(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-06
(45)【発行日】2022-10-17
(54)【発明の名称】ロボットハンド
(51)【国際特許分類】
B25J 15/08 20060101AFI20221007BHJP
【FI】
B25J15/08 J
(21)【出願番号】P 2022531621
(86)(22)【出願日】2021-09-08
(86)【国際出願番号】 JP2021032987
【審査請求日】2022-05-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】白土 浩司
(72)【発明者】
【氏名】横小路 泰義
【審査官】稲垣 浩司
(56)【参考文献】
【文献】特許第5590355(JP,B2)
【文献】特開2006-198748(JP,A)
【文献】国際公開第2013/008310(WO,A1)
【文献】特開2018-192612(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00 - 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
把持対象物を把持するロボットハンドであって、
第1指部と、前記第1指部と対向する第2指部と、を有する指部と、
ロボットのアームに設けられる基部と、
前記基部に接続され、前記第1指部および前記第2指部のうちの少なくとも一つを回転駆動する駆動部と、
を備え、
前記第1指部は、
前記基部に接続される第1リンク部と、
前記第1リンク部に接続される第2リンク部と、
前記第2リンク部に接続される第3リンク部と、
前記第1リンク部と前記第2リンク部とを回転可能に支持する第1受動関節部と、
前記第2リンク部と前記第3リンク部とを回転可能に支持
し、前記第1受動関節部と連動せずに動作する第2受動関節部と、
前記第1リンク部と前記第2リンク部とを基本姿勢になるように保持する第1弾性体と、
を備えることを特徴とするロボットハンド。
【請求項2】
前記駆動部は、前記第1指部の前記第1リンク部を回転駆動する
ことを特徴とする請求項1に記載のロボットハンド。
【請求項3】
第2指部は、
前記基部に接続される第4リンク部と、
前記第4リンク部に接続される第5リンク部と、
前記第4リンク部と前記第5リンク部とを回転可能に支持する第3受動関節部と、
前記第4リンク部と前記第5リンク部とを基本姿勢になるように保持する第2弾性体と、
を備えることを特徴とする請求項2に記載のロボットハンド。
【請求項4】
前記第1弾性体の剛性は、前記第1リンク部が水平より閉じた状態になり、かつ前記第2リンク部が重力方向に一致する状態を、前記基本姿勢となるよう設定されている
ことを特徴とする請求項2に記載のロボットハンド。
【請求項5】
前記第2リンク部および前記第3リンク部のうちの少なくとも前記第2リンク部が開く方向への回転を規制する第1ストッパを設ける
ことを特徴とする請求項2または3に記載のロボットハンド。
【請求項6】
前記第3リンク部は、基端側が太く、先端側に向かって細くなる形状をした第1指腹部を備える
ことを特徴とする請求項2から4の何れか一つに記載のロボットハンド。
【請求項7】
前記第3リンク部は、背面部および指腹部を有し、
前記背面部が前記第2リンク部の中心軸と平行な平面を有し、
前記指腹部の基端側はおもて面側に突出する凸部形状になっており、前記指腹部の先端側は、先細り形状を呈している
ことを特徴とする請求項2から4の何れか一つに記載のロボットハンド。
【請求項8】
前記第3リンク部は、自重で垂れ下がった姿勢において、第2受動関節部よりも上側まで延び、かつ第2受動関節部よりも背面側に突出する突出部を有する
ことを特徴とする請求項2から4の何れか一つに記載のロボットハンド。
【請求項9】
前記第3リンク部の前記第2受動関節部から先端側は、先細り形状であり、
前記第3リンク部の前記第2受動関節部から先端側における基端部は、背面側およびおもて面側に突出している
ことを特徴とする請求項8に記載のロボットハンド。
【請求項10】
前記第1弾性体よりも剛性が小さく、前記第2リンク部と前記第3リンク部とを基本姿勢になるように保持する第3弾性体をさらに備える
ことを特徴とする請求項2から9の何れか一つに記載のロボットハンド。
【請求項11】
前記ロボットの前記アームに固定されるロボット固定部と、
前記ロボット固定部と前記基部とを回転可能に支持する第4受動関節部と、
前記ロボット固定部と前記基部とを基本姿勢になるように保持する第3弾性体と、
をさらに備える
ことを特徴とする請求項2から10の何れか一つに記載のロボットハンド。
【請求項12】
前記第1指部は、
前記第2リンク部が開く方向への回転を規制する第2ストッパをさらに備え、
前記第2指部は、
前記基部に接続される第6リンク部と、
前記第6リンク部に接続される第7リンク部と、
前記第7リンク部に接続される第8リンク部と、
前記第6リンク部と前記第7リンク部とを回転可能に支持する第5受動関節部と、
前記第7リンク部と前記第8リンク部とを回転可能に支持する第6受動関節部と、
前記第6リンク部と前記第7リンク部とを基本姿勢になるように保持する第4弾性体と、
前記第7リンク部が開く方向への回転を規制する第3ストッパと、
を備え、
前記第1指部は、
前記基部に対し前記第1リンク部を回転可能に支持する第7受動関節部、
を備え、
前記第2指部は、
前記基部に対し前記第6リンク部を回転可能に支持する第8受動関節部、
を備え、
前記駆動部は、前記第7受動関節部および前記第8受動関節部を回転駆動する
ことを特徴とする請求項1に記載のロボットハンド。
【請求項13】
前記第2指部は、
前記基部に接続される第9リンク部と、
前記第9リンク部に接続される第10リンク部と、
前記第9リンク部と前記第10リンク部とを回転可能に支持する第9受動関節部と、
前記第9リンク部と前記第10リンク部とを基本姿勢になるように保持する第5弾性体と、
を備え、
前記駆動部は、前記第2指部の前記第9リンク部を回転駆動し、
前記第1指部は、
前記基部に対し前記第1リンク部を回転可能に支持する第10受動関節部と、
前記基部と前記第1リンク部とを基本姿勢になるように保持する第6弾性体と、
を備える
ことを特徴とする請求項1に記載のロボットハンド。
【請求項14】
前記第1指部は、
前記第2リンク部が開く方向への回転を規制する第4ストッパをさらに備え、
前記第2指部は、
前記基部に接続される第11リンク部と、
前記第11リンク部に接続される第12リンク部と、
前記第12リンク部に接続される第13リンク部と、
前記第11リンク部と前記第12リンク部とを回転可能に支持する第11受動関節部と、
前記第12リンク部と前記第13リンク部とを回転可能に支持する第12受動関節部と、
前記第11リンク部と前記第12リンク部とを基本姿勢になるように保持する第7弾性体と、
前記第11リンク部が開く方向への回転を規制する第5ストッパと、
を備え、
前記基部は、前記第1指部の前記第1リンク部と前記第2指部の前記第11リンク部とが交差されるように前記第1リンク部および前記第11リンク部を回転可能に支持する回転関節部を備え、
前記第1リンク部は、前記第2リンク部と逆方向に延在される第1延在部を有し、
前記第11リンク部は、前記第12リンク部と逆方向に延在される第2延在部を有し、
前記駆動部は、前記第1延在部および前記第2延在部を押圧して、前記第1リンク部および前記第11リンク部を前記回転関節部を支点にして回転する
ことを特徴とする請求項1に記載のロボットハンド。
【請求項15】
前記第3リンク部は複数であり、
前記第2受動関節部は複数であり、
前記第1指腹部は複数であり、
複数の前記第2受動関節部は同軸上に接続される
ことを特徴とする請求項6に記載のロボットハンド。
【請求項16】
前記第2指部は、
前記基部に接続される第14リンク部と、
前記第14リンク部に接続される第15リンク部と、
前記第15リンク部に接続される第16リンク部と、
前記第14リンク部と前記第15リンク部とを回転可能に支持する第13受動関節部と、
前記第15リンク部と前記第16リンク部とを回転可能に支持する第14受動関節部と、
前記第14リンク部と前記第15リンク部とを基本姿勢になるように保持する第8弾性体と、
を備え、
前記駆動部は、前記第2指部の前記第14リンク部を回転駆動し、
前記第16リンク部は、基端側が太く、先端側に向かって細くなる形状をした第2指腹部を備え、
前記第16リンク部は複数であり、
前記第14受動関節部は複数であり、
前記第2指腹部は複数であり、
複数の前記第14受動関節部は同軸上に接続される
ことを特徴とする請求項1に記載のロボットハンド。
【請求項17】
前記第1弾性体は、前記第1リンク部の一部と、前記第2リンク部の一部と、前記第1受動関節部とを少なくとも覆う、弾性を有する被覆部材である
ことを特徴とする請求項1から16の何れか一つに記載のロボットハンド。
【請求項18】
前記被覆部材は、前記第1受動関節部の外側にたるみを有し、前記第1受動関節部の内側に薄肉部を有する
ことを特徴とする請求項17に記載のロボットハンド。
【請求項19】
前記第1ストッパは、前記第2リンク部が規制される位置を回転方向に対して可変する機構を有する
ことを特徴とする請求項5に記載のロボットハンド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、2つの指部の挟み込みにより把持対象物を把持するロボットハンドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のロボットハンドは、複雑な作業をするために、人の指のように複数の関節および複数のアクチュエータを備えた複数の指機構によって構成されることが多い。一方で、システムの自由度に対してアクチュエータの数が少ない劣駆動方式のロボットハンド開発の取り組みも行われている。
【0003】
例えば、形状または大きさが未知の物体を把持するために、巻き付くような指の動作ができる劣駆動を適用したロボットハンドが開発されている。特許文献1では、近位関節と、中間関節と、遠位関節とを含むリンク機構の指アセンブリを備え、各関節が単一のアクチュエータによって同期して駆動される。具体的には、各関節にプーリーを設け、各プーリーに巻回される捻り紐の引っ張りによって各プーリーを回転させ、かつ間接ブレーキ機構によって各関節をロックおよびロック解除することで、指アセンブリの様々な動きを実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のロボットハンドは、構造が複雑であるという問題がある。また、複数の把持対象物が密接に複数個整列された状態から一つの把持対象物を安定して把持する状態に遷移させる場合、特許文献1のロボットハンドでは、細かい状態遷移の管理とそれに応じた指のロックなど複雑な制御が必要である。具体的には、整列された複数の把持対象物から一つを切り出すすくい操作を行って、その後、把持対象物を包み込み把持できる状態までスライドさせていくような動きを実現する場合、特許文献1では、手先の複雑な遷移を行うための複雑な制御操作が必要である。このため、特許文献1では、把持対象物ごとに制御動作を設計しなくてはならず、把持対象物の種類によっては指運動の生成が困難な場合もある。
【0006】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであり、小型化可能な簡単な構造および簡単な制御によってすくい操作および包み込み把持を実現するロボットハンドを得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示におけるロボットハンドは、把持対象物を把持する。ロボットハンドは、第1指部と、第1指部と対向する第2指部と、を有する指部と、ロボットのアームに設けられる基部と、基部に接続され、第1指部および第2指部のうちの少なくとも一つを回転駆動する駆動部と、を備える。第1指部は、基部に接続される第1リンク部と、第1リンク部に接続される第2リンク部と、第2リンク部に接続される第3リンク部と、第1リンク部と第2リンク部とを回転可能に支持する第1受動関節部と、第2リンク部と第3リンク部とを回転可能に支持し、第1受動関節部と連動せずに動作する第2受動関節部と、第1リンク部と第2リンク部とを基本姿勢になるように保持する第1弾性体と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本開示におけるロボットハンドによれば、小型化可能な簡単な構造および簡単な制御によってすくい操作および包み込み把持を実現するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態1から12のロボットハンドを適用したロボットシステムを示す概念図
【
図3】実施の形態1のロボットハンドの第1変形例を示す概念図
【
図4】実施の形態1のロボットハンドの第2変形例を示す概念図
【
図5】
図3に示される実施の形態1の第1変形例のロボットハンドによって把持対象物を把持するときの動きを説明するための図
【
図6】実施の形態2のロボットハンドの先端部の構成を示す概念図
【
図7】実施の形態2のロボットハンドの先端部の変形例の構成を示す概念図
【
図8】実施の形態3のロボットハンドの先端部の構成を示す概念図
【
図9】実施の形態3のロボットハンドが床面に平置きされた扁平な把持対象物を把持するときの先端部の姿勢を示す概念図
【
図10】実施の形態4のロボットハンドの先端部の構成を示す概念図
【
図11】実施の形態4のロボットハンドが把持対象物を把持したときの先端部の状態を示す概念図
【
図12】実施の形態4のロボットハンドが床面に平置きされた扁平な把持対象物を把持するときの先端部の姿勢を示す概念図
【
図13】実施の形態5のロボットハンドの先端部の構成を示す概念図
【
図14】実施の形態6のロボットハンドの構成を示す概念図
【
図15】実施の形態6のロボットハンドの構成を示す斜視図
【
図16】実施の形態7のロボットハンドの構成を示す概念図
【
図17】実施の形態8のロボットハンドの構成を示す概念図
【
図18】実施の形態9のロボットハンドの構成を示す概念図
【
図19】実施の形態10のロボットハンドの構成を示す概念図
【
図20】実施の形態10のロボットハンドの構成を示す概念図
【
図21】実施の形態11のロボットハンドの構成を示す概念図
【
図22】実施の形態12のロボットハンドの構成を示す概念図
【
図23】実施の形態12のロボットハンドの構成を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、実施の形態にかかるロボットハンドを図面に基づいて詳細に説明する。
【0011】
図1は、実施の形態1から実施の形態12のロボットハンドを適用したロボットシステムを示す概念図である。このロボットシステムは、ロボット1と、ロボットハンド10と、ロボット制御装置2を備えている。ロボット1は、複数のアーム5を有する。ロボットハンド10は、ロボット1のアーム5の先端に接続される。ロボットハンド10は、ロボット制御装置2によって制御され、把持対象物Wを把持する。
【0012】
実施の形態1.
図2は、実施の形態1のロボットハンド10を示す概念図である。
図2に示されるように、ロボットハンド10は、基部20と、基部20に取り付けられ、互いに対向した第1指部Aと第2指部Bとを備える。第1指部Aは、駆動部DA1と、第1リンク部としての基端リンク部A1と、第1受動関節部としての受動関節部PA2と、第2リンク部としての中間リンク部A2と、第2受動関節部としての受動関節部PA3と、第3リンク部としての先端リンク部A3と、第1弾性体としてのバネ要素SA2と、を有する。第2指部Bは、基端リンク部B1を有する。基端リンク部B1は先端リンク部としても機能する。受動関節部とは、モータなどのアクチュエータによって駆動されない関節である。
【0013】
基部20は、例えば円柱形状であり、中心軸を有している。駆動部DA1は、基部20に固定されている。駆動部DA1は、基端リンク部A1を回転可能に支持し、かつ基端リンク部A1を回転駆動する。基端リンク部A1は、駆動部DA1によって駆動部DA1を中心にして回転駆動される。受動関節部PA2は、基端リンク部A1の先端側と、中間リンク部A2の基端側とを、回転可能に連結する。中間リンク部A2は、受動関節部PA2を中心にして回転駆動される。バネ要素SA2は、基端リンク部A1と中間リンク部A2とを予め設定された張力をもって接続し、基端リンク部A1と中間リンク部A2とが角度θ1で釣り合うように調整されている。すなわち、バネ要素SA2は、基端リンク部A1と中間リンク部A2とを基本姿勢になるように保持する。θ1は、90度以上である。θ1は指腹側の角度を表している。受動関節部PA3は、中間リンク部A2の先端側と、先端リンク部A3の基端側とを、回転可能に連結する。先端リンク部A3は、受動関節部PA3を中心にして回転駆動される。先端リンク部A3は、受動関節部PA3に接続されているので、環境に押し付けられると、その姿勢が変化する。図示はしてないが、先端リンク部A3は、把持対象物を把持しやすいように、先細の形状が望ましい。なお、基端リンク部A1と中間リンク部A2とに接続されるバネ要素SA2として、バネ以外の弾性体を使用してもよい。
【0014】
基端リンク部B1は、基部20に固定されており、基部20に対し動かない。
【0015】
図3は、実施の形態1のロボットハンド10の第1変形例を示す概念図である。
図3に示すロボットハンド10は、基部20と、基部20に取り付けられ、互いに対向した第1指部Aと第2指部Bとを備える。
図3に示す第1指部Aと
図2に示した第1指部Aは、同一構成であり、重複する説明は省略する。
【0016】
図3に示す第2指部Bは、第4リンク部としての基端リンク部B1と、第3受動関節部としての受動関節部PB2と、第5リンク部としての先端リンク部B2と、第2弾性体としてのバネ要素SB2と、を有する。基端リンク部B1は基部20に固定されている。受動関節部PB2は、基端リンク部B1の先端側と、先端リンク部B2の基端側とを、回転可能に連結する。先端リンク部B2は、受動関節部PB2を中心にして回転駆動される。バネ要素SB2は、基端リンク部B1と先端リンク部B2とを予め設定された張力をもって接続し、基端リンク部B1と先端リンク部B2とが角度θ2で釣り合うように剛性が調整されている。θ2は、90度以上である。θ2は指腹側の角度を表している。
【0017】
なお、
図3に示すように、バネ要素SA2,SB2は受動関節部PA2,PB2を中心に右回り方向に張力を掛けるよう接続されるが、これに限定されない。例えば、バネ要素SA2,SB2は受動関節部PA2,PB2を中心に左回り方向に張力を掛けるよう接続されてもよいし、右回りと左回りとの両方向に張力を掛けるよう接続されてもよい。
【0018】
このような構成にすることで、第1指部Aと第2指部Bとの間の幅が広すぎて把持中に把持対象物Wが転倒して、把持対象物Wが第1指部Aと第2指部Bとの間から外れてしまい、把持できなくなる状況を減らすことができる。
【0019】
なお、環境とは、把持対象物Wの他に、把持対象物Wを配置した床面、壁面、あるいは把持対象物Wの周囲にある物体の表面のことを指す。すなわち、把持対象物Wを把持する場合に、ロボット1を動かしてロボットハンド10が移動する場合に指先が触れて外力を受けるものを指す。
【0020】
図4は、実施の形態1のロボットハンド10の第2変形例を示す概念図である。
図4に示す第2変形例においては、第1指部Aの第1受動関節部PA2にストッパSTA1を設け、受動関節部PA3にストッパSTA2を設けている。第1ストッパとしてのストッパSTA1は、例えば、基端リンク部A1の先端の外側に設けられる板部材であり、基端リンク部A1に対して中間リンク部A2が広がる方向への可動範囲を制限するように設けられている。ストッパSTA2は、例えば、中間リンク部A2の先端の外側に設けられる板部材であり、中間リンク部A2に対して先端リンク部A3が広がる方向への可動範囲を制限するように設けられている。このようなストッパSTA1,STA2を設けることにより、把持対象物Wを把持するときに、第1指部Aに対し把持対象物Wから反力F1,F2が発生する。このようなストッパを、
図3に示した第2指部Bの受動関節部PB2に設けてもよい。また、第1指部Aに、ストッパSTA1,STA2の何れか一方のみを設けてもよい。
【0021】
図5は、
図3に示される実施の形態1の第1変形例のロボットハンド10によって把持対象物W1を把持するときの動きを説明するための図である。この動作例では、互いに密接するように整列された複数の把持対象物W1,W2,W3,・・・から一つの把持対象物W1がすくい操作されて、その後、把持対象物W1が包み込み把持される。把持対象物W1,W2,W3,・・・は、厚みが薄く、扁平な直方体形状を有する。複数の把持対象物W1,W2,W3,・・・は、床面Qに載置されている。
【0022】
まず、
図5の左図に示すように、ロボット制御装置2は、ロボット1によってロボットハンド10の基部20を移動させ、整列された複数の把持対象物W1,W2,W3,・・・のうち、一番手前にある把持対象物W1と2番目にある把持対象物W2との間に、第1指部Aの先端リンク部A3の先端を差し込む。基部20の移動は、ロボット1の移動によって行われる。
【0023】
図5の右図では、第1指部Aについては3つの動作状態を示し、第2指部Bについては2つの動作状態を示している。次に、ロボット制御装置2は、ロボット1によって基部20を移動させ、
図5の右図の第1指部Aについての左側の動作状態で示すように、第1指部Aの先端リンク部A3を2番目にある把持対象物W2に押しあてる。この時、先端リンク部A3は2番目にある把持対象物W2に接触することで押されて、矢印E1で示すように、第2指部B側の方向に向かって、受動関節部PA3を中心に回転運動を始める。この際、先端リンク部A3は、把持対象物W2との接触で生じる反力によって受動的に運動している。この受動的な運動によって、把持対象物W1を回転させて整列した把持対象物の列から把持対象物W1を切り離す。このような切り離しを「単離」と呼ぶが、実施の形態1では、単離を実現するための先端リンク部A3の構成が特徴となる。先端リンク部A3を使った単離操作は、単純に指を押し込んで単離を実施する場合に比べて、次のような利点がある。
【0024】
すなわち、把持の初期段階で指部の入り込む隙間が大きくなり、把持対象物を挟み込む操作が容易になる。また、把持対象物W1の表面で指部を滑らせる時間が減り、把持対象物W1が傷つけられ難くなる。
【0025】
その後、
図5の右図の第1指部Aについての中央の動作状態および右側の動作状態で示すように、基端リンク部A1を駆動部DA1によって回転運動させ、把持対象物W1を第1指部Aと第2指部Bとによって挟み込むことで包み込み把持する。このとき、第2指部Bの先端リンク部B2は、把持対象物W1によって押されて、受動関節部PB2を中心にして、破線で示す状態から実線に示す状態に、回転運動する。また、この把持動作の際に、把持対象物W1は、基端リンク部A1の回転運動によって床面Q上をスライド移動する。また、駆動部DA1によって第1指部Aが閉じていく際に、先端リンク部A3および中間リンク部A2は、把持対象物W1の表面に沿って受動的に動く。
【0026】
実施の形態1のロボットハンド10によれば、
図5に示すような厚みが薄く扁平な把持対象物W1が床面Qに一つ寝かされて置かれている場合の把持にも対応することができる。まず、ロボット1によってロボットハンド10の基部20を移動させて、先端リンク部A3の背面側を床面Qに押し付け、床面Qに倣うように先端リンク部A3を回転させる。その後、基部20を移動させて先端リンク部A3を把持対象物W1に対して近づける。さらに駆動部DA1を駆動して第1指部Aを閉じる方向に回転させると、床面Qに配置された扁平な把持対象物W1を把持することができる。
【0027】
つぎに、バネ要素SA2によって中間リンク部A2が基端リンク部A1に対し角度θ1で釣り合うように調整されている状態について説明する。
【0028】
図2に示すように、受動関節部PA2については、変位が生じてもバネ要素SA2によって基本姿勢に戻ろうとする作用力が働く。すなわちバネ要素SA2は、基本姿勢に戻る復元力を作用させる。基本姿勢とは、ロボットハンド10が把持対象物に対して把持操作を開始する際の初期姿勢を示している。
【0029】
具体的な基本姿勢の一例としては、
図5に示すように、ロボットハンド10の基部20の中心軸の方向を重力方向にほぼ平行な状態にして、ロボットハンド10の基部20から第1指部Aの基端リンク部A1、中間リンク部A2および先端リンク部A3が下向きに向かって伸びている状態である。ただし、角度θ1が90度以上である姿勢であれば特にこの姿勢に限ることはない。
【0030】
さらに、第1指部Aの基本姿勢について説明する。ロボット1のアーム5を動かしてロボットハンド10の基部20を、前述したように、基部20の中心軸の方向を重力方向に一致させる基本姿勢状態にする。基部20が基本姿勢の状態で、ロボットハンド10を開状態にして、アーム5を動かしてロボットハンド10を把持対象物に接近し、ロボットハンド10の駆動部DA1を駆動して閉状態にして把持対象物を把持する。基端リンク部A1は、開く方向へは地面に水平な姿勢まで回転し、閉じる方向へは閉じ切る状態まで回転する。
【0031】
基端リンク部A1が地面に水平になっている際に、中間リンク部A2が重力方向に一致するように調整する。中間リンク部A2を重力方向と一致するように調整する理由は、重なり合うように整列された複数の把持対象物の隙間は、重力方向に平行かやや傾いた向きになることが多いためである。このような隙間に、ロボットハンド10の第1指部Aの先端リンク部A3を挿入する場合、中間リンク部A2を重力方向にほぼ一致するように設定しておくと、最も効果的に把持対象物を把持することができる。
【0032】
以上により、基端リンク部A1が水平よりは閉じた状態になり、かつ中間リンク部A2が重力方向に一致する方向を向く状態が、実施の形態1での好適な基本姿勢となる。ここで、基端リンク部A1と中間リンク部A2とのなす角度θ1に注目すると、基端リンク部A1を水平にした状態から閉じる方向に基本姿勢があり、中間リンク部A2は重力方向に倣うとすると、角度θ1が必ず90度以上になることがわかる。つまり、基端リンク部A1と中間リンク部A2とのなす角度θ1が90度以上という制約条件を入れると、実施の形態1のロボットハンド10を好適な条件で使うことが出来る。
【0033】
なお、実施の形態1のロボットハンド10では、把持操作をした後に、第1指部Aを開いた状態にすると、通常であれば、重力によって自動的に元の基本姿勢に戻る。受動関節部PA2に追加するバネ要素SA2は、把持対象物を把持したり、中間リンク部A2が環境に接触する際に、適切な抗力を生じて変位し難くする効果を期待しているが、基本姿勢の状態でバネ要素SA2の影響で、中間リンク部A2が重力に倣って下向きの姿勢をとれなくなることは期待していない。
【0034】
すなわち、バネ要素SA2については、自然長の状態で基本姿勢になるように調整するのが望ましい。バネ要素SA2のバネの硬さは、一つの把持対象物を整列させた状態から単離する際に好適な硬さに調整したほうがよい。具体的には、駆動部DA1を駆動して基端リンク部A1が閉じていく運動をするのに合わせて、中間リンク部A2が完全に開き切らない程度の硬さに調整する。
【0035】
ここで、ロボットハンド10が取り付けられるロボット1としては、複数の構造形態が存在する。ロボット1の機構の具体例としては、シリアルリンク機構、あるいはパラレルリンク機構が代表的である。シリアルリンク機構は、床面固定位置から、片持ち状態で直列にリンクが並んだ構造であり、可動範囲が広いことが特徴である。パラレルリンク機構は、閉リンク構造となっており、剛性が高く高速に動作できるのが特徴である。
【0036】
ロボット1の構造形態に応じてロボットの可動範囲に違いがあるため、先に説明したロボットハンド10の動きを実現する場合、システムによってはパラレルリンクでは可動範囲が狭くて実現できないような場合が考えられる。各実施の形態は、いかなる機構であっても、ロボット1の基部20を把持対象物に対して相対的に並進運動および回転運動をさせることができる場合には、適用が可能である。すなわち、各実施の形態は、特にロボット1の構造形態を限定することはない。
【0037】
また、駆動部DA1については、回転関節を構成したものを説明したが、回転運動する関節であれば、例えば、図示しないベルトを介して別の位置に駆動源を配置しても良い。また、基端リンク部A1を回転運動することができるのであれば、駆動部DA1を受動関節部に置き換え、直動運動する駆動部DA1によって基端リンク部A1を押すよう構成していても良い。すなわち、基端リンク部A1は、基部20に対して回転関節を中心に運動できる構成であれば良い。
【0038】
また、受動関節部PA2、受動関節部PA3、受動関節部PB2については、一つの軸回りに滑らかに回転するものであれば、転がり軸受、ころ軸受、滑り軸受などの任意の軸受を採用すればよい。受動関節部PA2、受動関節部PA3、受動関節部PB2は、各リンク部への外部からの作用力に基づく回転トルク、および軸受の回転摩擦力に従って回転変位する構成になっている。なお、受動関節部PA2、受動関節部PA3、受動関節部PB2については、毎回の作業毎に元の位置に戻すために、各受動関節部の固定部と回転部との間にバネを取り付けるなどの構成を取り得る。
【0039】
前述したように、特許文献1では、各関節部はプーリー、捻り紐によって互いに連結され、各関節部は連動された運動を行うが、実施の形態1はそのような構成ではない。特許文献1の機構では、前述したように整列された複数の把持対象物としての物品から一つの把持対象物を単離する際に、指部の先端のリンク部のみに外部から力が作用するときに、前述したような把持対象物としての物品を隣に配置された物品から引きはがすような動作が生じない。これに対し、実施の形態1のロボットハンド10によれば、最先端の受動関節部PA3が、他の関節と連動せずに動作するので、先端リンク部A3が接続される受動関節部PA3のみが把持対象物からの反力によって関節変位を生じ、把持対象物を隣に配置された物品から引きはがすような動作を実現することができる。
【0040】
このようにこの実施の形態1によれば、最先端の受動関節部PA3が、他の関節と連動せずに動作するので、小型化可能な簡単な構成かつ簡単な制御で安定したすくい操作および包み込み把持を含む単離操作を実現し、単離操作の成功率を向上させることができる。これによって、自動化ロボットシステムの生産性を向上させることができる。
【0041】
実施の形態2.
図6は、実施の形態2のロボットハンドの先端部の構成を示す概念図である。実施の形態2では、実施の形態1の第1指部Aおよび第2指部Bにおける把持対象物と接触する部分に先細形状の指腹部21をさらに設けている。第1指腹部としての指腹部21は、基端側が太く、先端側に向かって細くなる形状をしている。
図6では、第1指部Aの先端部を示しており、先端リンク部A3の先端に指腹部21を固定している。指腹部21は、把持対象物との接触面積を増やすために設けられており、把持対象物と直接接触するのに適した形状であって柔軟な素材が採用される。例えば、摩擦係数を増加させるような素材、あるいは把持対象物との接触の際の衛生のため抗菌素材を選ぶこともできる。
【0042】
図7は、実施の形態2のロボットハンドの先端部の変形例の構成を示す概念図である。
図7では、先端リンク部A3’をリンク部21aと先細形状の指腹部21bとで構成し、リンク部21aと指腹部21bとを柔軟な同一素材で構成している。
【0043】
このように実施の形態2によれば、第1指部Aおよび第2指部Bの先端に柔軟な材料の指腹部を設けているので、把持成功率が向上し、歩留りが向上する。
【0044】
実施の形態3.
図8は、実施の形態3のロボットハンドの先端部の構成を示す概念図である。実施の形態3では、実施の形態1の第1指部Aの先端リンク部A3の形状を変化させている。実施の形態3の先端リンク部A3においては、背面部22が中間リンク部A2の中心軸と平行な平面で構成されている。実施の形態3の先端リンク部A3においては、背面部22が中間リンク部A2の中心軸が延びる方向と平行な平面で構成されている。さらに、実施の形態3の先端リンク部A3の指腹側においては、受動関節部PA3に近い基端部23は、受動関節部PA3よりも内側であるおもて面側に突出する凸部形状となっており、かつ先端部24は、先細りになるテーパ形状を呈している。また、基端部23と先端部24とは、スロープ状に接続されるのではなく、急峻な段差があるように接続されており、先端部24は、凸部形状の基端部23に対し凹んでいる。
【0045】
実施の形態3のロボットハンドの特徴は、単純に左右対称に先細りする爪先構造では取り出し難かった把持対象物を把持することを可能とした点である。
図5に示したように、把持対象物と把持対象物との間に指を挿入する動作を実行するためには、先端リンク部A3の構造が先細りになる必要がある。また、最後の一つの把持対象物を取りだす際に、壁面に寄り掛かった把持対象物に指を挿入させる場合には、壁に指が沿った形でなければならない。実施の形態3のロボットハンドでは、このような場合に指を挿入しやすい構造をとっている。
【0046】
実施の形態3でのロボットハンドの動きを説明する。ロボット1を使ってロボットハンド10の基部20を動かし、先端リンク部A3を環境に対して押し付け、結果として受動的に先端リンク部A3が環境に沿った状態に遷移するようにする。把持を開始する前には、把持が成功しやすい基本姿勢を取り、ロボットハンド10を設計された把持アプローチ方向に動作させる。
【0047】
ここで、把持のための基本姿勢として、先端リンク部A3が中間リンク部A2に対して自重で垂れ下がった状態を作る。ロボットハンド10は、
図8に示すように、先端リンク部A3の指腹部側は凸部形状の基端部23を持ち、先端に向けて細くなっていく先端部24を有する。
【0048】
また、先端リンク部A3の背面部22は、自重で垂れ下がった状態において、壁面に平行な姿勢を取れる形状をしている。すなわち、先端リンク部A3の背面部22は自重で垂れ下がった際に、指先と背面部22がほぼ同一直線状に並ぶように設計される。また、指腹部側は、凸部形状の基端部23を持ち、先端に向けて細くなっていく先端部24を有する。指腹部側に凸部形状の基端部23を設けることで、把持対象物に対して接触面を多くすることができる。このように、実施の形態3のロボットハンドでは、先端に向けて細くなっていく先端部24を有するので、単離がしやすくなり、指腹部側に凸部形状の基端部23を設けているので、把持対象物を安定的に把持することができる。
【0049】
実施の形態3のロボットハンドをロボット1に装着して使う際に、ロボットハンドの指先の基本姿勢としては、重力にならった状態で先端リンク部A3と中間リンク部A2とがなす角が180度以下になるように設計する。例えば、
図5に示したように、中間リンク部A2が地面に対して鉛直な場合は、中間リンク部A2と先端リンク部A3とがなす角は180度となる。
【0050】
一方で、ロボットハンドの基部20を時計回りの方向にやや傾けた姿勢にすることもでき、この場合は、中間リンク部A2は地面に対して鉛直よりは少し傾きを持った姿勢となる。一方で、先端リンク部A3は地面に対してほぼ鉛直な姿勢を取るため、中間リンク部A2と先端リンク部A3とがなす角は180度よりやや小さくなる。
【0051】
図9は、実施の形態3のロボットハンドが床面に平置きされた扁平な把持対象物を把持するときの先端部の姿勢を示す概念図である。
図9に示すように、実施の形態3のロボットハンドであれば、床面に平置きされた扁平物体と床面との間に、先端リンク部A3を挿入させることができる。まず、基部20の軸方向をやや傾けた状態にし、中間リンク部A2を床面に対して直角より傾いた状態とし、先端リンク部A3の背面部側が床面に接触する状態にする。この状態の姿勢のまま、ロボット1のアーム5を移動させ、基部20を床面に押し付ける方向に移動させる。基部20の移動に伴い、先端リンク部A3が床面から生じる反力によって受動関節部PA3を中心に回転する。ロボット制御装置2を制御することによって、先端リンク部A3が受動関節部PA3の回転によって変化した姿勢のまま、床面に平置きされた把持対象物と床面との間に先端リンク部A3を挿入させる方向に、第1指部Aまたはロボット1のアーム5を動かす。先端リンク部A3を挿入させる方向に動かす動作は、第1指部Aを駆動部DA1によって駆動させる方法と、基部20をロボット1のアーム5で移動させる方法とがあるが、いずれの方法でもよい。先端リンク部A3を床面と把持対象物の下面との間に挿入させる方向に動かすと、先端リンク部A3が床面に拘束され、スムーズに先端リンク部A3が床面と把持対象物の下面との間に滑り込み、先端リンク部A3が把持対象物の下面を支持する状態に遷移することができる。
【0052】
また、先端リンク部A3を床面と把持対象物との間に挿入させる際に、第1指部Aを駆動部DA1で駆動させる方法を取った場合、駆動部DA1による第1指部Aの全体の回転運動に伴って中間リンク部A2が床面に接近する。このとき、先端リンク部A3は床面からの反力と、中間リンク部A2との接続部の運動との双方に従い、受動的に回転する。これによって、受動的な運動として先端リンク部A3の背面部が床面とほぼ平行になる姿勢に近づく。この運動により、先端リンク部A3がスムーズに把持対象物の下面に滑り込み、先端リンク部A3が把持対象物の下面を支持する状態に遷移することができる。
【0053】
以上の例では、床面に配置された扁平な把持対象物に関して説明したが、壁面に立てかけられた扁平な把持対象物を壁面から単離して把持する際にも同様の効果が期待できる。
【0054】
なお、先端リンク部A3の指腹部は先端が窪んで先細り形状となっていることが望ましいが、指腹部のうちで把持対象物に触れる部分には柔らかい素材を貼り付け、把持対象物の表面形状にぴったり付く方が、把持対象物を落とし難くなるため、指腹部に柔らかい部材をさらに備え付けても良い。
【0055】
このように実施の形態3の先端リンク部A3においては、背面部22が中間リンク部A2と平行な平面で構成され、指腹側においては、凸部形状の基端部23および先細りになる先端部24を有しているので、床面または壁面に密接に配置された把持対象物を、スムーズに単離することができるようになる。これによって、自動化ロボットシステムの生産効率が向上する。
【0056】
実施の形態4.
図10は、実施の形態4のロボットハンドの先端部の構成を示す概念図である。
図11は、実施の形態4のロボットハンドが把持対象物を把持したときの先端部の状態を示す概念図である。実施の形態4のロボットハンドの第1指部Aの先端リンク部A3においては、背面部に、受動関節部PA3よりも上側まで延び、かつ背面側に突出した突出部25を有している。別言すれば、実施の形態4のロボットハンドの第1指部Aの先端リンク部A3は、自重で垂れ下がった姿勢において、受動関節部PA3よりも上側まで延び、かつ受動関節部PA3よりも背面側に突出する突出部25を有する。また、先端リンク部A3の指腹部側の把持対象物Wを把持する把持部26は、屈曲形状を有し、表面にゴムなどの摩擦部材27が設けられている。別言すれば、実施の形態4のロボットハンドの第1指部Aの先端リンク部A3の受動関節部PA3から先端側は、先細り形状であり、先端リンク部A3の受動関節部PA3から先端側における基端部は、背面側およびおもて面側に突出している。
【0057】
図12は、実施の形態4のロボットハンドが床面に平置きされた扁平な把持対象物を把持するときの先端部の姿勢を示す概念図である。
図12の左図は、先端リンク部A3の先端側が床面(または壁面)に接したときの状態を示し、
図12の右図は、先端リンク部A3の根本側の突出部25が床面(または壁面)に接したときの状態を示している。
図12の左図に示すように、先端リンク部A3の先端側が床面に接したときは矢印で示す床面からの反力により先端リンク部A3は反時計回りの方向に回転する。一方、
図12の右図に示すように、先端リンク部A3の根本側の突出部25が床面に接したときは矢印で示す床面からの反力により先端リンク部A3は時計回りの方向に回転する。したがって、把持対象物と床面(または壁面)との間に先端リンク部A3の先端部が入り込みやすい姿勢に先端リンク部A3を自動的に調整することが可能となる。
【0058】
このように実施の形態4によれば、先端リンク部A3の背面部に、受動関節部PA3よりも上側まで延びかつ背面側に突出した突出部25を設けているので、把持対象物と床面(または壁面)との間に先端リンク部A3の先端部が入り込みやすい姿勢に先端リンク部A3を自動的に調整することが可能となる。これにより、床面(または壁面)に密接に配置された把持対象物を、スムーズに単離することができるようになる。これによって、自動化ロボットシステムの生産効率が向上する。
【0059】
実施の形態5.
図13は、実施の形態5のロボットハンドの先端部の構成を示す概念図である。
図13の左図は、ロボットハンドが初期姿勢のときの姿勢を示し、
図13の右図は、ロボットハンドの駆動部DA1に対し矢印で示す重力方向の力を付与した時の姿勢を示している。実施の形態5においては、実施の形態1のロボットハンド10に対し、受動関節部PA3のまわりにもバネ要素SA3を追加している。バネ要素SA3の弾性力は、受動関節部PA2のまわりのバネ要素SA2の剛性よりも弱い。すなわち、先端に行くほど弱いばねで構成されている。
【0060】
この構成では、先端側のバネ要素SA3が先に屈曲し、その後で、バネ要素SA2が屈曲することができるため、先に示したように、先端リンク部A3が壁面、または床面に倣うような挙動を示しつつ、一定の基本姿勢に戻ることができる。バネの取り付け方としては、受動関節部PA3を中心に右回り方向に張力を掛ける場合、左回り方向に張力を掛ける場合、両方から張力を掛ける場合の3パターンのいずれでも良い。
【0061】
繰り返し同じような把持操作をする際に、摩擦等の影響を受けて、受動的な動きをする先端リンク部A3の初期位置が毎回変化する場合、あるいは指先を壁面、または床面にならった形で押し付ける場合に、把持対象物に先端リンク部A3の指先が接触してしまい、所望の指先の動作が生じないことがある。
【0062】
実施の形態5によれば、先端側のバネ要素SA3が先に屈曲し、その後でバネ要素SA2が屈曲するので、毎回安定して指先を壁面、または床面から単離する操作を行うことができるようになり、把持成功率が向上する。結果として、生産システムの生産効率を上げることができる。
【0063】
実施の形態6.
図14は、実施の形態6のロボットハンドの構成を示す概念図である。
図15は、実施の形態6のロボットハンドの構成を示す斜視図である。実施の形態6では、実施の形態1のロボットハンド10に対し、ロボット1との接続のためのロボット固定部30をさらに備え、ロボットハンド10の基部20とロボット固定部30との間に第4受動関節部としての受動関節部P0をさらに備え、受動関節部P0を初期位置に保持するための第3弾性体としてのバネ要素S0をさらに備えている。受動関節部P0の初期位置とは、ロボットハンド10の指先が重力方向に平行になるように基部20の中心軸の方向が傾斜される位置であるとする。
【0064】
ロボットハンドの指先を壁面または床面にならった形で押し付ける場合に、従来機構では、ロボットのアームの手首部を壁面または床面に対して傾きを持った状態にする必要があった。このとき、アームの手首部が傾きを持つことで、アームの肘位置が環境に張り出した形になる、手首部が環境に干渉する、あるいは、可動範囲が足りず、壁面または床面に対して傾きを持った状態を取ることが出来ないといった問題が生じていた。
【0065】
実施の形態6の構成とすることにより、基部20をロボット1のアーム5によって大きく姿勢変更することなく、実施の形態3に示したように床面あるいは壁面に対して先端リンク部A3を押し付ける場合に、先端リンク部A3の先端部が扁平な把持対象物と床面あるいは壁面との間に自動的に入り込む状態にすることができる。
【0066】
特に、ロボットシステムにおいては、ロボットハンド先端の姿勢をロボットアームの動作によって変更したときに、ロボットアームの肘部が環境に干渉することがある。実施の形態6の構成では、ロボット固定部30および受動関節部P0を備えているので、ロボット1のアーム5の姿勢変化を低減することができるため、環境への干渉を避け、把持動作の効率を上げることができる。結果として、生産システムの生産効率を上げることができる。
【0067】
実施の形態7.
図16は、実施の形態7のロボットハンドの構成を示す概念図である。実施の形態7のロボットハンドでは、第1指部Aと第2指部Bとの構成が同一で、第1指部Aと第2指部Bとが左右対称な構造としている。第1指部Aは、第7受動関節部としての受動関節部PA1と、基端リンク部A1と、受動関節部PA2と、中間リンク部A2と、受動関節部PA3と、先端リンク部A3と、第2ストッパとしてのストッパSTA1と、バネ要素SA2と、ゴムなどの柔らかい摩擦部材27とを有する。第2指部Bは、第8受動関節部としての受動関節部PB1と、第6リンク部としての基端リンク部B1と、第5受動関節部としての受動関節部PB2と、第7リンク部としての中間リンク部B2’と、第6受動関節部としての受動関節部PB3と、第8リンク部としての先端リンク部B3と、第2ストッパとしてのストッパSTB1と、第4弾性体としてのバネ要素SB2と、摩擦部材27とを有する。
【0068】
実施の形態7の第1指部Aは、実施の形態1の駆動部DA1を、駆動機構を持たない受動関節部PA1に置換している。基部20には、駆動源としての回転駆動部D0と、回転駆動部D0の回転を受動関節部PA1,PB1に伝達する伝達機構部G0とを有する。回転駆動部D0が回転駆動されると、受動関節部PA1,PB1が同期して回転される。伝達機構部G0は歯車としてもよいし、タイミングベルトとプーリーの組み合わせとしてもよい。また、機構は左右対称として、伝達機構部を第1指部A、第2指部Bのうちのいずれか一方にのみ動力を伝え、第1指部Aあるいは第2指部Bのいずれか一方だけが挟み込みのために駆動される構成としてもよい。
【0069】
このような実施の形態7の構成にすることにより、実施の形態3に示したように、床面あるいは壁面に対して先端リンク部A3を押し付ける場合に、第1指部Aおよび第2指部Bのいずれも同じように単離操作が可能となる。このため、第1指部Aあるいは第2指部Bによって単離操作する際に、指先の位置を把持対象物の方向に向けるためのロボットハンドの姿勢変化が小さくなり、ロボット1のアーム5による移動を小さくすることができる。結果として、把持成功率および把持効率が向上して、システムの生産性が向上する。
【0070】
実施の形態8.
図17は、実施の形態8のロボットハンドの構成を示す概念図である。実施の形態8のロボットハンドにおいては、第1指部Aは、実施の形態1の駆動部DA1を、駆動機構を持たない第10受動関節部としての受動関節部PA1に置換している。第1指部Aは、受動関節部PA1と、基端リンク部A1と、受動関節部PA2と、中間リンク部A2と、受動関節部PA3と、先端リンク部A3と、第6弾性体としてのバネ要素SA1と、バネ要素SA2とを有する。バネ要素SA1は、受動関節部PA1を初期位置に保持し、バネ要素SA2は、受動関節部PA2を初期位置に保持する。
【0071】
また、第2指部Bは、基端リンク部B1を回転駆動する駆動部DB1と、第9リンク部としての基端リンク部B1と、第9受動関節部としての受動関節部PB2と、第10リンク部としての先端リンク部B2と、第5弾性体としてのバネ要素SB2とを有する。この実施の形態8では、第1指部Aの全ての関節は、駆動機構を持たない受動関節とし、第2指部Bを駆動部DB1によって回転駆動する。
【0072】
実施の形態8のロボットハンドでは、ロボット1のアーム5によるロボットハンド10の基部20の並進移動によって、ロボットハンド10と把持対象物Wとを接触させ、把持対象物Wの単離動作を行う。さらに、駆動部DB1を駆動して第2指部Bを閉じる方向に運動させることで、第1指部Aによる単離動作と、第1指部Aおよび第2指部Bによる把持動作を同時に行う。これにより、実施の形態4の構成よりも高速にロボットハンド内の把持対象物を把持完了状態に遷移させることができる。
【0073】
すなわち、実施の形態8においては、把持対象物Wを挟むための駆動部DB1を用いたリンク移動を行う指を第2指部Bに担わせ、把持対象物を単離操作をするための指を第1指部Aに担わせるようにしており、役割を分けることで、単離操作の完了まで待つことなく把持対象物を挟む動作に遷移できるようになる。したがって、実施の形態8によれば、把持1回にかかる動作時間が短縮され、結果として、生産システムの生産効率を上げることができる。
【0074】
実施の形態9.
図18は、実施の形態9のロボットハンドの構成を示す概念図である。実施の形態9のロボットハンドは、実施の形態7のロボットハンドと同様、第1指部Aと第2指部Bとの構成が同一で、第1指部Aと第2指部Bとが左右対称な構造としている。実施の形態9では、実施の形態7の回転駆動部D0、伝達機構部G0、受動関節部PA1,PB1の代わりに、回転関節部JT0と駆動部D0を配置している。
【0075】
実施の形態9のロボットハンドの第1指部Aは、基端リンク部A1と、受動関節部PA2と、中間リンク部A2と、受動関節部PA3と、先端リンク部A3と、バネ要素SA2と、中間リンク部A2が開く方向への回転を規制する第4ストッパとしてのストッパSTA1と、を有する。実施の形態9のロボットハンドの第2指部Bは、第11リンク部としての基端リンク部B1と、第11受動関節部としての受動関節部PB2と、第12リンク部としての中間リンク部B2’と、第12受動関節部としての受動関節部PB3と、第13リンク部としての先端リンク部B3と、第7弾性体としてのバネ要素SB2と、中間リンク部B2’が開く方向への回転を規制する第5ストッパとしてのストッパSTB1と、を有する。
【0076】
第1指部Aの基端リンク部A1および第2指部Bの基端リンク部B1は、回転関節部JT0から駆動部D0の方に延在されている。すなわち、第1指部Aの基端リンク部A1は、中間リンク部A2と逆方向に延在される第1延在部を有し、第2指部Bの基端リンク部B1は、中間リンク部B2’と逆方向に延在される第2延在部を有している。駆動部D0は、基端リンク部A1の第1延在部と、基端リンク部B1の第2延在部と連結されており、連結点を作用点として第1延在部および第2延在部を押圧して、基端リンク部A1,B1を回転関節部JT0を支点にして回転駆動する。実施の形態9では、駆動部D0が動作することにより、回転関節部JT0を介して、第1指部Aと第2指部Bとが同一回転軸上で交差した状態で回転駆動される。この時の指の動きはハサミと同じ原理で動作する。
【0077】
実施の形態9の構成にすることにより、ロボットハンドにおけるアクチュエータとしての駆動部D0を、指先からより離れた位置に配置することができる。また、ロボットハンドにおけるアクチュエータとしての駆動部D0の作用点を回転関節部JT0から離して配置することで、てこの原理によって必要な出力を小さくでき、アクチュエータの選定にあたり、出力を抑えることができる。これにより、駆動部D0の出力が小さい小型のアクチュエータを選定することができ、ロボットハンドの厚みを減らすことができ、小型化することができる。
【0078】
このように実施の形態9によれば、環境との干渉のために把持できないケースを減らすことができ、把持にかかる平均動作時間が短縮され、結果として、生産システムの生産効率を上げることができる。
【0079】
実施の形態10.
図19は、実施の形態10のロボットハンドの構成を示す概念図である。
図20は、実施の形態10のロボットハンドの構成を示す概念図である。
図20では、ロボットハンドの先端部を斜めから見た状態を示している。実施の形態10のロボットハンドにおいては、第1指部Aは、実施の形態1の受動関節部PA3を複数の受動関節部PA3α,PA3β,PA3γに置換し、先端リンク部A3を複数の先端リンク部A3α,A3β,A3γに置換している。複数の受動関節部PA3α,PA3β,PA3γは同軸に接続されており、複数の受動関節部PA3α,PA3β,PA3γの回転軸の方向は、受動関節部PA2と同じである。具体的には、受動関節部PA3αが中間リンク部A2に連結され、その同軸上に、受動関節部PA3β,PA3γが連結される。受動関節部PA3α,PA3β,PA3γにはそれぞれ先端リンク部A3α,A3β,A3γが接続される。先端リンク部A3α,A3β,A3γは、それぞれ基端側が太く、先端側に向かって細くなる形状をした指腹部を備えている。
【0080】
実施の形態10の構成によれば、複数の先端リンク部A3α,A3β,A3γを有しているので、把持対象物の単離操作において、把持対象物に指を差し込む動作を行う場合に、第1指部Aの先端リンク部が1本の場合に比べると、指が差し込みやすくなる。先端リンク部を1本にしている方式では、把持対象物の形状に凹凸がある場合には、スムーズに指先を差し込むことが難しい。特に、食品のように凹凸があり、個々の形状にばらつきがある場合には、先端リンク部が複数本あるほうが、スムーズに指を把持対象物と把持対象物との間に滑り込ませることができる。これは、把持対象物の表面に倣いながらそれぞれの指が独立して動くことで、先端リンク部の先端がそれぞれ把持対象物の形状に倣って、各先端リンク部A3α,A3β,A3γが、確実に触れている状態になるためである。このように、第1指部の姿勢を遷移させて単離操作がスムーズに移行できるだけでなく、接触面が増加することで安定的な把持を実現することができる。
【0081】
実施の形態10では、先端リンク部の個数は、3個に限ったものではなく、2個以上であれば、任意の個数を採用すればよい。また、実施の形態10は、
図17に示した実施の形態8の構成のように、第2指部Bが駆動部DB1で駆動される場合において、第2指部Bが、
図19、
図20で示した第1指部Aのように、基端リンク部と、中間リンク部と、先端リンク部を備えている場合においても、適用することができる。実施の形態10を適用した場合、第2指部Bは、第14リンク部としての基端リンク部と、第15リンク部としての中間リンク部と、第16リンク部としての先端リンク部と、基端リンク部と中間リンク部とを接続する第13受動関節部としての受動関節部と、中間リンク部と先端リンク部とを接続する第14受動関節部としての受動関節部と、基端リンク部と中間リンク部とを接続する第8弾性体としてのバネ要素とを備え、先端リンク部は、基端側が太く、先端側に向かって細くなる形状をした指腹部を備える。また、指腹部を有する先端リンク部は複数であり、先端リンク部を接続する受動関節部は複数であり、複数の受動関節部は、同軸上に接続される。また、
図16に示した実施の形態7あるいは
図18に示した実施の形態9の第1指部Aおよび第2指部Bの少なくとも一方に、実施の形態10を適用してもよい。
【0082】
このように実施の形態10によれば、先端リンク部の個数を複数にしたので、把持成功率および把持効率が向上して、システムの生産性が向上する。
【0083】
実施の形態11.
図21は、実施の形態11のロボットハンドの構成を示す概念図である。実施の形態11では、
図16に示した実施の形態7のロボットハンドにおける第1指部Aの受動関節部PA2に取り付けられたバネ要素SA2および第2指部Bの受動関節部PB2に取り付けられたバネ要素SB2を取り外し、弾性を持った被覆部材40でロボットハンド全体を覆っている。実施の形態11では、ロボットハンドで直接的に把持対象物を触りたくない作業を行う場合に、好適である。
【0084】
ここで、実施の形態11のロボットハンドでは、受動的なリンク指先を備えているため、回転方向に変位させたい変位量だけ変位するように、被覆部材40の弾性の強さを選定する必要がある。すなわち、ロボットハンドを環境に押し当てたとき、受動関節部PA2,PA3を受動的に動かし、各リンク部を変位させる必要がある。受動関節部PA2の初期角度をθA2とし、受動関節部PA3の初期角度をθA3とするとき、設計上の各受動関節部PA2,PA3の駆動範囲をθA2MIN≦θA2≦θA2MAX、θA3MIN≦θA3≦θA3MAXと規定する。規定された駆動範囲については、弾性をもつ被覆部材40の一部にたるみ40bと薄肉部40aとを持たせることで実現する。
【0085】
たるみを持たせるためには、次のようにする。受動関節部PA2,PA3に接続されたリンク部については、環境に対して接触する側と、把持対象物を把持する側があるが、受動関節部PA2,PA3における環境に対して接触する外側の部分にたるみ40bを形成する。同様の処理を第2指部Bにも実施する。また、薄肉部40aについては、たるみ40bを持たせた位置から受動関節部PA2,PA3に対して対称な内側の位置に設ける。これによって、第1指部Aあるいは第2指部Bを環境に対して接触させた場合に、内側に曲がりやすくなる。さらに、弾性をもつ被覆部材40で覆っているため、環境に対して接触した後に把持対象物を把持して把持対象物を解放する、すなわちハンドに対して作用させていた力を除荷すると、全体がつり合いの位置に戻ろうとする作用で、受動関節部にバネ要素SA2,SB2が無くても、第1指部Aおよび第2指部Bが元の位置に戻ることができる。
【0086】
なお、弾性のある被覆部材40としては、食品生産現場で用いられるような手袋の素材を例示できる。具体的には、ニトリルゴム、天然ゴム、ラテックスなどがあるが、素材を特に制限するものではない。また、ポリエチレンのように弾性を持たないが衛生的で安価な部材を選定し、受動関節部だけ、内側から弾性をもつ被覆部材を接着して関節に弾性を持たせる構成を取ることもできる。この構成により、関節が楽に回転する適度なたるみを持ちつつ、元の位置に戻ろうとする力も作用させることができる。
【0087】
このように実施の形態11によれば、衛生的で使い捨てが可能な手袋を備えたロボットハンドを提供でき、メンテナンスにかかる費用を抑える観点で、生産効率を向上させることができる。なお、実施の形態1~11において、第1指部Aの受動関節部PA2に取り付けられたバネ要素SA2、受動関節部PA3に取り付けられたバネ要素SA3、および第2指部Bの受動関節部PB2に取り付けられたバネ要素SB2を取り外し、たるみ40bと薄肉部40aとを持たせた弾性のある被覆部材40をロボットハンドに被せることで、各バネ要素の機能を実現してもよい。また、被覆部材40は、基端リンク部の一部と、中間リンク部の一部と、受動関節部PA2とを少なくとも覆うようにしてもよい。
【0088】
実施の形態12.
図22は、実施の形態12のロボットハンドの構成を示す概念図である。
図23は、実施の形態12のロボットハンドの構成を示す斜視図である。実施の形態12では、実施の形態1のロボットハンド10のストッパSTA1を、中間リンク部A2が規制される位置を回転方向に対して可変する機構を有するストッパSTA3に置換している。ストッパSTA3は、
図23に示されるように、中間リンク部A2の基端部に形成された凸部50と、基端リンク部A1の先端部に形成された長穴51と、基端リンク部A1に固定されるピン52によって構成される。ピン52は、基端リンク部A1に固定されており、長穴51を貫通している。ピン52は、長穴51内の任意の位置に固定することができる。ピン52の固定位置を可変することで、ピン52が凸部50に当接するときの、中間リンク部A2の回転角度を可変することができる。これにより、中間リンク部A2が規制される位置を可変することができる。
【0089】
このように実施の形態12によれば、中間リンク部A2が開く方向に規制される位置を回転方向に対して可変する機構を有するストッパSTA3を設けているので、受動関節部PA2に外力がかかる状態すなわち、中間リンク部A2が閉じ切ったときの姿勢が変わる。したがって、ロボットハンドの把持完了姿勢が変化し、多様な把持対象物を把持しやすい指姿勢をもって把持することができる。これによって、より多品種な把持対象物に対して、同一の機構、構成で把持することが可能となる。
【0090】
以上の実施の形態に示した構成は、本開示の内容の一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本開示の要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
【符号の説明】
【0091】
1 ロボット、2 ロボット制御装置、5 アーム、10 ロボットハンド、20 基部、21,21b 指腹部、22 背面部、23 基端部、24 先端部、25 突出部、26 把持部、27 摩擦部材、30 ロボット固定部、40 被覆部材、40a 薄肉部、40b たるみ、50 凸部、51 長穴、52 ピン、A 第1指部、A1,B1 基端リンク部、A2,B2’ 中間リンク部、A3,A3’,A3α,A3β,A3γ,B2,B3 先端リンク部、B 第2指部、D0,DA1,DB1 駆動部(回転駆動部)、G0 伝達機構部、JT0 回転関節部、P0,PA2,PA3,PB1,PB2,PA3α,PA3β,PA3γ 受動関節部、Q 床面、S0,SA1,SA2,SA3,SB1,SB2 バネ要素、STA1,STA2,STA3,STB1 ストッパ、W,W1,W2,W3 把持対象物。
【要約】
ロボットハンド(10)は、第1指部(A)と、第2指部(B)と、基部(20)と、駆動部(DA1)とを備える。第1指部(A)は、基部(20)に接続される基端リンク部(A1)と、基端リンク部(A1)に接続される中間リンク部(A2)と、中間リンク部(A2)に接続される先端リンク部(A3)と、基端リンク部(A1)と中間リンク部(A2)とを回転可能に支持する受動関節部(PA2)と、中間リンク部(A2)と先端リンク部(A3)とを回転可能に支持する受動関節部(PA3)と、基端リンク部(A1)と中間リンク部(A2)とを基本姿勢になるように保持するバネ要素(SA2)とを備える。