(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】トンネル覆工用型枠
(51)【国際特許分類】
E21D 11/10 20060101AFI20221011BHJP
【FI】
E21D11/10 B
(21)【出願番号】P 2019013690
(22)【出願日】2019-01-29
【審査請求日】2021-12-01
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ・株式会社奥村組自社ホームページ (平成30年8月22日ウェブサイトに掲載、http://www.okumuragumi.co.jp/newsrelease/data/180822.pdf) ・日刊建設産業新聞 (平成30年8月23日 日刊建設産業新聞社発行) ・大阪建設工業新聞 (平成30年8月24日 株式会社大阪建設工業新聞社発行) ・建設新聞 (平成30年9月3日 日刊建設新聞社発行) ・覆工コンクリート高速打設システムの実規模施工実験の公開実証実験の案内状の配布(平成30年8月28日 株式会社奥村組により配布) ・覆工コンクリート高速打設システムの実規模施工実験(平成30年9月25日~平成30年9月26日 施工技術総合研究所) ・日経コンストラクション 第696号 (平成30年9月24日 日経BP社発行) ・日刊建設工業新聞 (平成30年9月26日 日刊建設工業新聞社発行) ・建設通信新聞 (平成30年9月26日 株式会社日刊建設通信新聞社発行) ・日刊建設産業新聞 (平成30年9月27日 日刊建設産業新聞社発行)
(73)【特許権者】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(73)【特許権者】
【識別番号】310005294
【氏名又は名称】北陸鋼産株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501360120
【氏名又は名称】テクノプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 隆弘
(72)【発明者】
【氏名】浜田 元
(72)【発明者】
【氏名】横山 豊也
(72)【発明者】
【氏名】佐土原 千尋
【審査官】彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】特開平6-299793(JP,A)
【文献】特開2008-308855(JP,A)
【文献】特開2015-52246(JP,A)
【文献】特開昭59-154298(JP,A)
【文献】特開2020-23797(JP,A)
【文献】特開2014-70459(JP,A)
【文献】特開2000-303795(JP,A)
【文献】特開平3-129099(JP,A)
【文献】実開昭59-19700(JP,U)
【文献】特開昭53-26436(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
山岳トンネル工法においてトンネルの内壁面を覆うトンネル覆工コンクリートを形成するための、10.5mを超える施工延長を有するロングスパンのトンネル覆工用型枠であって、
トンネルの掘進方向に移動可能な架台部と、
該架台部に支持されてトンネルの内壁面との間に覆工空間を形成するための、上部型枠と、該上部型枠の両側下端部に回転可能に連結された一対の側部型枠とを含んで構成された型枠本体部とを備え、
前記架台部は、トンネルの掘進方向に2分割された一対の分割架台部によって構成され、前記型枠本体部は、トンネルの掘進方向に2分割された一対の分割型枠本体部によって構成されており、
一対の前記分割型枠本体部は、一対の前記分割架台部によって各々独立して支持され、一対の前記分割架台部は、各々に取り付けられた走行部によって独立してトンネルの掘進方向に移動可能であり、且つ、連結部材によって連結されて両者が結合一体化した状態と、連結が解除されて両者が分離した状態のいずれかを選択可能であり、
一対の前記分割架台部が結合一体化した状態では、一対の前記分割型枠本体部の隣接する端面の間に、一定幅のスリット状の隙間が全周に亘って形成され、前記隙間には、各施工スパンの中間部に誘発目地を形成するためのプレート部材が、前記覆工空間の全周に亘って突出する状態で引き抜き可能に挿入配置されているトンネル覆工用型枠。
【請求項2】
前記連結部材は、伸縮調整機構を備えており、該連結部材によって一対の前記分割架台部を結合一体化した状態において、一対の前記分割型枠本体部の隣接する端面の間に、一定幅のスリット状の前記隙間が全周に亘って形成されるように、一対の前記分割型枠本体部の隣接する端面の間の間隔を、前記伸縮調整機構によって調整することができるようになっている請求項1記載のトンネル覆工用型枠。
【請求項3】
前記連結部材によって一対の前記分割架台部を結合一体化した状態において、一対の前記分割型枠本体部の隣接する端面の間に、一定幅のスリット状の前記隙間が全周に亘って形成されるように、一対の前記分割型枠本体部の隣接する端面の間の間隔を調整可能とする伸縮調整部材が、一対の前記分割型枠本体部に跨って設けられている請求項1または2記載のトンネル覆工用型枠。
【請求項4】
前記型枠本体部の一対の分割型枠本体部の各後端部に、コンクリートポンプから延びる圧送配管が接続される圧入接続口が、それぞれ設けられている請求項1~3のいずれか1項記載のトンネル覆工用型枠。
【請求項5】
前記型枠本体部のトンネルの掘進方向後方側の分割型枠本体部の天端部の前側部分に、エア抜きパイプが、覆工空間の天面部に近接するまで突出した状態で引き抜き可能に取り付けられている請求項1~4のいずれか1項記載のトンネル覆工用型枠。
【請求項6】
前記型枠本体部の各分割型枠本体部には、覆工空間に進退可能に突出する複数の伸縮バイブレータが、トンネルの掘進方向に所定の間隔をおいてそれぞれ設けられている請求項1~5のいずれか1項記載のトンネル覆工用型枠。
【請求項7】
前記プレート部材の表面は、摩擦低減材で被覆されている請求項1~6のいずれか1項記載のトンネル覆工用型枠。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル覆工用型枠に関し、特に、山岳トンネル工法においてトンネルの内壁面を覆うトンネル覆工コンクリートを形成するために用いられるロングスパンのトンネル覆工用型枠に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、山岳トンネル工法においては、地山を掘削して形成された山岳トンネルの内壁面を所定厚さの覆工コンクリートで覆う二次覆工が実施されるが、この二次覆工は、トンネルの掘削方向(前後方向)に沿って移動可能なスライドセントルと呼ばれるトンネル覆工用型枠を用いて、次のようになされる(例えば、特許文献1~3参照)。
【0003】
すなわち、トンネル覆工用型枠をトンネル内に搬入し、このトンネル覆工用型枠に設けられたアーチ状の型枠本体部とトンネルの内壁面との間に、所定厚さの覆工空間を周方向に沿って形成し、この覆工空間に、コンクリートポンプから圧送されるコンクリートを供給してこれを硬化させることによって二次覆工が実施され、これによってトンネルの内壁面が所定厚さのトンネル覆工コンクリートによって覆われる。
【0004】
上記二次覆工は、トンネルの掘削作業の進行に伴って、例えば、10.5m程度の所定の施工スパン毎にトンネル覆工用型枠を据え付け直しながら、トンネルの掘進方向後方から前方に向かって順次実施される。
【0005】
ところで、近年のトンネル工法においては、掘削技術の進歩によって、トンネルの切羽面の掘削時間が短縮され、二次覆工の工程、具体的にはコンクリートの打設から養生およびトンネル覆工用型枠の脱型までの工程の進捗が、トンネルの切羽面の掘削工程の進捗に追従できなくなってきている。
【0006】
そこで、例えば、トンネル覆工用型枠を組み立ててからコンクリートを打設するまでの工程と、打設したコンクリートの養生からトンネル覆工用型枠を脱型するまでの工程とを別々の日に行っていたものを、トンネル覆工用型枠の脱型と移動、および再組立からコンクリートの打設までの工程を1日のうちに終わらせ、翌日は専らコンクリートの養生期間に当てるという施工方法が実施される場合がある。
【0007】
また、別の方法として、一般的に用いられている10.5m程度の延長を有するトンネル覆工用型枠に代えて、好ましくは18m~22m程度の延長を有するロングスパンのトンネル覆工用型枠を用いることによって、1サイクルで行うトンネル覆工コンクリートの施工スパンを延ばして工期を短縮するとともに、トンネル覆工コンクリートを形成するための工程の進捗を早めることが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2001-280094号公報
【文献】特開2003-262096号公報
【文献】特開2015-067949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、例えば、トンネル覆工コンクリートの施工スパンが10.5m程度の長さの一般に用いられるトンネル覆工用型枠の場合には、連続する施工スパンにおけるトンネル覆工コンクリートの境目部分でコンクリートの乾燥収縮や温度収縮によるひび割れを吸収することによって、各々のトンネル覆工コンクリートの施工スパンにおけるひび割れの発生を効果的に抑制することができる。
【0010】
しかしながら、前記後者の施工方法(ロングスパンのトンネル覆工用型枠を用いる施工方法)を採用する場合、トンネル覆工コンクリートの1サイクルでの施工スパンが例えば10.5m程度から18m~22m程度に延長されるため、18m~22m程度の長いトンネル覆工コンクリートの施工スパン中間部に、乾燥収縮や温度収縮に伴うひび割れが発生し易くなるという問題がある。
【0011】
上記問題を解決するためには、施工スパンが18m~22m程度と長いトンネル覆工コンクリートの施工スパン中間部に、乾燥収縮や温度収縮に伴うひび割れを誘発する誘発目地を設けることが望ましい。
【0012】
上記誘発目地をトンネル覆工コンクリートの施工スパンの中間部に設ける方法としては、打設したコンクリートが硬化してトンネル覆工用型枠を脱型した後に、例えば、コンクリートカッターを使用して、硬化したトンネル覆工コンクリートの施工スパン中間部を溝状に切削することによって、誘発目地を形成する方法が考えられる。
【0013】
しかしながら、上記方法によって、硬化したトンネル覆工コンクリートをコンクリートカッターによって溝状に切削する場合、トンネル覆工コンクリートのアーチ形状部を含む湾曲する横断面形状の内周面に沿ってコンクリートカッターを移動させながら、該トンネル覆工コンクリートを溝状に切削していく作業が必要となるため、多くの手間と時間を要するという問題がある。
【0014】
また、ロングスパンのトンネル覆工用型枠を一体構造物として構成すると、例えば、トンネルの坑口部分や断面拡幅部分等のような異なる断面部分のトンネル覆工コンクリートを施工する場合には、これらの異なる断面部分の型枠の組み立てや打設したコンクリートの養生等のために、一体のトンネル覆工用型枠を移動させることなく、同じ位置に通常よりも長い期間設置しておく必要がある。このとき、異なる断面部分のトンネル覆工コンクリートの施工には、トンネル覆工用型枠の一部しか使用されないため、トンネル覆工用型枠の他の部分(異なる断面部分から外れた部分)が無駄となり、この部分を他のトンネル部分の覆工に活用することができないために工期が長引くという問題もある。
【0015】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたもので、その目的は、トンネル覆工コンクリートの各施工スパン中間部に誘発目地を、多くの手間や時間を要することなく簡単に設けることができるとともに、必要な場合には分離して型枠を有効に活用することによって、工期の短縮に資することができるトンネル覆工用型枠を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、 山岳トンネル工法においてトンネルの内壁面を覆うトンネル覆工コンクリートを形成するための、10.5mを超える施工延長を有するロングスパンのトンネル覆工用型枠であって、 トンネルの掘進方向に移動可能な架台部と、該架台部に支持されてトンネルの内壁面との間に覆工空間を形成するための、上部型枠と、該上部型枠の両側下端部に回転可能に連結された一対の側部型枠とを含んで構成された型枠本体部とを備え、前記架台部は、トンネルの掘進方向に2分割された一対の分割架台部によって構成され、前記型枠本体部は、トンネルの掘進方向に2分割された一対の分割型枠本体部によって構成されており、一対の前記分割型枠本体部は、一対の前記分割架台部によって各々独立して支持され、一対の前記分割架台部は、各々に取り付けられた走行部によって独立してトンネルの掘進方向に移動可能であり、且つ、連結部材によって連結されて両者が結合一体化した状態と、連結が解除されて両者が分離した状態のいずれかを選択可能であり、一対の前記分割架台部が結合一体化した状態では、一対の前記分割型枠本体部の隣接する端面の間に、一定幅のスリット状の隙間が全周に亘って形成され、前記隙間には、各施工スパンの中間部に誘発目地を形成するためのプレート部材が、前記覆工空間の全周に亘って突出する状態で引き抜き可能に挿入配置されていることを特徴とする。
【0017】
ここで、前記連結部材は、伸縮調整機構を備えており、該連結部材によって一対の前記分割架台部を結合一体化した状態において、一対の前記分割型枠本体部の隣接する端面の間に、一定幅のスリット状の前記隙間が全周に亘って形成されるように、一対の前記分割型枠本体部の隣接する端面の間の間隔を、前記伸縮調整機構によって調整することができるよう構成されていることが好ましい。
【0018】
また、前記連結部材によって一対の前記分割架台部を結合一体化した状態において、一対の前記分割型枠本体部の隣接する端面の間に、一定幅のスリット状の前記隙間が全周に亘って形成されるように、一対の前記分割型枠本体部の隣接する端面の間の間隔を調整可能とする伸縮調整部材が、一対の前記分割型枠本体部に跨って設けられていることが好ましい。
【0019】
そして、前記型枠本体部の一対の分割型枠本体部の各後端部に、コンクリートポンプから延びる圧送配管が接続される圧入接続口が、それぞれ設けられていることが好ましい。
【0020】
また、前記型枠本体部のトンネルの掘進方向後方側の分割型枠本体部の天端部の前側部分に、エア抜きパイプが、覆工空間の天面部に近接するまで突出した状態で引き抜き可能に取り付けられていることが好ましい。
【0021】
さらに、前記型枠本体部の各分割型枠本体部には、覆工空間に進退可能に突出する複数の伸縮バイブレータが、トンネルの掘進方向に所定の間隔をおいてそれぞれ設けられていることが好ましい。
【0022】
そして、前記プレート部材の表面は、摩擦低減材で被覆されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、トンネル覆工コンクリートの各施工スパン中間部に誘発目地を、多くの手間や時間を要することなく簡単に設けることができるとともに、必要な場合にはトンネル覆工用型枠を分離して当該型枠を有効に使用することによって、工期の短縮を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明に係るトンネル覆工用型枠の正面図である。
【
図2】本発明に係るトンネル覆工用型枠の側面図である。
【
図4】(a),(b)は、連結部材の例を示す図である。
【
図8】プレート部材の側面図(
図7の矢視D方向の図)である。
【
図10】(a)~(c)は、本発明に係るトンネル覆工用型枠を用いたトンネル覆工作業をその工程順に示す正断面図である。
【
図11】(a)~(c)は、本発明に係るトンネル覆工用型枠を用いたトンネル覆工作業をその工程順に示す側断面図である。
【
図12】(a)~(c)は、本発明に係るトンネル覆工用型枠を用いたトンネル覆工作業におけるトンネル覆工コンクリートの天面部の打設方法をその工程順に示す部分側断面図である。
【
図13】トンネル覆工コンクリート内周面の誘発目地が形成された箇所の部分正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0026】
[トンネル覆工用型枠]
まず、本発明に係るトンネル覆工用型枠の構成を、
図1~
図3に基づいて以下に説明する。
【0027】
図1は、本発明に係るトンネル覆工用型枠の正面図、
図2は、同トンネル覆工用型枠の側面図、
図3は、
図2のA部拡大略示詳細図、
図4(a),(b)は、連結部材の例を示す図である。
【0028】
本発明に係るトンネル覆工用形枠1は、山岳トンネル工法において、地山を掘削して形成されたトンネルTの内壁面を覆うトンネル覆工コンクリート4を形成するためのものであって、10.5mを超える施工延長(本実施の形態では、18m)を有する、ロングスパンのスライドセントルとして構成されている。なお、トンネル覆工コンクリート4で覆う前のトンネルTの内壁面は、コンクリートが吹き付けられて、一次覆工5が施されている。また、以下の説明においては、トンネルTの延長方向(
図2の左右方向)を「前後方向」、トンネルTの幅方向を「左右方向」、トンネルTの延長方向において坑口側を「前側」、切羽側を「後側」と称することがある。
【0029】
本実施の形態に係るトンネル覆工用形枠1は、
図1および
図2に示すように、トンネルTの掘進方向X(
図2参照)に沿って移動可能な架台部2と、該架台部2上に支持された型枠本体部3とを備えており、その全長は、18mのロングスパンを有している。したがって、後述のように、本実施の形態に係るトンネル覆工用型枠1を用いて形成されるトンネル覆工コンクリート4の施工スパンLは、18mと従来の10.5mに対して大幅に延長されている。
【0030】
ここで、前記架台部2は、トンネルTの掘進方向X(
図2の左右方向)に2分割された一対の分割架台部2F,2Rによって構成されており、各分割架台部2F,2Rは、
図1に示す門型台車2Aをそれぞれ備えている。各門型台車2Aは、基台部2aと、該基台部2aを支持する左右の支柱脚部2bとをそれぞれ備えており、各支柱脚部2bの下端には、トンネルTの床面に長手方向(
図2の左右方向)に沿って平行に敷設された左右一対のレール6上を移動可能なローラ等の走行部7が、それぞれ取り付けられている。したがって、分割架台部2F,2Rは、レール6に沿ってトンネルTの掘進方向X(
図2参照)に各々独立に移動することができる。
【0031】
前記型枠本体部3は、一次覆工5によって覆われたトンネルTの内壁面との間に所定厚さの覆工空間Sを形成するためのものであって、トンネルTの掘進方向X(
図2の左右方向)に2分割された一対の分割型枠本体部3A,3Bによって構成されている(
図3参照)。そして、2分割された一対の分割型枠本体部3A,3Bは、一対の分割架台部2F,2Rによって各々独立して支持されている(
図2参照)。したがって、分割架台部2Fとこれに支持された分割型枠本体部3A、および分割架台部2Rとこれに支持された分割型枠本体部3Bは、レール6(
図1参照)に沿って各々独立してトンネルTの掘進方向Xに移動することができる。
【0032】
上記各分割型枠本体部3A,3Bは、全体としてトンネルTの内壁面形状に沿ったアーチ状を成しており、
図1に示すトンネルTのアーチ形状部の上部の覆工空間Sを形成するための上部型枠3aと、トンネルTのアーチ形状部の下部および両側の側壁部分の覆工空間Sを形成するための左右一対の側部型枠3bと、一対の下部型枠3cとをそれぞれ含んで構成されている。ここで、上部型枠3aは、門型台車2Aの基台部2aに設けられた複数の昇降ジャッキ8によって上下に昇降可能に支持されている。また、一対の側部型枠3bは、上部型枠3aの左右両側の下端部にそれぞれ回動可能に連結されており、一対の下部型枠3cは、各側部型枠3bの下端部にそれぞれ回動可能に連結されている。そして、左右の各側部型枠3bと各下部型枠3cは、一端部が門型台車2Aに連結された伸縮ジャッキ9,10の他端部に、それぞれ連結されており、伸縮ジャッキ9,10の伸縮によって、上部型枠3aと側部型枠3bに対してそれぞれ回動することができる。
【0033】
また、
図1に示すように、枠型本体部3の上部型枠3aと側部型枠3bには、複数の圧入接続口11a,11bが、前後方向(
図1の紙面垂直方向)に並べて形成されている(
図2参照)。ここで、各圧入接続口11a,11bは、後述のように覆工用のコンクリート12(
図9および
図11参照)を、覆工空間Sに流し込んだり圧入したりするため等の目的で用いられる。圧入接続口11a,11bは、窓ではなく、枠型本体部3自体に設置することができる。
【0034】
以上のように構成されたトンネル覆工用型枠1は、昇降ジャッキ8や伸縮ジャッキ9,10を伸縮させることによって、型枠本体部3を拡開させたり内側に縮小させることができ、トンネルTの内壁面に沿うように枠型本体部3を組み付けて、トンネルTの内壁面との間に所定厚さの覆工空間Sを形成するとともに、枠型本体部3を脱型した後には、トンネルTの内部を掘進方向X(
図2参照)に移動することができる。
【0035】
ところで、架台部2の分割された一対の分割架台部2F,2Rは、例えば、
図4(a),(b)に示す連結部材40または50によって連結されて、両者が結合一体化した状態と、連結部材40または50による連結が解除されて両者が分離した状態の、いずれかを選択できるよう構成されている。
【0036】
ここで、連結部材40,50には、伸縮調整機構が備えられており、例えば
図4(a)に示す連結部材40は、油圧シリンダで構成されており、油圧ポンプ等の不図示の油圧発生源からシリンダ41に供給される油圧によって進退動するロッド41を備えている。また、
図4(b)に示す連結部材50は、ターンバックル式の送りネジ機構によって構成されており、2つの逆ネジ51,52に螺合するナット部材53をレバー54によって回転させることによって、逆ネジ51,52が互いに逆方向に移動するよう構成されている。
【0037】
したがって、分割架台部2F,2Rが、連結部材40によって連結されて結合一体化した状態においては、
図4に示す分割架台部2F,2Rの端面の間の間隔を、連結部材40,50に備えられた伸縮調整機構によって調整することが可能になる。このため、
図3および
図6に示すように、一対の分割型枠本体部3A,3Bの隣接する端面の間に、一定幅のスリット状の隙間δを、全周に亘って容易に形成することが可能になる。
【0038】
また、型枠本体部3の2分割された分割型枠本体部3A,3Bに跨るようにして、不図示の伸縮調整部材を設けておくこともできる。この伸縮調整部材は、
図4(a),(b)に示す連結部材40,50に備えられた伸縮調整機構(油圧シリンダや送りネジ機構)と、同様の機構を備える伸縮部材を用いることができる。そして、一対の分割架台部2F,2Rが
図4に示す連結部材40,50によって連結されて、両者が結合一体化した状態において、
図3および
図6に示すように、一対の分割型枠本体部3A,3Bの隣接する端面の間に、一定幅のスリット状の隙間δが全周に亘って形成されるように、一対の分割型枠本体部3A,3Bに跨るようにして設けられた当該伸縮調整部材によって、一対の分割型枠本体部3A,3Bの隣接する端面の間の間隔を、微調整することが可能になる。
【0039】
ところで、枠型本体部3の2分割された分割型枠本体部3A,3Bの隣接する端面の間に、一定幅で全周に亘って形成されたスリット状の隙間δ(
図3参照)には、
図5及び
図6に示すように、各施工スパンL(=18m)の中間部に誘発目地14(
図13および
図14参照)を形成するためのプレート部材15が、覆工空間Sの全周に亘って突出する状態で、引き抜き可能に挿入配置される。なお、プレート部材15は、好ましくはアルミニウム製またはスチール製の金属プレートによって構成されている。
【0040】
ここで、プレート部材15の構成と取付構造を、
図5~
図9に基づいて以下に説明する。
【0041】
図5は、
図4のB-B線断面図、
図6は、
図5のC-C線断面図、
図7は、プレート部材の正面図、
図8は、同プレート部材の側面図(
図7の矢視D方向の図)、
図9は、
図8のE-E線断面図である。
【0042】
図5に示すように、プレート部材15は、周方向に沿って複数に分割されており、複数のプレート部材15は、一次覆工5によって覆われたトンネルTの内周壁との間に所定距離を保った状態で、アーチ状に配置されている。なお、
図5には、半周分のプレート部材15のみを示している。
【0043】
各プレート部材15は、
図7に示すように、略矩形平板状に成形されており、その内周面と外周面は所定の曲率の円弧面とされている。そして、各プレート部材15の覆工空間Sに突出する先端部分15A(
図7にハッチングを付した部分)の両面は、先端(
図7および
図8の上端)に向かって尖ったテーパ面とされており(
図8参照)、これらのテーパ面には、高吸水性樹脂を含む不図示の摩擦低減材が被覆されている。
【0044】
そして、各プレート部材15の覆工空間Sの外部に臨む部分15B(先端部分15A以外の部分)の一方の面(
図7の手前側の面)の左右には、ボス16が突設されており、各ボス16には円孔状のピン挿通孔16aがそれぞれ貫設されている。また、各プレート部材15の他方の面(
図7の奥側の面)のボス16よりも左右方向外側には、縦方向に長いガイド材17が突設されている。さらに、各プレート部材15の下端部の幅方向中央にはブラケット18が直角に挿通固着されており、このブラケット18の両側には、把手として機能する矩形の開口部19が形成されている。ここで、ブラケット18は、プレート部材15の他方の面(
図7の奥側の面)から長く突出しており、この突出部分には、
図9に示すように、切欠き孔18aが形成されている。
【0045】
ところで、枠型本体部3の2分割された分割型本体部3A,3Bの隣接する端面には、
図6に示すように、両端面間に全周に亘って形成されたスリット状の隙間δを挟んだ両側に配置されて、支持部材20,21がそれぞれ取り付けられている。ここで、両支持部材20,21は、プレート部材15と同数設けられており、プレート部材15と同様にアーチ状に配置されている。本実施形態では、スリット状の隙間δは、支持部材20,21の間の隙間として形成されるようになっている。
【0046】
図6に示すように、一方(前側)の支持部材20は、矩形枠状(チャンネル状)に成形されており、プレート部材15に対向する部位の下端部に形成されたブラケット20aには、ボルト22とこれに螺合するナット23が軸24によって上下に回動可能に支持されている。また、この支持部材20のプレート部材15に対向する部位には、
図6の紙面垂直方向に長い矩形のプレート25が突設されており、このプレート25の左右2箇所(プレート部材15のボス16に形成されたピン挿通孔16aに対応する2箇所)には、ピン挿通孔25aが貫設されている。なお、支持部材20の左右両端部(プレート部材15の左右のガイド材17に係合する位置)には、不図示のガイド材が突設されている。そして、この支持部材20の外周面のプレート部材15に当接する位置(
図6の左端部)には、先端に向かって幅が狭くなる横断面台形の突起20bが覆工空間Sに向かって突設されている。なお、この突起20bは、支持部材20の外周に沿って、
図6の紙面垂直方向に長く形成されている。
【0047】
また、他方(後側)の支持部材21は、横断面逆L字状に成形されており、この支持部材21の外周面のプレート部材15に当接する位置(
図6の右端部)には、先端に向かって幅が狭くなる横断面台形の突起21aが、覆工空間Sに向かって突設されている。なお、この突起21aは、支持部材15の外周に沿って、
図6の紙面垂直方向に長く形成されている。
【0048】
そして、各プレート部材15は、一方(前側)の支持部材20に次のように取り付けられている。すなわち、各プレート部材15は、
図6に示すように、その先端部が覆工空間Sに突出する状態で、当該プレート部材15に突設された左右のガイド材17と支持部材20に突設された不図示の左右のガイド材とを係合させて、両支持部材20,21の間のスリット状の隙間δに差し込まれ、支持部材20のプレート25に形成された2つのピン挿通孔25aと、当該プレート部材15の2つのボス16に形成されたピン挿通孔16aとに挿通されるピン26によって、位置決めされるとともに支持される。そして、この状態から、プレート部材15のブラケット18に形成された切欠き孔18a(
図9参照)に、ボルト22を
図6に実線にて示すように通し、該ボルト22の端部に螺合するナット23を締め付けることによって、プレート部材15が支持部材20に確実に取り付けられる。
【0049】
ところで、
図3に示すように、型枠本体部3の前後に2分割された分割型枠本体部3A,3Bの各後端部の天端部には、コンクリートポンプ30から延びる圧送配管31(
図11(c)参照)が接続される、頂部圧入接続口27a,27bがそれぞれ設けられている。また、型枠本体部3のトンネルTの掘進方向Xにおいて後方側の分割型枠本体部3Bの天端部の前側部分(プレート部材15に近接する部分)には、エア抜きパイプ28が、覆工空間Sの天面部に近接するまで突出した状態で引き抜き可能に取り付けられている。なお、エア抜きパイプ28には、例えば大栄工機株式会社製の「エア抜き金具」等として知られているものが使用される。
【0050】
さらに、
図3に示すように、型枠本体部3の各分割型枠本体部3A,3Bには、覆工空間Sに進退可能に突出する複数の伸縮バイブレータ13が、トンネルTの掘進方向(
図3の左右方向)に適当な間隔でそれぞれ設けられている。なお、伸縮バイブレータ13には、例えば大栄工機株式会社製の「天端伸縮バイブレータ」等として知られているものが使用される。
【0051】
[トンネル覆工作業]
次に、以上のように構成されたトンネル覆工用型枠1を用いて実施されるトンネル覆工作業を
図10~
図14に基づいて以下に説明する。
【0052】
図10(a)~(c)は、本発明に係るトンネル覆工用型枠を用いたトンネル覆工作業をその工程順に示す正断面図、
図11(a)~(c)は、同トンネル覆工作業をその工程順に示す側断面図、
図12(a)~(c)は、同トンネル覆工作業におけるトンネル覆工コンクリートの天端部の打設方法をその工程順に示す部分側断面図、
図13は、トンネル覆工コンクリート内面の誘発目地が形成された箇所の部分正面図、
図14は、
図13のF-F線断面図である。
【0053】
トンネル覆工作業は、山岳トンネル工法において、本発明に係るトンネル覆工用型枠1を用いて、
図11に示す2台のコンクリートポンプ30からそれぞれ延びる圧送配管31を経て、コンクリート12(
図10および
図12参照)を覆工空間Sに同時に供給しながら打設することによって、掘削したトンネルTの内壁面を覆うトンネル覆工コンクリート4を構築する作業である。なお、トンネルTの内壁面には、コンクリートの吹き付けによって一次覆工5が既に施されている。また、以下に説明するトンネル覆工作業は、分割架台部2F,2Rが
図4に示す連結部材40または50によって連結された、両者が一体化した状態でなされるものとする。
【0054】
より詳細には、
図11に示すように、2台のコンクリートポンプ30は、トンネルT内に搬入されたトンネル覆工用型枠1を挟んでトンネルTの掘進方向Xの前方と後方にそれぞれ配置されており、各コンクリートポンプ30のホッパー部には、各コンクリートミキサー車32からコンクリート12がそれぞれ投入される。ここで、前後2台のコンクリートポンプ30からは圧送配管31がそれぞれ延びており、各コンクリートミキサー車32から各コンクリートポンプ30のホッパー部へと投入されたコンクリート12は、2系統の各圧送配管31から覆工空間Sに同時に圧送されて供給される。このように、2系統のコンクリートポンプ30と圧送配管31を用いることによって、トンネル覆工コンクリート4を形成するための工程の進捗を効果的に早めることができる。なお、2台のコンクリートポンプ30を用いる場合、これら2台のコンクリートポンプ30は、トンネルTの掘進方向Xにおいて、トンネル覆工用型枠1を挟んだ前方または後方の一方(片側)に並べて配置することも可能である。
【0055】
2台のコンクリートポンプ30からそれぞれ延びる2系統の圧送配管31は、
図11に示すように、トンネル覆工用型枠1の内側に向かって延びる主配管31aと、該主配管31aから
図10に示すロータリバルブ29を介してトンネルTの幅方向両側に枝分かれした左右の分岐管31bを含んで構成されている。ここで、各分岐管31bは、長さの異なる直管や湾曲管等からなる複数のピースを含んで構成されており、選択した複数のピースを組み付けて、圧入接続口11a、11bに接続するように配置されると共に、これらのピースを組み替えることによって、当該分岐管31bを、型枠本体部3の2分割された分割型枠本体部3A,3Bに形成された下段の圧入接続口11aから上段の圧入接続口11bに切り換えて接続したり、上段の圧入接続口11bから天端部の頂部圧入接続口27a,27bに切り換えて接続したりできるようになっている。
【0056】
すなわち、
図10(a)および
図11(a)に示すように、左右の各分岐管31bを下段の圧入接続口11aに接続し、各コンクリートポンプ30から圧送されるコンクリート12を、各分岐管31bから覆工空間Sに同時に流し込んだり圧入したりすることによって、覆工空間Sの下半部(
図10(a)におけるドット部分とハッチング部分)にコンクリート12を打設することができる。
【0057】
次に、左右の各分岐管31bを、
図10(b)および
図11(b)に示すように、上段の圧入接続口11bに接続し、各コンクリートポンプ30から圧送されるコンクリート12を、各分岐管31bから覆工空間Sに同時に流し込んだり圧入したりすることによって、覆工空間Sの上半部(
図10(b)におけるドット部分とハッチング部分)にコンクリート12を打設することができる。
【0058】
そして、最後に左右の分岐管31bを、
図10(c)および
図11(c)に示すように、天端部の頂部圧入接続口27a,27bに接続し、各コンクリートポンプ30から圧送されるコンクリート12を各分岐管31bから覆工空間Sに同時に流し込んだり圧入したりすることによって、覆工空間Sの天頂部(
図10(c)における網掛部分)にコンクリート12を打設することができる。この場合、トンネル覆工用型枠1の型枠本体部3の前後に2分割された分割型枠本体部3A,3Bの隣接する端部間(覆工スパンLの前後方向中間部)のスリット状の隙間δに挿入配置されたプレート部材15は、邪魔板として機能する。
【0059】
すなわち、トンネル覆工用型枠1の型枠本体部3の2分割された前後の分割型枠本体部3A,3Bの各後端部に設けられた、例えば天端部の頂部圧入接続口27a,27bから、コンクリート12を覆工空間Sの天頂部に同時に打設する際、覆工空間Sに流し込まれるコンクリート12は、
図12(a)に矢印にて示すように、各圧入接続口27a,27bから妻型枠33側に向かってそれぞれ流れる。そして、上流側からプレート部材15に至ったコンクリート12は、
図12(b)に示すように、邪魔板として機能するプレート部材15の部分で打ち上げられるとともに、各圧入接続口27a,27bから妻型枠33に向かってそれぞれ流れる。すなわち、各圧入接続口27a,27bから妻型枠33に向かって流れるコンクリート12は、覆工空間Sにコンクリート12がさらに圧入されることによってプレート部材15や妻型枠33に到達した後は、それ以上の妻型枠33側への流れが阻止されるため、プレート部材15や妻型枠33に沿って上方に打ち上がることになる。そして、一方の圧入接続口27aから覆工空間Sへと打設されたコンクリート12は、プレート部材15を乗り越えて既設のトンネル覆工コンクリート4a側へも流出し、既設のトンネル覆工コンクリート4a側のコンクリート12と合流するとともに、他方の圧入接続口27b側の部分から覆工空間Sの天面部へと到達し、妻型枠33側に向かって覆工空間Sへと順次充填されていく。
【0060】
上述のように、頂部圧入接続口27a,27bから打設されたコンクリート12が覆工空間Sの天面部に達すると、プレート部材15よりも既設のトンネル覆工コンクリート4a側の部分に残留する空気が逃げ場を失うため、覆工空間Sの天面部に近接する部分に空気溜りが生じ易くなる。然るに、本実施の形態では、プレート部材15の既設のトンネル覆工コンクリート4a側に近接して、エア抜きパイプ28を、覆工空間Sの天面部に近接する部分に至る長さで突設したため、残留する空気をエア抜きパイプ28からトンネル覆工用型枠1の内部へと逃がすことができる。この結果、プレート部材15の付近で覆工空間Sの天面部に空気溜りが発生することがなく、
図12(c)に示すように、覆工空間Sの天面部の全てにコンクリート12を充填することができる。なお、本実施の形態では、トンネルTの延長方向に適当な間隔で複数の伸縮バイブレータ13を配置したため、覆工空間Sの天面部に打設されたコンクリート12を複数の伸縮バイブレータ13によって締め固めることができ、より蜜実で品質の高いトンネル覆工コンクリート4を得ることができる。
【0061】
以上の一連の覆工作業によって、
図10(c)および
図11(c)に示すように、トンネルTの内壁面を覆うトンネル覆工コンクリート4が構築されるが、本実施の形態では、トンネル覆工用型枠1として、全長が従来の10.5mから18mへと大幅に延びたロングスパンのものを使用するとともに、2台のコンクリートポンプ30を用いて、2系統の圧送配管31からコンクリート12を覆工空間Sに同時に打設するようにしたため、1サイクルで行われるトンネル覆工コンクリート4の施工スパンLが18mと大幅に延びるとともに、コンクリート12の打設時間を大幅に短縮することができる。このため、トンネル覆工コンクリート4を形成するための工程、つまり、コンクリート12の打設から養生およびトンネル覆工用型枠1の脱型までの工程の進捗が、トンネルTの切羽面を掘削する工程の進捗に追従できるようになる。
【0062】
ところで、上述のようにトンネル覆工コンクリート4の1サイクルでの施工スパンLが例えば10.5m程度から18m程度に延長されると、18m程度の長いトンネル覆工コンクリート4の施工スパンLの中間部に、乾燥収縮や温度収縮に伴うひび割れが発生し易くなるという問題があることは前述の通りである。
【0063】
然るに、本実施の形態では、トンネル覆工用型枠1の型枠本体部3の前後に2分割された分割型枠本体部3A,3Bの、前後の隣接する端面間に形成された隙間δに、プレート部材15を、覆工空間Sの全周に亘って突出する状態で引き抜き可能に挿入配置したため、覆工空間Sに打設されたコンクリート12が硬化した後に、プレート部材15をコンクリート12から引き抜けば、トンネル覆工コンクリート4の施工スパンLの中間部には、
図13および
図14に示すように、誘発目地14が全周に亘って形成される。この誘発目地14は、トンネル覆工コンクリート4の乾燥収縮や温度収縮に伴うひび割れを誘発するものであって、この誘発目地14をトンネル覆工コンクリート4の施工スパンLの中間部に形成することによって、ひび割れが誘発目地14に集中するため、トンネル覆工コンクリート4の誘発目地14以外の部位にひび割れの発生するのを、効果的に回避したり抑制したりすることが可能になる。
【0064】
ところで、複数のプレート部材15の引き抜きは、次の要領でなされる。即ち、
図6に示すプレート部材15のボス16に形成されたピン挿通孔16aと、支持部材20のプレート25に形成されたピン挿通孔25aとに挿通しているピン26を抜き取ると共に、該プレート部材15を支持部材20に取り付けているナット23を緩めて、ボルト22を軸24を中心として
図6に鎖線にて示すように略90°だけ回動させる。すると、ボルト22がプレート部材15のブラケット18に形成された切欠き孔18a(
図9参照)から抜け、プレート部材15の支持部材20への取り付けが解除されるため、作業者は、プレート部材15の下端部に形成された2つの把手用の開口部19を手で持って、プレート部材15をトンネル覆工コンクリート4から引き抜くことができる。すると、プレート部材15が引き抜かれたトンネル覆工コンクリート4の内周面には、
図13および
図14に示すような誘発目地14が、全周に亘って形成される(
図13には一部のみ図示)。なお、誘発目地14の開口部には、支持部材20,21にそれぞれ突設された突起20b,21a(
図6参照)によって、内側(
図13の手前側、
図14の下方)に向かって開くテーパ状の溝14aが形成される。
【0065】
ところで、本実施の形態では、各プレート部材15の覆工空間Sに突出する先端部分15A(
図7のハッチング部分)の両面は、先端に向かって尖ったテーパ面とされているため、各プレート部材15をトンネル覆工コンクリート4から容易に引き抜くことができる。また、本実施の形態では、各プレート部材15の先端部分15Aの両面を、高吸水性樹脂を含む摩擦低減材によって被覆したため、各プレート部材15をトンネル覆工コンクリート4から引き抜く際の摩擦抵抗力が小さく抑えられ、各プレート部材15をトンネル覆工コンクリート4から一層容易に引く抜くことができる。
【0066】
以上のように、本発明に係るトンネル覆工用型枠1においては、型枠本体部3を前後に2分割するとともに、2分割された両分割型枠本体部3A,3Bの隣接する端面間の一定幅のスリット状の隙間δに挿入配置することで、プレート部材15を予め取り付ける構成を採用したため、覆工空間Sに打設されたコンクリート12が硬化した後に、プレート部材15を引き抜くことによって、トンネル覆工コンクリート4の施工スパンLの中間部に誘発目地14を容易に形成することが可能になる。このため、例えば硬化したトンネル覆工用コンクリートをコンクリートカッターによって溝状に切削する等の手法を用いる場合と比較して、多くの手間と時間を要することなく、誘発目地を精度良く容易に形成することが可能になる。
【0067】
また、本実施の形態に係るトンネル覆工用型枠1においては、架台部2を2分割された分割架台部2F,2Rで構成し、型枠本体部3も2分割された分割型枠本体部3A,3Bで構成し、分割架台部2F,2Rを
図4に示す連結部材40または50によって連結して両者を一体化した状態と、連結部材40または50による連結を解除して分割架台部2F,2Rを分離する状態を選択することができるため、以下のような効果を得ることができる。
【0068】
すなわち、例えば、トンネルTの坑口部分や断面拡幅部分等のような異なる断面部分にトンネル覆工コンクリート4を施工する場合には、つまり、トンネル覆工用型枠1の一部しか使用しない場合には、分割架台部2F,2Rの
図4に示す連結部材40または50による連結を解除し、分割架台部2F,2Rおよびこれらに支持された分割型枠本体部3A,3Bを分離することが可能になる。そして、分離した使用しない側(異なる断面部分から外れた部分)の分割架台部2F(または2R)と、これに支持された分割型枠本体部3A(または3B)とを適宜移動させて、これらを他の箇所のトンネル覆工コンクリートの施工に供することが可能になる。このため、トンネル覆工用型枠1をより有効に使用することが可能になって、全体の工期の短縮を図ることが可能になる。
【0069】
なお、本発明は、以上説明した実施の形態に適用が限定されるものではなく、特許請求の範囲および明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。例えば、引き抜き可能なプレート部材の表面を被覆する摩擦低減材は、高吸水性樹脂を含む摩擦低減材である必要は必ずしもなく、吸水して膨潤する材料を含む他の摩擦低減材の他、硬化した後のトンネル覆工コンクリートからプレート部材を例えば人の力で容易に引き抜くことを可能とする公知の種々の摩擦低減材であっても良い。
【0070】
また、以上の実施の形態では、トンネル覆工用型枠1として、全長が18mのものを用いたが、トンネル覆工用型枠1としては、例えば全長が18~22m程度の、10.5mを越える施工延長を有する、その他のロングスパンのトンネル覆工用型枠であっても良い。
【符号の説明】
【0071】
1 トンネル覆工用型枠
2 架台部
2A 門型台車
2F,2R 分割架台部
3 型枠本体部
3A,3B 分割型枠本体部
3a 上部型枠
3b 側部型枠
3c 下部型枠
4 トンネル覆工コンクリート
5 一次覆工
7 走行部
11a,11b 圧入接続口
12 コンクリート
13 伸縮バイブレータ
14 誘発目地
15 プレート部材
20,21 支持部材
22 ボルト
23 ナット
26 ピン
27a,27b 頂部圧入接続口
28 エア抜きパイプ
30 コンクリートポンプ
31 圧送配管
40,50 連結部材
L 施工スパン
S 覆工空間
T トンネル
X トンネルの掘進方向
δ スリット状の隙間