(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-06
(45)【発行日】2022-10-17
(54)【発明の名称】水素回収方法および水素回収装置
(51)【国際特許分類】
C02F 11/10 20060101AFI20221007BHJP
C01B 3/38 20060101ALI20221007BHJP
C02F 11/00 20060101ALI20221007BHJP
【FI】
C02F11/10 Z ZAB
C01B3/38
C02F11/00 C
(21)【出願番号】P 2021192355
(22)【出願日】2021-11-26
(62)【分割の表示】P 2018146213の分割
【原出願日】2018-08-02
【審査請求日】2021-11-26
(31)【優先権主張番号】P 2017156076
(32)【優先日】2017-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】奥村 諭
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-127797(JP,A)
【文献】国際公開第2017/042022(WO,A1)
【文献】特開2013-237588(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B3/00-6/34
C02F11/10-11/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン含有バイオマスから水素を回収する水素回収方法であって、
前記リン含有バイオマスに無機カルシウム化合物を混合する混合工程と、
前記混合工程で得られた混合物を水蒸気の存在下で前記無機カルシウム化合物を流動媒体として熱分解する熱分解工程と、
前記熱分解工程で得られた熱分解生成物を燃焼する燃焼工程と、
前記燃焼工程で得られた燃焼生成物からリン酸三カルシウムを分離する分離工程と、
前記熱分解工程で得られた燃料ガスから、酸化カルシウムを用いた水蒸気改質によって、前記燃料ガスよりも水素濃度を高めた燃料ガスを製造する改質工程と、
を含み、
前記リン含有バイオマスの乾燥重量に対する前記無機カルシウム化合物の添加量W(モル/kg-乾燥重量(DS))が、W(モル/kg-DS)≧(3/2)×P(モル/kg-DS)+S(モル/kg-DS)を満足する量である、水素回収方法。
【請求項2】
前記混合工程では、リン含有バイオマス乾燥重量1kg当たり、0.06kg~0.8kgの無機カルシウム化合物を混合する、請求項1に記載の水素回収方法。
【請求項3】
前記熱分解工程での混合物の加熱温度が400℃~900℃であり、滞留時間が0.1時間~2時間である、請求項1または2に記載の水素回収方法。
【請求項4】
前記分離工程で分離したリン酸三カルシウムに酸を添加してリン酸を得るリン酸製造工程をさらに含む、請求項1~3の何れか一項に記載の水素回収方法。
【請求項5】
前記燃焼工程で燃焼生成物と共に得られた燃焼ガスから、前記分離工程で二酸化炭素を分離する、請求項1~4の何れか一項に記載の水素回収方法。
【請求項6】
前記燃焼工程で燃焼生成物と共に得られた燃焼ガスから、前記分離工程で二酸化炭素を分離し、当該二酸化炭素を酸として前記リン酸製造工程に用いる、請求項4に記載の水素回収方法。
【請求項7】
前記混合物を脱水する脱水工程をさらに含み、当該脱水工程で分離した水を前記リン酸製造工程に用いる、請求項4に記載の水素回収方法。
【請求項8】
リン含有バイオマスから水素を回収する水素回収装置であって、
前記リン含有バイオマスに無機カルシウム化合物を混合する混合装置と、
前記混合装置で得られた混合物を水蒸気の存在下で前記無機カルシウム化合物を流動媒体として熱分解する熱分解装置と、
前記熱分解装置で得られた熱分解生成物を燃焼する燃焼装置と、
前記燃焼装置で得られた燃焼生成物からリン酸三カルシウムを分離する分離装置と、
前記熱分解装置で得られた燃料ガスから、酸化カルシウムを用いた水蒸気改質によって、前記燃料ガスよりも水素濃度を高めた燃料ガスを製造する改質装置と、
を含み、
前記リン含有バイオマスの乾燥重量に対する前記無機カルシウム化合物の添加量W(モル/kg-乾燥重量(DS))が、W(モル/kg-DS)≧(3/2)×P(モル/kg-DS)+S(モル/kg-DS)を満足する量である、水素回収装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、下水処理場で発生する下水汚泥、し尿処理場で発生するし尿汚泥、肉骨粉、畜糞等のリン含有バイオマスからリンを回収する、リン回収方法およびリン回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば下水処理場で発生する下水汚泥、し尿処理場で発生するし尿汚泥には、高濃度のリンが含まれている。リンを回収する方法として、従来、嫌気性消化脱離液または下水の高度処理において、水に溶解しているリン酸をHAP(塩基性リン酸カルシウム)またはMAP(リン酸マグネシウムアンモニウム)として回収する方法や、汚泥焼却後の焼却灰からアルカリ薬剤によってリンを抽出および析出して回収する灰アルカリ抽出法等が知られている。
【0003】
また、リンの回収方法として、非特許文献1には、二酸化炭素吹込み法による下水汚泥の焼却灰からのリン酸回収方法が記載されている。非特許文献2にも、二酸化炭素を用いたリンの抽出方法が記載されている。そして、非特許文献2には、二酸化炭素にリン酸三カルシウム等の難溶性リン酸塩を抽出する効果があること、抽出されたリンの形態は炭酸水素塩「CaHPO4」であること、炭酸水素塩として抽出したリンの含有重金属類の濃度がその他の酸抽出と比較して低くなること、も記載されている。ところが、非特許文献1には、回収したリン資源の売却収入に比して、リン資源化施設の建設費、薬剤費または維持管理費等が嵩むことによる収益性の低さや、リン資源の流通等が課題となっていることも記載されている。つまり、二酸化炭素を用いたリン資源の回収には、コスト面での課題がある。
【0004】
一方、低融点リン化合物の溶融に起因する焼却灰の焼却炉への付着および堆積の対策も種々検討されている。下水汚泥の焼却処理においては、温室効果ガスであるN2Oの発生を防止する観点から、焼却処理温度を850℃~900℃程度に維持することが望まれている。例えば、非特許文献3には、ポリ硫酸第二鉄の汚泥への添加量を増やすことにより、焼却灰の焼却炉への付着を防止することができることが記載されている。ところが、非特許文献3には、下水汚泥に比較的低融点のリン化合物(40℃~500℃)が含有されているので、下水汚泥を例えば850℃以上の高温で焼却すると、低融点のリン化合物の溶融に起因する焼却灰の焼却炉への付着や堆積等の問題が発生することも記載されている。
【0005】
これに対して、特許文献1には、汚泥中のリンに対して、Fe2O3,K2OまたはMgO等の塩基性成分を含む化合物、或いは炭酸カルシウム、消石灰または生石灰等のCaイオンを含有する化合物を、リンと1:1程度の当量比となるように焼却前に添加し、焼却灰の塩基度を高くすることによって焼却灰を高融点化する方法が記載されている。また、特許文献1では、焼却灰にCaイオンを含有する化合物を添加することにより、リンをリン酸カルシウムの結晶として回収している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】下水道におけるリン資源化の手引き(国土交通省都市・地域整備局下水道部;2010年3月)
【文献】下水汚泥焼却灰からのリン酸回収技術の開発(日本大学理工学部遠山岳史,「第14回リン資源リサイクルシンポジウム」資料;2016年7月21日)
【文献】高度処理の推進と地球温暖化対策の両立に向けた課題と対応(東京都下水道局 技術調査年報;2014,vol.38)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の方法においては、塩基性成分或いはCaイオンを含有する化合物を、リンと1:1程度の当量比となるように添加するので、得られるリン化合物の形態は、融点975℃のメタリン酸カルシウム「Ca(PO3)2」となる。このため、焼却炉において焼却温度のさらなる高温化、若しくは局所的な高温箇所の発生が生じると、焼却炉内がメタリン酸カルシウムの融点を超えた状態となる懸念がある。従って、特許文献1に記載の方法では、熱分解処理および燃焼処理における、リン化合物の溶融による焼却炉への付着およびそれに伴う焼却炉の閉塞を防止するには不十分である。また、特許文献1に記載の方法では、前記化合物とリンとの当量比を1:1程度にするには、汚泥の成分分析を常時行う必要がある。また、リンをリン酸カルシウムとして回収するには、汚泥の焼却前および焼却後の二段階でCaイオンを含有する化合物を添加する必要がある。
【0009】
本発明の一態様は、下水処理場で発生する下水汚泥、し尿処理場で発生するし尿汚泥、肉骨粉、畜糞等のリン含有バイオマスから、高融点化合物であるリン酸三カルシウムとしてリンを回収する、リン回収方法およびリン回収装置を提供することを、主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者は、リン含有バイオマスに対して無機カルシウム化合物を混合し、熱分解反応および燃焼反応で得られた生成物を分離することにより、高融点化合物であるリン酸三カルシウムとしてリンを回収することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、以下の〔1〕~〔10〕に記載の発明を含む。
【0012】
〔1〕リン含有バイオマスからリンを回収するリン回収方法であって、前記リン含有バイオマスに無機カルシウム化合物を混合する混合工程と、前記混合工程で得られた混合物を水蒸気の存在下で熱分解する熱分解工程と、前記熱分解工程で得られた熱分解生成物を燃焼する燃焼工程と、前記燃焼工程で得られた燃焼生成物からリン酸三カルシウムを分離する分離工程と、を含むリン回収方法。
【0013】
〔2〕前記混合工程では、リン含有バイオマス乾燥重量1kg当たり、0.06kg~0.8kgの無機カルシウム化合物を混合する、〔1〕に記載のリン回収方法。
【0014】
〔3〕前記熱分解工程での混合物の加熱温度が400℃~900℃であり、滞留時間が0.1時間~2時間である、〔1〕または〔2〕に記載のリン回収方法。
【0015】
〔4〕前記分離工程で分離したリン酸三カルシウムに酸を添加してリン酸を得るリン酸製造工程をさらに含む、〔1〕~〔3〕の何れかに記載のリン回収方法。
【0016】
〔5〕前記燃焼工程で燃焼生成物と共に得られた燃焼ガスから、前記分離工程で二酸化炭素を分離する、〔1〕~〔4〕の何れかに記載のリン回収方法。
【0017】
〔6〕前記燃焼工程で燃焼生成物と共に得られた燃焼ガスから、前記分離工程で二酸化炭素を分離し、当該二酸化炭素を酸として前記リン酸製造工程に用いる、〔4〕に記載のリン回収方法。
【0018】
〔7〕前記混合物を脱水する脱水工程をさらに含み、当該脱水工程で分離した水を前記リン酸製造工程に用いる、〔4〕に記載のリン回収方法。
【0019】
〔8〕前記熱分解工程で得られた燃料ガスから、酸化カルシウムを用いた水蒸気改質によって、前記燃料ガスよりも水素濃度を高めた燃料ガスを製造する改質工程をさらに含む、〔1〕~〔7〕の何れかに記載のリン回収方法。
【0020】
〔9〕リン含有バイオマスからリンを回収するリン回収装置であって、前記リン含有バイオマスに無機カルシウム化合物を混合する混合装置と、前記混合装置で得られた混合物を熱分解する熱分解装置と、前記熱分解装置で得られた熱分解生成物を燃焼する燃焼装置と、前記燃焼装置で得られた燃焼生成物からリン酸三カルシウムを分離する分離装置と、を含むリン回収装置。
【0021】
〔10〕前記熱分解装置で得られた燃料ガスから、酸化カルシウムを用いた水蒸気改質によって、前記燃料ガスよりも水素濃度を高めた燃料ガスを製造する改質装置をさらに含む、〔9〕に記載のリン回収装置。
【発明の効果】
【0022】
本発明の一態様によれば、下水処理場で発生する下水汚泥、し尿処理場で発生するし尿汚泥、肉骨粉、畜糞等のリン含有バイオマスから、高融点化合物であるリン酸三カルシウムとしてリンを回収することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施の形態に係るリン回収装置の概略の構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の他の実施の形態に係るリン回収装置の概略の構成を示すブロック図である。
【
図3】本発明のさらに他の実施の形態に係るリン回収装置の概略の構成を示すブロック図である。
【
図4】本発明のさらに他の実施の形態に係るリン回収装置の概略の構成を示すブロック図である。
【
図5】本発明のさらに他の実施の形態に係るリン回収装置の概略の構成を示すブロック図である。
【
図6】本発明のさらに他の実施の形態に係るリン回収装置の概略の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。但し、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。尚、本明細書においては特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。また、「質量」と「重量」は同義語であると見なす。
【0025】
[実施の形態1]
〔リン回収装置〕
本発明の一実施の形態におけるリン回収装置は、リン含有バイオマスに無機カルシウム化合物を混合する混合装置と、前記混合装置で得られた混合物を熱分解する熱分解装置と、前記熱分解装置で得られた熱分解生成物を燃焼する燃焼装置と、前記燃焼装置で得られた燃焼生成物からリン酸三カルシウムを分離する分離装置と、を少なくとも含む構成である。
【0026】
前記リン回収装置に供給されるリン含有バイオマスとしては、例えば、下水処理場で発生する下水汚泥、し尿処理場で発生するし尿汚泥、肉骨粉、畜糞等のリン含有バイオマスが挙げられる。リン含有バイオマスに含まれるリンの形態としては、例えば、生体由来の有機性リン、リン酸態リン等が挙げられる。但し、リン含有バイオマスは、前記例示のリン含有バイオマスに限定されない。尚、以下の説明においては、リン含有バイオマスとして、下水汚泥やし尿汚泥である汚泥スラリーを例に挙げることとする。
【0027】
本発明の一実施の形態におけるリン回収装置は、
図1に示すように、混合装置を兼ねている脱水装置1、乾燥装置2、熱分解装置3、改質装置4、燃焼装置5、酸化カルシウム(CaO)分離装置6、リン分離装置7、およびリン酸製造装置8を少なくとも備えている。各装置は、リンの回収を連続的に行うことができるように、搬送機能を具備した装置(図示しない)で互いに連結されている。つまり、前記リン回収装置は、リンの回収を連続的に行うことができるように、複数の流動層装置から構成されている。但し、本発明のリン回収装置は、流動床式の回収装置に限定されない。
【0028】
以下、本発明の一実施の形態におけるリン回収装置を構成する各装置に関して、
図1を参照しながら説明する。
【0029】
<脱水装置1>
脱水装置1は、汚泥スラリー供給路13を通じて供給される汚泥スラリー(リン含有バイオマス)から水分を含む分離液を除去して脱水汚泥スラリーとした後、得られた脱水汚泥スラリーを、脱水汚泥スラリー供給路15を通じて乾燥装置2に供給する。また、脱水装置1は、水分を含む分離液を、分離液排出路16を通じて外部に排出する。
【0030】
脱水装置1は、汚泥スラリーから水分を含む分離液を除去することができる装置であればよく、例えば、ベルトプレス等の加圧式脱水機、または遠心脱水機等の機械的脱水機が挙げられる。
【0031】
さらに、脱水装置1は、汚泥スラリーに、無機カルシウム化合物供給路14から供給される無機カルシウム化合物を混合する混合装置としての機能を兼ね備えている。従って、乾燥装置2に供給される脱水汚泥スラリーは、汚泥スラリーと無機カルシウム化合物との混合物である。
【0032】
汚泥スラリーに無機カルシウム化合物を混合する時期は、汚泥スラリーから分離液を除去する前であってもよく、除去する途中の段階であってもよく、除去した後であってもよく、さらに、これら時期を複数組み合わせてもよい。但し、以下に示すように、無機カルシウム化合物は脱水助剤として作用することから、分離液を除去する前に、汚泥スラリーに無機カルシウム化合物を混合することがより好ましい。
【0033】
(無機カルシウム化合物)
無機カルシウム化合物は、リン酸三カルシウム「Ca3(PO4)2」のカルシウム元になると共に、汚泥スラリーの脱水を促進する脱水助剤としても作用する。従って、汚泥スラリーに無機カルシウム化合物を添加することにより、通常の脱水方法よりも脱水性を向上させることができる。
【0034】
無機カルシウム化合物は、炭酸カルシウム「CaCO3」、消石灰「Ca(OH)2」、生石灰「CaO」、およびドロマイト「Ca・Mg(CO3)2」から選択される少なくとも一つであることが好ましい。無機カルシウム化合物の粒径は、200μm~500μmであることが好ましい。
【0035】
無機カルシウム化合物は、脱水助剤として作用する他に、流動媒体、二酸化炭素吸収媒体、ガス化プロセスの熱源(顕熱媒体および二酸化炭素吸収反応熱)およびリン溶融防止剤等の複数の役割を果たす。さらに、無機カルシウム化合物は、高濃度の水素の製造にも寄与するという二次的な機能も併せ持つ。
【0036】
前記無機カルシウム化合物は、リン回収装置に供給される全量が脱水装置1に供給されてもよく、その一部が、後述するように、熱分解装置3、改質装置4、燃焼装置5の何れに供給されてもよい。
【0037】
汚泥スラリーに混合する無機カルシウム化合物の添加量W(モル/kg-乾燥重量(DS))は、量論的には下記式(1)の通りである。つまり、当該添加量Wは、汚泥スラリー中のリンおよび硫黄分を、リン酸三カルシウム「Ca3(PO4)2」および石膏「CaSO4」として回収することができる量以上であればよい。
【0038】
W(モル/kg-DS) ≧ (3/2)×P(モル/kg-DS) + S(モル/kg-DS) …(1)
従って、汚泥スラリーに混合する無機カルシウム化合物の添加量は、式(1)を満足する量であればよく、特に限定されない。具体的には、汚泥スラリー(リン含有バイオマス)乾燥重量1kg当たり、0.06kg~0.8kg、より好ましくは0.1kg~0.5kgの無機カルシウム化合物を混合すればよい。特に、汚泥スラリーに対して無機カルシウム化合物を過剰に混合することによって、リン化合物の溶融による焼却炉への付着およびそれに伴う焼却炉の閉塞をより効果的に防止することができる。
【0039】
<乾燥装置2>
乾燥装置2は、脱水装置1から供給された、汚泥スラリーと無機カルシウム化合物との混合物に含まれる水分の一部または全てを蒸発させる。乾燥装置2は、蒸発させた水分を、乾燥水蒸気として、その一部を熱交換器11および熱分解用水蒸気供給路18を通じて熱分解装置3に供給し、残りは乾燥水蒸気排出路17を通じて外部に排出する。熱分解装置3に供給された乾燥水蒸気は、混合物の熱分解に用いられる。そして、乾燥装置2は、水分が除去されて乾燥された混合物を、乾燥汚泥供給路19を通じて熱分解装置3に供給する。また、乾燥装置2は、必要に応じて、水分が除去されて乾燥された混合物の一部を、熱源用乾燥汚泥供給路20を通じて燃焼装置5に供給する。燃焼装置5に供給された混合物は、熱源として燃焼される。
【0040】
乾燥装置2は、前記混合物を乾燥させることができる装置であればよく、その構成は特に限定されない。また、脱水装置1で得られる混合物中の水分量が少ない場合には、乾燥装置2は必ずしも設ける必要は無い。その場合には、前記混合物を、脱水装置1から熱分解装置3に供給すればよい。
【0041】
<熱分解装置3>
熱分解装置3は、脱水装置1または乾燥装置2から供給された混合物を、水蒸気の存在下、400℃~900℃、より好ましくは600℃~800℃で加熱しながら、0.1時間~2時間、より好ましくは0.5時間~1時間滞留させることにより、熱分解する。熱分解装置3は、熱分解して得た熱分解生成物を、熱分解生成物供給路21を通じて燃焼装置5に供給する。そして、熱分解装置3は、熱分解して得た熱分解ガスである燃料ガスを、燃料ガス供給路26を通じて改質装置4に供給する。また、熱分解装置3には、改質装置4から、供給路28を通じて酸化カルシウム「CaO」が供給(循環)されると共に、必要に応じて、新たな無機カルシウム化合物の一部が供給される。
【0042】
熱分解装置3は、前記混合物を熱分解することができる装置であればよく、その構成は特に限定されない。
【0043】
前記熱分解装置3においては、下記反応により熱分解が行われ、燃料ガスが生成する。即ち、混合物は、下記式(2)に示す反応によって、水蒸気の存在下で熱分解され、熱分解ガスと、固体残渣とに転換される。熱分解ガスは、水素「H2」、一酸化炭素「CO」、二酸化炭素「CO2」、硫化水素「H2S」およびアンモニア「NH3」、並びに、メタン「CH4」、炭化水素系ガスおよびタール成分を含有する炭化水素系ガス「CmHn」を主成分として含む。固体残渣は、炭(charcoal)および灰分を含む。
【0044】
混合物(C,H,O,N,S) + H2O → 熱分解ガス(H2,CO,CO2,CmHn,H2S,NH3) + C(charcoal) + 灰分 …(2)
ここで、灰分は、P,Si,Al,Fe,Mg,Ca,NaおよびK等を含有する化合物である。
【0045】
また、炭(charcoal)の一部は、水蒸気と反応し、下記式(3)に示すように、二酸化炭素および水素に転換される。
【0046】
C(charcoal) + 2H2O → CO2+ 2H2 …(3)
さらに、熱分解ガスに含まれる一酸化炭素は、水蒸気と反応し、下記式(4)に示すように、二酸化炭素に転換される。
【0047】
CO + H2O → CO2+ H2 …(4)
前記熱分解ガスに含まれる硫化水素の大部分は、混合物に添加されている無機カルシウム化合物である、主に加熱によって生じた酸化カルシウムと反応し、下記式(5)に示すように、硫化カルシウムとなり、固定化される。このように熱分解ガスに含まれる硫化水素の大部分が硫化カルシウムとなって固定化されることにより、結果的に熱分解ガス中の水素濃度が高まる。
【0048】
CaO + H2S → CaS + H2O …(5)
そして、前記式(2)~(4)に示す反応によって発生した二酸化炭素は、酸化カルシウムと反応し、下記式(6)に示すように、炭酸カルシウム「CaCO3」となり、固定化される。式(6)に示す反応によって熱分解ガスから、二酸化炭素のみが酸化カルシウムに吸収されて引き抜かれるため、式(2)~(4)に示す反応において右向きの平衡移動が起こり、結果的に高濃度の水素を含む燃料ガスが生成される。
【0049】
CaO + CO2→ CaCO3 …(6)
一方、固体残渣の灰分に含まれるリンは、熱分解装置3内で、無機カルシウム化合物と反応してリン酸三カルシウム「Ca3(PO4)2」となる。本実施の形態においては、汚泥スラリーに混合する無機カルシウム化合物の添加量が極めて多く、熱分解装置3内(反応場)により多くのカルシウムが存在する。それゆえ、リンを、融点が1390℃の高融点リン化合物であるリン酸三カルシウムまで転換することができる。
【0050】
従って、熱分解装置3における熱分解によって、前記混合物から、固体成分(固体残渣)として、リン酸三カルシウム、硫化カルシウム、炭(charcoal)、炭酸カルシウム、未反応の無機カルシウム化合物、および灰分等を含む熱分解生成物が得られる。
【0051】
前記リン酸三カルシウムは、リン鉱石資源の主成分であるため、鉱石資源として再利用することができる。また、リン酸三カルシウムの融点は1390℃と高いため、熱分解装置3および燃焼装置5における、リン化合物の溶融による焼却炉への付着およびそれに伴う焼却炉の閉塞を防止することができる。それゆえ、リン回収装置をより安定して連続運転することが可能となる。
【0052】
<改質装置4>
改質装置4は、熱分解装置3から供給された燃料ガスから、酸化カルシウムを用いた水蒸気改質を行うことによって、当該燃料ガスよりも水素濃度を高めた第二の燃料ガスを製造し、当該第二の燃料ガスを、燃料ガス排出路27を通じて排出する。排出された第二の燃料ガスは、熱交換器9によって冷却され、高濃度の水素を含むガスとして回収される。これにより、リン回収装置を、リンの回収と共に水素を同時に製造するエネルギー化装置とすることができる。熱交換器9によって回収された熱は、ライン35を介して乾燥装置2および熱交換器11,12に供給される。
【0053】
また、改質装置4には、酸化カルシウム分離装置6から、循環酸化カルシウム供給路24を通じて酸化カルシウム「CaO」が供給(循環)されると共に、必要に応じて、新たな無機カルシウム化合物の一部が供給される。さらに、改質装置4は、供給路28を通じて熱分解装置3に、酸化カルシウムを供給(循環)する。
【0054】
改質装置4は、前記燃料ガスを水蒸気改質することができる装置であればよく、その構成は特に限定されない。
【0055】
前記改質装置4においては、下記反応により燃料ガスの水蒸気改質が行われ、高濃度の水素が生成する。即ち、燃料ガスは、水素および一酸化炭素、並びに、メタン「CH4」、炭化水素系ガスおよびタール成分を含有する炭化水素系ガス「CmHn」を含んでいる。燃料ガスに含まれる炭化水素系ガスは、前記式(4)および下記式(7)に示すように、酸化カルシウムを触媒として、水蒸気改質によって水素および二酸化炭素に改質される。
【0056】
CmHn+ H2O → H2 + CO2 …(7)
生成した二酸化炭素は、前記式(6)に示すように、酸化カルシウムに吸収される。これにより、燃料ガスから、水素の濃度がさらに高められた第二の燃料ガス、即ち、高濃度の水素を含むガスが得られる。
【0057】
<燃焼装置5>
燃焼装置5は、熱分解装置3から供給された熱分解生成物を燃焼して燃焼生成物および燃焼ガスとし、燃焼生成物供給路23を通じて酸化カルシウム分離装置6に供給する。燃焼装置5には、熱交換器12および燃焼用ガス供給路22を通じて、空気または酸素含有ガスと共に、熱源となる燃焼用ガスが、外部から供給される。また、熱分解装置3には、必要に応じて、新たな無機カルシウム化合物の一部が供給される。
【0058】
さらに、燃焼装置5には、必要に応じて、乾燥装置2から熱源用乾燥汚泥供給路20を通じて混合物が供給される。当該混合物は、燃焼装置5において前記燃焼用ガスの燃焼による熱量だけで熱分解生成物の燃焼を行うことが困難である場合に、熱源として燃焼される。混合物を燃焼させることにより、外部から供給される燃焼用ガスの量を削減することができるので、エネルギーの使用量を削減することができる。
【0059】
燃焼装置5は、前記熱分解生成物を燃焼させることができる装置であればよく、その構成は特に限定されない。
【0060】
前記燃焼装置5においては、下記反応により燃焼生成物および燃焼ガスが生成する。即ち、下記式(8)に示すように、空気または酸素含有ガスによって、熱分解生成物に含まれる炭(charcoal)は燃焼して二酸化炭素になる。また、下記式(9)に示すように、熱分解生成物に含まれる炭酸カルシウムは酸化カルシウムになることにより再生される。また、下記式(10)に示すように、空気または酸素含有ガスによって、熱分解生成物に含まれる硫化カルシウムは石膏(硫酸カルシウム)「CaSO4」となる。
【0061】
C(charcoal) + O2 → CO2 …(8)
CaCO3 → CaO + CO2 …(9)
CaS + 2O2→ CaSO4 …(10)
前記式(8)および式(10)に示す反応は発熱反応であり、当該反応で生じた反応熱は、循環される酸化カルシウムの顕熱となって、熱分解装置3、改質装置4および燃焼装置5の熱源として利用される。
【0062】
燃焼装置5においては、前記式(8)~(10)に示す反応、および、必要に応じて乾燥装置2から供給された混合物の燃焼によって、酸化カルシウム、リン酸三カルシウム、石膏および灰分等を含む固体成分である燃焼生成物が得られる。また、当該燃焼生成物と共に、高濃度の二酸化炭素が含まれた燃焼ガスが得られる。
【0063】
<酸化カルシウム分離装置6>
酸化カルシウム分離装置6は、燃焼装置5から供給された燃焼生成物および燃焼ガスから、酸化カルシウムを主成分として含む粒子と、リン酸三カルシウム、石膏および灰分等を含む固体成分である分離生成物(酸化カルシウム以外の燃焼生成物)並びに燃焼ガスとを分離する。そして、酸化カルシウム分離装置6は、固気混合物である前記分離生成物および燃焼ガスを、分離生成物供給路25を通じてリン分離装置7に供給する。前記分離生成物には、リン酸カルシウム化合物として、リン酸三カルシウム「Ca3(PO4)2」の他に、P2O5,CaPO4,Ca(PO3)2,Ca2P2O7,CaHPO4等が含まれている。尚、分離生成物は、酸化カルシウムを主成分として含む粒子よりも粒度が小さい。
【0064】
一方、酸化カルシウム分離装置6は、酸化カルシウムを主成分として含む粒子を、循環酸化カルシウム供給路24を通じて改質装置4に供給する。これにより、酸化カルシウムは、改質装置4、熱分解装置3、燃焼装置5および酸化カルシウム分離装置6を循環し、繰り返し利用され、上述した複数の役割を果たす。
【0065】
酸化カルシウム分離装置6は、燃焼生成物を、酸化カルシウムを主成分として含む粒子と、それ以外の燃焼生成物とに分離することができる装置であればよく、例えばサイクロンが挙げられるものの、その構成は特に限定されない。
【0066】
<リン分離装置7>
リン分離装置7は、酸化カルシウム分離装置6から供給された分離生成物および燃焼ガス(固気混合物)を、分離生成物と燃焼ガスとに分離する。リン分離装置7は、分離した燃焼ガスを、燃焼ガス排出路29を通じて排出する。排出された燃焼ガスは、熱交換器10によって冷却され、高濃度の二酸化炭素を含むガスとして回収される。これにより、リン回収装置における温室効果ガスの排出量を削減することができる。熱交換器10によって回収された熱は、ライン34を介して乾燥装置2および熱交換器11,12に供給される。
【0067】
また、リン分離装置7は、リン酸三カルシウムを含む分離生成物を、分離生成物供給路30を通じてリン酸製造装置8に供給する。これにより、本発明の一実施の形態におけるリン回収装置においては、高融点化合物であるリン酸三カルシウムとしてリンを回収することができる。リン分離装置7によって分離された分離生成物の一部は、必要に応じて、供給路31を通じて改質装置4に供給(循環)してもよい。これにより、循環する酸化カルシウムに対するリン酸三カルシウムの割合を高めることができるので、リン分離装置7によって分離される分離生成物におけるリン酸三カルシウムの濃度を高めることができる。
【0068】
リン分離装置7は、前記固気混合物を、分離生成物と燃焼ガスとに分離することができる装置であればよく、例えばサイクロン、バグフィルター、またはセラミックフィルターが挙げられるものの、その構成は特に限定されない。
【0069】
<リン酸製造装置8>
リン酸製造装置8は、リン分離装置7から供給された、リン酸三カルシウムを含む分離生成物に、酸供給路38を通じて供給された酸を添加して、リン酸三カルシウムと反応させ、リン酸およびリン酸二水素カルシウム等の溶解性リン酸化合物を製造する。リン酸製造装置8は、製造した溶解性リン酸化合物を、溶解性リン酸化合物排出路32を通じて外部に供給する。また、リン酸製造装置8は、分離生成物に含まれる酸化カルシウム、石膏および灰分等を含む固体成分(固体残渣)を、排出路33を通じて外部に排出する。
【0070】
分離生成物に添加する酸としては、例えば、硫酸、リン酸、硝酸、塩酸および二酸化炭素等の無機酸が挙げられる。
【0071】
前記リン酸製造装置8においては、下記反応により溶解性リン酸化合物が生成する。即ち、添加する酸として硫酸を用いた場合には、リン酸三カルシウム「Ca3(PO4)2」と硫酸との反応の一例として、下記式(11)および式(12)に示す反応が生じる。
【0072】
Ca3(PO4)2+ 3H2SO4→ 3CaSO4↓ + 2H3PO4(リン酸)
…(11)
Ca3(PO4)2+ 2H2SO4→ 2CaSO4↓ + Ca(H2PO4)2(リン酸二水素カルシウム) …(12)
式(11)および式(12)に示す反応は、リン鉱石から溶解性リンを得る反応と同様の反応である。ここで、式(12)に示す反応により得られる石膏とリン酸二水素カルシウムとの混合物は、過リン酸石灰と称され、リン肥料(リン酸質肥料)のうちで生産量が最も多い肥料である。つまり、リン酸製造装置8によって、リン酸三カルシウムからリン肥料を製造することができる。
【0073】
また、添加する酸として二酸化炭素を用いた場合には、リン酸三カルシウム等の難溶性リン酸塩を抽出する効果が得られること、および、抽出されたリンの形態が炭酸水素塩「CHPO4」となることが知られている。そして、酸として二酸化炭素を用いた場合には、炭酸水素塩として抽出したリンに含まれる重金属類の濃度が、その他の酸を用いた場合と比較して、低くなるという効果を奏する。
【0074】
リン酸製造装置8において、リン酸三カルシウムと各種酸との反応により、リン肥料となる各種溶解性リン酸化合物を製造することができる。具体的には、前記リン酸、リン酸二水素カルシウム、過リン酸石灰の他に、例えば、酸分解リン鉱粉、リン安、ニトロリン安、およびリン酸カルシウムが挙げられる。
【0075】
尚、分離生成物に含まれる灰分に、硫酸等の酸と反応して難溶性塩を形成しないFe2O3、SiO2またはAl2O3等の酸化物が含まれ、当該酸化物がリン酸二水素カルシウム等に混在することにより、得られるリン肥料が製品としての規格を満足しない場合がある。この場合には、酸供給路38(または他の供給路)を通じてNaOH等のアルカリ剤をリン酸製造装置8に供給し、製造した溶解性リン酸化合物のpH調整や温度調整を行うことにより、前記酸化物を分離すればよい。
【0076】
〔リン回収方法〕
本発明の一実施の形態におけるリン回収方法は、リン含有バイオマスに無機カルシウム化合物を混合する混合工程と、前記混合工程で得られた混合物を水蒸気の存在下で熱分解する熱分解工程と、前記熱分解工程で得られた熱分解生成物を燃焼する燃焼工程と、前記燃焼工程で得られた燃焼生成物からリン酸三カルシウムを分離する分離工程と、を含む方法である。
【0077】
より具体的には、本発明の一実施の形態におけるリン回収方法は、主に、混合工程、脱水工程、乾燥工程、熱分解工程、改質工程、燃焼工程、酸化カルシウム分離工程、リン分離工程、およびリン酸製造工程を含んでいる。また、前記リン回収方法は、リンの回収を連続的に行うことができるように、各工程の間に、搬送工程を含んでいる。
【0078】
以下、本発明の一実施の形態におけるリン回収方法を構成する各工程に関して説明する。但し、上述したリン回収装置において説明した内容と重複する内容に関しては、その説明を簡略化または省略することとする。
【0079】
<混合工程および脱水工程>
混合工程では、汚泥スラリー(リン含有バイオマス)に、上述した無機カルシウム化合物を混合する。混合工程と脱水工程とを行う順序は、特に限定されないものの、脱水工程の前に混合工程を行うことにより、通常の脱水方法よりも脱水性を向上させることができる。汚泥スラリーに混合する無機カルシウム化合物の添加量は、上述した通りである。
【0080】
脱水工程では、前記混合工程で得られた汚泥スラリーと無機カルシウム化合物との混合物を脱水する。即ち、汚泥スラリーから水分を含む分離液を除去する。分離液を除去した混合物は、次の乾燥工程に供される。
【0081】
尚、汚泥スラリーと無機カルシウム化合物とを混合する具体的な混合方法、並びに、汚泥スラリーと無機カルシウム化合物との混合物を脱水する具体的な脱水方法は、特に限定されない。
【0082】
<乾燥工程>
乾燥工程では、脱水工程を経て得た前記混合物に含まれる水分の一部または全てを蒸発させる。蒸発させた水分は、乾燥水蒸気として、その一部を熱分解工程において混合物の熱分解に用い、残りは外部に排出する。乾燥させた混合物は、次の熱分解工程に供される。また、乾燥させた混合物の一部は、必要に応じて、燃焼工程において熱源として燃焼される。
【0083】
尚、混合物を乾燥させる具体的な乾燥方法は、特に限定されない。また、脱水工程で得られる混合物中の水分量が少ない場合には、乾燥工程は必ずしも設ける必要は無い。その場合には、脱水工程を経て得た前記混合物を、熱分解工程に供すればよい。
【0084】
<熱分解工程>
熱分解工程では、脱水工程を経て得た前記混合物、または、脱水工程および乾燥工程を経て乾燥させた前記混合物を、水蒸気の存在下、400℃~900℃、より好ましくは600℃~800℃で加熱しながら、0.1時間~2時間、より好ましくは0.5時間~1時間滞留させることにより、熱分解する。即ち、熱分解工程での混合物の加熱温度は400℃~900℃、より好ましくは600℃~800℃であり、滞留時間は0.1時間~2時間、より好ましくは0.5時間~1時間である。
【0085】
熱分解工程においては、上述した反応により熱分解を行い、熱分解ガスである燃料ガスを生成する。熱分解して得た熱分解生成物は、燃焼工程に供される。そして、熱分解して得た燃料ガスは、次の改質工程に供される。また、熱分解工程においては、改質工程で用いられた酸化カルシウム「CaO」が供給(循環)されると共に、必要に応じて、新たな無機カルシウム化合物の一部が供給される。
【0086】
尚、混合物を熱分解させる具体的な熱分解方法は、特に限定されない。
【0087】
熱分解生成物に含まれるリン酸三カルシウムの融点は1390℃と高いため、熱分解工程および下記燃焼工程における、リン化合物の溶融による焼却炉への付着およびそれに伴う焼却炉の閉塞を防止することができる。それゆえ、リン回収方法をより安定して連続運転することが可能となる。
【0088】
<改質工程>
改質工程では、熱分解工程で得られた燃料ガスから、酸化カルシウムを用いた水蒸気改質を行うことによって上述した反応を行い、当該燃料ガスよりも水素濃度を高めた第二の燃料ガスを製造する。製造した第二の燃料ガスは、冷却され、高濃度の水素を含むガスとして回収される。
【0089】
これにより、本発明の一実施の形態におけるリン回収方法を、リンの回収と共に水素を同時に製造する製造方法として用いることができる。第二の燃料ガスから回収された熱は、乾燥工程、熱分解工程および燃焼工程に供給される。
【0090】
また、改質工程においては、酸化カルシウム分離工程にて分離された酸化カルシウム「CaO」が供給(循環)されると共に、必要に応じて、新たな無機カルシウム化合物の一部が供給される。さらに、改質工程で用いられた酸化カルシウムは、熱分解工程に供給(循環)される。
【0091】
尚、前記燃料ガスを水蒸気改質する具体的な改質方法は、特に限定されない。
【0092】
<燃焼工程>
燃焼工程では、熱分解工程で得られた熱分解生成物を燃焼させることによって上述した反応を行い、燃焼生成物および燃焼ガスを得る。燃焼生成物および燃焼ガスは、次の酸化カルシウム分離工程に供給する。燃焼ガスには、高濃度の二酸化炭素が含まれる。燃焼工程においては、空気または酸素含有ガスと共に、熱源となる燃焼用ガスが、外部から供給される。また、燃焼工程においては、必要に応じて、新たな無機カルシウム化合物の一部が供給される。
【0093】
さらに、燃焼工程においては、必要に応じて、乾燥工程から上述した混合物が供給される。当該混合物は、燃焼工程において前記燃焼用ガスの燃焼による熱量だけで熱分解生成物の燃焼を行うことが困難である場合に、熱源として燃焼される。混合物を燃焼させることにより、外部から供給される燃焼用ガスの量を削減することができるので、エネルギーの使用量を削減することができる。
【0094】
尚、前記熱分解生成物を燃焼させる具体的な燃焼方法は、特に限定されない。
【0095】
<酸化カルシウム分離工程>
酸化カルシウム分離工程では、燃焼工程で得られた燃焼生成物および燃焼ガスから、酸化カルシウムを主成分として含む粒子と、リン酸三カルシウム、石膏および灰分等を含む固体成分である分離生成物(酸化カルシウム以外の燃焼生成物)並びに燃焼ガスとを分離する。前記分離生成物および燃焼ガスは、次のリン分離工程に供される。
【0096】
一方、酸化カルシウムを主成分として含む粒子は、改質工程に供給される。これにより、酸化カルシウムは、改質工程、熱分解工程、燃焼工程および酸化カルシウム分離工程を循環し、繰り返し利用され、上述した複数の役割を果たす。
【0097】
尚、燃焼生成物を、酸化カルシウムを主成分として含む粒子と、それ以外の燃焼生成物とに分離する具体的な分離方法は、特に限定されないものの、例えばサイクロンを用いた分離方法が好ましい。
【0098】
<リン分離工程>
リン分離工程では、酸化カルシウム分離工程を経て分離した分離生成物および燃焼ガス(固気混合物)を、分離生成物と燃焼ガスとに分離する。分離した燃焼ガスは、冷却され、高濃度の二酸化炭素を含むガスとして回収される。これにより、本発明の一実施の形態におけるリン回収方法においては、温室効果ガスの排出量を削減することができる。燃焼ガスから回収された熱は、乾燥工程、熱分解工程および燃焼工程に供給される。
【0099】
リン酸三カルシウムを含む分離生成物は、次のリン酸製造装置に供給される。これにより、本発明の一実施の形態におけるリン回収方法においては、高融点化合物であるリン酸三カルシウムとしてリンを回収することができる。リン分離工程にて分離された分離生成物の一部は、必要に応じて、改質工程に供給(循環)してもよい。これにより、循環する酸化カルシウムに対するリン酸三カルシウムの割合を高めることができるので、リン分離工程において分離される分離生成物におけるリン酸三カルシウムの濃度を高めることができる。
【0100】
尚、前記固気混合物を、分離生成物と燃焼ガスとに分離する具体的な分離方法は、特に限定されないものの、例えばサイクロン、バグフィルター、またはセラミックフィルターを用いた分離方法が好ましい。
【0101】
<リン酸製造工程>
リン酸製造工程では、リン分離工程で得られた分離生成物に、上述した酸を添加して上述した反応を行う。つまり、リン酸製造工程では、前記酸と分離生成物に含まれるリン酸三カルシウムとを反応させ、リン酸およびリン酸二水素カルシウム等の溶解性リン酸化合物を製造する。また、分離生成物に含まれる酸化カルシウム、石膏および灰分等を含む固体成分(固体残渣)を、外部に排出する。
【0102】
リン酸製造工程においては、リン酸三カルシウムと各種酸との反応により、リン肥料となる各種溶解性リン酸化合物を製造することができる。
【0103】
分離生成物に含まれる灰分に、硫酸等の酸と反応して難溶性塩を形成しないFe2O3,SiO2またはAl2O3等の酸化物が含まれる場合には、必要に応じて、アルカリ剤をリン酸製造工程に供給し、製造した溶解性リン酸化合物のpH調整や温度調整を行うことにより、前記酸化物を分離すればよい。
【0104】
尚、分離生成物と酸とを反応させる具体的な反応方法は、特に限定されない。
【0105】
〔実施例〕
以下、上述したリン回収装置およびリン回収方法を用いた実施例に関して説明する。
【0106】
<実施条件>
原料となる汚泥の性状の一例をまとめて表1に示した。表1における灰分組成は、酸化物換算値である。また、実施条件の一例をまとめて表2に示した。表2に示すように、汚泥の供給量は50t-DS/d(DS:乾燥重量)であり、脱水前の汚泥の含水率は97重量%(表1)であるので、汚泥スラリーの量は、1667t/dである。
【0107】
【0108】
【0109】
無機カルシウム化合物として消石灰を用い、その原料供給量を3.2t/d(表2)とした。酸化カルシウム分離装置6の運転条件を、酸化カルシウム回収率が90%となるように設定した。
【0110】
表2に示すように、リン分離装置7の運転条件を、熱分解装置3、燃焼装置5、酸化カルシウム分離装置6および改質装置4の間を循環する循環酸化カルシウムの量を1としたときに、汚泥の灰分量が0.25となるように設定した。即ち、リン分離装置7で分離した分離生成物の一部を、供給路31を通じて改質装置4に供給(循環)させ、リン酸三カルシウムがリン回収装置内を循環するように設定した。
【0111】
<実施結果>
市販のプロセスシミュレーションソフトを用いた化学平衡計算結果に基づく、本実施の形態における熱分解生成物、燃焼生成物および分離生成物に含まれる各化合物とその回収量を表3に示した。
【0112】
表3に示すように、熱分解生成物に含まれるリン酸カルシウム化合物の形態は、リン酸三カルシウムのみである。それゆえ、熱分解装置3においては、リン酸三カルシウム以外のリン酸カルシウム化合物は生成され難いと判断される。従って、汚泥中に含まれるリンは、熱分解装置3内で、ほぼ全てが融点1390℃のリン酸三カルシウムとなり、リン化合物の溶融による焼却炉への付着およびそれに伴う焼却炉の閉塞を防止することができることが分かる。
【0113】
分離生成物に含まれるリン酸三カルシウムは、4.40t/d(表3)である。
【0114】
【0115】
尚、熱分解装置3、燃焼装置5、酸化カルシウム分離装置6、および改質装置4の間を循環する循環酸化カルシウムの量が57t/hである場合には、燃料ガス排出路27から回収される第二の燃料ガスに含有される水素の濃度は80体積%(乾燥)であり、その製造量は38,000 Nm3-H2/dであった。
【0116】
前記結果から、本発明の一態様によれば、汚泥からリンを高融点化合物であるリン酸三カルシウムとして回収することができるリン回収装置およびリン回収方法を提供することができることが分かった。
【0117】
[実施の形態2]
〔リン回収装置〕
本発明の他の実施の形態におけるリン回収装置は、前記実施の形態1におけるリン回収装置と比較して、
図2に示すように、燃焼ガス排出路29を通じて排出された高濃度の二酸化炭素を含むガスを、リン酸製造装置8に供給する二酸化炭素供給路36をさらに備えている構成である。つまり、本実施の形態に係るリン回収装置は、リン酸製造装置8に供給する酸が二酸化炭素である場合において、燃焼装置5にて生成した燃焼ガスに含まれる二酸化炭素をリン酸の製造に用いる構成を備えている。
【0118】
これにより、本実施の形態に係るリン回収装置は、前記実施の形態1におけるリン回収装置と比較して、リン酸をより一層安価に製造することができる。また、温室効果ガスである二酸化炭素の排出量の削減を図ることができる。さらに、燃焼ガス排出路29を通じて排出されたガスは、通常の汚泥焼却炉から排出される排ガスよりも二酸化炭素の濃度が高いので、リン酸製造装置8の小型化が可能である。
【0119】
尚、燃焼装置5に燃焼用ガス供給路22を通じて供給される燃焼用ガスが、空気または酸素含有ガスではなく、例えばPSA(ガス発生装置:Pressure Swing Adsorption)等によって生成された純酸素である場合には、二酸化炭素供給路36を通じてリン酸製造装置8に供給されるガスに含まれる二酸化炭素の濃度がより一層高くなる。それゆえ、リン酸製造装置8のさらなる小型化が可能である。
【0120】
〔リン回収方法〕
本発明の他の実施の形態におけるリン回収方法は、前記実施の形態1におけるリン回収方法とは異なり、リン分離工程で排出された、高濃度の二酸化炭素を含む燃焼ガスを、リン酸製造工程に供給するようになっている。つまり、本実施の形態に係るリン回収方法は、リン酸製造工程で使用する酸が二酸化炭素である場合において、燃焼工程にて生成した燃焼ガスに含まれる二酸化炭素をリン酸の製造に用いる。
【0121】
これにより、本実施の形態に係るリン回収方法は、前記実施の形態1におけるリン回収方法と比較して、リン酸をより一層安価に製造することができる。また、温室効果ガスである二酸化炭素の排出量の削減を図ることができる。
【0122】
[実施の形態3]
〔リン回収装置〕
本発明のさらに他の実施の形態におけるリン回収装置は、前記実施の形態1におけるリン回収装置と比較して、
図3に示すように、脱水装置1から分離液排出路16を通じて外部に排出される、水分を含む分離液の一部を、リン酸製造装置8に供給する分離液供給路37をさらに備えている構成である。つまり、本実施の形態に係るリン回収装置は、脱水装置1から排出される分離液の一部を、リン酸製造装置8に原料として供給する構成を備えている。
【0123】
前記分離液には、Ca,P,N,KおよびNa等の、肥料の原料となる成分が含まれている。それゆえ、分離液をリン酸製造装置8に供給することによって、これら成分を回収して原料化することができる。従って、本実施の形態に係るリン回収装置は、前記実施の形態1におけるリン回収装置と比較して、リン酸をより一層安価に製造することができる。また、廃液として処理する分離液の量が少なくなるので、廃液処理に係る費用を低減することができる。
【0124】
尚、前記実施の形態2におけるリン回収装置と、実施の形態3におけるリン回収装置とを組み合わせることもできる。
【0125】
〔リン回収方法〕
本発明の他の実施の形態におけるリン回収方法は、前記実施の形態1におけるリン回収方法とは異なり、脱水工程にて排出された分離液の一部を、リン酸製造工程に原料として供給するようになっている。つまり、本実施の形態に係るリン回収方法は、脱水工程にて排出された分離液の一部をリン肥料(リン酸質肥料)の製造に用いる。
【0126】
前記分離液には、Ca,P,N,KおよびNa等の、肥料の原料となる成分が含まれている。それゆえ、分離液をリン酸製造工程に供給することによって、これら成分を回収して原料化することができる。従って、本実施の形態に係るリン回収方法は、前記実施の形態1におけるリン回収方法と比較して、リン酸をより一層安価に製造することができる。また、廃液として処理する分離液の量が少なくなるので、廃液処理に係る費用を低減することができる。
【0127】
尚、前記実施の形態2におけるリン回収方法と、実施の形態3におけるリン回収方法とを併用することもできる。
【0128】
[実施の形態4]
〔リン回収装置〕
本発明のさらに他の実施の形態におけるリン回収装置は、前記実施の形態1におけるリン回収装置と比較して、
図4に示すように、リン酸製造装置8および供給路31を備えておらず、循環酸化カルシウム供給路39をさらに備えている構成である。循環酸化カルシウム供給路39は、酸化カルシウム分離装置6で得られた酸化カルシウムを主成分として含む粒子を脱水装置1に供給する。
【0129】
脱水装置1には、酸化カルシウム分離装置6から、循環酸化カルシウム供給路39を通じて酸化カルシウム「CaO」が供給(循環)される。つまり、酸化カルシウム分離装置6は、改質装置4に加えて、脱水装置1にも酸化カルシウムを供給(循環)する。これにより、酸化カルシウムは、改質装置4、熱分解装置3、燃焼装置5、酸化カルシウム分離装置6、脱水装置1および乾燥装置2を循環し、繰り返し利用され、上述した複数の役割を果たす。
【0130】
酸化カルシウム分離装置6は、脱水装置1にも酸化カルシウムを供給(循環)することにより、汚泥スラリーに、無機カルシウム化合物供給路14から供給される無機カルシウム化合物の供給量を削減すること、または無機カルシウム化合物供給路14から無機カルシウム化合物を供給不要にすることができる。
【0131】
本実施の形態に係るリン回収装置は、リン酸三カルシウムを含む分離生成物をリン含有灰として回収することができるが、リンを回収せずに、主目的として水素を回収するための水素回収装置として利用してもよい。つまり、本実施の形態に係るリン回収装置は、水素のみを回収する装置であってもよい。リンを回収しない場合、リン分離装置7は、酸化カルシウム分離装置6から供給された固気混合物を、灰分と高濃度の二酸化炭素を含むガスとを分離して高濃度の二酸化炭素を含むガスを得る灰分分離装置として機能する。
【0132】
〔リンの回収方法〕
本発明の他の実施の形態におけるリン回収方法は、前記実施の形態1におけるリン回収方法とは異なり、リン酸製造工程を含んでいない。また、酸化カルシウム分離工程で得られた酸化カルシウムを主成分として含む粒子の一部を、混合工程に供給するようになっている。
【0133】
これにより、本実施の形態に係るリン回収方法は、前記実施の形態1におけるリン回収方法と比較して、混合工程で汚泥スラリーに供給される無機カルシウム化合物の供給量を削減すること、または無機カルシウム化合物を供給不要にすることができる。
【0134】
本実施の形態に係るリン回収方法は、リン酸三カルシウムを含む分離生成物をリン含有灰として回収することができるが、リンを回収せずに、主目的として水素を回収するための水素回収方法として利用してもよい。つまり、本実施の形態に係るリン回収方法は、水素のみを回収する方法であってもよい。リンを回収しない場合、リン分離工程は、酸化カルシウム分離工程から供給された固気混合物を、灰分と高濃度の二酸化炭素を含むガスとを分離して高濃度の二酸化炭素を含むガスを得る灰分分離工程となる。
【0135】
[実施の形態5]
〔リン回収装置〕
本発明のさらに他の実施の形態におけるリン回収装置は、前記実施の形態4におけるリン回収装置と比較して、
図5に示すように、二酸化炭素供給路42と、炭酸化装置40と、炭酸カルシウム供給路41とをさらに備えている。二酸化炭素供給路42は、燃焼ガス排出路29を通じて排出された高濃度の二酸化炭素を含むガスの一部を、炭酸化装置40に供給する。炭酸化装置40は、前記式(6)に示す反応によって、酸化カルシウムと、二酸化炭素供給路42から供給された高濃度の二酸化炭素を含むガス中の二酸化炭素とを反応させて、炭酸カルシウムに転換させる。炭酸カルシウム供給路41は、炭酸化装置40で得られた炭酸カルシウムを、脱水装置1に供給する。本実施の形態において、循環酸化カルシウム供給路39は、酸化カルシウムを主成分として含む粒子を炭酸化装置40に供給する。
【0136】
脱水装置1に、酸化カルシウムが無機カルシウム化合物供給路14または循環酸化カルシウム供給路39から直接供給される場合には、酸化カルシウムの一部は、水と反応し、下記式(13)に示すように、消石灰(Ca(OH)2)に転換されることがある。
【0137】
CaO + H2O → Ca(OH)2 …(13)
式(13)に示す消石灰化反応は発熱反応であるため、脱水装置1の運転制御が安定しない場合も考えられる。また、消石灰化反応でカルシウムに取り込まれた水酸基は、乾燥装置2ではカルシウムから分離されず、熱分解装置3に持ち込まれた段階で分離し、水蒸気となる。このため、消石灰化反応でカルシウムに取り込まれた水酸基は、熱分解装置3内の温度を低下させ、結果的に燃料ガスの回収効率が低下することも懸念される。
【0138】
脱水装置1に供給される無機カルシウム化合物が炭酸カルシウムである場合には、酸化カルシウムと異なり、式(13)に示すような水との反応(消石灰化反応)を抑制することができる。
【0139】
そのため、無機カルシウム化合物が炭酸カルシウムである場合には、式(13)に示す消石灰化反応による発熱を低減することができる。発熱を低減することにより、脱水装置1の運転制御を安定化することができる。また、炭酸カルシウムは、熱分解装置3内の温度を低下させることがないため、結果的に燃料ガスの回収効率が低下することを抑制することができる。
【0140】
上述した構成であることにより、本実施の形態に係るリン回収装置は、前記実施の形態4におけるリン回収装置と比較して、消石灰の量を低減することができるため、結果的に燃料ガスの回収効率が低下することを抑制することができる。
【0141】
〔リンの回収方法〕
本発明の他の実施の形態におけるリン回収方法は、前記実施の形態4におけるリン回収方法とは異なり、酸化カルシウムと、二酸化炭素供給路42から供給された高濃度の二酸化炭素を含むガス中の二酸化炭素とを反応させて、炭酸カルシウムに転換させる炭酸化工程をさらに含んでいる。つまり、酸化カルシウムは、炭酸カルシウムに転換されてから混合工程に用いられるようになっている。
【0142】
これにより、本実施の形態に係るリン回収方法は、前記実施の形態4におけるリン回収方法と比較して、燃料ガスの回収効率が低下することをさらに抑制することができる。
【0143】
[実施の形態6]
〔リン回収装置〕
本発明のさらに他の実施の形態におけるリン回収装置は、前記実施の形態4におけるリン回収装置と比較して、
図6に示すように、二酸化炭素供給路42をさらに備えている。二酸化炭素供給路42は、燃焼ガス排出路29を通じて排出された高濃度の二酸化炭素を含むガスの一部を、脱水装置1に供給する。
【0144】
これにより、本実施の形態に係るリン回収装置は、前記実施の形態4におけるリン回収装置と比較して、式(13)に示す消石灰化反応により生じる消石灰の量を低減することができるため、結果的に燃料ガスの回収効率が低下することを抑制することができる。
【0145】
〔リンの回収方法〕
本発明の他の実施の形態におけるリン回収方法は、前記実施の形態4におけるリン回収方法とは異なり、リン分離工程で得られた高濃度の二酸化炭素を含むガスを、混合工程に供給するようになっている。
【0146】
これにより、本実施の形態に係るリン回収方法は、前記実施の形態4におけるリン回収方法と比較して、燃料ガスの回収効率が低下することをさらに抑制することができる。
【0147】
[実施の形態7]
実施の形態4において上述したように、本発明の一態様は、水素のみを回収する装置であってもよく、水素のみを製造する方法であってもよい。
【0148】
本発明の一態様は、下水処理場で発生する下水汚泥、し尿処理場で発生するし尿汚泥、肉骨粉、畜糞等のリン含有バイオマスから、水素を製造する、水素回収方法および水素回収装置を提供することも目的としている。
【0149】
前記課題を解決するために、本発明の一態様に係る水素回収装置は、リン含有バイオマスから水素を回収する水素回収装置であって、前記リン含有バイオマスに無機カルシウム化合物を混合する混合装置と、前記混合装置で得られた混合物を熱分解する熱分解装置と、前記熱分解装置で得られた熱分解生成物を燃焼する燃焼装置と、前記燃焼装置で得られた燃焼生成物からリン酸三カルシウムを分離する分離装置と、前記熱分解装置で得られた燃料ガスから、酸化カルシウムを用いた水蒸気改質によって、前記燃料ガスよりも水素濃度を高めた燃料ガスを製造する改質装置と、を含む。
【0150】
前記課題を解決するために、本発明の一態様に係る水素回収方法は、リン含有バイオマスから水素を回収する水素回収方法であって、前記リン含有バイオマスに無機カルシウム化合物を混合する混合工程と、前記混合工程で得られた混合物を水蒸気の存在下で熱分解する熱分解工程と、前記熱分解工程で得られた熱分解生成物を燃焼する燃焼工程と、前記燃焼工程で得られた燃焼生成物からリン酸三カルシウムを分離する分離工程と、前記熱分解工程で得られた燃料ガスから、酸化カルシウムを用いた水蒸気改質によって、前記燃料ガスよりも水素濃度を高めた燃料ガスを製造する改質工程と、を含む。
【0151】
本発明の一態様によれば、下水処理場で発生する下水汚泥、し尿処理場で発生するし尿汚泥、肉骨粉、畜糞等のリン含有バイオマスから、水素を回収することができるという効果を奏する。
【0152】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0153】
本発明の一実施の形態に係るリン回収方法およびリン回収装置は、例えば、下水処理場で発生する下水汚泥、し尿処理場で発生するし尿汚泥、肉骨粉、畜糞等のリン含有バイオマスに含まれるリンの回収において好適に用いられる。
【符号の説明】
【0154】
1 脱水装置(混合装置)
2 乾燥装置
3 熱分解装置
4 改質装置
5 燃焼装置
6 酸化カルシウム(CaO)分離装置
7 リン分離装置(分離装置、灰分分離装置)
8 リン酸製造装置