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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】枝打ち装置
(51)【国際特許分類】
   A01G 23/00 20060101AFI20221011BHJP
【FI】
A01G23/00 511Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018197071
(22)【出願日】2018-10-18
(65)【公開番号】P2020061989
(43)【公開日】2020-04-23
【審査請求日】2021-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】396024901
【氏名又は名称】川▲崎▼ 晴久
(74)【代理人】
【識別番号】100147038
【弁理士】
【氏名又は名称】神谷 英昭
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼晴久
【審査官】大澤 元成
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-070018(JP,A)
【文献】実開昭56-120062(JP,U)
【文献】実開昭55-160144(JP,U)
【文献】実開昭63-055856(JP,U)
【文献】実開昭60-133772(JP,U)
【文献】実開昭56-093166(JP,U)
【文献】実開昭59-059747(JP,U)
【文献】特開昭59-166024(JP,A)
【文献】特開2013-169189(JP,A)
【文献】特開2011-217688(JP,A)
【文献】特開2008-253116(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 23/00-23/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
略円環状の機枠と、前記機枠に固定された一対の車輪支持装置と、前記機枠に固定されたソーチェーンを含む電動チェーンソーとを備え、枝打ち時に電動チェーンソーが切断動作している状態で、前記車輪支持装置が枝打ち方向へ移動することにより、枝打ちをする枝打ち装置において、
前記電動チェーンソーと対象樹木の幹表面との間隔を略一定に保ちつつ、
枝打ち時における前記電動チェーンソーの侵入角度(幹軸と枝の長手方向中心軸を含む平面に対して、前記ソーチェーンが形成する直交する平面を0°とし、この直交する平面を幹に対して平行を維持した状態で時計回りに傾けるときの角度)ξを、
前記樹木の幹径Dtに応じてξ=9×10 -4 Dt-0.315(単位:ξ[rad]、Dt[mm])の近傍に設定することを特徴とする枝打ち装置。
【請求項2】
前記電動チェーンソーの侵入角度が、樹木側に2°~15°の範囲で電動チェーンソーを傾斜して固定配置されていることを特徴とする請求項1に記載の枝打ち装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹木に沿って昇降動作して枝打ち作業などを行う枝打ち装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
日本は森林面積2500万ヘクタール、森林蓄積50億立方メートル弱で世界でもトップクラスを誇る有数の森林国である。しかし現在、日本の森林は手入れを必要とする森林は4割を越えているにもかかわらず、充分な手入れがなされないまま放置されている状況にある。
【0003】
林業の就業者はおよそ7万人であるが、65歳以上の就業者は2万人を越え(林野庁平成28年版森林・林業白書より)、高齢化が顕著であり、年々増加する水田の耕作放棄の問題と共に、第一次産業の活性化は日本の国力維持にとっても重要な課題となっている。また、木材を加工・利用する産業はすそ野が広く、農業と同様に林業は地方再生の切り札ともなり得る。
【0004】
高齢者に限ったことではないが森林を手入れするには、機械化を進めることが肝要である。特に、高所での作業となる枝打ちは、作業者の安全確保と木材の品質維持・向上のために必須であり、種々の提案がなされている。
【0005】
従来の枝打ち装置として、枝に対して一方の方向から切断するタイプの枝打ち装置では、枝切りが進むと、枝ぶりにより、例えばチェーンソーの場合には、チェーン歯をガイドするガイドバーを枝の切断面部分間で噛んだりすることがある。このように刃体又は刃体を支持するガイドバーに枝噛みが生じると、刃体が動かなくなったり、或いは、枝に対してガイドバーの進行方向への移動ができなくなって、結果的に切断ができなくなるため、作業を中断し、枝噛み状態を解消する必要がある。
【0006】
特許文献1に開示された枝打ち装置は、回転刃を回転駆動する回転刃駆動部からなる切断機と、前記切断機を、樹幹の略接線方向に沿って直進させる直進機構と、前記切断機及び前記直進機構を、装置本体上で樹幹の周りを回転移動させる回転機構とを有し、前記回転機構により前記切断機を樹幹の枝近傍に回転移動させた後に、直進機構により切断機を樹幹の枝を切断すべく直進させるものである。切断機を樹幹の周囲に旋回させつつ同時並行的に枝を切断するものではないので、枝噛みの問題は生じ難いが、装置の昇降が停止するので、高速の枝打ちには必ずしも適していない。
【0007】
本発明の発明者は、当該分野においてこれまでに幾つかの提案を行っている。例えば、前記枝噛みの発生を防止して、効率的に作業を行う装置として、枝の切断面間に挿入可能な厚みを備えた挿入部を備え、挿入部が切断中の枝の切断面間に挟まれた状態の下でチェーンソーの切断動作が可能にされた枝噛み防止部材を有するもの(特許文献2)、チェーンソーの刃幅よりも幅が狭い枝打ち方向側の端部を備え、樹幹の周面に沿って円弧状の軌跡を描いて移動自在に支持された枝噛み防止部材を有するもの(特許文献3)などがある。
【0008】
しかし前記の提案は、枝噛み防止を主目的としており、チェーンソー等で枝打ちする場合に、枝の切り口を押し広げる必要がある点を考慮したものではない。すなわち樹の周りを周回運動しながら枝打ちする装置では、チェーンソー等の切断刃が平面構造であるのに対して、回転運動の刃先が表す軌跡は円柱側面であるため、枝径の増加に伴って、切り口を押し広げながら枝の切断を行うことになるため、切断できる枝径が制限されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2011-217688号公報
【文献】特開2009-261375号公報
【文献】特開2011-167127号公報
【文献】特開2000-295931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
枝打ち対象の樹木に対して、樹の周りを周回しながら枝打ち・枝払いをする枝打ち装置にあっては、枝の切り口を押し広げる方向にも力を必要とする。特に枝径が増加するに際して、ほぼその3乗に比例した押し広げ力がかかるので、切断対象の枝径が大幅に制限されており、要求される電力も増大する。本発明は、これらの課題を解決するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、本発明では、チェーンソーが枝を切断する際の侵入角度を枝表面に対する法線から敢えてずらした角度で切り始めることを特徴とする。
【0012】
具体的には、略円環状の機枠と、前記機枠に固定された一対の車輪支持装置と、前記機枠に固定された電動チェーンソーとを備え、枝打ち時に電動チェーンソーが切断動作している状態で、前記車輪支持装置が枝打ち方向へ移動することにより、枝打ちをする枝打ち装置において、前記電動チェーンソーと対象樹木の幹表面との間隔を略一定に保ちつつ、枝打ち時における前記電動チェーンソーの侵入角度を、前記樹木の幹径に応じて設定することを特徴とする。
【0013】
「樹木の幹径」とは、正確には各樹木の枝打ちをする箇所における幹径を指すが、該幹径を計測しつつ枝打ち装置が自動で侵入角度を調整するような機構を設けたり、対象となる樹木毎に侵入角度を調整する機構を設けると、装置コストがかかるため、本発明では、地面から約1.2mの位置の樹木の直径(林業ではこの位置の立木の太さを胸高直径という)を基準として、樹木の幹径としても良い。さらには、枝打ち装置を適用する森林の樹木中最大の幹径に応じて、予め固定した侵入角度を設定しておいても良い。
【0014】
後に詳述するが、幹径が大きくなると、切断中の枝を外側に押しやる方向へ働く力を小さくしようとして電動チェーンソーを樹木側に傾けるようにした場合、枝打ちの進行に伴ってチェーンソーが幹の切断面を圧縮することになるため、単に樹木側に傾けて侵入させれば良い訳ではない。一方、前記圧縮力を考慮して、樹木側より離れる方向に傾ければ、当然切断中の枝を外側方向に押しやる力が余分にかかることになる。
【0015】
本発明では従来、枝の幹径に係わらず、枝の長手方向中心軸に対して直交するようにしていた電動チェーンソーの侵入角度を、幹径に応じて前記直交面に対して樹木側に傾斜させて枝打ちを開始することとした。侵入角度とは、幹軸と枝の長手方向中心軸を含む平面に対して、直交する平面を0°とし、この直交する平面を幹に対して平行を維持した状態で時計回りに傾けるときの角度(後述するξ)をいう。
【0016】
より具体的には、前記電動チェーンソーの侵入角度が前記枝の長手方向中心軸に直交する法線面に対して、樹木側に2°~15°の範囲、好ましくは6°~11°で電動チェーンソーを傾斜して切断しつつ移動することを特徴とする。幹径が小さいときは前記傾斜角度を大きくすることが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の枝打ち装置は、樹木の幹径に応じて電動チェーンソーの侵入角度を設定するので、枝の切断面を外方向に押し広げる力を低減でき、従来よりも大きな枝径の枝打ちが可能である。
【0018】
また、枝打ちと昇降の同時運動が可能なため枝打ち作業の高速化に寄与し、チェーンソー等の切断動作を付与する駆動系に要求されるパワーを低減できるので、装置の小型・軽量化、より長時間での作業を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明の適用される枝打ち装置が例として示されている。
図2図2は、周回枝打ちにおける枝とチェーンソーガイド版との幾何学的関係を示したものである。
図3図3は、本発明の電動チェーンソーの侵入角度を、枝の長手方向中心軸に直交する法線に対して、樹木側に傾斜(ξ)して配置されていることを示す図である。
図4図4は、ΔxCを生じさせる力Foを示す図である。
図5図5は、ガイドバー左面側と切断される枝との干渉を説明する図である。
図6図6(a)には、押し広げ力Foと枝の切り込み変位lとの関係を示す。また枝の切り込み変位lと押し広げ変位ΔxOの関係を図6(b)に示す。
図7図7に、チェーンソー設置角度ξ=-6°、枝径50mm、幹径250mm、刃幅6mmのときの押し広げ力F、押し付け力F、その総和を示す。
図8図8にチェーンソー設置角度ξ=-6°、枝径50mm、幹径150mm、刃幅6mmのときの押し広げ力F、押し付け力F、その総和を示す。
図9図9に、枝径50mm、刃幅6mmとし、幹径が250mm、200mm、150mmの各径のときのFmax=max(F+F)との関係を示す。
図10図10に、本発明の枝打ちに係る車輪駆動部を除いた試験装置の全体像を示す。
図11図11には、試験に使用したチェーンソーの2種の形状を示している。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明による枝打ち装置は、枝に対する電動チェーンソーの侵入角度を樹木の平均幹径に応じて設定することで、枝の切断端より受ける力を最小にするように構成されたものである。以下、図1等を参考にしつつ具体的に説明する。
【0021】
図1は本発明の適用される枝打ち装置1が例として示されている。枝打ち装置は樹幹を昇降動作し、樹幹から延びる枝を切断する。
【0022】
この枝打ち装置は、略円環状の機枠4と、この機枠4に固定された一対の車輪支持装置5とを備えている。これらの車輪支持装置5が支持するそれぞれ2個の車輪7を樹幹の外周面に当接させることにより、機体の上下方向の相対位置を保持し、樹幹を昇降することが可能となっている。
【0023】
図1に示される例では上下の車輪が二輪で一組を構成しているが、一方が一輪であっても良い。また二輪以上で構成されている場合には、その内の少なくとも一輪が能動車輪であれば良い。能動車輪を各一輪に限定することで、装置全体の軽量化・低コスト化が実現できる。
【0024】
機枠4は、樹幹を取り囲むように樹幹の径方向外側に配置される。機枠4には、ジョイント部13及び関節部14が設けられている。枝打ち装置1を樹幹に取り付ける際には、このジョイント部13を外して操作することにより、その機枠4の閉じた環を開くことが可能となっている。この開閉に関して、関節部にバネ等により軽く付勢力を働かせて、樹幹に対して固定する操作を容易にすることも可能である。
【0025】
各車輪支持装置5は、y軸を対象軸として相対する位置に固定されている。一方の車輪支持装置5Aは、その支持する車輪7aを樹幹の上下方向において機枠4よりも上側に当接させるように構成され、他方の車輪支持装置5Bは、その支持する車輪7bを機枠4よりも下側に当接させる。また、重心が車輪支持装置5B側における下側の車輪7bよりも径方向外側になるように設計されている。
【0026】
このような構成とすることで、樹幹を挟んでそれぞれ上下方向に異なる位置で樹幹の外周面に当接する上下の車輪7a、7bには、機体の自重に基づいてこれら各車輪を樹幹に押し付ける力が発生する。枝打ち装置は、この互いに相反する方向の押付力を利用して上下の各車輪間に樹幹を挟み込むことにより、その自重によって樹幹に対する上下方向の相対位置を重力方向に沿う摩擦力で保持することが可能となっている。
【0027】
車輪支持装置5は、機枠4に固定される基部と、この基部から延びる左右一対の支持アーム16とを備えている。また、各支持アーム16の先端には、それぞれ車輪7を支持可能な車輪支持部17が設けられている。各車輪支持装置5(5A、5B)は、これらの各支持アームが支持する二つの車輪を、樹幹の外周面に当接させる構成になっている。
【0028】
図1には、左右一対の支持アームが示されているが、少なくとも一方がアームで他方は固定された構成であっても良い。姿勢制御の際にはアームにより機枠が樹幹表面から離れる方向若しくは近づく方向のどちらかの動きができれば良いため、樹幹を挟んで一方を動かせば、他方は相対的に反対方向に動くことになるからである。なお、アームはリンク構造でなくても車輪を樹幹表面に常に当接する方向に作用するバネ等の簡易な機構で代用しても良い。
【0029】
各車輪支持装置5の基部には、駆動源としてのモータ38が固定され、アームアクチュエータであるモータ38の出力を、平歯車を介してウォームギヤの回転に接続することにより、モータの回転を左右の支持アームに対して同時に伝達する。このモータの回転に基づいて、各支持アームの第1リンクを回動させることにより、その先端に設けられた各車輪が同期して樹幹の軸中心に向かうように動作させることが可能になっている。
【0030】
このように各車輪が樹径変化に依らず樹幹の軸中心に向かうようにすることで、各車輪の転動方向と樹幹の軸線方向(上下方向)との間にずれが生ずることによる姿勢の乱れを抑制する。また、ウォームギヤは、その歯合するセクターギヤ側からの逆入力回転を伝達しないように設計されている。これによって、モータトルクを要することなく、各車輪支持アームの動作位置を保持することが可能となっている。
【0031】
さらに、各車輪支持アームの先端に設けられた車軸支持部17には、モータ41を駆動源として各車輪7を回転駆動する駆動アクチュエータ、およびモータを駆動源として樹幹の外周面に当接する各車輪の舵角を変更可能な操舵アクチュエータが設けられている。これにより、各車輪支持装置に支持された各車輪が、駆動輪及び操舵輪としての機能を備えた能動車輪を構成するようになっている。
【0032】
また、機枠4には、各車輪支持装置5に設けられたアームアクチュエータ、駆動アクチュエータ及び操舵アクチュエータの制御回路(いずれも図示しない)や、駆動電源(バッテリー)等が収容された制御ボックス45が固定されている。この制御ボックスは、下側の車輪支持装置5Bの径方向外側において、前記支持装置よりも下方に配置されている。この配置により、機体の自重が上下の車輪によって常に樹幹中心に向けて作用させられるようになっている。
【0033】
一方、機枠4には枝打ちのための電動チェーンソー3が固定されている。電動チェーンソー3は、駆動源となるモータを収容するモータボックス51と、平板状に形成されたガイドバー52と、モータ駆動によりガイドバー52の外周を回転動作するチェーン刃53とを備えている。電動チェーンソーはガイドバーが樹幹の外周面に対向するように配置されている。一般的には電動チェーンソーは、樹幹の円周に対する接線方向に並行するように配置されるが、本発明ではこの配置に角度を持たせている点に特徴を有する。
【0034】
なお、樹幹に対する装置の姿勢保持には、前記例示の他にも例えば幹に抱き付いた状態で昇降するタイプ(特許文献4)、バネによる抱き込み型の昇降機構において姿勢調整のため各能動輪の速度を制御するものなどがあり、本発明の適用について図1に示す装置のみに限定されるものではない。
【0035】
図1に示す枝打ち装置は、前記駆動アクチュエータ及び操舵アクチュエータを作動させることにより、各車輪支持装置が支持する車輪を能動車輪として樹幹の外周面を走行する態様で昇降動作することが可能である。その走行モードとしては、樹幹に対して機体を回転させることなく昇降する直動走行モードと、樹幹を中心に旋回しつつ昇降する旋回昇降モードとを備えている。そして枝打ち作業を行う際、走行モードを旋回昇降モードに切り替えることにより、機体と一体に旋回する電動チェーンソー3によって、チェーン刃に接触する枝を切断することとなる。
【0036】
電動チェーンソーの刃は、切断対象(例えば、枝の長手方向の中心軸)に対して、直交する角度で侵入させ、直進させつつ切断するのが一般的である。この方法は、枝打ち装置による樹木の枝打ちの際に、幹の周りを周回しつつ切断するときも踏襲されてきた。このため、切断される枝は電動チェーンソーによって外周方向へ押し広げられることとなる。
【0037】
従って、駆動系には大きな力が必要とされ、太い枝の切断を困難にしている。この点について図2をもとに説明する。図2には、周回枝打ちにおける枝とチェーンソーガイド版との幾何学的関係を示したものである。
【0038】
図中、A、Bはそれぞれソーチェーンの右先端点と左先端点、C、Cはそれぞれ枝切断における点Aの開始点と切断途中の点、Dは枝径、Dは幹径、Wはソーチェーンの幅、D(=D+2W)は点Aの回転直径である。
以下では、解析の簡略化のために次のことを仮定している。
1)ソーチェーンの幅とチェーンソーガイド板の厚みは同じ。
2)チェーンソーガイド板には切り欠き部がない。
3)チェーンソーは進行方向先端が幹周りに回転する。
【0039】
はじめに、チェーンソーが枝の長手方向の中心軸に対して、直交する位置に設置されている場合、樹幹周りで周回して枝を切断する時、図2に示すように、ガイドバーはチェーンソーの切り始めにおいて長方形60で示す位置から、切断により長方形61に示す位置に進む。
【0040】
このとき、チェーンソー右先端点Aと枝との接触点は、点Cから点Cに移動する。樹幹中心に座標原点を取り、枝の伸びる方向をx軸、上下方向をy軸とする。このとき、枝を切り落とすための回転角度θは、
【0041】
【数1】
と表せる。切り始めの接触点Cと切断点Aの座標は、
【0042】
【数2】
【0043】
【数3】
と表せる。ここで、θは反時計方向を正とする回転角度を表し、
【0044】
【数4】
である。図2において、ガイドバーの右側面が回転により、枝側との接触点は点Cから点Cに移動するので、周回での枝打ちでは辺CCを押し広げないと切り進められない。この変位が小さくできると、押し広げ力も小さくできる。点C=(xC*,yC*)の座標は、後述する。辺CCのx軸に沿った長さをΔxCとおくと、
【0045】
【数5】
であり、これが押し広げるべき変位である。
【0046】
押し広げる力を減らすため、図3に示すように、チェーンソーをx軸に対して直交するのではなく、角度を設けて(すなわちソーチェーンの形成する仮想平面が直交する角度から樹木側に傾けて)設置するとし、その設置角度をξとする。
【0047】
【数6】
のとき、点Cはガイドバー右面上にあるため、押し広げるべき変位は零となる。
【0048】
一方、ガイドバーの左面は樹木側の枝切断面と干渉する。干渉により、ガイドバーの左面が枝の切断面に強く押し当てられ、枝表面が圧縮力を受け、チェーンソーの進行方向の摩擦力が増加する。また、能動駆動系は、この圧縮力Fを生成する必要がある。従って、適度なξにより、押し広げ力と圧縮力の総和を減少させうると言える。
【0049】
ここで、任意のξのときを考察する。チェーンソー右先端点Aと切り込み変位lの関係は、
【0050】
【数7】
である。
【0051】
次に、点Cの座標を求めてみる。直線ACは、x軸に対してθ+ξ+π/2の傾きがある。辺ACと辺ACの長さは等しく、
【0052】
【数8】
である。よって点Cの座標は、
【0053】
【数9】
を満たす。これより
【0054】
【数10】
ただし、±は複合同順である。
【0055】
ここで、点yC*<yであり、点Cの座標はxC*<xCのときは、点Cが移動しないときなので、
【0056】
【数11】
同様に
【0057】
【数12】
である。
【0058】
ΔxCを生じさせる力Foは、図4に示す曲げモーメントによる撓みの関係から、
【0059】
【数13】
ここで、Iは枝の切断面の中立軸に関する断面二次モーメント、φは撓み角、γは力Foとx軸とのなす角度である。Γは∠CACと近似できるので、三角形の面積の関係より、
【0060】
【数14】
とおき、xC*<xCのときを考慮すると、
【0061】
【数15】
として求められる。また、
【0062】
【数16】
である。ここで、r=D/2である。
【0063】
次に、駆動トルクと等価推進力を求める。ガイドバーには、Foによる摩擦力Ffが作用し、
【0064】
【数17】
と表される。
【0065】
また、接触点Cでの抗力Fo、摩擦力Ffのうち、直線OCに直交する成分によるモーメントが、駆動トルクに必要である。このとき、切断力を含めた力は、回転トルクから生じるので、
【0066】
【数18】
と表せる。ここで、DCは接触点の直径であり、
【0067】
【数19】
εは、直線OCとx軸とのなす角度であり、
【0068】
【数20】
式(18)の右辺括弧内の第二項を等価押し広げ力と考える。
【0069】
【数21】
この値が小さいことが望ましい。
【0070】
次に、図5に示すガイドバー左面側と切断される枝との干渉を求める。ガイドバー左面に直線は、点Bの枝切断途中の点
を通り、傾きθ+ξ+π/2の直線であるので、
【0071】
【数22】
と表せる。ガイドバー左面と枝との干渉は、D/2からこの直線の原点からの距離を差し引いて、
【0072】
【数23】
Δxはξが大きい程大きくなり、θに依存しない。
【0073】
さらに、Δxを生じさせる押し付け力Fを考察する。ここでは、枝がΔxの圧縮を受けるときの力を考察する。図5において、点P=(xp1,yp1)、点P=(xp2,yp2)は、式(22)の直線と円の交点として求められる。したがって、R=D/2と置き、式(22)と、
【0074】
【数24】
の関係より、
【0075】
【数25】
を用いて、yp1,yp2は、
【0076】
【数26】
を満たす。この式は、
【0077】
【数27】
この解は、
【0078】
【数28】
【0079】
図5の右図における領域70の歪みと応力の関係を考察する。領域70の面積は、
【0080】
【数29】
であり、この部分の圧縮変異は、直線
【0081】
【数30】
のy座標を与えると
【0082】
【数31】
である。この部分に作用する力は、歪みと応力の関係から、
【0083】
【数32】
として表せる。従って、圧縮力Fは、
【0084】
【数33】
として計算できる。この式は、圧縮力Fがθとξに依存することを示す。この圧縮力により、ガイドバーに摩擦力も生じ、これらを生じさせる関節トルクは、
【0085】
【数34】
ここで、εは点Pがx軸となす角度である。このトルクに等価な力は、
【0086】
【数35】
である。従って、切り開きと圧縮の総和の等価力
【0087】
【数36】
が最小となるように設計することが望ましい。
【0088】
上記の計算は、複雑であり摩擦係数に依存する。摩擦係数は種々の要因で影響を受ける。そこで、式の簡略化のため、切り開き力と圧縮の総和
【0089】
【数37】
が最小となるように設計することとする。
【0090】
-数値解析例1-
ここで、従来の枝打ち装置を使用したときの押し広げ力Fについて解析する。図6(a)には、押し広げ力Fと枝の切り込み変位lとの関係を示す。計算条件は、ヒノキ材、ヤング率E=9kN/mm、枝径40,50,60mm、幹径250mm、刃幅6mmのときである。また枝の切り込み変位lと押し広げ変数ΔxCの関係を図6(b)に示す。なお以下の解析では、幹径を胸高直径ではなく、枝打ち箇所の幹径を表す。胸高直径と枝打ち箇所の幹径との関係は、木の種類、枝打ち開始点の高さの統計資料から求められる。
【0091】
これらの解析結果から、枝径が大きいと押し広げ力Fが略枝径の3乗に比例して大きくなる。また、押し広げ変位ΔxCAは枝径に依存しない曲線をたどっているが、最大値は枝径に応じて大きくなることがわかる。
【0092】
-数値解析例2-
図7にチェーンソー設置角度ξ=-6°(deg)、枝径50mm、幹径250mm、刃幅6mmのときの押し広げ力F、圧縮力F、その総和を示す。チェーンソーが設置角度の設定により、切り初めに接触点Cが移動しないので、押し広げ力は暫くゼロとなり、その後増加する。圧縮力Fは、切り初めでは圧縮することがないのでゼロであり、その後増加して、さらに一定値となる。これは、式(23)に示すように、Δxがθに依存しないためである。その総和の最大値は図6(a)の結果と比較して、大幅に減少させることができる。
【0093】
-数値解析例3-
図8にチェーンソー設置角度ξ=-6°(deg)、枝径50mm、幹径150mm、刃幅6mmのときの押し広げ力F、押し付け力F、その総和を示す。幹径が250mmのときと比較すると押し広げ力Fは大きく、押し付け力Fは小さい。押し広げ変位が大きいが、圧縮変位が小さいことによる。この図から、幹径が小さいときは、チェーンソーの設置角度を樹木側に傾けることが好ましいと言える。
【0094】
-数値解析例4-
図9に、枝径50mm、刃幅6mmとし、幹径が250mm、200mm、150mmの各径のときのFmax=max(F+F)との関係を示す。幹径によってFmaxが最小となるξは異なり、D=150mmのときξは-0.165rad(-9.4deg)、D=200mmのときξは-0.125rad(-7.2deg)、D=250mmのときξは-0.095rad(-5.4deg)である。これらの幹径の全範囲でFmaxをできるかぎり小さくするには、ξを-0.142rad(-8.1deg)の近傍に設定すれば良いことが分かる。
【0095】
なお、枝径50mmのときの、幹径DによるFmaxを最少にするξの一次直線近似は
【0096】
【数38】
と表せる。この式の適用範囲は、150<Dt<350 である。
【0097】
-枝打ち装置による切断試験-
図10に、本発明の枝打ちに係る車輪駆動部を除いた試験装置の全体像を示す。チェーンソーモータはPowerMotor社製(PBL-4040024-001)を用いた。試験装置では、ガイドレール(本発明の機枠に相当)上に角度を調整することが可能なプレートを設置し、その上に切断機構を搭載した。この試験装置は、送りモータによりガイドレール上を実験機が一定速度で周回し、周回方向にある枝を切断する。
【0098】
図11には、使用したチェーンソーの2種の形状を示している。(a)のものは、現在枝打ち装置に搭載されているもので、ガイドバーが楕円形かつ中抜きであり、(b)は市販のチェンソーである。この2種類のチャーンソーを用いて設置角度による負荷の低減、省電力化、ガイドバーの機構による切断効率の違いを検証した。
【0099】
チェーンソーを図11(a)及び(b)に示すチェーンソーの2種類を用いて、直径50mmの丸棒の切断試験を行った。このときの切断区間のチェーンソーモータの消費電力と、送り系モータの消費電力を測定した結果を表1に示す。
【0100】
【表1】
【0101】
表1の送り速度は、タイプ(a)は初期条件を9mm/s、タイプ(b)は初期条件を3mm/sとしているが、枝噛み防止機構の構成、有無によって切断できる枝径が異なるので、切断可能な最大送り速度を設定した。
【0102】
いずれのチェーンソーを使用しても、送りモータの消費電力、最大トルク共に、設置角度によって大きく減少させることが可能であり、本発明の効果が確認できている。例えば、(a)では、チェーンソーの設置角度ξ=0のとき送りモータの消費電力が22.6W・Sから、ξ=-9°(deg)のときは0.56W・Sへと、また、モータの最大トルクが53.9mNmから1.75mNmへと、大きく減少していることが分かる。
【0103】
枝打ち装置にチェーンソー(a)が搭載される場合において、チェーンソーモータで100(W・S)、約3%の省電力化、送り系のモータでは20(W・S)、90%以上の省電力化が実現可能である。枝打ち作業において切断される枝の本数は、一日におよそ200本とされていることから、切断する枝径を50mmとすると、1本ごとに約600W、合計で、120kWの省電力化が可能との計算になる。
【0104】
また、送り系のモータにかかるトルクに関しても必要最大トルクが軽減されることから、装置の姿勢への影響を抑え、安定した枝打ち作業が行えることになる。
【産業上の利用可能性】
【0105】
以上説明したように、本発明の提案する枝打ち装置は、枝打ち作業に必要となる駆動力を著しく低減でき、従来枝打ちできなかった太い枝も切断可能となり、枝打ちと昇降が同時にできるので、作業が高速化できる。
【符号の説明】
【0106】
1・・・枝打ち装置
3・・・チェーンソー
4・・・機枠
5・・・車輪支持装置
7・・・車輪
13・・・ジョイント部
14・・・関節部
16・・・支持アーム
17・・・車輪支持部
38・・・モータ
45・・・制御ボックス
51・・・モータボックス
52・・・ガイドバー
53・・・チェーン刃
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11