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特許7154485エレベータのロープのソケッティング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】エレベータのロープのソケッティング方法
(51)【国際特許分類】
   B66B 7/08 20060101AFI20221011BHJP
【FI】
B66B7/08 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021144156
(22)【出願日】2021-09-03
【審査請求日】2021-09-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000112705
【氏名又は名称】フジテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114421
【弁理士】
【氏名又は名称】薬丸 誠一
(72)【発明者】
【氏名】平田 宗郷
(72)【発明者】
【氏名】前川 優哉
(72)【発明者】
【氏名】山田 武夫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 弘章
【審査官】吉川 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開平6-64864(JP,A)
【文献】特開2003-227084(JP,A)
【文献】特開平2-85546(JP,A)
【文献】特開2017-1778(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1980055(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 7/06-7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロープ通し孔を有するソケット及び楔を備える楔式ソケットを用いたエレベータのロープのソケッティング方法であって、
楔がソケットのロープ通し孔内に収容されるとともに、ロープがソケットの先端側の開口からロープ通し孔内に入り、折り返され、ソケットの先端側の開口から出る状態を構成する仮結合工程と、
把持器をロープに取り付ける工程、汎用可搬式巻上機を現場における第1支持部に直接又は接続具を介して間接的に接続する工程、及び、汎用可搬式巻上機の作用部と把持器の作用部とを直接又は接続具を介して間接的に接続する工程を含む第1接続工程と、
ソケットを現場における第2支持部に直接又は接続具を介して間接的に接続する第2接続工程と、
汎用可搬式巻上機を作動させてロープを引っ張り、ロープの折返し端部をソケットのロープ通し孔内に引き込む本結合工程とを備える
エレベータのロープのソケッティング方法。
【請求項2】
仮結合工程は、ロープの折返し端部の頂点からロープの末端までの区間である折返し線部の長さが、把持器を取り付けることを考慮した長さとなるように、ロープをソケットのロープ通し孔に通すロープ通し工程を含み、
第1接続工程の把持器取付工程において、把持器をロープの折返し線部においてソケットの先端側の開口から出る部分に取り付ける
請求項1に記載のエレベータのロープのソケッティング方法。
【請求項3】
仮結合工程は、ロープの折返し端部の頂点までの区間である本線部とロープの折返し端部の頂点からロープの末端までの区間である折返し線部とがソケットの先端側の開口から出て互いに沿う区間である合線部の一部を仮締結するロープ仮締結工程を含む
請求項1又は請求項2に記載のエレベータのロープのソケッティング方法。
【請求項4】
第1接続工程、第2接続工程及び本結合工程において、汎用可搬式巻上機が第1支持部から吊り下げられ、把持器が汎用可搬式巻上機の作用部から吊り下げられることにより、ロープ及びソケットが吊り下げられる状態を構成する
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のエレベータのロープのソケッティング方法。
【請求項5】
本結合工程において、ロープに対し、汎用可搬式巻上機の作動による張力を垂直方向に付加する
請求項4に記載のエレベータのロープのソケッティング方法。
【請求項6】
楔式ソケットは、ソケットに形成されるピン挿通用孔にロッドが着脱可能に取り付けられるものであり、
第2接続工程において、ロッドを外したピン挿通用孔を利用してソケットを第2支持部に接続する
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のエレベータのロープのソケッティング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベータの主ロープ等、エレベータに用いられるロープのソケッティング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータのかごの駆動方式として、ロープ式が一般的である。ロープ式は、ワイヤロープからなる主ロープの一方の端部がかごに固定され、主ロープのもう一方の端部がカウンターウェイトに固定され、巻上機が主ロープを走行させることにより、かごを駆動する方式である。あるいは、別のロープ式として、主ロープの両端部が昇降路の上部の構造フレームに固定され、主ロープがかごシーブ及びカウンターウェイトシーブに巻き掛けられ、巻上機が主ロープを走行させることにより、かごを駆動する方式もある。
【0003】
エレベータの構造要素への主ロープの端部の固定には、ソケットが用いられる。このため、主ロープの端部の固定に先立ち、主ロープの端部の端末処理、すなわち、主ロープの端部にソケットを取り付けるという作業が必要となる。この端末処理は、ソケッティングと呼ばれる。ソケッティングは、ロープの端部をソケット内に引き込み、ロープの端部とソケットとを一体的に結合させることにより行う。
【0004】
ソケットの1つの形態として、楔式ソケットがある。楔式ソケットは、ソケットと、楔とを備える。ソケットは、ロープ通し孔を有する。ロープ通し孔は、先細りのテーパ形状を有する。楔は、ロープ通し孔のテーパ形状に対応したテーパ形状を有し、ロープ通し孔内に収容される。楔式ソケットは、ソケットのロープ通し孔の内面のテーパ面と楔の外面のテーパ面とでロープの折返し端部を挟持することにより、ロープの折返し端部と一体的に結合される。
【0005】
楔式ソケットを用いたエレベータのロープのソケッティング方法として、専用の装置を用いた方法がある(特許文献1)。この装置は、ロープ把持体と、把持体変位装置とを備える。ロープ把持体は、ロープにおいてソケットの先端部から出る部分を把持する。把持体変位装置は、ねじ棒を備える。ねじ棒は、ロープ把持体に螺合されるとともに、ソケットの先端部に係合するブロック体に当接する。ねじ棒を回すと、ねじ棒は、ロープ把持体に対して変位し、ブロック体をロープ把持体から離れる方向に変位させる。ブロック体が変位すると、これに伴ってソケットも変位する。これにより、ロープの折返し端部とソケットとが相対的に変位し、ロープの折返し端部がソケットのロープ通し孔内に引き込まれ、ロープの折返し端部と楔式ソケットとが一体的に結合される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2006/126276号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載の装置は、ねじ棒の回転力から変換される軸力により、ロープの折返し端部をソケットのロープ通し孔内に引き込む力を得るものである。このため、ロープの曲げ剛性や弾性反発力が強い場合、それに勝る大きな軸力が必要となるが、そのような大きな軸力をねじ棒の回転操作で生じさせるのは困難である。場合によれば、ねじ棒やねじが破損するおそれもある。したがって、特許文献1に記載の装置では、直径18mm以上(たとえば直径18mm又は20mm)の大径のロープをソケッティングすることは困難である。
【0008】
そこで、本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、大径のロープであっても円滑かつ確実にソケッティングすることができるエレベータのロープのソケッティング方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るエレベータのロープのソケッティング方法は、
ロープ通し孔を有するソケット及び楔を備える楔式ソケットを用いたエレベータのロープのソケッティング方法であって、
楔がソケットのロープ通し孔内に収容されるとともに、ロープがソケットの先端側の開口からロープ通し孔内に入り、折り返され、ソケットの先端側の開口から出る状態を構成する仮結合工程と、
把持器をロープに取り付ける工程、汎用可搬式巻上機を現場における第1支持部に直接又は接続具を介して間接的に接続する工程、及び、汎用可搬式巻上機の作用部と把持器の作用部とを直接又は接続具を介して間接的に接続する工程を含む第1接続工程と、
ソケットを現場における第2支持部に直接又は接続具を介して間接的に接続する第2接続工程と、
汎用可搬式巻上機を作動させてロープを引っ張り、ロープの折返し端部をソケットのロープ通し孔内に引き込む本結合工程とを備える
エレベータのロープのソケッティング方法である。
【0010】
ここで、本発明に係るエレベータのロープのソケッティング方法の一態様として、
仮結合工程は、ロープの折返し端部の頂点からロープの末端までの区間である折返し線部の長さが、把持器を取り付けることを考慮した長さとなるように、ロープをソケットのロープ通し孔に通すロープ通し工程を含み、
第1接続工程の把持器取付工程において、把持器をロープの折返し線部においてソケットの先端側の開口から出る部分に取り付ける
との構成を採用することができる。
【0011】
また、本発明に係るエレベータのロープのソケッティング方法の他態様として、
仮結合工程は、ロープの折返し端部の頂点までの区間である本線部とロープの折返し端部の頂点からロープの末端までの区間である折返し線部とがソケットの先端側の開口から出て互いに沿う区間である合線部の一部を仮締結するロープ仮締結工程を含む
との構成を採用することができる。
【0012】
また、本発明に係るエレベータのロープのソケッティング方法の別の態様として、
第1接続工程、第2接続工程及び本結合工程において、汎用可搬式巻上機が第1支持部から吊り下げられ、把持器が汎用可搬式巻上機の作用部から吊り下げられることにより、ロープ及びソケットが吊り下げられる状態を構成する
との構成を採用することができる。
【0013】
また、この場合、
本結合工程において、ロープに対し、汎用可搬式巻上機の作動による張力を垂直方向に付加する
との構成を採用することができる。
【0014】
また、本発明に係るエレベータのロープのソケッティング方法のさらに別の態様として、
楔式ソケットは、ソケットに形成されるピン挿通用孔にロッドが着脱可能に取り付けられるものであり、
第2接続工程において、ロッドを外したピン挿通用孔を利用してソケットを第2支持部に接続する
との構成を採用することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、汎用可搬式巻上機の巻上力により、ロープの折返し端部をソケットのロープ通し孔内に引き込む力を得るものである。汎用可搬式巻上機は、ロープの曲げ剛性や弾性反発力が強い場合であっても、それに十分に勝る大きな巻上力を生じさせる。このため、本発明によれば、大径のロープであっても円滑かつ確実にソケッティングすることができる。
【0016】
しかも、本発明によれば、汎用可搬式巻上機、把持器、接続具といった、業者であれば通常保有している又は簡単に調達できる吊り作業用具を使用してソケッティングすることができる。ソケッティングは、通常、エレベータの設置現場にて行うものである。このため、本発明によれば、現場において労することなく簡単にソケッティングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1(a)は、主ロープの端部固定構造の正面図である。図1(b)は、主ロープの端部固定構造における楔式ソケットの部分の拡大断面図である。図1(c)は、楔式ソケットの先端部分の拡大正面図である。
図2図2(a)は、ソケッティング方法の第1工程(マーキング工程)の説明図である。図2(b)は、ソケッティング方法の第2工程(ロープ通し工程)の説明図である。図2(c)は、ソケッティング方法の第3工程(ロープ仮締結工程)の説明図である。図2(d)は、ソケッティング方法の第4工程(把持器取付工程)の説明図である。
図3図3(a)及び(b)は、ソケッティング方法の第5工程(吊下げ工程)の説明図である。
図4図4(a)及び(b)は、ソケッティング方法の第6工程(楔挿入工程)の説明図である。
図5図5(a)及び(b)は、ソケッティング方法の第7工程(ソケットずらし工程)の説明図である。
図6図6(a)及び(b)は、ソケッティング方法の第8工程(ソケット支持工程)の説明図である。
図7図7(a)及び(b)は、ソケッティング方法の第9工程(巻上げ工程)の説明図である。
図8図8(a)及び(b)は、ソケッティング方法の第10工程(割ピン挿通工程)の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
主ロープのソケッティング方法について説明する前に、まず、楔式ソケットを用いた主ロープの端部固定構造について説明する。
【0019】
図1に示すように、楔式ソケット10は、ソケット11と、楔(ウエッジ)12と、ロッド13とを備える。ソケット11は、ロープ通し孔11aを有する。楔12は、ロープ通し孔11a内に収容される。楔式ソケット10は、ロープ通し孔11aの内面と楔12の外面とで主ロープ1の折返し端部1aを挟持することにより、主ロープ1の折返し端部1aと一体的に結合される。ロッド13は、基端部13aがソケット11に接続されるとともに、先端部13bがエレベータの構造要素(構造フレーム等)2に接続される。これにより、主ロープ1の折返し端部1aは、楔式ソケット10を介してエレベータの構造要素2に固定される。
【0020】
ソケット11は、本体11Aを備える。本体11Aは、扁平な筒状であり、内部にロープ通し孔11aを備える。ロープ通し孔11aは、第1開口11bと、第2開口11cとを有する。第1開口11bは、本体11Aの先端側の開口である。第2開口11cは、本体11Aの基端側の開口である。本体11Aの2つの偏平端部を通る外形線は、本体11Aの基端から先端に向かうにつれて接近する。これにより、本体11Aは、基端から先端に向かって先細りのテーパ形状を有し、ロープ通し孔11aも、本体11Aの基端から先端に向かって先細りのテーパ形状を有する。また、これに伴い、第1開口11bの偏平端部間の間隔は、第2開口11cの偏平端部間の間隔よりも短くなり、第1開口11bは、第2開口11cよりも短尺となる。
【0021】
ソケット11は、突片11Bを備える。突片11Bは、本体11Aの2つの偏平部の少なくとも一方の偏平部の基端から突出する。突片11Bの突出端部は、ピン挿通用孔11dを有する。ピン挿通用孔11dには、ロッド13の基端部13aに形成されたピン挿通用孔13cと一致した状態で、ピン14が挿通される。これにより、ロッド13は、ソケット11の突片11Bに回転可能に接続される。
【0022】
ロッド13の先端部13bは、エレベータの構造要素2に形成されたロッド挿通用孔2aに挿通される。ロッド13の先端部13bは、雄ネジを有する。雄ネジには、ロッド13の先端部13bに圧縮コイルバネ15が挿通された状態で、ナット(固定具)16が(ダブルナットで)螺合(装着)される。これにより、ロッド13は、圧縮コイルバネ15の圧縮代だけ軸方向に可動となる。
【0023】
楔12は、ソケット11のロープ通し孔11aのテーパ形状に対応したテーパ形状を有する。主ロープ1の端部は、ソケット11の第1開口11bからロープ通し孔11a内に入り、ロープ通し孔11aの内面の一方のテーパ面と楔12の外面の一方のテーパ面との間を通り、楔12に巻き付けられて折り返され、ロープ通し孔11aの内面のもう一方のテーパ面と楔12の外面のもう一方のテーパ面との間を通り、第1開口11bから出る。楔12は、先端部が第1開口11bから臨出するように、ロープ通し孔11a内に引き込まれる。これにより、主ロープ1の折返し端部1aは、ロープ通し孔11aの内面の一方のテーパ面と楔12の外面の一方のテーパ面、ロープ通し孔11aの内面のもう一方のテーパ面と楔12の外面のもう一方のテーパ面、のそれぞれにより挟持され、楔式ソケット10と一体的に結合される。
【0024】
なお、楔12の外面のテーパ面は、主ロープ1との密着性が増すよう、凹状に形成される。これにより、主ロープ1は、ロープ通し孔11aの内面の凹状のテーパ面と楔12の外面の凹状のテーパ面とにより、全周が保持される。また、楔12の先端部は、割ピン挿通用孔12aを有する。割ピン挿通用孔12aには、ソケット11の第1開口11bから臨出した状態で、割ピン17が挿通される。これにより、ソケット11の第2開口11c側への楔12の移動が規制され、楔12が緩み止めされる。
【0025】
主ロープ1の折返し端部1aの頂点1bまでの区間である本線部1cと、折返し端部1aの頂点1bから主ロープ1の末端までの区間である折返し線部1dとは、両者がソケット11の第1開口11bから出て互いに沿う区間である合線部1eを構成する。合線部1eにおいてソケット11の第1開口11bに近い側の部分は、ワイヤグリップ(締結具)18で締結される。合線部1eにおいて主ロープ1の末端側の部分は、バインド線(結束具)19で結束される。
【0026】
次に、主ロープ1のソケッティング方法について説明する。ソケッティング方法は、細かく分けると、図2ないし図8に示すように、第1工程から第10工程を備える。大きく分けると、請求項1に係る発明のとおり、4つの工程(仮結合工程、第1接続工程、第2接続工程及び本結合工程)を備える。
i)第1工程(図2(a))、第2工程(図2(b))、第3工程(図2(c))、第6工程(図4)及び第7工程(図5)は、仮結合工程に相当する。
ii)第4工程(図2(d))及び第5工程(図3)は、第1接続工程に相当する。
iii)第8工程(図6)は、第2接続工程に相当する。
iv)第9工程(図7)及び第10工程(図8)は、本結合工程に相当する。
【0027】
図2(a)に示すように、第1工程(マーキング工程=仮結合工程の第1工程)では、予め、主ロープ1において折返し端部1aの頂点1bとなる位置(楔12の半円状の基端部に当たる位置)に見当が付けられ、マーカ等でマーキング20が施される。このとき、主ロープ1の折返し線部1dの長さが、第4工程(把持器取付工程)において、把持器を取り付ける(把持器が把持する)ことを考慮した十分な長さとなるように、頂点1bの位置が定められる。
【0028】
図2(b)に示すように、第2工程(ロープ通し工程=仮結合工程の第2工程)では、主ロープ1がソケット11の第1開口11bからロープ通し孔11a内に入り、第2開口11cから出て、湾曲して折り返され、第2開口11cからロープ通し孔11a内に入り、第1開口11bから出る状態が構成される。このとき、マーキング20が主ロープ1の折返し端部1aの頂点1bとなるように、主ロープ1が通される。
【0029】
図2(c)に示すように、第3工程(ロープ仮締結工程=仮結合工程の第3工程)では、ソケット11が主ロープ1の折返し端部1a側にずらされ、主ロープ1の環状部1fが内部に楔12を挿入できる程度の大きさとなる状態が構成されるとともに、主ロープ1の合線部1eにおいてソケット11の先端部の近傍の部分がワイヤグリップ(締結具)18で仮締結される。このとき、ワイヤグリップ18は、Uボルトが主ロープ1の折返し線部1d側となるように装着される。仮結合工程におけるワイヤグリップ18の締結力は、本結合工程におけるワイヤグリップ18の締結力よりは弱く、軽い力でよい。
【0030】
図2(d)に示すように、第4工程(把持器取付工程=第1接続工程の第1工程)では、把持器21が主ロープ1の折返し線部1dの端部に取り付けられる。把持器21としては、株式会社キトー製のキトークリップ、カムラー(掴線器、登録商標)等、把持器21のレバー(作用部)21aが揺動変位することにより、ロープの把持力が発現される器具が用いられる。
【0031】
図3に示すように、第5工程(吊下げ工程=第1接続工程の第2工程(最終工程))では、汎用可搬式巻上機22が現場における第1支持部(エレベータの昇降路内又はフロア天井の構造フレーム等)23に接続され、汎用可搬式巻上機22のフック(作用部)22aと把持器21のレバー(作用部)21aとが接続される。これにより、汎用可搬式巻上機22は、吊元である第1支持部23に吊下げ支持され、把持器21及び把持器21に把持されるソケット11付き主ロープ1は、汎用可搬式巻上機22に吊下げ支持される。構造フレーム等の適切な吊元が無い場合は、吊元部材が天井面、壁面等に設置され、これが第1支持部23とされる。汎用可搬式巻上機22としては、チェーン式巻上機の一種である手動式又は電動式のチェーンブロック、同じくチェーン式巻上機の一種であるレバーブロック(登録商標)のほか、ワイヤーホイスト、手動ウィンチ、シメラー(張線器、登録商標)など、持ち運びが可能な手動又は電動の巻上機が用いられる。
【0032】
なお、詳しくは、汎用可搬式巻上機22は、接続具24を介して第1支持部23に吊下げ支持され、把持器21及び把持器21に把持されるソケット11付き主ロープ1は、接続具25を介して汎用可搬式巻上機22に吊下げ支持される。接続具24は、たとえば、第1支持部23に形成された雌ネジに螺合するアイボルト、アイボルトに掛けられるシャックル、及び、一方の端部がシャックルに掛けられるとともに、もう一方の端部が汎用可搬式巻上機22の吊下げ用フックに掛けられるワイヤ、ベルト又はチェーンのスリングからなる吊り具の組み合わせである。接続具25は、たとえば、一方の端部が汎用可搬式巻上機22のフック22aに掛けられるとともに、もう一方の端部が把持器21のレバー21aに掛けられるワイヤ、ベルト又はチェーンのスリングからなる吊り具である。
【0033】
図4に示すように、第6工程(楔挿入工程=仮結合工程の第4工程)では、楔12が、ソケット11のロープ通し孔11a内に収容可能となるように、主ロープ1の環状部1fの内部に挿入される。環状部1fは、楔12の先端部がソケット11の突片11B,11B間に入り込むような大きさであってもよい。あるいは、環状部1fは、楔12の先端部が突片11B,11B間に入り込まないような大きさであってもよい。
【0034】
図5に示すように、第7工程(ソケットずらし工程=仮結合工程の第5工程(最終工程))では、人力でソケット11が主ロープ1の折返し端部1a側にずらされ、主ロープ1の環状部1fが楔12とともにソケット11のロープ通し孔11a内に引き込まれる状態、すなわち、楔12がロープ通し孔11a内に収容されるとともに、主ロープ1がソケット11の第1開口11bからロープ通し孔11a内に入り、折り返され、第1開口11bから出る状態が構成される。もちろん、人力によるものなので、主ロープ1の折返し端部1aとロープ通し孔11aの内面及び/又は楔12の外面とは緊密ではない。このようにして、主ロープ1の折返し端部1aとソケット11とが仮結合される。
【0035】
図6に示すように、第8工程(ソケット支持工程=第2接続工程)では、ソケット11が現場における第2支持部(エレベータの昇降路内又はフロア床の構造フレーム等)26に接続される。構造フレーム等の適切な吊元が無い場合は、吊元部材が床面、壁面等に設置され、これが第2支持部26とされる。詳しくは、ソケット11は、接続具27を介して第2支持部26に支持される。接続具27は、たとえば、第2支持部26に形成された雌ネジに螺合するアイボルト、アイボルトに掛けられるシャックル、及び、一方の端部がシャックルに掛けられるとともに、もう一方の端部がソケット11の突片11Bのピン挿通用孔11dに挿通されるピン14に掛けられるワイヤ、ベルト又はチェーンのスリングからなる吊り具の組み合わせである。なお、第7工程が完了すると、主ロープ1の折返し端部1aがソケット11に向かって移動し、ピン挿通用孔11dを通過する。これにより、ピン14の装着が可能となる。
【0036】
図7に示すように、第9工程(巻上げ工程=本結合工程の第1工程)では、汎用可搬式巻上機22が作動されることにより、把持器21が引き上げられ、これに伴い、把持器21に把持される主ロープ1の折返し線部1dが引っ張られることで、主ロープ1の折返し端部1aがソケット11のロープ通し孔11a内に深く引き込まれる。このとき、折返し線部1dは、ワイヤグリップ18により、主ロープ1の本線部1cと締結されている。したがって、折返し線部1dが本線部1cに対してずれながら引っ張られることはなく、本線部1c及び折返し線部1dが均等に引っ張られ、主ロープ1の折返し端部1aが頂点1bを中心として均等に引き込まれる。この結果、主ロープ1の折返し端部1aとロープ通し孔11aの内面及び楔12の外面とが全体的に緊密となり、ロープ通し孔11aの内面と楔12の外面とで主ロープ1の折返し端部1aが全体的に強固に挟持される。このようにして、主ロープ1の折返し端部1aとソケット11とが本結合される。なお、本結合を実現するために、汎用可搬式巻上機22は、容量1トン以上が必要である。
【0037】
第9工程が完了すると、楔12の先端部及びこの先端部の割ピン挿通用孔12aがソケット11の第1開口11bから臨出する。そこで、図8に示すように、第10工程(割ピン挿通工程=本結合工程の第2工程(最終工程))では、割ピン挿通用孔12aに割ピン17が挿通される。これにより、ソケッティングが完了する。ソケッティング後は、図1に示すように、ワイヤグリップ18がソケット11の先端部の近傍の部分に適正なトルクで取り付け直され、折返し線部1dの余った部分がワイヤカッタ等を用いて切除され、切除されて残った末端側の部分がバインド線19で結束される。これにより、主ロープ1の端末処理が完了し、主ロープ1はエレベータの設置現場にて実機に組み込まれる。
【0038】
以上のとおり、本実施形態に係るソケッティング方法は、汎用可搬式巻上機22の巻上力により、主ロープ1の折返し端部1aをソケット11内に引き込む力を得るものである。汎用可搬式巻上機22は、主ロープ1の曲げ剛性や弾性反発力が強い場合であっても、それに十分に勝る大きな巻上力を生じさせる。このため、本実施形態に係るソケッティング方法によれば、大径(たとえば直径18mm又は20mm)の主ロープ1であっても円滑かつ確実にソケッティングすることができる。
【0039】
しかも、本実施形態に係るソケッティング方法によれば、汎用可搬式巻上機22、把持器21、接続具24,25,27といった、業者であれば通常保有している又は簡単に調達できる吊り作業用具を使用してソケッティングすることができる。このため、本実施形態に係るソケッティング方法によれば、エレベータの設置現場において労することなく簡単にソケッティングすることができる。
【0040】
また、本実施形態に係るソケッティング方法によれば、主ロープ1及びソケット11が吊り下げられる状態で作業される。すなわち、ソケッティングは、上下に長い作業スペースで行われる。このため、本実施形態に係るソケッティング方法によれば、水平方向で場所を取らず、狭いスペースで作業を行うことができる。したがって、たとえばエレベータの昇降路内は、好適な作業場として利用することができる。
【0041】
また、本実施形態に係るソケッティング方法によれば、把持器21は、主ロープ1の本線部1cではなく、折返し線部1dに取り付けられる。主ロープ1の本線部1cは、エレベータの構造として必要な部分であり、この部分は把持器21で把持しないようにしている。このため、本実施形態に係るソケッティング方法によれば、主ロープ1の本線部1cに対する不必要な負荷を排除することができる。
【0042】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0043】
たとえば、本発明は、直径18mmよりも小さい(たとえば直径16mm)ロープのソケッティングにも適用できることは言うまでもない。
【0044】
また、第1接続工程よりも第2接続工程を先に行う等、順序の変更が物理的に可能な工程については、順序を変更することができるのは言うまでもない。
【0045】
また、上記実施形態においては、把持器21は、主ロープ1の折返し線部1dに取り付けられる。しかし、本発明は、これに限定されるものではない。把持器は、主ロープの本線部に取り付けられるようにしてもよい。
【0046】
また、本発明は、エレベータの設置現場のみならず、工場の現場等、種々の現場でソケッティングを行うことを含むものである。
【符号の説明】
【0047】
1…主ロープ、1a…折返し端部、1b…頂点、1c…本線部、1d…折返し線部、1e…合線部、1f…環状部、2…エレベータの構造要素、2a…ロッド挿通用孔、10…楔式ソケット、11…ソケット、11A…本体、11B…突片、11a…ロープ通し孔、11b…第1開口、11c…第2開口、11d…ピン挿通用孔、12…楔(ウエッジ)、12a…割ピン挿通用孔、13…ロッド、13a…基端部、13b…先端部、13c…ピン挿通用孔、14…ピン、15…圧縮コイルバネ、16…ナット(固定具)、17…割ピン、18…ワイヤグリップ(締結具)、19…バインド線(結束具)、20…マーキング、21…把持器、21a…レバー(作用部)、22…汎用可搬式巻上機、22a…フック(作用部)、23…第1支持部、24…接続具、25…接続具、26…第2支持部、27…接続具
【要約】
【課題】大径のロープであっても円滑かつ確実にソケッティングすることができるエレベータのロープのソケッティング方法を提供する。
【解決手段】本方法は、i)楔12がソケット11のロープ通し孔11a内に収容されるとともに、ロープ1がソケット11の先端側の開口11bからロープ通し孔11a内に入り、折り返され、開口11bから出る状態を構成する工程と、ii)把持器21をロープ1に取り付ける工程、汎用可搬式巻上機22を現場における第1支持部23に接続する工程、及び、汎用可搬式巻上機22の作用部と把持器21の作用部とを接続する工程を含む工程と、iii)ソケット11を現場における第2支持部26に接続する工程と、iv)汎用可搬式巻上機22を作動させてロープ1を引っ張り、ロープ1の折返し端部1aをソケット11のロープ通し孔11a内に引き込む工程とを備える。
【選択図】図7
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図8