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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】液相ペプチド製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/02 20060101AFI20221011BHJP
   C07K 1/04 20060101ALI20221011BHJP
   C07K 1/06 20060101ALI20221011BHJP
   C07K 1/107 20060101ALI20221011BHJP
【FI】
C07K1/02
C07K1/04
C07K1/06
C07K1/107
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021111126
(22)【出願日】2021-07-02
【審査請求日】2021-11-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517349083
【氏名又は名称】ペプチスター株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390037327
【氏名又は名称】積水メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】根本 圭崇
【審査官】山▲崎▼ 真奈
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-067555(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111116731(CN,A)
【文献】国際公開第2019/198834(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/262590(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/078295(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/113939(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/104169(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/231760(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/198833(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
側鎖に官能基を有するアミノ酸又は側鎖に官能基を有するアミノ酸残基を含むペプチドの側鎖官能基に液相ペプチド合成用担体が導入された化合物を用い、当該液相ペプチド合成用担体が導入された化合物のC末端方向にペプチド伸長反応することを特徴とする液相ペプチド製造方法であって、
当該液相ペプチド合成用担体が、下記式(I):
【化1】
[式中、
環Aはヘテロ原子を含んでいてもよく、多環性でもよいC4~18の芳香環を示し;R11は、水素原子であるか、又は環Aがベンゼン環でRbが下記式(a)で表される基である場合には、R14と一緒になって単結合を示して、環A及び環Bと共にフルオレン環を形成するか、又は酸素原子を介して環A及び環Bと共にキサンテン環を形成してもよく;p個のXは、それぞれ独立して-O-、-S-、-C(=O)O-、-C(=O)NH-又は-NR17-(R17は水素原子、アルキル基又はアラルキル基を示す。)を示し;p個のR12は、それぞれ独立して酸素原子を介してシリル基又は脂肪族炭化水素基で置換されていてもよい脂肪族炭化水素基を有する有機基を示し;q個のR13は、それぞれ独立して水素原子であるか、又は酸素原子を介してシリル基若しくは脂肪族炭化水素基で置換されていてもよい脂肪族炭化水素基を有する有機基を示し;p、qは、それぞれ0~3の整数かつp+qが1以上4以下を示し;環Aは、p個のXR12に加えて、さらにハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-6アルキル基、及びハロゲン原子で置換されていてもよいC1-6アルコキシ基からなる群から選択される置換基を有していてもよく;
Raは、水素原子、又はハロゲン原子により置換されていてもよい芳香族環を示し;Rbは、水素原子、又は式(a):
【化2】
(式中、*は結合位置を示し;
r、sは、それぞれ0~3の整数かつr+sが4以下を示し;
r個のZは、それぞれ独立して-O-、-S-、-C(=O)O-、-C(=O)NH-又は-NR18-(R18は水素原子、アルキル基又はアラルキル基を示す。)を示し;
r個のR15は、独立して酸素原子を介してシリル基又は脂肪族炭化水素基で置換されていてもよい脂肪族炭化水素基を有する有機基を示し;
s個のR16は、それぞれ独立して酸素原子を介してシリル基又は脂肪族炭化水素基で置換されていてもよい脂肪族炭化水素基を有する有機基を示し;
14は、水素原子を示すか、R11と一緒になって単結合を示して、環A及び環Bと共にフルオレン環を形成するか,又は酸素原子を介して環A及び環Bと共にキサンテン環を形成してもよく;
環Bは、r個のZR15に加えて、さらにハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-6アルキル基、及びハロゲン原子で置換されていてもよいC1-6アルコキシ基からなる群から選択される置換基を有していてもよい。)で表される基を示し;
Yは、ヒドロキシ基、NHR19(R19は水素原子、アルキル基又はアラルキル基を示す。)又はハロゲン原子を示す。]
で表される化合物である液相ペプチド製造方法。
【請求項2】
アミノ酸又はペプチドの側鎖官能基のみに液相ペプチド合成用担体が導入された化合物を用いる請求項1に記載の液相ペプチド製造方法。
【請求項3】
アミノ酸又はペプチドの側鎖官能基及びN末端アミノ基の双方に液相ペプチド合成用担体が導入された化合物を用いる請求項1に記載の液相ペプチド製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項記載の方法で製造されるペプチドの未修飾官能基を修飾する工程を含む液相ペプチド製造方法。
【請求項5】
次の工程a~dを含むことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の液相ペプチド製造方法。
a.有機溶媒を含む溶媒中で、側鎖に官能基を有するアミノ酸若しくは側鎖に官能基を有するアミノ酸残基を含むペプチドの側鎖官能基に液相ペプチド合成用担体を導入する工程、
b.前記側鎖官能基に液相ペプチド合成用担体が導入されたアミノ酸又はペプチドのC末端側に、カルボキシル保護基でカルボキシル基が保護されたアミノ酸又はペプチドを縮合させる工程、
c.反応液中の前記カルボキシル保護基でカルボキシル基が保護された化合物のカルボキシル保護基を脱離する工程、
d.反応液に水、酸性水溶液、塩基性水溶液又は塩含有水溶液を添加した後、分液して、前記側鎖官能基に液相ペプチド合成用担体が導入されたアミノ酸又はペプチドと、前記カルボキシル保護基でカルボキシル基が保護されたアミノ酸又はペプチドとの縮合体であって当該カルボキシル保護基が脱離された化合物を含有する有機溶媒層を得る工程。
【請求項6】
次の工程a、b、b´、c及びdを含むことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の液相ペプチド製造方法。
a.有機溶媒を含む溶媒中で、側鎖に官能基を有するアミノ酸又は側鎖に官能基を有するアミノ酸残基を含むペプチドの側鎖官能基に液相ペプチド合成用担体を導入する工程、
b.前記側鎖官能基に液相ペプチド合成用担体が導入されたアミノ酸又はペプチドのC末端側に、カルボキシル保護基でカルボキシル基が保護されたアミノ酸又はペプチドを縮合させる工程、
b´.縮合反応後の反応液に、アミノ酸活性エステルスカベンジャーを添加する工程、
c.反応液中の前記カルボキシル保護基でカルボキシル基が保護された化合物のカルボキシル保護基を脱離する工程、
d.反応液に水、酸性水溶液、塩基性水溶液又は塩含有水溶液を添加した後、分液して、前記側鎖官能基に液相ペプチド合成用担体が導入されたアミノ酸又はペプチドと、前記カルボキシル保護基でカルボキシル基が保護されたアミノ酸又はペプチドとの縮合体であって当該カルボキシル保護基が脱離された化合物を含有する有機溶媒層を得る工程。
【請求項7】
前記工程b´における前記アミノ酸活性エステルスカベンジャーが、アミノ基含有化合物である請求項6記載の液相ペプチド製造方法。
【請求項8】
前記工程b´における前記アミノ酸活性エステルスカベンジャーが、2価以上の水溶性アミン、アルキルアミン、芳香族アミン、ヒドロキシルアミン、アミノスルホン酸類、アミノ硫酸類、アミノホスホン酸類、アミノリン酸類及びアミノアルコール類から選ばれるアミノ基含有化合物である請求項6又は7記載の液相ペプチド製造方法。
【請求項9】
前記工程(b)における前記カルボキシル保護基が、tBu基、メチル基、エチル基及びBz基から選ばれる保護基である請求項6~8のいずれか1項に記載の液相ペプチド製造方法。
【請求項10】
側鎖に官能基を有するアミノ酸が、システイン、セリン、スレオニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、グルタミン及びアスパラギンから選ばれるアミノ酸であり、側鎖に官能基を有するペプチドが、システイン残基、セリン残基、スレオニン残基、グルタミン酸残基、アスパラギン酸残基、グルタミン残基及びアスパラギン残基から選ばれるアミノ酸残基を有するペプチドである請求項1~9のいずれか1項に記載の液相ペプチド製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液相におけるペプチド製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ペプチドの製造技術には、固相ペプチド合成法と液相ペプチド合成法とがあるが、ペプチドのアミノ酸残基が長くなるにつれ、ペプチドの溶媒への溶解性が低下することから、固相法による製造が主流となっていた。
最近、保護アミノ酸や保護ペプチドの有機溶媒への溶解性を大きく向上させる、液相ペプチド合成用担体(Tag)が報告され、液相ペプチド合成法によるペプチドの大量合成が可能となってきた(特許文献1~14)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5113118号公報
【文献】特許第5929756号公報
【文献】特許第6092513号公報
【文献】特許第5768712号公報
【文献】特許第5803674号公報
【文献】特許第6116782号公報
【文献】特許第6201076号公報
【文献】特許第6283774号公報
【文献】特許第6283775号公報
【文献】特許第6322350号公報
【文献】特許第6393857号公報
【文献】特許第6531235号公報
【文献】国際公開第2020/175472号
【文献】国際公開第2020/175473号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、そのような液相ペプチド合成用担体(Tag)を使用するペプチド合成としては、ペプチドを構成するアミノ酸残基の側鎖官能基に液相合成用担体を導入したペプチド合成に関する報告はなく、N末端側とC末端側のそれぞれに対し自由に修飾を施そうとしても難しく、ペプチドを設計するうえで障害となっていた。一方、固相法においても同様な問題があり、C末端を固相から切り離した後に修飾を行う方法はあるが、切り離したペプチドにはTagがついていないため、溶解性が大きく損なわれており、その修飾には溶媒を大量に用いる必要があるなど、工業化においてコストが上昇する要因となっていた。
本発明の課題は、液相ペプチド合成用担体を用いる新たな液相ペプチド合成法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、ペプチドを構成するアミノ酸残基の側鎖官能基に液相合成用担体を導入したアミノ酸を原料として用いることにより、液相において、N末端方向、C末端方向のどちら側にも自由に修飾でき、ペプチドの伸長が可能になることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、次の発明[1]~[12]を提供するものである。
[1]側鎖に官能基を有するアミノ酸又は側鎖に官能基を有するアミノ酸残基を含むペプチドの側鎖官能基に液相ペプチド合成用担体が導入された化合物を用いることを特徴とするペプチドの製造方法。
[2]アミノ酸又はペプチドの側鎖官能基のみに液相ペプチド合成用担体が導入された化合物を用いる[1]に記載のペプチドの製造方法。
[3]アミノ酸又はペプチドの側鎖官能基及びN末端アミノ基又はC末端カルボキシル基の双方に液相ペプチド合成用担体が導入された化合物を用いる[1]に記載のペプチドの製造方法。
[4]上記[1]~[3]で製造されるペプチドの未修飾官能基を修飾する工程を含むペプチドの製造方法。
[5]次の工程a~dを含むことを特徴とする[1]~[4]のいずれかに記載の液相ペプチド製造方法。
a.有機溶媒を含む溶媒中で、側鎖に官能基を有するアミノ酸若しくは側鎖に官能基を有するアミノ酸残基を含むペプチドの側鎖官能基に液相ペプチド合成用担体を導入する工程、
b.前記側鎖官能基に液相ペプチド合成用担体が導入されたアミノ酸又はペプチドと、アミノ保護基でアミノ基が保護されたアミノ酸又はペプチドとを縮合させる工程、
c.反応液中の前記アミノ保護基でアミノ基が保護された化合物のアミノ保護基を脱離する工程、
d.反応液に水溶液を添加した後、分液して、前記側鎖官能基に液相ペプチド合成用担体が導入されたアミノ酸、ペプチド又はアミノ酸アミドと、前記アミノ保護基が導入されたアミノ酸又はペプチドとの縮合体を含有する有機溶媒層を得る工程。
[6]次の工程a、b、b´、c及びdを含むことを特徴とする[1]~[4]のいずれかに記載の液相ペプチド製造方法。
a.有機溶媒を含む溶媒中で、側鎖に官能基を有するアミノ酸又は側鎖に官能基を有するアミノ酸残基を含むペプチドの側鎖官能基に液相ペプチド合成用担体を導入する工程、
b.前記側鎖官能基に液相ペプチド合成用担体が導入されたアミノ酸又はペプチドと、アミノ保護基でアミノ基が保護されたアミノ酸又はペプチドとを縮合させる工程、
b´.縮合反応後の反応液に、アミノ酸活性エステルスカベンジャーを添加する工程、
c.反応液中の前記アミノ保護基でアミノ基が保護された化合物のアミノ保護基を脱離する工程、
d.反応液に水溶液を添加した後、分液して、前記側鎖官能基に液相ペプチド合成用担体が導入されたアミノ酸、ペプチド又はアミノ酸アミドと、前記アミノ保護基が導入されたアミノ酸又はペプチドとの縮合体を含有する有機溶媒層を得る工程。
[7]側鎖に官能基を有するアミノ酸が、システイン、セリン、スレオニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、グルタミン及びアスパラギンから選ばれるアミノ酸であり、側鎖に官能基を有するペプチドが、システイン残基、セリン残基、スレオニン残基、グルタミン酸残基、アスパラギン酸残基、グルタミン残基及びアスパラギン残基から選ばれるアミノ酸残基のうち少なくとも1つを有するペプチドである[1]~[6]のいずれかに記載の液相ペプチド製造方法。
[8]前記アミノ酸活性エステルスカベンジャーが、アミノ基含有化合物である[6]又は[7]記載の液相ペプチド製造方法。
[9]前記アミノ酸活性エステルスカベンジャーが、2価以上の水溶性アミン、アルキルアミン、芳香族アミン、ヒドロキシルアミン、アミノスルホン酸類、アミノ硫酸類、アミノホスホン酸類、アミノリン酸類及びアミノアルコール類から選ばれるアミノ基含有化合物である[6]~[8]のいずれかに記載の液相ペプチド製造方法。
[10]前記アミノ保護基が、Fmоc基、Bоc基、Cbz基及びAc基から選ばれる保護基である[1]~[9]のいずれかに記載の液相ペプチド製造方法。
[11]前記液相ペプチド合成用担体が、アミノ酸、ペプチド又はアミノ酸アミドに直接またはリンカーを介して結合して、それらを有機溶媒に溶解性で水に不溶性にする化合物である[1]~[10]のいずれかに記載の液相ペプチド製造方法。
[12]前記液相ペプチド合成用担体が、下記式(I):
【0007】
【化1】
【0008】
[式中、
環Aはヘテロ原子を含んでいてもよく、多環性でもよいC4~18の芳香環を示し;
11は、水素原子であるか、又は環Aがベンゼン環でRbが下記式(a)で表される基である場合には、R14と一緒になって単結合を示して、環A及び環Bと共にフルオレン環を形成するか、又は酸素原子を介して環A及び環Bと共にキサンテン環を形成してもよく;
p個のXは、それぞれ独立して-O-、-S-、-C(=O)O-、-C(=O)NH-又は-NR17-(R17は水素原子、アルキル基又はアラルキル基を示す。)を示し;
p個のR12は、それぞれ独立して酸素原子を介してシリル基又は脂肪族炭化水素基で置換されていてもよい脂肪族炭化水素基を有する有機基を示し;
q個のR13は、それぞれ独立して水素原子であるか、又は酸素原子を介してシリル基若しくは脂肪族炭化水素基で置換されていてもよい脂肪族炭化水素基を有する有機基を示し;
p、qは、それぞれ0~3の整数かつp+qが1以上4以下を示し;
環Aは、p個のXR12に加えて、さらにハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-6アルキル基、及びハロゲン原子で置換されていてもよいC1-6アルコキシ基からなる群から選択される置換基を有していてもよく;
Raは、水素原子、又はハロゲン原子により置換されていてもよい芳香族環を示し;
Rbは、水素原子、又は式(a):
【0009】
【化2】
【0010】
(式中、*は結合位置を示し;
r、sは、それぞれ0~3の整数かつr+sが4以下を示し;
r個のZは、それぞれ独立して-O-、-S-、-C(=O)O-、-C(=O)NH-又は-NR18-(R18は水素原子、アルキル基又はアラルキル基を示す。)を示し;
r個のR15は、独立して酸素原子を介してシリル基又は脂肪族炭化水素基で置換されていてもよい脂肪族炭化水素基を有する有機基を示し;
s個のR16は、それぞれ独立して酸素原子を介してシリル基又は脂肪族炭化水素基で置換されていてもよい脂肪族炭化水素基を有する有機基を示し;
14は、水素原子を示すか、R11と一緒になって単結合を示して、環A及び環Bと共にフルオレン環を形成するか,又は酸素原子を介して環A及び環Bと共にキサンテン環を形成してもよく;
環Bは、r個のZR15に加えて、さらにハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-6アルキル基、及びハロゲン原子で置換されていてもよいC1-6アルコキシ基からなる群から選択される置換基を有していてもよい。)で表される基を示し;
Yは、ヒドロキシ基、NHR19(R19は水素原子、アルキル基又はアラルキル基を示す。)又はハロゲン原子を示す。]
で表される化合物である[1]~[11]のいずれかに記載の液相ペプチド製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ペプチドを構成するアミノ酸残基の側鎖官能基に液相合成用担体を導入したアミノ酸を原料として用いることにより、液相において、N末端方向、C末端方向のどちら側にも自由に修飾を施すことができ、また、所望の方向へのペプチドの伸長が可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のペプチドの製造方法は、側鎖に官能基を有するアミノ酸又は側鎖に官能基を有するアミノ酸残基を含むペプチドの側鎖官能基に液相ペプチド合成用担体が導入された化合物を原料として用いることを特徴とする。
当該側鎖に官能基を有するアミノ酸又は側鎖に官能基を有するアミノ酸残基を含むペプチドの側鎖官能基に液相ペプチド合成用担体が導入された化合物の一例としては、アミノ酸又はペプチドの側鎖官能基のみに液相ペプチド合成用担体が導入された化合物が挙げられる。また、アミノ酸又はペプチドの側鎖官能基及びN末端アミノ基又はC末端カルボキシル基の双方に液相ペプチド合成用担体が導入された化合物が挙げられる。前記アミノ酸又はペプチドの側鎖官能基及びN末端アミノ基又はC末端カルボキシル基の双方に液相ペプチド合成用担体が導入された化合物は、アミノ酸又はペプチドの側鎖官能基に液相ペプチド合成用担体が導入されており、これとは別にN末端アミノ基又はC末端カルボキシル基に液相ペプチド合成用担体が導入された化合物である。別の観点からは、少なくとも(1)アミノ酸又はペプチドの側鎖官能基、(2)アミノ酸又はペプチドのN末端アミノ基又はC末端カルボキシル基のいずれか一方の基、の2箇所に液相ペプチド合成用担体が導入されている化合物である。本明細書では、このような液相ペプチド合成用担体の導入形態について、「双方に液相ペプチド合成用担体が導入された」と表現している。
【0013】
さらに、本発明の方法により製造されるペプチドは、そのN末端又はC末端の未修飾官能基を修飾することができる。なお、未修飾官能基を修飾するとは、ペプチドの未修飾官能基に対して、分解安定性、生理活性安定性など構造上の安定性の付与、薬物輸送(DDS)の向上、抗体の開発や製造のための免疫原性の増強等を目的として行う修飾、製造されたペプチドをイメージングや検出に用いるための標識など、それ自体公知の用途・目的のためにされる修飾をいい、ポリエチレングリコール(PEG)類、エチレンジアミン、DOTA等のキレーターやそれらの金属錯体、ビオチン等のタンパク質、核酸、糖類等、これもそれ自体公知の物質、材料を用いて行うことができる。目的、修飾に用いる物質、材料、修飾の方法等は適宜に改変、応用して行うことができ何ら限定されない。
【0014】
本発明のペプチド製造法は、側鎖官能基に液相ペプチド合成用担体が導入されたアミノ酸又はペプチドを原料として用いるため、液相ペプチド製造法に適用するのが好ましい。
従って、本発明のペプチド製造法の一態様としては、有機溶媒を含む溶媒中で、側鎖に官能基を有するアミノ酸又は側鎖に官能基を有するアミノ酸残基を含むペプチドの側鎖官能基に液相ペプチド合成用担体を導入し、次いで前記側鎖官能基に液相ペプチド合成用担体が導入されたアミノ酸又はペプチドをN末端方向、C末端方向又はその両方に伸長させ、又は未修飾官能基を修飾する、液相ペプチド製造法が挙げられる。
【0015】
用いられる液相ペプチド合成用担体は、側鎖官能基に液相ペプチド合成用担体が導入されたアミノ酸又はペプチドを有機溶媒に可溶化する担体である。
このような液相ペプチド合成用担体としては、例えば前記特許文献1-14に記載の化合物が挙げられる。好ましい液相ペプチド合成用担体としては、下記式(I)で表される化合物が挙げられる。
【0016】
【化3】
【0017】
[式中、
環Aはヘテロ原子を含んでいてもよく、多環性でもよいC4~18の芳香環を示し;
11は、水素原子であるか、又は環Aがベンゼン環でRbが下記式(a)で表される基である場合には、R14と一緒になって単結合を示して、環A及び環Bと共にフルオレン環を形成するか、又は酸素原子を介して環A及び環Bと共にキサンテン環を形成してもよく;
p個のXは、それぞれ独立して-O-、-S-、-C(=O)O-、-C(=O)NH-又は-NR17-(R17は水素原子、アルキル基又はアラルキル基を示す。)を示し;
p個のR12は、それぞれ独立して酸素原子を介してシリル基又は脂肪族炭化水素基で置換されていてもよい脂肪族炭化水素基を有する有機基を示し;
q個のR13は、それぞれ独立して水素原子であるか、又は酸素原子を介してシリル基若しくは脂肪族炭化水素基で置換されていてもよい脂肪族炭化水素基を有する有機基を示し;
p、qは、それぞれ0~3の整数かつp+qが1以上4以下を示し;
環Aは、p個のXR12に加えて、さらにハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-6アルキル基、及びハロゲン原子で置換されていてもよいC1-6アルコキシ基からなる群から選択される置換基を有していてもよく;
Raは、水素原子、又はハロゲン原子により置換されていてもよい芳香族環を示し;
Rbは、水素原子、又は式(a):
【0018】
【化4】
【0019】
(式中、*は結合位置を示し;
r、sは、それぞれ0~3の整数かつr+sが4以下を示し;
r個のZは、それぞれ独立して-O-、-S-、-C(=O)O-、-C(=O)NH-又は-NR18-(R18は水素原子、アルキル基又はアラルキル基を示す。)を示し;
r個のR15は、独立して酸素原子を介してシリル基又は脂肪族炭化水素基で置換されていてもよい脂肪族炭化水素基を有する有機基を示し;
s個のR16は、それぞれ独立して酸素原子を介してシリル基又は脂肪族炭化水素基で置換されていてもよい脂肪族炭化水素基を有する有機基を示し;
14は、水素原子を示すか、R11と一緒になって単結合を示して、環A及び環Bと共にフルオレン環を形成するか,又は酸素原子を介して環A及び環Bと共にキサンテン環を形成してもよく;
環Bは、r個のZR15に加えて、さらにハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-6アルキル基、及びハロゲン原子で置換されていてもよいC1-6アルコキシ基からなる群から選択される置換基を有していてもよい。)で表される基を示し;
Yは、ヒドロキシ基、NHR19(R19は水素原子、アルキル基又はアラルキル基を示す。)又はハロゲン原子を示す。]
【0020】
式(I)中の環Aは、ヘテロ原子を含んでいてもよく、単環性でも、多環性でもよいC4~18の芳香環を示す。当該芳香環としては、C6~18の芳香族炭化水素環、及びC4~10の芳香族複素環が挙げられる。
具体的なC6~18の芳香族炭化水素環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、トリフェニレン環、テトラセン環、インダン環、インデン環、フルオレン環、ビフェニル環などが挙げられる。このうち、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環、フルオレン環がより好ましい。
C4~10の芳香族複素環としては、ヘテロ原子として窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選ばれる1~3個を含む5員環~10員環の芳香族複素環が好ましく、具体的には、ピロール環、フラン環、チオフェン環、インドール環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、カルバゾール環、ピラゾール環、インダゾール環、イミダゾール環、ピリジン環、キノリン環、イソキノリン環などが挙げられる。このうち、ヘテロ原子として窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選ばれる1~3個を含む5員環~8員環の芳香族複素環が好ましく、ピロール環、フラン環、チオフェン環、インドール環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、カルバゾール環、ピラゾール環、インダゾール環がより好ましい。
【0021】
11は、水素原子を示すか、又は環Aがベンゼン環でRbが前記式(a)で表される基である場合には、R14と一緒になって単結合を示して、環A及び環Bと共にフルオレン環を形成するか、又は酸素原子を介して環A及び環Bと共にキサンテン環を形成してもよい。R11とR14が一緒になって形成してもよい環としては、フルオレン環又はキサンテン環が好ましい。
【0022】
p個のXは、それぞれ独立して-O-、-S-、-C(=O)O-、-C(=O)NH-又は-NR17-(R17は水素原子、アルキル基又はアラルキル基を示す。)を示す。
ここで、R17としては、水素原子、C1~10のアルキル基又はC7~20のアラルキル基が好ましい。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などが挙げられる。
アラルキル基としては、C7~16アラルキル基、例えば、ベンジル基、1-フェニルエチル基、2-フェニルエチル基、1-フェニルプロピル基、ナフチルメチル基、1-ナフチルエチル基などが挙げられる。
【0023】
p個のR12は、それぞれ独立して酸素原子を介してシリル基又は脂肪族炭化水素基で置換されていてもよい脂肪族炭化水素基を有する有機基を示す。
q個のR13は、それぞれ独立して水素原子であるか、又は酸素原子を介してシリル基若しくは脂肪族炭化水素基で置換されていてもよい脂肪族炭化水素基を有する有機基を示す。
p、qは、それぞれ0~3の整数かつp+qが1以上4以下を示す。
【0024】
本明細書において、脂肪族炭化水素基を有する有機基とは、その分子構造中に脂肪族炭化水素基を有する一価の有機基である。当該脂肪族炭化水素基を有する有機基中の脂肪族炭化水素基の部位は、特に限定されず、末端に存在してもよく、それ以外の部位に存在してもよい。
当該有機基中に存在する脂肪族炭化水素基とは、直鎖、分岐状若しくは環状の飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基であり、有機溶媒溶解性の点から、C5以上の脂肪族炭化水素基が好ましく、C5~30の脂肪族炭化水素基がより好ましく、C8~30の脂肪族炭化水素基がさらに好ましい。当該脂肪族炭化水素基の具体例としては、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基等が挙げられるが、特にアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基が好ましく、アルキル基がより好ましい。さらに、C5~30の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、C3~8のシクロアルキル基、C5~30の直鎖又は分岐鎖のアルケニル基が好ましく、C5~30の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、C3~8のシクロアルキル基がより好ましく、C5~30の直鎖又は分岐鎖のアルキル基がさらに好ましく、C8~30の直鎖又は分岐鎖のアルキル基がよりさらに好ましい。
【0025】
アルキル基の具体例としては、炭素数1~30のアルキル基が挙げられ、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ラウリル基、トリデシル基、ミリスチル基、セチル基、ステアリル基、アラキル基、べへニル基、テトラコサニル基、ヘキサコサニル基、イソステアリル基などの一価の基、それらから誘導される二価の基、各種ステロイド基から水酸基などを除外した基が挙げられる。
アルケニル基としては、ビニル基、1-プロぺニル基、アリル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、オレイル基などの一価の基、それらから誘導される二価の基が挙げられる。
アルキニル基としては、エチニル基、プロパルギル基、1-プロピニル基などが挙げられる。
【0026】
上記の脂肪族炭化水素基には、酸素原子を介してシリル基又は脂肪族炭化水素基が置換していてもよい。
脂肪族炭化水素基に酸素原子を介して置換し得るシリル基としては、炭素数1~6の直鎖又は分岐鎖のアルキル基及び置換基を有していてもよいアリール基から選ばれる3個が置換したシリル基が好ましい。従って、前記脂肪族炭化水素基には、炭素数1~6の直鎖又は分岐鎖のアルキル基及び置換基を有していてもよいアリール基から選ばれる3個が置換したシリルオキシ基が置換していてもよい。ここで、置換基を有していてもよいアリール基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
好ましい酸素原子を介して置換するシリル基としては、炭素数1~6の直鎖又は分岐鎖のアルキル基が3個置換したシリルオキシ基であり、より好ましくは炭素数1~4の直鎖又は分岐鎖のアルキル基が3個置換したシリルオキシ基である。シリルオキシ基に置換する3個のアルキル基又はアリール基は、同一でも異なっていてもよい。なお、当該シリルオキシ基は、前記脂肪族炭化水素基に1~3個置換しているのが好ましい。
【0027】
脂肪族炭化水素基に酸素原子を介して置換し得る脂肪族炭化水素基としては、炭素数1~6の直鎖又は分岐鎖のアルコキシ基、炭素数2~6のアルケニルオキシ基、炭素数3から6のシクロアルキルオキシ基などの一価の基、それらから誘導される二価の基などが挙げられる。
【0028】
p、qは、それぞれ0~3の整数かつp+qが1以上4以下を示す。ここで、pは、1~4が好ましく、1~3がより好ましく、1~2がさらに好ましい。
【0029】
環Aは、p個のXR12に加えて、さらにハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-6アルキル基、及びハロゲン原子で置換されていてもよいC1-6アルコキシ基からなる群から選択される置換基を有していてもよい。
ハロゲン原子としては、塩素原子、フッ素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-6アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ジクロロメチル基、トリクロロメチル基、トリフルオロメチル基などが挙げられる。ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-6アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、sec-ブチルオキシ基、tert-ブチルオキシ基、トリクロロメトキシ基、トリフルオロメトキシ基などが挙げられる。
【0030】
Raは、水素原子、又はハロゲン原子により置換されていてもよい芳香族環を示す。
ここで、芳香族環としては、C6~18の芳香族炭化水素環、及びC4~10の芳香族複素環が挙げられる。
具体的なC6~18の芳香族炭化水素環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、トリフェニレン環、テトラセン環、インダン環、インデン環、フルオレン環、ビフェニル環などが挙げられる。このうち、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環、フルオレン環がより好ましい。
C4~10の芳香族複素環としては、ヘテロ原子として窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選ばれる1~3個を含む5員環~10員環の複素環が好ましく、具体的には、ピロール環、フラン環、チオフェン環、インドール環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、カルバゾール環、ピラゾール環、インダゾール環、イミダゾール環、ピリジン環、キノリン環、イソキノリン環などが挙げられる。このうち、ヘテロ原子として窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選ばれる1~3個を含む5員環~8員環の複素環が好ましく、ピロール環、フラン環、チオフェン環、インドール環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、カルバゾール環、ピラゾール環、インダゾール環がより好ましい。
Raの芳香族環には、1~3個のハロゲン原子が置換していてもよい。
【0031】
Rbは、水素原子、又は前記式(a)で表される基を示す。
式(a)中のr、sは、それぞれ0~3の整数かつr+sが0~4を示す。
rは、0~4が好ましく、1~3がより好ましく、1~2がさらに好ましい。
【0032】
r個のZは、それぞれ独立して-O-、-S-、-C(=O)O-、-C(=O)NH-又は-NR18-(R18は水素原子、アルキル基又はアラルキル基を示す。)を示す。
ここで、R18としては、水素原子、C1~10のアルキル基又はC7~20のアラルキル基が好ましい。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などが挙げられる。
アラルキル基としては、C7~16アラルキル基、例えば、ベンジル基、1-フェニルエチル基、2-フェニルエチル基、1-フェニルプロピル基、ナフチルメチル基、1-ナフチルエチル基などが挙げられる。
【0033】
r個のR15は、独立して酸素原子を介してシリル基又は脂肪族炭化水素基で置換されていてもよい脂肪族炭化水素基を有する有機基を示し;
s個のR16は、それぞれ独立して酸素原子を介してシリル基又は脂肪族炭化水素基で置換されていてもよい脂肪族炭化水素基を有する有機基を示す。
15及びR16で表される酸素原子を介してシリル基又は脂肪族炭化水素基で置換されていてもよい脂肪族炭化水素基を有する有機基は、前記のR12及びR13と同じものが挙げられ、前記のR12及びR13と同じものが好ましい。
【0034】
14は、水素原子を示すか、R11と一緒になって単結合を示して、環A及び環Bと共にフルオレン環を形成するか、又は酸素原子を介して環A及び環Bと共にキサンテン環を形成してもよい。
【0035】
環Bは、r個のZR15に加えて、さらにハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-6アルキル基、及びハロゲン原子で置換されていてもよいC1-6アルコキシ基からなる群から選択される置換基を有していてもよい。
ハロゲン原子としては、塩素原子、フッ素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-6アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ジクロロメチル基、トリクロロメチル基、トリフルオロメチル基などが挙げられる。ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-6アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、sec-ブチルオキシ基、tert-ブチルオキシ基、トリクロロメトキシ基、トリフルオロメトキシ基などが挙げられる。
【0036】
Yは、ヒドロキシ基、NHR19(R19は水素原子、アルキル基又はアラルキル基を示す。)又はハロゲン原子を示す。
ここで、R19としては、水素原子、C1~10のアルキル基又はC7~20のアラルキル基が好ましい。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などが挙げられる。
アラルキル基としては、C7~16アラルキル基、例えば、ベンジル基、1-フェニルエチル基、2-フェニルエチル基、1-フェニルプロピル基、ナフチルメチル基、1-ナフチルエチル基などが挙げられる。
【0037】
本発明の工程aは、有機溶媒を含む溶媒中で、側鎖に官能基を有するアミノ酸若しくは側鎖に官能基を有するアミノ酸残基を含むペプチドの側鎖官能基に液相ペプチド合成用担体を導入する工程である。
原料である側鎖に官能基を有するアミノ酸は、側鎖に水酸基、アミノ基、グアニジル基、カルバミド基、カルボキシル基、チオール基、インドール基、イミダゾール基等の反応性に富む官能基を有するアミノ酸であり、好ましくは側鎖にチオール基、アミノ基、カルバミド基又はカルボキシル基を有するアミノ酸であり、具体的には、システイン、グルタミン酸、アスパラギン酸、グルタミン及びアスパラギンから選ばれるアミノ酸である。
側鎖に官能基を有するアミノ酸残基を含むペプチドは、側鎖に水酸基、アミノ基、グアニジル基、カルバミド基、カルボキシル基、チオール基、インドール基、イミダゾール基等の反応性に富む官能基を有するアミノ酸残基を含むペプチドであり、好ましくは側鎖にチオール基、アミノ基、カルバミド基又はカルボキシル基を有するアミノ酸残基を含むペプチドであり、具体的には、システイン残基、グルタミン酸残基、アスパラギン酸残基、グルタミン残基及びアスパラギン残基から選ばれるアミノ酸残基を含むペプチドである。
【0038】
工程aにおいて、側鎖に官能基を有するアミノ酸若しくは側鎖に官能基を有するアミノ酸残基を含むペプチドの側鎖官能基に液相ペプチド合成用担体を導入する反応は、有機溶媒を含む溶媒中で行われる。これらのアミノ酸又はペプチドに液相ペプチド合成用担体を導入すれば、得られた化合物は有機溶媒に溶解性になる。従って、その後の縮合反応工程及び保護基の脱離工程などを液相で行うことができるようになる。
そのような有機溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルホルムアミド(DMF)、シクロヘキサン、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)、メチル-tert-ブチルエーテル(MTBE)、2-メチルTHF、4-メチルテトラヒドロピラン(4-メチルTHP)、酢酸イソプロピル、クロロホルム、ジクロロメタン、N-メチルピロリドンを挙げることができ、好ましくは、THF、DMF、シクロヘキサン、CPME,MTBE、2-メチルTHF、4-メチルTHP、酢酸イソプロピル、N-メチルピロリドンである。さらに、上記溶媒の2種以上の混合溶媒でもよい。
【0039】
液相ペプチド合成用担体は、前記側鎖官能基に、直接又はリンカーを介して結合するように導入される。
ここでいうリンカーとは、リンカーの一方が、前記側鎖官能基と結合し、他方が液相ペプチド合成用担体と結合する2つの反応基をもつ有機基である。好ましいリンカーは、分子量が約2000以下(好ましくは約1500以下、より好ましくは約1000以下)の有機基であって、反応基として、同じでも異なってもよく、アミノ基、カルボキシル基、及びハロメチル基からなる群より選ばれる少なくとも2つの基を分子内にもつ化合物である。例えば、以下の化合物を挙げることができる。
【0040】
【化5】
【0041】
【化6】
(式中、Yは1~6、好ましくは1~4の整数である)。
【0042】
【化7】
(式中、Xはハロゲン原子、好ましくは塩素又は臭素である)。
【0043】
【化8】
(式中、Zは2~40、好ましくは2~35、より好ましくは、2~28の整数である)。
(上記リンカーの構造式は、側鎖官能基等に結合する前の状態かつ液相ペプチド合成用担体と結合する前の状態を示す)。
【0044】
上記リンカーを含む液相ペプチド合成担体の前記側鎖官能基への導入は、上記リンカーの一方を前記側鎖官能基に結合した後に他方を液相ペプチド合成用担体に結合しても良く、あるいは、上記リンカーの一方を液相ペプチド合成用担体に結合した後に他方を前記側鎖官能基に結合してもよい。これらのリンカーの前記側鎖官能基への導入手段は、公知の方法を適宜参照して行うことができる。例えば、DIPCI/HOBtによるアミド化を挙げることができる。また、上記リンカーの一方と液相ペプチド合成用担体との結合は、互いに結合するリンカーの基及び液相ペプチド合成用担体の基に応じて、公知の方法を適宜参照して行うことができる。例えば、DIPCIによるエステル化を挙げることができる。
【0045】
前記側鎖官能基への液相ペプチド合成用担体の導入は、公知の方法を適宜参照して行うことができる。例えば、通常のアミド化法又はエステル化法に従って行えばよく、縮合剤の存在下に反応させればよい。
縮合剤としては、ペプチド合成において一般的に用いられる縮合剤、例えば、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホニウムクロリド(DMT-MM)、O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HBTU)、O-(7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HATU)、O-(6-クロロベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HBTU(6-Cl))、O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート(TBTU)、O-(6-クロロベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート(TCTU)、(1-シアノ-2-エトキシ-2-オキソエチリデンアミノオキシ)ジメチルアミノ-モルホリノ-カルベニウムヘキサフルオロリン酸塩(COMU)、ジイソプロピルカルボジイミド(DIPCI)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、及び1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(WSC)を挙げることができる。好ましくは、DMT-MM、HBTU、HATU、又はCOMUである。縮合剤の使用量は、液相ペプチド合成用担体に対して、好ましくは1~4当量、より好ましくは1~2当量、さらに好ましくは1.05~1.3当量である。
反応温度は、ペプチド合成において一般的に用いられる温度が、例えば、-20~40℃が好ましく、より好ましくは0~30℃である。反応時間(1サイクルの時間)は、通常0.5~30時間である。
【0046】
工程bは、前記側鎖官能基に液相ペプチド合成用担体が導入されたアミノ酸又はペプチドと、アミノ保護基でアミノ基が保護されたアミノ酸又はペプチドとを縮合させる工程である。
【0047】
工程bの他方の原料である、アミノ保護基でアミノ基が保護されたアミノ酸又はペプチドとは、アミノ酸又はペプチドのアミノ基がアミノ保護基で保護されており、一方、カルボキシル基は保護されておらず反応性であるアミノ酸又はペプチドを意味する。アミノ酸又はペプチドが1以上のアミノ基を有する場合は、少なくとも一つのアミノ基がアミノ保護基で保護されていれば良い。
アミノ保護基としては、Fmоc基、Bоc基、Cbz基、Ac基などが挙げられ、このうち塩基性条件で脱保護できるFmоc基がより好ましい。
なお、アミノ保護基でアミノ基が保護されたアミノ酸又はペプチドが、水酸基、アミノ基、グアニジル基、カルバミド基、カルボキシル基、チオール基、インドール基、イミダゾール基等の反応性に富む官能基を有する場合、これらの官能基にペプチド合成で用いられる一般的な保護基が導入されていてもよく、反応終了後の任意の時点で、必要に応じて保護基を除去することで目的化合物を得ることができる。
水酸基の保護基としてはtBu基、Trt基、Bz基、アセチル基、シリル基等が挙げられ、アミノ基の保護基としては、Boc基、Fmoc基、Cbz基、Trt基、Mmt基、ivDde基等が挙げられ、グアニジル基の保護基としては、Pbf基、Pmc基、ニトロ基等が挙げられ、カルバミド基の保護基としては、Trt基、Mtt基、Xan基等が挙げられ、カルボキシル基の保護基としてはtBu基、メチル基、エチル基、Bz基等が挙げられ、チオール基の保護基としては、Trt基、Acm基、tBu基、S-tBu基等が挙げられ、インドール基の保護基としては、Boc基等が挙げられ、イミダゾール基の保護基としては、Boc基、Bom基、Bum基、Trt基等を挙げることができる。
【0048】
アミノ保護基でアミノ基が保護されたアミノ酸又はペプチドは、例えば、アミノ基が保護されていないアミノ酸又はペプチドに、例えばTHFなどの溶媒中でクロロギ酸9-フルオレニルメチルエステルを塩基の存在下に反応させることにより、製造することができる。
【0049】
本発明の工程bは前記の原料を縮合させる工程であり、工程bに用いられる反応溶媒は有機溶媒を含む溶媒である。工程aで得られた前記側鎖官能基に液相ペプチド合成用担体が導入されたアミノ酸又はペプチドは、既に有機溶媒に溶解しており、工程bの縮合反応は、そのまま継続して行うことができる。
従って、工程bでは、前記工程aと同じ有機溶媒、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルホルムアミド(DMF)、シクロヘキサン、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)、メチル-tert-ブチルエーテル(MTBE)、2-メチルTHF、4-メチルテトラヒドロピラン(4-メチルTHP)、酢酸イソプロピル、クロロホルム、ジクロロメタン、N-メチルピロリドンなどが使用できる。好ましくは、THF、DMF、シクロヘキサン、CPME,MTBE、2-メチルTHF、4-メチルTHP、酢酸イソプロピル、N-メチルピロリドンである。さらに、上記溶媒の2種以上の混合溶媒でもよい。
【0050】
縮合反応は、前記有機溶媒を含む溶媒中で、前記側鎖官能基に液相ペプチド合成用担体が導入されたアミノ酸又はペプチド(以下、側鎖官能基担体導入ペプチドと略する)と、前記アミノ保護基でアミノ基が保護されたアミノ酸又はペプチド(以下、アミノ基保護アミノ酸と略する)と、縮合剤とを混合することにより行うことができる。
【0051】
側鎖官能基担体導入ペプチドに対する、アミノ基保護アミノ酸の使用量は、側鎖官能基担体導入ペプチドに対して、通常1.01~4当量、好ましくは1.03~3当量、より好ましくは1.05~2当量、さらに好ましくは1.1~1.5当量である。
本発明の液相ペプチド製造法では、アミノ基保護アミノ酸を過剰に使用した場合には、未反応のアミノ酸の活性エステルが残存することがあるが、その場合には、スカベンジャーを添加してアミノ酸活性エステルとスカベンジャーが反応した化合物を生成させて不活性化することができる。
【0052】
縮合剤としては、ペプチド合成において一般的に用いられる縮合剤を本発明においても用いることができる、例えば、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホニウムクロリド(DMT-MM)、O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HBTU)、O-(7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HATU)、O-(6-クロロベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HBTU(6-Cl))、O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート(TBTU)、O-(6-クロロベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート(TCTU)、(1-シアノ-2-エトキシ-2-オキソエチリデンアミノオキシ)ジメチルアミノ-モルホリノ-カルベニウムヘキサフルオロリン酸塩(COMU)、ジイソプロピルカルボジイミド(DIPCI)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、及び1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(WSC)を挙げることができる。好ましくは、DMT-MM、HBTU、HATU、又はCOMUである。縮合剤の使用量は、側鎖官能基担体導入ペプチドに対して、好ましくは1~4当量、より好ましくは1~2当量、さらに好ましくは1.05~1.3当量である。
【0053】
縮合工程において、反応を促進し、ラセミ化などの副反応を抑制するために、好ましくは、活性化剤が添加される。ここで活性化剤とは、縮合剤との共存化で、アミノ酸を、対応する活性エステル、対称酸無水物などに導いて、ペプチド結合(アミド結合)を形成させやすくする試薬である。活性化剤としては、ペプチド合成において一般的に用いられる活性化剤を用いることができる。例えば、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、1-ヒドロキシ-1H-1,2,3-トリアゾールカルボン酸エチル(HOCt)、1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール(HOAt)、3-ヒドロキシ-4-ケトベンゾトリアジン(HOOBt)、N-ヒドロキシコハク酸イミド(HOSu)、N-ヒドロキシフタルイミド(HOPht)、N-ヒドロキシ-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボキシイミド(HONb)、ペンタフルオロフェノール、シアノ(ヒドロキシイミノ)酢酸エチル(Oxyma)等を挙げることができる。好ましくは、HOBt、HOOBt、HOCt、HOAt、HONb、HOSu、Oxymaである。活性化剤の使用量は、側鎖官能基担体導入ペプチドに対して、好ましくは1~4当量、より好ましくは1~2当量、さらに好ましくは1.05~1.3当量である。
【0054】
前記溶媒の使用量は、側鎖官能基担体導入ペプチド等を溶解した濃度が、好ましくは0.1mM~1Mとなる量であり、より好ましくは1mM~0.5Mとなる量である。
反応温度は、ペプチド合成において一般的に用いられる温度、例えば、-20~40℃が好ましく、より好ましくは0~30℃である。反応時間(1サイクルの時間)は、通常0.5~30時間である。
【0055】
工程bにより、反応液中には、前記アミノ保護基でアミノ基が保護された化合物が存在するので、当該アミノ保護基でアミノ基が保護された化合物のアミノ保護基を脱離する工程(工程c)を行えばよいが、アミノ基保護アミノ酸を過剰に使用した場合には、未反応のアミノ酸の活性エステルが残存することがある。当該アミノ酸活性エステルは、N末端の脱保護時に目的のペプチドにさらにアミノ酸残基が一つ以上余分に挿入されるというダブルヒットを引き起こす可能性がある。そこで、前記脱保護工程の前に、アミノ酸活性エステルスカベンジャーを添加して、アミノ酸活性エステルを不活化する(工程b´)のが好ましい。
そこで、次に、縮合反応後の反応液に、アミノ酸活性エステルスカベンジャーを添加する工程b´について説明する。
【0056】
アミノ酸活性エステルスカベンジャーとしては、有機溶媒中で反応を継続する観点から、アミノ基含有化合物が好ましく、特に2価以上の水溶性アミン、アルキルアミン、芳香族アミン、ヒドロキシルアミン、アミノスルホン酸類、アミノ硫酸類、アミノホスホン酸類、アミノリン酸類及びアミノアルコール類から選ばれるアミノ基含有化合物が好ましい。
【0057】
2価以上の水溶性アミンとしては、例えば、1-メチルピペラジン、4-アミノピペリジン、ジエチレントリアミン、トリアミノエチルアミン、1-エチルピペラジン、N,N-ジメチルエチレンジアミン、エチレンジアミン、ピペラジンを挙げることができ、好ましくは、1-メチルピペラジン、4-アミノピペリジン、ジエチレントリアミン、N,N-ジメチルエチレンジアミン、エチレンジアミンであり、より好ましくは、1-メチルピペラジン、4-アミノピペリジン、N,N-ジメチルエチレンジアミン、ジエチレントリアミンであり、さらに好ましくは1-メチルピペラジンである。
【0058】
用いることができるアルキルアミンとしては、例えば、炭素数1~14のアルキルアミンを挙げることができ、好ましくは炭素数2~10のアルキルアミン、より好ましくは炭素数2~8のアルキルアミン、さらに好ましくは炭素数3~4のアルキルアミンである。また本発明で用いることができる芳香族アミンとしては、たとえば炭素数1~14の芳香族アミンを挙げることができ、好ましくは炭素数6~10の芳香族アミンである。具体的なアルキルアミン、芳香族アミン、ヒドロキシルアミンとしては、これに限定されないが、例えば、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、アニリン、トルイジン、2,4,6-トリメチルアニリン、アニシジン、フェネチジン、ヒドロキシルアミンを挙げることができ、特に好ましくは、プロピルアミンである。
アミノスルホン酸類、アミノ硫酸類、アミノホスホン酸類、アミノリン酸類及びアミノアルコール類としては、下記の一般式で挙げられるものが好ましい。
すなわち、次の一般式(1)で表されるアミノスルホン酸類及びアミノ硫酸類;
【0059】
【化9】
【0060】
(R1は炭素数1~10の2価の有機基を示し、X1は単結合又は酸素原子を示す)
一般式(2)で表されるアミノホスホン酸類及びアミノリン酸類;
【0061】
【化10】
【0062】
(R2は炭素数1~10の2価の有機基を示し、X2は単結合又は酸素原子を示す)
一般式(3)で表されるアミノアルコール類が好ましい。
【0063】
【化11】
【0064】
(nは0~20の整数を示し、R3、R4はそれぞれ独立して水素原子、メチル基、エチル基、又はヒドロキシメチル基を示す)
【0065】
一般式(1)中のR1及び一般式(2)のR2は、独立して、炭素数1~10の2価の有機基であり、好ましくは、炭素数1~10の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基、炭素数6~10のアリーレン基が挙げられる。具体的には、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基、ブチレン基、ペンタメチレン基、フェニレン基、ナフチレン基などが挙げられる。
このうち、これらの化合物の溶解性の点から、炭素数1~6の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基、炭素数6~8のアリーレン基がより好ましく、炭素数1~6の直鎖又は分岐際のアルキレン基がさらに好ましく、炭素数1~5の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基がよりさらに好ましい。
一般式(1)において、X1が単結合の場合はアミノスルホン酸類であり、X2が酸素原子の場合はアミノ硫酸類である。
一般式(2)において、X2が単結合の場合はアミノホスホン酸類であり、X2が酸素原子の場合はアミノリン酸類である。
【0066】
一般式(3)中のnは、0~20の整数を示す。このうちnは、0~20が好ましく、0~6がより好ましく、0~4がさらに好ましい。一般式(3)中のR3、R4は、水素原子またはヒドロキシルメチル基が好ましい。
【0067】
前記アミノ基含有化合物のうち、アミノ酸活性エステルスカベンジャーとしてアミノスルホン酸類、アミノ硫酸類、アミノホスホン酸類、アミノリン酸類及びアミノアルコール類から選ばれる化合物を用いるのがより好ましい。これらの化合物をスカベンジャジャーとして用いることにより、アミノ酸活性エステルが除去でき、ペプチドの液相製造を単離せずにワンポット合成が可能になる。
【0068】
工程b´におけるアミノ基含有化合物の添加量は、理論上残存する活性アミノ酸エステル1当量に対して、好ましくは1~10当量、より好ましくは1~6当量、さらに好ましくは1~4当量である。アミノ基含有化合物の添加量が少なすぎると、アミノ酸活性エステルのスカベンジ(捕捉)が不充分となり、残存したアミノ酸活性エステルと工程cで生成したアミノ基が反応するダブルヒットが起こり、純度、収率を低下させる。一方、多すぎると、同時に脱アミノ保護基反応が進行し、残存しているアミノ酸活性エステルがアミノ保護基の脱離により再生したアミノ基と反応するダブルヒットが起こり、純度、収率を低下させる。
【0069】
工程cは、反応液中の前記アミノ保護基でアミノ基が保護された化合物のアミノ保護基を脱離する工程である。
当該アミノ保護基の脱離工程は、アミノ保護基の種類により相違する。例えば、アミノ保護基がFmoc基の場合は反応液を塩基性条件とすればよい。アミノ保護基がBoc基の場合は反応液を酸性条件とすればよい。アミノ保護基がCbz基の場合は接触還元すればよい。アミノ保護基がAc基の場合は、強酸又は強塩基条件で脱保護すればよい。このうち、ワンポット液相合成とするには、アミノ保護基をFmoc基とするのがより好ましい。
【0070】
アミノ保護基がFmoc基の場合のアミノ保護基の脱離工程について説明する。
Fmoc脱離工程は、反応液を塩基性にできればよいが、アミン化合物、例えば、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(DBU)、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン(DBN)、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]-オクタン(DABCO)、トリエチルアミン、トリブチルアミンなどの3級アミン類;1-メチルピペラジン、4-アミノピペリジン、ジエチレントリアミン、トリアミノエチルアミン、1-エチルピペラジン、N,N-ジメチルエチレンジアミン、エチレンジアミン、ピぺリジン、ピペラジンなどの1級又は2級のアミノ基を少なくとも1つ持つ2価以上の水溶性アミン類を用いることができる。好ましくは、DBU、ピぺリジン、1-メチルピペラジン、4-アミノピペリジン、ジエチレントリアミンであり、より好ましくは、DBU、ピぺリジン、1-メチルピペラジンである。さらに好ましくはDBUである。
工程cにおいて添加するアミン化合物の当量は、系に存在するFmoc基の量に対して、1~30当量、好ましくは4~20当量、より好ましくは4~20当量である。
【0071】
また、前記アミン化合物に加えて、脱Fmoc反応により生じるDBF(ジベンゾフルベン)のトラッピング剤を添加するのが好ましい。ここで用いられるDBFのラッピング剤としては、メルカプト化合物が挙げられる。用いることができるメルカプト化合物としては、メルカプト基を有し、DBFと反応した化合物が水溶性を示すものであれば特に限定されないが、例えばメルカプト脂肪酸又はそのアルカリ金属塩、下記の一般式(4)又は(5)
【0072】
【化12】
【0073】
(式中、L1及びL2は、それぞれ2価の有機基を示し、Mは水素原子又はアルカリ金属を示す)で表される化合物が挙げられる。
【0074】
メルカプト脂肪酸又はそのアルカリ金属塩としては、メルカプトC1~20脂肪酸又はそのアルカリ金属塩が好ましく、メルカプトC1~6脂肪酸又はそのアルカリ金属塩がより好ましい。
一般式(4)又は(5)中L1及びL2は、それぞれ2価の有機基を示す。当該2価の有機基としては、炭素数1~10の2価の有機基が好ましく、より好ましくは、メルカプト基を有していてもよい炭素数1~10の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基、メルカプト基を有していてもよい炭素数6~10のアリーレン基、メルカプト基を有していてもよい炭素数4~9のヘテロアリーレン基が挙げられる。具体的には、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、メルカプトトリメチレン基、メルカプトプロピレン基、テトラメチレン基、ブチレン基、ペンタメチレン基、フェニレン基、ナフチレン基、インドール基、ベンズイミダゾール基、キノリル基、イソキノリン基などが挙げられる。
Mは水素原子又はアルカリ金属を示す。具体的には、水素原子、ナトリウム、カリウムが挙げられる。
具体的には、メルカプトメタンスルホン酸ナトリウム、2-メルカプトエタンスルホン酸ナトリウム、2-メルカプトエタンスルホン酸、3-メルカプトプロパンスルホン酸、1,3-ジメルカプトプロパンスルホン酸、2-メルカプトベンズイミダゾール-5-スルホン酸ナトリウム、メルカプトメタンホスホン酸ナトリウム、メルカプトエタンホスホン酸、3-メルカプトプロパンホスホン酸ナトリウム、1,3-ジメルカプトプロパンホスホン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0075】
メルカプト化合物の添加量は、理論上副生するDBF及びDBF-アミン付加体の量に対して1~30当量が好ましく、1.2~20当量がより好ましく、1.5~15当量がさらに好ましい。
前記アミン化合物とメルカプト化合物は、同時に添加してもよく、メルカプト化合物、次いでアミン化合物の順に添加してもよく、塩基を加えFmoc基を除去したのちにメルカプト化合物を加えてもよい。
Fmoc脱離工程は、-20~40℃の温度で、5分~8時間行えばよい。
【0076】
工程dは、反応液に水溶液を添加した後、分液して、前記側鎖官能基及びカルボキシル基が液相ペプチド合成用担体で保護されたアミノ酸、ペプチド又はアミノ酸アミドと、前記アミノ保護基が保護されたアミノ酸又はペプチドとの縮合体を含有する有機溶媒層を得る工程である。
工程cの反応液に水溶液を添加した後、水層と有機溶媒層を分液する。
水層には、アミノ保護基が脱離した活性エステルスカベンジャーと、DBF-トラッピング剤付加体が含まれる。すなわち、アミノ保護基の脱離工程で副生するDBFはDBF-トラッピング剤付加体となって、工程dの水溶液の添加だけで、容易に水層に抽出される。
一方、有機溶媒層には、側鎖官能基及びカルボキシル基が液相ペプチド合成用担体で保護されたアミノ酸、ペプチド又はアミノ酸アミドと、前記アミノ保護基で保護されたアミノ酸又はペプチドとの縮合体が含まれる。
ここで、用いられる水溶液としては、水、酸性水溶液、塩基性水溶液、塩化ナトリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、炭酸カリウム水溶液、リン酸水素二ナトリウム水溶液、リン酸三ナトリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液、炭酸水素カリウム水溶液、リン酸水素二カリウム水溶液、リン酸三カリウム水溶液等が挙げられる。
このように、本発明の工程dによれば、単に水溶液を添加して分液するだけで、アミノ酸活性エステルと生成物であるペプチドとの分液不良が起こることがない。また、固液分離を必要としないので、ペプチドの液相製造を単離せずにワンポット合成が可能になる。一連の工程は、マイクロフロー技術を用いて実施しても良い。マイクロフロー技術を用いたペプチド合成技術については、例えばNature Communications 7, Article number:13491(2016)に記載がある。
また、得られた有機溶媒層は、さらに任意のアミノ酸との縮合反応に利用できる。
【実施例
【0077】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
なお、液相ペプチド合成用担体として、以下に示す化合物を使用した。
・TIPS2-OH(C11)型ベンジル化合物(積水メディカル社製)(以下、B-STagと記すことがある)。但し、TIPSは、トリイソプロピルシリル基を示す。
【0078】
【化13】
【0079】
・TIPS2-OH(C11)型ジフェニルメタン化合物(積水メディカル社製)(以下、D-STagと記すことがある)。但し、TIPSは、トリイソプロピルシリル基を示す。
【0080】
【化14】
【0081】
Fmoc-NH-(D-STag)は、上記D-STagのアミノ基がFmoc基で保護された化合物である。
また、以下の実施例では、B-STagがFmoc保護tBu保護グルタミン酸(Fmoc-Glu-OtBu)と結合した化合物を、Fmoc-Glu(O-B-STag)-OtBuと表記し、下記の構造を示すものとする。Fmoc-Glu-OtBuに限らず、他のアミノ酸と結合した場合も、これに準ずる表記とする。
【0082】
【化15】
【0083】
また、D-STagがFmoc保護システイン(Fmoc-Cys-OH)と結合した化合物を、Fmoc-Cys(D-STag)-OHと表記し、これは下記の構造を示すものとする。システインに限らず、他のアミノ酸と結合した場合も、これに準ずる表記とする。
【0084】
【化16】
【0085】
実施例1
H-Ser-Met―Ile-Leu-Glu-OHの合成
1)H-Glu(O-B-STag)-OtBuの合成
B-STag 1.59g(2.0mmol)をCPME4mL、THF6mLに溶解し、Fmoc-Glu-OtBu 2.13g(5.0mmol)、WSCI・HCl 0.96g(5.0mmol)、4-ジメチルアミノピリジン 24.5mg(0.2mmol)を加え、室温で5時間撹拌した。B-STagが生成物のFmoc-Glu(O-B-STag)-OtBuに対し5%以下になったことを確認後、2-アミノエタノール(AE)300μL(5.0mmol)を加え、室温で1時間撹拌した。0℃に冷却し、2-メルカプト-1-エタンスルホン酸ナトリウム1.48g(9.0mmol)、DMSO 9mLを添加し、DBU3.4mL(22.5mmol)を加え、20分撹拌した。Fmoc-Glu(O-B-STag)-OtBuが生成物のH-Glu(O-B-STag)-OtBuに対し5%以下になったことを確認後、1M硫酸水溶液12mLを滴下した後、5%炭酸ナトリウム水溶液38mLを加え、室温まで昇温し、分液した。得られた有機層に20%食塩水10mL、5%炭酸ナトリウム水溶液4mL、DMF 0.8mLを加え、分液した。得られた有機層を減圧濃縮し、残渣にCPME 6mLを加えH-Glu(O-B-STag)-OtBuを含むCPME溶液15.2gを得た。
【0086】
2)H-Leu-Glu(O-B-STag)-OtBuの合成
上記のH-Glu(O-B-STag)-OtBuを含むCPME溶液7.6g(1mmol相当)にCMPE 1.9mL、DMF2mL、Fmoc-Leu-OH 0.48g(1.4mmol)、COMU 0.56g(1.3mmol)、DIEPA 0.71mL(4.1mmol)を加え、室温で1時間撹拌した。H-Glu(O-B-STag)-OtBuが生成物のFmoc-Leu-Glu(O-B-STag)-OtBuに対し5%以下になったことを確認後、AE 81μL(1.4mmol)を加え、室温で90分撹拌した。0℃に冷却し、2-メルカプト-1-エタンスルホン酸ナトリウム0.40g(2.4mmol)、DMSO 2,4mLを添加し、DBU0.91mL(6.1mmol)を加え、20分撹拌した。Fmoc-Leu-Glu(O-B-STag)-OtBuが生成物のH-Leu-Glu(O-B-STag)-OtBuに対し5%以下になったことを確認後、1M硫酸水溶液3.2mLを滴下したのち、5%炭酸ナトリウム水溶液13mLを加え、室温まで昇温し、分液した。得られた有機層に20%食塩水13mL、5%炭酸ナトリウム水溶液4mL、DMF 0.9mLを加え、分液した。H-Leu-Glu(O-B-STag)-OtBuを含むCPME溶液を得た。
【0087】
3)H-Ile-Leu-Glu(O-B-STag)-OtBuの合成
上記のH-Leu-Glu(O-B-STag)-OtBuを含むCPME溶液にCPME1mL、DMF2mL、Fmoc-Ile-OH 0.48g(1.4mmol)、COMU 0.56g(1.3mmol)、DIEPA 0.71mL(4.1mmol)を加え、室温で55分撹拌した。H-Leu-Glu(O-B-STag)-OtBuが生成物のFmoc-Ile-Leu-Glu(O-B-STag)-OtBuに対し5%以下になったことを確認後、AE 81μL(1.4mmol)を加え、室温で25分撹拌した。0℃に冷却し、2-メルカプト-1-エタンスルホン酸ナトリウム0.40g(2.4mmol)、DMSO 2,4mLを添加し、DBU0.91mL(6.1mmol)を加え、75分撹拌した。Fmoc-Ile-Leu-Glu(O-B-STag)-OtBuが生成物のH-Ile-Leu-Glu(O-B-STag)-OtBuに対し5%以下になったことを確認後、1M硫酸水溶液3.2mLを滴下したのち、5%炭酸ナトリウム水溶液13mLを加え、室温まで昇温し、分液した。得られた有機層に20%食塩水13mL、5%炭酸ナトリウム水溶液4mL、DMF 0.9mLを加え、分液した。H-Ile-Leu-Glu(O-B-STag)-OtBuを含むCPME溶液を得た。
【0088】
4)H-Met-Ile-Leu-Glu(O-B-STag)-OtBuの合成
上記のH-Ile-Leu-Glu(O-B-STag)-OtBuを含むCPME溶液にCPME1mL、DMF2mL、Fmoc-Met-OH 0.56g(1.5mmol)、COMU 0.65g(1.5mmol)、DIEPA 0.78mL(4.5mmol)を加え、室温で50分撹拌した。H-Ile-Leu-Glu(O-B-STag)-OtBuが生成物のFmoc-Met-Ile-Leu-Glu(O-B-STag)-OtBuに対し5%以下になったことを確認後、AE 89μL(1.5mmol)を加え、室温で25分撹拌した。0℃に冷却し、2-メルカプト-1-エタンスルホン酸ナトリウム0.40g(2.4mmol)、DMSO 2,4mLを添加し、DBU0.91mL(6.1mmol)を加え、1時間撹拌した。Fmoc-Met-Ile-Leu-Glu(O-B-STag)-OtBuが生成物のH-Met-Ile-Leu-Glu(O-B-STag)-OtBuに対し5%以下になったことを確認後、1M硫酸水溶液3.2mLを滴下したのち、5%炭酸ナトリウム水溶液13mLを加え、室温まで昇温し、分液した。得られた有機層に20%食塩水13mL、5%炭酸ナトリウム水溶液4mL、DMF 0.9mLを加え、分液した。H-Met-Ile-Leu-Glu(O-B-STag)-OtBuを含むCPME溶液を得た。
【0089】
5)H-Ser(tBu)-Met-Ile-Leu-Glu(O-B-STag)-OtBuの合成
上記のH-Met-Ile-Leu-Glu(O-B-STag)-OtBuを含むCPME溶液にCPME1mL、DMF2mL、Fmoc-Ser(tBu)-OH 0.52g(1.4mmol)、COMU 0.56g(1.4mmol)、DIEPA 0.71mL(4.1mmol)を加え、室温で1時間撹拌した。H-Met-Ile-Leu-Glu(O-B-STag)-OtBuが生成物のFmoc-Ser(tBu)-Met-Ile-Leu-Glu(O-B-STag)-OtBuに対し5%以下になったことを確認後、AE 81μL(1.4mmol)を加え、室温で2時間撹拌した。0℃に冷却し、2-メルカプト-1-エタンスルホン酸ナトリウム0.40g(2.4mmol)、DMSO 2,4mLを添加し、DBU0.91mL(6.1mmol)を加え、75分撹拌した。Fmoc-Ser(tBu)-Met-Ile-Leu-Glu(O-B-STag)-OtBuが生成物のH-Ser(tBu)-Met-Ile-Leu-Glu(O-B-STag)-OtBuに対し5%以下になったことを確認後、1M硫酸水溶液3.2mLを滴下したのち、5%炭酸ナトリウム水溶液13mLを加え、室温まで昇温し、分液した。得られた有機層に20%食塩水13mL、5%炭酸ナトリウム水溶液4mL、DMF 0.9mLを加え、分液した。H-Ser(tBu)-Met-Ile-Leu-Glu(O-B-STag)-OtBuを含むCPME溶液を得た。
得られたCPME溶液を減圧下で濃縮し、残渣として、H-Ser(tBu)-Met-Ile-Leu-Glu(O-B-STag)-OtBu 1.64gを得た。
【0090】
6)H-Ser-Met―Ile-Leu-Glu-OHの合成
上記のH-Ser(tBu)-Met-Ile-Leu-Glu(O-B-STag)-OtBu 1.64g(1.0mmol相当)にトリフルオロ酢酸14.3mL、水0.36mL、トリイソプロピルシラン0.36mL、3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオール0.71mLを添加し、室温で2時間撹拌した。反応溶液を0℃に冷却し、MTBE 81mLをゆっくりと滴下し、沈澱物を濾取した。ろ取した沈殿物をMTBE 14mLで3回洗浄行った後、沈澱物を減圧下で乾燥し、H-Ser-Met―Ile-Leu-Glu-OH 523mgを得た。得られたH-Ser-Met―Ile-Leu-Glu-OHの純度は71.3%であった。
【0091】
実施例2
H-Asp-Ala―Asn-Cys-Glu-OHの合成
1)Fmoc-Cys(D-STag)-OHの合成
HO-(D-STag) 2.61g(3.0mmol)をトルエン15mLに溶解し、Fmoc-Cys-OH 1.08mL(3.2mmol)、メタンスルホン酸 58μL(0.9mmol)を添加し、湯浴にて75℃に加熱した。75℃で3時間撹拌した後、室温まで冷却し、トリエチルアミン165μL(0.9mmol)を添加した。反応液を減圧濃縮した後、CPME 10mLを加え、減圧濃縮する溶媒置換濃縮の操作を2回行った後、CPME 15mLを加え、Fmoc-Cys(D-STag)-OHを含むCPME溶液16.8gを得た。
【0092】
2)H-Cys(D-STag)-Glu(OtBu)-OtBuの合成
上記のFmoc-Cys(D-STag)-OHを含むCPME溶液5.66g(1.0mmol相当)に、CPME3.9mL、DMF2mL、L-グルタミン酸ジt-ブチル塩酸塩 0.37g(1.2mmol)、COMU 0.47g(1.1mmol)、DIEPA 0.63mL(3.6mmol)を加え、室温で1時間撹拌した。Fmoc-Cys(D-STag)-OHが生成物のFmoc-Cys(D-STag)-Glu(OtBu)-OtBuに対し5%以下になったことを確認後、0℃に冷却し、2-メルカプト-1-エタンスルホン酸ナトリウム0.40g(2.4mmol)、DMSO 2.4mLを添加し、DBU 0.81mL(5.4mmol)を加え、25分撹拌した。Fmoc-Cys(D-STag)-Glu(OtBu)-OtBuが生成物のH-Cys(D-STag)-Glu(OtBu)-OtBuに対し5%以下になったことを確認後、1M硫酸水溶液2.8mLを滴下したのち、5%炭酸ナトリウム水溶液12mLを加え、室温まで昇温し、分液した。得られた有機層に20%食塩水13mL、5%炭酸ナトリウム水溶液4mL、DMF 0.9mLを加え、分液した。H-Cys(D-STag)-Glu(OtBu)-OtBuを含むCPME溶液を得た。
【0093】
3)H-Asn(Trt)-Cys(D-STag)-Glu(OtBu)-OtBuの合成
上記のH-Cys(D-STag)-Glu(OtBu)-OtBuを含むCPME溶液に、CPME1mL、DMF2mL、Fmoc-Asn(Trt)-OH 0.81g(1.4mmol)、COMU 0.56g(1.3mmol)、DIEPA 0.71mL(4.1mmol)を加え、室温で1時間撹拌した。H-Cys(D-STag)-Glu(OtBu)-OtBuが生成物のFmoc-Asn(Trt)-Cys(D-STag)-Glu(OtBu)-OtBuに対し5%以下になったことを確認後、AE81μL(1.4mmol)を加え、室温で25分撹拌した。0℃に冷却し、2-メルカプト-1-エタンスルホン酸ナトリウム0.40g(2.4mmol)、DMSO 2.4mLを添加し、DBU 0.91mL(6.1mmol)を加え、75分撹拌した。Fmoc-Asn(Trt)-Cys(D-STag)-Glu(OtBu)-OtBuが生成物のH-Asn(Trt)-Cys(D-STag)-Glu(OtBu)-OtBuに対し5%以下になったことを確認後、1M硫酸水溶液3.2mLを滴下したのち、5%炭酸ナトリウム水溶液13mLを加え、室温まで昇温し、分液した。得られた有機層に20%食塩水13mL、5%炭酸ナトリウム水溶液4mL、DMF 0.9mLを加え、分液した。H-Asn(Trt)-Cys(D-STag)-Glu(OtBu)-OtBuを含むCPME溶液を得た。
【0094】
4)H-Ala-Asn(Trt)-Cys(D-STag)-Glu(OtBu)-OtBuの合成
上記のH-Asn(Trt)-Cys(D-STag)-Glu(OtBu)-OtBuを含むCPME溶液に、CPME1mL、DMF2mL、Fmoc-Ala-OH・一水和物 0.47g(1.5mmol)、COMU 0.64g(1.5mmol)、DIEPA 0.78mL(4.5mmol)を加え、室温で70分撹拌した。H-Asn(Trt)-Cys(D-STag)-Glu(OtBu)-OtBuが生成物のFmoc-Ala-Asn(Trt)-Cys(D-STag)-Glu(OtBu)-OtBuに対し5%以下になったことを確認後、AE89μL(1.5mmol)を加え、室温で2時間撹拌した。0℃に冷却し、2-メルカプト-1-エタンスルホン酸ナトリウム0.40g(2.4mmol)、DMSO 2.4mLを添加し、DBU 0.91mL(6.1mmol)を加え、1時間撹拌した。Fmoc-Ala-Asn(Trt)-Cys(D-STag)-Glu(OtBu)-OtBuが生成物のH-Ala-Asn(Trt)-Cys(D-STag)-Glu(OtBu)-OtBuに対し5%以下になったことを確認後、1M硫酸水溶液3.2mLを滴下したのち、5%炭酸ナトリウム水溶液13mLを加え、室温まで昇温し、分液した。得られた有機層に20%食塩水13mL、5%炭酸ナトリウム水溶液4mL、DMF 0.9mLを加え、分液した。得られた有機層にFmoc-Ala-OHの活性エステルがスカベンジャーとして用いたAEと縮合した化合物がないことを確認し、H-Ala-Asn(Trt)-Cys(D-STag)-Glu(OtBu)-OtBuを含むCPME溶液を得た。
【0095】
5)H-Asp(OtBu)-Ala-Asn(Trt)-Cys(D-STag)-Glu(OtBu)-OtBuの合成
上記のH-Ala-Asn(Trt)-Cys(D-STag)-Glu(OtBu)-OtBuを含むCPME溶液に、CPME1mL、DMF2mL、Fmoc-Asp(OtBu)-OH 0.56g(1.4mmol)、COMU 0.56g(1.5mmol)、DIEPA 0.71mL(4.1mmol)を加え、室温で1時間撹拌した。H-Ala-Asn(Trt)-Cys(D-STag)-Glu(OtBu)-OtBuが生成物のFmoc-Asp(OtBu)-Ala-Asn(Trt)-Cys(D-STag)-Glu(OtBu)-OtBuに対し5%以下になったことを確認後、AE81μL(1.4mmol)を加え、室温で2時間撹拌した。0℃に冷却し、2-メルカプト-1-エタンスルホン酸ナトリウム0.40g(2.4mmol)、DMSO 2.4mLを添加し、DBU 0.91mL(6.1mmol)を加え、75分撹拌した。Fmoc-Asp(OtBu)-Ala-Asn(Trt)-Cys(D-STag)-Glu(OtBu)-OtBuが生成物のH-Asp(OtBu)-Ala-Asn(Trt)-Cys(D-STag)-Glu(OtBu)-OtBuに対し5%以下になったことを確認後、1M硫酸水溶液3.2mLを滴下したのち、5%炭酸ナトリウム水溶液13mLを加え、室温まで昇温し、分液した。得られた有機層に20%食塩水13mL、5%炭酸ナトリウム水溶液4mL、DMF 0.9mLを加え、分液した。H-Ala-Asn(Trt)-Cys(D-STag)-Glu(OtBu)-OtBuを含むCPME溶液を得た。
得られたCPME溶液を減圧下で濃縮し、残渣にMeCN 30mLを加え、析出した固体をろ取し、得られた固体を30℃で減圧乾燥した。H-Asp(OtBu)-Ala-Asn(Trt)-Cys(D-STag)-Glu(OtBu)-OtBu 1.24gを得た。
【0096】
6)H-Asp-Ala―Asn-Cys-Glu-OHの合成
H-Asp(OtBu)-Ala-Asn(Trt)-Cys(D-STag)-Glu(OtBu)-OtBu 906mg(0.50mmol)にトリフルオロ酢酸7.5mL、水0.21mL、トリイソプロピルシラン0.21mL、3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオール0.42mLを添加し、室温で2時間撹拌した。反応溶液を0℃に冷却し、MTBE58mLをゆっくりと滴下し、沈澱物を濾取した。ろ取した沈殿物をMTBE8mLで3回洗浄行った後、沈澱物を減圧下で乾燥しH-Asp-Ala―Asn-Cys-Glu-OH 275mgを得た。得られたH-Asp-Ala―Asn-Cys-Glu-OHの純度は88.4%であった。
【要約】
【課題】液相ペプチド合成用担体を用いる新たな液相ペプチド合成法を提供すること。
【解決手段】側鎖に官能基を有するアミノ酸又は側鎖に官能基を有するアミノ酸残基を含むペプチドの側鎖官能基に液相ペプチド合成用担体が導入された化合物を用いるペプチドの製造方法。
【選択図】なし