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特許7154405半導体レーザおよび半導体レーザの製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-06
(45)【発行日】2022-10-17
(54)【発明の名称】半導体レーザおよび半導体レーザの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/22 20060101AFI20221007BHJP
   H01S 5/10 20210101ALI20221007BHJP
   H01S 5/042 20060101ALI20221007BHJP
   H01S 5/02 20060101ALI20221007BHJP
【FI】
H01S5/22
H01S5/10
H01S5/042 614
H01S5/02
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021518137
(86)(22)【出願日】2019-10-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-13
(86)【国際出願番号】 EP2019076927
(87)【国際公開番号】W WO2020078744
(87)【国際公開日】2020-04-23
【審査請求日】2021-05-21
(31)【優先権主張番号】102018125496.2
(32)【優先日】2018-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】599133716
【氏名又は名称】エイエムエス-オスラム インターナショナル ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】ams-OSRAM International GmbH
【住所又は居所原語表記】Leibnizstrasse 4, D-93055 Regensburg, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アリ ムハンマド
(72)【発明者】
【氏名】ケーニッヒ ハラルト
(72)【発明者】
【氏名】ゲルハルト スヴェン
(72)【発明者】
【氏名】レル アルフレド
【審査官】右田 昌士
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/129618(WO,A1)
【文献】特開平06-037404(JP,A)
【文献】特開2017-228772(JP,A)
【文献】特開2010-021491(JP,A)
【文献】特開2004-140203(JP,A)
【文献】特開平10-242570(JP,A)
【文献】特開2007-189075(JP,A)
【文献】特開2008-091910(JP,A)
【文献】米国特許第04940672(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0273563(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0268775(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0064311(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第105633795(CN,A)
【文献】独国特許出願公開第102011100175(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00 - 5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ放射(L)を生成するための半導体積層体(2)を有する半導体レーザ(1)であって、
- 前記半導体積層体(2)は、AlInGaNをベースとするとともに、上面(20)に少なくとも1つの幾何学的構造化(5)を備え、
- 前記半導体積層体(2)の共振器(4)は、前記半導体積層体の2つの対向するファセット(3)によって境界が定められ、前記ファセット(3)は光学的に有効な共振器端面(42)を備え、
- 前記半導体積層体(2)に電気的に接触するための電気コンタクトパッド(71)が前記上面(20)に配置され、
- 前記幾何学的構造化(5)は、前記ファセット(3)の少なくとも1つから距離を置いて終了し、
- 前記共振器端面(42)の少なくとも1つは、前記半導体積層体(2)からの材料除去から間隔を空けて配置され、
前記半導体積層体(2)の前記上面(20)前記ファセット(3)の少なくとも1つの隣に、音響層(61)が設けられ、前記音響層(61)は、前記半導体積層体(2)よりも低い音速を有する少なくとも1つの金属で作製される
半導体レーザ(1)。
【請求項2】
前記ファセット(3)は、破断によって生成された滑らかな平面であり、
前記ファセット(3)は、前記ファセット(3)上の平面視において長方形である、
請求項1に記載の半導体レーザ(1)。
【請求項3】
前記幾何学的構造化(5)は、前記ファセット(3)のそれぞれに向かって拡大部(51)を備えるリッジ導波路(50)を備え、前記半導体レーザ(1)は、屈折率誘導型のレーザであり、
前記ファセット(3)における前記拡大部(51)は、前記上面(20)における前記半導体積層体(2)の全幅に亘って延在する、
請求項1または2に記載の半導体レーザ(1)。
【請求項4】
前記上面(20)の平面視で見て、前記拡大部(51)は、台形状および/または漏斗形状である、
請求項3に記載の半導体レーザ(1)。
【請求項5】
前記拡大部(51)は、それぞれ、前記ファセット(3)で直接的に領域に限定され、前記拡大部(51)の外側の前記リッジ導波路(50)は、一定の均一な幅を備え、
前記拡大部(51)のそれぞれの長さは、前記共振器(4)の長さの10%以下である、
請求項3または4に記載の半導体レーザ(1)。
【請求項6】
前記半導体レーザ(1)は、屈折率誘導のない利得誘導型のレーザである、
請求項1または2に記載の半導体レーザ(1)。
【請求項7】
前記幾何学的構造化(5)は、寄生レーザモードを反射させるための少なくとも2つのトレンチ(52)を備え、
前記トレンチ(52)は、前記共振器(4)に沿って延在する、
請求項6に記載の半導体レーザ(1)。
【請求項8】
前記幾何学的構造化(5)は、前記上面(20)の平面視で見て、少なくとも1つのH字形状の突出部(54)を備え、
前記H字のセンターバーは、前記共振器(4)に沿って延在する、
請求項1から7のいずれか一項に記載の半導体レーザ(1)。
【請求項9】
前記上面(20)に前記センターバーおよび前記共振器(4)が偏心して配置されるように、前記H字は、平面視で見たときに非対称な形状である、
請求項8に記載の半導体レーザ(1)。
【請求項10】
前記幾何学的構造化(5)は、前記半導体積層体(2)を前記上面(20)で全周に亘って囲むフレーム(53)を備え、
前記半導体積層体(2)の最大厚さは、前記フレーム(53)にある、
請求項1から9のいずれか一項に記載の半導体レーザ(1)。
【請求項11】
前記音響層(61)は、前記半導体レーザ(1)の電気コンタクトパッド(71)から距離を置いて配置され、関連する前記ファセット(3)においてストリップに限定される、
請求項1から10のいずれか一項に記載の半導体レーザ(1)。
【請求項12】
前記ファセット(3)において、および前記ファセット(3)の平面視で見たときに、動作中に生成された前記レーザ放射(L)を反射および/またはカップリングアウトするように構成された光学的に有効な共振器端面(42)の、前記半導体積層体(2)からの材料除去への距離(D)は、40μm以上および/または前記共振器端面(42)の平均直径の5倍以上である、
請求項1から11のいずれか一項に記載の半導体レーザ(1)。
【請求項13】
前記ファセット(3)の少なくとも1つに、関連する前記共振器端面(42)から間隔を空けてイニシエータ領域(62)が生成され、前記イニシエータ領域(62)は、前記半導体積層体(2)を破断するための初期領域として構成され、
前記ファセット(3)は、前記イニシエータ領域(62)において、関連する前記共振器端面(42)よりも大きな粗さを備える、
請求項1から12のいずれか一項に記載の半導体レーザ(1)。
【請求項14】
複数の共振器(4)を備え、前記半導体レーザ(1)は、複数のレーザユニット(11)を有するレーザバーである、
請求項1から13のいずれか一項に記載の半導体レーザ(1)。
【請求項15】
キャリア構造(72)を有するキャリア(70)をさらに備え、
前記半導体積層体(2)は、前記上面(20)で前記キャリア(70)に取り付けられ、
前記キャリア構造(72)は、前記半導体積層体(2)の前記幾何学的構造化(5)に対応し、前記キャリア(70)および前記半導体積層体(2)は、5μm以下の横方向の公差で互いに調整されうる、
請求項1から14のいずれか一項に記載の半導体レーザ(1)。
【請求項16】
請求項1から15のいずれか一項に記載の半導体レーザ(1)の製造方法であって、
- 前記半導体積層体(2)を成長させるステップと、
- 材料除去によって前記半導体積層体(2)を構造化し、少なくとも1つの幾何学的構造化(5)が形成されるステップと、
- 破断によってファセット(3)を生成するステップと、
を備え、
前記破断は、前記半導体積層体(2)の材料が以前に除去されていない前記半導体積層体(2)の領域でのみ行われる、
製造方法。
【請求項17】
請求項13に記載の半導体レーザ(1)が製造される、請求項16に記載の方法であって、
前記半導体積層体(2)の成長基板(27)の上面(20)および下面(28)が、前記ファセット(3)で平面になるように、イニシエータ領域(62)がレーザ照射によって生成される、
方法。
【請求項18】
前記音響層(61)は、パラジウム、プラチナ、および/または金からなり、
前記音響層(61)は、前記上面(20)に前記ファセット(3)まで直接配置され、
前記音響層(61)は、前記電気コンタクトパッド(71)から距離を置いて配置され、前記音響層(61)は、電気的な機能を何ら果たさず、
前記音響層(61)は、関連する前記ファセット(3)においてストリップに限定され、前記ファセット(3)全体に沿って延びており、
前記音響層(61)は、前記半導体積層体(2)に直接配置され、
前記音響層(61)の厚さは、50nm以上2μm以下であり、
前記上面(20)から離れる方向において、前記電気コンタクトパッド(71)は、前記音響層(61)の上に立ち上がっている、
請求項1から15のいずれか一項に記載の半導体レーザ(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
半導体レーザが特定される。さらに、半導体レーザの製造方法が特定される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
解決すべき課題は、高い光出力で動作可能な半導体レーザを特定することである。
【課題を解決するための手段】
【0003】
この課題は、特に、独立特許請求項の特徴を有する半導体レーザと製造方法によって解決される。好ましいさらなる発展は、従属請求項の対象である。
【0004】
本明細書に記載の半導体レーザは、特に、レーザ放射に関連する領域において、エッチングなどの後続の材料除去が行われていないファセットを備える。そのため、破断(breaking)によって高品質なファセットを生成することができる。
【0005】
少なくとも1つの実施形態によれば、半導体レーザは、半導体積層体を備える。半導体積層体は、レーザ放射を生成するための1つ以上の活性ゾーンを含む。レーザ放射の最大強度の波長は、例えば、近紫外のスペクトル領域または青色のスペクトル領域にあり、例えば、340nm以上の波長および/または480nm以下または540nm以下の波長である。あるいは、レーザ放射は、緑色、黄色、または赤色のスペクトル領域、または近赤外のスペクトル領域に最大強度の波長を備える。
【0006】
半導体積層体の配列は、III-V族化合物半導体材料をベースにするのが好ましい。半導体材料は、例えば、AlIn1-n-mGaNのような窒化物系化合物半導体材料、またはAlIn1-n-mGaPのようなリン化物系化合物半導体材料、またはAlIn1-n-mGaAsまたはAlGaIn1-n-mAs1-kのようなヒ素系化合物半導体材料であり、それぞれの場合において、0≦n≦1、0≦m≦1およびn+m≦1であるとともに、0≦k<1である。好ましくは、0<n≦0.8、0.4≦m≦1であるとともに、0≦k≦0.5が、半導体積層体の少なくとも1つの層または全ての層に適用される。この状況において、半導体積層体は、ドーパントとともに、追加の成分を備えてもよい。しかしながら、簡潔を旨として、たとえ少量の追加の物質によって部分的に置換および/または補完されてもよい場合であっても、半導体積層体の結晶格子の本質的な構成要素のみ、すなわち、Al、As、Ga、In、NまたはPが特定される。
【0007】
好ましくは、半導体積層体は、材料系AlIn1-n-mGaN(略してAlInGaN)をベースとし、近紫外光または青色光を生成するように構成される。
【0008】
少なくとも1つの実施形態によれば、半導体積層体は、上面に少なくとも1つの幾何学的構造化を備える。幾何学的構造化とは、特に、半導体積層体を成長させた後に、半導体積層体から材料を除去することである。例えば、構造化は、半導体積層体上にメサのフランクを備える。しかし、構造化の領域では、半導体積層体がなお部分的に存在する。換言すると、構造化の領域において半導体積層体は限定された厚さを有しており、したがって、上面も備える。
【0009】
少なくとも1つの実施形態によれば、半導体レーザは、共振器を備える。共振器は、半導体積層体内に完全にまたは大部分において延在する。共振器は、半導体積層体の2つの好ましくは対向するファセットによって境界が定められる。
【0010】
少なくとも1つの実施形態によれば、ファセットは、光学的に有効な共振器端面を備える。共振器端面とは、ファセットのうち、共振器内に導かれるレーザ放射と接する領域、またはレーザ放射が反射される領域もしくはレーザ放射が通過する領域に近い領域である。レーザ放射に近いとは、特にリッジ導波路に近いことを意味する。
【0011】
少なくとも1つの実施形態によれば、構造化は、ファセットの少なくとも1つから距離を置いて終了する。好ましくは、構造化は両方のファセットから距離を置いて終了する。つまり、構造化は、1つまたは複数のファセットまで延在しない。
【0012】
少なくとも1つの実施形態によれば、共振器端面の少なくとも一方、または好ましくは両方の共振器端面は、半導体積層体からの材料除去から間隔を空けている。したがって、共振器端面の領域のファセットは、専ら破断によって生成される。このようにして、低い欠陥密度のみからなり、高い光出力を可能とする高品質のファセットが達成されうる。
【0013】
半導体レーザは、モノモードレーザであっても、マルチモードレーザであってもよい。
【0014】
少なくとも1つの実施形態では、半導体レーザは、レーザ放射を生成するための半導体積層体を備える。半導体積層体は、上面に少なくとも1つの幾何学的構造化を備える。共振器は、半導体積層体内に配置されており、半導体積層体の2つの、例えば、対向するファセットによって境界が定められ、ファセットは、光学的に有効な共振器端面を備える。構造化は、ファセットの少なくとも1つから距離を置いて終了する。共振器端面の少なくとも1つは、半導体積層体からの材料除去、特にアウトカップリングのために設定された共振器端面から間隔を空けている。
【0015】
レーザダイオードは、投影用途、照明用途、または材料加工といった用途の中核となる部品である。1平方センチメートルあたり10MW以上の範囲にある、レーザダイオードの高い光出力密度により、レーザダイオードのさらなる応用が可能である。これに対して、従来の発光ダイオード(LED)は、1平方センチメートルあたり1kW未満の範囲の光出力密度を備える。
【0016】
しかしながら、レーザダイオードは、非常に高い光出力密度を持つため、ファセットの損傷のリスクが高まる。損傷を避けるために、あるいは損傷のリスクを減らすために、劈開(cleaving)によって生成された無欠陥のファセットが求められる。高品質なファセットでなければ、高い信頼性をもって高い光出力密度を達成することができない。
【0017】
レーザ放射の焦点におけるファセット領域に凹凸や損傷があるレーザダイオードは、しきい値電流の増加、スロープ効率とも呼ばれる差動効率の低下、および電気光学効率の低下の問題を抱える。加えて、レーザファセットの欠陥や損傷は、レーザの遠方光場に強い影響を与え、レーザダイオードの製造工程における歩留まりを劇的に低下させる。さらに、レーザ部品の長期安定性は、レーザファセットの品質に大きく依存する。最悪の場合、レーザダイオードは動作中に壊滅的な光学的損傷を受ける可能性がある。このような損傷は、Catastrophic Optical Damage、または略してCODとも呼ばれる。
【0018】
本明細書の半導体レーザでは、破断によって生成されたファセットを、ファセット上の欠陥を最小限に抑えて高品質に製造することができる。本明細書では、劈開と破断を同義語として使用する。
【0019】
従来のリッジ導波路技術を用いたインデックス誘導レーザでは、半導体材料のエッチング領域によってインデックス誘導が達成され、半導体積層体から材料を取り除くことでリッジ導波路が得られる。光モード領域の半導体材料をエッチングした後、リッジ導波路の両側のこれらの領域にパッシベーションが適用され、パッシベーションは低屈折率を備える。レーザファセットを形成するための破断や劈開は、リッジ導波路上のこれらの凹凸領域を通過するため、典型的には欠陥密度が増加した領域となり、これがレーザの性能、歩留まり、および安定性に強い影響を与える。
【0020】
特に、本明細書に記載の半導体レーザでは、ファセット近傍のリッジ導波路は、上方から見るとハンマー形状になっており、ファセットに向かってリッジ導波路の幅が急激に大きくなっていることがわかる。これは、アウトカップリングファセットおよび/または反射ファセットに向かって適用される。ファセットを生成するための破断時に、半導体積層体に凹凸がないため、欠陥密度が大幅に低減された、より高品質なファセットを共振器端面の領域に生成することが可能になった。加えて、ファセットの製造生成時に、より優れた工程制御と工程の安定性を達成することができる。さらに、半導体レーザの性能データを改善することができる。
【0021】
本明細書で説明される半導体レーザでは、製造工程でファセット部の材料除去を避けることができる。このような材料除去は、例えば、ウェットケミカルやドライケミカルによるエッチングが挙げられる。すなわち、特に、リッジ導波路を形成するためのドライケミカルエッチングやメサフランクを形成するためのドライケミカルエッチングは、従来の半導体レーザよりも短い領域で共振器に沿って行われる。これにより、半導体積層体の平坦な領域のファセットを高品質に破断することができる。
【0022】
ファセットが生成される領域は、コーティングされていなくてもよいし、コーティングされていてもよい。特に、コーティングは、ブレーク波速度のマッチングを実現するために用いることができる。これにより、半導体材料中のブレーク波をより狙った仕方で導くことができ、より均一なブレークを達成することができる。このようなコーティングは、例えば、シリコン、II-VI族半導体材料、またはIII-N族半導体材料といった半導体材料、酸化シリコン、窒化シリコン、酸窒化シリコン、酸化亜鉛、ITO、または酸化アルミニウムといった絶縁層で作製されている。しかしながら、好ましくは、このようなコーティングは、少なくとも1つの金属で作製される。材料の組み合わせ、特に、金属層の材料と半導体層の材料の組み合わせを使用してもよい。
【0023】
半導体積層体の上面に形成されたフラットなネットワーク構造は、ステルスダイシング技術と組み合わせて使用してもよい。ステルスダイシングでは、レーザ放射が材料に照射され、レーザ放射の焦点が材料内にある。材料は、このレーザ照射に対して透過性である。レーザの焦点において局所的に高い光出力密度が得られるため、材料に局所的な損傷が発生する。焦点を合わせて材料をスキャンすることで、材料の中に特定の損傷領域を製造することができる。ステルスダイシングを使用することによってリーク電流を低減することができる。このアプローチは、半導体レーザの裏面にトレンチを形成することにも対応している。
【0024】
本明細書で説明される半導体レーザでは、ファセットがドライケミカルやウェットケミカルによるエッチング段階の影響を受けずに、効率的なインデックス誘導が達成される。その結果、低いしきい値電流を達成することができる。レーザダイオードの高差動効率および高電気光学効率を達成することができる。製造工程の高い歩留まりを達成することができる。遠方光場の最適化が可能である。デバイスの安定性が向上し、CODは高出力密度でのみ発生する。
【0025】
さらに、サブマウントなどのキャリアに向けては、キャリアに取り付ける際により小さい製造公差を実現することができ、キャリアと半導体積層体の間のギャップをより小さくすることができるので、放熱性が改善され、それにより、より良いファセット冷却が達成される。また、キャリアに対する半導体積層体の傾きが低減され、より正確に制御されうる。
【0026】
少なくとも1つの実施形態によると、ファセットは破断によって生成された滑らかな平面である。劈開とも呼ばれる破断により、ファセットはより低いナノメートル範囲の粗さで生成することができる。例えば、ファセットの平均粗さは、特に共振器の端面の領域において、20nmまたは10nmまたは5nm以下である。
【0027】
少なくとも1つの実施形態によれば、ファセットは、ファセット上の平面視において、長方形または正方形または台形である。特に、ファセットは、ファセット上の平面視において、くぼみや突出部を備えない。
【0028】
少なくとも1つの実施形態によると、構造化は、リッジ導波路を備える。リッジ導波路は、共振器内のレーザ放射をインデックス誘導するように構成されている。リッジ導波路によって、共振器が定義される。換言すれば、半導体レーザは、インデックス誘導されたレーザである。
【0029】
少なくとも1つの実施形態によれば、リッジ導波路は、一方のファセットに向かう拡大部、または、好ましくは両方のファセットに向かう拡大部を備える。少なくとも1つの拡大部は、好ましくは、半導体積層体の全幅に亘って、特に上面で、ファセットにおいて延在する。すなわち、半導体積層体の成長方向に垂直な方向および共振器に垂直な方向において、ファセットにおける拡大部は、半導体積層体全体に亘って延在する。
【0030】
少なくとも1つの実施形態によれば、拡大部は、上面の平面視で見たときに、長方形、台形、および/または漏斗形状である。漏斗形状は、特に、平面視で見たときに、拡大部が湾曲した外縁部を備えてもよいことを含む。このように、ファセットに向かう拡大部の幅の増加は、連続的であり、微分可能な関数によって記述することができる。
【0031】
少なくとも1つの実施形態によれば、1つまたは複数の拡大部は、関連するファセットで直接領域に限定される。拡大部の外側では、リッジ導波路は、好ましくは、一定の均一な幅を備える。すなわち、ファセットにおける拡大部は、リッジ導波路の幅における唯一の変化であってもよい。
【0032】
少なくとも1つの実施形態によれば、1つまたは複数の拡大部の長さは、共振器の全長の10%または5%または3%以下である。つまり、共振器に沿って、拡大部が長さのわずかな部分を占めているだけである。これにより、拡大部があるにも関わらず効率的なインデックス誘導を達成することができる。
【0033】
少なくとも1つの実施形態によれば、活性ゾーンは、少なくとも1つの拡大部の領域において、電流が供給されないか、または弱くしか供給されない。特に、少なくとも1つの拡大部には、電気コンタクトパッドがなく、および/または電流拡散層がない。電気コンタクトパッドが少なくとも1つの拡大部に適用される場合、好ましくは、コンタクトパッドと拡大部との間に電気的に絶縁された層が存在する。これにより、少なくとも1つの拡大部の領域内の活性ゾーンにおいて、レーザ放射が生成されない、または殆ど生成されないようにすることができる。
【0034】
少なくとも1つの実施形態によれば、半導体レーザは、利得誘導型のレーザである。すなわち、レーザ放射は、屈折率誘導なしに、半導体積層体において誘導される。この屈折率誘導は、横方向、共振器軸に垂直な方向、および半導体積層体の成長方向に垂直な方向を参照する。レーザ放射のビーム経路は、一方ではファセットによって定義され、他方では電流が供給される半導体積層体の領域によって定義される。好ましくは、ファセットの部分では、半導体積層体に電流が直接印加されない。
【0035】
少なくとも1つの実施形態によると、構造化は、少なくとも2つのトレンチを備える、またはそのようなトレンチで構成される。これらのトレンチは、特に寄生レーザモードを反射するように構成される。断面を見ると、このようなトレンチは、好ましくは、斜めの側壁を備える。つまり、断面を見ると、V字形または台形の形状であってもよい。
【0036】
少なくとも1つの実施形態では、トレンチは共振器に沿って延びている。特に、トレンチは共振器に平行に延びている。しかし、トレンチはパターニングの一部である、またはパターニングを形成するため、トレンチはファセットまでは延びていない。例えば、トレンチの長さは、共振器の全長の少なくとも80%である。
【0037】
少なくとも1つの実施形態によれば、構造化は、上面の平面視において、1つ以上のH字形の突出部を備える、または構成する。好ましくは、このH字のセンターバー(中央の棒)は、共振器に沿って延びている。H字のエッジレッグ(両側の脚)は、好ましくは、上面の平面視で見て、ファセットに位置する。
【0038】
少なくとも一つの実施形態によれば、H字は、上面の平面視で見て非対称な形状をしている。すなわち、H字のセンターバー、ひいては共振器は、上面に偏心して配置されている。H字のセンターバーは、再び上面の平面視で見て、好ましくは、ファセットに対して垂直に配向される。
【0039】
少なくとも1つの実施形態によると、構造化は、フレームを備える。また、構造化は、フレームで構成されてもよい。フレームは、好ましくは、上面側の半導体積層体を全周に亘って包囲する。すなわち、フレームは、上面で半導体積層体の周方向外縁部を形成してもよい。
【0040】
少なくとも一つの実施形態によれば、半導体積層体の最大厚さは、フレームに存在する。この場合、リッジ導波路は、フレームと同じ厚さを有していてもよく、最大厚さは必ずしもフレームに限定されない。あるいは、フレームがリッジ導波路の厚さよりも小さい厚さを備えていてもよい。最大厚さは、構造化を形成する、または構造化を備えるH字において存在してもよい。
【0041】
少なくとも1つの実施形態によれば、少なくとも1つの音響層が、半導体積層体の上面のファセットの少なくとも1つに設けられている。音響層は、好ましくは、半導体積層体よりも低い音速を備える。例えば、音響層におけるファセットを破壊する際の音速は、半導体積層体における音速の20%以上100%以下、または50%以上80%以下である。このように、少なくとも1つの音響層を設けることで、より均一なファセットの破断が可能となる。
【0042】
少なくとも1つの実施形態によれば、音響層は、半導体レーザの電気コンタクトパッドから距離をおいて配置される。これは、特に、音響層が少なくとも1つの金属層を備える場合、または少なくとも1つの金属層から構成される場合に適用される。すなわち、音響層は、この場合、電気的な機能を何ら果たさない。
【0043】
少なくとも1つの実施形態によれば、音響層は、関連するファセットにおけるストリップに限定される。したがって、音響層は、平面視で見たときに長方形の形状を有することができる。いくつかの音響層が存在する場合、これらは好ましくは、半導体積層体から離れる方向に互いに直接続く、および/または、互いに一致させることができる。音響層は、半導体積層体に直接適用されてもよいし、音響層と半導体積層体の間にパッシベーション層などのさらなる層があってもよい。しかしながら、好ましくは、音響層は、半導体積層体に直接配置される。
【0044】
少なくとも1つの実施形態によれば、動作中に発生するレーザ放射の反射および/またはカップリングアウトのために構成された光学的に有効な共振器端面の、半導体積層体からの材料除去に向けた最小の距離は、40μm以上または100μm以上または150μm以上または200μm以上である。あるいは、または加えて、この距離は、150μm以下または200μm以下または0.4mm以下である。あるいは、または加えて、この距離は、共振器の端面の平均直径の3倍、5倍、10倍以上である。この距離は、好ましくは、関連するファセットの平面視で決定される。特に、最小の距離は、対象の共振器端面と関連するファセットを縁取る半導体積層体の側面との間である。
【0045】
共振器の端面の平均直径は、例えば、関連するファセットでのレーザ放射の平均モード直径よりも大きいか等しい。このモード直径は、例えば、レーザ出力の95%が意図された動作に収まるような、対象となるファセットにおける最小の楕円の直径である。この楕円は、共振器の端面に等しくてもよい。
【0046】
言い換えれば、材料の除去は、共振器端面から遠く離れており、材料の除去による共振器端面への損傷の影響は小さいか無視できる。好ましくは、ファセットには、材料の除去が全くない。
【0047】
少なくとも1つの実施形態によれば、少なくとも1つのイニシエータ領域が、1つ以上のファセットで、関連する共振器端面から間隔を空けて生成される。少なくとも1つのイニシエータ領域は、半導体積層体を破断するための初期領域として構成される。好ましくは、イニシエータ領域は、ステルスダイシングによって生成される。
【0048】
ステルスダイシングでは、半導体積層体から材料が全く除去されない、または殆ど除去されない。したがって、好ましくは、イニシエータ領域は、半導体積層体からの材料の除去を意味するものではなく、半導体積層体の結晶構造の局所的な破壊を意味するものにすぎない。
【0049】
少なくとも1つの実施形態によれば、イニシエータ領域の関連ファセットは、関連する共振器端面よりも粗くなっている。イニシエータ領域の粗さは、半導体積層体の結晶構造の局所的な破壊に起因する。しかしながら、好ましくは、イニシエータ領域は、可能な限り平坦で滑らかであり、可能な限り低い粗さを有する。
【0050】
少なくとも一つの実施形態によれば、半導体レーザは、複数の共振器を備える。すなわち、半導体レーザは、複数のレーザユニットを有するレーザバーとして形成されていてもよい。レーザユニットは、電気的に並列または直列に設計されていてもよく、また、個別にまたはグループで互いに独立して電気的に動作可能であってもよい。
【0051】
少なくとも1つの実施形態によれば、半導体レーザは、キャリアを備える。キャリアは、半導体積層体の成長基板とは異なる。
【0052】
少なくとも1つの実施形態によると、キャリアは、キャリア構造を備える。キャリア構造は、半導体積層体に面するキャリアの側面に位置し、上面を向いている。半導体積層体は、上面でキャリアに取り付けられ、上面がキャリアに面する。
【0053】
少なくとも1つの実施形態によれば、キャリア構造は、半導体積層体の構造化に対応しており、または半導体積層体の構造化の少なくとも一部に対応している。例えば、キャリア構造と半導体積層体の構造化は、平面視で見たときに部分的に、特に上面の縁部において一致している。
【0054】
キャリアの構造と半導体積層体の構造化により、キャリアと半導体積層体は、改善された精度を伴って互いに調整されうる。例えば、キャリアのファセットと対応する側面とは、5μm以下または3μm以下の公差で共通の平面内にある。
【0055】
さらに、半導体レーザの製造方法が特定される。製造方法は、上記の1つまたは複数の実施形態に関連して記載されたレーザを製造するために使用される。したがって、製造方法の特徴は、半導体レーザについても開示されており、その逆もまた然りである。
【0056】
少なくとも1つの実施形態では、製造方法は、好ましくは示された順序で以下のステップ、
- 半導体層を連続して成長させるステップと、
- 少なくとも1つの幾何学的構造化が形成されるように、材料除去によって半導体積層体を構造化するステップと、
- 破断によってファセットを生成するステップであって、破断は、半導体積層体の材料が以前に除去されていない半導体積層体の領域でのみ行われる、生成するステップと、
を備える。
【0057】
少なくとも1つの実施形態によれば、破断のためのイニシエータ領域は、レーザ放射によって生成される。特に、ステルスダイシングを使用してイニシエータ領域を生成する。
【0058】
少なくとも1つの実施形態によれば、半導体積層体用の成長基板の上面および下面は、ファセットにおいて平面的である。言い換えれば、ファセットにおける上面と下面は、直線状の境界縁部を形成している。
【0059】
以下では、本明細書に記載の半導体レーザおよび本明細書に記載の製造方法について、例示的な実施形態により、図面を参照してより詳細に説明する。同一の参照符号は、個々の図において同一の要素を特定する。ただし、縮尺を有する参照は示されておらず、むしろ、より良い理解のために個々の要素が誇張して示される場合がある。
【図面の簡単な説明】
【0060】
図1A図1Aは、本明細書で説明される半導体レーザの例示的な実施形態の平面図を示す。
図1B図1Bは、本明細書で説明される半導体レーザの例示的な実施形態の側面図を示す。
図1C図1Cは、図1Aおよび図1Bの半導体レーザの模式的な側面図を示す。
図2A図2Aは、本明細書で説明される半導体レーザの例示的な実施形態の平面図を示す。
図2B図2Bは、本明細書で説明される半導体レーザの例示的な実施形態の側面図を示す。
図3A図3Aは、本明細書で説明される半導体レーザの例示的な実施形態の平面図を示す。
図3B図3Bは、本明細書で説明される半導体レーザの例示的な実施形態の側面図を示す。
図4図4は、本明細書で説明される半導体レーザの例示的な実施形態の模式的な側面図を示す。
図5図5は、本明細書で説明される半導体レーザの例示的な実施形態の模式的な側面図を示す。
図6A図6Aは、本明細書で説明される半導体レーザを製造するための方法ステップの模式的な平面図を示す。
図6B図6Bは、本明細書で説明される半導体レーザを製造するための方法ステップの模式的な断面図を示す。
図7図7は、本明細書で説明される半導体レーザの例示的な実施形態を示す模式的な平面図を示す。
図8図8は、本明細書で説明される半導体レーザの例示的な実施形態を示す模式的な平面図を示す。
図9A図9Aは、本明細書で説明される半導体レーザの例示的な実施形態の模式的な平面図を示す。
図9B図9Bは、本明細書で説明される半導体レーザの例示的な実施形態の模式的な側面図を示す。
図10図10は、本明細書で説明される半導体レーザの例示的な実施形態の模式的な平面図を示す。
図11図11は、本明細書で説明される半導体レーザの例示的な実施形態の模式的な側面図を示す。
図12A図12Aは、本明細書で説明される半導体レーザの例示的な実施形態の模式的な側面図を示す。
図12B図12Bは、本明細書で説明される半導体レーザの例示的な実施形態の模式的な側面図を示す。
図13図13は、本明細書で説明される半導体レーザの例示的な実施形態の模式的な平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0061】
図1は、半導体レーザ1の例示的な実施形態を示す。半導体レーザ1は、レーザ放射Lを生成するための活性ゾーン22を有する半導体積層体2を備える。好ましくは、半導体積層体2は、材料系AlInGaNをベースとする。半導体積層体2は、やはり成長基板27上に配置されていてもよい。例えば、成長基板27は、GaN基板である。
【0062】
半導体積層体2の上面20には、構造化5が形成されている。構造化5は、リッジ導波路50を含む。共振器4は、リッジ導波路50によって定義される。リッジ導波路50を介して、半導体積層体2内のレーザ放射Lのインデックス誘導が行われる。
【0063】
共振器4は、半導体積層体2の2つのファセット3によって長手方向に境界が定められる。ファセット3は、それぞれ全面にわたって平面状であり、破断によって生成されている。ファセット3上の平面図では、ファセット3は長方形である。
【0064】
各ファセット3は、共振器端面42を含む。共振器端面42は、レーザ放射Lがファセット3で反射し、および/またはファセット3から出てくる、ファセット3の領域である。したがって、共振器端面42は、図1Cを参照してファセット3の平面図で見たときに、共振器4および活性ゾーン22の領域に位置する。ファセット3の残りの領域は、光学的に本質的に不活性である。平面図で見ると、共振器端面42は、例えば、楕円形または円形である。
【0065】
ファセット3を全面的に高品質に生成するために、リッジ導波路50は、ファセット3と共振器端面42に向かって拡大部51を構成している。拡大部51は、上から見ると長方形の形状をしており、図1Aを参照すると、ファセット3の全体に沿って上面20に沿って延在する。リッジ導波路50は、拡大部51とともにH字形の突出部54を形成し、これが構造化5を形成している。
【0066】
そのため、ファセット3には、成長後に半導体積層体2の材料除去が行われた領域がない。特に、リッジ導波路50のためのエッチングは、ファセット3まで延在しない。
【0067】
活性ゾーン22がリッジ導波路50の下に位置することは可能である。すなわち、活性ゾーン22は、好ましくは構造化5の影響を受けない。
【0068】
任意選択で、電気コンタクトパッド71は、リッジ導波路50の上に延在して配置される。特に、図1Bを参照されたい。電気コンタクトパッド71は、好ましくは、1つまたは複数のメタライゼーションによって形成される。上から見ると、コンタクトパッド71は、長方形の形状でもよい。電気コンタクトパッド71は、リッジ導波路50の領域においてファセット3に向かって膨らみを備えてもよい。拡大部51は、コンタクトパッド71から解放されている。コンタクトパッド71は、好ましくは、リッジ導波路50の両側で上面20に延びている。
【0069】
任意選択で、さらなる電気コンタクトパッド73が、半導体積層体2とは反対側の成長基板27の下面28に配置される。このように、半導体レーザ1は、2つの反対側の主面から電気的に接触可能である。
【0070】
平面図で、共振器4に垂直な方向に見ると、拡大部51は、好ましくは、リッジ導波路50から200μm以上または100μm以上または50μm以上離れたところまで延在する。このように、ファセット3に対して横方向に延在する半導体レーザ1の側面25は、リッジ導波路50から比較的離れた位置にある。共振器4に沿った拡大部51の延長Tは、好ましくは、1μm以上または3μm以上である。あるいは、または加えて、拡大部51のこの延長Tは、100μm以下または30μm以下である。あるいは、または加えて、共振器4に沿った拡大部51のこの延長Tは、それぞれの場合において、好ましくは、共振器4の全長Rの10%以下または5%以下である。対応するものは、好ましくは、すべての例示的な実施形態においても適用される。
【0071】
図1Cでは、横たわる楕円形の共振器端面42と、ファセット3の平面図で見たファセット3における材料除去または材料加工との間の距離Dが比較的大きく、好ましくは、100μm以上であることがさらに説明される。このため、材料除去や材料加工の領域での材料欠陥は、共振器端面42の半導体材料に大きな影響を与えない。
【0072】
上面20には、好ましくは、材料除去または材料加工がないので、この場合の距離Dは、例えば破断、エッチング、またはソーイングなどの手段によって製造される側面25に向かって測定される。さらに、リッジ導波路50に隣接する領域における上面20の領域に向かうこの距離は、拡大部51がなければほぼゼロになることが、図1Cで分かる。リッジ導波路50を示す図1Cの点線を参照されたい。
【0073】
図2には、上面20のファセット3のそれぞれに沿って音響層61が拡大部51上に適用されることが示される。音響層は、ファセットが破壊されたときに、破壊波を導くために使用される。音響層61は、音速に適応した材料で構成されていることが好ましい。例えば、音響層61は、二酸化ケイ素、Si、SiON、ZnO、ITOもしくはAl、または絶縁層の組み合わせで作製される。さらに、音響層61が、シリコンなどの半導体材料、II-VI族の半導体材料、またはIII-N族の半導体材料からなることも可能である。好ましくは、音響層61は、チタン、パラジウム、ニッケル、プラチナおよび/または金といった少なくとも1つの金属で作製される。
【0074】
音響層61の厚さは、好ましくは、少なくとも10nmまたは50nmである。あるいは、または加えて、音響層61の厚さは2μm以下または1μm以下である。図2Bに示されるように、上面20から離れる方向において、コンタクトパッド71が音響層61の上に立ち上がることが可能である。あるいは、上面20から離れる方向において、コンタクトパッド71と音響層61とが互いに面一になっていてもよいし、音響層61がコンタクトパッド71の上に立ち上がっていてもよい。
【0075】
他のすべての点で、図1に関する記述は図2にも適用できる。
【0076】
図3の例示的な実施形態では、半導体レーザ1は、さらに、ファセット3のそれぞれにイニシエータ領域62を備えている。イニシエータ領域62から出発して、ファセット3は破断によって生成される。イニシエータ領域62は、例えば、ファセット3の端部の表面20上に配置される。
【0077】
好ましくは、イニシエータ領域62は、ステルスダイシング、レーザスクライビングによってレーザ放射を介して、またはダイヤモンドスクライブによって生成される。イニシエータ領域62の深さは、好ましくは、100nm以上、および/または、半導体積層体2の厚さ、または図3に描かれていない成長基板27と一緒になった半導体積層体2の厚さの90%以下である。ファセット3に平行な方向へのイニシエータ領域62の延長は、好ましくは2μm以上または10μm以上または30μm以上、並びに/あるいは、200μm以下または100μm以下である。
【0078】
このようなイニシエータ領域62は、半導体レーザ1の製造時にウェハ複合体に各半導体レーザに設けられていてもよく、または、一定数の半導体レーザごとに1つの半導体レーザ、例えば2つの半導体レーザごとに、または5つの半導体レーザごとにのみあってもよい。
【0079】
共振器4に平行な方向のトレンチの幅は、比較的小さいことが好ましく、例えば、0.2μm以上または0.5μm以上、並びに/あるいは20μm以下または10μm以下である。
【0080】
図4では、イニシエータ領域62が、上面20ではなく、下面28に位置していることが示される。これに対して、図5では、イニシエータ領域27が、半導体積層体2と成長基板27の化合物内に位置していることが示される。これは、特に、イニシエータ領域62がステルスダイシングによって作成されることによって可能となる。図3に関して説明されたイニシエータ領域62の寸法に関する説明は、図4および図5にも適宜適用される。
【0081】
図3から図5に関連して図示されるようなイニシエータ領域62は、他のすべての例示的な実施形態においても存在しうる。
【0082】
図6Aには、いくつかの半導体レーザ1がなお互いに直接隣接しているウェハ複合体10が図示される。破断ライン81に沿って、ファセット3が生成される。個片化ライン82に沿って、半導体レーザ1を共振器4に平行な方向に個片化することができる。個片化ライン82に沿った個片化は、例えば、破断でもあるが、ソーイングやレーザ照射といった他の方法でも行うことができる。
【0083】
図6Aの線A-Aに沿って、図6Bに断面図を示す。ステルスダイシングを用いて個片化ライン82に沿ってイニシエータ領域62が作成されていることが図示される。
【0084】
図6Bに示されているように、半導体レーザ1は、リッジ導波路50を備える。さらに、寄生レーザモードおよび/または迷光を反射または吸収して取り除くことができるトレンチ52が設けられる。さらに、図6Aを参照すると、上面20の半導体レーザ1を全周に亘って囲む周方向のフレーム53が設けられている。このように、破断ライン81および個片化ライン82は、材料が除去されていない半導体積層体2の領域のみを通って延在する。
【0085】
他のすべての例示的な実施形態と同様に、コンタクトパッド71が半導体積層体2の広い領域に亘って延在することが可能である。半導体積層体2の局所的な電流供給のみを可能にするために、次いで、好ましくは、パッシベーション層63が適用される。パッシベーション層63は、例えば、酸化シリコンなどの酸化物から作製され、例えば、20nm以上の厚さおよび/または800nm以下の厚さを備えてもよい。
【0086】
図6に示されているようなそのような追加のトレンチ52およびフレーム53は、すべての例示的な実施形態においても存在し得る。
【0087】
図7に示す例示的な実施形態の半導体レーザ1では、拡大部51の幅は、まず、ファセット3に向かう方向に直線的に増加し、その後、急激な幅の増加が生じる。これにより、拡大部51は、上面20の平面図で見て、台形領域と長方形領域とを備える。共振器4に沿って見ると、台形領域の延長は、例えば、長方形領域の延長の2倍以上および/または10倍以下である。
【0088】
このような拡大部51の形状により、特に光出力の高いモノモードレーザを得ることができる。好ましくは、そのような拡大部51は、図7の左半分に示すように、両方のファセット3に存在する。対応する拡大部51は、他のすべての例示的な実施形態においても存在してもよい。
【0089】
上面20に垂直な方向における拡大部51の厚さは、リッジ導波路50の厚さと等しいことが好ましいが、それとは異なる値であってもよい。例えば、リッジ導波路50および/または拡大部51は、活性ゾーン22から離れる方向において、0.2μm以上または0.5μm以上または1μm以上、並びに/あるいは5μm以下または3μm以下の厚さを備える。成長基板27上に成長した半導体積層体2の総厚さは、例えば、4μm以上および/または12μm以下である。
【0090】
図7から逸脱して、図8には、拡大部51が実際のリッジ導波路50にキンクなしで安定して融合することが図示される。他のすべての点で、図7に関する記述は、図8にも適用される。
【0091】
図9では、例示的な実施形態において、半導体レーザ1が利得誘導型のレーザであることが示されている。この場合も、ファセット3に延在するエッチングまたは他の材料の除去は行われていない。イニシエータ領域62は、ファセット3に垂直に配向された側面25上に存在してもよく、ファセット3まで延在せず、成長基板27とともに半導体積層体2内に配置されてもよい。寄生モードを回避するために、図9の半導体レーザ1は、好ましくは、パターニングを形成することができる、図示されていない側面25上の斜面を備える。
【0092】
図10では、利得誘導型レーザが、上面20内の共振器4の両側にトレンチ52を構成していることが示されている。このように、周方向のフレーム53が存在する。トレンチ52は、上面20に対して垂直に、および、共振器4に対して垂直に見たときの断面において、例えば、V字形状または台形状である。なお、コンタクトパッド71は、トレンチ52よりもファセット3に近い位置に延在することも可能である。
【0093】
図11には、半導体レーザ1がさらにキャリア70を備えていることが示される。キャリア70は、例えば、サブマウントであり、半導体レーザ1に接触するための電気的構造を備えてもよい。コンタクトパッド71は、ボンディング手段74を介してキャリア70に接続されている。ボンディング手段74は、例えば、はんだである。このように、半導体積層体2の上面20は、キャリア70に面する。
【0094】
ファセット3に沿って延びる拡大部51により、共振器4に平行な回転軸を中心に半導体積層体2が傾くリスクが低減される。そのため、半導体積層体2をキャリア70の上側に高精度で平行に配置することができる。
【0095】
図12Aおよび図12Bは、半導体積層体2をキャリア70に取り付ける方法を示す。キャリア70は、例えばトレンチの形態のキャリア構造72を備える。あるいは、キャリア構造72は、エレベーションによって形成されてもよい。
【0096】
図12Bは、例えば、コンタクトパッド71がキャリア70にはんだ付けされると、キャリア構造72によって一種のセルフアライメントが生じることを示す。これは、共振器4に平行な方向に小さな製造公差を達成できることを意味する。例えば、ファセット3がキャリア70の側面と面一になる精度は、1μmから5μmの範囲内である。ファセット3の少なくとも1つがキャリア70と面一になることが望まれない場合、キャリア70に対するファセット3の特定の所望のオーバーハングを設定するために、キャリア構造72を非対称に設計することもできる。
【0097】
図13の例示的な実施形態では、半導体レーザ1は、レーザバーである。したがって、半導体レーザ1は、複数のレーザユニット11を備える。レーザユニット11は、互いに独立して電気的に制御可能であってもよいし、一緒に電気的に動作可能であってもよい。拡大部51は、好ましくは、レーザバーのファセット3に沿って完全に延在する。
【0098】
図2に示す音響層61、図3図6のイニシエータ領域62、および図7および図8の拡大部51、さらには図11および図12に示されるキャリア70は、それぞれ、例示的な実施形態において互いに組み合わせて存在してもよい。
【0099】
本発明は、前記の例示的な実施形態に基づく説明によって、例示的な実施形態に限定されるものではない。むしろ、本発明は、任意の新しい特徴、また、任意の特徴の組み合わせを包含し、特に、この特徴またはこの組み合わせ自体が特許請求の範囲または例示的な実施形態で明示的に規定されていない場合でも、特許請求の範囲における任意の特徴の組み合わせおよび例示的な実施形態における任意の特徴の組み合わせを備える。
【0100】
本特許出願は、ドイツ特許出願10 2018 125 496.2の優先権を主張するものであり、その開示内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【符号の説明】
【0101】
1 半導体レーザ
10 ウェハ複合体
11 レーザユニット
2 半導体積層体
20 上面
22 活性ゾーン
25 側面
27成長基板
28 下面
3 ファセット
4 共振器
42 共振器端面
5 構造化
50 リッジ導波路
51 拡大部
52 トレンチ
53 フレーム
54 H字形状の突出部
61 音響層
62 イニシエータ領域
63 パッシベーション層
70 キャリア
71 電気コンタクトパッド
72 キャリア構造
73 さらなる電気コンタクトパッド
74 ボンディング手段
81 破断ライン
82 個片化ライン
D 材料除去部と共振器端面との距離
L レーザ照射
R 共振器の全長
T 共振器に沿った拡大部の延長
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11
図12A
図12B
図13