(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-07
(45)【発行日】2022-10-18
(54)【発明の名称】マシニングセンタの自動運転システム
(51)【国際特許分類】
B23Q 15/00 20060101AFI20221011BHJP
G05B 19/4093 20060101ALI20221011BHJP
G05B 19/4097 20060101ALI20221011BHJP
G05B 19/4155 20060101ALI20221011BHJP
G05B 19/418 20060101ALI20221011BHJP
G16Y 10/25 20200101ALI20221011BHJP
G16Y 20/20 20200101ALI20221011BHJP
G16Y 40/30 20200101ALI20221011BHJP
【FI】
B23Q15/00 301C
G05B19/4093 E
G05B19/4097 C
G05B19/4155 V
G05B19/418 Z
G16Y10/25
G16Y20/20
G16Y40/30
(21)【出願番号】P 2021131069
(22)【出願日】2021-08-11
【審査請求日】2021-08-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000104537
【氏名又は名称】キタムラ機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101432
【氏名又は名称】花村 太
(72)【発明者】
【氏名】北村 彰浩
(72)【発明者】
【氏名】棚田 敏久
(72)【発明者】
【氏名】北村 一峰
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】特許第6719790(JP,B1)
【文献】特開2020-024676(JP,A)
【文献】特開2020-129220(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106292535(CN,A)
【文献】特開2016-071407(JP,A)
【文献】特開2021-012542(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 15/00
G05B 19/4093
G05B 19/4097
G05B 19/4155
G05B 19/418
G16Y 10/25
G16Y 20/20
G16Y 40/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々の工作機械と自動工具交換装置との数値制御を行うCNC装置を備えた複数のマシニングセンタに対して選択的に自動運転制御を行うマシニングセンタの自動運転システムであって、
各マシニングセンタの前記CNC装置に通信回線を介して接続されたネットワーク上のクラウドサーバに設けられ、各工作機械用の加工指令を作成して対応するCNC装置に前記加工指令を送信するクラウド側制御部と、目的とする加工製品の3次元CAD設計データが入力され、該3次元CAD設計データを前記クラウド側制御部に通信回線を介して送信すると共に、前記クラウド側制御部から送信される情報を表示部に表示する1つ以上の端末装置と、を備え、
各CNC装置は、
予め定められた加工指令に沿って、前記工作機械の加工部と前記自動工具交換装置とに対する駆動制御を行い、前記加工指令に含まれる各加工工程に対応して工具を前記加工部の回転主軸に交換装着させながら加工素材への切削加工を実行させるCNC装置側制御部と、
前記回転主軸に対して前記自動工具交換装置を介して交換装着可能に収納されている複数の工具の識別情報と各工具の収納位置情報、および前記識別情報に対応する各工具の材質、形状と、を含む工具情報が保存されているCNC装置側記憶部と、を備え、
前記クラウド側制御部は、
前記端末装置から送信された前記3次元CAD設計データに基づいて、予め選択されたマシニングセンタの工作機械に加工素材を目的の加工製品まで切削加工させるのに必要な全加工工程を該工作機械に実行させる加工指令を自動的に作成する加工指令自動作成部と、
駆動制御対象である全マシニングセンタがその機種情報と共に登録された登録リストが格納されているクラウド側記憶部と、を備え、
前記クラウド側記憶部は、工作機械毎の工具情報と、予め各種切削加工の特徴別に当該切削加工が実行された際の使用工具と切削条件とを含む加工条件および工具軌跡とその実行プログラムを含む加工データを対応させて学習させられて生成された学習済みモデルが格納されており、
前記加工指令自動作成部は、
前記加工素材の形状を基準として前記加工製品の3次元CAD設計データから切削加工の特徴部を抽出する特徴部抽出機能と、
前記選択されたマシニングセンタに対応する学習済みモデルに対して、対応する工具情報と共に、前記特徴部抽出機能によって抽出された各特徴部を適用することによって各特徴部についての切削加工に必要な加工条件を自動的に決定し、該加工条件に基づいて工具軌跡を含む加工工程を自動的に設定する加工工程自動設定機能と、
前記特徴部抽出機能によって抽出された特徴部の全部の加工工程を実行する手順を決定して前記加工製品を完成するのに必要な一連の全加工工程を設定する全加工工程設定機能と、
設定された前記全加工工程を前記工作機械に実行させる加工指令を前記学習済みモデルに基づいて作成する加工指令作成機能、とを備え、作成された前記加工指令を対応する前記CNC装置側制御部へ送信するものであり、
前記加工指令自動作成部の前記加工工程自動設定機能は、
前記学習済みモデルに対して前記各特徴部と共に適用する前記工具情報を、その適用の前に、前記選択されたマシニングセンタのCNC装置側記憶部に保存されている最新の工具情報を参照して更新する工具情報更新機能と、
前記3次元CAD設計データに基づいて、加工製品の3Dモデルを作成して前記端末装置の表示部に前記3Dモデルをディスプレイ表示させると共に、前記加工製品の前記工作機械の加工部への可能な1つ以上の異なる取付方向を選出し、選出された各取付方向の状態で前記3Dモデルを選択可能に前記端末装置の表示部にディスプレイ表示させる機能と、を備えており、前記端末装置にて選択された取付方向に基づいて、更新された最新の前記工具情報を用いて各特徴部の切削加工のための加工工程を自動的に設定するものであり、
前記端末装置は、前記加工指令自動作成部にて作成された前記加工指令が前記CNC装置側制御部に送信された後、操作者による任意のタイミングであるいは予め設定された時刻に達した時点で、前記クラウド側制御部へ加工指令開始信号を送信する機能を有し、
前記クラウド側制御部は、前記端末装置からの前記加工指令開始信号を受信した時点で、前記CNC装置側制御部に加工指令開始指示信号を送信して前記加工指令に沿った切削加工の実行を前記工作機械に開始させる加工指令開始指示部、をさらに備え
、
前記端末装置は、各マシニングセンタのCNC装置と通信回線を介して各種信号の送受信可能に接続されており、
各CNC装置側記憶部は、その工作機械の加工部へ加工素材を自動搬送するための加工素材自動搬送装置を駆動制御する加工素材搬送プログラムが格納されており、
前記端末装置は、
前記クラウド側制御部から前記CNC装置側制御部へ前記加工指令が送信された後に、前記通信回線を介して、前記CNC装置側制御部に対して、前記加工素材搬送プログラムに沿って前記加工素材自動搬送装置を駆動制御させる加工素材搬送指令信号を送信する機能と、
前記加工素材の前記工作機械の加工部への搬送が完了していることが確認された後に前記加工指令開始指示部へ前記加工指令開始信号を送信する機能と、をさらに備えていることを特徴とする、マシニングセンタの自動運転システム。
【請求項2】
前記加工指令自動作成部は、
設定された加工工程の工具軌跡を前記端末装置の表示部に3Dコンピュータグラフィックスの動画として表示させるシミュレーション機能と、
前記動画の表示中に工具と加工素材の非加工領域または加工部の周辺部材との干渉が発生した時点で前記動画を停止させて干渉警告を表示させる干渉検知機能と、
干渉検知時にその干渉を発生した工具を別の工具に変更し、変更した工具に対応する加工条件に基づいた別の工具軌跡を決定して別の加工工程を設定し直して改良された加工指令を作成する加工指令改良機能と、をさらに備えていることを特徴とする請求項1に記載のマシニングセンタの自動運転システム。
【請求項3】
前記端末装置は、
前記工作機械の加工部への前記加工素材の搬送が完了しているかどうかを操作者による目視で確認するモニタ機能と、加工素材の搬送完了状態を前記目視で確認した後に前記加工指令開始指示部へ前記加工指令開始信号を送信する機能と、を備えており、
前記モニタ機能は、各工作機械に設置されている一つ以上の撮像装置によって得られる加工素材設置位置を含む加工部周辺領域の画像データを前記CNC装置から前記通信回線を介して取得し、前記端末装置の表示部に前記加工部周辺領域のモニタ画像を表示させる機能を含むものであることを特徴とする
請求項1又は2に記載のマシニングセンタの自動運転システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予め登録されている複数のマシニングセンタに対して、クラウドサーバを介して、遠隔位置にある端末装置によって選択的に自動運転制御を行うことができるマシニングセンタの自動運転システムに関するものであり、より詳しくは、選択されたマシニングセンタに対して、端末装置から入力される加工製品の3次元CAD設計データに基づいて、クラウド側で専用の学習済みモデルを適用して加工指令を作成し、対象の工作機械での該加工指令に沿った加工工程を自動的に駆動制御するためのシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、多くの工作機械は、自動工具交換機能を備え、数値制御装置、所謂NC(Numerical Control )装置やコンピュータ数値制御装置、所謂CNC(Computerized Numerical Control)装置を搭載し、マシニングセンタとして制御駆動されている。即ち、工作機械は、数値制御装置によって、予め定められたNC加工プログラムに沿って、各種切削加工工程を自動運転で実行させられ、目的の製品を形成している。
【0003】
NC加工プログラムは、使用工具及びその工具による加工時のX,Y,Zの座標軸、あるいは高度工作機械における同時5軸(X,Y,Z,A,C)に関する移動量とその速度等の数値データ(NCデータ)を含む加工条件および加工工程の数値制御情報に基づいて作成される。また、CNC装置においては、工具径の補正や補間演算、速度制御等を内蔵コンピュータによって自動計算することで自動化を進めている。
【0004】
従って、工作機械に目的の製品を得るための切削加工を実行させるNC加工プログラムは、予めその加工条件及び加工工程等を設定した上で作成される。各加工工程は、加工製品の各特徴部、例えば凹凸の段差や湾曲の面形状、また穴、ポケット、スロットなど、を削り出すための加工方法で決定される。これらの特徴部を形成するのに適した工具が、各種工具、例えば、各種フライス、各種ドリル、各種エンドミル等から適宜選択される。選択された各工具につき、切削条件を含む加工条件が設定され、この加工条件に基づいて工具軌跡が決定される。そしてこのような工具選択から工具交換、工具軌跡の実行を含む加工工程が設定されて、当該加工工程に相当するNC加工プログラムが作成される。
【0005】
通常、各特徴部を削り出すための加工工程に相当するNC加工プログラムは、目的の加工製品のCAD(Computer aided design )設計図面に基づいて、技術者によってGコードやMコード等のNC言語で作成される。しかし、高度工作機械での同時5軸駆動加工など、これら複数の軸が互いに干渉することなくスムーズに切削加工が自動で行えるようなより複雑な制御が求められる場合も多くなっており、対応するNC加工プログラムも、3次元CAD図面に基づき、CAM(Computer aided manufacturing)システムを用いて作成されている。
【0006】
CAM操作によって、コードの直接手入力の必要は無くなったが、複雑な加工プログラムは、熟練者によって加工法の検討や工具選定、加工条件の決定を行いながら作成されていたため、時間を要するものであった。そこで、自動で加工プログラムを作成できる装置も種々検討されてきた。
【0007】
中でも、本発明者等は、目的の加工製品の3次元CAD設計データを取得しさえすれば、熟練の知識を必要とすることなく、自動的に加工指令を作成してその場で直ちに加工工程を実行することを可能とするCADデータによるマシニングセンタの自動運転装置を開発している(特許文献1を参照。)。これは、目的製品の3次元(以降、3Dとも記す)CAD設計データを取得すると、直ちに可能な取付方向が3Dモデルの表示で選択可能に提案されると共に製品の特徴部が抽出され、最適な取付方向を選択し決定すると、その決定された取付方向に基づいて、抽出された特徴部が学習済みモデルに適用されて短時間で該製品を得るのに必要な全加工工程を工作機械に実行させる加工指令が自動的に作成されるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第6719790号公報
【文献】特開2016-71407号公報
【文献】特開2021-12542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、近年は、求められる加工製品の複雑化もあり、これに伴って、3D設計データも大容量化している。さらに、このような複雑化した加工工程が更新されていく学習済みモデルのデータも大容量化するため、各マシニングセンタでは、工作機械に搭載されている制御装置において、容量の問題と共にデータ処理機能を高性能化する必要もあり、機械側の負担が大きく、その分コストも大きくなる。また、加工指令の作成からその実行までほぼ自動的に行われるものであり、必要な操作は、当初の3DCAD設計データの入力および取付方向の選択、決定という短時間で簡単なもののみであるが、これらの操作は操作者が機械側のCNC操作盤で行っていたため、現場での拘束は避けられなかった。
【0010】
一方、制御装置の一部機能をクラウドサーバと分担して負担を軽減した工作機械も考えられている。例えば、数値制御装置をネットワーク上のホストコンピュータ(クラウド)側と工作機械側とに分離し、クラウド側ではCNC制御や表示制御用のソフトウェアを動作させ、工作機械側では機械を動作させるためのサーボ制御およびスピンドル制御用ソフトウェアを動作させるように構成し、クラウド側で各ソフトウェア、ハードウェアの管理と保守を行うことで工作機械のメインテナンスコストを削減可能としたものがある(特許文献2を参照。)。
【0011】
また、各工作機械の経時変化に伴う加工精度の低下の解消を支援することを目的として、加工製品製造者側で工作機械の主軸や工具等の構成物の剛性を測定してクラウドサーバへ測定情報を送信し、クラウドサーバ側で受信した剛性測定情報と加工基礎データとに基づいて加工プログラムを作成すると共に、剛性測定情報を工作機械メーカ計算機や工具メーカ計算機に送信する管理計算機も考えられている(特許文献3を参照。)。
【0012】
しかしながら、上記のように、主に複数の工作機械に対する管理にクラウドサーバを利用したものはあったが、CAMシステムを使用することなく、目的の加工製品の3DCAD設計データに基づいて、その特徴部を抽出し、各特徴部を得るための加工指令を、提案され選択された最適な取付方向で学習済みモデルを適用して自動的に作成し、その加工指令を任意のマシニングセンタに実行させるまでをクラウドサーバを介して遠隔で簡便に操作できるものはなかった。
【0013】
本発明の目的は、上記問題点に鑑み、複数のマシニングセンタに対して、クラウドサーバを利用して工作機械側の制御装置にデータ収納の大容量化と高性能データ処理能力を持たせる必要なく、且つ操作者が工作機械側に拘束されることもなく、目的の加工製品の3次元CAD設計データに基づいて、選択されたマシニングセンタの工作機械用に加工指令を自動的に作成し、その加工指令を該工作機械に実行させることが可能なマシニングセンタの自動運転システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明は、各々の工作機械と自動工具交換装置との数値制御を行うCNC装置を備えた複数のマシニングセンタに対して選択的に自動運転制御を行うマシニングセンタの自動運転システムであって、
各マシニングセンタの前記CNC装置に通信回線を介して接続されたネットワーク上のクラウドサーバに設けられ、各工作機械用の加工指令を作成して対応するCNC装置に前記加工指令を送信するクラウド側制御部と、目的とする加工製品の3次元CAD設計データが入力され、該3次元CAD設計データを前記クラウド側制御部に通信回線を介して送信すると共に、前記クラウド側制御部から送信される情報を表示部に表示する1つ以上の端末装置と、を備え、
各CNC装置は、
予め定められた加工指令に沿って、前記工作機械の加工部と前記自動工具交換装置とに対する駆動制御を行い、前記加工指令に含まれる各加工工程に対応して工具を前記加工部の回転主軸に交換装着させながら加工素材への切削加工を実行させるCNC装置側制御部と、
前記回転主軸に対して前記自動工具交換装置を介して交換装着可能に収納されている複数の工具の識別情報と各工具の収納位置情報、および前記識別情報に対応する各工具の材質、形状と、を含む工具情報が保存されているCNC装置側記憶部と、を備え、
前記クラウド側制御部は、
前記端末装置から送信された前記3次元CAD設計データに基づいて、予め選択されたマシニングセンタの工作機械に加工素材を目的の加工製品まで切削加工させるのに必要な全加工工程を該工作機械に実行させる加工指令を自動的に作成する加工指令自動作成部と、
駆動制御対象である全マシニングセンタがその機種情報と共に登録された登録リストが格納されているクラウド側記憶部と、を備え、
前記クラウド側記憶部は、工作機械毎の工具情報と、予め各種切削加工の特徴別に当該切削加工が実行された際の使用工具と切削条件とを含む加工条件および工具軌跡とその実行プログラムを含む加工データを対応させて学習させられて生成された学習済みモデルが格納されており、
前記加工指令自動作成部は、
前記加工素材の形状を基準として前記加工製品の3次元CAD設計データから切削加工の特徴部を抽出する特徴部抽出機能と、
前記選択されたマシニングセンタに対応する学習済みモデルに対して、対応する工具情報と共に、前記特徴部抽出機能によって抽出された各特徴部を適用することによって各特徴部についての切削加工に必要な加工条件を自動的に決定し、該加工条件に基づいて工具軌跡を含む加工工程を自動的に設定する加工工程自動設定機能と、
前記特徴部抽出機能によって抽出された特徴部の全部の加工工程を実行する手順を決定して前記加工製品を完成するのに必要な一連の全加工工程を設定する全加工工程設定機能と、
設定された前記全加工工程を前記工作機械に実行させる加工指令を前記学習済みモデルに基づいて作成する加工指令作成機能、とを備え、作成された前記加工指令を対応する前記CNC装置側制御部へ送信するものであり、
前記加工指令自動作成部の前記加工工程自動設定機能は、
前記学習済みモデルに対して前記各特徴部と共に適用する前記工具情報を、その適用の前に、前記選択されたマシニングセンタのCNC装置側記憶部に保存されている最新の工具情報を参照して更新する工具情報更新機能と、
前記3次元CAD設計データに基づいて、加工製品の3Dモデルを作成して前記端末装置の表示部に前記3Dモデルをディスプレイ表示させると共に、前記加工製品の前記工作機械の加工部への可能な1つ以上の異なる取付方向を選出し、選出された各取付方向の状態で前記3Dモデルを選択可能に前記端末装置の表示部にディスプレイ表示させる機能と、を備えており、前記端末装置にて選択された取付方向に基づいて、更新された最新の前記工具情報を用いて各特徴部の切削加工のための加工工程を自動的に設定するものであり、
前記端末装置は、前記加工指令自動作成部にて作成された前記加工指令が前記CNC装置側制御部に送信された後、操作者による任意のタイミングであるいは予め設定された時刻に達した時点で、前記クラウド側制御部へ加工指令開始信号を送信する機能を有し、
前記クラウド側制御部は、前記端末装置からの前記加工指令開始信号を受信した時点で、前記CNC装置側制御部に加工指令開始指示信号を送信して前記加工指令に沿った切削加工の実行を前記工作機械に開始させる加工指令開始指示部、をさらに備え、
前記端末装置は、各マシニングセンタのCNC装置と通信回線を介して各種信号の送受信可能に接続されており、
各CNC装置側記憶部は、その工作機械の加工部へ加工素材を自動搬送するための加工素材自動搬送装置を駆動制御する加工素材搬送プログラムが格納されており、
前記端末装置は、
前記クラウド側制御部から前記CNC装置側制御部へ前記加工指令が送信された後に、前記通信回線を介して、前記CNC装置側制御部に対して、前記加工素材搬送プログラムに沿って前記加工素材自動搬送装置を駆動制御させる加工素材搬送指令信号を送信する機能と、
前記加工素材の前記工作機械の加工部への搬送が完了していることが確認された後に前記加工指令開始指示部へ前記加工指令開始信号を送信する機能と、をさらに備えているものである。
【0015】
本発明における加工条件とは、一般的な工作機械で設定される加工条件と同様であり、加工工程を決定するのに必要な条件であり、主に、工具の種類、形状、工具径、材質、また主軸回転速度、切削送り、切削幅、刃物の切り込み深さ(Z方向)などの切削条件、また加工素材の材質、また加工部治具へのクランプ方法やクランプ位置、取付方向などである。この加工条件に基づいて、それぞれ目的の加工特徴部を得るための工具軌跡、所謂ツールパスが決定される。
【0016】
以上の構成を備えた本発明においては、クラウドサーバを介して、操作者が日常的に作業を行っている社屋や事務所内の端末装置にて、目的とする加工製品の3次元CAD設計データに基づいて、予め登録された複数のマシニングセンタの中から適したものを選択し、該選択されたマシニングセンタが離れた工場等の施設に設置されていても、そのマシニングセンタに対して加工指令を作成し、その加工指令によって遠隔で自動運転を行わせることができる。これによって、操作者が対象のマシニングセンタのある施設まで移動すること無く、その分、短時間で簡便に目的とする加工製品を製造することができる。
【0017】
しかも、クラウド側記憶部には、登録されたマシニングセンタ毎の機種情報を含む登録リストだけでなく、各マシニングセンタの工作機械毎の、工具情報および、予め各種切削加工の特徴部別に当該切削加工が実行された際の使用工具と切削条件とを含む加工条件および工具軌跡とその実行プログラムを含む加工データを対応させて学習させられて生成された学習済みモデルも収納されているため、対象の工作機械のための加工指令の自動作成に適用される学習済みモデルをCNC装置側に収納する必要がなく、且つ各取付方向での3Dモデルの作成もクラウド側制御部で行われるため、扱うデータの大容量化およびそのデータ処理機能を高性能化させる負担をCNC装置側で負う必要がなくなる。これによって、各マシニングセンタおよびCNC装置での大容量化、高性能化に伴うコスト高も回避される。
【0018】
さらに、本発明においては、加工指令自動作成部の加工工程自動設定機能に更に備えられた工具情報更新機能によって、加工工程の自動設定のために学習済みモデルに対して各特徴部と共に適用する工具情報が、選択されたマシニングセンタのCNC装置側記憶部に保存されている最新の工具情報を参照して更新される。各マシニングセンタは、現場でもCNC装置の記憶部に収納されている工具情報とNCプログラムを用いて各種加工工程に使用されていることが想定される。従って、新しい加工製品の加工工程のために本発明によるクラウド側制御部の加工指令自動作成部で新たに加工指令を作成しようとしている時点で、利用しようとしている予めクラウド側記憶部に収められている工具情報が、それ以前の別の加工工程に使用された際の工具情報と異なっていることもあり得る。従って、本発明によって新たな加工指令を作成する際には、対象のCNC装置側記憶部に収められている最新の工具情報を参照して更新することによって、実際のものと異なる工具情報を用いて加工指令を作成して実行するという危険を回避できるため、より安全で正確な加工指令を作成することができる。
【0019】
本発明においては、インターネット上のクラウドサーバと端末装置および各マシニングセンタのCNC装置とを接続する通信回線としては、現在利用可能な有線、無線の高速・大容量化通信、例えば光回線や第5世代(5G)移動通信システム等を利用することにより、各機器間でのデータの送受信は遅延なくほぼリアルタイムでしかも複数同時接続も可能に行われ、端末装置からのクラウドサーバを介した各マシニングセンタに対する遠隔での自動運転制御は非常にスムーズに行われる。本発明の端末装置とは、パーソナルコンピューター(以下、PCと記す)端末やタブレット端末で良く、PCモニタやタッチパネル式ディスプレイ等の表示部を備えたものである。そして操作者が通信回線を介してインターネットに接続して利用できるように、端末装置およびCNC装置には、5G対応可能な通信デバイス/モジュール等が搭載されていればよい。
【0020】
例えば、端末装置とクラウド側制御部との間では、端末装置で入力された目的の加工製品の3次元CAD設計データがクラウド側へ送信されると、クラウド側制御部の加工指令自動作成部では、加工工程自動設定機能にて、その3次元CAD設計データに基づいて直ちに加工製品の3Dモデルが作成される。続いて前記加工製品の対象工作機械の加工部への可能な1以上の異なる取付方向が選出され、これら選出された各取付方向の状態で前記3Dモデルが選択可能に端末装置側のディスプレイに表示される。操作者は、表示された各取付け方向の3Dモデルから、最適なものを選択すれば、その決定信号が直ちにクラウド側制御部に送信される。クラウド側制御部の加工指令自動作成部では、選択された取付方向に基づいて、目的の加工製品に達するのに必要な各特徴部の切削加工のための加工工程の自動設定が進められる。目的の加工製品が複雑な形状で3次元CAD設計データも比較的大きい場合も、3Dモデルを作成するデータ処理はクラウド側で短時間で行われ、端末装置への3Dモデルのデータ送信は、滞りなくスムーズに進められる。
【0021】
ここで選択・決定される加工製品の取付方向とは、最終的な加工完了時の加工製品の向きであり、これの完了時の状態を目標として、各特徴部の切削加工方向が決定される。そしてこの切削加工方向に基づいて、加工工程を設定するための加工条件および工具軌跡が決定される。従って、加工製品の取付方向は、自動的に提案されて端末装置のディスプレイに表示された1つ以上の異なる取付方向から、最も実質的に効率的な加工工程が得られるものを選択して決定される。
【0022】
自動的に提案される1つ以上の異なる取付方向は、端末装置から取得された3次元CAD設計データに基づいて、その加工製品の取付方向として可能なものである。例えば、加工製品の外形状からその中心軸線を設定すれば、その中心軸線の向きを変えた取付方向が選出できる。具体的には、まず該中心軸線が垂直方向となる取付方向と水平方向となる取付方向とが選出できる。また、その他、加工製品の外形状によっては中心軸線が傾斜した状態となる取付方向も選出可能である。そして中心軸線の各方向について取付面となり得る比較的大きな面を選定すれば、それぞれ可能な載置方向も決定できる。従って、このようにクラウド側で前記3次元CAD設計データに基づいて加工製品の可能な取付方向を選出し、複数の選出された取付方向での3Dモデルを作成して端末装置の表示部に表示させるまで非常に短時間ですむ。以上のように自動的に表示されたこれらの取付方向から最適なものが選択される。
【0023】
加工製品は、通常、加工特徴部が形成されない面を少なくとも1つは有することが多い。このような特徴部を有さない(即ち加工不要の面を有する)場合には、その面を取付面とすることが実際的である。従って、操作者は、提案された1つ以上の取付方向での3Dモデルを端末装置の表示部上で確認して、加工製品の加工が必要ない面が取付面となる取付方向を最適な取付方向として瞬時に選択することができる。また、取付面となり得る特徴部が形成されない面が1つ以上ある場合には、固定治具と加工製品および加工素材の形状に基づいて、コンピュータによる複雑な計算をするまでもなく、取付時の安定性などから操作者自身が簡単に短時間で判断できる。
【0024】
なお、端末装置での3次元CAD設計データの入力は、例えばUSB等の記憶メディアに記憶されたデータを端末装置に設けられているUSBポート等の入力ポートから取得できるだけでなく、コンピュータネットワークを介して他のコンピュータからのネット通信によって取得するなど、一般的なデータの入力方法で行うことができれば良い。
【0025】
また、各マシニングセンタの機種情報としては、まず横形かあるいは立形かのタイプ別と、各軸方向に関するテーブル、コラム、ヘッドの移動量とテーブル旋回角度とによって決定される切削領域、加工物最大寸法、各移動速度(早送り速度)、主軸端形状、主軸回転数範囲、主軸電動力出力、テーブル作業面面積、積載最大重量、自動工具交換装置(ATC)の交換方式やマガジンタイプと最大工具収納本数、最大工具重量等が挙げられる。また、各種マシニングセンタでは、さらなる自動化、省人化のため、加工素材が自動的に加工部の所定位置に搬送される自動搬送装置が設けられている場合がある。このような工作機械に連携する自動搬送装置を備えているマシニングセンタの場合には、機種情報として、自動搬送装置の情報も含むことができる。自動搬送装置のタイプとしては、例えば、ワークストッカーに収納されているワーク(加工素材)を、多軸ロボットアームからなるローディングシステムあるいはオートワークチェンジャなどによって加工部のパレット上に載置固定するものや、加工素材が載置されたパレットを工作機械の加工部の所定位置に交換可能に移動させるパレットチェンジャやマルチパレットシステムなどが挙げられる。
【0026】
本発明においては、クラウド側制御部の加工指令自動作成部にて前述のように端末装置から送信された目的の加工製品の3次元CAD設計データに基づいて3Dモデルが作成され、端末装置の表示部に各取付方向の状態で表示され、その中から最適な取付方向が決定される。このような3Dモデルの作成から取付方向が決定されるまでの工程の他方で、該3次元CAD設計データに基づいて、切削加工により形成すべき特徴部が加工素材の形状を基準として抽出される。
【0027】
これら抽出された特徴部は、端末装置側で選択された取付方向を踏まえた上で、また、登録リストに含まれているマシニングセンタの機種情報とクラウド側記憶部に格納されている対象のマシニングセンタに対応する工具情報と共に、対応する学習済みモデルに適用される。これによって、各特徴部についての加工条件が自動的に決定され、この加工条件に基づいて、使用工具と工具軌跡が決定され、工具の指定から交換、該工具軌跡の実行を含む加工工程が自動的に設定される。さらに、全特徴部の加工工程を実行する手順も決定されて一連の全加工工程が設定される。そして、この設定された全加工工程を工作機械に実行させるための加工指令が学習済みモデルに基づいて自動的に作成される。
【0028】
クラウド側制御部では、以上のように加工指令自動作成部にて加工指令が作成されると、その加工指令がCNC装置側制御部に送信されると共に、加工指令の作成が完了しCNC装置側へ送信されたことが端末装置に通知される。その後、端末装置において、操作者の任意のタイミングで、あるいは予め設定した時刻に達した時点で端末装置から加工指令開始信号がクラウド側制御部へ送信される。クラウド側制御部では、加工指令開始指示部が端末装置からの加工指令開始信号を受信した時点で該CNC装置側制御部に加工指令開始指示信号を送信して先に送った加工指令に沿った切削加工の実行を工作機械に実行させる。
【0029】
なお、本発明における学習済みモデルとは、マシニングセンタの機種別に、予め蓄積された多大な過去の切削加工のデータについて、各種特徴部毎に、使用された工具と切削条件を含む加工条件および工具軌跡とその実行プログラムを含む加工データ、即ち各特徴部の切削加工に必要な全データ、が対応して学習させられたものである。従って、新たな加工製品を製造するための特徴部を切削加工するのに必要な加工条件とこれに基づく工具軌跡を含む加工工程が該学習済みモデルに基づいて短時間で自動的に決定および設定され、さらにその加工工程を工作機械に実行させるための加工指令も直ちに自動的に作成される。なお、本発明のクラウド側記憶部においては、格納されている各学習済みモデルが、新たに加工指令の作成に適用される度に、その作成された新しい加工指令に関するデータを学習して更新していくものとする。これによって、各学習済みモデルは常に最新化され、次の新しい加工指令の作成にあたって、さらなる迅速化とより高い安全性に繋がる干渉軌跡のない加工工程の設定のための高精度化に寄与する。
【0030】
以上のように、本発明によれば、操作者は、予めNCプログラムを作成しておく必要はなくなり、実機から離れた端末装置にて、3次元CAD設計データを入力し、その結果として表示部に表示された1つ以上の3Dモデルの取付方向から最適なものを選択するだけで、自動的に対象のマシニングセンタに目的の加工製品を製造させるための加工指令を作成することができる。そして加工指令作成後は、加工指令開始信号をクラウド側へ送るだけで、実質的にその加工指令に沿った加工工程のサイクルスタートを遠隔でマシニングセンタに開始させることができる。しかも本発明においては、操作者は、特定のマシニングセンタだけでなく、登録されている複数のマシニングセンタに対して、任意に選択して遠隔でリアルタイムで制御することが可能となる。さらに、同一機種であれば、複数のマシニングセンタにおいて同じ加工指令を用いた自動運転によって同じ加工製品を製造させることも可能となる。
【0031】
なお、工作機械における加工工程の実施は、実質的には指定された工具による工具軌跡の実行によってほぼ達成されるが、この工具軌跡の実行は、各軸についてのモータ駆動による工具側とワーク側テーブル等との相対的な直線移動や回転移動よって行われる。即ち、各軸のモータに対する駆動制御によって工具軌跡は実行されている。より具体的には、通常のNCプログラムでは、読み取られたNCデータが情報処理回路で変換されたパルス列信号によって各モータが駆動される。パルス列信号は、そのパルス数に応じたモータの回転角によって、即ち位置制御によって実際の工具移動量を指令すると共に、パルス周波数に応じたモータの回転速度制御によって実際の工具移動速度を指令する。したがって、NCプログラムを介さなくても、相当するパルス列信号を用いて各モータに直接指令することによって、工具軌跡の実行は達成できる。
【0032】
そこで、本発明において、設定された加工工程を工作機械に実行させるための加工指令としては、従来と同様にNCプログラムであっても良いが、Gコード等のNC言語を用いたプログラムに限定されるものではなく、上記のように各モータを直接駆動制御する指令信号を含むものとしても良い。例えば、工具軌跡に相当する各軸のモータ駆動を制御するパルス列信号に、工具指定や工具交換の指令信号を組み合わせて構成したものによって、一連の加工工程の実行が指令できる。パルス列信号自体は、予め学習済みモデル作成時に学習された加工データに含まれている各種工具軌跡に対応して使用されたパルス列信号から簡便に作成可能である。このように、加工指令には、設定された加工工程を実行可能なものであれば、他の加工プログラムや直接的に工作機械を駆動制御できる指令信号を利用できる。
【0033】
特に、加工指令として、NCプログラムを介さないで直接的な指令信号を作成して用いる場合は、従来のGコードやMコードで作成されたNCプログラムでは非常に多数の補間機能が使用されるのに対して、この補間機能が省略されるので、加工時間の短縮と加工精度の向上が実現可能となる。また、フィードバック制御でなく、自動的に設定された実数値で位置決めを行うことで、熱変位が無くなり、且つ指令に対するサーボ制御の遅れを無くしたリアルタイム制御となるため、負荷変動に瞬時に対応可能であり、これによる加工時間の大幅な短縮と高精度も実現可能である。
【0034】
さらに、本発明における加工指令自動作成部には、設定された加工工程の工具軌跡が干渉なくスムーズな加工を実行できるものであるかを自動的に検証するためのシミュレーション機能と、干渉検知機能とをさらに備えることが望ましい。このシミュレーション機能は、設定された加工工程における指定工具で作成された工具軌跡を、端末装置の表示部に3Dコンピュータグラフィックスの動画、例えばアニメーション動画として表示させるものとする。干渉検知機能は、動画表示中に工具と加工素材の非加工領域または加工部の周辺部材との干渉が発生した時点で干渉検知結果として端末装置で表示されている動画を停止させて干渉警告を表示させるものとする。操作者は、動画を確認しながら特定の工具による工具軌跡について干渉の有無を確認でき、干渉警告が表示された際には、その工具軌跡に基づいて作成された加工指令を変更する必要があることを簡便に知ることができる。
【0035】
そして加工指令自動作成部には、干渉検知時にその干渉を発生した工具を別の工具に変更して再度加工指令を自動作成させる加工指令改良機能をさらに設ければ、自動作成される加工指令を完全に安全なものへと修正することができる。この加工指令改良機能は、変更された工具に対応して改めて加工条件と該加工条件に基づく工具軌跡が決定されて改良された加工工程が自動的に設定され、さらにこの改良された加工工程に相当する改良された加工指令が自動的に作成されるものである。そしてこのような工具変更および加工指令の改良、改良された加工指令でのシミュレーション、という工程を、干渉が無くなるまで繰り返させるものである。これによって、干渉のない工具軌跡が実行される加工工程および加工指令が、熟練者による時間の掛かる検証等を必要とすることなく、自動的に作成される。このため、操作者は、短時間で簡便に良好な加工指令を得て安心して製品加工を実行できる。
【0036】
また、本発明のクラウド側制御部においては、以上のように加工指令自動作成部に加工指令改良機能を備えることによって、シミュレーション工程を経て干渉が生じない良好な加工指令が作成されてから、その良好な加工指令がCNC装置側制御部へ送信されることになる。そして加工指令開始指示部が、端末装置からの加工指令開始信号を受信した時点で、CNC装置側制御部に加工指令開始指示信号を送信することによって、先に送信された前記良好な加工指令に沿った切削加工の実行が工作機械で開始される。
【0037】
なお、加工指令開始信号は、操作者による任意のタイミングで、あるいは予め加工開始時刻が設定されていれば、その時刻に達した時点で、端末装置から送信されるが、いずれの場合も、加工指令に沿った切削加工の実行が開始されるのは、それまでに加工素材が加工部の所定位置に搬送済みであることが前提である。従って、端末装置で加工指令開始信号を送信するのは、加工素材の工作機械加工部への搬送完了が確認された後とする。実際の加工素材の搬送は、加工指令の作成を開始する前に、装置側で現場にいる作業者によって加工素材の加工部への搬送を完了させておいてもかまわないが、加工素材の搬送工程を遠隔で自動的に行うものとしても良い。
【0038】
各種マシニングセンタでは、それぞれ特定の加工素材自動搬送装置を備えている場合が多い。そして通常は、その装置を駆動制御するための加工素材搬送プログラムがCNC装置側記憶部に格納されており、工作機械の自動運転に連携するように適宜利用されている。従って、本発明においても、端末装置がCNC装置に通信回線を介して接続されていれば、遠隔でその専用の搬送プログラムを利用して、任意の時点で加工素材の搬送を完了させておくことができる。
【0039】
そこで、本発明における端末装置が、通信回線を介して、対象のマシニングセンタのCNC装置側制御部に対して、CNC装置側記憶部に収納されている加工素材搬送プログラムに沿って、加工素材自動搬送装置を駆動制御させる加工素材自動搬送指令信号を送信する機能を備えているものとすれば、実機から遠隔地にいる操作者が、マシニングセンタの自動運転制御だけでなく、加工素材の自動搬送も制御することができる。
【0040】
そして、端末装置は、作成された加工指令が対応するCNC装置側制御部へ送信された後、加工素材の工作機械加工部への自動搬送が完了されたことが確認されれば、クラウド側制御部の加工指令開始指示部へ加工指令開始信号を送信する機能をさらに備えているものとする。加工素材の搬送完了の確認自体は、加工素材搬送プログラムの実行が終了したことが例えば該プログラムの終了を示すコードを受信することによって判断されれば、実質的に達成される。よってこの終了コード受信後であれば、任意の時点で加工指令開始信号が送信されて良い。
【0041】
なお、搬送完了確認手段としては、上記のようなCNC装置側からの終了信号によってプログラム実行完了を確認するだけでなく、目視によって直接的に確認する構成としても良い。この場合、端末装置のモニタ機能によって、表示部に表示されたモニタ画像で加工素材が加工部の所定位置へ搬送完了状態であることを確認できれば、より確実で好ましい。マシニングセンタには、工作機械にCCDカメラ等の撮像装置が搭載され、撮影された加工部周辺領域の画像をCNC装置のディスプレイに表示してその領域を目視確認できるようにしたものが多い。そこで、本発明において、工作機械加工部への加工素材の搬送が完了しているかどうかを確認するのに、このような各工作機械に設置されている撮像装置による画像データを利用することができる。
【0042】
この場合、端末装置が、各工作機械に設置されている一つ以上の撮像装置によって得られる加工素材が設置されている加工部周辺領域の画像データをCNC装置から通信回線を介して取得することによって、操作者は、表示部に表示された加工部周辺領域のモニタ画像から、加工素材の搬送が良好に完了しているかどうかを直接的に確認することができる。そして搬送完了状態が確認された後であれば、任意のタイミングで端末装置から加工指令開始信号をクラウド側制御部の加工指令開始指示部へ送信するものとする。加工指令開始指示部は、この端末装置からの加工指令開始信号を受けて、CNC装置側制御部へ、加工指令を開始させる加工指令開始指示信号を送信できる。
【0043】
なお、本発明においては、クラウド側制御部の加工指令自動作成部は、登録リストに登録されているマシニングセンタの中から加工製品の切削加工に使用するマシニングセンタを決定するマシニングセンタ決定部を備えることが想定される。また、操作者が、その経験に基づいて目的とする加工製品の寸法や重量からその加工に適したマシニングセンタを速やかに選択できる場合もある。
【0044】
そこで、マシニングセンタ決定部は、クラウド側記憶部に格納されている登録リストを端末装置の表示部にリスト内の任意のマシニングセンタを選択可能に表示する機能を備えたものとすれば、操作者は、表示部に表示された登録リストから、目的とする加工製品の切削加工に適していると判断したマシニングセンタを選択できる。この場合、マシニングセンタ決定部は、操作者によって端末装置で選択されたマシニングセンタを示す選択指令信号を受けて使用するマシニングセンタを決定できるようにすれば良い。さらに、端末装置において、表示部に表示された登録リスト上で、許可された操作者がマシニングセンタの追加・削除等の更新を行うことができるようにしても良い。
【0045】
また、操作者による選択に依らない場合のために、マシニングセンタ決定部は、加工指令自動作成部で作成された3Dモデルから取得される加工製品の寸法および重量の設計情報と、登録リストに含まれる各マシニングセンタの機種情報とに基づいて、加工製品の切削加工に適した機種のマシニングセンタを選択して使用するマシニングセンタを自動的に決定するようにしても良い。
【0046】
さらに、端末装置が複数である場合、マシニングセンタ決定部は、複数の端末装置で同じマシニングセンタが選択されることを回避する機能を備えることが望ましい。例えば、端末装置の表示部に表示される登録リスト上で、既に他の端末装置で選択され、使用されているマシニングセンタは選択不能状態とする設定とすれば良い。
【0047】
また、端末装置からのクラウドサーバへのアクセスは、セキュリティのため、登録されたマシニングセンタの自動運転制御が許可され、予めアクセス権限を与えられた操作者のみを、本人確認の上で可能とする。本人確認方式としては、予め登録したメールアドレスに暗証番号やパスワード等の認証情報を組み合わせた多要素認証方式や顔認証方式など、適宜設定しておけば良い。
【発明の効果】
【0048】
本発明は、以上に説明した通り、端末装置とマシニングセンタのCNC装置とに通信回線を介して接続されたクラウドサーバにおいて、端末装置から目的とする加工製品の3次元CADデータを取得させるだけで、そのデータに基づいて取付方向を決定するための3Dモデルの形成させることができると共に、該データに基づいて抽出された加工製品の全特徴部を形成するのに必要な加工工程を実行するための加工指令を、予め登録された各マシニングセンタに対応して予めクラウド側記憶部に格納されている学習済みモデルを適用して直ちに作成させることができる。このため、CNC装置側に大きなデータを処理するための大容量化および高性能化を必要とすることなく、操作者が端末装置で遠隔の複数のマシニングセンタに対して加工製品を製造するため加工工程を簡便に実行させることが可能、という効果がある。
【0049】
また、操作者による実際の操作は、新規の加工製品の切削加工による製造において、端末装置からクラウドサーバにアクセスした後は、登録リストからマシニングセンタの選択、目的の加工製品の3次元CAD設計データの入力、これによって直ちに端末装置の表示部に各種異なる取付方向で提示される3Dモデルから適切な取付け方向を選択すること、そしてこの選択された取付方向に基づいてクラウド側で適切な加工指令が作成された後、CNC装置へ加工素材自動搬送指令信号の送信、搬送完了をモニタ画像で確認した後、任意のタイミングで加工指令開始信号をクラウド側へ送信、といった5~6の簡単な操作を端末装置で行うだけで、遠隔にある特定のマシニングセンタに対する目的の加工製品を製造するための加工指令の作成から工作機械での加工指令の実行までを、リアルタイムでスムーズに行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【
図1】本発明の一実施形態による「マシニングセンタの自動運転システム」の主要部を概略で示すブロック図である。
【
図2】
図1の「マシニングセンタの自動運転システム」の主要部における動作例を示すフローチャート図である。
【
図3】
図1とは別系統の加工素材自動搬送工程を行う部分を主に概略で示すブロック図である。
【
図4】
図2の加工指令作成工程で作成された加工製品の3Dモデルが
図1のPC端末のディスプレイに表示された場合の画面の例を示す模試図であり、(a)は3次元CAD設計データが読み込まれた直後に作成された3Dモデル表示画面、(b)は提案された異なる取付方向で表示された3Dモデルのうちの1つを選択した際の表示画面である。
【
図5】
図2の工具軌跡シミュレーションの際のアニメーション動画がPC端末のディスプレイに表示されたいる画面の例を示す模式図であり、(a)はシミュレーション開始時の表示画面、(b)はシミュレーション途中の表示画面、(c)はシミュレーション終了時の表示画面である。
【
図6】各CNC装置の操作盤の基本構成の例を示す概略正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
本発明によるマシニングセンタの自動運転システムの一実施形態を以下に説明する。なお、本実施形態では、5Gエリアにある施設間で遠隔制御を行う場合を例示する。
図1は、本実施形態によるマシニングセンタの自動運転システムの主要部を概略で示すブロック図である。なお、自動運転制御の対象である複数のマシニングセンタ(M1,M2,M3,…,Mn)は、同一施設内に設置されているもの、あるいは異なる複数の施設内にそれぞれ設置されているもの、またこれらが混在したものであり得る。
【0052】
本実施形態では、複数のマシニングセンタ(M1,M2,M3,…,Mn)に対して自動運転制御を行うものであり、各マシニングセンタの工作機械(MT1,MT2,MT3,…,MTn)はCNC装置(C1,C2,C3,…,Cn)に接続されて自動工具交換装置ATCと連動して数値制御されるものである。
【0053】
即ち、本実施形態によるマシニングセンタの自動運転システム1は、インターネットのネットワーク上のクラウドサーバ20と、該クラウドサーバ20に設けられているマシニングセンタ自動運転システム用のクラウド側制御部21に通信回線を介して接続される端末装置としてのPC端末10と、クラウド側制御部21に通信回線介して各CNC装置(C1,C2,C3,…,Cn)が接続される複数のマシニングセンタ(M1,M2,M3,…,Mn)とで主に構築されている。そして本実施形態では、PC端末10と各CNC装置には5G対応の通信デバイス/モジュールを備え、5Gによるインターネットを介したクラウドサーバ20との通信接続により、互いのデータ送受信がほぼ遅延なくリアルタイムで行われる。
【0054】
各CNC装置(C1,C2,C3,…,Cn)は、学習済みモデルのような大きなデータを格納するための大容量化やデータ処理の高性能化等の特別な仕様の必要はなく、基本構成は従来のCNC装置と共通するものでよい。その概略構成として、まず
図6に示すように、本体前面が操作盤となっており、この操作盤には、タッチパネル式ディスプレイ30が設けられている。このタッチパネル式ディスプレイ30には、CNC装置に予め備えられている工作機械に対する各種作業操作モードの項目をそれぞれアイコンIとして表示するメニュー画面が表示される。ディスプレイ30周辺には、各種データの入出力ができるようにUSBポートP、またディスプレイ30下方には、入力部31として、マウスパッド33とマウスボタン34を含むキーボード32が配置されている。さらにキーボード32の下方領域には、工作機械の各種運転に関連するスイッチやボタンを備えた操作パネル35が設けられている。
【0055】
また、各CNC装置(C1,C2,C3,…,Cn)は、CNC装置側制御部40によって、所定の加工指令Mcに沿って工作機械(MT1,MT2,MT3,…,MTn)の加工部および自動工具交換装置ATCに対する駆動制御を行い、各加工工程に対応して工具を順次、回転主軸に交換装着させながら加工素材に対する切削加工を実行させるものである。CNC装置側制御部40は、工具情報や各種加工プログラム、また連携する加工素材自動搬送装置APCの自動運転のためのAPCプログラム等を収納するCNC装置側記憶部41を備えている。
【0056】
各CNC装置側記憶部に格納されている工具情報は、それぞれの工作機械のマガジン等に収納されている多数の工具に対応する識別情報とこれに紐付けられた各工具の種類や形状、材質等を含むものである。各工具は、識別情報によって管理されものであり、所定の加工指令による工作機械(MT1,MT2,MT3,…,MTn)の自動運転中に、使用されるべき工具が識別情報に基づいて適宜指定され、加工部の回転主軸とマガジンとの間で自動工具交換装置ATCによって所定のタイミングで交換・装着される。
【0057】
各マシニングセンタ(M1,M2,M3,…,Mn)は、通常通りの現場におけるCNC装置(C1,C2,C3,…,Cn)での操作によっても各種加工工程が実行されるものであるが、その都度、最新の工具情報(t1',t2',t3',…,tn')に更新されている。
【0058】
一方、本実施形態においては、クラウド側制御部21に設けられているクラウド側記憶部24に、自動運転制御の対象となるマシニングセンタ(M1,M2,M3,…,Mn)が予め登録された登録リスト25が格納されている。この登録リスト25には、対象となるマシニングセンタ(M1,M2,M3,…,Mn)についての機種情報(m1,m2,m3,…,mn)も収納されている。さらに、クラウド側記憶部24には、各マシニングセンタ(M1,M2,M3,…,Mn)の工作機械(MT1,MT2,MT3,…,MTn)のマガジン等に収納されている工具に関する工具情報(t1,t2,t3,…,tn)が格納されている工具情報格納部26と、対応する学習済みモデル(L1,L2,L3,…,Ln)が格納されている学習済みモデル格納部27も設けられている。
【0059】
これらの学習済みモデル(L1,L2,L3,…,Ln)は、それぞれの工作機械に関して、予め過去の膨大な切削加工データから、各種切削加工の面の凹凸や歪曲、穴、ポケット、スロット等の特徴部毎に、使用された工具と切削条件を含む加工条件および工具軌跡を含む加工工程および該加工工程を実行させた加工プログラムを含む加工データとを対応させて学習させられて生成されたものである。
【0060】
そして、クラウド側制御部21には、新たに製造する加工製品の特徴部を選択されたマシニングセンタの学習済みモデルに適用して、該特徴部を形成するための加工工程を自動的に設定する加工工程自動設定機能と該加工工程を工作機械に実行させるための加工指令Mcを自動的に作成する加工指令作成機能とを備えた加工指令自動作成部22が備えられている。またこの加工指令自動作成部22は、取得された加工製品の3次元CAD設計データに基づいて加工製品の各特徴部を抽出する特徴部抽出機能を備えている。即ち、加工工程設定および加工指令作成にあたって学習済みモデルに適用される加工製品の特徴部は、この特徴部抽出機能によって目的の加工製品の3次元CAD設計データから得られる。
【0061】
加工指令自動作成部22における実質的な加工指令作成工程は、目的の加工製品の3次元CAD設計データを取得した時点で開始される。そしてこの3次元CAD設計データの取得は、端末装置、本実施形態ではPC端末10からのデータ送信によって成される。なお、加工指令自動作成部22には、新たな加工製品の製造にあたって使用されるマシニングセンタを登録リスト25に登録されているマシニングセンタ(M1,M2,M3,…,Mn)の中から決定するマシニングセンタ決定部23を備えており、目的の加工製品の3次元CAD設計データを取得する前に、今回使用するマシニングセンタの決定を行うものである。
【0062】
本実施形態においては、マシニングセンタ決定部23は、PC端末10の液晶ディスプレイ11に、クラウド側記憶部24に格納されている登録リスト25をリスト内の任意のマシニングセンタを選択可能に表示させるものである。操作者Oは、PC端末10にて、目的とする加工製品の寸法や重量に基づいて登録リスト25から、加工製品を製造するのに適したマシニングセンタを選択することができる。従って、操作者Oによって選択されたマシニングセンタの選択指令信号がPC端末10からクラウド側制御部21へ送信されると、マシニングセンタ決定部23は、登録リスト25から今回使用するマシニングセンタを決定する。これと同時に、今回の加工指令作成に用いられる工具情報と学習済みモデルも工具情報格納部26および学習済みモデル格納部27の中からそれぞれ対応するものが指定される。
【0063】
従って、加工指令自動作成部22は、今回の加工製品を製造するために決定されたマシニングセンタの機種情報と工具情報を読み取りながら、またその学習済みモデルを適用しながら、その加工指令の作成を行うことになる。なお、加工指令自動作成部22の加工工程自動設定機能には、工具情報更新機能も含まれており、使用するマシニングセンタが決定された際に指定される工具情報が、この工具情報更新機能によって、CNC装置側記憶部に格納されている最新の工具情報に更新される。
【0064】
また、加工指令自動作成部22の加工工程自動設定機能には、前記特徴部抽出機能によって加工製品の3次元CAD設計データに基づいて加工製品の各特徴部を抽出した後に、加工製品の3Dモデルを形成し、その画像データを送信してPC端末10の液晶ディスプレイ11に表示させる機能を備えている。それと共に、続いて可能な加工製品の1つ以上の異なる取付方向を選出し、選出された各取付方向の状態での3Dモデルも作成してその画像データをPC端末10の液晶ディスプレイ11上に選択可能に表示させる機能をさらに備えている。操作者Oは、液晶ディスプレイ11に提案、表示された中から最適な取付方向を選択することができる。そしてPC端末10で決定された取付方向を示す決定指令信号がクラウド側制御部21へ送信されることによって、加工指令自動作成部22では、加工工程の自動設定が、この決定された取付方向に基づいて進められる。
【0065】
さらに本実施形態では、加工指令自動作成部22には、自動的に作成された加工工程の工具軌跡を3Dコンピュータグラフィックス、例えばアニメーション動画としてPC端末10の液晶ディスプレイ11に表示させるシミュレーション機能と、この動画表示中に工具と加工素材の非加工領域または加工部の周辺部材との干渉が発生した時点で動画を停止させて干渉警告を表示させる干渉検知機能とをさらに備えている。また、干渉検知時には、その干渉を発生した工具を別の工具に変更して加工指令を作成し直す加工指令改良機能も備えている。よって、以上のシミュレーション工程と加工指令の改良を全工具軌跡に関して干渉が無くなるまで自動的に繰り返すことによって、熟練者による時間の掛かる検証をすることなく、簡便に短時間で完全な工具軌跡による加工指令が得られる。
【0066】
なお、本実施形態においては、作成されてCNC装置へ送信された加工指令が実行される前には、加工素材が加工部の所定位置に自動搬送されているものとする。即ち、PC端末10は、
図3のブロック図に示すように、
図1のクラウドサーバ20を介した加工指令Mcの自動作成とは別系統にて加工素材の自動搬送を行うものである。各マシニングセンタの工作機械には、その機種に適した加工素材自動搬送装置が連携可能に設けられているものとする。
【0067】
例えば、マシニングセンタが、ロボットによってパレット上に加工素材が交換可能に載置され、加工素材が載置されたパレットが加工部の所定位置に移動制御されることによって加工素材が加工部に位置付けられるパレットチェンジャAPCを工作機械と連携可能に備えている場合、通常の使用において、CNC装置側制御部40は、CNC装置側記憶部41いに格納されているAPC用プログラム42を実行することによって、パレットチェンジャAPCを自動制御している。
【0068】
従って、本実施形態において、クラウドサーバ20において目的とする加工製品の製造のための切削加工に対応する加工指令MCを作成する一方で、PC端末10は、直接的に通信回線を介してCNC装置へ加工素材自動搬送指令信号14を送信し、CNC装置側制御部40に、APC用プログラム42を用いたパレットチェンジャAPCの駆動制御を行わせて、加工素材が載置されたパレットを自動的に移動させて工作機械加工部への加工素材の搬送を完了させるものとする。
【0069】
クラウド側制御部21の加工指令開始指示部28は、工作機械の加工部の所定位置に加工素材が搬送され位置付けられているのを確認してから、先に送信した加工指令を実行するようにCNC装置側制御部40に加工指令開始指示信号を送信する。ここで、加工指令開始指示部28が加工素材搬送の完了状態を確認する手段としては、CNC装置側からのATC用プログラム終了コードによることも可能である。本実施形態では、PC端末10によって加工素材自動搬送装置APCの駆動制御を開始させているため、PC端末10で搬送完了確認を行い、確認後の、PC端末10から送信される加工指令開始信号15に基づいて、加工指令開始指示信号をCNC装置側制御部40に送信するものとする。このとき、加工指令開始信号15の送信は、操作者Oによって直ちに行っても良いが、実際に加工指令Mcによる加工工程を工作機械MT1に実行させたい所定時刻を設定し、その設定時刻に達した時点で加工指令開始指示信号が発信されるものとすることもできる。
【0070】
PC端末10では、CNC装置を介して、ATC用プログラムの終了を示すコードを取得できれば、加工素材の搬送完了は確認できるが、より確実に搬送完了を目視によっても確認するものとする。工作機械には、少なくとも加工部周辺領域を撮像する1つ以上の撮像装置50、例えばCCDカメラが搭載されており、その画像がCNC装置のディスプレイ30で表示されるものである。そこで、本実施形態では、PC端末10は、CNC装置から通信回線を介して直接、加工部周辺領域の画像データ51を取得し、その液晶ディスプレイ11に表示させることで、加工部における加工素材の搬送状態をモニタできる。
【0071】
従って、操作者Oは、PC端末10の液晶ディスプレイ11において表示されている加工部周辺領域のモニタ画像13から、加工素材の加工部の所定位置への搬送完了を確実に確認でき、その後、クラウド側制御部21の加工指令開始指示部28へ加工指令開始信号15を送信することができる。加工指令開始指示部28は、PC端末10からの加工指令開始信号15を受けて、加工指令開始指示信号をCNC装置側制御部40へ送信する。CNC装置側制御部40は、加工指令開始指示部28からの加工指令開始指示信号を受けて、先に送られていた加工指令を工作機械に実行させるべくサイクルスタートを行う。
【0072】
以上の構成を備えた本実施形態によるマシニングセンタの自動運転システム1において、目的の加工製品を製造するために使用するマシニングセンタM1の選択から、必要な切削加工工程に相当する加工指令を自動作成してマシニングセンタM1で実行するまでの工程を、
図2のフローチャート図に沿って以下に説明する。
図4、
図5は、加工工程自動設定工程における各過程でPC端末10の液晶ディスプレイ11に表示される画面の例を示す模式図である。
【0073】
まず、操作者Oは、PC端末10において、液晶ディスプレイ11に表示されている各種アプリケーションメニューから、「マシニングセンタの自動運転」モードに相当するアプリケーションを選択して立ち上げることによってマシニングセンタの自動運転モードの開始(ステップ100)となる。ここで、操作者Oは、クラウドサーバ20に対して、予め登録してある自身のアドレス等の暗証番号及びパスワード、あるいは顔画像などの認証情報を入力して認証を得た後、マシニングセンタ自動運転用のクラウド側制御部21へのアクセス(ステップ200)を行う。
【0074】
クラウド側制御部21では、アクセスを許可したPC端末10へ、加工指令自動作成部22が、クラウド側記憶部24に格納されているマシニングセンタ(M1,M2,M3,…,Mn)の登録リスト25のデータを送信し、液晶ディスプレイ11上への登録リスト25の表示(ステップ101)を行う。PC端末10では、操作者Oが、液晶ディスプレイ11に表示された登録リスト25から、今回の目的とする加工製品の作成に適したマシニングセンタの選択(ステップ102)を行う。本実施形態では、マシニングセンタM1が選択されるものとした。
【0075】
PC端末10から、マシニングセンタM1を選択したことを示す選択指令信号が加工指令自動作成部22に送信され、ここでその選択指令信号に基づいて、マシニングセンタ決定部23による、今回使用するマシニングセンタM1の決定、それと同時に用いる機種情報m1、工具情報t1及び学習済みモデルL1の指定(ステップ201)が成される。次いで指定された工具情報t1に関して、対応するCNC装置C1のCNC装置側記憶部41に格納されている最新の工具情報t1’が読み出され、工具情報t1の更新(ステップ202)が行われる。
【0076】
一方、PC端末10においては、操作者Oは、使用するマシニングセンタM1を選択した後、目的の加工製品の3次元CAD設計データをデータ取得部12から取得し、加工指令自動作成部22へ送信することによって、3次元CAD設計データの入力(ステップ103)を完了する。3次元CAD設計データがUSBに格納されている場合は、データ取得部12としてのUSBポートを介して該データが取得されるが、コンピュータネットワークを介して他のコンピュータから読み込む場合もある。
【0077】
加工指令自動作成部22は、3次元CAD設計データの読み込み(ステップ203)を行うと、この3次元CAD設計データに基づいて加工製品の3Dモデルの作成(ステップ204)を行う。続いて、加工製品の可能な取付方向を1つ以上選出し、選出された各取付方向の状態での3Dモデルの画像データをPC端末10へ送信すると共に、全ての特徴部の抽出(ステップ205)を行う。
【0078】
PC端末10では、液晶ディスプレイ11に目的の加工製品の各種取付方向状態での3Dモデルの表示(ステップ104)がなされる。ここでは、異なる取付方向の3Dモデルが、その中から任意のものを選択可能に表示される。
図4に示すように、加工製品として外形状が五角錐柱(五角柱の上面に五角錐が組み合わされた形状)である場合を例に見ると、五角錐柱の中心軸線が垂直方向に沿った取付方向と該中心軸線が水平方向に沿った取付方向とが選出されている。但し、水平方向に沿った取付方向の場合、五角柱部分の側面のいずれかが取付面となり得る。
【0079】
操作者Oが、表示された異なる取付方向の3Dモデルのうち、最適と判断された取付方向の3Dモデルを液晶ディスプレイ11上で選択することで、取付方向の決定(ステップ105)がなされる。上記五角錐柱の場合、五角柱部分の底面が特徴部を有さない加工不要面であることから、この底面が取付面となる方向、即ち、前記中心軸線が垂直方向に沿った取付方向が実際的で最適と直ぐに判断できる。
【0080】
操作者Oによって、この最適な加工製品の取付方向が選択されると、PC端末10は選択された3Dモデルの取付方向を示す決定信号をクラウド側制御部21へ送信する。クラウド側制御部21では、加工指令自動作成部22が、送信された決定信号が示す取付方向に基づいて、実質的な加工工程設定(ステップ206)が開始される。
【0081】
即ち、先に抽出された各特徴部を学習済みモデルL1に適用して、最新に更新された工具情報t1に登録されている工具からそれぞれの特徴部の加工に適した工具が選択され、各種切削条件、加工条件の決定がなされ、その加工条件に基づいて工具軌跡も決定される。そして各特徴部の切削加工に必要な工具の指定および交換から工具軌跡を含む加工工程が設定される。そして、特徴部が複数種類ある場合には、全特徴部に対応する加工工程の効率的な手順が決定されて目的の加工製品を製造するために必要な一連の全加工工程が設定される。その後直ちに、設定された全加工工程を工作機械に実行させるための加工指令の作成(ステップ207)が行われる。
【0082】
以上のように加工工程の設定および加工指令の作成が完了すると、直ちに設定された加工工程の工具軌跡のシミュレーション(ステップ208)が開始され、加工指令自動作成部22は、このシミュレーション工程で作成される3Dアニメーションの動画データをPC端末10へ送信する。PC端末10では、
図5(a)および(b)に示すように、ディプレイ11に3Dアニメーションで動画表示(ステップ106)がなされる。このシミュレーションにおいて、工具軌跡に沿って、工具と加工素材の非加工領域または工作機械の加工部の周辺部材との干渉の有無の検知(ステップ209)がなされる。干渉発生がない場合、
図5(c)に示すように工具軌跡のシミュレーション動画が途中で停止されることなく最後まで表示されて終了する。このように干渉が発生せず、干渉検知が否定された場合、その工具軌跡に基づいて設定、作成された加工工程および加工指令Mcは、工作機械MT1に対して干渉無く実行可能な完全なものであると安心して判断される。
【0083】
一方、シミュレーション工程において干渉が発生し、干渉検知が肯定された場合には、PC端末10へ警告信号が送信され、ディスプレイ11でシミュレーション動画の停止と、干渉警告の表示(ステップ107)がなされる。そして加工指令自動作成部22は、干渉検知が肯定されると、干渉発生の原因となった工具を特定し、学習済みモデルL1に基づいて次善の工具を選択し直して工具変更(ステップ211)を行い、その変更された工具での加工条件および加工軌跡を改めて決定し、加工工程の設定(ステップ206)をやり直す。そして改良された加工工程に対応して再度加工指令の作成(ステップ207)が行われる。この工具変更から加工指令変更のルーチンが、シミュレーションでの干渉発生が解消されるまで繰り返されるため、完全な工具および工具軌跡による改良された加工指令が簡便に短時間で作成される。
【0084】
以上のように、干渉無く実行可能な完全な加工指令Mcが作成されたと判断された時点で、この加工指令McがCNC装置へ送信され、CNC装置側制御部40で加工指令Mcの受信(ステップ220)がなされる。これと同時に、加工指令Mcの作成が完了したことを示す信号がPC端末10へ送信される。PC端末10では、この信号を受けて、加工指令作成完了の確認(ステップ108)がなされたとして、通信回線を介して直接CNC装置C1へ加工素材搬送指令の信号を送信(ステップ109)する。
【0085】
CNC装置側制御部40は、PC端末10からの加工素材搬送指令を受けて、予めCNC装置側記憶部41に格納されているAPC用プログラム42を用いて、加工素材自動搬送装置APCとしてのパレットチェンジャを駆動制御し、加工素材を工作機械MT1の加工部の所定位置に搬送する。この際、加工部周辺領域が工作機械MT1に搭載されたCCDカメラ等の撮像装置50によって撮影され、その画像データ51がCNC装置側制御部40へ送信される。
【0086】
PC端末10は、この画像データ51をCNC装置C1から直接取得し、ディスプレイ11上にそのモニタ画像13を表示させる。従って、操作者Oは、ディスプレイ11上で加工部周辺領域のモニタ画像13を目視すると共に、CNC装置C1からのAPC用プログラム42の実行完了コードを受けることによって、加工素材が加工部の所定位置へ搬送されたことを確実に確認できる。PC端末10において、加工素材搬送確認(ステップ110)がなされると、操作者Oは、クラウド側制御部21の加工指令開始指示部28へ加工指令開始信号15の送信(ステップ111)を行うことができる。
【0087】
加工指令開始指示部28は、PC端末10からの加工指令開始信号15により、加工素材が搬送完了したと判断し、CNC装置側制御部40への加工指令開始指示信号の送信(ステップ212)を行う。即ち、加工指令開始指示部28は、PC端末10からの加工指令開始信号15が受信されるまでは、加工素材が搬送は未完了として待機状態とする。装置側制御部40は、加工指令開始指示信号を受けて先に受信していた加工指令Mcに沿った自動運転を開始させるように工作機械MT1に対してサイクルスタート(ステップ221)を行う。
【0088】
以上のように、本実施形態においては、操作者は、新規の加工製品の切削加工による製造において、PC端末10からクラウドサーバにアクセスした後は、以下の5~6の簡単な操作;登録リスト25からマシニングセンタの選択、目的の加工製品の3次元CAD設計データの入力、これによって直ちにディスプレイ11に各種異なる取付方向で提示される3Dモデルから適切な取付け方向を選択すること、そしてこの選択された取付方向に基づいてクラウド側で適切な加工指令が作成された後、CNC装置へ加工素材自動搬送指令信号14を送ること、搬送完了をモニタ画像13で確認した後、任意のタイミングで加工指令開始信号15をクラウド側へ送信すること、をPC端末10で行うだけで、遠隔にあるマシニングセンタに対する目的の加工製品を製造するための加工指令の作成から工作機械での実行までを、リアルタイムでスムーズに行うことができる。
【0089】
なお、本実施形態によるマシニングセンタの自動運転システムにおいて、該システムの利用を許可された操作者およびこれら操作者によって使用可能な端末装置が複数である場合、第1の端末装置において第1の操作者が登録リスト25からあるマシニングセンタを選択する際に、他の第2の端末装置において第2の操作者によって既に選択され、加工工程に使用されている場合もあり得る。この場合、登録リスト25は、そのマシニングセンタを選択できない状態で第1の端末装置の表示部に表示されるものとする。これによって、第1の操作者は、他の代替可能なマシニングセンタを選択することができる。あるいは、第1の操作者は、第2の操作者による当該マシニングセンタの使用終了後に、登録リスト25で選択可能状態になってから改めてそのマシニングセンタを選択し、使用することもできる。
【符号の説明】
【0090】
1:マシニングセンタの自動運転システム
O:操作者
10:PC端末
11:ディスプレイ
12:データ取得部
13:モニタ画像
14:加工素材自動搬送指令信号
15:加工指令開始信号
20:クラウドサーバ
21:クラウド側制御部
22:加工指令自動作成部
23:マシニングセンタ決定部
24:クラウド側記憶部
25:登録リスト
26:工具情報格納部
27:学習済みモデル格納部
28:加工指令開始指示部
M1,M2,M3,…,Mn:マシニングセンタ
m1,m2,m3,…,mn:機種情報
t1,t2,t3,…,tn:工具情報
t1’,t2’,t3’,…,tn’(CNC装置側)工具情報
L1,L2,L3,…,Ln:学習済みモデル
C1,C2,C3,…,Cn:CNC装置
MT1,MT2,MT3,…,MTn:工作機械
ATC:自動工具交換装置(パレットチェンジャ)
APC:加工素材自動搬送装置
30:(CNC装置)タッチパネル式ディスプレイ
31:入力部
32:キーボード
33:マウスパッド
34:マウスボタン
35:操作パネル
P:USBポート
40:CNC装置側制御部
41:CNC装置側記憶部
42:APC用プログラム
50:撮像装置
51:画像データ
【要約】 (修正有)
【課題】複数のマシニングセンタに対してクラウドサーバを介して遠隔位置の端末装置によって自動運転制御を行えるシステムを提供する。
【解決手段】クラウドサーバに設けられ、加工指令自動作成部にて各工作機械用の加工指令を作成してCNC装置に送信するクラウド側制御部と、入力された目的の加工製品の3次元CAD設計データをクラウド側制御部に通信回線を介して送信すると共にクラウド側制御部から送信される情報を表示部に表示する端末装置とを備え、クラウド側制御部は、駆動制御対象の全マシニングセンタの登録リストと工作機械毎の工具情報と学習済みモデルとが格納されているクラウド側記憶部を備え、加工指令自動作成部は3次元CAD設計データから抽出した各特徴部の切削加工に必要な加工条件と工具軌跡を含む加工工程を自動的に設定し、全加工工程に対応する加工指令を前記学習済みモデルに基づいて作成する。
【選択図】
図1