスビーズ、及び/またはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の粒子を含むポリマーである。更に、第2の材料140は、第1の材料120の熱膨張係数とは異なる熱膨張係数を有するように選択することができる。したがって、加熱または冷却を用いることで、含浸ナノファイバー集合体110から第2の材料140を外しやすくすることができる。
【0072】
いくつかの実施形態では、絶縁化されている銅ワイヤーを剥がすために使用される従来の技術と同様に、第2の材料140の一部を剥がせるように絶縁導体100が構成される。いくつかの実施形態では、第1の材料120と第2の材料140は、第1の材料120が第2の材料140と化学的に反応または結合しないように選択される。更に、第1の材料120と第2の材料140は、並の接着力または不十分な接着力(105Pa未満の互いに対する接着値を有するなど)しか示さないように選択することができる。例えば、第1の材料120は、第2の材料140の第2の表面自由エネルギーγ2よりも低い第1の表面自由エネルギーγ1を有する。いくつかの実施形態では、表面自由エネルギーγの値は、不十分な接着力と一致する20mJ/m2以下である。別の実施形態では、表面エネルギーγの値は、閾値40mJ/m2未満、35mJ/m2未満、30mJ/m2未満、25mJ/m2未満、または20mJ/m2未満である。第1の材料120と第2の材料140に使用されるポリマーの例では、2つのポリマーは互いに低い混和性を有するであろう(分子量及びFlory相互作用パラメータχに基づく)。2つの材料間の接着力は、濡れ角θ(カーボンナノファイバーシート上で測定)、摩擦係数、表面粗さ、非混和性、及び機械的な力などの多くの因子に依存するため、第1の材料120及び第2の材料140を選択する際に複数の因子が考慮され得る。通常、濡れ角θが大きくなると接着力が低下する。したがって、いくつかの実施形態では、固体状態の第1の材料120上での液体状態の第2の材料140についての、または固体状態の中間層160上での液体状態の第2の材料140についての濡れ角または接触角θが90°より大きい場合に、並のまたは不十分な接着力が得られる。別の実施形態では、接触角θは、120°超、135°超、または150°超である。一実施形態では、接触角θは137°超である。接触角θについての他の値も許容される。
【0073】
第1の材料120及び第2の材料140は、それに加えてあるいはその代わりに、それらの間の静摩擦係数μに基づいて選択されてもよい。いくつかの実施形態では、静摩擦係数μは、0.5以下、0.1以下、または0.05以下である。静止摩擦係数μの他の値も許容される。別の実施形態では、第1の材料120と第2の材料140との間の接着力は105Pa未満である。
【0074】
図6を参照すると、格子は、第1の材料120と第2の材料140との例示的な組み合わせの間の接着力を示している。第1の材料120と第2の材料140との好ましい組み合わせは、固体状態で互いに接触しておかれた場合に、並のまたは不十分な接着力を示す。「+」でマークされた格子の位置は並の接着力を示し、好ましい組み合わせの例を表し、「++」でマークされた格子の位置は不十分な接着力を示し、より好ましい組み合わせの例を表す。格子内の何も書かれていない位置は、良好またはより優れた接着力を示し、そのため、2つの材料間の良好な接着力が望まれる実施形態においてのみ好ましい。「0」でマークされた格子の位置は、入手可能な接着力データがなく、第1の材料と第2の材料の潜在的に許容される組み合わせにとどまる。「X」でマークされた格子の位置は、第1の材料120が第2の材料140と同じ場合の接着力を表し、同じ材料の層間の接着力は典型的には優れていることから、通常は好ましくない組み合わせである。
【0075】
図6は、括弧内の材料の一般名の以下の略語を含む:ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)、ASA(アクリレート-スチレン-アクリロニトリル)、CA(酢酸セルロース)、PA6(ポリアミド6、別名ナイロン6)、PA6,6(ポリアミド6,6、別名ナイロン66)、PAブレンド(ポリアミドブレンド)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PC(ポリカーボネート)、PC/ABS(ポリカーボネート/アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン混合物)、PC/PBT(ポリカーボネート/ポリブチレンテレフタレート混合物)、PC/PET(ポリカーボネート/ポリエチレンテレフタレート混合物)、PE(ポリエチレン)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PMMA(ポリメチルメタクリレート)、POM(ポリオキシメチレン)、PP(ポリプロピレン)、PPO(ポリフェニレンオキシド)、PS(ポリスチレン)、SAN(スチレンアクリロニトリルコポリマー)、TPE(熱可塑性エラストマー)、TPU(熱可塑性ポリウレタン)、及びLSR(液体シリコーンゴム)。第1の材料120と第2の材料140は、これらの材料に限定されない。
【0076】
接着力が並のまたは不十分な第1の材料120と第2の材料140を選択することに加えて、またはその代わりに、ナノファイバー集合体110のいくつかの実施形態は、特定の粗さまたは摩擦係数または剥離強度を有する外側表面116を付与することによって、あるいは第1の材料120と第2の材料140を互いに非混和性になるように選択することによって、第2の材料140の剥離を促進するように構成することができる。
【0077】
第2の材料140との望まれる接着力を得るためまたは含浸ナノファイバー集合体100の望まれる表面特性を得るための1つの手法は、含浸ナノファイバー集合体100に中間層160を設けてこれが第1の材料120と第2の材料140との間に存在するようにすることである。これは、別の絶縁化ナノファイバー集合体102の断面図である
図7に示されている。
【0078】
示されているように、外側表面116はナノファイバー114を含み、また、第1の材料120の外側表面も含み得る。中間層160は、ポリマー、金属、または他の導電性もしくは非導電性材料、またはこれらの材料の組み合わせであってもよい。例えば、中間層160は、第2の材料140を除去しやすくするために、小さい表面粗さ及び/または第2の材料140への並のもしくは不十分な接着力を有するポリマーコーティングであってもよい。一実施形態では、中間層160は、第2の材料140への不十分なもしくは並の接着力を有し、かつ第1の材料120への良好なもしくは優れた接着力を有する第3の材料である。いくつかの実施形態では、中間層160は、材料特性、塗布技術、またはその両方により、セルフレベリング作用を示す。例えば、中間層160は、ナノファイバー集合体110の外側表面116の谷間及び不均一な領域を埋めることができ、ナノファイバー集合体110よりも均一な(すなわち、表面粗さが10μm未満の)中間層外側表面162を付与することができる。したがって、第2の材料140は、中間層の外側表面162上に配置される。いくつかの例では、中間層は、第2の材料と、または第1の材料及び第2の材料の両方と組成的に異なる。
【0079】
[例示的なシステム及び方法]
ここで
図8及び
図9を参照すると、
図8は、上述した絶縁化ナノファイバー集合体を製造するためのシステム300を概略的に示している。
図9は、本開示の実施形態による、絶縁化ナノファイバー集合体(例えば絶縁導体)の製造方法400を示す方法フローチャートである。
【0080】
図8は、ナノファイバー糸305または他のナノファイバー集合110を絶縁するためのシステム300を示す。ナノファイバー糸305は、ナノファイバー糸305と同一直線上かつ
図8に示されている移動方向に平行である長手方向の軸に沿って延びている。様々な処理段階のナノファイバー糸305が
図8に示されている。米国特許出願第15/844,756号に記載されているものなどの、ナノファイバーをナノファイバー糸305へと紡糸するために、任意選択的にナノファイバー糸を緻密化するために、システム300全体でナノファイバー糸を導くために、及び処理されたナノファイバー糸を巻きとるために、使用される他の要素は、説明を簡潔にするために省略されている。
【0081】
いくつかの実施形態では、システム300の全部または一部は、連続式または半連続式に作動する。例えば、システム300は、従来の絶縁銅ワイヤーのオーダー(例えば100メートル)のパッケージ化された長さを有する絶縁導体100を製造するために使用される。いくつかの実施形態では、方法400は、連続または半連続運転として、バッチ運転として、または連続運転とバッチ運転との組み合わせとして行われる。
【0082】
システム300は、第1の材料のアプリケーター325、真空ステーション340、硬化ステーション350、及び第2の材料のアプリケーター360を含む。本明細書に記載の技術と適合する追加の材料アプリケーター、硬化ステーション、及び他の装置(図示せず)が追加されてもよい。例えば、任意選択的な中間層160を設けるか他の表面処理を適用するために、追加の材料アプリケーターが硬化ステーション350の後に追加される。
【0083】
方法400は、システム300にナノファイバー糸305などのナノファイバー集合体を供給すること(405)から始まる。一例では、ナノファイバーフォレストからナノファイバーを引き出し、ナノファイバーをナノファイバー糸へと紡糸すること305により、ナノファイバー集合体を供給すること(405)ができる。システム300に他のタイプのナノファイバー集合体も供給できることは理解されるであろう。ナノファイバー糸305の第1のセクション310は、ナノファイバー糸305の未処理または「天然」の部分である。第1のセクション310は、処理環境の大気にさらされる外側表面116を含む。いくつかの実施形態では、ナノファイバー集合体110は、室温で1×10-3Ω-m以下または1×10-6Ω-m以下の抵抗率ρを有する。
【0084】
第1の材料120は選択される(407)。第1の材料120の例としては、ナノファイバー集合体305の未処理の第1のセクション310を含浸できるものが挙げられる。「含浸用材料」の例としては、熱可塑性プラスチック(例えばポリエチレン、ポリプロピレン)などの溶融ポリマー、予備硬化した粘弾性状態のエポキシド、ポリマー/溶媒溶液(例えばトルエン中のポリエチレン)、並びにポリマー、コロイド粒子及び/または懸濁液中のナノ粒子のうちの少なくとも1つを含む溶媒溶液(例えば銀ナノ粒子を有するトルエン中のポリエチレン)が挙げられる。いくつかの例では、第1の材料120は、ナノファイバー糸305の内側部分112内に配置されている個々のナノファイバー114間にある(個々のナノファイバー114によって画定される)隙間に含浸するだけでなく、個々のナノファイバー114を互いに引き寄せて近づけることもできる。この「緻密化」は、いくつかある特性の中でも特に、引張強さ及び導電率の増加を含む、ナノファイバー糸305の様々な特性を改善することができる。一実施形態では、第1の材料120は、
図6の表に示されている好ましいポリマーの組み合わせに基づいて選択され、「+」または「++」は、並のまたは不十分な接着力を示す。
【0085】
ナノファイバー糸305、より具体的にはナノファイバー糸305の部分310は、第1の材料120がナノファイバー糸305に塗布される410第1の材料のアプリケーター325の近くを通過する。システム300の一実施形態では、第1の材料のアプリケーター325は、リザーバ327と流路329を含む。ナノファイバー糸305が流路329の一端により画定された分注開口部331を通過するように引っ張られる際に、第1の材料120は、流路329を通ってナノファイバー糸305の上に流れる。一実施形態では、第1の材料120が第1の材料のアプリケーター325から分注される際に、液体状態の第1の材料120を通してナノファイバー糸305が引っ張られる。蒸着、スプレーコーティング、及びディップコーティングなどの、第1の材料120の他の塗布方法も許容される。
【0086】
いくつかの例では、第1の材料アプリケーター325は、第1の材料120がナノファイバー糸305に塗布される速度及び/または塗布される第1の材料120の量を制御するコントローラー(図示せず)を含む。コントローラーの具体例としては、特に、マスフローコントローラー、ペリスタルティックポンプ、タイミングバルブが挙げられる。塗布される速度及び/または量は、ナノファイバー糸305が流路329の分注開口部331を通過する速度、及びナノファイバー糸305の露出表面上に形成される第1の材料120の望まれる厚さに合わせて選択することができる。別の例では、流路329は、第1の材料120の量、周期性、及び/または分注速度を制御するために開閉するバルブを含む。
【0087】
分注されると、第1の材料120は、ナノファイバー糸305の内側部分112に含浸する(415)。第1の材料120を堆積させた後、ナノファイバー糸305の第2セクション315は、ナノファイバー糸305の内側部分112の中及びナノファイバー糸305を形成するナノファイバー114(
図5及び7に示す)間に含浸している第1の材料120を有する。
【0088】
過剰な第1の材料120は、ナノファイバー糸305の外側表面116から除去される(420)。一実施形態では、除去420は、第1の材料120が液体であるか流動状態にある間に、真空ステーション340を介してナノファイバー糸305の近くで真空吸引を行うことにより行われる。例えば、真空ステーション340は、真空源342と、第1の材料120の硬化または固化の前に第1の材料120の液体表面コーティングに近接する位置で真空にするために使用される導管344とを含む。過剰な第1の材料120を除去すると、結果として外側表面116が第1の材料120を実質的に含まなくなり、それによって上述のようにはんだ接続の抵抗と同等またはそれ以下の抵抗での絶縁導体100への直接的な電気接触が可能になる。
【0089】
過剰な第1の材料120の表面コーティングを除去するために、他のメカニズムを使用できることが理解されるであろう。例えば、表面コーティングをそぎ落とすために、衝突メカニズムを使用することができる(例えばスキージ)。別の例では、第1の材料120の液体表面コーティングを除去するために、流体の流れまたは集束させたバースト(例えば圧縮された空気、溶媒)を使用することができる。別の例では、外側表面116上の第1の材料120は、加熱により蒸発または除去される。更に別の例では、第1の材料120は、レーザーアブレーションによって外側表面116から除去される。本開示を踏まえて他のタイプの除去方法が理解されるであろう。
【0090】
真空にすることによってナノファイバー糸305の外側表面116上の第1の材料120の一部が除去される420一方で、第1の材料120の少なくとも一部が、ナノファイバー糸305の内側部分112のナノファイバー114間の隙間内に配置されたままにもされる。除去を達成するための真空圧力は、一部には、真空源342によって生じる真空の負圧の大きさ及び/または単位時間あたりの体積、ナノファイバー糸305に近接している導管344によって画定される真空開口部346の大きさ、並びにナノファイバー糸305と真空開口部356とを隔てる距離348によって決定される。更に、真空圧力は、第1の材料120の粘度に応じて変えることができる。第1の材料120が高い粘度を有する場合、より大きい真空圧力にすることができる。より大きい真空圧力にされる状況の例としては、ガラス転移温度に近い溶融ポリマー、溶媒含有率がポリマーを膨潤させるのに十分であるが溶媒和させないポリマー/溶媒溶液、及びエポキシド反応が表面コーティングの形成に応じて進行したエポキシが挙げられる。
【0091】
任意選択的には、第2の材料140を堆積する前に、第1の材料120を硬化する(または溶媒の蒸発を加速する)ために硬化ステーション350によって熱がかけられてもよい(425)。硬化ステーション350によって加えられる温度425及び加えられる熱425の持続時間は、少なくとも1つには第1の材料120について選択される材料によって決定される。いくつかの実施形態では、加えられた425熱が、第1の材料120を内側部分112(
図5及び
図7に図示)に流れ込ませ、それにより電気接触ができるように外側表面116の少なくとも一部が露出する。いくつかの実施形態では、熱は、放射熱(例えば硬化ステーション350内の加熱要素)、印加電磁場(硬化ステーション350から放出)による誘導加熱、またはナノファイバー糸に直接電流を流すことによるジュール加熱により加えることができる。
【0092】
第2の材料140は選択することができる(427)。いくつかの実施形態では、第2の材料140は、第1の材料120と組成的に異なる(例えば、第1の材料において使用される化学基及び元素と、異なる化学基、異なる元素、または異なる構造配置から処方される)。第2の材料140の例としては、熱可塑性プラスチック(例えばポリエチレン、ポリプロピレン)などの溶融ポリマー、予備硬化した粘弾性状態のエポキシド、ポリマー/溶媒溶液(例えばトルエン中のポリエチレン)、懸濁液中にコロイド粒子またはナノ粒子を含むポリマー/溶媒溶液(例えば銀ナノ粒子を有するトルエン中のポリエチレン)が挙げられる。いくつかの例では、第2の材料は、ナノファイバー糸305上に電気絶縁性の外側コーティングを付与するように選択される。例えば、第2の材料140は、少なくとも1×10
16Ω-mの抵抗率を有するように選択される。一実施形態では、第2の材料は、
図6の表に示されている好ましいポリマーの組み合わせに基づいて選択され、「+」または「++」は、それぞれ並のまたは不十分な接着力を示す。
【0093】
第2の材料140の外側コーティングは、第1の材料120が含浸した415ナノファイバー糸305上に塗布430または堆積される。第2の材料140の塗布430は、第2の材料140が塗布される第2の材料のアプリケーター360に近接して、第1の材料120が含浸したナノファイバー糸305を通過させることによって行われる。システム300の一実施形態では、第2の材料のアプリケーター360は、リザーバ362と流路364を含む。ナノファイバー糸305が流路364の一端により画定された第2の分注開口部366を通過するように引っ張られる際に、第2の材料140は、含浸ナノファイバー糸305の上に流路364を通って流れる。一実施形態では、ナノファイバー糸305は、第2の材料140が第2の材料のアプリケーター360から分注される際に、液体状態の第2の材料140を通して引っ張られる。蒸着、スプレーコーティング、及びディップコーティングなどの、第2の材料140の他の塗布方法も許容される。
【0094】
第2の材料140の塗布430の後、
図8は、第1の材料120が含浸し、第2の材料140で被覆された、ナノファイバー糸305の第3のセクション320を示している。第2の材料140は、外側表面116上に絶縁コーティングを付与するためにナノファイバー糸305に塗布される。第1の材料120の塗布と同様に、第2の材料140は、液体状態の第2の材料140を通してナノファイバー糸305を引っ張ることにより塗布することができる。ナノファイバー糸305の被覆は、スプレーコーティング、静電スプレーコーティング、蒸着、ディップコーティング、収縮チューブの利用、または当該技術分野で公知の塗布方法によって行うこともできる。
【0095】
第2の材料140は、硬化される(435)か、あるいは(例えば溶媒の除去やガラス転移温度未満への冷却により)固化されてもよい。
【0096】
任意選択的には、中間層160を選択し(440)、これをナノファイバー糸305に(325及び360と同様の分注器により、図示せず)塗布すること(445)ができる。第1の材料120が硬化した後、中間層の材料160が選択され(440)、いくつかの事例では中間層材料は第2の材料140とは異なる。いくつかの実施形態では、中間層材料160は、第1の材料120と同じである。いずれにしても、中間層材料は、第2の材料140に強く接着または化学的に結合できない。いくつかの実施形態では、中間層160は、第1の材料120からの第2の材料140の分離を促進する固体、ゲル、液体、または粉末である。例えば、中間層160は、第2の材料140を除去しやすくする揮発性潤滑剤であり、第2の材料140の除去後に蒸発して露出したナノファイバー糸305を残す。その後、中間層160は、任意選択的に硬化される(450)か、固化されてもよい。
【0097】
本開示による実施形態は、ナノファイバー糸または他のナノファイバー集合体の利点だけでなく、従来の方法を使用して絶縁性の外層(第2の材料140)を剥がす能力も備えた絶縁導体を提供する。
【0098】
本開示の実施形態の前述の説明は、例示の目的で示されており、網羅的であること、または請求項を開示されている形態に厳密に限定することは意図されていない。関連分野の当業者であれば、上の開示を踏まえて多くの修正及び変更が可能であることを理解できるであろう。
【0099】
本明細書で使用されている言葉は、基本的には読みやすさ及び教示の目的のために選択されており、本発明の主題を詳細に説明するためまたは境界を定めるためには選択されなかった場合がある。そのため、本開示の範囲はこの詳細な説明によっては限定されず、むしろ本出願に基づいて請求される特許請求の範囲によって限定される。したがって、実施形態の開示は、以降の特許請求の範囲で説明される本発明の範囲についての例示であって限定でないことが意図されている。