(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】比較電極
(51)【国際特許分類】
G01N 27/30 20060101AFI20221011BHJP
【FI】
G01N27/30 311Z
(21)【出願番号】P 2019541001
(86)(22)【出願日】2018-09-06
(86)【国際出願番号】 JP2018033088
(87)【国際公開番号】W WO2019049945
(87)【国際公開日】2019-03-14
【審査請求日】2021-08-17
(31)【優先権主張番号】P 2017173319
(32)【優先日】2017-09-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
(73)【特許権者】
【識別番号】592187534
【氏名又は名称】株式会社 堀場アドバンスドテクノ
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【氏名又は名称】齊藤 真大
(72)【発明者】
【氏名】橋本 忠範
(72)【発明者】
【氏名】石原 篤
(72)【発明者】
【氏名】西尾 友志
(72)【発明者】
【氏名】室賀 樹興
(72)【発明者】
【氏名】伊東 裕一
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/093727(WO,A1)
【文献】特開2014-016335(JP,A)
【文献】特開平07-128282(JP,A)
【文献】特開昭54-021758(JP,A)
【文献】国際公開第2009/119319(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/035752(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26-27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料溶液に接する不感応部を備え、
前記不感応部が電子伝導性を有し、
かつイオンに対して不感応なものであり、
前記不感応部の前記試料溶液に接する面が、不感応ガラス又は液体を透過させない不感応セラミックスから形成されてお
り、
前記不感応部が物理的耐久性を有するものとするために、前記不感応ガラス又は前記不感応セラミックスが、遷移金属元素にZnおよびGaを加えた元素群のうち1種以上の元素の酸化物と、周期表第13族~16族に属する元素群のうちの1種以上の元素の酸化物とを主成分として含有するものであることを特徴とする比較電極。
【請求項2】
前記不感応部のイオンに対する感度が、30%以下であることを特徴とする請求項1記載の比較電極。
【請求項3】
請求項1記載の比較電極を具備したイオン濃度測定装置。
【請求項4】
電子伝導性を有し、
かつイオンに対して不感応である不感応部を備えた比較電極を製造する方法であって、
前記不感応部の試料溶液に接する面に不感応ガラス又は液体を透過させない不感応セラミックスを用い
、
前記不感応部が物理的耐久性を有するものとするために、前記不感応ガラス又は前記不感応セラミックスとして、遷移金属元素にZnおよびGaを加えた元素群のうち1種以上の元素の酸化物と、周期表第13族~16族に属する元素群のうちの1種以上の元素の酸化物とを主成分として含有するものを用いることを特徴とする比較電極の製造方法。
【請求項5】
試料溶液に接する不感応部を備え、
前記不感応部が電子伝導性を有し、
かつイオンに対して不感応なものであり、
前記不感応部の前記試料溶液に接する面が、前記不感応部が前記不感応ガラス又は前記不感応セラミックスから形成されており、
前記不感応部が物理的耐久性を有するものとするために、前記不感応部が前記不感応ガラス又は前記不感応セラミックスからなるものであることを特徴とする比較電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部液が試料溶液中に流出することがない比較電極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、pH測定に使用される比較電極であって、内部電極と、該内部電極に接するKCl溶液等の内部液とを備えた比較電極では、従来、液絡部から前記内部液を試料溶液中へ僅かに流出させることによって、前記内部液と前記試料溶液との電気的接続を得ている(特許文献1)。
このような従来の比較電極では、前記液絡部が汚れて詰まってしまうと前記内部液と前記試料溶液との電気的接続が遮断され、液間電位差が大きくなってしまう恐れがある。
液間電位差が大きくなると、前記比較電極の電位を基準電位として測定される作用電極の起電力を精度良く測定することができなくなってしまうという問題がある。
また、前記内部液が流出するので、前記内部液の補充が必要であるという問題や、前記内部液が前記試料溶液中に流出することによって前記試料溶液が汚染されてしまうという問題もある。
【0003】
そこで、例えば、特許文献2に示すように、内部液が試料溶液中に流出しない比較電極として、そもそも内部液を使用しない構成とした上で、イオン感応膜の表面を、対象イオンに対して不感応な自己組織化単分子膜(SAM膜)で被覆したものが考えられている。
しかしながら、このような比較電極では、SAM膜の物理的耐久性が低く、SAM膜に少しでも傷がついてしまうと、SAM膜に覆われていたイオン感応膜が試料溶液に露出して試料溶液と応答してしまい比較電極としての機能が失われてしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-258197号公報
【文献】WO2009/119319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、内部液が試料溶液中に流出することがなく、さらに物理的耐久性にも優れた比較電極を提供することを主な目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明に係る比較電極は、試料溶液に接する不感応部を備え、前記不感応部が、電子伝導性を有し、前記不感応部の前記試料溶液に接する面が、不感応ガラス又は液体を透過させない不感応セラミックスから形成されていることを特徴とするものである。
【0007】
このような比較電極によれば、前記不感応部の前記試料溶液に接する面が、不感応ガラス又は不感応セラミックスから形成されているので、例えば、前記不感応部として前述したSAM膜を使用する場合に比べて、物理的耐久性を向上させることができる。
また、前記不感応部が電子伝導性を有するので、前記不感応部と前記試料溶液との間で、電子伝導によって電気的接続が保たれる。
さらに、内部液を備えた比較電極の場合も、前記内部液と前記不感応部との間、及び前記不感応部と前記試料溶液との間で、それぞれ電子伝導によって電気的接続が保たれる。
そのため、内部液を試料溶液中へ流出させなくても、前記不感応部を介して前記内部液と前記試料溶液との間の電気的接続を保つことができる。
【0008】
具体的な実施態様としては、前記不感応ガラス又は不感応セラミックスが、金属元素又は半金属元素のうち2種以上の元素の酸化物を含有する組成物を主成分とするものを挙げることができる。
【0009】
前記不感応部のイオン濃度変化に対する感度が高過ぎる場合には、前記不感応部が応答ガラスと同様にイオン応答して起電力を発揮し、前記比較電極の電位が変動してしまう。
このような場合には、基準電位が変動してしまうので、作用電極の起電力を精度良く測定することができない。
そこで、前記不感応部のイオン濃度に対する感度は、作用電極の応答ガラスに比べて十分に低いことが求められる。
例えば、前記不感応部のイオンに対する感度が、30%以下であることが好ましい。さらに、15%以下であることがより好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る比較電極によれば、前記不感応部の前記試料溶液に接する面が、不感応ガラス又は不感応セラミックスから形成されているので、前記不感応部として前述したSAM膜を使用する場合に比べて、物理的耐久性を向上させることができる。
また、内部液を試料溶液中へ流出させる必要がないので、汚れによる試料溶液と比較電極との間の電気的接続の遮断がおこりにくい。
また、内部液が流出しないので、内部液を補充する手間を省くことができ、試料溶液が内部液で汚染されることもない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係るイオン濃度測定装置全体を示す模式図。
【
図3】本発明の他の実施形態に係るイオン濃度測定装置全体を示す模式図。
【
図4】本発明の実施例に係るガラスの組成と性質を表すグラフ。
【符号の説明】
【0012】
100・・・イオン濃度測定装置
1・・・比較電極
7・・・内部電極
8・・・内部液
11・・・不感応部
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の一実施形態について、図面を用いて説明する。
本実施形態に係る比較電極1は、例えば、
図1に示すように、試料溶液中の目的イオンの濃度を測定するイオン濃度測定装置100の本体部2に、作用電極であるイオン選択性電極3とともに接続されて用いられるものである。
【0014】
前記本体部2は、例えば、前記比較電極1及び前記イオン選択性電極3との間の電位差を検出する電位差検出部21と、該電位差検出部21から出力される電位差に基づいて、イオン濃度を算出する算出部22と、該算出部22により算出されたイオン濃度を表示する表示部23を備えたものである。
【0015】
前記比較電極1と前記イオン選択性電極3とは、どちらも、例えば、円筒状のガラス製の支持管4と、該支持管4の先端部に接合したガラス製の試料溶液接触部5とを備えたガラス電極である。
前記支持管4と前記試料溶液接触部5とによって形成された内部空間6には、内部電極7が収容してあり、かつ、内部液8が充填してある。前記内部電極7には、リード線24が接続してあり、リード線24は前記支持管4の基端部から外部に延出し、前記本体部2の前記電位差検出部21に接続されている。
前記比較電極1又は前記イオン選択性電極3が、試料溶液を電気的に接地する液アース極を備えていることが望ましい。
【0016】
前記試料溶液接触部5は、前記比較電極1又は前記イオン選択性電極3を試料溶液に浸したときに、前記内部空間6側の面で前記内部液8に接し、もう一方の面で試料溶液に接するように前記支持管4に取り付けられている。
【0017】
前記内部電極7としては、例えば、Ag/AgCl電極などが用いられ、前記内部液8としては、例えば、pH7.0に調整されたKCl溶液等が用いられる。
【0018】
前記イオン選択性電極3の試料溶液接触部5は、応答ガラス31であり、例えば、プロトン、塩化物イオン、フッ化物イオン、硝酸イオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、ナトリウムイオン、アンモニウムイオン、シアン化物イオン、硫化物イオン、ヨウ化物イオン、臭化物イオン、銅イオン、カドミウムイオン、鉛イオン、チオシアン酸イオン、銀イオンなどのイオン種に対して選択的に応答するものである。
【0019】
一方、
図2に示すように、前記比較電極1の試料溶液接触部5は、不感応部11である。
前記不感応部11は、この実施形態では、電子伝導性を有し、かつ、イオンに対して実質的に応答しない不感応ガラスであり、その成分として、混合原子価を有する多価金属酸化物を含有する不感応ガラスである。
ここで、イオンに対して実質的に応答しないとは、イオン濃度変化に対する感度が前記応答ガラス31に比べて十分に低いことを意味する。
また、本実施形態におけるガラスには、ガラス中にセラミックス等の結晶性の部分を含有するガラスセラミックスなどと呼ばれるものも含まれるものとする。
【0020】
前記不感応部11のイオン濃度変化に対する感度が高すぎる場合には、前記不感応部11が応答ガラス31と同様にイオン応答して起電力を発揮し、電位が変動してしまうため、作用電極3の応答ガラス31による起電力を精度良く測定することができない。
そのため、前記不感応部11は、測定対象となるイオンに応答しにくいことが必要である。
試料溶液には、Na+、K+、Cl-等のイオンが含まれることが多いので、これらのイオンに対して応答しにくいものであることが好ましい。
さらに言えば、F-、SO4
2-、SO3
2-、Ca2+、Mg2+、Fe2+、Mn2+、Cu2+、Zn2+、Al3+、CO3
2-、NO3
-等にも応答しにくいものであれば、より好ましい。
例えば、pH変化に対しての感度であれば、以下の式(1)で求められるpH4とpH9との間の感度が30%以下であればよく、15%以下であることが好ましい。
【0021】
なお、式(1)中のa及びbは、2種類の標準溶液を表す。また、式(1)中のEa及びEbは、比較電極1を基準として生じたそれぞれの測定液の起電力であり、Rは気体定数8.3145JK-1mol-1、Tは絶対温度(K)、Fはファラデー定数96485Cmol-1である。
【0022】
【0023】
前記不感応部11の比抵抗は、前記応答ガラス31と同じく、×1012Ωオーダー以下、より好ましくは×108Ωオーダー以下の範囲であれば、ノイズが生じにくい。
また、電位の変動を抑えるために、前記不感応部は、酸化物質や還元物質との間の電子の授受による反応を起こしにくいものであることが好ましい。
前記酸化物質としては、例えば、H2O2やKMnO4、K2Cr2O7等を挙げることができる。
前記不感応部11の性質としては、前述した以外に、電位の変動を生じる溶解や変質が生じにくい長期安定性も求められる。
【0024】
前記不感応ガラスとしては、金属元素又は半金属元素のうち2種以上の元素の酸化物を含有する組成物を主成分とするものを挙げることができる。
具体的には、例えば、周期表の13属~16属かつ第4周期~第6周期に含まれる元素群から選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物と、遷移金属元素にZn及びGaを加えた元素群から選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物とを含有する組成物を主成分とするガラスを挙げることができる。
13属~16属の第4周期~第6周期に含まれる元素としては、例えば、Bi、Sn、Pb、Sb、Te又はIn等を挙げることができる。
前記遷移金属元素としては、特に限定されないが、Fe、Cu又はMn等であれば、製造コストを低く抑えることができる、Feについては耐久性に優れている点でも有利である。
また、前述した成分以外にも、前記主成分として、ガラス化しやすさを向上させるガラス形成酸化物として、例えば、Ge、P、Si、B又はTeからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物を含有するものとしても良い。
前記不感応ガラスの主成分となる酸化物の組合せとしては、例えば、Fe2O3及びBi2O3、Fe2O3及びMoO3、MnO及びBi2O3、MnO2及びBi2O3、CuO及びBi2O3、ZnO及びBi2O3、Ga2O3及びBi2O3、若しくは、Fe2O3及びTeO2、又は、これら2成分の組合せのいずれか1つにGeO2若しくはFe2O3を加えたものなどを挙げることができるが、ここに挙げたものに限らず、いろいろな組合せが可能である。
【0025】
これら主成分は、ガラス骨格を形成してガラス化を促進する成分、又は、ホッピング伝導などによって前記不感応ガラスに電子伝導性を付与する成分である。
前記不感応ガラスは、これら主成分以外の成分を含んでいても良く、例えば、ガラス骨格の形成に寄与しない修飾成分や、ガラス骨格を不安定化する成分などの副成分をさらに含有しているものであっても良い。
前記主成分の添加割合としては、特に限定されないが、ガラス組成全体のうち、前記主成分が50%以上を占めるように配合されていればよい。
【0026】
各成分の添加量としては、ガラス化可能な範囲であれば良く、例えば、ガラス全体を100mol%とした場合に、Fe2O3については、0.01mol%以上40.0mol%以下、Bi2O3については、0.01mol%以上95.0mol%以下、MoO3については、0.01mol%以上70.0mol%以下、MnOについては、0.01mol%以上60.0mol%以下、MnO2については、0.01mol%以上60.0mol%以下、CuOについては、10.0mol%以上40.0mol%以下、ZnOについては、0.01mol%以上25.0mol%以下、Ga2O3については、0.01mol%以上50.0mol%以下、TeO2については、0.01mol%以上95.0mol%以下の範囲で、それぞれ適宜添加することが可能である。
【0027】
前記不感応ガラスのより具体的な例としては、例えば、ガラス全体を100mol%としたときに、20.0mol%のFe2O3と、80.0mol%のBi2O3とを成分組成とするガラス、20.0mol%のCuOと、50.0mol%のBi2O3と、30.0mol%のGeO2とを成分組成とするガラス、20.0mol%のMnO又はMnO2と、50.0mol%のBi2O3と、30.0mol%のGeO2とを成分組成とするガラス等を挙げることができる。
また、これらの成分組成に近いものであれば、同様にガラス化が可能であると考えられるので、前述した成分を相互に10mol%以内で置換した組成や、前述した成分に10mol%以内の他成分を添加した組成などであっても良い。鉄、銅、マンガン等の酸化物としては、前述したものに限らず、FeO、Fe3O4、Cu2O、Mn3O4、Mn2O3、MnO3、Mn2O7等を使用してもよい。
【0028】
前記不感応ガラスは、前述したような組成物を800℃~1200℃前後の高温で溶融し急冷加圧した後、200℃~500℃前後の温度でアニールすることにより製造される。
この不感応ガラスを前記支持管4に接合してガラス電極を製造する方法は、応答ガラス31を前記支持管4に接合してイオン選択性電極3を製造する方法と全く同じ方法である。
具体的に説明すると、前記不感応ガラス材料を、溶融状態にしておき、そこに支持管4の先端部を浸漬した後、所定速度で引き上げブロー形成により、前記不感応部11の先端部を略半球状をなす円筒形状に成形する。
【0029】
このように構成した比較電極1であれば、前記不感応部11が電子伝導性を有しているので、前記内部液8と前記不感応部11の間及び前記不感応部11と前記試料溶液との間で電子伝導により電気的接続が保たれる。
その結果、前記不感応部11を介して、前記内部液8と前記試料溶液との電気的接続が保たれる。
そのため、前記試料溶液に対して前記内部液8を僅かに流出させる必要がない。
前記内部液8が流出しないので、前記内部液8を補充する必要がなく、また、前記試料溶液が前記内部液8によって汚染されることもない。
【0030】
このような比較電極1は、広く様々な分野の測定に使用することができるが、試料溶液の厳密な管理が必要な半導体業界やめっき業界等、試料溶液の汚染が重大な問題となる可能性が高い食品業界等においては、前述した内部液8による汚染がないという効果が特に有効であると思われる。
【0031】
また、本実施形態に係る比較電極1であれば、イオン選択性電極3と全く同じ手順で比較電極1を製造することができる。
そのため、比較電極1を製造するための特別な設備や手順が不要であり、製造の手間やコストを削減することができる。
前記支持管4に形成された小さな貫通孔やすり合わせ構造等のような内部液を流出させる構造が不要であるので、汚れ等が詰まることがなく、比較電極1の洗浄も簡単である。
【0032】
本発明は、前記実施形態に限られるものではない。
前記不感応ガラスは、前述したものに限らず、組成の組合せによって絶縁体になってしまうものや、ガラス化しないもの、水等の溶媒にすぐに溶けてしまうようなものでなければ、様々な組成の組合せによって作製することができると考えられる。
例えば、比較電極を製造する方法としては、前述した方法の他に、あらかじめ目的の形状に成形した不感応部11を膨張係数の近い低融点フリットガラスを用いて支持管4に接合する方法や、不感応部11を接着剤などによって支持管4に接合する方法などがある。
前記実施形態では、比較電極1及びイオン選択性電極3を、それぞれ独立した同じ形状のガラス電極としたが、これらの形状が互いに異なってもよいし、比較電極とイオン選択性電極とを一体化した複合電極としてもよい。
また、前記実施形態では、比較電極1及びイオン選択性電極3の支持管4をガラス製のものとしていたが、ガラス製のものに限らず用途に応じて樹脂製のものなど他の素材のものであっても良い。
さらに、比較電極1及びイオン選択性電極3の形状は、円筒状のものに限らず、多角柱状のものや、異形柱状のものであってもよいし、微量の試料溶液を滴下して測定できるシート状のもの等であっても良い。
前記実施形態では、内部液としてKCl溶液を用いたが、目的に応じて内部液の組成は自由に変更しても良いし、内部液をゲル状のものとしても良い。
【0033】
さらに言うと、前記不感応部は、前記不感応ガラスからなるものに限られず、前記不感応部の試料溶液に接する面が、前記不感応ガラス又は液体を透過させない不感応セラミックスから形成されているものであればよい。
具体的には、前記不感応部が、液体を透過させない前記不感応セラミックスからなるものである場合や、金属からなる支持体の両面又は片面に、前記不感応ガラス又は液体を透過させない前記不感応セラミックスをコーティングしたもの、前記支持体の両面又は片面に、前記不感応ガラスを溶着した琺瑯のようなもの等を挙げることができる。
前記不感応セラミックスは、前記不感応ガラスと同様の組成成分からなるものである。
前記不感応セラミックスは、液体を透過しないものであればよく、例えば、空隙のない緻密体のものや、空隙が存在したとしても孔径が十分に小さい緻密なものや、多孔質であっても何らかの処理によって液体を透過しないように構成されているもの等であってもよい。
前記支持体に使用する金属は、内部液と反応しにくいものであればよく、例えば、SUS等の合金や、周期表4属~16属に含まれる金属元素、アルミニウム以上のイオン化傾向を持つ金属などを挙げることができる。
前記コーティングの手法としては、例えば、ゾルゲル-ディップコーティング法や、スピンコート法などを挙げることができる。
このように前記不感応部が、前記不感応ガラスだけでなく、前記支持体を含むものであれば、前記不感応ガラスだけからなる場合よりも、前記不感応部を割れにくいものにすることができる。
また、前記不感応部が前記支持体を含むものとすることで、前記不感応部の厚みを大きくしても、前記支持体が導体である金属からなるものであるので、電気抵抗を低く保つことができる。その結果、前記不感応部の強度をより向上させることができる。
また、このような場合、前記支持体そのものを内部電極の代わりに使用することで、内部液を使用せず、さらに構造を簡素化して比較電極をより小型化すること等も可能である。
前記不感応ガラスによるコーティング又は溶着は、前記支持体の試料溶液側の表面全体を覆うものであればよいが、前記支持体の両面を覆うようにすると、不斉電位をより抑えることができると考えられる。
本発明に係る比較電極では、従来の内部液を流出させる比較電極に比べて、電気抵抗が大きくなってしまう場合もあると考えられる。
そこで、
図3に示すように、イオン濃度測定装置100を、比較電極1とイオン選択性電極3の他に白金等を使用した擬似電極(対極)9を設けた3極式のイオン濃度測定装置としても良い。
このようなイオン濃度測定装置とすることで、比較電極の電気抵抗が高い場合であっても、擬似電極(対極)9の電位を測定することによって、測定値のノイズを相殺し、小さく抑えることができる。
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、種々の変形や実施形態の組合せを行ってもかまわない。
【実施例】
【0034】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限られるものではない。
本実施例では、以下の表1に示す組成のガラスサンプルを作製し、それぞれのガラスサンプルについてpH感度を評価した。
【0035】
【0036】
各サンプルについて、それぞれ前記表1に記載の組成となるように試薬を調整し、これらを900℃、950℃、1000℃又は1100℃で1時間溶融したものを、急冷加圧した後、200℃、300℃又は350℃で1時間アニールしてガラスを製造した。
【0037】
次に、これら各サンプルを応答ガラスとして用いてガラス電極を作製し、内部液を試料溶液へ流出させる従来の比較電極を用いて、pH4、pH7及びpH9の標準液の電位を連続して測定し、前述の式(1)を用いてpH4とpH9との間の感度をそれぞれ算出した。その結果を以下の表2に示す。
【0038】
【0039】
この表2の結果から、サンプルS1は、応答ガラスとしての使用に十分な感度を有していることが分かった。
その他のサンプルS2乃至S11は、サンプルS1に比べて十分に感度が低く、前記不感応ガラスとして使用できるものであることが分かった。
サンプルS2乃至S11が、実質的にイオン応答しない理由については今後のさらなる研究を待つ必要があるが、現時点では以下のような考察が可能である。
【0040】
サンプルS1が、95%と高い感度を示しているのに対して、サンプルS2、S3及びS4の感度が低下している。
この結果から、イオン応答する官能基を構成しやすいGeO2を主成分として含有する場合に比べて、Fe2O3とBi2O3のみを主成分とする場合には、ガラス表面にイオン応答する官能基が形成されなかったために、感度が低くなったことが考えられる。
【0041】
一方で、サンプルS5乃至S11のように、主成分にGeO
2を含む場合であっても、感度が低くなっているサンプルもあることから、ただ単にイオン応答する官能基を構成しやすい成分の添加量だけが要因ではないことも分かる。
前述したイオン応答する官能基を構成しやすい成分の添加量以外に、考えられる要因としては、例えば、主成分に含有される各成分の価数や、配位数(イオン半径)、伝導性などを挙げることができる。
また、例えば、前記ガラスの組成が、その表面部分近傍において変化したことが原因で本来イオン応答する官能基がイオン応答しない状態になっていること等も考えられる。
これら各サンプルの抵抗値は、いずれも比較電極用ガラスとして用いることができる範囲のものであったが、特にFe
2O
3とCuOとを両方含有するサンプルS8乃至S11では、
図4に示すように、CuOの添加量が増えるに従って、抵抗値が増加していることが分かった。
これは、CuOの添加量を増やすことによって、CuOよりもホッピング伝導を起こしやすいFe
2O
3の割合が減少していることに起因しているとも考えられる。
なお、
図4においては、横軸の値が0のときの組成がS1の組成の場合を示しており、横軸の値が大きくなる方向に順にS8、S9、S10、S11の場合を示しており、横軸の値が100のときの組成がS5の組成の場合を示している。
【0042】
今回の実施例で、各サンプルを応答ガラスとして感度を評価していることからも分かるように、従来は、サンプルS2乃至S11のようなイオン濃度に対する感度の低いガラスは、応答ガラスとして不適格であるという評価がされているのみであった。
これに対し、本発明は、本発明者が逆転の発想で、これらイオン応答しないガラス又はこれらガラスと同様の組成成分のセラミックスを比較電極の不感応部に用いることを思いついたことにより完成したものである。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明に係る比較電極によれば、前記不感応部の前記試料溶液に接する面が、不感応ガラス又は不感応セラミックスから形成されているので、前記不感応部として前述したSAM膜を使用する場合に比べて、物理的耐久性を向上させることができる。
また、内部液を試料溶液中へ流出させる必要がないので、汚れによる試料溶液と比較電極との間の電気的接続の遮断がおこりにくい。
また、内部液が流出しないので、内部液を補充する手間を省くことができ、試料溶液が内部液で汚染されることもない。