(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】架橋構造体、架橋構造体の製造方法、及び表面処理基材
(51)【国際特許分類】
C08G 18/62 20060101AFI20221011BHJP
C08F 290/06 20060101ALI20221011BHJP
C08G 18/32 20060101ALI20221011BHJP
C08G 18/34 20060101ALI20221011BHJP
C08G 18/80 20060101ALI20221011BHJP
C08G 59/40 20060101ALI20221011BHJP
C08J 3/24 20060101ALI20221011BHJP
C08L 43/04 20060101ALI20221011BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20221011BHJP
C08L 83/10 20060101ALI20221011BHJP
【FI】
C08G18/62 095
C08F290/06
C08G18/32 025
C08G18/34 010
C08G18/80 090
C08G59/40
C08J3/24 Z
C08L43/04
C08L83/04
C08L83/10
(21)【出願番号】P 2019218012
(22)【出願日】2019-12-02
【審査請求日】2021-07-28
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度 国立研究開発法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 (ACCEL) 「濃厚ポリマーブラシのレジリエンシー強化とトライボロジー応用」 委託研究 産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】嶋中 博之
(72)【発明者】
【氏名】田儀 陽一
(72)【発明者】
【氏名】谷嶋 美保
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 広賢
(72)【発明者】
【氏名】榊原 圭太
(72)【発明者】
【氏名】辻井 敬亘
【審査官】古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-132398(JP,A)
【文献】特開2009-197042(JP,A)
【文献】特開2019-137775(JP,A)
【文献】特開平11-158285(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 18/62
C08F 290/06
C08G 18/32
C08G 18/34
C08G 18/80
C08G 59/40
C08J 3/24
C08L 43/04
C08L 83/04
C08L 83/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
数平均分子量10,000~100,000のポリシロキサングラフトポリマーと、
イソシアネート系架橋剤、ポリグリシジル系架橋剤、ポリカルボン酸系化合物、ポリオール、及びポリアミンからなる群より選択される少なくとも一種の架橋剤と、の架橋物であり、
前記ポリシロキサングラフトポリマーが、片末端に(メタ)アクリロイル基を持った分子量1,000~20,000のポリジメチルシロキサンに由来する構成単位(a)と、水酸基、カルボキシ基、イソシアネート基、ブロック化イソシアート基、及びグリシジル基からなる群より選択される少なくとも一種の架橋性官能基を有する(メタ)アクリレート系モノマーに由来する構成単位(b)と、ラジカル重合性ビニル系モノマーに由来する構成単位(c)と、を有し、
前記ポリシロキサングラフトポリマー中の前記構成単位(a)、前記構成単位(b)、及び前記構成単位(c)の質量比が、(a):(b):(c)=50~90:5~50:0~45であ
り、
炭化水素系潤滑油、ポリエステルポリオール系潤滑油、ポリオレフィン系潤滑油、シリコーン系潤滑油、及びハロゲン化アルキル系潤滑油からなる群より選択される少なくとも一種のオイルで膨潤しており、
膨潤前に比して1.5倍以上に線膨張したゲル膨潤体である架橋構造体。
【請求項2】
前記ポリジメチルシロキサンが、相互に分子量が異なる第1のポリジメチルシロキサン及び第2のポリジメチルシロキサンを含み、
前記第1のポリジメチルシロキサンの分子量が1,000~5,000であるとともに、前記第2のポリジメチルシロキサンの分子量が5,000~20,000であり
前記構成単位(a)が、前記第1のポリジメチルシロキサンに由来する構成単位(a-1)と、前記第2のポリジメチルシロキサンに由来する構成単位(a-2)と、を含む請求項
1に記載の架橋構造体。
【請求項3】
前記ポリシロキサングラフトポリマーの分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が、1.5以下である請求項1
又は2に記載の架橋構造体。
【請求項4】
その厚さが100nm以上の膜状成形物である請求項1~
3のいずれか一項に記載の架橋構造体。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか一項に記載の架橋構造体の製造方法であって、
前記ポリジメチルシロキサン、前記(メタ)アクリレート系モノマー、及び前記ラジカル重合性ビニル系モノマーを含むモノマー成分を重合して前記ポリシロキサングラフトポリマーを得る重合工程と、
得られた前記ポリシロキサングラフトポリマーを前記架橋剤で架橋する架橋工程と、を有する架橋構造体の製造方法。
【請求項6】
ヨウ素原子を有する有機化合物を重合開始剤とするリビングラジカル重合方法により前記モノマー成分を重合して前記ポリシロキサングラフトポリマーを得る請求項
5に記載の架橋構造体の製造方法。
【請求項7】
基材と、前記基材の少なくとも一部の表面上に配置されたポリマー層と、を備え、
前記ポリマー層が、請求項1~
4のいずれか一項に記載の架橋構造体である表面処理基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブルで低摩擦性の架橋構造体、及びその製造方法、並びにそれを用いた表面処理基材に関する。
【背景技術】
【0002】
物品などの基材の表面にポリマー層を設けて表面改質する方法として、吸着性基又は反応性基をその末端に有するポリマーを基材の表面に作用させ、基材の表面に物理的又は化学的にグラフトしたポリマー層を形成する方法が知られている。また、基材の表面に付与した重合性基からモノマーを重合させ、基材の表面からグラフトしたポリマー層を形成する方法も知られている。
【0003】
近年、1990年代に発展したリビングラジカル重合の技術を用いて基板上にポリマーを高密度にグラフトした、いわゆる濃厚ポリマーブラシが研究されている。濃厚ポリマーブラシは、高分子鎖が1~4nm間隔の高密度で基板上にグラフトされたものである。このような濃厚ポリマーブラシによって基材の表面を改質し、低摩擦性、タンパク質吸着抑制、サイズ排除特性、親水性、撥水性等の特性を基材に付与することが提案されている(特許文献1及び2、非特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-133434号公報
【文献】特開2010-261001号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Adv.polym.Sci.,2006,197,1-45
【文献】J.AM.CHEM.SOC.,2005,127,15843-15847
【文献】Polym.Chem.,2012,3,148-153
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
濃厚ポリマーブラシは、潤滑、摩擦、摩耗などのトライボロジー分野において、低摩擦性を示す。濃厚ポリマーブラシは、例えば、リビングラジカル重合しうる重合開始基をその表面に付与した基材を、酸素や水などの不純物のないモノマー重合溶液に浸漬し、原子移動ラジカル重合などのリビングラジカル重合によってブラシ状のポリマーを形成することで製造することができる。なお、重合終了後は重合溶液から取り出した基材を洗浄及び乾燥する必要があるので、製造工程が全体として長く、煩雑であるといった課題があった。さらに、余剰の重合溶液については廃棄せざるを得ず、環境及び資源の面でも課題があった。
【0007】
また、摩擦時に用いる潤滑油や溶剤によって、濃厚ポリマーブラシを構成するポリマー層が基材表面から脱離する場合があった。濃厚ポリマーブラシは、通常、単分子膜層である重合開始基層を形成した後、モノマーを重合することで形成される。しかし、単分子膜層の結合力がさほど強くないとともに、密着性も弱いため、摩擦時にポリマー層が脱離しやすくなると考えられる。
【0008】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、表面の摩擦係数が小さく、優れた低摩擦性を示すとともに、機械的な強度及び耐久性に優れており、摺動部材の摺動面を構成するための材料等として好適な、容易に製造可能な架橋構造体を提供することにある。また、本発明の課題とするところは、この架橋構造体の製造方法、及びこの架橋構造体を用いた表面処理基材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明によれば、以下に示す架橋構造体が提供される。
[1]数平均分子量10,000~100,000のポリシロキサングラフトポリマーと、イソシアネート系架橋剤、ポリグリシジル系架橋剤、ポリカルボン酸系化合物、ポリオール、及びポリアミンからなる群より選択される少なくとも一種の架橋剤と、の架橋物であり、前記ポリシロキサングラフトポリマーが、片末端に(メタ)アクリロイル基を持った分子量1,000~20,000のポリジメチルシロキサンに由来する構成単位(a)と、水酸基、カルボキシ基、イソシアネート基、ブロック化イソシアート基、及びグリシジル基からなる群より選択される少なくとも一種の架橋性官能基を有する(メタ)アクリレート系モノマーに由来する構成単位(b)と、ラジカル重合性ビニル系モノマーに由来する構成単位(c)と、を有し、前記ポリシロキサングラフトポリマー中の前記構成単位(a)、前記構成単位(b)、及び前記構成単位(c)の質量比が、(a):(b):(c)=50~90:5~50:0~45である架橋構造体。
[2]炭化水素系潤滑油、ポリエステルポリオール系潤滑油、ポリオレフィン系潤滑油、シリコーン系潤滑油、及びハロゲン化アルキル系潤滑油からなる群より選択される少なくとも一種のオイルで膨潤しており、膨潤前に比して1.5倍以上に線膨張したゲル膨潤体である前記[1]に記載の架橋構造体。
[3]前記ポリジメチルシロキサンが、相互に分子量が異なる第1のポリジメチルシロキサン及び第2のポリジメチルシロキサンを含み、前記第1のポリジメチルシロキサンの分子量が1,000~5,000であるとともに、前記第2のポリジメチルシロキサンの分子量が5,000~20,000であり前記構成単位(a)が、前記第1のポリジメチルシロキサンに由来する構成単位(a-1)と、前記第2のポリジメチルシロキサンに由来する構成単位(a-2)と、を含む前記[1]又は[2]に記載の架橋構造体。
[4]前記ポリシロキサングラフトポリマーの分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が、1.5以下である前記[1]~[3]のいずれかに記載の架橋構造体。
[5]その厚さが100nm以上の膜状成形物である前記[1]~[4]のいずれかに記載の架橋構造体。
【0010】
また、本発明によれば、以下に示す架橋構造体の製造方法が提供される。
[6]前記[1]~[5]のいずれかに記載の架橋構造体の製造方法であって、前記ポリジメチルシロキサン、前記(メタ)アクリレート系モノマー、及び前記ラジカル重合性ビニル系モノマーを含むモノマー成分を重合して前記ポリシロキサングラフトポリマーを得る重合工程と、得られた前記ポリシロキサングラフトポリマーを前記架橋剤で架橋する架橋工程と、を有する架橋構造体の製造方法。
[7]ヨウ素原子を有する有機化合物を重合開始剤とするリビングラジカル重合方法により前記モノマー成分を重合して前記ポリシロキサングラフトポリマーを得る前記[6]に記載の架橋構造体の製造方法。
【0011】
さらに、本発明によれば、以下に示す表面処理基材が提供される。
[8]基材と、前記基材の少なくとも一部の表面上に配置されたポリマー層と、備え、前記ポリマー層が、前記[1]~[5]のいずれかに記載の架橋構造体である表面処理基材。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、表面の摩擦係数が小さく、優れた低摩擦性を示すとともに、機械的な強度及び耐久性に優れており、摺動部材の摺動面を構成するための材料等として好適な、容易に製造可能な架橋構造体を提供することができる。また、本発明によれば、この架橋構造体の製造方法、及びこの架橋構造体を用いた表面処理基材を提供することができる。
【0013】
本発明の架橋構造体は、特定のポリシロキサングラフトポリマー及び架橋剤を含有するコーティング液等の混合物を基材表面に塗布した後、架橋反応させることで容易に形成することができる。すなわち、濃厚ポリマーブラシを製造する際の煩雑な工程や厳密な重合条件管理が不要となるので、低コスト化及び省資源化の面で有利である。また、必要に応じてオイル(潤滑油)で膨潤させることで、ゲル膨潤体とすることができる。このように形成されるゲル膨潤体は、濃厚ポリマーブラシと同等又はそれ以上の低摩擦性を示すので、摺動部材の摺動面を構成するための材料等として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。なお、本明細書中の各種物性値は、特に断りのない限り、常温(25℃)における値である。
【0015】
<架橋構造体>
本発明の架橋構造体は、数平均分子量10,000~100,000のポリシロキサングラフトポリマーと、特定の架橋剤との架橋物である。ポリシロキサングラフトポリマーは、ポリジメチルシロキサンに由来する構成単位(a)と、架橋性官能基を有する(メタ)アクリレート系モノマーに由来する構成単位(b)と、ラジカル重合性ビニル系モノマーに由来する構成単位(c)とを有する。構成単位(a)を構成するポリジメチルシロキサンは、その片末端に(メタ)アクリロイル基を持った分子量1,000~20,000のシリコーンマクロモノマーである。構成単位(b)を構成する(メタ)アクリレート系モノマーは、水酸基、カルボキシ基、イソシアネート基、ブロック化イソシアート基、及びグリシジル基からなる群より選択される少なくとも一種の架橋性官能基を有する。以下、本発明の架橋構造体の詳細について説明する。
【0016】
(ポリシロキサングラフトポリマー)
[構成単位(a)]
ポリシロキサングラフトポリマーは、その片末端に(メタ)アクリロイル基を有するポリジメチルシロキサン(以下、単に「ポリジメチルシロキサン」とも記す)に由来する構成単位(a)を有する。このポリジメチルシロキサンは、重合性基である(メタ)アクリロイル基をその片末端に有する、いわゆるシリコーンマクロモノマーである。(メタ)アクリロイル基とポリジメチルシロキサンとの連結部や、(メタ)アクリロイル基以外の末端は、任意の有機基であってよく、炭化水素であることが好ましい。シリコーンマクロモノマーは、高分子量のマクロモノマーであり、重合反応性が乏しく、重合中にゲル化しにくいことから、その両末端や側鎖の一部に(メタ)アクリロイル基が結合していてもよく、2以上の(メタ)アクリロイル基を有していてもよい。
【0017】
シリコーンマクロモノマー(ポリジメチルシロキサン)としては、(メタ)アクリロイルオキシプロピルポリジメチルシロキサンメチル、(メタ)アクリロイルオキシプロピルポリジメチルシロキサンブチル等を挙げることができる。これらのシリコーンマクロモノマーとしては、信越化学工業社、東亞合成社、JNC社等から販売されている市販品を用いてもよいし、アニオン重合により調製したものを用いてもよい。
【0018】
シリコーンマクロモノマーの分子量は1,000~20,000であり、好ましくは2,000~15,000、さらに好ましくは2,200~13,000である。シリコーンマクロモノマー(ポリジメチルシロキサン)の分子量は、核磁気共鳴装置(NMR)で測定した末端の(メタ)クリロイル基1モル当たりのジメチルシロキサンのプロトン数から換算して得られる値である。シリコーンマクロモノマーの分子量が1,000未満であると、低摩擦性が不十分になるとともに、オイル(潤滑油)で膨潤させようとする場合に、膨潤性が不足することがあるする。一方、シリコーンマクロモノマーの分子量が20,000超であると、反応性が低下して重合しない成分が残存する、又は粘度が高くなりすぎてゲル化することがある。
【0019】
ポリジメチルシロキサンは、相互に分子量が異なる第1のポリジメチルシロキサン及び第2のポリジメチルシロキサンを含むことが好ましい。第1のポリジメチルシロキサンの分子量は、1,000~5,000である。また、第2のポリジメチルシロキサンの分子量は、5,000~20,000である。そして、ポリシロキサングラフトポリマー中の構成単位(a)が、第1のポリジメチルシロキサンに由来する構成単位(a-1)と、第2のポリジメチルシロキサンに由来する構成単位(a-2)と、を含むことが好ましい。第2のポリジメチルシロキサンは相対的に高分子量であるため、構成単位(a)の全部を第2のポリジメチルシロキサンで構成しようとすると、反応しきれなかった第2のポリジメチルシロキサンが残存することがある。一方、第1のポリジメチルシロキサンは相対的に低分子量であるため、構成単位(a)の全部を第1のポリジメチルシロキサンで構成しようとすると、得られる架橋構造体の摩擦性が十分に低下しなくなることがある。そこで、構成単位(a)に、構成単位(a-1)と、構成単位(a-2)とを共存させることで、より高分子量のシリコーンマクロモノマーをポリシロキサングラフトポリマー中に無理なく導入することができる。さらに、反応しきれなかったモノマーが残存しにくく、ポリシロキサングラフトポリマーをより高い重合率で得ることができる。なお、構成単位(a)中の構成単位(a-2)含有割合は、10~50質量%であることが好ましく、20~40質量%であることがさらに好ましい。
【0020】
[構成単位(b)]
ポリシロキサングラフトポリマーは、架橋性官能基を有する(メタ)アクリレート系モノマー(以下、単に「(メタ)アクリレート系モノマー」とも記す)に由来する構成単位(b)を有する。架橋性官能基は、水酸基、カルボキシ基、イソシアネート基、ブロック化イソシアート基、及びグリシジル基からなる群より選択される少なくとも一種である。この架橋性官能基が架橋剤と反応することで、三次元網目構造を有する架橋構造体が形成される。
【0021】
水酸基を有する(メタ)アクリレート系モノマーとしては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリ(n=2以上)アルキレン(C2~C4)グリコールモノ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイロオキシ1-クロロ-2-ヒドロキシプロパン、メタアクリロイルオキシ1,2-ジヒドロキシプロパン等を挙げることができる。
【0022】
カルボキシ基を有する(メタ)アクリレート系モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸、(メタ)アクリロイルオキシエチルマレイン酸、(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸等を挙げることができる
【0023】
イソシアネート基を有する(メタ)アクリレート系モノマーとしては、(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、(メタ)アクリロイルオキシエトキシエチルイソシアネート、1,5-(ビス(メタ)アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート等を挙げることができる。
【0024】
ブロック化イソシアネート基を有する(メタ)アクリレート系モノマーとしては、2-[(3,5-ジメチルピラゾリル)カルボキシアミノ]エチル(メタ)アクリレート、2-([1’-メチルプロピリデンアミノ]カルボキシアミノ)エチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0025】
グリシジル基を有する(メタ)アクリレート系モノマーとしては、グリシジル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、2-[2-(2-オキシラニルメトキシ)エトキシ]エチルメタクリレート等を挙げることができる。
【0026】
[構成単位(c)]
ポリシロキサングラフトポリマーは、構成単位(a)及び構成単位(b)のみで実質的に構成されていてもよく、構成単位(a)及び構成単位(b)以外のその他の構成単位(構成単位(c))をさらに有していてもよい。構成単位(c)は、ポリジメチルシロキサン及び(メタ)アクリレート系モノマーと共重合しうるラジカル重合性ビニル系モノマーに由来する構成単位である。
【0027】
このようなラジカル重合性モノマーとしては、スチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレン、ビニル安息香酸、及びビニル安息香酸の低級アルコールエステル、ビニルカルバゾール、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸の低級アルコールエステル等の芳香族又は複素環ビニルモノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、安息香酸ビニル等の脂肪族、脂環族、又は芳香族カルボン酸ビニルエステルモノマー;メチル、エチル、プロピル、ブチル、アミル、ヘキシル、2-エチルヘキシル、オクチル、ノニル、ドデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、イソステアリル、ベヘニル、シクロヘキシル、トリメチルシクロヘキシル、t-ブチルシクロヘキシル、ジシクロペンタニル、ジシクロペンテニル、イソボルニル、ベンジル、メトキシエチル、ブトキシエチル、フェノキシエチル、ノニルフェノキシエチル、ジシクロペンテニロキシエチル、ジメチルアミノエチル、ジエチルアミノエチル等の置換基を有する単官能(メタ)アクタクリレート;(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、N-メチロール(メタ)アクリルアミド等のアミド系モノマー;(メタ)アクリロニトリル;N-ビニルピロリドン;無水マレイン酸、マレイン酸、及びマレイン酸の低級アルコールエステル、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、無水イタコン酸、イタコン酸、及びイタコン酸の低級アルコールエステルなどの二塩基酸ビニル系モノマー等を挙げることができる。
【0028】
ポリシロキサングラフトポリマー中の構成単位(a)、構成単位(b)、及び構成単位(c)の質量比は、(a):(b):(c)=50~90:5~50:0~45である。ポリシロキサングラフトポリマー中の構成単位(b)の含有量が5質量%未満であると、架橋性官能基の濃度が低すぎるため、架橋密度が低下してしまい、得られる架橋構造体の強度が不足する。一方、ポリシロキサングラフトポリマー中の構成単位(b)の含有量が50質量%超であると、架橋密度が高くなりすぎてしまい、得られる架橋構造体にオイル(潤滑油)を添加しても膨潤度が低いか、膨潤しなくなる場合がある。ポリシロキサングラフトポリマー中の構成単位(b)の含有量は、ポリシロキサングラフトポリマー全体を基準として、7~30質量%であることが好ましく、10~20質量%であることがさらに好ましい。
【0029】
[ポリシロキサングラフトポリマー]
ポリシロキサングラフトポリマーの数平均分子量は10,000~100,000であり、好ましくは20,000~50,000である。ポリシロキサングラフトポリマーの数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算の値である。ポリシロキサングラフトポリマーの数平均分子量が10,000未満であると、架橋構造体の機械的強度が不足する。一方、ポリシロキサングラフトポリマーの数平均分子量が100,000超であると、このポリシロキサングラフトポリマーの溶液(コーティング液)の粘度が高くなりすぎて塗布性が低下する。なお、コーティング液の粘度を下げようとすると固形分量が不足してしまい、十分な厚さの膜(ポリマー層)を形成することが困難になる。
【0030】
ポリシロキサングラフトポリマーの分子量分布(PDI=重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は、1.5以下であることが好ましく、1.3以下であることがさらに好ましい。すなわち、ポリシロキサングラフトポリマーの分子量は、バラツキが少なく、より均一であることが好ましい。分子量がより均一なポリシロキサングラフトポリマーを用いることで、形成される架橋構造体の三次元網目構造が均一になりやすく、膨潤度を高めることができる。
【0031】
ポリシロキサングラフトポリマーは、ポリシロキサンがグラフトしていれば、通常のランダムコポリマーであってもよい。また、シリコーンマクロモノマーが一方のポリマーブロックに集約されているとともに、(メタ)アクリレート系モノマー及びラジカル重合性ビニルモノマーが他方のポリマーブロックに集約されたブロックコポリマーであってもよく;シリコーンマクロモノマーが徐々に増加するグラジエント構造を有するポリマーであってもよい。なかでも、シリコーンマクロモノマーが一方のポリマーブロックに集約されているとともに、(メタ)アクリレート系モノマー及びラジカル重合性ビニルモノマーが他方のポリマーブロックに集約されたブロックコポリマーが好ましい。
【0032】
(架橋剤)
本発明の架橋構造体は、上記のポリシロキサングラフトポリマーと、特定の架橋剤との架橋物である。具体的には、ポリシロキサングラフトポリマー中の架橋性官能基と架橋剤が多分子間で架橋反応して三次元網目構造を形成し、架橋構造体が形成される。架橋剤は、イソシアネート系架橋剤、ポリグリシジル系架橋剤、ポリカルボン酸系化合物、ポリオール、及びポリアミンからなる群より選択される少なくとも一種である。
【0033】
イソシアネート系架橋剤としては、分子内に2以上のイソシアネート基、好ましくは3以上のイソシアネート基を有する化合物を用いる。2つのイソシアネート基を有する化合物としては、トルエンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソプロピリデンビスシクロヘキシルイソシアネート、ジフェニルエーテルジイソシアネート等を挙げることができる。3つのイソシアネート基を有する化合物としは、リジントリイソシアネート、トリス(イソシアナトフェニル)メタン、トリス(イソシアナトフェニル)チオホスフェート等を挙げることができる。4以上のイソシアネート基を有する多官能イソシアネートとしては、上記の化合物のビウレット体、ウレトジオン体、イソシアヌレート体、及びアダクト体等を挙げることができる。
【0034】
また、上記の多官能イソシアネートと、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールフェノール、ベンジルアルコール、メチルアミン、エチルアミン、ジブチルアミン、イプシロンカプロラクトン等の活性水素化合物とを反応させた、イソシアネート基がブロックされたブロックイソシアネート化合物等を用いることもできる。
【0035】
ポリグリシジル系架橋剤は、分子内に2以上のグリシジル基、好ましくは3以上のグリシジル基を有する化合物である。2つのグリシジル基を有する化合物としては、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ビフェノールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAとエピクロロヒドリンの縮合生成物、ビスフェノールFとエピクロロヒドリンの縮合生成物、ビスフェノールSとエピクロロヒドリンの縮合生成物、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジグリシジル、フタル酸ジグリシジル、ポリジメチルシロキサンジプロピルジグリシジルエーテル等を挙げることができる。
【0036】
3以上のグリシジル基を有する化合物としては、グリセリントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、ポリ(n>2)グリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、フェノールノボラックポリグリシジルエーテル、クレゾールノボラックポリグリシジルエーテル、イソシアヌル酸トリグリシジル、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油、ポリジメチルシロキサンアルキルポリグリシジルエーテル、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシリレンジアミン等を挙げることができる。
【0037】
ポリカルボン酸系化合物は、分子内に2以上のカルボン酸基(カルボキシ基)を有する化合物である。ポリカルボン酸系化合物としては、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸、ヘプタデカン二酸、オクタデカン二酸、メチルコハク酸、オクチルコハク酸、ドデシルコハク酸、オクタデシルコハク酸、メチルグルタル酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、シクロヘキサンジメチルジカルボン酸、1,2,3,6-ヘキサヒドロフタル酸、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ブテントリカルボン酸、シクロヘキサントリカルボン酸、3-ブテン-1,2,3-トリカルボン酸、シクロヘキサントリカルボン酸、ペンタントリカルボン酸、トリス(2-カルボキシエチル)-1,3,5-トリアジン、トリス(3-カルボキシプロピル)-1,3,5-トリアジン、イソシアヌル酸トリス(2-カルボキシエチル)、イソシアヌル酸トリス(3-カルボキシプロピル)、トリメリット酸、ヘミメリット酸、ベンゼン-1,3,5-トリカルボン酸、ブタンテトラカルボン酸、シクロヘキサンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンンテトラカルボン酸、ビフェニルテトラカルボン酸、ジフェニルスルホンテトラカルボン酸、オキシジフタル酸、ナフタレンテトラカルボン酸、フルオレン-9,9-ビスフタル酸、シクロヘキサンヘキサカルボン酸等を挙げることができる。これらのポリカルボン酸系化合物のカルボキシ基は、ビニルエーテル、ベンジルアルコール、t-ブチルアルコールなどでブロックされていてもよい。また、ポリカルボン酸系化合物は、酸無水物であってもよい。
【0038】
ポリオールは、分子内に2以上の水酸基を有する化合物である。ポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサメチレンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、キシリレングリコール、ポリ(n≧2)エチレングリコール、ポリ(n≧2)プロピレングリコール、ポリ(n≧2)エチレンプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリジメチルシロキサンプロピルジオール、ポリヘキサメチレンカーボネート等のジオール化合物;の他、グリセリン、ポリグリセリン、ジメチロールプロパン、ジメチロールブタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール、これらのEO又はPO付加物、ジカルボン酸とジオール化合物のエステル化物、ジオールを開始基とした環状エステルの開環重合物であるポリエステル、ジイソシアネートとジオールを反応させて得られる両末端水酸基ポリウレタン、水酸基を有するビニル系モノマーを共重合成分として有するポリビニルポリオール、ビスフェノールAとジアミンの反応生成物等を挙げることができる。
【0039】
ポリアミンは、分子内に2以上のアミノ基を有する化合物である。ポリアミンとしては、ヒドラジン、エチレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、1,4-ブタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、4,4’-ジフェニルメタンジアミン、1,3-または1,4-キシリレンジアミン、イソホロンジアミン)、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-シクロヘキサンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリエチレンジアミン等を挙げることができる。
【0040】
架橋剤は、ポリシロキサングラフトポリマー中の架橋性官能基の種類に応じて適宜選択して用いることができる。例えば、架橋性官能基が水酸基である場合には、イソシアネート系架橋剤、ポリカルボン酸化合物を用いることが好ましい。架橋性官能基がカルボキシ基である場合には、イソシアネート系架橋剤、ポリオール、ポリグリシジル系架橋剤を用いることが好ましい。架橋性官能基がイソシアネート又はブロックイソシアネート基である場合には、ポリグリシジル系架橋剤、ポリカルボン酸系化合物、ポリオール、ポリアミンを用いることが好ましい。また、架橋性官能基がグリシジル基である場合には、イソシアネート系架橋剤、ポリカルボン酸系化合物、ポリアミンを用いることが好ましい。
【0041】
ポリシロキサングラフトポリマー中の架橋性官能基のモル数MPと、ポリシロキサングラフトポリマーを架橋させるために用いる架橋剤中の反応性基のモル数MCとが、MP≧MCの関係を満たすことが好ましい。上記の関係を満たすように、ポリシロキサングラフトポリマーと架橋剤を反応させることで、架橋性能をより高めることができる。なお、ポリシロキサングラフトポリマー中の架橋性官能基のすべてが反応して消費される必要はなく、架橋構造体が形成される量の架橋性官能基が反応すればよい。
【0042】
(オイル)
架橋構造体は、炭化水素系潤滑油、ポリエステルポリオール系潤滑油、ポリオレフィン系潤滑油、シリコーン系潤滑油、及びハロゲン化アルキル系潤滑油からなる群より選択される少なくとも一種のオイル(潤滑油)で膨潤したゲル膨潤体であることが好ましい。オイルで膨潤したゲル膨潤体とすることで、低摩擦性等の特性がより向上した表面処理膜とすることかできる。なお、ゲル膨潤体は、膨潤前に比して1.5倍以上に線膨張していることが好ましい。
【0043】
オイル(潤滑油)は、鉱物系潤滑油基油であっても、合成系潤滑油基油であってもよい。炭化水素系潤滑油としては、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジ(n-オクチル)シクロペンタン、ジ(n-デシル)シクロペンタン、ジ(n-ドデシル)シクロペンタン、トリス-(n-オクチル)シクロペンタン、トリス(n-デシル)シクロペンタン、トリス(n-ドデシル)シクロペンタン、トリス(2-オクチルドデシル)シクロペンタン等を挙げることができる。
【0044】
ポリエステルポリオール系潤滑油としては、ブチルステアレート、オクチルラウレート、ジトリデシルグルタレート、ジ-2-エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ-2-エチルヘキシルセバケート、トリメリット酸トリオクチルエステル、トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパントリヘキサノエート、トリメチロールプロパントリラウレート、トリメチロールプロパントリオレエート、トリメチロールプロパントリイソステアレート、ペンタエリスリトール-2-エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールテトラオレエート、トリクレジルホスフェート等を挙げることができる。
【0045】
ポリオレフィン系潤滑油としては、エチレン-プロピレン共重合体、ポリブテン、1-オクテンオリゴマー、1-デセンオリゴマー、これらの水添物等を挙げることができる。シリコーン系潤滑油としては、ジメチルシロキサン、フェニルメチルシロキサン、環状ジメチルシリコーンオイル等を挙げることができる。ハロゲン化アルキル系潤滑油としては、クロロフルオロカーボン、ハイドロクロロフルオロカーボン等のノンフロンタイプの冷媒等を挙げることができる。
【0046】
架橋構造体をオイルで膨潤させればゲル膨潤体(ゲル膨潤膜)とすることができる。
架橋構造体を膨潤させる方法としては、例えば、基材の表面等に配設した架橋構造体を潤滑油に浸漬し、必要に応じて加温する方法;架橋構造体をその表面に配設した基材を用いて成形体や装置等を組み立てた後、架橋構造体(基材の表面)にオイルを注入する方法;などがある。また、ポリシロキサングラフトポリマーと架橋剤を予めオイルに溶解させて得た溶液を基材表面等に塗布した後、加熱して架橋させることで、オイルで膨潤した状態の架橋構造体(ゲル膨潤体)を形成することができる。なお、余剰のオイルは、スピンコーターで振り切る、又は遠心処理して除去することができる。
【0047】
ゲル膨潤体は、膨潤前に比して1.5倍以上に線膨張していることが好ましく、2.0倍以上に線膨張していることがさらに好ましい。架橋構造体がオイルで膨潤したゲル膨潤体は、グラフトしているによって低摩擦性を示す。これば、膨潤することでジメチルシロキサン鎖が自由運動しうるフリーのポリマー鎖になるためであると考えられる。さらに、表面にオイルを供給することができるとともに、オイルを吸収することもできるので、オイルの液貯めとしての機能を有する。線膨張が1.5倍未満であると、膨潤が不十分である場合があり、低摩擦性等の特性がやや不足することがある。
【0048】
<架橋構造体の製造方法>
本発明の架橋構造体は、例えば、以下に示す方法に従って製造することができる。すなわち、本発明の架橋構造体の製造方法は、ポリジメチルシロキサン、(メタ)アクリレート系モノマー、及びラジカル重合性ビニル系モノマーを含むモノマー成分を重合してポリシロキサングラフトポリマーを得る重合工程と、得られたポリシロキサングラフトポリマーを架橋剤で架橋する架橋工程と、を有する。
【0049】
(重合工程)
重合工程では、ポリジメチルシロキサン、(メタ)アクリレート系モノマー、及びラジカル重合性ビニル系モノマーを含むモノマー成分を、例えば、ラジカル重合やリビングラジカル重合によって重合する。ラジカル重合は、例えば、有機溶媒中、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系化合物や過酸化ベンゾイル等の過酸化物をラジカル発生剤として使用し、必要に応じてチオール化合物やハロゲン化物等を連鎖移動剤として使用し、加熱して実施することができる。リビングラジカル重合としては、(i)ハロゲン化有機化合物を開始基化合物とし、銅やルテニウム等の金属錯体を使用する、金属錯体の酸化還元を利用した原子移動ラジカル重合法;(ii)ニトロキサイド化合物を用いる熱リビングラジカル重合法;(iii)ジチオエステル、ジチオカーバメート、ザンテート等を用いる可逆的付加解裂型連鎖移動重合;(iv)有機テルルを使用する方法;(v)ヨウ素化合物を開始剤とするヨウ素移動重合;(vi)ハロゲン化有機化合物を開始剤とし、ヨウ素ラジカルを引き抜き可能な有機化合物を触媒とする可逆的移動触媒重合や可逆的触媒媒介重合;等を挙げることができる。また、シリコーンマクロモノマーの急激な重合によるゲル化を防止すべく、連鎖移動剤を加えたラジカル重合方法やリビングラジカル重合方法によっても、ポリシロキサングラフトポリマーを得ることができる。
【0050】
なかでも、ヨウ素原子を有する有機化合物を重合開始剤とするリビングラジカル重合方法によりモノマー成分を重合してポリシロキサングラフトポリマーを得ることが好ましい。このリビングラジカル重合方法は、例えば、特許第4543178号公報、特許第5850599号公報、特許第5697026号公報、特許第5881292号公報、特許第5610402号公報、特許第5995848号公報等に詳細に記載されている。
このリビングラジカル重合方法では、ヨウ素原子を有する有機化合物(ヨウ素化合物)重合開始剤として用いることで、分子量がより均一で、分子量分布がより狭い(例えば、PDI≦1.5)ポリシロキサングラフトポリマーを得ることができるために好ましい。さらに、特殊な材料を必要とせず、市販の安価な材料を用いることでポリシロキサングラフトポリマーを得ることができるので、コスト的に優位であるとともに環境にも優しい。
【0051】
重合用の有機溶媒としては、ポリシロキサングラフトポリマー中の架橋性官能基と容易に反応しない有機溶媒を用いることが好ましい。例えば、得られるポリシロキサングラフトポリマーがイソシアネート基を有する場合には、水酸基を含む有機溶媒を用いることは好ましくない。重合用の有機溶媒としては、ヘキサン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ドデカノール等のアルコール系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、イソブチルメチルケトン等のケトン系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミル、コハク酸ジメチル、アジピン酸ジメチル、乳酸メチル、乳酸ジメチル等のエステル系溶媒;ジプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒;ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ピロリドン、N-メチルピロリドン、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド等のアミド系溶媒;テトラメチルウレア、ジメチルイミダゾリジノン等のウレア系溶媒;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド溶媒;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールモノエーテル系溶媒;エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等のグリコールジエーテル系溶媒;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のグリコールエーテルモノエーテルエステル系溶媒;ポリジメチルシロキサン、ポリフェニルメチルシロキサン等のシリコーン系溶媒;塩化メチレン、テトラフロロエタン、ポリフロロアルカン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;等を挙げることができる。なかでも、シロキサンマクロモノマーを溶解しうる低~中極性の溶媒を用いることが好ましく、炭化水素系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、グリコールエステル系溶媒、シリコーン系溶媒がさらに好ましい。
【0052】
(架橋工程)
架橋工程では、重合工程で得られたポリシロキサングラフトポリマーに架橋剤を反応させて架橋する。これにより、目的とする架橋構造体を得ることができる。ポリシロキサングラフトポリマーと架橋剤を適当な有機溶媒に溶解させることで、1液型のコーティング液を調製することができる。また、ポリシロキサングラフトポリマーを有機溶媒に溶解させた第1液と、架橋剤を有機溶媒に溶解させた第2液とで構成される2液型のコーティング液を調製してもよい。いずれの場合であっても、コーティング液を適当な基材の表面に塗布し、必要に応じて加熱し、溶媒を揮発させるとともにポリシロキサングラフトポリマーと架橋剤を架橋反応させれば、架橋構造体を形成することができる。
【0053】
架橋反応時の温度(加熱温度)は、ポリシロキサングラフトポリマー中の架橋性官能基と、架橋剤中の反応性基との反応性、ブロック化してある架橋性官能基の脱保護のしやすさ等を考慮して適宜設定される。具体的には、100℃以上に加熱すれば架橋反応を実質的に進行させることができるために好ましい。コーティング液中のポリシロキサングラフトポリマー及び架橋剤の濃度は、コーティング液の塗布性や、形成しようとする架橋構造体(膜状構造体)の厚さ等を考慮して適宜設定すればよい。
【0054】
コーティング液には、塗布性を向上させるための添加剤や、架橋反応を促進させる触媒等を添加することができる。さらに、コーティング液には、従来公知の添加剤を添加してもよい。添加剤としては、例えば、濡れ剤、たれ防止剤、レベリング剤、チクソトロピック付与剤、消泡剤、粘度調整剤、乾燥防止剤、硬化触媒、光酸発生剤、光塩基発生剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、界面活性剤、染料、顔料、他のポリマー成分等を挙げることができる。また、シリカ、炭素繊維、セルロース繊維、セルロースナノファイバー、セルロースナノウィスカー等の架橋構造体の強度を向上させるためのフィラー等を添加することもできる。
【0055】
<表面処理基材>
上述の架橋構造体を基材の表面に配置することで、本発明の表面処理基材とすることができる。すなわち、本発明の表面処理基材は、基材と、この基材の少なくとも一部の表面上に配置されたポリマー層とを備えるものであり、このポリマー層が前述の架橋構造体である。
【0056】
基材については、その材質、形状、大きさ等に特に制限はなく、従来公知の基材を用いることができる。基材の材質の具体例としては、金属、プラスチック、木材、鉱物、有機物等を挙げることができる。基材の形状の具体例としては、微粒子、粒子、塊、フィルム、各種成形物、繊維、シート等を挙げることができる。
【0057】
架橋構造体であるポリマー層を基材の表面に配置するには、前述の通り、ポリシロキサングラフトポリマー及び架橋剤を含有するコーティング液を基材に塗布した後、常法にしたがってポリシロキサングラフトポリマーを架橋させて架橋構造体(ポリマー層)を形成すればよい。コーティング液を基材に塗布する方法としては、スピンコート、ディップコート、インクジェット、エッジキャスト、スプレーコート、フローコート、ロールコーティング、ドクターブレードコート、バーコーティング、スリットコート、クラビアコート、スクリーン印刷等の方法がある。
【0058】
基材の表面上に配置されるポリマー層は、所定の厚さを有する架橋構造体の膜状成形物である。この膜状成形物(ポリマー層)の厚さは、適度な低摩擦性を発揮させる等の観点から、100nm以上であることが好ましく、200nm以上であることがさらに好ましく、500nm以上であることが特に好ましい。
【0059】
本発明の架橋構造体及びこれを用いた表面処理基材の表面(ポリマー層)は、グラフトしているポリシロキサンがすべり性を示すことから、低摩擦性に優れている。また、架橋構造を有するので、機械的強度に優れているとともに、耐擦過性等も良好である。さらには、軟質のゲル物質であることから、フレキシブルであるといった特性を有する。このため、本発明の架橋構造体及びこれを用いた表面処理基材を、例えば、機械部品、装置の可動部、装置の回転部、装置の駆動部等の摩擦によりエネルギーロスが生じやすい部分の構成部材とすることで、エネルギー損失を低減することができる。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0061】
<ポリシロキサングラフトポリマーの製造>
(合成例1)
撹拌装置、冷却管、窒素導入装置、及び温度計を備えたセパラブルフラスコに、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(DPGDM)300部、メタクリロイルオキシプロピルポリジメチルシロキサンブチル(シリコーンマクロモノマー(1)、分子量:4,600)100部、メタクリル酸(MAA)20部、2-エチルヘキシルメタクリレート(2EHMA)60部、及びビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシカーボネート(TCP)1部を仕込んだ。45℃で8時間重合して、ポリシロキサングラフトポリマーSG-1の溶液を得た。
【0062】
シリコーンマクロモノマー(1)の分子量は、NMRで測定した末端メタクリロイル基1モル当たりのジメチルシロキサンのプロトン数から換算して得た値である。得られたポリシロキサングラフトポリマーSG-1の数平均分子量(Mn)は88,000であり、分子量分布(PDI=重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は1.78であった。ポリシロキサングラフトポリマーのMn及びMwは、テトラヒドロフラン(THF)を展開溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)により測定したポリスチレン換算の値である。GPCの結果、シリコーンマクロモノマー(1)に由来するピークはなく、ほとんどのマクロモノマーがポリマーに組み込まれたことを確認した。ガスクロマトグラフ(GC)により、シリコーンマクロモノマー(1)以外のモノマー成分が残留していないことを確認した。サンプリングした溶液の一部をダクトのついた180℃の恒温層に30分間放置した後、恒量に達するまで加温して得た残分から求めた固形分は、40.1%であった。ポリシロキサングラフトポリマーSG-1の酸価は129.1mgKOH/gであり、メタクリル酸の導入量から算出した理論値とほぼ一致した。ポリシロキサングラフトポリマーの酸価は、サンプリングした溶液の一部をトルエン/エタノール混合溶剤(1/5(v/v))で希釈し、フェノールフタレインエタノールを指示薬とし、0.1N水酸化カリウムエタノール溶液で滴定して求めた。
【0063】
(合成例2~5)
表1に示す種類及び量のモノマー成分を用いたこと以外は、前述の合成例1と同様にして、ポリシロキサングラフトポリマーSG-2~5の溶液を得た。得られたポリシロキサングラフトポリマーSG-2~5の詳細を表1に示す。なお、表1中のモノマー成分の詳細を以下に示す。
・シリコーンマクロモノマー(2):メタクリロイルオキシプロピルポリジメチルシロキサンブチル、分子量:2,300
・シリコーンマクロモノマー(3):メタクリロイルオキシプロピルポリジメチルシロキサンブチル、分子量:12,000
・MOMA:2-メタクリロイルオキシエチルコハク酸
【0064】
【0065】
(合成例6~8)
表2に示す種類及び量のモノマー成分を用いたこと以外は、前述の合成例1と同様にして、ポリシロキサングラフトポリマーSG-6~8の溶液を得た。得られたポリシロキサングラフトポリマーSG-6~8の詳細を表2に示す。また、表2中のモノマー成分の詳細を以下に示す。水酸基価は、仕込み量から算出した理論値である。また、官能基当量は、ポリシロキサングラフトポリマー1gに含まれる架橋性官能基のモル数(mmol)であり、配合比から算出した。
・MOI-BM:2-[0-(1’-メチルプロピリデンアミノ)カルボキシアミノ]エチルメタクリラート(商品名「カレンズMOI-BM」、昭和電工社製)
・GMA:グリシジルメタクリレート
・HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート
・MMA:メチルメタクリレート
・BMA:ブチルメタクリレート
【0066】
【0067】
(合成例9~13)
表3に示す種類及び量のモノマー成分を用いたこと以外は、前述の合成例1と同様にして、ポリシロキサングラフトポリマーSG-9~13の溶液を得た。得られたポリシロキサングラフトポリマーSG-9~13の詳細を表3に示す。
【0068】
【0069】
(合成例14)
撹拌装置、冷却管、窒素導入装置、及び温度計を備えたセパラブルフラスコに、窒素を吹き込みながら、DPGDM418.2部、2-アイオド-2-シアノ-プロパン1.95部、アゾビスイソブチロニトリル2.46部、N-アイオドコハク酸イミド0.2部、シリコーンマクロモノマー(2)69.0部、シリコーンマクロモノマー(3)120部、HEMA26部、及び2EHMA59.4部を仕込んだ。75℃で8時間重合して、固形分37.1%であるポリシロキサングラフトポリマーSG-14の溶液を得た。得られたポリシロキサングラフトポリマーSG-14のMnは28,000であり、PDIは1.26であった。GPCの結果、シリコーンマクロモノマーに由来するピークはなく、ほとんどのマクロモノマーがポリマーに組み込まれたことを確認した。ポリシロキサングラフトポリマーSG-14の酸価は40.9mgKOH/gであった。
【0070】
(比較合成例1~4)
表4に示す種類及び量のモノマー成分を用いたこと以外は、前述の合成例1と同様にして、ポリシロキサングラフトポリマー比較SG-1~4の溶液を得た。得られたポリシロキサングラフトポリマー比較SG-1~4の詳細を表4に示す。表4中、「シリコーンマクロモノマー(4)」は、メタクリロイルオキシプロピルポリジメチルシロキサンブチル(分子量:900)である。
【0071】
【0072】
<コーティング液の製造>
(配合例1~18、比較配合例1~4)
製造したポリシロキサングラフトポリマーに、架橋性官能基の種類に応じた架橋剤を選択してそれぞれ配合し、コーティング液1~18及び比較コーティング液1~4を製造した。より具体的には、まず、ポリシロキサングラフトポリマー溶液に、表5及び6に示す官能基比(%)となるように表5及び6に示す種類の架橋剤を配合した。次いで、固形分20%となる量の追加溶剤(表5及び6)を添加して希釈し、各コーティング液を製造した。製造した各コーティング液の粘度を表5及び6に示す。「官能基比(%)」は、ポリマーの架橋性官能基1molに対する、架橋剤の官能基の反応モル比率(%)である。また、表5及び6中の各成分の詳細を以下に示す。
・PGMAc:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
・SBB:ヘキサメチルジイソシアネート系ブロック化ポリイソシアネート、商品名「デュラネートSBB-70P」、旭化成社製、PGMAc溶液、有効成分:70%、有効NCO:10.1%
・TETRAD:4官能エポキシ化合物、商品名「TETRAD-C」、三菱ガス化学社製、官能基当量:98.6g/1mol
・G3450:ポリカーボネートジオール、商品名「デュラノールG3450」、旭化成社製、平均分子量:800、水酸基価:140.2mgKOH/g
・162C:ポリジメチルシロキサン両末端カルボン酸、商品名「X-22-162C」、信越化学社製、官能基当量:2,300g/mol
・ジアミン:4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)
【0073】
【0074】
【0075】
<表面処理基板の製造>
(実施例1~18、比較例1~4)
2.5cm×7cmのシリコン基板を用意した。スピンコーターを使用し、3,000回転/1分間の条件で、用意したシリコン基板上に各コーティング液を塗布した。25℃(室温)で30分間放置した後、180℃で30分間ベイクして硬化(架橋)反応させて、シリコン基板の表面にポリマー層(架橋構造体)を形成した。分光エリプソメータを使用して形成されたポリマー層の厚さ(膨潤前)を測定した。表面にポリマー層を形成したシリコン基板をシリコーンオイル(ジメチルシリコーンオイル、商品名「50-J」、信越化学社製、動粘度:50cSt)に室温で1時間浸漬させてポリマー層を膨潤させた。その後、スピンコーターを使用してシリコーンオイルを振り切って、シリコン基板の表面にゲル膨潤体であるポリマー層が形成された表面処理基板(表面処理基板1~18、比較表面処理基板1~4)を得た。分光エリプソメータを使用して形成されたポリマー層(ゲル膨潤体)の厚さ測定するとともに、測定した膨潤前後のポリマー層の厚さから、ポリマー層の線膨張比(膨潤後/膨潤前)を算出した。結果を表7及び8に示す。
【0076】
【0077】
【0078】
実施例17と実施例18を比較すると、分子量分布が狭い(PDI値が小さい)ポリシロキサングラフトポリマーSG-14を含有するコーティング液18を用いて形成したポリマー層の線膨張比は、分子量分布が広い(PDI値が大きい)ポリシロキサングラフトポリマーSG-13を含有するコーティング液17を用いて形成したポリマー層の線膨張比よりも、大きい値であったことがわかる。これは、分子量がより均一なポリシロキサングラフトポリマーSG-14を用いたため、形成されたポリマー層の網目がより均一になったからであると推測される。
【0079】
<評価>
(摩擦試験)
得られた基板について、以下に示す条件にしたがって往復摺動摩擦試験を実施した。
・測定装置:表面試験機、商品名「HEIDON」、新東科学社製
・温度:25℃(室温)
・試験方法:ボールオンディスク
・ボール:SUS304製、径10mm
・使用オイル:ジメチルシリコーンオイル、商品名「50-J」、信越化学社製、動粘度50cSt
・スピード:200mm/min
・荷重:50gf
・往復運動幅:20mm
・往復回数:50往復、100往復
【0080】
表面処理基板1(膨潤前)、表面処理基板1~18(いずれも膨潤後)、比較表面処理基板1及び2、並びにシリコン基板をそれぞれ測定装置にセットした後、ポリマー層の表面(シリコン基板についてはシリコン基板の表面)にオイルを数滴滴下してから往復摺動摩擦試験を開始し、100往復後の摩擦係数を測定した。結果を表9に示す。また、100往復後の摩擦面を観察した観察結果及び評価を表9に示す
【0081】
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の架橋構造体は、例えば、自動車、医療機器、ロボット、航空・宇宙産業等に属する各種機器を構成する摺動部材の摺動面に設けられる材料として有用である。