(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-06
(45)【発行日】2022-10-17
(54)【発明の名称】乳牛の乾乳における経口ボーラスの使用
(51)【国際特許分類】
A61K 33/14 20060101AFI20221007BHJP
A23K 20/20 20160101ALI20221007BHJP
A61K 33/02 20060101ALI20221007BHJP
A61K 33/06 20060101ALI20221007BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20221007BHJP
A61P 3/02 20060101ALI20221007BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20221007BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20221007BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20221007BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221007BHJP
【FI】
A61K33/14
A23K20/20
A61K33/02
A61K33/06
A61P3/00 171
A61P3/02
A61P3/04
A61P7/00
A61P15/00 171
A61P43/00 171
(21)【出願番号】P 2021508079
(86)(22)【出願日】2019-05-20
(86)【国際出願番号】 EP2019062958
(87)【国際公開番号】W WO2019224149
(87)【国際公開日】2019-11-28
【審査請求日】2020-10-28
(32)【優先日】2018-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】505258715
【氏名又は名称】ベーリンガー インゲルハイム フェトメディカ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Boehringer Ingelheim Vetmedica GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100215670
【氏名又は名称】山崎 直毅
(72)【発明者】
【氏名】ザスペル ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】ブベック ユルゲン
(72)【発明者】
【氏名】エンダール ホルガー
(72)【発明者】
【氏名】ゴビィ ローラン
(72)【発明者】
【氏名】ホイバン-ニールセン レイフ
【審査官】篭島 福太郎
(56)【参考文献】
【文献】SANDRA, R Stokes,Anionic Salt Programs for Close-Up Dry Cows[online],1998年,p.1-4,[検索日2021年9月22日],インターネット<URL:https://oaktrust.library.tamu.edu/bitstream/handle/1969.1/86766/pdf_1016.pdf?sequence=1>
【文献】J. Dairy Sci.,2009年,Vol.92,No.7,p3194-3203
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 33/14
A23K 20/20
A61K 33/02
A61K 33/06
A61P 3/00
A61P 3/02
A61P 3/04
A61P 7/00
A61P 15/00
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
牛を乾乳にするための経口ボーラスの使用であって、
前記経口ボーラスが、経口の陰イオン塩含有ボーラスまたは酸産生ボーラスであり、
前記経口の陰イオン塩含有ボーラスまたは酸産生ボーラスが、飼料添加剤/飼料サプリメントとして1種以上の酸性化剤を含み、
前記1種以上の酸性化剤が、塩化アンモニウムと塩化カルシウムと硫酸カルシウムである、前記使用。
【請求項2】
牛の乾乳を改善/容易化する方法であって、少なくとも1回の経口ボーラスを、このような牛に投与することを含み、
前記経口ボーラスが、経口の陰イオン塩含有ボーラスまたは酸産生ボーラスであり、
前記経口の陰イオン塩含有ボーラスまたは酸産生ボーラスが、飼料添加剤/飼料サプリメントとして1種以上の酸性化剤を含み、
前記1種以上の酸性化剤が、塩化アンモニウムと塩化カルシウムと硫酸カルシウムである、前記方法。
【請求項3】
妊娠中のおよび/または泌乳中の牛における乳生産を減少させる方法であって、少なくとも1回の経口ボーラスを、このような牛に投与することを含み、
前記経口ボーラスが、経口の陰イオン塩含有ボーラスまたは酸産生ボーラスであり、
前記経口の陰イオン塩含有ボーラスまたは酸産生ボーラスが、飼料添加剤/飼料サプリメントとして1種以上の酸性化剤を含み、
前記1種以上の酸性化剤が、塩化アンモニウムと塩化カルシウムと硫酸カルシウムである、前記方法。
【請求項4】
牛の乳房における乳蓄積を減少させる方法であって、少なくとも1回の経口ボーラスを、このような牛に投与することを含み、
前記経口ボーラスが、経口の陰イオン塩含有ボーラスまたは酸産生ボーラスであり、
前記経口の陰イオン塩含有ボーラスまたは酸産生ボーラスが、飼料添加剤/飼料サプリメントとして1種以上の酸性化剤を含み、
前記1種以上の酸性化剤が、塩化アンモニウムと塩化カルシウムと硫酸カルシウムである、前記方法。
【請求項5】
牛の毎日の横臥時間を増加させる方法であって、少なくとも1回の経口ボーラスを、このような牛に投与することを含み、
前記経口ボーラスが、経口の陰イオン塩含有ボーラスまたは酸産生ボーラスであり、
前記経口の陰イオン塩含有ボーラスまたは酸産生ボーラスが、飼料添加剤/飼料サプリメントとして1種以上の酸性化剤を含み、
前記1種以上の酸性化剤が、塩化アンモニウムと塩化カルシウムと硫酸カルシウムである、前記方法。
【請求項6】
牛における軽度のおよび一時的な代謝性アシドーシスを乾乳時に誘導する方法であって、少なくとも1回の経口ボーラスを、このような牛に投与することを含み、
前記経口ボーラスが、経口の陰イオン塩含有ボーラスまたは酸産生ボーラスであり、
前記経口の陰イオン塩含有ボーラスまたは酸産生ボーラスが、飼料添加剤/飼料サプリメントとして1種以上の酸性化剤を含み、
前記1種以上の酸性化剤が、塩化アンモニウムと塩化カルシウムと硫酸カルシウムである、前記方法。
【請求項7】
牛における乾物摂取量(DMI)を減少させる方法であって、少なくとも1回の経口ボーラスを、このような牛に投与することを含み、
前記経口ボーラスが、経口の陰イオン塩含有ボーラスまたは酸産生ボーラスであり、
前記経口の陰イオン塩含有ボーラスまたは酸産生ボーラスが、飼料添加剤/飼料サプリメントとして1種以上の酸性化剤を含み、
前記1種以上の酸性化剤が、塩化アンモニウムと塩化カルシウムと硫酸カルシウムである、前記方法。
【請求項8】
牛における尿pHを低下させる方法であって、少なくとも1回の経口ボーラスを、このような牛に投与することを含み、
前記経口ボーラスが、経口の陰イオン塩含有ボーラスまたは酸産生ボーラスであり、
前記経口の陰イオン塩含有ボーラスまたは酸産生ボーラスが、飼料添加剤/飼料サプリメントとして1種以上の酸性化剤を含み、
前記1種以上の酸性化剤が、塩化アンモニウムと塩化カルシウムと硫酸カルシウムである、前記方法。
【請求項9】
前記経口ボーラスを投与することにより、下記の効果の1つ以上がもたらされる、請求項1記載の使用または請求項2~8のいずれか1項記載の方法:
(a)妊娠中のおよび/または泌乳中の牛における乳生産の減少;および/または
(b)乳房における乳蓄積の減少およびそれによる乳房圧の低下;および/また
(c)毎日の横臥時間の増加;および/または
(d)乾乳時の軽度のおよび一時的な代謝性アシドーシスの誘導;および/または
(e)乾物摂取量(DMI)の減少;および/または
(f)ボーラス投与後の尿pHの低下。
【請求項10】
このような牛が、妊娠中のおよび/または泌乳中の乳牛である、請求項1~9のいずれか1項記載の使用または方法。
【請求項11】
前記経口ボーラスが、1回、2回、3回、4回以上、投与される、請求項1~9のいずれか1項記載の使用または方法。
【請求項12】
前記経口ボーラスが、2回投与される、請求項11記載の使用または方法。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項記載の使用または方法において使用するための、5%(質量/質量)~15%(質量/質量)の塩化アンモニウムと40%(質量/質量)~60%(質量/質量)の塩化カルシウムと15%(質量/質量)~25%(質量/質量)の硫酸カルシウムを含む、固形ボーラス形態でのカルシウム含有調製物。
【請求項14】
牛を乾乳にするための経口ボーラスであって、
前記経口ボーラスが、経口の陰イオン塩含有ボーラスまたは酸産生ボーラスであり、
前記経口の陰イオン塩含有ボーラスまたは酸産生ボーラスが、飼料添加剤/飼料サプリメントとして1種以上の酸性化剤を含み、
前記1種以上の酸性化剤が、塩化アンモニウムと塩化カルシウムと硫酸カルシウムである、前記経口ボーラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、医薬、特に獣医薬の分野に関する。特に、本発明は、牛、好ましくは乳牛の乾乳における経口の、好ましくは陰イオン塩含有ボーラスまたは酸産生ボーラスの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
乾乳牛は、乳牛の生産サイクルの臨界的な期間として広く認識されている。最近の数十年間にわたって乳量を増加させることにより、泌乳から乾乳への移行が動物の健康および福祉の面で乳牛にとって次第に困難になってきたことが示唆されている。動物の健康の観点から、搾乳の休止は、乳生産に有害な結果を伴う次の泌乳に持続することがある新たな乳房内感染のリスクの増加と関連している。この増加したリスクに寄与する因子の一つは、乾乳後すぐの乳腺における連続乳生産である:乳房内に乳が蓄積され、増加した乳房圧が乳頭からの乳漏れ(ML)を引き起こす可能性がある。乳漏れによって、微生物が、退縮プロセスに起因して乳腺における自然な保護活性の低下の瞬間と一致する乳房をコロニー化させることを可能にする。MLに加えて、搾乳の休止後の増加した乳房内圧が、乳牛に不快感を引き起こす可能性があることが示唆されており、これは、今度は、横臥行動を変化させる可能性がある。
【0003】
現在の技術の状態は、給餌食の変化と組合せた搾乳の進歩的なまたは残酷な休止である。カベルゴリンのような薬剤を使用してもよい。しかしながら、カベルゴリンは、D2受容体について強力なドーパミン受容体アゴニストである合成麦角誘導体である。それは、プロラクチン産生を抑制すると共にプロラクチン分泌依存プロセスの阻害をもたらす下垂体におけるプロラクチン産生細胞のドーパミン受容体に作用する。その結果、カベルゴリン投与は、乳生産の減少を誘発し、乳房うっ血および乳房内圧の低下につながる。カベルゴリンは、乳生産を低減して乾乳時の乳漏れを減少させ、乾乳期間中の新たな乳房内感染のリスクを低減し、不快感を低減することにより、急激な乾乳の補助として乳牛での使用にいくつかの国において登録されている。しかしながら、EUにおいてカベルゴリンの販売承認は、疑わしい重大な副作用のために2016年に中断された。
Rerat MおよびSchlegel P (Journal of Animal Physiology and Animal Nutrition 2013, 98(3): 458-466)は、周産期の乳牛における酸塩基およびミネラル状態における食餌性カリウムおよび陰イオン塩の効果を記載している。
Stokes SR (http://oaktrust.library.tamu.edu/bitstream/handle/1969.1/86766/pdf_1016.pdf?sequence=1)は、閉鎖型乾乳牛のための陰イオン塩プログラムを記載している。
US 2002/0150633号は、乾乳牛サプリメントを記載している。
EP 0 943 246号は、乾乳期間中に乳牛の飼養のための完全な飼料を記載している。
US 5,360,823号は、乳牛における乳熱予防のための陰イオン塩製剤および治療方法を記載している。
Oetzel GRおよびMiller BE (Journal of Dairy Science 2012, 95(12): 7051-7065)は、商業群れにおける初期泌乳健康および乳量に対する経口カルシウムボーラスサプリメントの効果を記載している。
先行技術の問題を克服する牛の乾乳の改善/容易化に対する緊急の必要性が存在する。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、牛、好ましくは乳牛を乾乳にするための経口ボーラスの使用に関する。
経口ボーラスを投与することを含む牛、好ましくは乳牛を乾乳にする対応する方法、牛、好ましくは乳牛を乾乳にする方法において使用するための対応する経口ボーラス、および牛、好ましくは乳牛を乾乳にする薬剤の調製物のための経口ボーラスの対応する使用もまた、本発明により構成されることを意図する。
本発明は、また、牛、好ましくは乳牛の乾乳を改善/容易化する方法であって、少なくとも1回の経口ボーラスを、好ましくは最後の搾乳日におよび/または好ましくは乾乳前に、このような牛に投与することを含む、上記方法に関する。
牛、好ましくは乳牛の乾乳を改善/容易化するための少なくとも1回の経口ボーラスの対応する使用であって、このような少なくとも1回の経口ボーラスを、好ましくは最後の搾乳日におよび/または好ましくは乾乳前に、このような牛に投与する、上記対応する使用、牛、好ましくは乳牛の乾乳を改善/容易化する方法に使用するための対応する少なくとも1回の経口ボーラスであって、このような少なくとも1回の経口ボーラスを、好ましくは最後の搾乳日におよび/または好ましくは乾乳前に、このような牛に投与する、上記対応する少なくとも1回の経口ボーラス、ならびに牛、好ましくは乳牛の乾乳を改善/容易化する薬剤の調製物のための少なくとも1回の経口ボーラスの対応する使用であって、このような少なくとも1回の経口ボーラスを、好ましくは最後の搾乳日および/または好ましくは乾乳前に、このような牛に投与する、上記対応する使用もまた、本発明により構成されることを意図する。
【0005】
本発明は、また、妊娠中および/または泌乳中の牛、好ましくは妊娠中および/または泌乳中の乳牛における乳生産を減少させる方法であって、少なくとも1回の経口ボーラスを、好ましくは最後の搾乳日および/または好ましくは乾乳前に、このような牛に投与することを含む、上記方法に関する。
妊娠中および/または泌乳中の牛、好ましくは妊娠中および/または泌乳中の乳牛における乳生産を減少させるための少なくとも1回の経口ボーラスの対応する使用であって、このような少なくとも1回の経口ボーラスを、好ましくは最後の搾乳日および/または乾乳前に、このような牛に投与する、上記対応する使用、妊娠中および/または泌乳中の牛、好ましくは妊娠中および/または泌乳中の乳牛における乳生産を減少させる方法で使用するための対応する少なくとも1回の経口ボーラスであって、このような少なくとも1回の経口ボーラスを、好ましくは最後の搾乳日におよび/または好ましくは乾乳前に、このような牛に投与する、上記対応する少なくとも1回の経口ボーラス、ならびに妊娠中および/または泌乳中の牛、好ましくは妊娠中および/または泌乳中の乳牛における乳生産を減少させる薬剤の調製物のための少なくとも1回の経口ボーラスの対応する使用であって、このような少なくとも1回の経口ボーラスを、好ましくは最後の搾乳日および/または好ましくは乾乳前に、このような牛に投与する、上記対応する使用もまた、本発明により構成されることを意図する。
【0006】
本発明は、また、牛、好ましくは乳牛の乳房における乳蓄積を減少させる方法であって、少なくとも1回の経口ボーラスを、好ましくは最後の搾乳日および/または好ましくは乾乳前に、このような牛に投与することを含む、上記方法に関する。
牛、好ましくは乳牛の乳房における乳蓄積を減少させるための少なくとも1回の経口ボーラスの対応する使用であって、このような少なくとも1回の経口ボーラスを、好ましくは最後の搾乳日におよび/または好ましくは乾乳前に、このような牛に投与する、上記対応する使用、牛、好ましくは乳牛の乳房における乳蓄積を減少させる方法で使用するための対応する少なくとも1回の経口ボーラスであって、このような少なくとも1回の経口ボーラスを、好ましくは最後の搾乳日および/または好ましくは乾乳前に、このような牛に投与する、上記対応する少なくとも1回の経口ボーラス、ならびに牛、好ましくは乳牛の乳房における乳蓄積を減少させる薬剤の調製物のための少なくとも1回の経口ボーラスの対応する使用であって、このような少なくとも1回の経口ボーラスを、好ましくは最後の搾乳日におよび/または好ましくは乾乳前に、このような牛に投与する、上記対応する使用もまた、本発明により構成されることを意図する。
【0007】
本発明は、また、牛、好ましくは乳牛の毎日の横臥時間を増加させる方法であって、少なくとも1回の経口ボーラスを、好ましくは最後の搾乳日におよび/または好ましくは乾乳前に、このような牛に投与することを含む、上記方法に関する。
牛、好ましくは乳牛の毎日の横臥時間を増加させるための少なくとも1回の経口ボーラスの対応する使用であって、このような少なくとも1回の経口ボーラスを、好ましくは最後の搾乳日におよび/または好ましくは乾乳前に、このような牛に投与する、上記対応する使用、牛、好ましくは乳牛の毎日の横臥時間を増加させる方法で使用するための対応する少なくとも1回の経口ボーラスであって、このような少なくとも1回の経口ボーラスを、好ましくは最後の搾乳日におよび/または好ましくは乾乳前に、このような牛に投与する、上記対応する少なくとも1回の経口ボーラス、ならびに牛、好ましくは乳牛の毎日の横臥時間を増加させる薬剤の調製のための少なくとも1回の経口ボーラスの対応する使用であって、このような少なくとも1回の経口ボーラスを、好ましくは最後の搾乳日におよび/または好ましくは乾乳前に、このような牛に投与する、上記対応する使用もまた、本発明により構成されることを意図する。
【0008】
本発明は、また、牛、好ましくは乳牛における軽度のおよび一時的な代謝性アシドーシスを乾乳時に誘導する方法であって、少なくとも1回の経口ボーラスを、好ましくは最後の搾乳日および/または好ましくは乾乳前に投与することを含む、前記方法に関する。
牛、好ましくは乳牛における軽度のおよび一時的な代謝性アシドーシスを誘導するための少なくとも1回の経口ボーラスの対応する使用であって、このような少なくとも1回の経口ボーラスを、好ましくは最後の搾乳日におよび/または好ましくは乾乳前に、このような牛に投与する、上記対応する使用、牛、好ましくは乳牛における軽度のおよび一時的な代謝性アシドーシスを誘導する方法で使用するための対応する少なくとも1回の経口ボーラスであって、このような少なくとも1回の経口ボーラスを、最後の搾乳日および/または好ましくは乾乳前に、このような牛に投与する、上記対応する少なくとも1回の経口ボーラス、ならびに牛、好ましくは乳牛における軽度のおよび一時的な代謝性アシドーシスを誘導する薬剤の調製物のための少なくとも1回の経口ボーラスの対応する使用であって、このような少なくとも1回の経口ボーラスを、好ましくは最後の搾乳日におよび/または好ましくは乾乳前に、このような牛に投与する、上記対応する使用もまた、本発明により構成されることを意図する。
【0009】
本発明は、また、牛、好ましくは乳牛における乾物摂取量(DMI)を減少させる方法であって、少なくとも1回の経口ボーラスを、好ましくは最後の搾乳日および/または好ましくは乾乳前に、このような牛に投与することを含む、上記方法に関する。
牛、好ましくは乳牛における乾物摂取量(DMI)を減少させるための少なくとも1回の経口ボーラスの対応する使用であって、このような少なくとも1回の経口ボーラスを、最後の搾乳日におよび/または好ましくは乾乳前に、このような牛に投与する、上記対応する使用、牛、好ましくは乳牛における乾物摂取量(DMI)を減少させる方法で使用するための対応する少なくとも1回の経口ボーラスであって、このような少なくとも1回の経口ボーラスを、最後の搾乳日におよび/または好ましくは乾乳前に、このような牛に投与する、上記対応する少なくとも1回の経口ボーラス、ならびに牛、好ましくは乳牛における乾物摂取量(DMI)を減少させる薬剤の調製物のための少なくとも1回の経口ボーラスの対応する使用であって、このような少なくとも1回の経口ボーラスを、好ましくは最後の搾乳日におよび/または好ましくは乾乳前に、このような牛に投与する、上記対応する使用もまた、本発明により構成されることを意図する。
【0010】
本発明は、また、牛、好ましくは乳牛における尿pHを低下させる方法であって、少なくとも1回の経口ボーラスを、好ましくは最後の搾乳日におよび/または好ましくは乾乳前に投与することを含む、上記方法に関する。
牛、好ましくは乳牛における尿pHを低下させるための少なくとも1回の経口ボーラスの対応する使用であって、このような少なくとも1回の経口ボーラスを、好ましくは最後の搾乳日におよび/または好ましくは乾乳前に、このような牛に投与する、上記対応する使用、牛、好ましくは乳牛における牛の尿pHを低下させる方法で使用するための対応する少なくとも1回の経口ボーラスであって、少なくとも1回の経口ボーラスを、好ましくは最後の搾乳日におよび/または好ましくは乾乳前に、このような牛に投与する、上記対応する少なくとも1回の経口ボーラス、ならびに牛、好ましくは乳牛における牛の尿pHを低下させる薬剤の調製のための少なくとも1回の経口ボーラスの対応する使用であって、このような少なくとも1回の経口ボーラスを、好ましくは最後の搾乳日におよび/または好ましくは乾乳前に、このような牛に投与する、上記対応する使用もまた、本発明により構成されることを意図する。
【0011】
本発明に従う利点は、下記の1つ以上である
-妊娠中および/または泌乳中の牛における乳生産の減少、好ましくはボーラス投与後少なくとも48時間;
-乳房における乳蓄積の減少およびそれによる乳房圧の低下、好ましくは乾乳後の数日間およびボーラス投与が乾乳の8時間~12時間前に行われた場合に;
-毎日の横臥時間の増加、好ましくは乾乳にした翌日に;
-乾乳時の軽度のおよび一時的な代謝性アシドーシスの誘導;
-乾物摂取量(DMI)の減少、好ましくは乾乳後の数日間;および/または
-ボーラス投与後の尿pHの低下。
【発明を実施するための形態】
【0012】
発明の詳細な説明
本発明の実施態様をさらに詳細に説明する前に、本明細書および添付の特許請求の範囲において使用されるように、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈がそうでないことを明確に指示しない限り、複数の参照を含むことに留意されたい。
他に定義されない限り、本明細書に使用される全ての技術的および科学的用語は、本発明が属する当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。全ての所定の範囲および値は、他に示さない限りまたは当業者によって他の方法で知られていない限り1~5%変化することができ、したがって、「約」という用語は、通常、本明細書および特許請求の範囲から省略した。本明細書に記載されたものと類似または同等の任意の方法および材料は、本発明の実施または試験において使用できるが、好ましい方法、装置および材料はここで説明する。本明細書に記載された全ての刊行物は、本発明に関連して使用され得る刊行物に報告されている物質、賦形剤、担体、および方法を説明し開示するために、本明細書中に参考として援用される。本明細書においては、本発明が先行発明のためにそのような開示に先行する権利がないことを容認するものとして解釈されるべきでない。
本発明の過程において、「ボーラス」は下記のように定義される:予防または治療のために投与される固形剤形。
本発明の過程において、「乾乳」は下記のように定義される:泌乳牛の搾乳の休止。
本発明の過程において、「乾乳を改善/容易化すること」は、下記のように定義される:乳生産のより迅速な減少。
【0013】
1つの態様において、本発明は、上記経口ボーラスを、好ましくは最後の搾乳日および/または好ましくは乾乳前に投与することにより、下記の効果の1つ以上をもたらす、本明細書に記載されたおよび特許請求された使用または本明細書に記載されたおよび特許請求された方法に関する:
(a)妊娠中および/または泌乳中の牛における乳生産の減少、好ましくはボーラス投与後の少なくとも48時間;および/または
(b)乳房における乳蓄積の減少およびそれによる乳房圧の低下、好ましくは乾乳後の数日間およびボーラス投与が乾乳の8時間~12時間前に行われた場合に;および/または
(c)毎日の横臥時間の増加、好ましくは乾乳にした翌日に;および/または
(d)乾乳時の軽度のおよび一時的な代謝性アシドーシスの誘導;および/または
(e)乾物摂取量(DMI)の減少、好ましくは乾乳後の数日間;および/または
(f)ボーラス投与後の尿pHの低下
【0014】
別の態様において、本発明は、上記ボーラスが経口の陰イオン塩含有ボーラスまたは酸産生ボーラスである、本明細書に記載されたおよび特許請求された使用または本明細書に記載されたおよび特許請求された方法に関する。
本発明の過程において、「陰イオン塩含有ボーラスまたは酸産生ボーラス」は、下記のように定義される:有効成分として、本明細書で定義されるような酸性化剤を含有するボーラス。
別の態様において、本発明は、上記経口の陰イオン塩含有ボーラスまたは酸産生ボーラスは、飼料添加剤/飼料サプリメントとして1種以上の酸性化剤を含む、本明細書に記載されたおよび特許請求された使用または本明細書に記載されたおよび特許請求された方法に関する。
本発明の過程において、「酸性化剤」は下記のように定義される:-経口投与された場合-牛の血液および/または尿のpHを血液では約pH7.44および尿では約pH8.30の正常な生理的値と比較して負の方向に変化させる物質。
別の態様において、本発明は、上記1種以上の酸性化剤が、塩化アンモニウム、塩化カルシウムおよび/または硫酸カルシウムからなる群から選択される、本明細書に記載されたおよび特許請求された使用または本明細書に記載されたおよび特許請求された方法に関する。
別の態様において、本発明は、上記1種以上の酸性化剤が、塩化アンモニウムと塩化カルシウムと硫酸カルシウムであり、より好ましくは10.4%(質量/質量)の塩化アンモニウムと51.9%(質量/質量)の塩化カルシウムと20.1%(質量/質量)の硫酸カルシウムである、本明細書に記載されたおよび特許請求された使用、または本明細書に記載されたおよび特許請求された方法に関する。
【0015】
別の態様において、本発明は、このような牛が、妊娠中のおよび/または泌乳中の牛、好ましくは妊娠中のおよび/または泌乳中のホルスタイン牛である、本明細書に記載されたおよび特許請求された使用または本明細書に記載されたおよび特許請求された方法に関する。
別の態様において、本発明は、上記経口ボーラスが、1回、2回、3回、4回以上、好ましくは最後の搾乳日および/または乾乳前に投与される、本明細書に記載されたおよび特許請求された使用または本明細書に記載されたおよび特許請求された方法に関する。
別の態様において、本発明は、上記経口ボーラスが、2回、より好ましくは最後の搾乳日および/または乾乳前に、より好ましくは乾乳前の最後の搾乳の約12時間~8時間前に投与される、本明細書に記載されたおよび特許請求された使用または明細書に記載および特許請求された方法に関する。
さらに別の態様において、本発明は、1種以上の酸性化剤を含む、好ましくは塩化アンモニウム、塩化カルシウムおよび/または硫酸カルシウム、より好ましくは塩化アンモニウムと塩化カルシウムと硫酸カルシウム、さらに好ましくは5%(質量/質量)~15%(質量/質量)の塩化アンモニウムおよび40%(質量/質量)~60%(質量/質量)の塩化カルシウムと15%(質量/質量)~25%(質量/質量)の硫酸カルシウム、最も好ましくは10.4%(質量/質量)の塩化アンモニウムと51.9%(質量/質量)の塩化カルシウムと20.1%(質量/質量)の硫酸カルシウムからなる群から選択される、固形ボーラス形態でのカルシウム含有調製物に関する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】治療を受けない(B0);
最後の搾乳後0日目に1回の酸産生ボーラスを投与する(B1);および
最後の搾乳後0日目に2回の酸産生ボーラスを投与する(B2)妊娠中および泌乳中の乳牛における乳生産を示す。誤差バーは、各時点でのSEMを示す。アスタリスクは、対照とボーラスとの間の差(P<0.05)を示す。
【
図2】ボーラス適用により影響を受けた尿pHを示す[黒い菱形は治療を受けない乳牛に対応し(対照);白い四角は経口ボーラスを受けた乳牛に対応する(ボーラス)]。誤差バーは、各時点でのSEMを示す。アスタリスクは、対照とボーラスとの間の差(P<0.05)を示す。
【
図3】ボーラス適用により影響を受けた乾物摂取量を示す[黒い菱形は治療を受けない乳牛に対応し(対照);白い四角は経口ボーラスを投与した乳牛に対応する(ボーラス)]。誤差バーは、各時点でのSEMを示す。アスタリスクは、対照とボーラスとの間の差(P<0.05)を示す。
【
図4】ボーラス適用により影響を受けた乳量を示す[黒い菱形は治療を受けない乳牛に対応し(対照);白い四角は経口ボーラスを投与した乳牛に対応する(ボーラス)]。誤差バーは、各時点でのSEMを示す。アスタリスクは、対照とボーラスとの間の差(P<0.05)を示す。
【
図5】ボーラス適用により影響を受けた乾乳に対する乳房圧(kg・m/s
2)を示す[黒いバーは治療を受けない乳牛に対応し(対照);白いバーは経口ボーラスを投与した乳牛に対応する(ボーラス)]。誤差バーは、各時点でのSEMを示す。*は差(P<0.05)を示し、一方†は対照とボーラスとの間で異なる傾向(P<0.10)を示す。
【
図6】ボーラス適用により影響を受けた横臥(マインド/日)に充てられた時間を示す[黒い菱形は治療を受けない乳牛に対応し(対照);白い四角は経口ボーラスを投与した乳牛に対応する(ボーラス)]。誤差バーは、各時点でのSEMを示す。アスタリスクは差(P<0.05)を示す。
【実施例】
【0017】
下記の実施例は、本発明をさらに説明するのに役立つが、本明細書に開示された本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0018】
実施例1
本実験の目的は、乳量について泌乳牛に異なる回数の酸産生ボーラスを投与することの効果を決定することであった。乳量に対する効果を評価するために、本実験は、妊娠中のおよび泌乳中の乳牛において乾乳予定日の前の週に実施した。
【0019】
動物、実験設計および測定
最初に、84頭の泌乳中および妊娠中(28.1±6.17kg/日の乳量および妊娠222±3.2日目)のホルスタイン牛を、パリティ(初産29頭および経産55頭)によってブロック化し、次の3種の治療の1つにランダムに(Excel, Microsoft Corp.,レドモンド,ワシントン州のランダムジェネレータ関数を使用して)割り当てた:乾乳5日前に1回のボーラスを適用した(B1);乾乳5日前に5分間隔で2回ボーラスを適用した(B2);および乾乳5日前に偽のボーラスを適用した(B0)。各196gに計量した経口ボーラスのミネラル組成物(Bovikalc Dry, Boehringer Ingelheim Vetmedica GmbH, ドイツ)は、NH4Cl(10.4%)、塩化カルシウム(CaCl2、51.9%)および硫酸カルシウム(CaSO4、20.1%)であった。各ボーラスに約20gの塩化アンモニウムを用意した。
それらの泌乳の終わりに乳牛を登録し(341+32.2DIM)、毎日の乳生産を電子ミルクメーター(Westfalia Surge Metatron Milk Meter:GEA Farm Technologies, バルセロナ, スペイン)を使用して乾乳前の15日間記録した。動物の登録のための選択基準は、目視調査、毎日の乳量>15kg、臨床的乳房炎の徴候がない、および4つの機能クォーターに基づく良好な健康全般であった。
全ての登録された乳牛は、フリーストールを備えた牛舎内で飼育され、自由に水が飲め、NRC(2001)の推奨に従って泌乳TMRを1日に2回与えられ、1日に3回搾乳された。
【0020】
統計分析
毎日の乳生産に対するボーラス投与の潜在的な効果は、SASのPROC MIXED手順(version 9.2, SAS Institute Inc., ノースカロライナ州ケアリー)を使用した反復測定によって混合効果モデルで分析した。このモデルの固定された部分は、治療効果、治療適用に関連する日(乾乳5日前)およびそれらの2方向相互作用を考慮し、ランダム部分は、ブロック(パリティ)と治療中の牛の効果を考慮した。時間は、一次自己回帰分散-共分散行列を使用してそれが最低ベイズ情報量基準値を生じるように反復測定としてモデルに入力した。乾乳に関連する-15日と-6日の間の平均乳生産を共変量として使用した。治療は動物レベルで適用したので、実験単位は動物であった。
B0治療からの1頭の乳牛は、疾患のために研究から除去した。
【0021】
乳生産
乳生産が最も減少したボーラス適用がB2においてボーラス投与の2日後に達成したので、乳生産は治療と経過した日数の間の相互関係(P<0.01)に影響を受けた(
図1)。全体として、これらの結果は、妊娠中および泌乳中の乳牛に対する2回の酸産生ボーラスの経口投与が適用2日後に>2kg/日の乳生産を減少させることを証明する。
【0022】
実施例2
本実験の目的は、乳量に対する2回の酸産生ボーラスの投与の効果を確証し、乾物摂取量(DMI)および尿pHに対する潜在的な影響を決定することであった。
【0023】
動物および実験設計
16頭(初産8頭および経産8頭)の泌乳中および妊娠中(妊娠154±19.4日目)のホルスタイン牛(273±56.4DIM、および31.7±5.59kg/日の乳量)を、各9日間の2期間からなるクロスオーバー実験に登録し、サプリメントなし(対照))または2回の経口ボーラスによるNH4ClをCaCl2とCaSO4と混ぜ合わせたサプリメント(Bovikalc Dry, Boehringer Ingelheim Vetmedica GmbH, ドイツ)からなる2回の治療を各実験期間のゼロ日目に5分間隔で投与した(ボーラス)。
治療段階を開始する前に、全ての乳牛の乳量および飼料摂取量を、ベースライン参照期間として毎日9日間モニターした。次いで、乳牛をボーラスまたは対照のいずれかにランダムに割り当てた。9日後、治療群をクロスオーバー設計に従い逆にした。
フリーストールを備えた牛舎内で乳牛を飼育し、1日に2回搾乳し、自由に水が飲めるようにし、NRC(2001)の推奨に従ってバランスのとれたTMRの形態で与えた。
【0024】
測定
Bach et al.(2017)に記載されているようにその日の時間と訪問毎に消費された飼料の量を記録した電子フィードビン(MooFeeder, MooSystems,スペイン)を使用したこの研究を通じて毎日の飼料摂取量をモニターした。搾乳毎に個々の乳生産を電子ミルクメーター(AfiMilk, Afikim Ltd.,イスラエル)を使用して測定した。
手の刺激により全ての乳牛から使用するボーラス適用に関連する0、8、24、および48時間に尿試料を採取し、サンプリングする前にpH4.0および7.0緩衝液で調整した携帯型pHメーター(CRISON pH25, CRISON Instruments SA,スペイン)を使用して尿pHを直ちに測定した。
【0025】
統計分析
毎日の乳生産、飼料摂取量、および尿pHを、治療の固定効果、研究日、およびそれらの2方向相互作用と、乳牛のランダム効果、期間、およびランダム効果としてクロスオーバーにおける配列を加えて考慮した混合効果モデルを使用して分析した。時間は、一次自己回帰分散-共分散行列をそれが最低ベイズ情報基準値を生じるように反復測定としてモデルに入力した。実験の最初の9日間(ベースライン)の毎日の乳生産と飼料摂取量を平均し、統計モデルに共変量として入力した。全ての分析は、SASにより行った。治療は動物レベルで適用されたので、実験単位は動物であった。
【0026】
尿pH
ボーラス乳牛の尿pHは、ポーラス適用後ゼロ時の8.04±0.05から治療の8時間後および24時間後にそれぞれ7.37±0.05および7.55±0.05に低下し(P<0.05)、その後、ゼロ時間と同様の値に戻った。サンプリング時間の間の対照乳牛においては、尿pHの差は見られず、サンプリング期間の間中~8.07であった(
図2)。
【0027】
動物の性能
乾物摂取量(DMI)は、対照乳牛(25.9±0.50kg/日)と比較してボーラス乳牛(24.8±0.50kg/日)において減少した(P<0.01)。治療と日数の間に相互作用(P<0.05)があり、治療適用後の最初の3日間でDMIが減少した(
図3)。
実施例1で見られたように、ボーラス適用後の2日目に乳生産が>2kg/日減少し、本実施例ではボーラス適用後3日目も乳生産が減少した(
図4)。乳量の減少は、ボーラス乳牛で見られるDMIの減少によって少なくとも部分的に説明され得る。
【0028】
実施例3
動物および実験設計
Girona,スペインにおける2ヶ所の商業酪農場から合計152頭のホルスタイン牛をこの研究に登録した:SAT Sant Mer.(ジローナ, スペイン)からの104頭の乳牛およびMas Duran(ジローナ, スペイン)からの48頭の乳牛。全ての乳牛は、実験のために使用された動物の保護を規定するEEC指令86/609に従って扱われた。この研究は、また、IRTAの動物管理委員会により承認され、監督された。登録された全てを最初にパリティによってブロック化し、次いで2種の治療にランダムに(Excel, Microsoft Corp., ワシントン州レドモンドからのランダム関数を使用して)割り当てた。実験的な治療は、サプリメントを投与しない対照群(対照)(n=76)と、乾乳前の最後の搾乳の約12~8時間前に5分間隔で投与されたCaCl2およびCaSO4と混ぜ合わせたNH4Clを(Bovikalc Dry, Boehringer Ingelheim Vetmedica GmbH, ドイツ)を供給する2回の経口ボーラス(n=76)を投与する治療群(ボーラス)からなっていた。
【0029】
乳牛を乾乳の5日前にこの研究に登録し、乾乳後10日間モニターした。登録のための選択基準は、目視調査、≧220日目の妊娠、乾乳時の1日の乳量>20kg、臨床的乳房炎の徴候がない、および4つの機能クォーターに基づく良好な健康全般であった。SAT Sant Mer農場からの全ての乳牛は、フリーストールを備えた牛舎内に収容され、おがくず寝わらによる囲いに移動させて乾乳牛用TMR配給が自由に与えられるように変わる乾乳の時点まで泌乳牛用TMR配給と水が自由に与えられた。Mas Duranからの乳牛は、SAT Sant Merと同じ飼養法であったが、泌乳と乾乳期間の両方の間、寝わらとしてわらと共に堆肥を敷いたパック牛舎に収容された。いずれの農場でも、1日に3回2×10の搾乳場で、約8時間間隔で泌乳牛を搾乳し、電子メーターを使用して各搾乳中に個々の毎日の乳量を自動的に記録した。乾乳時に、両農場からの乳牛は乳の突然の休止にさらされ、セフチオフル(Vibactan(登録商標), Vibac, ポルトガル)の乳内注入で治療した。乾乳時いずれの乳牛にもティートシールを適用しなかった。この研究の過程で、全ての動物および収容設備を朝と午後に2回検査して、一定の飼料と水の利用可能性を保証した。
【0030】
測定
全ての乳牛は、1分間隔で乾乳の5日前から10日後までの乳牛の活動を測定するための電子データロガー(Hobo Pendant G Acceleration Data Logger, Onset Computer Corporation, マサチューセッツ州ポカセット)を備えていた。各データロガーは、vetラップ(Eurimex(登録商標)flex, Divasa-Farmavic, SA, バルセロナ, スペイン)を使用して一方の後肢に取り付けられ、HOBOロガーのX軸が右を指し、Y軸が地面に垂直であり、Z軸が矢状面から離れるような位置で配置された。HOBOロガーにより収集されたデータは、Onset HOBOwareソフトウェア(Onset Computer Corp., マサチューセッツ州ボーン, 米国)を使用してダウンロードされ、Pythonで書かれたスクリプトを使用して処理され、Yunta et al.(2012)により記載されているように1日および1頭あたりの横臥合計時間を計算した。
乾乳の0、8、24、および48時間後に10mlのバキュテナーチューブ(BD Vacutainer Systems, プリマス, 英国)を使用して尾骨血管により治療グループにつき25頭のランダムに選ばれた乳牛から血液試料を採取して、pH、Ca、P、プロラクチン(PRL)、非エステル化脂肪酸(NEFA)およびβ-OH-ブチレート(BHBA)を決定した。次いで、血清を収集し、さらに分析するまで-20℃で保存した。
【0031】
血清中のPRL濃度の測定は、ELISA(PRL/LTH)ELISAキット(Cusabio Biotech Co., Whuan, 中国)により実施した。血液CaおよびP濃度は、原子吸光光度法により決定した。血清中の血液BHBA濃度を比色法およびキットAutokit 3-HB(Wako Chemicals USA Inc., ヴァージニア州リッチモンド)により測定した。血清中のNEFA濃度は、キットNEFA-HR(2)(Wako Chemicals USA Inc., ヴァージニア州リッチモンド)による比色法を使用して測定した。
乾乳後、連続3日間の間に約6~8時間間隔で各乳牛についてMLの有無を1日2回記録した。乳漏れは、1つ以上の乳頭からの乳の滴下または流れの観察として定義した。乾乳後3日間毎日のように乳房圧を決定した。乳房圧のために、デジタル痛覚計(Commander, JTech Medical Industries, ユタ州ミッドベール)を痛覚計の先端から2cm離して2cmのウォッシャーを溶接することにより変更し、以前にBach et al.(2015)に記載されているように使用した。簡単に言えば、測定は、痛覚計の先端が皮膚に対して90°の角度で配置された後左右半体乳房の尾腹側に力を加えること、および乳房の皮膚がウォッシャーに接触したときに力を加えることが止まることから構成された。この手順は、10%未満の変動係数を有する平均値が得られるまで、それぞれに3回の反復により右左両方のレアクォーターについて実施した。また、60DIMまで電子メーターを使用して各乳牛について個々の毎日の乳量を測定した。
【0032】
統計分析
治療を動物レベルで適用したので、実験単位は動物であった。乳房圧の測定(2つの後部クォーターで行われた)は、乳牛とサンプリング時間内で平均した後、統計分析を行った。
MLに関するものを除いて、本実験からの全てのデータは、SASのPROC MIXED手順を使用して反復測定により混合効果モデルで分析した。モデルの固定部分は、治療、日数、およびそれらの2方向相互作用の効果を考慮し、ランダム部分は、乳牛、ブロック(パリティ)および群れの効果を考慮した。全てのモデルを、最も低いベイズ情報基準値を生じるように一次の自己回帰分散共分散構造にかけた。
加えて、乾乳の5日前に収集された横臥行動に関するデータを平均し、共変量として使用して、乾乳後10日間で横臥時間について治療の潜在的な影響を評価した。使用される混合効果モデルは、共変量としての乾乳前の横臥時間を使用して、治療の固定効果、乾乳に関連した日数、およびそれらの2方向相互作用、および反復測定としての日数と、乳牛、ブロック(パリティ)、および群れのランダム効果を加えて考慮した。
MLの観察は、バイナリ応答変数(l=乳漏れ有り;0=乳漏れ無し)として分類され、治療、時間、およびその2方向相互作用の固定効果と、乳牛および群れのランダム効果を含めたStata(Version 14.2, StataCorp LLC, テキサス州カレッジステーション)を使用した混合効果ロジスティック回帰モデルで処理した。
乾乳5日前の平均乳量および妊娠中の日数は、それぞれ、対照乳牛で26.3±4.50kgおよび228.8±4.31日であり、ボーラス乳牛で27.4±5.66kgおよび227.7±5.32日であった。乾乳前の乳量および妊娠中の日数は、治療群の間で異なることはなかった。
【0033】
乳生産および乳房の健康
乳生産が記録された日数で(最初の60DIM)、治療間の乳生産の差異は観察されず、平均乳量が、ボーラス乳牛について41.5±1.09kg/日および対照乳牛について41.5±1.03kg/日であった。本発明者らの知見によれば、次の泌乳における乳生産に対する乾乳時の陰イオン塩サプリメントの潜在的な効果についての情報は利用可能ではない。本明細書の結果は、乾乳前の陰イオン塩サプリメントが次の泌乳における乳生産に悪影響を及ぼさなかったことを示している。
104頭の乳牛(各治療群について52頭)は、出産後200日の間乳房の健康をモニターした。これらの乳牛のうち、29頭(27%)は、少なくとも1頭の乳房炎のケースを示した。乳房炎の発生率は治療により影響を受けず(P=0.79)、対照の乳牛は27.5%の乳房炎の発生率を有し、ボーラスの乳牛は26.4%の乳房炎の発生率を有した。乳房炎に対するリスク因子であるMLの発生に対する影響の欠如は、おそらく、出産後の乳房の健康に差がない理由の一つであった。
【0034】
乳房圧
乳房圧は、両方のグループにおいて乾乳後の時間とともに低下した(P<0.05)。全体的に、乾乳後の平均乳房圧は、対照(61.9±1.72kg・m/s
2)乳牛よりもボーラス(55.0±1.73kg・m/s
2)乳牛が低かった(P<0.05)。
乳房圧の差は、乾乳後24時間と48時間で有意(P<0.05)であるが、72時間では、ボーラス乳牛は対照乳牛よりも低い乳房圧を有する(P<0.10)傾向があった(
図5)。実施例1および実施例2に関連して、これらの結果は、乾乳前の酸産生ボーラスの適用が乳生産を減少させるという仮説を支持し、実施例3に示されるように、低い乳房圧が指示するように乳房における乳蓄積の減少がもたらされた。
【0035】
横臥行動
1日の合計の横臥時間は治療(P=0.98)に影響されなかった;しかしながら、対照乳牛と比較して、乾乳後の最初の24時間の間にさらに85分間横臥するボーラスグループにおける乳牛においては乾乳に関連して治療と時間との間で相互作用(P<0.05)が生じた(
図6)。乾乳後早期の対照乳牛とボーラス乳牛との間の毎日の横臥時間のこの差は、ボーラスよりも対照の乳房圧が高いことに起因する可能性がある。
横臥期間の回数は治療(P=0.38)に影響されなかった;しかしながら、治療と時間の間の相互作用(P<0.05)は、対照乳牛(10.8±0.54期間/日)よりも少ない数の横臥期間(9.5±0.55期間/日)を有するときにボーラス乳牛では乾乳後2日目に見られた。ボーラス乳牛に関連した対照乳牛におけるより頻繁な横臥期間は、また、対照乳牛を強制して起立させることができる乳房圧に起因する何らかの不快感の指標となり得る。対照乳牛とボーラス乳牛の間で横臥期間の平均持続時間に差(P=0.88)は見られなかったが、ボーラスグループ内の乳牛は、対照乳牛(72.7±4.81分/日)よりも乾乳後の2日間(82.3±4.81分/日)横臥期間が長かった(P<0.05)。
【0036】
参考文献
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(2) Bach A et al., J. Dairy Sci. 2017, 101:1-10
(3) EP 0 943 246
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(10) US 5,360,823
(11) Yunta CI et al., J. Dairy Sci. 2012, 95:6546-6549