(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】疲労回復用および/または疲労蓄積予防用組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 33/135 20160101AFI20221011BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20221011BHJP
A61K 35/744 20150101ALI20221011BHJP
【FI】
A23L33/135
A61P3/00
A61K35/744
(21)【出願番号】P 2018027503
(22)【出願日】2018-02-20
【審査請求日】2020-12-14
(31)【優先権主張番号】P 2017107479
(32)【優先日】2017-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502285457
【氏名又は名称】学校法人順天堂
(73)【特許権者】
【識別番号】000253503
【氏名又は名称】キリンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100155631
【氏名又は名称】榎 保孝
(74)【代理人】
【識別番号】100137497
【氏名又は名称】大森 未知子
(72)【発明者】
【氏名】島田 和典
(72)【発明者】
【氏名】深尾 宏祐
(72)【発明者】
【氏名】駒野 悠太
(72)【発明者】
【氏名】藤井 敏雄
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102488213(CN,A)
【文献】特開2004-254632(JP,A)
【文献】特開2018-023301(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L、A61P、A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトコッカス属細菌を有効成分として含んでなる、疲労回復用および/または疲労蓄積予防用組成物であって、ラクトコッカス属細菌がラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・ラクティスJCM5805である、前記組成物。
【請求項2】
ラクトコッカス属細菌を有効成分として含んでなる、疲労回復用および/または疲労蓄積予防用組成物であって、ラクトコッカス属細菌がラクトコッカス・ラクティス
・サブスピーシズ・ラクティスJCM5805であり、かつ、疲労が肉体疲労である、前記組成物。
【請求項3】
ラクトコッカス属細菌を有効成分として含んでなる、疲労回復用および/または疲労蓄積予防用組成物であって、ラクトコッカス属細菌がラクトコッカス・ラクティス
・サブスピーシズ・ラクティスJCM5805であり、かつ、疲労が血中のテストステロン濃度の低下を伴うものである、前記組成物。
【請求項4】
ラクトコッカス属細菌を有効成分として含んでなる、疲労回復用および/または疲労蓄積予防用組成物であって、ラクトコッカス属細菌がラクトコッカス・ラクティス
・サブスピーシズ・ラクティスJCM5805であり、かつ、疲労蓄積時における肉体疲労を抑制するためのものである、前記組成物。
【請求項5】
ヒト1日当たりの有効摂取量のラクトコッカス属細菌を含んでなる、請求項1~
4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
ヒト1日当たりの有効摂取量が、乾燥菌体として0.5~1000mgである、請求項
5に記載の組成物。
【請求項7】
ヒト1日当たりの有効摂取量が、乾燥菌体として5~1000mgである、請求項
5に記載の組成物。
【請求項8】
ヒト1日当たりの有効摂取量が、菌体数として1×10
9~2×10
13個である、請求項
5に記載の組成物。
【請求項9】
ヒト1日当たりの有効摂取量が、菌体数として1×10
10~2×10
12個である、請求項
5に記載の組成物。
【請求項10】
単位包装形態である、請求項1~
9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
食品組成物である、請求項1~
10のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疲労回復用および/または疲労蓄積予防用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
老若男女を問わず、また、職種を問わず疲労を感じる者は多い。疲労はQOLを低下させ、健康状態の悪化を招く恐れがある。このため疲労回復および疲労蓄積予防のための様々な生活改善が広く提唱されている。一般的には、睡眠、食事および運動を改善することが疲労回復や疲労蓄積予防に効果的であるといわれているが、これらを日々実践することは容易ではない。疲労回復や疲労蓄積予防に効果的な食品素材があれば、副作用を懸念せずに手軽に疲労回復や疲労蓄積予防に努めることができるため好ましいといえる。
【0003】
これまでに疲労回復や疲労蓄積予防に効果があるとされる天然物由来の食品素材が提案されている。例えば、植物由来の食品素材としては、高山辣根菜の抽出物を配合した疲労感や倦怠感の予防および治療用組成物(特許文献1)が知られている。また、微生物由来の食品素材としては、米糠類および大豆類を含む培地に納豆菌を接種し発酵させて得られた抗疲労組成物(特許文献2)や、疲労改善効果を有するエンテロコッカス・フェシウムに属する乳酸菌が知られている(特許文献3)。しかし、特許文献2の技術は、乳酸産生を抑制して運動パフォーマンスの低下を抑制すること、すなわち、運動中の持久力向上に向けられたものであり、運動後の疲労回復を目的としたものではない。また、特許文献3の技術は、運動持続時間の延長を疲労の指標としており、究極的には運動中の持久力向上に向けられたものであるといえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-77080号公報
【文献】特開2013-17445号公報
【文献】国際公開第2014/021205号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、疲労回復および/または疲労蓄積予防に効果的な新規食品素材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは今般、ラクトコッカス属細菌の一種であるラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・ラクティスJCM5805にヒトにおける疲労回復効果があることを見出した。本発明者らはまた、上記菌株がマウスにおいても疲労回復効果を示すことを見出した。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0007】
本発明によれば以下の発明が提供される。
[1]ラクトコッカス属細菌を有効成分として含んでなる、疲労回復用および/または疲労蓄積予防用組成物(以下、「本発明の組成物」ということがある)並びに抗疲労剤(以下、「本発明の用剤」ということがある)。
[2]ラクトコッカス属細菌が、ラクトコッカス・ラクティスである、上記[1]に記載の組成物および用剤。
[3]ラクトコッカス属細菌が、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・ラクティスJCM5805である、上記[1]または[2]に記載の組成物および用剤。
[4]疲労が、肉体疲労である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の組成物および用剤。
[5]疲労が血中のテストステロン濃度の低下を伴うものである、上記[1]~[4]のいずれかに記載の組成物および用剤。
[6]疲労蓄積時における肉体疲労を抑制するためのものである、上記[1]~[5]のいずれかに記載の組成物および用剤。
[7]ヒト1日当たりの有効摂取量のラクトコッカス属細菌を含んでなる、上記[1]~[6]のいずれかに記載の組成物および用剤。
[8]ヒト1日当たりの有効摂取量が、乾燥菌体として0.5~1000mgである、上記[7]に記載の組成物および用剤。
[9]ヒト1日当たりの有効摂取量が、乾燥菌体として5~1000mgである、上記[7]に記載の組成物および用剤。
[10]ヒト1日当たりの有効摂取量が、菌体数として1×109~2×1013個である、上記[7]に記載の組成物および用剤。
[11]ヒト1日当たりの有効摂取量が、菌体数として1×1010~2×1012個である、上記[7]に記載の組成物および用剤。
[12]単位包装形態である、上記[1]~[11]のいずれかに記載の組成物および用剤。
[13]食品組成物である、上記[1]~[12]のいずれかに記載の組成物および用剤。
[14]有効量のラクトコッカス属細菌を、それを必要としている対象に摂取させるか、あるいは投与することを含んでなる、疲労回復方法および疲労蓄積予防方法。
[15]疲労回復用および/または疲労蓄積予防用組成物の製造のための、抗疲労剤または疲労蓄積予防剤の製造のための、疲労回復および/または疲労蓄積予防のための、または、抗疲労剤または疲労蓄積予防剤としての、ラクトコッカス属細菌の使用。
[16]疲労回復および/または疲労蓄積予防に用いるための、ラクトコッカス属細菌。
【0008】
本発明の組成物および用剤は、人類が長年食経験を有する食品素材である乳酸菌を有効成分とする。従って、本発明の組成物および用剤は、疲労回復や疲労蓄積予防に使用できるとともに、副作用を懸念せず、長期にわたり摂取できる点で有利である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、疲労感の累積日数の比率を示した図である。*はp<0.05(カイ2乗検定)vs対照群を示す。
【
図2】
図2は、運動前および運動後2時間経過後の、90秒間の測定時間内での心拍一拍毎の交感神経(LF測定値)/副交感神経(HF測定値)の比の平均値(LF/HF比)を試験群および対照群について示した図である。**はp<0.01(t検定、両側検定)vs対照群を示す。
【
図3】
図3は、運動前および運動後2時間経過後の血漿テストステロン濃度を試験群および対照群について示した図である。*はp<0.05(t検定、両側検定)vs運動前を示す。
【
図4】
図4は、運動負荷前およびトレッドミル運動負荷後の回復率を示した図である。*はp<0.05(マン・ホイットニーU検定)vs運動負荷群、**はp<0.01(マン・ホイットニーU検定)vs運動負荷群を示す。
【
図5】
図5は、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・ラクティスJCM5805株と、該株と同等の株(該株に由来する株および該株が由来する株)との間の関係を示す図である。
【発明の具体的説明】
【0010】
本発明において有効成分として用いられるラクトコッカス属細菌は、ラクトコッカス(Lactococcus)属に属する乳酸球菌である。ラクトコッカス属細菌としては、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・ラクティス(Lactococcus
lactis subsp.lactis)、ラクトコッカス・ガルビエアエ(Lactococcus
garvieae)、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・クレモリス(Lactococcus
lactis subsp.cremoris)およびラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・ホールドニアエ(Lactococcus
lactis subsp.hordniae)が挙げられ、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・ラクティスが好ましい。
【0011】
ラクトコッカス属細菌の具体例としては、例えば、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・ラクティスJCM5805、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・ラクティスJCM20101、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・ラクティスNBRC12007、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・ラクティスNRIC1150、ラクトコッカス・ガルビエアエNBRC100934、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・クレモリスJCM16167、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・クレモリスNBRC100676、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・ホールドニアエJCM1180およびラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・ホールドニアエJCM11040が挙げられ、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・ラクティスJCM5805およびラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・ラクティスJCM20101、が好ましく、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・ラクティスJCM5805が特に好ましい。
【0012】
上記の乳酸菌株のうち、JCM菌株は、理化学研究所・バイオリソースセンター・微生物材料開発室(http://jcm.brc.riken.jp/ja/)から、NBRC菌株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構生物遺伝資源部門(http://www.nbrc.nite.go.jp)から、NRIC菌株は、東京農業大学・菌株保存室(http://nodaiweb.university.jp/nric/)から、それぞれ入手することができる。また、本発明においては、上記の具体的な菌株に加えて、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・ラクティスJCM5805、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・ラクティスJCM20101、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・ラクティスNBRC12007、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・ラクティスNRIC1150、ラクトコッカス・ガルビエアエNBRC100934、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・クレモリスJCM16167、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・クレモリスNBRC100676、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・ホールドニアエJCM1180およびラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・ホールドニアエJCM11040と同等の菌株を用いることができる。ここで、同等の菌株とは、上記の菌株から由来している菌株または上記の菌株が由来する菌株若しくはその菌株の子孫菌株をいう。同等の菌株は他の菌株保存機関に保存されている場合もある。
図5に、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・ラクティスJCM5805に由来する菌株およびラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・ラクティスJCM5805が由来する菌株を示す。
図5に記載のラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・ラクティスJCM5805の同等の菌株も本発明の有効成分として用いることができ、本発明でラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・ラクティスJCM5805という場合、これらの同等の菌株も含む。本発明の有効成分として用い得る他の乳酸菌株は、理化学研究所・バイオリソースセンター・微生物材料開発室(茨城県つくば市高野台3丁目1番地の1)、American type culture collection(米国)、独立行政法人製品評価技術基盤機構(千葉県木更津市かずさ鎌足2丁目5番8号)、東京農業大学・菌株保存室(東京都世田谷区桜丘1丁目1番1号)等から入手することができる。
【0013】
本発明の有効成分であるラクトコッカス属細菌は、培養物の形態であってもよい。培養物とは、生菌体、死菌体、生菌体または死菌体の破砕物、生菌体または死菌体の凍結乾燥物、該凍結乾燥物の破砕物、培養液、培養液抽出物等をいい、ラクトコッカス属細菌の一部やラクトコッカス属細菌の処理物も含む。ここで、該処理物には、例えば、ラクトコッカス属細菌を酵素処理、熱処理等によって処理したもの、あるいは該処理したものをエタノール沈殿させ回収したものが含まれる。
【0014】
ラクトコッカス属細菌の培養は、公知の培地を用いた公知の方法で行うことができる。培地としては、MRS培地、GAM培地、LM17培地を用いることができ、適宜無機塩類、ビタミン、アミノ酸、抗生物質、血清等を添加して用いればよい。培養は、25~40℃で数時間~数日行えばよい。
【0015】
培養後、ラクトコッカス属細菌菌体を遠心分離やろ過により集菌する。死菌として用いる場合、オートクレーブ等により殺菌不活化して用いてもよい。
【0016】
本発明の組成物および用剤は、有効成分であるラクトコッカス属細菌単独で提供することができ、あるいは、有効成分であるラクトコッカス属細菌と他の成分(例えば、製剤添加物)とを混合して提供することもできる。本発明の組成物および用剤におけるラクトコッカス属細菌の配合量は、その目的、用途、形態、剤型、症状、体重等に応じて任意に定めることができ、本発明はこれに限定されないが、その含量としては、全体量に対して、0.01~99%(w/w)の含量で配合することができ、さらに好ましくは10~50%(w/w)の含量で配合することができる。本発明においては、本発明の用剤をラクトコッカス属細菌からなるものとし、本発明の組成物をラクトコッカス属細菌と他の成分とを含んでなるものとすることができる。
【0017】
本発明の組成物は、疲労回復に用いられるものである。ここで「疲労」とは、健常人における生理的疲労を意味する。すなわち、「疲労」とは、精神あるいは身体に負荷を与えた際に作業効率(パフォーマンス)が一過性に低下した状態と定義することができ、休息を求める欲求がある状態や、不快感(いわゆる倦怠感)のある状態を含む。疲労は、脳に負荷を与えた中枢性疲労(例えば、精神疲労)と、筋肉などの身体に負荷を与えた末梢性疲労(例えば、肉体疲労)に分類することができ、本発明の組成物および用剤はいずれの疲労に対しても効果を発揮することができるが、好ましくは末梢性疲労に対して用いることができる。本発明の効果をよりよく発揮させる観点から、疲労は、肉体疲労(特に、運動や肉体労働に起因する肉体疲労)、特に疲労蓄積時における肉体疲労とすることができ、例えば、週当たり3日以上の運動を実施したこと、あるいは、3日以上運動を継続したことに起因する肉体疲労とすることができる。本発明によればまた、疲労は血中のテストステロン濃度の低下を伴うものとすることができる。なお、肉体疲労は運動疲労を含む意味で用いられるものとする。
【0018】
本発明において「疲労回復」とは、生理的疲労が軽減されることを意味する。すなわち、「疲労回復」とは、精神あるいは身体にかかった負荷のために低下した作業効率が通常の状態に戻ったり、休息を求める欲求や不快感が軽減されたりすることを意味する。このため本発明において「疲労回復」は、疲労改善や疲労緩和を含む意味で用いられるものとする。
【0019】
本発明の組成物はまた、疲労蓄積予防に用いられるものである。ここで「疲労蓄積」とは、単回、複数回または継続的な負荷により生じた生理的疲労が軽減されない状態を意味する。すなわち、「疲労蓄積」とは、精神あるいは身体にかかった負荷のために低下した作業効率が通常の状態にもどらず、休息を求める欲求や不快感が継続することを意味し、典型的には、複数回または継続的な負荷により生じる生理的疲労を意味する。また、本発明において「疲労蓄積の予防」とは、生理的疲労が軽減されない状態になることを防止することを意味する。
【0020】
本発明の抗疲労剤は疲労回復剤および疲労蓄積予防剤のいずれかまたは両方を含む意味で用いられるものとする。
【0021】
本発明において疲労は、ヒトを含む動物を被験対象として用いて評価することができる。例えば、日本疲労学会による「抗疲労臨床評価ガイドライン(日常生活により問題となる疲労に対する抗疲労製品の効果に関する臨床評価ガイドライン)http://www.hirougakkai.com/guideline.pdf」の別表に記載された評価項目や、同学会で公表されている疲労感VAS検査方法によりヒトにおける疲労を評価することができる。ヒトにおける疲労はまた、後記実施例に記載のアンケート形式により評価することもできる。疲労回復効果および疲労蓄積予防効果は、例えば、本発明の組成物および用剤の摂取群において疲労を感じる比率が、対照サンプルの摂取群において疲労を感じる比率を下回った場合(好ましくは有意差が認められる程度に下回った場合)に、摂取対象において疲労回復したと、あるいは疲労蓄積を予防したと判定することができる。本発明において疲労は、後記実施例に記載されるように、動物を被験対象として用いて評価することもできる。
【0022】
本発明の組成物および用剤は医薬品(例えば、医薬組成物)、医薬部外品、食品、飼料等の形態で提供することができ、下記の記載に従って実施することができる。
【0023】
本発明の有効成分であるラクトコッカス属細菌は、疲労回復効果および/または疲労蓄積予防効果を有することから、疲労した対象や、疲労しやすい対象に摂取させ、または投与することができる。摂取対象および投与対象はヒトには限定されず、ヒト以外の動物(ウマ、ウシ、イヌ、ネコ等)であってもよい。
【0024】
本発明の有効成分であるラクトコッカス属細菌を食品として提供する場合には、それをそのまま食品として提供することができ、あるいはそれを食品に含有させて提供することができる。このようにして提供された食品は本発明の有効成分を有効量含有した食品である。本明細書において、本発明の有効成分を「有効量含有した」とは、個々の食品において通常喫食される量を摂取した場合に後述するような範囲で本発明の有効成分が摂取されるような含有量をいう。また「食品」とは、健康食品、機能性食品、栄養補助食品、保健機能食品(例えば、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品)、特別用途食品(例えば、幼児用食品、妊産婦用食品、病者用食品)およびサプリメントを含む意味で用いられる。なお、本発明の有効成分であるラクトコッカス属細菌をヒト以外の動物に摂取させる場合には、本発明でいう食品が飼料として使用されることはいうまでもない。すなわち、本発明において「食品」は「飼料」を含む意味で用いられるものとする。
【0025】
本発明の有効成分であるラクトコッカス属細菌は、疲労回復効果および/または疲労蓄積予防効果を有するため、日常摂取する食品に含有させることができ、あるいは、サプリメントとして提供することができる。すなわち、本発明の組成物および用剤は食品の形態で提供することができる。この場合、本発明の組成物および用剤は1食当たりに摂取する量が予め定められた単位包装形態で提供することができる。1食当たりの単位包装形態としては、例えば、パック、包装、缶、ボトル等で一定量を規定する形態が挙げられる。本発明の組成物および用剤の各種作用をよりよく発揮させるためには、後述する、ラクトコッカス属細菌の1回当たりの摂取量に従って1食当たりの摂取量を決定できる。本発明の食品は、摂取量に関する説明事項が包装に表示されるか、あるいは説明事項が記載された文書等と一緒に提供されてもよい。
【0026】
単位包装形態においてあらかじめ定められた1食当たりの摂取量は、1日当たりの有効摂取量であっても、1日当たりの有効摂取量を2回またはそれ以上(好ましくは2または3回)に分けた摂取量であってもよい。従って、本発明の組成物および用剤の単位包装形態には、後述のヒト1日当たりの摂取量でラクトコッカス属細菌を配合することができ、あるいは、後述のヒト1日当たりの摂取量の2分の1あるいは3分の1の量でラクトコッカス属細菌を配合することができる。本発明の組成物および用剤は、摂取の便宜上、1食当たりの摂取量が1日当たりの有効摂取量である、「1食当たりの単位包装形態」で提供することが好ましい。
【0027】
「食品」の形態は特に限定されるものではなく、例えば、飲料の形態であっても、半液体やゲル状の形態であっても、固形体や粉末状の形態であってもよい。また、「サプリメント」としては、本発明の有効成分に賦形剤、結合剤等を加え練り合わせた後に打錠することにより製造された錠剤や、カプセルになどに封入されたカプセル剤が挙げられる。
【0028】
本発明で提供される食品は、本発明の有効成分を含有する限り、特に限定されるものではないが、例えば、清涼飲料水、炭酸飲料、果汁入り飲料、野菜汁入り飲料、果汁および野菜汁入り飲料、牛乳、豆乳、乳飲料、ドリンクタイプのヨーグルト、ドリンクタイプのゼリー、コーヒー、ココア、茶飲料、栄養ドリンク、スポーツドリンク、ミネラルウォーター、ニア・ウォーターなどの非アルコール飲料;飯類、麺類、パン類およびパスタ類等炭水化物含有飲食品;クッキー、ケーキ、チョコレートなどの洋菓子類、饅頭や羊羹等の和菓子類、キャンディー類、ガム類、ヨーグルト、ゼリーやプリンなどの冷菓や氷菓、スナック菓子などの各種菓子類;ウイスキー、バーボン、スピリッツ、リキュール、ワイン、果実酒、日本酒、中国酒、焼酎、ビール、アルコール度数1%以下のノンアルコールビール、発泡酒、その他雑酒、酎ハイなどのアルコール飲料;卵を用いた加工品、魚介類や畜肉(レバー等の臓物を含む)の加工品(珍味を含む)、スープ類などの加工食品、濃厚流動食などの流動食などを例示することができる。なお、ミネラルウォーターは、発泡性および非発泡性のミネラルウォーターのいずれもが包含される。
【0029】
茶飲料としては、発酵茶、半発酵茶および不発酵茶のいずれもが包含され、例えば、紅茶、緑茶、麦茶、玄米茶、煎茶、玉露茶、ほうじ茶、ウーロン茶、ウコン茶、プーアル茶、ルイボスティー、ローズ茶、キク茶、ハーブ茶(例えば、ミント茶、ジャスミン茶)が挙げられる。
【0030】
果汁入り飲料や果汁および野菜汁入り飲料に用いられる果物としては、例えば、リンゴ、ミカン、ブドウ、バナナ、ナシ、モモ、マンゴー、アサイー、ブルーベリーおよびウメが挙げられる。また、野菜汁入り飲料や果汁および野菜汁入り飲料に用いられる野菜としては、例えば、トマト、ニンジン、セロリ、カボチャ、キュウリおよびスイカが挙げられる。
【0031】
本発明の有効成分であるラクトコッカス属細菌の摂取量は、摂取対象の性別、年齢および体重、症状、摂取時間、剤形、投与経路並びに組み合わせる薬剤等に依存して決定できる。ラクトコッカス属細菌を疲労回復および/または疲労蓄積予防を目的として摂取させる場合には、ヒト1日当たりの摂取量は、例えば、乾燥菌体として、例えば、0.5~1000mgまたは5~1000mg、好ましくは5~500mg、より好ましくは10~300mg、さらに好ましくは10~100mg、特に好ましくは約50mgとすることができる。また、ラクトコッカス属細菌を疲労回復および/または疲労蓄積予防を目的として摂取させる場合のヒト1日当たりの摂取量は、例えば、菌数として、1×109~1×1014個または1×109~2×1013個、好ましくは1×1010~1×1013個、より好ましくは1×1010~1×1012個または1×1010~2×1012個、特に好ましくは約1×1011個とすることができる。摂取回数に特に制限はなく、上記有効摂取量を1日1回摂取させても、数回に分けて摂取させてもよい。また、摂取タイミングについても特に制限はなく、対象が摂取しやすい時期に摂取することができる。なお、上記のラクトコッカス属細菌の摂取量および摂取タイミング並びに下記の摂取期間は、本発明の有効成分であるラクトコッカス属細菌を非治療目的および治療目的のいずれで使用する場合に適用があり、治療目的の場合には摂取は投与に読み替えることができる。
【0032】
本発明の組成物および用剤は、長期摂取によりその効果をよりよく発揮することができ、例えば、3日以上継続的に摂取させることができ、好ましくは6日以上、より好ましくは10日以上、継続的に摂取させることができる。ここで、「継続的に」とは毎日摂取を続けることを意味する。本発明の組成物および用剤を包装形態で提供する場合には、継続的摂取のために一定期間(例えば、1週間)の有効摂取量をセットで提供してもよい。
【0033】
本発明の組成物および用剤は人類が長年食経験を有する食品素材である乳酸菌を有効成分として利用することから、継続使用しても副作用の懸念がなく、安全性が高い。このため本発明の組成物および用剤を既存の抗疲労剤と組み合わせて用いると、既存薬剤の用量を低減することができ、ひいては既存薬剤の副作用を軽減あるいは解消することができる。他の薬剤との併用に当たっては、他の薬剤と本発明の組成物および用剤を別個に調製しても、他の薬剤と本発明の組成物および用剤(あるいはラクトコッカス属細菌)を同一の組成物に配合してもよい。
【0034】
本発明の組成物および用剤並びに食品には、疲労回復効果および/または疲労蓄積予防効果を有する旨の表示が付されてもよい。この場合、消費者に理解しやすい表示とするため本発明の組成物および用剤並びに食品には以下の一部または全部の表示が付されてもよい。なお、本発明において「疲労回復および/または疲労蓄積予防」が以下の表示を含む意味で用いられることはいうまでもない。
・疲労の回復を促す、促進する、高める、サポートする、改善する、あるいは向上させる
・倦怠感の回復を促す、促進する、高める、サポートする、改善する、あるいは向上させる
・活力を維持する、高める、サポートする、改善する、あるいは向上させる・コンディションを維持する、高める、サポートする、改善する、あるいは向上させる
・元気を維持する、高める、サポートする、改善する、あるいは向上させる
・はつらつを維持する、高める、サポートする、改善する、あるいは向上させる
・疲労の蓄積を予防する、防止する、減らす、あるいは抑制する
・筋肉痛を予防する、防止する、減らす、あるいは抑制する
・消耗を予防する、防止する、減らす、あるいは抑制する
・満身創痍を予防する、防止する、減らす、あるいは抑制する
・くたびれを予防する、防止する、減らす、あるいは抑制する
・ダルさを予防する、防止する、減らす、あるいは抑制する
・身体の重さを予防する、防止する、減らす、あるいは抑制する
・活動低下を予防する、防止する、減らす、あるいは抑制する
・疲労が気になる方に
・疲労が残りやすい方に
上記の表示は、「運動後の」、「活動後の」、「肉体疲労後の」または「通常時の」との表示を冒頭に付して用いることもできる。
【0035】
本発明によれば、有効量のラクトコッカス属細菌またはそれを含む組成物を、それを必要としている対象に摂取させるか、あるいは投与することを含んでなる、疲労回復方法および疲労蓄積予防方法が提供される。摂取または投与対象は、ヒトを含む哺乳動物であり、好ましくはヒトである。本発明の疲労回復方法および疲労蓄積予防方法並びに後述の本発明の使用は、ヒトを含む哺乳類における使用であってもよく、治療的使用と非治療的使用のいずれもが意図される。本明細書において、「非治療的」とはヒトを手術、治療または診断する行為(すなわち、ヒトに対する医療行為)を含まないことを意味し、具体的には、医師または医師の指示を受けた者がヒトに対して手術、治療または診断を行う方法を含まないことを意味する。本発明の疲労回復方法および疲労蓄積予防方法は、本発明の組成物および用剤並びに本発明の有効成分に関する記載に従って実施することができる。
【0036】
本発明によればまた、疲労回復用および/または疲労蓄積予防用組成物の製造のための、ラクトコッカス属細菌またはそれを含む組成物の使用が提供される。本発明によればさらに、抗疲労剤または疲労蓄積予防剤の製造のための、ラクトコッカス属細菌またはそれを含む組成物の使用が提供される。本発明によればさらにまた、疲労回復および/または疲労蓄積予防のための、または、抗疲労剤または疲労蓄積予防剤としての、ラクトコッカス属細菌またはそれを含む組成物の使用が提供される。本発明によればさらにまた、疲労回復および/または疲労蓄積予防に用いるための、ラクトコッカス属細菌またはそれを含む組成物が提供される。本発明の使用並びに本発明のラクトコッカス属細菌およびそれを含む組成物は、本発明の組成物および用剤並びに本発明の有効成分に関する記載に従って実施することができる。
【実施例】
【0037】
以下の例に基づき本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0038】
例1:乳酸菌(JCM5805)によるヒトにおける疲労感の回復促進効果
(1)乳酸菌含有食品の調製
乳酸菌含有食品として、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・ラクティスJCM5805(Lactococcus
lactis subsp. Lactis JCM5805)(以下、「JCM5805」という)の乾燥死菌体50mg(1.0×1011個以上)とコーンスターチ150mgを含む3号ハードカプセルを作製した。プラセボ食品として、JCM5805を含まず200mgのコーンスターチを含む3号ハードカプセルを作製した。
【0039】
(2)試験方法
1週間に5回以上の頻度で定期的に同程度の運動を実施している20歳以上の男性を被験者とした。51名の被験者を年齢、身長、体重、BMIに偏りがないようにランダムに2群に分け、乳酸菌含有食品を摂取させた群を「試験群」(26名)とし、プラセボ食品を摂取させた群を「対照群」(25名)とした。解析除外対象1名を除く、50名(試験群26名、対照群24名)を解析対象とした。試験開始時の各群の被験者情報の平均値±標準偏差を表1に示す。
【0040】
【0041】
表1に示した通り、群分け時の年齢、身長、体重およびBMIについては、両群間で有意な差は確認されなかった(対応のないt検定)。
【0042】
プラセボ対照ランダム化二重盲検試験デザインにて、被験食品として、試験群には上記(1)で調製した乳酸菌含有食品を摂取させ、対照群にはプラセボ食品を摂取させ、それぞれ1日1回1カプセルを任意のタイミングで試験期間中(13日間)継続摂取させた。また、試験期間中、被験者には試験期間前と同程度の定期的な運動を実施する生活習慣を継続させ、実施した運動内容および時間について被験者日誌に記録させた。
【0043】
試験期間中は毎日就寝前に被験者に疲労感を評価させた。具体的には、被験者が感じている疲労感に最も近い感覚を以下の5段階から選択させ記録させた。
1:疲労感がひどい
2:疲労感がかなりある
3:疲労感が多少はある
4:疲労感が少しだけある
5:疲労感が全くない
【0044】
本試験は、「キリン社内倫理審査」および「順天堂大学医学部附属順天堂医院病院倫理委員会」によって審査され、承認を得た後に実施した。ヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則、個人情報保護法および「疫学研究に関する倫理指針」(平成14年6月17日文部科学省 厚生労働省)を遵守して実施した。
【0045】
(3)評価方法
被験者日誌の記録で、「1:疲労感がひどい、2:疲労感がかなりある、3:疲労感が多少はある」を「疲労感がある」と定義し、「4:疲労感が少しだけある、5:疲労感が全くない」を「疲労感がない」と定義し、各群について「疲労感がある/ない」の累積日数を試験期間全体の累積日数に対する比率として求め、カイ2乗検定を用いて解析した。
【0046】
被験者日誌の記録に基づいて、各被験者の日々の運動量を算出した。ここで、運動量とは、運動内容を規定する強度(メッツ)に運動時間を乗じて算出した。具体的には、「運動基準・運動指針の改定に関する検討会 報告書」(http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002xple-att/2r9852000002xpqt.pdf)の参考資料2-2「運動のメッツ表」に従って求めた1日の運動強度に運動時間を乗じて運動量を算出した。また、被験者日誌の運動内容と時間の記録に基づき、各被験者の運動量の合計(13日間の総運動量)を求めた。
【0047】
(4)結果
結果は
図1に示される通りであった。
図1の結果より、乳酸菌(JCM5805)含有食品を摂取した試験群では対照群と比較して、「疲労感がある」の累積日数の比率が有意に低下することが確認された(p<0.05)。なお、試験期間中の各被験者の13日間の総運動量(メッツ・時)は、両群間で有意な差は確認されなかった。以上から、乳酸菌(JCM5805)の摂取により、運動負荷によって蓄積する疲労感が低減されること、すなわち、乳酸菌(JCM5805)含有食品が疲労からの回復促進効果を有することが確認された。
【0048】
例2:乳酸菌(JCM5805)によるヒトにおける疲労に関わる指標の改善効果
(1)乳酸菌含有食品の調製
例1(1)に従って乳酸菌含有食品とプラセボ食品を調製した。
【0049】
(2)試験方法
1週間に4回以上の頻度で定期的に同程度の運動を実施している18歳以上の男性を被験者とした。37名の被験者を年齢、身長、体重、BMIに偏りがないようにランダムに2群に分け、例1に示した乳酸菌含有食品を摂取させた群を「試験群」(19名)とし、プラセボ食品を摂取させた群を「対照群」(18名)とした。31名(試験群15名、対照群16名)を解析対象とした。試験開始時の各群の被験者情報の平均値±標準偏差を表2に示す。
【0050】
【0051】
表2に示した通り、群分け時の年齢、身長、体重およびBMIについて、両群間で有意な差は認められなかった(対応のないt検定)。
【0052】
ア 試験スケジュール
プラセボ対照ランダム化二重盲検並行群間比較試験として行った。試験期間中(15日間)は運動を行わせ、被験食品摂取期間は例1で用いたものと同じ被験食品(試験群:乳酸菌含有食品、対照群:プラセボ食品)を、それぞれ1日1回1カプセル摂取させた。具体的なスケジュールは以下の通りである。
【0053】
(i)被験食品摂取期間
1日目から14日目までの被験食品摂取期間中はトレーニングコーチによって運動量が管理された運動を行い、被験食品を摂取させた。なお、この期間における被験食品の摂取は1日のうちの任意のタイミングとした。また、各日の運動量は被験者それぞれが行った運動を日誌に記載し、その運動を例1と同様の方法で解析することにより求めた。被験食品摂取期間中の運動量は、試験群13.5±3.1メッツ・時/日、プラセボ群12.8±2.5メッツ・時/日であり両群に差は認められなかった。
【0054】
(ii)運動終了日
試験15日目に心拍数監視下で自転車エルゴメータによる2時間の運動を行った。運動前および運動後2時間時に検査(採血、脈波・心電波測定)を行った。運動中の平均心拍数は、試験群141.2±9.3、プラセボ群144.7±11.5であり両群に差は認められなかった。
【0055】
イ 検査項目
(i)採血によるテストステロン測定
テストステロン濃度は、血清を試料としてELISA法(R&D Systems社製 Testosterone Parameter Assay Kit)により測定した。一般に疲労感が大きいときは血中のテストステロン濃度が低下することが知られている(Environmental Health and Preventive Medicine, 2:21-27(1997))。
【0056】
(ii)脈波・心電波を用いた交感神経(LF)/副交感神経(HF)の測定
脈波・心電波から疲労ストレスとして評価される交感神経(LF)と副交感神経(HF)の比を求めた。すなわち、自律神経活動は、心拍変動(heart rate variability: HRV)の周波数スペクトル解析が一般に広く行われており、それは低周波数(low frequency(LF):0.04-0.15 Hz)と高周波数(high frequency (HF): 0.15-0.4Hz)の構成成分から成り、前者は交感神経プラス副交感神経機能、後者は副交感神経機能に会合していることが知られている(Am. J. Physiol., 248: H151-H153(1985)、 Circ. Res., 59:178-193(1986))。そして、LF/HF比が高いことは疲労の増加を、低いことは疲労の低減を反映しうることが知られている(J.Physiol.Scie.,65:483-498(2015))。
【0057】
本例では、自律神経測定センサーVM302(株式会社疲労科学研究所製、http://www.fatigue.co.jp/pdf/vm302-20170119.pdf)を用いて脈波・心電波を測定した。90秒間の測定時間内での心拍一拍毎のLF測定値/HF測定値の比の平均値、すなわち、LF/HF比を求めた。
【0058】
本試験は、「キリン社内倫理審査」および「順天堂大学スポーツ健康科学部研究等倫理委員会」によって審査され、承認を得た後に実施した。ヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則、個人情報保護法および「医学系研究に関する倫理指針」(2017年2月28日一部改正2014年12月22日)の精神に則り実施した。
【0059】
(3)評価方法
検査項目の評価は各群内における変化(群内評価)および両群間の比較(群間比較)について行った。すなわち、各群の群内評価は試験15日目(運動終了日)における、運動前の値に対する運動2時間後の値を対応のあるt検定(両側検定)により解析した。群間比較は、各測定時(運動前または運動2時間後)における両群の値を対応のないt検定(両側検定)により解析した。
【0060】
(4)結果
結果は
図2および
図3に示される通りであった。
図2の結果より、乳酸菌(JCM5805)含有食品を摂取した試験群では、対照群と比較して運動2時間後のLF/HF比が有意に低値を示した(p<0.01)。また
図3の結果より、試験15日目の血清テストステロン濃度は、対照群で運動前と比較して運動2時間後で有意に低値を示したが(p<0.05)、試験群でそのような事象は認められなかった。以上から、乳酸菌(JCM5805)の摂取により、運動負荷によって蓄積する疲労に関する客観指標が改善されることおよび疲労蓄積時における運動疲労が抑制されることが確認された。
【0061】
例3:動物における乳酸菌(JCM5805)の疲労感の回復促進効果
(1)乳酸菌含有飼料の調製
乳酸菌含有飼料として、固形飼料AIN-93G(オリエンタル酵母社製)に0.029質量%のJCM5805乾燥死菌体が配合された混餌飼料を調製した。プラセボ飼料はAIN-93Gとした。
【0062】
(2)試験方法
4週齢のBALB/c雄性マウス(チャールズリバー社より入手)にAIN-93Gを自由摂食させて7日間馴化飼育した。馴化後の5週齢のマウスを1匹当たり1ケージの回転カゴ付きケージ(製品名:RWC-15、メルクエスト社製、以下同じ)に移し、AIN-93Gを自由摂食させて7日間馴化飼育した。馴化後の6週齢のマウスを体重と回転カゴにおける自発運動量に偏りがないように3群に分け、プラセボ飼料を摂取させ、運動を実施しない群を「非運動負荷群」(6匹)とし、プラセボ飼料を摂取させ、運動を実施した群を「運動負荷群」(13匹)とし、乳酸菌含有飼料を摂取させ、運動を実施した群を「運動負荷・乳酸菌摂取群」(13匹)とし、試験を開始した。試験開始時(6週齢)の各群の平均体重は、非運動負荷群が21.1±0.8g、運動負荷群が20.8±0.7g、運動負荷・乳酸菌摂取群が20.6±1.1gであり、両群間で有意な差は確認されなかった(Tukey-Kramer検定)。
【0063】
試験開始とともに、被験飼料として、運動負荷・乳酸菌摂取群には上記(1)で調製した乳酸菌含有飼料を自由摂取させ、非運動負荷群と運動負荷群にはプラセボ飼料を自由摂取させ、3週間飼育した。
【0064】
マウスに疲労を引き起こすための負荷としてトレッドミル装置を用いた強制歩行を実施した。具体的には、被験飼料摂取開始から1週間後の7週齢の運動負荷群と運動負荷・乳酸菌摂取群のマウスに表3に示す条件でトレッドミル装置(製品名:MK-680、室町機械社製、以下同じ)を用いた強制歩行の馴化運動を1日30分間、1日おきに3日行った。
【0065】
【0066】
被験飼料摂取開始から2週間後の8週齢の運動負荷群と運動負荷・乳酸菌摂取群のマウスに表4に示す条件でトレッドミル装置を用いた強制歩行の本運動を1日60分間、連続3日間行った。
【0067】
【0068】
マウスの疲労度を解析するため、マウスの疲労度の指標として用いられる自発運動量を測定した(例えば、Zhang et al. Journal of Neuroinflammation 13:71(2016)参照)。運動負荷後の自発運動量として、3日間の本運動終了後、マウスの活動期である暗期(20時~翌8時)の自発運動量を3日間連続で測定した。具体的には、各マウスを回転カゴ付きケージで飼育し、本運動終了の翌日から3日間自発運動量を測定した。非運動負荷群の自発運動量を同時期に同様にして測定した。また、運動負荷前の自発運動量も同様にして測定した。
【0069】
(3)評価方法
運動負荷後の回復率は、非運動負荷群の自発運動量に対する、運動負荷群および運動負荷・乳酸菌摂取群の自発運動量のそれぞれの比率として以下の算出式にて求めた。
【数1】
【0070】
運動負荷群と運動負荷・乳酸菌摂取群について運動負荷後の回復率をマン・ホイットニーU検定を用いて解析した。
【0071】
(4)結果
結果は
図4に示される通りであった。
図4の結果より、運動負荷・乳酸菌摂取群では運動負荷群と比較して、運動負荷2日後および3日後の運動負荷後の回復率が有意に増加することが確認された(2日後:p<0.05、3日後:p<0.01)。すなわち、乳酸菌(JCM5805)の摂取により、トレッドミル運動負荷後の疲労が回復すること、すなわち、乳酸菌(JCM5805)含有食品が疲労からの回復促進効果を有することが確認された。